(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】中空糸膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20220705BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220705BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220705BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
(21)【出願番号】P 2019543138
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035363
(87)【国際公開番号】W WO2019059397
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017183630
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018044646
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018149977
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】疋田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】井手口 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 広輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146469(WO,A1)
【文献】特開2017-213515(JP,A)
【文献】特開2006-205067(JP,A)
【文献】特開2017-056387(JP,A)
【文献】特開2016-097362(JP,A)
【文献】特開2013-063383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0096934(US,A1)
【文献】国際公開第2016/190416(WO,A1)
【文献】特開2014-079687(JP,A)
【文献】米国特許第05472607(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
D01F 6/12
D01F 6/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の外周面に配置された多孔質膜層とを含む中空糸膜であって、
下記のBU値(内)が36以下であり、
下記のR値が1.1~2.1であり、
前記多孔質膜層が、ポリフッ化ビニリデン、アクリル系ポリマー、及びポリビニルピロリドンを含
み、
前記アクリル系ポリマーが、アクリル酸2-メトキシエチル単位、水酸基含有(メタ)アクリレート単位、及び、下記式(1)で表されるマクロモノマー単位を有するコポリマーである、中空糸膜。
前記BU値(内)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの65%の位置(より支持体に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求めた値であり、
前記R値は、BU値(内)をBU値(外)で除して求めた値であり、
前記BU値(外)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの5%の位置(より外表面に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求めた値である。
【化1】
上記式(1)において、R
1
~R
n
は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を表し、X
1
~X
n
は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、3~10000の整数を表す。
【請求項2】
前記BU値(外)が19以下である、請求項
1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
前記BU値(内)が16以上である、請求項1
又は請求項2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
前記BU値(外)が6以上である、請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項5】
前記R値が1.9以下である、請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項6】
前記R値が1.5以上である、請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項7】
前記BU値(内)が23以上である、請求項1~請求項
6のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項8】
前記BU値(外)が10以上である、請求項1~請求項
7のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項9】
前記BU値(外)が13以上である、請求項1~請求項
8のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項10】
耐剥離性能試験の結果、剥離があったサンプルの本数が1本以下である、請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項11】
透水性能が5m
3/m
2/MPa/h以上である、請求項1~請求項
10のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項12】
48nmの粒子の阻止率(%)が90%以上である、請求項1~請求項
11のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項13】
40nmの粒子の阻止率(%)が80%以上である、請求項1~請求項
12のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項14】
40nmの粒子の阻止率(%)が90%以上である、請求項1~請求項
13のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【請求項15】
支持体が編紐である請求項1~請求項
14のいずれか一項に記載の中空糸膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜に関する。
本願は、2017年9月25日に日本に出願された特願2017-183630号、2018年3月12日に日本に出願された特願2018-044646号、及び2018年8月9日に日本に出願された特願2018-149977号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりや各種規制の強化等により、多孔質膜を用いた水処理が注目を集めている。この多孔質膜は、例えば、飲料水製造、浄水処理、又は排水処理等の水処理分野等、様々な分野で利用されている。また、このような多孔質膜には、高い分画性能や親水性、透水性といった膜本来の性能に加え、例えば、多孔質膜を支持する支持体との耐剥離性等の機械的強度も求められるようになっている。
【0003】
上記の多孔質膜としては、従来から、例えば、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」とも言う。)等、優れた各種膜特性が得られるフッ素樹脂系高分子組成物からなるものが各種提案されている。また、上記のような水処理用途においては、糸を丸編みした円筒状編紐からなる支持体の外周面に多孔質膜を設けた中空糸膜が好適に用いられている。
【0004】
一方、中空糸膜による被処理水には、無機粒子や、臭気対策で投入される活性炭等が含まれている場合があり、これらの不純物が中空糸膜に接触する場合がある。特に、中空糸膜に対してエアスクラビング処理等を施す場合には、被処理水中の無機粒子や活性炭等が中空糸膜に激しく衝突するため、多孔質膜表面の削れがきっかけとなって多孔質膜が支持体から剥離してしまい、分画性能や透水性が低下して膜特性が劣るものとなり、水処理効率が低下するおそれがあった。
特許文献1には、編紐支持体上に多孔質膜層を有し、多孔質膜層が編紐支持体の編目を通って、支持体の厚さの50%以上浸入している中空糸膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の中空糸膜は、多孔質膜層が編紐支持体の編目を通って、支持体の厚さの50%以上浸入していない中空糸膜と比較して、耐剥離性が良好であるが、過酷な条件下においては、編紐からなる支持体と多孔質膜層との剥離が発生することがあり、耐剥離性の改善が求められている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、耐剥離性が良好で、透水性が良好で、微細粒子の阻止性能が高い中空糸膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]支持体と、前記支持体の外周面に配置された多孔質膜層とを含む中空糸膜であって、BU値(内)が36以下であり、R値が1.1~2.1である中空糸膜。
なお、前記BU値(内)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの65%の位置(より支持体に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求めた値であり、
前記R値は、BU値(内)をBU値(外)で除して求めた値であり、
前記BU値(外)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの5%の位置(より外表面に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求めた値である。
[2]前記BU値(外)が19以下である[1]に記載の中空糸膜。
[3]前記BU値(内)が16以上である[1]又は[2]に記載の中空糸膜。
[4]前記BU値(外)が6以上である[1]~[3]のいずれかに記載の中空糸膜。
[5]前記R値が1.9以下である[1]~[4]のいずれかに記載の中空糸膜。
[6]前記R値が1.5以上である[1]~[5]のいずれかに記載の中空糸膜。
[7]前記BU値(内)が23以上である[1]~[6]のいずれかに記載の中空糸膜。
[8]前記BU値(外)が10以上である[1]~[7]のいずれかに記載の中空糸膜。
[9]前記BU値(外)が13以上である[1]~[8]のいずれかに記載の中空糸膜。
[10]耐剥離性能試験の結果が1本以下である[1]~[9]のいずれかに記載の中空糸膜。
[11]透水性能が5m3/m2/MPa/h以上である[1]~[10]のいずれかに記載の中空糸膜。
[12]48nmの粒子の阻止率(%)が90%以上である[1]~[11]のいずれかに記載の中空糸膜。
[13]40nmの粒子の阻止率(%)が80%以上である[1]~[12]のいずれかに記載の中空糸膜。
[14]40nmの粒子の阻止率(%)が90%以上である[1]~[12]のいずれかに記載の中空糸膜。
[15]支持体が編紐である[1]~[14]いずれかに記載の中空糸膜。
【0009】
また、本発明は、以下の態様を包含する。
<1>多孔質膜前駆体層を有する中空糸膜前駆体を得るために、支持体の外周面に製膜原液を塗布し、前記製膜原液が塗布された前記支持体を空気中で走行させた後、55~75℃の凝固液中で前記製膜原液を凝固して多孔質膜前駆体層とし、
前記多孔質膜前駆体層に含まれるポリビニルピロリドンを除去することを含む、中空糸膜の製造方法。
前記製膜原液は、質量平均分子量(Mw)が5.0×10
5~8.0×10
5の範囲にあるポリフッ化ビニリデン、K値が15~45の範囲にあるポリビニルピロリドン及び溶媒を含む。
<2>前記製膜原液がポリフッ化ビニリデンを17~23質量%、ポリビニルピロリドンを17~23質量%含む、<1>に記載の中空糸膜の製造方法。
<3>前記製膜原液として、アクリル酸2-メトキシエチル単位、水酸基含有(メタ)アクリレート単位、及び、下記式(1)で表される部分構造を有するマクロモノマー単位を有するコポリマーをさらに含む製膜原液を用いる、<1>又は<2>のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【化1】
[上記式(1)において、R
1~R
nは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を表し、X
1~X
nは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、3~10000の整数を表す。]
<4>多孔質膜前駆体層を有する中空糸膜前駆体を得るために、支持体の外周面に内層用製膜原液を塗布し、前記支持体に塗布された前記内層用製膜原液の外周面に、外層用製膜原液を塗布し、前記内層用製膜原液と前記外層用製膜原液とが塗布された前記支持体を空気中で走行させた後、55~75℃の凝固液中で前記内層用製膜原液及び前記外層用製膜原液を凝固して多孔質膜前駆体層とし、
前記多孔質膜前駆体層に含まれるポリビニルピロリドンを除去することを含む、中空糸膜の製造方法。
前記内層用製膜原液及び前記外層用製膜原液は、同一または異なって、いずれも質量平均分子量(Mw)が5.0×10
5~8.0×10
5の範囲にあるポリフッ化ビニリデン、K値が15~45の範囲にあるポリビニルピロリドン及び溶媒を含む。
<5>前記内層用製膜原液と、前記外層用製膜原液とが、同一組成の製膜原液である、<4>に記載の中空糸膜の製造方法。
<6>前記内層用製膜原液と、前記外層用製膜原液とが、異なる組成の製膜原液である、<4>に記載の中空糸膜の製造方法。
<7>前記内層用製膜原液がポリフッ化ビニリデンを17~23質量%、ポリビニルピロリドンを17~23質量%含む、<4>~<6>のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
<8>前記外層用製膜原液がポリフッ化ビニリデンを17~23質量%、ポリビニルピロリドンを14~23質量%含む、<4>~<7>のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
<9>前記内層用製膜原液及び前記外層用製膜原液の一方または両方の製膜原液として、アクリル酸2-メトキシエチル単位、水酸基含有(メタ)アクリレート単位、及び、上記式(1)で表される部分構造を有するマクロモノマー単位を有するコポリマーをさらに含む製膜原液を用いる、<4>~<8>のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る中空糸膜は、耐剥離性が良好であり、透水性が良好であり、微細粒子の阻止性能が高い。そのため、飲料水製造、浄水処理、又は排水処理等の各種水処理分野において過酷な条件で使用したときでも、多孔質膜とそれを支持する支持体との剥離が起こりにくく、長期間使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る中空糸膜を得るための製造方法の第一の実施形態を模式的に説明する図であり、中空糸膜製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る中空糸膜を得るための製造方法の第二の実施形態を模式的に説明する図であり、中空糸膜製造装置の一例を示す概略図である。
【
図3】BU値(内)及びBU値(外)を求める際に必要な、中点A、点B、点C、点Dの取り方を模式的に示した図であり、中点AがA1であるときの点B、点C、点DがそれぞれB1、C1、D1であることを示す。
【
図4】BU値(内)及びBU値(外)を求める際に必要な、中点A、点B、点C、点Dの取り方を模式的に示した図であり、中点AがA2であるときの点B、点C、点DがそれぞれB2、C2、D2であること示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る中空糸膜を詳述する。
<中空糸膜>
本発明の中空糸膜は、支持体と支持体の外周面に配置された多孔質膜層とを含む。本発明の中空糸膜においては、例えば水処理において、被処理水と中空糸膜が接触する部分において、支持体の外周面の全体が覆われるように多孔質膜層が配置されている。
【0013】
[支持体]
支持体は、例えば、フィラメントが筒状に成形された中空状の支持体である。このように、フィラメントを筒状に成形する方法としては、例えば、フィラメント(1本の糸)を円筒状に丸編みにする編紐形態の方法や、複数のフィラメントを円筒状に組み上げる組紐形態の方法等が挙げられる。これらの中でも、生産性がよく、適度な伸縮性及び剛性を有する点で、円筒状に丸編みした編紐形態の方法が好ましい。さらに、円筒状に丸編みした編紐を熱処理することで、剛性を付与することがより好ましい。
なお、本明細書で説明する「丸編」とは、丸編機を用いて筒状の横メリヤス生地を編成することであり、また、「フィラメントを円筒状に丸編みした編紐」とは、フィラメントを湾曲させて螺旋状に伸びる連続したループを形成し、これらループを前後左右に互いに関係させた編紐を意味する。
【0014】
即ち、本実施形態の中空糸膜においては、支持体として、中空円筒状の紐状物を用いることが可能である。このような中空円筒状の紐状物としては、繊維が円筒形状に編み込まれ、熱処理を施された円筒状の編紐支持体であってもよい。
【0015】
支持体を構成するフィラメントの材質としては、特に限定されないが、例えば、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、又は天然繊維等が挙げられる。また、フィラメントは、複数種類の繊維を組み合わせたフィラメントであってもよい。
【0016】
上記の合成繊維としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系繊維;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリエステル系繊維;ポリアクリロニトリル等のアクリル系繊維;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維;ポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニリデン系繊維;ポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン系繊維;フェノール樹脂系繊維;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系繊維;ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維等が挙げられる。
【0017】
また、半合成繊維としては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、キチン、キトサン等を原料としたセルロース誘導体系繊維;プロミックスと呼称される蛋白質系繊維等が挙げられる。
また、再生繊維としては、例えば、ビスコース法、銅-アンモニア法、有機溶剤法等により得られるセルロース系再生繊維(レーヨン、キュプラ、ポリノジック等)が挙げられる。
また、天然繊維としては、亜麻、黄麻等が挙げられる。
【0018】
上記の中でも、フィラメントの材質としては、耐薬品性に優れる点から、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、中空糸膜の洗浄に用いられる次亜塩素酸又はその塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)に対する耐性が優れる点では、PET等のポリエステル繊維がより好ましい。
【0019】
また、フィラメントの構造としても、特に限定されないが、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸等が挙げられ、中でも、マルチフィラメントが好ましい。ここで、本明細書で説明する「マルチフィラメント」とは、数本から数十本の繊維を撚り合わせたフィラメントを意味する。フィラメントがマルチフィラメントであれば、支持体の外径を制御しやすいというメリットがある。また、上記の「フィラメント」とは、連続した長さを持つ糸のことを意味する。
【0020】
フィラメントの繊度としては、支持体の外径、内径、支持体の厚み等を勘案して決定でき、例えば、50~450dtexが好ましく、100~200dtexがより好ましい。
【0021】
また、支持体の外径は、中空糸膜10の外径と膜厚から決まる。このため、これらのパラメータを考慮しながら決定すれば良い。
また、支持体がフィラメントを円筒状に丸編みした編紐の場合、編紐中のフィラメントの密度は、支持体の外径とフィラメントの繊度で決めることができる。
【0022】
[多孔質膜層]
本発明の中空糸膜を構成する多孔質膜層においては、厚さを200μm以下とすることが好ましい。
多孔質膜層の厚さを200μm以下とすることによって、膜分離時における透過抵抗が低減され、優れた透水性能が得られるとともに、高分子樹脂溶液である製膜原液を用いて多孔質膜層を形成させる際の凝固時間を短くでき、マクロボイド(欠損部位)抑制に効果的であり、優れた生産性を得ることができる傾向にある。
多孔質膜層の厚さは、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは120μm以下である。
【0023】
また、本発明の中空糸膜を構成する多孔質膜層においては、厚さを50μm以上とすることが好ましい。
多孔質膜層の厚さを50μm以上とすることによって、実用上問題のない機械的強度を得ることができる傾向にある。但し、膜外径が細い場合は厚みが50μm未満でも機械的強度が維持できる場合があるためこの限りではない。
多孔質膜層の厚さは、より好ましくは、70μm以上であり、さらに好ましくは、90μm以上である。
【0024】
本発明の中空糸膜を構成する多孔質膜層の厚さは、50μm~200μmとすることが好ましく、70μm~150μmがより好ましく、90μm~120μmがさらに好ましい。
【0025】
[BU値(内)]
本発明の中空糸膜は、BU値(内)が36以下の中空糸膜である。
BU値(内)は、多孔質膜層における支持体に近い領域のBU値を意味し、多孔質膜層における支持体に近い領域の孔径の大きさや孔の数を表す指標である。
BU値(内)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの65%の位置(より支持体に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求める。具体的には、実施例に記載した方法(「BU値(内)の求め方」)で求めることができる。
BU値(内)が小さい程、多孔質膜層における支持体に近い領域において、孔径が小さい、又は、孔の数が少ない傾向にあり、多孔質膜層と支持体との剥離が起こりにくい傾向にある。
【0026】
BU値(内)が36以下であることで、中空糸膜の耐剥離性が良好となる。耐剥離性の観点から、BU値(内)は、34以下が好ましく、32以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。
また、BU値(内)は、16以上であることが好ましい。BU値(内)が16以上であることで、中空糸膜の透水性能が良好となる。透水性能の観点から、BU値(内)は、19以上が好ましく、21以上がより好ましく、23以上がさらに好ましい。
【0027】
BU値(内)は、16~36であることが好ましく、19~36がより好ましく、19~34がさらに好ましく、21~32がことさら好ましく、23~30が特に好ましい。
【0028】
なお、実施例の「BU値(内)の求め方」の(4)において、多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが1000倍の写真の視野に入りきらない場合、次のようにしてBU値(内)を求める。
多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが1000倍の写真の視野に入りきらない場合のBU値(内)の求め方
(1)~(3)実施例の「BU値(内)の求め方」の(1)~(3)と同じ作業を行う。
(4)走査型電子顕微鏡を用い、(3)で得たサンプル1の長手方向に対して直角方向の切断面を、多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが視野に入るように、500倍で写真を撮影する。撮影した写真について、以下の(α)~(ε)を行う。
(α)多孔質膜層の外周(画像上に現れている部分)の中点Aを求め、中点Aから外周の接線を引く。
(β)(α)で引いた接線に対し、中点Aから垂線を引く。
(γ)(β)で引いた垂線が、中点Aから支持体に初めて達した点を点Bとした。但し、中点Aから点Bに至るまでに、多孔質膜層と支持体との間のギャップ(隙間)が存在する場合には、前記垂線上の当該ギャップの多孔質膜層側の縁を点Bとした。
(δ)線分ABの長さを100%とし、線分AB上にあり、点Aから長さで65%の位置にある点Dを求める。
(ε)線分ADの距離LAD(μm)を測定する。
(5)(4)のサンプル1の切断面を、倍率を1000倍に上げて走査型電子顕微鏡で観察する。このとき、線分ADが視野に入るようにサンプル1の切断面の位置を調整する。
(6)(5)で位置を調整したサンプル1の切断面について、線分ADを視野に入れた走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍、画素数:640×480)を撮影する。
(7)前記(6)で撮影した写真を、画像解析ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybernetics社製)を用いて、以下の(a)~(c)を行う。なお、画像解析ソフトは、以下の(a)~(c)の処理が可能であれば、前記ソフト以外のいずれのソフトを用いてもよい。
(a)写真の画像を8ビットグレースケール(すなわち256階調の輝度スケール)の画像に変換する。
(b)(a)の変換後の画像について、256階調の輝度スケール全体にわたって輝度の累積ヒストグラムを線形にする処理を行う。
(c)(b)の処理後の画像について、5×5のメジアン平均処理を3回繰り返す。
(8)(7)の(c)の処理後の画像について、以下の(d)~(j)を行う。
(d)多孔質膜の外周(画像上に現れている部分)の中点A’を求め、中点A’から外周の接線を引く。
(e)(d)で引いた接線に対し、中点A’から垂線を引く。
(f)(e)の垂線上にあり、中点A’から(4)の(ε)で求めたLAD(μm)の位置にある点D’を求める。
(g)点D’から(e)の垂線に直角な直線を引く。
(h)(g)で引いた直線上にあり、点D’を中点とし、長さが85μmである線分を求める。なお、線分を画像の範囲内にとることができなかった場合は、(6)に戻り、観察する視野を変更して写真を撮影し直し、その後の作業を行う。
(i)(h)で求めた線分を構成する全画素の輝度の標準偏差を求め、「BUD1」とする。
(9)~(11)実施例の(BU値(内)の求め方)の(7)~(9)と同じ作業を行う。
【0029】
[BU値(外)]
BU値(外)は、多孔質膜層における外表面に近い領域のBU値を意味し、多孔質膜層における該表面に近い領域の孔径の大きさや孔の数を表す指標である。
BU値(外)は、画像処理された中空糸膜の断面写真を用いた多孔質膜層の厚みの5%の位置(より外表面に近い方)における特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差により求める。具体的には、実施例に記載した方法(「BU値(外)の求め方」)で求めることができる。
BU値(外)が小さい程、多孔質膜層における外表面に近い領域において、孔径が小さい、又は、孔の数が少ない傾向にあり、多孔質膜層の外表面が削れにくい傾向にある。なお、多孔質膜層の外表面の削れは、多孔質膜層と支持体との剥離のきっかけになり得る。
【0030】
BU値(外)は、19以下であることが好ましい。BU値(外)が19以下であることで、中空糸膜の外表面が削れにくくなる。外表面の削れにくさの観点から、BU値(外)は、18以下が好ましく、17以下がより好ましい。
BU値(外)は、6以上であることが好ましい。BU値(外)が6以上であることで、中空糸膜の透水性能が良好となる。透水性能の観点から、BU値(外)は、10以上が好ましく、13以上がより好ましい。
【0031】
BU値(外)は、6~19であることが好ましく、10~19がより好ましく、13~19がさらに好ましく、13~18がことさら好ましく、13~17が特に好ましい。
【0032】
なお、実施例の「BU値(外)の求め方」の(4)において、多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが1000倍の写真の視野に入りきらない場合、次のようにしてBU値(外)を求める。
多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが1000倍の写真の視野に入りきらない場合のBU値(外)の求め方
(1)~(3)実施例の「BU値(外)の求め方」の(1)~(3)と同じ作業を行う。
(4)走査型電子顕微鏡を用い、(3)で得たサンプル1の長手方向に対して直角方向の切断面を、多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが視野に入るように、500倍で写真を撮影する。撮影した写真について、以下の(α)~(ε)を行う。
(α)多孔質膜層の外周(画像上に現れている部分)の中点Aを求め、中点Aから外周の接線を引く。
(β)(α)で引いた接線に対し、中点Aから垂線を引く。
(γ)(β)で引いた垂線が、中点Aから支持体に初めて達した点を点Bとした。但し、中点Aから点Bに至るまでに、多孔質膜層と支持体との間のギャップ(隙間)が存在する場合には、前記垂線上の当該ギャップの多孔質膜層側の縁を点Bとした。
(δ)線分ABの長さを100%とし、線分AB上にあり、点Aから長さで5%の位置にある点Cを求める。
(ε)線分ACの距離LAC(μm)を測定する。
(5)(4)のサンプル1の切断面を、倍率を1000倍に上げて走査型電子顕微鏡で観察する。このとき、線分ACが視野に入るようにサンプル1の切断面の位置を調整する。
(6)(5)で位置を調整したサンプル1の切断面について、線分ACを視野に入れた走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍、画素数:640×480)を撮影する。
(7)前記(6)で撮影した写真を、画像解析ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybernetics社製)を用いて、以下の(a)~(c)を行う。なお、画像解析ソフトは、以下の(a)~(c)の処理が可能であれば、前記ソフト以外のいずれのソフトを用いてもよい。
(a)写真の画像を8ビットグレースケール(すなわち256階調の輝度スケール)の画像に変換する。
(b)(a)の変換後の画像について、256階調の輝度スケール全体にわたって輝度の累積ヒストグラムを線形にする処理を行う。
(c)(b)の処理後の画像について、5×5のメジアン平均処理を3回繰り返す。
(8)(7)の(c)の処理後の画像について、以下の(d)~(j)を行う。
(d)多孔質膜の外周(画像上に現れている部分)の中点A’を求め、中点A’から外周の接線を引く。
(e)(d)で引いた接線に対し、中点A’から垂線を引く。
(f)(e)の垂線上にあり、中点A’から(4)の(ε)で求めたLAC(μm)の位置にある点C’を求める。
(g)点C’から(e)の垂線に直角な直線を引く。
(h)(g)で引いた直線上にあり、点C’を中点とし、長さが85μmである線分を求める。なお、線分を画像の範囲内にとることができなかった場合は、(6)に戻り、観察する視野を変更して写真を撮影し直し、その後の作業を行う。
(i)(h)で求めた線分を構成する全画素の輝度の標準偏差を求め、「BUC1」とする。
(9)~(11)実施例の(BU値(外)の求め方)の(7)~(9)と同じ作業を行う。
【0033】
[R値]
本発明の中空糸膜は、R値が1.1~2.1の範囲内の中空糸膜である。
ここで、R値は、BU値(内)をBU値(外)で除して求めた値である。R値は、多孔質膜層における支持体に近い領域が外表面に近い領域と比較して、どの程度孔径が大きいか、あるいは、孔の数が多いかを表している。
【0034】
R値が1.1以上であることにより、中空糸膜の透水性能が良好となる傾向にある。透水性能の観点から、R値は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.6以上がさらに好ましい。
R値が2.1以下であることにより、中空糸膜の耐剥離性が良好となる傾向にある。耐剥離性の観点から、R値は、2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましい。
【0035】
R値は、1.1~2.0であることが好ましく、1.1~1.9がより好ましく、1.3~1.9がさらに好ましく、1.5~1.9がことさら好ましく、1.6~1.9が特に好ましい。
【0036】
[BU値(内)及びBU値(外)が孔径の大きさや孔の数を表す指標となる理由]
中空糸膜の長手方向に対して直角方向の切断面を走査型電子顕微鏡で観察すると、孔は暗く写り、孔以外の部分は明るく写る。前記切断面における特定の線分上に大きな孔があったり、孔の数が多かったりすると、線分を構成する画素の輝度の斑が大きくなり、輝度の標準偏差が大きくなる。前述の通り、BU値(内)及びBU値(外)は、特定の線分を構成する全画素の輝度の標準偏差である。
以上のことから、BU値(内)及びBU値(外)は、孔径の大きさや孔の数を表す指標になる。
【0037】
なお、BU値(内)及びBU値(外)を求めるにあたって重要なことは、実施例の「BU値(内)の求め方」及び「BU値(外)の求め方」における(5)の(b)及び(5)の(c)、並びに多孔質膜層の外表面から支持体と多孔質膜層との境界面までが1000倍の写真の視野に入りきらない場合のBU値(内)及びBU値(外)の求め方における、前記(7)の(b)及び前記(7)の(c)の画像処理を行うことである。これらの画像処理を行うことで、異なる画像について、孔径の大きさや孔の数の度合いを比較することが可能となる。
上記(5)の(b)若しくは(7)の(b)の輝度の累積ヒストグラムを線形にする処理は、明るい画像と暗い画像があった場合、両画像の明るさレベルを近づける効果がある。
上記(5)の(c)若しくは(7)の(c)の5×5のメジアン平均処理は、孔のエッジ部等局所的に明るい部分をなくす効果がある。
【0038】
[耐剥離性能試験]
本発明の中空糸膜は、耐剥離性能試験の結果が1本以下である中空糸膜である。好ましくは、耐剥離性能試験の結果は0本である。
耐剥離性能試験の結果が1本以下であることは、多孔質膜層と支持体との耐剥離性が良好であることを意味する。このため、中空糸膜を飲料水製造、浄水処理、又は排水処理等の水処理分野に使用したときに、長期間使用可能となる。
【0039】
耐剥離性能試験は、高圧洗浄機を用いて水を吹き付けた中空糸膜を乾燥し、多孔質膜層の支持体からの剥離の有無を実体顕微鏡で観察して行う。具体的には、実施例に記載した方法で行うことができる。
【0040】
[透水性能]
本発明の中空糸膜の透水性能は、5m3/m2/MPa/h以上であることが好ましく、10m3/m2/hr/MPa以上であることがより好ましく、15m3/m2/hr/MPa以上であることがさらに好ましい。
中空糸膜の透水性能が前記下限値以上であると、中空糸膜が摩耗して膜構造が塑性変形し、そのために透水性能の低下が起きたとしても、膜ろ過運転に影響が及びにくい。
【0041】
透水性能は、中空部の片端面を封止した中空糸膜を用い、純水の入った容器と中空糸膜の他端面とをつなぎ、容器に空気圧を付与して中空糸膜から出る純水の量から求める。具体的には、実施例に記載した方法で求めることができる。
【0042】
[粒子の阻止率(%)]
本発明の中空糸膜は、粒径が48nmの粒子の阻止率が90%以上であることが好ましい。
粒径が48nmの粒子の阻止率を90%以上とすることで、高い分画性能が得られる。
【0043】
また、本発明の中空糸膜は、粒径が40nmの粒子の阻止率(%)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
粒径が40nmの粒子の阻止率を80%以上、より好ましくは90%以上とすることで、高い分画性能が得られる。
【0044】
粒子の阻止率は、中空部の片端面を封止した中空糸膜を用い、特定の粒子径を有する粒子を含む試験液をろ過して得られる、ろ液の吸光度を測定することにより求める。具体的には、実施例に記載した方法で求めることができる。
【0045】
[本発明の第一の実施形態の中空糸膜を得るための製造方法]
本発明の第一の実施形態の中空糸膜は、多孔質膜層が、支持体の外周面に接して配置される内層と、この内層に接して内層の外周面(支持体と反対側の面)に配置される外層とを備える。
以下、本実施形態について、
図1を適宜参照しながら詳述する。
【0046】
(製膜原液)
本実施形態の中空糸膜の製造においては、まず、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」とも言う。)及びポリビニルピロリドン(以下、「PVP」とも言う。)を溶媒に溶解させて製膜原液を調整する。
【0047】
製膜原液は、支持体の外周面に塗布され、溶媒が除去されて、中空糸膜における多孔質膜層を形成する。したがって、本実施形態の中空糸膜の多孔質膜層は、PVDF及びPVPを含む。
【0048】
製膜原液は、PVDF及びPVPを溶媒に溶解させることで得られる。この際、さらに溶媒を添加することで、上記の各成分が所望の濃度になるように希釈してもよい。
なお、中空糸膜の支持体と多孔質膜層との耐剥離性を良好にするためには、支持体と多孔質膜層とが支持体の外周面のみで接するのでなく、多孔質膜層が支持体を覆うような状態とすること、即ち、支持体と多孔質膜層との接触面積を大きくすることが好ましい。したがって、製膜原液の粘度を考慮して、上記の各成分の濃度を決定することが好ましい。
【0049】
なお、製膜原液は、均一性を維持できているのであれば、PVDF及びPVPの一部が溶媒中に溶解せずに分散した状態のものでもよい。
また、製膜原液を調製する際、溶媒の沸点以下であれば、溶媒を加熱しながら、PVDF及びPVPを溶解又は分散させてもよい。この際、PVDF及びPVPの溶解又は分散後に、さらに、調製した製膜原液を必要に応じて冷却してもよい。
【0050】
(PVDF)
製膜原液中に含まれるPVDFの質量平均分子量(Mw)は、5.0×105~8.0×105であり、5.0×105~7.5×105であることが好ましい。
製膜原液中に含まれるPVDFの質量平均分子量(Mw)が前記下限値以上であることにより、製膜される中空糸膜の耐剥離性を確保することができる。また、製膜原液中に含まれるPVDFの質量平均分子量(Mw)が前記上限値以下であることにより、中空糸膜の孔径を大きくでき、透水性を確保できる。
【0051】
製膜原液中に含まれるPVDFの分子量分布(質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn))は、5.5以下であることが好ましい。
製膜原液中に含まれるPVDFの分子量分布が前記上限値以下であることにより、中空糸膜の孔径のばらつきが生じにくくなる。
【0052】
なお、製膜原液中に添加されるPVDFとして、単一の質量平均分子量(Mw)や分子量分布を有するPVDFを用いることには限定されず、例えば、最終的な質量平均分子量(Mw)や分子量分布が上記範囲となるように調整しながら、異なる質量平均分子量(Mw)や分子量分布のPVDFが組み合わされて製膜原液中に添加されてもよい。
【0053】
(PVP)
製膜原液中に含まれるPVPのK値は、15~45であることが好ましく、20~40であることがより好ましい。
本発明において「K値」とは、分子量と相関する粘性特性値であり、例えば、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を、下記式(1)で表されるFikentscherの式に適用して計算することができる。
K=(1.5logηrel-1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel+(c+1.5clogηrel)2)1/2/(0.15c+0.003c2) ・・・(1)
但し、上記式(1)中において、
ηrel:PVP水溶液の水に対する相対粘度、
c:PVP水溶液中のPVP濃度(%)、
である。
【0054】
K値が前記上限値以下である、粘度が比較的低いPVPを使用することで、後述する多孔質膜前駆体層に含まれるPVPの除去が容易になる。
本実施形態においては、製膜原液中に、前記範囲のK値を有するPVPを適正量で含むことにより、中空糸膜の孔径をコントロールでき、透水性能を確保できる。
【0055】
なお、製膜原液中に添加されるPVPとして、単一のK値を有するPVPを用いることには限定されず、例えば、最終的なK値が上記範囲となるように調整しながら、異なるK値のPVPが組み合わされて製膜原液中に添加されてもよい。
【0056】
(製膜原液中におけるPVDF及びPVPの含有量)
・外層用製膜原液
外層用製膜原液中におけるPVDFの含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して17~23質量%であることが好ましい。
外層用製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記下限値以上であることで、中空糸膜に対して、耐酸化劣化性、耐薬品性、耐熱性及び機械的耐久性を効果的に付与できる。
また、外層用製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記上限値以下であることで、溶媒への溶解性が良好になる。
【0057】
外層用製膜原液中におけるPVPの含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して14~23質量%であることが好ましく、18~21質量%であることがより好ましい。
外層用製膜原液中におけるPVPの含有量が、前記下限値以上であれば、良好な透水性が確保された中空糸膜を製膜できる。
また、外層用製膜原液中におけるPVPの含有量が前記上限値以下であれば、耐剥離性に優れた中空糸膜を製膜できる。
【0058】
外層用製膜原液中におけるPVDF及びPVPの含有量において、外層用製膜原液中におけるPVDFの含有量は、外層用製膜原液中におけるPVPの含有量より多くすることがより好ましい。
外層用製膜原液中におけるPVDFの含有量を、外層用製膜原液中におけるPVPの含有量より多くすることで、外層の多孔質層が緻密になるため、多孔質膜層の外表面が削れにくくなり、耐剥離性に優れた中空糸膜を製膜できる。
【0059】
・内層用製膜原液
内層用製膜原液中におけるPVDF含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して17~23質量%であることが好ましい。
内層用製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記下限値以上であることで、中空糸膜に対して、耐酸化劣化性、耐薬品性、耐熱性及び機械的耐久性を効果的に付与できる。
また、内層用製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記上限値以下であることで、溶媒への溶解性が良好になる。
【0060】
内層用製膜原液中におけるPVPの含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して17~23質量%であることが好ましく、18~21質量%であることがより好ましい。
内層用製膜原液中におけるPVPの含有量が、前記下限値以上であれば、良好な透水性が確保された中空糸膜を製膜できる。
また、内層用製膜原液中におけるPVPの含有量が前記上限値以下であれば、耐剥離性に優れた中空糸膜を製膜できる。
【0061】
(内層用製膜原液中におけるPVDFの含有量とPVPの含有量との合計量)
内層用製膜原液の全体質量(100質量%)に対する、内層用製膜原液中のPVDFの含有量と内層用製膜原液中のPVPの含有量との合計量は、37質量%以上であることが好ましく、38質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。
内層用製膜原液におけるPVDF及びPVPの合計含有量が前記下限値以上であることにより、内層用製膜原液中の溶媒の含有量を低くすることができるため、得られる中空糸膜の多孔質膜層の力学強度を上げやすい傾向になり、多孔質膜層と支持体との接着性が増すことで剥離が起こりにくくなる。
【0062】
(製膜原液中におけるPVPの含有量とPVDFの含有量との差)
製膜原液(外層用製膜原液と内層用製膜原液とを合わせた製膜原液全体)におけるPVPの含有量から製膜原液(外層用製膜原液と内層用製膜原液とを合わせた製膜原液全体)におけるPVDFの含有量を差し引いた値は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
外層用製膜原液と内層用製膜原液とを合わせた製膜原液全体におけるPVPの含有量からPVDFの含有量を差し引いた値が前記上限値以下であることは、外層用製膜原液と内層用製膜原液とを合わせた製膜原液全体におけるPVPの含有量がPVDFの含有量に対して過多にならないことを意味する。その結果、得られる中空糸膜の多孔質膜層の密度が高くなり、多孔質膜層と支持体との剥離が起こりにくくなる。
【0063】
(溶媒)
製膜原液に用いる溶媒としては、PVDF及びPVPを溶解できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0064】
また、製膜原液の全体質量(100質量%)に対する溶媒の含有量は、50~69質量%の範囲が好ましい。
製膜原液に対する溶媒の含有量が前記下限値以上であれば、透水性に優れた中空糸膜を製膜することができ、また、前記上限値以下であれば、支持体上に多孔質膜前駆体層を形成しやすくなる。
製膜原液の全体質量(100質量%)に対する溶媒の含有量は、52~66質量%がより好ましく、54~62質量%がさらに好ましい。
【0065】
(支持体の外周面に製膜原液を塗布し、塗布された内層用製膜原液の外周面に外層用製膜原液を塗布すること)
本実施形態の中空糸膜の製造においては、支持体の外周面に内層用製膜原液を塗布し、塗布された内層用製膜原液の外周面に外層用製膜原液を塗布する。このような塗布を行うことで、中空糸膜が、支持体と支持体の外周面に配置された多孔質膜層とを含み、多孔質膜層が、支持体の外周面に接して配置される内層と、この内層に接して内層の外周面(支持体と反対側の面)に配置される外層とを備えたものとなる。
【0066】
支持体への製膜原液の塗布は、次の方法を用いることができる。
二重管ノズル3の中央部に支持体を通過させる。2つの原液供給部2から、それぞれ製膜原液(内層用製膜原液及び外層用製膜原液)を二重管ノズル3に送液する。これらの製膜原液を二重管ノズルの中央部の外側から吐出する。この後、支持体及び製膜原液が二重管ノズルを出た直後に塗布される。
【0067】
(空気中で走行させた後、55~75℃の凝固液中で凝固すること)
本実施形態の中空糸の製造においては、支持体の外周面に内層用製膜原液及び外層用製膜原液を塗布し、空気中で走行させ、その後、凝固浴槽5中に収容された55~75℃の凝固液中で凝固させる。
【0068】
製膜原液を塗布した支持体を空気中で走行させることで、製膜原液を吸湿させることができ、中空糸膜の外表面孔径をコントロールすることができる。
また、凝固液の温度を55~75℃とすることで、製膜原液を適度に吸湿させることができ、中空糸膜の外表面孔径を微細にすることができ、微細な粒子、例えば、粒径が48nmあるいは40nmの粒子の侵入を阻止することができる中空糸膜となる。凝固液の温度は、57~73℃とすることが好ましく、60~70℃がより好ましい。
【0069】
凝固液は、製膜原液中のPVDF及びPVPを凝固せしめる液であれば特に限定されないが、製膜原液に用いられる溶媒を含む水溶液が好ましい。
【0070】
製膜原液に用いられる溶媒がN,N-ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」とも言う。)であり、DMAc水溶液を凝固液に用いる場合、凝固液100質量%中におけるDMAcの濃度は、2~50質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。
凝固液中におけるDMAcの濃度が前記下限値以上であれば、製膜原液への非溶媒の浸入速度が遅くなり、内部の構造が緻密になりすぎず、また、凝固が完了するまでの時間を十分確保することができ、多孔質膜層が支持体を覆うような状態(支持体と多孔質膜層との接触面積が大きい状態)にすることができ、中空糸膜の耐剥離性を良好にできる。
また、凝固液中におけるDMAcの濃度が前記上限値以下であれば、製膜原液へ十分な量の非溶媒が浸入でき、凝固槽内で凝固を完了させることができ、製造工程で膜が変形する等の問題が生じにくい。
【0071】
(多孔質膜前駆体層及び中空糸膜前駆体)
本実施形態の中空糸膜の製造において、支持体の外周面に塗布され、凝固液により凝固した製膜原液(支持体の外周面に塗布された内層用製膜原液と、内層用製膜原液の外周面(支持体と反対側の面)に塗布された外層用製膜原液とを合わせた製膜原液)を「多孔質膜前駆体層」と言い、支持体とその外周面に多孔質膜前駆体層を有する中空糸膜の前駆体を、「中空糸膜前駆体」と言う。
中空糸膜前駆体は、支持体と多孔質膜前駆体層とを含み、多孔質膜前駆体層は、支持体に塗布された製膜原液から溶媒が除去され、PVDFとPVPとを含む層である。
【0072】
(多孔質膜前駆体層に含まれるPVPを除去すること)
本実施形態の中空糸膜の製造においては、多孔質膜前駆体層から、PVPを除去することにより、支持体の外周面に多孔質膜層を形成する。
具体的には、まず、中空糸膜前駆体中に残存する溶媒、及びPVPの一部又は大部分を洗浄して取り除く。この際、中空糸膜前駆体を、例えば、40~100℃の熱水及び/又は次亜塩素酸ナトリウム等の水溶液中に浸漬、若しくは、必要に応じて繰り返し浸漬することで、中空糸膜前駆体を洗浄することができる。
洗浄した中空糸膜前駆体におけるPVPの含有量は、下記のように乾燥した中空糸膜の全体の質量(100質量%)に対して0.3~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
残存する、中空糸膜におけるPVPの含有量の前記下限値は、工業生産上の下限値であり、また、前記上限値以下であると、乾燥した膜同士の接着を防止しやすく、欠陥等の発生を抑えやすくなる。
【0073】
したがって、本実施形態の中空糸膜の多孔質膜層は、PVDFと残存したPVPとを含む。
【0074】
なお、中空糸膜中のPVPの含有率は、乾燥した中空糸膜の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)における特定のピークのピークトップ高さの比から求める。具体的には、実施例に記載した方法で求めることができる。
【0075】
洗浄した中空糸膜前駆体は、例えば、60~120℃の温度で、1分間~24時間乾燥させることで、中空糸膜が得られる。
中空糸膜前駆体の乾燥温度が60℃以上であれば、乾燥処理時間を短縮でき、生産コストを抑えることができることから、工業生産上、好ましい。
中空糸膜前駆体の乾燥温度が120℃以下であれば、中空糸膜前駆体が収縮しすぎるのを抑制でき、中空糸膜の外表面に微小な亀裂等が発生しにくくなる傾向にある。
【0076】
(支持体の外周面に塗布する製膜原液と、その製膜原液の外周面に塗布する製膜原液)
本実施形態の中空糸膜の製造においては、内層用製膜原液(支持体の外周面に塗布する製膜原液)と、外層用製膜原液(内層用製膜原液の外周面に塗布する製膜原液)とが、同一組成の製膜原液であってよいし、異なる組成の製膜原液(例えば、PVDFやPVPの濃度が異なったり、PVDFやPVPのグレードが異なったりする製膜原液。)であってもよい。
【0077】
本実施形態の中空糸膜の製造において、ある態様としては、内層用製膜原液と外層用製膜原液とが、それぞれ異なる組成の製膜原液であり、別の態様としては、内層用製膜原液と外層用製膜原液とが、同一組成の製膜原液である。
すなわち、本実施形態の中空糸膜において、ある態様としては、内層と外層とが、それぞれ異なる組成の多孔質膜層である中空糸膜であり、別の態様としては、内層と外層とが、それぞれ同一組成の多孔質膜層である中空糸膜である。
【0078】
内層用製膜原液と外層用製膜原液とで異なる組成の製膜原液を用いることで、中空糸膜への要求性能の寄与を、多孔質膜層の内層と外層とで分担することができる。
例えば、内層用製膜原液を、PVDFを17~23質量%、PVPを17~23質量%含む製膜原液とし、外層用製膜原液を、PVDFを17~23質量%、PVPを14~23質量%含む製膜原液とする。このように製膜原液中のPVDFとPVPの濃度を、内層と外層とで異なるものとすることで、多孔質膜層の内層を、開孔率が高く透水性を確保する層とし、多孔質膜層の外層を、微細な粒子を阻止し、かつ膜表面の耐擦過性を確保する層とすることができる。
【0079】
(コポリマーをさらに含む製膜原液)
本実施形態の中空糸膜の製造においては、中空糸膜に色々な性能を付与する目的で、製膜原液に各種ポリマーを添加することができる。各種ポリマーの例として、アクリル系ポリマーが挙げられる。アクリル系ポリマーの例として、(メタ)アクリル酸メチル単位を含むポリマーが挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸メチル単位を含むポリマーは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ブレンマーPE-400(商品名、日油株式会社製、ポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が9であるもの))、ブレンマーAE-400(商品名、日油株式会社製、ポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールの連鎖が9であるもの))、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、プラクセルFM(商品名、株式会社ダイセル製;カプロラクトン付加モノマー)、メタクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノルマルブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、ブレンマーPME-100(商品名、日油株式会社製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が2であるもの))、ブレンマーPME-200(商品名、日油株式会社製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が4であるもの))、ブレンマーPME-400(商品名、日油株式会社製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が9であるもの))、ブレンマー50POEP-800B(商品名、日油株式会社製、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-メタクリレート(エチレングリコールの連鎖が8であり、プロピレングリコールの連鎖が6であるもの))、ブレンマー20ANEP-600(商品名、日油株式会社製、ノニルフェノキシ(エチレングリコール-ポリプロピレングリコール)モノアクリレート)などのモノマー単位を含んでいてもよい。
本実施形態の中空糸膜の製造においては、製膜原液が、前記アクリル系ポリマーの例としてアクリル酸2-メトキシエチル(以下、「MEA」とも言う。)単位、水酸基含有(メタ)アクリレート単位、及び、下記式(1)で表されるマクロモノマー単位を有するコポリマー(以下、単に「コポリマー」とも言う。)をさらに含むことが好ましい。
したがって、本実施形態の中空糸の多孔質膜層は、コポリマーをさらに含むことが好ましい。
製膜原液がこのコポリマーを含むことで、多孔質膜層に親水性が付与されるとともに、多孔質膜層に耐ファウリング性が付与される。
【0080】
コポリマーは、内層用製膜原液に含まれていてもよく、外層用製膜原液に含まれていてもよく、内層用製膜原液及び外層用製膜原液の両方に含まれていてもよい。
【0081】
コポリマーは、その主鎖中にマクロモノマー単位を有するものであってもよく、その側鎖中にマクロモノマー単位を有するものであってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0082】
内層用製膜原液及び外層用製膜原液の一方又は両方にコポリマーが含まれる場合、製膜原液中におけるコポリマーの含有量は、製膜原液(内層用製膜原液若しくは外層用製膜原液、又はこれらを合わせた製膜原液)の全体質量(100質量%)に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。
製膜原液中におけるコポリマーの含有量が、前記下限値以上であれば、多孔質膜層に親水性が付与されるとともに、多孔質膜層に耐ファウリング性を付与しやすい。
また、製膜原液中におけるコポリマーの含有量が、前記上限値以下であれば、多孔質膜の機械物性を維持しやすい。
【0083】
(MEA単位)
MEA単位は、コポリマーの構成単位の一つであり、コポリマーがMEA単位を有することによって、例えば、膜分離活性汚泥法(MBR法)で中空糸膜を使用したときに、多孔質膜層に汚泥が付きにくくなり、多孔質膜層に耐ファウリング性が付与される。
【0084】
(水酸基含有(メタ)アクリレート単位)
水酸基含有(メタ)アクリレート単位は、コポリマーの構成単位の一つであり、コポリマーが水酸基含有(メタ)アクリレート単位を有することによって、多孔質膜層に親水性が付与される。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタクリル酸の総称であり、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0085】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0086】
(マクロモノマー)
マクロモノマー単位は、コポリマーの構成単位の一つであり、コポリマーがマクロモノマー単位を有することによって、多孔質膜にポリマーを固定化でき、物理的耐性及び化学的耐性に優れた多孔質膜を得ることができる。
マクロモノマー単位は、下記式(1)で表される部分構造を有する。なお、下記式(1)のマクロモノマー単位は、コポリマーの主鎖に存在していてもよく、コポリマーの側鎖に存在していてもよい。
【0087】
【0088】
上記式(1)において、R1~Rnは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を表し、X1~Xnは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、nは、3~10000の整数を表す。
【0089】
式(1)において、R1~Rnは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基である。
アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基の少なくとも1つの水素原子は、後述する置換基に置換されていてもよい。
【0090】
アルキル基としては、炭素数1~20の直鎖アルキル基が挙げられ、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等が挙げられる。
シクロアルキル基としては、炭素数3~20のシクロアルキル基が挙げられ、具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、アダマンチル基等が挙げられる。
アリール基としては、炭素数6~18のアリール基が挙げられ、具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
複素環基としては、窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子を有する炭素数5~18の複素環基が挙げられ、具体例としては、γ-ラクトン基、ε-カプロラクトン基等が挙げられる。
【0091】
R1~Rnにおける置換基としては、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR’)、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基(-CONR’R’’)、ハロゲン原子、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基(-OR’)、親水性又はイオン性を示す基等が挙げられる。R’及びR’’は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基である。
【0092】
置換基のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基等が挙げられる。
置換基のアミド基としては、ジメチルアミド基等が挙げられる。
置換基のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
置換基のアルコキシ基としては、炭素数1~12のアルコキシ基が挙げられ、具体例としては、メトキシ基等が挙げられる。
置換基の親水性又はイオン性を示す基としては、カルボキシ基(-COOH)のアルカリ塩、スルホキシル基(-SO3H)のアルカリ塩、ポリ(アルキレンオキシド)基(ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基等)、カチオン性置換基(四級アンモニウム塩基等)等が挙げられる。
【0093】
R1~Rnとしては、アルキル基及びシクロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アルキル基がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基が好ましく、マクロモノマーの入手のしやすさの点から、メチル基がより好ましい。
【0094】
式(1)において、X1~Xnは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、メチル基が好ましい。マクロモノマーの合成しやすさの点から、X1~Xnの半数以上がメチル基であることが好ましい。X1~Xnの半数以上がメチル基であることを確認する方法としては、公知の磁気共鳴スペクトル(NMR)による解析方法が挙げられる。
【0095】
マクロモノマー中のポリ(メタ)アクリル酸エステルセグメント(骨格)を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、プラクセルFM(商品名、ダイセル化学(株)製、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン)、ブレンマー(登録商標)PME-100(商品名、日油(株)製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が2であるもの))、ブレンマーPME-200(商品名、日油(株)製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が4であるもの))、ブレンマーPME-400(商品名、日油(株)製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が9であるもの))、ブレンマー50POEP-800B(商品名、日油(株)製、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-メタクリレート(エチレングリコールの連鎖が8であり、プロピレングリコールの連鎖が6であるもの))、ブレンマー20ANEP-600(商品名、日油(株)製、ノニルフェノキシ(エチレングリコール-ポリプロピレングリコール)モノアクリレート)、ブレンマーAME-100(商品名、日油(株)製)、ブレンマーAME-200(商品名、日油(株)製)、ブレンマー50AOEP-800B(商品名、日油(株)製)等が挙げられる。
【0096】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、モノマーの入手のし易さ及びコポリマーの機械物性の点から、メタクリル酸エステルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、ブレンマーPME-100、ブレンマーPME-200又はブレンマーPME-400がより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、ブレンマーPME-100、ブレンマーPME-200又はブレンマーPME-400がさらに好ましく、PVDFとの相溶性が良好な点から、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
マクロモノマーの数平均分子量(Mn)は、コポリマーの機械物性バランスの点から、1000~1000000が好ましく、3000~80000がより好ましく、5000~60000がさらに好ましく、10000~50000が特に好ましい。
マクロモノマーの分子量分布(Mw/Mn)は、コポリマーの機械物性のバランスの点から、1.5~5.0が好ましい。
マクロモノマーのMn及びMw/Mnは、ポリメタクリル酸メチルを標準試料として用いたGPCによって求められる。
マクロモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
マクロモノマーの製造方法としては、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法(例えば、米国特許第4,680,352号明細書)、α-ブロモメチルスチレン等のα-置換不飽和化合物を連鎖移動剤として用いる方法(例えば、国際公開第88/04,304号)、重合性基を化学的に結合させる方法(例えば、特開昭60-133007号公報、米国特許第5,147,952号明細書)、熱分解による方法(例えば、特開平11-240854号公報)等が挙げられる。
マクロモノマーの製造方法としては、効率的にマクロモノマーを製造できる点から、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法が好ましい。
【0099】
マクロモノマーを製造する際の(メタ)アクリル酸エステルの重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、水系分散重合法(懸濁重合法、乳化重合法等)等が挙げられる。
重合方法としては、マクロモノマーの回収工程の簡略化の点から、溶液重合又は水系分散重合法(懸濁重合法、乳化重合法等)が好ましい。
【0100】
溶液重合法に用いる溶剤としては、炭化水素(トルエン等)、エーテル(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム等)、ケトン(アセトン等)、アルコール(メタノール等)、ニトリル(アセトニトリル等)、エステル(酢酸エチル等)、カーボネート(エチレンカーボネート等)、超臨界二酸化炭素等が挙げられる。
溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
マクロモノマーの製造方法としては、溶剤と(メタ)アクリル酸エステルと重合開始剤と連鎖移動剤とを、25~200℃の温度で、0.5~24時間反応させる工程を有する方法が好ましい。
【0102】
(その他のモノマー単位)
コポリマーは、その他のモノマー単位を有することができる。
その他のモノマーは、MEAと重合可能であれば特に制限されない。
その他のモノマーとしては、コポリマーの溶剤への溶解性の点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、プラクセルFM(商品名、(株)ダイセル製、カプロラクトン付加モノマー)、メタクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノルマルブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、ブレンマーPME-100(商品名、日油(株)製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が2であるもの))、ブレンマーPME-200(商品名、日油(株)製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が4であるもの))、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルスルフェート、3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル4級塩等が好ましい。
その他のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
(コポリマーの各単位の割合)
コポリマーにおけるMEA単位の割合は、コポリマーを構成する全ての構成単位(100質量%)のうち、20~98.9質量%が好ましく、20~95質量%がより好ましく、30~90質量%がさらに好ましく、40~85質量%が特に好ましい。
コポリマーにおけるMEA単位の割合が前記下限値以上であれば、中空糸膜に親水性、透水性及び耐ファウリング性を付与できる。また、コポリマーが実質的に非水溶性となるため、使用環境下で溶出の懸念が少ない。
コポリマーにおけるMEA単位の割合が前記上限値以下であれば、水酸基含有(メタ)アクリレート単位及びマクロモノマー単位による効果を十分に発揮できる。
【0104】
コポリマーにおける水酸基含有(メタ)アクリレート単位の割合は、コポリマーを構成する全ての構成単位(100質量%)のうち、0.1~40質量%が好ましく、0.5~38質量%がより好ましく、0.8~35質量%がさらに好ましい。
コポリマーにおける水酸基含有(メタ)アクリレート単位の割合が前記下限値以上であれば、中空糸膜の親水性が高くなる。
コポリマーにおける水酸基含有(メタ)アクリレート単位の割合が前記上限値以下であれば、コポリマーが水に溶けにくくなるため、多孔質膜層からコポリマーが脱落しにくくなる。
【0105】
コポリマーにおけるマクロモノマー単位の割合は、コポリマーを構成する全ての構成単位(100質量%)のうち、1~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、20~45質量%がさらに好ましい。
コポリマーにおけるマクロモノマー単位の割合が前記下限値以上であれば、多孔質膜層からコポリマーが脱落しにくくなる。また、多孔質膜の柔軟性が良好となる。
コポリマーにおけるマクロモノマー単位の割合が前記上限値以下であれば、中空糸膜の耐ファウリング性を損なわない傾向がある。
【0106】
(コポリマーの分子量及び形態)
コポリマーの数平均分子量(Mn)は、1000~5000000が好ましく、2000~500000が好ましく、5000~300000がより好ましい。
コポリマーのMnが前記範囲内であれば、コポリマーの熱安定性、多孔質膜の機械的強度や親水性が高まる傾向にある。
コポリマーのMnは、ポリスチレンを標準試料として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求められる。
コポリマーは、1種を単独で用いてもよく、各単位の割合、分子量分布又は分子量が異なるポリマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0107】
コポリマーは、ランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよく、グラフトコポリマーであってもよい。
ランダムコポリマーを合成する場合は、公知のフリーラジカル重合を用いる方法が簡便である。
ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーを合成する場合は、公知の制御ラジカル重合を用いる方法が簡便である。
【0108】
(コポリマーの製造方法)
コポリマーを製造する際のモノマー成分の重合方法としては、溶液重合法が挙げられる。
溶液重合法に用いる溶剤は、コポリマーが可溶であれば特に制限されない。重合後の重合液をそのまま製膜原液に用いる場合、溶剤としては、PVDF及びPVPを溶解できるものが好ましい。
溶剤としては、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラメチルウレア、トリエチルフォスフェート、リン酸トリメチル等が挙げられる。溶剤としては、取り扱いやすく、PVDF、PVP及びコポリマーの溶解性に優れる点から、アセトン、DMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましい。
溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
モノマー成分を重合する際には、連鎖移動剤やラジカル重合開始剤を用いてもよい。
連鎖移動剤は、コポリマーの分子量を調節するものである。連鎖移動剤としては、メルカプタン、水素、α-メチルスチレンダイマー、テルペノイド等が挙げられる。
連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物としては、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
【0111】
ラジカル重合開始剤としては、入手しやすく、重合条件に好適な半減期温度を有する点から、ベンゾイルパーオキサイド、AIBN、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)が好ましい。
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ラジカル重合開始剤の添加量は、モノマー成分の100質量部に対して、0.0001~10質量部が好ましい。
【0112】
モノマー成分を重合する際の重合温度は、溶剤の沸点やラジカル重合開始剤の使用温度範囲を考慮すると、-100~250℃が好ましく、0~200℃以下がより好ましい。
コポリマーを溶液重合法により製造した場合、重合後の重合液をそのまま製膜原液の製造に用いることができる。
【0113】
[本発明の第二の実施形態の中空糸膜を得るための製造方法]
本発明の第二の実施形態の中空糸膜は、多孔質膜層が単層である。
本実施形態の中空糸膜の製造においては、支持体の外周面に1種類の製膜原液を1回塗布する。
【0114】
本実施形態の中空糸膜は、本発明の第一の実施形態の中空糸膜における、内層用製膜原液(支持体の外周面に塗布する製膜原液)と外層用製膜原液(内層用製膜原液の外周面に塗布する製膜原液)とが、同一組成の製膜原液の場合に得られる中空糸膜と同じである。
【0115】
本実施形態の中空糸膜は、
図2の中空糸膜製造装置を用いて製造することができ、次に述べる「支持体の外周面に製膜原液を塗布すること」、「製膜原液」、「製膜原液中におけるPVDFの含有量とPVPの含有量との合計量」、及び「製膜原液中におけるPVPの含有量とPVDFの含有量との差」以外は、第一の実施形態の中空糸膜の製造と同様にして製造することができる。
【0116】
(支持体の外周面に製膜原液を塗布すること)
本実施形態の中空糸膜の製造において、支持体への製膜原液の塗布は、次の方法を用いることができる。
二重管ノズル3の中央部に支持体を通過させる。1つの原液供給部2から、製造原液を二重管ノズル3に送液する。この製膜原液を二重管ノズルの中央部の外側から吐出する。この後、支持体及び製膜原液が二重管ノズルを出た直後に、支持体に製膜原液が塗布される。
【0117】
(製膜原液)
本実施形態の中空糸膜の製造における、製膜原液中におけるPVDFの含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して17~23質量%であることが好ましい。
製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記下限値以上であることで、中空糸膜に対して、耐酸化劣化性、耐薬品性、耐熱性及び機械的耐久性を効果的に付与できる。
また、製膜原液中におけるPVDFの含有量が前記上限値以下であることで、溶媒への溶解性が良好になる。
【0118】
本実施形態の中空糸膜の製造における、製膜原液中におけるPVPの含有量は、製膜原液の全体質量(100質量%)に対して17~23質量%であることが好ましい。
製膜原液中におけるPVPの含有量が、前記下限値以上であれば、良好な透水性が確保された中空糸膜を製膜できる。
また、製膜原液中におけるPVPの含有量が前記上限値以下であれば、耐剥離性に優れた中空糸膜を製膜できる。
【0119】
(製膜原液中におけるPVDFの含有量とPVPの含有量との合計量)
製膜原液の全体質量(100質量%)に対する、PVDFの含有量とPVPの含有量との合計量は、37質量%以上であることが好ましく、38質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。
製膜原液におけるPVDF及びPVPの合計含有量が前記下限値以上であることにより、製膜原液中の溶媒の含有量を低くすることができるため、得られる中空糸膜の多孔質膜層の力学強度を上げやすい傾向になり、多孔質膜層と支持体との剥離が起こりにくくなる。
【0120】
(製膜原液中におけるPVPの含有量とPVDFの含有量との差)
製膜原液中におけるPVPの含有量から製膜原液中におけるPVDFの含有量を差し引いた値は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
製膜原液中におけるPVPの含有量からPVDFの含有量を差し引いた値が前記上限値以下であることは、製膜原液中のPVPの含有量がPVDFの含有量に対して過多にないことを意味する。その結果、得られる中空糸膜の多孔質膜層の密度が高くなり、多孔質膜層と支持体との剥離が起こりにくくなる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例において、「部」は「質量部」を示す。
【0122】
<BU値(内)>
中空糸膜のBU値(内)は、下記の方法で求めた。必要に応じて
図3及び
図4を参照されたい。
BU値(内)の求め方
(1)中空糸膜10を、長手方向に対して直角方向に切断し、長さ5mm程度のサンプルにした。
(2)(1)で得たサンプルを、長手方向に切断し、2等分した。
(3)(2)で得たサンプルを、さらに長手方向に切断し、2等分し、4個のサンプル(サンプル1~サンプル4)を得た。
(4)(3)で得たサンプル1の長手方向に対して直角方向の切断面について、多孔質膜層の外表面13から支持体11の多孔質膜層側までの範囲を視野に入れた走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍、画素数:640×480)を撮影した。
(5)前記(4)で撮影した写真を、画像解析ソフトImage-Pro PLUS(Media Cybernetics社製)を用いて、以下の(a)~(c)を行った。なお、画像解析ソフトは、以下の(a)~(c)の処理が可能であれば、前記ソフト以外のいずれのソフトを用いてもよい。
(a)写真の画像を8ビットグレースケール(すなわち256階調の輝度スケール)の画像に変換した。
(b)(a)の変換後の画像について、256階調の輝度スケール全体にわたって輝度の累積ヒストグラムを線形にする処理を行った。
(c)(b)の処理後の画像について、5×5のメジアン平均処理を3回繰り返した。
(6)(5)の(c)の処理後の画像について、以下の(d)~(j)を行った。
(d)多孔質膜層12の外周(画像上に現れている部分)の中点Aを求め、中点Aから当該外周の接線を引いた。
(e)(d)で引いた接線に対し、中点Aから垂線を引いた。
(f)(e)で引いた垂線が、中点A(例えばA1)から支持体11に初めて達した点を点B(例えばB1)とした。但し、中点A(例えばA2)から点Bに至るまでに、多孔質膜層12と支持体11との間のギャップ14(隙間)が存在する場合には、前記垂線上の当該ギャップ14の多孔質膜層12側の縁を点B(例えばB2)とした。
(g)線分ABの長さを100%とし、線分AB上にあり、点Aから長さで65%の位置にある点Dを求めた。
(h)点Dを通り、線分ABと直角な直線を引いた。
(i)(h)で引いた直線上にあり、点Dを中点とし、長さが85μmである線分を求めた。なお、線分が画像の範囲内にとることができなかった場合は、(4)に戻り、観察する視野を変更して写真を撮影し直し、その後の作業を行った。
(j)(i)で求めた線分を構成する全画素の輝度の標準偏差を求め、「BUD1」とした。
(7)サンプル2~サンプル4について(4)~(6)を行い、サンプル2について「BUD2」を、サンプル3について「BUD3」を、サンプル4について「BUD4」を求めた。
(8)「BUD1」、「BUD2」、「BUD3」及び「BUD4」の相加平均値BUDavを求めた。
(9)(1)~(8)を20回行い、20個のBUDavを求め、20個のBUDavの相加平均値をBU値(内)とした。
【0123】
<BU値(外)>
中空糸膜のBU値(外)は、下記の方法で求めた。必要に応じて
図3及び
図4を参照されたい。
BU値(外)の求め方
(1)~(5)(BU値(内)の求め方)の(1)~(5)と同じ作業を行った。
(6)(5)の(c)の処理後の画像について、以下の(d)~(j)を行った。
(d)多孔質膜層の外周(画像上に現れている部分)の中点Aを求め、中点Aから当該外周の接線を引いた。
(e)(d)で引いた接線に対し、中点Aから垂線を引いた。
(f)(e)で引いた垂線が、中点Aから支持体に初めて達した点を点Bとした。但し、中点Aから点Bに至るまでに、多孔質膜層と支持体との間のギャップ(隙間)が存在する場合には、前記垂線上の当該ギャップの多孔質膜層側の縁を点Bとした。
(g)線分ABの長さを100%とし、線分AB上にあり、点Aから長さで5%の位置にある点Cを求めた。
(h)点Cを通り、線分ABと直角な直線を引いた。
(i)(h)で引いた直線上にあり、点Cを中点とし、長さが85μmである線分を求めた。なお、線分が画像の範囲内にとることができなかった場合は、(4)に戻り、観察する視野を変更して写真を撮影し直し、その後の作業を行った。
(j)(i)で求めた線分を構成する全画素の輝度の標準偏差を求め、「BUC1」とした。
(7)サンプル2~サンプル4について(4)~(6)を行い、サンプル2について「BUC2」を、サンプル3について「BUC3」を、サンプル4について「BUC4」を求めた。
(8)「BUC1」、「BUC2」、「BUC3」及び「BUC4」の相加平均値BUCavを求めた。
(9)(1)~(8)を20回行い、20個のBUCavを求め、20個のBUCavの相加平均値をBU値(外)とした。
【0124】
<R値>
R値の求め方
次の式からR値を求めた。
R値=BU値(内)/BU値(外)
【0125】
<1H-NMR>
マクロモノマー及びコポリマーについて、下記の条件下、NMR装置(日本電子(株)製、JNM-EX270)を用いて1H-NMRスペクトルを測定した。
重水素化溶媒としては、テトラメチルシランが添加されたDMAc-d9を用いた。
独立行政法人産業技術総合研究所の提供する有機化合物のスペクトルデータベースシステム(SDBS)を参考にして、マクロモノマーの構造を解析し、また、コポリマーを構成する各単位の割合を算出した。
【0126】
<PVDFの質量平均分子量(Mw)>
PVDFの質量平均分子量(Mw)は、GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8020)を用いて下記の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN α(7.8mm×40mm)と3本のTSK-GEL α-M(7.8×300mm)とを直列に接続したもの、
・溶離液:臭化リチウムのDMF溶液(臭化リチウムの濃度:20mM)、
・測定温度:40℃、
・流速:0.1mL/分、
・検量線:東ソー(株)製のポリスチレンスタンダード(Mp(ピークトップ分子量)=76,969,900、2,110,000、1,260,000、775,000、355,000、186,000、19,500、1,050の8種類)及びNSスチレンモノマー(株)製のスチレンモノマー(M(分子量)=104)を用いて作成したもの。
【0127】
<マクロモノマー及びコポリマーの数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)>
マクロモノマー及びコポリマーの数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8220)を用いて下記の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER H-L(4.6×35mm)と、2本のTSK-GEL SUPER HZM-H(4.6×150mm)とを直列に接続したもの、
・溶離液:塩化リチウムのDMF溶液(塩化リチウムの濃度:0.01M)、
・測定温度:40℃、
・流速:0.6mL/分、
・検量線:マクロモノマーについては、Polymer Laboratories社製のポリメタクリル酸メチル(Mp=141,500、55,600、10,290及び1,590の4種)を用いて作成したもの、
コポリマーについては、東ソー(株)製のポリスチレンスタンダード(Mp=6,200,000、2,800,000、1,110,000、707,000、354,000、189,000、98,900、37,200、9,830、5,870、870、及び500の12種)を用いて作成したもの。
【0128】
<中空糸膜の外径>
中空糸膜の外径は、下記の方法で測定した。
測定するサンプルを約10cmに切断し、数本を束ねて、全体をポリウレタン樹脂で覆った。ポリウレタン樹脂は支持体の中空部にも入るようにした。ポリウレタン樹脂を硬化した後、カミソリ刃を用いて厚さ(膜の長手方向)約0.5mmの薄片をサンプリングした。サンプリングした中空糸膜の断面を、投影機((株)ニコン製、PROFILE PROJECTOR V-12)を用い、対物レンズ100倍にて観察した。中空糸膜の断面のX方向、Y方向の外表面の位置にマーク(ライン)をあわせて外径を読み取った。これを3回測定して外径の平均値を求めた。
【0129】
<多孔質層の膜厚>
多孔質層の膜厚は、下記の方法で測定した。
外径を測定したサンプルと同様の方法でサンプリングした。サンプリングした中空糸膜の断面を、投影機((株)ニコン製、PROFILE PROJECTOR V-12)を用い、対物レンズ100倍にて観察した。中空糸膜の断面において、中空糸膜の外表面から中空糸膜の支持体と多孔質層との境界までの長さを計測することで多孔質層の膜厚を読み取った。これを3回測定して平均値を求めた。
【0130】
<中空糸膜の40nmの粒子の阻止率>
中空糸膜の40nmの粒子の阻止率は、下記の方法で測定・評価した。
中空糸膜のサンプルを長さ15cmに9本切断し、片端面をウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。この9膜を束ね、有効膜長10cmになるように調整して阻止率測定用のモジュールを作製し、和光純薬工業(株)トリトンX-100を超純水で0.1質量%溶液に希釈したリンス液に浸漬し、30分間親水化した。次に、マグスフェア社製 ポリスチレン標準粒子液(粒径0.040μm,標準偏差 0.004、10質量%液)を取り出し、0.1質量%になるようにリンス液で希釈し、試験液を得た。
親水化したモジュールを試験台にセットし、中空糸膜の外表面側に10ml試験液を流し込んだ後、空気圧70kPaで加圧することで試験液を濾過し、モジュール片端面から出てくるろ液を回収した。続いて、試験液と同様にリンス液を10ml流し込んだ後、空気圧70kPaで加圧することでリンス液を濾過する操作を10回繰り返し、1回ごとにろ液を回収した。
得られた10mlのろ液11本を、それぞれ分光光度計(SIMADZU社製 UVmini-1240)を用いて320nmの吸光度A1~A11を測定した。また、試験液も同様に吸光度A0を測定した。この得られた吸光度を以下の式に従って阻止率を算出した。
阻止率(%) = 1-{(A1+A2+・・・A10+A11)/A0}×100
【0131】
<中空糸膜の48nmの粒子の阻止率>
中空糸膜の48nmの粒子の阻止率は、下記の方法で測定・評価した。
中空糸膜のサンプルを長さ15cmに9本切断し、片端面をウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。この9膜を束ね、有効膜長10cmになるように調整して阻止率測定用のモジュールを作製し、和光純薬工業(株)トリトンX-100を超純水で0.1質量%溶液に希釈したリンス液に浸漬し、30分間親水化した。次に、マグスフェア社製 ポリスチレン標準粒子液(粒径0.048μm,標準偏差 0.011、10質量%液)を取り出し、0.1質量%になるようにリンス液で希釈し、試験液を得た。
親水化したモジュールを試験台にセットし、中空糸膜の外表面側に10ml試験液を流し込んだ後、空気圧70kPaで加圧することで試験液を濾過し、モジュール片端面から出てくるろ液を回収した。続いて、試験液と同様にリンス液を10ml流し込んだ後、空気圧70kPaで加圧することでリンス液を濾過する操作を10回繰り返し、1回ごとにろ液を回収した。
得られた10mlのろ液11本を、それぞれ分光光度計(SIMADZU社製 UVmini-1240)を用いて320nmの吸光度A1~A11を測定した。また、試験液も同様に吸光度A0を測定した。この得られた吸光度を以下の式に従って阻止率を算出した。
阻止率(%) = 1-{(A1+A2+・・・A10+A11)/A0}×100
【0132】
<中空糸膜の透水性能>
中空糸膜の透水性能は、下記の方法で測定・評価した。
まず、測定する中空糸膜のサンプルを長さ4cmに切断し、片端面をポリウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。
次に、上記のサンプルをエタノール中に浸漬させた後、エタノールが収容された容器内を5分間以上減圧することにより、膜内の脱気を行い、エタノールに置換した。その後、サンプルを純水中に5分以上浸し、エタノールを純水に置換した後、サンプルを取り出した。
そして、容器に純水(25℃)を入れ、容器とサンプルの他端面とをチューブで繋ぎ、容器に100kPaの空気圧を付与して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。これを3回測定して、その平均値を求めた。そして、この数値をサンプルの表面積で割り、透水性能とした。
【0133】
<中空糸膜の耐剥離性能>
中空糸膜の耐剥離性能は、下記の方法で測定・評価した。
まず、測定する中空糸膜のサンプルを界面活性剤(日進化学工業社製、商品名:オルフィン EXP.4036(登録商標))の0.3質量%水溶液に10分間浸漬させた後、純水中に浸して置換した。
次に、ポリ塩化ビニル製の板にサンプルを8本平行に並べ、有効長が10cmになるように両端をテープで張り付けた。
次に、高圧洗浄機(ケルヒャー社製、高圧洗浄機 ケルヒャー K2 クラシックプラス)を用いて、最大水量(カタログ値 吐出圧力8.0MPa、吐出水量330(L/h))の高圧水を、サンプル中央部分に対して垂直に30秒間連続で吹き付けた。この際、ノズル先端とサンプルとの距離が10cmとなるように調整し、8本のサンプルすべてに高圧水を噴射した。
高圧水の吹き付けを停止し、サンプルに剥離が見られるかをサンプルを乾燥させた後に実体顕微鏡を用いて観察した。このような試験を3回(合計24本)行い、表面が削れたサンプルの本数及び剥離があったサンプルの本数をカウントした。
【0134】
<中空糸膜中のPVPの含有率>
中空糸膜中のPVPの含有率は、下記の方法で測定した。
60℃で3時間乾燥した膜をVarian製 600UMA型 FT-IRMicroscopeを用いてATR法(積算回数256回)で1サンプルにつき3点測定を行い、得られたスペクトルの1400cm-1と1675cm-1のピークトップ高さの比から、中空糸膜中に含まれるPVPの含有量を算出した。
【0135】
<中空糸膜の破裂圧力>
中空糸膜の破裂圧力は、下記の方法で測定・評価した。
測定する中空糸多孔質膜サンプルを4cmに切断し、片端面をポリウレタン樹脂で中空部を封止した。次に、サンプルを容器中のエタノールに浸漬させた後、容器内を5分間以上減圧することにより、膜内部を脱気し、エタノールに置換した。その後、サンプルを純水中に5分以上浸し、エタノールを純水に置換し、サンプルを取り出した。サンプルを純水(25℃)に浸漬し、サンプルの他端面とチューブで繋ぎ、チューブからサンプルの中空部にゆっくりと空気圧をかけていった。徐々に昇圧し、膜が破裂に至った圧力を記録し、破裂圧力とした。サンプル外表面に気泡が確認できた場合も昇圧を続け、完全に破裂した圧力を破裂圧力とした。これを3回測定して、平均値を求めた。
【0136】
製造例1(コバルト連鎖移動剤の合成)
撹拌装置を備えた反応装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物(和光純薬(株)製、和光特級)の1.00g、ジフェニルグリオキシム(東京化成(株)製、EPグレード)の1.93g、30分間以上窒素で置換し、脱酸素を行ったジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)の80mLを入れ、室温で30分間撹拌し、混合物を得た。混合物に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(東京化成(株)製、EPグレード)の10mLを加え、6時間撹拌し、反応物を得た。反応物をろ過し、固体をジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)で洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体であるコバルト連鎖移動剤CoBF-1を2.12g得た。
【0137】
製造例2(分散剤の合成)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた反応装置中に、17%水酸化カリウム水溶液の61.6部、メタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)M)の19.1部、脱イオン水の19.3部を仕込んだ。反応装置内の液を室温にて撹拌し、発熱ピークを確認した後、4時間撹拌し、反応液を得た。この後、反応液を室温まで冷却してメタクリル酸カリウム水溶液を得た。
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水の900部、42%メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム水溶液(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)SEM-Na)の70部、メタクリル酸カリウム水溶液の16部及びメタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)M)の7部を入れて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。その中に、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、V-50)の0.053部を添加し、60℃に昇温した。重合開始剤を投入した後、15分毎にメタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)M)の1.4部を計5回、分割添加した。この後、重合装置内の液を撹拌しながら60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分8%の分散剤1を得た。
【0138】
製造例3(マクロモノマーの合成)
冷却管付フラスコに、メタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)M)の100部、脱イオン水の150部、硫酸ナトリウムの1.39部、分散剤1の1.53部、CoBF-1の0.00045部を仕込んだ。フラスコ内の液を70℃に加温した状態でCoBF-1を溶解させ、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。重合開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート(日油(株)製、パーオクタ(登録商標)O)の0.12部を加えた後、内温を70℃に保った状態で、6時間保持し、重合を完結させ、重合反応物を得た。この後、重合反応物を室温まで冷却し、ろ過して重合体を回収した。得られた重合体を水洗した後、50℃で一晩真空乾燥することによってマクロモノマーを得た。マクロモノマーのMnは40,000であり、Mw/Mnは2.3であった。マクロモノマーの末端二重結合の導入率はほぼ100%であった。マクロモノマーは、式(1)におけるRがメチル基の化合物であった。
【0139】
製造例4(コポリマーの合成)
冷却管付フラスコに、表1記載のアクリル酸2-メトキシエチル(MEA)の51部(和光純薬工業(株)製、和光一級)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)(三菱ケミカル(株)製、アクリエステル(登録商標)HO)の9部、マクロモノマーの40部及びDMAc(和光純薬工業(株)製、試薬特級)の150部からなるモノマー組成物を投入し、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。モノマー組成物を加温してその温度を55℃に保った状態で、2,2’-アゾビス(2,4’-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名:V-65)の0.1部をモノマー組成物に加えた後、5時間保持した。70℃に昇温し、V-65の0.15部をモノマー組成物に追添加した後、60分間保持し、重合した。室温まで冷却し、コポリマーを40%含む重合液を得た。コポリマーのMn及びMw/Mnを表1に示す。また、コポリマーを構成する各単位の割合を表1に示す。
【0140】
【0141】
製膜原液(1)の調製
PVDF(アルケマ社製、Kynar761A、Mw=5.5×105)、コポリマー含有重合液、ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製、PVP K-30、K値=30)、DMAc(和光純薬工業(株)製、和光特級)につき、表2に示した量をステンレス容器に入れ、60℃で5時間撹拌して製膜原液を調製した。得られた製膜原液を25℃下で一日静置した。
【0142】
製膜原液(2)の調製
表2に示した仕込み量に変更した以外は、製膜原液(1)と同様に調製した。
【0143】
製膜原液(3)の調製
表2に示した通り、製膜原液の原料及び仕込み量を変更した以外は、製膜原液(1)と同様に調製した。なお、表2におけるPVP K-79は、K値が79のPVPである。
【0144】
製膜原液(4)~(6)の調製
表2に示した仕込み量に変更した以外は、製膜原液(1)と同様に調製した。
【0145】
製膜原液(7)及び(8)の調製
表2に示した通り、製膜原液の原料及び仕込み量を変更した以外は、製膜原液(1)と同様に調製した。なお、表2におけるPVP K-79は、K値が79のPVPである。
【0146】
製膜原液(9)~(11)の調製
表2に示した仕込み量に変更した以外は、製膜原液(1)と同様に調製した。
【0147】
【0148】
実施例A-1
ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート製、繊度417dtex)のマルチフィラメントを丸編みし、210℃にて緊張熱処理を施して、支持体を得た。支持体の外径は1.45mmであった。
図1に示す製造装置1を用いて中空糸膜を作成した。製造装置1の原液供給装置2から製膜原液(1)及び製膜原液(2)を32℃に調温した二重管ノズル3に送液し、二重管ノズル3内において、支持体4の外周面に製膜原液(2)を、製膜原液(2)の外周面に製膜原液(1)を、同時に塗布した。
製膜原液が塗布された支持体4を空気中で走行させ、60℃の凝固浴槽5中の凝固液(DMAcの20質量%水溶液)に浸漬し、製膜原液を凝固させることによって、2層の多孔質前駆体層を有する中空糸膜前駆体6を得た。
中空糸膜前駆体を60℃の熱水に浸漬する工程と次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬する工程とを繰り返し、最後に115℃に熱した乾燥炉にて3分間乾燥させて、2層の多孔質層(内層及び外層)を有する中空糸膜を得た。
結果を表3に示す。
残ったPVPの含有量は1.2%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、250kPaであった。
【0149】
実施例A-2
表3に示した通り、外層用製膜原液の種類及び凝固液の温度を変更したこと以外は、実施例A-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表3に示す。
残ったPVPの含有率は1.3%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は361kPaであった。
【0150】
実施例A-3
表3に示した通り、内層用製膜原液の種類を変更したこと以外は、実施例A-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表3に示す。
残ったPVPの含有率は4.2%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は357kPaであった。
【0151】
比較例A-1
表3に示した通り、外層用製膜原液の種類、内層用製膜原液の種類、及び外層用製膜原液/内層用製膜原液(体積比)、凝固液の温度を変更したこと以外は、実施例A-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表3に示す。
残ったPVPの含有率は3.0%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は231kPaであった。
【0152】
【0153】
実施例B-1
ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート製、繊度417dtex)のマルチフィラメントを丸編みし、210℃にて緊張熱処理を施して、支持体を得た。支持体の外径は1.45mmであった。
図2に示す製造装置1を用いて中空糸膜を作成した。製造装置1の原液供給装置2から製膜原液(5)を32℃に調温した二重管ノズル3に送液し、二重管ノズル3内において、支持体4の外周面に製膜原液(5)を塗布した。
製膜原液が塗布された支持体4を空気中で走行させ、65℃の凝固浴槽5中の凝固液(DMAcの20質量%水溶液)に浸漬し、製膜原液を凝固させることによって、単層の多孔質前駆体層を有する中空糸膜前駆体6を得た。
中空糸膜前駆体を60℃の熱水に浸漬する工程と次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬する工程とを繰り返し、最後に115℃に熱した乾燥炉にて3分間乾燥させて、単層の多孔質層を有する中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は2.9%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、313kPaであった。
【0154】
実施例B-2
表4に示した通り凝固液の温度を変更したこと以外は、実施例B-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は1.6%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、324kPaであった。
【0155】
実施例B-3
表4に示した通り製膜原液の種類を変更した以外は、実施例B-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は1.9%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、320kPaであった。
【0156】
実施例B-4
表4に示した通り、製膜原液の種類及び凝固液の温度を変更したこと以外は、実施例B-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は2.2%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、333kPaであった。
【0157】
比較例B-1
表4に示した通り製膜原液の種類を変更した以外は、実施例B-2と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は1.3%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、319kPaであった。
【0158】
比較例B-2
市販の中空糸膜(スエズウォーターテクノロジーズ&ソリューションズ社製、商品名:ZeeWeed500d)について各種測定を行った。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有量は、膜中に含まれる他成分が明確に判断できないため算出できなかった。中空糸膜の破裂圧力は、376kPaであった。
【0159】
比較例B-3
表4に示した通り製膜原液の種類を変更した以外は、実施例B-2と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は1.9%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、260kPaであった。
【0160】
比較例B-4
表4に示した通り凝固温度を変更した以外は、比較例B-3と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は3.6%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、250kPaであった。
【0161】
比較例B-5
製膜原液の種類を変更し、凝固液の温度を変更したこと以外は、実施例B-1と同様にして中空糸膜を得た。
結果を表4に示す。
残ったPVPの含有率は1.9%であった。また、中空糸膜の破裂圧力は、328kPaであった。
【0162】
【符号の説明】
【0163】
1 製造装置
10 中空糸膜
11 支持体
12 多孔質膜層
13 多孔質膜層の外表面
14 ギャップ
2 原液供給装置
3 二重管ノズル
4 支持体
5 凝固浴槽
6 中空糸膜前駆体