(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
B41J2/14 307
B41J2/14 607
(21)【出願番号】P 2018160110
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018007437
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】木平 孝和
(72)【発明者】
【氏名】村上 友章
(72)【発明者】
【氏名】岩間 正美
(72)【発明者】
【氏名】中野 孝一
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特許第3988351(JP,B2)
【文献】特開2002-292864(JP,A)
【文献】特開2017-013250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルが配列されたノズル板と、
前記複数のノズルと連通する個別液室を形成する隔壁を有する流路板と、
前記流路板と接合され、前記個別液室の内壁の一部を構成する振動板と、
前記振動板と接合され、前記振動板を変形させて前記個別液室に圧力を発生させる電気機械変換素子と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記個別液室が
、前記複数のノズルの配列方向
及び前記液体の吐出方向の両方に直交する方向に長い形状であり、
前記個別液室内の前記液体に生じる固有振動の振動周期が、前記電気機械変換素子の
前記複数のノズルの配列方向における横振動の一次モードの周期以上であ
り、
前記振動板は、凸部を有し、前記電気機械変換素子と前記凸部にて接合されている
ることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出する複数のノズルが配列されたノズル板と、
前記複数のノズルと連通する個別液室を形成する隔壁を有する流路板と、
前記流路板と接合され、前記個別液室の内壁の一部を構成する振動板と、
前記振動板と接合され、前記振動板を変形させて前記個別液室に圧力を発生させる電気機械変換素子と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記個別液室が
、前記複数のノズルの配列方向
及び前記液体の吐出方向の両方に直交する方向に長い形状であり、
前記個別液室内の前記液体に生じる固有振動の振動周期が、前記電気機械変換素子の
前記複数のノズルの配列方向における横振動の一次モードの周期以上であ
り、
前記液体吐出ヘッドは、前記振動板が前記電気機械変換素子と接合する接合面側であって、前記隔壁と対応する位置に支柱構造を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の液体吐出ヘッドを備える液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層圧電素子を用いたインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド、液滴吐出ヘッド)とは、各ノズルに対向するように伸縮方向を一致させて圧電素子を配設し、駆動信号を圧電素子に印加することで圧電素子を伸縮させてインクに圧力を印加し、ノズルから液滴を吐出させる技術である。
【0003】
しかし、今までの積層圧電素子を用いたインクジェットヘッドではノズル毎のインク滴の吐出速度にばらつき、特に隣接間等で発生する周波数特性によるばらつきがあり、インクジェットヘッド内で均一な特性を得ることが難しいという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、吐出安定性(特に残留振動抑制による高周波での吐出安定性)の向上のための方法として、積層圧電素子の寸法に関しての規定が開示されている。しかし、上述したインク滴の吐出速度にばらつきにより、ヘッド内で均一な特性を得ることが難しいという問題は解消できていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液体吐出ヘッドにおいて、吐出特性のばらつきを小さくし、ヘッド内の吐出特性を均一にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルが配列されたノズル板と、前記複数のノズルと連通する個別液室を形成する隔壁を有する流路板と、前記流路板と接合され、前記個別液室の内壁の一部を構成する振動板と、前記振動板と接合され、前記振動板を変形させて前記個別液室に圧力を発生させる電気機械変換素子と、を有する液体吐出ヘッドであって、前記個別液室が、前記複数のノズルの配列方向及び前記液体の吐出方向の両方に直交する方向に長い形状であり、前記個別液室内の前記液体に生じる固有振動の振動周期が、前記電気機械変換素子の前記複数のノズルの配列方向における横振動の一次モードの周期以上であり、前記振動板は、凸部を有し、前記電気機械変換素子と前記凸部にて接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体吐出ヘッドにおいて、吐出特性のばらつきを小さくし、ヘッド内の吐出特性を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例の説明に供する同ヘッドの外観斜視説明図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿うノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図である。
【
図3】
図1のB-B線に沿うノズル配列方向(液室短手方向)の断面説明図である。
【
図4】液体吐出ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)に沿う一例の断面説明図である。
【
図5】同ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)に沿う駆動時の断面説明図である。
【
図6】液体吐出ヘッドの他の構成例を説明するノズル配列方向(液室短手方向)に沿う部分断面図である。
【
図7】
図6に示す液体吐出ヘッドの液室長手方向に沿う部分断面図である。
【
図8】ノズルのメニスカス振動例を説明するグラフである。
【
図9】
図8に示す残留振動部分をフーリエ変換にて周波数分解した結果を説明するグラフである。
【
図10】電気機械変換素子の加圧液室短手方向での横振動の1次モードの周期を、液体の吐出速度を用いて推定する一例を説明するグラフである。
【
図11】式1によるPZT加工寸法と固有振動周期との関係を説明するグラフである。
【
図12】柱の寸法変化による残留振動の周波数分布を説明するグラフである。
【
図13】柱の寸法変化によるメニスカス残留振動の比較結果を説明するグラフである。
【
図14】本発明に係る画像形成装置の一例の機構部の全体構成を説明する側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。また、説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略または簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0010】
液体吐出ヘッド(以降適宜「ヘッド」とも称する)の一実施形態について
図1から
図3を参照して説明する。
図1は同ヘッドの外観斜視説明図、
図2は
図1のA-A線に沿うノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図、
図3は
図1のB-B線に沿うノズル配列方向(液室短手方向)の断面説明図である。
【0011】
液体吐出ヘッドは、ノズル板1と、流路板(液室基板)2と、薄膜部材としての振動板部材3とを積層接合している。そして、振動板部材3を変位させる圧電アクチュエータ11と、このヘッドのフレームを構成する共通流路部材としてフレーム部材20とを備えている。
【0012】
ノズル板1、流路板2及び振動板部材3によって、液滴を吐出する複数のノズル4に連なって通じる個別流路としての液室(個別液室、加圧液室、圧力室、加圧室、流路などとも称される。)6、液室6に液体を供給する流体抵抗部を兼ねた液体供給路7と、液体供給路7に連なる液体導入部8とを形成している。
【0013】
そして、フレーム部材20の共通流路としての共通液室10から振動板部材3に形成したフィルタ部9を通じて、液体導入部8、液体供給路7を経て複数の液室6に液体を供給する。
【0014】
ここで、ノズル板1は、ニッケル(Ni)の金属プレートから形成したもので、エレクトロフォーミング法(電鋳)で製造したものを用いている。これに限らず、その他の金属部材、樹脂部材、樹脂層と金属層の積層部材などを用いることができる。ノズル板1には、各液室6に対応して例えば直径10~35μmのノズル4を形成し、流路板2と接着剤接合している。また、このノズル板1の液滴吐出側面(吐出方向の表面:吐出面、又は液室6側と反対の面)には撥水層を設けている。
【0015】
流路板2は、単結晶シリコン基板をエッチングして、液室6、液体供給路7、液体導入部8などを構成する溝部を形成している。なお、流路板2は、例えばSUS基板などの金属板を酸性エッチング液でエッチングし、あるいはプレスなどの機械加工を行って形成することもできる。
【0016】
振動板部材3は、流路板2の液室6の壁面を形成する壁面部材を兼ね、液室6に対応する部分に変形可能な振動領域30を有している。
【0017】
そして、この振動板部材3の液室6とは反対側に、振動板部材3の振動領域30を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ11を配置している。
【0018】
この圧電アクチュエータ11は、ベース部材13上に接着剤接合した複数の積層型圧電部材12を有し、圧電部材12にはハーフカットダイシングによって溝加工して1つの圧電部材12に対して所要数の圧電柱12A、12Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0019】
圧電部材12の圧電柱12A、12Bは、同じものであるが、駆動波形を与えて駆動させる圧電柱を駆動圧電柱(駆動柱)12A、駆動波形を与えないで単なる支柱として使用する圧電柱を非駆動圧電柱(非駆動柱)12Bとして区別している。
【0020】
そして、駆動柱12Aを振動板部材3の振動領域30に形成した島状の凸部3aに接合している。また、非駆動柱12Bを振動板部材3の凸部3bに接合している。
【0021】
この圧電部材12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、駆動柱12Aの外部電極に駆動信号を与えるための可撓性を有するフレキシブル配線基板としてのFPC15が接続されている。
【0022】
フレーム部材20は、例えばエポキシ系樹脂あるいは熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイト等で射出成形により形成し、図示しないヘッドタンクや液体カートリッジから液体が供給される共通液室10が形成されている。
【0023】
このように構成した液体吐出ヘッドにおいては、例えば駆動柱12Aに印加する電圧を基準電位から下げることによって駆動柱12Aが収縮し、振動板部材3の振動領域30が下降して液室6の容積が膨張することで、液室6内に液体が流入し、その後駆動柱12Aに印加する電圧を上げて駆動柱12Aを積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4方向に変形させて液室6の容積を収縮させることにより、液室6内の液体が加圧され、ノズル4から液滴が吐出(噴射)される。
【0024】
そして、駆動柱12Aに印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材3の振動領域30が初期位置に復元し、液室6が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室10から液体供給路7を通じて液室6内に液体が充填される。そこで、ノズル4のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
【0025】
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き-押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行うこともできる。
【0026】
次に、振動板部材3および圧電部材12の詳細を、
図4、
図5を参照して説明する。
図4は、上記実施形態における液体吐出ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)に沿う一例の断面説明図である。
図5は、同ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)に沿う断面説明図において、駆動時の様子を模式的に説明した図である。
【0027】
図4では、上記と同様に、ノズル板1、流路板2、振動板部材3、圧電部材12、ベース部材13等が図示されており、流路板2には液室6が設けられている。圧電部材12は、液室6内に圧力を発生させる駆動柱12Aと液室6の隔壁に位置する非駆動柱12Bとを有している。そして、上述したように駆動柱12Aを振動板部材3の振動領域30に形成した島状の凸部3aに接合している。また、非駆動柱12Bを振動板部材3の凸部3bに接合している。
【0028】
図5に示されるように、駆動柱12Aが駆動することによって、ダイアフラム駆動部3cが撓み、液室6に圧力が発生する。これにより、液室6内の液体がノズル4から液滴16として吐出される。
【0029】
図5において、振動板部材3は、液室6に圧力を発生させるダイアフラム駆動部3cと、該ダイアフラム駆動部3c以外の領域であるダイアフラム非駆動部3dとを有している。また、ダイアフラム駆動部3cとダイアフラム非駆動部3dは異なる金属であり、ダイアフラム駆動部3cはダイアフラム非駆動部3dよりも低硬度となっていることが好ましい。
【0030】
ダイアフラム駆動部3cとダイアフラム非駆動部3dを異なる金属とし、ダイアフラム駆動部3cはダイアフラム非駆動部3dよりも低硬度とすることにより、ダイアフラム部の膜厚を薄くせずにダイアフラム駆動部3cの硬度を低減することができる。このため、ダイアフラム部の硬度を保つことができ、ノズルが高密度化してダイアフラム部の幅が狭くなったとしても、ダイアフラム部の膜厚を薄くすることなく良好な変位を得ることができる。さらに、一のノズル・液室における吐出が、隣接するノズル・液室における吐出に影響することを抑制することができる。
【0031】
図示されるように、本実施形態における振動板部材3には、ダイアフラム部3c、3dの圧電部材12(電気機械変換素子)側に、ダイアフラム駆動部3c及びダイアフラム非駆動部3dそれぞれに圧電部材12と対応するオーバーハング形状の凸部3a、3bが形成されている。凸部3aは圧電部材12における駆動圧電柱12Aと対応するように、凸部3bは圧電部材12における非駆動柱12Bと対応するように形成されている。
【0032】
次に、本実施形態の電子機械変換素子の寸法規定について説明する。
ここで、電子機械変換素子は、液体吐出ヘッドにおいて、液滴が吐出されるノズルに連通する液室に、振動板を介して圧力を発生させる圧力発生手段の一例である。圧力発生手段によって発生させた圧力により、ノズルから液滴が吐出される。
以降の説明では、電子機械変換素子の一例として、圧電素子(積層圧電素子)を用いて説明する。なお、本明細書において、圧電素子は、圧電部材とも称し、区別しない。
【0033】
従来は、例えば、特許文献1に代表されるような寸法規定や、積層圧電素子の変位効率と、工法上の生産性の観点とから積層圧電素子の柱寸法が規定されていた。
例えば、従来技術では、圧電素子の横振動がメニスカス周期より短くなると、圧電素子の横振動が励起され、横振動が減衰せずに残留することで、振動板が横振動の影響を受けてしまい、高周波で安定しないとしている。
しかし、ヘッドの更なる高性能化(生産性向上)のためには、高周波数での吐出安定性の確保が望まれる。
発明者らは、ヘッドを詳細に解析した結果、ヘッドの振動板(具体的には、島状の凸部)の短手方向での、圧電素子の横振動が影響していることを見出した。
【0034】
圧電素子の横振動の影響は、(1)特に圧電素子と振動板との接合位置がずれると顕著になる傾向があること、および、(2)メニスカス周期よりも横振動の周期が長い場合、言い換えると、周波数では横振動の方が低い(特に20kHz程度)場合には、メニスカスと横振動の周期でうなりを発生させてしまい高周波数での吐出ばらつきを大きく悪くしてしまうことが分かった。
加えて、メニスカス周期よりも横振動の周期が同等か短い場合には、うなりの影響が小さくなると共に、周波数が高い、すなわち、構造の剛性(アスペクト比が低くなることにより、柱として太く短くなるため)が高くなるため、残留振動の減衰が速くなり、結果として吐出への残留振動の影響がないことが分かった。
【0035】
上述した解析結果により、一実施形態の液体吐出ヘッドは、残留振動の抑制としてノズルのメニスカス周期よりも積層圧電素子の横振動(振動板の短手方向の振動モード)による1次モードの周期が短くなるように積層圧電素子の寸法を調整する。具体的には、一実施形態の液体吐出ヘッドは、積層圧電素子の寸法から求められる断面1次モーメントがノズルのヘルムホルツ周期に一致する(もしくは大きくなる)ように寸法を調整した構成にする。これにより、積層圧電素子から発生する固有周期の揺れ(特に圧電素子と振動板との接合ズレ等で顕在化する揺れ)がメニスカスへ影響しにくくなるため、均一な吐出特性を得ることができる。
以下の図面を用いて詳細に説明する。
【0036】
まず、圧電素子の長さについて、
図6、7を参照して説明する。
図6は、液体吐出ヘッドの他の構成例を説明するノズル配列方向(液室短手方向)に沿う部分断面図である。
図7は、
図6に示す液体吐出ヘッドの液室長手方向に沿う部分断面図である。
図1から
図3と同様の部材に同じ符号をつけ、各部材の説明を省略する。
図6、7では、駆動圧電柱12A、非駆動圧電柱12Bは、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の柱で構成されることを前提としている。なお、
図6、7では液室の隔壁部にもPZTの柱(非駆動圧電柱12B)が配置される構造を有しているが、隔壁に対向する部分には、PZTの柱がなくともよい。
以降の説明では、
図6に示す圧電素子12の駆動圧電柱12Aに関し、ダイシング深さを長さLとする。また、ノズル配列方向(液室短手方向)に沿う駆動圧電柱12Aの幅をPZT幅とする。
【0037】
上述したように、高周波数での吐出安定性を確保するため、発明者らがメニスカスの残留振動を解析したところ、ヘルムホルツ周期とは別の周波数がメニスカスで観察された。そして、この別の周波数とメニスカスのヘルムホルツ周期の振動がうなりを起こすことによって高周波数でのメニスカスがばらついてしまい吐出安定性を悪化させていることが分かった。
図8は、ノズルのメニスカス振動例を説明するグラフである。
図8では、台形波(波高値5V、1.5-0.5-1のpull波形)にてノズルのメニスカス振動のレーザドップラ速度計(LDV)による測定結果を示す。測定結果のうち、残留振動部分(枠で囲んだ部分)を周波数解析範囲とした。
【0038】
図9に、
図8に示す周波数解析範囲をフーリエ変換にて周波数分解した結果を示す。今回測定したヘッドのヘルムホルツ周期は3.2μs(マイクロ秒)であり、
図9の300kHz近傍のピークが該当する。それ以外にもうひとつ270kHzの周波数ピークが存在しており、これは、柱(駆動圧電柱12A)の横振動であり、式1に積層圧電素子の数値をいれたものとほぼ等しい。
【0039】
式1:梁の固有振動の式
【数1】
kn:固有の係数(両端固定のため4.73)
E :縦弾性係数
I :断面2次モーメント
A :断面積
ρ :密度
L :長さ
【0040】
このとき、長さLは、
図6の駆動圧電柱12A(PZT)のダイシング深さに等しく、断面積Aは、駆動圧電柱12Aの幅(PZT幅)とダイシング深さ(長さL)を掛けたものに等しい。
この横振動により、例えば、
図8の2.0E-05secあたりの振動が一度消えるような状態(うなり)が形成されている。
【0041】
なお、電気機械変換素子の加圧液室短手方向での横振動の1次モードの周期は、液体の吐出速度からの計算や、電気機械変換素子の寸法からの計算等、公知の方法から求めることができる。例えば吐出速度からの計算においては、波高値を固定し、電気機械変換素子に印加するパルス幅を振ると、メニスカスの振動に応じて吐出速度が変化する。これを利用し、パルス幅Pwを横軸、吐出速度Vjを縦軸にすると、吐出速度のピークが観察され、このピーク間の時間が1次モードの周期におおよそ合致する。
図10には、パルス幅Pwを横軸、吐出速度Vjを縦軸とした際のグラフ例を示す。この場合においては、1次モード(Tc)は3.2μs程度と推定できる。
【0042】
図11に、式1を基に柱(駆動圧電柱12A)の幅(PZT幅)や高さ(長さL)を変化させた際の周波数分布を示す。
圧電素子の柱を太く、高さを短くすることで、周波数が高く(周期は短く)なる。
Tc(メニスカスのヘルムホルツ周波数)に近ければ、うなりの周期は長くなり、その間に受ける減衰の影響によりうなりによる影響は小さくなる。また、Tcよりも周波数が高い(周期が短い)場合は、構造として柱の長さが短く・太くなるため、圧電素子自体の揺れが起き難くなり、また剛性が増えるため、横振動の減衰も速くなり、影響しにくくなる。なお、Tcよりも周波数が低い(周期が長い)場合は、うなりによる影響が大きく圧電素子の寸法として適さない(うなりによるNG)。
【0043】
図12は、柱の寸法変化による残留振動の周波数分布を説明するグラフであり、柱を太く、短くしたものと、従来のものとを比較した結果を示す。
図12のメニスカス残留振動比較において、点線は、柱長い・幅細い駆動圧電柱の場合、実線は、柱短い・幅太い駆動圧電柱の場合を示している。
図12に示すように、柱を太く、短くした駆動圧電柱は、柱を細く、長くした従来の駆動圧電柱より、残留振動の周波数が高くなっていることが分かる。
【0044】
また、
図13に柱の寸法変化によるメニスカス残留振動の比較結果を説明するグラフである。
図13に示すメニスカス残留振動比較より、残留振動の減衰も速く、うなりもほとんど発生していないことが分かる。
これにより、高周波数で圧電素子(駆動圧電柱)を駆動した際もメニスカスが安定しており、安定した吐出特性を獲得できる。
【0045】
上述したように、発明者らは、液体吐出ヘッドにおいて、積層圧電素子の寸法、具体的には、圧電素子(駆動圧電柱)の太さおよび長さに規定を設けることにより、吐出特性のばらつきを小さくし、ヘッド内の吐出特性を均一にすることができることを見出した。言い換えると、一実施形態の液体吐出ヘッドは、加圧液室が複数のノズルが配列された配列方向に直交する方向に長くなっている形状であり、加圧液室内の液体(インク)に励起される固有振動の振動周期(インクの物性に依存するヘルムホルツ周期)が、電気機械変換素子の加圧液室短手方向での横振動の1次モードの周期以上であることを特徴とする。
これにより、ノズルの隣接間等で発生する周波数特性によるばらつきを改善することができ、ヘッド内で均一な特性を得ることができる。
【0046】
また、振動板としての振動部材3は、島状の凸部3a、3bを有し、電気機械変換素子としての駆動圧電柱12Aと凸部3aにて接合(特に接合固定)されていることが好ましい。振動板が島状の構造を持つことで、隔壁を介しての隣接チャネル(ch)への振動の伝播を抑制でき、吐出ばらつきを低減することができる。
さらに、液体吐出ヘッドは、振動部材3が電気機械変換素子と接合する接合面側であって、隔壁と対応する位置に支柱構造としての非駆動柱12Bを備えることが好ましい。支柱構造を備えることにより、圧電素子の剛性を向上させることが可能になる。これにより、圧電素子(駆動圧電柱)の横振動が減衰する速度を早めることができる。
【0047】
次に、本発明に係る液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置について説明する。
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0048】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0049】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0050】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0051】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0052】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0053】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0054】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0055】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0056】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0057】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0058】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0059】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0060】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0061】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0062】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0063】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0064】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0065】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0066】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一実施形態について
図14及び
図15を参照して説明する。なお、
図14は同装置の機構部の全体構成を説明する側面説明図、
図15は同機構部の要部平面説明図である。本実施形態では画像形成装置を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。
【0067】
この画像形成装置はシリアル型画像形成装置であり、左右の側板221A、221Bに横架したガイド部材である主従のガイドロッド231、232でキャリッジ233を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0068】
このキャリッジ233には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するための本発明に係る液体吐出ヘッドユニットからなる記録ヘッド234を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0069】
記録ヘッド234は、それぞれ2つのノズル列を有する液体吐出ヘッド234a、234bを1つのベース部材に取り付けて構成したもので、一方のヘッド234aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を、他方のヘッド234bの一方のノズル列はマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。なお、ここでは2ヘッド構成で4色の液滴を吐出する構成としているが、各色の液体吐出ヘッドを備えることもできる。
【0070】
また、キャリッジ233には、記録ヘッド234のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのサブタンク235a、235b(区別しないときは「サブタンク235」という。)を搭載している。このサブタンク235には各色の供給チューブ236を介して、供給ユニット224によって各色のインクカートリッジ210から各色のインクが補充供給される。
【0071】
一方、給紙トレイ202の用紙積載部(圧板)241上に積載した用紙242を給紙するための給紙部として、用紙積載部241から用紙242を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)243及び給紙コロ243に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド244を備え、この分離パッド244は給紙コロ243側に付勢されている。
【0072】
そして、この給紙部から給紙された用紙242を記録ヘッド234の下方側に送り込むために、用紙242を案内するガイド部材245と、カウンタローラ246と、搬送ガイド部材247と、先端加圧コロ249を有する押さえ部材248とを備えるとともに、給送された用紙242を静電吸着して記録ヘッド234に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト251を備えている。
【0073】
この搬送ベルト251は、無端状ベルトであり、搬送ローラ252とテンションローラ253との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト251の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ256を備えている。この帯電ローラ256は、搬送ベルト251の表層に接触し、搬送ベルト251の回動に従動して回転するように配置されている。この搬送ベルト251は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ252が回転駆動されることによってベルト搬送方向に周回移動する。
【0074】
さらに、記録ヘッド234で記録された用紙242を排紙するための排紙部として、搬送ベルト251から用紙242を分離するための分離爪261と、排紙ローラ262及び排紙コロ263とを備え、排紙ローラ262の下方に排紙トレイ203を備えている。
【0075】
また、装置本体の背面部には両面ユニット271が着脱自在に装着されている。この両面ユニット271は搬送ベルト251の逆方向回転で戻される用紙242を取り込んで反転させて再度カウンタローラ246と搬送ベルト251との間に給紙する。また、この両面ユニット271の上面は手差しトレイ272としている。
【0076】
さらに、キャリッジ233の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド234のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構281を配置している。この維持回復機構281には、記録ヘッド234の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)282a、282b(区別しないときは「キャップ282」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード283と、増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け284などを備えている。
【0077】
また、キャリッジ233の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け288を配置し、この空吐出受け288には記録ヘッド234のノズル列方向に沿った開口部289などを備えている。
【0078】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙トレイ202から用紙242が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙242はガイド部材245で案内され、搬送ベルト251とカウンタローラ246との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド237で案内されて先端加圧コロ249で搬送ベルト251に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0079】
このとき、帯電ローラ256に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト251が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト251上に用紙242が給送されると、用紙242が搬送ベルト251に吸着され、搬送ベルト251の周回移動によって用紙242が副走査方向に搬送される。
【0080】
そこで、キャリッジ233を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド234を駆動することにより、停止している用紙242にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙242を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙242の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙242を排紙トレイ203に排紙する。
【0081】
このように、この画像形成装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、滴吐出特性のバラツキが少なく、高画質画像を形成することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ノズル板
2 流路板(液室基板)
3 振動板部材
3a、3b 凸部
3c ダイアフラム駆動部
3d ダイアフラム非駆動部
4 ノズル
6 液室
7 液体供給路
8 液体導入部
9 フィルタ部
10 共通液室
11 圧電アクチュエータ
12 圧電部材
12A 駆動圧電柱(駆動柱)
12B 非駆動圧電柱(非駆動柱)
13 ベース部材
15 FPC
16 液滴
19 電鋳支持基板
20 フレーム部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】