(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】被覆正極活物質及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20220628BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220628BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220628BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220628BHJP
H01M 4/13 20100101ALN20220628BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2019081920
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼介
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120705(JP,A)
【文献】特開2016-62683(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046443(WO,A1)
【文献】特開2017-84584(JP,A)
【文献】特表2018-533157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、前記正極活物質の表面を被覆する第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面を被覆する第2の被覆層とを備え、
前記第1の被覆層が第1のリチウム含有酸化物からなり、
前記第2の被覆層が第2のリチウム含有酸化物からなり、
前記第1のリチウム含有酸化物の融点のほうが前記第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低く、
前記第1の被覆層及び前記第2の被覆層の双方が非晶質である、
被覆正極活物質。
【請求項2】
前記第2のリチウム含有酸化物がリチウムとニオブとの複合酸化物である、
請求項1に記載の被覆正極活物質。
【請求項3】
前記第1のリチウム含有酸化物がリチウムとタングステンとの複合酸化物である、
請求項1又は2に記載の被覆正極活物質。
【請求項4】
前記第1の被覆層の厚みと前記第2の被覆層の厚みとの合計の厚みに占める前記第1の被覆層の厚みの割合が30%以上70%以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆正極活物質。
【請求項5】
前記第1の被覆層の厚みと前記第2の被覆層の厚みとの合計の厚みが1nm以上100nm以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の被覆正極活物質。
【請求項6】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された固体電解質層とを備え、
前記正極が、請求項1~5のいずれか1項に記載の被覆正極活物質を備え、
前記被覆正極活物質が硫化物固体電解質と接触している、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は被覆層で被覆された正極活物質等を開示する。
【背景技術】
【0002】
硫化物固体電解質を用いた全固体電池においては、正極活物質の表面にリチウム含有酸化物からなる被覆層を設けることにより、正極活物質と硫化物固体電解質とが反応して界面抵抗が増加することを防いでいる。例えば、特許文献1に開示されているように、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムからなる被覆層を設ける技術が知られている。また、特許文献2に開示されているように、全固体電池の負極において負極活物質の表面にリチウム含有酸化物からなる被覆層を設けることにより、電池抵抗を低下させることが可能であることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-266728号公報
【文献】特開2017-103020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、充放電サイクル時の活物質の膨張収縮により被覆層が割れ易いという課題がある。活物質の表面の被覆層が割れると、例えば、活物質表面が露出して硫化物固体電解質と反応し、界面抵抗が増加し易い。充放電によって活物質が膨張収縮した場合においても被覆層の割れを抑制可能な新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、正極活物質と、前記正極活物質の表面を被覆する第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面を被覆する第2の被覆層とを備え、前記第1の被覆層が第1のリチウム含有酸化物からなり、前記第2の被覆層が第2のリチウム含有酸化物からなり、前記第1のリチウム含有酸化物の融点のほうが前記第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低く、前記第1の被覆層及び前記第2の被覆層の双方が非晶質である、被覆正極活物質を開示する。
【0006】
本開示の被覆正極活物質において、前記第2のリチウム含有酸化物がリチウムとニオブとの複合酸化物であってもよい。
【0007】
本開示の被覆正極活物質において、前記第1のリチウム含有酸化物がリチウムとタングステンとの複合酸化物であってもよい。
【0008】
本開示の被覆正極活物質において、前記第1の被覆層の厚みと前記第2の被覆層の厚みとの合計の厚みに占める前記第1の被覆層の厚みの割合が30%以上70%以下であってもよい。
【0009】
本開示の被覆正極活物質において、前記第1の被覆層の厚みと前記第2の被覆層の厚みとの合計の厚みが1nm以上100nm以下であってもよい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された固体電解質層とを備え、前記正極が、上記本開示の被覆正極活物質を備え、前記被覆正極活物質が硫化物固体電解質と接触している、全固体電池を開示する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の被覆正極活物質は、被覆層が活物質の膨張収縮に追従でき、活物質が膨張収縮した場合においても割れ難い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】被覆正極活物質1の構成を説明するための概略図である。
【
図2】被覆正極活物質2の構成を説明するための概略図である。
【
図3】全固体電池100の構成を説明するための概略図である。
【
図4】全固体電池200の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.被覆正極活物質
1.1.第1形態
図1に被覆正極活物質1の断面構成を概略的に示す。
図1に示すように、被覆正極活物質1は、正極活物質1aと、正極活物質1aの表面を被覆する第1の被覆層1bと、第1の被覆層1bの表面を被覆する第2の被覆層1cとを備える。第1の被覆層1bは第1のリチウム含有酸化物からなり、第2の被覆層1cは第2のリチウム含有酸化物からなり、第1のリチウム含有酸化物の融点のほうが第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低い。また、第1の被覆層1b及び第2の被覆層1cの双方が非晶質である。
【0014】
1.1.1.正極活物質
正極活物質1aは、全固体電池の正極活物質として公知の材料からなる。公知の材料のうち、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)の異なる2つの材料を選択し、貴な電位を示す材料を正極活物質とし、卑な電位を示す材料を後述の負極活物質として、それぞれ用いることができる。例えば、正極活物質として公知のリチウム含有酸化物等を用いることができる。より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2);ニッケル酸リチウム(LiNiO2);マンガン酸リチウム(LiMn2O4);LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2;Li1+xMn2-x-yMyO4(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni、Znから選ばれる一種以上)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル;チタン酸リチウム(LixTiOy);リン酸金属リチウム(LixMy(PO4)z、MはFe、Mn、Co、Ni、Tiから選ばれる1種以上)等が挙げられる。中でも、リチウムと、コバルト、マンガン及びニッケルから選ばれる少なくとも1つの元素とを含む酸化物がよい。正極活物質1aは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。尚、正極活物質1aとしてリチウム含有酸化物を用いる場合、正極活物質1aとして採用されるリチウム含有酸化物が被覆層1b、1cを構成するリチウム含有酸化物とは異なるものであることは言うまでもない。正極活物質1aとして採用されるリチウム含有酸化物は所定の充放電電位においてリチウムイオンの吸蔵及び放出を行うことを主な機能とするのに対し、被覆層1b、1cを構成するリチウム含有酸化物はリチウムイオン伝導性を確保しつつ正極活物質1aの表面を保護するものである。
【0015】
図1に示すように、正極活物質1aは粒子状であってもよい。正極活物質1aが粒子状である場合、当該粒子は一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。この場合、正極活物質1aの一次粒子径は、例えば、1nm以上100μm以下であってもよい。下限は5nm以上であってもよいし、10nm以上であってもよいし、50nm以上であってもよい。上限は30μm以下であってもよいし、10μm以下であってもよい。正極活物質1aが二次粒子である場合、二次粒子径は、例えば、0.5μm以上100μm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は50μm以下であってもよい。
【0016】
1.1.2.被覆層
図1に示すように、正極活物質1aの表面は第1の被覆層1bによって被覆されており、第1の被覆層1bの表面は第2の被覆層1cによって被覆されている。第1の被覆層1bは第1のリチウム含有酸化物からなり、第2の被覆層1cは第2のリチウム含有酸化物からなる。尚、本願にいう「リチウム含有酸化物」とは、リチウムを含む無機酸化物をいう。当該酸化物には酸窒化物や酸硫化物等も含まれ得る。「リチウム含有酸化物からなる」とは、リチウム含有酸化物に加えて不可避不純物(原料由来の不純物)等の微量成分を含む形態を許容する趣旨である。
【0017】
第1のリチウム含有酸化物の融点は、第2の被覆層1cを構成する第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低い。本願にいう「融点」とはガラス転移点を含む概念である。「第1のリチウム含有酸化物の融点が第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低い」とは、第1のリチウム含有酸化物が相対的に低融点である酸化物を主体(不可避不純物等の微量成分については除外する趣旨)とし、第2のリチウム含有酸化物が相対的に高融点である酸化物を主体(不可避不純物等の微量成分については除外する趣旨)とすることを意味する。一般的に、無機酸化物系の材料においては、ヤング率と融点とが相関関係にあり、ヤング率が低いほど融点が低い。すなわち、第1のリチウム含有酸化物は、第2のリチウム含有酸化物よりもヤング率が低く、柔らかいものといえる。第1のリチウム含有酸化物の具体例としては、例えば、リチウムとタングステンとの複合酸化物(タングステン酸リチウム)や、リチウムとリンとの複合酸化物(リン酸リチウム)等が挙げられる。第1のリチウム含有酸化物は1種の酸化物のみからなっていても、2種以上の酸化物(酸化物の混合物)からなっていてもよい。第1の被覆層1bにおいてより良好なリチウムイオン伝導性を確保する観点からは、第1のリチウム含有酸化物は、リチウムとタングステンとの複合酸化物(タングステン酸リチウム)であってもよい。第1のリチウム含有酸化物の融点は、1000℃未満であってもよく、900℃以下であってもよく、800℃以下であってもよい。
【0018】
第2のリチウム含有酸化物の融点は、第1の被覆層1bを構成する第1のリチウム含有酸化物の融点よりも高い。すなわち、第2のリチウム含有酸化物は、第1のリチウム含有酸化物よりもヤング率が高く、硬いものといえる。第2のリチウム含有酸化物の具体例としては、例えば、リチウムとニオブとの複合酸化物(ニオブ酸リチウム)や、リチウムとチタンとの複合酸化物(チタン酸リチウム)や、リチウムとタンタルとの複合酸化物(タンタル酸リチウム)等が挙げられる。第2のリチウム含有酸化物は1種の酸化物のみからなっていても、2種以上の酸化物(酸化物の混合物)からなっていてもよい。第2の被覆層1cにおいてより良好なリチウムイオン伝導性を確保する観点からは、第2のリチウム含有酸化物は、リチウムとニオブとの複合酸化物(ニオブ酸リチウム)であってもよい。第2のリチウム含有酸化物の融点は、1000℃以上であってもよく、1100℃以上であってもよく、1200℃以上であってもよい。
【0019】
第1の被覆層1bの厚みと第2の被覆層1cの厚みとの合計の厚みは特に限定されるものではなく、目的とする電池性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、第1の被覆層1bの厚みと第2の被覆層1cの厚みとの合計の厚みは1nm以上100nm以下であってもよく、1nm以上20nm以下であってもよい。被覆層が厚い場合に正極活物質1aをより好適に保護(硫化物固体電解質との接触をより抑制)し易いが、被覆層が厚すぎるとリチウムイオン伝導性が低下する虞がある。
【0020】
第1の被覆層1bの厚みと第2の被覆層1cの厚みとの合計の厚みに占める第1の被覆層1bの厚みの割合は特に限定されるものではなく、目的とする電池性能に応じて適宜決定すればよい。本発明者の新たな知見によれば、第1の被覆層1bの厚みと第2の被覆層1cの厚みとの合計の厚みに占める第1の被覆層1bの厚みの割合が30%以上70%以下である場合、正極活物質1aの膨張収縮時における被覆層1b、1cの割れ等を一層抑制し易い。
【0021】
第1の被覆層1bと第2の被覆層1cとは双方とも非晶質である。非晶質である被覆層1b、1cは、結晶質である被覆層よりもヤング率が低く、柔らかい。すなわち、正極活物質1aの膨張収縮に対して被覆層1b、1cが追従して変形し易く、正極活物質1aが膨張収縮した場合でも被覆層1b、1cの割れが生じ難い。また、非晶質である被覆層1b、1cは、結晶質である被覆層よりもリチウムイオン伝導度を増大させ易い。例えば、非晶質の被覆層1b、1cは、結晶質である被覆層よりもリチウムイオン伝導度が1桁程度高くなる。これにより、電池の初期抵抗等を容易に低下させることができる。非晶質の被覆層1b、1cは、例えば、1×10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有するものであってもよい。
【0022】
被覆層が非晶質であるか否かを確認する方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた画像解析等が挙げられる。例えば、被覆層のTEM画像解析の結果、被覆層の原子配列がランダムあるいは原子分解能像の輝点が不明瞭である場合に、当該被覆層が非晶質であるものと判断することができる。
【0023】
正極活物質1aの表面を被覆する被覆層において、内側を柔らかな第1の被覆層1bとし、外側を硬い第2の被覆層1cとすることで、内側の第1の被覆層1bによって正極活物質1aの膨張収縮にひずみを吸収することができる。すなわち、正極活物質1aの膨張収縮時、正極活物質1aと被覆層1b、1cとの間の剥離や被覆層1b、1cの割れ等を抑制し易い。
【0024】
正極活物質1aの表面を被覆する被覆層を、第1の被覆層1bと第2の被覆層1cとの二層構造とすることで、仮に一方の被覆層に割れが生じたとしても、他方の被覆層へと割れが進展し難い。すなわち、正極活物質1aの膨張収縮時における被覆層1b、1cの割れ等を抑制し易い。
【0025】
1.1.3.製造方法
被覆正極活物質1は様々な方法により製造することができる。例えば、粒子状の正極活物質1aを転動流動状態にし、転動流動状態とされた正極活物質1aに対して、第1の被覆層1bを形成するための材料を含む前駆体溶液を吹付けて塗工し、前駆体溶液が塗工された正極活物質1aを熱処理(乾燥及び焼成)することで、正極活物質1aの表面に第1の被覆層1bを設けることができる。その後、第1の被覆層1bで被覆された正極活物質1aに対して、上記と同様の流れで、第2の被覆層1cを含む前駆体溶液を吹付けて塗工し、熱処理することで、第1の被覆層1bの表面に当該第1の被覆層1bとは別の層として第2の被覆層1cを設けることができる。この場合、各々の塗工時間等を調整することで、各々の被覆層の厚みを容易に調整することができる。
【0026】
前駆体溶液を用いて被覆層を形成する場合、前駆体溶液に含まれる前駆体の種類は特に限定されるものではない。一例として、ニオブ酸リチウムからなる被覆層を設ける場合、リチウム源とニオブ源とを含む前駆体溶液を用いればよい。リチウム源としては、例えば、リチウムエトキシド、リチウムメトキシド等のリチウムアルコキシド;水酸化リチウム;酢酸リチウム等のリチウム塩等が挙げられる。ニオブ源としては、例えば、ペンタエトキシニオブ、ペンタメトキシニオブなどのニオブアルコキシド;水酸化ニオブ;酢酸ニオブ等のニオブ塩;酸化ニオブ等が挙げられる。前駆体溶液の溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。当該溶媒に上記のリチウム源やニオブ源を分散・溶解させることで前駆体溶液を構成可能である。前駆体溶液として、原料の加水分解及び重縮合反応によるゾルを得たうえで、さらに重縮合反応及び凝集を進行させてゲル状態としたゾルゲル溶液を採用してもよい。尚、リチウム源やニオブ源としてアルコキシドを用いる場合、原料の劣化を抑制する観点等から、水分量の少ない溶媒を用いるとよい。一方、溶媒として水を用いる場合、ここにリチウム源とニオブ源とともに過酸化水素を含ませることでペルオキソ錯体を含む前駆体溶液を得てもよい。
【0027】
前駆体溶液を塗工後の熱処理温度は、被覆層1b、1cを固化させることができ、且つ、被覆層1b、1c及び正極活物質1aを劣化させない温度であればよい。例えば、150℃以上300℃以下としてもよいし、200℃以上250℃以下としてもよい。熱処理温度が低過ぎると、被覆層1b、1cにおけるリチウムイオン伝導層の形成が十分とならない場合がある。熱処理温度が高過ぎると、被覆層1b、1cが結晶化してしまい、ヤング率が上昇するとともにリチウムイオン伝導性が低下する虞がある。
【0028】
或いは、正極活物質1aの表面にバレルスパッタによって被覆層1b、1cを成膜してもよい。この場合、スパッタ時間等を調整することで、被覆層1b、1cの厚みを容易に調整することができる。
【0029】
1.2.第2形態
図2に被覆正極活物質2の断面構成を概略的に示す。
図2に示すように、被覆正極活物質2は、正極活物質2aと、正極活物質2aの表面を被覆する第1の被覆層2bと、第1の被覆層2bの表面を被覆する第2の被覆層2cとを備える。第1の被覆層2bは第1のリチウム含有酸化物からなり、第2の被覆層2cは第2のリチウム含有酸化物からなり、第1のリチウム含有酸化物の融点のほうが第2のリチウム含有酸化物の融点よりも低い。また、第1の被覆層2b及び第2の被覆層2cの双方が非晶質である。
【0030】
図1に示す被覆正極活物質1が粒子状の正極活物質1aの表面を被覆層1b、1cで被覆したものであるのに対し、
図2に示す被覆正極活物質2は薄膜状の正極活物質2aの表面を被覆層2b、2cで被覆したものである。正極活物質2a、被覆層2b、2cを構成する材料は、上記の正極活物質1a、被覆層1b、1cを構成する材料と同様とすればよい。被覆層2b、2cの厚みについても上記と同様とすればよい。
【0031】
薄膜状の正極活物質2aの厚みは特に限定されるものではなく、目的とする電池性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、当該厚みを1nm以上1mm以下とすることができる。
【0032】
被覆正極活物質2は様々な方法により製造することができる。例えば、基材層(後述の正極集電体層であってもよい)上に蒸着やスパッタや塗工等によって正極活物質2aを積層して薄膜としたうえで、当該薄膜に対して第1の被覆層2bを形成するための材料を含む前駆体溶液を吹付けて塗工し、前駆体溶液が塗工された薄膜を熱処理(乾燥及び焼成)することで、薄膜状の正極活物質2aの表面に第1の被覆層2bを設けることができる。その後、第2の被覆層2bの表面に、第2の被覆層2cを含む前駆体溶液を吹付けて塗工し、熱処理することで、第1の被覆層2bの表面に当該第1の被覆層2bとは別の層として第2の被覆層2cを設けることができる。この場合、各々の塗工時間等を調整することで、各々の被覆層2b、2cの厚みを容易に調整することができる。
【0033】
或いは、薄膜状の正極活物質2aの表面にスパッタ等によって被覆層2b、2cを成膜してもよい。この場合、スパッタ時間等を調整することで、被覆層2b、2cの厚みを容易に調整することができる。
【0034】
2.全固体電池
2.1.第1形態
図3に全固体電池100の層構成を概略的に示す。
図3に示すように、全固体電池100は、正極10と、負極20と、正極10及び負極20の間に配置された固体電解質層30とを備え、正極10が、被覆正極活物質1を備え、被覆正極活物質1が硫化物固体電解質5と接触している。
【0035】
2.1.1.正極
正極10は被覆正極活物質1を備える。
図3に示すように、正極10は、正極集電体層10aと正極活物質層10bとを備えていてもよく、この場合は正極活物質層10bに被覆正極活物質1が含まれる。
【0036】
正極集電体層10aは、全固体電池の正極集電体層として公知のものを採用すればよい。例えば、正極集電体層10aは、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。正極集電体層10aを構成する金属としては、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、Zn、ステンレス鋼等が挙げられる。正極集電体10aは表面に何らかのコート層を有していてもよい。正極集電体層10aの厚みは特に限定されるものではない。例えば0.1μm以上1mm以下であってもよいし、1μm以上100μm以下であってもよい。
【0037】
正極活物質層10bは上記の被覆正極活物質1を含む。正極活物質層10bにおける被覆正極活物質1の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質層10bの全体(固形分全体)を100質量%として、被覆正極活物質1の含有量を30質量%以上90質量%以下とすることができる。下限は50質量%以上であってもよく、上限は85質量%以下であってもよい。
【0038】
図3に示すように、正極活物質層10bには、被覆正極活物質1に加えて固体電解質5が含まれていてもよく、さらに導電助剤6やバインダー7が含まれていてもよい。また、正極活物質層10bにはその他添加剤(増粘剤等)が含まれていてもよい。
【0039】
正極活物質層10bに含まれ得る固体電解質5としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。特に、硫化物固体電解質が好ましく、Li2S-P2S5を含む硫化物固体電解質がより好ましい。硫化物固体電解質の具体例としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。固体電解質5は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層10bにおける固体電解質5の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質層10bの全体(固形分全体)を100質量%として、固体電解質5の含有量を10質量%以上70質量%以下とすることができる。下限は20質量%以上であってもよく、上限は50質量%以下であってもよい。
【0040】
正極活物質層10bに固体電解質5として硫化物固体電解質が含まれる場合、正極活物質層10bの内部において被覆正極活物質1と硫化物固体電解質とが接触することとなる。ここで、被覆正極活物質1は、表面に被覆層1b、1cを有することから、正極活物質1aと硫化物固体電解質とが直接接触し難い。また、上述の通り、電池の充放電に伴って正極活物質1aが膨張収縮した場合においても、被覆層1b、1cの割れが生じ難く、正極活物質1aと硫化物固体電解質との反応に起因した抵抗の上昇を抑え易い。
【0041】
正極活物質層10bに含まれ得る導電助剤6としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)や気相法炭素繊維(VGCF)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)や黒鉛等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤6は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。導電助剤6の形状は、粉末状、繊維状等、種々の形状を採用できる。正極活物質層10bにおける導電助剤6の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質層10bの全体(固形分全体)を100質量%として、導電助剤6の含有量を0.5質量%以上20質量%以下とすることができる。下限は1質量%以上であってもよく、上限は10質量%以下であってもよい。
【0042】
正極活物質層10bに含まれ得るバインダー7としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。バインダー7は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層10bにおけるバインダー7の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質層10bの全体(固形分全体)を100質量%として、バインダー7の含有量を1質量%以上30質量%以下とすることができる。下限は2質量%以上であってもよく、上限は15質量%以下であってもよい。
【0043】
正極活物質層10bには、被覆正極活物質1に加えて、必要に応じて、被覆正極活物質1以外の正極活物質が含まれていてもよい。
【0044】
正極活物質層10bの形状は従来と同様とすればよい。特に、全固体電池100を容易に構成できる観点から、シート状の正極活物質層10bであってもよい。この場合、正極活物質層10bの厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下としてもよいし、1μm以上150μm以下としてもよい。
【0045】
以上の構成を備える正極10は、被覆正極活物質1と、任意に含有させる固体電解質5、導電助剤6及びバインダー7とを溶媒に入れて混練することにより正極合剤を含むペースト又はスラリーを得た後、これを正極集電体10aの表面に塗布し乾燥する等の過程を経ることにより容易に製造することができる。ただし、このような湿式法に限定されるものではなく、乾式法にて正極10を製造してもよい。
【0046】
2.1.2.負極
全固体電池100における負極20の構成は当業者にとって自明であるが、以下、一例について説明する。負極20は、通常、負極活物質21と、任意成分として固体電解質25、導電助剤26、バインダー27及びその他添加剤(増粘剤等)とを含む負極活物質層20bを備える。負極活物質層20bは、負極集電体層20aの表面に設けられていてもよい。
【0047】
負極集電体層20aは、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。負極集電体層20aを構成する金属としては、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、Zn、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体層20aは表面に何らかのコート層を有していてもよい。負極集電体層20aの厚みは特に限定されるものではない。例えば0.1μm以上1mm以下としてもよいし、1μm以上100μm以下としてもよい。
【0048】
負極活物質層20bは、少なくとも負極活物質21を含む層であり、負極活物質21に加えて、さらに任意に固体電解質25、導電助剤26及びバインダー27等を含ませることができる。負極活物質21は公知の活物質を用いればよい。公知の活物質のうち、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、上述の正極活物質1aよりも卑な電位であるものを負極活物質として用いることができる。例えば、SiやSi合金;グラファイトやハードカーボン等の炭素材料;チタン酸リチウム等の各種酸化物;金属リチウムやリチウム合金等を用いることができる。固体電解質25、導電助剤26及びバインダー27は正極活物質層10bに用いられるものとして例示したものの中から適宜選択して用いることができる。負極活物質層20bにおける各成分の含有量は従来と同様とすればよい。負極活物質層20bの形状も従来と同様とすればよい。特に、全固体電池100を容易に構成できる観点から、シート状の負極活物質層20bであってもよい。この場合、負極活物質層20bの厚みは、例えば0.1μm以上1mm以下としてもよいし、1μm以上100μm以下としてもよい。負極20の容量が正極10の容量よりも大きくなるように、負極活物質20bの厚みを決定してもよい。
【0049】
以上の構成を備える負極20は、負極活物質21と、任意に含有させる固体電解質25、導電助剤26及びバインダー27とを溶媒に入れて混練することにより負極合剤を含むペースト又はスラリーを得た後、これを負極集電体20aの表面に塗布し乾燥する等の過程を経ることにより容易に製造することができる。ただし、このような湿式法に限定されるものではなく、乾式法にて負極20を製造することも可能である。負極集電体20aの表面にスパッタや蒸着によって負極活物質層20bの薄膜を設けて負極20としてもよい。
【0050】
2.1.3.固体電解質層
全固体電池100における固体電解質層30の構成は当業者にとって自明であるが、以下、一例について説明する。固体電解質層30は、固体電解質35と任意にバインダー37とを含む。固体電解質35は、上述の固体電解質5、25と同様としてもよい。特に上記の硫化物固体電解質を採用することが好ましい。固体電解質層30に含まれ得るバインダー37は上記したバインダー7、27と同様のものを適宜選択して用いることができる。固体電解質層30における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。固体電解質層30の形状も従来と同様とすればよい。例えば、シート状の固体電解質層30であってもよい。シート状の固体電解質層30は、例えば、固体電解質35と任意にバインダー37とを溶媒に入れて混練することにより固体電解質を含むスラリー又はペーストを得た後、これを基材の表面に塗布し乾燥する、或いは、正極活物質層10b及び/又は負極活物質層20bの表面に塗布し乾燥する、或いは、固体電解質35等を乾式でプレス成形する、或いは基材等の表面にスパッタや蒸着によって固体電解質層30の薄膜を設ける等の過程を経ることにより容易に製造することができる。この場合、固体電解質層30の厚みは、例えば0.1μm以上300μm以下としてもよいし、0.1μm以上100μm以下としてもよい。
【0051】
固体電解質層30に硫化物固体電解質が含まれる場合、正極活物質層10bと固体電解質層30との界面において、被覆正極活物質1と硫化物固体電解質とが接触することとなる。ここで、被覆正極活物質1は、表面に被覆層1b、1cを有することから、正極活物質1aと硫化物固体電解質とが直接接触し難い。また、上述の通り、電池の充放電に伴って正極活物質1aが膨張収縮した場合においても、被覆層1b、1cの割れが生じ難く、正極活物質1aと硫化物固体電解質との反応に起因した抵抗の上昇を抑え易い。
【0052】
2.1.4.その他の部材
全固体電池100は、例えば、上記の正極10、固体電解質層30及び負極20を積層してプレスすること等によって製造することができる。言うまでもないが、全固体電池100は、正極10、負極20及び固体電解質層30の他に、必要な端子や電池ケース等を備えていてもよい。また、各層の積層方向に拘束圧力を付与するための拘束部材を備えていてもよい。これら部材は公知であり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0053】
2.2.第2形態
図4に全固体電池200の層構成を概略的に示す。
図4において、
図3と同様の構成については同一符号を付す。
図4に示すように、全固体電池200は、正極110と、負極20と、正極110及び負極20の間に配置された固体電解質層130とを備え、正極110が、被覆正極活物質2を備え、被覆正極活物質2が硫化物固体電解質135と接触している。
【0054】
図3に示す全固体電池100は、正極10が粒子状の被覆正極活物質1を備え、且つ、被覆正極活物質1が正極活物質層10b中の硫化物固体電解質及び/又は固体電解質層30中の硫化物固体電解質と接触しているのに対し、
図4に示す全固体電池200は、正極110が薄膜状の被覆正極活物質2を備え、且つ、被覆正極活物質2が固体電解質層130中の硫化物固体電解質135と接触している。ここで、正極活物質2aと固体電解質層130との間には被覆層2b、2cが配置されており、正極活物質2aと固体電解質層130中の硫化物固体電解質135とが直接接触し難い。また、上述の通り、電池の充放電に伴って正極活物質2aが膨張収縮した場合においても、被覆層2b、2cの割れが生じ難く、正極活物質2aと硫化物固体電解質との反応に起因した抵抗の上昇を抑え易い。
【実施例】
【0055】
1.実施例1
1.1.正極活物質の用意
正極活物質として粒子状のニッケルコバルト酸リチウム(住友金属鉱山社製)を用意した。
【0056】
1.2.第1の被覆層の形成
バレススパッタ(フルヤ金属社製)を用いて、上記の正極活物質の表面にタングステン酸リチウムを成膜し、正極活物質の表面に厚さ3nmの第1の被覆層を形成した。
【0057】
1.3.第2の被覆層の形成
1.3.1.前駆体溶液の作製
2Lのエタノール(和光純薬社製)に、1mmolのリチウムエトキシド(高純度化学社製)及び1mmolのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を混合して、前駆体溶液(ゾルゲル溶液)を得た。
【0058】
1.3.2.前駆体溶液の塗工
転動流動コーティング装置(MP-01、パウレック社製)を用いて、第1の被覆層により被覆された正極活物質を流動させながら、前駆体溶液を吹付け塗工し、乾燥後、大気雰囲気下で200℃で5時間熱処理することにより、第1の被覆層の表面にニオブ酸リチウムからなる厚さ7nmの第2の被覆層を有する被覆正極活物質を得た。
【0059】
1.4.全固体電池の作製
1.4.1.正極の作製
被覆正極活物質と、硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系固体電解質)とを質量比で75:25となるように秤量し、さらに、被覆正極活物質100質量部に対してPVdF系バインダーを3質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量部秤量した。これらを酪酸ブチル溶媒に固形分60wt%となるように調合し、攪拌機で混練することにより正極ペーストを得た。得られたペーストをアプリケーターによるブレードコート法により厚さ15μmのアルミニウム箔上に塗布し、150℃で15分間乾燥し、正極を得た。
【0060】
1.4.2.負極の作製
負極活物質(チタン酸リチウム)と硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系固体電解質)とを質量比で50:50となるように秤量し、さらに、活物質100質量部に対してPVdF系バインダーを6質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを6質量部秤量した。これらを酪酸ブチル溶媒に固形分40wt%となるように調合し、攪拌機で混練することにより負極ペーストを得た。得られたペーストをアプリケーターによるブレードコート法により厚さ15μmの銅箔上に塗布し、150℃で15分間乾燥し、負極を得た。
【0061】
1.4.3.固体電解質層の作製
硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系固体電解質)とブチレンゴム系バインダーとを質量比で95:5となるように秤量した。これをヘプタン溶媒に固形分40%となるように調合し、超音波分散装置による攪拌することで固体電解質ペーストを得た。得られたペーストをアプリケーターによるブレードコート法により基材上に塗布し、自然乾燥後、さらに100℃で30分間乾燥させ、固体電解質層を得た。
【0062】
1.4.4.各層の積層等
固体電解質層を基材から剥がすとともに、正極と固体電解質層と負極とを重ねて1ton/cmでプレスした後、端子付きのアルミニウムラミネートフィルムで密閉して全固体電池を得た。
【0063】
1.5.全固体電池の評価
1.5.1.初期抵抗
電池作製後、1/3Cレートにて定電流-定電圧充電および放電での容量確認を行った後、25℃下にて、7Cレートにて10秒間の放電を行い、全固体電池の初期抵抗を測定した。SOC40%での結果を下記表1に示す。
【0064】
1.5.2.抵抗増加率
初期抵抗を測定後、60℃下にて、SOC0~100%の範囲で2Cレートにて定電流充放電を行う充放電サイクルを300回行い、サイクル終了後の全固体電池の抵抗を測定し、初期抵抗からの抵抗増加率を求めた。SOC40%での結果を下記表1に示す。
【0065】
2.実施例2
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層の厚みを5nmとし、ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層の厚みを5nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0066】
3.実施例3
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層の厚みを7nmとし、ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層の厚みを3nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0067】
4.実施例4
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層の厚みを5nmとし、ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層の厚みを10nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0068】
5.比較例1
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムからなる厚みが5nmの第2の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0069】
6.比較例2
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムからなる厚さが10nmの第2の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0070】
7.比較例3
タングステン酸リチウムからなる第1の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムからなる厚さが15nmの第2の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0071】
8.比較例4
ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にタングステン酸リチウムからなる厚さが5nmの第1の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0072】
9.比較例5
ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にタングステン酸リチウムからなる厚さが10nmの第1の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0073】
10.比較例6
ニオブ酸リチウムからなる第2の被覆層を設けることなく、正極活物質の表面にタングステン酸リチウムからなる厚さが15nmの第1の被覆層のみを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0074】
11.比較例7
下記に示すように、被覆正極活物質においてニオブ酸リチウムからなる第1の被覆層とタングステン酸リチウムからなる第2の被覆層とを設けたこと以外は、実施例1と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0075】
11.1.第1の被覆層の形成
11.1.1.前駆体溶液の作製
2Lのエタノール(和光純薬社製)に、1mmolのリチウムエトキシド(高純度化学社製)及び1mmolのペンタエトキシニオブ(高純度化学社製)を混合して、前駆体溶液(ゾルゲル溶液)を得た。
【0076】
11.1.2.前駆体溶液の塗工
転動流動コーティング装置(MP-01、パウレック社製)を用いて、正極活物質を流動させながら、前駆体溶液を吹付け塗工し、乾燥後、大気雰囲気下で200℃で5時間熱処理することにより、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムからなる厚みが1nmの第1の被覆層を形成した。
【0077】
11.2.第2の被覆層の形成
バレススパッタ(フルヤ金属社製)を用いて、第1の被覆層の表面にタングステン酸リチウムを成膜し、第1の被覆層の表面に厚さ9nmの第2の被覆を有する被覆正極活物質を得た。
【0078】
12.比較例8
ニオブ酸リチウムからなる第1の被覆層の厚みを5nmとし、タングステン酸リチウムからなる第2の被覆層の厚みを5nmとしたこと以外は、比較例7と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0079】
13.比較例9
ニオブ酸リチウムからなる第1の被覆層の厚みを9nmとし、タングステン酸リチウムからなる第2の被覆層の厚みを1nmとしたこと以外は、比較例7と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0080】
14.比較例10
第2の被覆層を形成時の熱処理温度を500℃とすることで、結晶質の第2の被覆層を得たこと以外は、実施例2と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0081】
15.比較例11
第1の被覆層を形成後、500℃にて5時間熱処理することで、結晶質の第1の被覆層を得たこと以外は、実施例2と同様にして被覆正極活物質及び全固体電池を作製し、上記の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0082】
【0083】
表1に示す結果から、以下のことが分かる。
(1)比較例1~6においては、電池の初期抵抗はある程度小さいものの、充放電サイクル後の電池の抵抗増加率が200%以上と極めて大きくなった。比較例1~6においては、被覆層が単層構造であり、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮によって被覆層の割れの進展が生じたものと考えられる。そして、被覆層の割れが進展した結果、活物質表面と硫化物固体電解質とが接触して反応し、界面抵抗が徐々に増加したものと考えられる。
(2)比較例7~9においては、電池の初期抵抗はある程度小さいものの、充放電サイクル後の電池の抵抗増加率が200%以上と極めて大きくなった。比較例7~9においては、内側の被覆層を構成するリチウム含有酸化物(ニオブ酸リチウム)の融点が、外側の被覆層を構成するリチウム含有酸化物(タングステン酸リチウム)の融点よりも高く、すなわち、外側の被覆層よりも内側の被覆層のほうが硬い。そのため、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮によるひずみを内側の被覆層によって吸収することができず、結果として被覆層が割れてしまったものと考えられる。そして、被覆層が割れた結果、被覆層のない活物質表面と硫化物固体電解質とが接触して反応し、界面抵抗が増加したものと考えられる。
(3)比較例10、11においては、電池の初期抵抗が大きいうえ、充放電サイクル後の電池の抵抗増加率も200%以上と極めて大きくなった。一般に、リチウム含有酸化物については、非晶質のものよりも結晶質のもののほうがリチウムイオン伝導度が低い。すなわち、比較例10、11においては、被覆層のリチウムイオン伝導度が低いため、初期抵抗が大きくなったものと考えられる。また、一般に、結晶質の被覆層は非晶質の被覆層に比べて硬い。そのため、充放電サイクル時の正極の膨張収縮によるひずみを被覆層が吸収しきれず、結果として被覆層が割れてしまったものと考えられる。そして、被覆層が割れた結果、被覆層のない活物質表面と硫化物固体電解質とが接触して反応し、界面抵抗が増加したものと考えられる。
(4)実施例1~4においては、電池の初期抵抗が十分に小さく、且つ、充放電サイクル後の電池の抵抗増加率も200%未満と顕著に低下した。実施例1~4においては、内側の被覆層を構成するリチウム含有酸化物(タングステン酸リチウム)の融点が、外側の被覆層を構成するリチウム含有酸化物(ニオブ酸リチウム)の融点よりも低く、すなわち、外側の被覆層よりも内側の被覆層のほうが柔らかい。そのため、充放電サイクル時の正極の膨張収縮によるひずみを内側の被覆層によって吸収することができ、結果として被覆層の割れが抑制されたものと考えられる。また、被覆層を2層構成とすることで、一方の層に割れが生じた場合に、他方の層に割れが進展し難く、結果として正極活物質の露出が抑えられたものと考えられる。さらに、被覆層を非晶質とすることで、被覆層の柔軟性が向上するとともに、高いリチウムイオン伝導性が確保される。そのため、初期抵抗を低下させることができるとともに、被覆層の割れを一層抑制できたものと考えられる。
【0084】
尚、上記の実施例においては、正極活物質、第1の被覆層及び第2の被覆層が特定の材料により構成される形態について説明したが、本開示の技術において採用され得る材料は上記の実施例にて例示した材料に限定されるものではない。正極活物質はその種類を問わず、電池の充放電時に膨張収縮を伴うことから、いずれの正極活物質を採用した場合においても同様の課題が生じるところ、本開示の技術を採用することで当該課題を解決できるものと考えられる。また、無機系のリチウム含有酸化物は、ヤング率と融点との間に相関関係があり、融点が低いもののほうが柔らかい。すなわち、被覆層を構成するにあたっては、その材料の融点に着目して、内側の被覆層(第1の被覆層)に融点の低い材料を、外側の被覆層(第2の被覆層)に融点の高い材料を採用することで、上記のような所望の効果が期待できる。よって、本開示の技術においては、融点の大小関係を満たす限り、被覆層に様々なリチウム含有酸化物を採用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示の被覆正極活物質を用いた全固体電池は、例えば、車搭載用等の大型電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 第1形態に係る被覆正極活物質
1a 正極活物質
1b 第1の被覆層
1c 第2の被覆層
2 第2形態に係る被覆正極活物質
2a 正極活物質
2b 第1の被覆層
2c 第2の被覆層
100 第2形態に係る全固体電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質
200 第1形態に係る全固体電池
110 正極
20 負極
130 固体電解質