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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-28
(45)【発行日】2022-07-06
(54)【発明の名称】赤外線発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/30 20100101AFI20220629BHJP
【FI】
H01L33/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018055946
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019169601
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】外賀 寛崇
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩己
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161066(JP,A)
【文献】特開2012-146806(JP,A)
【文献】特開平06-350134(JP,A)
【文献】国際公開第2005/027228(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0235758(US,A1)
【文献】特開2015-088602(JP,A)
【文献】特開2009-188197(JP,A)
【文献】特開平05-090301(JP,A)
【文献】特開2017-183424(JP,A)
【文献】特開2011-171486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0372035(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103500765(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されたGaおよびSbを少なくとも含むp型コンタクト層と、
前記p型コンタクト層上に形成され、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む第2バリア層と、
前記第2バリア層上に形成され、InAsSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層と、
前記活性層上に形成され、Al、In、AsおよびSbを少なくとも含み、n型導電型を有する第1バリア層と、
前記第1バリア層上に形成され、In、AsおよびSbを少なくとも含むn型コンタクト層と、
を備え
前記基板は半絶縁性のGaAs基板であり、
前記p型コンタクト層が含むp型ドーパントは、Siである、赤外線発光素子。
【請求項2】
前記第2バリア層は、n型ドーパントを含む、または、ノンドープである、請求項に記載の赤外線発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線発光素子(LED:Light Emitting Diode)は、特定波長の赤外線を発光可能なバンドギャップを有する半導体中に、いわゆるpn接合ダイオード構造を形成する。赤外線発光素子は、前記pn接合ダイオードに順方向電流を流して、接合部分における空乏層において、電子と正孔を再結合させることにより、赤外線の発光を行う。
【0003】
特許文献1には、n型化合物半導体層とp型ドーピングのπ層とにより構成された赤外線発光素子において、n型化合物半導体層とπ層との間に、n型化合物半導体層及びπ層よりもバンドギャップが大きいn型ワイドバンドギャップ層を設けることが記載されている。これにより、n型化合物半導体層で室温において熱励起により発生した正孔のπ層方向への拡散を抑制し、正孔によるpnダイオードの暗電流を低減すると共に、π層側において熱励起によって発生した正孔のn型化合物半導体層への拡散も抑制する。特許文献1の技術は、pnダイオードの拡散電流も低減したダイオード抵抗の高い赤外線発光素子を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/113685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外線発光素子には、発光特性の向上が求められているが、特許文献1に記載された赤外線発光素子には、この点で改善の余地がある。
【0006】
本発明の課題は、発光特性が改善された赤外線発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の赤外線発光素子は、基板と、前記基板上に形成され、In、AsおよびSbを少なくとも含むn型コンタクト層と、前記n型コンタクト層上に形成され、Al、In、AsおよびSbを少なくとも含み、n型導電型を有する第1バリア層と、前記第1バリア層上に形成され、InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層と、前記活性層上に形成され、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む第2バリア層と、を備える。
【0008】
また、本発明の赤外線発光素子は、基板と、前記基板上に形成されたp型コンタクト層と、前記p型コンタクト層上に形成され、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む第2バリア層と、前記第2バリア層上に形成され、InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層と、前記活性層上に形成され、Al、In、AsおよびSbを少なくとも含み、n型導電型を有する第1バリア層と、前記第1バリア層上に形成され、In、AsおよびSbを少なくとも含むn型コンタクト層と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一態様および第二態様の赤外線発光素子によれば、発光特性が改善された赤外線発光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一態様の赤外線発光素子の構成を示す断面図である。
図2】第二態様の赤外線発光素子の構成を示す断面図である。
図3】第一実施形態の赤外線発光素子の構成を示す断面図である。
図4】第二実施形態の赤外線発光素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0012】
[第一態様]
<構成>
図1に示すように、第一態様の赤外線発光素子は、基板1と、基板1の一方の面(基板上)に形成されたn型コンタクト層2と、n型コンタクト層2の基板とは反対側の面(n型コンタクト層上)に形成されたn型導電型を有する第1バリア層3と、第1バリア層3のn型コンタクト層2とは反対側の面(第1バリア層上)に形成された活性層4と、活性層4の第1バリア層3とは反対側の面(活性層上)に形成された第2バリア層5と、を備えている。n型導電型を有する第1バリア層3は、Al、In、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含む。活性層4は、InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む化合物半導体層を含む。第2バリア層5は、Al、Ga、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含む。
【0013】
なおここで、「基板上に形成され、In、AsおよびSbを少なくとも含むn型コンタクト層」という表現における「上に」という文言は、基板の上にn型コンタクト層が形成されていることを意味するが、基板とn型コンタクト層の間に別の層がさらに存在する場合もこの表現に含まれる。その他の層同士の関係においても、「上の」という文言は、同様の意味を有するものとする。
【0014】
またここで、「InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層」という表現における「含む」という文言は、InとAsとSbを主に層内に含むことを意味するが、その他の元素を含む場合もこの表現に含まれる。具体的には、他の元素を少量(例えばAl、P、Ga、Nなどの元素を数%以下)加えるなどしてこの層の組成に軽微な変更を加える場合についてもこの表現に含まれることは当然である。その他の層の組成の表現においても、「含む」という文言は、同様の意味を有するものとする。
【0015】
<作用、効果>
第一態様の赤外線発光素子によれば、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む第2バリア層と、Al、In、AsおよびSbを少なくとも含み、n型導電型を有する第1バリア層と、を備えることで、活性層(光吸収層)と第2バリア層との伝導体のバンドオフセット(ΔEc)、および、活性層とn型導電型を有する第1バリア層との価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)をそれぞれ十分大きくすることができる。
【0016】
これにより、第一態様の赤外線発光素子は、第1バリア層および第2バリア層によるバリア機能が向上している。つまり、本発明の第一態様によれば、発光特性が改善された赤外線発光素子が得られる。
【0017】
<好ましい形態>
第一態様の赤外線発光素子は、基板がGaAs基板であり、InAs、AlGaSb、またはGaSbを含む化合物半導体層からなり基板とn型コンタクト層との間に形成されたバッファ層をさらに備えることが好ましい。
【0018】
第一態様の赤外線発光素子は、活性層と同じ組成のInAsSb、GaSbまたはGaInSbを含む化合物半導体層からなり第2バリア層上に形成されたp型コンタクト層を、さらに備えることが好ましい。
【0019】
[第二態様]
<構成>
図2に示すように、第二態様の赤外線発光素子は、基板1と、基板1の一方の面(基板上)に形成されたp型コンタクト層6と、p型コンタクト層6の基板とは反対側の面(p型コンタクト層上)に形成された第2バリア層5と、第2バリア層5のp型コンタクト層6とは反対側の面(第2バリア層上)に形成された活性層4と、活性層4の第2バリア層5とは反対側の面(活性層上)に形成されたn型導電型を有する第1バリア層3と、を備えている。n型導電型を有する第1バリア層3は、Al、In、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含む。活性層4は、InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む化合物半導体層を含む。第2バリア層5は、Al、Ga、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含む。
【0020】
<作用、効果>
第二態様の赤外線発光素子によれば、Al、Ga、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含む第2バリア層と、Al、In、AsおよびSbを含む化合物半導体層を含むn型導電型を有する第1バリア層と、を備えることで、活性層と第2バリア層との伝導体のバンドオフセット(ΔEc)、活性層とn型導電型を有する第1バリア層層との価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)を十分大きくすることができる。
【0021】
これにより、第二態様の赤外線発光素子は、第1バリア層および第2バリア層によるバリア機能が向上している。つまり、本発明の第二態様によれば、発光特性が改善された赤外線発光素子が得られる。
【0022】
<好ましい形態>
第二態様の赤外線発光素子は、基板がGaAs基板であり、p型コンタクト層がGaSbを含む化合物半導体層を含むことが好ましい。
【0023】
第二態様の赤外線発光素子は、InAsSbを含む化合物半導体層からなりn型導電型を有する第1バリア層上に形成されたn型コンタクト層を、さらに備えることが好ましい。
【0024】
[第一態様および第二態様に共通]
<知見に至る経緯>
良好な特性を有する赤外線発光素子を実現するためには、バリア層が重要な役割を果たす。バリア層は活性層に接して形成される層であり、拡散電流を防ぐ機能を有する。第2バリア層は、活性層との伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)が十分大きいことが好ましい。n型導電型を有する第1バリア層は、活性層との価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が十分大きいことが好ましい。電子はホールに比べ拡散長も長いことから、特に第2バリア層においては、バリア層の膜厚も十分に厚いことが好ましい。
【0025】
バリア層の材料としては、活性層よりもバンドギャップの大きいものを選択することが考えられるが、活性層の材料にAlまたはGaを一定量加えたものをバリア層の材料として、その混晶組成を大きくすることでバンドギャップ、伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)を大きく稼ぐ場合が多い。
【0026】
しかしながら、バリア層のAlまたはGaの混晶組成を大きくするほど、活性層との格子不整合は大きくなる傾向にある。その結果、バリア層の臨界膜厚は小さくなるので、十分な膜厚のバリア層を形成できなくなるという問題が生じる。すなわち、特に第2バリア層においては、活性層との格子定数も近く、且つ伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)を大きくとれる材料を選択することが重要である。
【0027】
これに対して、第一態様および第二態様の赤外線発光素子では、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む材料を第2バリア層の材料としたことで、活性層との伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)を大きくとることができる。また、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む材料は、活性層の材料であるInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)との格子定数が近いため、第2バリア層の膜厚を大きくすることが可能となる。第2バリア層へは、伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)を更に大きくするためにp型ドープすることが多い。しかしながら、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む材料は、活性層であるInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)に対して伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)は大きくできる反面、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)は非常に小さいという特徴をもつ。第2バリア層にp型ドープした場合、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が小さくなりすぎて、それに起因したリーク電流を生じるおそれがある。価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)を一定量以上保つために、第2バリア層はノンドープでも良いし、n型ドープしても良い。或いは、Inを一定量添加したAl、Ga、In、AsおよびSbを少なくとも含む材料を第2バリア層の材料として用いても良い。また、n型導電型を有する第1バリア層の材料としてAl、In、AsおよびSbを少なくとも含む材料を用いることで、活性層との価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)を大きくすることが可能となる。これにより、拡散電流を防ぐ機能を高め、赤外線発光素子の特性を向上させることが可能となる。
【0028】
<製法>
第一態様および第二態様の赤外線発光素子は、基板上に各層を形成する工程を経て製造される。この工程は、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法または有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などで行うことができる。
【0029】
<追加の構成>
第一態様および第二態様の赤外線発光素子は、n型コンタクト層およびp型コンタクト層上に形成される電極と、パッシベーション膜とをさらに備えることができる。
【0030】
第一態様および第二態様の赤外線発光素子は、基板上に複数形成して、電気的に直列接続する構造としてもよい。このような構造とすることで、単一の赤外線発光素子の出力を足し合わせることが可能となり、出力を飛躍的に向上させることができる。
【0031】
また、第一態様または第二態様の赤外線発光素子と、この赤外線発光素子から出力される電気信号を処理する集積回路部とが、同一パッケージ内にハイブリッドに形成されても良い。赤外線発光素子と集積回路部との電気的な接続法は特に限定されない。パッケージに関しても、赤外線の透過率が高い材料であれば特に制限はなく、中空パッケージなどを用いても良い。
【0032】
<各構成についての詳述>
(基板)
基板は、その上に化合物半導体層を成長できるものであれば特に制限されず、GaAs基板、Si基板などの単結晶基板などが好ましい。また、それらの単結晶基板がドナー不純物またはアクセプタ不純物によって、n型またはp型にドーピングされていても良い。
【0033】
単結晶基板の面方位は、特に制限されないが、(100)、(111)、(110)等が好ましい。また、これらの面方位に対して1°から5°傾けた面方位が用いられ得る。
【0034】
基板の表面上に形成された複数個の赤外線発光素子を、電極で直列接続して用いる場合、各赤外線発光素子は電極以外の部分では絶縁分離されていることが好ましい。従って、基板としては、半絶縁性の基板か、基板上に形成する各層の積層体と基板とを絶縁分離可能な基板を用いることが好ましい。
【0035】
さらに、基板として、赤外線を透過する材料を用いることにより、赤外線を基板の裏面側から取り出すことが可能となる。この場合、電極により赤外光が遮られることがないため、素子の受光面積をより広く取ることができる点で好ましい。このような基板の材料としては、半絶縁性のSiまたはGaAs等が好ましい。
【0036】
通常行われるように、基板の表面を平坦化させ、清浄化させる目的で、基板と同じ材質の半導体層を基板上に形成したものが、基板として使用され得る。GaAs基板上にGaAs層を形成したものを基板として使用することは、この最も代表的な例である。
【0037】
(バッファ層)
第一態様の赤外線発光素子は、基板とn型コンタクト層との間にバッファ層をさらに備えることが好ましい。バッファ層は基板の表面上に形成される。バッファ層は、その上に形成される全ての結晶性を改善するための層として機能する。これにより、結晶性の良い(欠陥の少ない)活性層を得ることができる。
【0038】
また、第二態様の赤外線発光素子において、基板とp型コンタクト層との間にバッファ層がさらに備えられてもよい。
【0039】
バッファ層の材料としては、InSb、InAs、InAsSb、AlInSb、GaInSb、AlGaInSb、AlInAsSb、GaInAsSb、AlGaInAsSb、AlSb、GaSb、AlGaSb、AlAsSb、GaAsSb、AlGaAsSbなどが挙げられる。バッファ層は、これらのうちの一つの材料の単層でも良いし、複数の層が積層された多層でも良い。また、材料の組成を連続的或いは階段状に変化させながら、格子定数をその上に形成する層(n型コンタクト層またはp型コンタクト層)の組成に近づけるように形成された、グレーデッドバッファ層が用いられても良い。
【0040】
バッファ層の材料は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法により確認することが可能である。他の層の材料も同様の方法で確認可能である。
【0041】
InAs単層膜、GaSb単層膜およびAlGaSb単層膜は、(a)結晶性が良好な膜を成膜し易い、(b)InAsSbを含む活性層との格子不整合をゼロに近づけることが可能、(c)単層膜の方が、グレーデッド層などと比較して膜厚が薄くて済むので、形成時間が短くて済む、などの観点から、バッファ層の材料として好ましい。
【0042】
バッファ層がAlGaSb単層膜の場合、AlyGa(1-y)Sb(0≦y≦1)のAl組成比yが大きくなると電気抵抗は高くなる。しかし、結晶性は悪くなる傾向がある。そのためAl組成比yは所望の抵抗、結晶性に応じて適宜選択する。AlyGa(1-y)Sb(0≦y≦1)のAl組成比yが大きすぎると酸化腐食しやすくなるため、酸化、腐食のしやすさの観点からは、Al組成比yを0以上0.8以下とすることが好ましい。
【0043】
また、GaSb単層膜はAlGaSb単層膜よりも、結晶性が良好な膜に成膜できるため、良好な結晶性を得るという観点からは、GaSb単層膜を用いることがより好ましい。
【0044】
バッファ層の膜厚は、薄すぎると活性層の結晶性改善の効果がなくなり、厚すぎると形成に時間がかかるとともに素子分離のためのメサエッチング工程が困難になるため、0.3μm以上2μm以下が好ましい。
【0045】
バッファ層の膜厚は断面TEM(TEM:Transmission Electron Spectroscopy)法により測定することが可能である。具体的には、試料作成を日立製FIB装置(FB-2100)を用いてFIB法により行い、日立製STEM装置(HD-2300A)を用いて断面観察を行い厚さを測定することができる。バッファ層以外の層の膜厚についても、同様の測定方法を用いることで測定可能である。
【0046】
GaSb単層膜およびAlGaSb単層膜をバッファ層として用いる場合、バッファ層はノンドープでも良いし、n型或いはp型にドーピングしても良い。
【0047】
バッファ層上にn型コンタクト層を形成する場合、ノンドープのGaSb、AlGaSbの単層膜上にn型コンタクト層が形成されても良い。またn型にドープしたGaSb、AlGaSbの単層膜がそのままn型コンタクト層として兼用されても良い。
【0048】
一方、バッファ層上にp型コンタクト層を形成する場合には、p型にドープしたGaSb、AlGaSbの単層膜をそのままp型コンタクト層として兼用しても良い。GaSb、AlGaSbの単層膜のp型化に関しては、蒸気圧が低く、最も一般的に用いられるIV族元素であるSiをドーパントとして用いることができるので好ましい。
【0049】
(n型コンタクト層)
n型コンタクト層は、電極とのコンタクト層として機能する。n型コンタクト層の材料としては、InSb、InAs、InAsSb、AlInSb、GaInSb、AlGaInSb、AlInAsSb、GaInAsSb、AlGaInAsSb、AlSb、GaSb、AlGaSb、AlAsSb、GaAsSb、AlGaAsSbなどが挙げられる。
【0050】
n型コンタクト層のシート抵抗は、熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となる。そのため、シート抵抗はできるだけ小さい方が良い。n型コンタクト層には、コンタクト抵抗を下げるために十分なドーピングがされることが必要である。そのため、ドーピング濃度としては、1×1018/cm3以上が好ましい。n型ドーパントとしてはSi、Sn、S、Se、Te、Geなどが挙げられる。
【0051】
n型コンタクト層の材料としては、(d)活性層をなすInAsSbと格子定数が近い、(e)蒸気圧が低く、最も一般的に用いられるIV族元素であるSiをドーパントとして用いることができる、(f)シート抵抗を小さくできる、という観点から、InAsまたはInAsSbであることが特に好ましい。活性層と同じ材料であるInAsSbを用いると格子定数を完全に一致させることができるため、さらに好ましい。
【0052】
n型コンタクト層の膜厚は、シート抵抗を下げるために、なるべく厚い方が好ましい。しかし、厚すぎると形成に時間がかかるとともに素子分離のためのメサエッチング工程が困難になる。このため、n型コンタクト層の膜厚としては、0.1μm以上1μm以下が好ましい範囲として挙げられる。
【0053】
(n型導電型を有する第1バリア層)
第一態様および第二態様赤外線発光素子のn型導電型を有する第1バリア層は、Al、In、AsおよびSbを含む化合物半導体層からなり、活性層からの拡散電流を防ぐ機能を有する。InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層に対してバンドギャップの大きいAl、In、AsおよびSbを含む材料を第1バリア層として用いることで、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が大きくなる。
【0054】
活性層と第1バリア層の格子定数が異なる場合、第1バリア層の膜厚が臨界膜厚を超えると、第1バリア層の結晶性が劣化するため、材料選択の際には、伝導帯或いは価電子帯のバンドオフセットおよび結晶性劣化の両方を考慮する必要がある。第1バリア層の膜厚を厚くするという観点からは、活性層と第1バリア層の格子定数の差はなるべく小さい方が好ましい。
【0055】
また、第1バリア層は、n型ドーピングにより価電子帯の上端を下げることができ、熱励起された正孔の拡散障壁としてより効果的に機能する。そのため、第1バリア層は十分なドーピングがなされている必要がある。ドーピング濃度は1×1018/cm3以上であることが好ましい。n型ドーパントとしてはSi、Sn、S、Se、Te、Geなどが挙げられる。
【0056】
第1バリア層の材料をAlInAsSbとする場合、AlInAsSbのAl組成比が小さすぎると十分な価電子帯のバンドオフセットを確保できず、また、AlInAsSbのAl組成比が大きすぎるとInAsSbを含む活性層との格子定数の差が大きくなり、第1バリア層の臨界膜厚が小さくなるため、n型バリア層として十分な膜厚を確保できなくなる。そのため、AlInAsSbのAl組成比は0.1以上、かつ、0.5以下が好ましい。
【0057】
第1バリア層の膜厚は、赤外線発光素子の抵抗を下げるために、なるべく薄い方が良い。しかし、電極と活性層との間にトンネルリークが発生しないだけの膜厚は必要となる。このため、第1バリア層の膜厚は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。なお、第1バリア層の膜厚の上限については、活性層と第1バリア層との格子定数との差によって決まる臨界膜厚によって制限される。
【0058】
(活性層)
第一態様および第二態様の赤外線発光素子の活性層はInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む。活性層のAs組成比xは、特に限定されないが、As組成比xを所望の値に設定することで、赤外線発光のピーク波長を、3μmから10μmの広範囲にわたり制御することが可能である。バッファ層としてInAs、AlGaSb、GaSbを用いた場合には、活性層のInAsSbの格子定数がバッファ層の格子定数に近い方が良好な結晶が得られるため、As組成比xは0.7以上1以下が好ましい。
【0059】
活性層の膜厚は、光吸収量を増やすためには厚い方が好ましいが、厚すぎると形成に時間がかかるとともに素子分離のためのメサエッチング工程が困難になるため、0.5μm以上3μm以下が好ましい。
【0060】
活性層はノンドープのものでも良いし、n型またはp型にドーピングされたものでもよい。InAsSbはバンドギャップが非常に小さいため、真性キャリア密度が非常に大きい。このことは、拡散電流の増大およびオージェ再結合過程の促進をもたらす。活性層をp型にドーピングすることで、これらの影響を低減することができる。ドーピング量は適宜設定される。
【0061】
InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層のp型ドーパントとしては、一般的にはBe、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが好ましく用いられるが、Znは活性化率が高く、毒性も低いため、より好ましく用いられる。
【0062】
(第2バリア層)
第一態様および第二態様の赤外線発光素子の第2バリア層は、Al、Ga、AsおよびSbを含む化合物半導体層からなり、活性層からの拡散電流を防ぐ機能を有する。InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層に対してバンドギャップの大きいAl、Ga、AsおよびSbを含む材料を第2バリア層の材料として用いることで、伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)が大きくなる。
【0063】
また、第2バリア層は、p型ドーピングにより伝導帯の下端を上げることができ、熱励起された電子の拡散障壁としてより効果的に機能する。そのため第2バリア層へは、ドーピング濃度は1×1018/cm3以上のp型ドープすることが多い。しかしながら、Al、Ga、AsおよびSbを少なくとも含む材料は、活性層であるInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)に対して伝導帯のバンドオフセット(ΔEc)は大きくできる反面、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)は非常に小さいという特徴をもつ。第2バリア層にp型ドープした場合、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が小さくなりすぎて、それに起因したリーク電流を生じるおそれがある。価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)を一定量以上保つために、第2バリア層はノンドープでも良いし、n型ドープしても良い。或いは、Inを一定量添加したAl、Ga、In、AsおよびSbを少なくとも含む材料を第2バリア層の材料として用いても良い。
【0064】
活性層に含まれるInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)との格子定数の差が十分小さいため、第2バリア層のAl組成比は臨界膜厚によって制約されない。しかし、Al組成比が大きすぎると酸化、腐食などの懸念があるため、Al組成比は0以上、かつ、0.8以下が好ましい。また、As組成比は小さ過ぎると、活性層InAsSbとの価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が小さくなりすぎる懸念がある。一方、As組成が大き過ぎると活性層InAsSbとの格子定数の差が大きくなり、臨界膜厚による制約を受けるため、As組成は0.01以上0.3以下が好ましい。
【0065】
第2バリア層の膜厚は、発光素子の素子抵抗を下げるために、なるべく薄い方が良いが、電極と活性層との間にトンネルリークが発生しないだけの膜厚が必要である。このため、第2バリア層の膜厚は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。なお、第2バリア層の膜厚の上限については、活性層と第2バリア層との格子定数との差によって決まる臨界膜厚によって制限される。
【0066】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層は、電極とのコンタクト層として機能する。p型コンタクト層の材料としては、InSb、InAs、InAsSb、AlInSb、GaInSb、AlGaInSb、AlInAsSb、GaInAsSb、AlGaInAsSb、AlSb、GaSb、AlGaSb、AlAsSb、GaAsSb、AlGaAsSbなどが挙げられる。
【0067】
p型コンタクト層のシート抵抗は、熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となる。そのため、シート抵抗はできるだけ小さい方が良い。p型コンタクト層には、コンタクト抵抗を下げるために十分なドーピングがされることが必要である。そのため、ドーピング濃度としては、1×1018/cm3以上が好ましい。p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが挙げられる。
【0068】
p型コンタクト層の材料としては、(d)活性層に含まれるInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)と格子定数が近い、(e)蒸気圧が低く、最も一般的に用いられるIV族元素であるSiをドーパントとして用いることができる、(f)シート抵抗を小さくできる、という観点から、AlGaSb、GaSbが好ましい。p型コンタクト層の材料がGaSbであると、AlGaSbである場合よりもシート抵抗を小さくできるため、好ましい。
【0069】
また、In組成を制御することでInAsSbと格子整合が可能であるため、GaInSbをp型コンタクト層の材料として用いることも好ましい。
【0070】
もちろん、活性層と同じ組成のInAsSbがp型コンタクト層として用いられても良い。この場合、p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが挙げられる。
【0071】
p型コンタクト層の膜厚は、シート抵抗を下げるために、なるべく厚い方が好ましい。しかし、厚すぎると形成に時間がかかり、かつ、素子分離のためのメサエッチング工程が困難になる。このため、p型コンタクト層の膜厚は0.1μm以上1μm以下が好ましい範囲として挙げられる。
【0072】
(パッシベーション膜)
パッシベーション膜は、絶縁性の膜であれば特に限定されない。パッシベーション膜の材料として、シリコン窒化膜(Si34)、シリコン酸化膜(SiO2)またはシリコン酸化窒化膜(SiON)などが挙げられる。
【0073】
(電極)
電極としては、p型コンタクト層に電気的に接続するp型電極と、n型コンタクト層に電気的に接続するn型電極がある。電極は、導電性の膜で構成されていれば特に限定されず、上層/下層がAu/TiまたはAu/Cr等の積層膜が挙げられる。
【0074】
[実施形態]
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
【0075】
なお、以下の説明で使用する図において、図示されている各部の寸法関係は、実際の寸法関係と異なる場合がある。
【0076】
<第一実施形態>
(構成)
第一実施形態の赤外線発光素子は、図3に示すように、基板1と、バッファ層7と、n型コンタクト層2と、n型導電型を有する第1バリア層3と、活性層4と、第2バリア層5と、p型コンタクト層6と、n型電極8と、p型電極9と、パッシベーション膜10とを備えている。
【0077】
基板1上に、バッファ層7、n型コンタクト層2、n型導電型を有する第1バリア層3、活性層4、第2バリア層5、およびp型コンタクト層6が、この順に形成されている。つまり、バッファ層7、n型コンタクト層2、n型導電型を有する第1バリア層3、活性層4、第2バリア層5、およびp型コンタクト層6を備える化合物半導体積層体が、基板1上に形成されている。
【0078】
バッファ層7およびn型コンタクト層2の幅は、n型導電型を有する第1バリア層3、活性層4、第2バリア層5、およびp型コンタクト層6の幅より大きい。つまり、n型コンタクト層2とn型導電型を有する第1バリア層3との間に段差がある。この段差により生じたn型コンタクト層2の上面にn型電極8が形成され、p型コンタクト層6の上面にp型電極9が形成されている。
【0079】
パッシベーション膜10により、基板1の上面、化合物半導体積層体の側面および上面が覆われている。n型電極8とp型電極9の上部はパッシベーション膜10から露出している。
【0080】
基板1はGaAsを含む。バッファ層7はInAs、AlGaSb或いはGaSbを含む。n型コンタクト層2はSi(n型ドーパント)を含むInAsSbを含む。n型導電型を有する第1バリア層3はSi(n型ドーパント)を含むAlInAsSbを含む。活性層4はInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む。第2バリア層5はAlGaAsSbを含む。p型コンタクト層6はSi(p型ドーパント)を含むGaSbまたはGaInSb、或いはZn(p型ドーパント)を含むInAsSbを含む。n型電極8はAu/Tiを含む。p型電極9はAu/Tiを含む。パッシベーション膜10はシリコン窒化物を含む。
【0081】
(作用、効果)
第一実施形態の赤外線発光素子によれば、AlGaAsSbを含む第2バリア層5を備えることで、活性層4と第2バリア層5との伝導体のバンドオフセット(ΔEc)を十分大きくすることができる。また、InAs、AlGaSb或いはGaSbを含むバッファ層7を有することで、InAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む活性層4の結晶性が改善される。また、n型コンタクト層2が活性層4と同じInAsSbを含むため、n型コンタクト層2と活性層4の格子定数が一致する。
【0082】
また、n型導電型を有する第1バリア層3が、活性層4をなすInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)に対するバンドギャップエネルギーが大きいAlInAsSbを含むため、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が大きく取れる。また、p型コンタクト層6が、活性層4をなすInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)と格子定数が近いGaSbまたはGaInSb或いはInAsSbを含む。
【0083】
以上のことから、第一実施形態の赤外線発光素子によれば、良好な発光特性が得られる。
【0084】
(製造方法)
先ず、GaAsウエハ(基板1)の上面に、MBE(分子線エピタキシー)法を用いて、バッファ層7、n型コンタクト層2、n型導電型を有する第1バリア層3、活性層4、第2バリア層5、およびp型コンタクト層6が形成される。次に、酸によるウェットエッチングまたはイオンミリング法などにより、素子毎に、n型導電型を有する第1バリア層3、活性層4、第2バリア層5、およびp型コンタクト層6を、部分的に除去して、n型コンタクト層2とn型電極8とのコンタクトを取るための段差形成が行われる。これにより、GaAsウエハ上に、段差を有する複数の化合物半導体積層体が形成される。
【0085】
次に、段差を有する複数の化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングが行われる。ここでは、段差の底部に現れているn型コンタクト層とバッファ層を順次、部分的に除去する。これにより、素子分離領域には基板1の上面が露出する。
【0086】
次に、シリコン窒化物を含むパッシベーション膜10により、基板1の上面および素子分離された化合物半導体積層体の上面および側面が覆われる。
【0087】
次に、パッシベーション膜10のうちn型電極8およびp型電極9を形成する部分をエッチングして貫通穴が形成される。次に、リフトオフ法などでこの貫通穴を埋めるようにAu/Ti電極が形成される。
【0088】
<第二実施形態>
(構成)
第二実施形態の赤外線発光素子は、図4に示すように、基板1と、p型コンタクト層6と、第2バリア層5と、活性層4と、n型導電型を有する第1バリア層3と、n型コンタクト層2と、n型電極8と、p型電極9と、パッシベーション膜10とを備えている。
【0089】
基板1上に、p型コンタクト層6と、第2バリア層5と、活性層4と、n型導電型を有する第1バリア層3と、n型コンタクト層2が、この順に形成されている。つまり、p型コンタクト層6と、第2バリア層5と、活性層4と、n型導電型を有する第1バリア層3と、およびn型コンタクト層2を備える化合物半導体積層体が、基板1上に形成されている。
【0090】
p型コンタクト層6の幅は、第2バリア層5と、活性層4と、n型導電型を有する第1バリア層3と、n型コンタクト層2の幅より大きい。つまり、p型コンタクト層6と第2バリア層5との間に段差がある。この段差により生じたp型コンタクト層6の上面にp型電極9が形成され、n型コンタクト層2の上面にn型電極8が形成されている。
【0091】
パッシベーション膜10により、基板1の上面、化合物半導体積層体の側面および上面が覆われている。n型電極8とp型電極9の上部はパッシベーション膜10から露出している。
【0092】
基板1はGaAsを含む。n型コンタクト層2はSi(n型ドーパント)を含むInAsSbを含む。n型導電型を有する第1バリア層3はSi(n型ドーパント)を含むAlInAsSbを含む。活性層4はInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)を含む。第2バリア層5はAlGaAsSbを含む。p型コンタクト層6はSi(p型ドーパント)を含むGaSbを含む。n型電極8はAu/Tiを含む。p型電極9はAu/Tiを含む。パッシベーション膜10はシリコン窒化物を含む。
【0093】
(作用、効果)
第二実施形態の赤外線発光素子によれば、AlGaAsSbを含む第2バリア層5を備えることで、活性層4と第2バリア層5との伝導体のバンドオフセット(ΔEc)を十分大きくすることができる。
【0094】
また、n型コンタクト層2が活性層4と同じInAsSbを含むため、n型コンタクト層2と活性層4の格子定数が一致する。また、n型導電型を有する第1バリア層3が、活性層4をなすInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)に対するバンドギャップエネルギーが大きいAlInAsSbを含むため、価電子帯のバンドオフセット(ΔEv)が大きく取れる。また、p型コンタクト層6が、活性層4をなすInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)と格子定数が近いGaSbを含むことで、活性層4をなすInAsxSb(1-x)(0≦x≦1)の結晶性を良好にすることができる。
【0095】
以上のことから、第二実施形態の赤外線発光素子によれば、良好な発光特性が得られる。
【0096】
(製造方法)
第二実施形態の赤外線発光素子は第一実施形態の赤外線発光素子と化合物半導体積層体の構成が異なるため、各層の形成順が異なるが、基本的には第一実施形態に記載された方法で製造できる。
【実施例
【0097】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0098】
[実施例1]
図3に示す構造の赤外線発光素子を以下のようにして作製した。
【0099】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶を含む基板1上に、バッファ層7と、n型コンタクト層2と、n型導電型を有する第1バリア層3と、活性層4と、第2バリア層5と、p型コンタクト層6を順次積層することにより、PIN構造の化合物半導体積層体が形成された。
【0100】
この積層工程において、バッファ層7として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Znを3×1018/cm3ドーピングしたp型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0101】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、380arcsecであった。
【0102】
この化合物半導体積層体に対して以下の工程を行うことにより、実施例1の赤外線発光素子を作製した。
【0103】
まず、n型コンタクト層2とのコンタクトをとるための段差形成が、酸によるウェットエッチングまたはイオンミリング法などにより行われた。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングが行われた。その後、SiNを含むパッシベーション膜10により、基板1の上面および素子分離された化合物半導体積層体の上面および側面が覆われた。次いで、パッシベーション膜10の電極形成部分に貫通穴が形成された。次いで、n型コンタクト層2の段差部分上およびp型コンタクト層6上の2箇所に、Au/TiをEB(電子ビーム)蒸着し、リフトオフ法により各貫通穴にn型電極8およびp型電極9がそれぞれ形成された。
【0104】
このようにして、図3に示す構造の赤外線発光素子を得た。
【0105】
[実施例2]
上記のPIN構造の積層工程において、バッファ層7として、ノンドープのAl0.55Ga0.45Sb層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Znを3×1018/cm3ドーピングしたp型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0106】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、306arcsecであった。
【0107】
この化合物半導体積層体に対して実施例1と同じ工程を行うことにより、実施例2の赤外線発光素子を作製した。
【0108】
[実施例3]
上記のPIN構造の積層工程において、バッファ層7として、ノンドープのGaSb層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Znを3×1018/cm3ドーピングしたp型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0109】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、185arcsecであった。
【0110】
この化合物半導体積層体に対して実施例1と同じ工程を行うことにより、実施例3の赤外線発光素子を作製した。
【0111】
[実施例4]
上記のPIN構造の積層工程において、バッファ層7として、ノンドープのGaSb層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Siを3×1018/cm3ドーピングしたp型のGaSb層が0.5μmの厚さで形成された。
【0112】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、185arcsecであった。
【0113】
この化合物半導体積層体に対して実施例1と同じ工程を行うことにより、実施例4の赤外線発光素子を作製した。
【0114】
[実施例5]
上記のPIN構造の積層工程において、バッファ層7として、ノンドープのGaSb層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Siを3×1018/cm3ドーピングしたp型のGa0.96In0.04Sb層が0.5μmの厚さで形成された。
【0115】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、185arcsecであった。
【0116】
この化合物半導体積層体に対して実施例1と同じ工程を行うことにより、実施例5の赤外線発光素子を作製した。
【0117】
[実施例6]
上記のPIN構造の積層工程において、バッファ層7として、ノンドープのGaSb層が0.5μmの厚さで形成された。n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.7μmの厚さで形成された。n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。第2バリア層5として、Snを1×1017/cm3ドーピングしたn型のAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。p型コンタクト層6として、Znを3×1018/cm3ドーピングしたp型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0118】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、185arcsecであった。
【0119】
この化合物半導体積層体に対して実施例1と同じ工程を行うことにより、実施例6の赤外線発光素子を作製した。
【0120】
表1は、実施例1から実施例6をまとめたものである。
【0121】
【表1】
【0122】
[実施例7]
図4に示す構造の赤外線発光素子を以下のようにして作製した。
【0123】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶を含む基板1上に、バッファ層を兼ねたp型コンタクト層6と、第2バリア層5と、活性層4と、n型導電型を有する第1バリア層3と、n型コンタクト層2を順次積層することにより、PIN逆構造の化合物半導体積層体が形成された。
【0124】
この積層工程において、バッファ層を兼ねたp型コンタクト層6として、Siを3×1018/cm3ドーピングしたp型のGaSb層が1.0μmの厚さで形成された。また、第2バリア層5として、ノンドープのAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。また、活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。また、n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。また、n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0125】
この積層工程では、蒸気圧が低いため制御が簡単で、毒性もなく一般的に用いられるSiのみをドーパントとして用いている。つまり、この方法は、PIN逆構造の化合物半導体積層体の作製方法として、量産性に優れた方法である。
【0126】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、184arcsecであった。
【0127】
この化合物半導体積層体に対して以下の工程を行うことにより、実施例7の赤外線発光素子を作製した。
【0128】
まず、p型コンタクト層6とのコンタクトをとるための段差形成が、酸によるウェットエッチングまたはイオンミリング法などにより行われた。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングが行われた。その後、SiNを含むパッシベーション膜10により、基板1の上面および素子分離された化合物半導体積層体の上面および側面が覆われた。次いで、パッシベーション膜10の電極形成部分に貫通穴が形成された。次いで、p型コンタクト層6の段差部分上およびn型コンタクト層2上の2箇所に、Au/TiをEB(電子ビーム)蒸着し、リフトオフ法により各貫通穴にp型電極9およびn型電極8がそれぞれ形成された。
【0129】
このようにして、図4に示す構造の赤外線発光素子を得た。
【0130】
[実施例8]
上記のPIN逆構造の積層工程において、バッファ層を兼ねたp型コンタクト層6として、Siを3×1018/cm3ドーピングしたp型のGaSb層が1.0μmの厚さで形成された。また、第2バリア層5として、Snを1×1017/cm3ドーピングしたn型のAl0.4Ga0.6As0.15Sb0.85層が0.02μmの厚さで形成された。また、活性層4として、ノンドープのInAs0.87Sb0.13層が2μmの厚さで形成された。また、n型導電型を有する第1バリア層3として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のAl0.3In0.7As0.87Sb0.13層が0.02μmの厚さで形成された。また、n型コンタクト層2として、Siを7×1018/cm3ドーピングしたn型のInAs0.87Sb0.13層が0.5μmの厚さで形成された。
【0131】
得られた化合物半導体積層体のInAs0.87Sb0.13を含む活性層4について、X線回折ピークのロッキングカーブの半値幅(FWHM値)は、184arcsecであった。
【0132】
この化合物半導体積層体に対して実施例7と同じ工程を行うことにより、実施例8の赤外線発光素子を作製した。
【0133】
表2は、実施例7および実施例8をまとめたものである。
【0134】
【表2】
【符号の説明】
【0135】
1 基板
2 n型コンタクト層
3 n型導電型を有する第1バリア層
4 活性層
5 第2バリア層
6 p型コンタクト層
7 バッファ層
8 n型電極
9 p型電極
10 パッシベーション膜
図1
図2
図3
図4