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特許7099175シリコン単結晶の製造方法及びシリコンウェーハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法及びシリコンウェーハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220705BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20220705BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20220705BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B29/06 502H
C30B15/20
G01N27/00 Z
H01L21/324
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018158369
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033200
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】梶原 薫
(72)【発明者】
【氏名】原田 和浩
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/025340(WO,A1)
【文献】特開2006-347853(JP,A)
【文献】国際公開第2017/214084(WO,A1)
【文献】特表2016-519049(JP,A)
【文献】国際公開第2009/025337(WO,A1)
【文献】特開2013-129564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
G01N 27/00
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下であり、酸素濃度が1×1017atoms/cm以上4×1017atoms/cm以下であるシリコン単結晶をチョクラルスキー法により製造する方法であって、
窒素が添加されたシリコン融液を生成し、
カスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置を前記シリコン融液の液面よりも上方10mm以上100mm以下の範囲内に設定し、
前記シリコン融液に前記カスプ磁場を印加しながらGrown-in欠陥が発生しない引き上げ速度で前記シリコン単結晶を引き上げ、
前記カスプ磁場の強度が500G以上700G以下であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記カスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置前記シリコン融液の液面の上方10mm以上100mm以下の範囲内に設定され、及び前記シリコン融液を保持するルツボの上方に設置された熱遮蔽体と前記シリコン融液の液面との間隔が一定になるように前記ルツボを上昇させる、請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン融液を保持するルツボの回転速度が3rpm以上6rpm以下である、請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶の回転速度が15rpm以上20rpm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下であり、
酸素濃度が1×1017atoms/cm以上4×1017atoms/cm以下であり、
抵抗率の面内ばらつきが3.5%以下であり、
Grown-in欠陥が存在せず、
酸素析出評価熱処理後に酸素析出物が発生しないことを特徴とするシリコンウェーハ。
【請求項6】
前記酸素析出評価熱処理は、780℃で3時間及び1000℃で16時間の2段階の熱処理であり、
前記酸素析出評価熱処理後におけるLSTD密度が検出限界以下である、請求項5に記載のシリコンウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、IGBT(Gate Insulated Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の基板材料として好適なシリコン単結晶の製造方法に関する。また、本発明は、IGBTの基板材料として好適なシリコンウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイスの一つとしてIGBTが知られている。IGBTは、MOSFETに正孔注入用PN接合が付加された構造を有し、エミッタ、コレクタ、ゲートという3つの電極を有する。エミッタはn型シリコン基板の表面側に形成されており、コレクタはpn接合を介してシリコン基板の裏面側に形成されている。さらにゲートはゲート酸化膜を介してシリコン基板の表面側に形成され、ゲートに印加する電圧によってエミッタ-コレクタ間を流れる電流を制御する。IGBTは大電力の制御に適したゲート電圧駆動型スイッチング素子であることから、電車、ハイブリッド車、空調機器、冷蔵庫などのインバータなどに広く用いられている。
【0003】
IGBT用シリコンウェーハには結晶欠陥がなく、デバイスプロセスの熱処理過程で酸素析出起因の欠陥が発生しないことが望まれる。上記のように、IGBTはゲート酸化膜によって絶縁されたゲートで電流を制御するため、ゲート酸化膜の品質(Gate Oxide Integrity:以下、GOIという)が非常に重要であり、シリコンウェーハ中に存在する欠陥がゲート酸化膜に取り込まれると、GOI特性が劣化してゲート酸化膜の絶縁破壊の原因となるからである。
【0004】
またIGBT用シリコンウェーハにはその表面近傍のみならずウェーハ内部にも結晶欠陥がないことが望まれる。メモリやロジック用途の半導体デバイスの場合にはウェーハの表面近傍のみをデバイス領域として使用するので、表面近傍よりも深い領域に酸素析出起因の欠陥が存在しても特に問題なく、むしろそのような欠陥は重金属汚染を防止するゲッタリングサイトとして機能するため、ある程度必要とされている。しかし上記のように、IGBTはウェーハを縦方向(厚み方向)に使用する素子であり、表面近傍よりも深い領域に存在する結晶欠陥もIGBT特性に影響を与えることから、ウェーハの厚み方向の全域に欠陥が存在せず、さらに酸素析出起因の欠陥も発生しないことが求められる。
【0005】
IGBT用シリコンウェーハの格子間酸素濃度はできるだけ低いことが望ましい。シリコンウェーハ中の酸素濃度が高いと、デバイスプロセスの熱処理過程でウェーハ中の過剰な酸素がSiOとなって析出し、IGBTにおける重要な特性である再結合ライフタイムを劣化させるからである。また過剰な酸素を含むシリコンウェーハが450℃程度の低温熱処理を受けると酸素ドナーが発生してウェーハの抵抗率が変化するからである。
【0006】
IGBT用シリコンウェーハの抵抗率は重要な品質の一つであり、均一性と安定性が求められる。特に、ウェーハ面内の抵抗率分布の均一性が求められ、且つ、デバイスプロセスの熱処理を経ても抵抗率が変化しないことが重要である。
【0007】
このため、IGBT用シリコンウェーハには、酸素濃度が低く、抵抗率の面内分布が均一であり、結晶成長時に導入されるGrown-in欠陥が存在せず、さらにIGBT製造工程で酸素析出物が結晶全域に発生しないことが求められている。酸素濃度が低いシリコン単結晶の製造方法として、酸素の供給源となる石英ルツボを用いないFZ(Floating Zone)法も知られている。しかし、FZ法では大口径の単結晶育成は困難であり、量産性を向上させる観点からも、CZ法を採用することが望ましく、酸素濃度が低くGrown-in欠陥フリーなシリコン単結晶をCZ法により製造することが求められている。
【0008】
IGBT用シリコンウェーハの製造方法に関し、例えば特許文献1には、シリコン融液に2000ガウス以上の水平磁場を印加した状態で、ルツボ回転速度及び結晶回転速度を調整することにより、格子間酸素濃度が4×1017atoms/cm以下であり、抵抗率の面内ばらつきが5%以下である、Grown-in欠陥フリーなシリコン単結晶を製造することが記載されている。また特許文献1には、シリコン融液に窒素を添加することでGrown-in欠陥フリーなシリコン単結晶を引き上げ可能な引き上げ速度マージンを広げて、COP(Crystal Originated Particle)及び転位クラスターの排除を容易にすることが記載されている。さらに特許文献1には、ノンドープで引き上げたシリコン単結晶に中性子を照射してリンをドープすることによりウェーハ面内の抵抗率分布を均一化することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/025340号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、窒素がドープされたシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる場合には、無欠陥結晶を育成可能な引き上げ速度マージンを拡大させてCOP及び転位クラスターを排除することが可能である。また、窒素には酸素析出を促進させる作用があることは知られているが、シリコン単結晶の格子間酸素濃度が4×1017atoms/cm以下という非常に低い濃度であれば、たとえ窒素が添加されていても酸素析出は生じないとこれまでは考えられていた。
【0011】
しかしながら、本願発明者らの研究によれば、無欠陥結晶を育成可能な引き上げ速度マージンを拡大させるためには、1×1014atoms/cm以上の高濃度の窒素をドープする必要があり、水平磁場を印加しながら単結晶を引き上げる従来の製造方法において高濃度の窒素ドープを行った場合には、たとえ結晶中の格子間酸素濃度が4×1017atoms/cm以下であったとしても、IGBT製造時の熱処理によってウェーハ中心部に酸素析出起因の欠陥(酸素析出物)が発生する問題が明らかとなった。
【0012】
また、水平磁場を印加しながら単結晶を引き上げる従来の製造方法において高濃度の窒素ドープを行った場合には、抵抗率の面内分布のばらつきが大きくなるという問題がある。その対策として、中性子照射を行ってリンをドープすることにより、ウェーハ面内の抵抗率分布をより均一にする方法も提案されている。しかし、中性子照射を行うには軽水炉などの特別な設備が必要であり、中性子照射できる機関は世界に数社しかなく、工業生産性に適さない。
【0013】
したがって、本発明の目的は、引き上げ速度マージンが広く、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下であり、抵抗率の面内ばらつきが小さく、Grown-in欠陥のみならず酸素析出評価熱処理後に酸素析出物が検出されないシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、そのようなシリコン単結晶から切り出されたIGBT用基板として好適なシリコンウェーハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、窒素を高濃度にドープしても酸素析出起因の欠陥が発生しないシリコン単結晶の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、カスプ磁場を特定の条件下で印加しながら結晶育成を行った場合に、ウェーハ面内の抵抗率分布の均一化が向上され、窒素濃度が1×1014atoms/cm以上かつ酸素濃度が4×1017atoms/cm以下であり、熱処理後に酸素析出起因の欠陥が発生しないGrown-in欠陥フリーのシリコン単結晶が得られることを見出した。
【0015】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下であり、酸素濃度が1×1017atoms/cm以上4×1017atoms/cm以下であるシリコン単結晶をチョクラルスキー法により製造する方法であって、窒素が添加されたシリコン融液を生成し、カスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置を前記シリコン融液の上方に設定し、前記シリコン融液に前記カスプ磁場を印加しながらGrown-in欠陥が発生しない引き上げ速度で前記シリコン単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、窒素がドープされていても酸素析出起因の欠陥が発生しないシリコン単結晶を製造することができる。またシリコン単結晶中に窒素がドープされているので、COP、転位クラスター及びOSF核を含まない無欠陥結晶を育成可能な引き上げ速度マージンを広げることができ、無欠陥結晶の歩留まりを高めることができる。また抵抗率の面内ばらつきが3.5%以下のシリコン単結晶を製造することができる。
【0017】
本発明において、前記カスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置は、前記シリコン融液の液面の上方10mm以上100mm以下の範囲内に設定されることが好ましい。カスプ磁場を印加したとしてもその磁場中心位置によってはシリコン単結晶中の酸素濃度が4×1017atoms/cm以下にならない場合がある。しかし、カスプ磁場中心位置を融液面の上方10mm以上100mm以下の範囲内に設定した場合には、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶を安定的に製造することができる。
【0018】
本発明において、前記カスプ磁場の強度は500G以上700G以下であることが好ましい。また、前記シリコン融液を保持するルツボの回転速度は3rpm以上6rpm以下であることが好ましい。さらに、前記シリコン単結晶の回転速度は15rpm以上20rpm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明によるシリコンウェーハは、窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下であり、酸素濃度が1×1017atoms/cm以上4×1017atoms/cm以下であり、抵抗率の面内ばらつきが3.5%以下であり、Grown-in欠陥が存在せず、酸素析出評価熱処理後に酸素析出物が発生しないことを特徴とする。本発明によれば、IGBTの基板材料として好適なシリコンウェーハを提供することができる。
【0020】
本発明において、前記酸素析出評価熱処理は、780℃で3時間及び1000℃で16時間の2段階の熱処理であり、前記酸素析出評価熱処理後におけるLSTD密度が検出限界以下であることが好ましい。すなわち、Grown-in欠陥が存在せず、酸素析出評価熱処理後に酸素析出物が発生しないとは、酸素析出評価熱処理後に赤外散乱トモグラフ法でサイズが20nm以上のLSTDを測定した場合におけるLSTD密度が検出限界以下(<1×10個/cm)であることを言う。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、引き上げ速度マージンが広く、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下であり、抵抗率の面内ばらつきが小さく、Grown-in欠陥のみならず酸素析出評価熱処理後に酸素析出物が検出されないシリコン単結晶の製造方法を提供するができる。また、本発明によれば、そのようなシリコン単結晶から切り出されたIGBT用基板として好適なシリコンウェーハを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
図4図4は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との関係を示す模式図である。
図5図5は、速度変量引き上げを説明する模式図である。
図6図6は、比較例及び実施例によるシリコン単結晶インゴットの抵抗率の面内分布を示すグラフであって、(a)は比較例、(b)は実施例をそれぞれ示している。
図7図7は、比較例によるシリコン単結晶インゴットのLSTD密度の測定結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例によるシリコン単結晶インゴットの評価結果を示すグラフであって、(a)は酸素濃度分布、(b)はLSTD密度分布をそれぞれ示している。
図9図9は、カスプ磁場中心位置が異なる4条件で引き上げたシリコン単結晶インゴットの無欠陥領域の酸素濃度の結晶成長方向における変化を示すグラフであり、横軸は結晶成長方向の位置、縦軸は酸素濃度をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【0025】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内でシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持するグラファイト製のサセプタ12と、サセプタ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、サセプタ12を取り囲むように配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内周面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方に吊設けられた単結晶引き上げ用ワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
【0026】
また単結晶製造装置1は、チャンバー10の外側に配置された磁場発生装置21と、チャンバー10内を撮影するカメラ22と、カメラ22で撮影した画像を処理する画像処理部23と、画像処理部23の出力に基づいてシャフト駆動機構14、ヒーター15、ワイヤー巻き取り機構19及び磁場発生装置21を制御する制御部24とを備えている。
【0027】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、サセプタ12、ヒーター15、及び熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)を導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部には不活性ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。またメインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況(固液界面)を覗き窓10eから観察可能である。
【0028】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と、湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。サセプタ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を保持する。石英ルツボ11及びサセプタ12はチャンバー10内においてシリコン融液2を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0029】
サセプタ12は鉛直方向に伸びる回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部中央を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。サセプタ12、回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は、石英ルツボ11の回転機構及び昇降機構を構成している。
【0030】
ヒーター15は石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を溶融して溶融状態を維持するために設けられている。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーター15であり、サセプタ12内の石英ルツボ11の全周を取り囲むように設けられた略円筒状の部材である。さらにヒーター15の外側は断熱材16に取り囲まれており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
【0031】
熱遮蔽体17はシリコン融液2の温度変動を抑制して固液界面近傍に適切なホットゾーンを形成すると共に、ヒーター15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。シリコン融液2の上方を覆う略円筒状のグラファイト製の部材である。熱遮蔽体17の下端中央にはシリコン単結晶3の直径よりも大きな円形の開口が形成されており、シリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。
【0032】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は徐々に減少するが、融液面と熱遮蔽体17との間隔が一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのSiOガスの蒸発量を制御することができる。
【0033】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共に単結晶を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の下端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。単結晶の引き上げ時には種結晶をシリコン融液2に浸漬し、石英ルツボ11と種結晶をそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることにより単結晶を成長させる。
【0034】
プルチャンバー10bの上部にはチャンバー10内に不活性ガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの底部にはチャンバー10内の不活性ガスを排気するためのガス排出口10dが設けられている。不活性ガスはガス導入口10cからチャンバー10内に導入され、その導入量はバルブにより制御される。また密閉されたチャンバー10内の不活性ガスはガス排出口10dからチャンバー10の外部へ排気されるので、チャンバー10内で発生するSiOガスやCOガスを回収してチャンバー10内を清浄に保つことが可能となる。
【0035】
磁場発生装置21は上下方向に対向する上部コイル21a及び下部コイル21bを用いて構成されており、一対の磁場発生用コイルにそれぞれ逆向きの電流を流すことによってチャンバー10内にカスプ磁場を発生させる。図中では、「・」は紙面から出てくる電流の流れを示し、「×」は紙面に入っていく電流の流れを示している。
【0036】
カスプ磁場は引き上げ軸に対して軸対称であり、磁場中心点では互いの磁界が打ち消し合って垂直方向の磁場強度はゼロとなる。磁場中心点から外れた位置では垂直方向の磁場は存在し、半径方向に向かう水平磁場が形成される。またカスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置(磁場中心高さ)はシリコン融液2の液面よりも上方に位置させる。特に液面位置の上方10mm以上100mm以下の範囲内に設定されることが好ましい。このように、シリコン融液2にカスプ磁場を印加することで磁力線に直交する方向の融液対流を抑制することができる。その結果、石英ルツボ11からシリコン融液2への酸素取り込み量が低減されるとともに、シリコン融液2からの酸素の蒸発も促進されることにより、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶を安定的に製造することができる。また、熱処理後の酸素析出起因の欠陥の発生を防止することができる。
【0037】
メインチャンバー10aの上部には内部を観察するための覗き窓10eが設けられており、カメラ22は覗き窓10eの外側に設置されている。単結晶引き上げ工程中、カメラ22は覗き窓10eから熱遮蔽体17の開口を通して見えるシリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部の画像を撮影する。カメラ22は画像処理部23に接続されており、撮影画像は画像処理部23で処理され、処理結果は制御部24において結晶引き上げ条件の制御に用いられる。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するフローチャートである。また図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0039】
図2及び図3に示すように、シリコン単結晶の製造では、石英ルツボ11内のシリコン原料を加熱してシリコン融液2を生成する(ステップS11)。シリコン融液2に窒素をドープするため、石英ルツボ11内には高純度多結晶シリコン塊と共にシリコン窒化物が充填される。シリコン窒化物としては、窒化膜付きシリコンウェーハを用いることができる。窒素をドープする際は、所定の結晶位置で所望の窒素濃度となるように、偏析を考慮した分量の窒化物を加える必要がある。
【0040】
次に、ワイヤー18の下端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる(ステップS12)。その後、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げてシリコン単結晶3を成長させる結晶引き上げ工程(ステップS13~S16)を実施する。
【0041】
結晶引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程(ステップS13)と、結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程(ステップS14)と、結晶直径が一定に維持されたボディー部3cを形成するボディー部育成工程(ステップS15)と、結晶直径が徐々に減少したテール部3dを形成するテール部育成工程(ステップS16)が順に実施され、単結晶が融液面から最終的に切り離されて結晶引き上げ工程が終了する。
【0042】
以上により、単結晶の上端(トップ)から下端(ボトム)に向かって順に、ネック部3a、ショルダー部3b、ボディー部3c(直胴部)、及びテール部3dを有するシリコン単結晶インゴットが完成する。
【0043】
シリコン単結晶3のボディー部3cの窒素濃度は1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下である。窒素濃度が下限値未満では無欠陥結晶を育成可能な引き上げ速度マージンを拡大させることが困難となり、上限値を超えるとシリコン中の窒素が固溶限界に近づいてしまい、無転位で単結晶を育成することができなくなるからである。シリコン単結晶中の窒素濃度がこの範囲内であれば、無欠陥結晶を育成可能な引き上げ速度マージン(特にPv領域が得られる引き上げ速度マージン)を広げて無欠陥結晶の歩留まりを高めることができる。シリコン単結晶3のボディー部3cの窒素濃度を上記範囲内に収めるためには、ボディー部の上端部の窒素濃度が1×1014atoms/cmとなるようにシリコン単結晶中の窒素濃度を調整することが好ましい。シリコン単結晶中の窒素濃度は偏析によって引き上げの進行と共に徐々に高くなるからである。シリコン単結晶中の窒素濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:二次イオン質量分析法)によって測定することができる。
【0044】
またシリコン単結晶3のボディー部3cの酸素濃度は4×1017atoms/cm以下である。これにより、酸素ドナー等の発生による抵抗変動のないIGBTの基板材料として好適なシリコンウェーハを製造することができる。なお、本明細書中に規定するシリコン単結晶中の酸素濃度はすべてASTM F-121(1979)の規格に従ったFTIR法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)による測定値である。
【0045】
CZ法により製造されるシリコン単結晶3に含まれる欠陥の種類や分布は、単結晶の引き上げ速度Vと結晶成長方向の温度勾配Gとの比V/Gに依存する。
【0046】
図4は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との関係を示す模式図である。
【0047】
図4に示すように、V/Gが大きい場合には単結晶中の空孔が過剰となり、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内全域にわたり、空孔型点欠陥の凝集体であるCOPが発生する。COPはボイド欠陥の一種であるが、ボイド欠陥には検出方法によっていくつかの異なる呼称が存在する。レーザー光線をウェーハ表面に照射し、その反射光・散乱光などを検出するパーティクルカウンターによって観察された欠陥は、COPと呼ばれる。赤外レーザー光線をウェーハ表面に入射し、その散乱光を検出する赤外散乱トモグラフ(Laser Scattering Tomography)によって観察された欠陥は、LSTD(Laser Scattering Tomography Defect)と呼ばれる。これらの欠陥は検出方法が異なっているが、すべてボイド欠陥であると考えられている。
【0048】
一方、V/Gが小さい場合には、格子間シリコンが過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。転位クラスターは、選択エッチング液内でサンプルを搖動させないで比較的長時間放置した後に貝殻状の大きなピットとして観察される。
【0049】
さらに、COPが発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の3つの領域が存在する。OSF領域は、As-grown状態(単結晶成長後に何ら熱処理を行っていない状態)でOSF核を含んでおり、1000~1200℃の熱酸化処理を施した場合にOSF(Oxidation Induced Stacking Fault:酸素誘起積層欠陥)が発生する領域である。またPv領域は、空孔が優勢な無欠陥領域であり、熱酸化処理を施しても欠陥が生じない領域である。Pi領域は、格子間シリコンが優勢な無欠陥領域であり、熱酸化処理を施しても欠陥が生じない領域である。本発明において、Grown-in欠陥とは、COP、転位クラスター及びOSF核のことをいう。
【0050】
引き上げ速度Vを徐々に低下させていくと、COP領域は縮小し、単結晶の外周部からOSF領域がリング状に出現する。このOSF領域は、引き上げ速度Vの低下に伴ってその径が次第に縮小し、引き上げ速度がVになると消滅する。これに伴い、OSF領域に代わって無欠陥領域(Pv領域)が出現し、単結晶の面内全域がPv領域及びPi領域で占められる。そして、引き上げ速度がVまで低下すると、格子間シリコン型点欠陥の凝集体である転位クラスターが出現し、ついには無欠陥領域(Pi領域)に代わって単結晶の面内全域が転位クラスターで占められる。
【0051】
したがって、COPなどの各種の点欠陥を排除し、面内全域にわたって無欠陥領域が分布するシリコン単結晶を育成するには、V/Gが、面内全域にわたり、格子間シリコン型点欠陥の凝集体が発生しない第1臨界点(V/G)以上かつ空孔型点欠陥の凝集体が発生しない第2臨界点(V/G)以下の範囲内に収まるように引き上げ速度Vを管理する必要がある。
【0052】
温度勾配Gは、結晶成長界面近傍のホットゾーンに依存し、ホットゾーンはシリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体17によって制御される。シリコン単結晶の引き上げ速度Vはその径方向のどの位置でも一定であるため、結晶成長方向の温度勾配Gが径方向のどの位置でもできるだけ一定となるようにホットゾーンを予め設計しておく必要がある。
【0053】
シリコン単結晶の直径制御は主に引き上げ速度Vを調整することにより行われる。直径変動を抑えるために結晶引き上げ速度Vを適宜変化させているため、引き上げ速度Vの変動を完全になくすことはできない。そのため、引き上げ速度Vの狙いをVとVの間(例えば両者の中央値)に設定し、育成中に引き上げ速度Vが変動してもV~Vの範囲(「引き上げ速度マージン」又は「PvPiマージン」という)に収まるように管理する。
【0054】
本実施形態においては、シリコン単結晶3のボディー部3cの窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下となるように、シリコン融液2に高濃度の窒素がドープされているので、引き上げ速度マージンを広げることができ、これにより無欠陥結晶の歩留まりを高めることができる。窒素原子にはCOPのサイズを小さくする作用があると考えられ、これにより第1臨界点(V/G)が持ち上がり、Pv領域が得られる引き上げ速度マージンが拡大するものと考えられる。
【0055】
結晶引き上げ工程中、シリコン融液2にはカスプ磁場が印加される。カスプ磁場は結晶引き上げ軸を中心とした軸対称であり、磁場中心点では互いの磁界が打ち消しあって垂直方向の磁場強度はゼロとなる。磁場中心点から外れた位置では垂直方向の磁場が存在し、半径方向に向かう水平磁場が形成される。このように、シリコン融液2にカスプ磁場を印加することで磁力線に直交する方向の融液対流を抑制することができ、これにより石英ルツボ11からシリコン融液2に溶け込む酸素の量を低減することができる。また、シリコン融液2からの酸素の蒸発も促進されることにより、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶を安定的に製造することができる。
【0056】
ボディー部育成工程S15において、カスプ磁場の垂直方向の磁場中心位置はシリコン融液2の液面よりも上方に位置させることが好ましく、液面よりも上方に10mm以上100mm以下の範囲内に設定されることが好ましい。磁場中心位置が液面の上方10mmよりも低い場合には酸素析出評価熱処理後の酸素析出を抑制することができない。また磁場中心位置が液面の上方100mmよりも高い場合にはシリコン単結晶の有転位化の確率が高くなる。
【0057】
また、カスプ磁場の磁場強度は500~700Gであることが好ましい。磁場強度が500Gよりも小さい場合には融液対流を抑制する効果が得られず、4×1017atoms/cm以下の低酸素濃度の単結晶を引き上げることが困難となるからである。また既存の磁場発生装置では700Gを超える磁場を安定的に出力することが難しく、消費電力の観点からもできるだけ低い磁場強度が望ましいからである。なお、カスプ磁場の磁場強度の値は、垂直方向には磁場中心位置、水平方向には石英ルツボ11の側壁位置である。
【0058】
水平磁場を印加するHMCZ(Horizontal Magnetic field applied CZ)法の場合、磁力線の方向は一方向であるため、磁力線と直交する方向の融液対流を抑制する効果はあるが、磁力線と平行な方向の融液対流を抑制することができない。一方、カスプ磁場の場合、磁力線の方向は放射状であり、引き上げ軸を中心に平面視で対称性を有するため、石英ルツボの周方向の融液対流を抑制する効果が高い。したがって、石英ルツボからの酸素の溶出を抑えてシリコン単結晶中の酸素濃度を低減することが可能となる。
【0059】
ボディー部育成工程S15において、シリコン単結晶3の回転速度は15~20rpmであることが好ましい。結晶回転速度が15rpmよりも小さい場合には、抵抗率および酸素濃度の面内分布の均一性を高めることができないからであり、また結晶回転速度が20rpmよりも大きい場合にはシリコン単結晶3がスパイラル状に変形して有転位化しやすくなるだけでなく、結晶引き上げ後にシリコン単結晶3を外周研削した際に結晶直径がウェーハ直径未満となる不良個所が発生するからである。
【0060】
ボディー部育成工程S15において、石英ルツボ11の回転速度は3~6rpmであることが好ましい。ルツボ回転速度が3rpmよりも小さい場合には、酸素濃度及び抵抗率の面内分布が悪化するからである。ルツボ回転速度が6rpmよりも大きい場合には、ルツボの溶損量が増加してシリコン融液中の酸素濃度が高くなり、4×1017atoms/cm以下の低酸素濃度の単結晶を引き上げることが困難となる。
【0061】
以上の結晶引き上げ条件下でシリコン単結晶3を引き上げることにより、シリコン単結晶3のボディー部の格子間酸素濃度を4×1017atoms/cm以下にすることができるだけでなく、抵抗率の面内ばらつきを3.5%以下に抑えることができ、窒素が添加されていても熱処理後に酸素析出起因の欠陥が発生しないシリコン単結晶3を製造することができる。このように酸素析出が抑制される理由は明らかではないが、カスプ磁場を印加した場合には水平磁場を印加した場合と比べて固液界面形状が大きく変化し、これが結晶成長速度に影響を与え、無欠陥結晶の引き上げ速度が増加し、結晶引き上げ中の酸素析出核の形成が阻害されるからではないかと推察される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、窒素がドープされたシリコン融液にカスプ磁場を印加しながらGrown-in欠陥が発生しない引き上げ速度でシリコン単結晶を引き上げるので、窒素濃度が1×1014atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下であり、酸素濃度が1×1017atoms/cm以上4×1017atoms/cm以下であり、酸素析出評価熱処理後におけるLSTD密度が検出限界以下となるシリコン単結晶を引き上げることができる。したがって、IGBT用低酸素シリコンウェーハをCZ法により製造することができ、IGBT用ウェーハの量産性を向上させることができる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例
【0064】
CZ法において水平磁場を印加しながらシリコン単結晶の引き上げを行った。始めに、石英ルツボ内に多結晶シリコン原料を投入し、原料を溶融してシリコン融液を生成した。シリコン原料にはドーパントとしてリンを追加した。さらに、シリコン原料には窒化膜付きシリコンウェーハを追加した。窒素のドープ量は、シリコン単結晶のボディー部の上端部の窒素濃度が1×1014atoms/cmとなるように調整した。
【0065】
次に、シリコン融液に水平磁場を印加しながら直径8インチのシリコン単結晶の引き上げを行った。磁場強度は3500G、磁場中心位置は液面の上方25mmの位置に設定した。ルツボの回転速度は0.1rpm、結晶回転速度は5rpmとした。
【0066】
図5に示すように、結晶引き上げ工程中は、引き上げ速度Vを高速から低速まで徐々に変化させる速度変量引き上げを行い、単結晶中にCOP領域(ボイド欠陥領域)、無欠陥領域、転位クラスター領域を順に形成した。こうして、比較例によるシリコン単結晶インゴットを得た。
【0067】
その後、引き上げられたシリコンインゴットの無欠陥領域をスライスしてウェーハを切り出し、ラッピング、エッチング等の表面処理を施した。このようにして、直径200mm、厚さ0.75mmのシリコンウェーハを製造した。続いて、これらのシリコンウェーハの酸素濃度及び抵抗率分布を測定した。
【0068】
抵抗率分布はウェーハ外周から内側5mmを除いた面内領域において、ウェーハの中心から径方向に2mmピッチで四探針法により測定した。さらに抵抗率の測定結果から、抵抗率の面内ばらつきを示すRRG(Radial Resistivity Gradient:径方向抵抗率分布)を求めた。測定範囲内における抵抗率の最大値をρMax、最小値をρMinとするとき、RRGの計算式は以下のようになる。
RRG(%)={(ρMax-ρMin)/ρMin}×100
【0069】
次に、無欠陥領域から切り出した複数のシリコンウェーハに対して酸素析出評価熱処理を行い、各ウェーハのLSTD密度を赤外散乱トモグラフにより測定した。詳細には、酸化雰囲気で780℃で3時間および1000℃で16時間の熱処理を行った後、ウェーハを劈開し、劈開断面をライトエッチング液で2μmエッチングした後、表面検査装置(レイテックス社製MO-441)を用いて劈開断面のLSTD密度を測定した。
【0070】
その結果、まず無欠陥領域の酸素濃度は全て4×1017atoms/cm以下となった。また、無欠陥領域から切り出したウェーハ面内(径方向)の抵抗率分布を図6(a)に示す。具体的には、図6(a)中、実線は結晶固化率が0.271%の結晶位置、破線は結晶固化率が0.280%の結晶位置から切り出したウェーハの面内の抵抗率分布を示すもので、各ウェーハの抵抗率の面内ばらつき(RRG)の値は、それぞれ4.92%、4.54%であった。
【0071】
また、単結晶育成方向(単結晶直胴部の結晶トップ~結晶ボトム位置)のLSTD密度分布を図7に示す。無欠陥領域から切り出したシリコンウェーハであるにも係わらず、酸素析出評価熱処理後のLSTD密度は結晶トップ側で高くなり、1×10個/cmを上回る値となった。これは、高濃度の窒素添加により拡大されたPv領域において酸素析出起因の欠陥が発生したことによるものである。
【0072】
次に、水平磁場に代えてカスプ磁場を印加しながら直径8インチのシリコン単結晶の引き上げを行った。磁場強度は600G、磁場中心位置は液面の上方25mmに設定した。ルツボの回転速度は4.5rpm、結晶回転速度は18rpmとし、実施例によるシリコン単結晶インゴットを得た。
【0073】
その後、引き上げられたシリコンインゴットの無欠陥領域をスライスしてウェーハを切り出し、ラッピング、エッチング等の表面処理を施した。このようにして、直径200mm、厚さ0.75mmのシリコンウェーハを製造した。続いて、これらのシリコンウェーハの酸素濃度及び抵抗率分布を測定した。さらに、これらのシリコンウェーハに対して酸素析出評価熱処理を行い、各ウェーハのLSTD密度を赤外散乱トモグラフにより測定した。
【0074】
実施例による無欠陥領域から切り出したウェーハ面内(径方向)の抵抗率分布を図6(b)に示す。具体的には、図6(b)中、実線は結晶固化率が0.262%の結晶位置、破線は結晶固化率が0.297%の結晶位置から切り出したウェーハの面内の抵抗率分布を示すもので、各ウェーハの抵抗率の面内ばらつき(RRG)は、それぞれ3.37%、3.41%であり、いずれも抵抗率の面内ばらつきが3.5%以下という面内抵抗分布に優れる結果が得られた。
【0075】
また、単結晶育成方向(単結晶直胴部の結晶トップ~結晶ボトム位置)における酸素濃度分布を図8(a)、LSTD密度分布を図8(b)に示す。
【0076】
図8(a)から明らかなように、無欠陥領域の酸素濃度は4×1017atoms/cm以下であった。さらに図8(b)から明らかなように、窒素を高濃度に添加しているにも係わらず、無欠陥領域の酸素析出評価熱処理後のLSTD密度は検出限界値の1×10個/cmであった。なおLSTD測定に使用した表面検査装置(MO-441)のLSTD検出下限サイズは20nmである。
【0077】
次に、カスプ磁場中心位置が結晶品質に与える影響について評価した。そのため、磁場中心位置を変更した点以外は実施例と同じ条件でシリコン単結晶の引き上げを行った。磁場中心位置は、-25mm、+10mm、+40mm、+100mmの4通りとした。
【0078】
その後、引き上げられたシリコンインゴットの無欠陥領域から切り出したウェーハの酸素濃度を測定した。さらに、これらのシリコンウェーハに対して酸素析出評価熱処理を行い、各ウェーハのLSTD密度を赤外散乱トモグラフにより測定して酸素析出の有無を評価した。
【0079】
図9は、カスプ磁場中心位置が異なる4条件で引き上げたシリコン単結晶インゴットの無欠陥領域の酸素濃度の結晶成長方向における変化を示すグラフであり、横軸は結晶成長方向の位置、縦軸は酸素濃度をそれぞれ示している。
【0080】
図9に示すように、カスプ磁場中心位置が融液面の下方25mmの場合には、酸素濃度が4×1017atoms/cmを上回った。これに対し、カスプ磁場中心位置が融液面の上方10mm、40mm、及び100mmの場合には、酸素濃度が4×1017atoms/cm以下となった。
【0081】
次に、これらのシリコンウェーハに対して酸素析出評価熱処理(780℃×3時間+1000℃×16時間)を行い、各ウェーハのLSTD密度を赤外散乱トモグラフにより測定し、酸素析出物の有無を調べた。その結果、表1に示すように、カスプ磁場中心位置が液面位置-25mmの場合には、熱処理後に酸素析出物が発生した。しかし、カスプ磁場中心位置が液面位置+10mm、+40mm、及び+100mmの場合には、熱処理後に酸素析出物が発生しなかった。
【0082】
【表1】
【符号の説明】
【0083】
1 単結晶製造装置
2 シリコン融液
3 シリコン単結晶(インゴット)
3a ネック部
3b ショルダー部
3c ボディー部
3d テール部
10 チャンバー
10a メインチャンバー
10b プルチャンバー
10c ガス導入口
10d ガス排出口
10e 覗き窓
11 石英ルツボ
12 サセプタ
13 回転シャフト
14 シャフト駆動機構
15 ヒーター
16 断熱材
17 熱遮蔽体
18 ワイヤー
19 ワイヤー巻き取り機構
21 磁場発生装置
21a 上部コイル(磁場発生用コイル)
21b 下部コイル(磁場発生用コイル)
22 カメラ
23 画像処理部
24 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9