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特許7099317水溶性フィルム及び薬剤包装体、ならびに水溶性フィルムの製造方法
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  • 特許-水溶性フィルム及び薬剤包装体、ならびに水溶性フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】水溶性フィルム及び薬剤包装体、ならびに水溶性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220705BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B65D65/46
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018533269
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2018022493
(87)【国際公開番号】W WO2018230583
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017115132
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】日裏 貴裕
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-315141(JP,A)
【文献】特公昭47-004315(JP,B1)
【文献】特開2002-284905(JP,A)
【文献】実開平04-081947(JP,U)
【文献】特開平01-281085(JP,A)
【文献】特開2017-102438(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043513(WO,A1)
【文献】特開2009-1009(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B65D 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)を主成分として含有する水溶性フィルムであって、ポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均ケン化度が80~99.0モル%であり、20℃の水の水面に60秒間浮かべたときの前記水溶性フィルムの流れ方向(MD)の伸展率(XMD)に対する幅方向(TD)の伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)が1.05~1.5であることを特徴とする水溶性フィルム。
【請求項2】
含水率が3~15重量%であることを特徴とする請求項1記載の水溶性フィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
薬剤包装に用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルムで形成された包装体と、前記包装体に包装された薬剤とからなることを特徴とする薬剤包装体。
【請求項6】
前記薬剤が洗剤であることを特徴とする請求項5記載の薬剤包装体。
【請求項7】
前記洗剤が液体洗剤であることを特徴とする請求項6記載の薬剤包装体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルムを製造する方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有する製膜材料を流延、乾燥して製膜する工程と、前記製膜により得られたフィルムの温度を50~95℃とするように熱処理する工程と、ドロー比を1.05~1.5として前記熱処理したフィルムを巻き取る工程とを備えることを特徴とする水溶性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水溶性フィルムに関し、更に詳しくは、カールが抑制され、かつ液体洗剤等の薬剤を包装した際に、歪みが無く外観特性に優れた包装体を成形することができる水溶性フィルムに関するものである。
以下、ポリビニルアルコールを「PVA」、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水溶性フィルムを「PVA系水溶性フィルム」と略記することがある。
【背景技術】
【0002】
従来より、PVAの水溶性を生かして、農薬や洗浄剤等の各種薬剤をPVA系樹脂のフィルムからなる袋に入れた薬剤の分包が提案され、幅広い分野で用いられている。
かかる薬剤包装用途に用いる水溶性フィルムには、優れた溶解性に加えて、包装体とした際に、シール性が良好である、破袋しない、歪みが生じない、張りの低減が生じないといった、機械特性や外観特性など種々の特性を満足することが要求される。
【0003】
かかる用途に用いる水溶性フィルムとして、例えば、PVA系樹脂と特定の融点を有する2種類の可塑剤をPVA系樹脂に対して特定量含有させることで、引張強度や引張伸度が高く機械特性に優れており、液体を包装した状態であっても経時で水溶性フィルムの張りが損なわれない外観特性が良好な包装体を成形し得る水溶性フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2017/043508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の水溶性フィルムは、機械特性と経時的な張りの低下が生じない外観特性に優れた包装体を得ることができるものであるが、一方で、製造条件によってはフィルムがカールしてしまうこともあり、水溶性フィルムにカールが発生してしまうと、例えば、水溶性フィルムを用いて包装体を製造する際に、ハンドリングが困難であったり、シール時に位置ずれが起こったりしやすいため、包装体の生産効率が低下するという問題が懸念され、さらなる改善が望まれるものであった。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景下において、カールが抑制され、包装体を形成する際に位置ずれが起こりにくく良好なシール性を示し、かつ包装体とした際の外観特性にも優れる水溶性フィルム、及びそれを用いてなる薬剤包装体、ならびに水溶性フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、PVA系水溶性フィルムにおいて、フィルムの異方性に着目し、従来の水溶性フィルムでは有しなかった異方性を付与する、即ち、フィルムの幅方向と流れ方向の伸展率について、流れ方向の伸展率に対して、幅方向の伸展率を大きめにすることにより、カールが抑制され、水溶性フィルムを用いて包装体を成形する際に、シール部分の位置ずれが起こりにくく良好なシール性を示し、特に水シール性に適したものとなり、更に、包装体の変形も抑制することができ、包装体の生産性に優れた効果を有することを見出した。
詳細には、通常、フィルムの幅方向と流れ方向の伸展率に差がない方が、張力の差が生じずカールしにくいと考えられるところ、本発明においては、意外にも幅方向と流れ方向の伸展率に差があり、かつ伸展率の比を特定範囲に調整することにより、カールが抑制され、包装用途に適した水溶性フィルムが得られることを見出したものである。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)を主成分として含有する水溶性フィルムであって、20℃の水の水面に60秒間浮かべたときの前記水溶性フィルムの流れ方向(MD)の伸展率(XMD)に対する幅方向(TD)の伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)が1.05~1.5であることを特徴とする水溶性フィルムに関するものである。
更に、本発明では、前記水溶性フィルムを用いてなる薬剤包装体、及び前記水溶性フィルムの製造方法も提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水溶性フィルムは、カールが抑制されるため、包装体を成形する際に位置ずれが起こりにくく良好なシール性を示し、更に包装体の変形も抑制されるため、外観特性にも優れた包装体が得られるものとなる。
【0010】
更に、本発明の水溶性フィルムの含水率が3~15重量%であると、機械強度やヒートシール性に優れるようになる。
【0011】
更に、前記PVA系樹脂(A)が、アニオン性基変性PVA系樹脂であると、水溶性フィルムの溶解性に優れるようになる。
【0012】
更に、本発明の水溶性フィルムを薬剤包装に用いると、包装体を破袋することなく、薬剤を用いることができる。
【0013】
前記水溶性フィルムで形成された包装体と、前記包装体に包装された薬剤とからなる薬剤包装体は、破袋する必要なく簡便に用いることができる。
【0014】
更に、前記薬剤が洗剤である薬剤包装体の場合には、洗剤使用の際に計量する手間を省くことができ、より簡便に用いることができる。
【0015】
更に、前記洗剤が液体洗剤である薬剤包装体の場合には、液体洗剤で周囲を汚すことなく、より一層簡便に用いることができる。
【0016】
前記水溶性フィルムを製造する方法であって、前記PVA系樹脂(A)を含有する製膜材料を流延、乾燥して製膜する工程と、前記製膜により得られたフィルムの温度を50~95℃とするように熱処理する工程と、ドロー比を1.05~1.5として前記熱処理したフィルムを巻き取る工程とを備えると、得られる水溶性フィルムは、カールが抑制されるため、包装体を成形する際に位置ずれが起こりにくく良好なシール性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】水溶性フィルムのカール性の評価の際に用いる、フィルムのカール径の長さ(A)の測定条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)を主成分として含有する水溶性フィルムであって、20℃の水の水面に60秒間浮かべたときの前記フィルムの流れ方向(MD)の伸展率(XMD)に対する幅方向(TD)の伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)が1.05~1.5であることを特徴とする。
【0019】
本発明において、「フィルムの幅方向」とは、一般には、フィルムの長手方向に対して略直交する方向である。特にキャストドラム(ドラム型ロール)やエンドレスベルト等のキャスト型に吐出及び流延して製膜された水溶性フィルムにおいては、製膜する際のフィルムの流れ方向に対して略直交する方向であり、典型的には、フィルムの両縁間の距離が最短になるときの方向をいう。本発明においては、フィルムの幅方向を「TD」と称し、フィルムの流れ方向を「MD」と称する。
【0020】
上記の流れ方向(MD)の伸展率(XMD)に対する幅方向(TD)の伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)は次のようにして測定、算出される。
まず、PVA系水溶性フィルムを23℃、50%RH調湿条件下で24時間放置した後、この環境下で150mm×150mmサイズに切り出し、水面に浮かべる際の水面側の反対面側の中央部分に直径75mmの円を水性ペンで描く。
更に、円の内部に、フィルムのTDとMDのそれぞれと平行に、直径と同じ長さ75mmの線(STD0)と(SMD0)を描く。
次に、このPVA系水溶性フィルムを、20℃の水を満たした縦350mm、横250mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべる。着水以降、フィルムは膨潤して徐々に伸展し、先にフィルムに描かれた円がフィルムの伸展と共に変形する。
水面に浮かべてから60秒後の、TDとMDのそれぞれと平行に描いた2本の線である(STD60)と(SMD60)の長さをそれぞれ測定し、伸展前の長さに対する伸展後の長さの割合からTDの伸展率(XTD)とMDの伸展率(XMD)をそれぞれ算出し、その比(XTD/XMD)を求める。
TDの伸展率(XTD)とMDの伸展率(XMD)は、下式に従って算出する。
TD(%) =STD60/STD0 ×100
MD(%) =SMD60/SMD0 ×100
【0021】
上記水溶性フィルムのMDの伸展率(XMD)に対するTDの伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)は、1.05~1.5であるが、好ましくは1.07~1.40であり、特に好ましくは1.10~1.30である。伸展率の比(XTD/XMD)が大きすぎると包装体とした際に歪みが生じて外観特性や機械特性が低下することとなり、小さすぎるとカール抑制の効果が低下することとなる。
【0022】
本発明の水溶性フィルムは、例えば、以下の通り製造される。
本発明の水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)を主成分として含有するが、ここで主成分として含有するとは、PVA系樹脂(A)が水溶性フィルム全量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは55重量%以上含有することを意味する。
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、未変性PVA系樹脂や変性PVA系樹脂が挙げられる。
【0023】
未変性PVA系樹脂は、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。
【0024】
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
変性PVA系樹脂は、上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化することにより製造することができる。
【0026】
上記ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0027】
また、変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するもので、例えば、側鎖の一級水酸基の数が、通常1~5個、好ましくは1~2個、特に好ましくは1個であるものが挙げられ、更には、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。かかる変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖にヒドロキシアルキル基を有するPVA系樹脂、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂等が挙げられる。側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂は、例えば、(1)酢酸ビニルと3,4-ジアセトキシ-1-ブテンとの共重合体をケン化する方法、(2)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(3)酢酸ビニルと2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(4)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により製造することができる。
【0028】
上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体との共重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。
【0029】
重合触媒としては、重合方法に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、重合の反応温度は50℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0030】
ケン化は公知の方法で行うことができ、通常、得られた共重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下で行なわれる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。アルコール中の共重合体の濃度は、溶解率の観点から20~50重量%の範囲から選択される。
【0031】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒を用いることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。ケン化触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0032】
本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基が好ましく、特にはカルボキシル基が好ましい。
【0033】
上記カルボキシル基変性PVA系樹脂は、任意の方法で製造することができ、例えば、(i)カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物を共重合した後にケン化する方法、(ii)カルボキシル基を有するアルコールやアルデヒドあるいはチオール等を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後にケン化する方法等を挙げることができる。
【0034】
上記(i)または(ii)の方法におけるビニルエステル系化合物としては、前述のものを用いることができるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。
【0035】
上記(i)の方法におけるカルボキシル基を有する不飽和単量体としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等)、またはエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル等)〔但し、これらのジエステルは共重合体のケン化時に加水分解によりカルボキシル基に変化することが必要である〕、またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)、あるいはエチレン性不飽和モノカルボン酸((メタ)アクリル酸、クロトン酸等)等の単量体、及びそれらの塩が挙げられ、中でも、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、(メタ)アクリル酸等を用いることが好ましく、特には、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸塩、無水マレイン酸を用いることが好ましく、更にはマレイン酸モノアルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0036】
上記(ii)の方法においては、特に連鎖移動効果の大きいチオールに由来する化合物を用いることが有効であり、例えば、以下の一般式(1)~(3)で示される化合物及びそれらの塩が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
[但し、上記一般式(1)、(2)において、nは0~5の整数で、R1、R2、R3はそれぞれ水素原子または低級アルキル基(置換基を含んでもよい)を示す。]
【0040】
【化3】
[但し、上記一般式(3)において、nは0~20の整数である。]
【0041】
具体的にはメルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトステアリン酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0042】
なお、上記カルボキシル基を有する不飽和単量体、ビニルエステル系化合物以外に、その他の一般の単量体を、水溶性を損なわない範囲で含有させて重合を行なってもよく、これらの単量体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸のアルキルエステル、飽和カルボン酸のアリルエステル、α-オレフィン、アルキルビニルエーテル、アルキルアリルエーテル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニル等を用いることができる。
【0043】
また、上記カルボキシル基変性PVA系樹脂の製造方法としては、上記方法に限らず、例えばポリビニルアルコール(部分ケン化物または完全ケン化物)にジカルボン酸、アルデヒドカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基と反応性のある官能基をもつカルボキシル基含有化合物を後反応させる方法等も実施可能である。
【0044】
また、スルホン酸基で変性されたスルホン酸変性PVA系樹脂を用いる場合は、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の共重合成分を、ビニルエステル系化合物と共重合した後、ケン化する方法、ビニルスルホン酸もしくはその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸もしくはその塩等をPVAにマイケル付加させる方法等により製造することができる。
【0045】
一方、上記未変性PVA系樹脂を後変性する方法としては、例えば、未変性PVA系樹脂をアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明のPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99.9モル%、更に好ましくは85~99.5モル%、殊に好ましくは90~99.0モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装対象の薬剤のpHによっては経時的にフィルムの溶解性が低下する傾向がある。
【0047】
特に、本発明において、PVA系樹脂(A)として未変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99モル%、更に好ましくは85~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水溶性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎても水溶性が低下する傾向がある。
【0048】
一方、PVA系樹脂(A)として変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは85~99.9モル%、更に好ましくは90~99.0モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装対象の薬剤のpHによっては経時的にフィルムの溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎると製膜時の熱履歴により水への溶解性が大きく低下する傾向がある。
【0049】
更に、PVA系樹脂(A)として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは88~99.9モル%、更に好ましくは90~99.5モル%、殊に好ましくは90~99.0モル%である。
【0050】
また、本発明のPVA系樹脂(A)の20℃における4重量%水溶液粘度は10~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは15~45mPa・s、更に好ましくは20~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのフィルムの機械強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明において、上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1~10モル%であることが好ましく、特に好ましくは2~9モル%、更に好ましくは2~8モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下したりする傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向がある。
【0052】
本発明において、上記のPVA系樹脂(A)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また、未変性PVA系樹脂同士を併用すること、変性PVA系樹脂同士を併用すること、未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂を併用すること、更に、ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用すること等もできる。
本発明においては、PVA系樹脂(A)が、溶解性を長く保持できる点で、変性PVA系樹脂であることが好ましく、特にはアニオン性基変性PVA系樹脂であることが好ましく、更にはカルボキシル基変性PVA系樹脂であることが好ましい。また、フィルム強度の点からは、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVA系樹脂を含有することが好ましく、特にはカルボキシル基変性PVA系樹脂と未変性PVA系樹脂を含有することが好ましい。
【0053】
変性PVA系樹脂と未変性PVA系樹脂を併用する場合における含有割合(重量比)については、変性PVA系樹脂/未変性PVA系樹脂=95/5~60/40であることが好ましく、特に好ましくは94/6~70/30、更に好ましくは93/7~80/20である。かかる含有割合が小さすぎると水溶解性が低下する傾向があり、大きすぎると酸性物質包装後の水溶解性が低下する傾向がある。
【0054】
また、変性PVA系樹脂と未変性PVA系樹脂を併用する場合において、未変性PVA系樹脂は、20℃における4重量%水溶液粘度が、5~50mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは10~45mPa・s、更に好ましくは12~40mPa・s、殊に好ましくは15~35mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としてのフィルムの機械強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。
【0055】
上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0056】
本発明においては、PVA系樹脂(A)に可塑剤(B)を含有させることが、包装体とした際にフィルムに柔軟性を付与する点で好ましい。可塑剤(B)は1種のみを用いたり、2種以上を併用したりすることができるが、少なくとも2種を併用することが、包装体とした場合のフィルム自身の強靭さ、また、低温でのシールが可能であり、かつシール部の強度が高い点で好ましい。
【0057】
かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、「可塑剤(b1)」と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、「可塑剤(b2)」と略記することがある。)であることが水溶性フィルム製造時や包装体製造時の強靭さ及び液体洗剤用の包装体とした際の経時的な形状安定性、低温でのシール性の点で好ましい。
【0058】
上記の融点が80℃以上である多価アルコール(b1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが適用可能であるが、中でも、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、( )内は融点を示す。
上記の中でも、水溶性フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上のものが好ましく、特に好ましくは90℃以上のものである。なお、融点の上限は好ましくは300℃、特に好ましくは200℃である。
【0059】
更に、本発明では、可塑剤(b1)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂(A)との相溶性の点で好ましく、特好ましくは5~10個、更に好ましくは6~8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が好適なものとして挙げられる。
【0060】
また、本発明においては、可塑剤(b1)として、水溶性フィルムの強靭さの点で、分子量が150以上であることが好ましく、特に好ましくは160~500、更に好ましくは180~400であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が好適なものとして挙げられる。
【0061】
一方、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)としては、脂肪族アルコール、例えば、好ましくは、エチレングリコール(-13℃)、ジエチレングリコール(-11℃)、トリエチレングリコール(-7℃)、プロピレングリコール(-59℃)、テトラエチレングリコール(-5.6℃)、1,3-プロパンジオール(-27℃)、1,4-ブタンジオール(20℃)、1,6-ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、( )内は融点を示す。上記の中でも、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下のものが特に好ましく、更に好ましくは20℃以下のものである。なお、融点の下限は通常-80℃であり、好ましくは-10℃、特に好ましくは0℃である。
【0062】
更に、本発明では、可塑剤(b2)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以下であることが好ましく、特には3個以下であることが常温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0063】
また、本発明においては、可塑剤(b2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、特に好ましくは50~100、更に好ましくは60~95であり、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0064】
本発明においては、上記の可塑剤(b1)や(b2)以外の可塑剤(b3)を併用することができ、かかる可塑剤(b3)としては、例えば、トリメチロールプロパン(58℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、カルビトール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ジブチルエーテル等のエーテル類、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、クエン酸、アジピン酸等のカルボン酸類、シクロヘキサノン等のケトン類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、イミダゾール化合物等のアミン類、アラニン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、システイン等のアミノ酸類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0065】
本発明では、可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましく、特に好ましくは25~70重量部、更に好ましくは30~60重量部、殊に好ましくは35~50重量部である。かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると液体洗剤等の液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さを損なう傾向がある。なお、多すぎると機械強度が低下する傾向にある。
【0066】
また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)が0.1~5であることが好ましく、特に好ましくは0.2~4、更に好ましくは0.5~3、殊に好ましくは0.7~2である。かかる含有割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかくなり過ぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下で脆くなる傾向がある。
【0067】
また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(b1)が5~40重量部であることが好ましく、特に好ましくは8~30重量部、更に好ましくは10~25重量部であり、また可塑剤(b2)が5~40重量部であることが好ましく、特に好ましくは10~35重量部、更に好ましくは15~30重量部である。
かかる可塑剤(b1)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎる傾向がある。また、可塑剤(b2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向や、低湿環境下で脆くなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなり過ぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0068】
更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは87重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、殊に好ましくは95重量%以上であり、最も好ましくは可塑剤(B)全体が可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)のみからなる場合である。かかる可塑剤(b1)と(b2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。
【0069】
本発明においては、必要に応じて、更に、フィラー(C)や界面活性剤(D)等を含有させることができる。
【0070】
本発明で用いられるフィラー(C)は、耐ブロッキング性の目的で含有されるものであり、具体例としては、無機フィラーや有機フィラーが挙げられ、中でも有機フィラーが好ましい。また、平均粒子径としては、0.1~20μmであることが好ましく、特に好ましくは0.5~15μmである。なお、上記平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0071】
かかる無機フィラーとしては、その平均粒子径が1~10μmのものであることが好ましく、かかる平均粒子径が小さすぎると水溶性フィルムの水中への分散性の効果が少ない傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなったり、外観が低下したりする傾向がある。
【0072】
無機フィラーの具体例としては、例えば、タルク、クレー、二酸化ケイ素、ケイ藻土、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウィスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0073】
有機フィラーとしては、その平均粒子径が0.5~20μmのものであることが好ましく、特に好ましくは0.5~10μm、更に好ましくは0.5~7μm、殊に好ましくは0.5~5μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとコストが高くなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなる傾向がある。
【0074】
かかる有機フィラーとしては、例えば、澱粉、メラミン系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂の他、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。中でも、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、澱粉等の生分解性樹脂を用いることが好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0075】
上記の澱粉としては、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等)、物理的変性澱粉(α-澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等)、酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。中でも入手の容易さや経済性の点から、生澱粉、とりわけトウモロコシ澱粉、コメ澱粉を用いることが好ましい。
【0076】
上記フィラー(C)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して1~30重量部であることが好ましく、特に好ましくは2~25重量部、更に好ましくは2.5~20重量部である。かかる含有量が少なすぎると耐ブロッキング性が低下する傾向があり、多すぎると水溶性フィルムを成形加工するときに引き伸ばされた際にピンホールとなる傾向がある。
【0077】
本発明で用いられる界面活性剤(D)としては、水溶性フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられ、1種または2種以上併用して用いられる。中でも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。
【0078】
かかる界面活性剤(D)の含有量については、PVA系樹脂(A)100重量部に対して0.01~4重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.1~3重量部、更に好ましくは0.5~2.5重量部である。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜した水溶性フィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎると水溶性フィルムを包装体とする場合に実施するシール時の接着強度が低下する等の不都合を生じる傾向がある。
【0079】
なお、本発明においては、発明の目的を阻害しない範囲で、更に他の水溶性高分子(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)や、香料、防錆剤、着色剤、増量剤、消泡剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、流動パラフィン類、苦味成分(例えば、安息香酸デナトニウム等)等を含有させることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0080】
また、本発明においては、黄変抑制の点で酸化防止剤を配合することが好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩、酒石酸、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、カテコール、ロンガリット等が挙げられ、中でも亜硫酸塩、特には亜硫酸ナトリウムが好ましい。かかる配合量はPVA系樹脂(A)100重量部に対して0.1~10重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.2~5重量部、更に好ましくは0.3~3重量部である。
【0081】
<PVA系水溶性フィルムの製造>
本発明においては、上記の通りPVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を含有してなるPVA系樹脂組成物を得て、かかるPVA系樹脂組成物を、[I]溶解工程、[II]製膜工程、[III]巻取工程、の順序で製造してPVA系水溶性フィルムとする。
【0082】
〔[I]溶解工程〕
溶解工程では、上記PVA系樹脂組成物を水を用いて溶解または分散して、製膜原料となる水溶液または水分散液を調製する。
上記PVA系樹脂組成物を水に溶解する際の溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、中でも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
溶解温度としては、高温溶解の場合には、通常80~100℃、好ましくは90~95℃であり、加圧溶解の場合には、通常80~130℃、好ましくは90~120℃である。
溶解時間としては、溶解温度、溶解時の圧力により適宜調整すればよいが、通常1~20時間、好ましくは2~15時間、特に好ましくは3~10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。
【0083】
また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツイスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。
更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。中でも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。
静置脱泡の温度としては、通常50~100℃、好ましくは70~95℃であり、脱泡時間は、通常2~30時間、好ましくは5~20時間である。
【0084】
かかる製膜原料の固形分濃度は、10~50重量%であることが好ましく、特に好ましくは15~40重量%、更に好ましくは20~35重量%である。かかる濃度が低すぎるとフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。
【0085】
〔[II]製膜工程〕
製膜工程では、溶解工程で調製した製膜原料を膜状に賦形し、必要に応じて乾燥処理を施すことで、含水率15重量%未満にしたPVA系水溶性フィルムに調整する。
製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面に流延し、乾燥することにより本発明のPVA系水溶性フィルムを製造することができる。
【0086】
T型スリットダイ等の製膜原料吐出部における製膜原料の温度は、60~98℃であることが好ましく、特に好ましくは70~95℃である。かかる温度が低すぎると製膜原料の粘度が増加してPVA系水溶性フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。
流延後、キャスト面上で製膜原料を乾燥させるのであるが、乾燥にあたっては、通常、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等のキャスト面を加熱することにより行う。上記キャスト面の表面温度は、50~150℃であることが好ましく、特に好ましくは60~140℃である。かかる表面温度が低すぎると、乾燥不足でフィルムの含水率が高くなるためブロッキングしやすくなる傾向があり、高すぎると製膜原料が発泡し、製膜不良となる傾向がある。
また、製膜時の乾燥においては、熱ロールによる乾燥、フローティングドライヤーを用いてフィルムに熱風を吹き付ける乾燥や遠赤外線装置、誘電加熱装置による乾燥等を併用することもできる。
【0087】
上記の乾燥処理で製膜原料を含水率15重量%未満になるまで乾燥した後、キャスト面から剥離すること(キャスト面から剥離後に更に熱ロールによる乾燥を行う場合は、乾燥熱ロールから剥離すること)でPVA系水溶性フィルムが得られる。キャスト面(または、乾燥熱ロール)から剥離されたPVA系水溶性フィルムは、10~35℃の環境下で冷却されながら搬送される。
【0088】
〔[III]巻取工程〕
巻取工程では、製膜工程でキャスト面等から剥離したPVA系水溶性フィルムを搬送して巻き取り、芯管(S1)に巻き取ることによりフィルムロールが調製される。
得られたフィルムロールは、そのまま製品として供給することもできるが、好ましくは所望サイズのPVA系水溶性フィルム幅に見合った長さの芯管(S2)に巻き取り直し、所望のサイズのフィルムロールとして供給することもできる。
【0089】
PVA系水溶性フィルムを巻き取る芯管(S1)は円筒状のもので、その材質は金属、プラスチック等、適宜選択できるが、堅牢性、強度の点で金属であることが好ましい。
芯管(S1)の内径は、3~30cmが好ましく、より好ましくは10~20cmである。
芯管(S1)の肉厚は、1~30mmが好ましく、より好ましくは2~25mmである。
芯管(S1)の長さは、PVA系水溶性フィルムの幅より長くすることが必要で、フィルムロールの端部から1~50cm突出するようにするのが好ましい。
【0090】
また、芯管(S2)は円筒状のもので、その材質は紙や金属、プラスチック等、適宜選択できるが、軽量化及び取扱いの点で紙であることが好ましい。
芯管(S2)の内径は、3~30cmが好ましく、より好ましくは10~20cmである。
芯管(S2)の肉厚は、1~30mmが好ましく、より好ましくは3~25mmである。
芯管(S2)の長さは、製品のPVA系水溶性フィルム幅と同等あるいはそれ以上の長さのものであればよく、好ましくは同等~50cm長いものである。
【0091】
芯管(S2)に巻き取る際には、PVA系水溶性フィルムは所望の幅にスリットされる。
かかるスリットに当たっては、シェア刃やレザー刃等を用いてスリットされるが、シェア刃でスリットすることがスリット断面の平滑性の点で好ましい。
【0092】
本発明のPVA系水溶性フィルムの伸展比率を調整するに際しては、かかるフィルムの製造工程において、[II]製膜工程の後に、フィルムを特定温度範囲とするように熱処理を行い、かつ、ドロー比を特定範囲に調整することが重要である。
【0093】
以下、熱処理方法、ドロー比の調整方法について説明する。
本発明での熱処理は製膜時の乾燥とは別に製膜工程後に行うもので、ドロー比を調整した際に生じるフィルムの残留応力を緩和して幅方向の伸展率を調整する目的で行う。
【0094】
熱処理においては、フィルムの温度が50~95℃となるように熱処理をすることが好ましく、特に好ましくは55~90℃、更に好ましくは60~85℃、殊に好ましくは65~80℃である。かかる温度が低すぎるとカール改善効果が得られ難い傾向があり、高すぎると溶解性が低下したり、包装体の成形時、シール性(特には水シール性)が低下する傾向がある。
上記「フィルムの温度」とは、熱処理を行った直後のフィルム表面を赤外線サーモグラフにより測定した温度のことを示し、具体的には熱処理装置の出口から5cmの位置でフィルムの温度を測定した数値であり、市販の赤外線サーモグラフ(例えば、FLIR SYSTEMS社製「FLIR C2」等)を用いて測定することができる。
【0095】
具体的に、熱処理を行う際にフィルムを熱処理する温度(熱処理装置の温度)としては、50~120℃が好ましく、特に好ましくは60~115℃であり、更に好ましくは70~110℃である。かかる温度が低すぎるとカール改善効果が得られ難い傾向があり、高すぎると溶解性が低下したり、包装体の成形時、シール性(特には水シール性)が低下する傾向がある。
【0096】
熱処理時間としては、熱処理温度により適宜調整すればよいが、0.01~30秒間であることが好ましく、特に好ましくは0.05~25秒間、更に好ましくは0.1~20秒間である。短すぎるとカール抑制効果が低い傾向があり、長すぎるとカールは抑制されるがフィルムの溶解性が低下する傾向がある。
かかる熱処理温度と時間は、フィルム溶解性低下の抑制と生産性を向上させる観点から高温で短時間の熱処理を行うことが好ましく、特に好ましくは90~120℃で0.01~5秒間、更に好ましくは100~115℃で0.05~3秒間である。
【0097】
熱処理については、通常熱ロールにて行うことができるが、その他、フローティングドライヤーを用いてフィルムに熱風を吹き付ける熱処理や遠赤外線装置、誘電加熱装置による熱処理等も挙げられる。本発明においては、熱ロールを用いて行うことが、ドロー比の調整がしやすい点や生産性に優れる点で好ましい。なお、熱ロールは、複数本用いることもできる。
【0098】
本発明において、熱処理の際には、2面あるフィルム面のうち、キャスト面(エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等)と接触するフィルム面側(β面側)とは反対のフィルム面側(α面側)に熱処理を施すことが好ましく、特にフィルムのα面が熱ロール(熱処理装置部分)と接触することが、フィルムのカール抑制の点で好ましい。
【0099】
このようにして得られた熱処理されたフィルムを、次の巻取工程においてドロー比を調整することで、幅方向と流れ方向の伸展率を特定比率に制御したPVA系水溶性フィルムを得ることができる。
【0100】
ドロー比とは、製膜工程のフィルムの移動速度(ベルトの場合はベルトの搬送速度、ドラムを用いる場合はドラムの周速)(v0)に対する、巻取工程でのフィルムの巻き取り速度(巻き取りロールの周速)(v1)の比(v1/v0)である。
かかるドロー比は、ベルトの搬送速度、巻き取りロールの周速、熱ロール(熱処理工程で熱ロールを使用する場合)の周速等の速度を適宜コントロールすることにより調整することができる。
【0101】
また、具体的には、ドロー比が1.05~1.5であることが好ましく、特に好ましくは1.1~1.4、更に好ましくは1.2~1.3である。
ドロー比が1.05より小さいとカールの抑制効果が低下する傾向があり、1.5より大きいと包装体を成形する際に歪みが生じたり、包装体の強度が低下したり等の機械特性が低下する傾向がある。
【0102】
また、本発明においては、熱処理工程のフィルムの移動速度(熱処理工程で熱ロールを使用する場合は熱ロールの周速)(v2)に対するフィルムの巻き取り速度(v1)の比(v1/v2)が少なくとも1.0以上であることが、カール抑制効果が得られやすい点で好ましく、特に好ましくは1.05~1.4、更に好ましくは1.1~1.3である。
【0103】
本発明では、熱処理により特定範囲の温度となったフィルムを、熱処理工程の移動速度より速度を上げて巻き取ることが好ましく、特には熱処理装置に近接した位置からフィルムの巻き取り速度を上げて巻き取ることが好ましい。
フィルムの巻き取り速度(v1)の変更開始位置は、熱処理装置の後方5m以内であることが好ましく、特に好ましくは3m以内である。かかる変更開始位置が離れすぎている場合には、熱処理による残留応力の緩和効果が弱まり本発明の効果を得られない恐れがある。
【0104】
本発明においては、ベルトの搬送速度(ドラムを用いる場合はドラムの周速)が6~25m/分であることが好ましく、特には10~20m/分であることが好ましい。
また熱ロールの周速が6~25m/分であることが好ましく、特には8~20m/分であることが好ましい。
フィルムを巻き取る巻き取りロールの周速については、8~40m/分であることが好ましく、特には10~30m/分であることが好ましい。
このようにして、本発明のPVA系水溶性フィルムを製造することができる。
【0105】
PVA系水溶性フィルムの厚みとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10~120μm、特に好ましくは15~110μm、更に好ましくは20~100μmである。かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。
【0106】
PVA系水溶性フィルムの幅としては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300~5000mm、特に好ましくは500~4000mm、更に好ましくは600~3000mmである。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。
【0107】
PVA系水溶性フィルムの長さとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは100~20000m、特に好ましくは800~15000m、更に好ましくは1000~10000mである。かかる長さが短すぎるとフィルムの切り替えに手間を要する傾向があり、長すぎると巻き締まりによる外観不良や重量が重くなりすぎる傾向がある。
【0108】
また、PVA系水溶性フィルムの表面はプレーンであってもよいが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減、及び外観の点から、フィルムの片面あるいは両面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工を施しておくことも好ましい。
かかる凹凸加工に際して、加工温度は、通常60~150℃であり、好ましくは80~140℃である。加工圧力は、通常2~8MPa、好ましくは3~7MPaである。加工時間は、上記加工圧力、製膜速度にもよるが、通常0.01~5秒間であり、好ましくは0.1~3秒間である。
また、必要に応じて、凹凸加工処理の後に、熱によるフィルムの意図しない延伸を防止するために、冷却処理を施してもよい。
【0109】
また、本発明においては、得られたPVA系水溶性フィルムの含水率は、機械強度やヒートシール性の点で3~15重量%であることが好ましく、特に好ましくは5~9重量%、更に好ましく6~8重量%である。かかる含水率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎて、包装体とする際の成形性や包装体の耐衝撃性が低下する傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。
なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。
【0110】
本発明において、上記PVA系水溶性フィルムの製造工程は、例えば、10~35℃の環境下で行うことが好ましく、特に好ましくは15~30℃である。なお、湿度については、通常70%RH以下である。
【0111】
また、本発明で得られたフィルムロールは、水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装した後に保管、輸送後に各種用途で使用されることになるが、かかる包装フィルムとしては特に限定されないが、透湿度が10g/m2・24hr(JIS Z 0208に準じて測定)以下のものが使用可能である。具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンコートポリプロピレン、ガラス蒸着ポリエステル、等の単層フィルム、あるいはこれらの積層フィルム、または割布、紙、不織布との積層フィルム等が挙げられる。積層フィルムとしては、例えば、ガラス蒸着ポリエステルとポリエチレンの積層フィルム、ポリ塩化ビニリデンコートポリプロピレンとポリエチレンの積層フィルム等が例示される。
【0112】
かかるフィルムは、帯電防止処理しておくことも異物の混入を防ぐ点で好ましく、帯電防止剤はフィルムに練り込まれていても、表面にコーティングされていてもよい。練り込みの場合は樹脂に対して0.01~5重量%程度、表面コーティングの場合は0.01~1g/m2程度の帯電防止剤が使用される。
帯電防止剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、高級脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル等が使用される。
【0113】
次に、フィルムロールを水蒸気バリア性樹脂の包装フィルムで包装した上から、更にアルミニウム素材からなる包装フィルムで包装することが好ましい。かかるフィルムとしては、アルミニウム箔、アルミニウム箔と耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム箔とポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミニウム蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミニウム蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)、アルミナ蒸着フィルムと耐湿性プラスチックフィルムの積層フィルム(例えばアルミナ蒸着ポリエステルフィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)等が挙げられ、本発明では特に、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムの積層フィルム、アルミニウム蒸着フィルムとポリオレフィンフィルムの積層フィルムが有用で、特には延伸ポリプロピレンフィルム/ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔/ポリエチレンフィルムの構成よりなる積層フィルム、延伸ポリプロピレンフィルム/低密度ポリエチレンフィルム/アルミニウム箔の構成よりなる積層フィルム等が有用である。
包装に当たっては内側の水蒸気バリア性樹脂の包装フィルム、外側のアルミニウム素材からなる包装フィルムで順次包装を行い、幅方向に余った部分を芯管に押し込めばよい。
【0114】
本発明のフィルムロールには、端部の傷付きやゴミ等の異物の付着を防止するため、フィルムロールに直接、あるいは包装フィルムで包装した上から、フィルムロールの両端部に芯管貫通孔をもつ保護パッドを装着させることができる。
保護パッドの形状は、フィルムロールにあわせて、円盤状のシート、フィルムが実用的である。保護効果を顕著にするため発泡体、織物状、不織布状等の緩衝機能を付加させるのがよい。また、湿気からフィルムロールを守るため乾燥剤を別途封入したり、前記保護パッドに積層または混入したりしておくこともできる。
保護パッドの素材としてはプラスチックが有利であり、その具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0115】
また、上記乾燥剤入りの保護パッドとしては、例えば、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、糖類、特に浸透圧の高い糖類、吸水性樹脂等の乾燥剤または吸水剤を天然セルロース類、合成セルロース類、ガラスクロス、不織布等の成形可能な材料に分散、含浸、塗布乾燥した吸湿層としたものや、これら乾燥剤または吸水剤を上記成形可能な材料やポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムでサンドイッチ状に挟んだりしたものが挙げられる。
市販されているシート状乾燥剤の例としては、アイディ社製の「アイディシート」や品川化成社製の「アローシート」、「ゼオシート」、ハイシート工業社製の「ハイシートドライ」等がある。
【0116】
かかる手段によって包装されたフィルムロールは、芯管の両端突出部にブラケット(支持板)を設けたり、該両端突出部を架台に載置したりして支えられ、接地することなく、いわゆる宙に浮いた状態で保管や輸送が行われることが好ましい。フィルムの幅が比較的小さい場合はブラケットが、フィルムの幅が比較的大きい場合は架台が使用される。
ブラケットはベニヤ板やプラスチック板からなるものであり、その大きさはブラケットの4辺がフィルムロールの直径より大きいものであればよい。
【0117】
そして、上記フィルムロールの両端の芯管突出部に一対のブラケットを互いに向かい合うように直立して配置、嵌合させフィルムロールに設けられる。嵌合は、ブラケットの中央部に芯管直径よりやや大きめのくりぬき穴を設けたり、芯管が挿入し易いようにブラケットの上部から中心部までU字型にくりぬかれていてもよい。
【0118】
ブラケットで支持されたフィルムロールは段ボール箱等のカートンに収納されて保管や輸送がなされるが、収納時の作業を円滑にするため矩形のブラケットを使用するときはその四隅を切り落として置くことが好ましい。
また、上記一対のブラケットがぐらつかないように、両者を結束テープで固定することが有利であり、そのときテープの移動や弛みが起こらないようにブラケットの側面(厚み部分)にテープ幅と同程度のテープズレ防止溝を設けて置くことも実用的である。
【0119】
包装したフィルムロールの保管または輸送にあたっては、極端な高温や低温、低湿度、高湿度条件を避けることが望ましく、具体的には温度10~30℃、湿度40~75%RHであることが好ましい。
【0120】
かくして得られた本発明の水溶性フィルムは、長期保管時の形状安定性や低温での耐衝撃性に優れるため、農薬や洗剤等の薬剤のユニット包装用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材など各種の包装用途等に有用である。
本発明の水溶性フィルムは、特に薬剤のユニット包装用途に好適に用いることができる。
【0121】
<薬剤包装体>
本発明の薬剤包装体は、本発明のPVA系水溶性フィルムで薬剤を内包してなる包装体である。水溶性フィルムで包装されているため、包装体ごと水に投入し、水溶性フィルムが溶解した後に、薬剤が水に溶解または分散して、薬剤の効果を発現するため、1回分などの比較的少量の薬剤が包装されている薬剤包装体に好適である。
【0122】
内包する薬剤としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬、肥料、洗剤等が挙げられ、特に洗剤が好ましい。薬剤の形状は、液体であっても固体であってもよく、液体の場合は、液状であり、固体の場合は、顆粒状、錠剤状、粉状等が挙げられる。薬剤は、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、本発明においては、とりわけ液体洗剤を内包することが好ましい。また、薬剤のpHは、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよい。
【0123】
上記薬剤包装体は、その表面は、通常平滑であることが挙げられるが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(PVA系水溶性フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。
【0124】
以下、本発明の薬剤包装体の一例である液体洗剤包装体について述べる。
液体洗剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(水溶性フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。
液体洗剤包装体の大きさは、通常長さ10~50mm、好ましくは20~40mmである。
また、PVA系水溶性フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10~120μm、好ましくは15~110μm、より好ましくは20~100μmである。
内包される液体洗剤の量は、通常5~50mL、好ましくは10~40mLである。
【0125】
本発明のPVA系水溶性フィルムを用いて、液体洗剤を包装して薬剤包装体とするに際しては、公知の方法を採用することができる。
例えば、2枚のPVA系水溶性フィルムを用いて貼り合わせることにより製造され、成型装置の下部にある金型の上に、フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもフィルム(トップフィルム)を固定する。ボトムフィルムをドライヤーで加熱し、金型に真空成型し、その後、成型されたフィルムに液体洗剤を投入した後、トップフィルムとボトムフィルムを圧着する。圧着した後は真空を解放し、包装体を得ることができる。
【0126】
フィルムの圧着方法としては、例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法等が挙げられ、中でも(2)水シールする方法が汎用的で有利である。
通常水シールの際に水を塗布した際にフィルムがカールしやすい傾向があるが、本発明のPVA系水溶性フィルムは、カールが抑制されたものであり、カールによるシール部分の位置ずれが生じ難く、水シール強度も良好であるため、水シールする方法に好適に用いられる。
【0127】
液体洗剤としては、水に溶解または分散させた時のpH値が6~12であることが好ましく、特には7~11が好ましい。また、液体洗剤の水分量が15重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1~10重量%、更に好ましくは0.1~7重量%であり、水溶性フィルムがゲル化したり不溶化したりすることがなく水溶性に優れることとなる。
なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。
【実施例
【0128】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0129】
<実施例1>
PVA系樹脂(A)として、20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度97モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシル基変性PVA系樹脂(A1)を90部、20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA系樹脂(A2)を10部、可塑剤(B)としてソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部、及び水を混合して、固形分濃度25%の樹脂組成物の水分散液である製膜原料を得た。
そして、上記製膜原料を、ステンレス製のエンドレスベルトを備えたベルト製膜機のベルト上に流延し、110℃で乾燥させ、PVA系水溶性フィルム(F0)を得た。その後、更に、下記表1に示すように、フィルムに、熱処理ロールにて、ロール温度110℃で接触時間0.1秒間の熱処理を行った後、フィルムを巻き取り、PVA系水溶性フィルム(F1)を得た(フィルム幅:600mm、フィルム長さ:300m、フィルム膜厚:87μm、含水率:7.0%)。
熱処理されたフィルムの温度は70℃であり、ドロー比は1.25(ベルト速度:12m/分、巻き取り速度:15m/分)であった。
【0130】
このようにして得られたPVA系水溶性フィルム(F1)を用いて、下記に示す方法に従いフィルムの物性を測定し評価した。結果を下記の表1に示す。
【0131】
〔伸展比率〕
(測定方法)
得られたPVA系水溶性フィルム(F1)を23℃、50%RH調湿条件下で24時間放置した後、この環境下で150mm×150mmサイズに切り出し、その中央部分に直径75mmの円を水性ペンで描いた。
更に、円の内部に、フィルムのTDとMDのそれぞれと平行に、直径と同じ長さ75mmの線(STD0)と(SMD0)を描いた。
次に、このPVA系水溶性フィルムを、20℃の水を満たした縦350mm,横250mmの水槽の中央付近に円を描いた面を上にして浮かべた。
水面に浮かべてから60秒後の、TDとMDのそれぞれと平行に描いた2本の線である(STD60)と(SMD60)の長さをそれぞれ測定し、伸展前の長さに対する伸展後の長さの割合からTDの伸展率(XTD)とMDの伸展率(XMD)をそれぞれ算出し、その比(XTD/XMD)を求めた。
TDの伸展率(XTD)とMDの伸展率(XMD)は、下式に従って算出した。
TD(%) =STD60/STD0 ×100
MD(%) =SMD60/SMD0 ×100
【0132】
〔カール性〕
(評価方法)
得られたPVA系水溶性フィルム(F1)を流れ方向(MD)300mm、幅方向(TD)200mmに切り出して、図1のようにフィルムのTDの一辺を固定して、フィルムを23℃、50%RHの環境下に24時間ぶら下げた時に、下部から見たときのフィルムのカール径の長さ(A)を測定し、下記評価基準にて評価した。なお、両端でカール径が異なる場合は、数値の小さい方をカール径の長さ(A)として採用した。
カール形状が真円である場合には、真円の直径長さをカール径の長さ(A)とし、カール形状が楕円である場合には、楕円の長径長さ、短径長さを平均化した数値((長径長さ+短径長さ)/2で算出)をカール径の長さ(A)とした。
【0133】
(評価基準)
○・・・カール径の長さ(A)が15mm以上であり、
カールに伴うフィルム曲線変形が緩い
×・・・カール径の長さ(A)が15mm未満であり、
カールに伴うフィルム曲線変形が強い
【0134】
〔水シール性:水シール部分の剥離強度〕
上記で得られたPVA系水溶性フィルム(F1)を23℃、40%RHの環境下で24時間調湿した後、フィルムの幅方向における中央部から、一辺がMDと平行となるように50mm×50mmの正方形状にフィルムを切り出し、PVA系水溶性フィルム(I)とした。また、フィルムの幅方向における中央部から、MDと平行な一辺が70mm、TDと平行な一辺が15mmの長方形となるようにフィルムを切り出し、PVA系水溶性フィルム(II)とした。
30cm角のガラス板上に、上記PVA系水溶性フィルム(I)のキャスト面を上側にして載せ、水を充分に含ませた綿棒(ジャストネオ社製抗菌綿棒)でPVA系水溶性フィルム(I)に直径1cmの円形に水を1g/cm2塗布した。次に、水の塗布が完了してから5秒後に、上記PVA系水溶性フィルム(II)のキャスト面側をPVA系水溶性フィルム(I)の上に載せ、その上に85gの重りをゆっくり載せてそのまま10秒間放置してPVA系水溶性フィルム2枚を水シール(接着)し、測定試験片とした。
【0135】
(評価方法)
重りを載せて10秒間経過した上記の測定試験片を用いて、以下に示す方法で水シール部分の剥離強度を測定し評価した。
測定試験片の2枚のPVA系水溶性フィルムのうち、PVA系水溶性フィルム(I)は基板ガラスに固定し、PVA系水溶性フィルム(II)の端部に、ばねばかりを取り付け、上方に2mm/秒の速さで引っ張ることで、剥離強度(g/15mm)を測定した。なお、測定は、23℃、40%RH環境下で行った。
【0136】
〔水シール性:カールの有無〕
上記測定試験片の調製時において、水を塗布した後5秒後のPVA系水溶性フィルム(I)の端部のカールの有無を目視にて確認した。
【0137】
〔液体洗剤包装体の作製と評価〕
上記で得られたPVA系水溶性フィルム(F1)について、Engel社製包装体製造機を用いて、下記の手順にて液体洗剤包装体を作製した。
即ち、装置の下部にある金型(縦41.5mm、横46.5mm、深さ20mm)の上に、TDを縦にしてフィルム(ボトムフィルム、サイズ:縦120mm×横150mm)を固定し、装置の上部にもMDを横にしてフィルム(トップフィルム、サイズ:縦80mm×横120mm)を固定した。その後、ボトムフィルムを90℃の熱風を発生させるドライヤーで10秒間加熱し、ボトムフィルムを金型に真空成型した。次に、P&G社製パワージェルボールに包装された液体洗剤(含有成分の一部:グリセリン5.4%、プロピレングリコール22.6%、水分10.4%)を取り出して、成型されたフィルムに20mL投入した。続いて、トップフィルム全面に水を1.5g塗布して、トップフィルムとボトムフィルムを圧着し、30秒間圧着した後に、真空を解放し、液体洗剤包装体を得た。
【0138】
上記で得られた液体洗剤包装体の縦方向(TD)の長さLTD(mm)、横方向(MD)の長さLMD(mm)を測定し、金型の長さに対する液体洗剤包装体の縦方向収縮率(YTD)と横方向収縮率(YMD)を下式に従って算出した。
・YTD(%) = LTD/41.5 ×100
・YMD(%) = LMD/46.5 ×100
得られた液体洗剤包装体の横方向収縮率(YMD)に対する縦方向収縮率(YTD)の比(YTD/YMD)を求め、下記の通り外観特性を評価した。
(評価基準)
○・・・0.9≦YTD/YMD≦1.1
(包装体成型時の収縮異方性が小さく、形状安定性が良好)
×・・・YTD/YMD<0.9、またはYTD/YMD>1.1
(包装体成型時の収縮異方性が大きく、包装体の変形が生じやすい)
【0139】
<比較例1>
実施例1において、PVA系水溶性フィルム(F0)を得た後、熱処理を行わずにフィルムを巻き取り、PVA系水溶性フィルム(F’1)(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:300m、フィルム膜厚:87μm、含水率:7.0%)を得た。熱処理を行わないフィルムの温度は30℃であり、ドロー比は1.04(ベルト速度:12m/分、巻き取り速度:12.5m/分)であった。
【0140】
<比較例2>
実施例1において、PVA系水溶性フィルム(F0)を得た後、更に、フィルムに、熱処理ロールにて、ロール温度60℃で接触時間12秒間の熱処理を行った後、フィルムを巻き取り、PVA系水溶性フィルム(F’2)を得た(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:300m、フィルム膜厚:87μm、含水率:7.0%)。
熱処理されたフィルムの温度は60℃であり、ドロー比は1.60(ベルト速度:12m/分、巻き取り速度:19.2m/分)であった。
【0141】
<比較例3>
実施例1において、PVA系水溶性フィルム(F0)を得た後、更に、フィルムに、熱処理ロールにて、ロール温度60℃で接触時間12秒間の熱処理を行った後、フィルムを巻き取り、PVA系水溶性フィルム(F’3)を得た(フィルム幅:1000mm、フィルム長さ:300m、フィルム膜厚:87μm、含水率:7.0%)。
熱処理されたフィルムの温度は60℃であり、ドロー比は1.04(ベルト速度:12m/分、巻き取り速度:12.5m/分)であった。
【0142】
【表1】
【0143】
上記表1の結果より、実施例1の水溶性フィルムは、流れ方向(MD)の伸展率(XMD)に対する幅方向(TD)の伸展率(XTD)の比(XTD/XMD)が特定範囲を満足するものであるため、カールが抑制され、水シール性も良好であり、これを用いて包装体を成形した際には歪みのない外観特性に優れた包装体が得られることがわかる。
これに対して、伸展率の比(XTD/XMD)が小さく、特定範囲を満足しない比較例1及び比較例3の水溶性フィルムにおいては、カールが大きく、包装体を成形する際に支障があり、生産性に劣るものとなることがわかる。
また、伸展率の比(XTD/XMD)が大きすぎる比較例2の水溶性フィルムにおいては、カールは抑制されているものの、包装体を成形した際の歪みが大きく、外観特性に劣るものであることがわかる。
【0144】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の水溶性フィルムは、カールが抑制された水溶性フィルムであり、包装体を成形する際に位置ずれが起こりにくく良好なシール性を示し、更に包装体の変形も抑制されるため、外観特性にも優れた包装体が得られるものである。このため、各種の包装用途に用いることができ、特に薬剤等、とりわけ液体洗剤の個包装用途に有用である。
図1