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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20220630BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220630BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20220630BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20220630BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/463 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018015184
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019133845
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】原 耕介
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-146727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 50/414
H01M 50/417
H01M 50/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極板と、セパレータと、前記電極板及び前記セパレータを収容する電槽と、を備え、
前記電槽の一の内壁面に近い側から、前記電極板及び前記セパレータがこの順で交互に配置され、前記内壁面に最近接の前記電極板は前記内壁面に対して露出しており、
前記セパレータは、厚さが0.25mm以上であるベース部を有し、
前記電極板として正極板及び負極板を備え、
前記内壁面に近い側から、前記正極板及び前記負極板がこの順で前記セパレータを介して交互に配置されており、
前記電槽に収容されている前記正極板の枚数と前記負極板の枚数とが互いに同じである、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記セパレータが、前記ベース部上に凸状に形成されたリブ部を更に有する、請求項に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記ベース部が、ポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレートで形成されている、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
液式である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
電極板と、セパレータと、前記電極板及び前記セパレータを収容する電槽と、を備え、
前記電槽の一の内壁面に近い側から、前記電極板及び前記セパレータがこの順で交互に配置され、前記内壁面に最近接の前記電極板は前記内壁面に対して露出しており、
前記セパレータは、厚さが0.25mm以上であるベース部と、前記ベース部上に凸状に形成されたリブ部とを有する、鉛蓄電池。
【請求項6】
前記ベース部が、ポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレートで形成されている、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
液式である、請求項5又は6に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
電極板と、セパレータと、前記電極板及び前記セパレータを収容する電槽と、を備え、
前記電槽の一の内壁面に近い側から、前記電極板及び前記セパレータがこの順で交互に配置され、前記内壁面に最近接の前記電極板は前記内壁面に対して露出しており、
前記セパレータは、厚さが0.25mm以上であるベース部を有し、
前記ベース部が、ポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレートで形成されている、鉛蓄電池。
【請求項9】
液式である、請求項8に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
電極板と、セパレータと、前記電極板及び前記セパレータを収容する電槽と、を備え、
前記電槽の一の内壁面に近い側から、前記電極板及び前記セパレータがこの順で交互に配置され、前記内壁面に最近接の前記電極板は前記内壁面に対して露出しており、
前記セパレータは、厚さが0.25mm以上であるベース部を有する、液式の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記電極板として正極板及び負極板を備え、
前記内壁面に近い側から、前記正極板及び前記負極板がこの順で前記セパレータを介して交互に配置されている、請求項5~10のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、通常、正極板と袋状のセパレータに収容された負極板とが交互に積層されてなる極板群を複数備えており、各極板群では、典型的には、負極板の枚数が正極板の枚数より1枚多くなっている。これに対し、近年では、エネルギー密度の向上、軽量化等の目的で、正極板と負極板とを同枚数ずつ配置した極板群を用いることが検討されている(例えば特許文献1)。
【0003】
このような構成を備える鉛蓄電池は、例えば車両のエンジン始動用の電池として用いられる。車両のエンジン始動用の鉛蓄電池は、エンジン始動用のセルモータへの電力供給を行うとともに、車両に搭載された電気又は電子機器へ電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-144144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池が車両に搭載して用いられる場合、車両の振動に伴って鉛蓄電池にも強い振動が加わり、鉛蓄電池の極柱又は極板群同士の接続部分に応力が発生することによって、それらの部分が破損するおそれがある。本発明者らの検討によれば、極板群における正極板及び負極板が同枚数である鉛蓄電池では、各極板群の一方の端に位置する正極板が露出した(セパレータに収容されていない)状態で電槽の内壁面に近接しているため、車両の振動の影響を受けやすく、上述したような破損が生じやすい。
【0006】
そこで、本発明は、電槽の内壁面に最近接の電極板が露出した状態であっても、耐振動性に優れる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、電極板と、セパレータと、電極板及びセパレータを収容する電槽と、を備え、電槽の一の内壁面に近い側から、電極板及びセパレータがこの順で交互に配置され、内壁面に最近接の電極板は内壁面に対して露出しており、セパレータは、厚さが0.25mm以上であるベース部を有する、鉛蓄電池である。
【0008】
鉛蓄電池は、電極板として正極板及び負極板を備え、内壁面に近い側から、正極板及び負極板がこの順でセパレータを介して交互に配置されていてよい。
【0009】
電槽に収容されている正極板の枚数と負極板の枚数とは、互いに同じであってよい。
【0010】
セパレータは、ベース部上に凸状に形成されたリブ部を更に有していてよい。
【0011】
ベース部は、ポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレートで形成されていてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電槽の内壁面に最近接の電極板が露出した状態であっても、耐振動性に優れる鉛蓄電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図2は、図1の鉛蓄電池が備える電槽を示す斜視図である。
図3図3は、図1の鉛蓄電池の要部を説明するための分解斜視図である。
図4図4は、図1の鉛蓄電池が備えるセパレータを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、一実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3と、電槽2に収容された極板群4及び希硫酸等の電解液(図示せず)と、を備える液式鉛蓄電池である。
【0015】
蓋3は、正極端子5と、負極端子6と、蓋3に設けられた複数の注液口をそれぞれ閉塞する複数の液口栓7とを備えている。蓋3は、例えば、ポリプロピレンで形成されている。正極端子5は、蓋3から電槽2内に延びる正極柱18の一端に接続されている。同様に、負極端子6は、蓋3から電槽2内に延びる負極柱(図示せず)の一端に接続されている。
【0016】
図2は、図1の鉛蓄電池1が備える電槽2を示す斜視図である。図2に示すように、電槽2は、中空の略直方体状を呈しており、上面に開口を有している。すなわち、電槽2は、長方形の平面形状を有する底壁と、底壁の短辺部に立設された一対の側壁(第1の側壁)21と、底壁の長辺部に立設された一対の側壁(第2の側壁)22とから構成されている。電槽2は、例えばポリプロピレンで形成されている。
【0017】
電槽2の内部は、第1の側壁21と略平行に設けられた5枚の隔壁23を備えている。5枚の隔壁23が所定の間隔で配置されていることによって、電槽2の内部には、第1~第6の6個のセル室24a~24f(以下、これらをまとめて「セル室24」ともいう)がこの順で第2の側壁22に沿って形成されている。セル室24のそれぞれには、極板群4が収容されている。極板群4は、単電池とも呼ばれており、例えば2Vの起電力を有する。
【0018】
第1の側壁21の内面21a及び隔壁23の両面23a(以下、これらをまとめて「内壁面21a,23a」ともいう)には、底壁(電槽2の開口面)に垂直な方向に延びる複数のリブ25が設けられている。リブ25は、各セル室24に収容された極板群4を適切に加圧(圧縮)する機能を有する。他の一実施形態では、内壁面21a,23aには、リブが設けられていなくてもよい。
【0019】
内壁面21a,23aにリブ25が設けられていることによって、リブ25が、内壁面21a,23aと電極群4(特に、電極群4のうち内壁面21a,23aに最近接の正極板)との間の緩衝材としても機能するため、鉛蓄電池1の耐振動性を更に向上させることができる。リブ25は、耐振動性を更に向上させる観点から、好ましくはポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレート、より好ましくはポリオレフィンで形成されている。ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン等であってよい。
【0020】
図3は、図1の鉛蓄電池1の要部を説明するための、第1のセル室24a及びそこに収容されている極板群4を示す分解斜視図である。図3に示すように、極板群4は、複数の正極板8、負極板9及びセパレータ10が、電槽2の第1の側壁21と略垂直な方向に積層されてなる。
【0021】
正極板8は、正極集電体11と、正極集電体11に保持された正極活物質12とを備えている。正極集電体11は、その一端から電槽2の開口側に向けて突出した正極耳部11aを有している。負極板9は、負極集電体13と、負極集電体13に保持された負極活物質14とを備えている。負極集電体13は、その一端から電槽2の開口側に向けて突出した負極耳部13aを有している。本明細書では、「正極活物質」は正極板から正極集電体を除いたものを意味し、「負極活物質」は負極板から負極集電体を除いたものを意味する。
【0022】
正極集電体11及び負極集電体13は、それぞれ、例えば、鉛-カルシウム-錫合金、鉛-カルシウム合金、鉛-アンチモン合金等で形成されている。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより、正極耳部11aを有する正極集電体11及び負極耳部13aを有する負極集電体13がそれぞれ得られる。
【0023】
正極活物質12は、Pb成分としてPbOを含み、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。負極活物質14は、Pb成分としてPb単体を含み、必要に応じてPb単体以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。
【0024】
図3では図示を省略しているが、図1に示すように、正極耳部11a同士は正極ストラップ15で集合溶接されており、負極耳部13a同士は負極ストラップ16で集合溶接されている。第1のセル室24aに収容された極板群4における正極ストラップ15は、接続部材17を介して、正極端子5から電槽2内に延びる正極柱18と接続されている。接続部材17及び正極柱18は、それぞれ鉛又は鉛合金で形成されている。
【0025】
正極板8及び負極板9の積層方向からみたときに、各極板群4における正極耳部11a及び負極耳部13aのうち、正極端子5及び負極端子6側に位置する正極耳部11a又は負極耳部13a(例えば、第1のセル室24aに収容されている極板群4では、正極耳部11a)は、正極端子5及び負極端子6よりも内側(中心より)に位置している。このような場合、鉛蓄電池1の振動に伴い極柱に応力が発生しやすいが、本実施形態に係る鉛蓄電池1の構成を採用することにより、耐振動性を向上させることができる(詳細は後述)。
【0026】
この極板群4では、電槽2の第1の側壁21の内面21aに近い側から、正極板8と、袋状のセパレータ10に収容された負極板9とがこの順で交互に配置されている。正極板8の枚数及び負極板9の枚数は、いずれも8枚となっている。第1の側壁21の内面21aに最近接の正極板8はセパレータ10に収容されて(覆われて)いないため、当該正極板8の第1の側壁21の内面21aに対向する面は、第1の側壁21の内面21aに対して露出している。
【0027】
図4は、図1の鉛蓄電池1が備えるセパレータ10を説明するための図である。図4(a)はセパレータ10を示す斜視図であり、図4(b)は図4(a)のIVb-IVb線に沿った断面図である。セパレータ10(後述するベース部及びリブ部のそれぞれ)は、例えば、ガラス、パルプ及び合成樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の材料で形成されていてよい。セパレータ10は、可撓性を有していてよい。セパレータ10(ベース部及びリブ部のそれぞれ)は、耐振動性を更に向上させる観点から、好ましくはポリオレフィン又はポリエチレンテレフタレート、より好ましくはポリオレフィンで形成されている。ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン等であってよい。
【0028】
図4(a)に示すとおり、セパレータ10は、平板(シート)状のベース部31と、ベース部31の外側面31a上に形成された複数の第1のリブ32及び第2のリブ33からなるリブ部とを備えている。セパレータ10は、ベース部31と第1のリブ32及び第2のリブ33とを備える長尺状のシートが、第1のリブ32及び第2のリブ33が外側になるように折り返され、長辺に沿って閉じられることにより袋状となっている。セパレータ10は、例えばメカニカルシールにより閉じられていてよく、長辺に沿ってメカニカルシール部34を有している。
【0029】
第1のリブ32及び第2のリブ33は、それぞれ、袋状のセパレータ10の開口部から底部へ延在するように互いに略平行に細長の凸状に形成されている。第1のリブ32は、セパレータ10の開口部に平行な方向におけるベース部31の中央部分に、例えば3~15mmの間隔で複数設けられている。第2のリブ33は、複数の第1のリブ32を挟むように、ベース部31の両端側にそれぞれ複数設けられている。第2のリブ33同士の間隔は、第1のリブ32同士の間隔より狭くなっている。
【0030】
第1のリブ32の断面形状は、例えば台形状である。第1のリブ32の高さ(突出方向の長さ)Hは、例えば、0.3mm以上、0.4mm以上、又は0.5mm以上であってよく、1.25mm以下、1.0mm以下、又は0.75mm以下であってよい。
【0031】
第1のリブ32の下底の幅(ベース部31と接する部分における延在方向と垂直な方向(短手方向)の長さ)Aは、例えば、0.2mm以上、0.3mm以上、又は0.4mm以上であってよく、4mm以下、2mm以下、又は1mm以下であってよい。第1のリブ32の上底の幅(凸形状の上面における延在方向と垂直な方向(短手方向)の長さ)Bは、0.1mm以上又は0.2mm以上であってよく、2mm以下、1mm以下、又は0.8mm以下であってよい。
【0032】
第2のリブ33の断面形状は、例えば半円状である。第2のリブ33の高さ(突出方向の長さ)及び幅(ベース部31と接する部分における延在方向と垂直な方向(短手方向)の長さ)は、第1のリブ32の高さH及び下底の幅Aよりもそれぞれ小さくなっている。
【0033】
ベース部31の厚さTは、耐振動性を向上させる観点から、0.25mm以上である。ベース部31の厚さTは、耐振動性を更に向上させる観点から、好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.35mm以上、更に好ましくは0.40mm以上である。ベース部31の厚さTは、例えば0.50mm以下であってよい。
【0034】
第2~第6のセル室24b~24fのそれぞれにも、第1のセル室24aに収容されている極板群4と同様の極板群が収容されている。ただし、隣り合うセル室(例えば第1のセル室24a及び第2のセル室24b)に収容されている極板群同士は、同じ極性の電極板が隔壁23を挟んで向かい合うように配置されている。すなわち、第1のセル室24aに収容されている極板群4では、第2のセル室24b側の隔壁23と最近接の位置に負極板9が配置されており、第2のセル室24bに収容されている極板群では、第1のセル室24a側の隔壁23と最近接の位置に負極板が配置されている。
【0035】
言い換えれば、第2のセル室24bに収容されている極板群では、第3のセル室24c側の隔壁23の面23aと最近接の位置に、正極板が露出した状態で配置されている。第3のセル室24cに収容されている極板群では、第2のセル室24b側の隔壁23の面23aと最近接の位置に、正極板が露出した状態で配置されている。第4のセル室24dに収容されている極板群では、第5のセル室24e側の隔壁23の面23aと最近接の位置に、正極板が露出した状態で配置されている。第5のセル室24eに収容されている極板群では、第4のセル室24d側の隔壁23の面23aと最近接の位置に、正極板が露出した状態で配置されている。第6のセル室24fに収容されている極板群では、電槽2の第1の側壁21の内面21aと最近接の位置に、正極板が露出した状態で配置されている。
【0036】
本実施形態に係る鉛蓄電池1は、電槽2の内壁面21a,23a(第1の側壁21の内面21a又は隔壁23の面23a)に最近接の正極板8と、当該正極板8に隣接する負極板9との間に、厚さTが0.25mm以上であるベース部31を有するセパレータ10を備えている。このため、電槽2の内壁面21a,23aに最近接の正極板8が、電槽2の内壁面21a,23aに対して露出している場合であっても、鉛蓄電池1の振動に伴う極柱及び極板群同士の接続部分の破損を抑制でき、耐振動性に優れる鉛蓄電池1が得られる。ベース部31の厚さTが0.25mm以上であることによりこのような効果が奏される理由は明らかではないが、ベース部31が、電槽2から電槽2の内壁面21a,23aに最近接の正極板8へ伝わった振動を緩衝し、その緩衝効果が、ベース部31の厚さTが0.25mm以上である場合に顕著に大きくなるためであると推察される。
【0037】
また、驚くべきことに、例えば、ベース部31の厚さTと第1のリブ32又は第2のリブ33(リブ部)の厚さとの合計が同じであっても、上述の効果が得られるのは、ベース部31の厚さTが0.25mm以上である場合に限られ、ベース部31の厚さTが0.25mm未満である場合は、第1のリブ32又は第2のリブ33(リブ部)の厚さを大きくしたとしても、上述の効果は得られない。
【0038】
したがって、他の一実施形態では、セパレータは、第1のリブ及び第2のリブ(リブ部)を有さずに、ベース部のみからなっていてもよい。この場合でも、ベース部の厚さが0.25mm以上であれば、耐振動性に優れる鉛蓄電池が得られる。
【0039】
上記実施形態では、各セル室24に収容されているすべての極板群が、電槽2の内壁面21a,23aに最近接の正極板8と、当該正極板8に隣接する負極板9との間に、厚さTが0.25mm以上であるベース部31を有するセパレータ10を備えているが、他の一実施形態では、各セル室24に収容されている極板群の一部がそのようなセパレータ10を備えていてもよい。
【0040】
極柱の破損を特に抑制できる観点からは、第1のセル室24a及び第6のセル室24f(電槽2に設けられたN個(Nは3以上の整数)のセル室のうち第1及び第Nのセル室)における極板群の少なくとも一方(好ましくは両方)が、上述したようなセパレータ10を備えていることが好ましい。極板群同士の接続部分の破損を特に抑制できる観点からは、第2~第5のセル室24b~24e(電槽2に設けられたN個のセル室のうち第2~第(N-1)のセル室)における極板群の少なくとも一つ(好ましくはすべて)が、上述したようなセパレータ10を備えていることが好ましい。
【0041】
上記実施形態では、電槽2の内壁面21a,23aに最近接の電極板が正極板8であり、当該正極板8が当該内壁面21a,23aに対して露出しているが、他の一実施形態では、電槽2の内壁面21a,23aに最近接の電極板が負極板であり、当該負極板が当該内壁面21a,23aに対して露出していてもよい。この場合、負極板に代えて正極板が袋状のセパレータに収容されていてよい。このような鉛蓄電池も、上記実施形態と同様に耐振動性に優れている。
【0042】
上記実施形態では、極板群における正極板8の枚数と負極板9の枚数とがいずれも8枚で互いに同じであるが、他の一実施形態では、極板群における正極板及び負極板の枚数は6又は7枚であってもよく、正極板の枚数と負極板の枚数とが互いに異なっていてもよい。言い換えれば、上記実施形態では、鉛蓄電池1における正極板8の枚数と負極板9の枚数とが互いに同じであるが、他の一実施形態では、鉛蓄電池における正極板の枚数と負極板の枚数とが互いに異なっていてもよい。このような鉛蓄電池も、上記実施形態と同様に耐振動性に優れている。
【0043】
上記実施形態では、鉛蓄電池1は、電槽2の内壁面21a,23aに最近接の正極板8と、当該正極板8に隣接する負極板9との間にセパレータ10を備えているが、他の一実施形態では、鉛蓄電池は、当該正極板と当該セパレータとの間にスペーサを更に備えていてもよい。スペーサは、例えばシート状に形成されており、不織布等の多孔性の膜(多孔膜)であってよい。スペーサは、例えば、有機繊維、無機繊維、又はこれらの混合繊維で形成されていてよい。スペーサの厚さは、例えば、0.1mm以上であってよく、2.0mm以下であってよい。鉛蓄電池がこのようなスペーサを更に備えていると、更に優れた耐振動性が得られる。
【0044】
上記実施形態では、鉛蓄電池1は液式鉛蓄電池であるが、他の一実施形態では、鉛蓄電池は、例えば、制御弁式鉛蓄電池、密閉式鉛蓄電池等であってもよい。上記実施形態では、鉛蓄電池1は例えば自動車用鉛蓄電池であり、直流電圧12Vを昇圧又は降圧して駆動するため、6個の極板群4を直列に接続して(すなわち、セル室の数が6個)、2V×6=12Vとしているが、他の一実施形態(例えば鉛蓄電池1を他の用途で用いる場合)では、セル室の数は6個でなくてもよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことによりエキスパンド格子体(集電体)を作製した。続いて、鉛粉及び鉛丹(Pb)と、添加剤と、水とを混合して混練し、希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、正極活物質ペーストを作製した。同様に、鉛粉と、添加剤と、水とを混合して混練し、希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、負極活物質ペーストを作製した。次いで、集電体にこの正極活物質ペースト及び負極活物質ペーストをそれぞれ充填し、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の正極板及び未化成の負極板を得た。
【0047】
微多孔性のポリエチレンからなり、厚さ0.25mmのベース部と、高さ0.70mmのリブ部を有する袋状のセパレータを用意した。このセパレータに未化成の負極板を収容し、未化成の正極板8枚と袋状のセパレータにそれぞれ収容された未化成の負極板8枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。
【0048】
6個のセル室を有する電槽の各セル室に極板群を収容して、12V電池(JISD 5301規定のD23サイズに相当)を組み立てた。この際、両端のセル室(第1及び第6のセル室)においては、正極板が電槽の第1の側壁と最近接の位置に配置されるように極板群を収容した。この電池に電解液(希硫酸)を注入し、その後、35℃の水槽中、通電電流18.6Aで18時間の条件で化成して液式鉛蓄電池を得た。
【0049】
(実施例2及び比較例1~2)
セパレータのベース部の厚さ又はリブ部の高さを表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。
【0050】
<耐振動性の評価>
実施例1~2及び比較例1~2の各鉛蓄電池を、以下の条件で電極板の積層方向に振動させた。なお、振動試験は振動数を変更して複数回行った。
試験装置:ランダム振動制御システム(i230/SA2M)(商品名、IMV株式会社製)
振動数:24.0Hz、37.5Hz、39.5Hz、45.5Hz、51.0Hz
各振動数での振動時間:1200分間
試験後の鉛蓄電池の蓋を取り外し、目視により試験後の鉛蓄電池における極柱の破損の発生の有無を確認した。いずれの振動数でも極柱に破損が発生しなかった場合をAとし、いずれかの振動数で極柱に亀裂が発生した場合をB、いずれかの振動数で極柱が破断した場合をCとした。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【符号の説明】
【0052】
1…鉛蓄電池、2…電槽、8…正極板、9…負極板、10…セパレータ、21a…第1の側壁の内面(内壁面)。
図1
図2
図3
図4