(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20220630BHJP
H02G 3/32 20060101ALI20220630BHJP
H02G 3/04 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H02G3/32
H02G3/04 068
(21)【出願番号】P 2021012951
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2016200849の分割
【原出願日】2016-10-12
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 太一
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027205(JP,A)
【文献】特開2013-105714(JP,A)
【文献】実開平04-137014(JP,U)
【文献】特開平10-215096(JP,A)
【文献】特開平11-026251(JP,A)
【文献】特開2007-266214(JP,A)
【文献】米国特許第06437678(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H02G 3/32
H02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線と、
前記複数の電線を一括して覆う環状の磁性体コアを有する電磁波抑制部材と、を備え、
前記電磁波抑制部材は、
前記磁性体コアを収容する収容部と、
前記収容部と別体に形成されており、前記複数の電線または前記複数の電線の周囲を覆う部材を把持し、前記複数の電線または前記複数の電線の周囲を覆う部材に固定される移動規制部と、
前記収容部と前記移動規制部とを互いに固定するための固定手段と、を有している、
ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記固定手段は、
前記移動規制部の内周面に形成されている凹溝または突起の一方からなる第1係止部と、
前記収容部の外周面に形成されている凹溝または突起の他方からなる第2係止部と、を有し、
前記第1係止部と前記第2係止部とを係止させた状態で、前記移動規制部に前記複数の電線または前記複数の電線の周囲を覆う部材を把持させることで、前記収容部と前記移動規制部とを互いに固定するように構成されている、
請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記複数の電線の周囲を覆う
部材は、蛇腹状のコルゲート管
であり、
前記移動規制部は、内方に突出する内方突起を有し、該内方突起を前記コルゲート管の溝部分に嵌め込んだ状態で、前記コルゲート管に固定されている、
請求項1または2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記移動規制部は、該移動規制部を被固定対象に固定するための固定部を一体に有している、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【請求項5】
前記磁性体コアは、ナノ結晶軟磁性材料からなる、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【請求項6】
前記収容部は、前記電線よりも硬い内壁部を有している、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電動モータを駆動源とする車両に設けられ、インバータと電動モータとを接続するワイヤハーネスが知られている。この種のワイヤハーネスとして、ワイヤハーネスの電線から放射される電磁ノイズを低減するための編組シールドが設けられたものが知られている。
【0003】
特許文献1では、編組シールドに加えて、環状の磁性体コアを設けることで、当該磁性体コアによりワイヤハーネスから放射される電磁ノイズをより低減したワイヤハーネスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁性体コアは環状であるため、ワイヤハーネスに磁性体コアを取り付ける際には、磁性体コアの中空部に電線やワイヤハーネスを通した後に、電線の長手方向に沿って磁性体コアが動いてしまわないように磁性体コアを固定することが望まれる。この際、磁性体コアの取り付けが容易であり、かつ磁性体コアを強固に固定できる構造が望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、磁性体コアの取り付けが容易で、かつ磁性体コアを強固に固定可能なワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、電線と、前記電線の周囲に取り付けられ、環状の磁性体コアを有する電磁波抑制部材と、を備え、前記電磁波抑制部材は、前記磁性体コアを収容する収容部と、前記収容部と別体に形成されており、前記電線または前記電線の周囲を覆う部材を把持し、前記電線または前記電線の周囲を覆う部材に固定される移動規制部と、前記収容部と前記移動規制部とを互いに固定するための固定手段と、を有している、ワイヤハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁性体コアの取り付けが容易で、かつ磁性体コアを強固に固定可能なワイヤハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るワイヤハーネスの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1において編組シールドとコルゲート管とを省略した斜視図である。
【
図3】コネクタを示す図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A線断面図である。
【
図6】収容部を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は破断面図である。
【
図7】(a),(b)は、移動規制部の斜視図である。
【
図8】(a)はワイヤハーネスをモータ筐体に固定した際の斜視図、(b)は移動規制部とモータ筐体との固定構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(ワイヤハーネスの全体構造の説明)
図1は、本発明の一実施の形態に係るワイヤハーネスの外観を示す斜視図である。また、
図2は、
図1において編組シールドとコルゲート管とを省略した斜視図である。
【0012】
図1および
図2に示すように、ワイヤハーネス1は、電線2と、電線2の端部に設けられたコネクタ3と、を備えている。
【0013】
ワイヤハーネス1は、例えば、電動モータを駆動源とする電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載され、電動モータにインバータから出力されるPWM(Pulse Width Modulation)制御された電流を供給するために用いられる。この電流には、パワートランジスタ等のスイッチング素子のスイッチングによる高周波成分が含まれる。
【0014】
本実施の形態では、ワイヤハーネス1は、3本の電線2を用い、U相、V相、およびW相の三相交流電流を電動モータに供給するように構成されている。
【0015】
図示していないが、各電線2は、電気良導体からなる素線を複数撚り合わせた導体と、導体の外周に設けられた絶縁性樹脂からなる絶縁体と、をそれぞれ備えている。
【0016】
各電線2の端部には、接続端子21がそれぞれ接続されている。接続端子21は、電線2の導体の端部にかしめ固定されるかしめ部21aと、かしめ部21aから延出された板状の接続部21bと、を一体に備えている。接続部21bには、接続部21bを厚さ方向に貫通するボルト固定用の接続穴21cが形成されている。接続端子21は、接続対象となる被取付部材内(例えばモータ筐体内)の端子台に設けられた対応する機器側接続端子に、接続部21bをボルト固定により固定することで、機器側接続端子に電気的に接続される。
【0017】
3本の電線2の周囲には、3本の電線2を一括して覆うように編組シールド4が設けられる。編組シールド4は、例えば銅を錫メッキしてなる複数のシールド素線を編み合わせて形成される。ここでは、6本のシールド素線を1本の素線束とし、この素線束同士をX字状にクロスさせて編み合わせることにより、編組シールド4を形成している。この編組シールド4は、例えば手作業によって編み目の大きさを変えることで、内径を拡大および収縮させることが可能である。
【0018】
ワイヤハーネス1では、コネクタ3から延出された3本の電線2を束ね(電線2の長手方向に垂直な断面において各電線2の中心軸を結んだ線が三角形状(正三角形状)となるように束ね)、その外周を編組シールド4で覆い、さらに編組シールド4の外周を樹脂製のコルゲート管(コルゲートチューブ)9で覆っている。コルゲート管9は、樹脂からなる筒状部材であり、大径部と小径部とが交互に形成された蛇腹状となっている。コルゲート管9のコネクタ3側の端部は、例えば粘着テープを巻回することにより、電線2の周囲(編組シールド4の周囲)に固定されている。
【0019】
コルゲート管9の周囲には、電磁波抑制部材8が設けられている。電磁波抑制部材8の詳細については、後述する。なお、本実施の形態では、コルゲート管9の周囲に電磁波抑制部材8を設けたが、これに限らず、電磁波抑制部材8は、電線2を覆うように設けられていればよい。
【0020】
(コネクタ3の説明)
図3は、コネクタを示す図であり、(a)は斜視図、(b)はそのA-A線断面図である。
【0021】
図3(a),(b)に示すように、コネクタ3は、被取付部材(例えばモータ筐体)に形成された取付孔(不図示)に収容される被収容部材31と、電線2に沿って被収容部材31と並んで配置された電線保持部材32と、を備えている。
【0022】
電線保持部材32は、電線2を保持すると共に、被取付部材(例えばモータ筐体)に固定するものである。電線保持部材32は、絶縁性樹脂からなるハウジング(電線ホルダ)5と、導電性の金属からなるシールドシェル(シールドケース)6と、を備えている。
【0023】
図3および
図4に示すように、本実施の形態では、ハウジング5を電線2の整列方向及び電線2の長手方向と垂直な高さ方向における中央部で上下に分割している。2分割された分割ハウジング51のそれぞれの分割面(下側の分割ハウジング51の上面、及び上側の分割ハウジング51の下面)には、電線2の長手方向に垂直な断面が半円形状の電線支持溝52が対向して形成されている。
【0024】
一方の分割ハウジング51の電線支持溝52に電線2を載置し、一方の分割ハウジング51と他方の分割ハウジング51とを合わせると、両分割ハウジング51の電線支持溝52に電線2が挟持され、ハウジング5に電線2が支持される。ハウジング5は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなり、例えば射出成形により形成される。なお、ハウジング5は、成形時のひけ等の不具合を抑制するために、適宜肉抜きがなされていてもよい。また、ハウジング5は、両分割ハウジング51を互いに固定する手段を備えていてもよい。
【0025】
ハウジング5の外周には、圧入によりシールドシェル6が設けられる。本実施の形態では、両分割ハウジング51は、電線2を挟持した状態でシールドシェル6内に圧入することで、互いに固定される。シールドシェル6は、例えば鉄や黄銅、あるいはアルミニウム等の導電性の金属からなり、ハウジング5の少なくとも一部を収容するように構成されている。
【0026】
シールドシェル6は、ハウジング5の周囲を覆う筒状部61と、筒状部61の先端側の端部から外方に突出するように設けられ、被取付部材(例えばモータ筐体)に固定される固定部としてのフランジ部62と、を一体に有している。フランジ部62には、ボルト固定用のボルト穴62aが形成されている。
図1に示すように、シールドシェル6の外周には、帯状の締付部材64が設けられており、この締付部材64により、編組シールド4がシールドシェル6の外周に固定されると共に、筒状部61が締め付けられハウジング5に固定されている。
【0027】
図3(b)および
図5に示すように、被収容部材31は、被取付部材(例えばモータ筐体)に形成された取付孔(不図示)に収容される部材であり、シールドシェル6のフランジ部62よりも先端側に配置されている。
【0028】
被収容部材31は、電線2を挿通する3つの挿通孔71を有するシール保持部材72と、シール保持部材72の外周面に保持され、被取付部材の取付孔の内面とシール保持部材72との間をシールする外周シール部材76と、挿通孔71の内周面に保持され、挿通孔71と電線2との間をシールする内周シール部材(ワイヤシール)74と、を備えている。なお、
図5では、外周シール部材76と内周シール部材74を省略している。
【0029】
シール保持部材72は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる。
【0030】
外周シール部材76は、環状に形成され、シール保持部材72の外周に周方向に沿って形成された外周シール部材用溝75に配置されている。外周シール部材76は、シール保持部材72と被取付部材(例えばモータ筐体)の取付孔の内面との間に介在し、シール保持部材72の外側から被取付部材内に水分が侵入することを抑制する。
【0031】
内周シール部材74は、環状に形成され、シール保持部材72における挿通孔71のハウジング5側の端部に周方向に沿って形成された内周シール部材用溝73に配置されている。内周シール部材74は、電線2の絶縁体とシール保持部材72との間に介在し、電線2を伝って被取付部材内に水分が侵入することを抑制する。
【0032】
シール保持部材72の基端部には、基端側に突出する係止突起77が一体に形成されている。係止突起77は、直方体形状の頭部77aと、頭部77aとシール保持部材72とを連結し、頭部77aよりも幅および高さが小さい直方体形状(角柱状)に形成された軸部(頚部)77bと、を一体に有している。
【0033】
図4に示すように、ハウジング5には、係止突起77を係止する係止溝56が形成されている。係止溝56は、係止突起77の頭部77aを収容する頭部77aよりも幅および高さおよび長さが大きい頭部収容部56aと、頭部77aよりも幅および高さが小さく、軸部77bよりも幅および高さ大きく、かつ軸部77bよりも長さが短い軸部収容部56bと、を有し、頭部収容部56aが軸部収容部56bを介して前方に開口するように構成されている。
【0034】
頭部77aを頭部収容部56aに、軸部77bを軸部収容部56bに収容して係止突起77を係止溝56に係止することで、シールドシェル6を被取付部材(例えばモータ筐体)に固定する際において、シール保持部材72が電線保持部材32に対して相対移動可能となる。本実施の形態では、シール保持部材72は、ハウジング5に対して、長さ方向、幅方向、および高さ方向に移動可動である。
【0035】
このように構成することで、電線2の屈曲やシールドシェル6をボルト固定する際のトルクにより電線保持部材32(シールドシェル6やハウジング5)が回転あるいは傾斜しても、当該回転あるいは傾斜にシール保持部材72が追従しにくくなり、例えば外周シール部材76の一部のみが過度に潰れるなどして防水機能が失われることを抑制可能になる。
【0036】
なお、ここでは、係止突起77の頭部77aと軸部77bとを直方体形状(あるいは角柱状)に形成する場合を説明したが、頭部77aと軸部77bの形状はこれに限定されず、例えば、頭部77aと軸部77bを円柱状としてもよいし、頭部77aを球状としてもよい。
【0037】
また、シール保持部材72と電線保持部材32(ハウジング5)とを相対移動可能に連結する手段は、係止突起77と係止溝56に限定されない。例えば、シール保持部材72とハウジング5の一方から弾性を有するフック(ランス)を延出すると共に、シール保持部材72とハウジング5の他方にフックを係止する係止部を設け、フックを係止部に係止してシール保持部材72とハウジング5とを連結した状態においても、フックの弾性により、シール保持部材72と電線保持部材32(ハウジング5)とを相対移動可能に構成することも可能である。
【0038】
(電磁波抑制部材8の説明)
図6は、電磁波抑制部材8の収容部81を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は破断面図である。
図7(a),(b)は、電磁波抑制部材8の移動規制部83の斜視図である。
【0039】
図1,2及び
図6,7に示すように、電磁波抑制部材8は、電線2の周囲を覆うように取り付けられており、環状の磁性体コア82を有している。本実施の形態では、電磁波抑制部材8は、磁性体コア82を収容する収容部81と、収容部81と別体に形成されており、電線2または電線2の周囲を覆う部材を把持し、電線2または電線2の周囲を覆う部材に固定される移動規制部83と、収容部81と移動規制部83とを互いに固定するための固定手段84と、を有している。
【0040】
本実施の形態では、磁性体コア82は、ナノ結晶軟磁性材料から構成される。ナノ結晶軟磁性材料とは、アモルファス合金を結晶化することにより、強磁性相のナノ結晶粒を残存するアモルファス相に分散させた材料である。なお、磁性体コア82としては、ソフトフェライト等の軟磁性材料を用いることも可能である。
【0041】
ここでは、ナノ結晶軟磁性材料として、ファインメット(登録商標)を用いた。ファインメット(登録商標)からなる磁性体コア82は、例えば、Fe(-Si)-Bを基本成分としこれに微量のCuとNb,Ta,Mo,Zr等の元素を添加した合金溶湯を単ロール法等の超急冷法により一旦厚さ約20μmのアモルファス金属薄帯とし、これを磁心形状(ここでは3本の電線2を一括して覆う環状)に成形した後、結晶化温度以上で熱処理し結晶化させることにより形成される。磁性体コア82における結晶粒径は約10nmである。なお、磁性体コア82として、ファインメット(登録商標)以外のナノ結晶軟磁性材料、例えばNANOMET(登録商標)を用いてもよい。
【0042】
ナノ結晶軟磁性材料は、従来用いられていたソフトフェライト等の軟磁性材料と比較して、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性(高透磁率・低磁心損失特性)を有している。よって、磁性体コア82としてナノ結晶軟磁性材料を用いることで、磁性体コア82の小型化が可能になる。その結果、電磁波抑制部材8の大型化および質量の増大を抑制し、電磁波抑制部材8を取り付けた場合であってもワイヤハーネス1全体をコンパクトかつ軽量に維持することが可能になる。磁性体コア82の大きさ(厚さおよび長さ)は、使用するナノ結晶軟磁性材料の特性等を考慮し、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
【0043】
また、ナノ結晶軟磁性材料は、従来用いられていたソフトフェライト等の軟磁性材料と比較して、AMラジオ等のラジオに使用される周波数帯の電磁波ノイズを抑制可能であるという特性もある。車両では、道路情報等をAMラジオにより提供しているため、特にワイヤハーネス1を車両に適用する場合には、ラジオに使用される周波数帯域で電磁波ノイズを抑制できる効果は大きいといえる。
【0044】
ただし、ナノ結晶軟磁性材料は外部から応力が加わると磁気特性が変化しやすいという特性を有している。そのため、ナノ結晶軟磁性材料からなる磁性体コア82を用いる場合、磁性体コア82に外部から応力が加わらないような構成とする必要が生じる。
【0045】
そこで、本実施の形態では、収容部81に電線2よりも硬い内壁部81aを設け、その内壁部81aの周囲に、ナノ結晶軟磁性材料からなる環状の磁性体コア82を設けるようにした。これにより、電線2を屈曲させた際等にも磁性体コア82に応力が付与されなくなり、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制することが可能になる。つまり、収容部81(内壁部81a)は、電線2の屈曲時に電線2の動きを規制して、磁性体コア82を保護する役割を果たす。なお、ここで言う「硬い」とは、同じ長さ(例えば単位長さ)のものに対して両端を持って屈曲させようとしたときに、より曲がりにくいことを意味している。
【0046】
本実施の形態では、収容部81の全体を電線2よりも硬い材料から構成したが、これに限らず、少なくとも、内壁部81aが電線2よりも硬い材料から構成されていればよい。収容部81は、例えば、PP(ポリプロピレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる。
【0047】
磁性体コア82が内壁部81aよりも長さ方向(電線2の長手方向)に突出していると、当該突出した部分の磁性体コア82が屈曲された電線2に干渉して磁性体コア82の磁気特性が変化してしまう場合があるため、磁性体コア82は、内壁部81aよりも電線2の長手方向に突出しないように設けられることが望ましい。
【0048】
なお、内壁部81aを厚く形成した場合には、磁性体コア82と電線2との距離が大きくなるため、磁性体コア82が内壁部81aよりも長さ方向(電線2の長手方向)に若干突出していても、電線2が磁性体コア82に干渉するおそれはなくなる。しかし、電線2と磁性体コア82との距離が大きくなるほど、積層された磁性体コア82の周長が長くなり電磁波抑制の効果が小さくなってしまう。すなわち、本実施の形態のように、磁性体コア82を内壁部81aよりも電線2の長手方向に突出しないように設けることで、内壁部81aの厚さをより小さく(磁性体コア82と電線2との距離をより小さく)し、電磁波抑制の効果をより高めつつも、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制可能になる。
【0049】
本実施の形態では、収容部81は、内壁部81aとの間で磁性体コア82を挟み込むように、内壁部81aと磁性体コア82とを覆うように設けられた筒状の外壁部81bと、磁性体コア82が内壁部81aと外壁部81bとの間から脱落してしまうことを抑制する規制部としての前壁部81cおよび後壁部81dと、をさらに有している。
【0050】
外壁部81bは、周囲の部材(車体等)が磁性体コア82に干渉して磁性体コア82の磁気特性が変化してしまうことを抑制する役割を果たすものであり、磁性体コア82の外周を覆うように形成されている。
【0051】
前壁部81cは、内壁部81aと外壁部81bのコネクタ3側の端部同士を連結し、内壁部81aと外壁部81b間の隙間を閉塞するように構成されている。後壁部81dは、内壁部81aと外壁部81bのコネクタ3と反対側の端部同士を連結し、内壁部81aと外壁部81b間の隙間を閉塞するように構成されている。つまり、収容部81は、全体として環状に形成されており、その周方向と垂直な断面が矩形状に形成されている。
【0052】
本実施の形態では、内壁部81aは、3本の電線2と編組シールド4を収容したコルゲート管9を一括して覆う筒状に形成されている。収容部81の内径は、コルゲート管9の外径(大径部の外径)よりも大きく形成される。収容部81とコルゲート管9間のクリアランスは、収容部81の挿入が困難とならない程度に適宜調整される。
【0053】
収容部81は、軸方向に2分割構成とされ磁性体コア82を収容可能に構成されてもよいし、磁性体コア82に樹脂をモールドすることにより形成されてもよい。
【0054】
図7および
図8に示すように、移動規制部83は、コルゲート管9の外周に沿う円環状に形成され、コルゲート管9の外周に締結固定される環状部83aと、環状部83aの外周面に一体に形成され、移動規制部83を被固定対象(ここではモータ筐体91)に固定するための固定部83bと、を一体に有している。
【0055】
環状部83aは、その周方向における2箇所にて切断され、その切断箇所の一方がヒンジ部83c(
図8(b)参照)にて一体に連結されており、ヒンジ部83cを変形させることで切断箇所の他方を開放可能とされている。開放可能な切断箇所を挟んで対向する環状部83aの2つの端部には、それぞれ係止爪83d(
図8(b)参照)が形成されており、これら係止爪83dを互いに係止させることで、切断箇所が閉じられるようになっている。両係止爪83dの係止を解除した状態で、環状部83a内にコルゲート管9を挿入し、その後両係止爪83dを互いに係止させることで、環状部83aにコルゲート管9を把持させることができ、当該把持により移動規制部83がコルゲート管9の外周に締結固定される。なお、切断箇所を挟んで対向する環状部83aの2つの端部を固定する具体的な構造は、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0056】
環状部83aの内周面には、内方に突出するリブ状の内方突起83eが形成されている。この内方突起83eは、コルゲート管9の溝部分(隣り合う大径部に挟まれた部分)に嵌め込まれることで、移動規制部83の長手方向に沿った移動を規制する役割を果たす。このように、移動規制部83は、内方突起83eをコルゲート管9の溝部分に嵌め込んだ状態で、コルゲート管9に固定される。
【0057】
固定部83bは、比較的熱の影響の少ない位置に固定されることが望ましい。本実施の形態では、比較的熱の影響の少ないモータ装置の筐体であるモータ筐体91に固定部83bを固定している。ただし、これに限らず、固定部83bは車体等に固定されるものであってもよい。
【0058】
本実施の形態において被固定対象となるモータ筐体91には、板状の突出部92が設けられている。突出部92には、突出部92を厚さ方向に貫通する係止穴93が形成されている。固定部83bは、突出部92の先端部が挿入される固定用穴83fと、固定用穴83f内に設けられ、固定用穴83fに挿入された突出部92の係止穴93に係止される爪部83gと、を有している。モータ筐体91の突出部92を、固定部83bの固定用穴83fに挿入すると、突出部92の係止穴93に爪部83gが係止され、移動規制部83がモータ筐体91に固定される。
【0059】
移動規制部83は、例えば、PP(ポリプロピレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる。収容部81と移動規制部83とは、同じ材料で構成されてもよいし、異なる材料で構成されてもよい。例えば、磁性体コア82は磁気飽和すると発熱する場合があるため、収容部81を耐熱性の高い材料で構成し、移動規制部83を耐熱性の比較的低い安価な材料で構成するなどして、コスト削減を図ることも可能である。
【0060】
なお、本実施の形態では、移動規制部83をコルゲート管9に固定する場合を説明したが、移動規制部83は、電線2に直接固定されるものであってもよいし、コルゲート管9以外の電線2の周囲を覆う部材(例えば、編組シールド4やアルミパイプ等)に固定されるものであってもよい。
【0061】
固定手段84は、別体に形成されている収容部81と移動規制部83とを互いに固定するためのものである。本実施の形態では、固定手段84は、移動規制部83における環状部83aの内周面に形成されている凹溝からなる第1係止部84aと、収容部81の外周面に形成されている突起からなる第2係止部84bと、を有している。ここでは、前壁部81cから軸方向外方に突出する内壁部81aと同軸の円筒体81eを前壁部81cと一体に形成し、その円筒体81eの外周面から径方向外方に突出するように、突起からなる第2係止部84bを形成している。
【0062】
第1係止部84aと第2係止部84bとを係止させた状態(つまり凹溝に突起を係止させた状態)で、両係止爪83dを互いに係止させて移動規制部83にコルゲート管9を把持させることで、移動規制部83がコルゲート管9に固定されると同時に、収容部81と移動規制部83とが互いに固定される。
【0063】
なお、ここでは第1係止部84aを凹溝、第2係止部84bを突起としたが、凹溝と突起の関係は逆であってもよい。つまり、環状部83aの内周面に突起からなる第1係止部84aを形成し、収容部81の外周面に凹溝からなる第2係止部84bを形成してもよい。また、ここでは両係止部84a,84bを2つずつ形成しているが、両係止部84a,84bの数はこれに限定されず、1つ、あるいは3つ以上としてもよい。ただし、収容部81と移動規制部83とを強固に固定するためには、両係止部84a,84bの数を2つ以上とすることがより望ましい。
【0064】
また、固定手段84は図示のものに限定されず、例えば、クリップ部材等により収容部81と移動規制部83とを固定してもよい。ただし、クリップ部材等を用いた場合は電磁波抑制部材8の全体が大型化してしまうおそれがある。本実施の形態のように第1係止部84aと第2係止部84bとからなる固定手段84を採用することで、電磁波抑制部材8の大型化を抑制しつつ、簡単な構成で、収容部81と移動規制部83とを強固に固定することが可能である。
【0065】
なお、ワイヤハーネス1では、収容部81のコネクタ3側に移動規制部83を設けたが、収容部81のコネクタ3と反対側に移動規制部83を設けてもよい。収容部81に対してコネクタ3側に移動規制部83を設けるか、あるいはコネクタ3と反対側に移動規制部83を設けるかについては、ワイヤハーネス1の配策レイアウト等を考慮し、適宜設定可能である。
【0066】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネス1では、電線2と、電線2の周囲に取り付けられ、環状の磁性体コア82を有する電磁波抑制部材8と、を備え、電磁波抑制部材8は、磁性体コア82を収容する収容部81と、収容部81と別体に形成されており、電線2または電線2の周囲を覆う部材を把持し、電線2または電線2の周囲を覆う部材に固定される移動規制部83と、収容部81と移動規制部83とを互いに固定するための固定手段84と、を有している。
【0067】
例えば、収容部81と移動規制部83とが一体に形成されていると、電線2等を電磁波抑制部材8に挿通する作業が困難になる場合がある。特に、本実施の形態のように、コルゲート管9に電磁波抑制部材8を固定する場合、コルゲート管9の溝に嵌め込まれる内方突起83eが干渉して、電磁波抑制部材8(磁性体コア82)の取付が非常に困難になる場合がある。また、収容部81と移動規制部83とを一体とすると、部品サイズが大きくなり、成形用の金型が大型化して製造コストが増大してしまうおそれがある。
【0068】
これに対して、本実施の形態では、収容部81と移動規制部83とを別体に構成しているため、磁性体コア82を収容する収容部81とコルゲート管9との間のクリアランスを大きくして磁性体コア82の取付を容易としつつも、内方突起83eを有する移動規制部83により強固にコルゲート管9を把持させることができる。さらに、収容部81に電線2等を挿通した後に、収容部81と移動規制部83を固定手段84で互いに固定することで、磁性体コア82を、収容部81及び移動規制部83を介して電線2等(ここではコルゲート管9)に強固に固定することが可能になる。また、収容部81と移動規制部83を別体とすることで、成形用の金型を小さくでき、製造コストの削減に寄与する。
【0069】
また、本実施の形態では、固定手段84を、移動規制部83の内周面に形成されている凹溝または突起の一方からなる第1係止部84aと、収容部81の外周面に形成されている凹溝または突起の他方からなる第2係止部84bとで構成し、第1係止部84aと第2係止部84bとを係止させた状態で、移動規制部83に電線2または電線2の周囲を覆う部材(ここではコルゲート管9)を把持させることで、収容部81と移動規制部83とを互いに固定している。これにより、コンパクトかつ簡単な構成で、収容部81と移動規制部83とを強固に固定することが可能になる。また、両係止部84a,84bが露出せず環状部83aに覆われた状態になるため、固定手段84が周囲の部材に干渉しにくいというメリットもある。
【0070】
さらに、移動規制部83が、該移動規制部83を被固定対象(ここではモータ筐体91)に固定するための固定部83bを一体に有していることで、電磁波抑制部材8が電線2を束ねて被固定対象(ここではモータ筐体91)に固定する役割(電線固定用クリップとしての役割)も兼ねることになり、別途電線2を被固定対象に固定する部材を用意する必要がなくなるため、ワイヤハーネス1の構成の簡単化、及び低コスト化に寄与する。
【0071】
さらにまた、ナノ結晶軟磁性材料からなる磁性体コア82を用いることで、従来用いていたフェライトコア等と比較して磁性体コア82を小型化し、小型かつ軽量な電磁波抑制部材8を実現できる。電磁波抑制部材8を小型化することにより、ワイヤハーネス1を狭い場所にも配策し易くなり、ワイヤハーネス1の配策レイアウトの自由度が向上する。また、電磁波抑制部材8を軽量とすることにより、電磁波抑制部材8を取り付けた際のワイヤハーネス1の質量の増大を抑制し、ワイヤハーネス1の取り扱い性を向上できる。
【0072】
また、ナノ結晶軟磁性材料は応力が印加されると磁気特性が変化しやすい材料であるが、収容部81が電線2よりも硬い内壁部81aを有していることにより、電線2が屈曲された際や電線2の振動等により磁性体コア82に負荷がかからないようし、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制することが可能になる。
【0073】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0074】
[1]電線(2)と、前記電線(2)の周囲に取り付けられ、環状の磁性体コア(82)を有する電磁波抑制部材(8)と、を備え、前記電磁波抑制部材(8)は、前記磁性体コア(82)を収容する収容部(81)と、前記収容部(81)と別体に形成されており、前記電線(2)または前記電線(2)の周囲を覆う部材を把持し、前記電線(2)または前記電線(2)の周囲を覆う部材に固定される移動規制部(83)と、前記収容部(81)と前記移動規制部(83)とを互いに固定するための固定手段(84)と、を有している、ワイヤハーネス(1)。
【0075】
[2]前記固定手段(84)は、前記移動規制部(83)の内周面に形成されている凹溝または突起の一方からなる第1係止部(84a)と、前記収容部(81)の外周面に形成されている凹溝または突起の他方からなる第2係止部(84b)と、を有し、前記第1係止部(84a)と前記第2係止部(84b)とを係止させた状態で、前記移動規制部(83)に前記電線(2)または前記電線(2)の周囲を覆う部材を把持させることで、前記収容部(81)と前記移動規制部(83)とを互いに固定するように構成されている、[1]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0076】
[3]前記電線(2)の周囲を覆う蛇腹状のコルゲート管(9)を備え、前記移動規制部(83)は、内方に突出する内方突起(83e)を有し、該内方突起(83e)を前記コルゲート管(9)の溝部分に嵌め込んだ状態で、前記コルゲート管(9)に固定されている、[1]または[2]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0077】
[4]前記移動規制部(83)は、該移動規制部(83)を被固定対象(91)に固定するための固定部(83b)を一体に有している、[1]乃至[3]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0078】
[5]前記磁性体コア(82)は、ナノ結晶軟磁性材料からなる、[1]乃至[4]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0079】
[6]前記収容部(81)は、前記電線(2)よりも硬い内壁部(81a)を有している、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0080】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0081】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0082】
上記実施の形態では、電線2が3本である場合を説明したが、電線2の本数は限定されず、例えば、電線2が1本、2本、または4本以上であってもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、束ねた電線2の周囲を覆うように電磁波抑制部材8を設けたが、電線2の長手方向と直交する方向に一直線状に整列配置した電線2を覆うように電磁波抑制部材8を設けてもよい。この場合、収容部81、磁性体コア82、及び移動規制部83の環状部83aを、楕円形状あるいは角丸長方形状(オーバル形状)としてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…ワイヤハーネス
2…電線
3…コネクタ
31…被収容部材
32…電線保持部材
4…編組シールド
5…ハウジング
6…シールドシェル
8…電磁波抑制部材
81…収容部
81a…内壁部
82…磁性体コア
83…移動規制部
83b…固定部
84…固定手段
9…コルゲート管