(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-30
(45)【発行日】2022-07-08
(54)【発明の名称】流体流から酸性ガスを除去する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20220701BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
(21)【出願番号】P 2019543348
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2018053235
(87)【国際公開番号】W WO2018146233
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-01
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】518377090
【氏名又は名称】エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Research & Engineering Company
【住所又は居所原語表記】1545 Route 22 East,Annandale,NJ 08801,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス イングラム
(72)【発明者】
【氏名】マーティン エアンスト
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルト フォアベルク
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー パンチェンコ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア エーバート
(72)【発明者】
【氏名】トマス ウェズリー ホルコーム
(72)【発明者】
【氏名】マイケル シスキン
(72)【発明者】
【氏名】カーラ ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ゲオアク ズィーダー
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00299090(EP,A1)
【文献】特開2015-163381(JP,A)
【文献】特表2015-524350(JP,A)
【文献】特表2015-527189(JP,A)
【文献】特開平02-022253(JP,A)
【文献】特表2008-514455(JP,A)
【文献】米国特許第04051144(US,A)
【文献】特表2015-517897(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106008235(CN,A)
【文献】特開2016-169306(JP,A)
【文献】特開2012-143760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18
B01D 53/34-53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
C10L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流から
二酸化炭素及び/又は硫化水素を除去するための方法であって、流体流を、吸収剤と接触させて、処理された流体流および負荷された吸収剤を得て、吸収剤は、少なくとも1種の希釈剤および一般式(I)
【化1】
[式中、R
1は、
メチルであり、R
2は、
メチルであり、R
3は、水素
またはメチルであり、かつR
4は、水素
またはメチルである]の化合物を含
み、
前記希釈剤が水を含み、
前記吸収剤が、前記吸収剤の総重量を基準として、10重量%~70重量%の一般式(I)の化合物を含む、方法。
【請求項2】
R
3が、
メチルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(I)の化合物が、3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール、1-(tert-ブチルアミノ)-3-メトキシ-プロパン-2-オール、
および3-(イソプロピルアミノ)プロパン-1,2-ジオー
ルから選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記吸収剤が、追加的に酸を含む、請求項
1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記希釈剤が、非水性有機溶媒を含む、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、C
4~10アルコール、ケトン、エステル、ラクトン、アミド、ラクタム、スルホン、スルホキシド、グリコール、ポリアルキレングリコール、ジまたはモノ(C
1~4-アルキルエーテル)グリコール、ジまたはモノ(C
1~4-アルキルエーテル)ポリアルキレングリコール、環状尿素、チオアルカノールおよびそれらの混合物から選択される、請求項
5記載の方法。
【請求項7】
前記吸収剤が、立体障害のない第一級アミンおよび/または立体障害のない第二級アミンから選択される少なくとも1種の活性剤を含む、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記活性剤が、ピペラジンである、請求項
7記載の方法。
【請求項9】
二酸化炭素および硫化水素を含む流体流から硫化水素を選択的に除去するための、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記負荷された吸収剤が、不活性流体による加熱、減圧、およびストリッピングのうち少なくとも1つの手段により再生される、請求項1から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
流体流から
二酸化炭素及び/又は硫化水素を除去するための、請求項1から
8までのいずれかに規定された吸収剤の使用。
【請求項12】
二酸化炭素および硫化水素を含む流体流から硫化水素を選択的に除去するための、請求項1から
6までのいずれかに規定された吸収剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、吸収剤の使用および流体流から酸性ガスを除去する方法に関する。特定の実施形態では、本発明は、二酸化炭素および硫化水素を含む流体流からの硫化水素の選択的除去に関する。
【0002】
酸性ガス、例えば、CO2、H2S、SO2、CS2、HCN、COSまたはメルカプタンを、天然ガス、精製ガスまたは合成ガスなどの流体流から除去することは、さまざまな理由で望ましい。天然ガス中の硫黄化合物は、特に天然ガスに頻繁に同伴される水と一緒に腐食性の酸を形成しやすい。パイプラインでの天然ガスの輸送または天然ガス液化プラント(LNG=液化天然ガス)でのさらなる処理のために、硫黄含有不純物の制限を遵守しなければならない。さらに、多くの硫黄化合物は、低濃度でも悪臭および毒性があり、環境仕様を満たさなければならない。
【0003】
高濃度のCO2がガスの発熱量を減らすので、二酸化炭素は、天然ガスから除去されなければならない。さらに、CO2は、水分と一緒になって、パイプやバルブを腐食させ得る。
【0004】
酸性ガスを除去するための既知のプロセスには、無機または有機塩基の吸収剤水溶液によるスクラブ操作が含まれる。酸性ガスが吸収剤に溶解する場合、イオンが塩基とともに形成される。吸収剤は、低圧への減圧および/またはストリッピングによって再生することができ、これにより、イオン種が逆反応し、酸性ガスが、蒸気によって放出および/またはストリッピングされる。再生処理後、吸収剤は、再利用され得る。
【0005】
CO2およびH2Sが実質的に除去されるプロセスは、「全吸収」と呼ばれる。腐食の問題を回避し、必要な発熱量を消費者に提供するためにCO2の除去が必要とされ得るが、CO2の除去を最小限にしながら混合物からH2Sを選択的に除去するように、CO2およびH2Sの双方を含む酸性ガス混合物を処理することが必要または望ましい場合がある。天然ガスパイプラインの仕様、例えば、H2Sは、CO2よりも毒性および腐食性が強いので、CO2よりも厳しい制限がH2Sレベルに設定されている:運送業者の天然ガスパイプラインの仕様では、通常、H2Sの含有量は、4ppmvに制限されており、CO2は、2体積%でより緩やかに制限されている。下流のクラウスプラントなどの、硫黄回収のためにフィードのH2Sレベルを高めるために、選択的なH2Sの除去が望ましいことが多い。
【0006】
2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エタノール(TBAEE)などの重度に立体障害のある第二級アミン、およびメチルジエタノールアミン(MDEA)などの第三級アミンは、CO2よりもH2Sの速度論的選択性を示す。したがって、このようなアミンは、CO2およびH2Sを含むガス混合物からH2Sを選択的に除去するのに適しており、概して水性混合物として利用される。これらのアミンは、CO2と直接反応せず、その代わり、CO2は、アミンおよび水と遅い反応で反応して重炭酸塩を生成する。反応速度論により、H2Sは吸収剤のアミン基とより迅速に反応し、水溶液中で水硫化塩を形成する。
【0007】
広く使用されている水性溶媒系での吸収剤/酸性ガス反応生成物の溶解性は、ヒドロキシル基の存在により改善されやすく、溶媒の循環は、従来の吸収塔/再生塔ユニットを介して促進されるので、上記のようなヒドロキシル置換アミン(アルカノールアミン)の使用は一般的になった。しかしながら、この選好性は、特定の状況で独自の問題を引き起こし得る。現在のビジネスの推進力は、隔離前に酸性ガスを再生し、かつ再圧縮するコストを削減することである。天然ガスシステムの場合、酸性ガスの分離は、約4,800~15,000kPaa、より典型的には約7,250~8,250kPaaの圧力で発生し得る。アルカノールアミンは、これらの圧力で酸性ガスを効果的に除去するが、H2S除去の選択性は、液体溶媒中のCO2の直接的な物理吸着およびアミン化合物のヒドロキシル基との反応の双方によって著しく低下すると予想され得る。CO2は、アミノ窒素と優先的に反応するが、圧力が高いと酸素と反応し、高圧力下では、ヒドロキシル部位での反応により形成される重炭酸塩/ヘミ炭酸塩/炭酸塩の反応生成物が、安定化され、圧力の増加に伴い、H2Sの選択性が、次第に低下する。
【0008】
ヒドロキシル基の存在は、アミンの水溶性を改善するが、ヒドロキシル基は、吸収剤/酸性ガス反応生成物に界面活性剤特性を付与する傾向があり、それによりガス処理ユニットの操作中に厄介な発泡現象を引き起こす可能性がある。また、2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エタノール(TBAEE)などのアルカノールアミンは、顕著な揮発性に悩まされ、ガス処理ユニットの操作中に吸収剤の損失を引き起こし得る。
【0009】
国際公開第2014/001664号(WO 2014/001664 A1)には、流体流から酸性ガスを除去する際の4-(アミノエチル)モルホリン誘導体の使用について記載されている。CO2およびH2Sを含む流体流からの硫化水素の選択的除去についても記載されている。
【0010】
国際公開第2016/055258号(WO 2016/055258)には、流体流から酸性ガスを除去する際のグリセロールのジアミノ誘導体の使用について記載されている。CO2およびH2Sを含む流体流からの硫化水素の選択的除去についても記載されている。
【0011】
国際公開第2014/004020号(WO 2014/004020 A1)には、混合ガスから酸性ガスを除去するためのグリセロールのtert-アミノ誘導体を含むアルカノールアミン水溶液について記載されている。アルカノールアミン溶液は、混合ガスから硫化水素を除去および/または高い動作温度で酸性ガスを除去するのに効果的であると記載されている。
【0012】
本発明の課題は、流体流から酸性ガスを除去するのに適したさらなる方法を提供することである。この方法は、CO2およびH2Sが実質的に除去される全吸収用途、ならびに流体流から硫化水素を選択的に除去するのに役立つ。この方法で使用される吸収剤は、高いサイクル容量および低い揮発性を有している。
【0013】
この課題は、流体流から酸性ガスを除去するための吸収方法であって、流体流を、吸収剤と接触させて、処理された流体流および負荷された吸収剤を得て、吸収剤は、少なくとも1種の希釈剤および一般式(I)
【化1】
[式中、R
1は、C
1~C
3アルキルであり、R
2は、C
1~C
3アルキルであり、R
3は、水素およびC
1~C
3アルキルから選択され、かつR
4は、水素およびC
1~C
3アルキルから選択される]の化合物を含む、方法によって達成される。好ましくは、R
3は、C
1~C
3アルキルである。好ましくは、R
4は、水素、メチルまたはエチル、特に水素またはメチルである。
【0014】
一般式(I)の化合物には、ヒドロキシ基またはアルコキシ基に隣接するヒドロキシル基が組み込まれている。ヒドロキシル基は、水性溶媒系への吸収剤/酸性ガス反応生成物の溶解性を効果的に改善するが、一方のヒドロキシル基または(他方の)ヒドロキシル基上のアルコキシ基の電子吸引効果によって、CO2に対するヒドロキシル反応性が低下し、そうでなければ、特に高圧または高負荷でH2S選択性が失われ得ると考えられる。
【0015】
好ましい実施形態では、R1およびR2は、メチルであり、かつR3は、水素であるか;または、R1、R2およびR3は、メチルであるか;または、R1およびR2はメチルであり、かつR3はエチルである。特に好ましい実施形態では、R1、R2およびR3はメチルである。
【0016】
好ましい実施形態では、一般式(I)の化合物は、3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール(TBAPD)、1-(tert-ブチルアミノ)-3-メトキシ-プロパン-2-オール、3-(イソプロピルアミノ)プロパン-1,2-ジオール、および3-[(2-メチルブタン-2-イル)アミノ]プロパン-1,2-ジオールから選択される。特に好ましい実施形態では、一般式(I)の化合物は、3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール(TBAPD)である。
【0017】
一般式(I)の化合物は、第二級アミノ基を含む。第二級アミノ基の窒素原子には、少なくとも1つの第二級または第三級の炭素原子が直接隣接している。したがって、第二級アミノ基は、立体障害を受ける。
【0018】
一般式(I)の化合物は、市販されているか、またはさまざまな方法で調製され得る。1つの調製形態では、グリシドールが、tert-ブチルアミンなどの第一級アミンR1R2R3C-NH2と反応し得る。
【0019】
代替的に、グリセロールは、tert-ブチルアミンなどの第一級アミンR1R2R3C-NH2と反応し得る。反応は、水素の存在下、水素化/脱水素化触媒の存在下で、例えば、160~220℃で、銅含有水素化/脱水素化触媒の存在下で適切に行われる。
【0020】
吸収剤は、吸収剤の総重量を基準として、好ましくは10重量%~70重量%、より好ましくは15重量%~65重量%、最も好ましくは20重量%~60重量%の一般式(I)の化合物を含む。
【0021】
一般式(I)の化合物は、希釈剤、好ましくは低コストの希釈剤で希釈される。希釈剤は、二酸化炭素およびH2Sなどのガスの他の成分のみを物理的に吸収するものであり得る。しかしながら、好ましくは、希釈剤は、プロセスの酸塩基化学物質と相互作用する。特に、希釈剤は、水性希釈剤である。立体障害のため、一般式(I)の化合物は、CO2分子への直接求核攻撃に対して十分な求核アミン部位を有していない。したがって、水の酸素は、ブレンステッド酸、H2CO3を形成する求核剤として作用し、これはブレンステッド塩基として作用する一般式(I)の化合物によって中和され、重炭酸アンモニウムを形成する。
【0022】
一実施形態では、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンおよび/または立体障害のない第二級アミンから選択される少なくとも1種の活性剤を含む。立体障害のない第一級アミンとは、第一級または第二級炭素原子のみが結合した第一級アミノ基を有する化合物を意味すると理解されている。立体障害のない第二級アミンとは、第一級炭素原子のみが結合した第二級アミノ基を有する化合物を意味すると理解されている。立体障害のない第一級アミンまたは立体障害のない第二級アミンは、CO2吸収の強力な活性剤として作用する。したがって、活性剤の存在は、酸性ガスの非選択的除去を目的とする用途、またはCO2の除去が特に重要な用途において望ましいことがある。
【0023】
活性剤は、好ましくは、特にホスホン酸、スルホン酸および/またはカルボン酸基などの酸性基を含まない。
【0024】
活性剤は、例えば、
アルカノールアミン、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、エチルアミノエタノール、1-アミノ-2-メチルプロパン-2-オール、2-アミノ-1-ブタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノールおよび2-(2-アミノエトキシ)エタンアミン、
ポリアミン、例えば、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,3-ジアミノプロパン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン(MAPA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、3(ジメチルアミノ)プロピルアミン(DMAPA)、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、N,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-エチレンジアミン、
環内に少なくとも1つのNH基を有し、環内に窒素および酸素から選択される1つまたは2つのさらなるヘテロ原子を含み得る、5員、6員または7員の飽和複素環、例えば、ピペラジン、2-メチルピペラジン、N-メチルピペラジン、N-エチルピペラジン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、ホモピペラジン、ピペリジンおよびモルホリンから選択される。
【0025】
特に好ましいのは、環内に少なくとも1つのNH基を有し、環内に窒素および酸素から選択される1つまたは2つのさらなるヘテロ原子を含み得る、5員、6員または7員の飽和複素環である。非常に特に、ピペラジンが好ましい。
【0026】
別の実施形態では、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンまたは立体障害のない第二級アミンを含まない。立体障害のない第一級アミンまたは立体障害のない第二級アミンは、CO2吸収の強力な活性剤として作用するので、それらが吸収剤に存在すると、吸収剤のH2S選択性が失われ得る。したがって、高いH2S選択性が望ましい用途では、このような化合物を本質的に含まない吸収剤が好ましい。
【0027】
一実施形態では、吸収剤は、一般式(I)の化合物以外の第三級アミンまたは重度の立体障害のある第一級アミンおよび/または重度の立体障害のある第二級アミンを含む。重度の立体障害とは、第一級または第二級の窒素原子に直接隣接する第三級の炭素原子を意味すると理解されている。この実施形態では、吸収剤は、一般式(I)の化合物以外の第三級アミンまたは重度に立体障害のあるアミンを、概して、吸収剤の総重量を基準として、5~50重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは、20重量%~40重量%の量で含む。
【0028】
適切な第三級アミンとしては、特に以下のものが挙げられる:
1.第三級アルカノールアミン、例えば、
ビス(2-ヒドロキシエチル)メチルアミン(メチルジエタノールアミン、MDEA)、トリス(2-ヒドロキシエチル)アミン(トリエタノールアミン、TEA)、トリブタノールアミン、2-ジエチルアミノエタノール(ジエチルエタノールアミン、DEEA)、2-ジメチルアミノエタノール(ジメチルエタノールアミン、DMEA)、3-ジメチルアミノ-1-プロパノール(N,N-ジメチルプロパノールアミン)、3-ジエチルアミノ-1-プロパノール、2-ジイソプロピルアミノエタノール(DIEA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)メチルアミン(メチルジイソプロパノールアミン、MDIPA);
2.第三級アミノエーテル、例えば、
3-メトキシプロピルジメチルアミン;
3.第三級ポリアミン、例えば、ビス第三級ジアミン、例えば、
N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチル-N’,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン(TMPDA)、N,N,N’,N’-テトラエチル-1,3-プロパンジアミン(TEPDA)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N-ジメチル-N’,N’-ジエチルエチレンジアミン(DMDEEDA)、1-ジメチルアミノ-2-ジメチルアミノエトキシエタン(ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]エーテル)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(TEDA)、テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
およびそれらの混合物。
【0029】
第三級アルカノールアミン、すなわち、窒素原子に結合した少なくとも1つのヒドロキシアルキル基を有するアミンが、概して好ましい。メチルジエタノールアミン(MDEA)が、特に好ましい。
【0030】
一般式(I)の化合物以外の適切な重度の立体障害アミン(すなわち、第一級または第二級窒素原子に直接隣接する第三級炭素原子を有するアミン)には、特に以下のものが含まれる:
1.重度の立体障害のある第二級アルカノールアミン、例えば、
2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エタノール(TBAEE)、2-(2-tert-ブチルアミノ)プロポキシエタノール、2-(2-tert-アミルアミノエトキシ)エタノール、2-(2-(1-メチル-1-エチルプロピルアミノ)エトキシ)エタノール、2-(tert-ブチルアミノ)エタノール、2-tert-ブチルアミノ-1-プロパノール、3-tert-ブチルアミノ-1-プロパノール、3-tert-ブチルアミノ-1-ブタノール、および3-アザ-2,2-ジメチルヘキサン-1,6-ジオール;
2.重度の立体障害のある第一級アルカノールアミン、例えば、
2-アミノ-2-メチルプロパノール(2-AMP);2-アミノ-2-エチルプロパノール;および2-アミノ-2-プロピルプロパノール;
3.重度の立体障害のあるアミノエーテル、例えば、
1,2-ビス(tert-ブチルアミノエトキシ)エタン、ビス(tert-ブチルアミノエチル)エーテル;
およびそれらの混合物。
【0031】
重度の立体障害のある第二級アルカノールアミンが、概して好ましい。2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エタノールおよび2-N-メチルアミノ-2-メチルプロパン-1-オールが、特に好ましい。
【0032】
一実施形態では、吸収剤は、水性吸収剤(希釈剤が、水を含むことを意味する)であり、吸収剤はさらに酸を含む。
【0033】
酸は、吸収剤を低負荷に再生し、プロセスの効率を高めるのに役立つ。プロトン化平衡は、酸と一般式(I)の化合物との間に形成される。平衡の位置は、温度に依存し、平衡状態は、より高い温度で、プロトン化エンタルピーの低い遊離オキソニウムイオンおよび/またはアミン塩に向かってシフトする。吸収工程に多い比較的低い温度では、pHが高いほど酸性ガスの吸収が促進されるが、脱着工程に多い比較的高い温度では、pHが低いほど吸収された酸性ガスの放出が促進される。
【0034】
酸は、好ましくは、大気圧下25℃で測定して、6未満、特に5未満のpKAを有する。複数の解離段階、したがって複数のpKAを有する酸の場合、pKA値の1つが指定範囲内にある場合、この要件が満たされる。酸は、プロトン酸(ブレンステッド酸)から適切に選択される。
【0035】
酸は、好ましくは、120℃で測定した水溶液のpHが、7.9から9.5未満、好ましくは8.0から8.8未満、より好ましくは8.0から8.5未満、最も好ましくは8.0から8.2未満であるような量で添加される。
【0036】
一実施形態では、酸の量は、吸収剤の総重量を基準として、0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.5重量%、より好ましくは0.5~4.0重量%、最も好ましくは1.0~2.5重量%である。
【0037】
酸は、有機酸および無機酸から選択される。適切な有機酸には、例えば、ホスホン酸、スルホン酸、カルボン酸、アミノ酸が含まれる。特定の実施形態では、酸は、多塩基酸である。
【0038】
適切な酸は、例えば、
鉱酸、例えば、塩酸、硫酸、アミド硫酸、リン酸、リン酸の部分エステル、例えば、リン酸モノアルキルおよびリン酸ジアルキルおよびリン酸モノアリールおよびリン酸ジアリール、例えば、リン酸トリデシル、リン酸ジブチル、リン酸ジフェニルおよびリン酸ビス(2-エチルヘキシル);ホウ酸;
カルボン酸、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバリン酸、カプロン酸、n-ヘプタン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプロン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸;飽和脂肪族ポリカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸;
脂環式モノおよびポリカルボン酸、例えば、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、樹脂酸、ナフテン酸;脂肪族ヒドロキシカルボン酸、例えば、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸;ハロゲン化脂肪族カルボン酸、例えば、トリクロロ酢酸または2-クロロプロピオン酸;芳香族モノおよびポリカルボン酸、例えば、安息香酸、サリチル酸、没食子酸、位置異性体のトルイル酸、メトキシ安息香酸、クロロ安息香酸、ニトロ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸;技術的カルボン酸混合物、例えば、バーサチック酸;
スルホン酸、例えば、メチルスルホン酸、ブチルスルホン酸、3-ヒドロキシプロピルスルホン酸、スルホ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-キシレンスルホン酸、4-ドデシルベンゼンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸およびジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメチル-またはノナフルオロ-n-ブチルスルホン酸、カンファースルホン酸、2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)-エタンスルホン酸(HEPES);
有機ホスホン酸、例えば、式(IV)
R4-PO3H (IV)
[式中、R4は、カルボキシル、カルボキサミド、ヒドロキシル、およびアミノから独立して選択される4個までの置換基で任意に置換されたC1~18アルキルである]のホスホン酸。
【0039】
これらには、アルキルホスホン酸、例えば、メチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチルブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸;ヒドロキシアルキルホスホン酸、例えば、ヒドロキシメチルホスホン酸、1-ヒドロキシ-エチルホスホン酸、2-ヒドロキシエチルホスホン酸;アリールホスホン酸、例えば、フェニルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、アミノ-アルキルホスホン酸、例えば、アミノ-メチルホスホン酸、1-アミノエチルホスホン酸、1-ジメチルアミノエチルホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、2-(N-メチルアミノ)エチルホスホン酸、3-アミノプロピルホスホン酸、2-アミノプロピルホスホン酸、1-アミノプロピルホスホン酸、1-アミノプロピル-2-クロロプロピルホスホン酸、2-アミノブチルホスホン酸、3-アミノブチルホスホン酸、1-アミノブチルホスホン酸、4-アミノブチルホスホン酸、2-アミノ-ペンチルホスホン酸、5-アミノペンチルホスホン酸、2-アミノヘキシルホスホン酸、5-アミノヘキシルホスホン酸、2-アミノオクチルホスホン酸、1-アミノオクチルホスホン酸、1-アミノブチルホスホン酸;アミドアルキルホスホン酸、例えば、3-ヒドロキシメチルアミノ-3-オキソプロピルホスホン酸;およびホスホノカルボン酸、例えば、2-ヒドロキシホスホノ酢酸および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸;
式(V)
【化2】
[式中、R
5は、HまたはC
1~6-アルキルであり、Qは、H、OHまたはNR
6
2であり、かつR
6は、HまたはCH
2PO
3H
2、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸である]
のホスホン酸(V);
式(VI)
【化3】
[式中、Zは、C
2~6-アルキレン、シクロアルカンジイル、フェニレン、またはシクロアルカンジイルもしくはフェニレンによって中断されたC
2~6-アルキレンであり、Yは、CH
2PO
3H
2であり、かつmは、0~4である]のホスホン酸、例えば、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびビス(ヘキサメチレン)トリアミンペンタ(メチレンホスホン酸);
式(VII)
R
7-NY
2 (VII)
[式中、R
7は、C
1~6-アルキル、C
2~6-ヒドロキシアルキルまたはR
8であり、かつR
8は、CH
2PO
3H
2である]のホスホン酸、例えば、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)および2-ヒドロキシエチルイミノビス(メチレンホスホン酸);
第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級もしくは第三級炭素原子を有するアミノ基を有するアミノカルボン酸、例えば、
第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級もしくは第三級炭素原子を有するアミノ基を有するα-アミノ酸、例えば、N,N-ジメチルグリシン(ジメチルアミノ酢酸)、N,N-ジエチルグリシン、アラニン(2-アミノプロピオン酸)、N-メチルアラニン(2-(メチルアミノ)プロピオン酸)、N,N-ジメチルアラニン、N-エチルアラニン、2-メチルアラニン(2-アミノイソ酪酸)、ロイシン(2-アミノ-4-メチルペンタン-1-酸)、N-メチルロイシン、N,N-ジメチルロイシン、イソロイシン(1-アミノ-2-メチルペンタン酸)、N-メチルイソロイシン、N,N-ジメチルイソロイシン、バリン(2-アミノイソ吉草酸)、α-メチルバリン(2-アミノ-2-メチルイソ吉草酸)、N-メチルバリン(2-メチルアミノイソ吉草酸)、N,N-ジメチルバリン、プロリン(ピロリジン-2-カルボン酸)、N-メチルプロリン、N-メチルセリン、N,N-ジメチルセリン、2-(メチルアミノ)イソ酪酸、ピペリジン-2-カルボン酸、N-メチルピペリジン-2-カルボン酸、
第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級または第三級炭素原子を有するアミノ基を有するβ-アミノ酸、例えば、3-ジメチルアミノプロピオン酸、N-メチルイミノジプロピオン酸、N-メチルピペリジン-3-カルボン酸、
第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級もしくは第三級炭素原子を有するアミノ基を有するγ-アミノ酸、例えば、4-ジメチルアミノ酪酸、
あるいは第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級もしくは第三級炭素原子を有するアミノ基を有するアミノカルボン酸、例えば、N-メチルピペリジン-4-カルボン酸。
【0040】
無機酸の中では、リン酸および硫酸、特に、硫酸が好ましい。
【0041】
カルボン酸の中では、ギ酸、酢酸、安息香酸、コハク酸およびアジピン酸が好ましい。
【0042】
スルホン酸の中では、メタンスルホン酸、pトルエンスルホン酸、および2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES)が好ましい。
【0043】
ホスホン酸の中では、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ-(メチレンホスホン酸)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(HDTMP)およびニトリロトリス(メチレンホスホン酸)が好ましく、その中でも1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸が特に好ましい。
【0044】
第三級アミノ基またはアミノ基に直接隣接する少なくとも1つの第二級もしくは第三級炭素原子を有するアミノ基を有するアミノカルボン酸の中では、N,N-ジメチルグリシンおよびN-メチルアラニンが好ましい。
【0045】
より好ましくは、酸は、無機酸である。
【0046】
一実施形態では、吸収剤の希釈剤は、少なくとも1種の非水性有機溶媒を含む。特定の場合、希釈剤は、非水性有機溶媒に加えて、限られた量の水のみを含むか、または本質的に水を含まない。吸収剤の含水量を、例えば最大20重量%、あるいは最大10重量%、好ましくは最大5重量%、または最大2重量%に制限することが望ましい場合がある。
【0047】
非水性有機溶媒は、好ましくは、以下のものから選択される:
C4~C10アルコール、例えば、n-ブタノール、n-ペンタノールおよびn-ヘキサノール;
ケトン、例えば、シクロヘキサノン;
エステル、例えば、酢酸エチルおよび酢酸ブチル;
ラクトン、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン;
アミド、例えば、第三級カルボキサミド、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド;またはN-ホルミルモルホリンおよびN-アセチルモルホリン;
ラクタム、例えば、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタムおよびε-カプロラクタム、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP);
スルホン、例えば、スルホラン;
スルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO);
グリコール、例えば、エチレングリコール(EG)およびプロピレングリコール;
ポリアルキレングリコール、例えば、ジエチレングリコール(DEG)およびトリエチレングリコール(TEG);
ジまたはモノ(C1~4-アルキルエーテル)グリコール、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル;
ジ-またはモノ(C1~4-アルキルエーテル)ポリアルキレングリコール、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリエチレングリコールジメチルエーテル;
環状尿素、例えば、N,N-ジメチルイミダゾリジン-2-オンおよびジメチルプロピレン尿素(DMPU);
チオアルカノール、例えば、エチレンジチオエタノール、チオジエチレングリコール(チオジグリコール、TDG)およびメチルチオエタノール;
ならびにそれらの混合物。
【0048】
より好ましくは、非水性溶媒は、スルホン、グリコール、およびポリアルキレングリコールから選択される。最も好ましくは、非水性溶媒は、スルホンから選択される。好ましい非水性溶媒は、スルホランである。
【0049】
吸収剤は、添加剤、例えば、腐食防止剤、酵素、消泡剤等も含み得る。概して、かかる添加剤の量は、吸収剤の総重量を基準として、約0.005%~3%の範囲である。
【0050】
本発明はまた、流体流から酸性ガスを除去するための本明細書に記載の吸収剤の使用に関する。
【0051】
一実施形態では、本発明は、流体流から酸性ガスを非選択的に除去するための本明細書に記載の吸収剤の使用に関する。この場合、上記のように、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンおよび/または立体障害のない第二級アミンから選択される少なくとも1種の活性剤を含むことが好ましい。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、二酸化炭素および硫化水素を含む流体流から硫化水素を選択的に除去するための、本明細書に記載の吸収剤の使用に関する。この場合、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンまたは立体障害のない第二級アミンを含まないことが好ましい。
【0053】
一実施形態では、プロセスは、流体流から酸性ガスを非選択的に除去するプロセスである。この場合、上記のように、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンおよび/または立体障害のない第二級アミンから選択される少なくとも1種の活性剤を含むことが好ましい。
【0054】
別の実施形態では、プロセスは、二酸化炭素および硫化水素を含む流体流から硫化水素を選択的に除去するプロセスである。この場合、吸収剤は、立体障害のない第一級アミンまたは立体障害のない第二級アミンを含まないことが好ましい。
【0055】
本発明の文脈では、「硫化水素の選択性」は、次の商の値を意味すると理解される:
【数1】
ここで、
【数2】
は、気相と接触している液相のH
2S/CO
2モル比であり、かつ
【数3】
は、気相のH
2S/CO
2モル比である。標準的なガス洗浄プロセスでは、液相は、吸収器の底部の負荷された吸収剤であり、気相は、処理される流体流である。
【0056】
上記の商の値が1より大きい場合、プロセスは、H2S選択的であると理解される。プロセスが、二酸化炭素と硫化水素とを含む流体流から硫化水素を選択的に除去するプロセスである場合、硫化水素の選択性は、好ましくは、少なくとも1.1、さらにより好ましくは少なくとも2、最も好ましくは少なくとも4である。
【0057】
本明細書に記載されている吸収剤は、あらゆる種類の液体の処理に適している。流体は、第一に、天然ガス、合成ガス、コークス炉ガス、分解ガス、石炭ガス化ガス、サイクルガス、埋立ガスおよび燃焼ガスなどのガスであり、第二に、LPG(液化石油ガス)またはNGL(天然ガス液体)などの吸収剤と本質的に不混和性の液体である。本発明のプロセスは、炭化水素系流体流の処理に特に適している。存在する炭化水素は、例えば、脂肪族炭化水素、例えば、C1~C4炭化水素、例えば、メタン、不飽和炭化水素、例えば、エチレンまたはプロピレン、芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエンまたはキシレンである。
【0058】
本発明の吸収剤は、酸性ガス、例えば、CO2、H2S、SO3、SO2、CS2、HCN、COSおよびメルカプタンの除去に適している。他の酸性ガスが、流体流、例えば、COSおよびメルカプタン中に存在することも可能である。
【0059】
吸収剤は、二酸化炭素および硫化水素を含む流体流から硫化水素を選択的に除去するのに適しており、低い溶媒循環速度で選択的に高H2Sを浄化することができる。吸収剤は、硫黄プラントのテールガス処理ユニット(TGTU)の用途の、酸性ガス濃縮(AGE)プロセスにおいて、処理ユニットからの希薄な酸オフガスを、高品質のクラウスプラント供給ガスにアップグレードするのに有用であるか、または関連するガスおよび製油所ガスの処理に有用である。
【0060】
本発明のプロセスでは、流体流は、吸収器での吸収工程で吸収剤と接触し、その結果、二酸化炭素および硫化水素が、少なくとも部分的に除去される。これにより、CO2およびH2Sが除去された流体流、ならびにCO2およびH2Sが負荷された吸収剤が得られる。
【0061】
使用される吸収器は、通常のガス洗浄プロセスで使用される洗浄装置である。適切な洗浄装置は、例えば、ランダムパッキング、構造化パッキングを有し、かつトレイを有するカラム、膜接触器、ラジアルフロースクラバー、ジェットスクラバー、ベンチュリスクラバーおよび回転スプレースクラバーであり、好ましくは、構造化パッキングを有し、ランダムパッキングを有し、かつトレイを有するカラムであり、より好ましくは、トレイを有し、かつランダムパッキングを有するカラムである。流体流は、好ましくは向流のカラムにおいて吸収剤で処理される。流体は、概して、カラムの下部領域に供給され、吸収剤は、カラムの上部領域に供給される。カラムに取り付けられたトレイは、液体が流れる、ふるいトレイ、バブルキャップトレイまたはバルブトレイである。ランダムパッキングを有するカラムは、異なる形状の物体を充填することができる。熱および物質の移動は、通常、約25~80mmのサイズの成形体によって引き起こされる表面積の増加により改善される。公知の例は、ラシヒリング(中空シリンダー)、ポールリング、ハイフローリング、インタロックスサドル等である。ランダムパッキングは、順番にカラムに導入され得るか、またはランダムに(床として)導入され得る。使用可能な材料には、ガラス、セラミック、金属およびプラスチックが含まれる。構造化パッキングは、順序付けられたランダムパッキングのさらなる発展である。それらは規則正しい構造を有する。その結果、パッキングの場合、ガス流の圧力低下を減らすことが可能である。構造化パッキング、例えば、織物パッキングまたは板金パッキングにはさまざまなデザインがある。使用される材料は、金属、プラスチック、ガラスおよびセラミックであり得る。
【0062】
吸収工程における吸収剤の温度は、概して約30~100℃であり、カラムが使用される場合、例えば、カラムの上部で30~70℃、カラムの下部で50~100℃である。
【0063】
本発明のプロセスは、1つ以上、特に2つの連続吸収工程を含み得る。吸収は、複数の連続する構成要素工程で実行することができ、この場合、酸性ガス成分を含む粗ガスは、各構成要素工程で吸収剤の副流と接触する。粗ガスが接触する吸収剤は、すでに酸性ガスで部分的に負荷されていてもよく、このことは、この吸収剤が、例えば、下流の吸収工程から最初の吸収工程にリサイクルされた吸収剤、または部分的に再生された吸収剤であり得ることを意味する。2段階吸収の性能に関しては、刊行物の欧州特許第0159495号明細書(EP 0 159 495)、欧州特許第0190434号明細書(EP 0 190 434)、欧州特許第0359991号明細書(EP 0 359 991)および国際公開第00100271号(WO 00100271)を参照されたい。
【0064】
当業者は、吸収工程の条件、例えば、より具体的には、吸収剤/流体流の比、吸収器のカラム高さ、吸収器内の接触促進内部構造のタイプ、例えば、ランダムパッキング、トレイもしくは構造化パッキングおよび/または再生された吸収剤の残留負荷を変えることにより、規定の選択性で高レベルの硫化水素除去を達成することができる。
【0065】
CO2は、H2Sよりもゆっくりと吸収されるので、より多くのCO2は、短い滞留時間よりも長い滞留時間で吸収される。逆に、滞留時間が長いと、H2Sの選択性が低下する。したがって、カラムが高くなると、選択的吸収が低下する。同様に、比較的高い液体ホールドアップを有するトレイまたは構造化パッキングも、選択的吸収の低下につながる。再生時に導入された加熱エネルギーは、再生された吸収剤の残留負荷を調整するために使用され得る。再生された吸収剤の残留負荷が低くなると、吸収性が向上する。
【0066】
プロセスは、好ましくは、CO2およびH2Sが負荷された吸収剤を再生する再生工程を含む。再生工程では、CO2およびH2S、ならびに任意にさらなる酸性ガス成分が、CO2およびH2Sが負荷された吸収剤から放出されて、再生された吸収剤が得られる。好ましくは、再生された吸収剤は、続いて吸収工程にリサイクルされる。概して、再生工程は、不活性流体による加熱、減圧、およびストリッピングのうち少なくとも1つの手段を含む。
【0067】
再生工程は、好ましくは、酸性ガス成分が負荷された吸収剤を、例えば、ボイラー、自然循環蒸発器、強制循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器によって加熱することを含む。吸収された酸性ガスは、溶液を加熱することで得られた蒸気によってストリッピングされる。蒸気ではなく、窒素などの不活性流体を使用することも可能である。脱着装置内の絶対圧力は、通常、0.1~3.5バール、好ましくは、1.0~2.5バールである。温度は、通常、50℃~170℃、好ましくは80℃~130℃であり、温度は、当然ながら、圧力に依存する。場合により、再生された吸収溶媒のスリップストリームの追加の再生工程が必要である。SOx、NOx、およびCOが流体流に存在する場合、硫酸塩、硝酸塩、ギ酸塩などの熱安定性塩が形成され得る。これらの望ましくない成分の濃度を下げるために、さらなる蒸留工程が高温で適用され得るか、または代替的に、熱安定性塩が、イオン交換プロセスにより除去され得る。
【0068】
再生工程は、代替的にまたは追加的に減圧を含み得る。これには、吸収工程の伝導に存在する高圧から低圧への負荷された吸収剤の少なくとも1回の減圧が含まれる。減圧は、例えば、スロットルバルブおよび/または減圧タービンによって実現され得る。減圧段階での再生は、例えば、刊行物の米国特許第4,537,753号明細書(US 4,537,753)および米国特許第4,553,984号明細書(US 4,553,984)に記載されている。
【0069】
酸性ガス成分は、再生工程において、例えば、減圧カラム、例えば、垂直にまたは水平に設置されたフラッシュ容器、または内部構造を有する向流カラムで放出され得る。
【0070】
再生カラムは、同様に、ランダムパッキングを有し、構造化パッキングを有する、またはトレイを有するカラムであり得る。再生カラムは、下部に、ヒーター、例えば、循環ポンプを有する強制循環蒸発器を有する。上部には、再生カラムは、放出される酸性ガス用の出口を有する。同伴された吸収媒体蒸気は、コンデンサーで凝縮され、カラムに再循環される。
【0071】
再生が異なる圧力で行われる、複数の減圧カラムを直列に接続することが可能である。例えば、再生は、吸収工程において、酸性ガス成分の分圧よりも典型的には約1.5バール高い圧力の予備減圧カラム、および低圧、例えば1~2バールの絶対圧力の主減圧カラムで行われ得る。2つ以上の減圧段階での再生は、刊行物の米国特許第4,537,753号明細書(US 4,537,753)、米国特許第4,553,984号明細書(US 4,553,984)、欧州特許第0159495号明細書(EP 0 159 495)、欧州特許第0202600号明細書(EP 0 202 600)、欧州特許第0190434号明細書(EP 0 190 434)および欧州特許第0121109号明細書(EP 0 121 109)に記載されている。
【0072】
本発明は、添付の図面および以下の例によって詳細に説明されている。
【0073】
図1によれば、入口Zを介して、硫化水素および二酸化炭素を含む適切に前処理されたガスが、向流で、吸収器A1で、吸収剤ライン1.01を介して供給される再生された吸収剤と接触する。吸収剤は、吸収により、硫化水素および二酸化炭素をガスから除去し;これにより、オフガスライン1.02を介して硫化水素および二酸化炭素が除去されたクリーンガスが得られる。
【0074】
吸収剤ライン1.03と、CO2およびH2Sが負荷された吸収剤が、吸収剤ライン1.05を通して伝導される再生された吸収剤からの熱で加熱される熱交換器1.04と、吸収剤ライン1.06とを介して、CO2およびH2Sが負荷された吸収剤が、脱着カラムDに供給されて、再生される。
【0075】
吸収器A1と熱交換器1.04との間に、CO
2およびH
2Sが負荷された吸収剤が、例えば、3~15バールに減圧される、1つ以上のフラッシュ容器が準備されてもよい(
図1に示さず)。
【0076】
脱着塔Dの下部から、吸収剤は、ボイラー1.07に導かれ、そこで加熱される。発生した蒸気は、脱着塔Dにリサイクルされるが、再生された吸収剤は、吸収剤ライン1.05と、再生された吸収剤がCO2およびH2Sが負荷された吸収剤を加熱すると同時にそれ自体は冷却する熱交換器1.04と、吸収剤ライン1.08と、冷却器1.09と、吸収剤ライン1.01とを介して吸収器A1にフィードバックされる。図示したボイラーの代わりに、自然循環蒸発器、強制循環蒸発器または強制循環フラッシュ蒸発器などの他のタイプの熱交換器をエネルギー導入に使用することも可能である。これらの蒸発器タイプの場合、再生された吸収剤と蒸気との混合相流は、脱着カラムDの底部に戻され、そこで蒸気と吸収剤との間の相分離が起こる。熱交換器1.04への再生された吸収剤は、脱着塔Dの底部からの循環流から蒸発器へ引き出されるか、または脱着塔Dの底部から直接別のラインを介して熱交換器1.04へ導かれる。
【0077】
脱着塔Dで放出されたCO2およびH2S含有ガスは、オフガスライン1.10を介して脱着塔Dから排出される。このCO2およびH2S含有ガスは、完全な相分離が行われる凝縮器1.11に導かれ、そこで同伴された吸収剤の蒸気から分離される。このプラントおよび本発明の方法の実施に適した他のすべてのプラントでは、凝縮および相分離は、互いに別々に存在してもよい。続いて、凝縮液は、吸収剤ライン1.12を通って脱着カラムDの上部領域に導かれ、CO2およびH2S含有ガスは、ガスライン1.13を介して排出される。
【0078】
図4では、次の参照記号が使用される:A=CO
2貯蔵容器、B=ツイン撹拌式セル、C=温度調節器、D=計量バルブ、E=圧力計。
図4によれば、試験される吸収剤の液相は、ツイン撹拌式セルBの下部に存在し、かつ相境界を介してその上の気相と接触している。液相および気相は、それぞれ撹拌機で混合され得る。ツイン撹拌式セルBは、計量バルブDを介してCO
2貯蔵容器Aに接続されている。ツイン撹拌式セルBに存在する圧力は、圧力計Eで測定され得る。測定では、二酸化炭素の体積流量が記録され、体積流量は、ツイン撹拌式セルBに一定の圧力が存在するように調整される。
【0079】
実施例の説明では、以下の略語を使用した:
DMAPD:3-(ジメチルアミノ)-1,2-プロパンジオール
M3ETB:(2-(2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エトキシ)エチル)メチルエーテル
MDEA:メチルジエタノールアミン
TBA:tert-ブチルアミン
TBAEE:2-(2-tert-ブチルアミノエトキシ)エタノール
TBAPD:3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】
図1は、本発明のプロセスを実行するのに適したプラントの概略図である。
【
図2】
図2は、メチルジエタノールアミン(MDEA、26重量%)の水溶液および3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール(TBAPD、32重量%)の水溶液の酸性ガス負荷の関数としてのCO
2に対するH
2Sの選択性のプロットである。
【
図3】
図3は、メチルジエタノールアミン(MDEA、26重量%)の水溶液および3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール(TBAPD、32重量%)の水溶液の酸性ガス負荷の時間に対するプロットである。
【
図4】
図4は、吸収剤の相対CO
2吸収率を決定するために使用されるツイン撹拌式セル配置の概略図である。
【0081】
実施例1:3-(tert-ブチルアミノ)プロパン-1,2-ジオール(TBAPD)の調製
トルエンで変性した無水エタノール1,000mLを、オーバーヘッドスターラーを備えた4Lの丸底フラスコに充填した。フラスコを、氷浴に入れた。438g(6.0モル)のtert-ブチルアミン(TBA)を加え、エタノールと完全に混合した。溶液を1℃に冷却した後、222gのグリシドール(3.0モル)を、滴下漏斗を使用して60分間連続して添加した。フラスコ内の温度を、1~3℃に保った。添加完了後、氷浴を外し、内容物を、激しく攪拌しながら室温まで温めた。反応時間3時間後、サンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応混合物を、室温でさらに20時間、次に47℃で6時間撹拌した。この時間の後、転化が完了した。過剰のTBAを、真空下で除去し、粗生成物を、10cm蒸留カラムおよびクライゼンブリッジ(0.7ミリバール、93~95℃のヘッド温度)で蒸留して精製した。TBAPDの収量は、302g(68.4%)であり、GCによる純度は、99.8%であった。
【0082】
ガスクロマトグラフィーを、AgilentのカラムタイプDB1、長さ30m、直径0.25mm、層厚1μmで行った。温度プログラムは、60℃で8分、280℃まで10℃/分、および280℃で35分であった。
【0083】
実施例2:MDEAおよびTBAPDの吸収特性の比較
実験を、ガスを上向きモードで供給できる撹拌式オートクレーブおよびコンデンサーを含む吸収ユニット(セミバッチシステム)で行った。オートクレーブには、圧力計およびJ型熱電対が装備されていた。安全破壊ディスクを、オートクレーブヘッドに取り付けた。高ワット数のセラミックファイバーヒーターを使用して、熱をオートクレーブに供給した。ガス流を、マスフローコントローラー(Brooks Instrument製)によって調整し、コンデンサーの温度を、チラーによって維持した。最高使用圧力および温度は、それぞれ、1000psi(69バール)および350℃であった。
【0084】
大気圧での運転中、溶液のpHを、オートクレーブの底部に設置されたpHプローブ(Cole-Parmer製)を使用してその場で監視した。このpHプローブは、最高温度および最高圧力が、それぞれ、135℃および100psiに制限されていた。したがって、大気圧を超える圧力(「高圧」)で実験を行う前に、pHプローブを取り外し、オートクレーブに蓋をした。双方の場合(大気圧および高圧)、バイアル(大気圧)または苛性アルカリで満たされたステンレススチールシリンダー(高圧)を、サンプリングシステムに直接取り付けて、液体サンプルを収集した。特別に設計されたLabVlEWプログラムを使用して、吸収ユニットの動作を制御し、温度、圧力、撹拌速度、pH(大気圧で)、ガス流量、およびオフガス濃度などの実験データを取得した。
【0085】
実施例で使用した混合ガスは、以下の特性を有していた:
ガス供給組成:10モル%のCO2、1モル%のH2S、89モル%のN2
ガス流量:154SCCM
温度:40.8℃
圧力:1バール
容量:15mL(τ=0.1分)
撹拌速度:200rpm。
【0086】
実施例2の実験は、上記のガス混合物をオートクレーブに流して実施した。
【0087】
オートクレーブには、以下に示すように、それぞれのアミン水溶液が予め充填されていた:
【表1】
【0088】
酸性ガス混合物を、反応器の底部に供給した。オートクレーブを出るガスは、10℃に保たれたコンデンサーを通過し、同伴された液体を除去した。コンデンサーを出るオフガスのスリップストリームを、分析のためにマイクロガス相クロマトグラフ(マイクロGC、Inficon製)に供給し、主ガス流は、スクラバーを通過した。突破に達した後、窒素を使用してシステムをパージした。
【0089】
オフガスのスリップストリームを、特注のマイクロGCを使用して分析した。マイクロGCは、精製ガス分析装置として構成され、かつAgilentによる4つのカラム(Mole Sieve、PLOT U、OV-1、PLOT Q)および4つの熱伝導率検出器を含んでいた。オフガスの一部を、約2分ごとにマイクロGCに注入した。小型の内部真空ポンプを使用して、サンプルをマイクロGCに移した。サンプルティーとマイクロGCとの間のラインフラッシュの10倍の体積を達成するために、公称ポンプ速度は、約20mL/分であった。GCに注入されるガスの実際の量は、約1μLであった。PLOT Uカラムを使用してH2SとCO2とを分離し、かつ識別し、マイクロTCDを使用してそれらを定量した。
【0090】
結果を、
図2および
図3に示す。本明細書で使用される「酸性ガス負荷」という用語は、アミン1モルあたりのガスのモルで表される吸収剤溶液に物理的に溶解しかつ化学的に結合されるH
2SおよびCO
2ガスの濃度を意味する。
【0091】
水性MDEAは、約0.15モルの負荷で約5.8の最大選択性を有する。H2SおよびCO2の負荷が高くなると、選択性が低下する。これと比較して、水性TBAPDは、約6.5の最大選択性を有し、最大選択性は、約0.30モルのより高い負荷にシフトする。
【0092】
経時的な水性MDEAの酸性ガス負荷は、約800分後にアミン1モルあたり約0.38モルのCO2の最大CO2負荷を示すが、H2S負荷は、約50分後にアミン1モルあたり最大約0.05モルのH2Sに上昇し、その後、約200分でアミン1モルあたり約0.04モルのH2Sにわずかに低下し、その後は本質的に安定したままである。おそらく、結合したH2Sは、より高い負荷/より長い滞留時間でCO2によって置き換えられる。水性TBAPDは、約800分後にアミン1モルあたり約0.55モルのCO2の最大CO2負荷を示すが、最終H2S負荷は、約400分でアミン1モルあたり約0.08モルのH2Sである。
【0093】
実施例3:MDEA、TBAEEおよびTBAPDのサイクル容量
負荷実験を行い、その後、ストリッピング実験を行った。
【0094】
5℃で作動するガラスコンデンサーを、温度調節ジャケット付きのガラスシリンダーに取り付けた。これにより、吸収剤の部分蒸発による試験結果のゆがみが防止された。ガラスシリンダーに最初に約100mLの負荷されていない吸収剤(水中30重量%のアミン)を装入した。吸収容量を測定するために、周囲圧力および40℃で、8L(標準の温度および圧力、STP)/hのCO2またはH2Sを、フリットを介して約4時間にわたり吸収液に通過させた。その後、CO2またはH2Sの負荷を、次のように測定した。
【0095】
H2Sの測定を、硝酸銀溶液による滴定によって行った。この目的のために、分析されるサンプルを、約2重量%の酢酸ナトリウムおよび約3重量%のアンモニアとともに水溶液に秤量した。その後、H2S含有量を、硝酸銀による電位差転換点滴定によって測定した。転換点で、H2Sは、Ag2Sとして完全に結合される。CO2含有量を、総無機炭素として測定した(島津製作所のTOC-Vシリーズ)。
【0096】
同じ装置のセットアップを80℃に加熱し、負荷された吸収剤を導入し、これをN2流(8L(STP)/h)によりストリッピングすることによって負荷された溶液をストリッピングした。60分後、サンプルを採取し、上記のように吸収剤のCO2またはH2Sの負荷を測定した。
【0097】
負荷実験の終了時の負荷とストリッピング実験の終了時の負荷との差により、それぞれのサイクル容量が得られる。
【0098】
【0099】
TBAPDが、MDEAおよびTBAEEよりも高いサイクルCO2容量、およびMDEAよりも高いH2S容量を示すことが明らかである。
【0100】
実施例4:揮発性
M3ETB、TBAPD、MDEAおよびTBAEEの30重量%水溶液での揮発性を調査した。
【0101】
ガラス凝縮器で得られた凝縮液をガラス凝縮器に戻さずに、分離し、その組成について、実験を終了した後に、ガスクロマトグラフィーおよびカールフィッシャー滴定により分析したことを除いて、実施例3と同じ装置を使用した。ガラスシリンダーを50℃に調整し、各場合に、200mLの吸収剤を導入した。8時間の実験期間にわたって、30L(STP)/hのN2を、周囲圧力で吸収剤を通過させた。
【0102】
実験を3回繰り返した。得られた平均値を、以下の表に示す:
【表3】
【0103】
TBAPDが、M3ETB、TBAEEおよびMDEAと比較して揮発性が低いことは明らかである。
【0104】
実施例5:pK
A値
TBAPDおよびMDEAのアミノ基のpKa値を、20℃での滴定によって測定した。アミン水溶液(0.005モル/L)を、塩酸(0.1モル/L)で滴定した。結果を、以下の表に示す:
【表4】
【0105】
TBAPDのpKA値が、MDEAのpKA値よりも大きいことは明らかである。吸収工程中に存在するような比較的低い温度(20℃など)での高いpKA値が、酸性ガスの効率的な吸収を促進すると考えられている。
【0106】
実施例6:ピペラジンを含むMDEA、TBAPDおよびDMAPDの水溶液の吸収特性の比較
図4によるツイン撹拌式セル(TSC)で、水性吸収剤の相対CO
2吸収率を測定した。
【0107】
ツイン撹拌式セルは、85mmの内径および509mLの容量を有していた。測定中、セルの温度を、50℃に保った。気相と液相を混合するために、
図4によるセルは、2つの撹拌機を含んでいた。測定開始前に、ツイン撹拌式セルを排気させた。規定量の脱気された吸収剤を、ツイン撹拌式セルに加え、温度を50℃に調整した。撹拌機は、負荷されていない吸収剤の加熱中にすでにスイッチが入っていた。液相と気相の間に平面相境界が形成されるように、撹拌速度を選択した。相界面での波の発達は、そうでなければ、規定の相界面がないので避けなければならない。所望の実験温度に達した後、二酸化炭素を、計量バルブによって反応器に導入した。CO
2分圧が実験全体で50ミリバールで一定になるように、体積流量を制御した。実験時間の増加に伴い、吸収剤が時間とともに飽和し、吸収速度が低下したため、体積流量が減少した。体積流量を、全期間にわたって記録した。二酸化炭素がそれ以上ツイン撹拌式セルに流入しなくなるとすぐに、実験を終了した。吸収剤は、実験終了時に平衡状態であった。
【0108】
実験の評価のために、(CO2のモル)/[(吸収媒体のm3)×分]の吸収速度を、吸収媒体の負荷の関数として求めた。吸収速度を、記録された二酸化炭素の体積流量とツイン撹拌式セル内の吸収媒体の体積から計算した。負荷を、ツイン撹拌式セルに供給された二酸化炭素の累積量およびツイン撹拌式セル内の吸収媒体の質量から求めた。さらに、実験終了時の最大負荷を求めた。
【0109】
吸収率の中央値を、次のように求めた:吸収媒体の最大負荷(50ミリバールのCO2分圧および50℃の温度での実質的な平衡状態)から始まり、吸収率を、最大負荷の75%、50%および20%の負荷で求めて、平均を求めた。工業プロセスの吸収媒体が残留負荷のCO2とともに吸収装置を通過するため、20%未満の負荷での吸収率は、平均をとる際に考慮しなかった。
【0110】
以下の水溶液を調査した:5重量%のピペラジンおよび30重量%のMDEA、5重量%のピペラジンおよび30重量%のDMAPD、ならびに5重量%のピペラジンおよび30重量%のTBAPD。結果を、以下の表に示す:
【表5】
【0111】
TBAPDを含む水溶液の吸収速度は、MDEAおよびDMAPDをそれぞれ含む溶液の吸収速度よりも著しく高いことは明らかである。さらに、TBAPDを含む水溶液の最大負荷は、MDEAおよびDMAPDをそれぞれ含む溶液の最大負荷よりも高い。
【0112】
実施例7:1-tert-ブチルアミノ-3-メトキシ-プロパン-2-オールの合成
冷却器、マグネチックスターラーおよび温度計を備えた250mLの4つ口フラスコに、tert-ブチルアミン(tBA、34.9g)および水(9mL)を装入し、混合物を、55℃に加熱した。次に、グリシドールメチルエーテル(45.0g)を滴加した。反応混合物を、65℃に加熱した。反応は発熱反応であり、混合物は89℃で沸騰した。さらに熱が発生しなくなったら、混合物を65℃でさらに3時間撹拌した。
【0113】
後処理:過剰なtBAを、真空下で除去した。残存質量71.7gになると、生成物を、温度勾配ガスクロマトグラフィーにより純度97%で単離した。収率は、理論値の99.6%であった。ガスクロマトグラフィーに使用したカラムは、長さ30m、直径0.25mm、膜厚0.25umのDB1(Agilent製)であった。温度勾配プロファイルは、次のとおりであった:60℃で注入し、280℃の温度に達するまで15℃/分の速度で温度を上げる。この温度をさらに1分間保持した。
【0114】
1H NMR(400 MHz,酸化重水素)δ3.91~3.74(m,1H),3.58~3.42(m,2H),3.39(s,3H),2.73~2.49(m,2H),1.11(s,9H)。