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特許7098211レーザ加工装置、厚さ検出方法および厚さ検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、厚さ検出方法および厚さ検出装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20220704BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20220704BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23P15/28 Z
B23Q17/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022516644
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007288
【審査請求日】2022-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
(72)【発明者】
【氏名】近田 修
(72)【発明者】
【氏名】藤原 奨
(72)【発明者】
【氏名】安田 将太郎
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103338(JP,A)
【文献】特開2012-91239(JP,A)
【文献】特表2020-506065(JP,A)
【文献】国際公開第2020/174528(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/174877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B23P 15/28
B23Q 17/00
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に光軸が延びるように照射されたレーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けて相対的に変位させることで、前記レーザによって前記角部を加工するように構成されたレーザ加工装置であって、
前記レーザに対して前記加工対象物を前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるためのアクチュエータを、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れるよう制御する変位制御手段と、
前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、
前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知部により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手段と、を備える、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記光軸に沿って延びる空間を加工対象物で2分した場合における前記照射部と反対側の領域のうち、前記光軸と交差する平面視で少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側の位置に設けられている、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
所定方向に光軸が延びるように照射されるレーザの光軸に対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で相対的に接近させるまたは離す変位制御手順と、
前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置で、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知手順と、
前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知手順により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手順と、を備える、
厚さ検出方法。
【請求項4】
所定方向に光軸が延びるようにレーザを照射する照射部と、
前記レーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で、前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータと、
前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れるよう前記アクチュエータを制御する変位制御手段と、
前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、
前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知部により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手段と、を備える、
厚さ検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、レーザによる加工を行うレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザの光軸方向に延びる円筒状の照射領域を、その光軸と交差する方向へ変位させることにより、この照射領域が通過する加工対象物の表面側に加工面を形成する技術が提案されている(特許文献1) 。この加工方法は、機械的な加工方法に比べて機械的損傷を減らし滑らかに加工面を形成できるという点で優れた加工方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6562536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の加工方法は、例えば、すくい面および逃げ面で形成された角部を有する切削工具のように、それぞれ隣接する2つの面で形成された角部を有する加工対象物における角部の加工にも用いられている。具体的には、すくい面または逃げ面の拡がる方向に沿って光軸が延びるようにレーザを照射させ、このレーザを変位させることによって、加工面として角部に新たなすくい面または逃げ面を形成したり、エッジや凹凸など特定用途で用いるための形状を形成する、といったことである。
【0005】
また、加工対象物は、角部にダイヤモンド被膜などのコーティング層を形成して硬度を高めることも行われているが、このようなコーティング層への加工面の形成や機能付与を行う場合には、適切な厚さのコーティング層であるかを事前にチェックする必要がある。
【0006】
しかし、コーティング層の厚さは、そのための測定装置に加工対象物をセットして測定しなければならず、適切な厚さのコーティング層であることを確認したうえで、あらためてレーザ加工装置にセットする必要があり、従来は、実際の加工までの作業が煩雑になっているという課題があった。
【0007】
本願発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、加工対象物に形成されたコーティング層の厚さを簡便にチェックできるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため第1局面は、所定方向に光軸が延びるように照射されたレーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けて相対的に変位させることで、前記レーザによって前記角部を加工するように構成されたレーザ加工装置であって、前記レーザに対して前記加工対象物を前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるためのアクチュエータを、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れるよう制御する変位制御手段と、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知部により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手段と、を備える、レーザ加工装置である。
【0009】
この第1局面は、以下に示す第2局面のようにしてもよい。
【0010】
第2局面において、前記検知部は、前記光軸に沿って延びる空間を加工対象物で2分した場合における前記照射部と反対側の領域のうち、前記光軸と交差する平面視で少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側の位置に設けられている。
【0011】
上記課題を解決するため第3局面は、所定方向に光軸が延びるように照射されるレーザの光軸に対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で相対的に接近させるまたは離す変位制御手順と、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置で、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知手順と、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知手順により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手順と、を備える厚さ検出方法である。
【0012】
上記課題を解決するため第4局面は、所定方向に光軸が延びるようにレーザを照射する照射部と、前記レーザに対し、それぞれ隣接する複数の面により角部が形成され、かつ、前記角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、前記角部を前記レーザ側に向けた状態で、前記光軸と交差する方向に沿って相対的に変位させるアクチュエータと、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れるよう前記アクチュエータを制御する変位制御手段と、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知部により、所定の第1強度、前記第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記角部に施されたコーティング層の厚さとして検出する検出手段と、を備える、厚さ検出装置である。
【発明の効果】
【0013】
上記各局面では、光軸と加工対象物とが接近するまたは離れる過程において、第1強度、第2強度および第3強度が順に検知された場合、第1強度となった地点(第1地点)と第3強度となった地点(第3地点)との間における相対的な変位距離が、コーティング層の厚さとなる。上記局面では、このような光の強度の推移、および、加工対象物の相対的な変位距離に基づき、コーティング層の厚さを検出することができる。
【0014】
また、上記各局面では、このような光の強度の推移および加工対象物の相対的な変位距離を、レーザ加工装置の有する機能に基づいて特定することができるため、そのための測定装置に加工対象物をセットし直すことなく、コーティング層の厚さを確認することができる結果、実際の加工までの作業を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザ加工装置の全体構成を示すブロック図
図2】照射部の構成を示すブロック図
図3】レーザの照射領域と検知部との位置関係を示す図
図4】厚さ検出処理の処理手順を示すフローチャート
図5】レーザの光軸へと加工対象物が接近する様子を示す図
図6】検知部により検知される光強度の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(1)装置構成
レーザ加工装置1は、図1に示すように、所定方向(図1における上下方向)に光軸が延びるようにレーザを照射させる照射部10と、加工対象物100を保持するための保持部20と、加工対象物100に対して照射部10を変位させるための照射部変位機構30と、レーザに対して保持部20を変位させるための保持部変位機構40と、所定の位置において光の強度を検知する検知部50と、レーザ加工装置1全体の動作を制御する制御部60と、を備えている。
【0018】
照射部10は、図2に示すように、パルスレーザを出力する発振器11、レーザの振動数の次数を調整する振動調整器13、偏光状態を調整する偏光素子14、レーザの出力を調整するアッテネータ(ATT)15、レーザの径を調整するためのビームエキスパンダー(EXP)17などを備え、これらを経たレーザが光学レンズ19を介して出力されるように構成されており、所定の方向(本実施形態ではZ軸方向)に光軸を向けてレーザを照射させる。これらのうち、発振器11には、Nd:YAGパルスレーザが用いられている。なお、ここでは、単一の光学レンズ19からなる構成となっているが、所定間隔を空けて配置された一組の光学レンズと、この光学レンズの間隔を調整するための機構を備えた構成としてもよい。
【0019】
保持部20は、レーザの光軸と交差する方向(図1における左右方向)に延びる棒状の部材であり、その先端に加工対象物100を保持可能に構成されている。この加工対象物100は、その端部が保持部20の先端から突出する位置関係で保持される。
【0020】
照射部変位機構30は、照射部10が取り付けられた状態で所定方向に変位するアクチュエータである機構本体31と、外部からの指令に基づいて機構本体31を動作させる駆動部33と、を備えている。本実施形態において、機構本体31は、照射部10をレーザの光軸とそれぞれ交差する方向(図1における紙面の手前から奥へ向かう方向)に変位させるように構成されている。
【0021】
保持部変位機構40は、保持部20が取り付けられた状態で所定方向に変位するアクチュエータである機構本体41と、外部からの指令に基づいて機構本体41を動作させる駆動部43と、を備えている。本実施形態において、機構本体41は、保持部20をその延びる方向に変位させるように構成されている。
【0022】
検知部50は、図3に示すように、光軸210に沿って延びる空間を加工対象物100で2分した場合における照射部10と反対側の領域(図3における保持部20よりも下方の領域)のうち、光軸210と交差する平面(図3における破線の面)視で少なくとも照射領域200の外側となる位置に設けられた光センサであり、この位置にまで到達する光の強度(以降「光強度」ともいう)を検知する。本実施形態では、検知部50として、光軸210から離れる方向に向けて複数の受光素子が配置されたラインセンサが採用されている。なお、この検知部50は、後述する厚さ検出処理において回折光が十分な強度で到達可能な位置に配置されたものである。
【0023】
制御部60は、各部への制御指令により、照射部10によるレーザの照射、照射部変位機構30による照射部10の変位、保持部変位機構40による保持部20の変位などを制御するコンピュータである。
【0024】
加工対象物100は、それぞれ隣接する複数の面により角部110が形成されている。本実施形態において、加工対象物100は、2つの面のいずれか一方がすくい面、他方が逃げ面として形成された切削工具であり、光透過性を有していない超硬合金をその材料とするものである。
【0025】
また、加工対象物100としては、角部110に光透過性の高い材料によるコーティング層120が形成されたものも用いられる。具体的な例として、コーティング層120として光透過性を有するダイヤモンド被膜が用いられる。なお、この例では、加工対象物100の材料である超硬合金が光透過性を有していないため、ダイヤモンド被膜で形成されたコーティング層120は角部110そのものよりも光透過性が高い。
【0026】
そして、この加工対象物100は、角部110をレーザの照射領域200側に向けた位置関係で設置されることにより、角部100のなす面が光軸210に対して傾斜した状態となる。
【0027】
このような構成のレーザ加工装置1では、角部110のなす面方向に沿って光軸が延びるようにレーザを照射させ、このレーザを変位させることによって、角部110に加工面を形成することができる。
【0028】
(2)制御部60による処理手順
以下に、制御部60が内蔵メモリ61に格納されたプログラムにより実行する「厚さ検出処理」の手順を図4に基づいて説明する。この厚さ検出処理は、コーティング層120の形成された加工対象物100を保持部20に保持させて位置決めした後に実行させるものであり、図示されないインタフェース(操作装置または通信装置)からの起動指令を受けた際に起動される。
【0029】
この加工処理が起動されると、まず、内蔵メモリ61にあらかじめ格納されている設定情報が読み出される(s110)。この設定情報は、事前にユーザが設定した情報であって、照射部10により照射されるレーザの出力P0[w]と、保持部20に設置された加工対象物100の材料特性に応じた加工しきい値Pth[w]と、光軸210を規定した座標情報と、からなる。ここで、レーザの出力レベルP0は、厚さ検出のために、加工しきい値Pthより小さくなるような値(P0<Pth)が設定されている。
【0030】
次に、照射部10によるレーザの照射が開始される(s120)。ここでは、制御部60からの指示を受けた照射部10がレーザの照射を開始する。
【0031】
次に、照射部10の照射するレーザの光軸210側への加工対象物100の変位が開始される(s130)。ここでは、保持部20が光軸210に向けて変位するように保持部変位機構40への制御指令がなされ、これを受けた保持部変位機構40が、光軸210側への加工対象物100の変位を開始する。こうして、加工対象物100は、単位時間ごとにあらかじめ定められた単位距離ずつ変位するようになる。
【0032】
次に、検知部50により検知される光強度の監視が開始される(s140)。ここでは、単位距離の変位で到達する地点ごとに検知される光強度を取得するとともに、その記録が行われる。なお、本実施形態では、検知部50として採用されたラインセンサの受光素子それぞれから出力される光強度(W)を合計した値または平均化した値をもって、その地点における光強度として検知されるように構成されている。
【0033】
次に、本厚さ検出処理の終了条件が充足されているか否かがチェックされる(s150)。ここでは、例えば、光強度が一定距離(例えば、単位距離の数倍となる距離)にわたって終了条件として定められた終了しきい値以下となった、加工対象物100の先端が終了条件として定められた終了位置(例えば光軸210の位置)にまで到達した、ことをもって終了条件が充足したと判定される。
【0034】
次に、本厚さ検出処理の終了条件が充足するまで待機状態となり(s150:NO)、その間に単位距離の変位で到達する地点ごとの光強度の推移が記録される。
【0035】
ここで、レーザの光軸210に対して加工対象物100が接近する過程では、加工対象物100が、図5に示すように、レーザの照射領域200が角部110に形成されたコーティング層120の表面に到達する第1地点(図5(A))、照射領域200がコーティング層120と重なる第2地点(図5(B))、および、照射領域200が加工対象物100本体の表面に到達する第3地点(図5(C))をそれぞれ経ることになる。
【0036】
これら3つの地点のうち、まず、第1地点では、コーティング層120の表面を回り込んだ回折光などが照射領域200の外側にまで到達するものの、コーティング層120が光透過性を有しているため、光の強度(第1強度)は後述する第3地点よりも小さくなる(図6における(A)参照)。続いて、第2地点では、コーティング層120を光が透過しやすくなり、回折光も発生しにくくなるため、照射領域200の外側にまで到達する光の強度(第2強度)は第1地点と比べても小さくなる(図6における(B)参照)。そして、第3地点では、加工対象物100本体の表面を回り込んだ回折光が、照射領域200の外側にまで到達することとなり、加工対象物100本体が光を透過しにくいだけに、照射領域200の外側にまで到達する光の強度(第3強度)はいずれの地点よりも大きくなる(図6における(C)参照)。
【0037】
つまり、光軸210と加工対象物100とが接近する過程において、第1強度、第2強度および第3強度が順に検知された場合、第1強度となった地点(第1地点)と第3強度となった地点(第3地点)との間における加工対象物100の変位距離が、コーティング層120の厚さとなる。
【0038】
なお、加工対象物100が上述した第3地点を越えて変位した場合、レーザの照射領域200が加工対象物100に大きく遮られることから、照射領域200の外側にまで到達する光の強度は、上述したいずれの地点よりも小さい値まで低下する(図6における(C)よりも右側の領域)。本実施形態では、このような小さい値を「終了しきい値」としている。
【0039】
その後、終了条件が充足されたら(s150:YES)、ここまでに記録された光強度の推移に基づいてコーティング層120の厚さが検出される(s160)。ここでは、光強度の推移として、所定の第1強度、第1強度よりも所定のしきい値以上小さい第2強度、および、第1強度より大きい第3強度が順に検知されている場合に、第1強度および第3強度それぞれの検知された地点間において加工対象物100が変位した距離を、角部110に施されたコーティング層120の厚さとして検出する。
【0040】
なお、このステップでは、光強度の推移として第1強度、第2強度および第3強度が順に検知されない場合、エラー処理として、コーティング層120が形成された加工対象物100ではない、コーティング層120に異常が生じているなどといったことの報知が、図示されないインタフェース(表示装置または通信装置)経由で実施される。
【0041】
こうしてs160の後、本厚さ検出処理が終了する。
なお、上述したs130が本発明における変位制御手段、変位制御手順であり、s140が本発明における検知手順であり、s160が本発明における検出手段、検出手順である。
【0042】
(3)変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0043】
例えば、上記実施形態では、保持部20を変位させることで光軸210と加工対象物100とを接近させるように構成されたものを例示した。しかし、本発明としては、光軸210に対して加工対象物100を相対的に接近させることができればよく、照射部10を変位させるように構成してもよい。この場合、照射領域200に対する検知部50の位置関係が固定されるよう、検知部50と照射部10とを連動して変位させるようにするとよい。
【0044】
また、上記実施形態では、レーザ加工装置1に検知部50を設け、制御部60が厚さ検出処理を実行するように構成することで、レーザ加工装置1に厚さ検出の機能が一体化されたものを例示した。しかし、この機能は、レーザ加工装置1などの装置に一体化されている必要はなく、例えば、照射部10、保持部変位機構40、検知部50の他、厚さ検出処理を実行する制御部60を独立して備えた装置として構成してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、光軸210と加工対象物100とを両者が離れた状態から接近させ、その過程における光強度に基づいてコーティング層120の厚さを検出するように構成されたものを例示した。しかし、上記実施形態は、光軸210と加工対象物100とが近接または重なった状態から離していき、その過程における光強度に基づいてコーティング層120の厚さを検出するように構成してもよい。この場合、光軸210と加工対象物100とが離れる過程で、加工対象物100が第3地点(図5(C))、第2地点(図5(B))および第1地点(図5(A))、を経て、第3強度、第2強度および第1強度が順に検出された場合に、第1強度となった地点(第1地点)と第3強度となった地点(第3地点)との間における加工対象物100の変位距離を、コーティング層120の厚さとして検出するようにすればよい。
【0046】
(4)作用効果
上記実施形態では、光軸210と加工対象物100とが接近する過程において、第1強度、第2強度および第3強度が順に検知された場合、第1強度となった地点(第1地点)と第3強度となった地点(第3地点)との間における相対的な変位距離が、コーティング層120の厚さとなる。上記実施形態では、このような光の強度の推移、および、加工対象物100の相対的な変位距離に基づき、コーティング層120の厚さを検出することができる。
【0047】
そして、上記実施形態では、このような光の強度の推移および加工対象物100の相対的な変位距離を、レーザ加工装置1の有する機能に基づいて特定することができるため、そのための測定装置に加工対象物をセットし直すことなく、コーティング層120の厚さを確認することができる結果、実際の加工までの作業を簡略化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のレーザ加工装置、厚さ検出方法および厚さ検出装置は、角部にコーティング層が形成された加工対象物について、そのコーティング層の厚さを検出する用途で用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…レーザ加工装置、10…照射部、11…発振器、13…振動調整器、14…偏光素子、15…アッテネータ(ATT)、17…ビームエキスパンダー(EXP)、19…光学レンズ、20…保持部、30…照射部変位機構、31…機構本体、33…駆動部、40…保持部変位機構、41…機構本体、43…駆動部、50…検知部、60…制御部、61…メモリ、100…加工対象物、110…角部、120…コーティング層、200…照射領域、210…光軸。
【要約】
所定方向に光軸が延びるレーザに対し、角部に光透過性を有する材料によるコーティング層が形成された加工対象物を、相対的に変位させることで、前記角部を加工するレーザ加工装置であって、アクチュエータを前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れるよう制御する変位制御手段と、前記光軸と交差する平面視で、少なくとも前記レーザにおいて筒状に延びる照射領域の外側となる位置に設けられ、この位置にまで到達する光の強度を検知する検知部と、前記光軸に対して前記加工対象物が相対的に接近するまたは離れる過程で、前記検知部により、所定の第1強度、前記第1強度よりも小さい第2強度および前記第1強度より大きい第3強度が順に検知された場合に、前記第1強度および前記第3強度それぞれの検知された地点間において前記加工対象物が相対的に変位した距離を、前記コーティング層の厚さとして検出する検出手段と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6