(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】蒸気による加熱効率向上方法及び抄紙方法
(51)【国際特許分類】
D21F 5/10 20060101AFI20220705BHJP
F26B 13/10 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
D21F5/10
F26B13/10 F
(21)【出願番号】P 2019132978
(22)【出願日】2019-07-18
(62)【分割の表示】P 2017181476の分割
【原出願日】2017-09-21
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】氏家 章吾
(72)【発明者】
【氏名】林 倩
【審査官】磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-297389(JP,A)
【文献】特開2011-012921(JP,A)
【文献】特開2008-184680(JP,A)
【文献】特開平10-060675(JP,A)
【文献】特開平11-335878(JP,A)
【文献】特開平11-335877(JP,A)
【文献】特開2017-119893(JP,A)
【文献】特開昭58-147566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 5/10
F26B 13/10
C23F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、
下記一般式(1)で表されるポリアミンを、HLB(親水性親油性バランス)値が12~16である乳化剤を用いて水性エマルジョンとして蒸気又は蒸気ボイラの給水に添加することにより、
該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンを存在させる
方法であって、
該乳化剤がポリオキシエチレンアルキルアミンを含むことを特徴とする蒸気による加熱効率向上方法。
R
1-[NH-(CH
2)
m]
n-NH
2 …(1)
(式中、R
1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)
【請求項2】
前記金属材料が回転していることを特徴とする請求項
1に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記ポリアミンを添加することを特徴とする請求項1
又は2に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項4】
抄紙設備に設けられた蒸気ドライヤにおいて、請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の蒸気による加熱効率向上方法により、蒸気による加熱効率を向上させる抄紙方法であって、該抄紙設備における抄紙量と該蒸気ドライヤにおける蒸気使用量に基づいて、該蒸気ドライヤに供給する蒸気量を調整することを特徴とする抄紙方法。
【請求項5】
蒸気による加熱効率を向上させる薬剤であって、下記一般式(1)で表されるポリアミンと、HLB(親水性親油性バランス)値が12~16である乳化剤とを含有する水性エマルジョンを含
み、該乳化剤がポリオキシエチレンアルキルアミンを含む、薬剤。
R
1-[NH-(CH
2)
m]
n-NH
2 …(1)
(式中、R
1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を向上させる方法に関する。本発明はまた、この加熱効率向上方法を採用して、抄紙設備における生産効率を向上させる抄紙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙工場や食品、飲料の製造工場等では、蒸気により製造物を加熱することにより、製造物を乾燥、濃縮、又は殺菌する処理が行われている。例えば、抄紙設備では、回転式のドラムを備えた蒸気ドライヤにより、含水率50%程度の湿紙を含水率5~10%程度にまで乾燥させる処理が行われている。
【0003】
第1図は、蒸気ドライヤとしてヤンキードライヤ(1本の大径の鋳鉄製シリンダからなるドライヤ)を用いた湿紙乾燥設備を示す系統図であり、補給水装置1、給水槽2、配管3及び給水ヘッダ4を介してボイラ5へ給水が供給される。ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給される。
【0004】
このドラム11は、第1図において時計方向に回転駆動されており、湿紙Pは、このドラム11の外周面に接触して乾燥され、該外周面から剥離された後、製品巻取り工程へ送られる。乾燥された紙の含水率とドラム外周面の温度とがセンサによって測定され、これらに基づいて前記バルブ9によって水蒸気流量が調節される。
【0005】
ドラム内で水蒸気が凝縮して生じた凝縮水Wは、サイホン管12及び配管13を介してフラッシュタンク14へ送られ、濾過器15を介して給水槽2へ返送されるが、この凝縮水Wは、ドラム11の回転に伴う遠心力によってドラム11の内周面に押し付けられ、ドラム11の回転方向にリフトされることで、ドラム11の内周面に水膜を形成している。
【0006】
このような抄紙設備における紙の乾燥工程は、湿紙に含まれる水分とパルプの温度を徐々に上げて水を蒸発させ、ドライエンド、即ち、ドラム11の外周面から紙が剥離される箇所で規定の含水率まで乾燥されるように、個々のドライヤで主として蒸気により、必要な熱量が与えられる。
この乾燥工程での湿紙の乾燥効率を高めて紙の生産量を上げるためには、ドラム11内で発生した凝縮水Wを効率よく排出する必要がある。
【0007】
この対応策として、ドラムの回転速度を下げて抄紙速度を遅くしたり、スポイラバーと呼ばれる突起をドラム内に設けたりして、ドライヤのドラム内に蓄積される凝縮水膜を不均一にする方法が行われている。しかし、遅い抄紙速度は単位時間当たりの生産量の低減につながり、スポイラバーの設置は設備更新となり工事を伴う必要があった。
【0008】
そこで、これらの方法によらずにドラム内での凝縮水膜の形成を抑えるために、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤として、オクタデシルアミン等の長鎖脂肪族アミンを添加する方法が提案された(特許文献1)。
この特許文献1で提案されている長鎖脂肪族アミンは、一般式CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表される直鎖状長鎖脂肪族アミンであり、特許文献1には、本発明で用いるポリアミンの開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法により、蒸気ドライヤのドラム内の凝縮水膜の形成抑制効果で抄紙速度の向上、紙の生産量の向上を図ることができるが、特に、薬品過剰添加時に系内に詰まりが発生し、清掃頻度が高くなる問題があり、改善が望まれていた。
【0011】
本発明は、金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、生産効率の低減や大掛かりな設備更新を伴わずに、該蒸気による加熱効率をより効果的に向上させる方法と、この加熱効率向上方法を採用して、抄紙設備における生産効率を向上させる抄紙方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のポリアミンが、詰まりの問題がなく、特許文献1で提案されている長鎖脂肪族アミンよりも清掃頻度を大幅に低減できること、また、蒸気系内にこのポリアミンを存在させることで、抄紙工程における蒸気ドライヤのドラムの回転速度を下げるなどの生産効率の低減や大掛かりな設備更新を伴わずに、蒸気ドライヤの加熱効率を向上させることができることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンを存在させることを特徴とする蒸気による加熱効率向上方法。
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH2)mは同一でも異なっていてもよい。)
【0015】
[2] 前記金属材料が回転していることを特徴とする[1]に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【0016】
[3] 前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記ポリアミンを添加することを特徴とする[1]又は[2]に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【0017】
[4] 抄紙設備に設けられた蒸気ドライヤにおいて、[1]ないし[3]のいずれかに記載の蒸気による加熱効率向上方法により、蒸気による加熱効率を向上させる抄紙方法であって、該抄紙設備における抄紙量と該蒸気ドライヤにおける蒸気使用量に基づいて、該蒸気ドライヤに供給する蒸気量を調整することを特徴とする抄紙方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程、好ましくは加熱乾燥工程において、生産効率の低減や大掛かりな設備更新を伴わずに、また、適用系内の詰まりで清掃頻度を上げることなく、凝縮水膜の形成を抑制して、該蒸気による加熱効率をより一層効果的に向上させることができる。
【0019】
本発明の蒸気による加熱効率向上方法を、例えば、抄紙設備の蒸気ドライヤにおける加熱効率の向上に採用することにより、単に、ポリアミンを蒸気配管や蒸気ヘッダに薬注するのみで、ドラムの回転速度を下げたり、凝縮水膜形成防止のための部材を設けることなく、蒸気ドライヤのドラム内での凝縮水膜の形成を抑制し、また、形成される凝縮水膜の厚さをより薄くすることができ、湿紙の乾燥効率を高めて生産効率を大きく向上させたり、供給する蒸気の圧力を低下させたりすることができ、省エネに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
<ポリアミン>
まず、本発明で用いるポリアミンについて説明する。
本発明で用いるポリアミンは、下記一般式(1)で表されるものである。
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH2)mは同一でも異なっていてもよい。)
【0023】
R1の飽和又は不飽和炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよく、また環状であってもよく、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、アルキニル基等が挙げられるが、好ましくは、直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基であり、R1の炭素数は好ましくは15~22である。
mは1~8の整数であり、腐食抑制の観点から好ましくは2~6の整数である。(CH2)m基としては、メチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、プロピレン基(トリメチレン基)又はブチレン基(テトラメチレン基)が挙げられるが、好ましくはプロピレン基である。
また、nは腐食抑制の観点から好ましくは1~3の整数である。
【0024】
このようなポリアミンの具体例としては、ドデシルアミノメチレンアミン、ドデシルアミノジメチレンアミン、ドデシルアミノトリメチレンアミン(N-ステアリル-1,3-プロパンジアミン)や、これらのポリアミンに対応するテトラデシル、ヘキサデシル及びオクタデシル化合物、オクタデセニルアミノトリメチレンアミン、オクタデセニルアミノジ-(トリメチルアミノ)-トリメチレンアミン、パルミチルアミノトリメチレンアミン等が挙げられるが、十分な純度で容易に入手可能であるN-オレイル-1,3-プロパンジアミン(即ち、N-オクタデセニルプロパン-3-ジアミン)が好ましい。
【0025】
これらのポリアミンは、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解させて蒸気又は給水に添加してもよいが、乳化剤を用いて水性エマルジョンとし、これを蒸気又は給水に添加するのが好ましい。乳化剤としては、HLB(親水性親油性バランス)値が高いものが良い。この値は12~16が好ましく、より望ましくは13~15が好ましい。
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が10~18のポリオキシエチレンアルキルアミンである。
これ以外の乳化剤としては、脂肪酸アルカリ金属塩、特に炭素数8~24とりわけ炭素数10~22の飽和又は不飽和の脂肪酸アルカリ金属塩を好適に用いることができ、具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和又は不飽和の脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。また、この脂肪酸アルカリ金属塩としては、食用油脂から製造される脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩も好ましく用いることができる。脂肪酸アルカリ金属塩としては、特に炭素数14~22の不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸から選ばれる少なくとも1種を25重量%以上含有する脂肪酸のアルカリ金属塩が好適である。乳化剤としては、その他、グリセリンと前述の脂肪酸とのエステルも好適に用いることができ、特にステアリン酸とのエステルを好ましく用いることができる。
これらの乳化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
これら脂肪酸アルカリ金属塩等の乳化剤を用いて水性エマルジョンとする場合、ポリアミンと乳化剤との配合割合は重量比(ポリアミン/乳化剤)で40/1~1/1特に20/1~2/1程度が好適である。
【0027】
本発明に係るポリアミンは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、詰まりが発生しない範囲でオクタデシルアミン、オレイルアミン等の長鎖脂肪族アミンを併用してもよい。
【0028】
上記のポリアミンは、蒸気量に対して0.01~10ppm、特に0.1~1ppmの割合で存在させることが好ましい。この範囲よりもポリアミン量が少な過ぎるとポリアミンによる凝縮水膜形成抑制効果、加熱効率向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると系内に粘着性の付着物が生じるおそれがある。
【0029】
なお、ここで、「ppm」とは、蒸気量に対応する水に対するポリアミンの重量の割合であり、「mg/L-水」に該当する。後述の中和性アミンや脱酸素剤の添加量についても同様である。
【0030】
<その他の薬剤>
本発明においては、上記のポリアミンと共に、他の薬剤を併用してもよい。例えば、pH調整機能を有する中和性アミンを併用してもよく、中和性アミンの併用で蒸気ドラムやドラム前後の蒸気復水配管の腐食速度を低減させるという効果を得ることができる。中和性アミンとしては、アンモニア、モノエタノールアミン(MEA)、シクロヘキシルアミン(CHA)、モルホリン(MOR)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、3-メトキシプロピルアミン(MOPA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、ジグリコールアミン(DGA)等の揮発性アミン等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、中和性アミンに替えて、以下の脱酸素剤の熱分解に由来するアンモニアでpH調整してもよい。
【0031】
中和性アミンを併用する場合、中和性アミンの添加量は、ポリアミンの使用量、被加熱物の種類や蒸気ドライヤの形式などによっても異なるが、蒸気量に対して0.1~50ppm、特に5~15ppmとすることが好ましい。
【0032】
また、ポリアミンと共に脱酸素剤を併用してもよく、脱酸素剤の併用で中和性アミンと同様に蒸気ドラム等の腐食低減という効果を得ることができる。脱酸素剤としては、ヒドラジンやカルボヒドラジドなどのヒドラジン誘導体を用いることができる。また、非ヒドラジン系脱酸素剤として、カルボヒドラジド、ハイドロキノン、1-アミノピロリジン、1-アミノ-4-メチルピペラジン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、イソプロピルヒドロキシルアミン、エリソルビン酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、タンニン酸又はその塩、糖類、亜硫酸ナトリウムなどを用いることもできる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
脱酸素剤を併用する場合、脱酸素剤の添加量は、ポリアミンの使用量、被加熱物の種類や蒸気ドライヤの形式などによっても異なるが、蒸気量に対して0.01~3ppm、特に0.05~1ppmとすることが好ましい。
【0034】
上記の併用薬剤は、ポリアミンと同一箇所に添加してもよく、異なる箇所に添加してもよい。2種以上の薬剤を同一箇所に添加する場合、添加する薬剤を予め混合して添加してもよく、各々別々に添加してもよい。
【0035】
<蒸気ドライヤへの適用>
本発明では、金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱するに当たり、前述のポリアミン、更に必要に応じて中和性アミンや脱酸素剤等の他の薬剤を蒸気系内に存在させる。
【0036】
ここで、金属材料としては、耐久性に優れ、伝熱効率の高いものであればよく、鉄系材料でも銅系材料であってもよい。
【0037】
また、被加熱物についても特に制限はなく、本発明は、例えば、抄紙設備における湿紙の加熱乾燥や、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、紙おむつなどの家庭紙用原料紙や片艶包装紙などの製造設備において、圧搾・搾水部を出た湿紙の加熱乾燥に有効に適用できる。
例えばプレート熱交のような一般的な熱交換器等における蒸気による加熱又は冷却工程にも適用することができる。
【0038】
本発明で用いるポリアミンによる優れた凝縮水膜形成抑制効果の観点からは、特に、被加熱物を蒸気加熱する際に、被加熱物と蒸気との間に介在する金属材料が回転することで、遠心力により凝縮水膜が形成され易い蒸気ドライヤに適用されることが好ましく、具体的には、第1図に示されるヤンキードライヤや多筒式ドライヤなど、各種の回転式の抄紙機ドライヤに本発明は好適である。
【0039】
これらの蒸気ドライヤにポリアミン等の薬剤を添加する場合、その添加箇所は、ドライヤの蒸気系内にポリアミン等の薬剤が存在すればよく、特に制限はなく、ポリアミン等の薬剤は蒸気発生設備の給水に添加してもよいが、ドライヤドラム直前の蒸気配管や蒸気ヘッダに添加することが、蒸気ドライヤに到るまでの薬剤の消耗を防止して、ポリアミン等の薬剤の必要添加量を低減することができ、好ましい。
【0040】
なお、本発明で用いるポリアミンは、蒸気ドライヤに限らず、抄紙設備の黒液エバポレータの蒸気に添加してもよい。黒液エバポレータは希黒液を濃度20%から70~80%程度に濃縮して回収ボイラで燃料として使用するための濃縮機であり、蒸気と希黒液をプレート式熱交換器で熱交換し、発生した凝縮水が熱交換器のプレートを伝って排出されるものであるが、本発明を適用することにより、プレート面の凝縮水膜形成を抑制して加熱効率を高めることができる。
【0041】
<抄紙設備への適用>
上記の通り、本発明の蒸気による加熱効率向上方法は、抄紙設備に設けられた蒸気ドライヤに好適に適用される。その場合において、抄紙設備における抄紙量と蒸気ドライヤにおける蒸気使用量に基づいて、蒸気ドライヤに供給する蒸気量を調整することが好ましく、このように、蒸気量をその必要量に応じて調整することにより、蒸気原単位を低減し、生産効率を高めることができる。また、蒸気ドライヤに供給する蒸気量を固定したままで、抄造量を向上させることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例について説明する。
なお、以下において、蒸気原単位は、不良発生分を除いた紙の生産量(抄造量)(t)に対する蒸気使用量(t)の割合で算出した。
【0043】
[実施例1]
第1図に示す抄紙乾燥設備において、ヤンキードライヤのドラム直径3m、供給水蒸気圧力0.6MPa、水蒸気供給量約900kg/hとし、ドラムの外表面温度が100℃となり、乾燥後の製品(紙)の含水率が20~30%となるように、ヤンキードライヤへの水蒸気供給量を流量調節弁9で制御した。
【0044】
ポリアミンとしてN-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミンを用い、ポリアミンを蒸気量に対して0.4ppmとなるように、蒸気ヘッダ7に添加したところ、添加前の蒸気原単位は、2.94であったが、ポリアミン添加後は2.81に改善された。また、試験中、抄紙乾燥設備のストレーナーの詰まりも発生しなかった。
なお、ポリアミンはポリオキシエチレンココアミンで乳化させて添加した。ポリオキシエチレンココアミンの配合量はポリアミン100重量部に対し15重量部とした。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、ポリアミンと共に、中和性アミンであるMEA3.2ppmとDEEA2.2ppmを併用添加したこと以外は実施例1と同様にして、薬剤添加前後の蒸気原単位とストレーナーの詰まりの有無を調べ、結果を表1に示した。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、N-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミンの代りにオクタデシルアミンを用い、蒸気量に対して0.1ppm添加すると共に、中和性アミンとしてAMPを3.8ppm添加したこと以外は実施例1と同様にして、薬剤添加前後の蒸気原単位とストレーナーの詰まりの有無を調べ、結果を表1に示した。
【0047】
なお、表1中、N-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミンは「ポリアミン」と記載する。また、薬剤添加前の蒸気原単位に対する薬剤添加後の蒸気原単位の低減割合を「蒸気原単位低減率(%)」として表1に併記した。
【0048】
【0049】
表1より、本発明によれば、特定のポリアミンを用いることで、蒸気による加熱効率を更に向上させるとともに、ストレーナーの詰まりもないので、抄紙設備等において生産効率を高めた安定運転を継続させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
4 給水ヘッダ
5 ボイラ
7 水蒸気ヘッダ
11 ドラム
12 サイホン
P 湿紙
W 凝縮水