(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-04
(45)【発行日】2022-07-12
(54)【発明の名称】聴診器および電子聴診装置
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20220705BHJP
A61B 5/287 20210101ALI20220705BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20220705BHJP
H04R 1/46 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61B7/04 D
A61B7/04 R
A61B7/04 Y
A61B5/287
H04R17/02
H04R1/46
(21)【出願番号】P 2020562902
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044435
(87)【国際公開番号】W WO2020137212
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2018243492
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆満
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勉
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0310709(US,A1)
【文献】特開平10-309272(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020887(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170772(WO,A2)
【文献】特開2017-153640(JP,A)
【文献】特表2010-534098(JP,A)
【文献】特開2014-142323(JP,A)
【文献】国際公開第2005/067340(WO,A1)
【文献】特表2009-517129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0168473(US,A1)
【文献】国際公開第2017/069057(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00 - 7/04
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
H04R 17/02
H04R 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台と、
該支持台に支持された検出部であって、被測定物から生じる音を検出する検出部とを備え、
前記検出部が、少なくとも前記被測定物から生じる音を検出する部分に、前記支持台と対向して配置された圧電フィルムであって、該支持台とは逆側に凸に湾曲した圧電フィルムを有し、
該圧電フィルムが、互いに対向する2つの主面を有する圧電体層と、前記2つの主面のうち前記支持台側の主面に備えられた第1の電極と、前記支持台とは逆側の主面に備えられた第2の電極とを備え、
前記第2の電極は、前記圧電フィルムの凸に湾曲した部分の中央部にのみ備えられ、
前記被測定物から生じる音によって前記圧電フィルムに生じる歪を振動信号として検出する聴診器。
【請求項14】
支持台と、
該支持台に支持された検出部であって、被測定物から生じる音を検出する検出部と、
心電図測定用電極と、を備え、
前記検出部が、少なくとも前記被測定物から生じる音を検出する部分に、前記支持台と対向して配置された圧電フィルムであって、該支持台とは逆側に凸に湾曲した圧電フィルムを有し、
該圧電フィルムが、互いに対向する2つの主面を有する圧電体層と、前記2つの主面のうち前記支持台側の主面に備えられた第1の電極と、前記支持台とは逆側の主面に備えられた第2の電極とを備え、
前記心電図測定用電極は、前記圧電フィルムの前記第2の電極を備える面側に設けられ、
前記心電図測定用電極と前記第2の電極とが、パターン化電極層から構成され、
前記被測定物から生じる音によって前記圧電フィルムに生じる歪を振動信号として検出する聴診器。
【請求項15】
請求項1から5及び7から14のいずれか1項に記載の聴診器と、
前記聴診器により検出された振動信号および押し当て圧力に関するデータを受け取る処理装置とを備え、
前記処理装置は、前記振動信号および前記押し当て圧力に関するデータから、前記圧電フィルムによって検出される前記振動信号の振幅が最大となる前記被測定物への押し当て圧力を求める第1処理、および前記被測定物への押し当て圧力が適正か否かを判定する第2処理の少なくとも一方の処理を行う、電子聴診装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体音を再現性良く測定可能な聴診器および電子聴診装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体を外部から観察する器具として、聴診器が一般に用いられている。聴診器は生体内部で発生する心音あるいは血流音等の音を増幅させて直接聴くことができるものである。近年では、聴診器からの音を、デジタル変換装置等を介してコンピュータと接続し、コンピュータを用いて記録する電子聴診システムが提案されている。
【0003】
電子聴診システムは、遠隔診療での利用が期待されている。テレビ電話等を用いた遠隔診療において、聴診器による診断を行う場合、聴診部を患者自身が自己の身体に接触させて、生体音は音センサによって検出され電気信号に変換されて、インターネット等の通信手段により遠隔の医師に送信するという方法が用いられる。特許文献1には、聴診部を体表面に適切に接触していることを、遠隔地から認識できるようにするために、聴診部に人体への接触を検知するセンサを備えた構成が提案されている。
【0004】
また、電子腕時計型の脈波処理装置において、脈波を検出する脈波センサによる検出信号が脈波センサと人体の間の押圧力によって変化することから、適切な押圧力で接触した状態であるか否かを確認する押圧力検出手段を備えた構成が特許文献2に開示されている。
【0005】
一般に、聴診器は、肌に当てる部分(聴診部)を有し、その聴診部に集音のためのダイアフラムが備えられている。一方、電子聴診システムにおける聴診器は、その聴診部にダイアフラムと空気層を隔てて音(振動)センサが設けられた構成が知られている(例えば特許文献3)。これに対し、空気層を介さず肌から直接生体音を取得する圧電素子からなる音センサを備えた聴診器が特許文献4に提案されている。特許文献4の聴診器によれば、圧電素子を直接肌に当てるため、検出可能な周波数を大幅に拡げることができる。特許文献4の音センサは、具体的には、一方の面が人体の肌に接する金属板と、金属板の他方の面に形成された圧電セラミックからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-170112号公報
【文献】国際公開第94/15525号
【文献】特開2016-179177号公報
【文献】特開2012-90909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4の圧電素子は、肌に触れる部分が平坦な面となっており、検出効率が十分とは言えない。聴診器においては、微弱な生体音を効率よく検出可能であることが望まれる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、生体音を高いSN比(Signal to Noise ratio)で測定可能な聴診器および電子聴診装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>本開示の聴診器は、支持台と、支持台に支持された検出部であって、被測定物から生じる音を検出する検出部とを備え、検出部が、少なくとも被測定物から生じる音を検出する部分に、支持台と対向して配置された圧電フィルムであって、支持台とは逆側に凸に湾曲した圧電フィルムを有し、圧電フィルムが、互いに対向する2つの主面を有する圧電体層と、2つの主面のうち支持台側の主面に備えられた第1の電極と、支持台とは逆側の主面に備えられた第2の電極とを備え、被測定物から生じる音によって圧電フィルムに生じる歪を振動信号として検出する。
<2>被測定物から生じる音を検出する部分の周囲に設けられた、外部音を遮蔽する遮音部材を備える、<1>に記載の聴診器。
<3>遮音部材は、圧電フィルムの凸に湾曲した部分の頂点以上に外側に突出した部分を有する弾性部材からなる、<2>に記載の聴診器。
<4>さらに、支持台と圧電フィルムとの間にクッション材を備える、<1>から<3>のいずれかに記載の聴診器。
<5>さらに、支持台と圧電フィルムとの間の空間に加圧気体を有する、<1>から<3>のいずれかに記載の聴診器。
<6>第2の電極は、圧電フィルムの凸に湾曲した部分の中央部にのみ備えられる、<1>から<5>のいずれかに記載の聴診器。
<7>圧電体層は、高分子材料からなるマトリックス中に、圧電体粒子を分散してなる高分子複合圧電体からなる、<1>から<6>のいずれかに記載の聴診器。
<8>さらに、心電図測定用電極を備える、<1>から<7>のいずれかに記載の聴診器。
<9>心電図測定用電極は、圧電フィルムの第2の電極を備える面側に設けられている、<8>に記載の聴診器。
<10>心電図測定用電極と第2の電極とが、パターン化電極層から構成されている、<9>に記載の聴診器。
<11>さらに、支持台と圧電フィルムとの間に、圧電フィルムの被測定物への押し当て圧力を検出する圧力センサを備える、<1>から<10>のいずれかに記載の聴診器。
<12>圧電フィルムによって検出される振動信号の振幅が最大となる被測定物への押し当て圧力を求める第1処理、および被測定物への押し当て圧力が適正か否かを判定する第2処理の少なくとも一方の処理を行う処理部を備える、<1>から<11>のいずれかに記載の聴診器。
<13>処理部は、第1処理で求めた圧力、および第2処理で判定した判定結果の少なくとも一方を報知部から報知する処理を行う、<12>に記載の聴診器。
<14><1>から<13>のいずれかに記載の聴診器と、聴診器により検出された振動信号および押し当て圧力に関するデータを受け取る処理装置とを備え、処理装置は、振動信号および押し当て圧力に関するデータから、圧電フィルムによって検出される振動信号の振幅が最大となる被測定物への押し当て圧力を求める第1処理、および被測定物への押し当て圧力が適正か否かを判定する第2処理の少なくとも一方の処理を行う、電子聴診装置。
【発明の効果】
【0010】
本開示の聴診器および電子聴診装置によれば、生体音を高いSN比で測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図2】圧電フィルムの曲率半径の算出方法を説明するための図である。
【
図3A】圧電フィルムの断面を拡大して示す図である。
【
図3B】設計変更例の圧電フィルムの断面を拡大して示す図である。
【
図4】第2の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図5】第2の実施形態の聴診器を生体の皮膚表面に接触させた状態を示す模式図である。
【
図6】第3の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図7】第3の実施形態の聴診器の構成を示すブロック図である。
【
図8】第4の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図9】第4の実施形態の聴診器の構成を示すブロック図である。
【
図10】第5の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図11】第6の実施形態の聴診器の構成を示す模式図である。
【
図12】押し当て圧力の大きさによって信号のSN比が変化することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示の聴診器の実施の形態について説明する。
【0013】
「第1の実施形態の聴診器」
図1は、本発明の第1の実施形態の聴診器1の平面模式図および一部を断面として示す側面模式図である。図面において視認容易のため、各層の膜厚およびそれらの比率は、適宜変更して描いており、必ずしも実際の膜厚および比率を反映したものではない(以下の図面においても同様とする。)。
【0014】
本実施形態の聴診器1は、支持台10と、支持台10に支持された検出部12とを備える。検出部12は、被測定物から生じる音を検出する。検出部12は、支持台10と対向して配置された圧電フィルム20であって、支持台10とは逆側に凸に湾曲した圧電フィルム20を有する。圧電フィルム20は、互いに対向する2つの主面を有する圧電体層22と、2つの主面のうち支持台10側の主面に備えられた第1の電極24と、支持台10とは逆側の主面に備えられた第2の電極25とを備える。圧電フィルム20は少なくとも被測定物から生じる音を検出する部分(以下においてセンサ領域15ともいう。)に備えられていればよい。
聴診器1は、例えば、従来の聴診器における聴診部(チェストピース)部分と同程度の大きさである。
【0015】
上記構成により、聴診器1は、被測定物から生じる音によって圧電フィルム20に生じる歪を振動信号として検出する。具体的には、被測定物にセンサ領域15の圧電フィルム20を接触させると、被測定物から生じる音に起因して被測定物の表面に発生する振動によって、圧電フィルム20が振動し、その振動を第1の電極24および第2の電極25の間に生じる電圧として検出する。本明細書においては、このように検出される電圧を振動信号と称している。聴診器1は、圧電フィルム20の第1の電極24および第2の電極25に接続され、両電極24および25間の電圧を検出する検出器として、検出回路40を備える。検出回路40は支持台10内部に備えられていてもよいし、支持台10の外部に備えられていてもよい。検出回路40には、振動信号を増幅する増幅回路が備えられており、振動信号は増幅されて検出回路40から出力される。なお、増幅された振動信号Sは音響信号(音)に変換する変換部において音に変換され、スピーカーから聞くことができる。あるいは、従来の聴診器構造のように、模擬的な耳管を介してイヤーピースから聞くこともできる。なお、支持台10は、聴診器1を被測定物に押し当てる際にユーザが把持する部分であり、形状および材質に制限はない。圧電フィルム20は支持台10の少なくとも一部に対向して設けられていればよく、その一部との間に空間をもって、外側に凸となるように一定の張力が与えられた状態で支持されていれば、凸に湾曲していると看做すことができる。
圧電フィルム20は、支持台10の一部に直接接続されていてもよいし、他の部材を介して支持台10に接続されていてもよい。
【0016】
以下において、被測定物は生体であり、被測定物から生じる音は、生体から生じる音(生体音)として説明する。生体から生じる音としては、心拍、呼吸音、血管音および腸音等が挙げられる。但し、本開示の聴診器は、機械の異音の検出、および、配管の異常の検出等に用いることも可能である。すなわち、被測定物としては、生体に限らず、機械および配管等を含み、被測定物から生じる音としては、機械および配管等から生じる音を含む。
【0017】
聴診器1の凸に湾曲した圧電フィルム20を生体の皮膚表面、すなわち肌に適切な押し圧力で押し当てることで、生体音を高いSN比で検出することができる。肌に押し当てられた圧電フィルム20は、生体音に起因する生体表面の変位(振動)を直接検出することができる。したがって、従来のマイクロフォンを内蔵し、空気層を介して振動を検出していた聴診器と比較して、ノイズ成分を抑制することができる。また、検出可能な周波数を大幅に拡げることができる。また、湾曲した圧電フィルム20を肌に押し当てることによって、湾曲していない平面状の圧電フィルムを肌に押し当てる場合よりも生体音の検出効率を向上させることができる。生体表面の振動によって圧電フィルム20に歪が生じ、その歪が圧電フィルム20において電圧に変換され振動信号として検出される。圧電フィルムが湾曲して設けられている場合、圧電フィルムが湾曲を有さず平面状に設けられている場合と比較して、歪が生じた際の圧電体層に生じる面内方向における伸縮を大きくすることができるので、得られる電圧の振幅が大きくなる。そのため、高いSN比での集音が可能となる。
【0018】
圧電フィルムの湾曲度合いはその曲率半径で表すことができる。曲率半径は、
図2に示すように、圧電フィルム20が均一な円弧を描いた状態で支持台に支持されていると仮定し、式、R={(w/2)
2+h
2}/2hによって求めることとする。ここで、圧電フィルム20の曲率半径をR、支持台との接続端を含む面から凸部の頂点までの距離(矢高)をh、支持台との接続端を含む面においてhと交差する点を通り、接続端間の最長の長さをwとする(
図2参照)。wは、例えば、円盤状の支持台を備えた場合、円盤の直径に相当する。
【0019】
例えば、直径3~10cm程度のチェストピース形状の聴診器を想定した場合、圧電フィルムを湾曲させたことによる効果を十分に得る観点から曲率半径は1m以下が好ましく、0.6m以下がより好ましい、一方で肌との接触面積を十分なものとして、高い感度を実現する観点から、曲率半径は0.03m超とすることが好ましい。
なお、圧電フィルム20は、凸部の頂点近傍はほぼ平らな平坦部になり、その平坦部に接続された外縁部が、支持台10から立ち上がる傾斜部を構成して、平坦部と傾斜部との接続部で大きく湾曲した形状となっていてもよい。そのような形状である場合にも、圧電フィルム20の曲率半径Rは、上記と同様に凸部の頂点までの距離hと圧電フィルムの端部間の最長の長さwとから求める。
【0020】
圧電フィルム20は少なくとも被測定物から生じる音を検出する部分に設けられていればよいが、支持台10と対向する全面に設けられていてもよい。本実施形態の聴診器1においては、圧電フィルム20と支持台10との間の空間50にクッション材52が充填されている。聴診器1においては、このクッション材52によって、圧電フィルム20を凸に湾曲させ、ある程度の張力をかけた状態で圧電フィルム20を支持させている。
クッション材52は、適度な弾性を有し、圧電フィルム20を支持すると共に、圧電フィルム20のどの場所でも一定の機械的バイアスを与えることによって、圧電フィルム20のフィルム面に垂直な方向の運動(振動)をフィルムの面内方向への伸縮運動に変換させることにより、電荷の発生効率を向上させるために備えられる。
またクッション材の充填密度を変えることで、適切な反発力を有する聴診器を実現できる。
【0021】
クッション材52としては、適度な弾性を有し、圧電フィルム20に歪が生じるのを妨げず、好適に変形するものであれば限定はない。具体的には、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル繊維を含んだ羊毛フェルトおよびグラスウール等の繊維材料、ポリウレタン等の発泡材料を用いるのが好ましい。
【0022】
なお、空間50には、クッション材52を充填する代わりに、加圧空気等の加圧気体を充填してもよい。
【0023】
[圧電フィルム]
圧電フィルム20は、
図3Aにその一部を拡大して示すように、圧電体層22と、圧電体層22の一面に設けられる第1の電極24および他面に設けられる第2の電極25とを有している。圧電フィルム20は被測定物への押し当て時に割れを生じない程度の弾性および可撓性を有する。なお、
図3Bに示すように、圧電フィルム20は、さらに、第1の電極24の表面に設けられる保護層27および第2の電極25の表面に設けられる保護層28を有していてもよい。圧電体層22としては、第1の電極24および第2の電極25間に電圧をかけた場合に、面内方向に伸縮を生じる、すなわち主面が伸縮するものを用いる。
【0024】
圧電体層22の材質は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))、およびポリ乳酸等の有機圧電フィルム、特開2014-199888号公報に開示されているような高分子複合圧電体であってもよい。高分子複合圧電体は、
図3Aおよび
図3Bに示すように、高分子材料からなるマトリックス22a中に、圧電体粒子22bを均一に分散したものである。また、圧電体層22は、ポーリング(分極)されていることが必要である。
なお、圧電体層22中の圧電体粒子22bは、マトリックス22a中に、規則性を持って分散されていてもよいし、不規則に分散されていてもよい。
【0025】
マトリックス22aとしては、例えば、シアノエチル化ポリビニルアルコール(シアノエチル化PVA)等の常温で粘弾性を有する高分子材料が好ましい。マトリックス22aとしては、シアノエチル化PVAの他、ポリ酢酸ビニル、ポリビニリデンクロライドコアクリロニトリル、ポリスチレン-ビニルポリイソプレンブロック共重合体、ポリビニルメチルケトン、およびポリブチルメタクリレート等が例示される。
【0026】
圧電体粒子22bは圧電体の粒子である。圧電体粒子22bは、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミックス粒子であることが好ましい。セラミックス粒子としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、およびチタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体等が例示される。
【0027】
さらに、圧電体層22の材質としては、特開2018-191394号公報、特開2014-233688号公報、および特開2017-12270号公報のポリマーを主成分とするポリマーエレクトレット材料、例えば、ポリイミド;ポリプロピレン;PTFE(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化))、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))AF(アモルファスフルオロポリマ)等のテフロン(登録商標);ポリエチレン;およびCOCs(シクロオレフィンポリマ)などの有機材料を用いることもできる。
【0028】
第1の電極24および第2の電極25は、圧電体層22の歪を電圧として検出するための電極である。
第1の電極24および第2の電極25の形成材料には、特に、限定はなく、各種の導電体が利用可能である。具体的には、C、Pd、Fe、Sn、Al、Ni、Pt、Au、Ag、Cu、CrおよびMo等、並びに、これらの合金が例示される。また、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ、および酸化亜鉛等の透明導電膜を利用することができる。さらには、導電性ポリマーなどの有機系の導電体なども利用することができる。電極の形成方法にも、特に限定はなく、真空蒸着あるいはスパッタリング等の気相堆積法(真空成膜法)による成膜、スクリーン印刷、および上記材料で形成された箔を貼着する方法等、公知の方法が、各種、利用可能である。
【0029】
中でも特に、圧電フィルム20の可撓性すなわち前後運動の大きさが確保できる、圧電体層の変形を拘束しない薄い電極層を形成できる等の理由で、真空蒸着によって成膜された銅、アルミの薄膜、あるいは導電性ポリマーは、第1の電極24および第2の電極25として、好適に利用される。
【0030】
第1の電極24および第2の電極25の厚さには、特に、限定は無いが、1μm以下が好ましく、可能な範囲で薄い方が好ましい。また、第1および第2の電極24および25の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
【0031】
また、第1の電極24および/または第2の電極25は、必ずしも、圧電体層22の全面に対応して形成される必要はない。すなわち、第1の電極24および第2の電極25の少なくとも一方が、例えば圧電体層22よりも小さくてもよい。凸側の表面に設けられる第2の電極25は圧電フィルム20の凸に湾曲した部分の中央部に備えられてもよく、中央部にのみ備えられていてもよい。圧電フィルム20の凸に湾曲した部分の中央部は、凸側の表面のうち、凸に湾曲した部分の頂点を含み、かつ頂点からの距離が頂点から支持台との接続端までの距離の半分以下である、領域であることが好ましい。
【0032】
保護層27,28には、特に限定はなく、各種のシート状物が利用可能であり、一例として、各種の樹脂フィルム(プラスチックフィルム)が好適に例示される。中でも、優れた機械的強度、および耐熱性を有する等の理由により、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PN)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、環状オレフィン系樹脂、天然ゴム、フルオロシリコーンゴム、およびシリコーンゴムは、好適に利用される。
【0033】
保護層27,28の厚さにも、特に、限定は無い。また、保護層27,28の厚さは、基本的に同じであるが、異なってもよい。
ここで、前述の電極24,25等と同様、保護層27,28の剛性が高いと、圧電体層22の伸縮を拘束してしまうため、結果として圧電フィルムの前後運動の振幅が小さくなってしまう。従って、保護層27,28の厚さは、圧電フィルム20すなわち音センサに要求される性能、ハンドリング性、および機械的強度等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0034】
なお、圧電フィルム20の一部には、第1の電極24および第2の電極25を検出回路40に接続するための配線が設けられている。
図1の側面模式図においては、第1の電極24および第2の電極25と検出回路40とを繋ぐ接続線を模式的に示している。例えば、
図1の平面図に示すように、第2の電極25に接続された配線25aは圧電フィルム20の端部に延びるように設けられる。配線25aは、第2の電極25と同時に電極層のパターニングによって形成することができる。その場合、配線25aと第2の電極25は同一材料から構成されたものとなる。
【0035】
本実施形態の聴診器1によれば、心拍、呼吸音、血管音および腸音等の生体から発せられる体内音を高精度に測定することができる。例えば、大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、および三尖弁閉鎖不全症などに起因する心拍における異常音も精度よく検出することできる。また、例えば、聴診器1を腕等に装着させて、十分に強く血管を押し、ゆっくり離していく場合の血管音を測定することで血圧に対応したデータを取得することもできる。
【0036】
図1に示す聴診器1は、従来の聴診器におけるチェストピース部分として用いることができ、検出回路から信号を伝達する電線が内包されたチューブ、耳管およびイヤーピースを備えることにより、従来の聴診器と同様の使用方法で用いることができる。また聴診器1にBluetooth(登録商標)、赤外線通信等の無線通信のための機能を備え、スマートフォンおよびパーソナルコンピュータ等と通信可能としてもよい。スマートフォンあるいはパーソナルコンピュータ等の表示部および信号処理部へ検出したデータを送信し、波形をモニタで確認したり、データとして記録し、経時変化等の診断に用いたりすることができる。
【0037】
本聴診器1によれば、センサ領域が凸となっているために、圧電フィルムの皮膚表面への良好な接触を実現でき、高い効率で生体音を検出することができる。一方、センサ領域が凸になっているために、センサ領域を皮膚に押し当てた際に、検出部12の凸の周りの部分と生体との間に隙間が生じ、その隙間から環境音および人の声等を含む外部音が入り込み易い。そこで、外部音によるノイズの影響を排除する手段を備えていることが好ましい。
【0038】
「第2の実施形態の聴診器」
図4は、本発明の第2の実施形態の聴診器2の平面模式図および一部を断面で示す側面模式図である。
図4において、
図1から
図3において説明した要素と同等の要素については同一符号を付し、詳細な説明を省略する。以下の図面においても同様とする。
【0039】
聴診器2は、第1の実施形態の聴診器1の構成において、被測定物から生じる音を検出する部分、ここでは圧電フィルム20の周囲に設けられた、環境音および人の声等の外部からの音(外部音)を遮断する遮音部材を備えている。遮音部材は圧電フィルム20の凸に湾曲した部分の頂点以上に外側に突出した部分を有する遮音用の弾性部材を含むことが好ましい。本実施形態においては、遮音部材として、圧電フィルム20の凸に湾曲した部分の頂点以上に外側に突出した部分を有する遮音用の弾性部材55を備えている。それ以外の構成は聴診器1と同様である。なお、
図4においては、検出回路の図示を省略している。
【0040】
図4に示すように、弾性部材55は、圧電フィルム20の凸に湾曲した部分の頂点、ここでは、湾曲面のほぼ中央の部分よりもΔh高く、先端が支持台から離れる方向、すなわち外側に突出して設けられている。
【0041】
図5は、聴診器2を生体90の皮膚表面に押し当てた状態を示す。
図5に示すように、この聴診器2を用いて生体音を聴診する場合には、第2の電極25を備えたセンサ領域15を生体90に押し当てる。この際、第2の電極25が生体90に接触する前に弾性部材55が生体90に接触し、この弾性部材55は第2の電極25が生体90に押し当てられるまで圧縮される。聴診器2において、センサ領域15を生体90に接触させていない状態では弾性部材55の厚み(高さ)はHaであり(
図4参照)、センサ領域15を生体90に押し当てた状態では弾性部材55は厚みHb(<Ha)となるまで圧縮される。
図5に示すように、センサ領域15を生体90に押し当てると、センサ領域15が生体90と弾性部材55とで囲まれるので、環境音等の外部からの音は弾性部材55によって遮蔽され、圧電フィルム20への外部からのノイズによる影響を抑制することができる。
【0042】
弾性部材55としては、聴診器2を被測定物に押し当てた際に少なくともΔh圧縮変形可能なものであればよい。弾性部材55は、一部に非弾性部分を有していても、他の一部に弾性部分を有し、圧縮変形可能であればよい。弾性部材55は、グラスウールのような繊維系材料およびウレタンフォームのような発泡材料等環境音の吸収効果が高いものが好ましい。ここで、弾性部材55の突出高さΔhは0以上であればよいが1mm以上であることが好ましい。弾性部材55は検出部12に対して取り外し可能になっていることが好ましい。なお、遮音部材は、弾性部材に限らず、一部はスリットあるいは穿孔板を用いてヘルムホルツ共鳴器を構成してもよい。
【0043】
なお、本開示の聴診器のようにセンサ領域が凸となっており、生体と接触する部分の周囲に隙間が生じる構造を有する聴診器においては、本実施形態の聴診器2のように遮音用の弾性部材55を備えることにより、環境音によるノイズを抑制することができる。
【0044】
第1および第2の聴診器を用い、適切な押し当て圧力で圧電フィルム20を被測定物に押し当てることにより、良好なSN比の信号を検出することができる。生体音、例えば心拍に伴う体表面の変位は微小であるため、良好な信号を取得するには、圧電フィルム20を適切な圧力で生体に押し当てることが非常に重要となる。一方、在宅医療、遠隔医療等の用途においては、専門的なスキルを有していない患者が聴診器を用いる場合がある。そのため、誰もが適切な押し当て圧力で測定することができ、良好な検出を行うことができるように構成されていることが望ましい。
【0045】
「第3の実施形態の聴診器」
図6は、本発明の第3の実施形態の聴診器3の模式図である。また、
図7は聴診器3の構成を示すブロック図である。
【0046】
第3の実施形態の聴診器3は、センサ領域15の圧電フィルム20を生体に押し当てた際に圧電フィルム20にかかる押圧力を測定するための圧力センサ30を検出部12に備えている。圧力センサ30は、本体部32と支持部34とを備える。圧電フィルム20に外力が加わっていない状態にある場合には、圧電フィルム20の第1の電極24に接触するように配置された支持部34によって圧電フィルム20を外に凸に湾曲させるように圧電フィルムを支持する支持機能を奏する。そして、圧電フィルム20が生体等に押し当てられ、支持部34に圧電フィルム20を支持している定常状態を超える圧力が加わった場合に、その圧力を圧電フィルム20にかかる押圧力、すなわち、圧電フィルム20による被測定物への押し当て圧力として検出する。また、本聴診器3においては、支持台10と圧電フィルム20との間の空間にクッション材が備えられていない。上記のような支持部34を備えた圧力センサ30を備えた場合には、圧電フィルム20を支持部34によって支持させるのでクッション材は不要である。
【0047】
圧力センサ30としては、例えば、ばね秤、歪ゲージあるいはダイアフラム等の公知のセンサを適宜使用可能である。
【0048】
そして、聴診器3は、圧電フィルム20によって検出される振動信号の振幅が最大となる被測定物への押し当て圧力を求める第1処理、および被測定物への押し当て圧力が適正か否かを判定する第2処理の少なくとも一方の処理を行う処理部60を備える。
【0049】
さらに、本実施形態の聴診器3は、報知部70を備えている。報知部70は、押し当て圧力が最適であること、および適正範囲にあることの少なくとも一方をユーザに知らせる機能を有する。報知部70としては、例えば、発光ダイオード(LED)等のランプあるいはブザー等を用いることができる。報知部70は、センサ領域15を被測定物に押し当てる操作を妨げない箇所に設けられていれば、どこに備えられていてもよい。報知部70がランプ等の視覚で認識するものである場合には、センサ領域15を被測定物に押し当てた状態で視認しやすい箇所に備えられていることが好ましい。
【0050】
処理部60は、第1処理で求めた圧力、および第2処理で判定した判定結果の少なくとも一方を報知部70に報知させる処理を行う。
【0051】
第1処理は、例えば、圧電フィルム20により検出された振動信号と、圧力センサ30により検出された押し当て圧力に関するデータとから、振幅が最大となる振動信号を検出できる押し当て圧力を求める処理である。ユーザが聴診器3のセンサ領域15を肌に押し当て、押し当て圧力を徐々に変化させて一旦聴診器を肌から離す。処理部60は、変化する押し当て圧力と各押し当て圧力での振動信号との関係から、振幅が最大となる押し当て圧力(最適圧力)を求める。その後、ユーザが再度聴診器3を徐々に押し当て圧力を強めながら肌に押し当てる際に、最適圧力となった時点で、処理部60は報知部70において、例えば、ランプを光らせる、ランプの色を変化させる、あるいは、音を発生させる等によりユーザに最適圧力であることを知らせる。これによって、ユーザは最適圧力で聴診器を肌に当てた状態で、心音等の生体音を測定することができる。
【0052】
第2処理は、例えば、圧力センサ30で検出された押し当て圧力に関するデータから、その押し当て圧力が、予めメモリ等にデータとして備えられている適正な押し当て圧力範囲にあるか否かを判定する処理である。処理部60は、ユーザが聴診器3のセンサ領域15を肌に押し当てている状態の押し当て圧力が、適正な押し当て圧力範囲と判定した場合には、報知部70において、ランプを光らせる、ランプの色を変化させる、あるいは、音を発生させる等によりユーザに、適正な押し当て圧力であることを知らせる。これによって、ユーザは適切な押し当て圧力で肌に聴診器を当てた状態で心音等の生体音を測定することができる。押し当て圧力としては1kPaから25kPa程度が好ましい。
なお、心音、呼吸音、血管音または腸音等、測定対象とする音に応じて適切な押し当て圧力は異なる。そこで、各測定対象とする音毎に適切な押し当て圧力範囲のデータを予め備えておき、ユーザが測定時に測定対象を指定するように構成することが好ましい。
【0053】
圧電フィルム20は、強い押し当て圧力で押し当てた状態では十分な変位が得られないため振動信号の振幅が小さくなってしまい、結果として音が小さくなる。また、弱い押し当て圧力で押し当てた状態では十分な変位が生じないため、やはり音が小さくなる。そのため適切な圧力で測定することが望ましい。本聴診器3によれば、報知部70によって、適正な押し当て圧力で押し当てた状態であるか否かを容易にユーザが確認することができるので、専門的なスキルを有しない人でも高いSN比での測定を行うことができ、より好ましい。
【0054】
圧電フィルム20は、振動のような動的な圧力の測定には好適であるが、聴診器を押し当てて音を聴く際の押し当て圧力のような静的な圧力の測定には不向きであるため、本実施形態の聴診器3のように、別途の静的な圧力センサ30を備えることが好ましい。
但し、圧電フィルム20は、約1Hz以上の圧力変化があれば検出可能であるため、聴診器1のように圧力センサ30を備えず、圧電フィルム20のみであっても押し当て圧力に関するデータを検出する構成とすることも可能である。聴診器1の構成において、聴診器3の処理部60と同様の処理部を備え、処理部が圧電フィルム20から振動信号と押し当て圧力に関するデータの両者を取得するように構成してもよい。
【0055】
以上のように、本聴診器3においては、圧力をセンシングして、適切な圧力範囲をユーザに伝えることで、正しい音のセンシングができる。圧力センシング機能があれば、遠隔地での診断で患者本人が聴診器を体に当てる場合にも、適切なデータ取得ができ、医者が適切な指示をすることができる。
【0056】
「第4の実施形態の聴診器」
図8は、本発明の第4の実施形態の聴診器4の模式図である。また、
図9は聴診器4を含む電子聴診装置101の構成を示すブロック図である。
【0057】
聴診器4においては、圧電フィルム20と支持台10との間の空間50にクッション材に代えて加圧空気54が充填されている。圧力センサ35は、圧電フィルム20を皮膚表面に押し当てた際に、圧電フィルム20と圧力センサ35との空隙内の空気が圧縮され圧力が変化するのを検出する。空気が圧縮されることによる圧力変化は圧電フィルム20の押し当て圧力の変化に対応する。このように、本開示の技術において聴診器に圧力センサを備える場合、圧力センサは圧電フィルム20の押し当て圧力を直接あるいは間接的に測定するものであればよい。
【0058】
本実施形態の聴診器4は処理部を備えていない。しかし聴診器4は、外部の処理装置100にデータの通信が可能なる形態で接続されている。聴診器4と処理装置100の接続形態は無線であってもよいし有線であってもよい。電子聴診装置101は、聴診器4と処理装置100とを含んで構成される。なお、第3の実施形態の聴診器3を処理装置100に接続して使用することも勿論可能である。
【0059】
圧電フィルム20で検出される振動信号、圧力センサ35で検出される押し当て圧力に関するデータは聴診器4から処理装置100に出力される。圧電フィルム20で検出される振動信号は、聴診器4にて音信号に変換されて出力される構成でもよいし、処理装置100に備えられているモニタに波形として出力される構成でもよい。
【0060】
処理装置100は、所定のアプリケーションが組み込まれたスマートフォン、タブレット型コンピュータあるいはパーソナルコンピュータ等により構成することができる。
【0061】
処理装置100では、聴診器4から出力されたデータを演算回路あるいはプログラムにてノイズ除去し、SN比の高い最適な圧力値で測定できていることをユーザに知らせることも可能である。処理装置100側にこのようなお知らせ機能を備えていれば、聴診器4は報知部70を備えていなくてもよい。
【0062】
処理装置100は、第3の聴診器3に備えられている処理部60と同様の機能を有する。すなわち、処理装置100は、圧電フィルム20によって検出される振動信号の振幅が最大となる被測定物への押し当て圧力を求める第1処理、および被測定物への押し当て圧力が適正か否かと判定する第2処理の少なくとも一方の処理を行う。また、報知部70に対して、第1の処理で得られた圧力および押し当て圧力が適正か否かを報知させる。ここで第1の処理および第2の処理は第3の聴診器3に備えられた処理部60で行う第1の処理および第2の処理と同様であり、従って、第3の聴診器3の場合と同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、処理装置100では、日々の測定における生体音の振動信号および最大の振動信号を得ることができる最適圧力に関するデータ等を記録するようにしてもよい。最適圧力の変化により身体の変化、例えば、身体のむくみ等を診断することも可能である。
【0064】
なお、処理装置100が、ユーザが押し当て圧力をゆっくりと変化させながら聴診器のセンサ領域を肌に押し当て、聴診器を肌から離すという動作を行う間連続的に測定された、振動信号と押し当て圧力に関するデータとを取得し、振動信号の振幅が最大のデータおよびその振動信号が検出された際の圧力に関するデータを抽出して記録するものであってもよい。この場合には、処理装置100において、上記第1および第2の処理を行うことなく良好なSN比の信号を取得することが可能である。
【0065】
「第5の実施形態の聴診器」
図10は、本発明の第5の実施形態の聴診器5の平面模式図および断面模式図である。
聴診器5は、検出部12に心電図測定用電極26を備えている。本実施形態の聴診器6において、心電図測定用電極26は圧電体層22の第2の電極25と同一の面に備えられている。この場合、心電図測定用電極26と第2の電極25とが、パターン化電極層から構成されていることが好ましい。ここでパターン化電極層とは、同一工程で形成された電極層がパターニングされて形成されたものであることを意味する。圧電体層22上に一様な電極層を形成し、パターニングすることにより、第2の電極25と心電図測定用電極26、およびそれらの配線25a、26aを同時に形成することが可能である。本実施形態では略正三角形に配置された3つの心電図測定用電極26を備えているが、心電図測定用電極26は、2つ以上であればよく、4つ以上備えていてもよい。なお、
図10においては生体音を検出する検出回路を省略している。聴診器6においては、生体音検出用の検出回路に加え、心電図測定用の検出回路(図示せず)を備える。なお、支持台10の形状は、
図10に示すように、圧電フィルム20に対向する部分に凹部を備えた形状であってもよい。
【0066】
心電図測定用電極26を備えることによって、心拍の測定と同時に心電の測定を行うことができる。複数のデータを同時に測定可能であるため、患者の検査に対する負担を軽減することができる。
【0067】
心電図測定用電極26は、第2の電極25と同時に作製可能なパターン化電極層から構成するものに限られず、検出部12のセンサ領域15以外の部分に別途に形成されたものであってもよい。また、心電図測定用電極26は、第2の電極25上に設けられた保護層を介して第2の電極25を備えた面側に設けられていてもよい。
【0068】
「第6の実施形態の聴診器」
図11は、本発明の第6の実施形態の聴診器6の断面模式図である。
聴診器6は、第5の実施形態の聴診器5と同様に、検出部12に心電図測定用電極29を備えている。圧電フィルム20および心電図測定用電極29の構成が、第6の実施形態の聴診器6の構成と異なる。本実施形態の聴診器6においては、
図3Bに示した、第1の電極24および第2の電極25の表面にそれぞれ保護層27、28を有する圧電フィルム20を備えている。そして、心電図測定用電極29は、圧電フィルム20の第2の電極25が備えられた面側の保護層28の表面に設けられている。心電図測定用電極29を備えているので、第5の実施形態の聴診器5と同様に、心拍の測定と同時に心電の測定を行うことができる。複数のデータを同時に測定可能であるため、患者の検査に対する負担を軽減することができる。さらに、保護層27、28を備えた圧電フィルム20を備えているため、耐久性が高いという効果を奏する。
【0069】
第3~第6の実施形態の聴診器3~6においても、第2の実施形態の聴診器2に備えた、外部音を遮音するための遮音用の弾性部材55等の遮音部材を備えた構成にすることができ、遮音部材を備えることにより、外からのノイズを抑制することができ、好ましい。
【0070】
「確認試験例」
図12は、
図6に示した第3の実施形態の聴診器3を用いて、心拍を測定して取得したデータである。
図12のAは、圧電フィルムを生体に対して適正な押し当て圧力よりも低い圧力で押し当てた状態、
図12のBは、適正な押し当て圧力で押し当てた状態、
図12のCは、適正な押し当て圧力よりも高い圧力で押し当てた状態で測定した場合のデータである。本例では、適正な圧力は約3kPaであった。但し、聴診器のサイズ、圧電フィルムの凸の形状および湾曲の曲率等によっても適正な圧力は異なる。
【0071】
図12のBに示すように、最大振幅が得られる押し当て圧力で信号を取得することにより、心拍の1音、2音がきれいに測定できていることが分かる。一方、
図12のAに示すように、適正な押し当て圧力よりも低い圧力で信号を取得すると、適正な圧力の場合と比較して相対的に信号振幅が小さくまたノイズ成分が多い波形データとなった。これは測定面が体表面に十分接していないためと考えられる。また、
図12のCに示すように、適正な押し当て圧力よりも高い圧力で信号を取得すると、圧力が低い場合と同様にノイズ成分の多い波形データとなった。
【0072】
図12に示すように、本開示の聴診器を適正な押し当て圧力で肌に押し当てることにより、非常に高いSN比で生体音を取得できることが明らかになった。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3,4,5,6 聴診器
10 支持台
12 検出部
15 センサ領域
20 圧電フィルム
22 圧電体層
22a マトリックス
22b 圧電体粒子
24 第1の電極
25 第2の電極
25a 配線
26,29 心電図測定用電極
26a 配線
27,28 保護層
30,35,130 圧力センサ
32 本体部
34 支持部
40 検出回路
50 空間
52 クッション材
54 加圧空気
55 遮音用の弾性部材
60 処理部
70 報知部
90 生体
100 処理装置
101 電子聴診装置