(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】半導体製造用液体供給装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 648K
H01L21/304 647Z
(21)【出願番号】P 2021145469
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】飯野 秀章
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-334433(JP,A)
【文献】特開2019-155221(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122771(WO,A1)
【文献】特開2018-206876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
B08B 1/00
B08B 3/00
B01F 21/00
B01F 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を供給する供給管と、
前記溶媒に対して所定量の薬液を添加することで所定の濃度の半導体製造用液体を調製する調製部と、
前記半導体製造用液体が所定の薬液濃度となるように前記調製部を管理する濃度制御部と、を備え、
前記供給管は、前記濃度制御部の後段で該供給管に接続されたドレン配管と、このドレン配管の接続部からユースポイントに連通する主配管とに分岐していて、
前記主配管には流量計測手段が設けられているとともに前記ドレン配管には前記流量計測手段の計測値に対応可能な流量調整機構が設けられている、半導体製造用液体供給装置。
【請求項2】
前記主配管およびドレン配管の流量の合計をほぼユースポイントの最大使用量に設定し、前記ドレン配管の流量を前記流量調整機構により変動させることで前記主配管の流量を制御可能となっている、請求項1に記載の半導体製造用液体供給装置。
【請求項3】
前記流量調整機構が、バルブであり、該バルブの開度を調整することで流量を調整する、請求項1又は2に記載の半導体製造用液体供給装置。
【請求項4】
前記流量調整機構が、流量調整バルブあるいは定圧弁である、請求項1又は2に記載の半導体製造用液体供給装置。
【請求項5】
前記薬液の注入手段として、ポンプあるいは薬液を充填した密閉タンクを不活性ガスで加圧して薬液を押し出す輸送手段を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体製造用液体供給装置。
【請求項6】
前記薬液が導電性の溶質であり、前記濃度制御部は、導電率計あるいは吸光光度計を有し、この導電率計あるいは吸光光度計の測定値に基づき前記薬液の添加量を制御可能となっている、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体製造用液体供給装置。
する制御手段
【請求項7】
前記薬液が非導電性の溶質であり、前記濃度制御部は、TOC計あるいは吸光光度計を有し、このTOC計あるいは吸光光度計の測定値に基づき前記薬液の添加量を制御可能となっている、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体製造用液体供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用ウェハの洗浄・リンス工程において、ドライエッチングなどによって形成された微細なトレンチや細孔に露出した配線材料、あるいはゲートに用いられる潮解性化合物に対して、腐食および溶解を抑制するための酸、アルカリ、あるいは有機溶媒等を含む溶液を効率よくかつ安定供給できる半導体製造用液体供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス構造の微細化や立体化、高集積化に伴い、配線抵抗低減の観点から銅やタングステン、コバルト、モリブデンなど低抵抗材料が採用されている。これら金属は腐食しやすいため、腐食防止のためシリコンウェハなどの洗浄・リンス工程で、pHや酸化還元電位の制御に有効な溶質をごく低濃度ないし数十%未満で溶解した液体(以下、半導体製造用液体と呼ぶ)が必要となる。さらにゲート材にはMgOやLa2O3のように水そのものに潮解性を示す材料が使用されることもあり、このような場合にはpHや酸化還元電位の厳密な濃度管理あるいは有機溶媒との併用が避けられない。これらの半導体製造用液体は、主に枚葉式ウェハ洗浄装置において洗浄・リンス液として使用される。
【0003】
この半導体製造用液体は、超純水を基本材料として、洗浄やリンス工程の目的に合致したpHや酸化還元電位などの液性を持たせるために、必要量の酸・アルカリ、酸化剤・還元剤を添加することで調製される。あるいは薬液に対し、超純水が希釈液といて用いられる。さらに、H2、NH3、O3といった還元性、アルカリ性、酸性のガスを超純水に溶解させることもあり、用途によって使い分けられている。このような半導体製造用液体の供給方法としては、ポンプを用いる方法、密閉容器とN2などの不活性ガスによる加圧を用いる方法があり、それぞれ実用化されている。
【0004】
特に低濃度に調整された半導体製造用液体を複数の枚葉式ウェハ洗浄装置で構成されるユースポイントに供給する装置の性能としては、装置の稼働台数の変更に伴う流量変動への追随性は歩留まり向上の観点から何よりも重要である。枚葉式ウェハ洗浄装置へ半導体製造用液体を送液する場合の流量変動には大きく2種類あり、一つは洗浄装置自体の立ち上げ時に半導体製造用液体としての所望の洗浄溶液を全く使っていない状態から使い始める際に生じる流量変動である。これについては、洗浄溶液が所望の水質となるまでの立ち上がりに要す期間を、ウェハ洗浄機側のタイミングチャートに予めプログラムしておくことで回避することができる。すなわち、立ち上がり初期で濃度が規定値で安定するまでの間は、ドレン配管に送液して排出することでウェハ洗浄に用いなければよい。
【0005】
一方、ユースポイントである枚葉式ウェハ洗浄装置ですでに低濃度に調整された洗浄溶液を、一定の流量で使用している状態から、枚葉式ウェハ洗浄装置の稼働台数の変更などにより、洗浄溶液の使用流量の変更が頻繁に生じた場合には、流量計と水質計を用いたフィードバック制御方式や、流量計による比例制御方式で対応することが行われている。しかしながら、ユースポイントでの使用量に応じた洗浄溶液を調製して供給する一過式の半導体製造用液体供給装置では、いずれの制御方法も通水流路の途中で濃度コントロールするには限界があり、流量変動への濃度追随性は高くはなく、半導体業界が求める厳しい濃度管理に対して、流量計とそれによるフィードバック制御や比例制御のみでの対応には限界がある。
【0006】
また低濃度へ希釈した洗浄溶液を一旦タンク貯留し、ガス加圧あるいはポンプによって送液するタンク貯留式による洗浄溶液の供給装置もあるが、このタンク貯留式の場合、タンク容量以上の洗浄溶液を送液できないため、ウェハ洗浄装置での使用に制限が生じる。また、タンク容量を大きくし過ぎると、半導体製造用液体の貯留に時間を要し、かつ設置スペースを確保する必要があり不便である。さらにはタンク貯留式では、ウェハ洗浄装置側の濃度変更要求のたびにタンク内の洗浄溶液を一旦廃棄しなければならず、環境負荷の観点からも得策でない。
【0007】
そこで、洗浄溶液などの半導体製造用液体の供給において、溶質濃度が所望の範囲に収まるよう、濃度モニタの信号を受けてPID制御、超純水流量に対する比例制御など、様々な手法による溶質濃度のコントロールが行われている。例えば、特許文献1には、機能的流体の超純水への溶解量又は混合量を精密に制御して正確な機能的流体濃度の機能水を生成することを目的としてマグネット機構を用いた流量調整手段が開示されている。また、特許文献2には、流量制御方法として主流体の流量を計測して計測値の信号を出力する流量計と、入力される該信号とに基づいて他の流体の供給量を制御する洗浄用気体溶解水供給装置の流量制御機構が提案されている。さらに特許文献3には、枚葉式ウェハ洗浄装置で用いられるウェハ洗浄水のレシピに記載の流量値から流量コントロールバルブにフィードバック制御をかけて濃度の制御を行う基板への液処理の供給装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4786955号公報
【文献】特開2003-334433号公報
【文献】特開2018-206876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のマグネット機構を用いた流量調整手段では、正確な混合が可能であるが、流量変動時の追随性が十分でない、という問題点がある。また、特許文献2に記載された洗浄用気体溶解水供給装置の流量制御方法では、枚葉式ウェハ洗浄装置に適用した場合に、送液中に枚葉式ウェハ洗浄装置での使用量が変化したときの流量追随性が十分でない、という問題点がある。さらに、特許文献3の基板への液処理の供給装置では、枚葉式ウェハ洗浄装置の流量変動時の微量な濃度コントロールが困難である、という問題点がある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、半導体製造用液体の溶質濃度を所望の値に精度よく調整でき、かつウェハ洗浄装置で使用される流量が変動しても安定して半導体製造用液体を供給可能な半導体製造用液体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明は、溶媒を供給する供給管と、前記溶媒に対して所定量の薬液を添加することで所定の濃度の半導体製造用液体を調製する調製部と、前記半導体製造用液体が所定の薬液濃度となるように前記調製部を管理する濃度制御部と、を備え、 前記供給管は、前記濃度制御部の後段で該供給管に接続されたドレン配管と、このドレン配管の接続部からユースポイントに連通する主配管とに分岐していて、 前記主配管には流量計測手段が設けられているとともに前記ドレン配管には前記流量計測手段の計測値に対応可能な流量調整機構が設けられている、半導体製造用液体供給装置を提供する(発明1)。特に上記発明(発明1)においては、前記主配管およびドレン配管の流量の合計をほぼユースポイントの最大使用量に設定し、前記ドレン配管の流量を前記流量調整機構により変動させることで前記主配管の流量を制御可能となっていることが好ましい(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明1,2)によれば、主配管とドレン配管の流量の合計をウェハ洗浄装置で必要な最大流量として設定し、主配管およびドレン配管の2の流路の流量をドレン配管の流量調整バルブの開度により調整することで、ユースポイントの使用量の変動に応じてドレン配管の流量を変動させることで、常に濃度変動なく半導体製造用液体をユースポイントに供給することができる。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、前記流量調整機構が、バルブであり、該バルブの開度を調整することで流量を調整することが好ましい(発明3)。また、上記発明(発明1,2)においては、前記流量調整機構が、流量調整バルブあるいは定圧弁であることが好ましい(発明4)。
【0014】
かかる発明(発明3,4)によれば、バルブ、流量調整バルブ、定圧弁などにより、ドレン配管の流量を調整することで、主配管にユースポイントの使用量に応じた量の半導体製造用液体を供給することができる。
【0015】
上記発明(発明1~4)においては、前記薬液の注入手段として、ポンプあるいは薬液を充填した密閉タンクを不活性ガスで加圧して薬液を押し出す輸送手段を用いることが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、超純水などの溶媒の流量に対する薬液の添加量をこれらの注入手段で制御することにより、所望の濃度の半導体製造用液体を供給することができる。
することができる。
【0017】
上記発明(発明1~5)においては、前記薬液が導電性の溶質であり、前記濃度制御部は、導電率計あるいは吸光光度計を有し、この導電率計あるいは吸光光度計の測定値に基づき前記薬液の添加量を制御可能となっていることが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、半導体製造用液体の導電性の溶質である薬液濃度を導電率計や吸光光度計の測定値に基づいて算定し、この算定値に基づいて薬液の注入量を制御することで、設定された薬液濃度に対して所定の濃度範囲の半導体製造用液体を供給することができる。
【0019】
上記発明(発明1~5)においては、前記薬液が非導電性の溶質であり、前記濃度制御部は、TOC計あるいは吸光光度計を有し、このTOC計あるいは吸光光度計の測定値に基づき前記薬液の添加量を制御可能となっていることが好ましい(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明7)によれば、半導体製造用液体の非導電性の溶質である薬液濃度をTOC計あるいは吸光光度計の測定値に基づいて算定し、この算定値に基づいて薬液の注入量を制御することで、設定された薬液濃度に対して所定の濃度範囲の半導体製造用液体を供給することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の半導体製造用液体供給装置によれば、主配管とドレン配管の流量の合計をウェハ洗浄装置で必要な最大流量として設定し、主配管およびドレン配管の2の流路の流量をドレン配管の流量調整バルブの開度で調整しているので、ユースポイントの使用量の変動に応じてドレン配管の流量を変動させることで、常に濃度変動なく半導体製造用液体を供給することができる。これにより、例えば腐食性あるいは潮解性を示す材料が埋め込まれたウェハ表面に対して、半導体製造用液体の溶質濃度を所望の値に精度よく調整でき、かつウェハ洗浄装置で使用される流量が変動しても安定して半導体製造用液体を供給可能な半導体製造用液体供給装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態による半導体製造用液体供給装置を示すフロー図である。
【
図2】同実施形態の半導体製造用液体供給装置の薬液の注入手段の一例を示すフロー図である。
【
図3】同実施形態の半導体製造用液体供給装置の薬液の注入手段の他例を示すフロー図である。
【
図4】比較例1の一過式の半導体製造用液体供給装置を示すフロー図である。
【
図5】実施例1のユースポイントの要求水量の変動と半導体製造用液体の導電率を示すグラフである。
【
図6】比較例1のユースポイントの要求水量の変動と半導体製造用液体の導電率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の半導体製造用液体供給装置について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
[半導体製造用液体供給装置]
図1は、本発明の一実施形態による半導体製造用液体供給装置を示している。
図1において、半導体製造用液体供給装置1は、溶媒としての超純水Wの供給源に連通した供給管2と、この供給管2の途中に設けられた調製部としての導電率調整剤供給機構3及び酸化還元電位調整剤供給機構4と、真空ポンプ5Aを備えた脱ガス手段としての膜式脱気装置5と、限外ろ過膜などの微粒子除去フィルタ6とを有する。供給管2には、微粒子除去フィルタ6の後段でドレン配管8が接続されることにより、主配管7とドレン配管8とに分岐している。主配管7には第一の瞬時流量計10が設けられていて、さらにユースポイントとしての枚葉式ウェハ洗浄装置9に連通している。この枚葉式ウェハ洗浄装置9は複数の洗浄機チャンバ9A,9B,9C・・・を有する。また、ドレン配管8には第二の瞬時流量計11が設けられていて、この第二の瞬時流量計11に付設して流量調整機構としての流量調整バルブ12が設けられている。この流量調整バルブ12としては、エア駆動式、電磁式などの制御が容易でレスポンスが短いものを用いるのが好ましい。
【0025】
また、膜式脱気装置5と微粒子除去フィルタ6との間には、濃度制御部としてのセンサ部13が設けられている。このセンサ部13は、導電率調整剤や酸化還元電位調整剤の濃度を好適に検出可能なものを適宜選択して用いればよく、導電率計、ORP計などの1または2以上から構成すればよい。あるいはオゾンなどの導電率計では検出しにくい薬液に対しては、流量計とUV吸光度法を用いた濃度計測装置などのセンサを用いてもよい。さらに、要に応じてTOC計などを設けてもよい。なお、14は供給管2の流量を制御する流量調整機構としての流量調整バルブである。
【0026】
そして、第一の瞬時流量計10、第二の瞬時流量計11及びセンサ部13は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)などの制御手段15に計測値を送信可能となっており、制御手段15は、これらの送信結果に基づいて、導電率調整剤供給機構3、酸化還元電位調整剤供給機構4、流量調整バルブ12および流量調整バルブ14を制御可能となっている。
【0027】
(調製部)
調製部は、供給管2の途中に設けられた導電率調整剤供給機構3と、酸化還元電位調整剤供給機構4とを有する。そして、これら導電率調整剤供給機構3及び酸化還元電位調整剤供給機構4は、本実施形態においては、
図2に示すように導電率調整剤のタンク3A及び薬液を添加するプランジャポンプ3Bと、酸化還元電位調整剤のタンク4A及び薬液を添加するプランジャポンプ4Bとからそれぞれ構成され、これらプランジャポンプ3B,4Bを制御手段15により制御することでそれぞれの薬液注入量を調整可能となっている。なお、導電率調整剤供給機構3は、pH調整剤供給機構として作用させてもよい。また、導電率調整剤供給機構3及び酸化還元電位調整剤供給機構4は、いずれか一方のみとしてもよい。
【0028】
この濃度調整部には、薬液の添加後にスタティックミキサーのようなライン混合装置設置することで薬液の均質化を図ることが望ましいが、レイノルズ数が4000以上になるよう配管系と移送混合時の流量を調整することで、それぞれの液体の粘性や密度が±20%程度と近似している場合には、特にスタティックミキサーを設置する必要はなくなり、配管にエルボやオリフィスがあれば十分に混合して薬液を均質化することができる。
【0029】
(超純水)
本実施形態において、原水となる超純水Wとは、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものが好適である。
【0030】
(薬液)
本実施形態において、導電率調整剤としては特に制限はないが、pH7未満に調整する場合には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの酸性溶液を用いることができる。また、pH7以上に調整する場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はTMAH等のアルカリ性溶液を用いることができる。また、場合によってはCO2などのガス体を用いてもよい。
【0031】
また、酸化還元電位調整剤としては、酸化還元電位を高く調整する場合には、過酸化水素水などを用いることができる。また、酸化還元電位を低く調整する場合にはシュウ酸、硫化水素、ヨウ化カリウムなどの溶液を用いることができる。また、場合によってはオゾン(O3)、水素(H2)などのガス体を用いてもよい。
【0032】
[希薄薬液の供給方法]
次に上述したような半導体製造用液体供給装置を用いた半導体製造用液体の供給方法について、以下説明する。
【0033】
(半導体製造用液体調製工程)
超純水(DIW)Wの供給源から超純水Wを供給するとともに、導電率調整剤供給機構3と酸化還元電位調整剤供給機構4とから、それぞれ導電率調整剤と酸化還元電位調整剤を供給する。このとき、超純水Wの流量は、ユースポイントとしての枚葉式ウェハ洗浄装置9の洗浄機チャンバ9A,9B,9C・・・の全台が稼働した際の最大量となるように制御手段15により流量調整バルブ14により制御する。そして、この超純水Wの流量に基づいて、導電率調整剤と酸化還元電位調整剤が所定の濃度となるように制御装置15により導電率調整剤供給機構3と酸化還元電位調整剤供給機構4を制御して、導電率調整剤及び酸化還元電位調整剤の添加量を調整する。なお、導電率調整剤及び酸化還元電位調整剤はいずれか一方のみを加えてもよい。このようにして調製された薬液は、膜式脱気装置5に送られ、溶存ガス成分を除去することで、半導体製造用液体W1として調製される。
【0034】
ここで、半導体製造用液体W1は、例えば銅、コバルト、La2O3、MgOなどを用いた半導体材料に対してはアルカリ性溶液とするのが効果的で、特にpH9~11の範囲でこれらの材料の溶解を効果的に抑制することが望ましい。また、半導体材料が銅、コバルトを含む場合には、半導体製造用液体W1をpH9~11の範囲でかつ酸化還元電位を0.1~1.7Vの範囲に調整することで不働態化が生じ、さらに溶解抑制を期待できる。ただし、アルカリ条件のみでも溶解抑制効果は認められるので、この酸化還元電位に限定されない。アルカリの種類は、リンス時の汚染防止の点でアンモニアが望ましいが、TMAHや水酸化ナトリウムなど他のアルカリ性溶液を用いても、溶解抑制と浸透に対して何ら問題ない。一方、半導体材料がタングステン、モリブデンを含む場合には、半導体製造用液体W1は酸性溶液とするのが効果的で、特に薬液消費量削減の観点から、pH2~5とするのが望ましい。そして、酸化剤や溶存酸素濃度を低くすることでさらなる溶解抑制が期待できる。酸性溶液の調整は、塩酸の希釈あるいは炭酸ガスの溶解が広く知られており、コンタミ抑制の点でもこれらが望ましい。
【0035】
(濃度制御工程)
このようにして調製された半導体製造用液体W1は、濃度制御部としてのセンサ部13で導電率・酸化還元電位(ORP)などを計測し、この計測値を制御手段15に送信する。制御手段15は、導電率の値に基づき、必要に応じて導電率調整剤供給機構3のプランジャポンプ3Bを制御することにより導電率調整剤の添加量を調整する。一方、酸化還元電位の値に基づき、必要に応じて酸化還元電位調整剤供給機構4のプランジャポンプ4Bを制御することにより酸化還元電位調整剤の添加量を調整する。このようにして半導体製造用液体W1の導電率及び酸化還元電位を常に所望の値に調整することができる。また、半導体製造用液体W1の導電率及び酸化還元電位を変動させる場合にも同様にして迅速に調製することができる。
【0036】
このような濃度制御工程において、制御手段15には、センサ部13の計測値を表示するコントロール用インラインモニターを配備するなどして、誤差±5以下に各溶液濃度をコントロールすることが望ましい。また、枚葉式ウェハ洗浄装置9の使用量の変動に際しては濃度変動が生じやすいが、ドレン配管8に設置した第二の瞬時流量計11及び流量調整バルブ12と、主配管7に設置した第一の瞬時流量計10の出力によって薬液注入量やガス供給量などをコントロールすることで、枚葉式ウェハ洗浄装置9で使用する流量が変動しても、濃度変動を最小限の範囲に抑制し、安定した洗浄の半導体製造用液体W1を枚葉式ウェハ洗浄装置9へ送液することが可能となる。
【0037】
(半導体製造用液体W1の供給工程)
続いて半導体製造用液体W1は、微粒子除去フィルタ6を通過した後、主配管7から枚葉式ウェハ洗浄装置9に供給される。このとき主配管7の流量は、浄機チャンバ9A,9B,9C・・・のうち稼働しているものの使用量の合計となるので、各洗浄機チャンバの稼働台数により変動する。そして、本実施形態においては、主配管7には第一の瞬時流量計10が設けられているので、主配管7の流量を測定し、この計測値を制御手段15に送信する。供給管2に供給される超純水Wの流量は、ユースポイントとしての枚葉式ウェハ洗浄装置9の複数の洗浄機チャンバ9A,9B,9C・・・の全台が稼働した際の最大量となるように設定されているので、制御手段15は、この最大量と使用量との差量が、ドレン配管8の流量となるように流量調整バルブ12の開度を迅速に調節してドレン配管8からドレン水Dとして排出する。これにより、供給管2の流量、すなわち半導体製造用液体W1の調製量を常に一定に保つことができるので、各洗浄機チャンバの稼働台数が変動して、半導体製造用液体W1の使用量が変動しても、所定の濃度範囲内の最小限の濃度変動で半導体製造用液体W1を供給することができる。なお、ドレン水Dは、そのまま排水としてもよいが、各種処理により導電率調整剤及び酸化還元電位調整剤を除去した後、超純水Wの供給源に還流してもよい。
【0038】
以上、本発明の半導体製造用液体供給装置について、前記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、調製部の導電率調整剤供給機構3と酸化還元電位調整剤供給機構4は、
図2に示すものに限らず、
図3に示すように導電率調整剤のタンク3A及び酸化還元電位調整剤のタンク4Aを密閉タンクとし、このタンク3A及びタンク4Aに不活性ガス供給源としてのN
2ガス供給源16を接続し、このN
2ガス供給源16から供給管17を介して、図示しない流量調節機構により不活性ガスとしてのN
2ガスをそれぞれ供給して、導電率調整剤及び酸化還元電位調整剤を圧送して、所望の溶質濃度となるように添加するようにしてもよい。また、本発明は、溶媒としては超純水Wに限らず、IPAなどの有機溶剤などにも適用可能である。
【0039】
さらに、センサ部13の構成は、溶質が導電性であるか、非導電性であるかにより適宜変更すればよい。例えば導電性の溶質の場合には導電率計、吸光光度計を設け、非導電性の溶質の場合には、TOC計、吸光光度計を設けるなどすればよい。
【0040】
さらにまた記実施形態においては、ガス溶解膜を設けて所望のガス成分を半導体製造用液体W1に溶解してもよい。なお、供給管2の途中には、バッファ管や貯留槽を設けてもよいし、溶液の加熱器などを設けてもよい。また、ユースポイントとしては、枚葉式ウェハ洗浄装置9に限らず、種々の半導体製造用液体を使用する装置に適用可能である。
【実施例】
【0041】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
[実施例1]
図1に示す半導体製造用液体供給装置1において、主配管7を枚葉式ウェハ洗浄装置9に接続し、コバルトを積層したウェハの洗浄を行った。このとき導電率調整剤供給機構3からアンモニア水を供給して10ppmまで希釈されたアンモニア水を洗浄溶液(半導体製造用液体W1)とした。なお、酸化還元電位調整剤供給機構4は何も供給しないように設定した。この洗浄溶液は導電率が25μS/cm±10%に収まることを目標とした。この枚葉式ウェハ洗浄装置9は5つの処理用チャンバを有し、各チャンバは2L/分の洗浄溶液を必要とし、各チャンバの稼働・停止を模擬的に制御して、枚葉式ウェハ洗浄装置9への洗浄溶液送液量を変更した。この際、供給管2の流量はウェハ洗浄装置が要求する最大流量である10L/分に設定した。このような処理において、枚葉式ウェハ洗浄装置9への洗浄溶液の要求量の変動に応じた洗浄溶液の導電率を測定した。結果を
図5に示す。
【0043】
[比較例1]
図4に示す一過式の半導体製造用液体供給装置を準備した。
図4の半導体製造用液体供給装置1Aにおいては、前述した
図1と同じ構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図4に示す半導体製造用液体供給装置1Aは、ドレン配管8を有しない代わりに、膜式脱気装置5の後段にバッファ管21が設けられており、供給管2には、瞬時流量計14Aが付設された流量調整バルブ14が設けられている。そして、図示しない制御装置により、枚葉式ウェハ洗浄装置9の要求流量に追従して、その都度供給管2の流量調整バルブ14の開度を調整して流量を調整するとともに、導電率調整剤供給機構3からのアンモニア水の供給量を調整して10ppmに希釈されたアンモニア水を洗浄溶液(半導体製造用液体W1)を調製するように設定して枚葉式ウェハ洗浄装置9に供給した。
【0044】
この枚葉式ウェハ洗浄装置の5つの処理用チャンバの稼働・停止を模擬的に制御して、枚葉式ウェハ洗浄装置9への洗浄溶液送液量を実施例1と同じく変更した。この枚葉式ウェハ洗浄装置9への洗浄溶液の要求量の変動に応じた洗浄溶液の導電率を測定した。結果を
図6に示す。また、これらの結果から実施例1及び比較例1でウェハ洗浄装置に対して対応可能なチャンバ数を算定した結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
図5、
図6及び表1から明らかなように、実施例1の半導体製造用液体供給装置では、流量変動しても±10%の濃度範囲に収まることがわかった。そして、供給管2に常時ウェハ洗浄装置の最大要求流量である10L/分の希薄アンモニア水を通水することで、途中でウェハ洗浄装置の要求流量が変動してもこれに追従し、安定した濃度の希薄アンモニア水を必要流量に応じて供給できることがわかる。これに対し、一過式の半導体製造用液体供給装置である比較例1では、流量が変動するに伴って濃度調整を試みているが対応が追い付かず、濃度が大幅に変動する結果となった。これより、一過式では供給管2に濃度の変動を緩和するためのバッファ管21を備えていたとしても、流量変動に追随できず、短時間の変動では所定の導電率の洗浄溶液を供給することが困難となることがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1 半導体製造用液体供給装置
2 供給管
3 導電率調整剤供給機構(調製部)
3A タンク
3B プランジャポンプ
4 酸化還元電位調整剤供給機構(調製部)
4A タンク
4B プランジャポンプ
5 膜式脱気装置
5A 真空ポンプ
6 微粒子除去フィルタ
7 主配管
8 ドレン配管
9 枚葉式ウェハ洗浄装置
9A,9B,9C・・・ 洗浄機チャンバ
10 第一の瞬時流量計
11 第二の瞬時流量計
12 流量調整バルブ(流量調整機構)
13 センサ部(濃度制御部)
14 流量調整バルブ
15 制御手段
16 N2ガス供給源(不活性ガス供給源)
17 供給管
W 超純水
W1 半導体製造用液体
D ドレン水
【要約】
【課題】 ウェハ洗浄装置で使用される流量が変動しても半導体製造用液体の溶質濃度を所望の値に精度よく安定して供給可能な半導体製造用液体供給装置を提供する。
【解決手段】 半導体製造用液体供給装置1は、超純水Wの供給源に連通した供給管2と、この供給管2の途中に設けられた導電率調整剤供給機構3及び酸化還元電位調整剤供給機構4と、膜式脱気装置5と、微粒子除去フィルタ6とを有する。供給管2は主配管7とドレン配管8とに分岐している。主配管7には第一の瞬時流量計10が設けられていて、さらに枚葉式ウェハ洗浄装置9に連通している。ドレン配管8には第二の瞬時流量計11が設けられていて、さらに流量調整バルブ12が設けられている。また、膜式脱気装置5と微粒子除去フィルタ6との間には、センサ部13が設けられている。そして、制御手段15は、流量調整バルブ12を制御可能となっている。
【選択図】
図1