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特許7099466スルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】スルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 12/40 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
C08G12/40
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019542033
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2018033252
(87)【国際公開番号】W WO2019054301
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2017177930
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 悠太朗
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/161306(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/161307(WO,A1)
【文献】特開2012-245441(JP,A)
【文献】特開2013-6756(JP,A)
【文献】国際公開第2014/42080(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117524(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117531(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 12/00 - 12/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入して、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる再沈殿処理工程、及び
前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を凝集させる凝集工程
を含むことを特徴とするスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項2】
前記硫酸溶液が、高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化した後の反応液である請求項1記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項3】
前記硫酸が、濃硫酸又は発煙硫酸である請求項1又は2記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、水と混和する有機溶媒である請求項1~3のいずれか1項記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン又はこれらの混合溶媒である請求項4記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項6】
前記スルホ基含有高分岐ポリマーが、トリアリールアミン構造を含有する高分岐ポリマーである請求項1~5のいずれか1項記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項7】
前記スルホ基含有高分岐ポリマーが、トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物から得られるノボラック型高分岐ポリマーである請求項6記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項8】
前記再沈殿処理工程において、硫酸の質量に対する水の質量比(水/硫酸)を0.95~1.25とし、かつ、凝集工程において、硫酸の質量に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/硫酸)を0.9~1.1とする請求項1~7のいずれか1項記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項9】
前記凝集工程において、撹拌時間を2時間以上とする請求項1~8のいずれか1項記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項10】
前記凝集工程において、温度を25~100℃とする請求項1~9のいずれか1項記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法。
【請求項11】
トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物を重合させて高分岐ポリマーを得る重合工程、
前記高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化して、スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を得るスルホン化工程、
前記スルホン化工程で得たスルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入して、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる再沈殿処理工程、及び
前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と、水と混和する有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を凝集させる凝集工程
を含むことを特徴とするスルホ基含有高分岐ポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン又はこれらの混合溶媒である請求項11記載のスルホ基含有高分岐ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホ基を有する高分岐ポリマーはカーボンナノチューブ(CNT)の分散剤として使用できるだけでなく、各種溶媒に溶解させて膜形成組成物として好適に用いることができる。
【0003】
高分岐ポリマーとしては、トリアリールアミン構造を分岐点として含有する高分岐ポリマー等が例示されるが、このようなポリマーにスルホ基を導入する場合、一般的に、スルホ基が導入されたトリアリールアミン化合物、アルデヒド化合物及びケトン化合物等のポリマー原料を用いて製造する方法や、スルホ基を有しない高分岐ポリマーを合成した後、スルホ基を導入可能な試薬で処理する方法がある。通常は、製造の簡便さを考慮して、後者の方法を用いることが多い。後者の方法において、スルホ基を導入する方法としては、従来公知の方法から選択することができ、特に制限されるものではないが、過剰量の硫酸を用いてスルホン化する方法等を用いることができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/161307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スルホ基含有高分岐ポリマーの精製は、該ポリマーの硫酸溶液を貧溶媒へと滴下する再沈殿操作にて行われているが、再沈殿溶媒の貧溶媒として水が選定されると、再沈殿操作で生じるポリマー粒子の粒径が小さく、その後の沈殿物の濾過性が極めて悪いという問題がある。この濾過性の悪さのため、濾過の長時間化による生産効率低下、あるいは細かい粒子の目詰まりによる作業中断、またポリマーへの残留硫酸量の増加等の問題が生じている。
【0007】
この問題については、前記硫酸溶液のpHを等電点付近まで調整し、沈殿物の凝集を促す方法が考えられるが、硫酸中でスルホン化した場合には中和に多量のアルカリを必要とすること、膨大な中和熱の制御が必要であること等の理由により、生産性の高い製法とは言い難く、当該問題を解決し得る新たな方法の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スルホ基含有高分岐ポリマーを短時間で効率的に精製し得、得られる精製物の残留硫酸量も低減し得るスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、及びスルホ基含有高分岐ポリマーをより効率よく製造することができるスルホ基含有高分岐ポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水に投入して再沈殿処理を行った後、沈殿物を含む液に、更に有機溶媒を添加して撹拌することにより、沈殿物を凝集成長させ、良好な濾過性等の高い操作性が得られ、残留硫酸量の低さにおいても優れた精製効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入して、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる再沈殿処理工程、及び
前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を凝集させる凝集工程
を含むことを特徴とするスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
2. 前記硫酸溶液が、高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化した後の反応液である1のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
3. 前記硫酸が、濃硫酸又は発煙硫酸である1又は2のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
4. 前記有機溶媒が、水と混和する有機溶媒である1~3のいずれかのスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
5. 前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン又はこれらの混合溶媒である4のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
6. 前記スルホ基含有高分岐ポリマーが、トリアリールアミン構造を含有する高分岐ポリマーである1~5のいずれかのスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
7. 前記スルホ基含有高分岐ポリマーが、トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物から得られるノボラック型高分岐ポリマーである6のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
8. 前記再沈殿処理工程において、硫酸の質量に対する水の質量比(水/硫酸)を0.95~1.25とし、かつ、凝集工程において、硫酸の質量に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/硫酸)を0.9~1.1とする1~7のいずれかのスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
9. 前記凝集工程において、撹拌時間を2時間以上とする1~8のいずれかのスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
10. 前記凝集工程において、温度を25~100℃とする1~9のいずれかのスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法、
11. トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物を重合させて高分岐ポリマーを得る重合工程、
前記高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化して、スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を得るスルホン化工程、
前記スルホン化工程で得たスルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入して、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる再沈殿処理工程、及び
前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と、水と混和する有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を凝集させる凝集工程
を含むことを特徴とするスルホ基含有高分岐ポリマーの製造方法、
12. 前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン又はこれらの混合溶媒である11のスルホ基含有高分岐ポリマーの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再沈殿処理後の沈殿物を含む液と有機溶媒とを混合して撹拌することで、ポリマー粒子が適度に凝集するため、沈殿物の濾過性等の操作性が良好になる。また、濾過性の大幅な改善により濾過時間が短縮するため、生産性向上に寄与することができ、更には、濾物への通液洗浄を容易に行うことができるため、ポリマー中の残存硫酸量を十分に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスルホ基含有高分岐ポリマーの精製方法は、重合反応後のスルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入し、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる再沈殿処理工程、及び前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を凝集させる凝集工程を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
(1)再沈殿処理工程
再沈殿処理工程は、スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液を水へ投入して、前記スルホ基含有高分岐ポリマーを再沈殿させる工程である。なお、本発明において、前記スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液は、スルホ基含有高分岐ポリマーを硫酸に溶かして調製した溶液でも、高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化した後の反応液でもよいが、作業効率等を考慮すると、スルホン化後の反応液が好ましい。以降の説明において、硫酸の質量は、スルホ基含有高分岐ポリマーを硫酸に溶かして調製した溶液を使用する場合は、スルホ基含有高分岐ポリマーを溶かす際に使用する硫酸の質量を意味し、高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化した後の反応液を使用する場合は、前記高分岐ポリマーをスルホン化する際に使用する硫酸の質量を意味するものとする。例えば、高分岐ポリマーのスルホン化において95質量%濃度の硫酸を40g使用した場合、使用した硫酸の質量は38gとなる。
【0014】
スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液に使用できる硫酸としては、濃硫酸や発煙硫酸等を挙げることができるが、コストや取扱性の観点から、特に濃硫酸を好適に使用できる。前記硫酸の濃度も、特に限定されるものではないが、ポリマーを効率的に沈殿させることを考慮すると、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。(以下、単に%と表記することもある。)
【0015】
スルホ基含有高分岐ポリマーの硫酸溶液において、硫酸の使用量は、特に限定されるものではないが、スルホ基含有高分岐ポリマーを硫酸に溶かして調製した溶液を使用する場合は、スルホ基含有高分岐ポリマーに対して、また、高分岐ポリマーを硫酸中でスルホン化した後の反応液を使用する場合は、スルホン化前の原料ポリマーに対して、2~50質量倍が好ましく、10~30質量倍がより好ましい。
【0016】
再沈殿処理工程で使用する水の量は、特に制限はないが、スルホ基含有高分岐ポリマーを速やかに再沈殿させる観点から、硫酸の質量に対する水の質量比(水/硫酸)は、0.5~2が好ましく、高分岐ポリマーの凝集を適切に制御して濾過性をより向上させる観点から、0.95~1.25がより好ましく、1~1.21が最適である。
【0017】
再沈殿処理時の液の温度(内温)は、特に制限されるものではないが、凝集を促進させる観点から、25~100℃の範囲に制御することが好ましく、30~60℃がより好ましい。
【0018】
(2)凝集工程
凝集工程は、前記再沈殿処理工程で得た沈殿物を含む液と有機溶媒とを混合し、撹拌して前記沈殿物を適度に凝集させる工程である。
【0019】
前記有機溶媒は、目的のスルホ基含有高分岐ポリマーを凝集させることができる溶媒であれば特に限定されるものではないが、プロトン性の有機溶媒、非プロトン性の有機溶媒等が挙げられる。
【0020】
プロトン性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
非プロトン性の有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒が挙げられる。
【0021】
本発明において、有機溶媒は、前記で例示したものの中でも水と任意の割合で混和するものが好ましく、高分岐ポリマーの凝集を適切に制御できる観点から、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン又はこれらの混合溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン、ジオキサン又はこれらの混合溶媒がより好ましく、テトラヒドロフランがより一層好ましい。
【0022】
また、有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、硫酸の質量に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/硫酸)は、0.5~1.5が好ましく、高分岐ポリマーの凝集を適切に制御して濾過性をより向上させる観点から、0.5~1.1がより好ましく、0.9~1.1が更に好ましく、0.95~1.05が最も好ましい。
【0023】
液の温度(内温)は、高分岐ポリマーの凝集を適切に制御して濾過性をより向上させる観点から、25~100℃が好ましく、30~60℃がより好ましい。
【0024】
撹拌時間は、粒径1μm未満の細かい粒子を凝集させる観点から、2時間以上とすることが好ましく、4時間以上がより好ましい。また、その上限は特に制限されないが、50時間以下が好ましく、25時間以下がより好ましい。
【0025】
硫酸、水及び有機溶媒の合計使用量は、スルホン化前の原料ポリマーに対し5~200質量倍が好ましく、20~100質量倍がより好ましく、40~80質量倍が更に好ましい。合計使用量が、前記の範囲から外れた場合、凝集が進行しない場合がある。
【0026】
加熱撹拌工程後は、沈殿物を瀘別し、濾物を必要に応じて水等で洗浄し、これを乾燥することで目的のポリマーを得ることができる。濾過設備は特に限定されるものではなく、公知の吸引濾過設備等を用いればよい。また、乾燥温度及び時間は、前記有機溶媒の種類やポリマーの耐熱性等によって異なるため一概に規定することはできないが、50~200℃程度、好ましくは80~150℃程度で、1~200時間程度である。なお、乾燥時、-10~-100kPa程度に減圧してもよい。
【0027】
本発明の精製方法を実施することで、スルホ基含有高分岐ポリマーについては、残留硫酸を通常1,000ppm以下、場合によっては200ppm以下程度まで低減することができる。
【0028】
本発明の精製方法を適用できるスルホ基含有高分岐ポリマーは、その構造中にスルホ基を含有するものであれば特に制限はなく、例えば、トリアリールアミン構造を有する高分岐ポリマー(例えば、国際公開第2011/065395号等)、トリアジン環を含有する高分岐ポリマー(例えば、特開2014-098101号公報等)又はトリカルボニルベンゼン構造を有する高分岐ポリマー(例えば、特開2015-096625号公報等)等の高分岐ポリマーにスルホ基を導入したもの、特にポリマーの繰り返し単位の芳香環上にスルホ基を導入したものを挙げることができる。なお、これら高分岐ポリマーに対するスルホ基の導入は、例えば、過剰量の硫酸を用いてスルホン化する方法等により行うことができる(例えば、国際公開第2012/161307号等)。
【0029】
本発明の精製方法は、これらの高分岐ポリマーの中でも、トリアリールアミン構造を有する高分岐ポリマー、より具体的には、トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物を重合させることにより得られるノボラック型高分岐ポリマーにスルホ基を導入したもの、特にその繰り返し単位の芳香環上にスルホ基を導入したものにおいて好適に採用することができる。
【0030】
前記ノボラック型高分岐ポリマーは、上述した国際公開第2011/065395号に記載の方法によりトリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物を重合させることで得ることができるが、特に生成物のゲル化、高粘度化、壁固着物等の製造上の問題を回避する観点から、より好適な方法として以下の重合工程及びスルホン化工程を含む製造方法を採用することができる。
【0031】
[スルホ基含有高分岐ポリマーの合成]
(1)重合工程
重合工程は、トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物を重合させてノボラック型高分岐ポリマーを得る工程である。
【0032】
前記トリアリールアミン化合物としては、下記式(A)で表されるトリアリールアミン化合物が好ましい。
【化1】
【0033】
式(A)中、Ar1~Ar3は、それぞれ独立に、式(A-1)~(A-5)のいずれかで表される2価の有機基であるが、特に、式(A-1)で表される基が好ましい。
【0034】
【化2】
【0035】
式(A-1)~(A-5)中、R1~R34は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数1~5のアルコキシ基である。
【0036】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0037】
炭素数1~5のアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
【0038】
炭素数1~5のアルコキシ基としては、直鎖状又は分岐状のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
好ましいトリアリールアミン化合物としては、トリフェニルアミン及びその誘導体等が挙げられる。
【0040】
前記アルデヒド化合物としては、特に限定されないが、下記式(B)で表されるものが好ましい。
【化3】
【0041】
式(B)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は下記式(B-1)~(B-4)のいずれかで表される1価の有機基である。
【化4】
【0042】
式(B-1)~(B-4)中、R35~R58は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、フェニル基、-OR59、-COR60、-NR6162又は-COOR63であり、R59~R62は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基又はフェニル基であり、R63は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基又はフェニル基である。
【0043】
炭素数1~5のハロアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のものが好ましく、例えば、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ブロモジフルオロメチル基、2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3-ブロモプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル基、3-ブロモ-2-メチルプロピル基、4-ブロモブチル基、パーフルオロペンチル基等が挙げられる。なお、ハロゲン原子及び炭素数1~5のアルキル基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0044】
前記アルデヒド化合物としては、芳香族アルデヒド化合物が好ましい。具体的には、式(B)で表されるアルデヒド化合物において、Rが、式(B-1)~(B-4)のいずれかで表される基であるものが好ましく、2-若しくは3-チエニル基、又は式(B-1)で表される基であるものが好ましく、2-若しくは3-チエニル基、又は式(B-1)で表される基のうちR37がフェニル基であるもの若しくはメトキシ基であるものがより好ましく、2-若しくは3-チエニル基、又は式(B-1)で表される基のうちR37がフェニル基であるものがより一層好ましい。
【0045】
好ましいアルデヒド化合物としては、ベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、3-トリフルオロメチルベンズアルデヒド、4-トリフルオロメチルベンズアルデヒド、3-フェニルベンズアルデヒド、4-フェニルベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、4-アセトキシベンズアルデヒド、4-アセチルベンズアルデヒド、2-ホルミル安息香酸、3-ホルミル安息香酸、4-ホルミル安息香酸、2-ホルミル安息香酸メチル、3-ホルミル安息香酸メチル、4-ホルミル安息香酸メチル、4-アミノベンズアルデヒド、4-ジメチルアミノベンズアルデヒド、4-ジフェニルアミノベンズアルデヒド、1-ナフトアルデヒド、2-ナフトアルデヒド、2-チオフェンカルバルデヒド、3-チオフェンカルバルデヒド、9-アントラセンカルバルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物が挙げられる。
【0046】
式(A)で表されるトリアリールアミン化合物と、式(B)で表されるアルデヒド化合物とを、酸触媒存在下で重合させることで、下記式(C)で表される繰り返し単位を含む高分岐ポリマーを合成することができる。
【0047】
【化5】
(式中、Ar1~Ar3及びRは、前記と同じ。)
【0048】
前記高分岐ポリマーとして好ましくは、下記式で表される繰り返し単位を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
【化6】
【0050】
前記式(B)で表されるアルデヒド化合物の使用量は、式(A)で表されるトリアリールアミン化合物1当量に対し、前記アルデヒド化合物0.1~1.0当量が好ましく、0.7~0.95当量がより好ましい。
【0051】
前記高分岐ポリマーの平均分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)が1,000~2,000,000が好ましく、2,000~200,000がより好ましい。なお、本発明においてMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算測定値である。
【0052】
前記酸触媒としては、硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸や、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸等のスルホン酸、ギ酸、シュウ酸等のカルボン酸等の有機酸を用いることができるが、硫酸、スルホン酸が好ましい。酸触媒の使用量は、その種類によって適宜設定されるが、通常、トリアリールアミン化合物1当量に対し、0.01~0.5当量が好ましく、0.02~0.2当量がより好ましい。
【0053】
前記トリアリールアミン化合物とアルデヒド化合物との縮合重合によって合成されるが、このとき脱水が起こるため、副生成物として水が生じる。本発明の製造方法においては、この副生した水を反応系内から除去しながら重合反応を行うことが好ましい。
【0054】
前記副生成物の水を除去する方法としては、特に限定されないが、共沸によって除去する方法が、大量製造の点から好ましい。共沸によって水を除去する方法としては、例えば、ディーンスターク装置を用いて副生する水を除去する方法が挙げられる。
【0055】
このとき、有機溶媒としては、水と共沸可能であって、水よりも比重が小さく、かつ水と混和しないものが好ましい。なお、本発明において「水と混和しない」とは、溶解する水分量が5.0質量%未満の有機溶媒を指す。このような有機溶媒としては、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、2-メチルテトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらのうち、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン又はこれらの混合物が好ましい。前記有機溶媒の使用量は、トリアリールアミン化合物及びアルデヒド化合物の合計に対し、質量比で1~50となる量が好ましく、2~10となる量がより好ましい。
【0056】
重合反応時の温度は、用いる原料や溶媒に応じて適宜設定すればよいが、通常40~200℃である。また、前述したようにディーンスターク装置を用いて共沸によって水の除去を行う場合、還流温度で反応させるが、このとき十分に還流させるため、外温を内温(還流温度)よりも1℃以上高く設定することが好ましく、内温よりも10℃以上高く設定することがより好ましい。外温の上限は、特に限定されないが、通常、内温+20℃程度である。
【0057】
反応時間は、反応温度によって適宜選択されるが、通常1~30時間程度である。
【0058】
得られた高分岐ポリマーは、反応液をそのままで、又は精製して固体状としてから次のスルホン化工程に供される。
【0059】
(2)スルホン化工程
スルホン化工程は、前記重合工程で得た高分岐ポリマーにスルホ基を導入する工程であるが、スルホ基を導入する方法としては、特に制限はなく、例えば、過剰量の硫酸を用いてスルホン化する方法等を用いることができる(例えば、国際公開第2012/161307号等)。
【0060】
前記硫酸としては、濃硫酸、発煙硫酸等を使用することができ、コストや取扱性の観点から、濃硫酸を好適に採用し得る。なお、前記硫酸の濃度は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0061】
スルホン化に用いる硫酸の量としては特に制限はないが、高分岐ポリマー1質量部に対して100質量部以下が好ましく、後処理時に水へ投入する際の発熱制御等の操作を考慮すると50質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、2質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。
【0062】
スルホン化の際の反応温度は、用いる原料や溶媒に応じて適宜設定すればよいが、通常20~100℃であり、好ましくは30~60℃である。
【0063】
反応時間は、反応温度によって適宜選択されるが、通常1~24時間程度であり、1時間以上あれば特に制限はされない。
【0064】
前記スルホ基含有高分岐ポリマーとして好ましくは、スルホ基がポリマーの繰り返し単位の芳香環上に導入されたものが好ましく、より好ましい具体例として、下記式で表される繰り返し単位を有するものが挙げられるが、これに限定されない。
【0065】
【化7】
【0066】
スルホン化後、前記スルホ基含有高分岐ポリマーは、硫酸溶液として得られ、反応液をそのままで、又は溶媒等を除去して固体状としてから前述の再沈殿工程へと供される。
【実施例
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定装置等は以下のとおりである。
(1)数平均分子量Mn,質量平均分子量Mw
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)
装置:(株)島津製作所製 SCL-10Avpシリーズ
カラム:Shodex KF-805+KF-804+KF-803
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(271nm)
検量線:標準ポリスチレン
(2)残留硫酸量
イオンクロマトグラフ法
装置(燃焼):(株)三菱アナリテック製 IGF-100
装置(イオンクロマトグラフ):日本ダイオネクス(株)製 ICS-1500
試料1mgに5mM-NaOHを10mL加え、よく振とうし、液液抽出を行った。水相をイオンクロマトグラフで測定し、水相側に抽出された硫酸分を測定し、定量を行った。
【0068】
[合成例1]原料ポリマーの合成
(1)下記スキームに示される反応に従って、ポリマーPTPAを合成した。
【化8】
【0069】
ディーンスターク装置を接続した200mLフラスコに、トリフェニルアミン(Zhenjiang Haitong Chemical Industry社製)10g、4-フェニルベンズアルデヒド(Beijing Odyssey Chemicals社製)6.5g(0.87eq.)、p-トルエンスルホン酸(関東化学(株)製)0.388g(0.05eq.)、及びトルエン60gを仕込み、還流状態(内温110~115℃)となるよう昇温した。反応系内が常に還流状態となるように外温を還流温度(内温110~115℃)+20℃に維持し、副生する水を共沸によって反応系内から除去しながら、3時間反応させた。3時間経過後、GPCにてポリマーのMwが35,000~45,000付近に到達したことを確認し、4-フェニルベンズアルデヒドが全て消失し、重合が停止していることを確認した。得られたポリマーのトルエン溶液にトリエチルアミン(東京化成工業(株)製)0.25g(0.06eq.)を加え、クエンチした。クエンチ後のポリマー溶液を貧溶媒であるアセトン30g及び水270gの混合溶媒へと投入し、再沈殿させた。沈殿物を濾別し、アセトンにて濾物通液洗浄を繰り返した後、乾燥機にて100℃で乾燥し、目的のポリマーPTPAを得た。
【0070】
[実施例1]
50mLフラスコに95%濃硫酸(純正化学(株)製)40gを仕込み、内温を35~45℃に調整した後、合成例1で得た原料ポリマーPTPA2gを投入した。その後、内温35~45℃にて3時間攪拌した後、室温付近まで冷却し、スルホン化されたPTPA(以下、PTPA-S)の硫酸溶液を得た。別途用意した200mLフラスコに水44gを仕込んだ後、得られたPTPA-Sの硫酸溶液を、内温30℃以下を維持しながら滴下し、再沈殿操作を行った。その後、テトラヒドロフラン(関東化学(株)製)40gを加え、内温を45~50℃に調整し、10時間撹拌して沈殿物を凝集させた。得られた沈殿物を桐山ロート(Φ60mm、濾紙No.5B)にて減圧濾別したところ、濾過時間16秒で完了した。続く濾物通液洗浄においても、濾過性は悪化することなく、目的のポリマーPTPA-Sを得ることができ、乾燥後に得られたPTPA-S中の残留硫酸量は200ppm未満であった。
【0071】
【化9】
【0072】
[比較例1]
50mLフラスコに95%濃硫酸40g(純正化学(株)製)を仕込み、内温を35~45℃に調整した後、合成例1で得た原料ポリマーPTPA2gを投入した。その後、内温35~45℃にて3時間攪拌した後、室温付近まで冷却し、PTPA-Sの硫酸溶液を得た。別途用意した200mLフラスコに水86gを仕込んだ後、得られたPTPA-Sの硫酸溶液を、内温30℃以下を維持しながら滴下し、再沈殿操作を行った。その後、50℃にて15時間攪拌し、得られた沈殿物を桐山ロート(Φ60mm、濾紙No.5B)にて減圧濾別したところ、濾過時間93秒を要した。続く濾物通液洗浄においては、経時的に濾過時間は長くなり、最終的に目詰まりして濾過操作を完了することができなかった。