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特許7099547光硬化性粘着剤の評価方法、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】光硬化性粘着剤の評価方法、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220705BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220705BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220705BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20220705BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20220705BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J133/00
C09J4/02
C09J163/00
C09J5/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020562295
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2018048581
(87)【国際公開番号】W WO2020136901
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 美千子
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 義信
(72)【発明者】
【氏名】大久保 恵介
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-515839(JP,A)
【文献】特開2003-286458(JP,A)
【文献】特開2005-241274(JP,A)
【文献】特開2004-277530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/38
C09J 133/00
C09J 4/02
C09J 163/00
C09J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに用いられる光硬化性粘着剤の評価方法であって、
基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、前記光硬化性粘着剤層に対して下記照射条件で紫外線を照射して、前記光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、下記剥離条件で前記接着剤層と前記光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたときの剥離力を測定する第1の工程と、
基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、前記光硬化性粘着剤層を下記加熱冷却条件で処理し、前記光硬化性粘着剤層に対して下記照射条件で紫外線を照射して、前記光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、下記剥離条件で前記接着剤層と前記光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させ、前記接着剤層が剥離された後の前記光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を走査型プローブ顕微鏡で観察し、前記表面における糸曳き痕の痕数及び痕幅を計測する第2の工程と、
前記剥離力並びに前記糸曳き痕の痕数及び痕幅に基づいて、前記光硬化性粘着剤の良否を判定する第3の工程と、
を備える、光硬化性粘着剤の評価方法。
(照射条件)
照射強度:70mW/cm
積算光量:150mJ/cm
(剥離条件)
温度:25±5℃
湿度:55±10%
剥離角度:30°
剥離速度:600mm/分
(加熱冷却条件)
加熱処理:65℃、15分間
冷却処理:25±5℃まで30分間空冷静置
【請求項2】
前記第3の工程は、前記剥離力並びに前記糸曳き痕の痕数及び痕幅が下記条件(a)及び下記条件(b)を満たすか否かによって前記光硬化性粘着剤の良否を判定する工程である、請求項1に記載の光硬化性粘着剤の評価方法。
条件(a):前記剥離力が0.70N/25mm以下である。
条件(b):前記接着剤層が剥離された後の前記光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に、糸曳き痕の痕数が15以上である25μm×25μmの領域が存在し、前記領域内における前記糸曳き痕の痕幅の中央値が120~200nmである。
【請求項3】
前記光硬化性粘着剤が、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体と、光重合開始剤と、前記反応性官能基と反応可能な官能基を2以上有する架橋剤とを含有する、請求項1又は2に記載の光硬化性粘着剤の評価方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル共重合体が、(メタ)アクリル酸を単量体単位として含む、請求項3に記載の光硬化性粘着剤の評価方法。
【請求項5】
前記接着剤層が、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体とを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光硬化性粘着剤の評価方法。
【請求項6】
基材層上に、請求項1~5のいずれか一項に記載の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を形成する工程と、
前記光硬化性粘着剤層上に接着剤層を形成する工程と、
を備える、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法によって得られるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの前記接着剤層を半導体ウエハに貼り付ける工程と、
前記半導体ウエハ、前記接着剤層、及び前記光硬化性粘着剤層をダイシングによって個片化する工程と、
前記光硬化性粘着剤層に対して紫外線を照射し、前記光硬化性粘着剤層の硬化物を形成する工程と、
前記光硬化性粘着剤層の硬化物から前記接着剤層が付着した半導体素子をピックアップする工程と、
前記接着剤層を介して、前記半導体素子を半導体素子搭載用の支持基板に接着する工程と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体ウエハの厚みが、35μm以下である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ダイシングが、ステルスダイシングを適用したものである、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
基材層と、請求項1~5のいずれか一項に記載の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層と、接着剤層とをこの順に備える、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性粘着剤の評価方法、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの製造においては、半導体ウエハを個々の半導体チップに個片化するダイシング工程、及び個片化した半導体チップをリードフレーム、パッケージ基板等に接着するダイボンディング工程が通常備えられている。このような半導体チップの製造においては、ダイシング工程における半導体ウエハの固定に用いられる光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を備えるダイシングフィルムと、半導体チップとリードフレーム、パッケージ基板等との接着に用いられる接着剤層を備えるダイボンディングフィルムとを組み合わせたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムが主に用いられている。
【0003】
近年、薄型半導体ウエハを個片化して半導体チップを製造する方法の一例として、半導体ウエハを完全に切断せずに、切断予定ライン上の半導体ウエハ内部にレーザ光を照射して改質層を形成し、ダイシングフィルムを拡張させることによって半導体ウエハを割断する、いわゆるステルスダイシングが提案されている(例えば、特許文献1)。ステルスダイシングによって個片化された半導体チップは、その後のピックアップ工程での破損防止の観点から、ダイボンディングフィルムとダイシングフィルムとをより小さな力で剥離させることが求められる。しかし、小さな力で剥離させようとすると剥離時間が長くなってしまい、生産性が悪化する傾向ある。そのため、薄型半導体チップの製造に用いられるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムには、ピックアップの成功率を高くできること及びピックアップにおける剥離時間を短くできることが求められており、光硬化性粘着剤層を構成する光硬化性粘着剤の選定が重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-338467号公報
【文献】特開2004-017639号公報
【文献】特開2006-089521号公報
【文献】特開2006-266798号公報
【文献】特開2014-055250号公報
【文献】特開2014-181258号公報
【文献】特開2015-028146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体チップの製造において、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの光硬化性粘着剤層として使用予定の光硬化性粘着剤が優れたピックアップ性を有するものであるかを事前に予測することは難しく、実際に使用してみなければ分からないことが多い。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに用いられる光硬化性粘着剤の新規な評価方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
被着体と粘着剤との剥離性の影響因子としては、粘着剤の粘着力(粘着剤のバルク特性)、被着体と粘着剤との界面における相互作用(粘着剤の表面特性)等が挙げられる。一般的に、バルク特性の方が表面特性よりも剥離性への寄与が大きいことが知られており、バルク特性を調整することによって剥離性は制御される傾向にある。しかし、薄型半導体チップのピックアップ性に関しては、表面特性の影響も無視できず、例えば、被着体と粘着剤との間における粘着剤の変形形態、例えば、被着体と粘着剤とを剥離させたときに、状況によって粘着剤が被着体との間で破断されずに糸、場合によっては壁のように大変形する糸曳きも剥離性に大きな影響を与えると考えられる。従来の産業分野では、糸曳き現象の発生は、粘着剤の好ましくない現象として捉えられており、糸曳きの発生を低減すること又は抑制することによって、剥離性の向上が達成されていた(例えば、上記特許文献2~7等参照)。このような状況下において、本発明者らが鋭意検討したところ、被着体と粘着剤とを剥離させたときに、糸曳き現象が観測されなかった場合よりも特定の糸曳き現象が観測された場合の方が、糸曳きの破断衝撃の伝播によって剥離進展が速くなって、剥離速度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一側面は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに用いられる光硬化性粘着剤の評価方法を提供する。この光硬化性粘着剤の評価方法は、基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、光硬化性粘着剤層に対して下記照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、下記剥離条件で接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたときの剥離力を測定する第1の工程と、基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、光硬化性粘着剤層を下記加熱冷却条件で処理し、光硬化性粘着剤層に対して下記照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、下記剥離条件で接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させ、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を走査型プローブ顕微鏡で観察し、表面における糸曳き痕の痕数及び痕幅を計測する第2の工程と、剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅に基づいて、光硬化性粘着剤の良否を判定する第3の工程とを備える。
(照射条件)
照射強度:70mW/cm
積算光量:150mJ/cm
(剥離条件)
温度:25±5℃
湿度:55±10%
剥離角度:30°
剥離速度:600mm/分
(加熱冷却条件)
加熱処理:65℃、15分間
冷却処理:25±5℃まで30分間空冷静置
【0009】
このような光硬化性粘着剤の評価方法は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの光硬化性粘着剤層として使用予定の光硬化性粘着剤が優れたピックアップ性を有するものであるかを事前に予測するのに有用である。
【0010】
第3の工程は、剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅が下記条件(a)及び下記条件(b)を満たすか否かによって光硬化性粘着剤の良否を判定する工程であってよい。
条件(a):剥離力が0.70N/25mm以下である。
条件(b):接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に、糸曳き痕の痕数が15以上である25μm×25μmの領域が存在し、領域内における糸曳き痕の痕幅の中央値が120~200nmである。
【0011】
光硬化性粘着剤は、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体と、光重合開始剤と、反応性官能基と反応可能な官能基を2以上有する架橋剤とを含有していてもよい。(メタ)アクリル共重合体は、メタクリル酸単量体単位をさらに含んでいてもよい。
【0012】
接着剤層は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体とを含有していてもよい。
【0013】
別の側面において、本発明は、基材層上に、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を形成する工程と、光硬化性粘着剤層上に接着剤層を形成する工程とを備える、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法を提供する。
【0014】
別の側面において、本発明は、上述の製造方法によって得られるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの接着剤層を半導体ウエハに貼り付ける工程と、半導体ウエハ、接着剤層、及び光硬化性粘着剤層をダイシングによって個片化する工程と、光硬化性粘着剤層に対して紫外線を照射し、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成する工程と、光硬化性粘着剤層の硬化物から接着剤層が付着した半導体素子をピックアップする工程と、接着剤層を介して、半導体素子を半導体素子搭載用の支持基板に接着する工程とを備える、半導体装置の製造方法を提供する。
【0015】
半導体ウエハの厚みは、35μm以下であってよい。ダイシングは、ステルスダイシングを適用したものであってよい。
【0016】
別の側面において、本発明は、基材層と、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層と、接着剤層とをこの順に備える、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに用いられる光硬化性粘着剤の新規な評価方法が提供される。また、本発明によれば、このような光硬化性粘着剤の評価方法に基づく、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、このようなダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを用いた半導体装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
図2図2は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の形状像プロファイル及び位相像プロファイルの一例を示す図であり、図2(a)は、形状像プロファイルであり、図2(b)は、位相像プロファイルである。
図3図3は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の断面プロファイルの一例を示す図であり、図3(a)は、形状像プロファイルであり、図3(b)は、図3(a)における糸曳き痕Xのiii-iii線の断面プロファイルである。
図4図4は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の断面プロファイルの一例を示す図であり、図4(a)は、形状像プロファイルであり、図4(b)は、図4(a)における糸曳き痕Yのiv-iv線の断面プロファイルである。
図5図5は、半導体装置の製造方法の一実施形態を説明するための模式断面図であり、図5(a)、(b)、(c)、(d)、及び(e)は、各工程を示す模式断面図である。
図6図6は、半導体装置の製造方法の一実施形態を説明するための模式断面図であり、図6(f)、(g)、(h)、及び(i)は、各工程を示す模式断面図である。
図7図7は、半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。各図における構成要素の大きさは概念的なものであり、構成要素間の大きさの相対的な関係は各図に示されたものに限定されない。
【0020】
本明細書における数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0021】
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル共重合体等の他の類似表現についても同様である。
【0022】
本明細書において、「糸曳き」とは、被着体と粘着剤との間における粘着剤の変形形態であり、被着体と粘着剤とを剥離させたときに、粘着剤が被着体との間で破断されずに糸のように大変形することを意味する。「糸曳き痕」は、糸曳きが発生した後に粘着剤が破断されて部分的に収縮すること、大変形した後に部分的に収縮すること、又は粘着剤が不可逆な程延伸された若しくは大変形された後に被着体から剥離して部分的に収縮することによって、粘着剤の表面において痕(突起)として観測されるものを意味する。
【0023】
[光硬化性粘着剤の評価方法]
一実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに用いられる光硬化性粘着剤の評価方法は、基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、光硬化性粘着剤層に対して特定の照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、特定の剥離条件で接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたときの剥離力を測定する第1の工程と、基材層、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備し、光硬化性粘着剤層を特定の加熱冷却条件で処理し、光硬化性粘着剤層に対して特定の照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、特定の剥離条件で接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させ、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を走査型プローブ顕微鏡で観察し、表面における糸曳き痕の痕数及び痕幅を計測する第2の工程と、剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅に基づいて、光硬化性粘着剤の良否を判定する第3の工程とを備える。
【0024】
以下では、まず、評価対象である光硬化性粘着剤、並びに光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を備えるダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法を説明し、次いで、糸曳き現象の影響因子を考察し、最後に各工程について説明する。
【0025】
<光硬化性粘着剤>
本実施形態に係る光硬化性粘着剤の評価方法では、紫外線の照射によって硬化する光硬化性粘着剤が評価対象となり得る。以下、評価対象となる光硬化性粘着剤の一例として、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体と、光重合開始剤と、反応性官能基と反応可能な官能基を2以上有する架橋剤とを含有する光硬化性粘着剤を説明する。
【0026】
(反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体)
反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体は、例えば、1種又は2種以上の(メタ)アクリレート単量体(a1)又は(メタ)アクリル酸と、反応性官能基を有する1種又は2種以上の重合性化合物(a2)とを共重合することによって得ることができる。
【0027】
(メタ)アクリレート単量体(a1)は、例えば、直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、及びジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0028】
直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
脂環式(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばエトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
アルコキシアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
重合性化合物(a2)は、ヒドロキシ基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有していてよい。ヒドロキシ基及びエポキシ基は、イソシアネート基等を有する化合物(b)との反応性が良好であるため、好適に用いることができる。重合性化合物(a2)は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。
【0036】
反応性官能基としてヒドロキシ基を有する重合性化合物(a2)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
反応性官能基としてエポキシ基を有する重合性化合物(a2)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリル共重合体は、(メタ)アクリル酸を単量体単位として含んでいてもよい。また、(メタ)アクリレート単量体(a1)及び重合性化合物(a2)に加えて、他の重合性化合物を単量体単位として含んでいてもよい。他の重合性化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物などが挙げられる。
【0039】
反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体は、連鎖重合可能な官能基をさらに有していてもよい。すなわち、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体からなる主鎖と、主鎖に結合し、重合性二重結合を含む側鎖とを有するものであってもよい。重合性二重結合を含む側鎖は、(メタ)アクリルロイル基であってよいが、これに限られない。連鎖重合可能な官能基を有する(メタ)アクリル共重合体は、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の反応性官能基と反応する官能基と連鎖重合可能な官能基とを有する1種又は2種以上の化合物(b)とを反応させて(メタ)アクリル共重合体の側鎖に連鎖重合可能な官能基を導入することによって得ることができる。
【0040】
反応性官能基(エポキシ基、ヒドロキシ基等)と反応する官能基としては、例えば、イソシアネート基等が挙げられる。
【0041】
イソシアネート基を有する化合物(b)の具体例としては、2-メタクリロキシエチルイソシアネート(例えば、昭和電工株式会社製、商品名「カレンズMOI」)が挙げられる。
【0042】
化合物(b)の含有量は、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体に対して、0.3~1.5mmol/gであってよい。
【0043】
反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の酸価は、例えば、0~150mgKOH/gであってよい。反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の水酸基価は、例えば、0~150mgKOH/gであってよい。酸価及び水酸基価は、JIS K0070に準じて測定されるものである。
【0044】
反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10万~100万、20万~80万、又は30万~70万であってよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0045】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、紫外線の照射によって重合を開始させるものであれば特に制限されず、例えば、光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N,N’,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、適切な増感剤と組み合わせて用いてもよい。
【0046】
光重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリル共重合体100質量部に対して、0.1~10質量部又は0.5~5質量部であってよい。
【0047】
(架橋剤)
架橋剤は、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の反応性官能基(エポキシ基、ヒドロキシ基等)と反応可能な官能基を2以上有する化合物であれば特に制限されない。架橋剤と反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体との反応によって形成される結合としては、例えば、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合等が挙げられる。
【0048】
架橋剤としては、例えば、一分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる。このような化合物を用いると、上記(メタ)アクリル共重合体が有する反応性官能基と容易に反応するため、粘着性及び糸曳きの制御がし易い傾向にある。
【0049】
一分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、リジンイソシアネート等のイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0050】
一分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物の具体例としては、多官能イソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名「コロネートL」)が挙げられる。
【0051】
架橋剤は、上述のイソシアネート化合物と、一分子中に2以上のヒドロキシ基を有する多価アルコールの反応物(イソシアナート基含有オリゴマー)であってもよい。一分子中に2以上のヒドロキシ基を有する多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、架橋剤は、一分子中に2以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートと、一分子中に3以上のヒドロキシ基を有する多価アルコールの反応物(イソシアナート基含有オリゴマー)であってもよい。このようなイソシアネート基含有オリゴマーを架橋剤として用いることで、光硬化性粘着剤層20がより緻密な架橋構造を形成する傾向にある。
【0053】
架橋剤の含有量は、例えば、(メタ)アクリル共重合体全質量に対して、3~50質量%であってよい。
【0054】
<ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法>
図1は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム1は、基材層10、光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層20、及び接着剤層30がこの順に積層されている。
【0055】
(基材層)
基材層10は、既知のポリマーシート又はフィルムを用いることができ、ダイボンディング工程においてエキスパンドすることが可能な材料で構成されているのであれば、特に制限されない。このような材料としては、例えば、結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低密度直鎖ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体;アイオノマー樹脂;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体;エチレン-プロピレン共重合体;エチレン-ブテン共重合体;エチレン-ヘキセン共重合体;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアミド;全芳香族ポリアミド;ポリフェニルスルフイド;アラミド(紙);ガラス;ガラスクロス;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース系樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの材料は、可塑剤、シリカ、アンチブロッキング材、スリップ剤、帯電防止剤等と混合した材料であってもよい。
【0056】
これらの中でも、基材層10は、ヤング率、応力緩和性、融点等の特性、価格面、使用後の廃材リサイクルなどの観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン-ポリプロピレンランダム共重合体、及びポリエチレン-ポリプロピレンブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種の材料を主成分とする表面を有し、当該表面が光硬化性粘着剤層20と接しているものであってよい。基材層10は、単層であっても、異なる材料からなる2層以上の多層であってもよい。基材層10は、後述の光硬化性粘着剤層20との密着性を制御する観点から、必要に応じて、コロナ放電処理、マット処理等の表面粗化処理が施されていてもよい。
【0057】
基材層10の厚みは、70~120μm又は80~100μmであってよい。基材層10の厚みが70μm以上であると、エキスパンドよる破損をより抑制できる傾向にある。基材層10の厚みが120μm以下であると、ピックアップにおける応力が接着剤層まで到達し易くなり、ピックアップ性により優れる傾向にある。
【0058】
(光硬化性粘着剤層)
光硬化性粘着剤層20は、上述の光硬化性粘着剤からなる層である。光硬化性粘着剤層20は、基材層10上に形成されている。基材層10上に光硬化性粘着剤層20を形成する方法としては、例えば、光硬化性粘着剤層形成用ワニスを調製し、当該ワニスを基材層10に塗工して、当該ワニスの揮発成分を除去し、光硬化性粘着剤層20を形成する方法、当該ワニスを離型処理されたフィルム上に塗工し、当該ワニスの揮発成分を除去して、光硬化性粘着剤層20を形成し、得られた光硬化性粘着剤層20を基材層10に転写する方法が挙げられる。
【0059】
光硬化性粘着剤層形成用ワニスは、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体、光重合開始剤、及び反応性官能基と反応可能な官能基を2以上有する架橋剤と有機溶剤とを含有する。有機溶剤は、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体、光重合開始剤、及び反応性官能基と反応可能な官能基を2以上有する架橋剤を用化し得るものであって、加熱によって揮発するものであってよい。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミドなどが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ワニスの固形分濃度は、ワニス全質量を基準として、10~60質量%であってよい。
【0060】
光硬化性粘着剤層20の厚みは、例えば、1~200μm、3~50μm、又は5~30μmであってよい。
【0061】
(接着剤層)
接着剤層30は、接着剤からなる層である。接着剤は、ダイボンディングフィルムの分野で使用される接着剤であれば特に制限されない。以下、接着剤の一例として、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体とを含有する接着剤を説明する。このような接着剤からなる接着剤層30によれば、チップと基板との間、チップとチップとの間の接着性に優れ、電極埋め込み性、ワイヤー埋め込み性等を付与することが可能であり、かつダイボンディング工程において、低温で接着することが可能となる。
【0062】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール類、アントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
エポキシ樹脂硬化剤は、例えば、フェノール樹脂であってよい。フェノール樹脂は、分子内にフェノール性水酸基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。フェノール樹脂はとしては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化ナフタレンジオール、フェノールノボラック、フェノール等のフェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体は、原料としてグリシジル(メタ)アクリレートを、得られる共重合体に対し0.5~6質量%となる量に調整された共重合体であってよい。当該量が0.5質量%以上であると、高い接着力が得られ易くなる傾向にあり、当該量が6質量%以下であると、ゲル化を抑制できる傾向にある。グリシジル(メタ)アクリレートの残部はメチル(メタ)アクリレート等の炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、及びスチレン、アクリロニトリル等の混合物であってよい。アルキル(メタ)アクリレートは、エチル(メタ)アクリレート及び/又はブチル(メタ)アクリレートを含んでいてよい。各成分の混合比率は、得られるエポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体のTg(ガラス転移点)を考慮して調整することができる。Tgが-10℃以上であると、Bステージ状態での接着剤層30のタック性が良好になる傾向にあり、取り扱い性に優れる傾向にある。エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体のTgの上限値は、例えば、30℃であってよい。
【0065】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量は10万以上であってよく、30万~300万又は50万~200万であってよい。重量平均分子量が300万以下であると、半導体チップと支持基板との間の充填性の低下を制御できる傾向にある。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0066】
接着剤は、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤をさらに含有していてもよい。硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
接着剤は、必要に応じて、無機フィラーをさらに含有してもよい。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
接着剤層30は、光硬化性粘着剤層20上に形成される。光硬化性粘着剤層20上に接着剤層30を形成する方法としては、例えば、接着剤層形成用ワニスを調製し、当該ワニスを離型処理されたフィルム上に塗工して、接着剤層30を形成し、得られた接着剤層30を光硬化性粘着剤層20に転写する方法が挙げられる。接着剤層形成用ワニスは、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、及びエポキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体と、有機溶剤とを含有する。有機溶剤は、光硬化性粘着剤層形成用ワニスで使用される有機溶剤で例示したものと同様であってよい。
【0069】
接着剤層30の厚みは、例えば、1~300μm、5~150μm、又は10~100μmであってよい。
【0070】
[糸曳きの影響因子]
糸曳きは、接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物との界面での相互作用で発生し得る。そのため、糸曳き現象の影響因子の1つとしては、架橋剤の種類及び含有量が挙げられる。例えば、架橋剤の含有量を減少させると、糸曳き痕の痕数は増加し、糸曳き痕の痕幅も大きくなる傾向にある。したがって、架橋剤の種類及び含有量を調整することによって、糸曳き痕数及び痕幅を制御し得る。また、光硬化性粘着剤の組成以外の糸曳き現象の影響因子としては、塗工条件が挙げられる。塗工速度、塗工温度、風量等の塗工条件を変更させることによって、糸曳き痕数及び痕幅を制御し得る。さらに、糸曳き現象の影響因子としては、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製時の接着剤層と光硬化性粘着剤層とを貼り合わせるときの条件、接着剤層及び光硬化性粘着剤層の表面物性(表面粗さ、表面自由エネルギー等)、反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体の分子量、極性及びガラス転移点等が挙げられる。
【0071】
<第1の工程>
本工程では、まず、基材層、評価対象である光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層された評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備する。
【0072】
評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムにおいて、基材層、光硬化性粘着剤層、及び接着剤層の種類等は特に制限されず、任意に選択されるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを用いることができる。評価対象である光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤の厚みは、例えば、10μmとすることができる。接着剤層の厚みは、例えば、10μmとすることができる。
【0073】
次いで、光硬化性粘着剤層に対して下記照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成する。紫外線の光源は、使用する光重合開始剤の種類によって適宜最適なものを選択することができる。紫外線の光源は、特に制限されないが、低圧水銀ランプ、遠紫外線ランプ、エキシマ紫外線ランプ、高圧水銀ランプ、及びメタルハライドランプからなる群より選ばれる1種であってよい。これらのうち、紫外線の光源は、中心波長365nmである高圧水銀ランプであることが好ましい。また、紫外線の照射においては、光源から発する熱の影響を低減させるために、コールドミラー等を併用してもよい。
【0074】
(照射条件)
照射強度:70mW/cm
積算光量:150mJ/cm
【0075】
紫外線の照射条件における照射温度は、60℃以下又は40℃以下であってよい。
【0076】
最後に、下記剥離条件で接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたときの剥離力(低角ピール強度)を測定する。接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させる場合、剥離角度を調整することが可能なピール強度測定装置を用いて、接着剤層に粘着テープ、支持テープ等を貼り付けてこれらのテープを引っ張ることによって行うことが好ましい。
【0077】
(剥離条件)
温度:25±5℃
湿度:55±10%
剥離角度:30°
剥離速度:600mm/分
【0078】
なお、剥離角度は低角にするほど、剥離力における基材層の影響を排除できる傾向にあるが、15°未満では測定が困難となる。そのため、30°が低角ピール強度の試験条件として好適である。
【0079】
<第2の工程>
本工程では、まず、基材層、評価対象である光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層、及び接着剤層がこの順に積層された評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備する。第2の工程の評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、第1の工程の評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムと同じものであってよいが、第1の工程の剥離力の測定を行っていないものを用いる。
【0080】
次いで、評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの光硬化性粘着剤層を下記加熱冷却条件で処理する。光硬化性粘着剤層を加熱冷却条件で処理しない場合、光硬化性粘着剤層と接着剤層との密着性が充分でない可能性があり、接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたとき、糸曳き痕が観察され難い傾向にある。下記加熱冷却条件は、半導体装置のウエハラミネート工程を想定するものであり、糸曳き痕がより観察され易くなる傾向にある。加熱冷却条件における加熱処理は、ヒーター等を用いて基材層側から行うことが好ましい。なお、基材層は、加熱処理(65℃、15分間)でしわ、たるみ等の変形が起こらないものを用いることが好ましい。加熱処理には、評価用ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムが湾曲しないように、加熱に耐えられる布等で抑えながら加熱することが好ましい。このときの面圧は0.1g/cm程度であってよい。面圧が高すぎると、光硬化性粘着剤層と接着剤層とが必要以上に密着し、糸曳き痕が過剰に形成されるおそれがある。光硬化性粘着剤層の硬化を防ぐため、遮光しながら行うことが好ましい。
【0081】
(加熱冷却条件)
加熱処理:65℃、15分間
冷却処理:25±5℃まで空冷
【0082】
次いで、光硬化性粘着剤層に対して第1工程との同様の照射条件で紫外線を照射して、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成し、接着剤層を第1工程との同様の剥離条件で引っ張り、接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させる。接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物を備える基材層を計測サンプルとして回収する。このとき、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物が汚染されないように回収する。また、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物を備える基材層を5mm×5mmのサイズに切り分けて計測サンプルとすることが好ましい。
【0083】
最後に、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を走査型プローブ顕微鏡で観察し、当該表面における糸曳き痕の痕数及び痕幅を計測する。計測サンプルの走査型プローブ顕微鏡への固定には、静電気の影響を避ける観点から、走査型電子顕微鏡観察等で使用される一般的なカーボン両面テープを用いることが好ましい。また、静電気の影響を避ける観点から、走査型プローブ顕微鏡による観察は、半日(12時間)以上固定した状態で静置して除電してから、又はイオナイザー等を用いて適切に静電気を除去してから行うことが好ましい。
【0084】
走査型プローブ顕微鏡の探針には、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を計測するのに最適なバネ定数の低いカンチレバーが設置されていることが好ましい。また、走査型プローブ顕微鏡による観察は、ダイナミックフォースモード(DFM)で行うことが好ましい。
【0085】
糸曳き痕は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面において痕(突起)として観測されるものであり、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の位相像のデータを取得し、その位相像において硬さが明らかに周囲と異なっている箇所を糸曳き痕とすることができる。糸曳き痕の痕数は、位相像において硬さが明らかに周囲と異なっている箇所の数である。
【0086】
糸曳き痕の痕幅は、以下のようにして求めることができる。まず、走査型プローブ顕微鏡を用いて、位相像において硬さが明らかに周囲と異なっている箇所を含む光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の形状像プロファイル及び位相像プロファイルを取得する。図2は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の形状像プロファイル及び位相像プロファイルの一例を示す図であり、図2(a)は、形状像プロファイルであり、図2(b)は、位相像プロファイルである。図2(a)の形状像プロファイルにおいて、糸曳き痕は、隆起している箇所が上に凸のグラフとして観測され、最も淡い色(白黒画像の場合、例えば、白色)で示される。一方、位相像プロファイルにおいて、位相差が周囲よりも小さいことは、周囲よりも硬いことを意味する。図2(b)の位相像プロファイルにおいて、糸曳き痕は、光硬化粘着剤層が極限まで延伸されることから、周囲との位相差が周囲よりも50%以下である箇所として観測され、最も濃い色(白黒画像の場合、例えば、黒色)で示される。このように、糸曳き痕は、形状像プロファイルのみでなく、位相像プロファイルからも観測することができる。次いで、取得した図2(a)の形状像プロファイルから、市販の画像処理ソフト(走査型プローブ顕微鏡付属の画像処理ソフト等)を用いて、測定対象となる糸曳き痕全てに対して、各糸曳き痕の痕幅が最大となるような断面線の断面プロファイルをそれぞれ出力する。図3は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の断面プロファイルの一例を示す図であり、図3(a)は、形状像プロファイルであり、図3(b)は、図3(a)における糸曳き痕Xのiii-iii線の断面プロファイルである。図3(b)は、観測される糸曳き痕の両端の高さに実質的に差異がない(例えば、1nm以下)場合の断面プロファイルである。このような断面プロファイルでは、糸曳き痕Xの両端(極小値)同士の幅Wxを糸曳き痕Xの痕幅とすることができる。一方、図4は、光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の断面プロファイルの一例を示す図であり、図4(a)は、形状像プロファイルであり、図4(b)は、図4(a)における糸曳き痕Yのiv-iv線の断面プロファイルである。図4(b)は、観測される糸曳き痕の両端の高さに差異がある(例えば、1nmを超える)場合の断面プロファイルである。この場合、糸曳き痕Yの頂点から高さが近い方の端(極小値)を基準高さHyとし、当該基準高さHyにおける幅Wyを糸曳き痕Yの痕幅とすることができる。
【0087】
<第3の工程>
本工程では、剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅に基づいて、光硬化性粘着剤の良否を判定する。評価基準である剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅の基準は、半導体ウエハの厚み等に合わせて適宜設定することができる。
【0088】
第3の工程は、剥離力並びに糸曳き痕の痕数及び痕幅が下記条件(a)及び下記条件(b)を満たすか否かによって光硬化性粘着剤の良否を判定する工程であってよい。下記条件(a)及び下記条件(b)を満たす光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を備えるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、厚みが比較的薄い(例えば、35μm以下)半導体ウエハに適用されるダイシングプロセス(例えば、ステルスダイシング等)に好適に用いることができる。
【0089】
条件(a):剥離力が0.70N/25mm以下である。
条件(b):接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に糸曳き痕の痕数が15以上である25μm×25μmの領域(場合により「特定領域」という場合がある。)が存在し、領域内における糸曳き痕の痕幅の中央値が120~200nmである。
【0090】
条件(a)を満たす光硬化性粘着剤をダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに適用すると、ピックアップの成功率がより向上する傾向にある。条件(a)における剥離力は、0.65N/25mm以下又は0.63N/25mm以下であってもよい。条件(a)の剥離力の下限値は、特に制限されないが、0.10N/25mm以上であってよい。
【0091】
条件(b)を満たす光硬化性粘着剤をダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに適用すると、ピックアップの剥離時間がより短くなる傾向にある。
【0092】
接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に特定領域が存在することによって、応力伝搬性が良好となり、剥離速度が向上する傾向にある。特定領域内に存在する糸曳き痕の痕数は、15以上又は20以上であってよく、70以下、60以下、又は50以下であってよい。剥離速度は、特定領域の存在とその特定領域に存在する糸曳痕の痕幅の双方が寄与している。特定領域において、糸曳き痕の痕数が15以上であると、応力伝搬性が高く、剥離速度が促進される傾向にある。特定領域において、糸曳き痕の痕数が70以下であると、剥離力が増大し過ぎることを抑制することができる傾向にある。
【0093】
接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に糸曳き痕の痕数15以上である特定領域が存在する場合において、これらの特定領域に存在する糸曳き痕の痕幅の中央値を算出する。ここで中央値は、有限個のデータを小さい順に並べたときの中央に位置する値を意味し、データが偶数個である場合は、中央に近い値の平均値を意味する。例えば、糸曳き痕の痕数が15である場合、糸曳き痕の痕幅を小さい順に並べたときの8番目の糸曳き痕の痕幅が中央値であり、糸曳き痕の痕数が16である場合、糸曳き痕の痕幅を小さい順に並べたときの8番目の糸曳き痕の痕幅と9番目の糸曳き痕の痕幅との平均値が中央値である。特定領域に存在する糸曳き痕の痕幅の中央値は、130nm以上又は150nm以上であってもよく、190nm以下又は180nm以下であってもよい。特定領域に存在する糸曳き痕の痕幅の中央値が120nm以上であると、糸曳きの破断衝撃が伝播され易くなって剥離速度が向上する傾向にある。特定領域に存在する糸曳き痕の痕幅の中央値が200nm以下であると、糸曳の破断が起こり易くなって剥離速度が向上する傾向にある。
【0094】
[ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法]
一実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法は、基材層上に、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層を形成する工程と、光硬化性粘着剤層上に接着剤層を形成する工程とを備える。基材層及び接着剤層は、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で例示したものと同様のものであってよい。光硬化性粘着剤層の形成方法及び接着剤層の形成方法も、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で例示した方法と同様であってよい。
【0095】
[ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム]
一実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、基材層と、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で良と判定された光硬化性粘着剤からなる光硬化性粘着剤層と、接着剤層とをこの順に備える。基材層及び接着剤層は、上述の光硬化性粘着剤の評価方法で例示したものと同様のものであってよい。
【0096】
[半導体装置(半導体パッケージ)の製造方法]
図5及び図6は、半導体装置の製造方法の一実施形態を説明するための模式断面図である。本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、上述の製造方法によって得られるダイシング・ダイボンディング一体型フィルム1の接着剤層30を半導体ウエハW2に貼り付ける工程(ウエハラミネート工程)と、半導体ウエハW2、接着剤層30、及び光硬化性粘着剤層20を個片化する工程(ダイシング工程)と、光硬化性粘着剤層20に対して紫外線を照射する工程(紫外線照射工程)と、基材層10から接着剤層30aが付着した半導体素子(接着剤層付き半導体素子50)をピックアップする工程(ピックアップ工程)と、接着剤層30aを介して、接着剤層付き半導体素子50を半導体素子搭載用支持基板60に接着する工程(半導体素子接着工程)とを備える。
【0097】
ダイシング工程におけるダイシングは、特に制限されず、例えば、ブレードダイシング、レーザダイシング、ステルスダイシング等が挙げられる。半導体ウエハW2の厚みを35μm以下とする場合、ダイシングはステルスダイシングを適用したものであってよい。以下では、ダイシングとして主にステルスダイシングを用いた態様について詳細に説明する。
【0098】
<改質層形成工程>
ダイシングがステルスダイシングを適用したものである場合、半導体装置の製造方法は、ウエハラミネート工程の前に改質層形成工程を備えていてよい。
【0099】
まず、厚みH1の半導体ウエハW1を用意する。改質層を形成する半導体ウエハW1の厚みH1は、35μmを超えていてよい。続いて、半導体ウエハW1の一方の主面上に保護フィルム2を貼り付ける(図5(a)参照)。保護フィルム2が貼り付けられる面は、半導体ウエハW1の回路面であることが好ましい。保護フィルム2は、半導体ウエハの裏面研削(バックグラインド)に使用されるバックグラインドテープであってよい。続いて、半導体ウエハW1内部にレーザ光を照射して改質層4を形成し(図5(b)参照)、半導体ウエハW1の保護フィルム2が張り付けられた面とは反対側(裏面側)に対してバックグラインディング(裏面研削)及びポリッシング(研磨)を行うことによって、改質層4を有する半導体ウエハW2を作製する(図5(c)参照)。得られる半導体ウエハW2の厚みH2は、35μm以下であってよい。
【0100】
<ウエハラミネート工程>
次いで、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム1の接着剤層30を所定の装置に配置する。続いて、半導体ウエハW2の主面Wsに、接着剤層30を介してダイシング・ダイボンディング一体型フィルム1を貼り付け(図5(d)参照)、半導体ウエハW2の保護フィルム2を剥離する(図5(e)参照)。
【0101】
<ダイシング工程>
次に、少なくとも半導体ウエハW2及び接着剤層30をダイシングによって個片化する(図6(f)参照)。ダイシングがステルスダイシングを適用したものである場合、ク-ルエキスパンド及びヒートシュリンクを行うことによって個片化することができる。
【0102】
<紫外線照射工程>
次に、光硬化性粘着剤層20に紫外線を照射することによって光硬化性粘着剤層20を硬化させ、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成する(図6(g)参照)。これによって、光硬化性粘着剤層20と接着剤層30との間の粘着力を低下させることができる。紫外線照射においては、波長200~400nmの紫外線を用いることが好ましい。紫外線照射条件は、照度:30~240mW/cmで照射量200~500mJ/cmとなるように調整することが好ましい。
【0103】
<ピックアップ工程>
次に、基材層10をエキスパンドすることによって、ダイシングされた接着剤層付き半導体素子50を互いに離間させつつ、基材層10側からニードル42で突き上げられた接着剤層付き半導体素子50を吸引コレット44で吸引して、光硬化性粘着剤層の硬化物20acからピックアップする(図6(h)参照)。なお、接着剤層付き半導体素子50は、半導体素子Waと接着剤層30aとを有する。半導体素子Waは半導体ウエハW2がダイシングによって分割されたものであり、接着剤層30aは接着剤層30がダイシングによって分割されたものである。光硬化性粘着剤層の硬化物20acは光硬化性粘着剤層の硬化物がダイシングによって分割されたものである。光硬化性粘着剤層の硬化物20acは接着剤層付き半導体素子50をピックアップする際に基材層10上に残存し得る。ピックアップ工程では、必ずしもエキスパンドする必要はないが、エキスパンドすることによってピックアップ性をより向上させることができる。
【0104】
ニードル42による突き上げ量は、適宜設定することができる。さらに、極薄ウエハに対しても充分なピックアップ性を確保する観点から、例えば、2段又は3段のピックアップを行ってもよい。また、吸引コレット44を用いる方法以外の方法で接着剤層付き半導体素子50のピックアップを行ってもよい。
【0105】
<半導体素子接着工程>
接着剤層付き半導体素子50をピックアップした後、接着剤層付き半導体素子50を、熱圧着によって、接着剤層30aを介して半導体素子搭載用支持基板60に接着する(図6(i)参照)。半導体素子搭載用支持基板60には、複数の接着剤層付き半導体素子50を接着してもよい。
【0106】
図7は、半導体装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。図7に示す半導体装置100は、上記工程と、半導体素子Waと半導体素子搭載用支持基板60とをワイヤーボンド70によって電気的に接続する工程と、半導体素子搭載用支持基板60の表面60a上に、樹脂封止材80を用いて半導体素子Waを樹脂封止する工程とをさらに備える製造方法によって製造することができる。半導体素子搭載用支持基板60の表面60aと反対側の面に、外部基板(マザーボード)との電気的な接続用として、はんだボール90が形成されていてもよい。
【実施例
【0107】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に記載がない限り、化合物は市販の試薬を使用した。
【0108】
[ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの準備]
((メタ)アクリル共重合体溶液A~Eの調製)
スリーワンモータ、撹拌翼、及び窒素導入管が備え付けられた容量2000mLのオートクレーブに、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、及びメタクリル酸(MAA)を表1に示す割合(単位:質量部)で加え、さらに酢酸エチル127質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.04質量部を加えた。これを均一になるまで撹拌し、流量500ml/minで60分間バブリングを実施し、系中の溶存酸素を脱気した。次いで、1時間かけて78℃まで昇温し、78~83℃で維持したまま6時間重合させた。その後、スリーワンモータ、撹拌翼、及び窒素導入管が備え付けられた容量2000mLの加圧釜に反応溶液を移し、120℃、0.28MPa条件で4.5時間加温した後、室温(25℃、以下同様)まで冷却した。次に、酢酸エチルを98質量部さらに加えて希釈した。これに重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部及びウレタン化触媒としてジオクチルスズジラウレート0.02質量部を添加し、連鎖重合可能な官能基を有する化合物として2-メタクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、商品名「カレンズMOI」)10質量部を加えて、70℃で6時間反応させ、室温まで冷却した。その後、不揮発分(固形分)含有量が35質量%となるように酢酸エチルを加えて、反応性官能基としてヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル共重合体溶液A~Eを得た。
【0109】
(メタ)アクリル共重合体溶液A~Eにおける(メタ)アクリル共重合体の酸価及び水酸基価を、JIS K0070に従って測定した。結果を表1に示す。また、得られたアクリル樹脂を60℃で一晩真空乾燥し、得られた固形分をエレメンタール社製全自動元素分析装置varioELにて元素分析を実施し、窒素含有量から導入された2-メタクリロキシエチルイソシアネートの含有量を算出した。結果を表1に示す。さらに、GPC装置として東ソー株式会社製SD-8022/DP-8020/RI-8020、カラムとして日立化成株式会社製Gelpack GL-A150-S/GL-A160-S、及び溶離液としてテトラヒドロフランを用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
<製造例1:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムAの作製>
(ダイシングフィルムの作製)
反応性官能基を有する(メタ)アクリル共重合体として上記で調製した(メタ)アクリル共重合体溶液Aを固形分として100質量部、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、イルガキュア184)0.5質量部、及び架橋剤として多官能イソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、商品名「コロネートL」、固形分75%)2質量部を混合した。この混合物に対して、固形分の総含有量が25質量%となるように酢酸エチルを加え、10分間均一に撹拌して、光硬化性粘着剤層形成用ワニスを得た。得られた光硬化性粘着剤層形成用ワニスを、片面が離型処理された幅350mm、長さ400mm、厚み38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に乾燥後の光硬化性粘着剤層の厚みが10μmとなるように、ギャップを調整しながら塗工し、80~100℃で光硬化性粘着剤層形成用ワニスを3分間加熱乾燥した。その後、片面にコロナ放電処理が施されたポリオレフィン製フィルム(基材層、厚み:90μm)を貼り合わせ、40℃、72時間の条件で養生を行い、架橋処理を行うことによって、基材層と光硬化性粘着剤層とを備えるダイシングフィルムを得た。なお、架橋処理は、FT-IRスペクトルを用いて、養生の進行を確認しながら行った。
【0112】
(ダイボンディングフィルムの作製)
エポキシ樹脂としてYDCN-703(東都化成株式会社製、商品名、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、分子量1200、軟化点80℃)55質量部、フェノール樹脂としてミレックスXLC-LL(三井化学株式会社製、商品名、水酸基当量175、吸水率1.8%、350℃における加熱質量減少率4%)45質量部、シランカップリング剤としてNUCA-189(日本ユニカー株式会社製、商品名、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)1.7質量部及びNUCA-1160(日本ユニカー株式会社製、商品名、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン)3.2質量部、並びにフィラーとしてアエロジルR972(シリカ表面をジメチルジクロロシランで被覆し、400℃の反応器中で加水分解して、メチル基等の有機基によって表面修飾されたシリカフィラー、日本アエロジル株式会社製、商品名、平均粒径0.016μm)32質量部に、シクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、さらにビーズミルを用いて90分混錬した。得られた混合物に対して、アクリルゴムとしてHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名、重量平均分子量80万、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート3質量%を含むアクリルゴム)280質量部及び硬化促進剤としてキュアゾール2PZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)0.5質量部加えて撹拌混合し、真空脱気することによって、接着剤層形成用ワニスを得た。得られた接着剤層形成用ワニスを設定の厚みとなるように離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、140℃で5分間加熱乾燥して、厚みが10μmのBステージ状態の接着剤層を形成し、接着剤層を備えるダイボンディングフィルムを作製した。
【0113】
(ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製)
上記で作製したダイボンディングフィルムをPETフィルムごと取り扱いし易いサイズにカットした。カットしたダイボンディングフィルムの接着剤層に、貼り付ける直前にPETフィルムを剥がしてダイシングフィルムの光硬化性粘着剤層を貼り合わせた。貼り合わせは、クリーンルーム(温度23℃、湿度50%の無塵室内)でラミネートマシンを用い、ロールを加温しない(すなわち、温度23℃)で行った。その後、接着剤層と光硬化性粘着剤層との密着性を一定に保つ観点から、4℃の冷蔵庫で1日保管することによってダイシング・ダイボンディング一体型フィルムAを得た。
【0114】
<製造例2:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムBの作製>
架橋剤の含有量を8質量部から10質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムBを得た。
【0115】
<製造例3:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムCの作製>
(メタ)アクリル共重合体溶液をAからBに変更し、架橋剤の含有量を8質量部から6質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムCを得た。
【0116】
<製造例4:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムDの作製>
光硬化性粘着剤層形成用ワニスの塗工速度を製造例1の塗工速度に対して0.8倍に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムDを得た。
【0117】
<製造例5:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムEの作製>
光硬化性粘着剤層形成用ワニスの塗工速度を製造例1の塗工速度に対して1.2倍に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムEを得た。
【0118】
<製造例6:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムFの作製>
(メタ)アクリル共重合体溶液をAからCに変更し、架橋剤の含有量を8質量部から6質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムFを得た。
【0119】
<製造例7:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムGの作製>
(メタ)アクリル共重合体溶液をAからDに変更し、架橋剤の含有量を8質量部から6質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムGを得た。
【0120】
<製造例8:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムHの作製>
架橋剤の含有量を8質量部から6質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムHを得た。
【0121】
<製造例9:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムIの作製>
(メタ)アクリル共重合体溶液Aから(メタ)アクリル共重合体溶液Eに変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムIを得た。
【0122】
<製造例10:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムJの作製>
光硬化性粘着剤層形成用ワニスの塗工速度を製造例1の塗工速度に対して1.5倍に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムJを得た。
【0123】
<製造例11:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムKの作製>
光硬化性粘着剤層形成用ワニスの塗工速度を製造例1の塗工速度に対して0.6倍に変更した以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムKを得た。
【0124】
<製造例12:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムLの作製>
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製において、クリーンルーム(温度23℃、湿度50%の無塵室内)で、ダイシングフィルムのPETフィルムを剥がし、光硬化性粘着剤層を空気暴露させて1日以上放置したものをダイボンディングフィルムの接着剤層に貼り付けた以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムLを得た。
【0125】
<製造例13:ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムMの作製>
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製において、ラミネートマシンのロールを50℃に加温しながら、ダイボンディングフィルムの接着剤層とダイシングフィルムの光硬化性粘着剤層とを貼り付けた以外は、製造例1と同様にして、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムMを得た。
【0126】
[剥離力の測定]
<測定サンプルの作製>
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムA~Mをそれぞれ幅30mm、長さ200mmに切り分け、ダイボンディングフィルムの接着剤層側のPETフィルムを剥がし、支持フィルム(王子タック株式会社製、ECテープ)を接着剤層側にローラーを用いて貼り付け、幅25mm、長さ170mmに切り出した。次に、切り出した粘着フィルム付きダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの基材層(ポリオレフィン製フィルム)側から、紫外線照射装置(株式会社GSユアサ製、UV SYSTEM、中心波長365nmの紫外線)を用いて、照射温度40℃以下、照射強度70mW/cm、及び積算光量150mJ/cmで照射し、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成することによって測定サンプルを得た。
【0127】
<剥離力の測定>
上記で作製した測定サンプルを角度自在タイプの粘着・被膜剥離解析装置VPA-2S(協和界面科学株式会社製)を用い、温度25±5℃、湿度55±10%、剥離角度30°、及び剥離速度600mm/分で支持フィルムを引っ張り、接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させたときの剥離力(低角(30°)ピール強度)を測定した。同様の測定を3回行い、その平均値を低角ピール強度とした。結果を表2、表3、及び表4に示す。また、条件(a)(剥離力が0.70N/25mm以下である)の充足性についても表2、表3、及び表4に示す。
【0128】
[糸曳き痕の痕数及び痕幅の計測]
<測定サンプルの作製>
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、上記剥離力の測定で用いたものと同じものであって、上記剥離力の測定を行っていないものを用いた。ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムA~Mをそれぞれ幅30mm、長さ50mm以上に切り分けた。次に、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの基材層(ポリオレフィン製フィルム)にヒーターを接して、光硬化性粘着剤層を65℃、15分間加熱し、その後、25±5℃まで空冷した。空冷後、ダイボンディングフィルムの接着剤層側のPETフィルムを剥がし、支持フィルム(王子タック株式会社製、ECテープ)を貼り合わせて、幅が25mmになるように切りそろえた。次いで、加熱冷却後の支持フィルム付きダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの基材層(ポリオレフィン製フィルム)側から、紫外線照射装置(株式会社GSユアサ製、UV SYSTEM、中心波長365nmの紫外線)を用いて、照射温度40℃以下、照射強度70mW/cm、及び積算光量150mJ/cmで照射し、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成した。次いで、角度自在タイプの粘着・被膜剥離解析装置VPA-2S(協和界面科学株式会社製)を用い、温度25±5℃、湿度55±10%、剥離角度30°、及び剥離速度600mm/分で支持フィルムを引っ張り、接着剤層と光硬化性粘着剤層の硬化物とを剥離させ、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物を備える基材層を回収し、5mm×5mmのサイズに切り分けることによって、計測サンプルを得た。
【0129】
<糸曳き痕の痕数及び痕幅の計測>
上記で作製した計測サンプルを板状のステージに固定した。計測サンプルの固定には、カーボン両面テープを用いた。走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、商品名「SPA400」)を用いて、接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面を観察し、画像解析ソフト(「SPA400」に付属)を用いて解析した。走査型プローブ顕微鏡の探針には、バネ定数の低いカンチレバー(オリンパス株式会社製、商品名「OMCL-AC240TS」)を設置して行った。光硬化性粘着剤層の硬化物の観察においては、ダイナミックフォースモード(DFM)で観察し、同時に位相像のデータを取得し、その位相像において明らかに硬さが周囲と異なっている箇所を糸曳き痕とした。計測サンプルの観察においては、観察の対象である表面に糸曳き痕の痕数が15以上である25μm×25μmの領域(特定領域)が存在するか否かを確認した。接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に糸曳き痕の痕数が15以上である特定領域が存在した場合、特定領域に存在する糸曳き痕の痕幅の中央値を算出した。糸曳き痕の痕幅は、以下のようにして求めた。まず、走査型プローブ顕微鏡を用いて、位相像において硬さが明らかに周囲と異なっている箇所を含む光硬化性粘着剤層の硬化物の表面の形状像プロファイル及び位相像プロファイルを取得した。次いで、取得した形状像プロファイルから、市販の画像処理ソフト(走査型プローブ顕微鏡付属の画像処理ソフト等)を用いて、測定対象となる糸曳き痕全てに対して、各糸曳き痕の痕幅が最大となるような断面線の断面プロファイルをそれぞれ出力し、上述の基準に基づき、糸曳き痕の痕幅を求めた。なお、形状像プロファイルにおいて、糸曳き痕は、最も淡い色(白黒画像の場合、例えば、白色)で示されるが、位相像において硬さが明らかに周囲と異なっている箇所の個数は、形状像プロファイルにおいて最も淡い色で示される箇所の個数と同数であった。結果を表2、表3、及び表4に示す。また、条件(b)(接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に糸曳き痕の痕数が15以上である25μm×25μmの領域が存在し、領域内における糸曳き痕の痕幅の中央値が120~200nmである)の充足性についても表2、表3、及び表4に示す。
【0130】
[ダイシング工程におけるピックアップ性の評価]
得られた製造例1~13のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムA~Mについて、ダイシング工程の所定の条件におけるピックアップの成功率及びピックアップにかかる剥離時間を評価した。
【0131】
<評価サンプルの作製>
(改質層形成)
半導体ウエハ(シリコンウエハ(厚み750μm、外径12インチ))の片面に、バックグラインドテープを貼り付け、バックグラインドテープ付き半導体ウエハを得た。半導体ウエハのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対側の面に対してレーザ光を照射して半導体ウエハ内部に改質層を形成した。レーザの照射条件は以下のとおりである。
【0132】
レーザ発振器型式:半導体レーザ励起Qスイッチ固体レーザ
波長:1342nm
発振形式:パルス
周波数:90kHz
出力:1.7W
半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0133】
次いで、半導体ウエハのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対側の面に対して、バックグラインディング及びポリッシングを行うことによって、厚みが30μmである半導体ウエハを得た。
【0134】
(ウエハラミネート)
半導体ウエハのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対側の面に、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのPETフィルムを剥がし、接着剤層を貼り付けた。
【0135】
(ダイシング)
次いで、改質層を有するダイシング・ダイボンディング一体型フィルム付き半導体ウエハをエキスパンド装置に固定した。次いで、ダイシングフィルムを下記条件でエキスパンドし、半導体ウエハ、接着剤層、及び光硬化性粘着剤層を個片化した。
【0136】
装置:株式会社ディスコ製、商品名「DDS2300 Fully Automatic Die Separator」
クールエキスパンド条件:
温度:-15℃、高さ:9mm、冷却時間:90秒、速度:300mm/秒、待機時間:0秒
ヒートシュリンク条件:
温度:220℃、高さ:7mm、保持時間:15秒、速度:30mm/秒、ヒーター速度:7℃/秒
【0137】
(紫外線照射)
個片化された半導体ウエハの光硬化性粘着剤層を照射強度70mW/cm及び積算光量150mJ/cmで中心波長365nmの紫外線を照射し、光硬化性粘着剤層の硬化物を形成することによって後述のピックアップ性の評価サンプルを得た。
【0138】
<ピックアップ性の評価>
ダイボンダDB-830P(ファスフォードテクノロジ株式会社製(旧株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、ピン本数9本でピックアップ試験を行った。ピックアップ用コレットには、RUBBER TIP 13-087E-33(マイクロメカニクス社製、商品名、サイズ:10×10mm)を用いた。突上げピンには、EJECTOR NEEDLE SEN2-83-05(マイクロメカニクス社製、商品名、直径:0.7mm、先端形状:直径350μmの半円)を用いた。突上げピンは、ピン中心から等間隔に9本を配置した。
【0139】
(ピックアップの成功率)
上記ピックアップ試験において、ピックアップの成功率が95~100%であったものを「A」、95%未満であったものを「B」と評価した。結果を表2、表3、及び表4に示す。
【0140】
(ピックアップの剥離時間)
高速度カメラMEMRECM GX-1Plus(株式会社ナックイメージテクノロジー製、商品名)を用いて、上記ピックアップ試験を撮影し、コレットがチップに接触してから、接着剤層と光硬化性粘着剤層とが完全に剥離されるまでの時間を剥離時間として評価した。ピックアップは1mm/秒で300μmまで突き上げることによって行った。フレームレートは1000フレーム/秒とした。剥離時間が60m秒以下であったものを「A」、60m秒を超え90m秒未満であったものを「B」、90m秒を超えたものを「C」と評価した。結果を表2、表3、及び表4に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
表2、表3、及び表4に示すように、製造例1~5のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムA~Eは、剥離力が0.70N/25mm以下であり、かつ接着剤層が剥離された後の光硬化性粘着剤層の硬化物の表面に糸曳き痕の痕数15以上となる25μm×25μmの領域が存在し、領域内における糸曳き痕の痕幅の中央値が120~200nmであり、条件(a)及び条件(b)の両方を満たしていた。これらの製造例1~5のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムA~Eは、ピックアップ性の評価において優れていることが判明した。これに対して、条件(a)若しくは条件(b)のいずれか一方を充足しない、又は条件(a)及び条件(b)の両方を充足しない製造例6~13のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムF~Mは、ピックアップ性の評価において不充分であることが判明した。
【符号の説明】
【0145】
1…ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム、2…保護フィルム、4…改質層、10…基材層、20…光硬化性粘着剤層、20ac…光硬化性粘着剤層の硬化物、30、30a…接着剤層、42…ニードル、44…吸引コレット、50…接着剤層付き半導体素子、60…半導体素子搭載用支持基板、70…ワイヤーボンド、80…樹脂封止材、90…はんだボール、W1、W2…半導体ウエハ、H1…半導体ウエハW1の厚み、H2…半導体ウエハW2の厚み、100…半導体装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7