(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-29
(45)【発行日】2022-07-07
(54)【発明の名称】耐火部材、耐火構造
(51)【国際特許分類】
A62C 3/16 20060101AFI20220630BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220630BHJP
F16L 5/04 20060101ALI20220630BHJP
H02G 3/22 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
A62C3/16 B
E04B1/94 F
F16L5/04
H02G3/22
(21)【出願番号】P 2021133165
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2022-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165996
【氏名又は名称】株式会社古河テクノマテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 真幸
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-074981(JP,A)
【文献】特開2002-010449(JP,A)
【文献】特開2017-207155(JP,A)
【文献】特開2019-141336(JP,A)
【文献】特開2000-240854(JP,A)
【文献】特開2016-112345(JP,A)
【文献】特開2021-106661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
E04B 1/94
F16L 5/04
H02G 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、
樹脂発泡体と、
前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、
を具備し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され
、
前記熱膨張部材は、前記第2樹脂発泡体層の外周に配置されることを特徴とする耐火部材。
【請求項2】
区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、
樹脂発泡体と、
前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、
を具備し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され
、
前記樹脂発泡体の外周に、孔を有する芯材が配置され、
前記芯材の少なくとも一部は、前記熱膨張部材で挟み込まれることを特徴とする耐火部材。
【請求項3】
区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、
樹脂発泡体と、
前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、
を具備し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され
、
前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、
正面視において、前記切れ込みは、略平行に複数配置されることを特徴とする耐火部材。
【請求項4】
区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、
樹脂発泡体と、
前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、
を具備し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され
、
前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、
正面視において、前記割り部は一直線状ではなく、互いの対向面同士が噛み合うように凹凸が形成されることを特徴とする耐火部材。
【請求項5】
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に挿通される長尺体と、
前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、
を具備し、
前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、
前記熱膨張部材は、前記第2樹脂発泡体層の外周に配置され、
前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造。
【請求項6】
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に挿通される長尺体と、
前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、
を具備し、
前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、
前記樹脂発泡体の外周に、孔を有する芯材が配置され、前記芯材の少なくとも一部は、前記熱膨張部材で挟み込まれ、
前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造。
【請求項7】
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に挿通される長尺体と、
前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、
を具備し、
前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、
前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、
正面視において、前記切れ込みは、略平行に複数配置され、
前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が
、前記耐火部材の前記切れ込みの位置で前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造。
【請求項8】
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に挿通される長尺体と、
前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、
を具備し、
前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、
前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、
前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、
正面視において、前記割り部は一直線状ではなく、互いの対向面同士が噛み合うように凹凸が形成され、
前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が
、前記耐火部材の前記切れ込みの位置で前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば区画部を貫通する配管等の貫通部に対して耐火性能を確保するための耐火部材等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物等において、区画部で区画された各部屋に配管等が敷設される場合がある。この場合、例えば一方の部屋で火災が発生すると、配管等が貫通する貫通孔を伝って、火災が建造物全体に広がり、甚大な被害をもたらすおそれがある。このため、熱膨張部材を用いて、火災時には貫通孔を熱膨張部材の膨張によって塞ぐ方法が採られている。
【0003】
例えば、配管の外周面と貫通孔の内周面との隙間にパテやモルタル等の不定形な充填材を使用する方法がある。しかし、パテやモルタル等は取り扱い性が悪いため、現場での施工作業性が悪く、施工に時間がかかるという問題がある。
【0004】
これに対し、熱膨張部材と目隠しを行うための樹脂発泡体を組み合わせて一体化した耐火部材が提案されている。例えば、内面に凹凸のあるウレタン発泡体が丸められ、ウレタン発泡体の外周部に熱膨張部材が配置され、それらが筒状の本体部に挿入された耐火部材がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、樹脂発泡体としてウレタンスポンジを用いると、柔軟であるため、貫通させる長尺体の形状に容易に変形可能であるが、難燃性が十分ではないため、例えば大口径の貫通孔に対しては、火災時に熱膨張部材が膨張する前に焼失してしまう恐れがある。一方、より難燃性の高い樹脂発泡体を用いる方法もあるが、一般的に、難燃性の高い樹脂発泡体は変形性能が低くなるため施工性が悪く、また、長尺体の外形への追従性も低下する。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、特に、大口径の貫通孔に対しても、十分な耐火性能と施工作業性を両立することが可能な耐火部材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、を具備し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記熱膨張部材は、前記第2樹脂発泡体層の外周に配置されることを特徴とする耐火部材である。
【0010】
第2の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、を具備し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体の外周に、孔を有する芯材が配置され、前記芯材の少なくとも一部は、前記熱膨張部材で挟み込まれることを特徴とする耐火部材である。
【0013】
第3の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、を具備し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、正面視において、前記切れ込みは、略平行に複数配置されることを特徴とする耐火部材である。
【0014】
第4の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿入された長尺体との間に配置される耐火部材であって、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材と、を具備し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、正面視において、前記割り部は一直線状ではなく、互いの対向面同士が噛み合うように凹凸が形成されることを特徴とする耐火部材である。
【0015】
第1-4の発明によれば、モルタルなどを使用することなく、防火構造を得ることができるため、作業性に優れる。特に、樹脂発泡体を複数層に形成し、難燃性が相対的に高く、延焼を抑制する能力の高い第1樹脂発泡体層と、長尺体の外形に追従しやすく施工が容易な第2樹脂発泡体層とを積層することで、長尺体の隙間が生じにくく施工が容易であるとともに、熱膨張部材の膨張するまでの間の延焼防止性能も確保することができる。
【0016】
また、相対的に早く焼失する第2樹脂発泡体層の外周に熱膨張部材を配置することで、熱膨張部材が膨張する際には、短時間で熱膨張部材の内部に位置する樹脂発泡体が焼失するため、熱膨張部材の膨張の妨げとなることを抑制することができる。
【0017】
また、樹脂発泡体の外周に孔を有する芯材を配置することで、樹脂発泡体の形状を保持することができる。また、芯材を熱膨張部材で挟み込むようにすることで、熱膨張部材が膨張した際に、芯材を熱膨張部材の脱落防止部材として機能させることができる。
【0018】
また、樹脂発泡体の外周に、周方向に所定の間隔で略L字状の位置決め部材を配置することで、貫通孔に設置する際の挿入方向の位置決めが容易であるとともに、脱落を抑制することができる。
【0019】
また、樹脂発泡体を半割構造とすることで、長尺体に対する設置が容易である。また、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みを形成することで、貫通孔の中心位置から長尺体の配置がずれているような場合でも、確実に長尺体を設置することができる。また、長尺体の周囲を樹脂発泡体で塞ぐことができる。
【0020】
この際、複数の切れ込みを互いに略平行に配置することで、例えば放射状に形成する場合と比較して隙間が形成されにくい。例えば、貫通孔の中心からずれた位置に長尺体を配置する際、切れ込みが放射状であると、切れ込みで区分された樹脂発泡体の中心側の幅が狭くなるため、中央近傍に大きな隙間が形成されやすい。しかし、切れ込みを略平行に形成することで、中央近傍でも、切れ込みで区分された樹脂発泡体の幅が十分あるため、中央近傍に隙間が生じることを抑制することができる。
【0021】
また、割り部の形状を直線状とせずに、対向面同士が噛み合うように凹凸形状とすることで、長尺体の外形や配置に対してより追従性を高めることができる。
【0022】
第5の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿通される長尺体と、前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、を具備し、前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記熱膨張部材は、前記第2樹脂発泡体層の外周に配置され、前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造である。
第6の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿通される長尺体と、前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、を具備し、前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体の外周に、孔を有する芯材が配置され、前記芯材の少なくとも一部は、前記熱膨張部材で挟み込まれ、前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造である。
【0023】
第7の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿通される長尺体と、前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、を具備し、前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、正面視において、前記切れ込みは、略平行に複数配置され、前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が、前記耐火部材の前記切れ込みの位置で前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造である。
第8の発明は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に挿通される長尺体と、前記貫通孔と前記長尺体との間に配置される耐火部材と、を具備し、前記耐火部材は、樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の外周に配置される熱膨張部材とを有し、前記樹脂発泡体が、材質の異なる複数層で形成され、前記長尺体の挿入方向に対して、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層と、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層が積層されて形成され、前記樹脂発泡体は半割構造であり、割り部から外周側に向けて、複数の切れ込みが形成され、正面視において、前記割り部は一直線状ではなく、互いの対向面同士が噛み合うように凹凸が形成され、前記貫通孔に前記耐火部材が配置され、前記長尺体が、前記耐火部材の前記切れ込みの位置で前記耐火部材を貫通することを特徴とする耐火構造である。
【0024】
第5-8の発明によれば、耐火性能と施工性とを両立した耐火構造を得ることができる。特に、長尺体を切れ込みに配置することで、貫通孔における長尺体の配置の自由度が高く、また、複数の長尺体を配置することも容易である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特に、大口径の貫通孔に対しても、十分な耐火性能と施工作業性を両立することが可能な耐火部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】耐火部材1を用いた耐火構造の施工工程を示す図であって、(a)は貫通孔19の正面図、(b)は断面図。
【
図4】耐火構造23を示す図であって、(a)は貫通孔19の正面図、(b)は断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明にかかる耐火部材1を示す斜視図であり、
図2は断面図である。耐火部材1は、床や壁などの区画部に形成された貫通孔と、貫通孔に挿入された配管やケーブル(以下、単に長尺体と称する場合がある)の間に配置される部材である。
【0028】
耐火部材1は、主に、樹脂発泡体3と熱膨張部材5等から構成される。樹脂発泡体3は、全体として略円形であり、全体を横断するように割り部11を有する半割構造である。なお、長尺体の挿通方向から見た際(以下、正面視)の樹脂発泡体3の形態は略円形には限定されず、貫通孔の形状に対応させて多角形等であってもよい。
【0029】
また、割り部11は、正面視において、樹脂発泡体3を2分割するように直線状に形成してもよいが、図示したように、割り部11を一直線状とせずに、互いの対向面同士が噛み合うように凹凸形状を形成してもよい。すなわち、割り部11のそれぞれの対向面に凸部と凹部とを繰り返し形成し、割り部11を閉じることで、対向する互いの凸部と凹部とが互いに噛み合うようにしてもよい。このようにすることで、半割状の樹脂発泡体3同士を容易に一体化することができるとともに、挿通する長尺体の外形が複雑な形状である場合にも、樹脂発泡体3を長尺体21の外形に追従させやすくなる。
【0030】
樹脂発泡体3には、割り部11から外周側に向けて、複数の切れ込み13が形成される。正面視において、複数の切れ込み13は、略平行に所定の間隔で配置される。切れ込み13には、長尺体を配置することができる。このため、切れ込み13を形成することで、耐火部材1に対する長尺体の配置の自由度を高めることができる。
【0031】
なお、切れ込み13の間隔は特に限定されないが、例えば20~25mm程度の間隔で、6~10本程度形成することが望ましい。切れ込み13が少なすぎると、前述した長尺体の配置の自由度が小さくなる。また、切れ込み13を多くしすぎると、切れ込み13で区切られた樹脂発泡体片の幅が狭くなり、個々の樹脂発泡体片のコシが弱くなるため、変形やずれが大きくなる。このため、長尺体を挟み込んだ際に、例えば樹脂発泡体片の先端部近傍(樹脂発泡体3の中央部近傍であって割り部11側)に隙間が形成されやすくなる。
【0032】
なお、切れ込み13を樹脂発泡体3の中心から放射状に形成する方法もあるが、この方法も、切れ込み13で区切られた樹脂発泡体片の先端部(樹脂発泡体3の中心近傍)の幅が狭くなり、長尺体を切れ込みに挟み込んだ際に、樹脂発泡体片の先端部近傍に隙間が形成されやすくなる。このため、切れ込み13は、略平行に形成することが望ましい。
【0033】
図2に示すように、樹脂発泡体3は、材質の異なる複数層で形成される。図示した例では、樹脂発泡体3は、長尺体の挿入方向(以下、単に厚み方向という場合がある)に対して、第1樹脂発泡体層3aと第2樹脂発泡体層3bとが積層された2層構造である。第1樹脂発泡体層3aは、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい材質で構成され、第2樹脂発泡体層3bは、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい材質で構成される。
【0034】
なお、樹脂発泡体の難燃性については、例えば、それぞれの樹脂発泡体の密度と酸素指数で比較評価が可能である。例えば、高密度で酸素指数が大きいものほど難燃性は高く、低密度で酸素指数が小さいものほど難燃性は低い傾向にある。で比較評価が可能である。また、変形のしやすさは、樹脂発泡体へ荷重をかけた際の圧縮変形量で比較評価が可能である。このように、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい第1樹脂発泡体層3aとしては、例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)発泡体を適用可能であり、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい第2樹脂発泡体層3bとしては、例えばウレタン樹脂発泡体を適用可能である。第1樹脂発泡体層3aと第2樹脂発泡体層3bは、例えば接着によって一体化される。
【0035】
樹脂発泡体3の外周には、熱膨張部材5が配置される。より詳細には、熱膨張部材5は、第2樹脂発泡体層3bの外周に配置される。すなわち、第1樹脂発泡体層3aの外周面の全体又は少なくとも一部には、熱膨張部材5が配置されない。また、熱膨張部材5の一部は、樹脂発泡体3(第2樹脂発泡体層3b)の表面よりも厚み方向に突出する。すなわち、樹脂発泡体3の厚み方向に対する熱膨張部材5の長さは、第2樹脂発泡体層3bの厚みよりも長い。
【0036】
第1樹脂発泡体層3aの外周側と、第2樹脂発泡体層3bの外周の熱膨張部材5の外周側とを覆うように、芯材15が配置される。さらに、芯材15の外周側には、熱膨張部材5が配置される。すなわち、芯材15の少なくとも一部は、内外面から熱膨張部材5で挟み込まれる。なお、第2樹脂発泡体層3bと芯材15との間には熱膨張部材5が配置されるが、このように樹脂発泡体3と芯材15間に他の部材がある場合でも、芯材15は、樹脂発泡体3の「外周」に配置されるものとする。
【0037】
芯材15は、例えば金属線によって構成される網状部材である。すなわち、芯材15には、内外に貫通する孔が形成される。なお、芯材15としては、網状部材ではなく、孔を有する板状部材であってもよい。
【0038】
芯材15は、樹脂発泡体3の形状保持と、熱膨張部材5を保持するための部材である。例えば、耐火部材1を貫通孔に挿入する際には、芯材15の剛性によって、樹脂発泡体3が過剰に変形することなく、挿入作業性を向上させることができる。また、芯材15の孔によって、内外の熱膨張部材5が膨張する際の妨げとなることを抑制し、膨張後の熱膨張部材5と一体化するため、熱膨張部材5の脱落を抑制することができる。
【0039】
また、芯材15の外周(樹脂発泡体3の外周)には、周方向に所定の間隔で、複数の位置決め部材7が配置される。位置決め部材7は、略L字状の部材であり、位置決め部材7の端部(第1樹脂発泡体層3a側の端部)が、外周側に折り曲げられて、樹脂発泡体3の外周側の径方向に突出する。
【0040】
なお、前述したように、芯材15は、樹脂発泡体3(第2樹脂発泡体層3b)の外周側において、熱膨張部材5によって挟み込まれるが、位置決め部材7が配置される部位では、芯材15とともに位置決め部材7も、熱膨張部材5で挟み込まれる。
【0041】
また、熱膨張部材5が配置されていない部位における樹脂発泡体3(第1樹脂発泡体層3a)においては、位置決め部材7(芯材15)の外周側に被覆体9が配置される。なお、被覆体9の材質は特に限定されないが、例えば、第1樹脂発泡体層3aと同一の材質で構成される。
【0042】
このように、芯材15及び位置決め部材7(L字状に折り曲げられた部位除く)は、被覆体9又は熱膨張部材5で覆われる。このため、樹脂発泡体3の外周面には芯材15等が露出しない。したがって、芯材15が、例えば金属線などからなる部材であっても、耐火部材1の取り扱い時に、芯材15を構成する金属部材の先端が他の部材に引っかかることがない。また、作業者が、作業中に誤って金属部材の端部に触れることを抑制することができるため安全である。また、耐火部材1を貫通孔に挿入する際に、区画部等を傷つけることを抑制することができる。
【0043】
なお、
図1に示すように、被覆体9及び熱膨張部材5を、割り部11を除き全周に配置することで、樹脂発泡体3が完全に二つの半割部材に分離せずに、一部を連結することができる。このため取り扱いが容易である。なお、被覆体9及び熱膨張部材5を、半割りした樹脂発泡体3の外周にそれぞれ別々に配置することで、耐火部材1を、完全に半割状に分離してもよい。
【0044】
次に、耐火部材1を用いた耐火構造の施工方法について説明する。
図3~
図4は、耐火構造の施工工程を示す図である。ここで、以下の説明では、区画部17が床である例を示す。なお、本発明において、床とは、階下から見た場合において天井となるものも含む。
【0045】
図3(a)は平面図、
図3(b)は、
図3(a)のA-A線断面図である。区画部17には貫通孔19が形成される。まず、区画部17に形成された貫通孔19に、長尺体21を挿通する。
【0046】
次に、貫通孔19と長尺体21との間に耐火部材1を配置する。
図4(a)、
図4(b)は、
図3(a)、
図3(b)に対応する耐火構造23を示す図である。耐火部材1は半割状であるため、長尺体21の側方から耐火部材1を長尺体21の外周に取り付けることができる。この状態で、床上から耐火部材1を貫通孔19へスライドさせることで、長尺体21が耐火部材1を貫通した状態で、耐火部材1を貫通孔19へ配置することができる。すなわち、耐火部材1を用いた耐火構造23を得ることができる。
【0047】
この際、位置決め部材7が、区画部17の表面(床上)に当接するまで耐火部材1を貫通孔19に挿入することで、耐火部材1の位置決めが容易であるとともに、耐火部材1の脱落を抑制することができる。また、樹脂発泡体3の弾性変形によって、耐火部材1を貫通孔19の内面と長尺体21の外面に密着させることができる。
【0048】
ここで、耐火構造23は、区画部17の外面側(床上)に、第1樹脂発泡体層3aが露出する。第1樹脂発泡体層3aは、第2樹脂発泡体層3bと比較して、相対的に難燃性が高いため、床上の空間で火災が発生した際に、すぐに焼失してしまうことを抑制することができる。例えば、大口径(例えば125φ以上)の貫通孔19に適用しようとすると、熱膨張部材5が完全に膨張するまでの間に、樹脂発泡体3の全てが焼失すると、延焼を防ぐことが困難となるが、第1樹脂発泡体層3aによって、延焼を抑制することができる。
【0049】
一方、一般的に、難燃性を高くしようとすると、柔軟性が低下する場合が多く、また、高価な場合が多いため、第1樹脂発泡体層3aのみで樹脂発泡体3を構成すると、コスト増や施工作業性の低下の恐れがある。これに対し、第2樹脂発泡体層3bは、第1樹脂発泡体層3aと比較して、相対的に柔軟であり変形しやすいため、全体を第1樹脂発泡体層3aで構成するよりも、施工性が高く、確実に長尺体21の外面に密着して、隙間の形成を抑制することができる。
【0050】
なお、区画部17の他方の側(床下)で火災が発生した際には、熱が上方に向かうため、床上に延焼しやすいが、熱源側の第2樹脂発泡体層3bが直ちに焼失するため、熱膨張部材5の中心方向(長尺体21方向)への膨張の妨げとなることがなく、熱膨張部材5の膨張によって、より確実に貫通孔19を塞ぐことができる。この際、熱膨張部材5が膨張するまでの間には、第1樹脂発泡体層3aの難燃性により、延焼を抑制することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態にかかる耐火部材1によれば、貫通孔19に取り付けた際に、耐火部材1を区画部17の内面及び長尺体21の外面に密着させることができる。このため、隙間の形成を抑制して、貫通孔19を確実に塞ぐことができる。
【0052】
また、樹脂発泡体3を2層構造として、相対的に難燃性の高い第1樹脂発泡体層3aによって、樹脂発泡体3の難燃性を向上させるとともに、相対的に柔軟性の高い第2樹脂発泡体層3bによって、隙間の発生や、長尺体21の外周部への取り付け作業性を向上させることができる。
【0053】
また、第2樹脂発泡体層3bの外周部に熱膨張部材5を配置することで、火災時に、第2樹脂発泡体層3bがより早く焼失するため、熱膨張部材5の膨張の妨げとなることを抑制することができる。
【0054】
また、樹脂発泡体3に割り部11を設けることで、取り付け作業が容易であるとともに、割り部11を対向面側に互いに嵌合する凹凸形状とすることで、半割状の樹脂発泡体3を組み合わせるのが容易であるとともに、長尺体21の外形に応じて追従させることが容易となり、隙間の形成を抑制することができる。
【0055】
なお、長尺体21が貫通孔19の略中心に位置する場合だけではなく、長尺体21が貫通孔19の中心からずれた位置に配置される場合や、複数の長尺体21が配置されるような場合もある。このような場合には、長尺体21を切れ込み13の位置で耐火部材1を貫通するように配置すればよい。
【0056】
図5は、長尺体21を貫通孔19(耐火部材1)の中心からずれた位置に配置した耐火構造23を示す図である。なお、図示した例では、複数の長尺体21が配置された例を示すが、1本の長尺体21であっても同様である。
【0057】
前述したように、切れ込み13は、互いに略平行に形成される。このため、例えば、外周に行くにつれて切れ込みの間隔が広くなるように放射状に切れ込み13を形成する場合と比較して、耐火部材1の外周部近傍への配置の自由度が高い。また、放射状の切れ込みでは、切れ込みで区分された樹脂発泡体片の中心側の幅が狭くなるため、中央近傍に大きな隙間が形成されやすい。しかし、切れ込み13を略平行に形成することで、中央近傍でも、切れ込み13で区分された樹脂発泡体片の幅が十分であるため、中央近傍に隙間が生じることを抑制することができる。
【0058】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
例えば、区画部17は、床ではなく壁であってもよい。この場合には、壁の両側からそれぞれ耐火部材1を挿入してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1………耐火部材
3………樹脂発泡体
3a………第1樹脂発泡体層
3b………第2樹脂発泡体層
5………熱膨張部材
7………位置決め部材
9………被覆体
11………割り部
13………切れ込み
15………芯材
17………区画部
19………貫通孔
21………長尺体
23………防火構造
【要約】
【課題】 特に、大口径の貫通孔に対しても、十分な耐火性能と施工作業性を両立することが可能な耐火部材等を提供する。
【解決手段】 耐火部材1は、主に、樹脂発泡体3と熱膨張部材5等から構成される。樹脂発泡体3は、全体として略円形であり、全体を横断するように割り部11を有する半割構造である。樹脂発泡体3は、材質の異なる複数層で形成される。図示した例では、樹脂発泡体3は、長尺体の挿入方向(以下、単に厚み方向という場合がある)に対して、第1樹脂発泡体層3aと第2樹脂発泡体層3bとが積層された2層構造である。第1樹脂発泡体層3aは、相対的に難燃性が高く、変形がしにくい材質で構成され、第2樹脂発泡体層3bは、相対的に難燃性が低く、変形がしやすい材質で構成される。
【選択図】
図1