(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20220704BHJP
H05G 2/00 20060101ALI20220704BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
H05G2/00 K
G02B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2019534123
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2017079562
(87)【国際公開番号】W WO2018114159
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】102016226202.5
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】モーザー ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘロルト フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュミットナー アルノ
(72)【発明者】
【氏名】キーリー ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】メルケル ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】メタリディス ゲオルゴ
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/021235(WO,A1)
【文献】特表2016-509270(JP,A)
【文献】特表2012-523106(JP,A)
【文献】特開2003-257824(JP,A)
【文献】特開2001-358056(JP,A)
【文献】国際公開第2013/124224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00
1/24
H05G 2/00
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子であって、光学有効面を有し、
・ 基板(105、205、305、405、505)と、
・ 前記基板上に存在する層系と、
・ 保護カバー(130、230、330、430、530)であって、前記光学有効面に隣接する前記光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、前記光学素子の動作中に、前記保護カバーを含まない類似の設計と比較して前記層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバー(130、230、330、430、530)と、
を備え、
・ 前記保護カバー(130、230、330、430、530)が、前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含み、
前記光学素子がミラーであることを特徴とする、光学素子。
【請求項2】
特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子であって、光学有効面を有し、
・ 基板(105、205、305、405、505)と、
・ 前記基板上に存在する層系と、
・ 保護カバー(130、230、330、430、530)であって、前記光学有効面に隣接する前記光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、前記光学素子の動作中に、前記保護カバーを含まない類似の設計と比較して前記層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバー(130、230、330、430、530)と、
を備え、
・ 前記保護カバー(130、230、330、430、530)が、前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含み、
前記保護カバー(430、530)が、前記縁領域に面するその表面上に、前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料で作られたコーティング(450、550)またはインレイを備えることを特徴とする、光学素子。
【請求項3】
特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子であって、光学有効面を有し、
・ 基板(105、205、305、405、505)と、
・ 前記基板上に存在する層系と、
・ 保護カバー(130、230、330、430、530)であって、前記光学有効面に隣接する前記光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、前記光学素子の動作中に、前記保護カバーを含まない類似の設計と比較して前記層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバー(130、230、330、430、530)と、
を備え、
・ 前記保護カバー(130、230、330、430、530)が、前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含み、
前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する前記材料が、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、およびバナジウム(V)を含む群から選択されることを特徴とする、光学素子。
【請求項4】
特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子であって、光学有効面を有し、
・ 基板(105、205、305、405、505)と、
・ 前記基板上に存在する層系と、
・ 保護カバー(130、230、330、430、530)であって、前記光学有効面に隣接する前記光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、前記光学素子の動作中に、前記保護カバーを含まない類似の設計と比較して前記層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバー(130、230、330、430、530)と、
を備え、
・ 前記保護カバー(130、230、330、430、530)が、前記水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含み、
前記保護カバー(130、230、330、430、530)と前記層系との間にギャップが形成されることを特徴とする、光学素子。
【請求項5】
前記ギャップが、平均ギャップ深さおよびギャップ長さを有し、平均ギャップ深さとギャップ長さとの比率が、0.8未満あることを特徴とする、請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記ギャップが、0.6mmより小さい
平均ギャップ深さを有することを特徴とする、請求項4または5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記ギャップが、少なくとも4mmのギャップ長さを有することを特徴とする、請求項4から6までのいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記ギャップが、前記光学有効面に面するその径方向内側部分にシール(240、340)を有することを特徴とする、請求項4から7までのいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記シール(240、340)が、特に金属で作られたメッシュまたはフィルムスタックとして具現化されることを特徴とする、請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記シール(240、340)が、特にポリエチレン(PE)、接着剤、ポリイミド(PI)、またはインジウム(In)で作られたかき傷回避コーティングまたはかき傷回避インレイとして具現化されることを特徴とする、請求項8に記載の光学素子。
【請求項11】
前記保護カバー(530)が、少なくとも複数の領域において、前記層系と直接接触していることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
プラズマ光源の集光ミラーであることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項13】
前記光学素子が、30nm未満の動作波長のために設計されることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項14】
マイクロリソグラフィ投影露光装置の光学系であって、請求項1から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学素子を備えることを特徴とする、光学系。
【請求項15】
プラズマ光源であることを特徴とする、請求項14に記載の光学系。
【請求項16】
照明デバイスおよび投影レンズを備えるマイクロリソグラフィ投影露光装置であって、前記照明デバイスが、前記マイクロリソグラフィ投影露光装置の動作中に、前記投影レンズの物体平面に配置されたマスクに光を当て、前記投影レンズが、前記投影レンズの像平面に配置された感光性層上に前記マスク上の構造を結像(image)し、前記投影露光装置が、請求項1から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学素子を備える、マイクロリソグラフィ投影露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月23日に出願された独国特許出願DE102016226202.5の優先権を主張するものである。この出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路またはLCDなどの微細構造構成要素を製造するために使用される。マイクロリソグラフィプロセスは、照明デバイスと投影レンズとを備えるいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明デバイスによって照らされるマスク(=レチクル)の像は、マスク構造を基板の感光性コーティングに転写するために、投影レンズにより、感光性層(フォトレジスト)で被覆されかつ投影レンズの像平面に配置された基板(例えば、シリコンウェハ)上に投影される。
例えばおおよそ13nmまたはおおよそ7nmの波長でのEUV範囲のために設計された投影レンズでは、適切な光透過性屈折性材料の利用可能性がないために、結像プロセスのための光学構成要素としてミラーが使用される。
【0003】
EUV光は、プラズマ励起に基づくEUV光源によって作られる。このEUV光源は、赤外放射を生成するためのCO
2レーザを備え、前述の赤外放射は、集束光学ユニットによって集束され、かつ-
図6に単に概略的に示されるように-楕円体として具現化された集光ミラー600に存在する開口部601を通過し、ターゲット源によって作られるターゲット材料(例えば、スズ小滴)へ導かれて、プラズマ点火位置に供給される。赤外放射は、前述のターゲット材料がプラズマ状態に遷移してEUV放射を発する(プラズマは
図6では「602」によって示されている)ように、プラズマ点火位置に配置されたターゲット材料を加熱する。このEUV放射は、集光ミラー600により中間焦点上に集束されて、この中間焦点を介して下流の照明デバイスに入る。
ターゲット材料(この例ではスズ)による集光ミラー600の光学有効面の汚染を避けるために、集光面にわたって水素ガスを(
図6に示されているように)誘導する慣例が知られている。この場合、EUV放射は、水素分子を水素ラジカルに分解し、水素ラジカルは、スズと化学的に結合し、そこで、発生するSn-H化合物が取り除かれ得る。さらに、
図6に示されるように、水素ガスはまた、最初の段階でスズ(Sn)イオンを集光面から遠ざけておくために、プラズマ602の方向に直接誘導され得る。
それぞれの光学系に侵入する汚染物質による反射性光学構成要素の反射性の減少を避けるために、関連する反射性光学構成要素の周辺は、投影露光装置の他の領域と同様に(パージガスとして)水素で作られた雰囲気が充満し、前述の水素の雰囲気は、これらの反射性光学構成要素の周辺での望ましくない汚染物質の侵入を防ぐように意図されている。
【0004】
上記事例の全ての実践で起こり得る問題は、水素ラジカルが基板表面に達するまでそれぞれの反射性光学構成要素の基板上に存在する層系(layer system)に侵入し、そこで再結合して水素分子を形成し、また、気相の集積と同時に起こる気泡形成(いわゆる「ブリスタ形成」)により層の分離がもたらされ、その結果として反射性光学素子の反射性の減少または破壊がもたらされることである。
そのような状況は、
図7に純粋に概略的に示されており、この場合、「705」はミラー基板を示し、このミラー基板上には、中間層710と反射層系720(この例では、交互に並んだ一連のモリブデン(Mo)およびケイ素(Si)の層で作られた多重層系を含む)とで作られた層系が設けられている。
図7に示されるように、反射層系720がかき傷、穴、または細孔によって割り込まれる領域では、多重層系によってなおも提供される障壁効果がもはや存在しないので、水素ラジカルの侵入のリスクが増大する。
【0005】
上記の問題は、それぞれの光学素子またはミラーの縁領域において、(
図8aによれば)水素原子の拡散を妨げる前述の反射層系820が露出されているかもはや縁領域に存在しない場合に(
図8a)、または前述の反射層系がかき傷により縁領域821において損傷していて(
図8b)、その結果として水素ラジカルが侵入することができブリスタ形成が起こり得る場合に、前述の箇所において-
図8aおよび
図8bに示されるように-特に重大であり得る。
従来技術に関して、DE102014216240A1、DE102014222534A1、DE102013102670A1、DE102011077983A1、WO2012/136420A1、およびEP2905637A1が、単に例として参照される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の背景を踏まえ、本発明の目的は、光学素子の動作中に集積される水素による反射特性の減少または破壊が最大限の範囲で回避される、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、独立請求項の特徴によって達成される。
1つの態様によれば、本発明は、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子であって、光学有効面を有し、
- 基板と、
- 基板上に存在する層系と、
- 保護カバーであって、光学有効面に隣接する光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、光学素子の動作中に、保護カバーを含まない類似の設計と比較して層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバーと、
を備え、
- 保護カバーと層系との間にギャップが形成される、
光学素子に関する。
本発明は、保護カバーが前述の保護カバーの表面における分子状水素への水素ラジカルの再結合を支援するように層系までのギャップ距離内に保護カバーを設ける概念を特に伴う。結果として、光学素子の縁領域において、光学素子の層系への水素ラジカルの侵入が、少なくともかなりの程度回避され得る。
【0008】
一実施形態によれば、ギャップは、平均ギャップ深さおよびギャップ長さを有し、平均ギャップ深さとギャップ長さとの比率は、0.8未満、具体的には0.5未満、さらに具体的には0.3未満、さらに具体的には0.1未満、さらに具体的には0.05未満、さらに具体的には0.01未満である。
ここで、本発明は、適切な幾何形状の選択により-すなわち狭くもあり長くもあるギャップの構造により-縁領域での水素ラジカルの再結合を促進する概念を含む。
一実施形態によれば、ギャップは、0.6mmより小さい、具体的には0.3mm未満の、さらに具体的には0.1mm未満の、さらに具体的には0.05mm未満の平均ギャップ深さを有する。平均ギャップ深さは、具体的には0.1mmから0.6mmまでの範囲内であってもよい。
一実施形態によれば、ギャップは、少なくとも4mmの、具体的には少なくとも6mmの、さらに具体的には少なくとも8mmのギャップ長さを有する。
一実施形態によれば、ギャップは、光学有効面に面するその径方向内側部分にシールを有する。
一実施形態によれば、このシールは、特に金属で作られたメッシュまたはフィルムスタックとして具現化される。
【0009】
一実施形態によれば、シールは、特にポリエチレン(PE)、接着剤、ポリイミド(PI)、またはインジウム(In)で作られたかき傷回避コーティング(scratch-avoiding coating)またはかき傷回避インレイ(scratch-avoiding inlay)として具現化される。
一実施形態によれば、保護カバーは、水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含む。
【0010】
本発明のさらなる態様によれば、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のための光学素子が、光学有効面を備え、かつ、
- 基板と、
- 基板上に存在する層系と、
- 保護カバーであって、光学有効面に隣接する光学素子の縁領域にわたって延在し、かつ、光学素子の動作中に、保護カバーを含まない類似の設計と比較して層系への水素ラジカルの侵入を減少させる、保護カバーと、
を備え、
- 保護カバーは、分子状水素を形成するために水素ラジカルの再結合を支援する材料を含む。
ここで、具体的には、本発明は、水素ラジカルが侵入する前でもそれらの水素ラジカルの再結合の可能性を高めることにより基板と基板上に設けられた層系との間の領域への水素ラジカルの侵入を光学素子の縁領域において回避するという概念に基づく。さらに、本発明の1つの態様によれば、これは、比較的高いエネルギーを伴う出来事である水素ラジカルの再結合を支援する適切な材料で作られた反応壁を提供することによって達成される。
【0011】
関連する光学素子の縁領域にこの反応壁を提供する本発明による保護カバーを制限することは、第1に、水素ラジカルによる望ましいパージング効果が光学有効面の残りの領域においてさらに得られるが、第2に、最初に説明されたように光学素子の層系への水素ラジカルの侵入のリスクが特にある縁領域において、水素の侵入およびそれに付随するブリスタ形成に対する確実な保護が確保されることを確実にする。
一実施形態によれば、保護カバーは、縁領域に面するその表面上に、水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料で作られたコーティングまたはインレイを備える。具体的には、この材料は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、またはバナジウム(V)であり得る。さらに、本発明による保護カバーは、例えばアルミニウム(Al)(ベース材料として)から作られ得る。
【0012】
しかし、本発明は、水素ラジカルの再結合を支援する材料で作られたコーティングを含む上記の構成に限定されるものではない。さらなる実施形態では、水素ラジカルの再結合を支援する材料はまた、本発明による保護カバーのためのベース材料として全体的に機能することができ、その場合、この点において、水素ラジカルが、パージされるべき光学有効面まで層系と反対の側を向いた保護カバーの(「上面」)側にわたって引き続き誘導され得ることを確実にするために、水素再結合を支援しない材料(例えば、アルミニウム)で作られたコーティングが、前述の側上に設けられ得る。
一実施形態によれば、保護カバーと層系との間にギャップが形成される。
一実施形態によれば、保護カバーは、少なくとも複数の領域において、層系と直接接触している。ここで、本発明は、具体的には、水素再結合を支援する材料(例えば、銅(Cu))を適切に選択した場合に、層系に面する保護カバーの関連する部分が調整または運搬中に層系-例えば、この点で感応性であるモリブデンおよびケイ素の層で作られた反射層スタック-を引っ掻くことを回避するのに十分に柔軟であるという効果を利用することができる。対照的に、例えば、アルミニウムなどの比較的硬い材料の場合、運搬または調整中のかき傷による損傷のリスクは、保護カバーと層系との間の直接接触の妨げになるであろう。
【0013】
しかし、光学素子の保護カバーと層系との間の直接接触を伴う上記の構成でも、本発明に従って使用される材料の再結合促進効果は、同時に、形状誤差または公差が存在する(これは、領域におけるギャップまたはリフティングの形成をもたらし得る)場合に、ギャップ領域に侵入する水素ラジカルのために分子状酸素の再結合がなおも得られ得る程度になる。
一実施形態によれば、動作波長は、30nm未満であり、具体的には、動作波長は、5nmから15nmまでの範囲内、さらに具体的には5nmから10nmの範囲内であり得る。
縁領域における水素ラジカルの再結合の向上を目的とした、保護カバーと層系との間の可能な限り狭くかつ可能な限り長いギャップの上述の設計はまた、水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料を含む保護カバーの上記構成とは関わりなく有利である。
一実施形態によれば、光学素子は、ミラーである。ここで、このミラーは、具体的には(しかし、本発明をそれに限定することなく)、プラズマ光源の集光ミラーに関連し得る。
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置の光学系にさらに関し、前述の光学系は、上記の特徴を有する少なくとも1つの光学素子を備える。具体的には、光学系は、プラズマ光源であり得る。
【0014】
本発明はまた、照明デバイスおよび投影レンズを備えるマイクロリソグラフィ投影露光装置にさらに関し、照明デバイスは、投影露光装置の動作中に、投影レンズの物体平面に配置されたマスクに光を当て、投影レンズは、投影レンズの像平面に配置された感光性層上に前述のマスク上の構造を結像(image)し、投影露光装置は、上記の特徴を有する光学素子または光学系を備える。
本発明のさらなる構成は、説明および従属請求項から収集され得る。
本発明は、添付の図面に示された例示的な実施形態に基づいて、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の例示的な実施形態における光学素子の可能な設計を明らかにする概略図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態における光学素子の可能な設計を明らかにする概略図である。
【
図3】本発明の例示的な実施形態における光学素子の可能な設計を明らかにする概略図である。
【
図4】本発明の例示的な実施形態における光学素子の可能な設計を明らかにする概略図である。
【
図5】本発明の例示的な実施形態における光学素子の可能な設計を明らかにする概略図である。
【
図6】従来のEUV光源の設計を明らかにする概略図である。
【
図7】本発明の根本的な課題を明らかにする概略図である。
【
図8】本発明の根本的な課題を明らかにする概略図である。
【
図9】EUVでの動作のために設計された投影露光装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、
図9は、EUVでの動作のために設計されておりまた本発明を例示的な態様で実現することができる投影露光装置10の単なる概略図を示す。
図9によれば、投影露光装置10の照明デバイスが、視野ファセットミラー3、および瞳孔ファセットミラー404を備える。プラズマ光源1および集光ミラー2を備える光源ユニットからの光は、視野ファセットミラー4上に向けられる。第1のテレスコープミラー(telescope mirror)5および第2のテレスコープミラー6が、瞳孔ファセットミラー4の下流で光路内に配置される。俯角入射を伴って操作される偏向ミラー7が、光路内で下流に配置されて、偏向ミラー7に衝突する放射をミラー21~26とともに投影レンズの物体平面内の物体視野上に向けるが、これは
図9に単に示されている。物体視野の位置では、マスクステージ30上に反射構造支持マスク31が配置され、前述のマスクは、投影レンズを用いて、感光性層(フォトレジスト)で被覆された基板41がウェハステージ40上に位置している像平面に結像(image)される。
以下、本発明による光学素子の可能な実施形態が、
図1~5の概略図を参照して説明される。本明細書では、これは、例えば
図9の投影露光装置のミラー、あるいは
図6に基づいて説明されるEUV光源の集光ミラーに関連し得る。
図1によれば、EUVプラズマ光源の集光ミラーの形態をした本発明による光学素子が、基板105と、基板105上に存在する層系とを備え、前述の層系は、例示的な実施形態では、反射層スタック120(モリブデン(Mo)およびケイ素(Si)の層の交互配列を有する)と、反射層スタック120と基板105(あるいは、複数の中間層)との間に配置された任意の中間層110と、を有する。
【0017】
図1に示されるように、水素ガスが、汚染を回避する目的のために、またはパージング目的のために、光学素子の表面にわたって誘導され、前述の水素ガスは、当該の光学系の動作中に存在する電磁(EUV)放射の影響下で水素ラジカル(「H
*」によって示される)に分解される。それ自体が知られた態様では、これらの水素ラジカルの作用は、集光ミラーの表面上に存在する汚染物質(例えば、スズ汚染物質)と化合物を形成することであり、それぞれの化合物(例では、スズ(Sn)-水素(H)化合物)を取り除くことにより、所望のパージング効果が得られる。
【0018】
図1によれば、本発明による光学素子は、光学素子すなわち集光ミラーの縁領域にわたって延在する保護カバー130を備える。例示的な実施形態では、保護カバー130は、アルミニウム(Al)から作られる。0.1未満の平均ギャップ深さとギャップ長さとの比率を持つ細長いギャップが、保護カバー130と層系または反射層スタック120との間に位置する。実施形態では、平均ギャップ深さは、0.1mmから0.6mmまでの範囲内であり得、ギャップ長さは、例えば少なくとも6mmであり得る。
【0019】
水素ラジカルの再結合は、電気を非常に良く伝導する金属すなわち導電率が高い金属と水素ラジカルが接触することができる場合に、特に促進される。特に、長くかつ狭いギャップの場合、それに応じて接触の可能性が増大されるので、H
*-金属接触の数が増大され、再結合が促進される。この特に狭くかつ長いギャップ幾何形状のために、水素ラジカルが層系に浸透する前に、前述の水素ラジカルの再結合が、光学素子すなわち集光ミラーの縁領域内で促進され、その結果として、ブリスタを形成することおよびそれに伴う光学素子の破壊のリスクが低減される。さらに、本発明による保護カバー130はまた、隠蔽することにより、かき傷に対する光学素子の縁領域の機械的保護と、電磁(例えば、EUV)放射に対する放射線防護とを達成する。
図2および
図3は、本発明のさらなる可能な実施形態の概略図を示し、これらの図では、
図1における構成要素に類似したまたは実質的に同じ機能を有する構成要素が、
図2では「100」、
図3では「200」だけ増加された参照符号によって示されている。
【0020】
これらの実施形態では、上記のギャップは、いずれの場合にも、光学有効面に面するその径方向内側部分に、シール240および340をそれぞれ有する。
図2および
図3に示されるように、このシール240および340はそれぞれ、異なる幾何形状を有することができ、また、好ましくは、特に水素ラジカルおよびEUV放射の影響下においていかなる汚染またはガス抜け効果も発揮しない材料から作られる。実施形態では、特に、金属メッシュ、または適切な金属フィルムの積重ねが、シールとして機能することができ。その結果として、増大した再結合面が、水素ラジカルに提供される。さらなる実施形態では、当該のシール240および340は、それぞれ、かき傷による損傷を回避するために例えば金シート(sheet gold)などの比較的柔らかい金属で被覆され得る担体または接着剤層としても構成され得る。かき傷による損傷を回避するために、例えばインジウム(In)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)のフィルムまたはVitonの形態の柔軟なベース材料を使用することも可能である。
図4および
図5は、本発明のさらなる実施形態を示し、これらの図では、
図1における構成要素に類似したまたは実質的に同じ機能を有する構成要素が、
図4では「300」、
図5では「400」だけ増加された参照符号によって示されている。
【0021】
これらの実施形態に共通していることは、光学素子すなわち集光ミラーの縁領域に面するその表面上で、保護カバー430および530がそれぞれ、水素ラジカルの再結合が分子状水素を形成するのを支援する材料でそれぞれ作られたコーティング450および550を有することである。あるいは、コーティングの代わりに、適切な材料で作られたインレイが使用されてもよい。例として、この材料は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、またはバナジウム(V)であり得る。その結果、これらの実施形態では、いずれの場合にも、適切な材料で作られた反応壁が提供され、前述の反応壁は、水素ラジカルの再結合を支援し、その結果として、反射層スタック420および520それぞれを介して層系に水素ラジカルが侵入するリスクは、著しく低減される。
【0022】
コーティング450は、層系または
図4の例示的な実施形態では反射層スタック420に面する保護カバー430の表面全体にわたって延在し、また-この点では
図1の例示的な実施形態と同様に-限定されたギャップ間隔が、保護カバー430と層系または反射層スタック420との間に存在するが、
図5の例示的な実施形態によるコーティング550は、保護カバー530の径方向内側部分にのみ設けられ、前述のコーティングは、層系または反射層スタック520上に直接位置して、当該のギャップを閉塞する。この場合、比較的柔軟な(例えば銅などの)材料から作られるようにコーティングを構成する結果として、かき傷による反射層スタック520への損傷が同時に回避される。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明による保護カバーはまた、上記の(例えば銅などの)水素再結合促進材料のうちの1つから全体的に作られてもよく、この場合、光学素子の光学有効面のクリーニングされるべき領域内への水素ガスの供給を促進し続けるために、水素ラジカルの再結合を支援しないコーティングが、層系または反射層スタックと反対の側を向いたこの保護カバーの(表)面上に提供される。
【0024】
本発明は特定の実施形態に基づいて説明されたが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせおよび/または交換により、多くの変形形態および代替実施形態が、当業者には明らかである。したがって、そのような変形形態および代替実施形態が本発明によって同時に包含されることは、当業者には言うまでもないことであり、また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物の意義の範囲内でのみ制限される。