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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】折り構造
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220706BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022020026
(22)【出願日】2022-02-12
【審査請求日】2022-02-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(個人型研究(ACT―I)、情報と未来(加速))、「デジタルファブリケーションによる生体模倣インタフェースの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 紘也
(72)【発明者】
【氏名】小山 和紀
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
(72)【発明者】
【氏名】舘 知宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】野間 裕太
(72)【発明者】
【氏名】川原 圭博
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅明
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0214837(US,A1)
【文献】特開2020-157761(JP,A)
【文献】国際公開第2020/257804(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0339823(US,A1)
【文献】国際公開第2020/136588(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/241543(WO,A1)
【文献】特開2001-341223(JP,A)
【文献】特開2004-350906(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0026328(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0103119(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0311151(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0360354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己折りされることで3次元形状の折り構造体を形成可能な折り構造であって、
収縮可能な基材の第1面の所定領域に形成された第1のインク層と、前記所定領域に対応した前記基材の第1面とは反対側の第2面に所定の折り角で折り曲げられる折り目領域を挟んで離隔して形成された第2のインク層と、が一組となって、前記折り目領域が平面視で繋がって繰り返し形成され、
前記折り目領域には、前記第1のインク層及び前記第2のインク層よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層が形成されている、
ことを特徴とする折り構造。
【請求項2】
前記濃度、密度、又は層数は、なだらかに変化している、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項3】
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項4】
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、前記折り目領域が延在する方向と交わる方向に全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項5】
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、前記折り目領域が延在する方向に沿って全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項6】
前記折り目領域は、前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層が破線状に延在して形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項7】
前記折り目領域は、前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層が前記折り目領域が延在する方向と交差する方向に沿って離散的なパターンで延在して形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の折り構造。
【請求項8】
前記折り目領域には、前記第1のインク層及び前記第2のインク層とは異なる硬さのインク層が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の折り構造。
【請求項9】
前記第1のインク層及び前記第2インク層の表面には前記折り目領域に対応する領域を除いて前記第1のインク層及び前記第2のインク層に比べて硬いインク層が形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の折り構造。
【請求項10】
前記第1のインク層及び前記第2のインク層は、複数種類のプロセスカラーインクを含む加飾層が形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の折り構造。
【請求項11】
前記第1のインク層、前記第2のインク層及び前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層がインクジェット方式で積層される、
ことを特徴とする請求項1ないし1のいずれか1項に記載の折り構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折り構造に関し、詳しくは、化学的な刺激又は加熱で自己折りする構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムと着色層を有し、20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が80度以下であるプラスチック折り紙であって、95℃温水中10秒での温湯熱収縮率が主収縮方向及び該主収縮方向と直交する方向においていずれも25%以上55%以下であるプラスチック折り紙が知られている(特許文献1)。
【0003】
折り目を形成可能かつ折り曲げ角を維持可能な可折性の樹脂又は金属からなる基材フィルムと、温度に応じて変色する熱変色性インキからなり、基材フィルムの片面に設けられた感温変色層と、を備えた折り紙も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-165833号公報
【文献】特開2015-208376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自己折りされる折り角を制御して2次元のシート形状から3次元形状を作成する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の折り構造は、
自己折りされることで3次元形状の折り構造体を形成可能な折り構造であって、
収縮可能な基材の第1面の所定領域に形成された第1のインク層と、前記所定領域に対応した前記基材の第1面とは反対側の第2面に所定の折り角で折り曲げられる折り目領域を挟んで離隔して形成された第2のインク層と、が一組となって、前記折り目領域が平面視で繋がって繰り返し形成され、
前記折り目領域には、前記第1のインク層及び前記第2のインク層よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層が形成されている、
ことを特徴とする。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記濃度、密度、又は層数は、なだらかに変化している、
ことを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、前記折り目領域が延在する方向と交わる方向に全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層は、前記折り目領域が延在する方向に沿って全体的もしくは部分的に延在して形成されている、
ことを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記折り目領域は、前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層が破線状に延在して形成されている、
ことを特徴とする。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の折り構造において、
前記折り目領域は、前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層が前記折り目領域が延在する方向と交差する方向に沿って離散的なパターンで延在して形成されている、
ことを特徴とする。
【0017】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の折り構造において、
前記折り目領域には、前記第1のインク層及び前記第2のインク層とは異なる硬さのインク層が形成されている、
ことを特徴とする。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項1ないしのいずれか1項に記載の折り構造において、
前記第1のインク層及び前記第2インク層の表面には前記折り目領域に対応する領域を除いて前記第1のインク層及び前記第2のインク層に比べて硬いインク層が形成されている、
ことを特徴とする。
【0020】
請求項1に記載の発明は、請求項1ないしのいずれか1項に記載の折り構造において、
前記第1のインク層及び前記第2のインク層は、複数種類のプロセスカラーインクを含む加飾層が形成されている、
ことを特徴とする。
【0021】
請求項1に記載の発明は、請求項1ないし1のいずれか1項に記載の折り構造において、
前記第1のインク層、前記第2のインク層及び前記濃度、密度、又は層数が小さいインク層がインクジェット方式で積層される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、折り目領域が自己折りされることで、2次元のシート形状を3次元形状とすることができる。
【0029】
請求項に記載の発明によれば、自己折りする際の折り目領域に形成されたインク層への負荷を低減することができる。
【0030】
請求項に記載の発明によれば、折り目領域におけるインク層の濃度、密度、又は層数を連続的もしくは離散的に変更することで自己折りの折り角を制御することができる。
【0031】
請求項に記載の発明によれば、折り方向にインク層の濃度、密度、又は層数を連続的もしくは離散的に変更することで自己折りの折り角を制御することができる。
【0032】
請求項に記載の発明によれば、折り方向と交差する方向に沿ってインク層の濃度、密度、又は層数を連続的もしくは離散的に変更することで自己折りの折り角を制御することができる。
【0033】
請求項に記載の発明によれば、破線の密度を変更して自己折りの折り角を制御することができる。
【0034】
請求項に記載の発明によれば、パターンを変更して自己折りの折り角を制御することができる。
【0035】
請求項に記載の発明によれば、インク層の硬さを変更して自己折りの折り角を制御することができる。
【0037】
請求項に記載の発明によれば、インク層を保護するとともに、折り目領域を除く領域の変形を抑制することができる。
【0038】
請求項1に記載の発明によれば、フルカラー印刷や構造色などの加飾を行うことができる。
【0039】
請求項1に記載の発明によれば、低コストで折り構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本実施形態に係る折り構造の一例を示す図である。
図2図1に示す折り構造の一部の断面構成を示す拡大断面模式図である。
図3】印刷インク層をフルカラーとする場合の多層化の一例を示す断面模式図である。
図4】(a)は折り構造の自己折りを説明する断面模式図、(b)は加熱により折れ目領域で自己折りした折り構造を示す断面模式図である。
図5】変形例1に係る折り目領域が形成された折り構造の一部断面を含んで折り目領域を示す斜視図である。
図6】変形例2に係る折り目領域が形成された折り構造の一部断面を含んで折り目領域を示す斜視図であり、(a)は折り方向に全体的もしくは部分的に延在して形成されたインク層の一例を示す斜視図、6(b)は折り方向と交差する方向に沿って全体的もしくは部分的に延在して形成されたインク層の一例を示す斜視図である。
図7】変形例3に係る折り目領域が形成された折り構造の一部断面を含んで折り目領域を示す斜視図であり、(a)は破線の密度が低いように延在するインク層の一例を示す斜視図、(b)は破線の密度が高いように延在するインク層の一例を示す斜視図である。
図8】変形例4に係る折り目領域が形成された折り構造の一部断面を含んで折り目領域を示す斜視図であり、(a)はパターンが疎の状態に延在するインク層の一例を示す斜視図、(b)はパターンが密に延在するインク層の一例を示す斜視図である。
図9】折り目領域で自己折りする折り構造をモデルとして示す断面模式図である。
図10】折り目領域の幅を変化させて自己折りした際の折り角を計測した結果を示す図である。
図11】折り構造体の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態の具体例を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
尚、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0044】
(1)折り構造の全体構成
図1は本実施形態に係る折り構造の一例を示す図、図2図1に示す折り構造1の一部の断面構成を示す拡大断面模式図、図11は折り構造体10の一例を示す斜視図である。
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る折り構造の構成について説明する。
【0045】
本実施形態に係る折り構造1は、収縮可能な基材2と、基材2の第1面2aに形成された印刷インク層3と、基材2の第1面2aとは反対側の第2面2bに所定の折り角θで山折り又は谷折りされる折り目領域4を挟んで離隔して形成された印刷インク層3と、が一組となって、折り目領域4が平面視で繋がって繰り返し形成されている2次元のシート体である。
【0046】
このように構成される折り構造1は、折り構造1の全体に可視光や赤外光、酸などの化学的な刺激を与える、あるいは、例えば折り構造全体をお湯に浸すなどして70℃から100℃で加熱することで、図11に示すような自己折りした3次元形状の折り構造体10を得ることができる。
【0047】
(1-1)基材
基材2は、化学的な刺激、あるいは、例えば70℃から100℃の加熱で一定量収縮するものであればよく、ポリオレフィン、具体的には厚みが10~100μmのポリエチレンシート又はポリプロピレンシートが好適に使用される。基材2の厚みが10μm未満であると、2次元のシート体として必要なコシが得られず、厚みが100μmを超えると折り構造を自己折りするのが困難となる場合がある。
本実施形態においては、基材2として、ポリエチレンの布地であるバイリーンアイロン収縮シート(厚み85μm、収縮率30%)、ハッコーシュリンクフィルム(厚み15μm、収縮率5.9%)等を用いている。
【0048】
(1-2)インク層
本実施形態の折り構造1は、図2に示すように、基材2の表面(第1面2a、反対側の第2面2b)に画像(ベタ画像を含む)を描くための印刷用のインク(印刷用インク)の層である印刷インク層3が、接着用のインク(接着用インク)の層である接着インク層31を介して形成されている。また、印刷インク層3の表面には、印刷用インクよりも硬いインクの層である保護インク層32が形成されている。
【0049】
印刷用インクは、顔料系のインクである。また、印刷用インクは、ソルベントUVインクである。すなわち、印刷用インクは、紫外線が照射されることで硬化するUV硬化型樹脂(紫外線硬化型樹脂)を有機溶剤で希釈したものである。この印刷用インクは、印刷インク層3を140%引き伸ばしても印刷インク層3に亀裂や割れが生じない柔らかいインクであり、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製の型番「LUS-120」、「LUS-150」、「LUS-170」、「LUS-200」で特定されるUVインクが挙げられる。
【0050】
印刷用インクは、基材2の表面の色と異なる色に着色されている。また、印刷用インクには、基材2の表面に画像を描くための複数種類のプロセスカラーインクが含まれている。なお、印刷用インクに含まれるUV硬化型樹脂は、例えば、ラジカル重合若しくはカチオン重合によって硬化するタイプのいずれか1つ、または、これらの混合物である。
【0051】
接着用インクは、印刷インク層3を基材2に接着するためのソルベントUVインクである。この接着用インクは、接着インク層31を140%引き伸ばしても接着インク層31に亀裂や割れが生じない柔らかいインクであり、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製の型番「PR-100」、「PR-200」で特定されるUVインクを有機溶剤で希釈したものが挙げられる。また、接着用インクは、半透明のインクである。なお、接着用インクは、基材2の表面の色と同じ色に着色されていても良い。また、接着用インクに含まれるUV硬化型樹脂は、たとえば、ラジカル重合若しくはカチオン重合によって硬化するタイプのいずれか1つ、または、これらの混合物である。
【0052】
保護インク層32は、UV硬化後のインク皮膜に硬度があり、耐擦過性や耐薬品性が高く印刷インク層3を保護するとともに、印刷インク層3に光沢感を持たせて意匠性を高めるために使用される透明(クリア)インクであり、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製の型番「LH-100」で特定されるUVインクが挙げられる。
保護インク層32は、図2に示すように、基材2の第1面2aに形成される印刷インク層3に対しては、折ったり曲げたり等の自己折りする折り目領域4に対応する領域を除いて形成されることで折れ目領域4を除く領域の変形を抑制している。
【0053】
このようなインク層は、基材2の第1面2aに形成された印刷インク層3と、基材2の第1面2aとは反対側の第2面2bに折れ目領域4を挟んで離隔して形成された印刷インク層3が一組となって、折れ目領域4が基材2の第1面2a及び第2面2bになるように平面視で繋がって繰り返し形成されている。
【0054】
(1-3)インク層の形成
このようなインク層は、基材2の上方に配置されるインクジェットプリンタのプリントヘッドからインクを吐出させて、基材2の上にインクを塗布することにより形成される。
印刷インク層3を形成する場合、まず、接着用インクを吐出させて、基材2の第1面2a又は第2面2b上に接着インク層31を形成する(接着用インク塗布工程)。
接着用インク塗布工程では、印刷インク層3が形成される領域の全体を覆うように接着用インクを塗布する。その後、塗布された接着用インクに、例えばLED光源から紫外線を照射して接着用インクを硬化させる。
【0055】
次に、接着インク層31が形成された基材2の第1面2a又は第2面2bに印刷用インクを吐出させて、基材2の第1面2a又は第2面2b上に印刷インク層3を形成する(印刷用インク塗布工程)。印刷用インク塗布工程では、印刷用インクを吐出しながら、紫外線を照射して印刷用インクを硬化させる。
そして、硬化した印刷インク層3の表面に保護インク層32を形成する。ここで、基材2に形成される折り目領域4に対応する領域には保護インク層32は形成されない。
【0056】
このようにして形成される印刷インク層3は、必要に応じて多層で形成される。印刷インク層3の層数に関しては、少なすぎると折り目領域4で自己折りする(変形する)際に、基材2の収縮を十分に阻害することができず、大きな折り角が得られない。一方、層数が多すぎる場合、印刷時間が増加するとともに、折り角の精度が落ちる、自己折りする際に印刷インク層3の厚みが干渉して折り角が制限される、などの虞がある。本実施形態においては、印刷用インクとして黒色(K)のインクを用いて5層の印刷インク層3を形成している。
【0057】
図3には、印刷インク層3をフルカラーとする場合の多層化の一例を示している。図3に示すように、黒色インクで多層に形成された印刷インク層3の表面に白色インクを用いて下地層33を形成し、その上にCMYK(C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエロー、K:ブラック)のプロセスカラーインクを吐出しながら、紫外線を照射して硬化させフルカラー層34を形成する。尚、白色インクとプロセスカラーインクは同時に吐出してもよい。そして、必要に応じて、その表面に保護インク層32を形成する。
【0058】
(1-3)折れ目領域
図4(a)は折り構造1の自己折りを説明する断面模式図、(b)は加熱により折れ目領域4で自己折りした折り構造1を示す断面模式図である。
折れ目領域4は、基材2の表面(第1面2a、反対側の第2面2b)に印刷インク層3が形成されていない領域であり、基材2の表面の少なくとも一部が外部に露出している。
基材2の第1面2aには接着インク層31を介して印刷インク層3が多層で形成され、基材2の第2面2bには、多層で形成された印刷インク層3の間に印刷インク層3が形成されていない領域として折れ目領域4が形成されている。
【0059】
このような折り構造1の全体に熱を加えると、図4(a)に示すように、熱により収縮性の基材2が縮もうとする(図4(a)中 矢印F参照)が、印刷インク層3が形成された領域は、印刷インク層3が基材2の収縮を阻害し、印刷インク層3が形成されていない折り目領域4のみが縮み、図4(b)に示すように、折り目領域4で谷折り(図4(b)中 V1で示す)、山折り(図4(b)中 V2で示す)に自己折り(自己折り:self-folding)される。
【0060】
「変形例1」
図5は変形例1に係る折り目領域4Aが形成された折り構造1Aの一部断面を含んで折り目領域4Aを示す斜視図である。
変形例1に係る折り目領域4Aには、印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41が形成されている。
【0061】
インク層41を形成するインクには、印刷インク層3を形成する印刷用インクよりも濃度が低い顔料系のソルベントUVインクを使用することができる。濃度が低いインクとしては、例えば、印刷用インクとして使用される株式会社ミマキエンジニアリング製の型番「LUS-120」、「LUS-150」、「LUS-170」、「LUS-200」で特定されるUVインクを有機溶剤で希釈して低濃度としたものが挙げられる。
また、インク層41は、印刷インク層3を形成する印刷用インクと同様のインクを用いて、プリントヘッドから吐出される液滴の密度を小さくして印刷してもよく、印刷インク層3に比べて層を少なくして、印刷インク層3よりも高さが小さくなるように形成してもよい。また、濃度、密度、層数は、単独で、または組み合わせて変更しても良い。
【0062】
インク層41は、なだらかに変化するように形成されてもよい。濃度、密度、又は層数がなだらかに変化するインク層41は、インク液滴を吐出するプリントヘッドの吐出制御を行うことで形成される。
折り目領域4Aに形成されるインク層41の濃度、密度、又は層数をなだらかに変化させることで、自己折りする際のインク層41への負荷を低減し、自己折りしやすくすることができる。
【0063】
このような、折り目領域4Aに印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41が形成された折り構造1Aを加熱すると、インク層41で折り目領域4Aの収縮が一部阻害されることになり、インク層41の濃度、密度、又は層数を調整することで、折り目領域4Aの自己折りの折り角を制御することができる。
【0064】
また、インク層41は、印刷インク層3とは硬さの異なるインクを用いて形成してもよい。硬さの異なるインクは、バインダー樹脂や顔料を適宜選択することで、硬化して基材2に定着したときの硬度が異なるようにすることができる。
インク層41の硬度を高くすると、折り目領域4Aにおける自己折りの折り角が小さくなり、インク層41の硬度を低くすると、自己折りの折り角が大きくなることから、インク層41の硬度を変更して折り目領域4Aの自己折りの折り角を制御することができる。
【0065】
「変形例2」
図6は変形例2に係る折り目領域4Bが形成された折り構造1Bの一部断面を含んで折り目領域4Bを示す斜視図である。
変形例2に係る折り目領域4Bには、印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41が全体的もしくは部分的に延在して形成されている。ここで、図6(a)に模式的に示すように、インク層41は、折り方向(図中X方向)に全体的もしくは部分的に延在して形成されてもよく、図6(b)に模式的に示すように、折り方向と交差する方向に沿って(図中Y方向)全体的もしくは部分的に延在して形成されてもよい。
【0066】
このような全体的もしくは部分的に延在する濃度、密度、又は層数が小さいインク層41は、インク液滴を吐出するプリントヘッドの吐出制御を行うことで形成される。
折り目領域4Bにおけるインク層41の濃度、密度、又は層数を連続的もしくは離散的に変更することで自己折りの折り角を制御することができる。
【0067】
「変形例3」
図7は変形例3に係る折り目領域4Cが形成された折り構造1Cの一部断面を含んで折り目領域4Cを示す斜視図である。
変形例3に係る折り目領域4Cには、印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41が破線状に延在して形成されている。
【0068】
図7(a)は破線の密度が低いように延在するインク層41の一例を示し、図7(b)は破線の密度が高いように延在するインク層41の一例を示している。
インク液滴を吐出するプリントヘッドの吐出制御を行うことで折り目領域4Cに形成されるインク層41を破線状に形成することができる。形成されるインク層41の破線密度を調整することで、折り目領域4Cの自己折りの折り角を制御することができる。
【0069】
「変形例4」
図8は変形例4に係る折り目領域4Dが形成された折り構造1Dの一部断面を含んで折り目領域4Dを示す斜視図である。
変形例4に係る折り目領域4Dには、印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41が離散的なパターンで延在して形成されている。
【0070】
図8(a)はパターンが疎の状態に延在するインク層41の一例を示し、図8(b)はパターンが密に延在するインク層41の一例を示している。
インク液滴を吐出するプリントヘッドの吐出制御を行うことで折り目領域4Dに形成されるインク層41を離散的なパターンとして形成することができる。形成されるインク層41のパターンを調整することで、折り目領域4Dの自己折りの折り角を制御することができる。
【0071】
(2)自己折り
図9は折り目領域4で自己折りする折り構造1をモデルとして示す断面模式図である。
本実施形態に係る折り構造1においては、折り構造1の全体に化学的な刺激、又は熱を加えることで、折り目領域4で所定の折り角θで山折り又は谷折りされる。このとき、折り角θと折り目領域4の幅Wは比例関係、特に線形の関係を有し、折り角θは、折り目領域4の幅Wを変更することで調整可能である。
【0072】
図9において、折り角θと折り目領域4の幅Wは、(1)式によって定式化される。
θ=(180×ε/π×t)×W・・・(1)
ここに、εは基材2の収縮率、tは基材2の厚み、Wは折り目領域の幅である。
【0073】
「実施例」
図10は折り目領域4の幅Wを変化させて自己折りした際の折り角θを計測した結果を示す図である。
実施例においては、基材2としてA5サイズ(210mm×148mm)のバイリーンアイロン収縮シート(厚み85μm、収縮率30%)及びハッコーシュリンクフィルム(厚み15μm、収縮率5.9%)を用意し、所定の幅Wで短辺方向に延在する複数の折り目領域4を形成した。そして、それぞれの基材2に対して、折り目領域4の幅Wを0.1mmから0.8mmの範囲で変化させた折り構造1Aを加熱して自己折りし、折り角θを計測した。それぞれの織り目領域4の幅Wについて8個のサンプルで自己折りを繰り返し、折り角θの標準偏差も確認した。
【0074】
図10(a)には、基材2としてバイリーンアイロン収縮シート(厚み85μm、収縮率30%)を用いた自己折り構造1Aの折り目領域4の幅Wに対して計測された折り角θを示し、図10(b)には、基材2としてハッコーシュリンクフィルム(厚み15μm、収縮率5.9%)を用いた自己折り構造1Aの折り目領域4の幅Wに対して計測された折り角θを示している。
【0075】
図10(a)、(b)のプロットに示すように、いずれの基材2に対しても、折り目領域4の幅Wと折り角θには強い線形性が確認された(決定係数R>0.98)。また、標準偏差はどの折り目領域4の幅Wに対してもバイリーンアイロン収縮シートで6°/mm、ハッコーシュリンクフィルムで9°/mmとなり、高い精度で折り角θが制御されていることが確認された。
【0076】
尚、折り目領域4の幅Wに対する折り角θの傾きは、バイリーンアイロン収縮シートでθ/W=203、ハッコーシュリンクフィルムでθ/W=204であった。
ここで、折り角θと折り目領域4の幅Wの関係を定式化した式(1)にバイリーンアイロン収縮シート及びハッコーシュリンクフィルムの厚みt、収縮率εを代入すると、バイリーンアイロン収縮シートでθ/W=202、ハッコーシュリンクフィルムでθ/W=225となり、実施例で確認された折り目領域4の幅Wに対する折り角θの傾きと比較した場合、折り角θと折り目領域4の幅Wの関係を定式化した式(1)は折り角θを推定するモデルとして適当であることが確認された。
【0077】
本実施形態の折り構造1は、折り角θと折り目領域4の幅Wは線形の関係を有し、折り目領域4の幅Wを変更することで3次元形状への変形を高精度で制御することができる。
また、折り目領域4に印刷インク層3よりも濃度、密度、又は層数が小さいインク層41を形成し、インク層41の濃度、密度、又は層数を調整することで、自己折りの折り角θを制御することができる。
特に、インク層41はインクジェット方式で積層され、プリントヘッドの吐出制御を行うことで濃度、密度、又は層数をなだらかに変化するように積層することができ、自己折りする際のインク層41への負荷を低減しつつ、自己折りの折り角θを制御することができる。
【符号の説明】
【0078】
1、1A、1B、1C、1D・・・折り構造
2・・・基材、2a・・・第1面、2b・・・第2面
3・・・印刷インク層、31・・・接着インク層、32・・・保護インク層、
33・・・下地層、34・・・フルカラー層
4、4A、4B、4C、4D・・・折り目領域
41・・・インク層
【要約】
【課題】自己折りされる折り角を制御して2次元のシート形状から3次元形状を作成する。
【解決手段】収縮可能な基材と、基材の第1面に形成されたインク層と、基材の第1面とは反対側の第2面に所定の折り角で山折り又は谷折りされる折り目領域を挟んで離隔して形成されたインク層と、が一組となって、折り目領域が平面視で繋がって繰り返し形成されている折り構造であって、折り目領域は、基材が露出し、所定の折り角は、折り目領域の幅を変更することで調整可能である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11