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  • 特許-反応装置および温度制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-01
(45)【発行日】2022-07-11
(54)【発明の名称】反応装置および温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220704BHJP
   C12M 1/38 20060101ALI20220704BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220704BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/38 Z
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020509649
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047104
(87)【国際公開番号】W WO2019187415
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2018063899
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】石井 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】大内 彩
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542213(JP,A)
【文献】特表2005-532043(JP,A)
【文献】国際公開第2015/144783(WO,A1)
【文献】特表2013-544496(JP,A)
【文献】Analytical Chemistry,2001年,Vol.73, No.16,p.4037-4044
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μL以上の検体液を収容するセルと、
該セルを内包する、冷却板からなる冷却板構造体と、
該冷却板構造体を冷却する冷却部と、
前記セルおよび前記検体液の少なくとも一方に電磁波を照射する加熱部と、
を備え、
前記セルが収容部と蓋体とを備え、
前記冷却板構造体は、内部に前記セルを収容するための空間を有する構造体であり、前記セル全体を覆う状態で前記セルを内包するものであり、
前記冷却板構造体を構成する冷却板が少なくとも前記セルの主要な2面と接触しており、
前記冷却板構造体が、前記電磁波を透過する透明窓を有し、
前記加熱部による前記電磁波の照射を制御する制御部を備え、
前記制御部が前記冷却部による冷却を制御するものであり、前記冷却部により前記冷却板構造体の温度を第1の温度よりも20°以上低い第2の温度を維持した状態で、前記加熱部により前記検体液を前記第1の温度に加熱する制御を行う反応装置。
【請求項2】
前記冷却部がペルチェ素子を備えている請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記加熱部が、前記電磁波として波長0.5μm以上、1.4μm以下の光を出射する光源を備えている請求項1または2に記載の反応装置。
【請求項4】
前記冷却板構造体を構成する前記冷却板のうち前記透明窓はガラスであり、前記透明窓以外の部分が金属プレートである請求項1から3のいずれか1項に記載の反応装置。
【請求項5】
前記検体液の温度を検出する温度センサを備えた請求項1から4のいずれか1項に記載の反応装置。
【請求項6】
記セルの前記検体液に接触する部分に、前記電磁波のエネルギーを吸収して発熱する吸収体が混合されている請求項1から5のいずれか1項に記載の反応装置。
【請求項7】
請求項1に記載の反応装置における温度制御方法であって、
前記検体液を第1の温度に加熱する加熱工程と、前記検体液を前記第1の温度よりも20℃以上低い第2の温度に冷却する冷却工程とを繰り返す温度制御を、前記冷却部によって前記冷却板構造体の温度を前記第2の温度に保ったまま行う温度制御方法。
【請求項8】
前記第2の温度が前記第1の温度よりも30℃以上低い温度である請求項7に記載の温度制御方法。
【請求項9】
前記加熱工程では、前記加熱部による前記電磁波の照射を行い、前記冷却工程では、前記加熱部による前記電磁波の照射を停止する請求項7または8に記載の温度制御方法。
【請求項10】
前記加熱工程および前記冷却工程の前に、前記セルに収容される前記検体液中に、前記電磁波のエネルギーを吸収して発熱する吸収体を混合する請求項7から9のいずれか1項に記載の温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反応装置および反応装置を用いた温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子診断に関する様々な技術開発が進められている。遺伝子診断の技術は、医療分野における疾患関連遺伝子の解析、食品分野での微生物検査、遺伝子組み換え作物の検定、および法医学における親子鑑定など幅広い分野で利用されている。
【0003】
遺伝子診断の技術において、ポリメラーゼ連鎖反応法(Polymerase Chain Reaction:PCR)は、微量なデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)を増幅する技術として広く用いられている。
【0004】
PCRによるDNA増幅は、二本鎖DNAを高温で一本鎖DNAに解離させる工程(熱変性工程)、その後温度を下げてプライマーを一本鎖DNAに結合させる工程(アニーリング工程)、および一本鎖DNAを鋳型として、ポリメラーゼにより、新たに二重鎖DNAを合成する工程(伸長工程)を繰り返すことで実現される。温度サイクルの一例として、94℃で1分、50~60℃で1分、72℃で1~5分を1サイクルとして、20~30回繰り返すものが挙げられる。
【0005】
PCRでは、このようにサンプルの昇温および降温を繰り返す必要がある。昇温および降温に要する時間がPCRの時間に大きく寄与し、PCRの短時間化を図る上では、昇温および降温をいかに短時間で行うかが大きなポイントとなっている。そのため、PCRのための温度サイクルの短時間化を図る技術が国際公開第2004/029241号(以下において、特許文献1という。)、特開2012-125262号公報(以下において、特許文献2という。)、特表2009-542213号公報(以下において、特許文献3という。)およびAnalytical Chemistry 2001, Vol. 73, No.16 p.4037-4044(以下において、非特許文献1という。)等に提案されている。
【0006】
特許文献1には、電磁誘導加熱を利用して、サンプル周辺を局部的に加熱することにより、速やかに温度上昇させることができ、電磁誘導により発熱し得る材料を含む部分以外の反応容器は加熱されないので、速やかに温度を下降させることができる反応装置が提案されている。
【0007】
特許文献2には、反応容器が載置される伝熱ブロックに加熱ヒータを接触させ、ヒータに接触する位置とヒータから離れた離間位置との間で移動可能に設けられた冷却装置を備え、降温時には、冷却装置をヒータに接触させてヒータを介して伝熱ブロックを冷却する構成が開示されている。
【0008】
特許文献3には、マイクロ流体チャネルを備えたチップと、レーザ光等の電磁エネルギー源と、その電磁波を吸収してサンプルに熱を伝達するエネルギー吸収要素を有する器具が開示されている。また、マイクロ流体チャネルに隣接して熱交換チャネルを備え、冷却時には、電磁エネルギー源による放射を停止し、熱交換チャネル内に冷却流体を取り込むことにより冷却する構成が開示されている。
【0009】
また、非特許文献1では、流路中の検体に赤外光を照射することにより検体を加熱し、流路をペルチェステージ上に配置して、ペルチェ素子により冷却する構成が開示されている。非特許文献1の装置によれば、5nLの検体に対して67℃/秒の加熱率、53℃/秒の冷却率が可能であると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の反応装置においては、電磁誘導で加熱される発熱体以外の部分にも熱は拡がるためにエネルギー損失が生じ、降温の速度が十分とは言えなかった。
【0011】
特許文献2の装置では、冷却装置を移動させる移動機構を備える必要があり、装置が大型化すると共に、壊れやすいという問題がある。
【0012】
特許文献3の装置では、冷却時に熱交換チャネル内の絶縁流体を冷却流体に交換する構成であり、降温速度が未だ十分ではなかった。
【0013】
非特許文献1の装置では、5nLという極微量な検体液を対象としているために、非常に速い速度での加熱および冷却が可能である。しかしながら、PCR後に種々の分析に供するためには、少なくとも1μL程度の検体液を対象とすることが望まれ、非特許文献1の手法を用いて1μL以上の検体液を対象にした場合には冷却率が低下すると考えられる。
【0014】
以上の通り、これまでのPCRは、冷却時間が律速となり反応時間の短縮化が不十分なものとなっている。
【0015】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高速な昇温および降温を実現可能な反応装置および温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の反応装置は、1μL以上の検体液を収容するセルと、
セルを内包する、冷却板からなる冷却板構造体と、
冷却板構造体を冷却する冷却部と、
セルおよび検体液の少なくとも一方に電磁波を照射する加熱部と、
を備え、
冷却板構造体を構成する冷却板が少なくともセルの主要な2面と接触しており、
冷却板構造体が、電磁波を透過する透明窓を有する。
【0017】
本開示の反応装置においては、冷却部がペルチェ素子を備えていることが好ましい。
【0018】
本開示の反応装置においては、加熱部が、電磁波として波長0.5μm以上、1.4μm以下の光を出射する光源を備えていることが好ましい。
【0019】
本開示の反応装置においては、加熱部による電磁波の照射を制御する制御部を備えることが好ましい。制御部は、冷却部による冷却を制御するものであってもよい。
【0020】
本開示の反応装置においては、制御部が、冷却部により冷却板構造体の温度を第1の温度よりも20℃以上低い第2の温度に維持した状態で、加熱部により検体液を第1の温度に加熱する制御を行うことが好ましい。
【0021】
本開示の反応装置においては、検体液の温度を検出する温度センサを備えていてもよい。
【0022】
本開示の反応装置においては、セルの検体液に接触する部分に、電磁波のエネルギーを吸収して発熱する吸収体が混合されていることが好ましい。
【0023】
本開示の温度制御方法は、本開示の反応装置における温度制御方法であって、
検体液を第1の温度に加熱する加熱工程と、検体液を前記第1の温度よりも20℃以上低い第2の温度に冷却する冷却工程とを繰り返す温度制御を、冷却部によって冷却板構造体の温度を第2の温度に保ったまま行う温度制御方法である。
【0024】
本開示の温度制御方法においては、第2の温度が第1の温度よりも30℃以上低い温度であってもよい。
【0025】
本開示の温度制御方法においては、加熱工程では、加熱部による電磁波の照射を行い、冷却工程では、加熱部による電磁波の照射を停止してもよい。
【0026】
本開示の温度制御方法においては、加熱工程および冷却工程の前に、セルに収容される検体液中に、電磁波のエネルギーを吸収して発熱する吸収体を混合してもよい。
【発明の効果】
【0027】
本開示の反応装置は、1μL以上の検体液を収容するセルと、セルを内包する冷却板からなる冷却板構造体と、冷却板構造体を冷却する冷却部と、セルおよび検体液の少なくとも一方に電磁波を照射する加熱部とを備えている。そして、冷却板構造体を構成する冷却板が少なくともセルの主要な2面と接触しており、冷却板構造体が、電磁波を透過する透明窓を有する。透明窓を透過して電磁波を照射することにより検体液を高速に昇温させることができ、検体液を収容するセルが冷却板構造体に内包されているので、検体液を高速に降温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る反応装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す反応装置に備えられている冷却板構造体の平面図である。
図3図1に示す反応装置に備えられているセルの分解斜視図である。
図4】温度制御のチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態にかかる反応装置の概略構成を示す図である。図2は、反応装置の冷却板構造体の平面図であり、図3は反応装置に備えられるセルの分解斜視図である。
【0030】
本実施形態の反応装置10は、1μL以上の検体液12を収容可能なセル20と、セル20を内包する冷却板から構成される冷却板構造体30と、冷却板構造体30を冷却する冷却部40と、セル20および検体液12の少なくとも一方に電磁波を照射する加熱部50とを備えている。さらに、冷却部40および加熱部50を制御する制御部60を備えている。
【0031】
反応装置10は、セル20に収容された検体液12における所望の反応を促進させるために、検体液12の加熱処理および/あるいは冷却処理を行うものである。
【0032】
図3に示すように、セル20は、検体液12を収容する収容部21を有する。収容部21の容量は1μL以上である。収容部21の容量は5μL以上が好ましく、10μL以上がさらに好ましい。また、収容部21の容量は1mL以下が好ましく、500μL以下がより好ましく、100μL以下がさらに好ましい。
【0033】
セル20は、1μL以上の検体液を収容する凹部状の収容部21を有する本体22と、本体22上に収容部21を覆うように設置される蓋体26とを備える。使用時において本体22と蓋体26とは周囲で溶着あるいは接着されて一体化されている。
【0034】
蓋体26には、本体22の収容部21に臨む2か所の開孔25を有する。この開孔25は検体液12の注入孔および/または排出孔として、あるいは検体液注入排出時の空気孔として機能する。
【0035】
また、セル20は、開孔25を封止するための封止フィルム28を備えている。検体液12を開孔25から収容部21に注入後、検体液の蒸発防止、および塵埃の混入防止のために封止フィルム28を蓋体26の表面に貼付させた状態で、セル20は反応装置10に設置される。
【0036】
反応装置10に設置されたセル20において、セル20の底面20Aは本体22の底面であり、セル20の上面20Bは封止フィルム28の表面である。
【0037】
セル20の本体22および蓋体26は、検体液12と反応しなければどのような材料から形成されていてもよく、プラスチック、セラミックおよび金属のいずれかあるいはそれらの組み合わせであってもよい。但し、少なくとも一部は、加熱部から照射される電磁波を透過する材料から構成されていることを要する。電磁波を透過する材料としては、アクリル、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル(PE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。特にはPS、PC、PP、PET、PVCが好ましい。なお、熱伝導プレートに接触する部分は、高熱伝導性部材で構成されていてもよい。具体的にはプラスチックあるいは金属である。金属としてはアルミニウム、銅、鉄およびそれらの少なくとも1つを含む合金が好ましい。
【0038】
封止フィルム28としては、検体液12と反応せず、かつ電磁波を透過する樹脂フィルムを用いることができる。
【0039】
なお、セル20の検体液12に接触する部分、具体的には、セル20の収容部21を構成する内壁面21a、21bの少なくとも一部に、照射される電磁波のエネルギーを吸収して発熱する吸収体が混合されていることが好ましい。このような吸収体を備えることにより、電磁波の照射によるセ吸収熱量が増加するので、昇温速度を高めることができる。
【0040】
吸収体としては、黒色塗料などの色材、あるいは鉄、コバルト、アルミニウム、銅および白金などの金属などが挙げられる。具体的な色材としては、例えば、株式会社ニッポンジーン製の、6×Loading Buffer Double Dye(型番313-90351)あるいは6×Loading Buffer Orange G(型番317-90251)等を使用することができる。
【0041】
なお、セル20の収容部21の内壁面21a、21bに吸収体を混合させるのに代えて、あるいは加えて、検体液12中に吸収体80を分散させてもよい。検体液12中において、吸収体80は浮遊していてもよいし、セル20の内壁面21a、21bに付着していてもよい。検体液12中に分散させる吸収体としては、検体液12との反応性が低い材料からなるものであればよく、既述のセル20に混合させる吸収体材料と同様のものを用いることができる。粒子状の吸収体(以下において、吸収粒子)を検体液中に添加してもよく、吸収粒子としては、金属粒子、ポリマー粒子、金属ナノ粒子およびカーボンナノチューブを用いることもできる。
【0042】
冷却板構造体30は、冷却板によって構成され、内部にセル20を収容するための空間が形成されてなる構造体である。本実施形態においては、複数の冷却板32、34および38によって冷却板構造体30が構成されている。冷却板38は、加熱部から照射される電磁波を透過する透明窓として機能する(以下において、透明窓38ともいう。)。
【0043】
冷却板32、34および38は、熱伝導性の高い材料から構成される。特には、金属、またはガラスが好ましい。金属としては、アルミニウム、銅、鉄およびそれらのいずれかを含む合金が好ましい。透明窓38は、加熱部50から照射される電磁波の波長を透過するものであればよく、例えば、加熱部50が赤外光を照射する場合には、赤外光を透過するものであればよい。透明窓38としては光透過性を有するガラスが好適である。特には、透明窓38はガラスから構成され、それ以外の部分は金属プレートから構成されていることが特に好ましい。
【0044】
冷却板構造体30は後述の冷却部40によって冷却される。冷却部40によって直接冷却される部分(本実施形態においては、冷却板32)は、熱容量の大きな金属ブロックであることが好ましい。冷却板構造体の熱容量は、少なくともセルの熱容量よりも大きい。冷却板構造体の熱容量は、セルの熱容量よりも1桁以上大きいことがより好ましい。
【0045】
冷却板構造体30を構成する冷却板が少なくともセル20の主要な2面と接触する。主要な2面とは、セル20の外形を構成する面のうち、最も大きい面積を有する面を少なくとも含む。本実施形態においては、図1に示すように、セル20の底面20Aが冷却板構造体30の冷却板32と、セル20の上面20Bが冷却板38とそれぞれ接触している。本実施形態においては、セル20の外形を構成する面のうち底面20Aが、最も大きい面積を有する面であり、上面20Bが2番目に大きい面積を有する面である。このようにセル20の主要な2面20Aおよび20Bを冷却板に接触させているので、高い冷却効果を得ることができる。
【0046】
本実施形態においては、冷却部40はペルチェ素子から構成されており、冷却板構造体30を構成する冷却板32、34、38のうちの1つの冷却板32に接触して配置されている。この冷却板32と他の冷却板34、38は直接もしくは間接的に接触しており、熱伝導率の高い材料から構成されているので、冷却板構造体30はほぼ全体が均一な温度となる。
【0047】
冷却部40は、冷却板構造体30を所望の温度に維持可能な構成であれば、ペルチェ素子に限るものではなく、ファンなどの空冷機構、並びに、水あるいはその他の液体を用いた液冷機構等であってもよい。小型化の観点からペルチェ素子が好ましい。また、異なる冷却機構を組み合わせて用いてもよい。例えば、ペルチェ素子の裏面(冷却板構造体と接触している面の反対側の面)に放熱フィンを設け、さらに放熱フィンに対して空気を送るファンを備えてもよい。
【0048】
加熱部50は、検体液12を昇温させるための手段であり、電磁波源52を含む。加熱部50は検体液12を直接加熱するものであってもよいし、検体液12を収容するセルを加熱することにより間接的に検体液12を加熱するものであってもよいし、直接および間接的に検体液12を加熱するものであってもよい。
【0049】
加熱部50により照射される電磁波としては、波長0.1μm以上1000μm以下の範囲のものが好ましい。電磁波としては、波長0.2μm以上100μm以下が好ましく、0.4μm以上200μm以下がより好ましく、可視光から赤外光領域の波長0.5μm以上1.4μm以下の光が特に好ましい。
【0050】
電磁波源52としては、ハロゲンランプ等のフィラメントランプ、LED(light emitting diode)光源およびレーザ光源等を用いることができる。
【0051】
本実施形態において、加熱部50には、電磁波源52から出射された電磁波を集光する集光光学系54が備えられている。集光光学系54を備えることにより電磁波源52から出射された電磁波を検体液12および検体液12の周辺(セル20)に集光照射させることができ、好ましい。
【0052】
制御部60は、少なくとも加熱部50による電磁波の照射を制御する。本実施形態においては、同じ制御部60によって冷却部40による冷却も制御するように構成されている。なお、冷却部40の制御は別途の制御部で行うようにしてもよい。制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリおよびハードディスク等を備えたコンピュータから構成される。そして、制御部60には、ハードディスクに温度制御プログラムがインストールされており、温度制御プログラムにより温度制御が実行される。
【0053】
制御部60による温度制御は、アナログ方式であってもデジタル方式であってもよい。制御部60は、比例制御、積分制御、微分制御あるいはそれらを組み合わせたPID(Proportional-Integral-Differential)制御を行うものであってもよい。
【0054】
反応装置10において、検体液を第1の温度へ加熱する加熱工程と第1の温度よりも20℃以上低い第2の温度に冷却する冷却工程とを繰り返す温度制御を行う場合、制御部60は、冷却部40により冷却板構造体30の温度を第1の温度よりも20℃以上低い第2の温度に維持した状態で、加熱部50により検体液12を第1の温度に加熱する制御を行う。すなわち、冷却部40により冷却板構造体30を第2の温度に維持したまま、加熱部50による検体液局所的な加熱を行うので、加熱部50による加熱が停止されれば、検体液12は冷却板構造体30の温度、すなわち第2の温度まで高速に冷却される。制御部60は、例えば、冷却部40に対しては、PID制御により、冷却板構造体30の温度を一定温度に保つ制御を行い、加熱部50に対しては、加熱時にのみ電磁波照射をオンとし、降温時には電磁波照射をオフとするオンオフ制御を行うものであってもよい。
【0055】
反応装置10は、検体液12の温度を測定する温度センサ70を備えていてもよい。本実施形態においては、温度センサ70として熱電対を備え、熱電対先端がセル20に接触するように配置されている。反応装置10におけるセル20の温度と検体液12との温度の相関をあらかじめ測定しておけば、セル20の温度を測定することにより、間接的に検体液12の温度を測定することができる。
【0056】
温度センサ70としては、熱電対などの接触型のセンサの他、赤外線センサなどの非接触型のセンサを用いてもよい。検体液の温度測定用の温度センサは異なる箇所に複数備えていてもよい。さらに、冷却板構造体30の温度を測定するための温度センサを備えていてもよい。それぞれの温度センサは、制御部60と接続されて、温度制御の際のフィードバック制御に用いられてもよい。
【0057】
上記本実施形態の反応装置10は、電磁波を照射する加熱部50を備え、冷却板構造体30が加熱部50からの電磁波を透過する透明窓38を備えているので、電磁波を照射することにより1μL以上の検体液12を極めて高速に昇温させることができる。また、反応装置10は、検体液12を収容するセル20が冷却板構造体30に内包されており、セル20の底面20Aおよび上面20Bが冷却板に接触しているので、セル20の一面のみしか冷却板に接触していない場合と比較して1μL以上の検体液12であっても高速に降温させることができる。
【0058】
本反応装置10を用いれば、1μL以上の検体液に対して20℃以上、好ましくは30℃以上の温度差で加熱、冷却を繰り返す処理を高速に実施できるので、PCR法によるDNA増幅を非常に短時間で実施できる。検体液が1μL以上あれば、イムノクロマトによる分析および蛍光検出法、電気泳動による分析など種々の分析へ展開が可能である。
【0059】
次に、本発明の温度制御方法の一実施形態を用いたPCRについて説明する。
【0060】
検体液12を準備する。検体液12は、例えば、採取した血液、唾液および毛根などの生体試料あるいは作物等をサンプルからDNAの抽出および精製がなされた後、DNAにプライマーを含むPCR試薬が添加され調製してPCR反応液である。
【0061】
検体液12をセル20の蓋体26の開孔25から収容部21に注入する。その後、セル20の封止フィルム28により開孔25を封止した後に、セル20を冷却板構造体30内にセットする。このとき、セル20の底面20Aは冷却板32に接触させ、セル20の上面20Bは冷却板38(透明窓38)に接触させるようにセットする。
【0062】
PCRにおいては、検体液中に含まれる二本鎖DNAを一本鎖に解離させる熱変性工程、プライマーを一本鎖DNAに結合させるアニーリング工程、およびポリメラーゼにより新たに二重鎖DNAを合成する伸長反応工程を繰り返すことでDNA増幅がなされる。
【0063】
熱変性は、例えば、94℃から98℃、アニーリングは、例えば、55℃から65℃、伸長反応は、例えば、70℃から75℃の温度で生じる。しかし、時間の短縮化のため、アニーリング工程および伸長反応工程を一つにまとめて一工程とすることができることが多い。すなわち、検体液12に対して、熱変性を生じさせる第1の温度への昇温と、アニーリングおよび伸長反応を生じさせる第2の温度への降温とを繰り返すことによりDNA増幅を行うことができる。
【0064】
図4を参照して第1の温度と第2の温度とを繰り返す温度制御方法を説明する。図4の(a)が設定される検体液の設定温度を示すチャートであり、縦軸は検体液設定温度(℃)、横軸は時間である。図4の(b)は加熱部50における電磁波源52のオンオフ制御のタイミングチャートである。そして図4の(c)は冷却部40により冷却される冷却板構造体30の設定温度を示すチャートであり、縦軸が冷却板構造体設定温度(℃)、横軸は時間である。
【0065】
図4の(a)に昇温、降温履歴の一例を示すように、検体液12の温度を第1の温度Tまで昇温させた後、第2の温度Tまで降温させる加熱と冷却を繰り返す温度制御を行う場合、加熱部50に対しては、図4の(b)に示すように、加熱開始時に電磁波照射をON(点灯)とし、一定時間後に電磁波照射をOFF(消灯)とする制御を行う。電磁波の照射により検体液12の温度は急激に上昇するため、電磁波の照射時間は昇温時間よりも短く設定される。照射時間と第1の温度Tまでの上昇時間および第1の温度Tから第2の温度Tへの下降時間との関係はあらかじめ測定しておき、実際の反応時には予め測定された関係に基づいて照射時間および照射時間間隔を設定すればよい。
【0066】
一方、冷却部40は、図4の(c)に示すように、冷却板構造体30の温度を常に第2の温度Tに維持するように制御される。制御は、比例制御、積分制御、微分制御あるいはPID制御いずれであってもよい。
【0067】
PCRにおける温度制御の一例として、検体液を45℃に1分保持し、加熱して95℃で1分保持した後に、第1の温度Tである98℃へ加熱する加熱処理と、第2の温度Tである60℃へ冷却する冷却処理とを40回繰り返すことが挙げられる。反応装置10においては、60℃から98℃への昇温時間は、例えば1秒とすることができ、98℃から60℃への昇温時間は、例えば6秒とすることができる。第1の温度Tは、熱変性を生じさせる温度であり、第2の温度Tは、アニーリングおよび伸長反応を生じさせる温度である。本例において第1の温度Tと第2の温度Tとの差は38℃である。
【0068】
上記のように、冷却板構造体30の温度を第2の温度に保ったまま、検体液およびその周囲のセルのみを局所的に第1の温度へ上昇させることにより、検体液12の冷却を高速に行うことができ、降温時間を短縮させることができる。結果として、PCR反応にかかる時間を短縮でき、各種検査結果をより速く取得することができる。
【0069】
2018年3月29日に出願された日本出願特願2018-063899の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4