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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220705BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220705BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220705BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20220705BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220705BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20220705BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
C22C33/02 K
B22F7/04 A
B22F9/08 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018175736
(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公開番号】P2019176122
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018064134
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-141779(JP,A)
【文献】特開2018-28123(JP,A)
【文献】特開平4-369202(JP,A)
【文献】特開2009-225608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
C22C 38/00
C22C 28/00
C22C 33/02
B22F 7/04
B22F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R1-T-B系焼結磁石素材(R1は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素、Tは、Feを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)を用意する工程と、
絶縁部材を準備する工程と、
R2:65質量%以上97質量%以下(R2は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素であり、R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が50質量%以下である)、及び
M:3質量%以上35質量%以下(Mは、Ga、Cu、In、Al、Sn及びCoからなる群から選択された少なくとも1つ)
を含有し、アトマイズ法によって作製されたR2-M合金粉末を準備する工程と、
前記R1-T-B系焼結磁石素材と前記絶縁部材との間に前記R2-M合金粉末を配置し、450℃以上1000℃以下の温度で前記R1-T-B系焼結磁石素材と前記絶縁部材とを接合する工程と、
を包含する、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が15質量%以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
R2はPrを必ず含み、MはGaを必ず含む、請求項1又は2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁部材は、マイカから形成されたシートである、請求項1から3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記R1-T-B系焼結磁石素材は、2mm以下の平均厚さを有している、請求項1から4のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記R1-T-B系焼結磁石素材は、1mm以下の平均厚さを有している、請求項1から5のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程は、前記絶縁部材を介して3層以上のR1-T-B系焼結磁石素材を積層する工程を含む、請求項1から6のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素うちの少なくとも一種であり、Ndを必ず含む。TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
高温では、R-T-B系焼結磁石の保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R-T-B系焼結磁石において、R14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素RL(例えば、NdやPr)の一部を重希土類元素RH(例えば、DyやTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。RHの置換量の増加に伴い、HcJは向上する。
【0006】
しかし、R14B化合物中のRLをRHで置換すると、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)が低下する。また、特にDy及びTbの重希土類元素は、資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されているなどの理由から、供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、Dy及びTbの重希土類元素をできるだけ使用することなく、HcJを向上させることが求められている。
【0007】
特許文献1は、重希土類元素の使用量を抑えるために、HcJを高める必要がある部分に、Dyなどの重希土類元素の含有量が相対的に多い単位磁石を配置し、他の部分には重希土類元素の含有量が相対的に少ない単位磁石を配置して、これら複数の単位磁石を接合する技術を開示している。単位磁石の接合面は、重希土類元素を含有する金属粉末と有機物とを混合したペーストを介して接触した状態で加熱される。
【0008】
特許文献2は、希土類元素と他の金属元素の合金粉末を介してR-T-B系希土類焼結磁石とケイ素鋼板などの異材種部材とを接合する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-73045号公報
【文献】特開平8-116633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されている接合技術によれば、Dyなどの重希土類元素の含有量が相対的に多い単位磁石と重希土類元素の含有量が相対的に少ない単位磁石とを配置しているため、重希土類元素の使用量を低減することができる。しかし、単位磁石の接合面は、重希土類元素を含有する金属粉末と有機物とを混合したペーストを介して接触した状態で加熱することにより接合されている(すなわち、重希土類元素の拡散により接合させている)。
【0011】
近年、電気自動車用モータ等の用途において、Dy及びTbを使用しなくても高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が求められている。また、特許文献1及び2に開示されている接合技術は、R-T-B系希土類焼結磁石どうし、またはR-T-B系希土類焼結磁石と鉄系金属部材とを接合することが可能になる。しかし、本発明者による検討の結果、高速で回転することが必要なモータなどに用いられる場合、より高い接合強度を実現し得る新しい接合技術が必要であることがわかった。
【0012】
本発明の様々な実施形態は、高い接合強度を実現しつつ、Dy及びTbを使用しなくても高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R1-T-B系焼結磁石素材(R1は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素)を用意する工程と、絶縁部材を準備用意する工程と、R2:65質量%以上97質量%以下(R2は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素であり、R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が50質量%以下である)、及びM:3質量%以上35質量%以下(Mは、Ga、Cu、In、Al、Sn及びCoからなる群から選択された少なくとも1つ)を含有し、アトマイズ法によって作製されたR2-M合金粉末を準備用意する工程と、前記R1-T-B系焼結磁石素材と前記絶縁部材との間に前記R2-M合金粉末を配置し、450℃以上1000℃以下の温度で前記R1-T-B系焼結磁石素材と前記絶縁部材とを接合する接合工程と、を包含する。
【0014】
ある実施形態において、R2はDy及びTbを含有しない(不可避的不純物を含む)R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が15質量%以下である。
【0015】
ある実施形態において、R2はPrを必ず含み、MはGaを必ず含む。
【0016】
ある実施形態において、前記絶縁部材は、マイカから形成されたシートである。
【0017】
ある実施形態において、前記R1-T-B系焼結磁石素材は、2mm以下の平均厚さを有している。
【0018】
ある実施形態において、前記R1-T-B系焼結磁石素材は、1mm以下の平均厚さを有している。
【0019】
ある実施形態において、前記接合工程は、前記絶縁部材を介して3層以上のR1-T-B系焼結磁石素材を積層する工程を含む。
【発明の効果】
【0020】
本開示の実施形態によると、アトマイズ法によって作製されたR2-M合金粉末の粉末を用いて接合を実行するため、高い接合強度を実現しつつ、Dy及びTbを使用しなくても高いB及びHcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模試的に示す断面図である。
図1B図1Aの破線矩形領域内をさらに拡大して模式的に示す断面図である。
図2】従来の粉砕によって形成された合金粉末の模式的断面図である。
図3】本開示の実施形態によるアトマイズ法によって形成された合金粉末の模式的断面図である。
図4】本開示の実施形態によるR1-T-B系焼結磁石素材の接合前の状態を模式的に示す斜視図である。
図5】本開示の実施形態によるR1-T-B系焼結磁石素材の接合中の状態を模式的に示す斜視図である。
図6】本開示の実施形態によるR-T-B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、図1B図1Aの破線矩形領域内をさらに拡大して模式的に示す断面図である。図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図1A及び図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。粒界相14は、図1Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
【0023】
主相12であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
【0024】
本発明者は、Ga、Cu、In、Al、Sn及びCoからなる群から選択された少なくとも1つを粒界に拡散することにより、粒界相を改質してHcJを高めることが可能になることがわかった。このような粒界相の改質には、R1-T-B系焼結磁石素材(R1は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素)を準備して、R1-T-B系焼結磁石素材の表面から金属元素M(Ga、Cu、In、Al、Sn及びCoからなる群から選択された少なくとも1つ)を粒界に供給して粒界内を拡散させることが好ましい。このような金属元素Mの拡散は、65質量%以上97質量%以下のR2(Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素)と3質量%以上35質量%以下のMとの合金、すなわち、R2-M合金の粉末を用いて行うことができる。これにより、Dy及びTbを使用しなくても高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
【0025】
本発明者はさらに検討した結果、アトマイズ法によって作製されたR2-M合金粉末(R2-M合金のアトマイズ粉)をR1-T-B系焼結磁石素材の表面に塗布して拡散のための熱処理を行うとき、絶縁部材をR1-T-B系焼結磁石素材に接合させるための優れた融着剤として利用し得ることがわかった。すなわち、R2-M合金のアトマイズ粉は、R1-T-B系焼結磁石素材の二粒子粒界へ導入するための拡散源として機能するとともに、R1-T-B系焼結磁石素材を絶縁部材に接合して均一に結合する粉末としても機能し得ることがわかった。これは、R2-M合金を粉砕して形成した粉末粒子に比べて、アトマイズ粉の粒子の形状及び大きさの分布が一様であることに起因する。その結果、接合面に巣が形成されにくくなり、接合強度が向上する。
【0026】
R1-T-B系焼結磁石素材を絶縁部材に接合すると、R1-T-B系焼結磁石素材そのものの強度を絶縁部材の補助によって補い、全体の強度および剛性を高めることが可能になる。このことは、特にR1-T-B系焼結磁石素材の厚さが薄い場合に優れた効果を発揮する。R1-T-B系焼結磁石素材を絶縁部材に接合することにより、例えば厚さが3mm以下のシート状または棒状の形状を有する場合でも、割れや欠けの生じにくいR-T-B系焼結磁石が実現する。
【0027】
また、R-T-B系焼結磁石がモータに使用される場合、大きな渦電流が発生すると、電力の損失および不要な発熱を引き起こすことになる。絶縁部材を介してR1-T-B系焼結磁石素材を積層することにより、渦電流の形成を抑制することも可能になる。絶縁部材を介して3層以上のR1-T-B系焼結磁石素材が積層されてもよい。
【0028】
図2は、従来の粉砕(例えばインゴット法やストリップキャステキング法により原料合金を作製した後、粉砕したもの)によって形成された合金粉末50の模式的断面図である。合金粉末は2個の固体部材20の間に配置されており、部材20の対向する表面(接合される面)20Sが作る空隙内に位置している。図2からわかるように、個々の粉末粒子50Pの形状及びサイズがばらばらである。合金粉末50は、合金を粉砕することによって作製されているため、粒子50Pには扁平な部分、鋭角状の凸部、複雑な破断面などが存在する。
【0029】
一方、図3は、本開示の実施形態によるアトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30の模式的断面図である。図3に示されるように、アトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30を構成する個々の粒子30Pは、球状である。このような球状の粉末粒子30Pは、対向する固体部材20の表面(接合される面)20Sの間に配置し、固体部材20の表面20Sを近接させると、対向する表面20Sが作る空隙を均一に埋めるように再配列し得る。このため、接合時に不要な巣を形成することなく、接合面20Sの密着度を高めることが可能になる。
【0030】
図4は、本開示の実施形態によるR1-T-B系焼結磁石素材の接合前の状態を模式的に示す斜視図である。図示されている例において、R1-T-B系焼結磁石素材22、26と絶縁部材20、24とが交互に積層される。下端に位置する第1の絶縁部材20と第1のR1-T-B系焼結磁石素材22との間には、アトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30の層が形成されている。図4の例において、R2-M合金粉末30は、第1の絶縁部材20の上面に塗布している。しかし、アトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30は、第1のR1-T-B系焼結磁石素材22の底面に塗布されていても良い。また、第1のR1-T-B系焼結磁石素材22と、その上に位置する第2の絶縁部材24との間にも、同様に、アトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30の層が形成されている。更に、第2の絶縁部材24と、上端に位置する第2のR1-T-B系焼結磁石素材26との間にも、アトマイズ法によって形成されたR2-M合金粉末30の層が形成されている。R2-M合金粉末30は、第1のR1-T-B系焼結磁石素材22、第2のR1-T-B系焼結磁石素材25、第1の絶縁部材20及び第二の絶縁材料24の表面全体に塗布されていてもよい。
【0031】
図5は、本開示の実施形態によるR1-T-B系焼結磁石素材の接合中の状態を模式的に示す斜視図である。図5に示される状態において、第1の絶縁部材20と第1のR1-T-B系焼結磁石素材22は、R2-M合金粉末30を挟んで近接する。第1のR1-T-B系焼結磁石素材22と第2の絶縁部材24とは、R2-M合金粉末30を挟んで近接する。第2の絶縁部材24と第2のR1-T-B系焼結磁石素材26は、R2-M合金粉末30を挟んで近接する。
【0032】
ある態様において、積層方向に加圧されてもよい。図5に示される状態で熱処理を行うことにより、R2-M合金粉末が溶融し、第1の絶部材20、第1のR1-T-B系焼結磁石素材22、第2の絶縁部材24、および第2のR1-T-B系焼結磁石素材26が接合して、これらが一体化したR-T-B系焼結磁石200が作製される。
【0033】
この接合工程において、R2-M合金粉末30に含まれていた希土類元素R2及び金属元素Mは、第1および第2のR1-T-B系焼結磁石素材22、26の各接合面から粒界を介して第1および第2のR1-T-B系焼結磁石素材22、26の内部に拡散する。アトマイズ法によって作製されたR2-M合金粉末30は、拡散源としてのみならず、優れた接合助剤としても機能して接合強度の向上に寄与する。
【0034】
なお、Pr-Ga合金などのR2-M合金は、延性が高く一般に粉砕性が悪い。このため、粉砕に長時間を要し、量産性に問題がある。 本開示の実施形態では、R2-M合金のアトマイズ粉を使用することにより、粉砕を行うことなく粉末粒子(例えば200μm以下の粒径を有する粒子)を得ることが可能となる。
【0035】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、図6に例示されるように、R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材を準備する工程S10と、アトマイズ法により作製されたR2-M合金粉末を準備する工程S20とを含む。R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材を準備する工程S10とRアトマイズ法により作製されたR2-M合金粉末を準備する工程S20との順序は任意であり、それぞれ、異なる場所で製造されたR1-T-B系焼結磁石素材、絶縁部材、R2-M合金アトマイズ粉を用いてもよい。
【0036】
さらに本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材との間にR2-M合金粉末を配置する工程S30と、R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材とを接合する工程S40とを含む。
【0037】
以下、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態をより詳細に説明する。
【0038】
1.R1-T-B系焼結磁石素材を準備する工程
まず、R1-T-B系焼結磁石素材を準備する。R1-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意のR-T-B系焼結磁石であってもよい。本実施形態で使用可能なR1-T-B系焼結磁石素材の典型例は、以下の組成を有する。
希土類元素R1:27.5~35.0質量%
B(B(ボロン)の一部はC(カーボン)で置換されていてもよい):0.80~0.99質量%
Ga:0~0.8質量%
添加金属元素M(Al、Cu、Zr、Nbからなる群から選択された少なくとも1種):0~2質量%
T(Feを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい)及び不可避不純物:残部
【0039】
また、好ましくは、下記不等式(1)を満足する。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
ここで、[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である。
【0040】
この不等式を満足するということは、Bの含有量がR14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。
【0041】
式(1)を満足したR1-T-B系焼結磁石素材に対してR2-M合金粉末を拡散させることで、Dy及びTbを使用しなくてもより高いBとHcJを得ることができる。
【0042】
なお、希土類元素R1は、主として軽希土類元素RL(Nd、Prから選択される少なくとも1種の元素)であるが、Dy及びTb等の重希土類元素を含有していてもよい。ただし、Dy及びTb等の重希土類元素の使用量は、R1-T-B系焼結磁石素材全体の2%以下が好ましく、もっとも好ましくは、R1-T-B系焼結磁石素材は、Dy及びTb等の重希土類元素を含有しない(不可避的不純物を含む)。
【0043】
上記組成のR1-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造され得る。R1-T-B系焼結磁石素材は焼結上がりでもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。
【0044】
図4に示される例において、絶縁部材24およびR1-T-B系焼結磁石素材26のサイズは任意である。R1-T-B系焼結磁石素材26の厚さは1mm以下である場合、R1-T-B系焼結磁石素材26そのものの強度が低くなるため、一般にハンドリングが困難になり得る。そのような場合でも、本開示の実施形態によれば、絶縁部材24がR1-T-B系焼結磁石素材26を支持して、全体の強度が向上するため、ハンドリングが容易になる。このような観点から、R1-T-B系焼結磁石素材26のサイズは、例えば、0.5mm以上2mm以下であり、例えば0.5mm以上1mm以下でありうる。
【0045】
2.絶縁部材を準備する工程
絶縁部材は、絶縁耐圧の高い材料から形成されていることが好ましい。い。絶縁部材は、R2-M合金粉末が溶融する温度に耐える耐熱性を有している必要がある。このため、絶縁部材は、セラミックスなどの無機材料のシートから形成されていてもよい。例えば、マイカから形成されたシートである。絶縁部材がシート形状を有する場合、その厚さは例えば0.01mm以上1mm以下であり得る。
【0046】
3.アトマイズ法により作製されたR2-M合金粉末を準備する工程
(R2) R2は、Nd及びPrの少なくとも一方を含む希土類元素であり、R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が50質量%以下である。例えば、R2がR2-M合金全体の80質量%の場合は、Dy及びTbの合計含有量は、40質量%以下となる。好ましくは、R2全体に対するDy及びTbの合計含有量が15質量%以下である。もっとも好ましくは、R2-M合金粉末は、Dy及びTb等の重希土類元素を含有しない(不可避的不純物を含む)。R2は、R2-M合金全体の65質量%以上97質量%以下である。R2は、好ましくはPrを必ず含み、R2に占めるPrの量は、40質量%以上が好ましく、さらに好ましくは70質量%以上である。
(M) Mは、Ga、Cu、In、Al、Sn及びCoからなる群から選択された少なくとも1つである。Mは、R2-M合金全体の3質量%以上35質量%以下である。Mは、好ましくはGaを必ず含み、Mに占めるGaの量は、50質量%以上である。R2-M合金は、不可避的不純物を含んでいてもよい。最も好ましくは、R2に占めるPrの量が70質量%以上で、かつ、Mに占めるGaの量が50質量%以上であるR2-M合金粉末を使用する。これによりGaを主相結晶粒の内部にほとんど導入させずに二粒子粒界へ導入させることができる。Gaを含む液相が二粒子粒界に導入されることによりDyやTbを使用しなくても高いHcJを得ることができる。
【0047】
本開示の実施形態において、R2-M合金粉末は、アトマイズ法によって作製されている。アトマイズ法は、溶湯噴霧法とも呼ばれる粉末作製方法の1種であり、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法を含む。例えばガスアトマイズ法によれば、金属または合金を溶解炉で溶融して溶湯を形成し、その溶湯を窒素またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中に噴霧して凝固させる。噴霧された溶湯は、微細な液滴として飛散するため、高速度で冷却されて凝固する。作製される粉末粒子は、それぞれ、球形の形状を持つため、粉砕を行う必要はない。アトマイズ法によって作製される粉末粒子のサイズは、例えば10μm~200μmの範囲に分布する。
【0048】
アトマイズ法によれば、噴霧される合金溶湯の液滴が小さく、各液滴の重量に対する表面積が相対的に大きいため、冷却速度が高くなる。そのため、形成される粉末粒子は、非晶質または微結晶質である。なお、これらの粉末粒子に対しては、接合工程の前に付加的に熱処理を行って非晶質を結晶化させてもよい。
【0049】
R2-M合金粉末の粒度は篩わけすることによって調整され得る。また、篩わけで排除される粉末が10質量%以内であれば、その影響は少ないので、篩わけせずに用いてもよい。
【0050】
4.R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材との間にR2-M合金粉末を配置する工程
R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材との間にR2-M合金粉末を配置する(言い換えると、R1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材とでR2-M合金粉末を挟む)。配置方法は、R1-T-B系焼結磁石素材及び絶縁部材の両方の表面にR2-M合金粉末を塗布することにより配置してもよいし、いずれか片方(R1-T-B系焼結磁石素材の表面のみ及び絶縁部材の表面のみ)にR2-M合金粉末を塗布するだけでもよい。また、R2-M合金粉末は、R1-T-B系焼結磁石素材及び絶縁部材の少なくとも一方の表面全体に塗布してもよいし、図4に示すように接合面のみでもよい。また、組成の異なる2種類以上のR2-M合金粉末を用いてもよい。R2-M合金粉末30を絶縁部材および/またはR1-T-B系焼結磁石素材の表面に塗布する方法は、特定の塗布方法に限定されない。塗布対象の表面に粘着剤を塗布する塗布工程と、粘着剤を塗布した領域にR2-M合金粉末を付着させる工程を行ってもよい。粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などがあげられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~100℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。
【0051】
R-T-B系焼結磁石素材表面に粘着剤を塗布する方法は、どのようなものでも良い。塗布の具体例としては、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。粘着剤の塗布量は、例えば1.02×10-5~5.10×10-5g/mmであり得る。
【0052】
5.R1-T-B系焼結磁石素材と前記絶縁部材とを接合する工程
本開示によれば、R1-T-B系焼結磁石素材とR2-M合金粉末(アトマイズ粉)とが接した状態で接合のための熱処理を開始する。その結果、高い接合強度を実現しつつ、R1-T-B系焼結磁石の粒界相が磁石内部の全体にわたって改質されて高いB及びHcJを実現する。
【0053】
接合のための熱処理は、450℃以上1000℃以下の温度で、5分以上720分以下の時間、実行され得る。熱処理は、比較的高い温度(700℃以上1000℃以下)で熱処理を行った後比較的低い温度(450℃以上600℃以下)で熱処理(二段熱処理)をしてもよい。好ましい条件は、730℃以上980℃以下で5分から500分程度の熱処理を施し、冷却後(室温まで冷却後、または440℃以上550℃以下まで冷却後)、さらに440℃以上550℃以下で5分から500分程度熱処理をすることが挙げられる。熱処理の雰囲気ガスは、窒素または不活性ガスであり得る。雰囲気ガスは減圧されていてもよい。
【実施例
【0054】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0055】
実験例1
R1-T-B系焼結磁石素材がおよそ表1のNo.1-Aに示す組成となるように、各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素雰囲気中で乾式粉砕し、粒径D50が4.3μmの合金粉末を得た。前記合金粉末に、液体潤滑剤を微粉砕粉100質量%に対して、0.3質量%添加、混合した後、磁界中成形し、成形体を得た。なお、成形装置は、磁場印加方向と加圧法方向とが直行する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中、1020℃で4時間焼結し、R1-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)を複数個準備した。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。また、得られたR1-T-B系焼結磁石素材を機械加工し、長さ10mm×幅5mm(幅が磁化方向)×厚さ3mm(厚さが磁化に垂直な方向)にした。得られたR1-T-B焼結磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。また、R1-T-B系焼結磁石素材はいずれも不等式(1)を満足していた。また、セラミックス系の絶縁部材を準備した。絶縁部材の寸法はR1-T-B系焼結磁石素材と同様に機械加工し長さ10mm×幅5mm×厚さ0.5mmにした。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、表2のNo.1-aに示す組成の合金粉末をアトマイズ法により作製することにより、R1-M合金粉末を準備した。得られたR2-M合金粉末の粒度は106μm以下であった。さらに表2のNo.1-bに示す組成の合金になるように各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素雰囲気中で乾式粉砕し、粒径D50が4.3μmの合金粉末を得た。
【0058】
【表2】
【0059】
次に、表1のNo.1-AのR1-T-B系焼結磁石素材表面全面に粘着剤を塗布した。塗布方法は、R1-T-B系焼結磁石素材をホットプレート上で60℃に加熱後、スプレー法でR1-T-B系焼結磁石素材に粘着剤を塗布した。粘着剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を用いた。
【0060】
次に、粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)に対して、表2のNo.1-aの拡散源(R2-M合金粉末)を付着させた。付着方法は、容器に拡散源を広げ、粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材を常温まで降温させた後、容器内で拡散源をR1-T-B系焼結磁石素材全面にまぶすように付着させた。
【0061】
次に、R1-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)とR2-M合金粉末(No.1-a)とが接した状態で、R1-T-B系焼結磁石素材No.1-Aと絶縁部材とを厚さ(3mm)方向に重ね(長さ10mm×幅5mmの面どうしを接触させ)、熱処理を行うことで接合し、R-T-B系焼結磁石(No.1-1)を得た。熱処理は、900℃で8時間の熱処理を行った後室温まで冷却し、さらに500℃で6時間の熱処理(二段熱処理)を行った。同様の方法で、R1-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)に対して、表2のNo.1-bの拡散源を付着させ、同様の方法で熱処理を行うことで接合し、R-T-B系焼結磁石(No.1-2)を得た。
【0062】
得られたR-T-B系焼結磁石の接合面における巣の発生を確認した。巣が多く発生すると、接着強度が低下したり、巣を起点とした剥がれが起きる可能性があるため、特に高速で回転することが必要なモータなどにR-T-B系焼結磁石が用いられる場合、巣の発生を抑える必要がある。
【0063】
R-T-B系焼結磁石(No.1-1及び1-2)をそれぞれ機械加工により切断研磨し接合面を含む任意の接合磁石の断面(幅5mm×厚さ6mmにおける磁石断面)を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JCM-7001F)で観察した。観察領域は500μm×500μmであり、視認により接合面における巣の発生を確認した。巣の発生が接合面の20%以下(100×巣の部分の面積/接合部分の面積)を本発明とする。結果を表3に示す。巣の発生が20%以下の場合を〇と20%以上の場合を×と記載する。さらに、R-T-B系焼結磁石の磁気特性の結果を表3に示す。磁気特性は、接合されたR-T-B系焼結磁石からR1-T-B系焼結磁石素材のみを切削加工により切り出し、B-Hトレーサを用いて測定した。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すように本発明例は巣の発生が抑えられているのに対し、比較例(ストリップキャスト法で作製した拡散源を用いた場合)は巣の発生が抑えられていない。
【0066】
実験例2
およそ表4のNo.2-A及び2-Bに示す組成となるように、実験例1と同様にしてR1-T-B系焼結磁石素材を準備した。得られたR1-T-B系焼結磁石素材を機械加工し、長さ10mm×幅5mm×厚さ3mm(厚さが磁化に垂直な方向)にした。得られたR1-T-B焼結磁石素材の成分の結果を表4に示す。なお、表4における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。また、セラミックス系の絶縁部材を準備した。絶縁部材の寸法はR1-T-B系焼結磁石素材と同様に機械加工し長さ10mm×幅5mm×厚さ0.5mmにした。次に実施例1と同様にしてNo.1-aのR2-M合金粉末を準備した。
【0067】
【表4】
【0068】
次に、表6に示す条件で、実験例1と同様にしてR1-T-B系焼結磁石素材と絶縁部材を接合し、R-T-B系焼結磁石を得た。表6のNo.2-1は、No.2-AのR1-T-B系焼結磁石素材表面全面に粘着剤を実験例1と同様にして塗布し、粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材(No.2-A)に対して、No.1-aのR-2M合金粉末を実験例1と同様にして付着させた。次に、R1-T-B系焼結磁石素材(No.2-A)とR2-M合金粉末(No.1-a)とが接した状態で、R1-T-B系焼結磁石素材No.2-Aと絶縁部材とを厚さ方向(3mm)に重ね、実験例1と同様にして熱処理を行うことで接合し、R-T-B系焼結磁石(No.2-1)を得たものである。No.2-2も同様に記載している。得られたR-T-B系焼結磁石に対し、実験例1と同様にして、視認により接合面における巣の発生を確認した。
【0069】
【表6】
【0070】
表6に示すように、本発明例はいずれも巣の発生が抑えられている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、高いBと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を作製することができる。本発明の焼結磁石は、高温下に晒されるハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に好適である。
【符号の説明】
【0072】
12 R14B化合物からなる主相
14 粒界相
14a 二粒子粒界相
14b 粒界三重点
20、24 固体部材
22、26 R1-T-B系焼結磁石素材
30 R2-M合金粉末
50 合金粉末
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6