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特許7095308繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018032769
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019147876
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 一也
(72)【発明者】
【氏名】蓮池 真保
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-174257(JP,A)
【文献】特開平04-161451(JP,A)
【文献】特開2013-006961(JP,A)
【文献】特表2008-534767(JP,A)
【文献】特表2007-506833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
B29C41/00-41/36、41/46-41/52、70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、下記式(1)の構造式の繰り返し単位からなるポリエーテルエーテルケトンからなり、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上であり、前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物からなる10~100μmの厚さのフィルムを強化繊維シートに重ねて加熱溶融含浸させる、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法
【化1】
・・・式(1)
【請求項2】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法
【請求項3】
前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは、衝撃エネルギー6.7J/mmでの室温下CAI(衝撃後圧縮)強度(SACMA SRM 2Rに準拠)が300MPa以上の結果が得られる、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法
【請求項4】
前記強化繊維シートが、0.04~0.7mmの厚さであり、繊維を一方向に引き揃えた繊維形態である、請求項1~3のいずれか1項に繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法で得られた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを成形する、成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよび成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表される結晶性ポリアリールケトン樹脂は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐薬品性などに優れている為、航空機部品、電気・電子部品を中心に多く採用されている。ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表されるポリアリールケトン樹脂のプリプレグ製造は、特許文献1によると粉末状ポリエーテルエーテルケトン樹脂をサスペンジョンにして製造法が示されている。また特許文献2によるとポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーと組み合わせた手法で製造法が示されているが、これらの文献にはポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物の粘度による影響は特に示されていない。しかしながら、製造の際に400℃近くまで温度を上げる必要があり、プリプレグ中の欠陥を除くには樹脂の粘度が低い品種を使用する手法が考えられるが、樹脂粘度が低い品種は耐衝撃特性の低下を招く場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4739794号
【文献】特許第5589971号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐衝撃特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の結晶性ポリアリールケトン樹脂を用いることにより当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の要旨は、以下の(1)から(5)に存する。
(1) 強化繊維と結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物を含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグであって、当該結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物は、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上である、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
(2) 前記結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物がポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を含む、上記(1)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
(3) 前記強化繊維が炭素繊維である、上記(1)または(2)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
(4) 衝撃エネルギー6.7J/mmでの室温下CAI(衝撃後圧縮)強度(SACMA SRM 2Rに準拠)が300MPa以上の結果が得られる、上記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
(5) 請求項1から4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明により耐衝撃特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよびその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは、強化繊維とマトリックス樹脂組成物からなり、当該マトリックス樹脂組成物が、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92 以上である結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物である、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグである
【0008】
(強化繊維)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを構成する強化繊維の形態は、繊維を一方向に引き揃えた繊維形態や平織、綾織、朱子織などの繊維形態が適している。特に好ましくは一方向に引き揃えた繊維形態である。また、成形時の残留応力の観点から、厚さは0.04~0.7mmであることがこのましく、より好ましくは0.07~0.4mmである。
【0009】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ中における強化繊維の体積含有率(Vf)は、高い弾性率または強度の観点から20~70%(熱可塑性樹脂の体積含有率が80~30%)であることが好ましく、強化繊維体積含有率(Vf)は40~60%(熱可塑性樹脂の体積含有率が60~40%)であることが更に好ましい。
【0010】
強化繊維としては、無機繊維、金属繊維またはそれらの混合からなる繊維を使用することができる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が使用可能であり、また金属を被覆した炭素繊維等もある。本発明において特に好ましいのは炭素繊維である。炭素繊維には、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系などがあるが、何れの炭素繊維も使用することができる。特に、PANを原料としたPAN系炭素繊維で、12,000~48,000フィラメントのストランド又はトウが、工業的規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。
【0011】
(マトリックス樹脂組成物)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを構成するマトリックス樹脂組成物は、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92 以上である結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物である。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ中における熱可塑性樹脂の体積含有率(Vf)は、高い弾性率または強度の観点から30~80%(強化繊維の体積含有率が70~20%)であることが好ましく、40~60%(強化繊維の体積含有率が60~40%)であることが更に好ましい。
【0012】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグのマトリクス樹脂組成物である室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92 以上である結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物、結晶性ポリアリールケトン樹脂としては、その構造単位に芳香核結合、エーテル結合及びケトン結合を含む熱可塑性樹脂であり、その代表例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等があるが、本発明においては、式(1)の構造式の繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に使用される。


【化1】
・・・式(1)
【0013】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグのマトリックス樹脂組成物には、その性質を損なわない程度に、他の樹脂や無機充填材以外の各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合しても良い。また各種添加剤の混合方法は、公知の方法を用いることができる。
【0014】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは熱可塑性樹脂を、好ましくは10~100μm厚さのフィルム状、好ましくは繊維径が5~50μmの繊維状、好ましくは平均粒径が10~100μmパウダー状に加工した後、熱可塑性樹脂を加熱溶融し、強化繊維間の空気を除去する方法やその他の公知方法により製造できる。
【0015】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表される結晶性ポリアリールケトン樹脂の分子量の指標として、濃硫酸を溶媒として固有粘度の測定を行う方法が一般的に用いられる。一般的に平均分子量が高く相対的に粘度が高い場合、具体的にはポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物であれば固有粘度で0.92以上である樹脂組成物は、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の特性が優れる。固有粘度は樹脂組成物固有の粘度であり、ISO 1628にウベローデ形粘度計による測定方法が記載されている。
【0016】
本発明により得られた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは、様々な繊維強化熱可塑性樹脂成形品を製造するための中間材料として用いることができる。用途に応じて様々な角度に積層した材料として用いることができ、例えば一方向性材料、直交積層、擬似等方積層材料が挙げられる。また、成形性を向上させるため、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに切込み加工を施した切込みプリプレグとしたり、長方形もしくは平行四辺形のチョップドストランドとし、前記チョップドストランドを等方的もしくは異方的にランダムに分散させたランダムシートとしたりすることができる。
【0017】
(成形体)
本発明の成形体は、強化繊維とマトリックス樹脂組成物からなり、当該マトリックス樹脂組成物が、濃硫酸を溶媒とした室温での固有粘度がISO 1628記載の測定方法で0.92以上である結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物である成形体である。当該成形体は、本発明のプリプレグを用いて成形したものであり、強化繊維やマトリックス樹脂組成物等については、上述のプリプレグについて説明の通りである。
【0018】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを使用した繊維強化熱可塑性樹脂成形品の成形方法は、特に限定されるものではなく、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを一枚または複数枚積層し、金型プレス法、オートクレーブ法、熱間・冷間プレス法、ロボットを活用した自動積層法等で成形することができる。
【実施例
【0019】
以下、実施例により本発明を詳述するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
[実施例1]
(プリプレグ作製)
結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物であるPEEK樹脂1(ダイセルエボニック社製、商品名「ベスタキープ 3300G」)をTダイを備えた押出機を用いて、厚さ15μmのフィルムを得た。炭素繊維(三菱ケミカル社製、商品名「MR50R」、570tex、12,000本のストランド)を使用し、炭素繊維を一方向に配向した炭素繊維目付75g/mの炭素繊維シート状物の両面に重ね、フィルムをシート状物に加熱溶融含浸させ繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを作製した。得られた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの厚さは0.07~0.08mmであった。繊維体積分率は58%であった。
【0020】
(固有粘度の測定)
異なる重量のフィルムを濃硫酸に溶解し、濃度が異なる4種類以上の溶液の室温時の粘度をウベローデ粘度計を使用し測定した。4種類以上の溶液粘度の値から樹脂の固有粘度を測定したところ、PEEK樹脂1の固有粘度は0.97であった。
【0021】
(積層板、樹脂板作製)
得られた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを所定の大きさにカットした後、鋼材製の金型の中で積層板の厚さが約4~5mmとなる擬似等方積層構成([45/45/0/0/-45/-45/90/90]4S)で積層した。その材料を含む金型を加熱冷却二段プレス(神藤金属工業所製、50トンプレス)にて380℃・5MPaの成形条件で30分間圧縮後、2分で200℃まで降温して、空隙を含まない繊維強化熱可塑性樹脂成形板を得た。また、前記フィルムから、繊維強化熱可塑性樹脂成形板と同条件で炭素繊維を含まない厚さ約2mmの樹脂板を作製した。
【0022】
(マトリックス樹脂曲げ試験)
得られた樹脂板をASTM D790に準拠した測定方法にて3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率、曲げ強度、最大応力時の曲げ歪を測定した。試験機としては万能試験機(インストロン社製、4465型)を用いた。
【0023】
(衝撃試験)
得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形板を約150×100mmの大きさの試験片にカットし、計装化落錘式衝撃試験機(米倉製作所製)を用いてSACMA SRM 2Rに準拠した衝撃エネルギー6.7J/mmの衝撃条件での試験を施した。
【0024】
(損傷面積の測定)
衝撃を与えた試験片の損傷部分を超音波探傷機(日本クラウトクレーマー社製 SDS 6500MR)を周波数5MHzで透過法により損傷面積を検出した。損傷面積は損傷を受けていない箇所の超音波透過率を100とした時の、損傷により超音波透過率が50以下に減衰した部分を損傷面積とした。
【0025】
(衝撃後圧縮試験)
SACMA SRM 2Rに準拠した試験方法で繊維強化熱可塑性樹脂成形板の圧縮試験を行い、CAI(衝撃後圧縮)強度を測定した。
【0026】
表1に樹脂及び固有粘度、マトリックス樹脂の曲げ特性、繊維強化熱可塑性樹脂成形板の損傷面積を示す。
【0027】
[比較例1]
結晶性ポリアリールケトン樹脂組成物であるPEEK樹脂2(ダイセルエボニック社製、商品名「ベスタキープJ ZV7402」)を用いて、実施例1と同様の方法で繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを作製した。380℃・5MPaの成形条件で10分間圧縮後、2分で200℃まで降温して、空隙を含まない繊維強化熱可塑性樹脂成形板及び樹脂板を得て、同様の測定を行った。PEEK樹脂2の固有粘度は0.87であった。
【0028】
【表1】
【0029】
表1により、固有粘度が0.97であるPEEK樹脂組成物(実施例1)は、衝撃時の損傷面積に影響を及ぼす曲げ強度や最大応力時の曲げ歪が、固有粘度が0.87であるPEEK樹脂組成物(比較例1)とほぼ同じであった。しかしながら、繊維強化熱可塑性樹脂成形板では、実施例1の成形板の衝撃損傷面積が、比較例1よりも極めて小さい結果が得られ、それに起因する高いCAI強度が得られた。繊維強化熱可塑性樹脂成形板には、衝撃による繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの間に発生する衝撃損傷面積や層間剥離が少ないことが重要な要素である。よって本発明は産業的に有用であると言える。