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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】GaN単結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20220628BHJP
   C30B 7/10 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B7/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020128515
(22)【出願日】2020-07-29
(62)【分割の表示】P 2016573435の分割
【原出願日】2016-02-05
(65)【公開番号】P2020172438
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2015022362
(32)【優先日】2015-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015100122
(32)【優先日】2015-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015214505
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】三川 豊
(72)【発明者】
【氏名】川端 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】浪田 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 多恵
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111527(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129544(WO,A1)
【文献】特開2013-230972(JP,A)
【文献】特開2015-59078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の少なくとも一方上に、下記(E)に定義する仮想的な線分である第五線分、および、下記(F)に定義する仮想的な線分である第六線分を、それぞれ、少なくともひとつ引き得ることを特徴とするGaN単結晶;
(E)第五線分は長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、当該第五線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第五線分と平行にして、(002)反射のXRCを5mmの間隔で測定したうえ、全測定点から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから式R=ΔL/Δω[ただし、R:曲率半径、ΔL:2点間の距離]を用いて当該第五線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である;
(F)第六線分は、長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、該第五線分と直交しており、当該第六線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第六線分と平行にして、(002)反射のXRCを5mmの間隔で測定したうえ、全測定点から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから式R=ΔL/Δω[ただし、R:曲率半径、ΔL:2点間の距離)]を用いて当該第六線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である。
【請求項2】
前記Lが45mm以上である、請求項1に記載のGaN単結晶。
【請求項3】
前記Rが50m以上である、請求項1又は2に記載のGaN単結晶。
【請求項4】
前記Lが45mm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項5】
前記Rが50m以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項6】
いずれのアルカリ金属およびアルカリ土類金属についても、その濃度が1×1016at
oms/cm3未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項7】
いずれのハロゲンについても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項8】
1017atoms/cm台またはそれより高い濃度の水素(H)を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項9】
赤外吸収スペクトルの3100~3500cm-1にガリウム空孔‐水素複合体に帰属するピークが観測される、請求項1~8のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項10】
C面GaNウエハである、請求項1~9のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項11】
該ガリウム極性面には少なくともひとつの正方形領域が見出され、該少なくともひとつの正方形領域の外周を構成する4辺の各々の長さは2mm以上であり、該少なくともひとつの正方形領域を各々が100μm×100μmの正方形である複数のサブ領域に分割したとき、該複数のサブ領域の80%以上がピットフリー領域である、請求項1~10のいずれか一項に記載のGaN単結晶。
【請求項12】
前記複数のサブ領域のうちEPDが最も高いサブ領域において、EPDが1×10 cm -2 未満である、請求項11に記載のGaN単結晶。
【請求項13】
前記複数のサブ領域間におけるEPDの平均値が1×10 cm -2 未満である、請求項12に記載のGaN単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、GaN単結晶およびGaN単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)はIII-V族化合物半導体の一種であり、六方晶系に属するウルツ鉱型の結晶構造を備える。
近年、窒化物半導体デバイス用の半導体ウエハとして単結晶GaNウエハが注目されている。
窒化物半導体は、窒化物系III-V族化合物半導体、III族窒化物系化合物半導体、GaN系半導体などとも呼ばれ、GaNを含む他、GaNのガリウムの一部または全部を他の周期表第13族元素(B、Al、In等)で置換した化合物を含む。
有用性の高い単結晶GaNウエハのひとつは、C面GaNウエハである。C面GaNウエハとは、C面と平行またはC面から僅かに傾斜した主表面を持つ単結晶GaNウエハである。
C面GaNウエハは、[0001]側の主表面であるガリウム極性面と、[000-1]側の主表面である窒素極性面とを有している。窒化物半導体デバイスの形成に使用されるのは、今のところ主にガリウム極性面である。
【0003】
C面GaNウエハに用いるGaN単結晶の好ましい成長方法として、アモノサーマル法がある。
アモノサーマル法では、超臨界または亜臨界状態のアンモニアに溶解させたGaNを、シード上に単結晶として析出させる。
非特許文献1には、アモノサーマル法で成長させたGaN単結晶からC面GaNウエハを作製したこと、また、そのC面GaNウエハの表面に面積1mm2の無転位領域が観察されたことが、報告されている。
非特許文献2には、アモノサーマル法で成長させたGaN単結晶から、直径2インチのC面GaNウエハを作製したことが報告されている。
【0004】
特許文献1には、シードとして用いるC面GaNウエハの主表面上に直線状開口を有するパターンマスクを形成し、その直線状開口を通してアモノサーマル法でGaN層を成長させたことが記載されている。直線状開口の延伸方向は、m軸方向<10-10>またはa軸方向<11-20>であった。パターンマスクの直線状開口の内側から成長したGaN結晶は、パターンマスク上でラテラル方向に成長し、コアレスしてひとつの層を成したとのことである。
特許文献2には、シードとして用いるC面GaNウエハの窒素極性面上に直線状開口を有するパターンマスクを形成し、その直線状開口を通してアモノサーマル法でGaN単結晶を成長させたことが記載されている。直線状開口の各々を通して成長したGaN結晶は、コアレスすることなく、[000-1]方向に10mmも成長したとのことである。
【0005】
非特許文献3では、アモノサーマル法において各種のハロゲン化アンモニウム鉱化剤を用いたときのGaN結晶の成長レートが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-111527号公報
【文献】特開2014-208571号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】R.Dwilinski, R.Doradzinski, J.Garczynski, L.P.Sierzputowski,A.Puchalski, Y.Kanbara, K.Yagi, H.Minakuchi, H.Hayashi, “Excellent crystallinity of truly bulk ammonothermal GaN”, Journal of Crystal Growth 310 (2008) 3911-3916
【文献】R.Dwilinski, R.Doradzinski, J.Garczynski, L.Sierzputowski, R.Kucharski, M.Zajac, M. Rudzinski, R.Kudrawiec, J.serafnczuk, W.Strupinski, “Recent achievements in AMMONO-bulk method”, Journal of Crystal Growth 312 (2010) 2499-2502
【文献】Quanxi Bao, Makoto Saito,Kouji Hazu, Kentaro Furusawa, Yuji Kagamitani, Rinzo Kayano, Daisuke Tomida, Kun Qiao, Tohru Ishiguro, Chiaki Yokoyama, Shigefusa F. Chichibu, “Ammonothermal Crystal Growth of GaN Using an NH4F Mineralizer”, Crystal Growth & Design 4158-4161 (2013) 13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、改善された品質を有する新規なGaN単結晶を提供すること、および、改善された品質を有するGaN単結晶を製造するための新規なGaN単結晶製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に記載するGaN単結晶が提供される。
[1]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面には少なくともひとつの正方形領域が見出され、該少なくともひとつの正方形領域の外周を構成する4辺の各々の長さは2mm以上であり、該少なくともひとつの正方形領域を各々が100μm×100μmの正方形である複数のサブ領域に分割したとき、該複数のサブ領域の80%以上がピットフリー領域であることを特徴とするGaN単結晶。
[2]前記複数のサブ領域のうちピットフリー領域の割合が85%以上である、[1]に記載のGaN単結晶。
[3]前記複数のサブ領域のうちピットフリー領域の割合が90%以上である、[1]に記載のGaN単結晶。
[4]前記複数のサブ領域のうちEPDが最も高いサブ領域において、EPDが1×106cm-2未満である、[1]~[3]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[5]前記複数のサブ領域間におけるEPDの平均値が1×104cm-2未満である、[1]~[4]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[6]前記複数のサブ領域のうちEPDが最も高いサブ領域において、EPDが2×105cm-2未満である、[3]に記載のGaN単結晶。
[7]前記複数のサブ領域間におけるEPDの平均値が3×103cm-2未満である、[3]または[6]に記載のGaN単結晶。
[8]前記少なくともひとつの正方形領域は、その外周を構成する4辺の各々の長さが3.5mm以下である、[3]、[6]または[7]に記載のGaN単結晶。
[9]1.3mm×1.3mmの正方形のピットフリー領域が前記ガリウム極性面に少なくともひとつ見出される、[1]~[8]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[10]前記ガリウム極性面および前記窒素極性面の各々が10mm×10mmの正方形を内包するサイズを有しており、かつ、X線トポグラフィにおいて10mm×10mmの正方形領域の異常透過像が得られる、[1]~[9]のいずれかに記載のGaN単結晶。
【0010】
[11]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、1.3mm×1.3mmの正方形のピットフリー領域が該ガ
リウム極性面に少なくともひとつ見出されることを特徴とするGaN単結晶。
[12]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の各々が10mm×10mmの正方形を内包するサイズを有しており、かつ、X線トポグラフィにおいて異常透過像が得られることを特徴とするGaN単結晶。
[13]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の各々が10mm×10mmの正方形を内包するサイズを有しており、かつ、X線トポグラフィにおいて10mm×10mmの正方形領域の異常透過像が得られることを特徴とするGaN単結晶。
[14]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の少なくとも一方上に、下記(A)に定義する仮想的な線分である第一線分を少なくともひとつ引き得ることを特徴とするGaN単結晶;(A)第一線分は長さL1を有する線分であり、当該第一線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る(ただし、長さL1は20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である)。
[15]前記第一線分が、更に、次の(A1)~(A3)から選ばれる一以上の特徴を備える、[14]に記載のGaN単結晶;(A1)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%において測定値が50arcsec未満である;(A2)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が40arcsec未満である;(A3)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が30arcsec未満である。
[16]前記第一線分を引き得る前記ガリウム極性面または前記窒素極性面上に、下記(B)に定義する仮想的な線分である第二線分を少なくともひとつ引き得る、[14]または[15]に記載のGaN単結晶;(B)第二線分は長さL2を有する線分であって、前記第一線分の少なくともひとつと直交しており、当該第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る(ただし、長さL2は20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である)。[17]前記第二線分が、更に、次の(B1)~(B3)から選ばれる一以上の特徴を備える、[16]に記載のGaN単結晶;(B1)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%において測定値が50arcsec未満である;(B2)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が40arcsec未満である;(B3)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が30arcsec未満である。
[18]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の少なくとも一方上に、下記(C)に定義する仮想的な線分である第三線分を少なくともひとつ引き得ることを特徴とするGaN単結晶;(C)第三線分は長さLを有する線分であり、当該第三線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が20arcsecを下回る(ただし、長さLは20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である)。
[19]前記第三線分が、更に、次の(C1)および(C2)から選ばれる一以上の特徴を備える、[18]に記載のGaN単結晶;(C1)第三線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が15arcsec未満である;(C2)第三線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の標準偏差が5arcsec以下である。
[20]前記第三線分を引き得る前記ガリウム極性面または前記窒素極性面上に、下記(D)に定義する仮想的な線分である第四線分を少なくともひとつ引き得る、[18]または[19]に記載のGaN単結晶;(D)第四線分は長さLを有する線分であって、前記第三線分の少なくともひとつと直交し、かつ、当該第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が20arcsecを下回る(ただし、長さLは20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上である)。
[21]前記第四線分が、更に、次の(D1)および(D2)から選ばれる一以上の特徴を備える、[20]に記載のGaN単結晶;(D1)第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が15arcsec未満である;(D2)第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の標準偏差が5arcsec以下である。
[22]前記ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有している、[1]~[21]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[23]前記直線状転位アレイの延伸方向が、前記ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなす、[22]に記載のGaN単結晶。
【0011】
[24]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有し、該直線状転位アレイの延伸方向が、該ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなすことを特徴とするGaN単結晶。
[25]前記ガリウム極性面においては、全体が前記直線状転位アレイとオーバーラップする100μm×100μmの正方形領域内に存在する転位の数が100個未満(好ましくは50個未満、より好ましくは30個未満)である、[22]~[24]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[26]一方側の主表面であるガリウム極性面と反対側の主表面である窒素極性面とを有するGaN単結晶において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の少なくとも一方上に、下記(E)に定義する仮想的な線分である第五線分、および、下記(F)に定義する仮想的な線分である第六線分を、それぞれ、少なくともひとつ引き得ることを特徴とするGaN単結晶;(E)第五線分は長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、当該第五線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第五線分と平行
にして、(002)反射のXRCを5mm(好ましくは3mm、より好ましくは1mm、より好ましくは0.6mm)の間隔で測定したうえ、全測定点から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから式R=ΔL/Δω[ただし、R:曲率半径、ΔL:2点間の距離]を用いて当該第五線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である;(F)第六線分は、長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、前記第五線分と直交しており、当該第六線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第六線分と平行にして、(002)反射のXRCを5mm(好ましくは3mm、より好ましくは1mm、より好ましくは0.6mm)の間隔で測定したうえ、全測定点から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから式R=ΔL/Δω[ただし、R:曲率半径、ΔL:2点間の距離)]を用いて当該第六線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である。
[27]いずれのアルカリ金属およびアルカリ土類金属についても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、[1]~[26]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[28]いずれのハロゲンについても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、[1]~[27]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[29]1017atoms/cm台またはそれより高い濃度の水素(H)を含有する、[1]~[28]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[30]赤外吸収スペクトルの3100~3500cm-1にガリウム空孔‐水素複合体に帰属するピークが観測される、[1]~[29]のいずれかに記載のGaN単結晶。
[31]C面GaNウエハである、[1]~[30]のいずれかに記載のGaN単結晶。
【0012】
本発明によれば、以下に記載するGaN単結晶製造方法が提供される。
[32](S1)GaNの窒素極性面を有するシードを準備するステップと;(S2)準備したシードの該窒素極性面上に、一定のピッチで互いに平行に配置された複数の直線状開口を有するパターンマスクを形成するステップと;(S3)該パターンマスクの直線状開口を通して該窒素極性面上にアモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップと;を含み、ステップ(S3)において、GaN結晶はパターンマスクの開口の内側から成長し、次いで、パターンマスクの上方でラテラル方向に拡がり、パターンマスクとの間にボイドを形成しながらコアレスする、GaN単結晶製造方法。
[33]前記ステップ(S2)で形成するパターンマスクにおいて、前記直線状開口の延伸方向は、前記シードの前記窒素極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなす、[32]に記載の製造方法。
[34]前記パターンマスクがストライプ型である、[32]または[33]に記載の製造方法。
[35]前記パターンマスクが斜方格子型である、[32]または[33]に記載の製造方法。
[36]前記パターンマスクが六角格子型である、[32]または[33]に記載の製造方法。
[37]前記一定のピッチが4mm以上20mm以下である、[32]~[36]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、改善された品質を有する新規なGaN単結晶が提供される。加えて、本発明によれば、改善された品質を有するGaN結晶を製造するための、新規なGaN単結晶製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係るGaN単結晶が有し得る形状を示し、図1(a)は斜視図、図1(b)は側面図である。
図2図2(a)~(c)は、それぞれ、実施形態に係るGaN単結晶が有し得る形状を示す斜視図である。
図3図3は、実施形態に係るGaN単結晶を示す平面図である。
図4図4は、各種の転位に対応するエッチピットの光学顕微鏡像である。
図5図5は、ラング法による透過X線トポグラフィにおける、X線源と試験片と検出器の配置を示す。
図6図6は、GaN単結晶を示す平面図である。
図7図7(a)は、シードの一例を示す斜視図であり、図7(b)は、図7(a)に示すシードが有するGaNの窒素極性面上にストライプ型のパターンマスクを形成したところを示す斜視図である。
図8図8は、ストライプ型のパターンマスクを示す平面図である。
図9図9は、斜方格子型のパターンマスクを示す平面図である。
図10図10は、六角格子型のパターンマスクを示す平面図である。
図11図11は、シードが有するGaNの窒素極性面上でGaN結晶が成長する様子を示す断面図である。
図12図12は、アモノサーマル法によるGaN結晶の成長に使用し得る結晶成長装置を示す。
図13図13は、C面GaNウエハの外観写真である。
図14図14は、270℃に加熱した89%硫酸で1時間エッチングしたC面GaNウエハの、ガリウム極性面の光学顕微鏡像である。
図15図15は、C面GaNウエハの透過X線トポグラフィ像である。
図16図16は、XRC-FWHMの測定方向を説明するために示す、C面GaNウエハの平面図である。
図17図17は、XRC-FWHMの測定方向を説明するために示す、C面GaNウエハの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
GaN結晶では、[0001]に平行な結晶軸がc軸、<10-10>に平行な結晶軸がm軸、<11-20>に平行な結晶軸がa軸と呼ばれる。c軸に直交する結晶面はC面、m軸に直交する結晶面はM面、a軸に直交する結晶面はA面と呼ばれる。
以下において、結晶軸、結晶面、結晶方位等に言及する場合には、特に断らない限り、GaN結晶の結晶軸、結晶面、結晶方位等を意味するものとする。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
1.第一実施形態
本発明の第一実施形態は、GaN単結晶に関する。
1.1.GaN単結晶の外形およびサイズ
第一実施形態に係るGaN単結晶は、一方側の主表面とその反対側の主表面とを備える板の形状を有しており、その厚さ方向はc軸に平行または略平行である。該2つの主表面の一方はガリウム極性面であり、他方は窒素極性面である。主表面の形状に特に限定はない。
図1は、第一実施形態に係るGaN単結晶が有し得る形状を例示する図面であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は側面図である。
図1を参照すると、GaN単結晶10は円盤であり、[0001]側の主表面であるガリウム極性面11と、[000-1]側の主表面である窒素極性面12の形状は円形である。ガリウム極性面11と窒素極性面12とは、側面13を介してつながっている。
【0017】
図2(a)~(c)は、それぞれ、第一実施形態に係るGaN単結晶が有し得る他の形状を例示する斜視図である。図2においては、図1に示された構成と対応する構成に、図
1と同じ符号を付している(後述する図3および図6においても同様である)。
図2(a)~(c)において、GaN単結晶10が有するガリウム極性面11および窒素極性面12の形状は、それぞれ、四角形、六角形、および八角形である。
第一実施形態に係るGaN単結晶の主表面は、10mm×10mmの正方形を内包するサイズを有し、好ましくは4cm2以上、より好ましくは5cm2以上、より好ましくは15cm2以上の面積を有する。該主表面の面積は、18cm2以上、38cm2以上、71cm2以上、165cm2以上、299cm2以上または683cm2以上であり得る。
【0018】
第一実施形態のGaN単結晶において、ガリウム極性面は(0001)と平行であってもよく、また、(0001)から僅かに傾斜していてもよい。ガリウム極性面の(0001)からの傾斜は、通常10°以下であり、好ましくは5°以下、より好ましくは2°以下であり、1°以下であってもよい。
第一実施形態のGaN単結晶において、窒素極性面は(000-1)と平行であってもよく、また、(000-1)から僅かに傾斜していてもよい。窒素極性面の(000-1)からの傾斜は、通常10°以下であり、好ましくは5°以下、より好ましくは2°以下であり、1°以下であってもよい。
限定するものではないが、好ましくは、ガリウム極性面と窒素極性面は互いに平行である。
【0019】
第一実施形態のGaN単結晶は、インゴットまたはウエハ(C面GaNウエハ)であり得る。
第一実施形態のGaN単結晶が円盤形状のインゴットまたはウエハである場合、その直径は通常20mm以上、305mm以下である。該直径は、典型的には、25mm(約1インチ)、45~55mm(約2インチ)、95~105mm(約4インチ)、145~155mm(約6インチ)、195~205mm(約8インチ)、295~305mm(約12インチ)等である。
第一実施形態のGaN単結晶が矩形の主表面を有するインゴットまたはウエハである場合、該矩形の各辺の長さは、通常2cm以上、好ましくは3cm以上であり、また、通常15cm以下である。
第一実施形態のGaN単結晶がC面GaNウエハである場合、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度が求められることから、その厚さは、好ましくは250μm以上、より好ましくは300μm以上である。主表面のサイズに応じて、更に厚くすることもできる。
【0020】
C面GaNウエハでは、ガリウム極性面と側面との境界を滑らかにするための面取りは、必要に応じて適宜行うことができる。窒素極性面と側面との境界についても同じである。
第一実施形態のGaN単結晶の側面には、結晶の方位を表示するフラット部であるオリエンテーション・フラットを設けることができる他、ガリウム極性面と窒素極性面の識別を容易にするためのフラット部であるインデックス・フラットを設けることができる。その他、第一実施形態のGaN単結晶には、必要に応じて様々なマーキングを施すことができる。
【0021】
1.2.アルカリ金属、アルカリ土類金属およびハロゲンの濃度
GaN結晶に不純物として含有されるアルカリ金属、アルカリ土類金属およびハロゲンの濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定するのが一般的である。以下で言及するアルカリ金属、アルカリ土類金属およびハロゲンの濃度は、SIMSで測定される、表面からの深さが1μm以上の部分における値である。
第一実施形態のGaN単結晶においては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含むいずれのアルカリ金属についても、その濃度が好ましくは1×1
16atoms/cm3未満、より好ましくは1×1015atoms/cm3未満である。
第一実施形態のGaN単結晶においては、マグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)を含むいずれのアルカリ土類金属についても、その濃度が好ましくは1×1016atoms/cm3未満、より好ましくは1×1015atoms/cm3未満である。
第一実施形態のGaN単結晶は、アモノサーマル法で成長されたGaN結晶を含み得るところ、塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)等のハロゲン化アンモニウムを鉱化剤に用いてアモノサーマル法で成長させたGaN結晶における、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の濃度は、通常、1×1015atoms/cm3未満である。
【0022】
第一実施形態のGaN単結晶では、ハロゲン化アンモニウムを鉱化剤に用いてアモノサーマル法で成長されたGaN結晶を含む場合においてさえ、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)を含むいずれのハロゲンについても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満、さらには5×1015atoms/cm3未満であり得る。SIMSにおけるGaN結晶中のハロゲンの検出下限濃度は、ハロゲン種にもよるが概ね1014から1015台(atms/cm3)であるから、このことは、いずれのハロゲンの濃度もSIMSにおける検出下限未満であり得ることを意味する。
アモノサーマル法で成長されたGaN結晶中におけるハロゲンの濃度は、鉱化剤に含まれるハロゲン種を除き、通常5×1015atoms/cm3未満(検出下限未満)であるところ、第一実施形態のGaN単結晶では、鉱化剤に含まれていたハロゲン種の濃度も、このような値であり得る。
【0023】
第一実施形態のGaN単結晶は、通常、1017atoms/cm台またはそれより高い濃度の水素(H)を含有する。第一実施形態のGaN単結晶における水素濃度は、典型的には5×1017atoms/cm以上であり、更には1×1018atoms/cm以上であり得る。第一実施形態のGaN単結晶における水素濃度は、通常1021atoms/cm台以下であり、5×1020atoms/cm以下、1×1020atoms/cm以下、5×1019atoms/cm以下等であり得る。
第一実施形態のGaN単結晶の赤外吸収スペクトルを測定すると、3100~3500cm-1に、ガリウム空孔‐水素複合体(gallium vacancy‐hydrogen complex)に帰属するピークが現れる。従来から、アモノサーマル的に成長されたGaN結晶において同種の赤外吸収ピークが観測されることが知られているが、HVPE法やNaフラックス法で成長されたGaN結晶においてかかる赤外吸収ピークが観測されることはない。
【0024】
1.3.転位密度
第一実施形態に係るGaN単結晶は、所定方向に延伸する直線状転位アレイを、そのガリウム極性面上に有するものであり得る。直線状転位アレイの延伸方向が、ガリウム極性面とM面との交線のひとつとなす角度は、好ましくは12°±5°の範囲内にある。該角度は、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
図3は、直線状転位アレイをガリウム極性面上に有するGaN単結晶の一例を示す平面図である。
図3を参照すると、GaN単結晶10は円盤形のC面GaNウエハであり、そのガリウム極性面11上には、同一方向に延びる複数の直線状転位アレイ14が等間隔で配置されている。従って、転位アレイ14間のピッチPは、複数の転位アレイ14が構成するストライプパターンの周期に等しい。
転位アレイ14間のピッチPdは通常3mm以上、好ましくは3.5mm以上、より好ましくは4mm以上であり、また、通常20mm以下である。転位アレイ14間のピッチPdは、10.5mm以下、7.5mm以下または5.5mm以下であり得る。各転位アレイ14の幅Wdは、通常300μm未満である。
【0025】
図3において、破線B-Bは、ガリウム極性面11とM面との交線のひとつを表している。ガリウム極性面11は(0001)と平行または略平行なので、破線B-Bはa軸のひとつと平行または略平行である。直線状転位アレイ14の延伸方向と破線B-Bとがなす角度θは、好ましくは12°±5°の範囲内にある。角度θは、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
図3の例において、GaN単結晶10には、オリエンテーション・フラット15が設けられている。このオリエンテーション・フラット15は、直線状転位アレイ14の延伸方向の端部に配置され、該延伸方向と直交している。他の一例において、オリエンテーション・フラットは、直線状転位アレイの延伸方向と平行に設けることができる。更に他の一例において、オリエンテーション・フラットは、GaN単結晶のa軸方向の端部またはm軸方向の端部に設けることができる。
【0026】
GaN単結晶がガリウム極性面上に有する転位は、当該GaN単結晶をエッチングすることにより、可視化することができる。適切な条件でエッチングすることにより、転位が存在する場所には光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等で観察可能なエッチピットが形成されるからである。
本発明者等が確認しているところでは、270℃に加熱した89%硫酸をエッチャントに用いて1時間以上のエッチングを行うと、GaN結晶のガリウム極性面に存在する全ての種類の転位(刃状転位、螺旋転位および混合転位)に対応したエッチピットが確実に形成される。図4に、このエッチング条件でエッチピットを形成したGaN単結晶のガリウム極性面の光学顕微鏡像を示す。
転位が存在する場所にエッチピットが形成される条件でエッチングしたGaN結晶の表面におけるエッチピットの密度は、「EPD」とも呼ばれ、当業者間では転位密度と等しい値または等価な値として受け入れられている。
【0027】
再び図3を参照すると、GaN単結晶10のガリウム極性面11において、100μm×100μmの正方形領域内に存在する転位の数は、該正方形領域の全体が直線状転位アレイ14とオーバーラップする場合ですら100個を下回り、更には50個を下回る。好適例に係るGaN単結晶のガリウム極性面では、100μm×100μmの正方形領域内に存在する転位の数が、該正方形領域の全体が直線状転位アレイ14とオーバーラップする場合に、通常30個未満(EPD<3×105cm-2)、典型的には1~20個(1×104cm-2≦EPD≦2×105cm-2)である。
直線状転位アレイ14以外の部分において、ガリウム極性面11のEPDは更に低い。好適例において、2つの直線状転位アレイ14に挟まれた部分には、外周を構成する4辺の長さがいずれも2mm以上かつ(Pd-0.5)mm以下である第一正方形領域を見出すことができる。
ここでは、第一正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形(各辺の長さが100μmの正方形)である複数のサブ領域に分割したときに、その複数のサブ領域の90%以上がピットフリー領域である正方形領域と定義する。
ピットフリー領域とは、EPDが0(ゼロ)cm-2の領域、すなわち、転位が存在する場所にエッチピットが形成される条件でエッチングした後において、エッチピットが観察されない領域のことである。
【0028】
第一正方形領域を構成する100μm×100μmのサブ領域のうちEPDが最も高いサブ領域において、EPDは好ましくは2×105cm-2未満、より好ましくは1.5×105cm-2未満である。サブ領域の面積は10-4cm2なので、あるサブ領域におけるEPDが2×105cm-2未満ということは、そのサブ領域に存在する転位の数が20個未満であることを意味する。
第一正方形領域を構成する100μm×100μmのサブ領域間におけるEPDの平均値は、好ましくは3×103cm-2未満、より好ましくは2.5×103cm-2未満、より
好ましくは2×103cm-2未満である。
好適例において、第一正方形領域は、1.3mm×1.3mmの正方形のピットフリー領域を内包し得る。
第一正方形領域の方向は、限定されるものではないが、例えば図3に示す正方形領域Aのように、外周を構成する4辺のうち2辺が直線状転位アレイ14と平行であってもよいし、あるいは、図3に示す正方形領域Bのように、対角線が直線状転位アレイ14と垂直であってもよい。
第一正方形領域の外周を構成する4辺の各々の長さは、10mm以下、7mm以下、5mm以下、3.5mm以下等であり得る。
【0029】
好適例において、ガリウム極性面11上には、外周を構成する4辺の各々の長さが(Pd-0.5)mmより大きい第二正方形領域を見出すことできる(ここで、Pdの単位はmm)。ここでは、第二正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である複数のサブ領域に分割したとき、その複数のサブ領域の80%以上がピットフリー領域である正方形領域と定義する。
直線状転位アレイ14間のピッチPdを大きくすることが、第二正方形領域を構成する複数のサブ領域のうちのピットフリー領域の割合を高くするうえで有効である。例えばPdが4mm以上のとき、該割合は85%以上に達し得る。
第二正方形領域を構成する100μm×100μmのサブ領域のうちEPDが最も高いサブ領域において、EPDは1×10cm-2を下回り、通常5×105cm-2未満、好ましくは3×105cm-2未満、より好ましくは2.5×105cm-2未満である。
第二正方形領域を構成する100μm×100μmのサブ領域間におけるEPDの平均値は、通常1×104cm-2未満である。
第二正方形領域の外周を構成する4辺の長さはいずれも10mm以下、7mm以下または5mm以下であり得る。
【0030】
第一実施形態に係るGaN単結晶のガリウム極性面上には、好ましくは1.3mm×1.3mmの、より好ましくは1.5mm×1.5mmの、正方形のピットフリー領域が少なくともひとつ見出される。
【0031】
1.4.X線の異常透過
第一実施形態に係るGaN単結晶は、X線トポグラフィにおいて異常透過像が得られるものであり得る。
図5は、ラング法によるX線トポグラフィにおける、X線源と試験片と検出器の配置を示す図面である。厚さtを有する板状の試験片の一方の主表面側にX線源が配置され、他方の主表面側にX線検出器が配置される。
【0032】
X線の異常透過はボルマン効果とも呼ばれ、通常であれば吸収現象のせいで透過し得ない厚さの結晶を、X線が透過する現象である。例えば、X線源にMoKα(波長0.71073Å)を用いたX線トポグラフィで、厚さ344μmのC面GaN基板から透過像が得られる場合、それは異常透過像である。なぜなら、GaNの吸収係数μは、X線源がMoKαの場合には290.40cm-1であるから、C面GaN基板の厚さtが344μmのときμ・t=10.0となるところ、異常透過がなければμt≧10の条件で透過像は得られないからである。
【0033】
異常透過像は結晶の完全性が低いときには観察されないので、X線トポグラフィにおいて異常透過像が得られるという事実は、当該結晶の品質が全体として良好であることの証拠となる。SiやGaAsの単結晶については、異常透過を利用したX線トポグラフィ分析が既に行われているが[例えば、J. R. Patel, Journal of Applied Physics, Vol. 44, pp. 3903-3906 (1973) や、P. Mock, Journal of Crystal Growth, Vol. 224, pp. 11-
20 (2001)を参照]、C面GaNウエハのような、C面を主表面とする板状のGaN単結晶に関しては、本発明者等が知る限り、X線の異常透過が観察された事例はこれまでのところ報告されていない。
【0034】
X線トポグラフィにおいて異常透過像が得られるGaN単結晶製品の生産にあたっては、異常透過を利用したX線トポグラフィを試験項目に含む検査工程を設けることが好ましい。かかる検査工程にて、許容できない欠陥が見出された製品を不合格品とすれば、結晶品質が良好な製品のみを出荷することができる。
【0035】
第一実施形態に係るGaN単結晶は、各主表面が10mm×10mmの正方形を包含するサイズを有し、かつ、X線トポグラフィにおいて、10mm×10mmの正方形領域の異常透過像が得られるものであり得る。換言すれば、主表面の少なくとも一箇所に、ボルマン効果によりX線が透過する10mm×10mmの正方形領域を有するものであり得る。
【0036】
1.5.(002)反射のXRC-FWHM
第一実施形態に係るGaN単結晶においては、その少なくとも一方の主表面上に、下記(A)に定義する仮想的な線分である第一線分を、少なくともひとつ引き得ることが望ましい;
(A)第一線分は長さL1を有する線分であり、当該第一線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る。ただし、長さL1は20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である。
「入射面」は一般的な光学用語であり、その意味するところは「反射面に垂直で、入射光線と反射光線を含む面」である(本明細書の他の箇所で言及する場合も同様である)。
XRCとは、X線ロッキングカーブ(またはX線回折ロッキングカーブ)のことで、その半値全幅(Full Width at Half Maximum)は、結晶の品質評価に一般的に用いられている指標である。本明細書では、XRCの半値全幅をXRC-FWHMと略称する場合がある。
測定間隔が0.2mmなので、第一線分の長さL1が20mmのとき、該第一線分上におけるXRC-FWHMの測定点の数は100個である。
【0037】
以下では、第一実施形態に係るGaN単結晶が有し得る、前述の第一線分を引き得る主表面を、「第一主表面」と呼ぶことにする。
第一主表面は、ガリウム極性面と窒素極性面のいずれでもあり得る。一例に係るGaN単結晶では、ガリウム極性面と窒素極性面の両方が第一主表面に該当し得る。
第一主表面上における第一線分の方向に限定は無い。
第一線分の長さは、当該第一線分に平行な方向に沿って測定した第一主表面のサイズの90%以上であり得るが、限定されるものではない。
第一線分は、第一主表面の外縁からの距離が2mm未満の部分を含まないものであり得るが、限定されるものではない。
第一線分は、第一主表面の中心(重心)を通るものであり得るが、限定されるものではない。
【0038】
第一線分は、前述の定義(A)に含まれる特徴に加え、次の(A1)~(A3)から選ばれる一以上の特徴を備えることが好ましい。
(A1)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100
%において測定値が50arcsec未満である。
(A2)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が40arcsec未満である。
(A3)第一線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が30arcsec未満である。
【0039】
第一主表面上には、更に、下記(B)に定義する仮想的な線分である第二線分を、少なくともひとつ引き得ることが望ましい;
(B)第二線分は長さL2を有する線分であって、第一線分の少なくともひとつと直交し、かつ、当該第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る。ただし、長さL2は20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である。
測定間隔が0.2mmなので、第二線分の長さが20mmのとき、第二線分上におけるXRC-FWHMの測定点の数は100個である。
第二線分の長さは、当該第二線分に平行な方向に沿って測定した第一主表面のサイズの90%以上であり得るが、限定されるものではない。
第二線分は、第一主表面の外縁からの距離が2mm未満の部分を含まないものであり得るが、限定されるものではない。
第二線分は、第一主表面の中心(重心)を通るものであり得るが、限定されるものではない。
【0040】
第二線分は、前述の定義(B)に含まれる特徴に加え、次の(B1)~(B3)から選ばれる一以上の特徴を備えることが望ましい。
(B1)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%において測定値が50arcsec未満である。
(B2)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が40arcsec未満である。
(B3)第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上において測定値が30arcsec未満である。
【0041】
第一線分に該当する仮想的な線分および第二線分に該当する仮想的な線分を主表面上に引くことのできるGaN単結晶の一例を図6に示す。
図6に示すGaN単結晶10は、(0001)面に平行なガリウム極性面11を有するGaNウエハまたはGaNインゴットであり、そのガリウム極性面11には、第一線分に該当する仮想的な線分LS1と、第二線分に該当する仮想的な線分LS2を引くことができる。
線分LS1はm軸に平行であり、該線分LS1に直交する線分LS2はa軸に平行である。
線分LS1の長さは20mm以上であり、m軸方向に沿って測定したガリウム極性面11のサイズDmの90%以上であり得る。線分LS2の長さは20mm以上であり、a軸方向に沿って測定したガリウム極性面11のサイズDaの90%以上であり得る。
ガリウム極性面11上に描かれた一点鎖線は、ガリウム極性面11の外縁からの距離が2mm未満の領域と2mm以上の領域とを画する境界線である。線分LS1にも線分LS2にも、一点鎖線で囲まれた領域から外側にはみ出した部分は無い。
線分LS1上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を線分LS1と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値は50arcsec未満である。
線分LS2上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を線分LS2と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値は50arcsec未満である。
【0042】
1.6.(004)反射のXRC-FWHM
第一実施形態に係るGaN単結晶においては、その少なくとも一方の主表面上に、下記(C)に定義する仮想的な線分である第三線分を、少なくともひとつ引き得ることが望ましい;
(C)第三線分は長さLを有する線分であり、当該第三線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が20arcsecを下回る。ただし、長さLは20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上である。
測定間隔が1mmなので、第三線分の長さLが20mmのとき、該第三線分上におけるXRC-FWHMの測定点の数は20個である。
【0043】
以下では、第一実施形態に係るGaN単結晶が有し得る、前述の第三線分を引き得る主表面を、「第三主表面」と呼ぶことにする。
第三主表面は、ガリウム極性面と窒素極性面のいずれでもあり得る。一例に係るGaN単結晶では、ガリウム極性面と窒素極性面の両方が第三主表面に該当し得る。
第三主表面上における第三線分の方向に限定は無い。
第三線分の長さは、当該第三線分に平行な方向に沿って測定した第三主表面のサイズの90%以上であり得るが、限定されるものではない。
第三線分は、第三主表面の外縁からの距離が2mm未満の部分を含まないものであり得るが、限定されるものではない。
第三線分は、第三主表面の中心(重心)を通るものであり得るが、限定されるものではない。
【0044】
第三線分は、前述の定義(C)に含まれる特徴に加え、次の(C1)および(C2)から選ばれる一以上の特徴を備えることが好ましい。
(C1)第三線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が15arcsec未満である。
(C2)第三線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第三線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の標準偏差が5arcsec以下である。
【0045】
第三主表面上には、更に、下記(D)に定義する仮想的な線分である第四線分を、少なくともひとつ引き得ることが望ましい;
(D)第四線分は長さLを有する線分であって、前記第三線分の少なくともひとつと直交し、かつ、当該第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分
と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が20arcsecを下回る。ただし、長さLは20mm以上であり、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上、より好ましくは50mm以上である。
測定間隔が1mmなので、第四線分の長さが20mmのとき、当該第四線分上におけるXRC-FWHMの測定点の数は20個である。
第四線分の長さは、当該第四線分に平行な方向に沿って測定した第三主表面のサイズの90%以上であり得るが、限定されるものではない。
第四線分は、第三主表面の外縁からの距離が2mm未満の部分を含まないものであり得るが、限定されるものではない。
第四線分は、第三主表面の中心(重心)を通るものであり得るが、限定されるものではない。
【0046】
第四線分は、前述の定義(D)に含まれる特徴に加え、次の(D1)および(D2)から選ばれる一以上の特徴を備えることが好ましい。
(D1)第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の平均が15arcsec未満である。
(D2)第四線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第四線分と平行にして、(004)反射のXRC-FWHMを1mm間隔で測定したとき、全測定点間の標準偏差が5arcsec以下である。
【0047】
1.7.C面の曲率半径
第一実施形態に係るGaN単結晶においては、その少なくとも一方の主表面上に、下記(E)に定義する仮想的な線分である第五線分、および、下記(F)に定義する仮想的な線分である第六線分を、それぞれ、少なくともひとつ引き得ることが望ましい。
(E)第五線分は長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、当該第五線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第五線分と平行にして、(002)反射のXRCを5mm(好ましくは3mm、より好ましくは1mm、より好ましくは0.6mm)の間隔で測定したうえ、全測定点の中から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから下記式1を用いて当該第五線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である。
R=ΔL/Δω ・・・(式1)
上記式1において、Rは曲率半径であり、ΔLは2点間の距離(この場合は10mm)である。
(F)第六線分は、長さLを有する線分(ただし、Lは40mm以上)であって、前記第五線分と直交しており、当該第六線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第六線分と平行にして、(002)反射のXRCを5mm(好ましくは3mm、より好ましくは1mm、より好ましくは0.6mm)の間隔で測定したうえ、全測定点の中から互いに10mm離れた2点を任意に選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから上記式1を用いて当該第六線分に平行な方向におけるC面の曲率半径を計算したとき、その絶対値Rが40m以上である。
【0048】
GaN単結晶の主表面上に第五線分および第六線分を引き得るためには、当該主表面のサイズが、第五線分の方向および第六線分の方向に、それぞれ40mmより大きくなくてはならない。
上記定義(E)において、第五線分の長さLは40mmであってもよく、好ましくは45mm、より好ましくは50mmであり、50mm超であってもよい。
上記定義(E)にいうC面の曲率半径の絶対値Rは、好ましくは50m以上、より好
ましくは60m以上、より好ましくは70m以上である。
上記定義(F)において、第六線分の長さLは40mmであってもよく、好ましくは45mmであり、45mm超であってもよい。
上記定義(F)にいうC面の曲率半径の絶対値Rは、好ましくは50m以上である。
【0049】
1.8.GaN単結晶の用途
(1)シード
第一実施形態に係るGaN単結晶は、気相法、液相法およびアモノサーマル法を含む各種の方法で窒化物半導体結晶を成長させる際に、シードとして用いることができる。
例えば、第一実施形態に係るC面GaNウエハ上に、任意の方法でGaNをエピタキシャル成長させて、バルクGaN単結晶を得ることができる。
他の一例では、第一実施形態に係るGaN単結晶をシードに用いて第一のバルクGaN単結晶を成長させ、その後、その第一のGaN単結晶の一部または全部をシードに用いて、第二のバルクGaN単結晶を成長させることができる。
【0050】
(2)窒化物半導体デバイス
第一実施形態に係るGaN単結晶がC面GaNウエハである場合、そのC面GaNウエハを用いて、窒化物半導体デバイスを製造することができる。
通常は、C面GaNウエハ上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、窒化物半導体デバイス構造を備えたエピタキシャルウエハを形成する。エピタキシャル成長法として、薄膜の形成に適したMOCVD法、MBE法、パルス蒸着法などを好ましく用いることができる。窒化物半導体デバイス構造は、C面GaNウエハのガリウム極性面上または窒素極性面上のいずれに形成することも可能である。
電極や保護膜など必要な構造が付与された後、エピタキシャルウエハは分断されて窒化物半導体デバイスチップとなる。
【0051】
窒化物半導体デバイスの具体例としては、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光デバイス、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High
Electron Mobility Transistor)などの電子デバイス、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視-紫外光検出器などの半導体センサ、太陽電池等が挙げられる。
その他、第一実施形態に係るC面GaNウエハは、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイス、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、電圧アクチュエータ、人工光合成デバイス用電極等の用途にも適用可能である。
【0052】
2.第二実施形態
本発明の第二実施形態は、窒化物半導体デバイスチップに関する。
第二実施形態に係る窒化物半導体デバイスチップは、第一実施形態に係るC面GaNウエハを用いて製造される。第一実施形態のC面GaNウエハ上に一種以上の窒化物半導体をエピタキシャル成長させて、窒化物半導体デバイス構造を備えたエピタキシャルウエハを形成した後、ダイサー、スクライバー、レーザー加工機等を用いて、該エピタキシャルウエハを素子毎に分割してチップ化したものが、第二実施形態の窒化物半導体デバイスチップである。通常は、エピタキシャルウエハを分割してチップにする前に、デバイスの種類に応じて必要な電極や保護膜等の構造がウエハ上の素子の各々に付与される。
【0053】
第二実施形態に係る窒化物半導体デバイスチップの構造を以下に例示する。
(チップ構造1)
ガリウム極性面および窒素極性面を有するC面GaN基板と、該ガリウム極性面または該窒素極性面の上に配置された一種以上の窒化物半導体層と、を備える窒化物半導体デバイスチップにおいて、該C面GaN基板は該ガリウム極性面に少なくともひとつの正方形領域を有し、該少なくともひとつの正方形領域の外周を構成する4辺の各々の長さは2mm
以上であり、該少なくともひとつの正方形領域を各々が100μm×100μmの正方形である複数のサブ領域に分割したとき、該複数のサブ領域の80%以上が転位密度0(ゼロ)cm-2の転位フリー領域であることを特徴とする、窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造2)
前記複数のサブ領域の85%以上が転位フリー領域である、チップ構造1の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造3)
前記複数のサブ領域の90%以上が転位フリー領域である、チップ構造2の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造4)
前記複数のサブ領域のうち転位密度が最も高いサブ領域において、転位密度が3×105cm-2未満である、チップ構造1~3のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
【0054】
(チップ構造5)
前記複数のサブ領域間における転位密度の平均値が1×104cm-2未満である、チップ構造1~4のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造6)
前記複数のサブ領域のうち転位密度が最も高いサブ領域において、転位密度が2×105cm-2未満である、チップ構造3の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造7)
前記複数のサブ領域間における転位密度の平均値が3×103cm-2未満である、チップ構造3または6の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造8)
前記少なくともひとつの正方形領域は、その外周を構成する4辺の各々の長さが3.5mm以下である、チップ構造3、6または7の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造9)
前記C面GaN基板の平面形状が矩形であり、該矩形の4辺のうち2辺が、前記一方の主表面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなす、チップ構造3、6、7または8の窒化物半導体デバイスチップ。
【0055】
(チップ構造10)
ガリウム極性面および窒素極性面を有するC面GaN基板と、該ガリウム極性面または該窒素極性面の上に配置された一種以上の窒化物半導体層と、を備える窒化物半導体デバイスチップにおいて、該C面GaN基板の平面形状が矩形であり、該矩形の4辺のうち2辺が、前記一方の主表面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなすことを特徴とする、窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造11)
前記ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有している、チップ構造1~10のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造12)
前記直線状転位アレイの延伸方向が、前記ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなす、チップ構造11の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造13)
ガリウム極性面および窒素極性面を有するC面GaN基板と、該ガリウム極性面または該窒素極性面の上に配置された一種以上の窒化物半導体層と、を備える窒化物半導体デバイスチップにおいて、該C面GaN基板の前記ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有し、該直線状転位アレイの延伸方向が、前記ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなすことを特徴とする、窒化物半導体デバイスチップ。
【0056】
(チップ構造14)
前記ガリウム極性面においては、全体が前記直線状転位アレイとオーバーラップする100μm×100μmの正方形領域内に存在する転位の数が100個未満(好ましくは50個未満、より好ましくは30個未満)である、チップ構造11~13のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造15)
前記C面GaN基板においては、いずれのアルカリ金属およびアルカリ土類金属についても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、チップ構造1~14のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造16)
前記C面GaN基板においては、いずれのハロゲンについても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、チップ構造1~15のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造17)
前記C面GaN基板が、1017atoms/cm3台またはそれより高い濃度の水素(H)を含有する、チップ構造1~16のいずれかに記載の窒化物半導体デバイスチップ。
(チップ構造18)
前記C面GaN基板において、赤外吸収スペクトルの3100~3500cm-1にガリウム空孔‐水素複合体に帰属するピークが観測される、チップ構造1~17のいずれかの窒化物半導体デバイスチップ。
【0057】
3.第三実施形態
本発明の第三実施形態は、GaN層接合基板に関する。
GaN層接合基板とは、GaNとは異なる化学組成を有する異組成基板にGaN層が接合している複合基板であり、発光デバイスその他の半導体デバイスの製造に使用することができる。GaN層接合基板の構造、製造方法、用途等の詳細については、特開2006-210660号公報、特開2011-44665号公報等を参照することができる。
第三実施形態に係るGaN層接合基板は、第一実施形態に係るGaN単結晶を材料に用いて製造される。
【0058】
GaN層接合基板は、典型的には、板状のGaN単結晶の主表面近傍にイオンを注入する工程と、その板状のGaN単結晶の主表面側を異組成基板に接合する工程と、イオン注入された領域を境として該板状のGaN単結晶を分離することによって、異組成基板に接合したGaN層を形成する工程を、この順に実行することによって製造される。
イオン注入を行わないやり方として、板状のGaN単結晶を異組成基板に接合した後、該板状のGaN単結晶を機械的に切断して、異組成基板に接合したGaN層を形成する、GaN層接合基板の製造方法もある。
いずれの方法を用いたときも、第一実施形態に係るGaN単結晶を材料に用いた場合には、第一実施形態のGaN単結晶から分離されたGaN層が、異組成基板に接合された構造のGaN層接合基板が得られる。
【0059】
GaN層接合基板の材料として用いる場合、第一実施形態のGaN単結晶の初期厚さは1mm以上、更には2mm以上、更には4mm以上とすることができる。
GaN層接合基板の製造に使用し得る異組成基板としては、サファイア基板、AlN基板、SiC基板、ZnSe基板、Si基板、ZnO基板、ZnS基板、石英基板、スピネル基板、カーボン基板、ダイヤモンド基板、Ga23基板、ZrB2基板、Mo基板、W基板、セラミックス基板などが例示される。
【0060】
第三実施形態に係るGaN層接合基板の構造を以下に例示する。
(接合基板構造1)
主表面の一方がガリウム極性面で他方が窒素極性面であるGaN層と、該GaN層のガリ
ウム極性面側または窒素極性面側に接合された異組成基板と、を備えるGaN層接合基板において、該GaN層はガリウム極性面に少なくともひとつの正方形領域を有しており、該少なくともひとつの正方形領域はその外周を構成する4辺の各々の長さが2mm以上であり、該少なくともひとつの正方形領域を各々が100μm×100μmの正方形である複数のサブ領域に分割したとき、該複数のサブ領域の80%以上が転位密度0(ゼロ)cm-2の転位フリー領域であることを特徴とする、GaN層接合基板。
(接合基板構造2)
前記複数のサブ領域の85%以上が転位フリー領域である、接合基板構造1のGaN層接合基板。
(接合基板構造3)
前記複数のサブ領域の90%以上が転位フリー領域である、接合基板構造2のGaN層接合基板。
(接合基板構造4)
前記複数のサブ領域のうち転位密度が最も高いサブ領域において、転位密度が3×105cm-2未満である、接合基板構造1~3のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造5)
前記複数のサブ領域間における転位密度の平均値が1×104cm-2未満である、接合基板構造1~4のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造6)
前記複数のサブ領域のうち転位密度が最も高いサブ領域において、転位密度が2×105cm-2未満である、接合基板構造3のGaN層接合基板。
(接合基板構造7)
前記複数のサブ領域間における転位密度の平均値が3×103cm-2未満である、接合基板構造3または6のGaN層接合基板。
(接合基板構造8)
前記少なくともひとつの正方形領域は、その外周を構成する4辺の各々の長さが3.5mm以下である、接合基板構造3、6または7のGaN層接合基板。
【0061】
(接合基板構造9)
主表面の一方がガリウム極性面で他方が窒素極性面であるGaN層と、該GaN層のガリウム極性面側または窒素極性面側に接合された異組成基板と、を備えるGaN層接合基板において、該ガリウム極性面および該窒素極性面の少なくとも一方上に、下記(A)に定義する仮想的な線分である第一線分を少なくともひとつ引き得ることを特徴とする、GaN層接合基板;
(A)第一線分は20mm以上の長さを有する線分であり、当該第一線分上において、各ωスキャンの際のX線入射面を当該第一線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る。
(接合基板構造10)
前記第一線分を引き得る前記ガリウム極性面または前記窒素極性面上に、下記(B)に定義する仮想的な線分である第二線分を少なくともひとつ引き得る、接合基板構造9のGaN層接合基板;
(B)第二線分は20mm以上の長さを有する線分であって、前記第一線分の少なくともひとつと直交しており、当該第二線分上において、各ωスキャンにおけるX線入射面を当該第二線分と平行にして、(002)反射のXRC-FWHMを0.2mm間隔で測定したとき、全測定点の90%以上で測定値が50arcsecを下回る。
(接合基板構造11)
前記ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有している、接合基板構造1~10のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造12)
前記直線状転位アレイの延伸方向が、前記ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなす、接合基板構造11のGaN層接合基板。
(接合基板構造13)
主表面の一方がガリウム極性面で他方が窒素極性面であるGaN層と、該GaN層のガリウム極性面側または窒素極性面側に接合された異組成基板と、を備えるGaN層接合基板において、該GaN層は該ガリウム極性面上に直線状転位アレイを有し、該直線状転位アレイの延伸方向が、前記ガリウム極性面とM面との交線のひとつと12°±5°の範囲内の角度をなすことを特徴とする、GaN層接合基板。
(接合基板構造14)
前記ガリウム極性面においては、全体が前記直線状転位アレイとオーバーラップする100μm×100μmの正方形領域内に存在する転位の数が100個未満(好ましくは50個未満、より好ましくは30個未満)である、接合基板構造11~13のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造15)
円盤の形状を備えるGaN層接合基板であって、側面の一部に設けられたフラット部を有し、該フラット部が前記直線状転位アレイの延伸方向と直交している、接合基板構造11~14のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造16)
円盤の形状を備えるGaN層接合基板であって、側面の一部に設けられたフラット部を有し、該フラット部が前記直線状転位アレイの延伸方向と平行である、接合基板構造11~14のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造17)
前記GaN層においては、いずれのアルカリ金属およびアルカリ土類金属についても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、接合基板構造1~16のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造18)
前記GaN層においては、いずれのハロゲンについても、その濃度が1×1016atoms/cm3未満である、接合基板構造1~17のいずれかのGaN層接合基板。
(接合基板構造19)
前記GaN層が、1017atoms/cm3台またはそれより高い濃度の水素(H)を含有する、接合基板構造1~18のいずれかに記載のGaN層接合基板。
(接合基板構造20)
前記GaN層において、赤外吸収スペクトルの3100~3500cm-1にガリウム空孔‐水素複合体に帰属するピークが観測される、接合基板構造1~19のいずれかのGaN層接合基板。
【0062】
4.第四実施形態
本発明の第四実施形態は、GaN単結晶製造方法に関する。
第四実施形態に係るGaN単結晶製造方法は:
(S1)GaNの窒素極性面を有するシードを準備するステップと;
(S2)準備したシードの該窒素極性面上に、一定のピッチで互いに平行に配置された複数の直線状開口を有するパターンマスクを形成するステップと;
(S3)該パターンマスクの直線状開口を通して該窒素極性面上にアモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップと;
を含んでいる。
ステップ(S1)で準備するシードが有するGaNの窒素極性面は、(000-1)と平行であってもよいし、(000-1)から僅かに傾斜していてもよい。
ステップ(S2)で形成するパターンマスクにおいて、直線状開口の延伸方向は、該シードの該窒素極性面とM面との交線のひとつと好ましくは12°±5°の範囲内の角度をなす。該角度は、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
ステップ(S3)において、GaN結晶はパターンマスクの開口の内側から成長し、次いで、パターンマスクの上方でラテラル方向に拡がり、パターンマスクとの間にボイドを形成しながらコアレスする。
【0063】
以下では、第四実施形態のGaN単結晶製造方法を、ステップ毎に詳しく説明する。
4.1.シードを準備するステップ
第四実施形態に係るGaN単結晶製造方法で用いるシードを構成するGaN結晶は、いかなる方法で成長されたものであってもよく、限定するものではないが、例えば、HVPE法、フラックス法、アモノサーマル法または高圧窒素法で成長されたものであり得る。
シード用のGaN結晶をHVPE法で製造する場合、DEEP(epitaxial-growth with inverse-pyramidal pits)[K. Motoki et al., Journal of Crystal Growth 237-239 (2002) 912]、VAS(Void-Assisted Separation)[Y. Oshima et al., Japanese Journal of Applied Physics 42 (2003) L1]等の技術を適宜使用することができる。Advanced-DEEP[K. Motoki et al., Journal of Crystal Growth 305 (2007) 377]を使用する場合には、成長させるGaN結晶に形成されるコア(極性が反転したドメイン)の延伸方向(ストライプ・コアの場合)または配列方向(ドット・コアの場合)を、後のステップでパターンマスクに設ける直線状開口の延伸方向と一致させることが好ましい。
【0064】
シードを作製するうえで必要とされるGaN結晶のスライス、切断面の平坦化、切断面からのダメージ層除去等に必要な技法の詳細は当業者によく知られているので、特に説明を要さない。窒素極性面は、好ましくはCMP(Chemical Mechanical Polishing)仕上げすることによって、平坦化とダメージ層の除去を行う。
該窒素極性面は、(000-1)と平行であってもよく、また、(000-1)から僅かに傾斜していてもよい。該窒素極性面の(000-1)からの傾斜は、通常10°以下であり、好ましくは5°以下、より好ましくは2°以下、より好ましくは1°以下である。
好適例において、シードはC面GaNウエハであり得る。
【0065】
4.2.パターンマスクを形成するステップ
このステップでは、前のステップで準備したシードが有するGaNの窒素極性面上に、GaNの成長が可能な領域を制限するためのパターンマスクを形成する。
パターンマスクの材料は、アモノサーマル法によるGaN結晶の成長中に溶解または分解しないものであればよく、限定するものではないが、例えば、Ca、Mg、Si、Al、W、Mo、Ti、Pt、Ir、Ag、Au、Ta、Ru、NbまたはPdの単体または合金、あるいはその酸化物、窒化物またはフッ化物が挙げられる。
【0066】
パターンマスクには、互いに平行な複数の直線状開口を等間隔で設ける。換言すれば、パターンマスクには、互いに平行な複数の直線状開口を、一定のピッチで設ける。
一例を、図7および図8を参照して説明する。
図7(a)は、シードの一例を示す斜視図である。シード20は、円盤形のC面GaNウエハであり、ガリウム極性面21、窒素極性面22および側面23を有している。図7(b)は、図7(a)のシード20の窒素極性面22上に、同一方向に延びる複数の直線状開口31を有する、ストライプ型のパターンマスク30を形成したところを示す斜視図である。
図8は、そのストライプ型のパターンマスク30のみを抜き出して示す平面図である。
【0067】
図8を参照すると、直線状開口31の幅Wopは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
直線状開口31間のピッチPopは、通常3mm以上、好ましくは3.5mm以上、より好ましくは4mm以上であり、また、通常20mm以下である。直線状開口31間のピッチPopは、10.5mm以下、7.5mm以下または5.5mm以下であり得る。
窒素極性面とM面との交線のひとつが延伸する方向を基準方向としたとき、直線状開口31の延伸方向と基準方向とがなす角度θopは、好ましくは12°±5°の範囲内にある。角度θopは、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
角度θopが上記の好ましい範囲内であるとき、アモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップ(後述)において、直線状開口を通して成長するGaN結晶がパターンマスクの上方でラテラル成長してコアレスすることが容易となる。
【0068】
図9は、シードの窒素極性面上に形成し得る、他のパターンマスクを示す平面図である。
図9に示すパターンマスク30は斜方格子型であり、第一延伸方向に沿って延伸する第一直線状開口31-1、および、第二延伸方向に沿って延伸する第二直線状開口31-2が、それぞれ複数設けられている。第一直線状開口31-1間のピッチPop-1および第二直線状開口31-2間のピッチPop-2は、それぞれ一定である。
第一直線状開口31-1の幅Wop-1および第二直線状開口の幅Wop-2は、どちらも、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0069】
第一直線状開口31-1間のピッチPop-1は、通常3mm以上、好ましくは3.5mm以上、より好ましくは4mm以上であり、また、通常20mm以下である。第二直線状開口31-2間のピッチPop-2は、通常3mm以上、好ましくは6mm以上、より好ましくは9mm以上であり、また、通常20mm以下である。
窒素極性面とM面との交線のひとつが延伸する方向を基準方向としたとき、第一延伸方向が基準方向となす角度θop-1は好ましくは12°±5°の範囲内にある。角度θop-1は、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
第二延伸方向が上記基準方向となす角度θop-2は好ましくは72°±5°の範囲内にある。角度θop-2は、72°±3°、72°±2°または72°±1°の範囲内であり得る。第一延伸方向と第二延伸方向とがなす角度を60°としてもよい。
角度θop-1およびθop-2が上記の好ましい範囲内であるとき、アモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップ(後述)において、第一直線状開口および第二直線状開口を通して成長するGaN結晶がパターンマスクの上方でラテラル成長してコアレスすることが容易となる。
【0070】
図10は、シードの窒素極性面上に形成し得る、更に他のパターンマスクを示す平面図である。
図10に示すパターンマスク30は六角格子型であり、第一延伸方向に沿って延伸する第一直線状開口31-1、第二延伸方向に沿って延伸する第二直線状開口31-2、および、第三延伸方向に沿って延伸する第三直線状開口31-3が、それぞれ複数設けられている。第一直線状開口31-1間のピッチPop-1、第二直線状開口31-2間のピッチPop-2、および、第三直線状開口31-3間のピッチPop-3は、それぞれ一定である。
【0071】
第一直線状開口31-1の幅Wop-1、第二直線状開口の幅Wop-2および第三直線状開口の幅Wop-3は、いずれも、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
第一直線状開口31-1間のピッチPop-1、第二直線状開口31-2間のピッチPop
-2および第三直線状開口31-3間のピッチPop-3は、いずれも、通常4mm以上、好ましくは5mm以上、より好ましくは6mm以上であり、また、通常20mm以下である。
【0072】
窒素極性面とM面との交線のひとつが延伸する方向を基準方向としたときに、第一延伸方向が基準方向となす角度θop-1は好ましくは12°±5°の範囲内にある。角度θop-1は、12°±3°、12°±2°または12°±1°の範囲内であり得る。
第二延伸方向が上記基準方向となす角度θop-2は好ましくは72°±5°の範囲内にある。角度θop-2は、72°±3°、72°±2°または72°±1°の範囲内であり得る。第一延伸方向と第二延伸方向とがなす角度を60°としてもよい。
第三延伸方向が上記基準方向となす角度θop-3は好ましくは132°±5°の範囲内にある。角度θop-3は、132°±3°、132°±2°または132°±1°の範囲内であり得る。第一延伸方向と第三延伸方向とがなす角度を120°としてもよい。
角度θop-1、θop-2およびθop-3が上記の好ましい範囲内であるとき、アモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップ(後述)において、第一直線状開口、第二直線状開口および第三直線状開口を通して成長するGaN結晶がパターンマスクの上方でラテラル成長してコアレスすることが容易となる。
【0073】
4.3.アモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップ
このステップでは、前のステップでパターンマスクを形成したシードの窒素極性面上に、アモノサーマル法でGaN結晶を成長させる。
図11は、GaN結晶が成長する様子を示す断面図である。
図11(a)は、GaN結晶の成長が始まる前の状態で、シード20の窒素極性面22上には、紙面に垂直な方向に延伸する直線状開口31を備えたパターンマスク30が形成されている。
図11(b)は、パターンマスク30の直線状開口31の内側でGaN結晶40が成長し始めたところを示す。
パターンマスク30の直線状開口31を通り抜けると、GaN結晶40は、図11(c)に示すように、[000-1]方向だけではなく、ラテラル方向(窒素極性面22に平行な方向)にも成長する。
やがて、図11(d)に示すように、パターンマスク30の上方でGaN結晶40がコアレスし、成長フロントがひとつの平面となる。どの直線状開口を通り抜けて成長するGaN結晶も、隣の直線状開口を通り抜けて成長するGaN結晶と接触しコアレスし始めるまでに、[000-1]方向に通常1mm以上成長する。そのため、パターンマスク30とGaN結晶40との間には、ボイド50が形成される。このボイド50のc軸方向のサイズ、すなわち、シード20の表面(窒素極性面)からGaN結晶40のコアレス箇所までの距離は、1mm以上である。
かかる成長態様ではGaN結晶とパターンマスクとの接触が少なくなるため、パターンマスクがGaN結晶の結晶性に与える影響が低減される。
直線状開口31のピッチが通常3mm以上であるため、GaN結晶40とシード20の界面の総面積は小さく、シードからGaN結晶への転位欠陥の伝搬が抑制される。
コアレス後、図11(e)に示すように、GaN結晶40は[000-1]方向に更に成長される。
注記すると、GaN結晶はシードのガリウム極性面上でも成長するが、図11では図示を省略している。
【0074】
アモノサーマル法によるGaN結晶の成長は、図12に示す結晶成長装置100を用いて行うことができる。結晶成長装置100は、筒形のオートクレーブ101と、その中に設置される筒形の成長容器102を備えている。
成長容器102は、バッフル103で相互に区画された原料溶解ゾーン102aおよび
結晶成長ゾーン102bを内部に有する。原料溶解ゾーン102aにはフィードストックFが置かれる。結晶成長ゾーン102bには、白金ワイヤー104で吊されたシード(C面GaNウエハ)Sが設置される。
真空ポンプ105、アンモニアボンベ106および窒素ボンベ107が接続されたガスラインが、バルブ108を介してオートクレーブ101および成長容器102と接続される。成長容器102にアンモニアを入れる際には、アンモニアボンベ106から供給されるアンモニアの量をマスフローメーター109で確認することができる。
【0075】
フィードストックは、粉状、粒状または塊状の単結晶または多結晶GaNである。溶媒に用いるアンモニアが含有する水、酸素等の不純物の量は、好ましくは0.1ppm以下である。
フィードストックの溶解を促進するために、鉱化剤が使用される。鉱化剤には、フッ化アンモニウム(NH4F)とヨウ化アンモニウム(NH4I)を組合せて用いることが好ましい。フッ化アンモニウムは、成長容器内でアンモニアとフッ化水素(HF)を反応させて得られるものであってもよい。同様に、ヨウ化アンモニウムは、成長容器内でアンモニアとヨウ化水素(HI)を反応させて得られるものであってもよい。
成長容器内が550~650℃を含む特定の温度範囲内である場合、鉱化剤がフッ化アンモニウムのみであると、GaNの溶解度の温度依存性が負となり、制御が難しくなる。この問題は、ヨウ化アンモニウムを併用することで解決することができる。塩化アンモニウムおよび臭化アンモニウムにも同様の効用がある。
成長容器内が上記特定の温度範囲内である場合、塩化アンモニウム、臭化アンモニウムおよびヨウ化アンモニウムから選ばれるハロゲン化アンモニウムのみを鉱化剤として用いることは推奨されない。これらの鉱化剤をフッ化アンモニウムと併用しないで用いた場合、該温度範囲内ではGaN結晶が実質的に[000-1]方向にのみ成長し、ラテラル方向には殆ど成長しない。
フッ化アンモニウムを単独で鉱化剤に用いた場合は、ラテラル成長が強く促進されるので、GaN結晶とパターンマスクの間にボイドが形成され難くなる。この傾向は、[000-1]方向の成長レートを100μm/day未満にまで低くしたときに顕著となる。
【0076】
シードS上にGaN結晶を成長させる際には、オートクレーブ101と成長容器102の間の空間にもアンモニアを入れたうえで、オートクレーブ101の外側からヒーター(図示せず)で加熱して、成長容器102内を超臨界状態または亜臨界状態とする。
パターンマスクの上方において、GaN結晶を首尾よくコアレスさせるには、例えば、フッ化アンモニウムとヨウ化アンモニウムの量を、溶媒に用いるアンモニアに対するモル比でそれぞれ0.5%および4.0%とし、かつ、成長容器内の圧力を約220MPa、原料溶解ゾーンの温度Tsと結晶成長ゾーンの温度Tgの平均値を約600℃、これら2つのゾーン間の温度差Ts-Tgを約5℃(Ts>Tg)とする。
コアレス後は、同じ条件で、または、GaNの[000-1]方向の成長レートがコアレス前より高くなるように変化させた条件で、更にGaN結晶を成長させる。
アモノサーマル法でGaN結晶を成長させるステップでは、フィードストックが使い尽くされる度に成長容器を交換し、再成長を繰り返すことができる。
【0077】
以上の手順により、厚さ方向がc軸に平行または略平行な、板状のGaN単結晶を得ることができる。
このGaN単結晶を様々な方向にスライスして、GaNウエハを得ることができる。例えば、C面に平行にスライスすれば、C面GaNウエハを得ることができる。
得られるGaNウエハは、半導体デバイス等の製造に好ましく用い得る他、バルクGaN結晶を成長させるためのシードに用いることができる。
【0078】
4.4.その他
図8に示すストライプ型のパターンマスク30において、その直線状開口31の延伸方向と基準方向(窒素極性面とM面との交線のひとつが延伸する方向)とがなす角度θopは、当該直線状開口を通り抜けて成長するGaN結晶の[000-1]方向とラテラル方向の成長レートの比率に影響する。
単純化していうと、角度θopが0°に近いとき、[000-1]方向の成長が優勢となり、反対に、角度θopが30°に近いとき、ラテラル方向の成長が優勢となる傾向がある。
従って、コアレス開始までにGaN結晶を[000-1]方向に1mm以上成長させるには、角度θopを大きくし過ぎないことが望ましい。具体的には、角度θopは好ましくは25°未満であり、より好ましくは20°未満である。
角度θopは7°未満であってもよいが、0°に近付くと、平行に並んだ2つの隣り合う直線状開口の各々を通り抜けて成長するGaN結晶同士のコアレスが生じ難くなる傾向がある。
角度θopについて以上に述べたことと同じことが、図9に示す斜方格子型のパターンマスク30における角度θop-1およびθop-2についてもいうことができ、また、図10に示す六角格子型のパターンマスクにおける角度θop-1、θop-2およびθop-3についてもいうことができる。
【0079】
パターンマスクに直線状開口を3mm以上という長いピッチで配置することは、平行に並んだ2つの隣り合う直線状開口の各々を通り抜けて成長するGaN結晶同士のコアレスを生じ難くさせる。かかる傾向を克服し、コアレスが生じる確率を高めるには、GaN結晶の成長レートを低下させることが有効である。
GaN結晶の成長レートを低下させる手段のひとつは、成長容器内における原料溶解ゾーンと結晶成長ゾーンの温度差を小さくすることである。
その他、パターンマスクのパターンを斜方格子型または六角格子型とすることも、GaN結晶のコアレスを起こり易くするうえで有効である。
【0080】
5.実験結果
5.1.実験1
(1)シードの準備
シードとして、HVPE法で成長されたGaN結晶から作製されたC面GaNウエハ(以下では「HVPEシード」と呼ぶ)を準備した。HVPEシードの窒素極性面とガリウム極性面は、両方がCMP仕上げされた。窒素極性面は(000-1)から傾斜しており、その傾斜角は1°未満であった。
【0081】
(2)パターンマスクの形成
HVPEシードの窒素極性面上に、100nm厚のTiW層上に100nm厚のPt層を有する積層膜からなり、幅50μmの直線状開口をピッチ4mmで有するストライプ型のパターンマスクを、リフトオフ法で形成した。直線状開口の延伸方向は、HVPEシードにおけるM面と窒素極性面との交線のひとつから12°傾けた。
【0082】
(3)アモノサーマル法によるGaN結晶の成長
上記パターンマスクを形成したHVPEシード上に、アモノサーマル法でGaN結晶を成長させた。
フィードストックには、アンモニアと塩化ガリウム(GaCl)を気相反応させる方法で製造した多結晶GaN(酸素濃度:約5×1017cm-3)を用い、鉱化剤にはフッ化アンモニウムおよびヨウ化アンモニウムを用いた。
フッ化アンモニウムおよびヨウ化アンモニウムの量は、成長容器内に入れるアンモニアに対するモル比で、それぞれ0.5%および4.0%とした。ヨウ化アンモニウムは、アンモニアを入れた後の成長容器内にヨウ化水素(HI)を導入することにより生成させた
【0083】
成長条件は、結晶成長ゾーンの温度Tgと原料溶解ゾーンの温度Tsの平均値を598℃、結晶成長ゾーンと原料溶解ゾーンの温度差を5℃(Ts>Tg)、成長容器内の圧力を220MPaとした。
成長開始から35日間が経過したところで成長容器を開放し、成長したGaN結晶を取り出して観察した。
HVPEシードの窒素極性面側では、GaNが[000-1]方向に1.1mm成長していた。よって、成長レートは31μm/dayであった。
GaN結晶の成長フロントは直線状開口を通り抜けてパターンマスクの上方に達していたが、ラテラル成長レートは面内で一様ではなく、一部では既にコアレスが始まっていたが、殆どの部分はコアレス前であった。
【0084】
観察後、GaN結晶を新しく準備した成長容器に移し換え、再び同じアモノサーマル成長条件で再成長を行った。再成長の開始から35日間が経過したところで成長容器を開放し、GaN結晶を取り出した。
再成長の間にGaN結晶は完全にコアレスし、成長フロントは平坦化していた。
再成長におけるGaNの[000-1]方向の成長量は3.6mmであった。よって、成長レートは103μm/dayであった。トータルすると、GaN結晶は70日間で[000-1]方向に約4.7mm成長した。
アモノサーマル成長したGaN結晶の[0001]側にはV溝が観察された。
より詳しくいうと、成長したGaN結晶をシードから分離させ、その[0001]側(シードと結合していた側)の表面を観察すると、互いに平行な複数のV溝が、等間隔で形成されていた。
V溝の方向は、結晶成長前にシード表面に設けたパターンマスクの直線状開口と平行であり、また、V溝間のピッチは、該直線状開口間のピッチと同じであった。このことは、このGaN結晶が図11に示す態様で成長したこと、そして、その結果として形成されたボイドの名残が該V溝であること、つまり、該V溝の側面はボイドの内表面の一部であったことを、示している。
レーザー顕微鏡で計測した該V溝の深さは最深部において1.9mmであった。再成長前の観察結果と合わせると、GaN結晶は[000-1]方向に1~2mm成長した時点でコアレスし始めたと考えられた。
【0085】
(4)ウエハへの加工
アモノサーマル法により成長させたGaN単結晶をC面に平行にスライスし、複数のブランクウエハを得た。そのうち一枚を加工して作製した、厚さ350μmの両面研磨C面GaNウエハの外観写真を、図13に示す。
図13に示すC面GaNウエハでは、ガリウム極性面と窒素極性面の両方がCMP仕上げされているが、窒素極性面のダメージ層はアルカリエッチングにより除去することも可能である。アルカリエッチングされた窒素極性面は、微細なコーンが密に形成されたマット面となる。
【0086】
(5)ウエハの評価
<EPD>
上記手順にて作製したC面GaNウエハを、270℃に加熱した89%硫酸で1時間エッチングした。エッチング後、該C面GaNウエハのガリウム極性面を光学顕微鏡(株式会社ニコン製 ECLIPSE LV100)を用いて観察した。
ガリウム極性面上のある2mm×2mmの正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である400個のサブ領域に分割し、各サブ領域に含まれるエッチピットの数を調べた。すると、400個の93%にあたる372個のサブ領域がピットフリー(EP
D=0cm-2)であった。エッチピットが見出された28個のサブ領域のうち、EPDが最も高いサブ領域におけるEPDは1.1×105cm-2であった。400個のサブ領域間におけるEPDの平均値は1.7×103cm-2であった。
【0087】
更に、上記の2mm×2mmの正方形領域を内包する、ある3mm×3mmの正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である900個のサブ領域に分割し、各サブ領域に含まれるエッチピットの数を調べた。すると、900個の92%にあたる829個のサブ領域がピットフリー(EPD=0cm-2)であった。エッチピットが見出された71個のサブ領域のうち、EPDが最も高いサブ領域におけるEPDは1.5×105cm-2であった。900個のサブ領域間におけるEPDの平均値は2.0×103cm-2であった。
【0088】
更に、上記の3mm×3mmの正方形領域を内包する、ある3.5mm×3.5mmの正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である1225個のサブ領域に分割し、各サブ領域に含まれるエッチピットの数を調べた。すると、1225個の93%にあたる1141個のサブ領域がピットフリー(EPD=0cm-2)であった。エッチピットが見出された84個のサブ領域のうち、EPDが最も高いサブ領域におけるEPDは1.5×105cm-2であった。1225個のサブ領域間におけるEPDの平均値は1.9×103cm-2であった。
この3.5mm×3.5mmの正方形領域は、後述する直線状エッチピット・アレイとオーバーラップしていなかった。
【0089】
更に、上記の3.5mm×3.5mmの正方形領域を内包する、ある4mm×4mmの正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である1600個のサブ領域に分割し、各サブ領域に含まれるエッチピットの数を調べた。すると、1600個の87%にあたる1395個のサブ領域がピットフリー(EPD=0cm-2)であった。エッチピットが見出された205個のサブ領域のうち、EPDが最も高いサブ領域におけるEPDは2.0×105cm-2であった。1600個のサブ領域間におけるEPDの平均値は8.3×103cm-2であった。
この4mm×4mmの正方形領域は、後述する直線状エッチピット・アレイと一部でオーバーラップしていた。一方で、この4mm×4mmの正方形領域中には、1.3mm×1.3mmのピットフリー領域も観察された。
【0090】
更に、上記の4mm×4mmの正方形領域を内包する、ある5mm×5mmの正方形領域を、各々が100μm×100μmの正方形である2500個のサブ領域に分割し、各サブ領域に含まれるエッチピットの数を調べた。すると、2500個の88%にあたる2210個のサブ領域がピットフリー(EPD=0cm-2)であった。エッチピットが見出された290個のサブ領域のうち、EPDが最も高いサブ領域におけるEPDは2.0×105cm-2であった。2500個のサブ領域間におけるEPDの平均値は7.2×103cm-2であった。
【0091】
図14は、上記5mm×5mmの正方形領域の光学顕微鏡像である。白色部と灰色部が複雑に混在した紋様が見られるのは、前述のエッチング処理によって、窒素極性面が粗面となったことによる。
図14に示すように、この5mm×5mmの正方形領域には、幅Wdが260~270μmの直線状エッチピット・アレイが観察された。実験1で作製したC面GaNウエハでは、このような直線状エッチピット・アレイが、ガリウム極性面全体に4mm周期で形成されていた。
直線状エッチピット・アレイの延伸方向は、HVPEシードに設けたパターンマスクにおける直線状開口の延伸方向と一致していた。一方、直線状エッチピット・アレイと該直
線状開口の位置は、該延伸方向と直交する方向に2mmずれていた。このことは、HVPEシードの窒素極性面上で成長するGaN結晶がパターンマスクの上方でコアレスする際に、直線状開口と平行な直線状転位アレイが形成されたことを示唆している。
【0092】
図14に示す5mm×5mmの正方形領域では、直線状エッチピット・アレイとオーバーラップする領域ですら、ひとつのサブ領域(100μm×100μm)に含まれるエッチピットの数は、最も多くて20個であった。すなわち、直線状エッチピット・アレイを構成するエッチピットの密度は最大で2×105cm-2であった。その全体が直線状エッチピット・アレイとオーバーラップする長さ5mm、幅200μmの帯状領域を調べると、該帯状領域内の100個のサブ領域間におけるEPDの平均値は1.2×105cm-2であった。
【0093】
上記5.1.(4)で得た複数のブランクウエハの他の一枚を加工して、厚さ350μmのC面GaNウエハを作製し、270℃に加熱した89%硫酸で2時間エッチングした後、そのガリウム極性面の一部(4×7mm)を光学顕微鏡で観察した。すると、1.62mm×1.88mmの矩形のピットフリー領域と、1.47mm×1.92mmの矩形のピットフリー領域を見出すことができた。この2つのピットフリー領域間の距離は約0.5mmであった。
【0094】
<X線トポグラフィ>
X線回折装置[(株)リガク製 XRT-300]を用いて、本実験1で作製したC面GaNウエハのX線トポグラフィ分析を行った。(11-20)回折を用いて得られた透過X線トポグラフィ像を図15に示す。使用したX線源はMoKαで、試料の厚さは350μmであったから、μ・t=10.2であった。従って、図15のX線トポグラフィ像は異常透過像である。
本実験1で作製したC面GaNウエハのいずれの部分においても、透過X線トポグラフィ像を得ることができた。
【0095】
<(002)反射のXRC-FWHM>
X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて、本実験1で作製したC面GaNウエハにおける(002)反射のXRC-FWHMを測定した。X線回折装置の入射光学系には、Ge(220)2結晶モノクロメータを用いた。
試料表面におけるX線のビームサイズは、X線の入射角が90°(X線の入射方向が試料表面と直交)の場合に0.2mm×3mmとなるように設定した。測定時には、該ビームサイズが3mmとなる方向とX線入射面とが直交するようにした。入射面とは、反射面に垂直で、入射光線と反射光線を含む面のことである。
図16に示す、それぞれガリウム極性面の略中心を通る、m軸に平行な仮想的な線分Xおよびa軸に平行な仮想的な線分Yの上で、0.2mm間隔で測定を行った。すなわち、各線分上に0.2mm間隔で配置された複数の測定点の各々においてωスキャンを行ってXRCを取得し、そのFWHMを求めた。
線分X上の各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は線分Xと平行にした。線分Y上の各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は線分Yと平行にした。
線分Xの長さは、ガリウム極性面のm軸方向のサイズの90%を超えていた。線分Yの長さは、ガリウム極性面のa軸方向のサイズの90%を超えていた。
【0096】
m軸に平行な線分X上で69mmにわたり測定した結果、346個の測定点のうちXRC-FWHMが40arcsec以上だったのは1点であり、全測定点の略100%にあたる345点でXRC-FWHMは40arcsecを下回った。
線分X上には、当該区間内の測定点の全てでXRC-FWHMが40arcsecを下
回る、長さ64mmの区間が存在した。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は346点中7点であり、全測定点の98%にあたる339点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
線分X上には、当該区間内の測定点の全てでXRC-FWHMが30arcsecを下回る、長さ35.2mmの区間が存在した。
【0097】
a軸に平行な線分Y上で54.6mmにわたり測定した結果、274個の測定点のうちXRC-FWHMが40arcsec以上だったのは1点であり、全測定点の略100%にあたる273点でXRC-FWHMは40arcsecを下回った。
線分Y 上には、当該区間内の測定点の全てでXRC-FWHMが40arcsecを下回る、長さ49.6mmの区間が存在した。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は274点中11点であり、全測定点の96%にあたる263点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
線分X上には、当該区間内の133個の測定点のうち98%にあたる131点でXRC-FWHMが30arcsecを下回る、長さ26.4mmの区間が存在した。
【0098】
<(004)反射のXRC-FWHM>
X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて、本実験1で作製したC面GaNウエハにおける、(004)反射のXRC-FWHMを測定した。入射側光学系には、X線ミラーとGe(440)4結晶モノクロメータを用いた。光学系の分解能は5~6arcsecであった。試料表面におけるX線のビームサイズは、X線の入射角が90°(X線の入射方向が試料表面と直交)の場合に0.2mm×5mmとなるように設定した。測定時には、該ビームサイズが5mmとなる方向とX線入射面とが直交するようにした。
【0099】
ガリウム極性面の略中心を通る、m軸に平行な長さ70mmの線分上において、1mm間隔でωスキャンを行い、(004)反射のXRC-FWHMを測定した。各ωスキャンにおいて、X線入射面はm軸に平行にした。
全測定点におけるXRC-FWHMの測定値を下記表1に示す。全測定点間におけるXRC-FWHMの平均および標準偏差は、それぞれ、11.7arcsecおよび3.8arcsecであった。
【表1】
【0100】
更に、ガリウム極性面の略中心を通る、a軸に平行な長さ59mmの線分上において、1mm間隔でωスキャンを行い、(004)反射のXRC-FWHMを測定した。各ωスキャンにおいて、X線入射面はa軸に平行にした。
全測定点におけるXRC-FWHMの測定値を下記表2に示す。全測定点間におけるXRC-FWHMの平均および標準偏差は、それぞれ、13.0arcsecおよび4.2arcsecであった。
【表2】
【0101】
<不純物濃度>
本実験1で作製したC面GaNウエハのガリウム極性面側において、表面から深さ10μmまでのフッ素、ヨウ素および水素の濃度をSIMSにより測定した。深さ1μm以上の部分における濃度は、フッ素およびヨウ素が検出下限未満(検出下限は1014~1015atoms/cm3台)、水素が2×1018atoms/cm3であった。
【0102】
<赤外吸収スペクトル>
本実験1で作製したC面GaNウエハの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3100~3500cm-1に、ガリウム空孔‐水素複合体(gallium vacancy‐hydrogen complex)に帰属する吸収ピークが複数観察された。この複数の吸収ピークの中には、ピークトップ波長がそれぞれ3150cm-1付近、3164cm-1付近、3176cm-1付近および3188cm-1付近にある4つのピークが含まれていた。
【0103】
(6)インゴットの評価
上記5.1.(3)で得た再成長後のGaN結晶のX線回折特性を、当該GaN結晶をシードに結合した状態としたままで、X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて評価した。X線回折装置の入射光学系にはGe(220)2結晶モノクロメータを用いた。
HVPEシードの窒素極性面上に成長したGaN結晶のアズグロン表面(窒素極性面)に引いた仮想的な線分上で、XRCを0.2mm間隔で測定した。
該線分は、HVPEシードの窒素極性面上に形成したパターンマスクのストライプ方向と直交しており、長さは51.4mmであった。各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は、該線分と平行とした。
該線分上で測定したXRCのFWHMを調べた結果、258個の測定点の全てで40arcsec未満であった。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は258点中35点であり、全測定点の86%にあたる223点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
【0104】
5.2.実験2
(1)シードの準備
実験1で使用したものと同等品質のHVPEシードを準備した。実験2で準備したHVPEシードは、直径2インチの円盤形C面GaNウエハであった。
(2)パターンマスクの形成
実験1と同じく、HVPEシードの窒素極性面上に、TiWとPtの積層膜からなる200nm厚のパターンマスクを形成した。ただし、パターンマスクのパターンは、互いに異なる方向に延伸する第一直線状開口および第二直線状開口を有する斜方格子型とした。
第一直線状開口の延伸方向は、HVPEシードにおけるM面と窒素極性面との交線のひとつから12°傾けた。第一直線状開口の延伸方向と第二直線状開口の延伸方向とがなす角度は60°とした。
第一直線状開口および第二直線状開口の幅は、いずれも50μmとした。第一直線状開口間のピッチは4mmとし、第二直線状開口間のピッチは12mmとした。
【0105】
(3)アモノサーマル法によるGaN結晶の成長
上記パターンマスクを形成したHVPEシード上に、アモノサーマル法でGaN単結晶を成長させた。
使用した結晶成長装置と結晶成長条件は、実験1と同じである。ただし、成長時間は35日間とし、再成長は行わなかった。
GaN結晶は、35日間で[000-1]方向に2.9mm成長した。よって、成長レートは82μm/dayであった。成長フロントは平坦化しており、コアレスが略完了していた。
成長した結晶をスライスして得たウエハを観察した結果から、GaN結晶は[000-1]方向に1~1.5mm成長した時点でコアレスし始めたと考えられた。
【0106】
(4)ウエハへの加工
アモノサーマル法により成長させたGaN単結晶をC面に平行にスライスした後、得られたブランクウエハの両方の主表面に研磨およびCMP仕上げを施して、略正六角形の主表面を有する厚さ350μmのC面GaNウエハを得た。
【0107】
(5)ウエハの評価
X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて、本実験2で作製したC面GaNウエハにおける(002)反射のXRC-FWHMを測定した。X線回折装置の入射光学系には、Ge(220)2結晶モノクロメータを用いた
。試料表面におけるX線のビームサイズは、X線の入射角が90°の場合に0.2mm×3mmとなるように設定した。測定時には、該ビームサイズが3mmとなる方向とX線入射面とが直交するようにした。
図17に示す、それぞれガリウム極性面の略中心を通る、m軸に平行な線分Xおよびa軸に平行な線分Yの上で、0.2mm間隔で測定を行った。実験1と同様、線分X上の各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は線分Xと平行とし、線分Y上の各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は線分Yと平行とした。
線分Xの長さは、ガリウム極性面のm軸方向のサイズの90%を超えていた。線分Yの長さは、ガリウム極性面のa軸方向のサイズの90%を超えていた。
【0108】
m軸に平行な線分X上で45mmにわたり測定した結果、226個の測定点の全てでXRC-FWHMは40arcsecを下回った。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は226点中3点であり、全測定点の99%にあたる223点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
【0109】
a軸に平行な線分Y上で53.8mmにわたり測定した結果、270個の測定点の全てでXRC-FWHMは40arcsecを下回った。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は270点中1点であり、全測定点の略100%にあたる269点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
線分Y上には、当該区間内の測定点の全てでXRC-FWHMが30arcsecを下回る、長さ46.6mmの区間が存在した。
【0110】
線分X上で測定したXRCのピークトップ角度の変化率から、線分Xに平行な方向におけるC面の曲率半径を計算すると、550mであった(この計算では、XRCのピークトップ角度の変化率を、全226個の測定点における測定値から最小二乗法を用いて求めた)。
それとは別に、線分X上の226個の測定点から互いに10mm離れた2点を選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから、前述の式1(R=ΔL/Δω)を用いてC面の曲率半径を計算した。すると、2点をどのように選んでも、線分Xに平行な方向におけるC面の曲率半径の絶対値が78mを下回ることはなかった。換言すれば、Δωが最大である2点を選んで計算したときの、曲率半径の絶対値が78mであった。
【0111】
線分Y上で測定したXRCのピークトップ角度の変化率から、線分Yに平行な方向におけるC面の曲率半径を計算すると、79mであった(この計算では、XRCのピークトップ角度の変化率を、全270個の測定点における測定値から最小二乗法を用いて求めた)。
それとは別に、線分Y上の270個の測定点から互いに10mm離れた2点を選び、その2点間でのXRCのピークトップ角度の差Δωから、前述の式1(R=ΔL/Δω)を用いてC面の曲率半径を計算した。すると、2点をどのように選んでも、線分Yに平行な方向におけるC面の曲率半径の絶対値が52mを下回ることはなかった。換言すれば、Δωが最大である2点を選んで計算したときの、曲率半径の絶対値が52mであった。
【0112】
(6)インゴットの評価
上記5.2.(3)で得たGaN結晶のX線回折特性を、当該GaN結晶をシードに結合した状態としたままで、X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて評価した。X線回折装置の入射光学系にはGe(220)2結晶モノクロメータを用いた。
HVPEシードの窒素極性面上に成長したGaN結晶のアズグロン表面(窒素極性面)に引いた仮想的な線分上で、XRCを0.2mm間隔で測定した。
該線分は、HVPEシードの窒素極性面上に形成したパターンマスクの、第一直線状開
口の延伸方向となす角度が78度で、かつ、m軸のひとつと平行であり、長さは41mmであった。各測定点でのωスキャンにおけるX線入射面は、該線分と平行とした。
【0113】
該線分上で測定したXRCのFWHMを調べた結果、206個の測定点の全てで40arcsec未満であった。
XRC-FWHMが30arcsec以上だった測定点は206点中3点であり、全測定点の98%にあたる203点でXRC-FWHMは30arcsecを下回った。
該線分上には、当該区間内の測定点の全てでXRC-FWHMが30arcsecを下回る、長さ21.6mmの区間が存在した。
【0114】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0115】
10 GaN単結晶
11 ガリウム極性面
12 窒素極性面
13 側面
14 直線状転位アレイ
15 オリエンテーション・フラット
20 C面GaNウエハ
21 ガリウム極性面
22 窒素極性面
23 側面
30 パターンマスク
31 直線状開口
40 GaN結晶
50 ボイド
100 結晶成長装置
101 オートクレーブ
102 成長容器
102a 原料溶解ゾーン
102b 結晶成長ゾーン
103 バッフル
104 白金ワイヤー
105 真空ポンプ
106 アンモニアボンベ
107 窒素ボンベ
108 バルブ
109 マスフローメーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図17