(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】目的物質検出装置及び目的物質検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/552 20140101AFI20220701BHJP
【FI】
G01N21/552
(21)【出願番号】P 2017136826
(22)【出願日】2017-07-13
【審査請求日】2020-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 真
(72)【発明者】
【氏名】芦葉 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】安浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-178539(JP,A)
【文献】特許第5301894(JP,B2)
【文献】特表2010-512534(JP,A)
【文献】特開2005-195477(JP,A)
【文献】特開平04-084738(JP,A)
【文献】特開2007-248253(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030833(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に対して上面側の面に配される検出面と、厚み方向に対し前記上面から前記底面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する上向き傾斜面及び前記厚み方向に対し前記底面から前記上面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する下向き傾斜面のいずれかの傾斜面と、光を受光して内部に導光可能とされる本体部とを有する全体略板状の光透過性部材を備え、前記光透過性部材が前記上面側から照射され前記上向き傾斜面を通過させた前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第1の光入射構造及び前記上面側から照射され前記下向き傾斜面で反射された前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第2の光入射構造のいずれかの光入射構造を有する検出チップと、
前記光透過性部材の前記上面側に配され、前記光入射構造を介して前記検出面に全反射条件で前記光を照射可能とされる光照射部と、
前記光透過性部材の前記底面側に配される磁場印加部と、
前記検出面上に配され、前記検出面の表面近傍の領域を検出領域とし、前記光の照射に伴い目的物質と磁性粒子とを含む結合体から発せられる光信号を検出可能とされる光検出部と、
を備え、
前記光透過性部材が前記上面に形成されるととも
に前記上向き傾斜面を有する
断面V字状の上面側切欠き部及び前記底面に形成されるととも
に前記下向き傾斜面を有する
断面V字状の底面側切欠き部の少なくともいずれかの切欠き部を有することを特徴とする目的物質検出装置。
【請求項2】
切欠き部に本体部よりも屈折率の低い低屈折材料が埋設される請求項1に記載の目的物質検出装置。
【請求項3】
光入射構造が、第1の光入射構造における上向き傾斜面を通過させた光及び第2の光入射構造における下向き傾斜面で反射された光の少なくともいずれかを底面で反射させた後に検出面に対し全反射条件で入射可能とされる請求項1から2のいずれかに記載の目的物質検出装置。
【請求項4】
傾斜面における光入射位置と検出面における光照射位置との間の最短距離が、1.0mm~50.0mmとされる請求項1から3のいずれかに記載の目的物質検出装置。
【請求項5】
光透過性部材の厚みが0.1mm~10.0mmとされる請求項1から4のいずれかに記載の目的物質検出装置。
【請求項6】
光透過性部材の上面に少なくとも一部を検出面とする液体試料貯留溝が形成される請求項1から5のいずれかに記載の目的物質検出装置。
【請求項7】
液体試料貯留溝が検出面として光透過性部材の厚み方向に対し上面から底面側に向かうにつれて傾斜面から離れる方向に傾斜する傾斜検出面を有する請求項6に記載の目的物質検出装置。
【請求項8】
光透過性部材の上面の一部が検出面とされるとともに前記検出面を底とする函状体を形成するように前記検出面の周囲に側壁部が立設される請求項1から5のいずれかに記載の目的物質検出装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の目的物質検出装置を用いた目的物質検出方法であって、
光透過性部材の上面側から光入射構造を介して検出面に全反射条件で光を照射する光照射工程と、
前記光透過性部材の底面側から磁場を印加する磁場印加工程と、
前記光の照射に伴い目的物質と磁性粒子とを含む結合体から発せられる光信号を検出する光検出工程と、
を含むことを特徴とする目的物質検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の全反射に伴って生成されるエバネッセント場を利用して、液体中に存在する目的物質を光学的に検出可能な目的物質検出装置及び目的物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶液中に存在する微小物質、特にDNA、RNA、タンパク質、ウイルス、細菌等の生体関連物質を検出・定量する方法が開発されている。このような方法としては、例えば、全反射によるエバネッセント場を利用する方法が知られている。
前記全反射によるエバネッセント場を利用する方法としては、例えば、全反射照明蛍光顕微鏡が挙げられる。前記全反射照明蛍光顕微鏡は、液体試料とカバーガラス或いはスライドガラスとの界面で入射光を全反射させ、これによって生じるエバネッセント場を励起光として利用し、ノイズとなるバックグラウンド光が少ない蛍光観察を行う技術である(特許文献1参照)。また、該技術は、超解像を実現可能な技術であり、単分子観察を可能とする。
【0003】
全反射を利用する方法について、目的物質と結合する磁性粒子を用い、検出チップ下側に配された磁石に基づく、磁場の印加により前記目的物質と前記磁性粒子との結合体を前記検出チップ表面の局所領域に引き寄せ、この局所領域に前記励起光を照射して、前記目的物質の検出を行う方法が提案されている(特許文献2参照)。この提案によれば、磁場の印加によって前記検出チップ表面に対する前記目的物質の吸着又は近接が促され、短時間での測定が可能となる。
しかしながら、この提案では、前記検出チップの下側に光学プリズムが存在するため、前記局所領域と前記磁石との間の距離を十分に近づけることができず、前記磁石により印加される磁場の強さが前記検出チップ表面上に至るまでに減衰してしまい、十分に前記目的物質を前記局所領域に引き寄せることができない問題を有する。
また、この問題を解決するために強い磁場を印加させようとすると、装置が大掛かりになるとともに製造コストが嵩む問題を発生させる。
【0004】
前記磁性粒子を用いた蛍光検出方法として、磁場印加部(例えば、磁石)による磁場の印加前後の様子を比較観察することで、前記磁場印加前における光信号のうち、ノイズ信号を排除した検出を行う方法が提案されている(非特許文献1,2参照)。この提案によれば、前記磁性粒子と結合した前記目的物質が前記磁場の印加により移動するのに対し、前記検出チップ表面のキズ等に生ずるノイズは、前記磁場の印加により移動しないことから、移動する光信号に着目した検出を行うことで、前記ノイズ信号を排除することができる。
しかしながら、この磁場の印加前後の様子を比較観察する方法においても、前記光学プリズムが用いられるため、前記磁場の強さの減衰によって前記目的物質を移動させにくく、また、前記磁場の強さを高めようとすると、装置が大掛かりになるとともに製造コストが嵩むこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-236258号公報
【文献】特許第5301894号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】安浦 雅人、藤巻 真「微量検出のための導波モードイメージセンサの開発」電気学会研究会資料 センサ・マイクロマシン部門総合研究会(2016年6月29日,30日)、pp.45~52、一般社団法人電気学会(2016年)
【文献】M. Yasuura and M. Fujimaki, Sci. Rep. Vol. 6, pp. 39241-1-39241-7 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、磁性粒子を用いた目的物質の検出に用いることができ、小型でかつ低コストに製造可能な目的物質検出装置及び該目的物質検出装置を用いた目的物質検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 底面に対して上面側の面に配される検出面と、厚み方向に対し前記上面から前記底面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する上向き傾斜面及び前記厚み方向に対し前記底面から前記上面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する下向き傾斜面のいずれかの傾斜面と、光を受光して内部に導光可能とされる本体部とを有する全体略板状の光透過性部材を備え、前記光透過性部材が前記上面側から照射され前記上向き傾斜面を通過させた前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第1の光入射構造及び前記上面側から照射され前記下向き傾斜面で反射された前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第2の光入射構造のいずれかの光入射構造を有する検出チップと、前記光透過性部材の前記上面側に配され、前記光入射構造を介して前記検出面に全反射条件で前記光を照射可能とされる光照射部と、前記光透過性部材の前記底面側に配される磁場印加部と、前記検出面上に配され、前記検出面の表面近傍の領域を検出領域とし、前記光の照射に伴い目的物質と磁性粒子とを含む結合体から発せられる光信号を検出可能とされる光検出部と、を備え、前記光透過性部材が前記上面に形成されるとともに前記上向き傾斜面を有する断面V字状の上面側切欠き部及び前記底面に形成されるとともに前記下向き傾斜面を有する断面V字状の底面側切欠き部の少なくともいずれかの切欠き部を有することを特徴とする目的物質検出装置。
<2> 切欠き部に本体部よりも屈折率の低い低屈折材料が埋設される前記<1>に記載の目的物質検出装置。
<3> 光入射構造が、第1の光入射構造における上向き傾斜面を通過させた光及び第2の光入射構造における下向き傾斜面で反射された光の少なくともいずれかを底面で反射させた後に検出面に対し全反射条件で入射可能とされる前記<1>から<2>のいずれかに記載の目的物質検出装置。
<4> 傾斜面における光入射位置と検出面における光照射位置との間の最短距離が、1.0mm~50.0mmとされる前記<1>から<3>のいずれかに記載の目的物質検出装置。
<5> 光透過性部材の厚みが0.1mm~10.0mmとされる前記<1>から<4>のいずれかに記載の目的物質検出装置。
<6> 光透過性部材の上面に少なくとも一部を検出面とする液体試料貯留溝が形成される前記<1>から<5>のいずれかに記載の目的物質検出装置。
<7> 液体試料貯留溝が検出面として光透過性部材の厚み方向に対し上面から底面側に向かうにつれて傾斜面から離れる方向に傾斜する傾斜検出面を有する前記<6>に記載の目的物質検出装置。
<8> 光透過性部材の上面の一部が検出面とされるとともに前記検出面を底とする函状体を形成するように前記検出面の周囲に側壁部が立設される前記<1>から<5>のいずれかに記載の目的物質検出装置。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の目的物質検出装置を用いた目的物質検出方法であって、光透過性部材の上面側から光入射構造を介して検出面に全反射条件で光を照射する光照射工程と、前記光透過性部材の底面側から磁場を印加する磁場印加工程と、前記光の照射に伴い目的物質と磁性粒子とを含む結合体から発せられる光信号を検出する光検出工程と、を含むことを特徴とする目的物質検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、磁性粒子を用いた目的物質の検出に用いることができ、小型でかつ低コストに製造可能な目的物質検出装置及び該目的物質検出装置を用いた目的物質検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図2】第2実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図3】光の入射角度の一例を示す説明図(1)である。
【
図4】光の入射角度の一例を示す説明図(2)である。
【
図5】光の入射角度の一例を示す説明図(3)である。
【
図6】第3実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図7】第4実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図8】第5実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図11】第6実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【
図12】第7実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(目的物質検出装置)
本発明の目的物質検出装置は、検出チップと、光照射部と、磁場印加部とを有し、更に、必要に応じて、光検出部を備える。
【0012】
<検出チップ>
前記検出チップは、以下に説明する光透過性部材を備える。
【0013】
-光透過性部材-
前記光透過性部材は、底面に対して上面側の面に配される検出面と、厚み方向に対し前記上面から前記底面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する上向き傾斜面及び前記厚み方向に対し前記底面から前記上面側に向かうにつれて前記検出面から離れる方向に傾斜する下向き傾斜面のいずれかの傾斜面と、光を受光して内部に導光可能とされる本体部とを有する全体略板状の部材である。
また、前記光透過性部材は、前記上面側から照射され前記上向き傾斜面を通過させた前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第1の光入射構造及び前記上面側から照射され前記下向き傾斜面で反射された前記光を前記本体部を介して前記検出面に対し全反射条件で入射させる第2の光入射構造のいずれかの光入射構造を有するように構成される。
なお、前記光透過性部材において、光学的に作用する面、つまり、光が入射する面や光が反射する面は、光学的に平滑であることが好ましい。
【0014】
前記光透過性部材は、従来の検出チップにおける光学プリズムの役割と、前記検出面での光の全反射に基づきエバネッセント場を形成する役割とを兼ねるとともに、前記検出チップにおける前記検出面の設定位置の下側に磁場印加部を配設可能とするため、前記光透過性部材の上面側から照射される前記光を前記検出面に導光させる役割を有する。
即ち、前記光透過性部材は、上面側から照射される前記光を前記検出面に対し全反射条件で入射させる前記光入射構造を有することを特徴とする。
【0015】
前記光透過性部材の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、射出成型により量産可能なポリスチレン、ポリカーボネート、シクロオレフィン、アクリル等のプラスチック材料、高い透明性を確保できるシリカガラス等のガラス材料が好ましい。前記ポリスチレン、前記シクロオレフィンは、自家蛍光が少なくノイズの低減が可能であり、前記ポリカーボネートは高い屈折率を実現できるため小型化が可能になる。また、前記アクリルは、高い透明性を持つため導光時の光の減衰を抑制することが可能である。
前記光透過性部材の厚みとしては、特に制限はないが、剛性、導光性能、及び、磁気の減衰度合いの観点から、0.1mm~10.0mmであることが好ましい。前記厚みが0.1mm未満であると、割れ、歪みなどが生じやすく取り扱いが難しくなることがある。また、前記厚みが入射光のビーム径より小さいと入射時に光のロスが生じると共に、ノイズ光が生じるため、前記厚みとしては、前記ビーム径よりも大きいことが好ましい。また、底面側から磁場を印加することから、前記厚みが10.0mmを超えると減衰により好適な磁場を前記検出面上に付与することが難しくなることがある。また、前記厚みが5.0mm以下であれば、磁場の減衰を大きく抑制することができる。
【0016】
前記光透過性部材としては、前記検出面が形成される領域に前記目的物質の存否等が検証される液体試料が導入される。導入される前記液体試料を保持するための構成としては、特に制限はないが、次の構成を適用することが好ましい。
即ち、一つの構成として、前記光透過性部材の上面の一部が前記検出面とされるとともに前記検出面を底とする函状体を形成するように前記検出面の周囲に側壁部が立設される構成が挙げられる。この構成では、前記函状体内に前記液体試料が保持される。なお、前記側壁部としては、例えば、前記光透過性部材と同じ材料及び形成方法で形成することができる。
また、他の一つの構成として、前記光透過性部材の前記上面に少なくとも一部を前記検出面とする液体試料貯留溝が形成される構成が挙げられる。この構成では、前記液体試料貯留溝内に前記液体試料が保持される。なお、前記液体試料貯留溝としては、前記光透過性部材を構成する板状部材の形成時に成形加工により形成してもよいし、前記板状部材形成後、切削加工により形成してもよい。
また、更に他の一つの構成として、前記液体試料貯留溝が前記光透過性部材の前記傾斜面が形成される側の側面と反対側の側面から前記傾斜面側に向けて穿設される穿設溝として形成される構成が挙げられる。この構成では、前記液体試料貯留溝(穿設溝)を構成する面のうち、前記底面と最も近い位置で対向する面が前記検出面を構成する。
なお、前記液体試料貯留溝から前記液体試料がこぼれ落ちることを防止するため、前記液体試料貯留溝の開口には、必要に応じて、カバーガラス等の蓋を設けて密閉することができる。
【0017】
前記液体試料貯留溝を形成する場合、前記溝の形状としては、断面視で凹状、V字状、台形状等の任意の形状を適用することができるが、半円形のような平坦な面がない形状であると前記検出面を形成できないため、こうした形状は除かれる。
また、前記液体試料貯留溝としては、特に制限はないが、前記検出面として前記光透過性部材の厚み方向に対し上面から底面側に向かうにつれて前記傾斜面から離れる方向に傾斜する傾斜検出面を有する構成としてもよい。即ち、このような傾斜検出面を前記検出面として有すると、前記本体部内を伝播する前記光を前記検出面に全反射条件で照射させるために設定される前記傾斜面に対する前記光の入射角度を広範囲で設定することができ、設定の自由度を広げることができる。
【0018】
前記検出チップは、前記光透過性部材の底面側に配される前記磁場印加部との競合を避ける観点に基づき、前記光透過性部材の上面側に配された光照射部から前記光が照射されることを前提とした構成とされる。
即ち、前記光入射構造では、前記光透過性部材の上面側から照射される前記光の進行方向を前記傾斜面により変更させることで、前記検出面に対して前記光を全反射条件で入射可能とする。
前記傾斜面としては、このような役割を果たす限り、前記光透過性部材の側面として形成されていてもよく、また、前記光透過性部材の上面及び底面の少なくともいずれかに形成される切欠き部の構成面として形成されていてもよい。
【0019】
前記切欠き部としては、前記光透過性部材の上面に形成されるとともに前記上向き傾斜面を有する上面側切欠き部及び前記光透過性部材の底面に形成されるとともに前記下向き傾斜面を有する底面側切欠き部の少なくともいずれかとして形成される。なお、前記切欠き部としては、前記光透過性部材を構成する板状部材の形成時に成形加工により形成してもよいし、前記板状部材形成後、切削加工により形成してもよい。
【0020】
また、前記上面側切欠き部としては、切欠かれた部分が空隙とされてもよいが、この部分に前記液体試料が侵入した場合に洗浄しにくいため、前記本体部よりも屈折率の低い低屈折材料が埋設されてもよい。即ち、前記上面側切欠き部が前記低屈折材料で埋設されると、前記上面側切欠き部内に前記液体試料が侵入することを防止することができる。
また、前記低屈折材料を用いるため、前記上面側切欠き部の前記上向き傾斜面と前記本体部との界面における屈折を利用して前記検出面に前記光を導光させることができる。
なお、前記上面側切欠き部に前記低屈折材料を埋設させる場合、例えば、屈折率が1.4程度の公知のプラスチック材料を前記上面側切欠き部に埋設させ、前記本体部を屈折率が1.6程度の公知のプラスチック材料で形成することで、前記光透過性部材を構成することができる。
【0021】
また、前記底面側切欠き部では、前記光透過性部材の底面に形成されることから、上面側に導入される前記液体試料が切欠かれた部分に侵入することがない。
ただし、前記底面側切欠き部の前記下向き傾斜面が外部に露出して大気中の塵などの付着により汚れることを防止する観点から、前記上面側切欠き部と同様、切欠かれた部分に前記低屈折材料を埋設させることが好ましい。
【0022】
ところで、前記傾斜面における光入射位置と前記検出面における光照射位置(前記上面側における前記検出面の設定位置)との間の距離が長い場合、前記本体部内を進行する前記光が弱められ、また、前記本体部での前記光の反射が生じるごとに前記光が弱められる。一方で、光入射位置と前記検出面における光照射位置の距離が近すぎると、入射時に生じる散乱などによるノイズが光信号中に混じり、検出精度を落とす原因になる。
したがって、前記傾斜面における光入射位置と前記検出面における光照射位置との間の距離としては、好適な範囲が存在し、具体的には、最短距離で1.0mm~50.0mmとされることが好ましい。
このような距離とすると、前記本体部内を進行する前記光が弱まることを抑制することができ、かつ、ノイズを抑制し、また、前記本体部で前記光が反射する回数を減らし、最適には、前記回数が1回となるように設定できる。また、前記傾斜面が前記下向き傾斜面として形成される場合も、前記本体部で前記光が反射する回数を減らすことが好ましく、前記本体部での前記光が反射する回数をゼロとし、前記下向き傾斜面における1回の反射だけで前記検出面に前記光を入射させるように設定されることが最適である。
なお、本明細書において「光透過性」とは、可視光透過率が0.5%以上であることを示す。
【0023】
<コーティング層>
前記光透過性部材としては、前記検出面上にコーティング層が形成されていてもよい。
前記コーティング層の形成材料としては、前記光透過性部材と同様、光透過性を有していれば特に制限はなく、公知の樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
前記コーティング層の形成方法としては、特に制限はなく、スパッタリング法、蒸着法、スピンコート法、塗布、貼り付け、ラミネート等の公知の方法が挙げられる。
前記コーティング層としては、前記光透過性部材の前記検出面を被覆するように形成され、前記コーティング層の上面が前記検出面の役割を有する。
このコーティング層によれば、前記光透過性部材が比較的柔らかい樹脂で形成されている場合、キズの付きにくい硬い樹脂やガラス材料でコートすることによって前記光透過性部材の前記検出面にキズが付くのを防止することができる。
また、前記コーティング層をフッ素樹脂等で形成する場合、前記検出面の汚れを防止する防汚効果も得られる。加えて、この防汚効果により、前記コーティング層の上面に目的物質や磁性粒子が吸着することを防止することができ、延いては、後述の磁場印加部によって前記磁性粒子と結合した前記目的物質を移動させて検出する場合、前記磁性粒子と前記目的物質の結合体が前記コーティング層の表面に吸着して移動しなくなることを防ぐことができる。
また、前記光透過性部材の加工精度が悪く、その検出面に荒れが発生している場合には、前記コーティング層によって前記検出面の荒れを緩和し、全反射時の光散乱を抑制して、ノイズを低減することができる。この場合、特に制限はないが、平滑性に優れた前記検出面を得る観点から前記コーティング層として薄いガラスフィルムを選択し、前記光透過性部材の前記検出面上にラミネートすることが特に好ましい。
また、樹脂製の前記光透過性部材の前記検出面上にガラスによる前記コーティング層を形成する場合、耐薬品性が高く、有機溶媒や強酸、強アルカリに強い検出チップを得ることができる。
【0024】
なお、前記光入射構造としては、前記傾斜面の傾斜角度、前記傾斜面に対する前記光の照射角度、前記光透過性部材の材質(屈折率)、前記傾斜面における光入射位置と前記検出面における光照射位置との間の距離及び前記光透過性部材の厚み等の条件を与えて、前記光透過性部材の上面側から照射される前記光の前記検出面に対する経路を公知の光学的算出方法で算出することで設定することができる。
【0025】
<光照射部>
光照射部は、前記光透過性部材の前記上面側に配され、前記光透過性部材の前記光入射構造を介して前記検出面に全反射条件で前記光を照射可能とされる部である。
【0026】
前記光照射部の光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のランプ、LED、レーザー等が挙げられる。前記目的物質検出装置では、前記検出面に対し前記全反射条件で前記光を照射することで前記検出面の表面近傍に前記エバネッセント場を形成し、前記目的物質と磁性粒子とを含む結合体から光信号を発生させることを検出原理とする。そのため前記光照射部に求められる役割としては、前記検出面に対し前記全反射条件で前記光を照射することのみであり、このような役割を担うものであれば光源の選択に制限がない。
【0027】
なお、ランプ、LED等の放射光源を用いる場合には、照射光の照射方向を特定の方位に規制するコリメートレンズ等の案内部を用いて、前記光入射部に前記照射光を入射させることができる。
また、前記光入射部に入射させる前記光としては、前記結合体に対して、蛍光を励起可能な波長を持つ単色光か、または、ランプ、LED等の広い波長帯域を持つ光源からの光をバンドパスフィルタ等の光学フィルタに透過させて単色化し、前記蛍光を励起可能な波長のみとした光とすることが好ましい。
【0028】
<磁場印加部>
前記磁場印加部は、前記光透過性部材の前記底面側に配される部である。
前記磁場印加部として、特に制限はないが、前記液体試料に強い磁場を及ぼす観点から、前記検出チップにおける前記検出面と前記厚み方向で対向する位置における前記光透過性部材底面の直下に配されることが好ましい。
【0029】
前記磁場印加部の構成部材としては、前記液体試料が導入される領域に磁場を印加可能であれば、特に制限はなく、公知の永久磁石、電磁石等を挙げることができる。
【0030】
前記液体試料には、磁気ビーズ等の公知の磁性粒子が添加され、前記目的物質が存在する場合、前記目的物質と前記磁性粒子との結合体が形成される。なお、前記目的物質が蛍光を生じにくい物質である場合には、前記目的物質と特異的に吸着ないし結合して前記目的物質を標識化する蛍光標識物質を用いてもよい。前記蛍光標識物質としては、例えば、蛍光色素、量子ドット、蛍光染色剤等の公知の蛍光物質を用いることができる。
また、前記目的物質の検出方法としては、蛍光検出に加え、前記エバネッセント場におけるエバネッセント光を受けて前記結合体から発せられる散乱光を検出する方法も挙げられる。
前記散乱光を検出する場合、前記目的物質が散乱光を生じにくい物質である場合には、前記目的物質と特異的に吸着ないし結合して光を散乱する光散乱物質を用いてもよい。前記光散乱物質としては、例えば、ナノ粒子、例えばポリスチレンビーズや金ナノ粒子などが挙げられる。
なお、前記目的物質、前記磁性粒子、前記蛍光標識物質及び前記光散乱物質の結合方法としては、特に制限はなく、物質に応じて、物理吸着、抗原-抗体反応、DNAハイブリダイゼーション、ビオチン-アビジン結合、キレート結合、アミノ結合などの公知の結合方法を適用することができる。
【0031】
前記目的物質等からの光は、前記検出面の表面近傍に形成される前記エバネッセント場内で生じるため、短時間で前記光信号の検出を行うためには、前記液体試料中を浮遊する前記結合体を前記検出面の表面近傍まで引き寄せることが必要となる。
前記磁場印加部では、前記磁場の印加により、前記液体試料中を浮遊する前記結合体を前記検出面の表面に引き寄せ、短時間での検出を可能とする。
【0032】
ところで、前記検出では、前記検出面におけるキズ等を原因とするノイズを排除した検出を行うため、前記磁場印加部による前記磁場の印加を伴う前記結合体の移動前後の様子を比較観察することで、前記結合体移動前における光信号に含まれるノイズ信号を排除した検出を行うこととしてもよい。このような検出によれば、前記磁性粒子と結合した前記目的物質が前記磁場印加部により移動するのに対し、前記検出面のキズ等に生ずるノイズは、前記磁場印加部により移動しないことから、移動する光信号に着目した検出を行うことで、前記ノイズ信号を排除することができる。
このような検出を行う場合、前記磁場印加部としては、前記結合体の移動前後の様子を比較観察するため、前記光透過性部材の底面側において、前記磁場を印加した状態で前記検出面の面内方向と平行な方向のベクトル成分を持つ方向に移動可能な部材とされ、例えば、前記永久磁石等と前記永久磁石等を支持した状態でスライド移動可能なスライド部材とで構成することができる。
【0033】
<光検出部>
前記光検出部は、前記検出面上に配され、前記検出面の表面近傍の領域を検出領域とし、前記光の照射に伴い前記目的物質を含む前記結合体から発せられる光信号を検出可能とされる。
前記光検出部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のフォトダイオード、光電子増倍管等の公知の光検出器やCCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等の公知の撮像デバイスを用いることができる。
【0034】
(目的物質検出方法)
本発明の目的物質検出方法は、本発明の前記目的物質検出装置を用いて目的物質を検出する方法であり、少なくとも、光照射工程と、磁場印加工程とを含み、更に、必要に応じて、光検出工程を含む。
【0035】
<光照射工程>
前記光照射工程は、前記光透過性部材の前記上面側から前記光透過性部材の前記光入射構造を介して前記検出面に全反射条件で光を照射する工程である。
なお、前記光照射工程の実施方法としては、本発明の前記目的物質検出装置における前記光照射部について説明した事項を適用することができるため、重複した説明を省略することとする。
【0036】
<磁場印加工程>
前記磁場印加工程は、前記磁場印加部により前記光透過性部材の底面側から磁場を印加する工程であり、好適には、前記磁場を印加した状態で前記磁場印加部を前記検出面の面内方向と平行なベクトル成分を持つ方向に移動させる工程である。
なお、前記磁場印加工程の実施方法としては、本発明の前記目的物質検出装置における前記磁場印加部について説明した事項を適用することができるため、重複した説明を省略することとする。
【0037】
<光検出工程>
前記光検出工程は、前記光の照射に伴い前記結合体から発せられる光信号を検出する工程である。
なお、前記光検出工程の実施方法としては、本発明の前記目的物質検出装置における前記光検出部について説明した事項を適用することができるため、重複した説明を省略することとする。
【0038】
なお、本発明に係る前記目的物質検出装置及び前記目的物質検出方法について、前記光透過性部材における「上面」、「底面」及び「側面」の各位置関係に基づき、位置関係の説明を行ったが、これらの位置関係は、相対的な位置関係を示すものであり、前記目的物質検出装置が逆さ又は傾けて使用される場合であっても、前記相対的な位置関係に変更がない場合には、本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、前記目的物質検出装置を90°傾けて使用し、「上面」及び「底面」が側方、「側面」が上方又は下方に位置する場合であっても、前記磁場印加部が配される側の前記光透過性部材の面を「底面」として視たときの「上面」及び「側面」の前記相対的な位置関係に変更がない場合には、本発明の技術的範囲に含まれる(例えば、後述の第7実施形態、
図12参照)。
【0039】
[第1実施形態]
以下では、本発明の前記目的物質検出装置の構成例を図面を参照しつつ、具体的に説明する。
先ず、第1実施形態に係る目的物質検出装置を
図1を参照しつつ、説明する。なお、
図1は、第1実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0040】
図1に示すように、第1実施形態における検出チップ1は、光透過性部材2を有する。光透過性部材2は、板状の部材であり、上面の一部が検出面2aとされ、側面が上向き傾斜面2bとされ、胴部が上面から光を受光して内部に導光可能な本体部2cとされる。ここで、検出面2aは、光透過性部材2の上面の一部に設定される面であり、裏面(光透過性部材2の底面側)に対し、全反射条件で光を照射したときに、表面(光透過性部材2の上面側)近傍にエバネッセント場を形成する。
また、光透過性部材2の上面には、検出面2aを底とする函状体を形成するように検出面2aの周囲に側壁部4が立設され、前記函状体内に液体試料Aが導入される。
【0041】
ここで、光透過性部材2の側面として構成される上向き傾斜面2bは、光透過性部材2の厚み方向Yに対し上面から底面側に向かうにつれて検出面2aから離れる方向に傾斜する面とされ、上向き傾斜面2bと対向して配される光照射部Bから照射される光が光透過性部材2の厚み方向Yと直交する長さ方向Xに対して傾斜する状態で本体部2c内に入射される。
本体部2c内に入射される光は、本体部2cの上面及び底面で複数回反射されつつ、本体部2c内を長さ方向Xに沿って伝播される。
本体部2c内を伝播する光は、検出面2aの位置で全反射され、検出面2aの表面近傍にエバネッセント場を形成させる(第1の光入射構造)。
【0042】
検出チップ1を用いて目的物質検出装置を構成する場合、
図1に示すように、光照射部Bが光透過性部材2の上面側における、光透過性部材2側面の上向き傾斜面2bと対向した位置に配され、磁場印加部Cが検出面2aと厚み方向Yで対向する位置における光透過性部材2底面の直下に配され、光検出部Dが光透過性部材2の上面側に配される。
磁場印加部Cでは、磁場の印加により、液体試料A中を浮遊する目的物質と磁性粒子とを含む結合体を前記結合体が光信号を発することが可能な検出面2aの表面近傍に引き寄せ、短時間での測定を可能とする。また、磁場印加部Cを例えば長さ方向Xにスライド移動させ、スライド移動前後の光信号の検出を行うことで、磁場印加部Cのスライド移動に追従する前記結合体のみを検出可能とし、検出面2aにおけるキズ等を原因とするノイズ信号を排除した検出を行うことができる。
また、光検出部Dでは、検出面2aの表面近傍における前記結合体からの光を検出可能とされる。
【0043】
このように構成される第1の実施形態に係る目的物質検出装置では、光照射部Bと磁場印加部Cとの配設位置を競合させず、磁場印加部Cを光透過性部材2底面における検出面2aとの距離が近い位置に配設させることができ、かつ、光照射部Bから照射される光を検出面2aに対し全反射条件で照射させることができるため、検出面2aと離れた位置から磁場を印加可能な強力な磁場印加部材を用いる必要がなく、装置が大掛かりになることを避けることができ、小型で低コストに製造することができる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る目的物質検出装置を
図2を参照しつつ、説明する。なお、
図2は、第2実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0045】
図2に示すように、第2実施形態における検出チップ10は、光透過性部材12を有する。光透過性部材12では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、上面に液体試料Aを導入する液体試料貯留溝14が形成される。液体試料貯留溝14は断面凹状の形状で形成され、その底面が検出面12aとされる。
また、光透過性部材12では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、上面に形成されるとともに上向き傾斜面12bを有する上面側切欠き部15が形成される。上面側切欠き部15は、断面略V字状の形状で形成される。
【0046】
ここで、上向き傾斜面12bは、光透過性部材12の厚み方向Yに対し上面から底面側に向かうにつれて検出面12aから離れる方向に傾斜する面とされ、上向き傾斜面12bと対向して配される光照射部Bから照射される光が光透過性部材12の厚み方向Yと直交する長さ方向Xに対して傾斜する状態で本体部12c内に入射される。
また、上向き傾斜面12bにおける光入射位置と検出面12aにおける光照射位置との間の距離Wは、最短距離として1.0mm~50.0mmが好適である。
また、本体部12c内に入射される光は、本体部12cの底面で可能な限り少ない回数、好ましくは1度だけ反射された状態で、検出面12aに導光され、検出面12aの裏面で全反射されるとともに検出面12aの表面近傍にエバネッセント場を形成させる(第1の光入射構造)。
【0047】
検出チップ10を用いて目的物質検出装置を構成する場合、
図2に示すように、光照射部Bが光透過性部材12の上面側における、上向き傾斜面12bと対向した位置に配される。
【0048】
このように構成される検出チップ10では、上向き傾斜面12bにおける光入射位置と検出面12aにおける光照射位置との間の距離Wが、第1実施形態における検出チップ1における上向き傾斜面2b(光透過性部材2の側面)における光入射位置と検出面2aにおける光照射位置との間の距離よりも短いことから、本体部12c内を進行する光の減衰を抑えることができる。
なお、これ以外の構成及び効果については、第1実施形態に係る目的物質検出装置と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
続いて、第1実施形態における検出チップ1の光透過性部材2の上向き傾斜面2bに対する光の入射角度に関し、
図3~5を参照しつつ、補足説明を行う。なお、
図3~5の各図は、光の入射角度の一例を示す説明図である。
図3に示すように、検出チップ1’は、光透過性部材2’の上面の一部が検出面2aとされた構造とされる。
ここで、
図3に示す例では、光透過性部材2’の側面として構成される上向き傾斜面2b’に対し、法線方向、即ち、上向き傾斜面2b’と垂直な方向から光が光透過性部材2’内に入射されるよう、光照射部Bの光照射方向が設定され、光透過性部材2’の上面側を開放させたV字の溝角としてみたときの上向き傾斜面2b’と光照射部Bの光照射方向との成す角度であるθ
1が90°とされる。
このように、θ
1を90°として、上向き傾斜面2b’と垂直な方向から光を入射させると、上向き傾斜面2b’での光の屈折が生じない。また、光透過性部材2’の厚み方向Yと光透過性部材2’の底面に対する光の入射方向との成す角度θ
2と、光透過性部材2’の底面と側面(上向き傾斜面2b’)との成す角度αとが等しくなる(θ
2=α)。そして、これらの事象は、光透過性部材2’の材質に依らずに生じることから、角度αの設定に基づき、一意に光透過性部材2’の本体部における光の反射位置を特定して検出チップにおける検出面2a’の位置設定及び目的物質検出装置における光学系の設定を簡単化させることができる。
図3に示す例では、角度αが小さすぎるとθ
2も小さくなりすぎ、入射された光が光透過性部材2’の底面で全反射されず、そのまま光透過性部材2’外に透過する成分を生じさせる。この状態になると、入射された前記光が検出面2a’に対し全反射条件で照射されなくなってしまうことから、留意する必要がある。一方、角度αが大きすぎると上面側からの光の入射が困難になることから、角度αとしては、50°~80°が好ましい。
【0050】
一方、
図4に示す例では、光透過性部材2’の上面側を開放させたV字の溝角としてみたときの上向き傾斜面2b’と光照射部Bの光照射方向との成す角度であるθ
1が90°未満とされる。
このように、θ
1を90°未満として、上向き傾斜面2b’に光を入射させると、上向き傾斜面2b’で屈折された光が光透過性部材2’の底面で反射され、上面に導かれる。
ただし、光入射角度θ
1が90°よりも小さすぎると、上向き傾斜面2b’で屈折された光が光透過性部材2’の底面で全反射されず、そのまま光透過性部材2’外に透過する成分を生じさせる。この状態になると、入射された前記光が検出面2a’に対し全反射条件で照射されなくなってしまうことから、留意する必要がある。
また、θ
1が90°よりも小さすぎると、反射光が導かれる上面の位置が側面(上向き傾斜面2b’)に近づきすぎとなり、この上面の位置を検出面2a’として設定し難くなることに留意する必要がある。
したがって、θ
1を90°未満とする場合、その下限としては、角度αに依存するものの、検出面2a’側における、光照射部Bの光照射方向と光透過性部材2’の長さ方向Xとの成す角が90°以上となる角度であることが好ましい。
【0051】
一方、
図5に示す例では、光透過性部材2’の上面側を開放させたV字の溝角としてみたときの上向き傾斜面2b’と光照射部Bの光照射方向との成す角度であるθ
1が90°を超える角度とされる。
このように、θ
1を90°を超える角度として、上向き傾斜面2b’に光を入射させると、上向き傾斜面2b’で屈折された光が光透過性部材2’の底面で反射され、上面に導かれる。反射の際、上向き傾斜面2b’で屈折された光が光透過性部材2’の底面で全反射され易く好ましい。
ただし、θ
1が90°よりも大きすぎると、反射光が導かれる上面の位置が上向き傾斜面2b’と遠ざかる結果、検出チップ1’が大型化することに留意する必要がある。
θ
1を90°を超える角度とする場合、その上限としては、角度αに依存するものの、光照射部Bの光照射方向が検出チップ1’の長さ方向Xに対し平行に至らない角度である。
【0052】
なお、ここでは、
図3~5を挙げ、第1実施形態における検出チップ1の光透過性部材2の上向き傾斜面2bに対する光の入射角度の補足説明を行ったが、θ
1としては、第2実施形態における検出チップ10の光透過性部材12の上向き傾斜面12bに対しても、適用することができる。
ただし、θ
1を90°を超える角度とする場合、θ
1が90°よりも大きすぎると、V字状の上面側切欠き部15の上向き傾斜面12bと反対側の面をなす光透過性部材12の構成部分が光照射の障害となり、θ
1の角度設定に制約が生じることに留意する必要がある。逆に、θ
1を90°及び90°未満とする場合には、このような制約が生じにくい。
【0053】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る目的物質検出装置を
図6を参照しつつ、説明する。なお、
図6は、第3実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
図6に示すように、第3実施形態における検出チップ20は、光透過性部材22を有する。光透過性部材22は、板状の部材であり、上面の一部が検出面22aとされ、胴部が上面から光を受光して内部に導光可能とされる本体部22cとされる。また、光透過性部材22の上面には、検出面22aを底とする函状体を形成するように検出面22aの周囲に側壁部24が立設され、函状体内に液体試料Aが導入される。
光透過性部材22では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、側面が厚み方向Yに対し底面から上面側に向かうにつれて検出面22aから離れる方向に傾斜する下向き傾斜面22bとされ、側面と厚み方向Yで対向する位置における光透過性部材22の上面に前記光が入射される。
【0054】
ここで、上面に対して光照射部Bから照射される光は、本体部22cに導入後、例えば、図示のように下向き傾斜面22b、底面の順で反射され、検出面22aの位置で全反射されるとともに検出面22aの表面近傍にエバネッセント場を形成させる(第2の光入射構造)。
【0055】
このように、光透過性部材2の側面が上面側を向く第1実施形態における検出チップ1と異なり、光透過性部材2の側面が底面側を向くように形成される第3実施形態における検出チップ20においても、第1実施形態における検出チップ1と同様にエバネッセント場を得ることができる。
【0056】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る目的物質検出装置を
図7を参照しつつ、説明する。なお、
図7は、第4実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0057】
図7に示すように、第4実施形態における検出チップ30は、光透過性部材32を有する。光透過性部材32では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、上面に液体試料Aを導入する液体試料貯留溝34が形成される。液体試料貯留溝34は、断面略V字状の形状で形成され、前記断面略V字状の溝の一辺を形成する面が検出面32aとされる。
【0058】
ここで、光透過性部材32では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、側面が厚み方向Yに対し底面から上面側に向かうにつれて検出面32aから離れる方向に傾斜する下向き傾斜面32bとされ、側面と厚み方向Yで対向する位置における光透過性部材32の上面に前記光が入射される。
光照射部Bでは、光透過性部材32の上面に対し、厚み方向Yの方向、つまり、上面と垂直な方向から光を照射し、本体部32c内に入射される光は、下向き傾斜面32bで1度だけ反射され、即ち、本体部32cの上面及び底面で反射されることなく、本体部32c内を長さ方向Xに沿って伝播され、検出面32aの位置で全反射されるとともに検出面32aの表面近傍にエバネッセント場を形成させる(第2の光入射構造)。
【0059】
このように構成される検出チップ30では、本体部32c内に入射される光が本体部32cの上面及び底面で反射されることなく、検出面32aに導光されることから、上面及び底面での反射に伴う前記光の劣化を抑制することができる。
また、これ以外の構成及び効果については、第1実施形態に係る目的物質検出装置と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る目的物質検出装置を
図8を参照しつつ、説明する。なお、
図8は、第5実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0061】
第5実施形態における検出チップ40は、第2実施形態における検出チップ10の変形例であり、第2実施形態における検出チップ10と同様、検出面42a、上向き傾斜面42b、本体部42c及び液体試料貯留溝44を有する光透過性部材42を備える。
第5実施形態における検出チップ40では、上面側切欠き部45が第2実施形態に係る検出チップ10と相違し、上面側切欠き部45に本体部42cの形成材料よりも屈折率の低い低屈折材料45aが埋設される。
【0062】
このように構成される検出チップ40では、上面側切欠き部45に低屈折材料45aが埋設され、光透過性部材42の上面全体がフラットな状態とされるため、液体試料Aの導入及び排出時に液体試料貯留溝44から侵入等する液体試料Aにより、上面側切欠き部45内が汚れることがない。
また、このように上面側切欠き部45を構成する場合でも、低屈折材料45aと高屈折材料で形成される本体部42cとの界面をなす上向き傾斜面42bにおける光の屈折を利用して、第2実施形態における検出チップ10と同様に、光照射部Bから照射される光を本体部42c内で1度だけ反射させる状態で検出面42aに導光させることができる。
なお、これ以外の構成及び効果については、第2実施形態に係る目的物質検出装置と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
続いて、第5実施形態における検出チップ40について、
図9,10に示す変形例を交えつつ、補足説明を行う。なお、
図9,10の各図は、変形例を示す説明図である。
図9に示すように、検出チップ40’は、光透過性部材42’の上面の一部が検出面42’とされ、かつ、上面側切欠き部45’が配された構造とされる。
ここで、
図9に示す例では、
図8に示す例と比較して、光照射部Bが上面側切欠き部45’の上向き傾斜面42b’に対し、光透過性部材42’の上面側から光を照射することとされ、光透過性部材42’の上面側を開放させたV字の溝角としてみたときの上向き傾斜面42b’と光照射部Bの光照射方向との成す角度(
図9中の角度β)が比較的小さな角度で設定される。
βが小さい場合、上向き傾斜面42b’から導入される光が光透過性部材42’の底面で全反射されず、そのまま光透過性部材42’における本体部42c’の外に透過する成分を生じさせることから(
図9中の点線矢印参照)、この状態になると、入射された前記光が前記裏面に対し前記全反射条件で照射されなくなってしまうことに留意する必要がある。
したがって、βとしては、入射された前記光が検出面42’に対し全反射条件を満たしうる最小角度以上でなければならない。
なお、上面側切欠き部45’に低屈折材料45a’が埋設されない場合も、光透過性部材42’の屈折率が高くないと、上向き傾斜面42b’で屈折された光が光透過性部材42’の底面で全反射されず、そのまま光透過性部材42’外に透過する成分を生じさせることに留意する必要がある。
【0064】
また、光入射角度βを比較的小さな角度とする場合であっても、
図10に示すように、光透過性部材42’の底面の面内方向に対して傾斜して形成され、下向き傾斜面46aを有する底面側切欠き部46を光透過性部材42’の底面に形成することで、上面に設定される検出面42a’に対して全反射条件となるように反射光を導くように構成してもよい。なお、底面側切欠き部46は、上面側切欠き部45’と同様の方法で形成することができる。また、底面側切欠き部46には、上面側切欠き部45’と同様に低屈折材料46aが埋設されていてもよい。
【0065】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態に係る目的物質検出装置を
図11を参照しつつ、説明する。なお、
図11は、第6実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0066】
第6実施形態における検出チップ50は、第3実施形態における検出チップ20の変形例である。
図11に示すように、第6実施形態における検出チップ50は、光透過性部材52を有する。光透過性部材52では、第3実施形態における光透過性部材22と異なり、上面に液体試料Aを導入する液体試料貯留溝54が形成される。液体試料貯留溝54は断面凹状の形状で形成され、その底面が検出面52aとされる。
また、光透過性部材52では、第3実施形態における光透過性部材22と異なり、底面に形成されるとともに下向き傾斜面52bを有する底面側切欠き部56が形成され、底面側切欠き部56には、必要に応じて本体部52cの形成材料よりも屈折率の低い低屈折材料56aが埋設される。
【0067】
このように構成される検出チップ50では、光透過性部材52の底面に底面側切欠き部56が形成されるため、液体試料Aの導入及び排出時に液体試料貯留溝54から侵入等する液体試料Aにより、底面側切欠き部56内が汚れることがない。
また、底面側切欠き部56が低屈折材料56aを埋設させて構成されると、下向き傾斜面52bが外部に露出して大気中の塵などの付着により汚れることを防止することができる。
また、底面側切欠き部56においても、下向き傾斜面52bにおける光の反射を利用して、光照射部Bから照射される光を下向き傾斜面52b及び底面で1度ずつ反射させて検出面52aに導光させることができる(第2の光入射構造)。
なお、これ以外の構成及び効果については、第3実施形態に係る目的物質検出装置と同様であるため、説明を省略する。
【0068】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態に係る目的物質検出装置を
図12を参照しつつ、説明する。なお、
図12は、第7実施形態に係る目的物質検出装置の概要を説明する説明図である。
【0069】
第7実施形態に係る目的物質検出装置は、第1実施形態に係る目的物質検出装置を90°傾けて使用する変形例に係る。そのため、第7実施形態に係る目的物質検出装置では、第1実施形態に係る目的物質検出装置における「上面」及び「底面」が側方、「側面」が上方に位置するが、磁場印加部Cが配される側の光透過性部材62の面を「底面」として視たものとして、第1実施形態に係る目的物質検出装置における「上面」、「底面」及び「側面」の位置関係を維持した説明を行う。
第7実施形態における検出チップ60は、第1実施形態における検出チップ1の変形例である。
図12に示すように、第7実施形態における検出チップ60は、光透過性部材62を有する。光透過性部材62では、第1実施形態における光透過性部材2と異なり、側面に液体試料Aを導入する液体試料貯留溝64が形成される。
液体試料貯留溝64は、断面凹状の穿設溝として形成され、前記穿設溝を構成する面のうち、前記底面と最も近い位置で対向する面が検出面62aとされる。
このように本発明に係る前記目的物質検出装置及び前記目的物質検出方法は、「上面」、「底面」及び「側面」の相対的な位置関係を維持すれば、任意の方向に前記目的物質検出装置の姿勢を変化させて用いることができる。
なお、これ以外の構成及び効果については、第1実施形態に係る目的物質検出装置と同様であるため、説明を省略する。
【符号の説明】
【0070】
1,1’,10,20,30,40,40’,50,60 検出チップ
2,2’,12,22,32,42,42’,52,62 光透過性部材
2a,2a’,12a,22a,32a,42a,42a’,52a,62a 検出面
2b,2b’,12b,42b,42b’,62b 上向き傾斜面
2c,12c,22c,32c,42c,42c’,52c,62c 本体部
4,24 側壁部
14,34,44,54,64 液体試料貯留溝
15,45,45’ 上面側切欠き部
45a,45a’,56a 低屈折材料
46,56 底面側切欠き部
22b,32b,46a,52b 下向き傾斜面
A 液体試料
B 光照射部
C 磁場印加部
D 光検出部
W 距離
X 長さ方向
Y 厚み方向
θ1,θ2,α,β 角度