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特許7096576ポリシラン-パラジウム/(リン酸カルシウム-活性炭)触媒
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  • 特許-ポリシラン-パラジウム/(リン酸カルシウム-活性炭)触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】ポリシラン-パラジウム/(リン酸カルシウム-活性炭)触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20220629BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220629BHJP
   C07D 207/277 20060101ALI20220629BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220629BHJP
【FI】
B01J31/28 Z
B01J37/04 102
C07D207/277
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017253596
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019118854
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】石谷 暖郎
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160158(JP,A)
【文献】特開2007-260659(JP,A)
【文献】特開2013-031806(JP,A)
【文献】特開2002-134123(JP,A)
【文献】特開2005-246173(JP,A)
【文献】SAITO, Y. et al.,Asian Journal of Organic Chemistry,2016年07月29日,Vol.5,pp.1124-1127,<DOI:10.1002/ajoc.201600279>
【文献】化学大辞典 3,縮刷版,共立出版,p.656
【文献】石谷暖郎 ほか,ポリシラン-白金系触媒上でのニトロ基選択的水素化反応に及ぼす複合担体の効果,日本化学会第97春季大会(2017)講演予稿集(DVD),2017年03月03日,3F4-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07D 207/277
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラン、パラジウム、活性炭及びリン酸カルシウムを含有し、該パラジウムが活性炭及びリン酸カルシウムに担持された、ニトロ化合物の水素化反応に用いられる固定化パラジウム触媒であって、
パラジウム坦持量が0.05~0.15mmol/gであり、活性炭/リン酸カルシウムの質量比が1.0~6.0の範囲にある、該固定化パラジウム触媒
【請求項2】
ポリシランがポリジメチルシランである、請求項1に記載の固定化パラジウム触媒。
【請求項3】
前記パラジウムは、還元剤により還元処理された、請求項1又は2に記載の固定化パラジウム触媒。
【請求項4】
請求項1~に記載の固定化パラジウム触媒を、ニトロ化合物の水素化反応に用いる方法。
【請求項5】
以下の工程からなる、ニトロ化合物の水素化反応に用いられる固定化パラジウム触媒の調製方法。
(1)0~20℃で、活性炭、パラジウム塩又はパラジウム錯体、リン酸カルシウム、及び場合により還元剤を含む溶液又は分散液を調製する工程
(2)前記(1)で得られる溶液又は分散液に、ポリシランを添加する工程、及び
(3)前記(2)で得られる溶液又は分散液から不溶物を分離する工程。
【請求項6】
前記工程(1)において、パラジウム塩又はパラジウム錯体を溶解させる溶媒を用いる、請求項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記工程(2)において、ポリシランを添加後に、アルコールを添加し、50~80℃で加熱撹拌することを含む、請求項又はに記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロ化合物を含む広範な有機化合物の還元反応に使用可能であり、かつ取扱いの容易な固定化パラジウム触媒、及びその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
固定化パラジウム触媒は、例えばパラジウム/炭素等、従来から基礎化学品の製造用に工業用触媒として使用されてきたものも多い。一方で、固定化パラジウム触媒には、発火の危険性や早期失活の問題があり、工業用途としてはコスト増につながる要因になっていた。
【0003】
また、固定化パラジウム触媒は、近年、製薬、農薬、香料等の高付加価値化学品の製造現場でも多用されているが、これらの化学品は通常多数の官能基を有しており、これら官能基により触媒の活性が低下することもしばしばあった。特に近年注目されている連続フロー条件は、基質・生成物に含まれる官能基による阻害は基本的に軽減できるため、本質的な安定性が求められる。従って、高い基質処理能力を有し、安価に調達できる固定化触媒の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-31806号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Oyamada, T. Naito, S. Kobayashi, Beilstein J. Org. Chem. 2011, 7, 735-739.
【文献】S, Kobayashi, M. Okumura, Y. Akatsuka, H. Miyamura, M. Ueno, H. Oyamada, ChemCatChem., 2015, 7, 4025-4029.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高活性かつ高安定性で安価に調達できる固定化パラジウム触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、本発明者らが従来から検討していたポリシラン修飾型パラジウム触媒を改良することにより上記問題点を解決できるのではないかと着想し鋭意検討した。即ち、ポリシランは、Si-Siσ共役と担持貴金属との相互作用に基づくと考えられる安定化効果により、担持貴金属の微粒子状態を維持できる効果を持つことが発明者らの研究により明らかになっている(特許文献1)。本発明者らは、担持貴金属粒子の活性に大きく寄与すると考えられる担体そのものに特に着目し、これを安価で大量供給可能な材料から調製することに注力した。
【0008】
本発明者らは、バイオマスの一つである骨炭(牛など動物の骨を高温焼成して得られるもの)をパラジウム固定化触媒の担体として使用することを着想し、これを基盤として、コストの問題をクリアしつつ高活性に寄与できる担体を見出した。
即ち、骨炭そのものは吸着剤等の目的で従来から産業用途で使用されてきた化合物であるが、BSE問題や、供給元等で成分・性質が異なるなどの扱いにくさから、化学物質として扱うには問題があった。そこで、本発明者らは骨炭がリン酸カルシウムと活性炭を主原料としていることから、これらを混合することで、骨炭類似、あるいはそれ以上の機能の発現が期待できると考え、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]ポリシラン、パラジウム、活性炭及びリン酸カルシウムを含有し、該パラジウムが活性炭及びリン酸カルシウムに担持された、固定化パラジウム触媒。
[2]パラジウム坦持量が0.05~0.15mmol/gであり、活性炭/リン酸カルシウムの質量比が1.0~6.0の範囲にある、[1]に記載の固定化パラジウム触媒。
[3]ポリシランがポリジメチルシランである、[1]又は[2]に記載の固定化パラジウム触媒。
[4]前記パラジウムは、還元剤により還元処理された、[1]~[3]のいずれか1項に記載の固定化パラジウム触媒。
[5][1]~[4]に記載の固定化パラジウム触媒を、ニトロ化合物の水素化反応に用いる方法。
[6]以下の工程からなる固定化パラジウム触媒の調製方法。
(1)0~20℃で、活性炭、パラジウム塩又はパラジウム錯体、リン酸カルシウム、及び場合により還元剤を含む溶液又は分散液を調製する工程
(2)前記(1)で得られる溶液又は分散液に、ポリシランを添加する工程、及び
(3)前記(2)で得られる溶液又は分散液から不溶物を分離する工程。
[7]前記工程(1)において、パラジウム塩又はパラジウム錯体を溶解させる溶媒を用いる、[6]に記載の調製方法。
[8]前記工程(2)において、ポリシランを添加後に、アルコールを添加し、50~80℃で加熱撹拌することを含む、[6]又は[7]に記載の調製方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高活性かつ高安定性、用途に応じた活性に調節可能で安価に調達できる固定化パラジウム触媒を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各種パラジウム触媒についての、活性炭に対するパラジウム量、リン酸カルシウムに対するパラジウム量と触媒活性の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1つの実施態様は、ポリシラン、パラジウム、活性炭及びリン酸カルシウムを含有し、該パラジウムが活性炭及びリン酸カルシウムに担持された、固定化パラジウム触媒である。
【0013】
本発明で用いることができるポリシランとしては、ポリアリールアルキルシラン(ポリフェニルメチルシラン、ポリフェニルエチルシラン等)等、ポリジアルキルシラン(ポリジメチルシラン、ポリジエチルシラン等)等が挙げられるが、好ましくは、ポリジメチルシラン、ポリフェニルメチルシランである。
【0014】
本発明で用いるポリジメチルシラン(以下「PMPSi」とも表す。)は、ケイ素-ケイ素結合が繋がった主鎖とメチル基のみの置換基からなる高分子で、結晶性が高く、ほとんど全ての溶媒に溶解しない。その分子量は好ましくは約1,000~約10,000である。このようなポリジメチルシランは、通常、ジクロロジメチルシランと金属ナトリウムからKipping法により製造することができる。
【0015】
本発明の触媒中のパラジウムは、0価のパラジウム微粒子として活性炭及びリン酸カルシウムに固定されるが、2価のパラジウムが混在してもよい。
この微粒子のサイズは2~10nm程度であり、電子顕微鏡により観察可能である。
【0016】
本発明で用いられる活性炭は、一般的に市販されている活性炭を用いることができる。例えば、原材料としてはマツなどの木・竹・椰子殻・胡桃殻などの植物質のもののほか、石灰質、石油質などの原材料を用いたものであってもよく、また、獣骨や血液といった動物性の原料を用いたものであっても使用することができる。
【0017】
本発明で用いられるリン酸カルシウムは、一般的に市販されているリン酸カルシウムを用いることができる。
リン酸カルシウムと総称される化合物は、複数あり、Caイオンと、POイオンの比率が異なる。本発明においては、リン酸カルシウムとして、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)(MCPA)、リン酸二水素カルシウム-水和物(Ca(HPOO)(MCPM)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)(DCPA)、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO)(HO)(DCPD)、リン酸三カルシウム(Ca(PO)(TCP:構造の違いにより、複数の相が存在する)、リン酸八カルシウム(Ca(PO(HPO(OH)(OCP)、水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))(HAP、HAp、OHAPなどと呼称される)、フッ素アパタイト(Ca10(PO)、塩素アパタイト(Ca10(POCl)、炭酸アパタイト(炭酸含有水酸アパタイト)(Ca10-a(PO6-b(CO(OH)2-d)等の化合物も使用することができる。
【0018】
本発明においては、パラジウム坦持量は、好ましくは0.05~0.15mmol/gであり、更に好ましくは0.08~0.10mmol/gである。
【0019】
本発明においては、触媒中の活性炭/リン酸カルシウムの質量比は、好ましくは1.0~6.0であり、更に好ましくは2.0~4.0である。
【0020】
本発明の好ましい側面においては、パラジウム坦持量が0.05~0.15mmol/gであり、触媒中の活性炭/リン酸カルシウムの質量比が1.0~6.0の範囲にある。
また、本発明のもう1つの好ましい側面においては、パラジウム坦持量が0.08~0.10mmol/gであり、触媒中の活性炭/リン酸カルシウムの質量比が2.0~4.0の範囲にある。
パラジウム坦持量と触媒中の活性炭/リン酸カルシウムの質量比が上記の範囲にあると、触媒活性が高まり、高い目的化合物の収率を得ることができる。
【0021】
本発明の(ポリシラン-パラジウム)/(リン酸カルシウム-活性炭)触媒は、溶媒中でパラジウム源からのPdを(リン酸カルシウム-活性炭)担体に固定することにより得ることができる。
本発明の検討において、その混合比や貴金属担持濃度、担持法等を詳細かつ広範囲に検討した結果、固定化パラジウム触媒の最適な調製法を見出すに至った。具体的には、活性炭を一次担体としてパラジウム溶液と混合し、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤で還元処理を行うことで微粒子化するとともに活性炭への吸着を行い、さらに二次担体としてリン酸カルシウムを添加した後、ポリシランを添加して固定化パラジウム触媒を得る調製法である。
【0022】
即ち、本発明のもう1つの実施態様は、以下の工程からなる固定化パラジウム触媒の製造方法である。
(1)0~20℃で、活性炭、パラジウム塩又はパラジウム錯体、リン酸カルシウム、及び場合により還元剤を含む溶液又は分散液を調製する工程
(2)前記工程(1)で得られる溶液又は分散液に、ポリシランを添加する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られる溶液又は分散液から不溶物を分離する工程。
【0023】
上記工程(1)において、活性炭、パラジウム塩又はパラジウム錯体、及び場合により還元剤を含む溶液又は分散液を調製し、所定時間撹拌後に、リン酸カルシウムを添加するのが好ましい。
【0024】
上記工程(2)において、通常、工程(1)で得られる溶液又は分散液にポリシランを添加した後、所定時間撹拌される。
【0025】
本発明の1つの好ましい側面においては、工程(2)において、ポリシランを添加後に、アルコール(好ましくは、メタノール)を添加し(好ましくは一気に添加し)、50~80℃で加熱撹拌する。メタノール等のアルコールを添加して加熱すると、得られる触媒の活性が向上させることができる。この場合、ポリシランを添加後、所定時間溶液又は分散液を撹拌してから、アルコールを添加してもよい。
【0026】
パラジウム源としては、一般に、パラジウム塩又はパラジウム錯体が用いられる。このようなパラジウム源としては、例えば、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、パラジウム(II)アセチルアセトナート、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられ、好ましくは酢酸パラジウム又は塩化パラジウムである。
【0027】
パラジウム塩をポリシラン、リン酸カルシウム及び活性炭を含む溶媒中で混合することにより、パラジウムは還元される。パラジウム塩によっては、還元反応を促進するために、この溶液又は分散液中に還元剤を共存させてもよい。この還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロシラン化合物、水素ガスなどが好適である。
この際用いる溶媒は、パラジウム源を溶解させる溶媒が好ましい。しかし、パラジウム源を単に分散させる溶媒を使用してもよい。また、ポリシランと活性炭は、溶媒に溶解しないので、溶媒中に分散させる。さらに、テトラヒドロフランやジオキサンなどの水と混和する有機溶媒を用いた場合は、パラジウム塩を水溶液として添加してもよい。
このような溶媒として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、アルコールなどが利用でき、中でもトルエン、テトラヒドロフランなどが好適である。また、低分子量のアルコールを溶媒に共存させることでパラジウムの還元反応を促進及び完結させることができる。低分子量のアルコールとしては炭素数3以下のアルコールが好ましく、中でもメタノールが好適であり、アルコールを添加するタイミングとしては溶媒中にあらかじめ加えておいても、又は混合の途中で添加してもよい。添加するアルコールの量は、主溶媒に対して1~100%(V/V)である。
【0028】
パラジウム塩は、還元が進行するに従い反応系の色が黒変する。この還元反応は、通常、-20℃~60℃、好ましくは0~40℃、より好ましくは0℃~室温で、反応時間が1分間~24時間で行われる。温度は高すぎると粒子サイズが大きくなるため、低い方が好ましく、還元反応を速くする目的で加熱する場合も60℃以下で実施する。
還元反応終了後、上記溶液又は分散液から不溶物を分離する。この分離方法としては、ろ過や遠心操作が行われる。通常、溶媒から分離した不溶物をその後十分に洗浄後、乾燥する。このろ過や洗浄工程により、固定されなかったパラジウムや還元剤由来の不純物等は除去される。洗浄溶媒としては反応に使用した溶媒、メタノール、水などが好適である。乾燥方法に制約は無いが、減圧下で加熱乾燥するのが簡便である。
【0029】
パラジウム源としてパラジウム(0)錯体を用いる場合には、パラジウム錯体をポリシラン、活性炭及びリン酸カルシウムと共に溶媒中で混合することにより配位子交換し、パラジウムは、パラジウム粒子としてリン酸カルシウム及び活性炭に固定される。この配位子交換は、通常0~40℃で、反応時間が0.5~24時間で行われる。0価でない錯体を使用する場合は還元操作が必要であり、この還元操作として上述の還元操作を行えばよい。溶媒は上記と同様の溶媒が用いられる。
【0030】
溶媒中のパラジウム源の濃度は、Pdとして0.001~0.1M、ポリシランの量は1~100g/リットル、活性炭の量は10~1000g/リットル、リン酸カルシウムの量は10~1000g/リットルであることが好ましい。
還元剤を用いる場合には、還元剤の使用量はパラジウム源に対して当量から5当量程度である。
【0031】
本発明の固定化パラジウム触媒は、種々の有機化合物の水素化反応などに利用することができる。水素化反応としては、例えば、ニトロ化合物の水素化、ニトリル化合物の水素化、炭素―炭素二重結合の水素化、芳香族ハロゲン化合物の脱ハロゲン的水素化、カルボニル化合物の水素化等が挙げられる。
【0032】
本発明の固定化パラジウム触媒は、バッチ式の反応、及び、連続フロー式の反応のいずれにも用いることができる。連続フロー式においては、高い基質処理能力を有し、安価に調達できる固定化触媒が求められるが、本発明の固定化パラジウム触媒を用いると、連続フロー式においても反応がスムーズに進行し、商業的にも有益である。
【実施例
【0033】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、合成例、実施例および比較例に用いた測定方法は次の通りである。
【0034】
[実施例1]
ジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒(1a)の調製
以下のスキームにより、ジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒を調製した。
全ての操作は大気下で行った。水素化ホウ素ナトリウム(19.0mg、0.5mmol)のジグリム(1.5mL)溶液が入ったナス型フラスコ(50mL)に、活性炭(0.675g、和光純薬工業株式会社製)、トルエン(15mL)を加えた。これに氷浴下で酢酸パラジウム(23.5mg、0.10mmol、アルドリッチ)のTHF(4mL)溶液を10分間(約1滴/秒)で滴下した。滴下終了後に氷浴を撤去し30分間室温で攪拌後、リン酸カルシウム(0.225g、和光純薬工業株式会社製)を加えた。30分間攪拌後、ポリジメチルシラン(0.10g、日本曹逹株式会社製、篩(300μm)処理)を加え、さらに30分間攪拌した。その後メタノール(5mL)を一気に加え、75C(オイルバス)で加熱攪拌した。30分後攪拌を止め、オイルバスを除去した。内容物が冷えた後、固形物を桐山ロート(Φ40)で濾集し、アセトン(20mL×4回)、精製水(20mL×4回)、アセトン(20mL×1回)で洗浄した。得られた粉末を80Cで15時間減圧乾燥し、1aを黒色粉末として得た(0.98g)。
【0035】
【0036】
[実施例2~3]
表1に示すように、酢酸パラジウム、ポリジメチルシラン、活性炭、リン酸カルシウムの比率を変えて、実施例1と同様にして、ジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒を合成した。得られた触媒をそれぞれ「触媒1b~1c」と呼ぶ。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例4]
パラジウム触媒1aを用いた、ロリプラム原料中間体である1,4付加体2の還元反応
以下のスキーム2により、パラジウム触媒1aを用いて1,4付加体2の還元反応を行った。
化合物2(202.3mg、0.511mmol)、パラジウム触媒1(101.8mg、0.010mmol)が入ったガラス製反応管(10mL)にトルエン(1mL)を加えた。反応容器内の減圧脱気、水素置換を3回繰り返した後、水素を充填した風船を備え、反応容器内を1気圧の水素雰囲気下とした。
100C加熱条件下で24時間攪拌を行った。反応溶液を室温に戻した後、反応混合物に酢酸エチルを加え、セライト濾過で触媒を除去した。得られた濾液の溶媒を減圧留去し、生成物3を含む固体を得た。得られた固体、および内部標準物質としてフェノールを溶解させたメタノール溶液を調製し、この溶液のHPLC測定を行うことで、各生成物の収率を決定した。HPLC測定条件は下記の通りである。
HPLC Column: YMC-Pack ODS-A (4.6 x 250 mm), eluent: Methanol/H2O = 7/3, flow rate: 0.5 mL/min, Detection: 220 nm.
Retention time: 8.4 min (PhOH), 12.5 min (3), 16.6 min (2)
【0039】
【0040】
[実施例5~6]
表2に示すように、実施例2、3で合成したパラジウム触媒1b、1cを用いて、実施例4と同様に、化合物2の還元反応を行った。
【0041】
【表2】
【0042】
[実施例17]
メタノール加温処理を用いないジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒の調製
全ての操作は大気下で行った。水素化ホウ素ナトリウム(19.0mg、0.5mmol)のジグリム(1.5mL)溶液が入ったナス型フラスコ(50mL)に、活性炭(0.675g、和光純薬工業株式会社製)、トルエン(15mL)を加えた。これに氷浴下で酢酸パラジウム(23.5mg、0.10mmol、アルドリッチ)のTHF(4mL)溶液を10分間(約1滴/秒)で滴下した。滴下終了後に氷浴を撤去し30分間室温で攪拌後、リン酸カルシウム(0.225g、和光純薬工業株式会社製)を加えた。30分間攪拌後、ポリジメチルシラン(0.10g、日本曹逹株式会社製、篩(300μm)処理)を加え、さらに30分間攪拌し、その後75C(オイルバス)で加熱攪拌した。30分後攪拌を止め、オイルバスを除去した。内容物が冷えた後、固形物を桐山ロート(Φ40)で濾集し、アセトン(20mL×4回)、精製水(20mL×4回)、アセトン(20mL×1回)で洗浄した。得られた粉末を80Cで15時間減圧乾燥し、4kを黒色粉末として得た(0.98g)。
【0043】
[実施例7~30]
表3に示すように、酢酸パラジウム、ポリジメチルシラン、活性炭、リン酸カルシウムの比率を変えて、実施例17と同様にして、ジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒を合成した。得られた触媒をそれぞれ「触媒4a~4x」と呼ぶ。
【0044】
【表3】
【0045】
[実施例31~64]
表4に示すように、実施例4と同様の手順により、パラジウム触媒4a~4xを用いて1,4付加体2の還元反応を行った。
【0046】
【表4】
【0047】
[参考例1]
骨炭を用いたジメチルポリシラン-パラジウム/(活性炭・リン酸カルシウム)触媒の調製
全ての操作は大気下で行った。水素化ホウ素ナトリウム(95.1mg、2.5mmol)のジグリム(7.5mL)溶液が入ったナス型フラスコ(200mL)に、骨炭(4.5g)、トルエン(75mL)を加えた。これに氷浴下で酢酸パラジウム(117.7mg、0.52mmol、アルドリッチ)のTHF(20mL)溶液を10分間(約1滴/秒)で滴下した。滴下終了後に氷浴を撤去し30分間室温で攪拌後、ポリジメチルシラン(0.51g、日本曹逹株式会社製、篩(300μm)処理)を加え、75C(オイルバス)で加熱攪拌した。30分後攪拌を止め、オイルバスを除去した。内容物が冷えた後、固形物を桐山ロート(Φ40)で濾集し、アセトン(20mL×4回)、精製水(20mL×4回)、アセトン(20mL×1回)で洗浄した。得られた粉末を80Cで15時間減圧乾燥し、5を黒色粉末として得た(4.92g)。
【0048】
[比較例1]
全ての操作は大気下で行った。水素化ホウ素ナトリウム(95.1mg、2.5mmol)のジグリム(7.5mL)溶液が入ったナス型フラスコ(200mL)に、活性炭(4.5g、和光純薬工業株式会社製)、トルエン(75mL)を加えた。これに氷浴下で酢酸パラジウム(117.7mg、0.52mmol、アルドリッチ)のTHF(20mL)溶液を10分間(約1滴/秒)で滴下した。滴下終了後に氷浴を撤去し30分間室温で攪拌後、ポリジメチルシラン(0.51g、日本曹逹株式会社製、篩(300μm)処理)を加え、75C(オイルバス)で加熱攪拌した。30分後攪拌を止め、オイルバスを除去した。内容物が冷えた後、固形物を桐山ロート(Φ40)で濾集し、アセトン(20mL×4回)、精製水(20mL×4回)、アセトン(20mL×1回)で洗浄した。得られた粉末を80Cで15時間減圧乾燥し、6を黒色粉末として得た(4.92g)。
【0049】
[実施例65~66]
表5に示すように、実施例4と同様の手順により、パラジウム触媒5、6を用いて1,4付加体2の還元反応を行った。
【0050】
【表5】
【0051】
表2、4で示したパラジウム触媒をもちいた還元反応結果について、活性炭に対するパラジウム量をX軸、リン酸カルシウムに対するパラジウム量をY軸とする図1を作成した。図1中で、調製した触媒の比率を点で示した。この点の大きさ、色の濃さは活性検討によって得られたラクタムの収率の高さと比例している。
点の右上の数字は収率であり、()内の値はMeOH加温処理した触媒(実施例1~3)を用いた場合の化合物3の収率である。
点線で示してあるのは、原点を通過する傾きAC/CPの直線、Pd/AC、Pd/CPを同一のパラジウム坦持量で繋いだ曲線である。
パラジウム坦持量、およびAC/CP比が下記の範囲の場合、PDMSi-Pd/AC-CPの触媒活性は極大となり得ることが分かる。
0.08<(パラジウム坦持量(mmol/g))<0.1、2.0<(AC/CP比)<4.0
図1