(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】評価方法、システム構築方法、及び評価システム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/04 20060101AFI20220705BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G06N3/04
G08B31/00 A
(21)【出願番号】P 2018234398
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 弘樹
【審査官】金田 孝之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132468(WO,A1)
【文献】特開2019-139277(JP,A)
【文献】特開2001-142868(JP,A)
【文献】特開2011-033627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/02- 3/10
G08B 31/00
G06N 20/00-20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一パラメータに関する第一標本データと、第二パラメータに関する第二標本データとに基づき、前記第一パラメータの入力値から前記第二パラメータの推定値を出力する推定モデルを構築することと、
前記第一標本データに基づき、前記第一パラメータに関する復元型ニューラルネットワークであって、前記第一パラメータの入力値を前記入力値の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の入力値に復元して出力する復元型ニューラルネットワークを構築することと、
推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記推定モデルに入力して、前記第二パラメータの第一推定値を、前記推定モデルから取得することと、
前記推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記復元型ニューラルネットワークを介して前記推定モデルに入力して、前記第二パラメータの第二推定値を、前記推定モデルから取得することと、
前記推定モデルによる推定の確からしさに関する評価値として、前記第一推定値と前記第二推定値との間の距離に関する評価値を計算することと、
を備える評価方法。
【請求項2】
前記復元型ニューラルネットワークは、入力層よりも少ないノード数の一つ以上の中間層を前記入力層と出力層との間に有し、前記一つ以上の中間層により、前記第一パラメータの入力値を前記入力値の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の入力値に復元して出力するニューラルネットワークである請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記第一推定値及び第二推定値は、多次元値であり、
前記評価値を計算することは、前記評価値として、前記第一推定値と前記第二推定値との多次元空間上の距離を算出することである請求項1又は請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記推定モデルを構築することは、前記第一標本データ及び前記第二標本データに基づいた回帰分析により前記推定モデルを構築することである請求項1~請求項3のいずれか一項記載の評価方法。
【請求項5】
前記第一パラメータは、物の製造過程で計測されるパラメータであり、前記第二パラメータは、製造された前記物の破壊試験により計測される前記物の特性に関するパラメータである請求項1~請求項4のいずれか一項記載の評価方法。
【請求項6】
第一パラメータに関する第一標本データと、第二パラメータに関する第二標本データとに基づき、前記第一パラメータの入力値から前記第二パラメータの推定値を出力する推定モデルを構築することと、
前記第一標本データに基づき、前記第一パラメータに関する復元型ニューラルネットワークであって、前記第一パラメータの入力値を前記入力値の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の入力値に復元して出力する復元型ニューラルネットワークを構築することと、
構築した前記推定モデル及び前記復元型ニューラルネットワークを用いて、前記推定モデルによる推定の確からしさを評価するための評価システムを構築することと、
を備え、
前記評価システムは、
前記推定モデルと、
前記復元型ニューラルネットワークと、
推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記推定モデルに入力することにより前記推定モデルから出力される前記第二パラメータの第一推定値と、前記推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記復元型ニューラルネットワークを介して前記推定モデルに入力することにより前記推定モデルから出力される前記第二パラメータの第二推定値とに基づき、前記第一推定値と前記第二推定値との間の距離に関する評価値を、前記推定モデルによる推定の確からしさに関する評価値として算出する算出器と、
を備えるシステム構築方法。
【請求項7】
第一パラメータの入力値から第二パラメータの推定値を出力する推定モデルと、
前記第一パラメータの入力値を当該入力値の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の入力値に復元して出力する復元型ニューラルネットワークと、
推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記推定モデルに入力することにより前記推定モデルから出力される前記第二パラメータの第一推定値と、前記推定対象データが示す前記第一パラメータの値を、前記復元型ニューラルネットワークを介して前記推定モデルに入力することにより前記推定モデルから出力される前記第二パラメータの第二推定値とに基づき、前記第一推定値と前記第二推定値との間の距離に関する評価値を、前記推定モデルによる推定の確からしさに関する評価値として算出する算出器と、
を備える評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、システム構築方法、及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
識別型ニューラルネットワークを用いた故障診断方法が既に知られている(例えば、特許文献1参照)。識別型ニューラルネットワークは、予め用意された標本データに基づき、入力データと異常との対応関係を学習する。学習後の識別型ニューラルネットワークは、入力データに基づき、異常の有無を表すデータを出力する。識別型ニューラルネットワークは、回帰解析を含む。
【0003】
識別型ニューラルネットワークへの入力データを、復元型ニューラルネットワークにも入力し、復元型ニューラルネットワークからの出力データに基づき、識別型ニューラルネットワークが取り扱うデータを評価する技術も知られている。
【0004】
この技術によれば、復元型ニューラルネットワークからの出力データが復元型ニューラルネットワークへの入力データとは大きく異なる場合に、識別型ニューラルネットワークが取り扱うデータが学習範囲外にあると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術によれば、識別型ニューラルネットワークが取り扱うデータが学習範囲外にあるか否かを判定するだけであるため、その判定結果からは、識別型ニューラルネットワークの出力データの確からしさの程度を知ることができない。
【0007】
そこで、本開示の一側面によれば、推定モデルにおける推定の確からしさの程度を評価可能な技術を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面によれば、評価方法が提供される。評価方法は、推定モデルを構築することと、復元型ニューラルネットワークを構築することと、を備える。
推定モデルは、第一パラメータの入力値から第二パラメータの推定値を出力する推定モデルであり得る。推定モデルは、第一パラメータに関する第一標本データと、第二パラメータに関する第二標本データとに基づき、構築され得る。
【0009】
復元型ニューラルネットワークは、第一パラメータに関する復元型ニューラルネットワークである。復元型ニューラルネットワークは、第一パラメータの入力値を入力値の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の入力値に復元して出力する復元型ニューラルネットワークであり得る。復元型ニューラルネットワークは、第一標本データに基づき、構築され得る。
【0010】
評価方法は、更に、推定対象データが示す第一パラメータの値を、推定モデルに入力して、第二パラメータの第一推定値を、推定モデルから取得することを備え得る。評価方法は、更に、推定対象データが示す第一パラメータの値を、復元型ニューラルネットワークを介して推定モデルに入力して、第二パラメータの第二推定値を、推定モデルから取得することを備え得る。
【0011】
評価方法は、更に、推定モデルによる推定の確からしさに関する評価値として、第一推定値と第二推定値との間の距離に関する評価値を計算することを備え得る。
この評価方法によれば、標本データに基づいて構築される推定モデルにおける推定の確からしさの程度を評価可能である。
【0012】
本開示の別側面によれば、システム構築方法が提供されてもよい。システム構築方法は、推定モデルを構築することと、復元型ニューラルネットワークを構築することと、構築した推定モデル及び復元型ニューラルネットワークを用いて、推定モデルによる推定の確からしさを評価するための評価システムを生成することと、を備え得る。
【0013】
評価システムは、推定モデルと、復元型ニューラルネットワークと、算出器と、を備え得る。算出器は、推定対象データが示す第一パラメータの値を、推定モデルに入力することにより推定モデルから出力される第二パラメータの第一推定値と、推定対象データが示す第一パラメータの値を、復元型ニューラルネットワークを介して推定モデルに入力することにより推定モデルから出力される第二パラメータの第二推定値とに基づき、第一推定値と第二推定値との間の距離に関する評価値を、推定の確からしさに関する評価値として算出するように構成され得る。
【0014】
このシステム構築方法によれば、標本データに基づいて構築される推定モデルにおける推定の確からしさの程度を評価可能なシステムを生成することができる。
本開示の別側面によれば、評価システムが提供されてもよい。評価システムは、推定モデルと、復元型ニューラルネットワークと、算出器と、を備え得る。この評価システムによれば、推定モデルにおける推定の確からしさの程度を評価可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】情報処理装置の使用構成を表すブロック図である。
【
図2】情報処理装置内で実現される評価システムの構成を表すブロック図である。
【
図3】復元型ニューラルネットワークの構成を表す図である。
【
図4】プロセッサが実行する構築処理を表すフローチャートである。
【
図6】プロセッサが実行する評価処理を表すフローチャートである。
【
図7】評価システムへの入力データに関するグラフである。
【
図8】復元された入力データに関するグラフである。
【
図9】推定モデル及び誤差算出器からの出力に関するグラフである。
【
図10】推定値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す本実施形態の情報処理装置10は、物Pの製造過程で計測器群100から入力される第一パラメータの計測値から、製造後の物Pの特性に関する第二パラメータの推定値Y(t)を算出するように構成される。
【0017】
更に、この情報処理装置10は、推定誤差に関する評価値E(t)を算出するように構成される。情報処理装置10によって算出される第二パラメータの推定値Y(t)及び評価値E(t)は、表示デバイス50に入力され、ユーザに対して視認可能に表示される。
【0018】
第一パラメータは、多次元パラメータである。換言すれば、第一パラメータは、複数の要素で表されるベクトル又は配列として定義される。
特に、本実施形態における第一パラメータは、物Pの特性及び品質に影響を与える製造条件に関するパラメータを要素に含む。製造条件に関するパラメータの例には、製造時の温度、電圧、電流、及び加速度の他、物Pの撮影画像、外形、重量、及び静電容量が含まれる。しかしながら、第一パラメータは、この例に限定されない。
【0019】
第二パラメータは、計測に物Pの破壊が必要なパラメータを要素に含む一次元以上のパラメータである。第二パラメータの例には、引張試験で得られる機械的強度、物Pの内部構造の寸法、及び物Pにおける特定物質の含有率が含まれる。しかしながら、第二パラメータは、この例に限定されない。第二パラメータは、スカラーであってもよいし、複数の要素で表されるベクトル又は配列であってもよい。
【0020】
情報処理装置10は、プロセッサ11、メモリ13、及びストレージデバイス15を備える。情報処理装置10における様々な機能は、プロセッサ11が、ストレージデバイス15に記憶されたコンピュータプログラムに従う処理を実行することにより実現される。
【0021】
例えば、プロセッサ11がコンピュータプログラムに従う処理を実行することにより、情報処理装置10上で、
図2に示す推定値Y(t)及び評価値E(t)の算出に係る評価システム20が実現される。
【0022】
図2に示すように評価システム20は、推定モデル21,25と、復元型ニューラルネットワーク23と、誤差算出器27と、を備える。この評価システム20では、計測器群100からの第一パラメータの計測値X(t)が推定モデル21に入力される。推定モデル21からは、第一パラメータの計測値X(t)に対応する第二パラメータの推定値Y(t)が出力される。この推定値Yは、表示デバイス50に入力される。
【0023】
推定モデル21は、例えば、第一パラメータ及び第二パラメータの標本データに基づいた重回帰分析により、第一パラメータを入力変数として有し、第二パラメータを出力変数として有する関数(換言すれば回帰式)として構成される。
【0024】
計測器群100からの第一パラメータの計測値X(t)は更に、復元型ニューラルネットワーク23に入力される。復元型ニューラルネットワーク23は、推定モデル21の構築に用いられた第一パラメータの標本データと同じ標本データを用いて学習された復元型ニューラルネットワークである。
【0025】
復元型ニューラルネットワーク23は、オートエンコーダとして構成される。即ち、復元型ニューラルネットワーク23は、入力値としての第一パラメータの計測値X(t)を、この計測値X(t)の次元より低い次元の値に変換した後、元の次元の計測値に復元して出力するように構成される。このように復元型ニューラルネットワーク23は、入力される第一パラメータの計測値X(t)を、次元削減により圧縮した後、復元して出力する。
【0026】
以下では、復元型ニューラルネットワーク23に入力される第一パラメータの計測値X(t)に対して、復元型ニューラルネットワーク23から出力される第一パラメータの計測値のことを計測値X*(t)と表現する。
【0027】
復元型ニューラルネットワーク23は、
図3に示すように、第一パラメータの次元数に対応するノード数の入力層23Aと出力層23Eとの間に、ノード数が入力層23A及び出力層23Eよりも少ない中間層を少なくとも一つ含む、一つ以上の中間層23B,23C,23Dを備える。
【0028】
ノードのそれぞれは、
図3において白丸で表現される。
図3に例示される復元型ニューラルネットワーク23は、入力層23Aと、出力層23Eとの間に、第一の中間層23B、第二の中間層23C、及び第三の中間層23Dを備える。但し、例示される復元型ニューラルネットワーク23は、説明を簡単にするために選ばれた例であり、復元型ニューラルネットワーク23がこの例に限定されるものではないことは、言うまでもない。
【0029】
図3に示される復元型ニューラルネットワーク23によれば、第一パラメータの5次元の入力値は、第一の中間層23Bにおいて3次元の値に変換され、更に、第二の中間層23Cにおいて2次元の値に変換される。その後、第二の中間層23Cからの2次元の値は、第三の中間層23Dにおいて3次元の値に変換され、出力層23Eにおいて5次元の値に復元される。
【0030】
復元型ニューラルネットワーク23からの出力値の入力値に対する再現性は、復元型ニューラルネットワーク23の学習に用いられた標本データに依存する。即ち、復元型ニューラルネットワーク23からの出力値の入力値に対する再現性は、標本データに対する入力値の類似性が高いほど高く、類似性が低いほど低いという特徴を示す。
【0031】
復元型ニューラルネットワーク23は、上述したとおり、推定モデル21の構築に用いられた第一パラメータの標本データと同じ標本データを用いて学習される。このため、復元型ニューラルネットワーク23からは、計測器群100から入力される第一パラメータの計測値X(t)と、推定モデル21の構築時に用いられた標本データとの差が大きいほど、入力値X(t)に対して誤差の大きい出力値X*(t)が出力される。
【0032】
この復元型ニューラルネットワーク23から出力される復元された第一パラメータの計測値X*(t)は、推定モデル25に入力される。推定モデル25は、上述した推定モデル21と同一の推定モデルである。推定モデル25からは、復元された第一パラメータの計測値X*(t)に対応する第二パラメータの推定値Y*(t)が出力される。
【0033】
推定モデル25から出力される第二パラメータの推定値Y*(t)は、推定モデル21から出力される第二パラメータの推定値Y(t)と共に、誤差算出器27に入力される。以下では、推定モデル21から出力される第二パラメータの推定値Y(t)のことを、第一推定値Y(t)とも表現し、推定モデル25から出力される第二パラメータの推定値Y*(t)のことを、第二推定値Y*(t)とも表現する。
【0034】
誤差算出器27は、推定誤差に関する評価値E(t)として、第一推定値Y(t)と第二推定値Y*(t)との間の距離に関する評価値E(t)を算出する。
具体的に、誤差算出器27は、第一推定値Y(t)及び第二推定値Y*(t)がスカラーである場合には、第一推定値Y(t)と第二推定値Y*(t)との差の絶対値|Y(t)-Y*(t)|を、評価値E(t)と算出することができる。
【0035】
誤差算出器27は、第一推定値Y(t)及び第二推定値Y*(t)が多次元値である場合には、第一推定値Y(t)と第二推定値Y*(t)との間の多次元空間上の距離||Y(t)-Y*(t)||を、評価値E(t)と算出することができる。一例によれば、距離||Y(t)-Y*(t)||は、第一推定値Y(t)と第二推定値Y*(t)との間のユークリッド距離である。
【0036】
但し、評価値E(t)は、第一推定値Y(t)と第二推定値Y*(t)との間のマハラノビス距離として算出されてもよい。更なる別例として、評価値E(t)は、KLダイバージェンス(カルバック・ライブラー・ダイバージェンス)として算出されてもよい。
【0037】
誤差算出器27に算出された評価値E(t)は、対応する時刻tの第二パラメータの第一推定値Y(t)と関連付けて、表示デバイス50に入力される。復元型ニューラルネットワーク23から出力される第二推定値X*(t)が上述した性質を有することから、この評価値E(t)は、情報処理装置10に入力される第一パラメータの計測値X(t)と推定モデル21の構築に用いられた計測値との相違の程度に応じて変化する。相違が大きいほど、評価値E(t)は、大きい値を示し、大きな値は、推定値Y(t)の確度が低いことを示す。
【0038】
従って、ユーザは、表示デバイス50に表示される推定値Y(t)及び評価値E(t)に基づいて、物Pの品質を評価することができる。よって、本実施形態の情報処理装置10によれば、品質管理に有意義なシステムを構築することが可能である。
【0039】
付言すると、情報処理装置10には、標本データに基づいて推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23を構築する機能を設けることができる。具体的に、情報処理装置10は、ユーザからの指示に従って、
図4に示す構築処理を実行することができる。
【0040】
この構築処理を開始すると、プロセッサ11は、ストレージデバイス15に格納された第一パラメータの標本データと第二パラメータの標本データとを読み出す(S110)。以下では、第一パラメータの標本データのことを第一標本データと表現し、第二パラメータの標本データのことを第二標本データと表現する。
【0041】
第一標本データは、物Pの製造過程で計測された第一パラメータの計測値を示す計測データの一群である。第二標本データは、第一の標本データ内の計測データの一群に関連付けられた、対応する物Pの破壊試験で計測された第二パラメータの計測値を示す計測データの一群である。
【0042】
ユーザは、第一標本データを計測器群100から取得した後、対応する物Pに関して破壊試験を行って、
図5に示すように、計測器群200から第二標本データを取得することができる。そして、第一標本データ及び第二標本データをストレージデバイス15に格納することができる。
【0043】
プロセッサ11は、S110での処理実行後、読み出した第一標本データと第二標本データとに基づき、推定モデル21を構築する(S120)。一例によれば、重回帰分析により推定モデル21を構築する。
【0044】
重回帰分析によれば、第一パラメータの標本値を推定モデル21の原型に代入して得られる第二パラメータの推定値と、第一パラメータの標本値に対応する第二パラメータの標本値との二乗誤差が最小となるように、推定モデル21の原型に含まれる設計変数が計算され、推定モデル21が構築される。ここでいう推定モデル21の原型は、設計変数の値が定まっていない未完成の推定モデル21に対応し、推定モデル21は、原型に含まれる設計変数の値を確定して定義される。
【0045】
続いて、プロセッサ11は、推定モデル21の構築に用いた第一標本データと同じデータを用いて、復元型ニューラルネットワーク23を構築する(S130)。ここでは、係数が未知の復元型ニューラルネットワーク23の原型に、第一標本データが示す第一パラメータの標本値を入力して得られる復元型ニューラルネットワーク23の出力と、第一パラメータの標本値との誤差を最小化するような、係数を算出して、復元型ニューラルネットワーク23を構築することができる。
【0046】
プロセッサ11は、その後、S120及びS130で構築した推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23を用いて、
図2に示す評価システム20を構築する(S140)。具体的には、評価システム20を実現するためのコンピュータプログラムにおいて参照される推定モデル21,25及び復元型ニューラルネットワーク23の定義データとして、S120及びS130で構築した推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23の定義データを作成してストレージデバイス15に格納することで、評価システム20を構成することができる。
【0047】
プロセッサ11は、評価システム20を実現するための処理として、
図6に示す評価処理を、構築処理の実行後、ユーザからの指示に従って、繰返し実行することができる。評価処理において、プロセッサ11は、計測器群100から第一パラメータの計測値X(t)を示す計測データを取得する(S210)。この計測データは、第二パラメータの推定対象データに対応する。そして、取得した計測データに基づき、第一パラメータの計測値X(t)を推定モデル21に入力して、推定モデル21から出力される第二パラメータの推定値Y(t)を取得する(S220)。
【0048】
更に、プロセッサ11は、第一パラメータの計測値X(t)を、復元型ニューラルネットワーク23を介して推定モデル25に入力して、第二パラメータの推定値Y*(t)を取得する(S230)。即ち、第一パラメータの計測値X(t)の入力に応じて復元型ニューラルネットワーク23から出力される復元された第一パラメータの計測値X*(t)を、推定モデル25に入力して、第二パラメータの推定値Y*(t)を取得する(S230)。
【0049】
更に、プロセッサ11は、推定誤差に関する評価値E(t)として、推定モデル21から出力される第二パラメータの推定値Y(t)と、推定モデル25から出力される第二パラメータの推定値Y*(t)との間の距離を算出する(S240)。
【0050】
プロセッサ11は、このようにして算出された評価値E(t)を、第二パラメータの推定値Y(t)と共に出力する(S250)。プロセッサ11は、推定値Y(t)及び評価値E(t)を表示デバイス50に出力し、更には、ストレージデバイス15に出力して記録することができる。
【0051】
プロセッサ11は、S210-S250の処理を周期的に繰返し実行することにより、物Pの連続的な製造過程において、リアルタイムに得られる第一パラメータの計測値X(t)から、破壊試験なしに、第二パラメータの値Y(t)を推定誤差に関する評価値E(t)と共に記録することができる。
【0052】
付言すると、推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23の構築に際しては、物Pの破壊試験の結果に基づいて、第一及び第二パラメータの計測データを、正常データと異常データとに分け、正常データのみを構築に用いることができる。即ち、正常データに対応する第一及び第二パラメータの計測値を、学習用の第一及び第二標本データとして用いて、推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23を構築することができる。
【0053】
ここでいう正常データは、破壊試験の結果、合格品に分類された物Pについての第一及び第二パラメータの計測データと理解されてもよく、異常データは、不合格品に分類された物Pについての第一及び第二パラメータの計測データと理解されてもよい。
【0054】
この場合、評価値E(t)は、製造時における第一パラメータの計測値X(t)の特徴が合格品の標本データに近いときに小さい値を示し、第一パラメータの計測値X(t)の特徴が合格品の標本データから遠いときに大きい値を示す。従って、ユーザは、評価値E(t)の大小に基づき、製造過程及び製造物の異常を理解することができる。あるいは、評価値E(t)は、異常報知機への入力に用いられてもよい。
【0055】
正常データのみを用いて推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23を構築したときの評価システム20の挙動に関する一つの実験結果を、
図7、
図8、
図9、及び
図10に示す。この実験結果は、連続的に物Pが製造される生産ラインでリアルタイムに得られる計測値X(t)を用いた実験結果である。
【0056】
図7は、評価システム20に入力された計測値X(t)=(X1(t),X2(t),X3(t),X4(t))を、横軸を時間軸とするグラフで示した図である。
図7、
図8、及び、
図9において、グラフ内の実線は、正常データに対応し、点線は、異常データに対応する。
【0057】
図8は、計測値X(t)=(X1(t),X2(t),X3(t),X4(t))を復元型ニューラルネットワーク23に入力して得られる、復元された計測値X
*(t)=(X1
*(t),X2
*(t),X3
*(t),X4
*(t))を、横軸を時間軸とするグラフで示した図である。
【0058】
図9は、その上段に、推定モデル21から出力される第二パラメータの推定値Y(t)である、製造物の推定寸法を、横軸を時間軸とするグラフで示し、その下段に、推定誤差の評価値E(t)=|Y
*(t)-Y(t)|を、横軸を時間軸とするグラフで示した図である。
【0059】
更に、
図10のグラフでは、対応する物Pの推定寸法を横軸に表し、実測寸法を縦軸に示す。黒丸は、正常データに対応する寸法を表し、白丸は、異常データに対応する寸法を表す。
図10のグラフ内に示す一点鎖線上の点は、推定寸法と実測寸法とが一致する点に対応する。
【0060】
この実験結果が示すように、正常データに基づく推定モデル21及び復元型ニューラルネットワーク23の学習によれば、合格品について破壊試験なしでリアルタイムに第二パラメータの推定値として精度の高い値を得ることができ、更には、評価値E(t)に基づいて、不合格である可能性の高い物Pを検出することができる。更には、評価値E(t)を通して、第二パラメータの推定値Y(t)の信頼度を知ることができることから、第二パラメータについての製造物の規格上限及び下限の設定を緩くすることができ、製品の歩留まりを高くすることができる。
【0061】
本開示の技術は、特に、計測に破壊試験が必要なパラメータのように、学習のために大量の標本データを用意することができないパラメータの推定に際して、大変役立つ。
以上に、本開示の例示的実施形態について説明したが、本開示の技術は、上述した実施形態に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0062】
例えば、評価システム20では、第一パラメータの一部のみが、推定モデル21に入力されてもよい。例えば、第一パラメータが要素X1,X2,X3,X4,X5を含む五次元パラメータである場合、復元型ニューラルネットワーク23には、第一パラメータの計測値X(t)=(X1(t),X2(t),X3(t),X4(t),X5(t))に含まれる全要素の計測値X1(t),X2(t),X3(t),X4(t),X5(t)が入力されるが、推定モデル21には、一部要素の計測値X1(t),X2(t)のみが入力されてもよい。
【0063】
この場合、推定モデル21は、第一パラメータの一部要素の計測値X1(t),X2(t)から、第二パラメータの推定値Y(t)を算出するように構成されてもよい。この場合、推定モデル25は、推定モデル21と同様に、復元型ニューラルネットワーク23から出力される復元された計測値X*(t)=(X1*(t),X2*(t),X3*(t),X4*(t),X5*(t))の一部要素の計測値X1*(t),X2*(t)のみを受け付けて、第二パラメータの推定値Y*(t)を出力するように構成され得る。
【0064】
この他、推定モデル21,25は、回帰式により構成されなくてもよく、学習用データセットに基づいて統計的に構成されたその他の推定モデルであってもよい。例えば、推定モデル21は、識別型ニューラルネットワークとして構成されてもよい。
【0065】
回帰分析を用いた推定モデルの構築技術も、ニューラルネットワークを用いた推定モデルの構築技術も、第一標本データを推定モデルに入力したときの出力と第二標本データとの誤差を統計的に抑える方向にモデルを構築する技術であり、いずれも統計的手法に基づくモデルの構築技術である。
【0066】
この他、復元型ニューラルネットワーク23は、入力層23Aと出力層23Eとの間に、入力層23Aのノード数より小さいノード数の中間層を一つのみ備えるニューラルネットワークであってもよいし、3つより大きい数の多層の中間層を有したニューラルネットワークであってもよい。
【0067】
更に言えば、復元型ニューラルネットワーク23の学習に際しては、第一パラメータに関して、推定モデル21に用いられた標本データだけでなく追加の標本データが用意されてもよい。例えば、破壊試験のために抽出された物と同時期に製造された物については、抽出された物と同様の特性を有することが期待される。即ち、第一パラメータの計測データの一部については、破壊試験なしで正常データとみなすことができる。このような正常データとみなした第一パラメータの計測データを含む大量の標本データに基づく学習によれば、より良い復元型ニューラルネットワーク23を構築することができる。
【0068】
更に言えば、本開示の技術は、製造される物の特性値の推定及び評価への利用に限定されるものではなく、種々の分野に適用可能である。例えば、本開示の技術は、顔認証システムの誤差評価に適用されてもよい。
【0069】
この他、上述した実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…情報処理装置、11…プロセッサ、13…メモリ、15…ストレージデバイス、20…評価システム、21,25…推定モデル、23…復元型ニューラルネットワーク、23A…入力層、23B,23C,23D…中間層、23E…出力層、27…誤差算出器、50…表示デバイス、100,200…計測器群。