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特許7095326ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEV
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018046857
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2018159060
(43)【公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017056395
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 奨
(72)【発明者】
【氏名】山本 和明
(72)【発明者】
【氏名】松永 敬浩
(72)【発明者】
【氏名】開川 武史
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-282684(JP,A)
【文献】特開2013-031832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔率が50~95%の範囲内であり、ビーズ内部に中空部を有し、ビーズ表面から中心に一部の孔径が0.002~0.2μmの範囲にある連続孔を有し、その連続孔の細孔容積が0.03cm/g以上であり、且つ、ビーズ内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積が、多孔質ビーズの体積に対し0.01~30体積%であることを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズ。
【請求項2】
ポリ塩化ビニル樹脂を良溶媒に溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得る工程、
前記工程で得られたポリ塩化ビニル樹脂溶液の液滴を形成する工程、
前記工程で得られた液滴を水を含む貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程、
前記工程で得られた固化した樹脂を溶媒系から分離する工程
を含み、前記貧溶媒中の水の割合が0.1~80重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【請求項3】
前記貧溶媒がメタノールまたはエタノールであることを特徴とする請求項2に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【請求項4】
前記良溶媒がジメチルアセトアミドであることを特徴とする請求項2に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【請求項5】
液滴を水を含む貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程の温度が-15~50℃であることを特徴とする請求項2に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法に関する。更に詳細には、外層から中心にかけて微細な連続孔を有し、中心部に中空部を有する空孔率の高いポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質高分子材料は、分離、吸着、吸水機能、触媒固定・担持機能、断熱・緩衝性、絶縁性、吸音性、軽量性など、様々な機能や特性を有している。そのため、分離機能性や吸着性から、膜・フィルム状の分離膜や医療材料、粒状の濾過材や吸着材、軽量性や緩衝性から梱包・包装材料、断熱性から建築資材や保温材、吸音性から吸音材料、など幅広い用途で有用である。
【0003】
また、高分子材料として塩化ビニル系重合体は、耐薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐候性に優れており、安価であるため汎用材料として有用である。
【0004】
塩化ビニル系重合体の多孔体については、多孔体形成に水溶性粒子を用いた特定の空隙率と貯蔵弾性率を有する塩素含有樹脂多孔体(例えば、特許文献1参照)、塩化ビニル系共重合体溶液を冷却して析出した成形体を分離、乾燥して得られる孔径が0.1~40μmの連続孔であり、孔の骨格径が0.1~20μmであり、且つ厚みが1mm以上を有する塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体多孔質体(例えば、特許文献2参照)、水中油型のエマルション形成技術を利用したPVC粒状物(例えば、特許文献3参照)、100~180℃の温度で、コロイド溶液を形成するような溶剤中にPVCを溶解し、溶液を冷却、形成されたポリマー小球状体を分離して得られる1~5000μmの範囲内の狭い粒子スペクトルを有する多孔性PVC小球状体(例えば、特許文献4参照)が報告されている。また、高分子中空体を得る方法については、油溶性界面活性剤を含有した樹脂液に気体を注入し、気体を内包した液滴粒子を得る方法(例えば、特許文献5参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-145485公報
【文献】国際特許公開第2013-069681号パンフレット
【文献】特許第5252414号公報
【文献】特表2000―516973公報
【文献】特開2016-131933公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸着または吸収用途において、粒径が小さいと圧力損失が大きくなり、空孔率が低い、または、連続孔を有していないと吸着または吸収効率が低下する。また、一般に毛管凝縮による細孔内への吸着量が急激に増加する数ナノ~数百ナノの細孔を有する高分子多孔体は、貧溶媒相分離法や熱誘導相分離法、または、空孔成形材により作製することは難しい。
【0007】
特許文献1に開示された多孔体形成に水溶性粒子を用いる方法、特許文献4に開示された高温溶解したPVC溶液を冷却する方法、特許文献5に開示された油溶性界面活性剤を含有した樹脂液に気体を注入し、気体を内包した液滴粒子を得る方法では、微細な連続孔を有する多孔体の形成が困難であった。特許文献2に開示された塩化ビニル系共重合体溶液を冷却して析出した成形体を分離する方法では、空孔率の高い粒状多孔体形成が難しく、特許文献3で開示された水中油型のエマルション形成技術を利用した多孔体形成方法では、粒径の大きい多孔体形成が困難であった。
【0008】
本発明の目的は、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法に関する。更に詳細には、ビーズ表面から中心にかけて微細な連続孔を有し、ビーズ内部に中空部を有する空孔率の高いポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリ塩化ビニル樹脂からなる多孔質ビーズであって、空孔率が50~95%の範囲内であり、ビーズ内部に中空部を有し、ビーズ表面から中心に一部の孔径が0.002~0.2μmの範囲にある連続孔を有し、その連続孔の細孔容積が0.03cm/g以上であり、且つ、ビーズ内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積が、多孔質ビーズの体積に対し0.01~30体積%であることを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズおよびその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
[1]空孔率が50~95%の範囲内であり、ビーズ内部に中空部を有し、ビーズ表面から中心に一部の孔径が0.002~0.2μmの範囲にある連続孔を有し、その連続孔の細孔容積が0.03cm/g以上であり、且つ、ビーズ内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積が、多孔質ビーズの体積に対し0.01~30体積%であることを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズ。
【0011】
[2]ポリ塩化ビニル樹脂を良溶媒に溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得る工程、
前記工程で得られたポリ塩化ビニル樹脂溶液の液滴を形成する工程、
前記工程で得られた液滴を水を含む貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程、
前記工程で得られた固化した樹脂を溶媒系から分離する工程
を含み、前記貧溶媒中の水の割合が0.1~80重量%であることを特徴とする[1]に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【0012】
[3]前記貧溶媒がメタノールまたはエタノールであることを特徴とする[2]に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【0013】
[4]前記良溶媒がジメチルアセトアミドであることを特徴とする[2]に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【0014】
[5]液滴を水を含む貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程の温度が-15~50℃であることを特徴とする[2]に記載のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの空孔率は50~95%の範囲内であり、70~95%の範囲内であることが好ましく、80~95%の範囲内であることがより好ましい。空孔率が50%より高ければ、濾過材や吸着剤としての性能に優れる点で好ましい。
【0017】
本発明で規定するポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの空孔率(P)は、下記式に従い、全細孔容積(Vp)とポリ塩化ビニル樹脂の比重により求められる。
【0018】
【数1】
【0019】
(式中、Pは多孔質ビーズの空孔率(%)を表し、Vpは多孔質ビーズの全細孔容積(cm/g)を表し、ρPVCはポリ塩化ビニル樹脂の比重を表す)
また、本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの全細孔容積Vpは、乾燥した多孔質ビーズ約0.2gの重量を測定し、乾燥時の重量(W)とし、重量測定したビーズ全量を25℃のメタノール100mLに添加して、48時間静置した。次に、細孔内に十分にメタノールが含浸したポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズを取出し、乾燥した濾紙に広げて、表面の余分なメタノールを取り、重量を測定し、メタノール含浸時の重量(W)とした。多孔質ビーズの乾燥時の重量(W)とメタノール含浸時の重量(W)およびメタノールの比重(25℃)を用いて、下記式に従いポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの全細孔容積(Vp)を求めた。
【0020】
【数2】
【0021】
(式中、Vpは多孔質ビーズの全細孔容積(cm/g)を表し、Wは多孔質ビーズの乾燥時の重量(g)を表し、Wは多孔質ビーズのメタノール含浸時の重量(g)を表し、ρMeOHはメタノールの比重を表す)
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズは、ビーズ内部に中空部を有する。中空部は、ビーズ内部に複数位置し、特に限定するものではないが、例えば、10~1500μmの孔径を有しており、機械的強度に優れる点で孔径が10~500μmであることが好ましい。
【0022】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズは、ビーズ表面から中心部に位置する中空部まで微細な連続孔を有する。そして、微細な連続孔の一部の孔径は0.002~0.2μmの範囲にある。
【0023】
連続孔の存在は、本発明のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの割断面と表面のSEM写真およびガス吸着法による細孔分布測定結果から確認することができる。
【0024】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズは、その連続孔の細孔容積が0.03cm/g以上である。そして、吸着または吸収用途において毛管凝縮が起こり易い0.002~0.05μmのメソ孔を含む、孔径0.002~0.2μmの細孔を外層に有することは、効率的な細孔内への吸着・吸収に優れることを意味する。
【0025】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの連続孔の細孔容積は、定容量式ガス吸着法による細孔分布測定装置(マイクロトラック社製、BELSORP-miniII)により吸着等温線を測定し、BJH法による解析により求めた。
【0026】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの形状は、実質的に球状であり、真球度については、特に限定するものではないが、例えば、多孔質ビーズの最長径と最短径の比が1~2の範囲を挙げることができ、形状の均一性に優れる点で、1~1.5であることが好ましい。
【0027】
また、本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの大きさは、特に限定するものではないが、例えば、ビーズ径0.1~10mmの範囲を挙げることができるが、生産性や取扱いに優れる点でビーズ径は0.5~5mmが好ましい。
【0028】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積は、多孔質ビーズの体積に対し0.01~30体積%を有する。平均空間容積が0.01体積%未満の場合は空孔率が下がり、30体積%を超えると強度が低下する。空孔率を維持し、機械的強度に優れる点で、平均空間容積は、0.01~30体積%であることが好ましく、0.05~20体積%であることがより好ましい。
【0029】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積は、SEM写真を用いて中空部の最長直径と最短直径を測定し、その平均値を中空直径とし、平均空間容積を計算した。
【0030】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの原料としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は400~4000の範囲を挙げることができ、溶媒への溶解性が優れる点では、400~2000であることが好ましいが、細孔の熱安定性を向上させる点では、1000~4000であることが好ましく、用途に応じて平均重合度を選択すればよい。また、平均重合度の異なる2種類以上のPVCを混合して供してもよい。
【0031】
前記ポリ塩化ビニル樹脂には、安定剤が含まれていてもよく、安定剤としては、特に限定するものではないが、例えば、鉛、バリウム、亜鉛、カルシウム、錫などの有機酸塩、無機酸塩、等が挙げられる。より具体的には、前記有機酸塩としては、特に限定するものではないが、例えば、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛、ジラウリン酸ジブチル錫、マレイン酸ジブチル錫等が挙げられる。また、無機酸塩としては、特に限定するものではないが、例えば、塩基性硫酸鉛、塩基性炭酸鉛、塩基性亜リン酸鉛等などが挙げられる。これらの安定剤は、単独もしくは2種以上を併用しても構わない。
【0032】
本発明におけるポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの製造方法は、ポリ塩化ビニル樹脂を良溶媒に加熱溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得る工程において、良溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、ジメチルアセトアミド、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサノン、o-ジクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、および1,1,2,2-テトラクロロエタン等が挙げられる。これらの良溶媒の中で、ポリ塩化ビニル樹脂の溶解性に優れる点で、ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0033】
また、ポリ塩化ビニル樹脂を良溶媒に加熱溶解する温度としては、良溶媒の沸点以下であればよく、特に限定するものではないが、10~100℃の範囲を挙げることができ、生産性の観点から20~80℃が好ましい。更に溶解の方法としては、特に限定するものではないが、撹拌、ポンプ循環、振とう、超音波処理等が挙げられる。
【0034】
ポリ塩化ビニル樹脂を良溶媒に加熱溶解し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得る工程において、ポリ塩化ビニル樹脂溶液の濃度としては、特に限定するものではないが、例えば、1~50重量%の範囲が挙げられる。濃度が1重量%未満であると液滴化した後、形状を維持することが難しく、ビーズ強度も低下する。また、濃度が50重量%より高いとポリ塩化ビニル樹脂溶液の粘度が増加するため、液滴を形成することが困難になる。液滴形成が容易で、生産性に優れている観点から、ポリ塩化ビニル樹脂溶液の濃度は、3~50重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましい。
【0035】
前記工程で得られたポリ塩化ビニル樹脂溶液の液滴を形成する工程において、液滴形成方法としては、特に限定するものではないが、例えば、撹拌、回転噴霧、スプレー噴霧、振動式滴下、自然滴下が挙げられる。液滴形成方法は、均一な多孔質ビーズを得ることができる点で、振動式滴下、自然滴下が好ましく、生産性の観点で振動式滴下がより好ましい。
【0036】
ポリ塩化ビニル樹脂溶液の液滴を形成する工程において、液滴を形成する温度としては、液滴が形成できればよく、特に限定するものではないが、0~100℃の範囲を挙げることができ、生産性の観点から20~80℃が好ましい。
【0037】
前記工程で得られた液滴を水を含む貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程において、貧溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソ-プロパノール、ブタノール等が挙げられ、汎用性の観点から、メタノールが好ましい。
【0038】
また、液滴を貧溶媒中で固化する方法において、特に限定するものではないが、静置、撹拌のいずれでもよい。液滴を球状として固化する点で、撹拌することが好ましい。
【0039】
ここで、水を含む貧溶媒の水の割合としては、特に限定するものではないが、例えば0.1~80重量%までの範囲を挙げることができ、多孔質ビーズの成形が容易で、吸着性能が向上する孔径0.002~0.2μmの孔の生成に優れる点で、3~70重量%であることが好ましい。
【0040】
液滴を水を含む該貧溶媒に浸漬させ、樹脂を固化する工程において、樹脂を固化する温度としては、良溶媒の凝固点よりも高く、ポリ塩化ビニル樹脂のガラス転移温度より低ければよい。特に限定するものではないが、-15~50℃の範囲を挙げることができ、生産性に優れる点で、-5~50℃が好ましく、0~40℃がより好ましい。樹脂を固化する時間としては、特に限定するものではないが、成形性に優れる点で、0.25時間以上であることが好ましい。
【0041】
前記工程で得られた固化した樹脂を該良溶媒と水と該貧溶媒との混合物から分離する工程において、前処理として、固化した樹脂内に含まれる良溶媒と貧溶媒を置換する溶媒置換を行うことが好ましい。溶媒置換としては、固化した樹脂を新しい貧溶媒に浸漬する。このとき撹拌しても静置でもどちらでもよいが、置換効率に優れる点で、撹拌することが好ましい。また、溶媒置換の時間としては、特に限定するものではないが、置換効率に優れる点で、0.5時間以上であることが好ましい。また、溶媒置換の温度としては、ポリ塩化ビニル樹脂のガラス転移温度よりも低ければ、特に限定するものではないが、-15~70℃の範囲を挙げることができる。生産性に優れる点で、0~50℃が好ましく、10~40℃がより好ましい。
【0042】
固化した樹脂を該良溶媒と水と該貧溶媒との混合物から分離する工程において、前処理の溶媒置換後の分離方法は任意であり、例えば、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、デカンテーション、遠心デカンテーション、減圧乾燥、加熱乾燥、自然乾燥等の方法をいくつか組み合わせて用いることが可能である。また、その際の温度は、ポリ塩化ビニル樹脂のガラス転移温度よりも低ければ、特に限定するものではないが、-15~70℃の範囲を挙げることができる。生産性に優れる点で、0~50℃が好ましく、さらには本発明の特徴である多孔質ビーズが形成する点で、10~40℃がより好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、工業的に有利な方法で、連続孔を有する空孔率の高いポリ塩化ビニル樹脂の多孔質ビーズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】実施例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面のSEM写真(倍率:30倍)である。
図2】実施例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの表面のSEM写真(倍率:10万倍)である。
図3】実施例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面の外殻部分近傍のSEM写真(倍率:2.5万倍)である。
図4】実施例2で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面のSEM写真(倍率:30倍)である。
図5】実施例2で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの表面のSEM写真(倍率:5万倍)である。
図6】実施例2で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面の外殻部分近傍のSEM写真(倍率:2万倍)である。
図7】実施例3で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面のSEM写真(倍率:30倍)である。
図8】実施例3で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの表面のSEM写真(倍率:1万倍)である。
図9】実施例3で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面の外殻部分近傍のSEM写真(倍率:1万倍)である。
図10】得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズのガス吸着法による細孔分布(0.002~0.2μm)を例示するグラフである。
図11】実施例1および実施例3と比較例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの溶媒吸収テストの結果である。
図12】実施例3で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの熱安定性テストの結果である。
【実施例
【0045】
以下に、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズは、以下に示す方法により評価した。
【0046】
[SEMによる観測]
ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズのSEMによる観測は、JEOL製JSM-6390LV走査型電子顕微鏡(SEM)により行った。
【0047】
ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの断面の観測は、乾燥した多孔質ビーズをエタノールに浸漬し、次いで、エタノールが含浸した多孔質ビーズを液体窒素で凍結し、更に、凍結した多孔質ビーズを剃刀で割断した断面を試料とした。
【0048】
[中空部の平均空間容積]
ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの内部に位置する複数の中空部のうちビーズ中心部に位置する中空部の平均空間容積は、SEM写真を用いて中空部の最長直径と最短直径を測定し、その平均値を中空直径とし、平均空間容積を計算した。
【0049】
[ビーズ径]
SEM写真を用いてポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの最長直径と最短直径を測定し、その平均値をビーズ径とした。
【0050】
[全細孔容積]
ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの全細孔容積は、乾燥した多孔質ビーズ約0.2gの重量を測定し、乾燥時の重量(W)とし、重量測定したビーズ全量を25℃のメタノール50mLに添加して、48時間静置した。次に、細孔内に十分にメタノールが含浸したポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズを取出し、乾燥した濾紙に広げて、表面の余分なメタノールを取り、重量を測定し、メタノール含浸時の重量(W)とした。多孔質ビーズの乾燥時の重量(W)とメタノール含浸時の重量(W)およびメタノールの比重(25℃)を用いて、下記式に従いポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの全細孔容積(Vp)を求めた。
【0051】
【数3】
【0052】
(式中、Vpは多孔質ビーズの全細孔容積(cm/g)を表し、Wは多孔質ビーズの乾燥時の重量(g)を表し、Wは多孔質ビーズのメタノール含浸時の重量(g)を表し、ρMeOHはメタノールの比重を表す)
[空孔率]
ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズの空孔率(P)は、下記式に従い、全細孔容積(Vp)とポリ塩化ビニル樹脂の比重により求めた。
【0053】
【数4】
【0054】
(式中、Pは多孔質ビーズの空孔率(%)を表し、Vpは多孔質ビーズの全細孔容積(cm/g)を表し、ρPVCはポリ塩化ビニル樹脂の比重を表す)
[0.002~0.2μmの細孔容積の測定]
0.002~0.2μmの細孔容積は、定容量式ガス吸着法による細孔分布測定装置(マイクロトラック社製、BELSORP-miniII)により吸着等温線を測定し、BJH法による解析により求めた。
【0055】
実施例1
ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、塩ビホモポリマー、グレードTH-500、平均重合度450-550)20gをジメチルアセトアミド80gに加え、70℃で撹拌し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液20重量%を調製した。200mLのガラス容器にメタノール114gと水6gを混合して、水/メタノール混合溶液(水の割合5重量%)を調製した。70℃のポリ塩化ビニル樹脂溶液5gを25℃の該水/メタノール混合溶液(水の割合5重量%)に滴下し、液滴を30分間静置し凝固させた。凝固した液滴を取出し、新しいメタノール100gに入れ、18時間室温で静置した。メタノールを濾過により除去し、濾過物を室温下で6時間減圧乾燥を行い、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-1を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-1は、ビーズ直径2.5mm、空孔率83%、孔径範囲0.002~400μm、細孔容積(0.002~0.2μm領域)1.14cm/g、中空部の平均空間容積13体積%を有するものであった。その結果を表1に示す。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-1の断面のSEM写真(倍率:30倍)を図1、表面のSEM写真(倍率:10万倍)を図2、外殻部分近傍のSEM写真(倍率:2.5万倍)を図3に示す。
【0056】
実施例2
上記実施例1において、メタノール114gと水6gを混合して、水/メタノール混合溶液(水の割合 5重量%)を調製する代わりに、メタノール60gと水60gを混合して、水/メタノール混合溶液(水の割合50重量%)を調製し、更には、水/メタノール混合溶液の温度を25℃とする代わりに0℃にした以外は、実施例1に記載した方法と同様の方法により、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-2を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-2の性状を表1に示す。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-2の断面のSEM写真(倍率:30倍)を図4、表面のSEM写真(倍率:5万倍)を図5、外殻部分近傍のSEM写真(倍率:2万倍)を図6に示す。
【0057】
実施例3
ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、塩ビホモポリマー、グレードTH-1700(平均重合度1600-1800)10gをジメチルアセトアミド90gに加え、70℃で撹拌し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液10重量%を調製した。200mLのガラス容器にエタノール72gと水48gを混合して、水/エタノール混合溶液(水の割合40重量%)を調製した。70℃のポリ塩化ビニル樹脂溶液5gを10℃の該水/エタノール混合溶液(水の割合40重量%)に滴下し、液滴を30分間撹拌して凝固させた。凝固した液滴を取出し、新しいエタノール100gに入れ、18時間室温で静置した。エタノールを濾過により除去し、濾過物を室温下で6時間減圧乾燥を行い、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-3を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-3の性状を表1に示す。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-3の断面のSEM写真(倍率:30倍)を図7、表面のSEM写真(倍率:5万倍)を図8、外殻部分近傍のSEM写真(倍率:1万倍)を図9に示す。
【0058】
実施例4
ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、塩ビホモポリマー、グレードTH-3800(平均重合度3500-4100)5gをジメチルアセトアミド95gに加え、70℃で撹拌し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液5重量%を調製した。200mLのガラス容器にエタノール36gと水84gを混合して、水/エタノール混合溶液(水の割合70重量%)を調製した。70℃のポリ塩化ビニル樹脂溶液5gを10℃の該水/エタノール混合溶液(水の割合70重量%)に滴下し、液滴を60分間撹拌して凝固させた。凝固した液滴を取出し、新しいエタノール100gに入れ、18時間室温で静置した。エタノールを濾過により除去し、濾過物を室温下で6時間減圧乾燥を行い、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-4を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-4の性状を表1に示す。
【0059】
実施例5
実施例1~4で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-1~A-4のメタノール含浸テストを実施した。メタノール50mLの中にそれぞれA-1~A-4を0.2g程度加え、25℃で静置した。所定時間に取出し、メタノール含浸多孔質ビーズの重量を測定した。使用した多孔質ビーズの乾燥重量とメタノール含浸重量の差から、メタノール含浸量を求めた。含浸初期の30秒後の結果を表1に示す。また、A-1とA-3の結果については図11にも示す。
【0060】
実施例6
実施例3で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-3を大気下で80℃、100時間熱処理した。熱処理前後で、空孔率、孔径、0.002~0.2μmの細孔容積、中空部の平均空間容積、メタノール含浸テストによるメタノール含浸量に変化はなかった。図12に0.002~0.2μmの細孔容積の結果を示す。
【0061】
比較例1
上記実施例1において、メタノール114gと水6gを混合して、水/メタノール混合溶液(水の割合5重量%)を調製する代わりに、水120g(水の割合100重量%)とした以外は、実施例1に記載した方法と同様の方法により、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-5を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-5の性状を表1に示す。
【0062】
比較例2
上記実施例1において、ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、塩ビホモポリマー、グレードTH-500、平均重合度450-550)20gをジメチルアセトアミド80gに加え、70℃で撹拌し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液20重量%を調製する代わりに、ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、塩ビホモポリマー、グレードTH-500、平均重合度450-550)10gをアセトン/水/THF混合溶液(1/0.3/0.9容積割合)100gに加え、45℃で撹拌し、ポリ塩化ビニル樹脂溶液10重量%を調製したが、液は白濁しており、均一なポリ塩化ビニル樹脂溶液を得ることはできなかった。
【0063】
比較例3
比較例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-5のメタノール吸着テストを実施した。メタノール50mLの中に比較例1で得られたポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズA-5を0.2g程度加え、25℃で静置した。所定時間に取出し、メタノール含浸多孔質ビーズの重量を測定した。使用した多孔質ビーズの乾燥重量とメタノール含浸重量の差から、メタノール吸着量を求めた。含浸初期の30秒後の結果を表1と図11に示す。
【0064】
参考例1
上記実施例1において、メタノール114gと水6gを混合して、水/メタノール混合溶液(水の割合5重量%)を調製する代わりに、メタノール120g(水の割合0.01重量%未満)を用いた。70℃のポリ塩化ビニル樹脂溶液5gを25℃のメタノールに滴下し、液滴を30分間静置し凝固させたが、液滴形状を維持できず、不定形となり、ポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズを得ることができなかった。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリ塩化ビニル樹脂多孔質ビーズは、耐薬品性、耐酸性、耐アルカリ性、耐候性に優れ、外層から中心にかけて微細な連続孔を有し、ビーズ内部に中空部を有し、空孔率が高いため、各種物質の吸着・吸収、分離、有害物質の除去、有価物質の回収、また触媒の担体などの広範囲な分野への応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12