(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサの製造方法、及び磁歪式トルクセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
(21)【出願番号】P 2018224536
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠輝
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-5477(JP,A)
【文献】実開昭58-127421(JP,U)
【文献】特開2002-343654(JP,A)
【文献】特許第2954253(JP,B2)
【文献】特許第6376028(JP,B2)
【文献】米国特許第4909088(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有するシャフトと離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン、及び、前記ボビンに絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイルを有するコイル部材を備え、
前記検出コイルのインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフトに付与されたトルクを測定する磁歪式トルクセンサの製造方法であって、
前記コイル部材を覆うように熱硬化性樹脂をモールドしてインナーモールドを形成するインナーモールド形成工程と、
前記インナーモールドを覆うように樹脂をモールドしてアウターモールドを形成するアウターモールド形成工程と、を備
え、
前記アウターモールド工程では、前記コイル部材から延出された信号線の一部と前記インナーモールドとを覆うように樹脂製のカバーを設け、当該カバーを覆うように樹脂をモールドして前記アウターモールドを形成する、
磁歪式トルクセンサの製造方法。
【請求項2】
前記磁歪式トルクセンサは、前記コイル部材の周囲を覆うように設けられた環状の磁性体リングを有し、
前記インナーモールド形成工程では、前記コイル部材及び前記磁性体リングを覆うようにエポキシ樹脂をモールドして前記インナーモールドを形成する、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
【請求項3】
磁歪特性を有するシャフトと離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン、及び、前記ボビンに絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイルを有するコイル部材を備え、
前記検出コイルのインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフトに付与されたトルクを測定するように構成されており、
前記コイル部材を覆うように熱硬化性樹脂をモールドして形成されたインナーモールドと、
前記インナーモールドを覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールドと、
前記コイル部材から延出された信号線の一部と前記インナーモールドとを覆うように設けられた樹脂製のカバーと、
を備
え、
前記アウターモールドは、前記カバーを覆うように樹脂をモールドして形成されている、
磁歪式トルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪式トルクセンサの製造方法、及び磁歪式トルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁歪式トルクセンサが知られている。磁歪式トルクセンサは、応力が付与された際に透磁率が変化する磁歪特性を有するシャフトを用い、トルクが付与されてシャフトが捩じれた際のシャフトの透磁率の変化を検出コイルのインダクタンスの変化として検出することにより、シャフトに付与されたトルクを検出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁歪式トルクセンサとして、検出コイルを覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールドを有するものがある。アウターモールドを有する磁歪式トルクセンサでは、アウターモールドの成型時に、金型に流し込む樹脂の圧力によって検出コイルを構成する絶縁電線が断線してしまう場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、アウターモールドの成型時に検出コイルに断線が発生しにくい磁歪式トルクセンサの製造方法、及び磁歪式トルクセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪特性を有するシャフトと離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン、及び、前記ボビンに絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイルを有するコイル部材を備え、前記検出コイルのインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフトに付与されたトルクを測定する磁歪式トルクセンサの製造方法であって、前記コイル部材を覆うように熱硬化性樹脂をモールドしてインナーモールドを形成するインナーモールド形成工程と、前記インナーモールドを覆うように樹脂をモールドしてアウターモールドを形成するアウターモールド形成工程と、を備えた、磁歪式トルクセンサの製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪特性を有するシャフトと離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン、及び、前記ボビンに絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイルを有するコイル部材を備え、前記検出コイルのインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフトに付与されたトルクを測定するように構成されており、前記コイル部材を覆うように熱硬化性樹脂をモールドして形成されたインナーモールドと、前記インナーモールドを覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールドと、を備えた、磁歪式トルクセンサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アウターモールドの成型時に検出コイルに断線が発生しにくい磁歪式トルクセンサの製造方法、及び磁歪式トルクセンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】磁歪式トルクセンサのセンサ部の一例を示す図であり、(a)はシャフトに取り付けた際の側面図、(b)はそのA-A線断面図である。
【
図2】ボビンを展開した状態を模式的に示す平面図であって、(a)は第1検出コイル及び第4検出コイルを説明する図、(b)は第2検出コイル及び第3検出コイルを説明する図である。
【
図3】(a)磁歪式トルクセンサの検出信号によりシャフトに付与されたトルクを測定する測定部の一例を示す回路図であり、(b),(c)はその一変形例である。
【
図4】(a)は、コイル形成工程及び接続工程後のトルクセンサの外観を示す斜視図であり、(b)は、インナーモールド形成工程後のトルクセンサの外観を示す斜視図である。
【
図5】アウターモールド形成工程後のトルクセンサの外観を示す斜視図である。
【
図7】(a)は、トルクセンサに負荷する温度サイクルを示すグラフ図であり、(b)は、(a)の温度サイクルを負荷した際に、インナーモールドを有さない比較例のトルクセンサに生じるセンサ出力の変動の測定結果を示すグラフ図である。
【
図8】(a)は、
図7(a)の温度サイクルを負荷した際に、本発明のトルクセンサに生じるセンサ出力の変動の測定結果を示すグラフ図であり、(b)はその一部を拡大したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、磁歪式トルクセンサのセンサ部の一例を示す図であり、(a)はシャフトに取り付けた際の側面図、(b)はそのA-A線断面図である。
図2は、ボビンを展開した状態を模式的に示す平面図であって、(a)は第1検出コイル及び第4検出コイルを説明する図、(b)は第2検出コイル及び第3検出コイルを説明する図である。なお、
図1では、インナーモールドとアウターモールドとを省略して示している。
【0012】
図1(a),(b)に示すように、磁歪式トルクセンサ(以下、単にトルクセンサという)1のセンサ部2は、磁歪特性を有するシャフト(回転軸)100の周囲に取り付けられている。トルクセンサ1は、シャフト100に付与されたトルク(回転トルク)を測定するものである。
【0013】
シャフト100は、磁歪特性を有する材料から構成され、円柱状(棒状)に形成されている。シャフト100は、例えば、車両のパワートレイン系のトルク伝達に用いられるシャフト、あるいは車両のエンジンのトルク伝達に用いられるシャフトである。
【0014】
センサ部2は、コイル部材(以下、単にコイルという)21と、磁性体リング22と、を備えている。磁性体リング22は、磁性体(強磁性体)からなり、コイル21の周囲を覆うように環状(ここでは中空円筒状)に形成されている。磁性体リング22の中空部にはコイル21が挿入される。磁性体リング22は、コイル21の検出コイル3で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する役割を果たす。
【0015】
コイル21は、非磁性体である樹脂からなるボビン23と、ボビン23の外周に絶縁電線を巻き付けて構成される複数の検出コイル3と、を有している。ボビン23は、シャフト100と離間して同軸に設けられており、中空円筒状に形成されている。ボビン23の外周面には、シャフト100の軸方向に対して所定角度(ここでは+45度)傾斜した複数の第1傾斜溝4と、軸方向に対して第1傾斜溝4と反対方向に所定角度(ここでは-45度)傾斜した複数の第2傾斜溝5とが形成されている。第1傾斜溝4及び第2傾斜溝5は、ボビン23の径方向に窪んだ溝によって形成されている。
【0016】
図2(a),(b)に示すように、コイル21は、検出コイル3として、第1~第4検出コイル31~34を有している。第1検出コイル31及び第4検出コイル34は、第1傾斜溝4に沿って絶縁電線をボビン23に巻き付けて形成される。第2検出コイル32及び第3検出コイル33は、第2傾斜溝5に沿って絶縁電線をボビン23に巻き付けて形成される。
【0017】
図2(a)中、符号31a,31bは、それぞれ第1検出コイル31の1層分の入力端と出力端を示し、符号34a,34bは、それぞれ第4検出コイル34の1層分の入力端と出力端を示す。
図2(b)中、符号32a,32bは、それぞれ第2検出コイル32の1層分の入力端と出力端を示し、符号33a,33bは、それぞれ第3検出コイル33の1層分の入力端と出力端を示す。なお、
図2(a),(b)では1ターン分の絶縁電線の巻き付けを示しており、目的のターン数となるように絶縁電線の巻き付けを繰り返すことで、各検出コイル31~34が形成される。また、
図2(a),(b)に示した絶縁電線の巻き付け方法は一例であり、他の巻き付け方を用いて検出コイル31~34を形成してもよい。
【0018】
第1検出コイル31及び第4検出コイル34は、シャフト100の軸方向に対して所定角度(ここでは+45度)傾斜した第1方向でのシャフト100の透磁率変化を検出するためのものである。また、第2検出コイル32及び第3検出コイル33は、シャフト100の軸方向に対して第1方向と反対側に所定角度(ここでは-45度)傾斜した第2方向でのシャフト100の透磁率変化を検出するためのものである。
【0019】
図3(a)に示すように、測定部41は、第1~第4検出コイル31~34のインダクタンスの変化を検出することにより、シャフト100に付与されたトルクを測定するものである。
【0020】
測定部41は、第1検出コイル31、第2検出コイル32、第4検出コイル34、第3検出コイル33をこの順序で環状に接続して構成されたブリッジ回路42と、第1検出コイル33と第2検出コイル32との間の接点aと第3検出コイル33と第4検出コイル34との間の接点bとの間に交流電圧を印加する発信器43と、第1検出コイル31と第3検出コイル33との間の接点cと第2検出コイル32と第4検出コイル34との間の接点d間の電圧を検出する電圧測定装置44と、電圧測定装置44で測定した電圧を基にシャフト100に付与されたトルクを演算するトルク演算部45と、を備えている。ブリッジ回路42は、第1検出コイル31及び第4検出コイル34を対向する一方の辺に配置し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33を対向する他方の辺に配置して構成される。
【0021】
測定部41では、シャフト100にトルクが付与されない状態では、第1~第4検出コイル31~34のインダクタンスL1~L4は等しくなり、電圧測定装置44で検出される電圧は略0となる。
【0022】
シャフト100にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して-45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発信器43から交流電圧を印加した状態でシャフト100にトルクが付与されると、第1検出コイル31及び第4検出コイル34ではインダクタンスが減少(又は増加)し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧測定装置44で検出される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に、トルク演算部45がシャフト100に付与されたトルクを演算する。
【0023】
第1検出コイル31及び第4検出コイル34と、第2検出コイル32及び第3検出コイル33とは、巻き付け方向が異なる以外は全く同じ構成であるから、
図3(a)のようなブリッジ回路42を用いることで、第1~第4検出コイル31~34のインダクタンスへの温度等の影響をキャンセルすることが可能であり、シャフト100に付与されたトルクを精度よく検出することができる。また、トルクセンサ1では、第1検出コイル31及び第4検出コイル34でインダクタンスが増加(又は低下)すれば、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが低下(又は増加)するため、
図3(a)のようなブリッジ回路42を用いることで、検出感度をより向上することができる。
【0024】
なお、
図3(b),(c)に示すように、
図3(a)のブリッジ回路42において、第1~第4検出コイル31~34のいずれか2つを抵抗に置き換えてもよい。
図3(b)では、第2検出コイル32及び第4検出コイル34を抵抗32a,34aに置き換えた場合、
図3(c)では第3検出コイル33及び第4検出コイル34を抵抗33a,34aに置き換えた場合を示している。同様に、
図3(a)のブリッジ回路42において、第1検出コイル31及び第3検出コイル33を抵抗に置き換えてもよいし、第1検出コイル31及び第2検出コイル32を抵抗に置き換えてもよい。検出コイル3を抵抗に置き換えることで、感度が若干低下するものの、絶縁電線をボビン23に巻き付ける手間を省くことが可能になり、低コスト化を図ることが可能になる。
【0025】
また、トルクセンサ1は、コイル21を覆うようにエポキシ樹脂をモールドして形成されたインナーモールドと、インナーモールドを覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールドと、を備えている。これらインナーモールドとアウターモールドの詳細については後述する。
【0026】
(トルクセンサ1の製造方法)
トルクセンサ1を製造する際には、まず、
図4(a)に示すように、ボビン23に絶縁電線を巻き付けて検出コイル3(第1~第4検出コイル31~34)を形成し、コイル21を形成するコイル形成工程を行う。コイル形成工程では、コイル21には、検出コイル3を構成する絶縁電線に電気的に接続された端子部24が設けられる。その後、発信器43及び電圧測定装置44から延出された信号線61の各心線62を、端子部24に電気的に接続する接続工程を行う。ここでは、信号線61は、4本の心線62を一括してジャケット63で覆った構造となっている。
【0027】
その後、
図4(b)に示すように、コイル21を覆うようにエポキシ樹脂をモールドしてインナーモールド7を形成するインナーモールド形成工程を行う。インナーモールド形成工程では、コイル21及び磁性体リング22を覆うようにエポキシ樹脂をモールドしてインナーモールド7を形成する。本実施の形態では、コイル21、磁性体リング22、及び端子部24の一部を覆うように、インナーモールド7を形成した。
【0028】
溶融エポキシ樹脂は粘度が低いため、成型時にコイル21や磁性体リング22に樹脂の流れによる圧力がかかりにくく、検出コイル3の断線や磁性体リング22の破断等の不具合が発生しにくい。よって、次工程のアウターモールド形成工程に先立ってインナーモールド形成工程を行っておくことで、アウターモールド形成工程の際にインナーモールド7がコイル21や磁性体リング22を保護する役割を果たし、アウターモールド形成工程時に検出コイル3の断線や磁性体リング22の破断が生じにくくなる。なお、エポキシ樹脂以外に、フェノール樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0029】
その後、
図5に示すように、インナーモールド7を覆うように樹脂をモールドしてアウターモールド8を形成するアウターモールド形成工程を行う。本実施の形態では、アウターモールド8の成型時に流し込む樹脂の圧力で信号線61の心線62が断線したり、心線62と端子部24との接続部分が破断したりすることを抑制するため、予めコイル21から延出された信号線61の一部と、インナーモールド7とを覆うように
図6に示すような樹脂製のカバー9を設け、当該カバー9を覆うように樹脂をモールドしてアウターモールド8を形成するようにした。
【0030】
図6に示すように、カバー9は、コイル21の軸方向に2分割された構造となっている。カバー9は、インナーモールド7が収容されるインナーモールド収容部91と、ジャケット63から露出されている心線62、及びジャケット63の端部が収容される心線収容部92と、を有している。また、カバー9は、インナーモールド収容部91から外方に突出するように形成されたフランジ部93を有している。フランジ部93には、フランジ部93を貫通し、金属からなる短円筒状のカラー81(
図5参照)を保持する保持孔94が形成されている。インナーモールド7や信号線61をカバー9で覆い、かつ、保持孔94にカラー81を保持させた状態で樹脂モールドを行うことで、アウターモールド8が形成される。なお、カラー81は、ボルト締結時にアウターモールド8がクリープ変形して緩みが発生してしまうことを抑制するための部材である。カラー81aには、図示しない位置決め用ピンが通され、取り付け対象部材との位置決めがなされる。その上で、カラー81bには、図示しないボルトが通され、当該ボルトを取り付け対象部材に締結固定することで、センサ部2が対象部材に固定される。なお、ボルト取付け後は、位置決め用ピンを除去しても問題はない。
【0031】
アウターモールド8がカバー9から剥離してしまうことを抑制するため、アウターモールド8とカバー9とは同じ材質からなることが望ましい。これにより、アウターモールド8のモールド時にカバー9とアウターモールド8とが溶融一体化して、アウターモールド8のカバー9からの剥離が抑制される。アウターモールド8とカバー9としては、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPA(ポリフタルアミド)、あるいはPA(ポリアミド)等の熱可塑性樹脂からなるものを用いることができる。熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂と比較して、低コストであり、成形性が良く(バリがでない)、割れにくい等の理由により好ましい。しかし、アウターモールド8及びカバー9の材料として熱硬化性樹脂等も用いることができる。ここでは、PPAからなるアウターモールド8及びカバー9を用いた。
【0032】
(インナーモールド7を備えることによる効果)
上述のように、本実施の形態に係るトルクセンサ1は、コイル21及び磁性体リング22を覆うようにエポキシ樹脂をモールドして形成されたインナーモールド7と、インナーモールド7を覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールド8と、を備えている。インナーモールド7は、アウターモールド8の成型時にコイル21や磁性体リング22を保護するのみならず、温度変化によるセンサ出力の変動を抑制する役割も果たす。以下、この点について説明する。
【0033】
図7(a)に示す温度サイクルを、インナーモールド7を有さない比較例のトルクセンサ、及びインナーモールド7を有するトルクセンサ1に負荷した場合のセンサ出力の変動を測定した。
図7(a)の温度サイクルでは、-40℃から145℃まで3.4時間で変化させ、その後145℃から-40℃まで5.4時間で変化させるサイクルを2サイクルとしている。なお、温度の計測については、センサ部2の温度の近似として、シャフト100の温度(シャフト温度という)を用いた。
【0034】
図7(b)に示すように、インナーモールド7を有さない比較例のトルクセンサでは、シャフト温度が-40℃~145℃の間で変動すると、約60mVのセンサ出力の変動が検出された。
【0035】
これに対して、
図8(a),(b)に示すように、インナーモールド7を有する本実施の形態に係るトルクセンサ1では、シャフト温度を-40℃~145℃で変動させた際のセンサ出力の変動が約25mVと小さくなっている。これは、インナーモールド7を形成することで、ボビン23を含むコイル21や磁性体リング22の熱による変形(熱膨張や熱収縮)が抑え込まれ、第1~第4検出コイル31~34のインダクタンスL1~L4のバランスの崩れが抑制されているためだと考えられる。なお、
図8(b)は、
図8(a)のデータを加工することで得られたグラフ図である。この
図8(b)は、各シャフト温度におけるセンサ出力の略中央の値が0mVとなるように減算処理を行うことにより得られた。
【0036】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る磁歪式トルクセンサの製造方法では、コイル21を覆うように熱硬化性樹脂をモールドしてインナーモールド7を形成するインナーモールド形成工程と、インナーモールド7を覆うように樹脂をモールドしてアウターモールド8を形成するアウターモールド形成工程と、を備えている。
【0037】
アウターモールド8の成型前に、熱硬化性樹脂でインナーモールド7を形成しておくことで、インナーモールド7によってコイル21が保護され、アウターモールド8の成型時に検出コイル3に断線が発生しにくくなる。また、インナーモールド7を形成することで、温度変化によるセンサ出力の変動を抑制することが可能になる。
【0038】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0039】
[1]磁歪特性を有するシャフト(100)と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン(23)、及び、前記ボビン(23)に絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイル(3)を有するコイル部材(21)を備え、検出コイル(3)のインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフト(100)に付与されたトルクを測定する磁歪式トルクセンサ(1)の製造方法であって、前記コイル部材(21)を覆うように熱硬化性樹脂をモールドしてインナーモールド(7)を形成するインナーモールド形成工程と、前記インナーモールド(7)を覆うように樹脂をモールドしてアウターモールド(8)を形成するアウターモールド形成工程と、を備えた、磁歪式トルクセンサの製造方法。
【0040】
[2]前記磁歪式トルクセンサ(1)は、前記コイル部材(21)の周囲を覆うように設けられた環状の磁性体リング(22)を有し、前記インナーモールド形成工程では、前記コイル部材(21)及び前記磁性体リング(22)を覆うようにエポキシ樹脂をモールドして前記インナーモールド(7)を形成する、[1]に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
【0041】
[3]前記アウターモールド工程では、前記コイル部材(21)から延出された信号線(61)の一部と、前記インナーモールド(7)とを覆うように樹脂製のカバー(9)を設け、当該カバー(9)を覆うように樹脂をモールドして前記アウターモールド(8)を形成する、[1]または[2]に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
【0042】
[4]磁歪特性を有するシャフト(100)と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されたボビン(23)、及び、前記ボビン(23)に絶縁電線を巻き付けて形成された検出コイル(3)を有するコイル部材(21)を備え、前記検出コイル(3)のインダクタンスの変化を検出することにより、前記シャフト(100)に付与されたトルクを測定するように構成されており、前記コイル部材(21)を覆うように熱硬化性樹脂をモールドして形成されたインナーモールド(7)と、前記インナーモールド(7)を覆うように樹脂をモールドして形成されたアウターモールド(8)と、を備えた、磁歪式トルクセンサ(1)。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…トルクセンサ(磁歪式トルクセンサ)
2…センサ部
3…検出コイル
7…インナーモールド
8…アウターモールド
9…カバー
21…コイル(コイル部材)
22…磁性体リング
23…ボビン
61…信号線
100…シャフト