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  • 特許-農業用水処理システム 図1
  • 特許-農業用水処理システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】農業用水処理システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20220628BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A01G25/00 601A
A61L9/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020156433
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050060
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健治
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2053379(KR,B1)
【文献】特表2009-539402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
A61L 9/14
B01D 61/02
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を逆浸透膜処理する逆浸透膜装置と、
該逆浸透膜装置の処理水を貯水する貯水手段と、
該貯水手段の水を農作物への散水手段に送水する第1配管と、
該貯水手段の水を希釈液肥調製手段に送水する第2配管と
前記処理水のpHが6以下になるように前記逆浸透膜装置を運転制御する運転制御手段と、
前記貯水手段の水を温水ボイラの給水として送水する第3配管と、
該ボイラからの蒸気を熱源として前記農作物の培地を加温する加温手段と
を有しており、
前記希釈液肥調製手段は、pH上昇剤の添加手段と、肥料の溶解手段と、前記肥料の水質管理手段を備える農業用水処理システム。
【請求項2】
前記貯水手段の水を噴霧型空間殺菌機器に送水する第4配管を更に備える請求項に記載の農業用水処理システム。
【請求項3】
前記貯水手段は、貯水タンクと、該貯水タンクの水を循環させるループ配管とを有し、該ループ配管から前記各配管が分岐している請求項1又は2に記載の農業用水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培における水処理には従来より逆浸透膜が適用されており、例えば特開2001―299116には、逆浸透膜で不純物や細菌等を除去した処理水から養液を作ること、実公平5―45166やWO2018/143450には、養液を逆浸透膜で濾過して循環再利用することが記載されている。また、海水を逆浸透膜により淡水化して農業用水に適用することは昔から行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001―299116号公報
【文献】実公平5―45166号公報
【文献】国際公開WO2018/143450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、農作物の生育を良好とすることができると共に、農作物の品質や価値を高めることができる農業用水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の農業用水処理システムは、原水を逆浸透膜処理する逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の処理水を貯水する貯水手段と、該貯水手段の水を農作物への散水手段に送水する第1配管と、該貯水手段の水を希釈液肥調製手段に送水する第2配管とを備える。
【0006】
本発明の一態様では、前記処理水のpHが6以下になるように前記逆浸透膜装置を運転制御する運転制御手段を有する。
【0007】
本発明の一態様では、前記希釈液肥調製手段は、pH上昇剤の添加手段と、肥料の溶解手段と、前記肥料の水質管理手段を備える。
【0008】
本発明の一態様では、前記貯水手段の水を温水ボイラの給水として送水する第3配管と、該ボイラからの蒸気を熱源として前記農作物の培地を加温する加温手段を更に備える。
【0009】
本発明の一態様では、前記貯水手段の水を噴霧型空間殺菌機器に送水する第4配管を更に備える。
【0010】
本発明の一態様では、前記貯水手段は、貯水タンクと、該貯水タンクの水を循環させるループ配管とを有し、該ループ配管から前記各配管が分岐している。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、RO処理水(RO透過水)を散水用と肥料希釈に利用する。散水用水及び肥料希釈用水としてRO処理水を使用することにより、原水中の有機物や無機物による培地環境(糊化しにくい)が改善され、栄養素や酸素が植物に供給されやすくなる。また、培地が糊化しにくいため、培地を交換する頻度が低下する。
【0012】
本発明によると、原水中からの異物(微生物、真菌、酵母菌等)が培地や植物に供給されることが抑制され、常在菌環境が改善する。また、菌種(常在)が安定するため、pH変動がしにくくなり、連作障害が起きにくくなる。
【0013】
RO処理水は、ミネラル成分が微量なため、肥料が溶解しやすく継粉になりにくい。また、肥料が継粉になりにくいため、余分な肥料を溶かす必要が無くなる。
【0014】
RO処理水は、スケール成分が微量(通常の場合、原水の1/10以下になる。)であるため、ミスト散水ノズルの閉塞が起きにくくなり、飽差による湿度及び温度の管理がし易くなる。また、ノズルの酸洗浄頻度を例えば1/10以下まで改善することができる。なお、ノズル閉塞が起きにくいため、ノズルの閉塞による部分乾燥が改善され、植物病(白カビなど)の防止や乾燥による真菌増殖防止に繋がる。
【0015】
本発明の一態様では、RO装置を、RO処理水のpHが6以下となるように制御することにより、ノズル閉塞防止とともに植物病を抑制することができる。
【0016】
RO処理水は季節によって水質(pH、イオン濃度など)が変動することが少ないため、肥料の溶解とアップ剤(pH上昇剤。なお、RO処理水のpHが6以下となっているので、pHを下げるためのダウン剤は不要)の混合管理が簡便になる。
【0017】
本発明の一態様では、RO処理水を温水ボイラの給水に利用する。また、このボイラからの蒸気を用いて、培地を加温する。
【0018】
従来は、原水を軟化処理した後、ボイラ薬品(スケール防止剤や清潅剤など)を添加してボイラ給水としていたが、RO処理水をボイラ給水に用いることで、軟化処理(スケール成分除去)装置が不要となり、ボイラ薬品の使用量を低減することができる。
【0019】
本発明の一態様では、RO処理水を空間殺菌用(酸・アルカリ電解水や過酢酸)などの機器への補給水として用いる。従来は、空間殺菌用水に軟化処理水を用いていたが、RO処理水を用いることにより、軟化処理装置が不要となる。
【0020】
本発明の一態様では、ループ配管構造で送水することで24時間いつでも弁を開くと安定した水量及び水圧でRO処理水が補給される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係る農業用水処理システムの構成図である。
図2】実施の形態に係る農業用水処理システムの農園の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0023】
図1の通り、原水が高圧ポンプ(図示略)を介して逆浸透膜装置(以下、RO装置)1に供給され、逆浸透処理され、膜透過水(RO処理水)が貯水槽2に導入される。
【0024】
原水としては、上水、井水、工業用水、伏流水、雨水などやこれらを除濁処理(例えば、濾過処理、凝集沈殿処理など)したものが例示されるが、これに限定されない。
【0025】
この実施の形態では、RO装置2及び給水用高圧ポンプの制御器(図示略)は、RO処理水のpHが6以下、特に5.6~6となるように、回収率、濃縮倍率、給水量、給水圧、濃縮水量、濃縮水圧、透過水量、透過水圧などの少なくとも1つを制御する。RO処理水のpHは空気中のCOにも影響を受ける。
【0026】
RO処理水のpH以外の水質としてはNa濃度、TOC濃度、重炭酸イオン濃度などが例示される。Na濃度は、10mg/L以下、TOC濃度は0.3mg/L以下、重炭酸イオン濃度は60mg/L以下が好適である。
【0027】
貯水槽2内のRO処理水は、ポンプ3を有したループ配管(循環配管)4を介して循環通水される。
【0028】
ループ配管4を流れるRO処理水の一部は、ループ配管4から分岐した分岐配管(第3配管)7を介してボイラ8に送水され、ボイラ用水として用いられる。このボイラで発生した蒸気は、各種用途に用いることができ、例えば植物栽培ベッド30の培地の加温や、希釈液肥やそのためのRO処理水の加温などに用いることができる。
【0029】
また、ループ配管4を流れるRO処理水の一部は、分岐配管(第1配管)5を介して農園に散水用水として供給され、また、分岐配管(第2配管)6を介して農園に液肥調製用水として供給される。
【0030】
なお、この実施の形態では、農園として農園A,Bの2農園が図示されているが、農園の数は1個でもよく、3個以上であってもよい。
【0031】
また、この実施の形態では、ループ配管4を流れるRO処理水の一部は、分岐配管(第4配管)9を介して電解装置10に送水され、電解処理される。電解処理により生成した殺菌機能を有した電解処理水は、配管11を介して農園A,Bのスプレーノズル12に供給され、農園内の空間に噴霧され、空間殺菌が行われる。スプレーノズル12は、通常、複数個設置される。この実施の形態では、電解装置10、配管11及びスプレーノズル12によって噴霧型空間殺菌機器が構成されている。
【0032】
なお、電解装置10は、RO処理水に希塩酸などの酸又は次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリを添加してから電解を行うように構成されてもよい。電解装置10の代りに、RO処理水に過酢酸を添加して殺菌用水を調製する殺菌用水調製装置を用いてもよい。
【0033】
各農園にあっては、図2の通り、分岐配管5からのRO処理水は、バルブ5Vを開とすることにより受水槽20に流入し、貯水される。受水槽20内のRO処理水は、配管21を介して散水器22に送水され、植物栽培ベッド30上の植物(図示略)に向って散水される。
【0034】
また、各農園にあっては、分岐配管6からのRO処理水は、バルブ6Vを開とすることにより希釈液肥調製装置23に送水される。
【0035】
希釈液肥調製装置23は、液肥をRO処理水で希釈して希釈液肥を調製するよう構成されている。この実施の形態では、液肥調製装置23は、RO処理水が流れる配管と、該配管に対し液肥を添加する薬注装置24とを有している。液肥としては、マクロ栄養素(P、K、N)のほかミクロ栄養素(重金属類)を添加する。
【0036】
なお、薬注装置24のうちの1つはpH上昇剤(アップ剤)を薬注するものである。この実施の形態では、RO処理水のpHが6以下となっているので、pHのダウン剤の添加は不要である。アップ剤としては、水酸化カリウム、重炭酸カリウムなどを用いることができるが、これに限定されない。
【0037】
また、この実施の形態では、希釈液肥調製装置23は、RO処理水又は調製された希釈液肥を加温するための熱交換器(図示略)を有している。この熱交換器の熱源流体としては、前記ボイラ8からの蒸気が好適である。
【0038】
この実施の形態では、希釈液肥調製装置23からの希釈液肥を送水するための配管25に、希釈液肥の水質(例えば、電気伝導度、pH、水温、TOCなど)を検出する水質検出手段26と、この水質検出手段26の検出結果に基づいて薬注装置24や前記熱交換器の制御を行う制御装置(図示略)が設置されている。
【0039】
希釈液肥は、配管25から植物栽培ベッド30へ送水され、灌水として用いられる。植物栽培ベッド30には、培地を加温するヒータを設けてもよい。このヒータの熱源としては、ボイラ8からの蒸気が好適である。
【0040】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の態様とされてもよい。例えば、本発明では、農園は、培地温度だけでなく、植物栽培工場やビニールハウス内の室温、湿度、光度、炭酸ガス濃度などの条件を制御してもよい。また、RO処理水の水質(電気伝導度、pH、水温、TOCなど)に応じて上記条件の管理基準値を補正したり、環境条件を直接に制御してもよい。この制御は遠隔制御で行われてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 RO装置
2 貯水槽
4 ループ配管
5 第1配管
6 第2配管
7 第3配管
9 第4配管
10 電解装置
22 散水器
23 希釈液肥調製装置
24 薬注装置
26 水質検出手段
30 植物栽培ベッド
図1
図2