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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】排水機場
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/22 20060101AFI20220628BHJP
   E03F 5/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
E03F5/22
E03F5/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019119300
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004506
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】千葉 真
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】江藤 文宣
(72)【発明者】
【氏名】内田 義弘
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048648(JP,A)
【文献】特開2017-166415(JP,A)
【文献】実開平07-038290(JP,U)
【文献】特開2017-166222(JP,A)
【文献】特開平10-292474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 5/22
E03F 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹線水路から流れ込む流入水を所定の放流領域に排出するための排水機場であって、
前記幹線水路に接続される流入水路と、
前記流入水路に接続され、互いに隣接して配置された複数のポンプ吸込水路と、
各ポンプ吸込水路に接続された複数の吸込水槽と、
各吸込水槽内の前記流入水を排出する複数のポンプと、を備え、
前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路の一部を取り囲むように、該複数のポンプ吸込水路の外側に配置されており、
前記流入水路は、前記流入水の流速を該流入水に含まれる砂が沈降可能な流速まで低下させる少なくとも1つの減速部を有していることを特徴とする排水機場。
【請求項2】
前記減速部は、その断面積が前記流入水の流れ方向において徐々に拡大することを特徴とする請求項1に記載の排水機場。
【請求項3】
前記減速部は、前記流入水路内の水の流れ方向を変化させる曲部から構成されることを特徴とする請求項2に記載の排水機場。
【請求項4】
前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路と平行に延びる流路を有しており、
前記流路の前記流入水の流れ方向は、前記複数のポンプ吸込水路の前記流入水の流れ方向とは逆向きであることを特徴とする請求項3に記載の排水機場。
【請求項5】
前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路の一部を取り囲むように、円弧状に延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の排水機場。
【請求項6】
前記減速部の外側側壁は、該減速部の内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ前記減速部の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項7】
前記減速部は、該減速部の入口から出口に向かって徐々に下方に傾斜する底壁を有していることを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項8】
前記減速部は、前記流入水の流れ方向に垂直な断面で見たときに、該減速部の外側側壁と内側側壁との間の距離が前記減速部の底壁に向かって徐々に大きくなるドーム形状を有していることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項9】
前記減速部は、
前記流入水の流れ方向に沿って交互に連続する複数の突部および凹部と、
前記減速部の内側側壁に沿って形成された案内溝と、を備え、
前記凹部は、前記案内溝に接続されていることを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項10】
前記減速部の下流側に配置された堆砂ピットをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項11】
前記複数のポンプによって排出された水が流入する吐出水槽と、
前記吐出水槽および前記放流領域に連通する吐出水路と、をさらに備え、
前記吐出水路は、前記流入水路および/または前記ポンプ吸込水路の上方に位置していることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の排水機場。
【請求項12】
前記幹線水路から前記流入水路への前記流入水の流入を遮断する開閉可能な流入ゲートと、
前記吐出水槽および前記流入水路と連通するバイパス水路と、
前記吐出水槽から前記バイパス水路への水の流入を遮断する開閉可能なバイパス入口ゲートと、
前記パイパス水路から前記流入水路への水の流入を遮断する開閉可能なバイパス出口ゲートと、をさらに備えたことを特徴とする請求項11に記載の排水機場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下放水路、または河川などの幹線水路から流れ込む水を複数のポンプで放流領域に排出する排水機場に関し、特に、大雨が降った際の災害を防止する排水システムに設けられる排水機場に関する。
【背景技術】
【0002】
排水機場は、地下放水路、または河川などの幹線水路から流れ込む水をポンプで汲み上げて放流領域(例えば、大河川または海)に排出する設備である。このような排水機場は、例えば、大雨が降った際の災害(例えば、河川氾濫)などを防止するための排水システムに設けられる。なお、本明細書では、幹線水路から排水機場に流れ込む水を「流入水」と称することがある。
【0003】
図11は、従来の排水機場が設けられた排水システムの一例を示す模式図である。図11に示す排水システムでは、複数の小河川と連通する複数の立坑100を互いに接続する地下放水路101が、地下50~60mの深さに埋設されている。また、地下放水路101は地下に設置された排水機場の吸込水槽102に接続されている。このような排水システムにおいて、大雨により小河川が氾濫しそうな場合には、立坑100から地下放水路101に水が送られる。さらに、水は地下放水路101を通って排水機場の吸込水槽102に集められ、排水機場に設けられた複数のポンプPによって放流領域である吐出河川へ排出される。これにより、小河川の氾濫が防止される。
【0004】
このような排水機場は、数十年に一度の降雨量に基づいて設計され、この排水機場に設置されるポンプPは、その重要性や予備機を設けない設計思想などから、確実な始動および運転が求められる。したがって、全てのポンプPが同様の条件で安定した運転ができるよう、ポンプPに流れ込む水流を安定化させる必要がある。
【0005】
さらに、地下放水路101などの幹線水路から排水機場に流れ込む流入水には、多量の砂が含まれている。ポンプ運転の信頼性を向上させるためには、流入水に含まれる砂をポンプPにできる限り吸い込ませないことが重要である。そのため、流入水がポンプPに吸い込まれる前に、流入水の流速を、砂が沈降可能な流速まで低下させるのが好ましい。
【0006】
従来の排水機場では、長い吸込水槽102を構築することで沈砂と流入水の安定、すなわち偏流や渦の防止を図ることが行われてきた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、流入水の流速を、砂が沈降可能な流速まで低下させるためには、広大なスペースを有する吸込水槽102を用意する必要があり、排水機場の用地確保、および建設コストの高騰などの問題が生じる。特に、地下放水路101に接続される排水機場は、数キロメータ以上に及ぶ範囲の下水および雨水を集約して排水する設備であるため、沈砂と流入水の安定のために要求される吸込水槽102のスペースおよび建設コストは膨大なものとなる。
【0007】
特許文献2には、仕切壁によって複数の流路に分割された沈砂池と、各流路に水流に対して直交する堰とを備えたポンプ吸込水槽が開示されている。この構成によれば、各流路を流れる水の流量および流速を均一化できるので、吸込水槽の長さを短くすることが期待できる。さらに、特許文献3には、吸込水槽内で流入水に含まれる砂が堆積するのを防止するための可動式のバッフルが設置された吸込水槽が開示されている。この構成によれば、流入水に含まれる砂は、吸込水槽で沈降されずにポンプによって排水機場から放流領域に排出される。したがって、広大なスペースを有する吸込水槽を設ける必要がない。特許文献4には、主水路から分岐された迂回水路に、塵芥を捕捉して迂回水路幅方向に移送可能なスクリーンと、該スクリーンの上流側および下流側に連通する貯留場と、該貯留場内で旋回流を発生させる水流発生手段とを備えた排水システム用除塵設備が開示されている。この排水システム用除塵設備を排水機場に設ければ、流入水に含まれる砂を貯留場に堆積できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-73090号公報
【文献】実開昭61-187998号公報
【文献】特開平6-323293号公報
【文献】特開平11-29918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の吸込水槽の構成でも、流入水の流速を砂が沈降可能な流速まで低下させるには、吸込水槽には広大なスペースが要求され、その結果、排水機場の設置面積が過大になってしまう。特に、特許文献2に記載の吸込水槽の構成を、広大な設置面積を確保することが難しい都市部に設置される排水機場に用いることは困難である。さらに、流入水に含まれる砂は、複数の流路の全てに沈降してしまうので、排水機場の運転が停止された後で、該排水機場から砂を取り除くには、非常に大きなコストと労力が必要となる。
【0010】
特許文献3に記載の吸込水槽の構成では、流入水に含まれる砂がそのまま放流領域に排出されてしまうので、放流領域の環境を悪化させてしまうおそれがある。放流領域の環境の悪化を防止するには、広大な面積を有する沈砂池を排水機場の下流側に設ける必要がある。さらに、多量の砂が含まれる流入水がポンプに吸い込まれるため、ポンプ運転の信頼性が低下するとともに、ポンプのメンテナンス頻度の増加が懸念される。
【0011】
特許文献4に記載の排水システム用除塵設備を排水機場に組み込むと、排水機場の構成が複雑となり、排水機場の建設コストおよびメンテナンスコストが上昇してしまう。さらに、この除塵設備は、水に浮遊する塵芥を捕集可能ではあるが、流入水に含まれる砂は、流入水とともに貯留場から排出されてしまう可能性が高い。
【0012】
そこで、本発明は、広大な設置面積を不要とし、かつ簡易な構成で、流入水に含まれる砂を所定の場所に堆積させることが可能な排水機場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、幹線水路から流れ込む流入水を所定の放流領域に排出するための排水機場であって、前記幹線水路に接続される流入水路と、前記流入水路に接続され、互いに隣接して配置された複数のポンプ吸込水路と、各ポンプ吸込水路に接続された複数の吸込水槽と、各吸込水槽内の前記流入水を排出する複数のポンプと、を備え、前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路の一部を取り囲むように、該複数のポンプ吸込水路の外側に配置されており、前記流入水路は、前記流入水の流速を該流入水に含まれる砂が沈降可能な流速まで低下させる少なくとも1つの減速部を有していることを特徴とする排水機場が提供される。
【0014】
一態様では、前記減速部は、その断面積が前記流入水の流れ方向において徐々に拡大する。
一態様では、前記減速部は、前記流入水路内の水の流れ方向を変化させる曲部から構成される。
一態様では、前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路と平行に延びる流路を有しており、前記流路の前記流入水の流れ方向は、前記複数のポンプ吸込水路の前記流入水の流れ方向とは逆向きである。
一態様では、前記流入水路は、前記複数のポンプ吸込水路の一部を取り囲むように、円弧状に延びている。
【0015】
一態様では、前記減速部の外側側壁は、該減速部の内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ前記減速部の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有する。
一態様では、前記減速部は、該減速部の入口から出口に向かって徐々に下方に傾斜する底壁を有している。
一態様では、前記減速部は、前記流入水の流れ方向に垂直な断面で見たときに、該減速部の外側側壁と内側側壁との間の距離が前記減速部の底壁に向かって徐々に大きくなるドーム形状を有している。
【0016】
一態様では、前記減速部は、前記流入水の流れ方向に沿って交互に連続する複数の突部および凹部と、前記減速部の内側側壁に沿って形成された案内溝と、を備え、前記凹部は、前記案内溝に接続されている。
一態様では、前記排水機場は、前記減速部の下流側に配置された堆砂ピットをさらに備える。
【0017】
一態様では、前記排水機場は、前記複数のポンプによって排出された水が流入する吐出水槽と、前記吐出水槽および前記放流領域に連通する吐出水路と、をさらに備え、前記吐出水路は、前記流入水路および/または前記ポンプ吸込水路の上方に位置している。
一態様では、前記排水機場は、前記幹線水路から前記流入水路への前記流入水の流入を遮断する開閉可能な流入ゲートと、前記吐出水槽および前記流入水路と連通するバイパス水路と、前記吐出水槽から前記バイパス水路への水の流入を遮断する開閉可能なバイパス入口ゲートと、前記パイパス水路から前記流入水路への水の流入を遮断する開閉可能なバイパス出口ゲートと、をさらに備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも1つの減速部が流入水路を流れる水の流速を砂が沈降可能な流速まで低下させる。すなわち、流入水路に減速部を形成するといった簡易な構成で、流入水に含まれる砂を所望の場所に堆積させることができる。したがって、砂を沈降させるための長い吸込水路を排水機場に設ける必要がなく、排水機場に堆積した砂を排出するためのコストを低下させることができる。さらに、幹線水路に接続される流入水路は、互いに隣接して配置された複数のポンプ吸込水路の一部を囲むように、該ポンプ吸込水路の外側に配置されるので、排水機場の設置面積を必要最小限に抑えることができる。その結果、広大な設置面積を確保する必要がなくなるので、排水機場の立地条件の制限が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係る排水機場を模式的に示した平面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、図2のB-B線断面図である。
図4図4は、図1に示す第2曲部を拡大して示す模式図である。
図5図5は、図4のC-C線断面図である。
図6図6(a)は、図4のD-D線に沿った断面の一例を模式的に示す図であり、図6(b)は、図4のD-D線に沿った断面の他の例を模式的に示す図である。
図7図7(a)は、さらに他の変形例に係る第2曲部の平面図であり、図7(b)は、図7(a)のE-E線断面図である。
図8図8は、他の実施形態に係る排水機場を模式的に示した平面図である。
図9図9は、図8のF-F線断面図である。
図10図10は、さらに他の実施形態に係る排水機場を模式的に示した平面図である。
図11図11は、排水機場が設けられる排水システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係る排水機場を模式的に示した平面図であり、図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図2のB-B線断面図である。図1乃至図3に示す排水機場は、幹線水路の一例である地下放水路101に接続される。図11を参照して説明されたように、地下放水路101は、複数の小河川と連通する複数の立坑100を互いに接続する幹線水路であり、例えば、地下50~60mの深さに埋設されている。
【0021】
図1乃至図3に示すように、排水機場は、地下放水路101に接続される流入水路1と、該流入水路1に接続される複数の(図示した例では、4つの)ポンプ吸込水路3と、各ポンプ吸込水路3に接続される複数の吸込水槽5と、各吸込水槽5内の水を吐出水槽15に移送する複数のポンプ7と、を備える。複数のポンプ吸込水路3は水平方向に互いに隣接して配置されており、隣接するポンプ吸込水路3は隔壁41によって互いに区切られている。各ポンプ吸込水路3は直線状に延びている。
【0022】
流入水路1は、複数のポンプ吸込水路3の一部を取り囲むように、複数のポンプ吸込水路3の外側に配置される。本実施形態では、地下放水路101に接続される流入水路1は、図1に示す平面視で、略C字形状を有している。この流入水路1は、地下放水路101の出口に接続される入口部20aを有する入口流路20と、入口流路20の出口に接続される第1曲部21と、第1曲部21の出口に接続される中間流路23と、中間流路23の出口に接続される第2曲部25と、第2曲部25の出口に接続される末端流路26と、を有する。入口流路20の入口部20aと幹線水路101との接続部には、流入ゲート38が配置されており、流入ゲート38は、図示しない昇降装置に接続されている。流入ゲート38を開くと、流入水路1(すなわち、排水機場)が地下放水路101と連通し、地下放水路101を流れてきた水は、排水機場に流れ込むことができる。流入ゲート38を閉じることより、地下放水路101から排水機場への水の流れが遮断される。
【0023】
図1に示す地下放水路101は、流入水路1の入口流路20に対して直角に接続されており、入口流路20の入口部20aは、地下放水路101の出口と対向する側壁20bを有する。地下放水路101から流入水路1の入口流路20aに流れ込んだ流入水は、最初に、入口部20aの側壁20bに衝突し、これにより、流入水が減勢される。すなわち、地下放水路101を流れる水の流速V1は、入口流路20の入口部20aで流速V2に低下される(V2<V1)。
【0024】
なお、流速V2は、流入水に含まれる砂が沈降可能な流速よりも大きい。しかしながら、流入水が入口部20aの側壁20bに衝突すると、図1に示すように、流入水に旋回流および/または渦などが発生して、流入水の水流が乱される。この場合、流入水に含まれる砂の一部が入口部20aの近傍に堆積することがある。そのため、入口流路20の入口部20aの底壁に堆砂ピット(図示せず)を形成してもよい。
【0025】
本実施形態では、入口流路20は、地下放水路101の断面積と等しく、かつその入口から出口まで一定である断面積を有する。しかしながら、本発明はこの例に限定されない。例えば、流入水の流速を上記流速V2よりも低下させるために、入口流路20は、地下放水路101の断面積よりも大きな断面積を有していてもよいし、該入口流路20の入口から出口に向かって徐々に大きくなる断面積を有していてもよい。
【0026】
さらに、本実施形態では、地下放水路(幹線水路)101は、入口流路20に対して直角に接続されているが、本発明はこの例に限定されない。例えば、地下放水路101は、平面視で、入口流路20に対して斜めに接続されてもよい。あるいは、流入水が後述する「減速部」として構成される第2曲部25に到達するまで直線状に流れるように、地下放水路101と入口流路20とを直線状に接続してもよい。この場合、流入水の流速は、第2曲部25に到達するまで低下しないので、流入水に含まれる砂が入口流路20の入口から第2曲部25の間の底壁に堆積することが防止される。
【0027】
流入水路1の入口流路20を流れる流入水は、第1曲部21でその流れ方向を90°変更される。すなわち、流入水の流れは、第1曲部21を通過することによって90°旋回される。本実施形態では、第1曲部21を通過する際に、流入水の流速が入口流路20における流入水の流速V2から極力低下しないように、第1曲部21は、その入口から出口まで入口流路20の断面積と同一の断面積を有するように構成される。さらに、中間流路23の断面積は、該中間流路23で流入水の流速が低下しないように、その入口から出口まで一定であるのが好ましい。このような構成によれば、第1曲部21および中間流路23を流れる流入水は、入口流路20における流入水の流速V2とほぼ同じ流速を有するので、流入水に含まれる砂が第1曲部21および中間流路23に堆積することが防止される。
【0028】
中間流路23は、複数のポンプ吸込水路3と平行に延びており、中間流路23を流れてきた流入水は、該中間流路23の出口に接続された第2曲部25に流れ込む。この第2曲部25によって、流入水路1の中間流路23を流れる流入水の流れ方向は、90°変更される。
【0029】
本実施形態において、第2曲部25は、流入水路1を流れる水の流速を砂が沈降可能な流速まで低下させる減速部として機能する。具体的には、流入水の流速は、該流入水が第2曲部25を通過する間(すなわち、流入水が第2曲部25の入口から出口まで流れる間)に、流速V2から、砂が沈降可能な流速V3まで低下される。
【0030】
流入水の流速を砂が沈降可能な流速V3まで低下させるために、第2曲部25は、該第2曲部25の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。第2曲部25の流路の断面積は、該第2曲部25内の流入水の流れ方向に垂直な第2曲部25の断面積である。本実施形態では、第2曲部25は、互いに異なる曲率半径を有する外側側壁25aと内側側壁25bとを有している。より具体的には、第2曲部25の外側側壁25aは、該第2曲部25の内側側壁25bの曲率半径よりも大きく、かつ第2曲部25の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有する。このような構成により、流入水が第2曲部25を通過する際に、流入水の水流の乱れをほとんど発生させずに、流入水の流速を効果的に低下させることができる。なお、本明細書において、複数のポンプ吸込水路3に近い方の減速部の側壁を「内側側壁」と称し、複数のポンプ吸込水路3から遠い方の減速部の側壁を「外側側壁」と称する。
【0031】
第2曲部25を通過した流入水は、該第2曲部25の出口に接続される末端流路26に流れ込む。この末端流路26には、第2曲部25の出口に隣接する堆砂ピット24が設けられており、第2曲部25から末端流路26に流れ込んだ流入水に含まれる砂は堆砂ピット24に沈降される。本実施形態では、堆砂ピット24は、末端流路26の入口の底壁に形成されており、第2曲部25の出口の底壁に接続されている。
【0032】
本実施形態では、堆砂ピット24の底壁は、その周縁部から中心に向かって徐々に下方に傾斜するすり鉢形状を有する。しかしながら、堆砂ピット24の形状は、特に限定されない。例えば、堆砂ピット24は、鉛直方向におけるその断面が四角形となる形状、または逆山形となる形状を有していてもよい。末端流路26の流入水の流れ方向と垂直な堆砂ピット24の幅D1は、末端流路26の幅とほぼ同一であるのが好ましい。末端流路26内の流入水の流れ方向における堆砂ピット24の幅D2は、ポンプ吸込水路3内の流入水の流れ方向に対して垂直なポンプ吸込水路3の幅D3と同じか、または幅D3よりも若干小さいのが好ましい。
【0033】
さらに、堆砂ピット24に堆積した砂を排水機場から排出するために、堆砂ピット24の上方に、砂掻き上げ装置(図示せず)を設けてもよい。砂掻き上げ装置は、例えば、バケットと該バケットを上下方向に移動させる昇降機構などを含む。さらに、バケットの上下方向の移動を円滑に行うために、堆砂ピット24の上方の空間は、地上まで垂直に延びて、該地上に連通しているのが好ましい。
【0034】
末端流路26に流れ込んだ流入水は、該末端流路26に接続された各ポンプ吸込水路3に流れ込む。各ポンプ吸込水路3の入口には、吸込ゲート17が配置されている。吸込ゲート17は、図示しない昇降機構にそれぞれ接続されており、吸込ゲート17を開くと、ポンプ吸込水路3は、流入水路1の末端流路26と連通し、流入水がポンプ吸込水路3に流れ込む。吸込ゲート17を閉じることにより、ポンプ吸込水路3への流入水の流れが遮断される。排水機場の運転者は、地下放水路101から排水機場に流れ込む流入水(すなわち、流入水路1を流れる流入水)の流量に応じて、開かれるべき吸込ゲート17の数を選択することができる。
【0035】
図1に示すように、上述した流入水路1の中間流路23は、複数のポンプ吸込水路3の1つに隣接して配置されており、中間流路23内の流入水の流れ方向は、各ポンプ吸込水路3内の流入水の流れ方向とは逆向きである。このような構成を達成するために、各ポンプ吸込水路3は、末端水路26の側壁に接続され、平面視で末端水路26に対して垂直な方向に延びている。この構成により、排水機場の設置面積を好適に低下させることができる。
【0036】
図2に示すように、流入水路1の末端流路26からポンプ吸込水路3に流れ込んだ流入水は、ポンプ吸込水路3の出口に接続された吸込水槽5に流れ込む。なお、図2では、閉じた状態の上記吸込ゲート17を仮想線(点線)で描いている。末端流路26およびポンプ吸込水路3を流れる流入水の流速は、砂が沈降可能な流速V3、すなわち、非常に遅い流速まで低下している。この流入水を直線状に延びるポンプ吸込水路3に流すことにより、該流入水の水流が安定化される。すなわち、流入水がポンプ吸込水路3を流れる間に、該流入水は整流され、その結果、偏流や渦の無い安定化された流入水が吸込水槽5に流れ込む。
【0037】
吸込水槽5内には、駆動装置32に連結されたポンプ7が配置されており、ポンプ7の吸込口は、吸込水槽5内で開口している。ポンプ7の吐出管は、吐出水槽15に連通している。駆動装置32を稼働すると、ポンプ7は、吸込水槽5内の水を吸込口から吸い込み、吐出管を介して吐出水槽15に移送する。なお、ポンプ7の吐出管には、吐出水槽15からの水の逆流を防止するための逆止弁およびポンプ吐出弁(ともに、図示せず)が配置されている。上述したように、流入水に含まれる砂は、第2曲部25の下流側に配置された末端流路26の堆砂ピット24に既に堆積しており、ポンプ吸込水路3から吸込水槽5に流れ込む流入水に砂は含まれない。したがって、ポンプ7には、砂が吸い込まれないので、ポンプ7の運転の信頼性が向上する。
【0038】
図2に示すポンプ7は、立軸斜流ポンプであるが、ポンプ7の型式は、特に限定されない。例えば、ポンプ7は、軸流ポンプ、斜流ポンプ、渦巻斜流ポンプ、または水中ポンプであってもよい。さらに、図2に示す駆動装置32は電動機であるが、駆動装置32の型式も特に限定されない。例えば、駆動装置32は、ディーゼルエンジンまたはガスタービンであってもよい。
【0039】
図3に示すように、吐出水槽15には、越流堰18が設けられており、吐出水槽15は、越流堰18を介して吐出水路19と連通している。ポンプ7によって吐出水槽15に移送された流入水は、越流堰18を超えて吐出水路19に流れ込む。吐出水路19は、図示しない放流領域(例えば、大河川)にも連通しており、吐出水路19に流れ込んだ水は、放流領域に排出される。図3に示す吐出水路19は、図1に示す流入水路1の上方に設けられている。より具体的には、吐出水路19は、流入水路1の中間流路23の上方に設けられている。このように吐出水路19を流入水路1の上方に配置すると、吐出水路19によって排水機場の設置面積が増加することが防止される。一実施形態では、吐出水路19を、ポンプ吸込水路3の上方に配置してもよいし、流入水路1とポンプ吸込水路3の両者の上方に配置してもよい。このように、吐出水路19を、流入水路1および/またはポンプ吸込水路3の上方に配置すると、吐出水路19によって、排水機場の設置面積が増加しないので、排水機場の設置面積を必要最小限に抑えることができる。
【0040】
本実施形態によれば、流入水の減速部として流入水路1に形成された第2曲部25が流入水路1を流れる流入水の流速を砂が沈降可能な流速V3まで低下させる。すなわち、流入水路1に減速部として機能する第2曲部25を形成するといった簡易な構成で、流入水に含まれる砂を所望の場所(すなわち、堆砂ピット24)に堆積させることができる。したがって、砂を沈降させるための長い吸込水路、または広大な面積を有する沈砂池を排水機場に設ける必要がない。さらに砂は堆砂ピット24に集中して堆積するので、砂を排水機場から容易かつ低コストで除去することができる。さらに、幹線水路101に接続される流入水路1は、互いに隣接して配置された複数のポンプ吸込水路3の一部を囲むように、該ポンプ吸込水路3の外側に配置されるので、排水機場の設置面積を必要最小限に抑えることができる。その結果、広大な設置面積を確保する必要がなくなるので、排水機場の立地条件の制限が緩和される。特に、設置面積を確保することが難しい都市部であっても、本実施形態に係る排水機場を設置することができる。
【0041】
次に、図4乃至図7を参照して、図1に示す減速部(第2曲部)25の好適な変形例について説明する。図4は、図1に示す第2曲部25を拡大して示す模式図であり、図5は、図4のC-C線断面図である、図6(a)は、図4のD-D線に沿った断面の一例を模式的に示す図であり、図6(b)は、図4のD-D線に沿った断面の他の例を模式的に示す図である。
【0042】
上述したように、減速部として機能する第2曲部25は、該第2曲部25の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。そこで、図5に示す例では、第2曲部25の底壁25cは、該第2曲部25内の流入水の流れ方向において徐々に下方に傾斜する。言い換えれば、第2曲部25は、その入口から出口に向かって(すなわち、堆砂ピット24に向かって)徐々に下方に傾斜する底壁25cを有する。これにより、第2曲部25の流路の断面積をその入口から堆砂ピット24に向けて徐々に拡大させることができ、かつ流入水に含まれる砂を堆砂ピット24に向けて案内することができる。
【0043】
図6(a)に示す実施例では、第2曲部25の底壁25cは、該第2曲部25内の流入水の流れ方向に垂直な方向において徐々に下方に傾斜する。言い換えれば、第2曲部25の底壁25cは、該第2曲部25の外側側壁25aから内側側壁25bに向かって徐々に下方に傾斜する。内側側壁25b付近を流れる流入水の流速は、外側側壁25a付近を流れる流入水の流速よりも早い。そのため、内側側壁25b付近の第2曲部25の深さを外側側壁25a付近の第2曲部25の深さよりも大きくすることで、内側側壁25b付近を流れる流入水の流速を効率的に低下させる。この構成により、第2曲部25の内側側壁25b付近を流れる流入水に含まれる砂を効果的に堆砂ピット24に沈降させることができる。
【0044】
図6(b)に示す実施例では、第2曲部25は、該第2曲部25の外側側壁25aと内側側壁25bとの間の距離D4が底壁25cに向かって徐々に大きくなるドーム形状をさらに有している。より具体的には、第2曲部25の外側側壁25aは、流入水の流れ方向に垂直な断面で見たときに、底壁25cに向かうにつれて内側側壁25bから徐々に離れるように湾曲している。流入水に含まれる砂は、水よりも大きな比重を有している。そのため、砂の多くは第2曲部25の底壁25c付近を流れる流入水に多く含まれているものと考えられる。そこで、第2曲部25の底壁25c付近の幅を第2曲部25の上部側の幅よりも拡大させることにより、第2曲部25の底壁25c付近を流れる流入水の流速を効果的に低下させる。これにより、流入水に含まれる砂を効果的に堆砂ピット24に沈降させることができる。
【0045】
図7(a)および図7(b)は、第2曲部25のさらに他の変形例を示す模式図である。具体的には、図7(a)は、さらに他の変形例に係る第2曲部25の平面図であり、図7(b)は、図7(a)のE-E線断面図である。図7(a)および図7(b)に示す実施例では、第2曲部25の底壁25cは、該第2曲部25内の流入水の流れ方向に沿って凹部51と突部53が交互に連続する波形形状を有していている。さらに、底壁25cは、第2曲部25の内側側壁25b全体に沿って形成された案内溝55を有しており、上記凹部51の端部は、案内溝55に接続されている。
【0046】
上述したように、砂の比重は水の比重よりも大きいので、流入水に含まれる砂は第2曲部25の底壁25c付近を流れる流入水に多く含まれている。本実施例では、第2曲部25の底壁25c付近を流れる流入水を突部53に衝突させることにより、凹部51で渦を発生させ、第2曲部25の底壁25c付近を流れる流入水の流速を効果的に低下させる。その結果、底壁25c付近を流れる流入水に含まれる砂の一部が凹部51に沈降する。さらに、凹部51に堆積した砂は、流入水の流れにより該凹部51を案内溝55に向かって流れ、案内溝55に到達した砂は、堆砂ピット24に向かって流される。このような構成によって、流入水に含まれる砂を効果的に堆砂ピット24に集めることができる。
【0047】
上述した実施形態は、第2曲部25が減速部として構成されているが、本発明はこの例に限定されない。例えば、上記第1曲部21を減速部として構成してもよいし、第1曲部21および第2曲部25の両方を減速部として構成してもよい。これらの場合、第1曲部21は、上述した第2曲部25と同様の構成を有する。具体的には、第1曲部21は、該第1曲部21の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。例えば、第1曲部21は、該第1曲部21の外側側壁が内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ第1曲部21の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有していてもよい。さらに、第1曲部21は、図4乃至図7を参照して説明された第2曲部25の断面形状と同様の断面形状を有するように構成されてもよい。
【0048】
さらに、上述した堆砂ピット24と同一の構成を有する堆砂ピットを、第1曲部21の出口に隣接して配置するのが好ましい。この堆砂ピットは、中間流路23の入口の底壁に形成され、例えば、第1曲部21の出口に接続される。
【0049】
第1曲部21および第2曲部25の両方が減速部として構成される場合、流入水に含まれる砂の大部分を第1曲部21の出口に隣接して配置された堆砂ピットに沈降させ、残りの砂を第2曲部25の出口に隣接して配置された上記堆砂ピット24に沈降させてもよい。すなわち、第2曲部25を、流入水に含まれる砂を確実に沈降させるための予備減速部として機能させてもよい。
【0050】
上述した実施形態に係る排水機場は、例えば、1年の間に数回程度降る大雨に起因する洪水などの災害対策に用いられる。そのため、ポンプ7による排水運転が確実に行われることを定期的(例えば、1ヶ月に一度)に確認しておくことが好ましい。そのため、本実施形態では、排水機場は、後述する管理運転を行うことが可能に構成されている。
【0051】
管理運転とは、排水機場を確実に始動および運転できるように、その動作確認と運転員の教育訓練を目的として実施される運転である。この管理運転は、定期的(例えば、1ヶ月に一度)に行われる。管理運転では、実際の運転状況に合わせた始動と運転状態とを作り出すことが、排水機場の信頼性の向上につながる。特に、地下放水路101に接続され、地下に配置される大型の地下排水機場の場合は、ポンプ7の始動失敗や、運転不能が近隣の浸水被害につながるおそれがあるため、管理運転は、重要な維持管理項目として位置づけられる。
【0052】
図1乃至図3に示すように、排水機場は、吐出水槽15から流入水路1の末端水路26まで延びるバイパス水路45と、吐出水槽15からの水の流れを遮断する開閉可能なバイパス入口ゲート46と、流入水路1の末端水路26からの水の流れを遮断する開閉可能なバイパス出口ゲート47と、を備えている。バイパス入口ゲート46およびバイパス出口ゲート47は通常は閉じられており、吐出水槽15および末端流路26内の水がバイパス水路45に流入することを阻止している。
【0053】
本実施形態では、バイパス入口ゲート46は、吐出水槽15の側壁の下端部に設けられており、このバイパス入口ゲート46を開くことにより、バイパス水路45は、吐出水槽15と連通する。バイパス出口ゲート47は、バイパス水路45の末端に設けられており、バイパス出口ゲート47を開くことにより、バイパス水路45は、流入水路1の末端流路26と連通する。
【0054】
本実施形態において、通常運転時には、流入ゲート38、および1つ以上の吸込ゲート17を開き、流入水を地下放水路101から排水機場に受け入れて、吸込水槽5まで導く。さらに、ポンプ7を起動して、吸込水槽5から吐出水槽15へ水を移送する。吐出水槽15に移送された水は、越流堰18を超えて吐出水路19に流れ込み、放流領域に排出される。通常運転の間は、バイパス入口ゲート46およびバイパス出口ゲート47は閉状態に維持されており、流入水がバイパス水路45に流れ込むことを防止している。
【0055】
管理運転を行う場合には、まず、流入ゲート38および全ての吸込ゲート17を開いて、管理運転に必要な水を地下放水路101から排水機場に受け入れる。管理運転に必要な水が排水機場に貯留されると、流入ゲート38を閉じて、地下放水路101からの水の流入を遮断する。一実施形態では、全ての吸込ゲート17を開き、流入ゲート38を閉じた状態で、管理運転に必要な水を排水機場に貯留してもよい。例えば、放流領域から吐出水路19を介して水を排水機場に逆流させてもよいし、放流領域から排水機場まで延びる図示しない水路を設け、この水路を介して水を放流領域から排水機場に流入させてもよい。
【0056】
管理運転に必要な水が排水機場に貯留された状態で、バイパス入口ゲート46およびバイパス出口ゲート47を開き、さらに、1台または複数台のポンプ7を起動する。1台または複数台のポンプ7の運転が開始されると、吸込水槽5内の水がポンプ7により吐出水槽15に移送される。さらに、水は、吐出水槽15からバイパス入口ゲート46を通ってバイパス水路45に流入し、さらに、バイパス出口ゲート47を通って、流入水路1の末端流路26に流入する。末端水路26に流入した水は、ポンプ吸込水路3を通って吸込水槽5に流入し、ポンプ7で再度加圧され、吐出水槽15に移送される。このようにして管理運転が行われる。この管理運転によって、ポンプ7が確実に始動および運転可能か否かを確認することができる。
【0057】
一実施形態では、吐出水槽15内に、上記越流堰18とは別の越流堰(図示せず)を形成し、この越流堰の上に上下動可能なバイパス入口ゲート46を設置してもよい。吐出水槽15内に、越流堰18とは別の越流堰が無い場合には、管理運転におけるポンプ7の実揚程は略0mであり、実際の排水運転の状態を模擬することはできない。より具体的には、ポンプ7が実際の排水運転時の吐出量よりも過大な量の水を吐出水槽15に移送してしまう。この場合、ポンプ7に異常な振動が発生するおそれがあり、さらに、駆動装置32が過負荷運転状態になるおそれがある。そのため、越流堰18とは別の越流堰を設け、その上部に上下動可能なバイパス入口ゲート46を配置する。バイパス入口ゲート46の鉛直方向の位置を変更することにより、ポンプ7の実揚程を調整することもできるし、ポンプ7をほぼ設計計画点と同等の実揚程で運転することもできる。
【0058】
さらに、管理運転に必要な水を放流領域から排水機場の吐出水槽15に逆流させた場合、該水には砂が含まれていることがある。しかしながら、管理運転時には、水は、越流堰18とは別の越流堰の上部に配置されたバイパス入口ゲート46を超えてバイパス水路45に流入する必要がある。したがって、管理運転時に、水に含まれる砂を吐出水槽15に止めることが可能であり、該砂によってポンプ7が損傷されることが防止される。
【0059】
一実施形態では、吐出水槽15の側壁に、バイパス流路45と連通する開口を設け、該開口を開閉可能なバイパス入口ゲート46を配置してもよい。この場合、バイパス入口ゲート46は上下動可能に構成され、バイパス入口ゲート46の鉛直方向の位置を変更することにより、鉛直方向における開口の下端の位置を調整することができる。このような構成でも、ポンプ7の実揚程を調整することもできるし、ポンプ7をほぼ設計計画点と同等の実揚程で運転することもできる。
【0060】
一実施形態では、バイパス水路45の上方の空間、およびバイパス水路45が連通する流入水路1の末端流路26の上方の空間は、地上まで延びて、該地上に連通しているのが好ましい。すなわち、バイパス水路45および末端流路26は、所謂「開水路」として構成されるのが好ましい。これらバイパス水路45および末端流路26上方の空間は、ポンプ7が異常停止したときに発生するアップサージのバッファとして機能する。
【0061】
大雨などの自然災害がない通常状態時には、水質悪化や悪臭の発生を防止するために排水機場内をドライ状態に保つことが好ましい。そのため、図1に示す排水機場では、複数の(図示した例では、2つの)残水排水ポンプ36が配置される部屋35が流入水路1の入口流路20とバイパス水路45との間に設けられている。図2に示すように、部屋35は、吐出水槽15の下方に位置する。残水排水ポンプ36は、ポンプ7の運転が停止された後で、流入水の残水を排水機場から排出するためのポンプである。
【0062】
図1に示す実施形態では、残水排水ポンプ36の吸込管は、部屋35の側壁を貫通して、流入水路1まで延びており、残水排水ポンプ36は、排水機場内の残水を流入水路1から排水機場の外部(例えば、放流領域)に排出するように構成されている。一実施形態では、残水排水ポンプ36の吸込管は、部屋35から各吸込水槽5まで延びていてもよい。部屋35は、排水機場の残水の全てが残水排水ポンプ36に効果的に吸い込まれるように、流入水路1、ポンプ吸込水路3、吸込水槽5、バイパス水路45、および地下放水路101の各底壁よりも下方に位置する底壁を有しているのが好ましい。残水排水ポンプ36が配置される部屋35を、上述した流入水路1、ポンプ吸込水路3、ポンプ吸込水槽5、ポンプ7、吐出水槽15、吐出水路19、およびバイパス水路45などの排水機場の主要な構成要素の間に形成される余剰スペースに設けることにより、排水機場の設置面積の増加を防止することができる。
【0063】
図8は、他の実施形態に係る排水機場を模式的に示した平面図である。図9は、図8のF-F線断面図である。図8に示す排水機場は、流入水路1がその入口で2つの入口流路に分岐する点で上述した実施形態と異なる。特に説明しない本実施形態の構成は、図1乃至図7を参照して説明された実施形態の構成と同様であるため、その重複する説明を省略する。
【0064】
図8に示す排水機場の流入水路1は、地下放水路101と接続される入口で第1入口流路60と、第2入口流路70に分岐する。第1入口流路60は、その出口で第1曲部61に接続され、第1曲部61の出口は、第1中間流路23に接続される。第1中間流路23の出口は、第2曲部65に接続され、第2曲部65の出口は、末端流路26の一方の端部に接続される。第2入口流路70は、その出口で第3曲部71に接続され、第3曲部71の出口は、第2中間流路73に接続される。第2中間流路73の出口は、第4曲部75に接続され、第4曲部75の出口は、末端流路26の他方の端部に接続される。
【0065】
図8に示す流入水路1は、平面視で略四角形状を有し、複数のポンプ吸込水路3全体を取り囲んでいる。地下放水路101から排水機場に流入する流入水は、流入水路1の入口部で第1入口流路60に向かう水流と、第2入口流路70に向かう水流とに分割され、これら水流は、末端流路26で合流する。具体的には、第1入口流路60、第1曲部61、第1中間流路23、および第2曲部65を流れてきた流入水と、第2入口流路70、第3曲部71、第2中間流路73、および第4曲部75を流れてきた流入水は、末端流路26で合流する。
【0066】
本実施形態では、第2曲部65および第4曲部75は、流入水の流速を、該流入水に含まれる砂が沈降可能な流速まで低下させる減速部として機能する。すなわち、第2曲部65および第4曲部75は、図1乃至図7を参照して説明された第2曲部25と同様の構成を有する。具体的には、第2曲部65は、該第2曲部65の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。例えば、第2曲部65は、該第2曲部65の外側側壁が内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ第2曲部65の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有していてもよい。さらに、第2曲部65は、図4乃至図7を参照して説明された第2曲部25の断面形状と同様の断面形状を有するように構成されてもよい。同様に、第4曲部75は、該第4曲部75の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。例えば、第4曲部75は、該第4曲部75の外側側壁が内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ第4曲部75の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有していてもよい。さらに、第4曲部75は、図4乃至図7を参照して説明された第2曲部25の断面形状と同様の断面形状を有するように構成されてもよい。
【0067】
さらに、第2曲部65の下流側と、第4曲部75の下流側の末端流路26の底壁には、上述した堆砂ピット24と同一の構成を有する堆砂ピット64,74がそれぞれ配置される。第1入口流路60、第1曲部61、第1中間流路23、および第2曲部65を流れてきた流入水に含まれる砂は堆砂ピット64に沈降され、第2入口流路70、第3曲部71、第2中間流路73、および第4曲部75を流れてきた流入水に含まれる砂は堆砂ピット74に沈降される。堆砂ピット64,74の上方に、砂掻き上げ装置(図示せず)をそれぞれ設けてもよい。
【0068】
図示はしないが、第1曲部61および第3曲部71も、図1乃至図7を参照して説明された第2曲部25と同様の構成を有していてもよい。この場合、第1曲部61の下流側の第1中間流路63の底壁に、上述した堆砂ピット24と同一の構成を有する堆砂ピットを設け、第3曲部71の下流側の第2中間流路73の底壁に上述した堆砂ピット24と同一の構成を有する堆砂ピットを設けるのが好ましい。
【0069】
図9に示すように、吐出水路19は、第1中間流路63の上方に配置される。バイパス水路45は、第2中間流路73の上方に配置される。本実施形態では、パイパス出口ゲート47、および該バイパス出口ゲート47によって開閉されるバイパス水路45の出口は、末端流路26の上方に設けられている。一実施形態では、パイパス出口ゲート47、およびバイパス水路45の出口を第2中間流路73の上方に設けてもよい。このような構成によって、排水機場の設置面積が増加することを防止することができる。
【0070】
図10は、さらに他の実施形態に係る排水機場を模式的に示した断面図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図1乃至図7を参照して説明された実施形態の構成と同様であるため、その重複する説明を省略する。
【0071】
図10に示す排水機場の流入水路1は、円弧形状を有する入口流路80と、入口流路80の出口に接続され、円弧形状を有する末端流路82と、を備えている。末端流路82は、入口流路80の半径と同一の半径を有している。流入水路1は、地下放水路101の出口に隣接して配置された仕切壁85からバイパス出口ゲート47まで延びており、複数のポンプ吸込水路3の一部を取り囲むように、該複数のポンプ吸込水路3の外側に配置されている。
【0072】
入口流路80の出口には、拡径部81が形成されており、拡径部81は、流入水の流速を、該流入水に含まれる砂を沈降可能な流速まで低下させる減速部として機能する。本実施形態でも、拡径部81は、図1乃至図7を参照して説明された第2曲部25と同様の構成を有する。具体的には、拡径部81は、該拡径部81の流路の断面積がその入口から出口に向かって徐々に大きくなるように構成される。例えば、拡径部81は、該拡径部81の外側側壁が内側側壁の曲率半径よりも大きく、かつ拡径部81の入口から出口に向かって徐々に大きくなる曲率半径を有していてもよい。さらに、拡径部81は、図4乃至図7を参照して説明された第2曲部25の断面形状と同様の断面形状を有するように構成されてもよい。
【0073】
流入水が拡径部81を通過することにより、流入水の流速は、砂が沈降可能な流速V3まで低下させられる。拡径部81に接続される末端流路82の入口の底壁には、上述した堆砂ピット24と同様の構成を有する堆砂ピット84が設けられている。拡径部81を通過した流入水に含まれる砂は、堆砂ピット84に沈降される。
【0074】
本実施形態でも、排水機場は、管理運転を行うために、バイパス水路45、バイパス入口ゲート46、およびバイパス出口ゲート47を有している。バイパス水路45は、ポンプ7によって移送された水が貯留される吐出水槽(図示せず)とバイパス入口ゲート46を介して連通している。本実施形態では、吐出水槽およびバイパス入口ゲート46は、図10に示す平面視で、流入水路1およびバイパス水路45よりも上方に位置している。バイパス入口ゲート46は、通常は閉じられており、吐出水槽からバイパス水路45への水の流れを遮断している。管理運転を行うために、バイパス入口ゲート46およびバイパス出口ゲート47を開くと、吐出水槽より流れ込んだ水がバイパス水路45を通って、流入水路1の末端流路82に流れ込む。末端流路82に流れ込んだ水は、ポンプ吸込水路3および吸込水槽5を通って再びポンプ7に吸い込まれ、吐出水槽に移送される。
【0075】
バイパス水路45は、流入水路1の半径と同一の半径を有する円弧形状を有している。上記仕切壁85は、流入水路1とバイパス水路45とを区画するための壁として機能し、流入水路1、およびバイパス水路45は、略円形状を有する構造体を形成する。この構造体によって、複数のポンプ吸込水路3の略全体が取り囲まれる。このような構成でも、排水機場の設置面積を必要最小限に抑えることができる。
【0076】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0077】
1 流入水路
3 ポンプ吸込水路
5 吸込水槽
7 ポンプ
15 吐出水槽
17 吸込ゲート
18 越流堰
19 吐出水路
20,60,70,80 入口流路
21,61,71 曲部
23,63,73 中間流路
24,64,74,84 堆砂ピット
25,65,75 曲部(減速部)
26,82 末端流路
32 駆動装置
35 部屋
36 残水排水ポンプ
38 流入ゲート
41 隔壁
45 バイパス水路
46 バイパス入口ゲート
47 バイパス出口ゲート
51 凹部
53 突部
55 案内溝
85 仕切壁
101 幹線水路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11