(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ線材、カーボンナノチューブ線材接続構造体及びカーボンナノチューブ線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20220630BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20220630BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20220630BHJP
C25D 5/54 20060101ALI20220630BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20220630BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20220630BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20220630BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
D06M11/83
C01B32/168
C23C28/04
C25D5/54
C25D7/06 U
D02G3/16
D02G3/36
D07B1/02
(21)【出願番号】P 2017193223
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 智
(72)【発明者】
【氏名】三好 一富
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0330365(US,A1)
【文献】特表2012-533158(JP,A)
【文献】特開2017-174689(JP,A)
【文献】特開2013-026077(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033482(WO,A1)
【文献】特開2008-231530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-23/18
C01B32/00-32/991
C23C24/00-30/00
C25D5/00-7/12
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D07B1/00-9/00
H01B1/02-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせて構成されるカーボンナノチューブ線材であって、
前記カーボンナノチューブ線材の長手方向に沿って設けられ、前記カーボンナノチューブ線材の内部及び表層部に配され
、且つ前記複数のカーボンナノチューブ束のそれぞれの表面に別個に形成されためっき部を備え、
前記カーボンナノチューブ線材の長手方向に垂直な方向の断面において、カーボンナノチューブ束の表面全長に対する、当該カーボンナノチューブ束の表面に厚さ1μm以上のめっき層が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、前記複数のカーボンナノチューブ束の総数で除した値の比率が、70%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ線材。
【請求項2】
前記めっき部が、前記複数のカーボンナノチューブ束のうちの隣接する複数のカーボンナノチューブ束間に3次元的に形成されていることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項3】
前記めっき部は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、白金(Pt)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)からなる群から選択された1又は複数を主成分とする材料で形成されることを特徴とする、請求項1又は2記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項4】
異種元素がドープされていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブが、2層又は3層の層構造を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ線材。
【請求項6】
複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせて構成されるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材に接続されるはんだ部とを備えるカーボンナノチューブ線材接続構造体であって、
前記カーボンナノチューブ線材は、該カーボンナノチューブ線材の長手方向に沿って設けられ、前記カーボンナノチューブ線材の内部及び表層部に配され
、且つ前記複数のカーボンナノチューブ束のそれぞれの表面に別個に形成されためっき部を備え、
前記カーボンナノチューブ線材の断面視において、カーボンナノチューブ束の表面全長に対する、当該カーボンナノチューブ束の表面に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、前記複数のカーボンナノチューブ束の総数で除した値の比率が、70%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ線材接続構造体。
【請求項7】
複数のカーボンナノチューブ束で構成されるカーボンナノチューブ線材本体に無電界めっき処理を施して下地部を形成する工程と、
前記無電界めっき処理を施したカーボンナノチューブ線材本体に電界めっき処理を施して、前記カーボンナノチューブ線材本体の長手方向に沿って、該カーボンナノチューブ線材本体の内部及び表層部にめっき部を形成する工程と、
前記電界めっきを施す工程の後に、前記複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせる工程と、
を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブを束ねてなるカーボンナノチューブ束の複数を撚り合わせて構成されるカーボンナノチューブ線材、カーボンナノチューブ線材と該線材に接続されるはんだ部とを備えるカーボンナノチューブ線材接続構造体、及びカーボンナノチューブ線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や産業機器などの様々な分野における電力線や信号線として、一又は複数の線材からなる芯線と、該芯線を被覆する絶縁被覆とからなる電線が用いられている。芯線を構成する線材の材料としては、通常、電気特性の観点から銅又は銅合金が使用されるが、近年、軽量化の観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が提案されている。例えば、アルミニウムの比重は銅の比重の約1/3、アルミニウムの導電率は銅の導電率の約2/3(純銅を100%IACSの基準とした場合、純アルミニウムは約66%IACS)であり、アルミニウム線材に、銅線材と同じ電流を流すためには、アルミニウム線材の断面積を、銅の線材の断面積の約1.5倍と大きくする必要があるが、そのように断面積を大きくしたアルミニウム線材を用いたとしても、アルミニウム線材の質量は、純銅の線材の質量の半分程度であることから、アルミニウム線材を使用することは、軽量化の観点から有利である。
【0003】
上記のような背景のもと、昨今では、自動車、産業機器等の高性能化・高機能化が進められており、これに伴い、各種電気機器、制御機器などの配設数が増加するとともに、これら機器に使用される電気配線体の配線数も増加する傾向にある。また、その一方で、環境対応のために自動車等の移動体の燃費を向上させるため、線材の軽量化が強く望まれている。
【0004】
こうした更なる軽量化を達成するための新たな手段の一つとして、カーボンナノチューブを線材として活用する技術が新たに提案されている。カーボンナノチューブは、六角形格子の網目構造を有する筒状体の単層、あるいは略同軸で配された多層で構成される3次元網目構造体であり、軽量であると共に、導電性、電流容量、弾性、機械的強度等の特性に優れるため、電力線や信号線に使用されている金属に代替する材料として注目されている。
【0005】
カーボンナノチューブの比重は、銅の比重の約1/5(アルミニウムの約1/2)であり、また、カーボンナノチューブ単体は、銅(抵抗率1.68×10-6Ω・cm)よりも高導電性を示す。したがって理論的には、複数のカーボンナノチューブを撚り合わせてカーボンナノチューブ集合体を形成すれば、更なる軽量化、高導電率の実現が可能となる。しかしながら、nm単位のカーボンナノチューブを撚り合わせて、μm~mm単位のカーボンナノチューブ線材を作製した場合、構成単位となる1本当たりの外径が非常に小さいため、カーボンナノチューブ間の接触抵抗や内部欠陥形成が要因となり、線材全体の抵抗値が増大してしまうという問題があることから、カーボンナノチューブをそのまま線材として使用することが困難であった。また、接続の観点から、カーボンナノチューブ線材とはんだからなるカーボンナノチューブ接続構造体を作製する場合、カーボンナノチューブ線材とはんだの相性が悪く、接続強度や電気特性を確保することが困難であった。
【0006】
カーボンナノチューブ撚線(線材)の端部でCVD(chemical vapor Deposition)等によってCNTを成長させ、当該端部から伸びた成長CNTを他のカーボンナノチューブ撚線或いはその成長CNTと接続することにより、カーボンナノチューブ撚線同士の接続強度や電気的特性を実現することが可能な製造方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献では、複数のカーボンナノチューブを撚り合わせてなるカーボンナノチューブ線材の端部同士を、成長CNTを介して接続することが開示されているにすぎない。カーボンナノチューブ束を撚り合わせて作成したカーボンナノチューブ線材では、カーボンナノチューブ束間の接触抵抗が高く、特定のカーボンナノチューブ束に電流が集中する、いわゆる過電流が生じやすい問題がある。
【0009】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ束間の接触抵抗を低減させ、過電流の発生を抑制することができるカーボンナノチューブ線材、及びカーボンナノチューブ接続構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせて構成されるカーボンナノチューブ線材であって、
前記カーボンナノチューブ線材の長手方向に沿って設けられ、前記カーボンナノチューブ線材の内部及び表層部に配されためっき部を備え、
前記カーボンナノチューブ線材の長手方向に垂直な方向の断面において、カーボンナノチューブ束の表面全長に対する、当該カーボンナノチューブ束の表面に厚さ1μm以上のめっき層が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、前記複数のカーボンナノチューブ束の総数で除した値の比率が、70%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ線材。
[2]前記めっき部が、前記複数のカーボンナノチューブ束のうちの隣接する複数のカーボンナノチューブ束間に3次元的に形成されていることを特徴とする上記[1]記載のカーボンナノチューブ線材。
[3]前記めっき部は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、白金(Pt)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)からなる群から選択された1又は複数を主成分とする材料で形成されることを特徴とする、上記[1]又は[2]記載のカーボンナノチューブ線材。
[4]異種元素がドープされていることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ線材。
[5]前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブが、2層又は3層の層構造を有することを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれかに記載のカーボンナノチューブ線材。
[6]複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせて構成されるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材に接続されるはんだ部とを備えるカーボンナノチューブ線材接続構造体であって、
前記カーボンナノチューブ線材は、該カーボンナノチューブ線材の長手方向に沿って設けられ、前記カーボンナノチューブ線材の内部及び表層部に配されためっき部を備え、
前記カーボンナノチューブ線材の断面視において、カーボンナノチューブ束の表面全長に対する、当該カーボンナノチューブ束の表面に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、前記複数のカーボンナノチューブ束の総数で除した値の比率が、70%以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ線材接続構造体。
[7]複数のカーボンナノチューブ束で構成されるカーボンナノチューブ線材本体に無電界めっき処理を施して下地部を形成する工程と、
前記無電界めっき処理を施したカーボンナノチューブ線材本体に電界めっき処理を施して、前記カーボンナノチューブ線材本体の長手方向に沿って、該カーボンナノチューブ線材本体の内部及び表層部にめっき部を形成する工程と、
前記無電界めっきを施す工程の前か又は前記電界めっきを施す工程の後に、前記複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせる工程と、
を有することを特徴とする、カーボンナノチューブ線材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンナノチューブ線材における過電流の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の構成の一例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材接続構造体の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<カーボンナノチューブ線材接続構造体の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の構成の一例を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。なお、
図1におけるカーボンナノチューブ線材接続構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0015】
図1(a)及び(b)に示すように、カーボンナノチューブ線材1(以下、CNT線材ともいう)は、複数のカーボンナノチューブ束11,11,・・・(以下、CNT束という)を撚り合わせて構成されるCNT線材であって、CNT線材1の長手方向に沿って設けられ、前記CNT線材の内部及び表層部に配されためっき部12を備え、CNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面において、CNT束11の表面全長に対する、当該CNT束の表面に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるCNT束の個数を、複数のCNT束11,11,・・・の総数で除した値の比率が、70%以上である。
【0016】
めっき部12は、複数のCNT束11,11,・・・のうちの隣接する複数のCNT束間に3次元的に形成されているのが好ましい。例えば、めっき部12は、複数のCNT束11,11,・・・間に連通して形成された3次元構造を有している。また、めっき部12の一部が、各CNT束11の外周面の一部又は全体にめっき層として配置されているのが好ましい。
【0017】
めっき部12は、好ましくはCNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面において、CNT線材1の全体に偏り無く配されており、均一に分散して配置されている。
図1では、めっき部12は、複数のCNT束11,11の表面に別個に形成されているが、複数のCNT束11,11,・・・の表面に一体で形成されてもよい。また、めっき部12は、隣接する複数のCNT間、例えば隣接する2つのCNT11,11間に形成されるのが好ましい。更に、めっき部12は、隣接する複数のCNT間に、当該隣接する複数のCNTのいずれとも密着した状態で形成されるのがより好ましい。
【0018】
めっき部は、はんだとCNT線材1との相性の観点から銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、白金(Pt)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)からなる群から選択された1又は複数を主成分とする合金で形成されているのが好ましい。
【0019】
CNT線材1は、めっき部12以外の他の金属部を有していてもよい。例えば、CNT線材1は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、白金(Pt)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)からなる群から選択された1又は複数を主成分とする合金で形成されためっき部と、該めっき部の下地を構成し、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)またはこれらを主成分とする合金で形成された下地部とを備えてもよい。下地部は、好ましくはめっきで形成されており、この場合、上記めっき部とは異なる他のめっき部を構成する。また、CNT線材1にめっき部及び下地部の双方が形成される場合、下地部の一部が、CNT束11の外表面に形成され、めっき部の一部が、下地部の外表面に形成されるのが好ましい。このとき、CNT束11の重心から見て内側に位置する下地部を第1層、外側に位置するめっき部を第2層とすることができる。更に、CNT線材1にめっき部及び下地部の双方が形成される場合、上記下地部の複層が設けられてもよいし、上記めっき部の複層が形成されてもよい。CNT線材1或いはCNT束11に下地部が設けられることで、下地部とめっきとの濡れ性が向上し、CNT線材1とめっき部12との接着強度を向上することができる。
【0020】
めっき部12の厚さは、母材の保護及びコスト等を考慮し、0.3μm~3.0μmである。めっき部と下地部の双方が形成される場合、めっき部と下地部の合計厚さは、0.3μm~3.0μmである。このとき、CNT束の1層目に相当する下地部の材料は、CNT束との密着力に優れた金属、2層目に相当するめっき部の材料は、電気伝導の優れた金属であることが好ましい。
【0021】
カーボンナノチューブ或いはカーボンナノチューブ束の撚り線において、めっきされていない素線同士では接続抵抗が大きく、素線間の導通がとりにくい。そのため、端末から電流を流す場合に、撚り線を構成する素線全部に電流が流れない場合があり、特に大電流を流した場合、特定の素線にのみ電流が流れ、素線の許容電流量を超え、素線が切断してしまう場合がある。
【0022】
CNT束である素線がめっき処理されている場合、めっきされていな素線と素線同士に比べて、めっきされた素線同士では1/100程度、めっきされた素線とめっきされていない素線では1/10程度に接触抵抗が下がるため、素線同士の導通が向上し、素線全体に電流が流れるようになる。その結果、大電流を流した場合でも特定の素線にのみ過剰な電流が流れて素線が切断されることがない。
【0023】
そこで、本実施形態では、CNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面において、CNT束11の外縁全長に対する、当該CNT束の外縁に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるCNT束の個数を、複数のCNT束11,11,・・・の総数で除した値が70%以上であり、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。上記値が70%未満であると、素線間の接触抵抗が十分下がらず、大きな電流が流れたときに特性の素線に過電流が生じやすくなり、好ましくない。また、CNT束の外縁に形成されるめっき部の厚さが1μm未満であると、はんだ付けの際にめっきが剥がれてCNTが露出し、接続抵抗が増加するため好ましくない。
【0024】
各CNT束の断面が円形であるか或いは円相当径が算出可能である場合、CNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面において、CNT束11の外周全長に対する、当該CNT束の外周に厚さ1μm以上のめっき層が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、複数のカーボンナノチューブ束11,11,・・・の総数で除した値の比率が、70%以上であり、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0025】
めっき部12は、CNT線材1の長手方向の全長の一部に形成されてもよいし、CNT線材1の長手方向の全長に亘って形成されてもよい。このめっき部12では、CNT束11の外縁全長に対する、当該CNT束の外縁に厚さ1μm以上のめっき層が形成された部分の長さの比が0.5以上であるCNT束の個数を、複数のCNT束11,11,…の総数で除した値の比率が、CNT線材1の長手方向に関してばらつきが小さいのが好ましい。例えば、1.0mのCNT線材を概ね10箇所で切断して各断面をSEMで観察し、上述の算出方法を用いて各CNT束の上記値を算出し、得られた複数の値を平均することで、めっき部12の長手方向における上記値の平均値を得ることができる。また、10箇所で得られた上記値の標準偏差を求めることで、CNT線材1の長手方向に関する上記値のばらつきを確認することができる。
【0026】
CNT線材1は、1層以上の層構造を有するCNTの複数が束ねられてなるCNT束同士を撚り合わせて構成されている。CNT線材1の外径は、0.01mm~5mmである。
CNT線材1は、複数のCNTが纏められた束状体となっている。CNT線材1は、異種元素がドープされていてもよい。この場合、CNT束11に異種元素がドープされてなるカーボンナノチューブ複合体の複数を撚り合わせて構成されてもよい。
【0027】
CNT線材1を構成するCNTは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれSWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。例えば、2層構造を有するCNTは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0028】
CNTの性質は、上記のような筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びそれ以外のカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、カイラル型は半導体性、ジグザグ型はその中間の挙動を示す。よってCNTの導電性はいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なり、CNT集合体の導電性を向上させるには、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNTの割合を増大させることが重要とされてきた。一方、半導体性を有するカイラル型のCNTに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、金属的挙動を示すことが分かっている。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性CNTに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。
【0029】
このように、金属性CNT及び半導体性CNTへのドーピング効果は、導電性の観点からはトレードオフの関係にあると言えることから、理論的には金属性CNTと半導体性CNTとを別個に作製し、半導体性CNTにのみドーピング処理を施した後、これらを組み合わせることが望ましい。しかし、現状の製法技術では金属性CNTと半導体性CNTとを選択的に作り分けることは困難であり、金属性CNTと半導体性CNTが混在した状態で作製される。このため、金属性CNTと半導体性CNTの混合物からなるCNT線材の導電性を向上させるには、異種元素・分子によるドーピング処理が効果的となるCNT構造を選択することが好ましい。
【0030】
CNT線材1を構成するCNTは、2層又は3層の層構造を有するのが好ましい。具体的には、CNT線材1を構成するCNT束11において、複数のCNTの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が50%以上であるのが好ましく、75%以上であるのがより好ましい。すなわち、一のCNT束を構成する全CNTの総数をNTOTAL、上記全CNTのうち2層構造を有するCNT(2)の数の和をNCNT(2)、上記全CNTのうち3層構造を有するCNT(3)の数の和をNCNT(3)としたとき、下記式(1)で表すことができる。
(NCNT(2)+NCNT(3))/NTOTAL×100(%)≧50(%) ・・・(1)
【0031】
2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高い。また、ドーパントは、CNTの最内層の内部、もしくは複数のCNTで形成されるCNT間の隙間に導入される。CNTの層間距離はグラファイトの層間距離である0.335nmと同等であり、多層CNTの場合その層間にドーパントが入り込むことはサイズ的に困難である。このことからドーピング効果はCNTの内部および外部にドーパントが導入されることで発現するが、多層CNTの場合は最外層および最内層に接していない内部に位置するチューブのドープ効果が発現しにくくなる。以上のような理由により、複層構造のCNTにそれぞれドーピング処理を施した際には、2層構造又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。また、ドーパントは、強い求電子性もしくは求核性を示す、反応性の高い試薬であることが多い。単層構造のCNTは多層よりも剛性が弱く、耐薬品性に劣るためにドーピング処理を施すと、CNT自体の構造が破壊されてしまうことがある。よって本発明ではCNT集合体に含まれる2層構造又は3層構造を有するCNTの個数に着目する。また、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率が50%未満であると、単層構造或いは4層以上の複層構造を有するCNTの比率が高くなり、CNT集合体全体としてドーピング効果が小さくなり、高導電率が得にくくなる。よって、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率を上記範囲内の値とする。
【0032】
CNTにドープされるドーパントは、導電性が向上すれば特に限定はないが、例えば硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の異種元素もしくは分子である。
【0033】
また、CNT束11を構成するCNTの最外層の外径は5.0nm以下であるのが好ましい。CNT束11を構成するCNTの最外層の外径が5.0nmを超えると、CNT間および最内層の隙間に起因する空孔率が大きくなり、導電性が低下してしまうため、好ましくない。
【0034】
CNT線材1は、線材全体の強度及び導電性の観点から、その当該線材に分散配置された他の金属部材を有していてもよい。他の金属部材は、例えば長尺状の線材或いは粒子であり、このような形状を有する他の金属部材がCNTに混合されている。上記他の金属部材の金属は、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を主成分とする材料である。
【0035】
<カーボンナノチューブ線材の製造方法>
本実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の製造方法は、複数のカーボンナノチューブ束で構成されるカーボンナノチューブ線材本体に無電界めっき処理を施す工程と、上記無電界めっき処理を施したカーボンナノチューブ線材本体に電界めっき処理を施して、上記カーボンナノチューブ線材本体の長手方向に沿って、該カーボンナノチューブ線材本体の内部及び表層部にめっき部を形成する工程と、上記無電界めっきを施す工程の前か又は上記電界めっきを施す工程の後に、上記複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせる工程と、を有する。
【0036】
具体的には、先ず、複数のCNT束で構成されるCNT線材本体を準備し、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)から選択された1又は複数を主成分とする合金を含有するめっき浴に所定時間浸漬して、CNT線材本体にめっき部の下地となる下地部を形成する。これにより、CNT線材の内部及び表層部に下地部が形成される。CNT線材本体に下地部を形成することで、CNT線材本体とめっき部との接着性を向上することができる点で優れている。
【0037】
次に、下地部が形成されたCNT線材本体を、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、スズ(Sn)、白金(Pt)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)からなる群から選択された1又は複数を主成分とする合金を含有するめっき浴に所定時間浸漬して、CNT線材本体にめっき部を形成する。これにより、CNT線材の内部及び表層部にめっき部が形成される。本電界めっき処理により、CNT線材内部及び表層部にめっき部が形成されたCNT線材を得る。
【0038】
上記無電界めっき或いは電界めっき処理によって形成されるめっき部の深さ方向の割合、すなわちCNT線材の外縁から重心までの長さに対するめっき部の厚さの比は、複数のCNT束の撚り度に依存する。めっき部の深さ方向の割合を好ましい範囲内の値にするには、上記無電界めっきを施す工程の後に、複数のCNT束を撚り合わせる工程を行うか、上記無電界めっきを施す工程の前に、複数のCNT束を弱い撚りで撚り合わせる工程を行うのが好ましい。無電界めっきを施す工程の前に撚り合わせる工程を行う場合、CNT線材本体の単位長さ当たりの巻き数を表す撚り度(T/m)を小さくすることで、めっき浴のめっきがCNT線材本体に浸透する量が多くなり、CNT線材の表層部に位置するCNT束に加えて、CNT線材の内部に位置するCNT束にもめっき部を形成することができる。
【0039】
次いで、下地部及びめっき部が形成された複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせる。これにより、主として表層部1aに配されためっき部12を備えるCNT線材1が得られる。
【0040】
<カーボンナノチューブ線材接続構造体の構成>
図2は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ線材接続構造体の構成の一例を示す断面図である。なお、
図2におけるカーボンナノチューブ線材接続構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図2のものに限られないものとする。
図2に示すように、カーボンナノチューブ線材接続構造体10(以下、CNT線材接続構造体ともいう)は、複数のCNT束11,11,・・・を撚り合わせて構成されるCNT線材1と、CNT線材1に接続されるはんだ部2とを備える。はんだ部2は、めっき部12を介してCNT線材1と接続されると共に、銅板などの被接続部材20と接続されている。
【0041】
はんだ部2は、例えば、銅(Cu)、スズ(Sn)、鉛(Zn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)から選択された1又は複数を主成分とする合金で形成されている。はんだ部2は、例えばリフロー方式や、糸状はんだとはんだごてを用いた方法で形成することができる。
【0042】
はんだ部2は、めっき部12と同様、CNT線材1の長手方向に沿って設けられ、CNT線材1の内部及び表層部に配される。めっき部12は、上述のように、前記カーボンナノチューブ線材の断面視において、カーボンナノチューブ束の表面全長に対する、当該カーボンナノチューブ束の表面に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、複数のカーボンナノチューブ束11、11,・・・の総数で除した値の比率が、70%以上である。そして、はんだ部2は、CNT線材1の内部及び表層部に上述の割合で配されためっき部12と接合されている。これにより、はんだ部2とめっき部12とが良好に接着し、はんだ部2とCNT線材1との機械的接続及び電気的接続が確保される。
【0043】
図1では、はんだ部2は、CNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面視において、CNT線材1の表層部1aに配されためっき部12の表面全体に形成されているが、CNT線材1との良好な接続性が確保できる範囲で、めっき部12の一部に形成されていてもよい。また、はんだ部2は、CNT線材1の表層部1aの表面全体に形成されているが、CNT線材1との良好な接続性が確保できる範囲で、CNT線材1の表層部1aの一部に形成されていてもよい。
【0044】
上述したように、本実施形態によれば、CNT線材1は、該CNT線材の長手方向に沿って設けられ、且つCNT線材1の内部及び表層部に配されためっき部12を備え、CNT線材1の長手方向に垂直な方向の断面において、CNT束11の表面全長に対する、当該CNT束の表面に厚さ1μm以上のめっき部が形成された部分の長さの比が0.5以上であるカーボンナノチューブ束の個数を、複数のCNT束11、11、・・・の総数で除した値の比率が70%以上であるので、めっき部12の介在によってCNT束間の接触抵抗が低減し、CNT線材1を構成する複数のCNT束11,11,…のほぼ全体に電流を流すことができる。これにより、CNT束間の接触抵抗を低減させ、過電流の発生を抑制することができる。
【0045】
また、CNT線材接続構造体10が、複数のCNT束11,11,・・・を撚り合わせて構成されるCNT線材1と、CNT線材1に接続されるはんだ部2とを備え、はんだ部2が、めっき部12を介してCNT線材1と接続されているので、CNT線材1と被接続部材20との良好な接続を実現することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係るCNT線材、CNT接続構造体およびその製造方法について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0048】
(実施例1及び比較例1)
先ず、浮遊触媒気相成長(FCCVD)法を用い、電気炉によって1300℃に加熱された、内径φ60mm、長さ1600mmのアルミナ管内部に、炭素源であるデカヒドロナフタレン、触媒であるフェロセン、及び反応促進剤であるチオフェンを、体積比率にてそれぞれ100:4:1で含む原料溶液Lを、スプレー噴霧により供給した。キャリアガスは、水素を9.5L/minで供給した。得られたCNTを回収機にてシート状に回収し、これらを集めてCNT集合体を製造し、更にCNT集合体を束ねてCNT線材を製造し、大気下において500℃に加熱し、さらに酸処理を施すことによって高純度化を行った。
得られたCNT50mgとコール酸ナトリウム450mgを24.5gの水に加え超音波攪拌装置を用いて30分攪拌した後、超音波ホモジナイザーを用いて分散液とした。続いて、内径1mmの注入ノズルを介して、前記CNT分散液をイソプロピルアルコール中に注入し、糸状に凝集させ、さらに乾燥させることで、CNTからなる3mの素線を得た。
得られた素線を硫酸銅、ホルマリン、ロシェル塩からなるめっき液に浸漬し、無電解銅めっきした。その後、硫酸銅と硫酸の水溶液からなるめっき液にCNT線材本体を浸漬し、1Aで50分電解めっきすることで、電解めっきされた38本の素線を作製した。
続いて銅めっきされた38本の素線を200T/mで撚り、素線の100%が銅めっきされたCNT撚り線であるCNT線材を得た。
(実施例2)
実施例1と同様の方法で作製した素線を10T/mで撚った。
CNT線材本体を硫酸銅、ホルマリン、ロシェル塩からなるめっき液に浸漬し、無電解銅めっきした。
その後、硫酸銅と硫酸の水溶液からなるめっき液にCNT線材本体を浸漬し、1Aで40分電解めっきすることで、当該CNT線材本体に電界めっき処理が施されたCNT線材を作製した。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で作製した、銅めっきされていない素線19本と、銅めっきされた素線19本を200T/mで撚り、CNT撚り線であるCNT線材を得た。
【0050】
(a)めっき割合の測定
1.0mのCNT撚り線(CNT線材)を長手方向に10cm毎に垂直な面で切断し、イオンミリングによって断面を研磨した。つづいてSEM観察を行った。CNT線材の各素線の表面の全長を求めこれをAとした。つづいて、当該素線の表面のうちめっきされている部分の長さをBとした。B/Aが0.5以上の素線を、めっき部が形成されている素線とし、その本数を求めた。
上記にて求めためっき部が形成された素線の本数を、CNT線材全体の素線の総数で除した値の比率を、CNT線材の断面におけるめっき割合(%)とした。めっき割合が70%以上である場合を良好であるとした。
【0051】
(b)はんだとの接合性
CNT撚り線の末端と銅板をはんだにて接続して、はんだ部が形成されたCNT接続構造体を作製し、銅板とCNT撚り線の間の接続抵抗を測定した。接続抵抗が10mΩ以下である場合を良好であるとした。
【0052】
(c)過電流の有無の測定
CNT撚り線に、2000A/cm2の電流密度で5分間電流を印加した。電流を流す前のCNT撚り線の抵抗値をR1、電流を流した後の抵抗値をR2とした。過電流が生じる場合、特定の素線が劣化するため、R2はR1に比べて高い値となる。ここでは、R2/R1<1.5である場合を良好「○」、R2/R1≧1.5である場合を不良「×」とした。
【0053】
(d)CNT撚り線の密度
密度勾配管を用いて、上記CNT撚り線の密度を測定した。長手方向の長さが2cmのサンプルを用いた。CNT撚り線の密度は、アルミの密度と同等の2.7g/cm3未満である場合を、軽量電線として良好であるとした。
【0054】
上記実施例1及び比較例1の測定、評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示すように、実施例1,2では、CNT線材の内部及び最表層にめっき部が設けられており、CNT線材における上記めっき割合がそれぞれ100%、82%で良好であった。また、過電流の発生が抑えられ、耐久性に優れていることが分かった。また、はんだとの接合性及びCNT撚り線の密度のいずれも、良好であることが分かった。
【0057】
一方、比較例1では、CNT線材における上記めっき割合が不良であり、過電流が頻繁に発生し、CNT線材の耐久性が低いことが分かった。また、接続抵抗が実施例1,2と比較して格段に大きいことが分かった。
【符号の説明】
【0058】
1 カーボンナノチューブ線材(CNT線材)
2 はんだ部
10 カーボンナノチューブ線材接続構造体(CNT線材接続構造体)
11 カーボンナノチューブ束(CNT束)
12 めっき部
20 被接続部材