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特許7099355熱硬化性シリコーン組成物およびその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】熱硬化性シリコーン組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 230/08 20060101AFI20220705BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220705BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20220705BHJP
   C08G 77/50 20060101ALN20220705BHJP
【FI】
C08F230/08
C08F290/06
G02B1/00
C08G77/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019026278
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020132727
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 真司
(72)【発明者】
【氏名】松本 展明
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225430(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0131408(US,A1)
【文献】特開2018-188583(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155579(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0390132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 230/00 - 230/10
C08F 290/00 - 290/14
G02B 1/00 - 1/18
C08G 77/00 - 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:40~95質量部、
【化1】
〔式(1)中、nは、1≦n≦100を満たす数を表し、Arは、それぞれ独立して芳香族基を表し、F1は、それぞれ独立して、下記式(2)または式(3)
【化2】
(式(2)中、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表す。
式(3)中、mは、0≦m≦10を満たす数を表し、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R2は、酸素原子またはアルキレン基を表し、R3は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基またはメタクリロイルオキシアルキル基を表す。)
で示される基を表すが、F1で示される全末端基の合計数に対し、前記式(3)で表される末端基の数の割合は50%以上である。〕
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、またはシロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物およびシロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の両方:5~60質量部(ただし、(A)成分と(B)成分との合計は100質量部である。)、
(C)有機過酸化物:0.01~10質量部、および
(D)フェノール系酸化防止剤:50~5,000ppm
を含有することを特徴とする熱硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
請求項1記載の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物。
【請求項3】
請求項2記載の硬化物からなる光学素子封止材。
【請求項4】
請求項3記載の光学素子封止材により封止された光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性シリコーン組成物およびその硬化物に関し、さらに詳述すると、光学素子封止材として好適な熱硬化性シリコーン組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、従来、光学素子封止材料として使用されている。
この用途に使用されるシリコーンゴムには、高透明、高屈折率が求められており、これらの特性を満足すべく、主骨格にジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体またはポリメチルフェニルシロキサンを用いた材料が既に提案されている(特許文献1~5参照)。
しかし、これら特許文献1~5に開示されたシリコーンゴムは、主骨格がシロキサンであるため、ガス透過性が高く、光学素子周辺の部材を腐食性ガスから保護できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-143361号公報
【文献】特開2005-076003号公報
【文献】特開2005-105217号公報
【文献】特開2005-307015号公報
【文献】特開2010-132795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱変色性を有し、高屈折率、高透明、低ガス透過性の硬化物を与える熱硬化性シリコーン組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、末端に(メタ)アクリル基を有するオルガノポリシロキサン、シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、フェノール系酸化防止剤および過酸化物を含む熱硬化性シリコーン組成物を用いることで、低ガス透過性と耐熱変色性を両立できる硬化物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:40~95質量部、
【化1】
〔式(1)中、nは、1≦n≦100を満たす数を表し、Arは、それぞれ独立して芳香族基を表し、F1は、それぞれ独立して、下記式(2)または式(3)
【化2】
(式(2)中、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表す。
式(3)中、mは、0≦m≦10を満たす数を表し、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1~20の一価炭化水素基を表し、R2は、酸素原子またはアルキレン基を表し、R3は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基またはメタクリロイルオキシアルキル基を表す。)
で示される基を表すが、F1で示される全末端基の合計数に対し、前記式(3)で表される末端基の数の割合は20%以上である。〕
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、またはシロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物およびシロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の両方:5~60質量部(ただし、(A)成分と(B)成分との合計は100質量部である。)、
(C)有機過酸化物:0.01~10質量部、および
(D)フェノール系酸化防止剤:50~5,000ppm
を含有することを特徴とする熱硬化性シリコーン組成物、
2. 1の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物、
3. 2の硬化物からなる光学素子封止材、
4. 3の光学素子封止材により封止された光学素子
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、耐熱変色性を有し、高屈折率、高透明、低ガス透過性という特性を有する硬化物を与える。
このような特性を有する本発明の硬化物は、光学素子封止材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る熱硬化性シリコーン組成物は、
(A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:40~95質量部、
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、またはシロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物およびシロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の両方:5~60質量部(ただし、(A)成分と(B)成分との合計は100質量部である。)、
(C)有機過酸化物:0.01~10質量部、および
(D)フェノール系酸化防止剤:50~5,000ppm
を含有することを特徴とする。
【0009】
(A)成分
本発明の熱硬化性シリコーン組成物において、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、当該組成物の硬化物に耐熱変色性と柔軟性を与える成分であり、下記式(1)で示される。
【0010】
【化3】
【0011】
式(1)において、nは、1≦n≦100を満たす数を表すが、好ましくは1≦n≦50、より好ましくは1≦n≦20である。nが1より小さいと揮発し易く、nが100より大きいと組成物の粘度が高くなり、取り扱い性に劣る。
【0012】
Arは、それぞれ独立して芳香族基を表し、その炭素原子数は特に限定されるものではないが、6~20が好ましい。
芳香族基の具体例としては、フェニル、ビフェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フラニル基等のヘテロ原子(O,S,N)を含む芳香族基が挙げられ、これらの芳香族基は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)等の置換基を有していてもよい。
これらの中でも、Arとしては、非置換の芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0013】
1は、それぞれ独立して、下記式(2)または式(3)で示される基を表すが、F1で示される全末端基の合計数に対し、式(3)で表される末端基の数の割合は20%以上である。
【0014】
【化4】
【0015】
式(2)および(3)において、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1~20、好ましくは1~10の一価炭化水素基を表す。
1の一価炭化水素基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル基等のアルキル基;ビニル、アリル、1-ブテニル、1-ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、2-フェニルエチル、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されたフルオロメチル基、ブロモエチル基、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基などが挙げられる。
上記アルケニル基としては、合成のし易さや、コスト面からビニル基が好ましい。
特に、合成のし易さや、コスト面から、R1の全数の90%以上がメチル基またはフェニル基であることが好ましい。
【0016】
式(3)において、R2は、酸素原子またはアルキレン基を表し、このアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよい。
その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等の炭素原子数1~10のアルキレン基などが挙げられ、中でも合成のし易さや、コスト面から、炭素原子数1~5のアルキレン基が好ましく、エチレン基、トリメチレン基がより好ましく、エチレン基がより一層好ましい。
3は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシアルキル基またはメタクリロイルオキシアルキル基を表す。これらアクリロイルオキシアルキル基およびメタクリロイルオキシアルキル基におけるアルキル(アルキレン)基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、その具体例としては、4-アクリロイルオキシブチル基、3-アクリロイルオキシプロピル基、4-メタクリロイルオキシブチル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基等が挙げられ、中でも合成のし易さ等を考慮すると、4-メタクリロイルオキシブチル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基が好ましい。
【0017】
式(3)において、mは、0≦m≦10を満たす数を表すが、好ましくは1≦m≦8を満たす数、より好ましくは1≦m≦5を満たす数である。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
【化5】
(式中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を意味する。)
【0020】
なお、上記(A)成分のオルガノポリシロキサンは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよいが、上述のとおり、上記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン中のF1で示される全末端基の合計数に対する、上記式(3)で表される反応基を有する末端基の数の割合は20%以上であり、好ましくは30%以上である。20%未満であると架橋反応が不十分となる。
【0021】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、例えば、下記式(8)で表されるオルガノポリシロキサンに対し、下記式(9)で表されるオルガノポリシロキサンを白金触媒存在下でヒドロシリル化反応させて得ることができる。
この際、1モルのオルガノポリシロキサン(8)に対してオルガノポリシロキサン(9)のモル数を0.4~2モルの範囲で調整することで、F1で示される全末端基の合計数に対する、上記式(3)で表される反応基を有する末端基の数の割合を制御することができる。
【0022】
【化6】
(式中、R1、R3、Ar、mおよびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0023】
(B)成分
(B)成分は、シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物、またはシロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物およびシロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の両方であり、本発明の組成物の硬化物のガス透過性を低下させるための成分である。
【0024】
シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特にイソボルニルアクリレートが好ましい。
【0025】
また、上記シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物の一部を、シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物に置き換えてもよい。
シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特にジメチロール-トリシクロデカンジアクリレートが好ましい。
シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物と、シロキサン構造を含まない多官能(メタ)アクリレート化合物とを併用する場合、その使用割合は特に限定されるものではないが、質量比で単官能(メタ)アクリレート化合物:多官能(メタ)アクリレート化合物=9:1~1:9が好ましく、3:1~1:1がより好ましい。
【0026】
(B)成分の使用量は、(A)成分40~95質量部に対し、(A)成分との合計が100質量部となる量である。
(B)成分の含有量が少ないと、得られる硬化物のガス透過性が高くなり、多いと耐熱変色性が悪化する。(B)成分の含有量としては、5~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましく、10~30質量部がより一層好ましい。
【0027】
(C)成分
(C)成分の有機過酸化物は、本発明の組成物を所望の形状に成型した後、加熱処理により上記(A)成分および(B)成分を架橋反応により硬化させるために配合される。
すなわち、有機過酸化物の熱分解によって生じるフリーラジカルは、主に上記(A)および(B)成分中の(メタ)アクリル基同士の重合反応を進行させ、架橋硬化物とすることができる。
【0028】
本発明で用いる有機過酸化物は、高い反応性と長いポットライフを両立する観点から、半減期10時間の温度が40℃以上、かつ、半減期1分の温度が180℃以下であることが好ましく、半減期10時間の温度が60℃以上、かつ、半減期1分の温度が170℃以下であることがより好ましい。
【0029】
有機過酸化物は、ラジカル重合反応等に用いられる公知のものから適宜選択して用いることができ、例えば、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイド等が挙げられる。
その具体例としては、ラウロイルパーオキサイド、スクシニックパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタールが好ましい。
【0030】
(C)成分の配合量は、(A)および(B)成分の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部であるが、0.05~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。配合量が、0.01質量部未満であると、反応が十分に進行しないおそれがあり、10質量部を超えると、所望とする硬化後の物性が得られないおそれがある。
【0031】
(D)成分
(D)成分のフェノール系酸化防止剤は、本発明の組成物を硬化させた後、高温環境下に暴露した際の変色を防ぐために配合される。
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものから適宜選択して用いることができ、その具体例としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、IRGANOX1010、IRGANOX3114、IRGANOX1098、(商品名、BASF社製)、アデカスタブAO-20、アデカスタブAO-30、アデカスタブAO-40(商品名、ADEKA製)等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(D)成分の配合量は、50~5,000ppmであるが、100~2,000ppmが好ましく、300~1,000ppmがより好ましい。この範囲内の配合量であれば、酸化防止性能が十分に発揮され、着色、白濁、酸化劣化等の発生が無く、光学的特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0033】
なお、本発明の組成物には、上記(A)~(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
その他の成分の具体例としては、結晶性シリカ等の光散乱剤あるいは補強材;蛍光体;石油系溶剤;カーボンファクンショナルシラン等の接着性向上剤;フェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤等が挙げられる。これらのその他の成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、上記(A)~(D)成分、および必要に応じてその他の成分を、任意の順序で混合し、撹拌等して得ることができる。撹拌等の操作に用いる装置は特に限定されないが、擂潰機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。また、これら装置を適宜組み合わせてもよい。
また、本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させることができる。
具体的には、通常、80~200℃、好ましくは100~160℃で本発明の組成物を加熱して硬化させることができる。
加熱時間は、通常、0.5分~5時間程度、好ましくは1分~3時間程度であるが、LED封止用等精度が要求される場合は、硬化時間を長めにすることが好ましい。
【0035】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物は、通常の付加硬化性シリコーン組成物の硬化物と同様に耐熱性、耐寒性、電気絶縁性に優れるため、光学素子の封止材として好適に用いることができる
光学素子としては、例えば、LED、半導体レーザー、フォトダイオード、フォトトランジスタ、太陽電池、CCD等が挙げられる。
本発明の硬化物を封止材として使用する場合、光学素子に本発明の熱硬化性シリコーン組成物を塗布し、上述の公知の方法および条件で硬化させればよい。
この場合、塗布方法は、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の方法から適宜選択すればよい。
【実施例
【0036】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、各物性は下記の手法により測定した。
[1]屈折率
硬化前の組成物について、ATAGO製デジタル屈折計RX-9000αを用いて25℃で、589nmの屈折率を測定した。
[2]硬さ
デュロメータータイプA硬度計を用いて25℃で測定した。
[3]光透過率
2mm厚のシート状硬化物を、25℃において分光光度計U3310型((株)日立製作所製)にて400nmの平行光線透過率を測定した。
[4]酸素透過率
1mm厚のシート状硬化物を、23℃において酸素透過率測定装置8001(イリノイ社製)を用いて測定した。
[5]高温暴露後の光透過率
2mm厚のシート状硬化物を、180℃,100時間の環境に曝した後、25℃において分光光度計U3310型((株)日立製作所製)にて400nmの平行光線透過率を測定した。
【0037】
(1)(A)成分の合成
[合成例1]
3Lのフラスコに、1-(3-メタクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン520.96g、および下記式(10)で表されるオルガノポリシロキサン905.42gを入れ、100℃に加温し、そこにカルステッド(Karstedt)触媒(塩化白金酸とsym-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体)0.30gを添加し、さらに100℃で3時間加熱した。室温まで冷却し、オルガノポリシロキサン(A-1)を得た。
29Si-NMRによる末端メタクリル基の割合は90%であり、25℃における粘度は700mPa・sであった。
【0038】
【化7】
(式中、Meはメチル基を、Phはフェニル基を意味する。)
【0039】
[合成例2]
1-(3-メタクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの添加量を260.48gとした以外は、合成例1と同様の手法により、オルガノポリシロキサン(A-2)を得た。
29Si-NMRによる末端メタクリル基の割合は50%であり、25℃における粘度は900mPa・sであった。
【0040】
[合成例3]
1-(3-メタクリロイルオキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの添加量を52.01gとした以外は、合成例1と同様の手法により、オルガノポリシロキサン(A-3)を得た。
29Si-NMRによる末端メタクリル基の割合は10%であり、25℃における粘度は1,800mPa・sであった。
【0041】
[実施例1~3、比較例1~5]
表1に示す組成で各成分を均一に混合して熱硬化性シリコーン組成物を得た。
各実施例および比較例で得られた組成物を、厚さ1mmまたは2mmのシート状となるように型枠に流し入れ、150℃1時間加熱して硬化物を得た。各種物性を上記の方法にて測定した。それらの結果を表1に示す。なお、使用した各成分は以下のとおりである。
【0042】
(A)成分
(A-1)合成例1で得られたオルガノポリシロキサン
(A-2)合成例2で得られたオルガノポリシロキサン
(A-3)合成例3で得られたオルガノポリシロキサン
(A-4)下記式(11)で表されるオルガノポリシロキサン
【0043】
【化8】
(式中、Meはメチル基を意味する。)
【0044】
(B)成分
(B-1)イソボルニルアクリレート(共栄社化学(株)製、ライトアクリレートIB-XA)
(B-2)ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学(株)製、ライトアクリレートDCP-A)
【0045】
(C)成分
1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(純度70%、流動パラフィン希釈、日本油脂(株)製、パーヘキサC(C))
【0046】
(D)成分
トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(BASF製、IRGANOX3114)
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示されるように、本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、高屈折率で、耐熱変色性を有し、高透明、低ガス透過性の硬化物を与えることがわかる。
これに対し、(B)成分を含まない比較例1の硬化物は、酸素透過率が大きく、(D)成分を含まない比較例2の硬化物、および(B)成分の割合が多い比較例5の硬化物では、高温暴露後の光透過率が低いことがわかる。
(A)成分のジアリールシロキサン部位をジメチルシロキサンに変更した比較例4の組成物は、低屈折率で、その硬化物は酸素透過率が高く、高温暴露後の光透過率が低いことがわかる。
(A)成分として末端メタクリル基が20%未満の(A-3)を用いた比較例3では、加熱による硬化が起こらなかった。