(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-27
(45)【発行日】2022-07-05
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220628BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220628BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220628BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220628BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220628BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220628BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2021509097
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011506
(87)【国際公開番号】W WO2020196041
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019062800
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩司
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/020827(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマーと、分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
前記ポリマーが、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体に由来する構成成分と、エステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物に由来する構成成分とを有する、酸素若しくは窒素原子を結合部とするポリマーセグメントを主鎖に有し、かつ、下記結合群(I)から選択される結合を主鎖に少なくとも1つ含む、固体電解質組成物。
<結合群(I)>
エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合
【請求項2】
前記ポリマーセグメントが、下記式(1)で表されるポリマーセグメント及び式(2)で表わされるポリマーセグメントの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の固体電解質組成物。
【化1】
式中、R
aは前記炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示す。
X
aは酸素原子又は-NH-を示す。
R
1は炭素数3~15の脂肪族炭化水素基を示す。
R
2は炭素数6~20の芳香族若しくは炭素数1~20の脂肪族の炭化水素基を示す。
n1は1~100であり、n2は1~10である。
【請求項3】
前記エステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物が、ラクトン化合物を含む請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが、平均粒径10~1000nmの粒子状ポリマーである請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
前記ポリマー中における、前記ポリマーセグメントの含有量が、5~80質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
前記ポリマーが、下記式(3)で表されるポリマー及び式(4)で表わされるポリマーの少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【化2】
式中、R
aは前記炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示す。
X
aは酸素原子又は-NH-を示す。
R
1は炭素数3~15の脂肪族炭化水素基を示す。
R
2は炭素数6~20の芳香族若しくは炭素数1~20の脂肪族の炭化水素基を示す。
n1は1~100であり、n2は1~10である。
R
b1は炭素数6~22の芳香族炭化水素基若しくは炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、又は、これらの基を2以上組み合わせてなる基を示す。
R
b2は、炭素数2~12のアルキレン基を示す。
R
b3は、下記官能基群(II)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
R
b4は、下記官能基群(III)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
R
b5は、数平均分子量100以上の2価の鎖であって、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリカーボネート鎖、ポリエステル鎖若しくはシリコーン鎖、又は、これらの鎖を2以上組み合わせてなる鎖を示す。
X
b2、X
b3、X
b4及びX
b5は酸素原子又は-NH-を示す。
a、b、c、d、e及びfは各構造成分のモル比であり、aは0.1~30モル%、bは40~60モル%、c及びeはそれぞれ0~30モル%、d及びfはそれぞれ0~49モル%であり、a+b+c+d+e+f=100モル%である。
<官能基群(II)>
カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナト基、アルコキシシリル基及び3つ以上の環が縮環した基
<官能基群(III)>
炭素-炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基及びオキセタニル基
【請求項7】
前記ポリマーの含有量が、前記固体電解質組成物の固形分中、0.001~10質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項8】
前記無機固体電解質が、下記式(S1)で表される請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
L
a1M
b1P
c1S
d1A
e1 (S1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示す。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。
【請求項9】
前記分散媒が、ケトン化合物、脂肪族化合物又はエステル化合物から選ばれる請求項1~8のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項10】
活物質を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物
を用いて形成された層を有する全固体二次電池用シート。
【請求項12】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層の少なくとも1つの層が、請求項1~10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物
を用いて形成された層である全固体二次電池。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池において、構成層(無機固体電解質層、負極活物質層、正極活物質層等)のいずれかの層を、無機固体電解質又は活物質と、特定のポリマーからなるバインダー粒子(結着剤)とを含有する材料で形成することが、提案されている。例えば、特許文献1には、(A)無機固体電解質と、(B)炭化水素ポリマーセグメントを主鎖に有し、この主鎖が特定の結合を少なくとも1つ含むポリマーと、(C)分散媒とを含有する固体電解質組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体粒子(無機固体電解質、固体粒子、導電助剤等)で全固体二次電池の構成層を形成する場合、構成層を形成する材料は、固体粒子を分散媒等に分散させることにより、優れた分散性を示すことが望ましい。しかし、分散性のよい材料を用いても、一般に、固体粒子で形成した構成層においては、固体粒子間の界面接触状態が不十分で界面抵抗が高くなる傾向にある。更に、バインダーによる固体粒子同士の結着性が弱いと、固体粒子同士の接触不良を起こす。しかも、充放電によって活物質が膨張収縮することにより、活物質層と固体電解質層との接触不良等も生じる。また、固体粒子と集電体との結着性が弱いと、活物質層と集電体との接触不良も引き起こされる。これらの接触不良が起こると、全固体二次電池の抵抗が高くなる(電池性能が低下する)。
【0006】
特許文献1に記載の無機固体電解質組成物は、固体粒子同士の結着性、集電体と固体粒子の結着性(併せて、固体粒子の結着性ということがある。)を高めて、全固体二次電池に優れたサイクル特性を付与することができる。
ところが、近年、電気自動車の高性能化、実用化等の研究開発が急速に進行し、全固体二次電池に求められる電池性能も高くなっている。そのため、固体粒子の結着性を更に高める等により、より優れた電池性能を発揮する全固体二次電池の開発が求められている。
【0007】
本発明は、優れた分散性を示す固体電解質組成物であって、全固体二次電池の構成層を構成する材料として用いることにより、固体粒子の結着性を高めて全固体二次電池に優れた電池性能を付与できる固体電解質組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、この固体電解質組成物を用いた、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池、並びに、全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する炭化水素重合体に由来する構成成分とエステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物に由来する構成成分とを有するポリマーセグメント、更に特定の結合を主鎖に導入したポリマーを、無機固体電解質及び分散媒と組み合わせて用いることにより、ポリマー自体が分散媒中に高度に分散して、優れた分散性を示す固体電解質組成物を調製できることを見出した。また、この固体電解質組成物は、無機固体電解質をはじめ他の固体粒子同士、更に活物質層を集電体表面に形成する場合は固体粒子と集電体とを強固に結着させた構成層を形成できることを見出した。更には、この固体電解質組成物を全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の構成層の構成材料として用いることにより、全固体二次電池に優れた電池性能を付与できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマーと、分散媒とを含有する固体電解質組成物であって、
ポリマーが、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体に由来する構成成分と、エステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物に由来する構成成分とを有する、酸素若しくは窒素原子を結合部とするポリマーセグメントを主鎖に有し、かつ、下記結合群(I)から選択される結合を主鎖に少なくとも1つ含む、固体電解質組成物。
<結合群(I)>
エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合
【0010】
<2>ポリマーセグメントが、下記式(1)で表されるポリマーセグメント及び式(2)で表わされるポリマーセグメントの少なくとも1種を含む、<1>に記載の固体電解質組成物。
【化1】
式中、R
aは上記炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示す。
X
aは酸素原子又は-NH-を示す。
R
1は炭素数3~15の脂肪族炭化水素基を示す。
R
2は炭素数6~20の芳香族若しくは炭素数1~20の脂肪族の炭化水素基を示す。
n1は1~100であり、n2は1~10である。
【0011】
<3>エステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物が、ラクトン化合物を含む<1>又は<2>に記載の固体電解質組成物。
<4>ポリマーが、平均粒径10~1000nmの粒子状ポリマーである<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<5>ポリマー中における、ポリマーセグメントの含有量が、5~80質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【0012】
<6>ポリマーが、下記式(3)で表されるポリマー及び式(4)で表わされるポリマーの少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【化2】
式中、R
aは上記炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示す。
X
aは酸素原子又は-NH-を示す。
R
1は炭素数3~15の脂肪族炭化水素基を示す。
R
2は炭素数6~20の芳香族若しくは炭素数1~20の脂肪族の炭化水素基を示す。
n1は1~100であり、n2は1~10である。
R
b1は炭素数6~22の芳香族炭化水素基若しくは炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、又は、これらの基を2以上組み合わせてなる基を示す。
R
b2は、炭素数2~12のアルキレン基を示す。
R
b3は、下記官能基群(II)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
R
b4は、下記官能基群(III)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
R
b5は、数平均分子量100以上の2価の鎖であって、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリカーボネート鎖、ポリエステル鎖若しくはシリコーン鎖、又は、これらの鎖を2以上組み合わせてなる鎖を示す。
X
b2、X
b3、X
b4及びX
b5は酸素原子又は-NH-を示す。
a、b、c、d、e及びfは各構造成分のモル比であり、aは0.1~30モル%、bは40~60モル%、c及びeはそれぞれ0~30モル%、d及びfはそれぞれ0~49モル%であり、a+b+c+d+e+f=100モル%である。
<官能基群(II)>
カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナト基、アルコキシシリル基及び3つ以上の環が縮環した基
<官能基群(III)>
炭素-炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基及びオキセタニル基
【0013】
<7>ポリマーの含有量が、固体電解質組成物の固形分中、0.001~10質量%である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<8>無機固体電解質が、下記式(S1)で表される<1>~<7>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (S1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示す。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。
<9>分散媒が、ケトン化合物、脂肪族化合物又はエステル化合物から選ばれる<1>~<8>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<10>活物質を含有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<11>上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層を有する全固体二次電池用シート。
<12>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で具備する全固体二次電池であって、
正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1つの層が、上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層である全固体二次電池。
<13>上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物を製膜する、全固体二次電池用シートの製造方法。
<14>上記<13>に記載の製造方法を経て全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固体電解質組成物は、分散性に優れており、固体粒子の結着性が強固なシート又は構成層を形成できる。本発明の全固体二次電池用シートは固体粒子の強固な結着性を示し、本発明の全固体二次電池は優れた電池性能を示す。また、本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の製造方法は、上記優れた特性を示す本発明の全固体二次電池用シート及び全固体二次電池を製造することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】実施例で作製した全固体二次電池(コイン電池)を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本明細書において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、例えば後述する置換基Tが挙げられる。
本明細書において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0017】
[固体電解質組成物]
本発明の固体電解質組成物(無機固体電解質含有組成物ともいう。)は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質と、ポリマーと、分散媒とを含有する。本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質及びポリマーが分散媒中に分散したスラリーであることが好ましい。固体電解質層が含有するポリマー(以下、特定のポリマーということがある。)は、主鎖に、後述する特定のポリマーセグメントを含み、かつ特定の結合を有している。このポリマーは、固体電解質組成物(分散媒)中において、自身の分散性に優れ、固体粒子を高い分散性で分散させる分散剤として機能する。また、このポリマーは、固体電解質組成物で形成したシート又は構成層中において、固体粒子同士(例えば、無機固体電解質同士、無機固体電解質と活物物質、活物質同士)を結着させ、更には集電体と固体粒子とを結着させる結着剤(バインダー)としても機能する。
【0018】
本発明の固体電解質組成物は、固体粒子を高度に分散させることができ、優れた分散性を示す。固体電解質組成物に含有される特定のポリマーは分散媒に対して高い分散性を示す。特に分散媒が後述する疎水性の分散媒であると、特定のポリマーは複数分子が凝集して粒子となる。このとき、各ポリマーの主鎖に組み込まれたポリマーセグメントが粒子の外側に位置して互いに立体反発することにより、粒子の分散安定性が高まると考えられる。特にポリマーセグメントは、後述するように、特定の炭化水素重合体及び環状化合物等を構成成分とする高分子量化されたセグメントであり、分散媒中での上記立体反発効果が更に向上していると考えられる。そのため、特定のポリマーが表面に吸着した固体粒子を分散媒に対して高度かつ安定に分散させることができ、本発明の固体電解質組成物は優れた分散性を示す。
また、本発明の固体電解質組成物は、シート又は構成層としたときに固体粒子を強固に結着させることができる。しかも、この固体電解質組成物で活物質層を集電体表面に形成すると、固体粒子同士の結着に加えて、固体粒子と集電体とを強固に結着させることができる。その結果、本発明の固体電解質組成物を用いて形成したシート又は構成層を備えた全固体二次電池は優れた電池性能を示す。その理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。すなわち、本発明の固体電解質組成物は、特定のポリマーの分散性が高く、抵抗成分となりうる、特定のポリマーの凝集体の形成を抑えつつ、固体粒子を結着させることができる。また、特定のポリマーが高い分散性を示すため、シート又は構成層の形成に際して、分散媒に対する固体粒子等についても高い分散性を維持することができる(固体電解質組成物の分散安定性に優れる)。そのため、シート又は構成層での、固体粒子の結着性に優れ、高い電池性能に貢献すると考えられる。
【0019】
本発明の固体電解質組成物は、全固体二次電池用シート又は全固体二次電池の固体電解質層又は活物質層の成形材料として好ましく用いることができる。
【0020】
本発明の固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。固体電解質組成物の含水率が少ないと、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0021】
以下、本発明の固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0022】
<無機固体電解質>
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質を含有する。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iV)水素化物系固体電解質が挙げられ、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
【0023】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0024】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(S1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (S1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0025】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0026】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0027】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0028】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0029】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0030】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0031】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLi3YBr6、Li3YCl6等の化合物が挙げられる。中でも、Li3YBr6、Li3YCl6を好ましい。
【0032】
(iV)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH4、Li4(BH4)3I、3LiBH4-LiCl等が挙げられる。
【0033】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
無機固体電解質の粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0034】
無機固体電解質は、1種を含有していても、2種以上を含有していてもよい。
固体電解質層を形成する場合、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0035】
無機固体電解質の、固体電解質組成物中の含有量は、分散性、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、固体電解質組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
本明細書において、固形分(固形成分)とは、固体電解質組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0036】
<ポリマー>
本発明の固体電解質組成物が含有する特定のポリマーは、主鎖に、構成成分として後述するポリマーセグメントを有し、かつ下記結合群(I)から選択される結合を少なくとも1つ有するポリマーである。上述のように、この特定のポリマーは、結着剤(バインダー)、更に好ましくは分散剤として、機能する。
本発明の固体電解質組成物において、特定のポリマーは、分散媒に溶解して含有されていてもよいが、粒子として含有されていることが好ましい。
<結合群(I)>
エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合
【0037】
本発明において、ポリマーの主鎖とは、ポリマーを構成する、それ以外のすべての分子鎖が、主鎖に対して枝分れ鎖若しくはペンダント鎖とみなしうる線状分子鎖をいう。枝分れ鎖若しくはペンダント鎖とみなす分子鎖の質量平均分子量にもよるが、典型的には、ポリマーを構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖となる。ただし、ポリマー末端が有する官能基は主鎖に含まない。
【0038】
上記結合群(I)から選択される結合は、ポリマーの主鎖中に含まれる限り、その導入位置は特に制限されるものでなく、ポリマーを構成する異なる構成成分同士を繋ぐ結合として含まれる態様、構成成分中に含まれる態様のいずれでもよいが、異なる構成単位同士を繋ぐ結合として含まれる態様が好ましい。この好ましい態様においては、上記結合群(I)中のエステル結合は、ポリマーセグメント中に存在するエステル結合とは異なる結合を意味する。
【0039】
特定のポリマーが有する上記結合群(I)から選択される結合は、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合が好ましく、ウレタン結合がより好ましい。
また、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合は、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合及びウレア結合の少なくとも1つと組み合わせて主鎖に組み込まれることが好ましい。
主鎖が有する上記結合の種類数は、特に制限されず、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましい。また主鎖が有する上記結合の数は、ポリマーの質量平均分子量、特性等によって変動するため、一義的ではなく、適宜に決定される。
【0040】
上記結合群(I)から選択される結合を主鎖に有する特定のポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエーテル及びポリカーボネートの各ポリマー、又は、これらの共重合体が挙げられる。共重合体は、上記各ポリマーをセグメントとするブロック共重合体、上記各ポリマーのうち2つ以上のポリマーを構成する各構成成分がランダムに結合したランダム共重合体でもよい。
中でも、特定のポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル若しくはポリウレア又はこれら2以上の共重合体(逐次重合ポリマー)が好ましく、主鎖にエステル結合、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合を有する、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド若しくはポリウレア又はこれら2以上の共重合体が好ましい。
【0041】
特定のポリマーは、構成成分として、少なくとも1種のポリマーセグメントを主鎖に有している。ポリマーセグメントの詳細は後述する。主鎖が有するポリマーセグメントの種類数は、特に制限されないが、1~3種が好ましく、1種がより好ましい。
特定のポリマー中の、ポリマーセグメントの含有量は、特に制限されず、分散性等を考慮して、適宜に設定される。例えば、ポリマーセグメントの含有量(質量%)は、固体粒子の分散性及び結着性、更には固体二次電池の電池性能の点で、5~80質量%であることが好ましく、8~60質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが更に好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。なお、ポリマーセグメントの含有量をモル%で規定する場合、上記含有量(質量%)に関わらず、後述する式(3)及び式(4)における「a(モル比)」の値を適用できる。
【0042】
特定のポリマーは、固体粒子の表面への濡れ性又は吸着性を高めるための官能基を有することが好ましい。官能基としては、固体粒子の表面において水素結合等の相互作用を示す官能基及び固体粒子の表面に存在する基と化学結合を形成し得る官能基が挙げられ、具体的には、下記官能基群(II)から選択される官能基を少なくとも1つ有することがより好ましい。ただし、固体粒子の表面への濡れ性又は吸着性をより効果的に発現する観点からは、官能基同士で結合を形成することが可能な2種以上の官能基を有さないことが好ましい。
<官能基群(II)>
カルボキシ基、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO4H2)、アミノ基(-NH2)、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナト基、アルコキシシリル基及び3環以上の縮環構造を有する基
【0043】
スルホン酸基及びリン酸基は、その塩でもよく、例えば、ナトリウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
アルコキシシリル基は、少なくとも一つのアルコキシ基(炭素数は1~12が好ましい。)でSi原子が置換されたシリル基であればよく、Si原子上のその他の置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。アルコキシシリル基としては、例えば、後述の置換基Tにおけるアルコキシシリル基の記載が好ましく適用できる。
3環以上の縮環構造を有する基は、コレステロール環構造を有する基、又は3環以上の芳香族環が縮環した構造を有する基が好ましく、コレステロール残基又はピレニル基がより好ましい。
【0044】
特定のポリマーは、上記官能基群(II)から選択される官能基をポリマーセグメント以外の構成成分に有することが好ましい。
特定のポリマー中における官能基群(II)から選択される官能基の含有量は、特に制限されないが、特定のポリマーを構成する全構成成分中、上記官能基群(II)から選択される官能基を有する構成成分の割合は、0~50モル%が好ましく、0~49モル%が好ましく、0.1~40モル%がより好ましく、1~30モル%が更に好ましく、3~25モル%が特に好ましい。質量基準での含有量としては後述するアルキレン基Rb3を有する構成成分の含有量と同じ範囲が挙げられる。
【0045】
<架橋性官能基>
特定のポリマーは、ラジカル重合反応、カチオン重合反応又はアニオン重合反応により架橋構造を形成することが可能な官能基(以下、架橋性官能基とも称す。)を有することも好ましい。上記架橋性官能基同士が反応して結合を形成することにより、特定のポリマーは、ポリマー粒子内又はポリマー粒子間で架橋された構造を生じ、強度を向上することができる。
上記架橋性官能基としては、炭素-炭素不飽和結合を有する基及び/又は環状エーテル基が好ましい。炭素-炭素不飽和結合を有する基は、ラジカル重合反応により架橋構造を形成することが可能な基(すなわち、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する基)であり、具体的には、アルケニル基(炭素数は2~12が好ましく、2~8がより好ましい。)、アルキニル基(炭素数は2~12が好ましく、2~8がより好ましい。)、アクリロイル基及びメタクリロイル基が好ましく挙げられ、ビニル基、エチニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基及び2-トリフルオロメチルプロペノイル基がより好ましく挙げられる。環状エーテル基は、カチオン重合反応により架橋構造を形成することが可能な基であり、具体的には、エポキシ基及びオキセタニル基が好ましく挙げられる。
すなわち、特定のポリマーは、下記官能基群(III)から選択される官能基を少なくとも1つ有することが好ましい。
<官能基群(III)>
炭素-炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基及びオキセタニル基
炭素-炭素不飽和結合を有する基は、上記した通りである。
【0046】
特定のポリマーは、上記架橋性官能基をポリマーセグメント以外の構成成分に有することが好ましい。なお、炭化水素ポリマー中に炭素-炭素不飽和結合を有する場合(例えば、ポリブタジエン構成成分及びポリイソプレン構成成分)、炭素原子及び水素原子から構成される架橋性官能基(例えばビニル基及びプロペニル基)が炭化水素ポリマーセグメント中に存在し得る。
特定のポリマー中における上記架橋性官能基の含有量は、特に制限されるものではないが、特定のポリマーを構成する全構成成分中、上記架橋性官能基を有する構成成分の割合は、0~30モル%が好ましく、0~25モル%がより好ましく、0~20モル%が更に好ましく、0~10モル%が特に好ましい。質量基準での含有量としては後述するアルキレン基Rb4を有する構成成分の含有量と同じ範囲が挙げられる。
【0047】
上記架橋性官能基を有する特定のポリマーは、上記架橋性官能基が架橋していないポリマーである形態と、これらの官能基が既に架橋しているポリマーである形態との両形態を包含する。
【0048】
上記架橋性官能基同士の反応は、本発明の固体電解質組成物中に、各架橋性官能基に対応する重合開始剤(ラジカル、カチオン又はアニオン重合開始剤)を含有させておき、これらの重合開始剤により反応させてもよく、また、電池駆動時の酸化還元反応により反応させてもよい。なお、ラジカル重合開始剤は、熱によって開裂して開始ラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤、及び、光、電子線又は放射線で開始ラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤のいずれでもよい。
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい重合開始剤としては、常用される重合開始剤を特に制限することなく用いることができる。
【0049】
(ポリマーセグメント)
このポリマーセグメントは、後述するヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する数平均分子量500以上の炭化水素重合体と、後述するエステル結合を有する環状化合物若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物とを、縮合反応(重縮合反応)して、得られるポリマーに由来するセグメント(構成成分)である。
このポリマーは、炭化水素重合体が有する基と、エステル結合を有する環状化合物(環状エステル化合物という。)若しくはカルボキシ基を少なくとも2つ有する化合物(カルボン酸化合物)との組み合わせにより、セグメントの両末端に水酸基若しくはアミノ基を有する。例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリアミン、ポリアミドポリオール及びポリアミドポリアミンを含み、ポリエステルポリオールが好ましい。
ポリエステルポリオールは、その分子内に少なくとも2個以上のエステル結合と2個以上の水酸基を有するものであり、好ましくは、主鎖の両末端に水酸基を有するものである。ポリエステルポリアミンは、その分子内に少なくとも2個以上のエステル結合と2個以上のアミノ基を有するものであり、好ましくは、主鎖の両末端にアミノ基を有するものである。ポリアミドポリオールは、その分子内に少なくとも2個以上のアミド結合と2個以上の水酸基を有するものであり、好ましくは、主鎖の両末端に水酸基を有するものである。ポリアミドポリアミンは、その分子内に少なくとも2個以上のアミド結合と2個以上のアミノ基を有するものであり、好ましくは、主鎖の両末端にアミノ基を有するものである。
【0050】
ポリマーセグメントは、上述の、ポリマー鎖の両末端に有する水酸基若しくはアミノ基の水素原子が除去された構造(酸素若しくは窒素原子を主鎖との結合部とする構造)を有しており、後述する式(1)で表されるポリマーセグメント及び式(2)で表わされるポリマーセグメントの少なくとも1種を含むことが好ましく、後述する式(1)で表されるセグメントを少なくとも1種含むことがより好ましい。
【0051】
- 炭化水素重合体と環状エステル化合物とからなるポリマーセグメント -
炭化水素重合体と環状エステル化合物とからなるポリマーセグメントを構成するポリマーとしては、例えばポリエステルポリオール又はポリアミドポリオールが挙げられ、ポリマー中のエステル結合、アミド結合及び水酸基等の数は、それぞれ、特に限定されないが、2以上が好ましい。中でも、ポリエステルジオールが好ましい。炭化水素重合体と環状エステル化合物との結合様式は、特に制限されないが、炭化水素重合体及び環状エステル化合物が2官能である場合、BAB型であることが好ましい。ここで、Aは炭化水素重合体由来の構成成分であり、Bは環状エステル化合物由来の構成成分である。より好ましくは、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を2つ有する炭化水素重合体の2つのヒドロキシ基若しくはアミノ基それぞれに環状エステル化合物の開環体がエステル基を介して結合したポリマーである。炭化水素重合体のヒドロキシ基若しくはアミノ基に結合する環状エステル化合物の開環体は、1分子の開環体でもよいが、通常、この環状化合物の開環重合体となる。開環重合体の平均重合度は、特に制限されず、分子量等に応じて適宜に決定され、例えば、下記式(1)のn1と同義である。
【0052】
炭化水素重合体と環状エステル化合物とからなるポリマーセグメントは、下記式(1)で表されるセグメントが好ましい。
【化3】
【0053】
式(1)中、Raは、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示す。炭化水素ポリマー鎖としては、後述する炭化水素重合体を構成する炭化水素ポリマー鎖と同義である。
Xaは、それぞれ、上記炭化水素重合体が有するヒドロキシ基又はアミノ基に由来する原子であり、酸素原子又は-NH-を示す。ただし、2つのXaは同一である。Xaは、いずれも酸素原子(式(1)で表されるセグメントがポリエステルポリオールセグメント)であることが好ましい。
R1は、それぞれ、炭素数3~15の脂肪族炭化水素基を示し、炭素数4~10の脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、不飽和の脂肪族炭化水素基でもよいが、飽和の脂肪族炭化水素基(アルキレン基)が好ましい。式中の2つのR1は同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。R1の炭素数は、R1が結合する酸素原子とカルボニル炭素原子とを結ぶ最小の炭素原子数を意味する。
Ra及びR1は、それぞれ、置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Tが挙げられる。R1が有する好ましい置換基としてはアルキル基が挙げられる。
n1は、それぞれ、数平均重合度を示し、分散性、結着性及び電池性能のバランスよく改善できる点で、1~100であり、1~50が好ましく、1~25がより好ましい。式(1)において、2つのn1は同じであっても異なってもよい。
【0054】
- 炭化水素重合体とカルボン酸化合物とからなるポリマーセグメント -
炭化水素重合体とカルボン酸化合物とからなるポリマーセグメントを構成するポリマーは、ポリエステルポリオール及びポリアミドポリアミンであり、ポリマー中のエステル結合、アミド結合、水酸基及びアミノ基の数は、それぞれ、特に限定されないが、2以上が好ましい。中でも、ポリエステルジオール及びポリアミドジアミンが好ましく、ジエステルジオール及びジアミドジアミンが好ましい。炭化水素重合体とカルボン酸化合物との結合様式は、特に限定されないが、炭化水素重合体及びカルボン酸化合物が2官能である場合、通常、その構造は(AB)xA型となる。ここで、Aは炭化水素重合体由来の構成成分であり、Bはカルボン酸化合物由来の構成成分である。xは1以上の整数であり、上限は分子量等に応じて適宜に設定される。xが1である場合、カルボン酸化合物の2つのカルボキシ基それぞれに炭化水素重合体が1分子ずつ結合したABA型のジエステルジオール又はポリアミドジアミンである。
【0055】
炭化水素重合体とカルボン酸化合物とからなるポリマーセグメントは、下記式(2)で表されるセグメントが好ましい。
【化4】
【0056】
式(2)中、Raは、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体中の炭化水素ポリマー鎖を示し、式(1)中のRaと同義である。
Xaは、それぞれ、上記炭化水素重合体が有するヒドロキシ基又はアミノ基に由来する原子であり、酸素原子又は-NH-を示す。ただし、1つのRaに結合する2つのXaは同一である。Xaは、いずれも、酸素原子(式(2)で表されるセグメントがポリエステルポリオールセグメント)又は-NH-(式(2)で表されるセグメントがポリアミドポリアミンセグメント)であることが好ましく、いずれも、酸素原子であることがより好ましい。
【0057】
R2は、炭素数6~20の芳香族若しくは炭素数1~20の脂肪族の炭化水素基を示し、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基が好ましい。炭素数6~20の芳香族炭化水素基としては、特に制限されず、その炭素数は、後述する芳香族ジカルボン酸化合物で説明する通りである。この芳香族炭化水素基としては、後述する芳香族ジカルボン酸化合物で説明する芳香族のジカルボン酸化合物から2つのカルボキシ基中の各ヒドロキシ基を除去した芳香族残基が挙げられる。炭素数1~20の脂肪族炭化水素基は、不飽和の脂肪族炭化水素基でもよいが、飽和の脂肪族炭化水素基(アルキレン基)が好ましい。その炭素数は、後述するカルボン酸化合物で説明する通りである。脂肪族炭化水素基としては、例えば、後述するカルボン酸化合物で説明する脂肪族ジカルボン酸化合物から2つのカルボキシ基中の各ヒドロキシ基を除去した脂肪族が挙げられる。R2の炭素数は、R2が結合する2つのカルボニル炭素原子を結ぶ最小の炭素原子数を意味する。
Ra及びR2は、それぞれ、置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Tが挙げられる。R2が有する好ましい置換基としては、カルボニル基、スルホン酸基、リン酸基、エーテル基(アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基)、ハロゲン原子が挙げられる。
n2は、数平均重合度を示し、1~10であり、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。
【0058】
上述の、ポリマーセグメントは、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する炭化水素重合体に由来する構成成分と、環状エステル化合物若しくはカルボン酸化合物に由来する構成成分とを有していればよく、両構成成分はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
本発明において、ポリマーセグメントは、上記両構成成分以外の構成成分を有していてもよいが、上記両構成成分からなるセグメントであることが好ましい。
【0059】
上述の、ポリマーセグメントにおいて、Raと、R1若しくはR2の化学構造若しくは炭素数等を適宜選択することで、後述する分散媒、とりわけ疎水性の分散媒に対する親和性を調整する(高める)ことができる。分散媒に対する親和性を更に高めると、固体電解質組成物における特定のポリマーの分散性の更なる向上が期待でき、固体粒子の結着性及び全固体二次電池の電池性能をより高い水準で実現できる。
【0060】
ポリマーセグメントの数平均分子量は、特に制限されず、500を越えていることが好ましく、1500以上であることがより好ましく、3000以上であることが更に好ましい。上限は、特に制限されず、例えば、100,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、10,000以下であることが更に好ましい。数平均分子量は、特定のポリマーの質量平均分子量と同様にして、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、測定できる。
【0061】
(ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体に由来する構成成分)
ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体に由来する構成成分(炭化水素重合体構成成分ともいう。)は、上記ポリマーセグメントを構成する構成成分であり、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体が、後述する環状エステル化合物若しくはカルボン酸化合物と縮合反応して、形成される構成成分である。この構成成分は、上記炭化水素重合体のヒドロキシ基若しくはアミノ基から水素原子を除去した残基であり、上記式(1)及び式(2)中の「-Xa-Ra-Xa-」(Xa及びRaは上記の通りである。)に相当する。
この構成成分を形成する炭化水素重合体は、少なくとも2つのヒドロキシ基又は少なくとも2つのアミノ基を有し、少なくとも2つのヒドロキシ基を有することが好ましい。炭化水素重合体が有するヒドロキシ基若しくはアミノ基の数は、特に制限されないが、2~6つが好ましく、2つがより好ましい。炭化水素重合体は、主鎖のいずれの位置にヒドロキシ基若しくはアミノ基を有していてもよいが、両末端に有していることが好ましい。
【0062】
- ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体 -
この炭化水素重合体は、重合性の炭化水素が(少なくとも2つ)重合してなる炭化水素ポリマーのポリマー鎖に、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する重合体である。
この炭化水素ポリマーは、炭素原子及び水素原子から構成されるオリゴマー又はポリマーであり、炭化水素ポリマーを構成する炭素原子数は、好ましくは30個以上、より好ましくは50個以上である。炭化水素ポリマーを構成する炭素原子数の上限は、特に制限されず、例えば3000個とすることができる。この炭化水素ポリマーは、主鎖が、上記炭素原子数を満たす、脂肪族炭化水素で構成される炭化水素ポリマーからなる鎖(炭化水素ポリマー鎖)が好ましく、脂肪族飽和炭化水素若しくは脂肪族不飽和炭化水素で構成されるポリマー(好ましくはエラストマー)からなる鎖であることがより好ましい。炭化水素ポリマーとしては、具体的には、主鎖に二重結合を有するジエン系ポリマー、及び、主鎖に二重結合を有しない非ジエン系ポリマーが挙げられる。ジエン系ポリマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン共重合体、イソブチレンとイソプレンの共重合体(好ましくはブチルゴム(IIR))、ブタジエン重合体、イソプレン重合体及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等が挙げられる。非ジエン系重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体及びスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等のオレフィン系重合体、並びに、上記ジエン系ポリマーの水素還元物が挙げられる。
【0063】
ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する炭化水素重合体の数平均分子量は500以上である。このポリマーの数平均分子量が500以上であると、自身の分散性に優れ、固体粒子を高い分散性で分散させる分散剤として機能するという効果が得られる。この効果をより高めることができる点で、上記数平均分子量は、1000以上が好ましく、1500以上がより好ましい。上限は、特に制限されないが、例えば、100,000未満が好ましく、30,000未満がより好ましく、10,000未満が更に好ましい。数平均分子量は、特定のポリマーの質量平均分子量と同様にして、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、測定できる。
【0064】
ヒドロキシ基若しくはアミノ基を有する炭化水素重合体としては、例えば、いずれも商品名で、NISSO-PBシリーズ(日本曹達社製)、クレイソールシリーズ(巴工業社製)、PolyVEST-HTシリーズ(エボニック社製)、poly-bdシリーズ(出光興産社製)、poly-ipシリーズ(出光興産社製)、EPOL(出光興産社製)及びポリテールシリーズ(三菱化学社製)等が好適に用いられる。
【0065】
(環状エステル化合物若しくはカルボン酸化合物に由来する構成成分)
この構成成分(酸構成成分ともいう。)は、上記ポリマーセグメントを構成する構成成分であり、環状エステル化合物若しくはカルボン酸化合物が、上述の、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有し、数平均分子量が500以上である炭化水素重合体と縮合反応して、形成される構成成分である。この酸構成成分は、環状エステル化合物の開環体、又は、カルボン酸化合物のカルボキシ基からヒドロキシ基を除去した残基であり、上記式(1)中の「-CO-R1-O-」(R1は上記の通りである。)又は上記式(2)中の「-CO-R2-CO-」(R2は上記の通りである。)に相当する。
酸構成成分を形成する、環状エステル化合物及びカルボン酸化合物は、環状エステル化合物が好ましく、下記ラクトン化合物がより好ましい。
【0066】
- 環状エステル化合物 -
環状エステル化合物は、少なくとも1つのエステル結合を含む環状構造を有する化合物であればよく、通常、1つのエステル結合を含む環状構造を有する化合物(ラクトン化合物)が好ましい。
ラクトン化合物としては、特に制限されず、脂肪族ラクトン化合物、芳香族ラクトン化合物が挙げられ、脂肪族ラクトン化合物が好ましい。脂肪族ラクトン化合物としては、エステル結合と、炭素数3~15の脂肪族基(好ましくは上記式(1)のR1)とからなる環状構造を有する化合物が挙げられる。具体的には、ε-カプロラクトン、4-メチルカプロラクトン、3,5,5-トリメチルカプロラクトン、3,3,5-トリメチルカプロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、エナントラクトン等が挙げられる。中でも、入手しやすく反応性が高いことから、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトンが好ましく、ε-カプロラクトンがより好ましい。
ラクトン化合物は、γ-バレロラクトン等のように、置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Tが挙げられ、アルキル基が好ましい。
ラクトン化合物は、単独で用いても二種以上を用いてもよい。
【0067】
- カルボン酸化合物 -
カルボン酸化合物は、分子内に少なくとも1つのカルボキシ基を有する化合物であればよく、少なくとも2つのカルボキシ基を有する化合物が好ましい。カルボン酸化合物が有するカルボン酸の数は、特に制限されないが、2~6つが好ましく、2つ(ジカルボン酸化合物)がより好ましい。カルボン酸化合物はヒドロキシ基、アルコキシ基を有していてもよい。本発明において、カルボン酸化合物は、上記炭化水素重合体とエステル化反応可能な化合物であり、カルボキシ基に代えて、アルキル若しくはアリールのエステル基(例えばメトキシカルボニル基)を有している化合物を包含する。
カルボン酸化合物は、脂肪族カルボン酸化合物でも芳香族カルボン酸化合物でもよく、脂肪族カルボン酸化合物が好ましい。
【0068】
ジカルボン酸化合物としては、特に制限されず、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数(カルボニルを形成する炭素原子を除く。)は、特に限定されないが、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは15以下、特に好ましくは14以下である。具体的には、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナメチレンジカルボン酸、1,10-デカメチレンジカルボン酸、1,11-ウンデカメチレンジカルボン酸、1,12-ドデカメチレンジカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸化合物の炭素数(カルボニルを形成する炭素原子を除く。)、特に限定されないが、好ましくは6~20であり、上限は、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下である。具体的には、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナンスレンジカルボン酸等が挙げられる。
中でも、入手しやすく熱的安定性が高いことから、好ましくは脂肪族ジカルボン酸化合物であり、より好ましくは、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸であり、更に好ましくは、コハク酸、アジピン酸である。
ジカルボン酸化合物は、無水物、アルキル若しくはアリールのエステル体、不飽和結合のハロゲン置換体等として用いることもできるが、イミド体としての使用は含まない。
カルボン酸化合物は、置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Tが挙げられる。
カルボン酸化合物は、一種単独で、又は二種以上を用いてもよい。
【0069】
- ポリマーセグメントの合成 -
ポリマーセグメントを導くポリマーの合成方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基若しくはアミノ基を少なくとも2つ有する上記炭化水素重合体と、環状エステル化合物若しくはカルボン酸化合物と縮合反応とを縮合(重縮合)反応させる方法が挙げられる。縮合反応としては、公知の合成方法(エステル化法又はアミド化法)を特に制限されずに適用できる。例えば、上記炭化水素重合体と環状エステル化合物とからなるポリエステルポリオールは、無溶媒下、テトライソプロピルチタネート又はテトラブチルチタネート等の触媒存在下に、炭化水素重合体と環状エステル化合物を反応させる方法で合成できる。具体的な合成方法として、例えば実施例で説明する合成方法が挙げられる。
【0070】
ポリマーセグメントの具体的としては、例えば、後記のポリマーの具体例に示す各セグメントを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
ポリマーセグメント(各構成成分及び原料化合物)は、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に制限されないが、好ましくは下記置換基Tから選択される基が挙げられる。
- 置換基T -
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等、本明細書においてアルキル基というときには通常シクロアルキル基を含む意味であるが、ここでは別記する。)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、アラルキル基(好ましくは炭素数7~23のアラルキル基、例えば、ベンジル、フェネチル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル、ピロリドン基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等、本明細書においてアリールオキシ基というときにはアリーロイルオキシ基を含む意味である。)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ(-NH2)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルスルファニル基(好ましくは炭素原子数1~20のアルキルスルファニルもと、例えば、メチルスルファニル、エチルスルファニル、イソプロピルスルファニル、ベンジルスルファニル等)、アリールスルファニル基(好ましくは炭素原子数6~26のアリールスルファニル基、例えば、フェニルスルファニル、1-ナフチルスルファニル、3-メチルフェニルスルファニル、4-メトキシフェニルスルファニル等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシシリル基、例えば、モノメトキシシリル、ジメトキシシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル等)、アリールオキシシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールオキシシリル基、例えば、トリフェニルオキシシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。RPは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基Tから選択される基)である。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記置換基Tが更に置換していてもよい。
上記アルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等は、環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよい。
【0072】
(その他の構成成分)
特定のポリマーは、上記構成成分及びポリマーセグメントの他に、上記結合群(I)から選択される結合を有する上記各種ポリマーが含みうる構成成分を有していてもよい。例えば、低分子の、ポリオール化合物若しくはポリアミン化合物に由来する構成成分、高分子の(例えば後述するR5bで規定する重合鎖を分子鎖とする)、ポリオール化合物若しくはポリアミン化合物に由来する構成成分が挙げられる。
【0073】
特定のポリマーは、下記式(3)で表されるポリマー及び式(4)で表わされるポリマーの少なくとも1種を含むことが好ましく、下記式(3)で表されるポリマーを少なくとも1種含むことがより好ましい。下記の各式で表されるポリマーの各構成成分は、1種有していても2種以上有していてもよい。
下記の各式で表されるポリマーの構成成分の結合様式は、特に制限されず、例えば、ランダム結合、ブロック結合、グラフト結合等が挙げられる。
【0074】
【0075】
式中、Ra、Xa、R1、R2、n1及びn2は、それぞれ、上記式(1)及び式(2)における、Ra、Xa、R1、R2、n1及びn2と同義であり、好ましいものも同じである。
【0076】
Rb1は炭素数6~22の芳香族炭化水素基又は炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、又は、これらの基を2以上組み合わせてなる基を示す。
Rb1として採りうる脂肪族炭化水素基の炭素数は2つの窒素原子を結ぶ最小の炭素原子数を意味し、Rb1として採りうる芳香族炭化水素基の炭素数は無置換である場合の炭素数を意味する。
炭素数1~15(好ましくは1~13)の脂肪族炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、鎖状でも環状でもよく、分岐を有していよく、例えば、上記炭素数のアルキレン基、下記式(M2)で表される芳香族の炭化水素基の水素還元体、公知の脂肪族ジイソソアネート化合物が有する部分構造(例えばイソホロンからなる基)、1,1,3-トリメチルシクロヘキサンジイル、メチレンビス(シクロヘキシレン)が挙げられる。
炭素数6~22(好ましくは6~14、より好ましくは6~10)の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン、ナフタレンジイルが挙げられる。
また、上記芳香族炭化水素基及び上記脂肪族炭化水素基を2以上組み合わせてなる基としては、フェニレン基及び上記脂肪族炭化水素基を2以上組み合わせてなる基がより好ましく、合計炭素数は7~15が好ましく、8~15がより好ましい。組み合わせてなる基は、分子鎖中に酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含む基を包含してもよい。例えば、ビフェニレン、下記式(M2)で表される芳香族炭化水素基が挙げられ、より具体的には、メチレンビス(フェニレン)、フェニレンジメチレン等が挙げられる。
【0077】
【0078】
式(M2)中、Xは、単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-S-、-CO-又は-O-を示し、結着性の観点で、-CH2-または-O-が好ましく、-CH2-がより好ましい。ここで例示した上記アルキル基及びアルキレン基は、置換基T、好ましくはハロゲン原子(より好ましくはフッ素原子)で置換されていてもよい。
RM2~RM5は、それぞれ、水素原子又は置換基を示し、水素原子が好ましい。RM2~RM5としてとりうる置換基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、-ORM6、―N(RM6)2、-SRM6(RM6は置換基を示し、好ましくは炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基を示す。)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)が挙げられる。―N(RM6)2としては、アルキルアミノ基(炭素数は、1~20が好ましく、1~6がより好ましい)又はアリールアミノ基(炭素数は、6~40が好ましく、6~20がより好ましい)が挙げられる。
Rb1は、置換基を有していてもよく、例えば、後述する置換基Tが挙げられる。
【0079】
Rb2は、炭素数2~12のアルキレン基を示し、2種以上のアルキレン基を組み合わせてなる基も含む。
Rb2として採りうるアルキレン基としては、鎖状でも環状でもよく、分岐を有していてもよく、炭素数は、2~8がより好ましく、2~6が更に好ましい。Rb2~Rb4して採りうる各アルキレン基の炭素数は2つのXbを結ぶ最小の炭素原子数を意味する。
アルキレン基としては、例えば、エチレン、1,2-プロピレン、1,3-プロピレン、1,3-ブチレン、1,4-ブチレン、へキシレン、オクチレン、シクロヘキシレン等が挙げられる。
ただし、Rb2として採りうるアルキレン基は、後述する官能基群(II)から選択される官能基及び後述する官能基群(III)から選択される官能基を有さない。
【0080】
Rb3は、下記官能基群(II)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
Rb3として採りうるアルキレン基としては、鎖状でも環状でもよく、分岐を有していてもよく、炭素数は1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~8が更に好ましい。例えば、2-エチルプロピレンが挙げられる。
下記官能基群(II)から選択される官能基は、アルキレン基のいずれの炭素原子に結合していてもよいが、2つのXb3と結合する最短の炭素鎖を構成する炭素原子に結合していることが好ましい。アルキレン基が有する官能基の数は、特に限定されないが、1~5個が好ましく、1又は2個がより好ましい。
Rb3における下記官能基群(II)としては、上述の特定のポリマーが有する上記官能基群(II)を好ましく適用することができる。
Rb3としては、例えば、2-エチル-2-カルボキシプロピレンが挙げられる。
<官能基群(II)>
カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナト基、アルコキシシリル基及び3つ以上の環が縮環した基
【0081】
Rb4は、下記官能基群(III)から選択される官能基を少なくとも1つ有するアルキレン基を示す。
Rb4として採りうるアルキレン基としては、鎖状でも環状でもよく、分岐を有していてもよく、炭素数は1~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~8が更に好ましい。例えば、プロピレンが挙げられる。
下記官能基群(III)から選択される官能基は、アルキレン基のいずれの炭素原子に結合していてもよい。アルキレン基が有する官能基の数は、特に限定されないが、1~5個が好ましく、1又は2個がより好ましい。
Rb4における下記官能基群(III)としては、上述の特定のポリマーが有する上記官能基群(III)を好ましく適用することができる。
<官能基群(III)>
炭素-炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基及びオキセタニル基
なお、上記群から選択される官能基は、上述のように、架橋した形態を含む。
【0082】
Rb5は、数平均分子量100以上の2価の鎖であって、ポリアルキレンオキシド鎖、ポリカーボネート鎖、ポリエステル鎖若しくはシリコーン鎖、又は、これらの鎖を2以上組み合わせてなる鎖を示す。
Rb5として採りうる上記各鎖の数平均分子量は、100~100000が好ましく、100~10000がより好ましく、150~5000が更に好ましい。数平均分子量は、特定のポリマーの質量平均分子量と同様にして、標準ポリスチレン換算の数平均分子量として、測定できる。
【0083】
Rb5として採りうるポリアルキレンオキシド鎖は、特に制限されない。アルキレンオキシド鎖を構成するアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6が更に好ましく、2又は3が特に好ましい態様の1つである。アルキレンオキシド鎖を構成するアルキレンオキシ基の合計繰り返し数は、1~100が好ましく、3~100がより好ましく、4~50が更に好ましい。Rb5としてポリアルキレンオキシド鎖を有する構成成分は、1種でもよいが、電池性能の点で、2種以上であることが好ましく、2種であることがより好ましい。この場合、ポリアルキレンオキシド鎖の組み合わせは特に制限されず、例えば、エチレンオキシド鎖を含むことが好ましく、エチレンオキシド鎖若しくはプロピレンオキシド鎖と炭素数4以上のアルキレンオキシド鎖との組み合わせが挙げられる。
Rb5として採りうるポリカーボネート鎖は、特に制限されない。カーボネート鎖を構成する繰り返し単位の炭素数は、1~15が好ましく、1~10がより好ましい。カーボネート鎖を構成する繰り返し単位の繰り返し数は、4~40が好ましく、4~20がより好ましい。
Rb5として採りうるポリエステル鎖は、ポリ(アルキレン-エステル)鎖又はポリ(アリーレン-エステル)鎖を意味し、上述のポリマーセグメントを包含しない。ポリエステル鎖を構成するアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、ポリエステル鎖を構成するアリーレン基の炭素数は、6~14が好ましく、6~10がより好ましい。ポリエステル鎖を構成する繰り返し単位の繰り返し数は、2~40が好ましく、2~20がより好ましい。
Rb5として採りうるシリコーン鎖は、シロキサン結合(-Si-O-、Si原子はアルキル基、アリール基等の有機基を2つ有する。)を有する鎖を意味し、シロキサン結合の繰り返し数は、1~200が好ましく、1~100がより好ましい。
【0084】
Rb5として採りうる各鎖は、使用する市販品の構造等に基づくポリマー合成の都合上、その末端にアルキレン基等の基を有していてもよい。
Rb5として採りうる各鎖において、鎖を構成する繰り返し単位の合計繰り返し数とは、異なる構造の鎖(例えば、ポリエチレンオキシド鎖とポリプロピレンオキシド鎖)を有する場合には、各鎖を構成する繰り返し単位の繰り返し数の合計を意味する。
また、Rb5として採りうる、上記鎖を組み合わせてなる鎖としては、例えば、ポリアルキレンオキシド鎖とポリカーボネート鎖又はポリエステル鎖とを組み合わせてなる鎖が挙げられ、ポリアルキレンオキシド鎖中にポリカーボネート鎖又はポリエステル鎖を有する鎖が好ましい。
【0085】
Xb2、Xb3、Xb4及びXb5は、それぞれ、酸素原子又は-NH-を示す。
各構成成分において、2つ有するXb2、Xb3、Xb4及びXb5は、それぞれ、同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0086】
a、b、c、d、e及びfは、各構造成分のモル比を示し、a+b+c+d+e+f=100モル%である。c+d+e+fの合計は、0モル%であってもよいが、0モル%ではないことが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。
aとしては、特に制限されないが、固体粒子の分散性及び結着性、更には固体二次電池の電池性能の点で、0.1~30モル%が好ましく、0.3~20モル%がより好ましく、0.5~15モル%が更に好ましく、1~10モル%が特に好ましい。
bは、40~60モル%が好ましく、43~58モル%がより好ましく、45~55モル%が更に好ましい。
cは、0~30モル%が好ましく、0~25モル%がより好ましく、0~20モル%が更に好ましく、0~15モル%が特に好ましい。
dは、0~49モル%が好ましく、0.1~40モル%がより好ましく、1~30モル%が更に好ましく、3~25モル%が特に好ましい。
eは、0~30モル%が好ましく、0~25モル%がより好ましく、0~20モル%が更に好ましく、0~10モル%が特に好ましい。
fは、0~49モル%が好ましく、5~49モル%がより好ましく、10~47モル%が更に好ましく、20~45モル%が特に好ましい。
【0087】
上記モル比a~fを含有量(質量%)で規定すると、以下の範囲が好ましく、合計で100質量%となる。
aの含有量(質量%)は上述の通りである。
bの含有量(質量%)は、特に制限されず、20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましく、30~50質量%が更に好ましい。
cの含有量(質量%)は、特に制限されず、0~25質量%が好ましく、0~15質量%がより好ましく、0~10質量%が更に好ましい。
dの含有量(質量%)は、特に制限されず、0~40質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましく、1~15質量%が更に好ましい。
eの含有量(質量%)は、特に制限されず、0~20質量%が好ましく、0~15質量%がより好ましく、0~10質量%が更に好ましい。
fの含有量(質量%)は、特に制限されず、0~55質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%が更に好ましい。
【0088】
特定のポリマーは、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、ガラス転移温度で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
【0089】
特定のポリマーの質量平均分子量は、特に制限されない。例えば、5000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、20,000以上が更に好ましい。上限としては、5,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、200,000以下が更に好ましい。
-分子量の測定-
本発明において、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、測定する重合体(特定のポリマー等)の種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-Hを2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000をつないだカラムを用いる
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0090】
この特定のポリマーは、非架橋ポリマーであっても架橋ポリマーであってもよい。また、加熱又は電圧の印加によって特定のポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時に特定のポリマーが上記範囲の質量平均分子量であることである。
【0091】
特定のポリマーの形状は、特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。粒子状は、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。粒子状ポリマーの粒子径は、特に制限されないが、10~1000nmであることが好ましい。これにより、固体電解質組成物の分散性と固体粒子間等の結着性とを改善できる。分散性、結着性を更に改善できる点で、粒子径は、20~500nmが好ましく、30~300nmがより好ましく、50~200nmが更に好ましい。粒子状ポリマーの粒子径は、希釈溶媒を適宜変更することで(例えばポリマー分散液と同じ溶媒、より具体的にはヘプタン、ジイソブチルケトン、酪酸ブチル等の疎水性の溶媒)無機固体電解質と同様にして測定できる。
なお、全固体二次電池の構成層における粒子状ポリマーの粒子径は、例えば、電池を分解して粒子状ポリマーを含有する構成層を剥がした後、その構成層について測定を行い、予め測定していた粒子状ポリマー以外の粒子の粒子径の測定値を排除することにより、測定することができる。
粒子状ポリマーの粒子径は、例えば、分散媒の種類、ポリマー中の構成成分の含有量及び含有量等により、調整できる。
【0092】
特定のポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、この特定のポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー分散液をそのまま用いてもよい。
【0093】
- 特定のポリマーの合成方法 -
特定のポリマーの合成方法は、公知の重合方法を特に制限されずに適用できる。例えば、実施例で説明する重合方法が挙げられる。
合成に用いる化合物としては、例えば、特許文献1に記載の各化合物が挙げられる。
【0094】
以下に、特定のポリマーの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
各具体例においては、特定のポリマーを構成する構成成分を示し、そのモル比は適宜に設定される。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
本発明の固体電解質組成物は、特定のポリマーを1種単独で含有していても、2種以上含有していてもよい。
固体電解質組成物中の、特定のポリマーの含有量は、その固形分中、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。上限としては、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。特定のポリマーを上記の範囲で用いることにより、より一層効果的に固体粒子の結着性を高めることができ、更には電池性能を向上できる。
本発明では、特定のポリマーの質量に対する、無機固体電解質と活物質の合計質量(総量)の質量比[(無機固体電解質の質量+活物質の質量)/特定のポリマーの質量]は、1,000~1の範囲が好ましい。この比率は更に500~2がより好ましく、100~10が更に好ましい。
【0099】
<分散媒>
本発明の固体電解質組成物が含有する分散媒(分散媒体)は、上記の各成分を分散又は溶解させるものであればよく、ポリマーの粒子及び固体粒子を分散させるものが好ましい。分散媒としては、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられる。
分散媒としては、疎水性の分散媒でも親水性の分散媒でもよいが、上記ポリマーの優れた分散性を発現できる点で、疎水性の分散媒が好ましい。本発明において、疎水性とは、一般に水に対する親和性が低い性質をいうが、本発明においては、更に上述の特定のポリマーが有するポリマーセグメント、とりわけ炭化水素重合体に対する親和性が高い性質をいう。具体的には、芳香族化合物、脂肪族化合物、ケトン化合物又はエステル化合物の各分散媒が挙げられる。
【0100】
上記各溶媒の具体例を以下に示す。
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0101】
エーテル化合物としては、例えば、アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0102】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0103】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物が挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどのカルボン酸エステル化合物等が挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0104】
本発明においては、中でも、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物又はエステル化合物が好ましく、ケトン化合物、脂肪族化合物又はエステル化合物が更に好ましい。本発明においては、硫化物系無機固体電解質を用いて、更に上記の特定の有機溶媒を選定することが好ましい。この組み合わせを選定することにより、硫化物系無機固体電解質に対して活性な官能基が含まれないため硫化物系無機固体電解質を安定に取り扱える。特に硫化物系無機固体電解質と脂肪族化合物との組み合わせが好ましい。
【0105】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
上記分散媒は、1種を単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
【0106】
本発明において、固体電解質組成物中の、分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、固体電解質組成物中、20~99質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましく、30~60質量%が特に好ましい。
【0107】
<活物質>
本発明の固体電解質組成物には、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有することもできる。活物質としては、以下に説明するが、正極活物質及び負極活物質が挙げられる。
本発明において、活物質(正極活物質又は負極活物質)を含有する固体電解質組成物を電極層用組成物(正極層用組成物又は負極層用組成物)ということがある。
【0108】
(正極活物質)
正極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0109】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0110】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の粒子径(体積平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質粒子の粒子径は、上記無機固体電解質の粒子径と同様にして測定できる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いて行うことができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0111】
正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm2)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0112】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
【0113】
(負極活物質)
負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能(合金化可能)な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点から好ましく用いられる。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質が好ましい。本発明の固体電解質組成物で形成した構成層は固体粒子同士が強固に結着しているため、負極活物質としてリチウムと合金形成可能な負極活物質を用いることができる。これにより、全固体二次電池の大容量化と電池の長寿命化とが可能となる。
【0114】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0115】
負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(纏めて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0116】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、GeO、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、GeS、PbS、PbS2、Sb2S3又はSb2S5が好ましく挙げられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
【0117】
金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、Li2SnO2が挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましい。具体的にはLi4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0118】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0119】
リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、充放電による膨張収縮が大きく、上述のように固体粒子の結着性が低下するが、本発明では特定のポリマーにより高い結着性を達成できる。このような活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する負極活物質(合金)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を有する負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50mol%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi2、VSi2、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi2/Si)、他にも、SnSiO3、SnSiS3等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO2、SnS、SnS2、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2を挙げることもできる。
【0120】
本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
【0121】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0122】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の体積平均粒子径は、特に制限されないが、0.1~60μmが好ましい。負極活物質粒子の体積平均粒子径は、上記無機固体電解質の粒子径と同様にして測定できる。所定の粒子径にするには、正極活物質と同様に、通常の粉砕機若しくは分級機が用いられる。
【0123】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm2)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0124】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は特に制限されず、固形分100質量%において、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
【0125】
本発明において、負極活物質層を二次電池の充電により形成する場合、上記負極活物質に代えて、全固体二次電池内に発生する周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを用いることができる。このイオンを電子と結合させて金属として析出させることで、負極活物質層を形成できる。
【0126】
(活物質の被覆)
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0127】
<導電助剤>
本発明の固体電解質組成物は、導電助剤を適宜含有してもよく、特に負極活物質としてのケイ素原子含有活物質は導電助剤と併用されることが好ましい。
導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0128】
導電助剤は、1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
本発明の固体電解質組成物が導電助剤を含む場合、固体電解質組成物中の導電助剤の含有量は、固形分中、0~10質量%が好ましい。
【0129】
<リチウム塩>
本発明の固体電解質組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有することも好ましい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落0082~0085記載のリチウム塩が好ましい。
本発明の固体電解質組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0130】
<分散剤>
本発明の固体電解質組成物は、特定のポリマーが分散剤としても機能するため、このポリマー以外の分散剤を含有していなくてもよいが、分散剤を含有してもよい。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0131】
<他の添加剤>
本発明の固体電解質組成物は、上記各成分以外の他の成分として、適宜に、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有することができる。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。また、上記ポリマー以外のポリマー、通常用いられる結着剤等を含有していてもよい。
【0132】
(固体電解質組成物の調製)
本発明の固体電解質組成物は、無機固体電解質、上記特定のポリマー、分散媒、更には適宜に、リチウム塩、任意の他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、混合物として、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合する環境は特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
本発明の活物質層形成用組成物(電極層用組成物)は、固体粒子の再凝集を抑えて、高度に分散した固体粒子を含有した分散液とすることができる。
【0133】
[全固体二次電池用シート]
本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシート状成形体であって、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シートともいう。)、電極、又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。本発明において、これら各種のシートをまとめて全固体二次電池用シートということがある。
【0134】
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層を有するシートであればよく、固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層から形成されているシートであってもよい。全固体二次電池用固体電解質シートは、固体電解質層の他に他の層を有してもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、集電体、コート層等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、基材上に、本発明の固体電解質組成物で構成した層、通常固体電解質層と、保護層とをこの順で有するシートが挙げられる。
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0135】
全固体二次電池用シートの固体電解質層の構成、層厚は、本発明の全固体二次電池において説明する固体電解質層の構成、層厚と同じである。
【0136】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「電極シート」ともいう。)は、活物質層を有する電極シートであればよく、活物質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層から形成されているシートであってもよい。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。本発明の電極シートは上述の他の層を有してもよい。活物質層は、本発明の固体電解質組成物(電極層用組成物)で形成されることが好ましい。本発明の電極シートを構成する各層の構成、層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じである。
【0137】
本発明の全固体二次電池用シートは、固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層が本発明の固体電解質組成物で形成され、この層における固体粒子同士が強固に結着している。また、全固体二次電池用電極シートにおいて本発明の固体電解質組成物で形成された活物質層は、集電体とも強固に結着している。本発明においては、固体粒子間の界面抵抗の上昇を効果的に抑えることもできる。したがって、本発明の全固体二次電池用シートは、全固体二次電池の構成層を形成しうるシートとして好適に用いられる。
本発明の全固体二次電池用シートを用いて全固体二次電池を製造すると、優れた電池性能を示す。
【0138】
[全固体二次電池用シートの製造方法]
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法は、特に制限されず、本発明の固体電解質組成物を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。例えば、好ましくは基材若しくは集電体上(他の層を介していてもよい。)に、製膜(塗布乾燥)して固体電解質組成物からなる層(塗布乾燥層)を形成する方法が挙げられる。これにより、基材若しくは集電体と、塗布乾燥層とを有する全固体二次電池用シートを作製することができる。ここで、塗布乾燥層とは、本発明の固体電解質組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、本発明の固体電解質組成物を用いてなり、本発明の固体電解質組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。活物質層及び塗布乾燥層は、本発明の効果を損なわない範囲であれば分散媒が残存していてもよく、残存量としては、例えば、各層中、3質量%以下とすることができる。
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法において、塗布、乾燥等の各工程については、下記全固体二次電池の製造方法において説明する。
【0139】
本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、上記のようにして得られた塗布乾燥層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。
また、本発明の全固体二次電池用シートの製造方法においては、基材、保護層(特に剥離シート)等を剥離することもできる。
【0140】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に配置された固体電解質層とを有する。正極活物質層は、好ましくは正極集電体上に形成され、正極を構成する。負極活物質層は、好ましくは負極集電体上に形成され、負極を構成する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質組成物で形成されることが好ましく、中でも、全ての層が本発明の固体電解質組成物で形成されることがより好ましい。本発明の固体電解質組成物で形成された活物質層又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、本発明の固体電解質組成物の固形分におけるものと同じである。なお、活物質層又は固体電解質層が本発明の固体電解質組成物で形成されない場合、公知の材料を用いることができる。
負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
正極活物質層及び負極活物質層は、それぞれ、固体電解質層とは反対側に集電体を備えていてもよい。
【0141】
〔筐体〕
本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0142】
以下に、
図1を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0143】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0144】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、この全固体二次電池を全固体二次電池用積層体と称し、この全固体二次電池用積層体を2032型コインケースに入れて作製した電池を全固体二次電池と称して呼び分けることもある。
【0145】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれも本発明の固体電解質組成物で形成されている。この全固体二次電池10は優れた電池性能を示す。正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質及び特定のポリマーは、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、活物質層又は電極活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
【0146】
本発明において、上記特定のポリマーを無機固体電解質又は活物質等の固体粒子と組み合わせて用いると、上述のように、固体粒子の結着性を高めて、固体粒子同士の接触不良、集電体からの固体粒子の剥がれを抑えることができる。更に、固体粒子間の界面抵抗の上昇、固体粒子と集電体の界面抵抗の上昇を抑えることもできる。そのため、本発明の全固体二次電池は優れた電池性能を示す。
【0147】
全固体二次電池10においては、負極活物質層をリチウム金属層とすることができる。リチウム金属層としては、リチウム金属の粉末を堆積又は成形してなる層、リチウム箔及びリチウム蒸着膜等が挙げられる。リチウム金属層の厚さは、上記負極活物質層の上記厚さにかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0148】
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0149】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0150】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0151】
[全固体二次電池の製造]
全固体二次電池は、常法によって、製造できる。具体的には、全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。これにより、優れた電池性能を示し、更に小さな電気抵抗を示す全固体二次電池を製造できる。以下、詳述する。
【0152】
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物を、適宜基材(例えば、集電体となる金属箔)上に、塗布し、塗膜を形成する(製膜する)工程を含む(介する)方法(本発明の全固体二次電池用シートの製造方法)を行って、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極層用組成物)として、正極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、負極用材料(負極層用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。これを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることもできる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0153】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極層用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。更に、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。更に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
更に、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シート、及び全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。次いで、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートと全固体二次電池用固体電解質シートとを、正極活物質層又は負極活物質層と固体電解質層とを接触させた状態に、重ねて、加圧する。こうして、全固体二次電池用正極シート又は全固体二次電池用負極シートに固体電解質層を転写する。その後、全固体二次電池用固体電解質シートの基材を剥離した固体電解質層と全固体二次電池用負極シート又は全固体二次電池用正極シートとを(固体電解質層に負極活物質層又は正極活物質層を接触させた状態に)重ねて加圧する。こうして、全固体二次電池を製造することができる。この方法における加圧方法及び加圧条件等は、特に制限されず、後述する、塗布した組成物の加圧において説明する方法及び加圧条件等を適用できる。
【0154】
上記の製造方法においては、正極層用組成物、固体電解質組成物及び負極層用組成物のいずれか1つに本発明の固体電解質組成物を用いればよく、いずれも、本発明の固体電解質組成物を用いることが好ましい。
本発明の固体電解質組成物以外の組成物で固体電解質層又は活物質層を形成する場合、その材料としては、通常用いられる組成物等が挙げられる。また、全固体二次電池の製造時に負極活物質層を形成せずに、後述する初期化若しくは使用時の充電で負極集電体に蓄積した、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオンを電子と結合させて、金属として負極集電体等の上に析出させることにより、負極活物質層を形成することもできる。
固体電解質層等は、例えば基板若しくは活物質層上で、固体電解質組成物等を後述する加圧条件下で加圧成形して形成することもできるし、固体電解質又は活物質のシート成形体を用いることもできる。
【0155】
<各層の形成(成膜)>
固体電解質組成物の塗布方法は特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート塗布、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
このとき、固体電解質組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に制限されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性と、非加圧でも良好なイオン伝導度を得ることができる。
【0156】
上記のようにして、本発明の固体電解質組成物を塗布乾燥すると、固体粒子が強固に結着し、更に固体粒子間の界面抵抗が小さな、塗布乾燥層を形成することができる。
【0157】
固体電解質組成物を塗布した後、構成層を重ね合わせた後、又は全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には5~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一方、無機固体電解質と特定のポリマーが共存する場合、特定のポリマーのガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。ただし、一般的には上述の特定のポリマーの融点を越えない温度である。
加圧は塗布溶媒又は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布してもよいし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行ってもよい。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0158】
塗布中若しくは加圧中の雰囲気としては、特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積又は膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0159】
<初期化>
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放することにより、行うことができる。
【0160】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0161】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0162】
1.実施例及び比較例に用いるポリマーの合成
ポリマーD-01~D-12は上記した通りである。比較例に用いるポリマーcD-01及びcD-02を下に示す。
【0163】
【0164】
[合成例1:ポリマーセグメントを導くポリマーPS1(ポリマーD-01、D-06、D-07、D-08用)の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた200ミリリットル三口フラスコに、水添ポリブタジエンポリオールNISSO-PB GI-1000(商品名、数平均分子量1500、日本曹達社製)(30.0g)、ε-カプロラクトン(50.2g)及びテトラブチルオルトチタネート(10mg)を仕込んで、窒素気流下で190℃まで昇温し、7時間撹拌した。その後、反応液を冷却して、式(1)で表されるセグメントを導くポリマーPS1を合成した。
【0165】
[合成例2、3:ポリマーセグメントを導くポリマーPS2、PS3(ポリマーD-02、D-03用)の合成]
合成例1の合成において、ε-カプロラクトンを、上記化学式に示した各ポリマーD-02、D-03に対応する環状ラクトン化合物に変更し、適宜にそれらの使用量と触媒の使用量を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、式(1)で表されるセグメントを導くポリマーPS2及びPS3をそれぞれ合成した。
【0166】
[合成例4:ポリマーセグメントを導くポリマーPS4(ポリマーD-04用)の合成]
撹拌機、温度計、ディーンスタークを備えた還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた200ミリリットル三口フラスコに、水添ポリブタジエンポリオールNISSO-PB GI-1000(商品名)(30.0g)、アジピン酸ジメチル(1.7g)及びテトラブチルオルトチタネート(10mg)を仕込んで、窒素気流下で190℃まで昇温し、7時間撹拌した。その後、反応液を冷却して、式(2)で表されるセグメントを導くポリマーPS4を合成した。
【0167】
[合成例5:ポリマーセグメントを導くポリマーPS5(ポリマーD-05用)の合成]
合成例4の合成において、アジピン酸ジメチルを、上記化学式に示した各ポリマーD-05に対応するジカルボン酸ジエステル化合物に変更し、適宜にその使用量と触媒の使用量を変更したこと以外は、合成例4と同様にして、式(2)で表されるセグメントを導くポリマーPS5を合成した。
【0168】
[合成例6:ポリマーセグメントを導くポリマーPS6(ポリマーD-09用)の合成]
合成例1の合成において、水添ポリブタジエンポリオールを、上記化学式に示した各ポリマーD-09に対応する水添ポリブタジエンジアミンに変更し、適宜にその使用量と触媒の使用量を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、式(1)で表されるセグメントを導くポリマーPS6を合成した。なお、水添ポリブタジエンジアミンは、水添ポリブタジエンポリオールNISSO-PB GI-1000にアクリロニトリルを触媒量のt-ブトキシカリウムを加えることにより反応させ、得られた混合物をラネーニッケルにより水素還元することにより合成した。
【0169】
[合成例7、8及び9:ポリマーセグメントを導くポリマーPS7、PS8及びPS9(ポリマーD-10、D-11、D-12用)の合成]
合成例1の合成において、ε-カプロラクトンの使用量を、上記化学式に示した各ポリマーに対応する量に変更し、適宜に触媒の使用量を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、式(1)で表されるセグメントを導く、ポリマーPS7、PS8及びPS9をそれぞれ合成した。
【0170】
[合成例10:ポリマーD-01の合成]
ポリマーD-01を以下のようにして合成した。
撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた500ミリリットル三口フラスコに、ジフェニルメタンジイソシアネート(17.5g)、ポリエチレングリコール200(数平均分子量200、13.2g)、合成例1で合成したポリマーPS1(7.7g)及びテトラヒドロフラン(脱水品、149.5g)を仕込んで、窒素気流下で60℃まで昇温した。次いで、ビスマス系触媒としてネオスタンU-600(日東化成製、0.08mg)及びテトラヒドロフラン(脱水品、4.0g)を加え、60℃で5時間撹拌した。その後、メタノール(1.2g)を加え、60℃で30分撹拌した後、反応液を冷却して、ポリマーD-01溶液を得た。
次いで、ポリマーD-01の分散液を以下のようにして調製した。
撹拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた300ミリリットル三口フラスコに、ポリマーD-01溶液(15.0g)及びテトラヒドロフラン(脱水品、15.0g)を仕込んで、窒素気流下、室温の条件で撹拌した。そこへ、酪酸ブチル(90g)を除々に加え、得られた混合液を減圧下溶媒留去し、固形分濃度5%となるように酪酸ブチルを添加することで、ポリマーD-01の分散液を調製した。
【0171】
[合成例11~21:ポリマーD-02~D-12の合成及び分散液の調製]
合成例1において、表1に示す各構成成分を導く化合物を表1に示す含有量となる使用量で用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーD-02~D-12をそれぞれ合成した。
【0172】
[比較合成例1:ポリマーcD-01の合成及び分散液の調製]
合成例1において、表1に示す各構成成分を導く化合物を表1に示す含有量となる使用量で用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーcD-01を合成した。
【0173】
[比較合成例2:ポリマーcD-02の合成及び分散液の調製]
合成例1において、表1に示す各構成成分を導く化合物を表1に示す含有量となる使用量で用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリマーcD-02を合成した。
ポリマーcD-02は酪酸ブチル中で凝集沈降して、ポリマーcD-02の分散液を製できなかった。
【0174】
合成した各ポリマーの質量平均分子量及びポリマーセグメント(構成成分a)の数平均分子量を上記方法(条件2)により測定した。また、各ポリマーの粒子径を上記方法により測定した。結果を表1に示した。
表1に、各ポリマー(ポリマーセグメントを除く)が有する結合群(I)から選択される結合を示す。
【0175】
表1において、構成成分a~fは、上記式(3)又は式(4)におけるモル比a~fで示される各構成成分に相当する。ポリマーD-01~D-12は構成成分c及び構成成分eを有していないので表1の記載を省略する。なお、ポリマーcD01のGI-1000は構成成分fに相当しないが、便宜上、構成成分f欄に記載する。また、ポリマーcD02の1,10-デカンジオール(DDO)は構成成分cに相当するが、便宜上、構成成分d欄に記載する。
【0176】
【0177】
<表の略号>
表中、構成成分及び架橋剤欄中の「-」は該当する構成成分を有していないことを示す。
表中、構成成分a~f欄には、各構成単位を導く化合物名を下記の略号で示した。
- 構成成分a -
PS1~PS9:上記合成例1~9で合成したポリマーPS1~PS9
- 構成成分b -
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート(富士フイルム和光純薬社製)
- 構成成分c -
DDO:1,10-デカンジオール(東京化成工業社製)
- 構成成分d -
DMBA:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸(東京化成工業社製)
- 構成成分f -
PEG200:ポリエチレングリコール200(数平均分子量200、富士フイルム和光純薬社製)
PTMG250:ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量250、アルドリッチ社製)
G3450J:ポリカーボネートジオールG3450J(商品名、数平均分子量800、旭化成社製)
- 他の構成成分 -
GI-1000:水添ポリブタジエンポリオールNISSO-PB GI-1000(商品名、数平均分子量1500、日本曹達社製)
「結合群(I)」欄において、Uはウレタン結合を、Eはエーテル結合を、Cはカーボネート結合を示す。ポリマーが複数の結合を有する場合「/」を用いて併記した。すなわち、U/Eはポリマーがウレタン結合及びエーテル結合を有していることを示す。
また、「構成成分f」欄において、2種以上の構成成分を含有する場合、構成成分の略号及び含有量を「/」を用いて併記した。
【0178】
2.硫化物系無機固体電解質の合成
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li/P/Sガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。
【0179】
[実施例1]
実施例1では、ポリマーD-01分散液を用いて調製した固体電解質組成物を用いて、全固体二次電池用シート、及び
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を作製して、その性能を評価した。その結果を表2に示す。
<固体電解質組成物D-01の調製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS9.5g、分散媒として酪酸ブチル2.5gを投入した。その後、ポリマーD-01分散液を固形分相当で0.5g投入し、遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットした。温度25℃、回転数300rpmで3時間混合を続け、固体電解質組成物D-01を調製した。
【0180】
<全固体二次電池用正極シートD-01の作製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で調製した固体電解質組成物D-01を固形分相当で1.9g、分散媒総量として酪酸ブチル12.3gを投入した。更に、そこへ、正極活物質としてNCA(LiNi0.85Co0.10Al0.05O2)8.0g、アセチレンブラック0.1gを投入し、遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数200rpmで20分間混合を続けた。こうして、正極層用組成物(スラリー)D-01を調製した。
上記で調製した正極層用組成物D-01を、集電体として厚み20μmのアルミニウム箔に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で1時間加熱して、正極層用組成物D-01を乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極層用組成物D-01を加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)、層厚60μmの正極活物質層/アルミニウム箔の積層構造を有する全固体二次電池用正極シートD-01を作製した。
【0181】
<全固体二次電池用負極シートD-01の作製>
次いで、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で調製した固体電解質組成物D-01を固形分相当で5.0g、分散媒として酪酸ブチル12.3gを投入した。その後、この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットし、温度25℃で、回転数300rpmで3時間攪拌した。その後、負極活物質として黒鉛5.0gを投入し、再びこの容器を遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで15分間混合を続けた。このようにして、負極層用組成物(スラリー)D-01得た。
上記で得られた負極層用組成物D-01を、厚み10μmのステンレス箔上に、上記ベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃2時間加熱して、負極層用組成物D-01を乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた負極層用組成物D-01を加熱(120℃)しながら加圧(600MPa、1分間)し、層厚120μmの負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する全固体二次電池用負極シートD-01を作製した。
【0182】
<全固体二次電池D-01の製造>
作製した全固体二次電池用負極シートD-01の負極活物質層の上に、調製した固体電解質組成物D-01を、上記ベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で6時間加熱し、固体電解質組成物D-01を乾燥させた。負極活物質層上に固体電解質層(塗布乾燥層)を形成した負極シートD-01を、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧(30MPa、1分間)し、層厚60μmの固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する負極シートD-01を作製した。
この負極シートを直径15mmの円板状に切り出した。他方、上記で作製した全固体二次電池用正極シートD-01を、直径13mmの円板状に切り出した。全固体二次電池用正極シートD-01の正極活物質層と、負極シートD-01に形成した固体電解質層とが向かい合うように配置(積層)した後に、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧(40MPa、1分間)し、アルミ箔/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する全固体二次電池用積層体を作製した。
次いで、このようにして作製した全固体二次電池用積層体12をスペーサーとワッシャー(
図2において図示せず)を組み込んだステンレス製の2032型コインケース11に入れ、2032型コインケース11をかしめることで、
図2に符号13で示す全固体二次電池D-01を製造した。
【0183】
[実施例2~12(No.D-02~D-12)、比較例1(No.cD-01)及び比較例2]
固体電解質組成物D-01の調製、全固体二次電池用正極シートD-01の作製、全固体二次電池用負極シートD-01の作製及び全固体二次電池D-01の製造それぞれにおいて、ポリマーD-01分散液に代えて表2に示すポリマー分散液を用いて調製した各組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートをそれぞれ作製して、全固体二次電池No.D-02~D-12及びcD-01をそれぞれ製造した。
ポリマー分散液cD-02は調製できなかったため、ポリマーcD-02を用いた全固体二次電池用シート及び全固体二次電池の作製及び評価をしていない。
【0184】
<固体電解質組成物の分散性試験>
上述のようにして調製した各固体電解質組成物を、遊星ボールミルP-7から分けとり、直径10mmの透明なガラス管に、高さ3cmまで充填した。これを25℃の環境下で48時間静置した。その後、組成物の相分離状態及び相分離の程度(分散安定性)を、以下の評価基準で判定した。本試験において、評価基準「C」以上が合格レベルである。
-評価基準-
A:分層(相分離)が発生した箇所(上澄層との界面)が液面より2mm未満である場合
B:分層が発生した箇所が液面より2mm以上、4mm未満である場合
C:分層が発生した箇所が液面より4mm以上、7mm未満である場合
D:分層が発生した箇所が液面より7mm以上、10mm未満である場合
【0185】
<全固体二次電池用電極シートの結着性試験>
全固体二次電池用正極シートの結着性試験として、マンドレル試験機を用いた耐屈曲性試験(JIS K 5600-5-1に準拠)により、評価した。具体的には、各シートから、幅50mm、長さ100mmの短冊状の試験片を切り出した。この試験片の活物質層面をマンドレルとは逆側(集電体をマンドレル側)に、かつ試験片の幅方向がマンドレルの軸に平行となるようにセットし、マンドレルの外周面に沿って180°屈曲(1回)させた後、活物質層にヒビ及び割れが生じているか否かを観察した。この屈曲試験は、まず、直径32mmのマンドレルを用いて行い、ヒビ及び割れのいずれも発生していない場合、マンドレルの直径(単位mm)を、25、20、16、12、10、8、6、5、3、2と徐々に小さくしていき、最初にヒビ及び/又は割れが発生したマンドレルの直径を記録した。このヒビ及び割れが最初に発生した直径(欠陥発生径)が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、結着性を評価した。本発明において、欠陥発生径が小さいほど固体粒子の結着性が強固であることを示し、評価基準「B」以上が合格レベルである。
【0186】
-評価基準-
AA:2mm
A :3mm
B :5mm又は6mm
C :8mm以上
【0187】
(電池性能(放電容量)の測定)
以下のように作製した正極シートを用いた以外は、上述の<全固体二次電池D-01の製造>と同様にして作製した全固体二次電池を用いて電池性能として放電容量を測定した。
すなわち、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、表2に示す固体電解質組成物を固形分相当で1.9g、分散媒総量として酪酸ブチル12.3gを投入した。更に、そこへ、正極活物質としてNCA(LiNi0.85Co0.10Al0.05O2)8.0g、アセチレンブラック0.1gを投入し、遊星ボールミルP-7にセットし、温度25℃、回転数200rpmで20分間混合を続けた。こうして、容量測定用の正極層用組成物(スラリー)をそれぞれ調製した。
次いで、上記で調製した正極層用組成物を25℃で2時間静置した後、集電体として厚み20μmのアルミニウム箔に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、80℃で1時間加熱後、更に110℃で1時間加熱して、正極層用組成物を乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、乾燥させた正極層用組成物を加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)、層厚60μmの正極活物質層/アルミニウム箔の積層構造を有する、容量測定用の全固体二次電池用正極シートをそれぞれ作製した。
この全固体二次電池用正極シートを用いて製造した各全固体二次電池の放電容量を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)により、測定した。全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値0.2mAで放電した。この充放電を1サイクルとして充放電を繰り返し行った。この充放電サイクルにおいて、3サイクル目の放電容量を求めた。この放電容量を、正極活物質層の表面積が100cm2当たりに換算し、全固体二次電池の放電容量として、以下の評価基準で判定した。本試験において、評価基準「B」以上が合格レベルである。
-評価基準-
AA:放電容量が200mAh以上
A :放電容量が180mAh以上、200mAh未満
B :放電容量が150mAh以上、180mAh未満
C :放電容量が120mAh以上、150mAh未満
【0188】
【0189】
表2に示す結果から次のことが分かる。
すなわち、本発明で規定するポリマーセグメントを構成成分としないポリマーcD-01を無機固体電解質及び分散媒と併用した固体電解質組成物cD-01は、固体電解質組成物の分散性が十分ではない。更に、正極シートcD-01の結着性及び全固体二次電池cD-01の電池性能(放電容量)も満足できるものではない。
数平均分子量が500以上である炭化水素重合体に代えて分子量が500未満であるアルキレン基に由来する構成成分を含むポリマーcD-02は自身の分散性が著しく悪い。そのため、ポリマーcD-02を用いて正極シート及び全固体二次電池を製造したとしても、正極シートcD-02の結着性及び全固体二次電池cD-02の電池性能(放電容量)は十分なものではないことが分かる。
【0190】
これに対して、本発明で規定するポリマーセグメントを構成成分として有するポリマーD-01~D-12を無機固体電解質及び分散媒と併用した固体電解質組成物D-01~D-12は、いずれも、固体粒子が高度に分散しており、優れた分散性(分散安定性)を示している。また、これらの固体電解質組成物で作製した正極シートD-01~D-12は、いずれも、固体粒子が強固に結着されており(固体粒子の結着性に優れ)、これらの正極シートを構成層として備えた全固体二次電池D-01~D-12はいずれも高い電池性能(放電容量)を示すことが分かる。
上記結果から、固体電解質層及び活物質層に含有する特定のポリマーが異なる場合、更には固体電解質層及び活物質層の少なくとも1層に特定のポリマーを含有すると、上述の効果が発現することが分かる。
【0191】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0192】
本願は、2019年3月28日に日本国で特許出願された特願2019-062800に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0193】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 全固体二次電池(コイン電池)