(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】炭素繊維プリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20220705BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220705BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
C08L63/00 Z
C08G59/40
(21)【出願番号】P 2018135537
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-02-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏
(72)【発明者】
【氏名】野原 敦
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157509(JP,A)
【文献】特開2011-195644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00
C08K 7/06
C08J 5/24
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、マトリクス樹脂として下記構成要素(A)、構成要素(B)および構成要
素(C)を含む樹脂組成物とからなる、炭素繊維プリプレグ
の製造方法において、ホット
メルト方式によって前記樹脂組成物を炭素繊維基材に含浸させる、炭素繊維プリプレグの
製造方法。
構成要素(A):1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネートエステル樹脂
構成要素(B):トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物
構成要素(C):エポキシ樹脂および/またはリン系硬化触媒
【請求項2】
前記構成要素(A)が、1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネート化合物
のプレポリマーとモノマーの混合物である、請求項1に記載の炭素繊維プリプレグ
の製造
方法。
【請求項3】
前記構成要素(A)が、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂である、請求項1
または2に記載の炭素繊維プリプレグ
の製造方法。
【請求項4】
前記構成要素(A)が、ノボラック型シアネートエステル樹脂である、請求項1または
2に記載の炭素繊維プリプレグ
の製造方法。
【請求項5】
前記構成要素(C)がエポキシ樹脂である、請求項1から4のいずれか1項に記載の炭
素繊維プリプレグ
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に耐熱用途に適した樹脂組成物、および該樹脂組成物を用いたプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂はその機械的特性から広く使用されている。特に炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を用いた繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂は最もよく用いられる。
【0003】
しかしながら、エポキシ樹脂を使用すると耐熱性が不足する場合があり使用方法に制限がある。耐熱性の改善のためにシアネートエステル樹脂を使用することが知られている。シアネートエステル樹脂は非常に高い耐熱性を発現するものの、単体では200℃以上の高温から硬化反応が開始するため、反応開始温度を下げるために各種触媒を添加することが多い。繊維強化複合材料は、中間材であるプリプレグを積層して、型に貼りつけてから熱と圧力を加え成形するが、200℃以上の耐熱性を有する材料の型は非常に高価となるため、150℃以下の比較的低い温度で一次硬化を行い脱型したのち、200℃以上の高温をかけることで最大限の耐熱性を発現させるという方法がよく取られている。そのため、150℃以下で脱型可能な程度まで一次硬化可能であることが求められる。
【0004】
また、プリプレグの作成時にはマトリックス樹脂の粘度を低下させ圧力を加えることで強化繊維シート内部まで含浸させる必要がある。粘度を低下させる方法としては各種溶剤にマトリックス樹脂を溶解させるラッカー法や、硬化反応が開始しない程度の温度(40℃から80℃程度)をかけるホットメルト法がある。ラッカー法では、マトリックス樹脂を含浸させたのち温度をかけて溶剤を乾燥除去するが、除去しきれない溶剤が成形物内部に残存し、ボイドの原因となることがある。そのため、溶剤を用いないホットメルト法が望ましいが、一次硬化可能な反応性と、ホットメルト化可能な熱安定性を両立させることが課題となる。
【0005】
シアネートエステル樹脂の硬化反応触媒としては金属触媒やイミダゾール化合物が一般的である。特許文献1には、触媒としてイミダゾール化合物を使用したシアネートエステル系樹脂組成物が開示されている。しかし、150℃以下での低温硬化性や、熱安定性に関してはなんら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、150℃以下で一次硬化可能でありながら熱安定性も良好であり、さらに硬化後の耐熱性に優れた樹脂組成物、および成形後の耐熱性に優れた繊維強化複合材料用プリプレグを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、シアネートエステル樹脂の硬化触媒として特定にイミダゾール化合物を使用し、更に特定の化合物を併用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明の要旨は、以下の[1]から[6]に存する。
[1] 下記構成要素(A)、構成要素(B)および構成要素(C)を含む樹脂組成物。
構成要素(A):1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネートエステル樹脂
構成要素(B):トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物
構成要素(C):エポキシ樹脂および/またはリン系硬化触媒
[2] 前記構成要素(A)が、1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネート化合物のプレポリマーとモノマーの混合物である、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記構成要素(A)が、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂である、上記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記構成要素(A)が、ノボラック型シアネートエステル樹脂である、上記[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[5] 前記構成要素(C)がエポキシ樹脂である、上記[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 炭素繊維と、マトリクス樹脂として上記[1]から[5]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を含む炭素繊維プリプレグ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、150℃以下で一次硬化可能でありながら、熱安定性にも優れ、硬化後の耐熱性に優れる。
本発明のプリプレグは、150℃以下で脱型可能な一次硬化性を有し、かつ熱安定性も優れ、しかも、成形後の繊維強化複合材料は耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「シアネートエステル樹脂」とは、分子中にシアナト基を有する化合物を指す。
【0011】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、下記構成要素(A)、構成要素(B)および構成要素(C)を含むことを特徴とする。
構成要素(A):1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネート化合物
構成要素(B):トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物
構成要素(C):エポキシ樹脂および/またはリン系硬化触媒
【0012】
<構成要素(A)>
構成要素(A)は、1分子中に2個以上のシアナト基を含有するシアネートエステル樹脂である。
シアネートエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールAジシアネート、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェニルシアネート)、4,4’-エチリデンジフェニルジシアネート、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、ビス(4-シアネート-3,5-ジメチルフェニル)メタン、1,3-ビス(4-シアネートフェニル-1-(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4-シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジシクロペンタジエン構造含有フェノール樹脂等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。シアネートエステル樹脂は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
市販されているシアネートエステル樹脂としては、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂(三菱ガス化学(株)製、TA)、フェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製、PT30)、ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(三菱ガス化学(株)製、TA-500)、ジシクロペンタジエン構造含有シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン(株)製、DT-7000)等が挙げられる。
【0014】
構成要素(A)としては、硬化物にした際に耐熱性に優れ、機械的特性にも優れるという観点からビスフェノールA型シアネートエステル樹脂またはフェノールノボラック型多官能シアネートエステル樹脂が好ましく、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂が特に好ましい。プリプレグとした際の取扱い性に優れる粘度を有することから、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂のプレポリマーが好ましい。また、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂のプレポリマーとビスフェノールA型シアネートエステル樹脂の混合物とすることは、所望の粘度に調整が可能であることから好ましい。
【0015】
<構成要素(B)>
構成要素(B)は、トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物である。
トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物は、イミダゾール環の1位窒素に1、3、5-トリアジン(単にトリアジンまたはs-トリアジンとも称する)環を有する置換基を有する。トリアジン環とイミダゾール環は直接結合していてもよいが、炭素数1~4のアルキレン基で結合されていることが好ましく、エチレン基で結合されていることが特に好ましい。トリアジン環を有する置換基は、トリアジン環に2、4位にアミノ基を有していることが好ましい。トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物は、イソシアヌル酸との付加物としてもよい。トリアジン環を含むイミダゾール化合物を使用することにより、樹脂組成物の150℃以下での一次硬化性を高めることができる。
【0016】
トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物の例としては、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジン、2,4 - ジアミノ - 6 - [2' - ウンデシルイミダゾリル - (1')] - エチル - s - トリアジン、2,4-ジアミノ - 6 - [2' - エチル - 4' - メチルイミダゾリル - (1')] -エチル - s - トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンのイソシアヌル酸付加塩等を挙げることができる。これらは、2MZ-A、C11Z-A、2E4MZ-A、2MA-OK等の商品名(四国化成工業(株)製)で市販されている。低温硬化性と熱安定性のバランスに優れる点で2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンのイソシアヌル酸付加塩が好ましい。
【0017】
構成要素(B)の「トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物」は、微粒子状の固体として、樹脂組成物中に含まれることが好ましい。微粒子状の固体として、樹脂組成物中に含まれることにより、特定の温度未満では樹脂組成物中で固体として存在するため硬化反応の触媒としての作用が起こりづらく、特定の温度以上では樹脂組成物中で溶解し硬化反応を促進しやすくなるため、熱安定性の確保と低温硬化性を両立しやすくなる。
【0018】
構成要素(B)のトリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物の粒径は1から15μmが好ましく、3から10μmがさらに好ましい。1μm以上とすることで、熱安定性を確保しやすくなる。15μm以下とすることで低温硬化性を発現しやすくなる。微粒子状の「トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物」は、2MZA-PW(四国化成工業(株)製)や2MAOK-PW(四国化成工業(株)製)として入手することもできる。
【0019】
構成要素(B)の配合量は、構成要素(A)100質量部に対して0.1から5質量部が好ましく、0.5から2.0質量部がさらに好ましい。0.1質量部以上とすることで低温硬化性を発現させることができ、5質量部以下とすることで機械的物性の低下を防ぐことができる。
【0020】
<構成要素(C)>
構成要素(C)はエポキシ樹脂および/またはリン系硬化触媒である。
構成要素(B)の「トリアジン環を有する置換基を含むイミダゾール化合物」とともに構成要素(C)を用いることで、低温硬化性を発現させることができる。構成要素(C)はエポキシ樹脂とリン系硬化触媒のいずれかが含まれていればよく、エポキシ樹脂とリン系硬化触媒を併用してもよい。構成要素(B)が粉状であることから、液状であるエポキシ樹脂に混ぜることが取扱いの観点から好ましので、構成要件(C)としては、エポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂としては特に制限なく使用することが可能であるが、硬化物の耐熱性を高める点で分子内に2個以上のエポキシ基をもつものが好ましい。 エポキシ樹脂としては、jER828(三菱ケミカル(株)製)等のビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、jER1001(三菱ケミカル(株)製)等のビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、jER630、jER604(いずれも三菱ケミカル(株)製)、MY05000、MY0600(いずれもハンツマン社製)等のグリシジルアミン型液状エポキシ樹脂、jER807(三菱ケミカル(株)製)等のビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、jER4004P(三菱ケミカル(株)製)等のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂、jER152(三菱ケミカル(株)製)等のフェノールノボラック型液状エポキシ樹脂、jER154(三菱ケミカル(株)製)、N-775(DIC(株)製)等のフェノールノボラック型固形エポキシ樹脂、その他ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
取扱い性に優れることから液状エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
エポキシ樹脂は構成要素(A)100質量部に対して0.1から5質量部とすることが好ましく、0.5から3質量部とすることがより好ましい。0.1質量部以上とすることで、低温硬化性を発現させることができ、5質量部以下とすることで、硬化物の耐熱性低下を防ぐことができる。
【0023】
リン系硬化触媒としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ‐p-トリルボレート等が挙げられる。これらは、TPP、TPP-S、TPP-K、TPP-MKの商品名(北興化学工業(株)製)で市販されている。硬化促進作用に優れることからテトラフェニルホスホニウムテトラ‐p-トリルボレートが好ましい。
【0024】
リン系硬化触媒は構成要素(A)100質量部に対して0.1から5質量部とすることが好ましく、0.5から3質量部とすることがより好ましい。0.1質量部以上とすることで、低温硬化性を発現させることができ、5質量部以下とすることで、熱安定性低下を防ぐことができる。
【0025】
<他の成分>
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。他の成分としては、ビスマレイミド樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂や、充填剤、溶剤、顔料、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。
ビスマレイミド樹脂は耐熱性を向上させる目的で添加される。ビスマレイミド樹脂としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル‐5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂は樹脂組成物の硬化物の靱性を向上させる目的で添加される。熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルホルマール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。熱可塑性樹脂は微粒子として添加してもよく、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン等の微粒子が挙げられる。
【0027】
<混合方法>
本発明の樹脂組成物の各構成要素を混合する方法は特に制限なく行うことができるが、微粒子状の物質を混合する際は、微粒子状の物質と液状の物質を適当な割合で混合し、3本ロール等で十分混練したマスターバッチを作成しておき、後で他の構成成分に加えることが、微粒子の分散状態を均一にできる点で好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物の用途は、特に制限されるものでなく、例えば、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂や、構造材料用の接着剤等として適用することができ、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として特に好適に用いることができる。
【0029】
<強化繊維>
繊維強化複合材料を成形するときの強化繊維材料としては、特に制限されるものではなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、窒化ケイ素繊維等の一般の繊維強化複合材料の強化繊維材料として用いられるものの全てが使用可能である。特に比強度、比弾性率に優れることから、炭素繊維を用いることが好ましい。また、強化繊維材料の形態としても特に制限はなく、例えば、一方向材、クロス、マット、或いは数千本以上のフィラメントよりなるトウ等を使用し得る。
【0030】
<プリプレグ>
本発明の樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて組み合わせることにより、プリプレグとすることができる。本発明の繊維強化複合材料用プリプレグは、本発明の樹脂組成物と強化繊維とを用いて、公知の方法で製造することができる。本発明の樹脂組成物を用いたプリプレグを作成する方法としては、ホットメルト方式が好ましい。ホットメルト方式によるプリプレグの作成の際に樹脂組成物を含浸させるときは、作成するプリプレグの貯蔵安定性を確保するために、80℃ 以下で行うことが好ましく、70 ℃ 以下で行うことがより好ましい。
【0031】
プリプレグ中の樹脂組成物の含有率は、15~50質量%が好ましく、20~45質量%がより好ましい。15質量%以上とすることで繊維強化複合材料とした際の機械的強度を発現させることができ、50質量%以下とすることで繊維強化複合材料とした際の機械的強度を高めることができる。
【0032】
(プリプレグの繊維目付)
プリプレグの繊維目付(1m2あたりの強化繊維の含有量:FAW)は、プリプレグの用途に応じて適宜設定すればよく、通常、50~300g/m2である。
【0033】
(プリプレグの厚さ)
プリプレグの厚さは、プリプレグの用途に応じて適宜設定すればよく、通常、0.05~0.3mmである。
なお、プリプレグの厚さはシックネスゲージで測定できる。
【実施例】
【0034】
実施例で用いた樹脂原料を以下に示す。
(構成要素(A))
TA:ビスフェノールAジシアネート(三菱ガス化学(株)製、商品名「TA」)
TA-500:ビスフェノールAジシアネートのプレポリマー(三菱ガス化学(株)製、商品名「TA-500」)
XU-371:フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(ハンツマン社製、商品名「Arocy XU-371」)
【0035】
(構成要素(B))
2MZA-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(四国化成工業(株)製、商品名「2MZA-PW」)
2MAOK-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンのイソシアヌル酸付加塩(四国化成工業(株)製、商品名「キュアゾール2MAOK-PW」)
【0036】
(構成要素(C))
jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、商品名「jER828」)
TPP-MK:テトラフェニルホスホニウムテトラ‐p-トリルボレート(北興化学工業(株)製、商品名「TPP-MK」)
【0037】
(その他の成分)
2PHZ-PW:2-フェニル‐4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製、商品名「キュアゾール2PHZ‐PW」)
2P4MHZ-PW:2-フェニル‐4‐メチル‐5‐ヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製、商品名「キュアゾール2P4MHZ‐PW」)
オクチル酸亜鉛:2-エチルヘキサン酸亜鉛(日本化学産業(株)製、商品名「ニッカオクチックス亜鉛18%」)
【0038】
(熱安定性の評価)
各実施例及び比較例で調製した樹脂組成物につき、以下の通り等温粘度測定を行った。測定開始時点での粘度に対する6時間経過後の粘度の倍率を求めた。
装置:AR-G2(ティー・エー・インスツルメント社製)
使用プレート:直径25mmのパラレルプレート
プレートギャップ:0.5mm
測定周波数:10rad/sec
測定温度:60℃
測定間隔:1分
ストレス:300Pa
【0039】
(樹脂板の作製)
各実施例及び比較例で調製した樹脂組成物を、離型処理された2枚の4mm厚のガラス板の間に2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製スペーサを挟んだ隙間に注入し、135℃で120分間加熱して一次硬化樹脂板を得た。一次硬化樹脂板をガラス板から取り外し、フリースタンドの状態で250℃2時間加熱し、二次硬化樹脂板を得た。
【0040】
(硬化物のガラス転移点測定)
一次硬化樹脂板、二次硬化樹脂板それぞれについて樹脂板から長さ:55mm、幅:12.7mm、厚さ:2mmの試験片を切り出した。動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、DMA Q-800)を用いて、周波数:1Hz、歪み:0.02%、昇温速度:5℃/分の条件で曲げモードでの貯蔵弾性率E’を測定した。logE’を温度に対してプロットし、logE’の転移する前の平坦領域の近似直線とlogE’が転移する領域の近似直線との交点から求められる温度をガラス転移点とした。
【0041】
<樹脂組成物の調製>
(実施例1)
jER828と2MZA-PWを質量比1:1で混合し、3本ロールを用いて均一に分散させてペースト状のマスターバッチを得た。表1に示した割合となるようにTAとTA-500をフラスコに秤量し、100℃にて均一に溶解、混合した。得られた溶解物を60℃程度まで降温させ、上述のマスターバッチを加え、均一になるまで撹拌し、樹脂組成物1を得た。
得られた樹脂組成物1を評価した。評価結果を表1に示した。
【0042】
【0043】
(実施例2)
表1に示した割合となるようにTAとTA-500をフラスコに秤量し、100℃にて均一に溶解、混合した。得られた溶解物を60℃程度まで降温させ、2MZA-PW、TPP-MKを加え、均一になるまで撹拌し、樹脂組成物2を得た。得られた樹脂組成物2の評価結果を表1に示した。
【0044】
(実施例3)
jER828と2MZA-PWを質量比1:1で混合し、3本ロールを用いて均一に分散させてペースト状のマスターバッチを得た。jER828とTPP-MKを質量比3:2で混合し、3本ロールを用いて均一に分散させてペースト状のマスターバッチを得た。表1に示した割合となるようにTAとTA-500をフラスコに秤量し、100℃にて均一に溶解、混合した。得られた溶解物を60℃程度まで降温させ、上述のマスターバッチを加え、均一になるまで撹拌し、樹脂組成物3を得た。得られた樹脂組成物3の評価結果を表1に示した。
【0045】
(実施例4)
割合を表1の通りに変更した以外は実施例3と同様に樹脂組成物を調製し、評価を行った。
【0046】
(実施例5~7)
割合を表1の通りに変更した以外は実施例2と同様に樹脂組成物を調製し、評価を行った。
【0047】
(比較例1,2)
割合を表1の通りに変更した以外は実施例3と同様に樹脂組成物を調製し、評価を行った。
【0048】
(比較例3~5)
割合を表1の通りに変更した以外は実施例2と同様に樹脂組成物を調製し、評価を行った。
【0049】
(実施例8)
コンマコーターを用いて、実施例1で調製した樹脂組成物1を離型紙上に樹脂目付35.2g/m2となるように均一に塗布して樹脂フィルムを形成した。ついでドラムワインド装置にて、この樹脂フィルム上(離型紙の、樹脂フィルム形成側表面)に、繊維目付が125g/m2のシートになるように、炭素繊維(三菱ケミカル株式会社製、製品名:MR70)を巻きつけた。更に、もう1枚の樹脂フィルムをドラムワインド装置上で炭素繊維シート上に貼り合わせた。2枚の離型紙及び樹脂フィルムに挟まれた炭素繊維シートを、ローラーで100℃、線圧0.2MPaで加熱及び加圧して、エポキシ樹脂組成物を炭素繊維シートに含浸させ、繊維目付が125g/m2、樹脂含有率が36質量%のプリプレグを作製した。ついで、前記プリプレグを縦300mm×300mmに切断し、繊維の配向方向を揃えて16枚積層したものを、バッグ内に入れ、オートクレーブ内で135℃にて2時間加熱し、1次硬化させて成形板(繊維強化複合材料)を作製した。バッグから取り出した繊維強化複合材料をオーブン内で250℃にて2時間加熱することで2次硬化を行った。 1次硬化したもの、2次硬化したものそれぞれについて(硬化物のガラス転移点測定)に記載した方法に従ってガラス転移点を測定した。評価結果を表2に示した。
【0050】
【0051】
実施例1から7は135℃2時間での1次硬化の評価において低温硬化性を有しかつ熱安定性も良好であり、2次硬化後の耐熱性も良好であった。トリアジン環構造を有する置換基を含まないイミダゾールを用いた比較例1から2は低温硬化性を有さなかった。構成要素(C)を含まない比較例3から4も低温硬化性を有さなかった。金属触媒を用いた比較例5は低温硬化性を有するものの、熱安定性が不足した。実施例8に示した通り、本発明の樹脂組成物をプリプレグとしたものも低温硬化性を有しかつ硬化物の耐熱性も良好であった。
【0052】
本発明の樹脂組成物は150 ℃ 以下の低温での一次硬化性に優れ、しかも熱安定性に優れており、又低温で一次硬化させた硬化物を高温で二次硬化させることによって優れた耐熱性を具備する硬化物になる。また、本発明のプリプレグは、150 ℃ 以下の低温での一次硬化性に優れ、又低温で一次硬化させた硬化物を高温で二次硬化させることによって優れた耐熱性、機械的強度を具備する繊維強化複合材料になる。本発明の樹脂組成物、プリプレグは航空機部材、自動車部材、自転車部材、鉄道車両部材、船舶部材等の耐熱性が要求される分野に好適に用いられる。