(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】光変調器とそれを用いた光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20220705BHJP
B23K 11/06 20060101ALI20220705BHJP
H04B 10/516 20130101ALI20220705BHJP
【FI】
G02F1/01 F
B23K11/06 510
H04B10/516
(21)【出願番号】P 2021013607
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】一明 秀樹
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-239071(JP,A)
【文献】特開2005-050861(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111146154(CN,A)
【文献】特開2011-181215(JP,A)
【文献】特開2008-311193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
B23K 11/06
H04B 10/516
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備えた光変調器において、
該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体と、
溶接により該開口部を塞ぐ長方形の蓋部とを備え、
該蓋部は、周辺部分の厚みが薄く、該周辺部分を除き該蓋部には、筐体内部に向けて突出する凸部分が形成され、
該筐体本体に該蓋部を嵌め込んだ際に、該筐体本体の開口部を形成する端面の内周辺と該凸部分の外側端部との
間に隙間を有し、
該隙間の距離が、該蓋部の長辺側に形成される距離よりも、該蓋部の短辺側に形成される距離の方が、より大きくなるように設定されていることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、該蓋部の該凸部分の側面は、該周辺部分に向かって傾斜部を備えていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光変調器において、該蓋部の該周辺部分の厚みは、0.2mm未満であることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光変調器において、該蓋部の該凸部分の厚みは、0.2mm以上、1mm以下であることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該筐体本体の開口部は、該開口部を取り囲む筐体の側壁自体、又は、該側壁と異なる封止部材で形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光変調器において、該筐体本体と該蓋部とはシーム溶接によって封止されていることを特徴とする光変調器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路素子に隣接して、該光導波路素子内の変調電極に印加する電気信号を発生するドライバ回路素子が配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項8】
請求
項7に記載の光変調器と、該ドライバ回路素子に入力する変調信号を生成する信号発生器とを備えることを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器とそれを用いた光送信装置に関し、特に、光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備え、かつ、該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体と、該開口部を塞ぐ長方形の蓋部とを備えた光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、光導波路と該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極とを有する光導波路素子を利用した光変調器が多用されている。特許文献1に示すように、通常の光変調器は、光導波路素子(光導波路や変調電極などが形成されたチップ)、光学部品、電子部品等が金属筐体内部に実装され、金属の蓋部によって気密封止されている。
【0003】
筐体には、直方体の形状が多く採用されており、筐体の側壁には、例えば短辺側に光入出力のための光ファイバー導入部や光学窓部があり、長辺側には電気信号を入出力するための高周波コネクタやピンが配置されている。
【0004】
金属筐体の上部(あるいは下部)に形成された開口部は、金属の蓋部が配置され、シーム溶接(抵抗溶接)により金属筐体と蓋部の一部を全周に渡って溶接し、気密封止している。溶接する部分は、AuやNiのような金属めっきを含む表面処理が施されている。また、シーム溶接により生じる(熱)応力を緩和するため、筐体と蓋部との間に低融点のロウ材等を配置し、シーム溶接を行う場合もある。
【0005】
図1は、筐体の一例を示す図であり、
図1(a)は筐体を平面視した図であり、
図1(b)は
図1(a)の一点鎖線A-A’における断面図、
図1(c)は
図1(a)の一点鎖線B-B’における断面図を示している。筐体本体1の開口部を塞ぐように、蓋部2が配置されている。
【0006】
蓋部2には、筐体本体1の内側に突出した凸部分20があり、筐体本体の開口部を形成する端面10と接する蓋部2の厚みは薄く、開口部に位置する蓋部の凸部分20の厚みは厚くなっている。筐体1の開口部に蓋部の凸部分20をはめ込む(落とし込む)ことにより、シーム溶接前の筐体本体1と蓋部2の位置調整がし易くなり、またシーム溶接時に、ローラー電極の接触による蓋部の位置ずれを防止することができる。
【0007】
筐体本体1の開口部の内壁(開口部を形成する端面10の内周辺10L)と蓋部の凸部分20の外側端部20Lとの距離(短辺側隙間d1、長辺側隙間d2)を小さくすることにより、位置調整の精度や位置ずれ防止の効果を上げることができる。従来は、一般的に、筐体本体の開口部の全周に渡って、この隙間を一定(d1=d2)としていた。
【0008】
また、従来技術のような光変調器等の光デバイスに使用される蓋部は、生産性やコスト面を考慮し、0.3~0.5mm程度の板厚の金属板(SUS304やコバール等)をエッチング加工し、金属板の外周部を0.1mm程度まで薄くすることにより、蓋部2の凸部分20を形成している。
【0009】
エッチング加工で凸部分を形成するため、蓋部の厚い部分と薄い部分の境界には、
図2のような傾斜部(サイドエッジ部)Rが生じる。傾斜部の大きさは、エッチングする厚さが厚いほど大きくなるため、傾斜部を小さくしたい場合は、元の板厚を薄く設定し、エッチングする厚さを薄くする。
【0010】
上述したように、筐体本体1と蓋部2の位置を調整するために、筐体の開口部の内壁(内周辺10L)と蓋部の凸部分の外側端部20Lとの隙間(d1、d2)を、筐体本体の開口部の全周に渡って一定(d1=d2)とし、さらには隙間(d1、d2)を小さくすることを説明した。具体的には、筐体の開口部の内壁(内周辺10L)と蓋部の凸部分の外側端部20Lとの隙間(d1、d2)を0.2~0.5mmの大きさに設定していた。
【0011】
シーム溶接は、並走する2つのローラー電極により蓋部2の外周部を加圧し、ローラー電極間を通電しながら、ローラー電極と蓋部との接触部を連続的に溶接する技術であり、光デバイス等の高い気密性が要求される製品の気密封止に用いられる。
図3(a)は、片方のローラー電極REの近傍の様子を図示したものである。ローラー電極間の通電により、ローラー電極REと蓋部2との接触部が発熱(接触抵抗が大きいため発熱)し、高温となり、接触部およびその近傍の金属(表面処理されたAuやNiなどの金属めっきを含む)が溶解することで、蓋部2と筐体本体1とが溶接される。なお、実際に使用するローラー電極は、図示したものより、筐体等のサイズに比較してもっと大きい。
【0012】
シーム溶接を行うと、ローラー電極と蓋部2との接触部が発熱するため、蓋部全体が高温(電流値等の溶接条件や、蓋部や筐体本体の大きさにもよるが、例えば、100~200℃程度)となる。溶接部やローラー電極と蓋部2との接触部からの伝熱により筐体本体も温まるが、蓋部と金属筐体との間に温度差が生じる。
【0013】
シーム溶接前は、
図3(a)のように、筐体1の開口部の端面10と蓋部2との間に隙間がなく、蓋部がローラー電極REに加圧されている。この状態でシーム溶接を行えば、筐体本体と蓋部との間が適正に溶接され、気密封止される。
【0014】
しかし、シーム溶接が開始されると徐々に蓋部全体が高温になり、熱膨張により蓋部のサイズが大きくなる。その結果、
図3(b)のように、蓋部の傾斜部Rが筐体1の側壁に乗り上げ、筐体1の開口部の端面10と蓋部2との間に隙間が生じる。
図3(b)の矢印EXは、熱膨張の方向を示している。
【0015】
筐体本体の開口部の端面10と蓋部2との間に隙間が生じると、
図4に示すように、ローラー電極REの加圧Fにより、筐体本体1と蓋部2の傾斜部Rの接触点FUを支点に、蓋部2の一部が変形する。蓋部2の変形により、ローラー電極REと蓋部2との接触部Cの接触面積が増加する。接触面積の増加は、ローラー電極REと蓋部2との間の接触(電気)抵抗を小さくし、ローラー電極間の通電(電流量)は一定のため、ローラー電極REと蓋部2との接触部Cの発熱量を小さくする。その結果、接触部Cおよびその近傍の温度が金属(表面処理されたAuやNiなどの金属めっきを含む)の融点に達せず、溶接不足(不良)になる。
【0016】
また、仮に接触部Cおよびその近傍の金属が溶解しても、筐体本体の開口部の端面10と蓋部2との間の隙間が大きいため、筐体本体と蓋部との間が完全に溶接されず、気密封止不足となる。
【0017】
筐体本体1の側壁への蓋部2の傾斜部Rの乗り上げによる蓋部2の変形は、
図4に示すように、筐体本体と蓋部が接する筐体本体の開口部の端面10の幅W1が狭く(具体的には、1.5mm以下)、上述した支点FUから蓋部2の先端部までの長さLが短い場合、蓋部2の変形の度合いが大きく(曲がりが大きく)なる。また、筐体本体の開口部の端面10と蓋部2との間の隙間が同じ場合、前記長さLが短いほど、変形の度合いが大きくなる。変形の度合いが大きくなると、ローラー電極REと蓋部2との接触部Cの接触面積が大きくなるため、溶接不良(不良)が発生し易くなる。
【0018】
直方体の筐体を用いた光変調器等の光デバイスでは、シーム溶接による筐体本体1や蓋部2の歪みを軽減するため、
図5に示す手順でシーム溶接が行われる。最初に、筐体の長辺の中央Sをスポット溶接し、長辺の中央から長辺の両端に向かって溶接し、最後に短辺を溶接するのが望ましい。これは、最初に短辺を溶接すると、長辺方向(X方向)の熱膨張による蓋部の延伸が妨げられ、より大きな(熱)応力が生じるためである。
図5(a)は、丸印の数字が、溶接する順番及び方向を示している。
図5(b)は、筐体の短辺側(X方向)から見たシーム溶接の様子を示す断面図であり、
図5(c)は長辺側(Y方向)から見た断面図である。なお、
図5(a)では、筐体の長辺のシーム溶接を2回に分けて行っているが、長辺の長さが大きい場合には、さらに分割してシーム溶接を行う場合がある。
【0019】
図5に示すような溶接手順では、長辺をシーム溶接する間に蓋部2が熱膨張により延伸し、筐体本体1の両側の短辺で
図3(b)及び
図4のような状態になり、筐体の両側の短辺で溶接不足(不良)になり易い。シーム溶接の条件にもよるが、筐体の長辺が長いほど、溶接時間が長く(発熱時間が長く)、また熱膨張による蓋部の延伸量が大きくなるため、短辺での溶接不足(不良)が発生し易い傾向にある。なお、長辺のシーム溶接時においては、蓋部の短辺方向(Y方向)も熱膨張の影響を受けるが、蓋部の短辺の長さが長辺の長さより短いため、蓋部の短辺方向(Y方向)の延伸量は、長辺方向(X方向)の延伸量より小さくなる。しかも、短辺方向の延伸量が大きくなる前に蓋部2と筐体本体1との長辺の溶接が完了されるため、長辺(
図5(a)の矢印1及び2)における溶接不足(不良)は発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、筐体本体と蓋部との溶接不良を抑制した光変調器及びそれを用いた光伝送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器及び光送信装置は、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備えた光変調器において、該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体と、溶接により該開口部を塞ぐ長方形の蓋部とを備え、該蓋部は、周辺部分の厚みが薄く、該周辺部分を除き該蓋部には、筐体内部に向けて突出する凸部分が形成され、該筐体本体に該蓋部を嵌め込んだ際に、該筐体本体の開口部を形成する端面の内周辺と該凸部分の外側端部との間に隙間を有し、該隙間の距離が、該蓋部の長辺側に形成される距離よりも、該蓋部の短辺側に形成される距離の方が、より大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0023】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、該蓋部の該凸部分の側面は、該周辺部分に向かって傾斜部を備えていることを特徴とする。
【0024】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光変調器において、該蓋部の該周辺部分の厚みは、0.2mm未満であることを特徴とする。
【0025】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光変調器において、該蓋部の該凸部分の厚みは、0.2mm以上、1mm以下であることを特徴とする。
【0026】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光変調器において、該筐体本体の開口部は、該開口部を取り囲む筐体の側壁自体、又は、該側壁と異なる封止部材で形成されていることを特徴とする。
【0027】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光変調器において、該筐体本体と該蓋部とはシーム溶接によって封止されていることを特徴とする。
【0028】
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光変調器において、該光導波路素子に隣接して、該光導波路素子内の変調電極に印加する電気信号を発生するドライバ回路素子が配置されていることを特徴とする。
【0029】
(8) 上記(7)に記載の光変調器と、該ドライバ回路素子に入力する変調信号を生成する信号発生器とを備えることを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備えた光変調器において、該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体と、溶接により該開口部を塞ぐ長方形の蓋部とを備え、該蓋部は、周辺部分の厚みが薄く、該周辺部分を除き該蓋部には、筐体内部に向けて突出する凸部分が形成され、該筐体本体に該蓋部を嵌め込んだ際に、該筐体本体の開口部を形成する端面の内周辺と該凸部分の外側端部との間に隙間を有し、該隙間の距離が、該蓋部の長辺側に形成される距離よりも、該蓋部の短辺側に形成される距離の方が、より大きくなるように設定されているため、筐体本体と蓋部との溶接の際に、熱膨張により長辺方向の延伸量が増えた際でも、筐体本体の開口部を形成する端面と蓋部との間に隙間が形成されず、溶接不良が発生することを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】直方体の筐体を説明する図であり、(a)は平面視した図、(b)は(a)の一点鎖線A-A’における断面図、(c)は(a)の一点鎖線B-B’における断面図である。
【
図3】シーム溶接時の溶接部分の様子を示す図であり、(a)は熱膨張による延伸量が少ない場合の様子であり、(b)は熱膨張による延伸量が大きい場合の様子を示す。
【
図4】シーム溶接時に蓋部の端部が変形する様子を示す図である。
【
図5】直方体の筐体をシーム溶接する際の手順を示す図であり、(a)は平面視した図、(b)は短辺側から見た断面図、(c)は長辺側から見た断面図である。
【
図6】筐体本体の開口部を封止部材SLで形成した筐体の一例を示す図であり、(a)は平明視した図、(b)は(a)の一点鎖線A-A’の断面図、(c)は(a)の一点鎖線B-B’の断面図である。
【
図7】筐体本体の底面側に伸びるリードピンを備えた光変調器における、シーム溶接の際のローラー電極とリードピンとの位置関係を示す図である。
【
図8】筐体の蓋部側に伸びるリードピンを備えた光変調器における、シーム溶接の際のローラー電極とリードピンとの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、
図1に示すように、光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備えた光変調器において、該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体1と、該開口部を塞ぐ長方形の蓋部2とを備え、該蓋部は、周辺部分の厚みが薄く、該周辺部分を除き該蓋部には、筐体内部に向けて突出する凸部分20が形成され、該筐体本体に該蓋部を嵌め込んだ際に、該筐体本体の開口部を形成する端面10(
図1(b)の場合、筐体本体1の側壁の最上面)との内周辺と該凸部分の外側端部との距離が、該蓋部の長辺側に形成される距離d2よりも、該蓋部の短辺側に形成される距離d1の方が、より大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0033】
上述したように、直方体の筐体を溶接により気密封止する際には、長辺側の溶接による熱膨張の影響で、蓋部が延伸し、蓋部が筐体本体の側壁に乗り上げ、筐体の短辺側の溶接の際に溶接不足(不良)になり易い。そのため、本発明では、筐体の両側の短辺側について、筐体本体の開口部の内壁と蓋部の凸部分との隙間d1を、長辺側の隙間d2よりも大きくなるような構成している(d1>d2)。
【0034】
筐体を構成する材料としては、SUS304、コバール等の金属が使用され、筐体本体は、一つの金属素材を切削加工で一体的に形成するだけでなく、切削加工やプレス加工等で製作した複数の部材を組み合わせて1つの筐体を構成することも可能である。どの形態を選択するかは、筐体サイズや機能、生産性やコスト等を考慮して決定する。筐体本体と蓋部は同じ材料で形成されても良いし、異なる材料で構成されることも可能である。筐体本体や蓋部との溶接部分となる筐体や蓋部の表面は、AuやNiなどの金属めっきで表面処理されていても良い。また、本発明に使用する筐体としては、後述する光導波路素子と該光導波素子を駆動するドライバ回路素子とを組み合わせたHB-CDM(High Bandwidth Coherent Driver Modulator)等のような集積型の小型光デバイスのように、セラミック材料を筐体本体の一部に使用するものも可能である。
【0035】
蓋部については、金属材料(SUS304、コバール等)が使用され、
図1等で示す凸部分20を備えている。凸部分を形成(蓋部の周辺部分薹を薄く形成)する方法としては、切削や電子ビーム加工なども可能であるが、低コストで安定的に形成するには、エッチングにより蓋部の周辺部分を薄く構成することが可能である。エッチングを使用した際には、
図2に示すように、蓋部2の凸部分20の側面Rは、蓋部の周辺部分に向かって傾斜する面となる。この傾斜面を「傾斜部」と呼ぶ。上述したように、この蓋部の傾斜部が筐体本体の側壁への乗り上げの原因ともなっている。
【0036】
一方、蓋部を筐体本体にシーム溶接するには、蓋部の周辺部分の厚さは0.05mm以上、0.2mm未満に設定する必要がある。蓋部の厚さ(凸部分20の厚い部分の厚さ20H)は、蓋部の大きさで変化する剛性や、エッチングに要する時間等も考慮し、0.2~1mmの範囲に設定される。より好ましくは、0.3~0.5mmに設定される。
【0037】
隙間d1およびd2の具体的な寸法としては、例えば、SUS304を用いた長さ100mm×幅15mmの蓋部の場合、シーム溶接による蓋部の温度変動量から算出できる熱膨張による蓋部の延伸量、また各部品(筐体本体、蓋部)の寸法公差や実装精度を考慮し、d1を0.6~1mm程度とし、d2を0.3~0.5mmに設定される。このように隙間d1を大きく設定することにより、蓋部の傾斜部が筐体本体の側壁に乗り上げるのを防止し、溶接不足(不良)を防止することができる。また、隙間d2を従来どおり狭く設定することにより、シーム溶接前の位置調整の精度を維持し、シーム溶接時の蓋部の位置ずれを防止する効果を維持することができる。
【0038】
本発明の光変調器は、
図6に示すような、筐体本体の開口部を、該開口部を取り囲む封止部材SLで形成した場合にも、適用することが可能である。
図6では、筐体の底面(
図6(b)及び(c)では下側に配置される部分であるが、プリント基板(PCB)等に配置される際には、当該底面をプリント基板側に向ける場合もあるが、他の面、例えば、
図6(b)及び(c)の上側部分をプリント基板側に向けて配置する場合もある。)1B、側面部分を構成する部品(1A、1C)のように、複数の部材を組み合わせて筐体本体を構成している。各部材(1A,1B及び1C)は、AuSn等の金属で接合されている。各部材の材料は同じでも良いし、違う材料でも良い。例えば、部材1Aはセラミックで、部材1Bおよび部材1Cは金属(コバール、CuWなど)である。
【0039】
部材1Aのセラミックには直接シーム溶接を行えないため、このようなセラミックを含んだ筐体の場合には、筐体の開口部側の端面にシーム溶接のための封止部材(シールリング)SLを配置する。封止部材(シールリング)の表面には、封止部材とセラミックを接合し、封止部材と蓋部をシーム溶接するための金属めっき(Au、Ni等)が施されている。封止部材(シールリング)は、セラミックやその他部材と金属で接合され、封止部材(シールリング)によって新たに形成された開口部を金属等の蓋部2で塞ぎ、シーム溶接することで、気密封止される。封止部材(シールリング)SLの材料は、蓋部2と同じ材料とするのが一般的であるが、目的によっては違う場合も有り得る。また、封止部材(シールリング)SLと蓋部2との間に低融点のロウ材等を配置し、シーム溶接することもある。
【0040】
図6のようなセラミック筐体を用いるHB-CDM等の光デバイスでは、筐体や蓋部自体のサイズが従来の光デバイスのサイズよりも小さいため熱膨張による蓋部の延伸量が小さく、蓋部の傾斜部の乗り上げによる溶接不足(不良)のリスクは低くなる。しかしながら、封止部材SLを用いる場合は、封止部材SLの開口部の最上部の幅(金属筐体における
図4の幅W1に相当する)が0.5~1.0mm程度と狭く、蓋部の支点FUから蓋部2の先端部までの長さLが短くなり易い。また、封止部材の開口部の最上部の幅に合わせて、蓋部の周辺部分の薄い部分自体の幅(
図2の符号W)も狭くなる傾向にある。このため、封止部材SLを利用する場合には、蓋部の周辺部分の変形が、金属筐体の場合(
図1ほか)よりも発生し易くなる。これを抑制するためにも、本発明の光変調器のように、封止部材の開口部の内壁と蓋部の凸状部との距離(隙間、d1及びd2)について、短辺側の隙間d1が長辺側の隙間d2より大きくなるように設定することが好ましい。
【0041】
HB-CDM等の光デバイスでは、光導波路素子と該光導波素子を駆動するドライバ回路素子とを組み合わせた集積型の光デバイス(光変調器)が提案されている。このような集積型の光デバイスでは、
図6のようなセラミックと金属を組み合わせた筐体が用いられる。
図7は、従来の光変調器に多く利用される電気接続用端子(リードピンP1又はP2)の構成であり、筐体をプリント基板に実装し、電気接続用端子とプリント基板とを半田接続するため、筐体の底面側(
図7の下側)に電気接続用端子の半田接続部が位置するようになっている。
図7のような場合には、ローラー電極REとリードピンとの干渉は発生しておらず、シーム溶接が特に問題となることはなかった。
【0042】
これに対し、集積型光デバイスの場合には、筐体内に実装したドライバ回路素子が発した熱を、筐体の外部に配置したヒートシンク等に放熱することが必要となる。筐体の一部が熱伝導性の低いセラミックである場合や、ドライバ回路と蓋部とが非接触(両者間に空気層が存在)のため、蓋部側から放熱するのが非効率となる場合がある。このため、筐体の底面側(
図8の下側)をドライバ回路素子の放熱面とし、蓋部側をプリント基板への実装面とする構造がある。このような場合には、
図8に示すように、電気接続用端子(リードピンP1又はP2)の半田接続部が、蓋部側に位置するようになっている。
【0043】
図8のような構造の場合、蓋部の外周部と電気接続用端子(の一部)が近接し、例えば、両者の間隔G(蓋部の端部から電気接続用端子までの距離)が2mm以下となる場合がある。このため、シーム溶接時にローラー電極REが電気接続用端子(P1又はP2)に接触し、電気接続用端子を破損させることがある。特に、蓋部2の位置ずれにより、ローラー電極REの位置(高さや横方向の位置)が変わり、電気接続端子とローラー電極との接触が発生する。これを回避するためには、封止部材(シールリング)の開口部と蓋部の凸部分との隙間(長辺側に配置されたリードピンの場合は、d2)を小さく、例えば、隙間d2を0.3mm以下とすることで、シーム溶接時のカバーの位置ずれを抑制し、電気接続用端子の破損を防止することが可能となる。
なお、ここまではシーム溶接を用いた気密封止を説明してきたが、封止方法はこれに限定されず、レーザー溶接など他の方法を用いてもよい。
【0044】
図9は、光送信装置の一例を示す図である。
光変調器において、光導波路素子OEに隣接して光導波路素子の変調電極に印加する電気信号Soutを発生するドライバ回路素子DRVが配置され、光導波路素子OEとドライバ回路素子DRVは同一の筐体CS内に収容されている。光導波路素子OEには、光ファイバーFBを用いて、レンズ等の光学部品を介して、光導波路素子に形成された光導波路OWに、入力光Linが入力される。他方、光導波路素子OEから出射した光波は、例えば、偏波合成手段PCを経て合成され、レンズ等の光学部品を介して、別の光ファイバーに入力され、出力光Loutとなる。
【0045】
さらに、ドライバ回路素子DRVに入力する変調信号Sinを生成する信号発生器DSP(デジタル信号処理装置)とを設け、光送信装置として構成することも可能である。筐体CSと信号発生器DSPを一つのシャーシに組み込むことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明によれば、筐体本体と蓋部との溶接不良を抑制した光変調器及びそれを用いた光伝送装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 筐体本体
10 筐体の開口部を形成する側壁(封止部材)の端面
2 蓋部
20 蓋部の凸部分
R 凸部分のサイドエッジ部(傾斜面)
【要約】
【課題】
筐体本体と蓋部との溶接不良を抑制した光変調器を提供すること。
【解決手段】
光導波路素子を少なくとも収容する直方体の筐体を備えた光変調器において、該筐体は、該直方体の一面が開口部となっている筐体本体1と、該開口部を塞ぐ長方形の蓋部2とを備え、該蓋部は、周辺部分の厚みが薄く、該周辺部分を除き該蓋部には、筐体内部に向けて突出する凸部分20が形成され、該筐体本体に該蓋部を嵌め込んだ際に、該筐体本体の開口部を形成する端面の内周辺と該凸部分の外側端部との距離が、該蓋部の長辺側に形成される距離d2よりも、該蓋部の短辺側に形成される距離d1の方が、より大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【選択図】
図1