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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/20 20060101AFI20220628BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20220628BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220628BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20220628BHJP
   C09J 123/10 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C09J123/20
C09J11/08
C09J11/06
C09J123/00
C09J123/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019508564
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2017044414
(87)【国際公開番号】W WO2018179609
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2017067715
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 譲
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064055(JP,A)
【文献】特開2017-095685(JP,A)
【文献】特開2014-210841(JP,A)
【文献】特開2014-189584(JP,A)
【文献】特開平08-269417(JP,A)
【文献】特開平11-181386(JP,A)
【文献】特開2004-284575(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061061(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-オレフィンホモポリマーと、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体と、粘着付与樹脂と、ワックスと、液状軟化剤とを含む接着剤組成物であり、
接着剤組成物を180℃に加熱してから20℃に降温した直後に測定される複素剛性率(I)が、1MPa以下であり、
前記α-オレフィンホモポリマーが、1-ブテンホモポリマーを含み、
前記ワックスが、ポリプロピレン系ワックスを含み
前記液状軟化剤が、液状炭化水素を含む、接着剤組成物。
【請求項2】
α-オレフィン共重合体が、1-ブテン・αオレフィン共重合体及びプロピレン・αオレフィン共重合体の少なくともいずれか一方を含む、請求項に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
粘着付与樹脂が、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂及び水添石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
180℃での溶融粘度が100Pa・s以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
オープンタイム45秒で当該接着剤組成物を用いて被着材を貼り合わせた後、80℃雰囲気中、荷重100gで24時間の耐熱クリープ試験を行った際の剥離長さが10mm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン等の成形品とポリウレタン発泡体付きファブリック等の表皮材とを接着する際に使用する、無溶剤型で、オープンタイムが長く、かつ片面塗布接着性に優れた自動車内装用の非反応型の接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装材であるドア、インストルメントパネル、天井材、リアトレイ、ピラー等は、一般的に成形品と表皮材とから構成されている。成形品としては、主にポリオレフィン成形品が使用される。一方、表皮材としては、ポリウレタン発泡体、ポリウレタン発泡体付きファブリック、ポリオレフィン等の表皮材が使用されている。これら成形品と表皮材とは、接着剤を介して、プレス成形工法、真空成形工法等で接着される。
【0003】
この自動車内装用接着剤としては、現在に至るまで、特に耐熱クリープ特性を満足するために、溶剤型の一液反応系接着剤が使用されている。例えば、特許文献1には、変性ポリクロロプレン、粘着付与剤及び有機溶剤からなるクロロプレンゴム系接着剤が開示されている。また、特許文献2には、スチレンブロック共重合体と液状ゴムとを併用した塩素等のハロゲンを含まない接着剤が開示されている。しかしながら、環境対応への要求水準が高まり、無溶剤型接着剤への切り替えが望まれている。
【0004】
溶剤型自動車内装用接着剤の無溶剤化代替候補としては、ホットメルト接着剤が挙げられる。ホットメルト接着剤の中でも反応型ホットメルト接着剤は、耐熱性に優れるという特長を有する。しかしながら、反応型ホットメルト接着剤は、養生時間と塗布作業時及び貯蔵時安定性とのバランスが得難いという短所を有する。また、被着材がポリオレフィン成形品である場合の接着性を考慮すると、ポリオレフィンをシラン変性した反応型ポリオレフィン接着剤、例えば、特許文献3に開示されている組成物等が候補となる。しかしながら、上記反応型ポリオレフィン接着剤は、養生時の加水分解反応によって雰囲気中に有機溶剤を放出してしまい、環境対応型接着剤として懸念点を有する。
【0005】
反応型ホットメルト接着剤以外のホットメルト接着剤として、非反応型のホットメルト接着剤は、原材料及び加水分解反応由来の有機溶剤が揮発する懸念が無いため、環境対応型接着剤として期待が非常に大きく有望である。また、非反応型であるため、養生時間が不要であり、塗布作業時及び貯蔵時安定性も高く、使用者の使い勝手がよい。このような非反応型でポリオレフィン成形品への接着性に優れる接着剤として、例えば、特許文献4には耐熱クリープ特性を得るために貼り合わせ時のホットメルト接着剤の表面温度を耐熱クリープ測定雰囲気温度以上とした使用方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-140522号公報
【文献】特開2005-290339号公報
【文献】特開2013-216724号公報
【文献】特開2004-284575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載されるようなホットメルト接着剤の場合、オープンタイムが極端に短いという欠点を有する。ここでオープンタイムとは、加熱溶融したホットメルト接着剤を熱源から離してから被着材をプレス成形して貼るまでの時間、すなわち貼り付け可能時間である。接着作業の作業性を考慮すると、オープンタイムが長い接着剤の方が使い易い接着剤となる。さらに、表皮がファブリック素材の場合は、ホットメルト接着剤を加熱溶融させた直後に貼り付けると、溶融した接着剤が高温であるため、ファブリックが熱プレスされる状態となり、ファブリック表面に毛倒れが発生してしまう。毛倒れとは、毛足の変形又は変質により筋や色ムラ等となる、いわゆる外観不良である。そのため、意匠性の観点からもオープンタイムは長いことが好ましい。
【0008】
従来から知られている非反応型ホットメルト接着剤を使用して、ポリオレフィン成形品とポリウレタン発泡体付きのファブリック(表皮材)とを、成形品に対して放熱性が高い表皮材側にのみ接着剤を塗布した片面塗布によるプレス成形工法で接着すると、オープンタイムを5秒以内にする必要がある。特に耐熱クリープ特性が得られないおそれがある。また、オープンタイムを長くする目的でホットメルト接着剤を柔軟化させると、凝集力が低下してしまい耐熱クリープ特性が得られない。そのため、ホットメルト接着剤の耐熱クリープ特性とオープンタイムの長時間化とは両立が困難となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、(1)α-オレフィンホモポリマーと、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体と、粘着付与樹脂と、ワックスと、液状軟化剤とを含む接着剤組成物であり、当該接着剤組成物を180℃に加熱してから20℃に降温した直後に測定される複素剛性率(I)が、1MPa以下である接着剤組成物を提供するものである。
本発明はまた、(2)α-オレフィンホモポリマーが、1-ブテンホモポリマー及びプロピレンホモポリマーの少なくともいずれか一方を含む(1)に記載の接着剤組成物を提供するものである。
本発明はさらに、(3)α-オレフィン共重合体が、1-ブテン・αオレフィン共重合体及びプロピレン・αオレフィン共重合体の少なくともいずれか一方を含む(1)又は(2)に記載の接着剤組成物を提供するものである。
本発明はさらに、(4)粘着付与樹脂が、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂及び水添石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む(1)~(3)のいずれかに記載の接着剤組成物を提供するものである。
本発明はさらに、(5)ワックスがポリプロピレン系ワックスを含む(1)~(4)のいずれかに記載の接着剤組成物を提供するものである。
本発明はさらに、(6)180℃での溶融粘度が100Pa・s以下である(1)~(5)のいずれかに記載の接着剤組成物を提供するものである。
(7)オープンタイム45秒で当該接着剤組成物を用いて被着材を貼り合わせた後、80℃雰囲気中、荷重100gで24時間の耐熱クリープ試験を行った際の剥離長さが10mm以下である(1)~(6)のいずれかに記載の接着剤組成物も本発明の範疇である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、前記の構成により、オープンタイム45秒で貼り合せても、優れた耐熱クリープ特性を付与できる。すなわち、本発明の接着剤組成物は、環境問題を配慮した無溶剤型接着剤であり、非反応系接着剤組成物でありながら、オープンタイム45秒後でもポリオレフィン成形品に対して優れた接着性を示す自動車内装用接着剤として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の接着剤組成物は、α-オレフィンホモポリマーと、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体と、粘着付与樹脂と、ワックスと、液状軟化剤とを含む接着剤組成物であり、当該接着剤組成物を180℃に加熱してから20℃に降温した直後に測定される複素剛性率(I)が、1MPa以下である。すなわち、本実施形態の接着剤組成物は、α-オレフィンホモポリマーと、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体と、粘着付与樹脂と、ワックスと、液状軟化剤を必須成分とする混合物である。該混合物の20℃降温直後の複素剛性率(I)が1MPa以下である。
【0013】
本実施形態の接着剤組成物は、上記混合物を20℃に降温して1500秒間経過した後の複素剛性率(II)が、複素剛性率(I)の2倍以上となるディレードタック挙動を示す接着剤組成物であってもよい。ここで、通常のホットメルト接着剤は、加熱により粘着性を示す状態になるが、放熱(冷却)により速やかに固化し、粘着性を示さない状態になることが知られている。一方、ディレードタック挙動とは、接着剤組成物が加熱により粘着性を示す状態になった後に放熱(冷却)されても、しばらくの間は粘着性が持続する挙動をいう。本実施形態の接着剤組成物は、ディレードタック挙動を示すことにより、ホットメルト接着剤でありながら、温度が下がってからも接着させることが可能になる。
【0014】
本実施形態に係るα-オレフィンホモポリマーは、ホモポリマー由来の結晶性により、接着剤組成物に耐熱性を付与することができる。目的とする諸物性により異なるため特に限定しないが、接着剤組成物の180℃での溶融粘度への影響を考慮すると、α-オレフィンホモポリマーのMFR(190℃、2.16kg荷重)は、100g/10min以上のものが好ましく、更に好ましくは200g/10min以上である。ここで、MFRとはメルトフローレートのことである。
【0015】
α-オレフィンホモポリマーの構成モノマーとしてのα-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン等の炭素数2~8のα-オレフィンが好ましく、ホモポリマーが融点120℃以上を示す炭素数3~4のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンホモポリマーの市販品としては、ライオンデルバセル社製の商品名「PB0800M」、エクソンモービル社製「Achieve6936G2」、株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロS13B」等が使用できる。なお、本材料の融点とは、溶融状態から固化して10日後の示差走査熱量測定(DSC)値であり、融解ピークの頂点の温度である。なお、α-オレフィンホモポリマーは、2種以上を併用できる。α-オレフィンホモポリマーは、1-ブテンホモポリマー及びプロピレンホモポリマーの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0016】
α-オレフィンホモポリマーの含有量は、耐熱性の観点から10質量部以上が好ましく、接着剤組成物から形成される被膜(以下、「接着剤被膜」という。)の柔軟性の観点から、30質量部以下が好ましい。α-オレフィンホモポリマーの含有量は、より好ましくは12~28質量部であり、更に好ましくは15~25質量部である。α-オレフィンホモポリマーの含有量が10質量部より少ないと十分な耐熱性が得られ難くなることがあり、30質量部より多いと接着剤被膜が硬くなり密着性が低下してしまうことがある。
【0017】
本実施形態に係る融点90℃以上のα-オレフィン共重合体は、粘着付与樹脂により溶融時のタックを付与することができる。また、上記α-オレフィン共重合体は、耐熱クリープ測定雰囲気温度より高い融点を有しているため、本用途での耐熱性を損なわない。そのため、上記α-オレフィン共重合体は、接着剤被膜の柔軟性、粘着性及び耐熱性と多機能に寄与する。なお、本材料の融点とは、溶融状態から固化して10日後の示差走査熱量測定(DSC)値であり、融解ピークの頂点の温度である。α-オレフィン共重合体とは、2種類以上のα-オレフィンモノマーの共重合物及び1種類以上のα-オレフィンと、α-オレフィンと共重合性を示すα-オレフィン以外のモノマー1種類以上との共重合物である。
【0018】
α-オレフィン共重合体の構成モノマーとしてのα-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン等の炭素数2~8のα-オレフィンが好ましく、炭素数2~4のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィン共重合体の市販品としては、三井化学株式会社製の商品名「タフマーBL2491M」、「タフマーBL3450M」、「タフマーBL3110M」、「タフマーPN-2070」、「タフマーPN-3560」、「タフマーPN-2060」、「タフマーPN-20300」、「タフマーPN-0040」(「タフマー」は登録商標)等が使用できる。なお、これらのα-オレフィン共重合体は、2種以上を併用できる。
【0019】
融点90℃以上のα-オレフィン共重合体の含有量は、粘着性の観点から7~27質量部が好ましく、より好ましくは9~25質量部であり、更に好ましくは12~22質量部である。また、α-オレフィン共重合体の融点の下限は、より好ましくは100℃以上である。さらに、α-オレフィン共重合体としては、1-ブテン・αオレフィン共重合体及びプロピレン・αオレフィン共重合体の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい形態である。なお、α-オレフィン共重合体の融点の上限値は、特に限定されず、160℃程度であってもよい。
【0020】
本実施形態に係る粘着付与樹脂は、例えば、石油樹脂、ピュアモノマー系石油樹脂、水添石油樹脂、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジン樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂、アルキルフェノール樹脂及びキシレン樹脂からなる群より、目的とする諸物性により選択することができる。αーオレフィン共重合体に良好な溶融時タックを付与するために、より望ましい粘着付与樹脂は、テルペンフェノール樹脂又は水添樹脂(水添テルペン樹脂、水添石油樹脂等)等の非芳香族構造含有種である。粘着付与樹脂は、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂及び水添石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0021】
粘着付与樹脂の市販品としては、荒川化学株式会社製の商品名「アルコンM90」、「アルコンM100」、「アルコンM115」、「アルコンM135」、「アルコンP90」、「アルコンP100」、「アルコンP115」、「アルコンP125」、「アルコンP140」(「アルコン」は登録商標)、ヤスハラケミカル株式会社製の商品名「YSポリスターT80」、「YSポリスターT100」、「YSポリスターT115」、「YSポリスターT130」、「YSポリスターT145」、「YSポリスターT160」、「YSポリスターS145」、「YSポリスターG125」、「YSポリスターG150」、「クリアロンP85」、「クリアロンP105」、「クリアロンP115」、「クリアロンP125」、「クリアロンP135」、「クリアロンP150」(「クリアロン」は登録商標)、イーストマンケミカル社製の商品名「Eastotac C-100R」、「Eastotac C-100L」、「Eastotac C-100W」、「Eastotac C-115R」、「Eastotac C-115L」、「Eastotac C-115W」、「Eastotac H-100R」、「Eastotac H-100L」、「Eastotac H-100W」、「Eastotac H-115R」、「Eastotac H-115L」、「Eastotac H-115W」、「Eastotac H-130R」、「Eastotac H-130L」、「Eastotac H-130W」、「Eastotac H-142R」、「Eastotac H-142W」、「RegaliteR1090」、「RegaliteR1100」、「RegaliteS1100」、「RegaliteR1125」、「RegaliteR9100」、「RegaliteR7100」、「RegaliteS7125」、「RegaliteC6100」、「RegaliteS5100」、「Regalrez1085」、「Regalrez1094」、「Regalrez1126」、「Regalrez1128」、「Regalrez1139」、「Regalrez6108」、「Regalrez3102」等が使用できる。なお、これらの粘着付与樹脂は、2種以上を併用できる。
【0022】
粘着付与樹脂の軟化点は、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは115℃以上であり、更に好ましくは125℃以上である。ここで、粘着付与樹脂の軟化点とは、環球法軟化点である。なお、粘着付与樹脂の軟化点の上限値は、特に限定されず、160℃程度であってもよい。
【0023】
粘着付与樹脂の含有量は、粘着性の観点から17~57質量部が好ましく、より好ましくは22~52質量部であり、更に好ましくは27~47質量部である。
【0024】
本実施形態に係るワックスは、加熱溶融時の粘度低減効果による被着材への濡れ性付与に加え、冷却固化後の接着剤組成物の耐熱性発現にも寄与する。そのため、ワックスは、環球法軟化点100℃以上を有することが好ましい。さらにポリプロピレンへの接着性を考慮すると、ワックス種はポリプロピレン構造を有するポリプロピレン系ワックスであることが好ましい。
【0025】
ワックスの市販品としては、三洋化成工業株式会社製の商品名「ビスコール660-P」、「ビスコール550-P」(「ビスコール」は登録商標)等が使用できる。なお、これらのワックスは、2種以上を併用できる。
【0026】
ワックスの含有量は、耐熱性の観点から4質量部以上が好ましく、接着剤被膜の柔軟性の観点から24質量部以下が好ましい。より好ましくは6~22質量部であり、更に好ましくは10~18質量部である。
【0027】
本実施形態に係る液状軟化剤は、常温で液状であるため、加熱溶融時の粘着付与樹脂による粘着性をより増強することで、接着剤組成物のオープンタイム延長に寄与する。さらにα-オレフィンホモポリマー及び/又は融点90℃以上のα-オレフィン共重合体等の結晶性ポリマーが加熱溶融状態から冷却される際の結晶化を遅延させることで、接着剤組成物がディレードタック挙動を示すことができると推察するが、現段階では明確ではない。
【0028】
液状軟化剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系等のプロセスオイル、酸無水物変性液状炭化水素、液状ポリイソプレン等の液状ゴム、液状ポリブテン等の常温で液状である材料群より、目的とする諸物性により選択することができる。α-オレフィンホモポリマー及び/又は融点90℃以上のα-オレフィン共重合体への良好な相溶性を考慮すると、液状軟化剤種は液状炭化水素であることが好ましい。
【0029】
目的とする諸物性により異なるため特に限定しないが、液状軟化剤の動粘度は(100℃、JIS K 2283)は3mm/s以上のものが好ましい。より好ましくは30mm/s以上であり、更に好ましくは50mm/s以上である。液状軟化剤の市販品としては、日油株式会社製の商品名「日油ポリブテン200N」、「日油ポリブテン30N」、「日油ポリブテン10N」「日油ポリブテン3N」、三井化学株式会社製「ルーカントHC-2000」、「ルーカントHC-600」、「ルーカントHC100」(「ルーカント」は登録商標)等が使用できる。なお、これらの液状軟化剤は、2種以上を併用できる。
【0030】
液状軟化剤の含有量は、オープンタイム延長効果の観点から2質量部以上が好ましく、耐熱性の観点から22質量部以下が好ましい。液状軟化剤の含有量は、より好ましくは4~20質量部、更に好ましくは8~16質量部である。
【0031】
上述した各成分の含有量は、α-オレフィンホモポリマー、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体、粘着付与樹脂、ワックス及び液状軟化剤の合計100質量部を基準とした割合である。
【0032】
本実施形態の接着剤組成物には、上記必須成分合計100質量部に加えて、必要に応じ、酸化防止剤、安定剤、着色剤、相溶化剤、ブロッキング防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0033】
本実施形態の接着剤組成物は、180℃で加熱してから20℃に降温した直後に測定される複素剛性率(I)が、1MPa以下である。本実施形態に係る複素剛性率(I)が1MPa以下であることで、接着剤組成物のプレス成形工程がオープンタイム45秒後であっても接着可能となる。より好ましい複素剛性率(I)は600kPa(0.6MPa)以下であり、更に好ましい複素剛性率(I)は400kPa(0.4MPa)以下である。ここで、複素剛性率(I)とは、後述する動的粘弾性法において測定され、接着剤組成物の冷却開始後初めて20.04℃以下となった時間の複素剛性率の測定値をいう。なお、後述の方法により冷却開始後初めて20.04℃以下となるのは、冷却開始後220~260秒である。
【0034】
上記接着剤組成物を20℃に降温してから1500秒間(25分間)経過した後の複素剛性率(II)は、複素剛性率(I)の2倍以上となることが好ましい。本実施形態に係る複素剛性率(II)が複素剛性率(I)の2倍以上であることで非反応系でありながら耐熱性を発現し易くなる。より好ましい[複素剛性率(II)]/[複素剛性率(I)]の比は3以上であり、更に好ましい[複素剛性率(II)]/[複素剛性率(I)]の比は5以上である。ここで、複素剛性率(II)とは、後述する動的粘弾性測定において、接着剤組成物の20℃での複素剛性率の測定を開始してから1500秒経過した時点での複素剛性率の測定値をいう。
【0035】
塗布性と耐熱性の観点から、本実施形態の接着剤組成物は、180℃での溶融粘度が100Pa・s以下であることが好ましく、10~100Pa・sがより好ましく、15~80Pa・sが更に好ましい。溶融粘度は、JIS K6862に準拠し、B型粘度計を用いて測定することができる。
【0036】
溶融可能温度と耐熱性の観点から、本実施形態の接着剤組成物の軟化点は、100~170℃であることが好ましく、120~150℃がより好ましい。軟化点は、JIS K6863に準拠し、環球法にて測定することができる。
【0037】
本実施形態の接着剤組成物は、一般的には以下の工程を経て作製される。すなわち、180℃に設定したニーダーで、融点90℃以上のα-オレフィン共重合体と粘着付与樹脂を溶かしながら混練りして、完全に溶融した後、α-オレフィンホモポリマーを添加し、混練りして完全に溶融させる。
次に、ワックスと液状軟化剤を添加し、混練りして完全に溶融させて溶融物を得る。得られた溶融物は、離型箱等に充填又はペレット状等にカットされ、冷却固化して本実施形態の接着剤組成物が作製される。本実施形態の接着剤組成物は、ホットメルト接着剤として使用することができる。
【0038】
本実施形態の接着剤組成物は、熱源(例えば、遠赤外線ヒーター)で加熱された後、熱源から離して被着材を貼り合わせるまでの時間(オープンタイム)を長くできる。また、本実施形態の接着剤組成物は、耐熱クリープ特性とオープンタイムの長時間化とを両立できる。例えば、加熱された接着剤組成物を熱源から離してから、オープンタイム45秒で本実施形態の接着剤組成物を用いて被着材を貼り合わせた後、80℃雰囲気中、荷重100gで24時間の耐熱クリープ試験を行った際の剥離長さを、10mm以下とすることができる。すなわち、本実施形態の接着剤組成物は、オープンタイム45秒で貼り合わせて、耐熱クリープ試験(荷重100g、80℃、24時間)での剥離長さが10mm以下である。
【0039】
本実施形態の接着剤組成物は、ディレードタック挙動を示し、固化後は優れた耐熱性を示すため、耐熱性が要求される分野であり、かつ、従来の耐熱性ホットメルト接着剤で接着可能な温度域での使用が可能である。具体的には、本実施形態の接着剤組成物は、100℃以上の高温域でプレス成形すると変質してしまう被着体種であるポリウレタンフォーム、布等を接着する自動車ドアトリム加飾用接着剤として好適である。
【実施例
【0040】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0041】
[接着剤組成物の作製]
〔実施例1〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」(BASF社製)0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」(BASF社製)0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」(三井化学株式会社製、融点140℃)17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」(ヤスハラケミカル株式会社製、軟化点150℃)37質量部を溶かしながら混練りし、完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」(ライオンデルバセル社製、融点124℃)20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」(三洋化成工業株式会社製、軟化点145℃)14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」(日油株式会社製)12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(1)を得た。
【0042】
〔実施例2〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、1-ブテン・α-オレフィン共重合体「タフマーBL3450M」(三井化学株式会社製、融点100℃)17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(2)を得た。
ホットメルト接着剤(2)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」を1-ブテン・α-オレフィン共重合体「タフマーBL3450M」に変更したものである。
【0043】
〔実施例3〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」22質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」15質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(3)を得た。
ホットメルト接着剤(3)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」の配合量を17質量部から22質量部に、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」の配合量を20質量部から15質量部に変更したものである。
【0044】
〔実施例4〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」12質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」25質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(4)を得た。
ホットメルト接着剤(4)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」の配合量を17質量部から12質量部に、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」の配合量を20質量部から25質量部に変更したものである。
【0045】
〔実施例5〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP125」(ヤスハラケミカル株式会社製、軟化点125℃)37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(5)を得た。
ホットメルト接着剤(5)は、実施例1の水添テルペン樹脂「クリアロンP150」を水添テルペン樹脂「クリアロンP125」に変更したものである。
【0046】
〔実施例6〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」17質量部と、水添石油樹脂「アルコンP140」(荒川化学株式会社製、軟化点140℃)37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(6)を得た。
ホットメルト接着剤(6)は、実施例1の水添テルペン樹脂「クリアロンP150」を水添石油樹脂「アルコンP140」に変更したものである。
【0047】
〔比較例1〕
従来のポリオレフィン系高耐熱ホットメルト接着剤として日立化成株式会社製の商品名「YH871-7」を使用し、ホットメルト接着剤(7)とした。
【0048】
〔比較例2〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、1-ブテン・α-オレフィン共重合体「タフマーBL2481M」(三井化学株式会社製、融点58℃)17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(8)を得た。
ホットメルト接着剤(8)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」を1-ブテン・α-オレフィン共重合体「タフマーBL2481M」に変更したものである。
【0049】
〔比較例3〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」37質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(9)を得た。
ホットメルト接着剤(9)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」の配合量を17質量部から0質量部に、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」の配合量を20質量部から37質量部に変更したものである。
【0050】
〔比較例4〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」37質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」14質量部及び液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」12質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(10)を得た。
ホットメルト接着剤(10)は、実施例1のプロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」の配合量を17質量部から37質量部に、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」の配合量を20質量部から0質量部に変更したものである。
【0051】
〔比較例5〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、ポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」26質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(11)を得た。
ホットメルト接着剤(11)は、実施例1のポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」の配合量を14質量部から26質量部に、液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」の配合量を12質量部から0質量部に変更したものである。
【0052】
〔比較例6〕
180℃に設定した内容積2Lのニーダーで、原材料仕込み量合計が1kgとなるようにヒンダードフェノール系酸化防止剤「Irganox 1010」0.5質量部と、リン系酸化防止剤「Irgafos 168」0.5質量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体「タフマーPN-2070」17質量部と、水添テルペン樹脂「クリアロンP150」37質量部を溶かしながら混練りした。完全に溶融した後、1-ブテンホモポリマー「PB0800M」20質量部を添加し、混練りして完全に溶融させた。次に、液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」26質量部を添加し、混練りして完全に溶融させて、得られた溶融物を離型箱に充填して、ホットメルト接着剤(12)を得た。
ホットメルト接着剤(12)は、実施例1のポリプロピレン系ワックス「ビスコール660-P」の配合量を14質量部から0質量部(配合せず)に、液状ポリブテン「日油ポリブテン30N」の配合量を12質量部から26質量部に変更したものである。
【0053】
[評価]
実施例1~6及び比較例1~6で得られたホットメルト接着剤組成物を用いて、軟化点測定、粘度測定及び動的粘弾性測定を実施した。さらに、次のとおり試験片を作製し、初期クリープ測定、耐熱クリープ測定、剥離接着強さ測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0054】
(1)軟化点測定
JIS K6863に準拠し、各接着剤組成物の軟化点を、環球法にて測定した。
【0055】
(2)粘度測定
JIS K6862に準拠し、各接着剤組成物の180℃での溶融粘度を、B型粘度計を用いて測定した。
【0056】
(3)動的粘弾性測定
動的粘弾性法により、接着剤組成物を加熱溶融した状態から20℃まで冷却した後、20℃で保持し続けた際の硬化挙動を以下の手順で測定し、複素剛性率(I)及び複素剛性率(II)を求めた。
まず、180℃に設定した試料台に接着剤組成物を供給した。試料台上の接着剤組成物が溶融した後に、パラレルプレートで接着剤組成物を測定厚みである300μmまで押し込み5分間静置した。その後、動的粘弾性の測定開始と同時に測定装置の限界冷却速度で180℃から20℃まで冷却した後、20℃を維持しながら接着剤組成物の複素剛性率を測定した。次いで、20℃降温直後の複素剛性率(I)と、測定開始から1500秒後の複素剛性率(II)との比を求めた。
測定装置には、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製のDISCOVERY HR-2 hybrid rheometerを、パラレルプレートには、25mm parallel plate (peltier plate high temperature)を使用した。測定周波数は1.0Hzで、測定ひずみは0.1%とした。循環冷却水の温度は20℃設定とし、測定室の雰囲気温度は23℃で実施した。
【0057】
(4)試験片作製方法
190℃に設定したロールコーターを使用して、ポリウレタン発泡体付きファブリック(表皮)にホットメルト接着剤を100g/m塗布した(プレコート)。その後、25℃雰囲気中に24時間放置した。次に、遠赤外線ヒーターによりホットメルト接着剤側を加熱し、ホットメルト接着剤表面温度が180℃になったところで、遠赤外線ヒーターから取り出した。遠赤外線ヒーターから取り出して25℃雰囲気中に45秒放置した後、イソプロピルアルコールで脱脂処理したポリプロピレン成形品日立化成株式会社製の「コウベポリシートPP」)とプレス成形工法(0.05MPa、10秒間)により圧着して試験片とした。
【0058】
(5)初期クリープ測定
試験片作製5分後に、60℃雰囲気中でポリウレタン発泡体付きファブリックの一端に垂直方向200g/25mmの荷重をかけ、5分間のクリープ試験を行い、剥離長さを測定した。
【0059】
(6)耐熱クリープ測定
試験片作製2時間後に、80℃雰囲気中でポリウレタン発泡体付きファブリックの一端に垂直方向100g/25mmの荷重をかけ、24時間のクリープ試験を行い、剥離長さを測定した。
【0060】
(7)剥離接着強さ測定
試験片作製2時間後に、23℃雰囲気中での引張試験機による180°剥離接着強さを測定した(引張り速度:200mm/min、測定試験片幅:25mm)。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び2中に記載の材料は、以下のとおりである。
α-オレフィンホモポリマー:「PB0800M」、1-ブテンホモポリマー、融点124℃、MFR(l90℃、2.16kg荷重)200g/10min
α-オレフィン共重合体(1):「タフマーPN-2070」、プロピレン・α-オレフィン共重合体、融点140℃
α-オレフィン共重合体(2):「タフマーBL3450M」、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、融点100℃
α-オレフィン共重合体(3):「タフマーBL2481M」、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、融点58℃
粘着付与樹脂(1):「クリアロンP125」、水添テルペン樹脂、軟化点125℃
粘着付与樹脂(2):「クリアロンP150」、水添テルペン樹脂、軟化点150℃
粘着付与樹脂(3):「アルコンP140」、水添石油樹脂、軟化点140℃
ワックス:「ビスコール660-P」、ポリプロピレン系ワックス、軟化点145℃
液状軟化剤:「日油ポリブテン30N」、液状ポリブテン、動粘度(100℃)670mm/s
酸化防止剤(1):「Irganox 1010」、ヒンダードフェノール系酸化防止剤酸化防止剤(2):「Irgafos 168」、リン系酸化防止剤
【0064】
また、表1及び2中の試験結果において、「A」はPP側からの界面破壊、「B」は表皮の材質破壊、「C」は接着剤の凝集破壊を示し、「/」は左側が主な破壊状態を示す。
【0065】
実施例1~6の試料では、良好な接着特性が得られた。
比較例1(日立化成株式会社製の商品名「YH871-7」)では、接着不可であった。比較例2(α-オレフィン共重合体の融点が90℃未満)では、耐熱クリープ性が低下した。比較例3(融点90℃以上のα-オレフィン共重合体非含有)では、耐熱クリープ性が低下した。比較例4(α-オレフィンホモポリマー非含有)では、ロールコート塗布ができなかった。比較例5(液状軟化剤非含有)では、接着不可であった。比較例6(ワックス非含有)では、初期クリープ性及び耐熱クリープ性が悪化するとともに、剥離接着強さ測定においても表皮の材質破壊に至らなかった。