(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】冷凍調理麺の食感改良剤の製造方法、食感が改良された冷凍調理麺の製造方法及び冷凍調理麺の食感改良方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220706BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220706BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 C
A23L19/00 A
A23L3/36 A
(21)【出願番号】P 2018009268
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2017059522
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】中尾 彰秀
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-029283(JP,A)
【文献】特開2015-204791(JP,A)
【文献】特開2009-153413(JP,A)
【文献】国際公開第2007/122730(WO,A1)
【文献】特開2014-117206(JP,A)
【文献】特開平06-062796(JP,A)
【文献】特開2009-296890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
A23L 7/00-7/104
A23L 3/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理する工程、
前記加熱処理した野菜原料をペースト化する工程、及び
前記ペーストに細胞成分の分解酵素を添加し、20℃未満で反応させる工程を含む、冷凍調理麺の食感改良剤の製造方法であって、
前記過熱水蒸気の温度が102℃~180℃であり、
前記細胞成分の分解酵素が、
セルラーゼAアマノ3(商標)及びビオザイムA(商標)である、前記製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法に従って製造した冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む、冷凍調理麺の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法に従って製造した冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む、冷凍調理麺の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍調理麺の食感改良剤、食感が改良された冷凍調理麺の製造方法及び冷凍調理麺の食感改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パスタ、うどん、そば、中華麺などの麺類は、品質維持や調理手順の簡便化のため、製麺し、一定の調理をした後に急速冷凍された冷凍調理麺の状態で流通することがある。冷凍調理麺は、流通段階においては冷凍保存の条件による品質低下が食感に悪影響を及ぼすこと、また消費者が喫食する段階で、冷凍保存の後にレンジ加熱又は加熱解凍されることで、麺の弾力が弱くなることから、冷凍をしない生麺を調理した場合の本来の食感が損なわれること、また調理後、経時的に食感が劣化することなど、食感の劣化が問題となる。このような冷凍調理麺の食感の改良を目的とし、従来、加工澱粉(特許文献1)や増粘多糖類(特許文献2及び特許文献3)などの食品添加物やバイタルグルテン(特許文献4及び特許文献5)を食感改良剤として使用できることが知られている。
しかし、昨今の天然物志向や食品添加物使用量低減の社会的要請などから、従来用いられてきた加工澱粉や増粘多糖類等の添加物を使用しない冷凍調理麺の食感改良剤や食感が改良された冷凍調理麺の製造方法、冷凍調理麺の食感改良方法が求められている。
一方、各種食品原料として野菜ペーストが使用されている。これまでに野菜ペーストの製造方法は各種知られており、例えば特許文献6では野菜原料を過熱水蒸気処理し、ペースト化したものを酵素処理することにより、色合いや柔らかさを維持し、味や風味、食感の良好な野菜ペーストの製造方法を提供することが開示されている。また、特許文献7ではセルラーゼやプロテアーゼ等の細胞成分の分解酵素で酵素処理した野菜ペーストを含む即溶性を有するフリーズドライ製品を開示している。しかしながら、野菜ペーストを食品に使用する場合、その目的は主に素材としての使用や色づけ、風味付けであり、野菜ペーストを冷凍茹で調理麺の食感改良を目的として使用した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-27643
【文献】特開2016-220598
【文献】特開2013-243995
【文献】特開2011-72305
【文献】特開平10-42811
【文献】特開2009-296890
【文献】特開2001-008614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工澱粉や増粘多糖類等の添加物を使用しなくとも、冷凍調理麺の冷凍保存や保存後の加熱調理による劣化した食感、また調理後継時的に劣化する食感を改良することが出来る、冷凍調理麺の食感改良剤、それを用いた食感が改良された冷凍調理麺の製造方法及び冷凍調理麺の食感改良方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理してペースト化し、前記ペーストに細胞成分の分解酵素を添加、撹拌し、20℃未満の温度で反応させることにより得られる冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺し冷凍調理麺を製造することにより、添加剤を使用しなくとも、冷凍調理麺の冷凍保存や保存後の加熱調理による劣化した食感、また調理後継時的に劣化する食感を改良することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理する工程、前記加熱処理した野菜原料をペースト化する工程、及び前記ペーストに細胞成分の分解酵素を少なくとも1種添加し、20℃未満で反応させる工程を含む、冷凍調理麺の食感改良剤の製造方法。
[2]過熱水蒸気温度が100℃を超え、且つ200℃未満である、前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記細胞成分の分解酵素がセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ及びリパーゼからなる群から選択される、前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記[1]~[3]の何れか1項に記載の製造方法に従って製造した冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む、冷凍調理麺の製造方法。
[5]前記[1]~[3]の何れか1項に記載の製造方法に従って製造した冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む、冷凍調理麺の食感改良方法。[6]野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理してペースト化し、前記ペーストに細胞成分の分解酵素を添加し、20℃未満の温度で反応させることにより得られる冷凍調理麺の食感改良剤。
[7]前記[6]に記載の冷凍調理麺の食感改良剤を含む、冷凍調理麺。
【発明の効果】
【0006】
本発明の冷凍調理麺の食感改良剤の製造方法によって得られた冷凍調理麺の食感改良剤を、所定量使用して冷凍調理麺を製造することにより、添加剤を使用しなくとも冷凍調理麺の冷凍保存や保存後の加熱調理による劣化した食感、また調理後継時的に劣化する食感を改良することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において「冷凍調理麺」は製麺した生麺を茹で調理した後に冷凍したものをいう。麺の種類としては特に限定されず、パスタ、うどん、冷麦、そうめん、中華麺、そば、ビーフンなどが挙げられる。
【0008】
本発明において「野菜原料」は特に限定されず、ニンジンやダイコン等の根菜類、タマネギやジャガイモ等の土物類、ケールやほうれん草等の葉茎菜類、カボチャやトマト等の果菜類、グリンピースやサヤエンドウ等のマメ科野菜類、トウモロコシやベビーコーン等のイネ科野菜類が挙げられる。好ましくは、ニンジン、カボチャ、ジャガイモ、タマネギ、コーンが使用できる。より好ましくはニンジン、カボチャ、ジャガイモであり、最も好ましくはニンジンである。野菜原料は好ましくはペースト化の前に洗浄、皮をむく、不要な根や葉を除去するなどの前処理を行う。
【0009】
本発明において、「過熱水蒸気」とは、飽和水蒸気を飽和水蒸気点(1気圧のとき100℃)を超えて加熱した気体の水であり、乾き蒸気とも呼ばれる。それに対して、水蒸気は、沸点以上飽和水蒸気点未満において、気体状の水が部分的に凝縮した微小水滴と気体状の水とが混合している状態の水であり、湿り蒸気とも呼ばれる。
過熱水蒸気温度は、好ましくは100℃超200℃未満であり、より好ましくは、102℃~180℃であり、さらに好ましくは105℃~160℃であり、さらにより好ましく120℃~150℃である。
100℃以下では湿り蒸気であるため、過熱水蒸気処理の効果が得られない。また200℃以上では、野菜片表面のコゲや乾燥が生じる傾向にある。
過熱水蒸気処理時間は、処理する野菜片の大きさや形状により適宜設定することができる。例えば、皮を剥き、2~3等分にカットしたニンジンであれば100~170℃で10分~1時間処理する事が出来る。
過熱水蒸気処理の為の装置としては、バッチ式、コンベア式等何れの型式の過熱水蒸気噴射装置を使用してもよい。
【0010】
本発明において「ペースト化」は公知のペースト化方法であればいずれの方法により行ってもよく、例えば公知のペースト化装置を用いて行うことができる。ペースト化装置は野菜をペースト化できる公知の装置であれば制限無く使用可能であり、磨石式(砥石式)、切刃式、胴搗式、媒体攪拌式、圧縮式、衝撃式、すり潰式等の装置及びそれらの組合せを例示することができる。好ましくは磨石式又は切り刃式装置であり、最も好ましくは切刃式装置である。切刃式装置としては、市販されているカッターミキサーを使用することができる。ペースト化の条件は野菜原料やペースト化装置によって適宜変更することが可能である、例えばニンジンをカッターミキサーで処理する場合1000~2500rpmで30秒~3分間処理する事によりペースト化することが出来る。
【0011】
本発明において「細胞成分の分解酵素」とは繊維質、糖質、タンパク質、脂質等の細胞成分の分解酵素であれば特に限定されず、単独又は1種以上を組み合わせて使用することが出来る。
好ましくは、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ及びリパーゼから選ばれる1種以上を使用することが出来、より好ましくはセルラーゼ及びアミラーゼから選ばれる1種以上である。用いる細胞成分の分解酵素の種類及び量は、野菜の種別によって最適な組合せを適宜選択することができる。例えばセルラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、ヘミセルラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、アミラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、プロテアーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、リパーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2%添加する。具体的には、ニンジンであれば、そのペーストに対してセルラーゼAアマノ3(天野エンザイム社製、セルラーゼ)及びビオザイムA(天野エンザイム社製、αアミラーゼ)を選択し、各々0.01~0.8質量%添加することができる。
【0012】
本発明では、酵素反応温度は20℃未満である。好ましくは0℃以上20℃未満であり、より好ましくは0℃以上15℃以下であり、最も好ましくは5℃以上10℃以下である。
【0013】
本発明では、酵素反応時間は野菜の種類や使用する酵素の種類によって適宜変更可能であるが、好ましくは4時間を超え、さらに好ましくは8時間を超え、より好ましくは10時間を超え、最も好ましくは15時間以上である。また好ましくは200時間以下さらに好ましくは100時間以下である。
【0014】
本発明において、酵素反応後に、酵素失活処理を行うことが好ましい。酵素失活処理は酵素反応終了後に加熱等により酵素を失活させる処理である。例えば90~100℃で10~30分加熱処理することにより行うことができる。
【0015】
本発明の冷凍調理麺の製造方法は、上述のような本発明の冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む。穀粉100質量部に対して本発明の食感改良剤を好ましくは2~12質量部使用し、さらに好ましくは2~7質量部使用する。
【0016】
本発明の冷凍調理麺の食感改良方法は、上述のような本発明の冷凍調理麺の食感改良剤を、穀粉100質量部に対して0.9~12質量部使用して製麺する工程を含む。穀粉100質量部に対して本発明の食感改良剤を好ましくは2~12質量部使用し、さらに好ましくは2~7質量部使用する。
【0017】
本発明の冷凍調理麺の製造方法は本発明の食感改良剤を穀粉に対して特定量使用して製麺する工程を含む以外は通常の方法で冷凍調理麺を製造することにより行うことが出来る。また本発明の食感改良方法は本発明の食感改良剤を穀粉に対して特定量使用して製麺する工程を含む以外は通常の方法で冷凍調理麺を製造することにより行うことが出来る。例えば小麦粉などの穀粉に水分、塩などを加えて混捏し生地を作成し、得られた生地を熟成した後、製麺ロールにより成型、複合および圧延して麺帯を製造し、切歯で切り出し麺線とする、又は押出し製麺により麺線を得る。得られた麺線を茹で調理し、冷却後、必要により具材やソースとともに冷凍して製造することが出来る。
【0018】
本発明の冷凍調理麺の製造方法においては、麺の種類などに応じて、小麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、そば粉等などの穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉などの澱粉類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;かんすい;ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類等の強化剤等、通常麺の製造に用いる副原料を使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[製造例1 食感改良剤の製造]
(1)ニンジンを洗浄し、皮を剥き、2~3等分にカットする。
(2)過熱水蒸気コンベヤーオーブン(東研工業社製)を用いて、ニンジンを過熱水蒸気処理(135℃、0.5時間)した。
(3)冷却後、カッターミキサー(AC-50S、愛工舎製作所製)を用いて1500rpmで2分30秒間処理してペースト化した。
(4)ニンジンペースト100質量部に対してセルラーゼAアマノ3(天野エンザイム社製)を0.04質量部及びビオザイムA(天野エンザイム社製)を0.02質量部添加し、十分に混合攪拌した。
(5)混合物を5℃で17時間酵素反応させた。
(6)反応物を樹脂製の包装袋に1kgずつ充填して密封した。
(7)密封した包装袋を90~100℃で10~30分加熱し、殺菌・酵素失活を行い、食感改良剤Aを得た。
【0020】
[製造例2 食感改良剤を使用した冷凍調理パスタの製造]
【0021】
【0022】
(1)水30質量部と製造例1で得た食感改良剤Aを3質量部とを混合し、仕込み水とした。
(2)デュラムセモリナ粉100質量部と(1)で作った仕込み水の全量をミキサーに投入した。
(3)低速3分間、高速10分間混合し、そぼろ状生地を得た。
(4)(3)で作ったそぼろ状生地を製麺機に投入して粗複合し、粗麺帯を得、さらに複合、圧延を行い厚さ1.45mmの麺帯に調整した。
(5)得られた麺帯を#5の切刃にて切出して麺線とし、210mmの長さに切断し、生パスタを得た。
(6)得られた生パスタを沸騰水で3分茹で、流水で30秒冷却し、ついで氷水で2分30秒冷却し茹でパスタを製造した。
(7)製造した茹でパスタ200gにソースを100g上掛けし、-32℃の急速冷凍庫で2時間冷凍し冷凍調理パスタを得た。
【0023】
[官能評価]
得られた冷凍調理パスタを-30℃で1週間冷凍保管し、電子レンジで4分間加熱したものの食感を熟練のパネラー10名により、下記表1に示す官能評価基準で評価した。なお、製造例2において食感改良剤を使用せずに生パスタを調製し茹で調理し冷凍した後、加熱調理した直後の食感を評点3点とした。
【0024】
【0025】
[試験例1 酵素反応条件の検討]
表2記載の酵素反応条件とした以外は、製造例1に従って食感改良剤を製造し、得られた食感改良剤を使用して製造例2に従って冷凍調理パスタを製造した。なお、実施例2の食感改良剤は、製造例1に従って製造した食感改良剤Aに相当する。得られた冷凍調理パスタを-30℃で1週間冷凍保管し、電子レンジで4分間加熱したもの及び電子レンジで4分間加熱後10分経過したものの食感を熟練のパネラー10名により、上記表1に示す官能評価基準で評価した。総合評価は加熱直後の食感の評点と加熱後10分の食感の評点の平均点を示す。
対照区1は酵素処理していないニンジンペーストを使用して製造した冷凍調理パスタ、対照区2は食感改良剤もニンジンペーストも使用せずに製造した冷凍調理パスタである。
なお、55℃で酵素反応を行った場合、ペースト化ニンジンの性状変化は2時間でプラトーに達し、それ以上反応させても変化しない。この反応条件(55℃、2時間、比較例3)を基準とし、セルラーゼの各反応温度における相対活性から各温度における反応がプラトーとなる反応時間を設定した。なお、比較例4(反応温度70℃)ではビオザイムA(αアミラーゼ主成分、プロテアーゼ副成分)が熱失活するため、酵素反応が不十分な例として示している。
【0026】
表2
*デュラムセモリナ粉(穀粉)100質量部に対する
**食感改良剤の代わりに酵素処理していないニンジンペーストを使用
【0027】
酵素反応温度が20℃未満である実施例1~5はいずれも生パスタを調理したものと同様な良好な食感を示し、その食感はレンジ加熱10分後においても損なわれず、十分な食感改良効果が示された。食感改良剤の代わりに酵素処理していないニンジンペーストを使用した対象区1、食感改良剤を使用しない対照区2では、共に冷凍保存後の加熱処理により食感が損なわれ、また食感改良剤を使用しない対照区2では、レンジ加熱10分後にさらに食感が劣化した。酵素反応温度が20℃以上である比較例1~4では、十分な食感改良効果が認められなかった。
【0028】
[試験例2 過熱水蒸気処理条件の検討]
表3記載の過熱水蒸気処理温度とした以外は製造例1に従って食感改良剤を製造し、得られた食感改良剤を使用して製造例2に従って冷凍調理パスタを製造した。得られた冷凍調理パスタを-30℃で1週間冷凍保管し、電子レンジで4分間加熱したもの及び電子レンジで4分間加熱後10分経過したものの食感を熟練のパネラー10名により、上記表1に示す官能評価基準で評価した。総合評価は加熱直後の食感の評点と加熱後10分の食感の評点の平均点を示す。なお、比較例5では、過熱水蒸気処理を行わなかった。また比較例6の100℃の蒸気は湿り蒸気であって過熱水蒸気(乾き蒸気)ではない。
【0029】
表3
過熱水蒸気処理温度が100℃を超え、200℃未満である実施例2、6~9はいずれも生パスタを調理したものと同様な良好な食感を示し、その食感はレンジ加熱10分後においても損なわれず、十分な食感改良効果が示された。過熱水蒸気処理を行わなかった比較例5および6、過熱水蒸気処理温度が200℃以上である比較例7では食感改善効果は得られず低い評価であった。特に比較例7ではカットニンジンの乾燥が進行し過ぎたことが評価の低い原因であると考えられた。
【0030】
[試験例3 食感改良剤の使用量の検討]
次に食感改良剤の配合量を評価した。
デュラムセモリナ粉(穀粉)100質量部に対する食感改良剤配合量を表4に示すように変更し、食感改良剤と水の合計が33質量部になるように水の量を調整した以外は製造例2の方法にて生パスタを製造した(製造例1で得た食感改良剤を使用)。得られた冷凍調理パスタを-30℃で1週間冷凍保管、または虐待保存条件下で8日間保存した(-30℃で8時間、-5℃で8時間 を12サイクル)後、電子レンジで4分間加熱したものの食感を熟練のパネラー10名により、上記表1に示す官能評価基準で評価した。この虐待保存条件は、-30℃における3ヶ月保存に相当する。なお総合評価は冷凍保管後の食感の評点と虐待保存条件下での保存後の食感の評点の平均点を示す。
【0031】
表4
*デュラムセモリナ粉(穀粉)100質量部に対する
【0032】
実施例10、2及び11において良好な食感改良効果が示され、実施例2がもっとも良好であった。またその効果は虐待保存条件下においても同様であった。比較例8は配合量が少なく効果が得られず、比較例9は多すぎて硬い食感になった。
【0033】
[試験例4 異なる原料野菜を使用した食感改良剤]
次に、食感改良剤の原料野菜としてニンジン以外の野菜を使用した場合の効果を評価した。表5に示すようにニンジンの代わりにカボチャまたはジャガイモを使用した以外は製造例1の方法に従って食感改良剤を製造し、得られた食感改良剤を使用して製造例2の方法にて冷凍調理パスタを製造した。得られた冷凍調理パスタを-30℃で1週間冷凍保管し、電子レンジで4分間加熱したもの及び電子レンジで4分間加熱後10分経過したものの食感を熟練のパネラー10名により、上記表1に示す官能評価基準で評価した。なお、製造例2において食感改良剤を使用せずに生パスタを調製し茹で調理し冷凍した後、加熱調理した直後の食感を評点3点とした。なお総合評価は加熱直後の食感の評点と加熱後10分の食感の評点の平均点を示す。
結果を表5に示す
【0034】
表5
実施例2のニンジンを原料とした食感改良剤を使った場合が最も良好な食感改良効果を示したが、カボチャやジャガイモのように他の原料野菜から調製した食感改良剤でも良好な評価となり、野菜の種類に係わらず食感改良効果を示すことが示された。
【0035】
[試験例5 各種冷凍調理麺の評価]
続いて冷凍調理パスタ以外の冷凍調理麺での食感改良剤の適性を評価した。
【0036】
【0037】
(1)製造例1で得た食感改良剤Aを3質量部、食塩2質量部、水31質量部を事前に混合し仕込み水とした。
(2)中力小麦粉100質量部と(1)で作った仕込み水をミキサーに投入し、5分間混合しそぼろ状生地とした。
(3)(2)で作ったそぼろ状生地を製麺機に投入し成型して粗麺帯とし、さらに複合、圧延し厚さ2.5mmの麺帯に調整した。
(4)得られた麺帯を#10の切刃にて麺線とし、250mmの長さに切断し生うどんを得た。
(5)沸騰水(pHを5.5~6.0に調整)で20分茹で、流水で30秒冷却し、次いで氷水で2分30秒冷却し、茹でうどんを製造した。
(6)製造した茹でうどん100gにゼラチンスープを300g上掛けし、-32℃の急速冷凍庫で2時間冷凍し、冷凍調理うどんを得た。
【0038】
【0039】
(1)製造例1で得た食感改良剤Aを3質量部、水29質量部を事前に混合し仕込み水とした。
(2)そば粉40質量部と強力小麦粉60質量部を混合した。
(3)(2)で作った混合粉と(1)で作った仕込み水をミキサーに投入し、5分間混合しそぼろ状生地とした。
(4)(3)で作ったそぼろ状生地を製麺機に投入し成型して粗麺帯とし、さらに複合、圧延し厚さ1.4mmの麺帯に調整した。
(5)得られた麺帯を#20の切刃にて麺線とし、250mmの長さに切断し生そばを得た。
(6)沸騰水中で2.5分茹で、流水で30秒冷却し、次いで氷水で2分30秒冷却し、茹でそばを製造した。
(7)製造した茹でそば100gにゼラチンスープを300g上掛けし、-32℃の急速冷凍庫で2時間冷凍し冷凍調理そばを得た。
【0040】
【0041】
(1)製造例1で得た食感改良剤Aを3質量部、かんすい2質量部、水30質量部を事前に混合し仕込み水とした。
(2)中華麺用小麦粉100質量部と(1)で作った仕込み水をミキサーに投入し、5分間混合しそぼろとした。
(3)(2)で作ったそぼろを製麺機に投入し成型して粗麺帯とし、さらに複合、圧延し厚さ1.5mmの麺帯に調整した。
(4)得られた麺帯を#20の切刃にて麺線とし、250mmの長さに切断し生中華麺を得た。
(5)沸騰水中で2分茹で、流水で30秒冷却し、次いで氷水で2分30秒冷却し、茹で中華麺を製造した。
(6)製造した中華麺100gにゼラチンスープを300g上掛けし、-32℃の急速冷凍庫で2時間冷凍し冷凍調理中華麺を得た。
【0042】
[官能評価]
各種冷凍調理麺を-30℃で1週間冷凍保管した後、電子レンジで4分間加熱したもの及び電子レンジで4分間加熱後10分経過したものの食感を熟練のパネラー10名により、表1に示す官能評価基準で評価した。結果を表6に記す。なお、各麺類についてそれぞれ食感改良剤を使用せずに調製し茹で調理し冷凍した後、加熱調理した直後の食感を評点3点とした。なお総合評価は加熱直後の食感の評点と加熱後10分の食感の評点の平均点を示す。
【0043】
表6
実施例14~16のいずれにおいても良好な食感改良効果が得られ、冷凍調理麺の種類に係わらず良好な結果が得られた。