(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-05
(45)【発行日】2022-07-13
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20220706BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20220706BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220706BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220706BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20220706BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20220706BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/449
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2018075556
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017080831
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】倉金 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 力
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-004536(JP,A)
【文献】特開2014-141638(JP,A)
【文献】特開2004-039492(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077564(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、
空隙率が25%以上、80%以下であり、
以下の(a)~(e)に示す方法にて得られる、50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量に対する10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の比率が、100%以上、115%未満である、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層
:
(a)前記多孔質層または多孔質層を基材上に積層してなる非水電解液二次電池用積層セパレータを1cm角に切り出し、測定用試料を得る;
(b)工程(a)にて得られた上記測定用試料を試料台上に固定し、直径50μmの平面圧子を速度0.4877mN/secで、上記測定用試料の表面より荷重1mNの負荷となる深さまで押し込む;
(c)工程(b)の直後、ホールド時間なしで、速度0.4877mN/secにて荷重0mNとなる上記測定用試料表面の位置まで上記平面圧子を引き戻す;
(d)工程(b)および(c)における、上記測定用試料に負荷をかけ、その直後に負荷を取り除くサイクルを50回繰り返す;
その際、10回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料において、上記平面圧子を押し込んだ深さと、上記平面圧子を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料表面の位置との距離を測定し、上記距離を10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とする;
同様に、50回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料において、上記平面圧子を押し込んだ深さと、上記平面圧子を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料表面の位置との距離を測定し、上記距離を50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とする;
(e)工程(d)にて得られる、10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量および50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の値を用いて、前記50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量に対する10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の比率を算出する;
ここで、「荷重」とは、上記測定用試料に上記平面圧子を押し込んだ際に、上記平面圧子が上記測定用試料から受ける応力の大きさを意味し、また、「表面」とは、前回の負荷-除荷サイクルの除荷の終了時に荷重0mNとなる位置を示す。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、芳香族ポリアミドを含む、請求項1に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項3】
ポリオレフィン多孔質フィルムと、請求項1
または2に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層とを備える非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項4】
正極と、請求項1
または2に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、請求項
3に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
【請求項5】
請求項1
または2に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、請求項
3に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを備える非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材、および非水電解液二次電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の非水電解液二次電池は、現在、パーソナルコンピュータ、携帯電話および携帯情報端末等の機器に用いる電池、または車載用の電池として広く使用されている。
【0003】
このような非水電解液二次電池におけるセパレータとしては、ポリオレフィンを主成分とする多孔質基材の少なくとも一面に、フィラーと、樹脂とを含む多孔質層を積層させた積層セパレータが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の圧縮変形量および圧縮変形増加量といった圧縮特性と、特定の気孔率(空隙率)を備える微多孔質フィルムが、電池の出力特性および耐久性に優れる電池用セパレータとして使用され得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-87223号公報(2012年5月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の「圧縮変形量」は、微多孔質フィルムに対して、負荷-除荷サイクルを繰り返し行う場合の初回に負荷をかけた際の微多孔質フィルムの変形量である。特許文献1に記載の「圧縮変形増加量」は、短期の充放電サイクルに相当する、初回に負荷をかけた際の微多孔質フィルムの変形量と10回目に負荷をかけた際の微多孔質フィルムの変形量との差異に基づく値である。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、長期の充放電サイクルに相当する、負荷-除荷サイクルを10回を超えた回数行った際の「圧縮変形量」の増加率に関しては一切開示されておらず、また、圧縮特性とサイクル特性との関連性についても一切開示されていない。そして、特許文献1に開示されるような従来の電池セパレータは、長期の充放電サイクルを繰り返した際の電池出力特性、すなわちサイクル特性が十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[5]に示す発明を含む。
[1]熱可塑性樹脂を含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、
空隙率が25%以上、80%以下であり、
50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量に対する10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の比率が、100%以上、115%未満である、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
[2]ポリオレフィン多孔質フィルムと、[1]に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層とを備える非水電解液二次電池用積層セパレータ。
[3]正極と、[1]に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、[2]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
[4][1]に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、[2]に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを備える非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、当該非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備えた非水電解液二次電池において充放電サイクルを繰り返した際の容量維持率が高く、サイクル特性に優れるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明における負荷-除荷サイクルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
[実施形態1:非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層(以下、単に「多孔質層」とも称する)は、熱可塑性樹脂を含む非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層であって、空隙率が25%以上、80%以下であり、50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量に対する10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の比率(以下、単に「変位率」とも称する)が、100%以上、115%未満である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層の「負荷-除荷サイクルにおける変位量」および「変位率」は、以下に示す方法にて測定され得る。
【0014】
図1に示すように、多孔質層または多孔質層を基材上に積層してなる非水電解液二次電池用積層セパレータを1cm角に切り出し、測定用試料2を得る。上記測定用試料2を試料台上に接着剤(水のり)を用いて固定し、直径50μmの平面圧子1(ダイヤモンド製)を速度0.4877mN/secで、上記測定用試料2の表面より荷重1mNの負荷となる深さまで押し込む(負荷)。その直後、ホールド時間なしで、速度0.4877mN/secにて荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置まで上記平面圧子1を引き戻す(除荷)。ここで、「荷重」とは、測定用試料2に平面圧子1を押し込んだ際に、当該平面圧子1が当該測定用試料2から受ける応力の大きさを意味する。
【0015】
上述の測定用試料2に負荷をかけ、その直後に負荷を取り除くサイクル(本明細書において、負荷-除荷サイクルと称する)を50回繰り返す。10回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料2において、上記平面圧子1を押し込んだ深さと、上記平面圧子1を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置との距離を測定する。当該距離を10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とする。同様に、50回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料2において、上記平面圧子1を押し込んだ深さと、上記平面圧子1を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置との距離を測定する。当該距離を50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とする。
【0016】
ここで、「表面」とは前回の負荷-除荷サイクルの除荷の終了時に荷重0mNとなる位置を示す。
【0017】
上述の方法にて測定した10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量および50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量から、上記変位率を算出する。
【0018】
なお、上述の通り、上記「負荷-除荷サイクルにおける変位量」および上記「変位率」の測定時に測定用試料2に加えられる力(荷重)は、1mNと小さいため、上記非水電解液二次電池用積層セパレータから測定用試料2を形成した場合であっても、上記荷重が、当該非水電解液二次電池用積層セパレータの表層である上記多孔質層に加えられることとなる。すなわち、測定用試料2が、上記多孔質層から形成された場合および上記非水電解液二次電池用積層セパレータから形成された場合のいずれであっても、多孔質層に荷重が加えられ、その結果、多孔質層における「負荷-除荷サイクルにおける変位量」および「変位率」が測定される。
【0019】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、非水電解液二次電池において、非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材として電極と接し得、あるいは、電極上に積層され、電極と非水電解液二次電池用セパレータとの間に位置し得る。
【0020】
非水電解液二次電池において、充放電時に電極の活物質(正極活物質および負極活物質)が体積変化する為、充放電に伴い電極(正極および負極)も膨張および収縮する。従って充放電サイクルを繰り返した場合、多孔質層は、電極が膨張することによる応力(負荷)と、電極が収縮することによる前記負荷と除荷とを繰り返し受ける。
【0021】
多孔質層に対して負荷-除荷サイクルを複数回繰り返す場合、繰り返し加えられる荷重により、当該多孔質層は塑性変形する。従って、負荷-除荷のサイクルを繰り返すと、特に除荷の際に上述の平面圧子1を引き戻す距離が段々小さくなり、負荷-除荷サイクルにおける変位量は低下していく。
【0022】
それゆえに、本発明の一実施形態に係る多孔質層において、上記変位率の下限は、100%になる。
【0023】
本発明の一実施形態に係る多孔質層において、上記変位率が115%未満であることは、長期の充放電サイクルを繰り返した場合において、多孔質層の塑性変形の程度が小さいことを示す。上記塑性変形の程度が大きいと、長期の充放電サイクルを繰り返す場合の上述の電極の膨張および収縮と、多孔質層の変形との差異が大きくなることによって、多孔質層と電極間の空隙が発生する。その場合、上述の多孔質層と電極間の空隙に電解液等の分解に由来する生成物およびガス等が溜り、サイクル特性等の電池特性が劣化するおそれがある。上記変位率が115%未満であれば、このような空隙の発生および電池特性の劣化を抑制することができる。係る観点から、上記変位率は、好ましくは114%以下、より好ましくは、110%以下である。
【0024】
一方、上記変位率が低い値となる場合、充放電サイクルを繰り返した場合であっても、多孔質層の変位量がほとんど変化しないことを意味する。
【0025】
上述のとおり、非水電解液二次電池においては、電解液等の分解に由来する生成物およびガス等が発生する。そしてこれらは不可逆的に増加する。上記変位率が低過ぎる場合、多孔質層がほとんど塑性変形しないことから、当該生成物およびガス等の発生に伴い生じた応力が、恒久的に電極および多孔質層に加えられることになる。その結果として、電極構造の変化などを招き、サイクル特性等の電池特性が低下するおそれがある。係る観点から、上記変位率は、好ましくは、103%以上、より好ましくは、105%以上である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る多孔質層において、「10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量」は、0.05μm以上、0.20μm以下が好ましく、0.08μm以上、0.15μm以下がより好ましい。また、本発明の一実施形態に係る多孔質層において、「50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量」は、0.05μm以上、0.20μm以下が好ましく、0.08μm以上、0.15μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、基材の少なくとも一方の面に積層され得る。上記基材としては、例えば、非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する基材(以下、「多孔質基材」とも称する)、電極を挙げることができる。上記多孔質基材としては、例えば、ポリオレフィン多孔質フィルムを挙げることができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、好ましくは、後述する本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材として使用され得る。すなわち、本発明の一実施形態に係る多孔質層は、多孔質基材としてポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に積層されることによって、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを形成し得る。
【0029】
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、熱可塑性樹脂を含む。多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本発明の一実施形態に係る多孔質層が非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する部材として使用される場合、上記多孔質層は、当該積層セパレータの最外層として、電極と接する層となり得る。
【0030】
<熱可塑性樹脂>
上記多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びエチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フッ化ビニル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素樹脂;上記含フッ素樹脂の中でもガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴム;芳香族重合体;ポリカーボネート;ポリアセタール;スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリスルホン、ポリエステル等の融点又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0031】
本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂は、芳香族重合体であることが好ましい。ここで、「芳香族重合体」とは、主鎖を構成する構造単位に芳香環が含まれる重合体のことをいう。すなわち、上記熱可塑性樹脂の原料モノマーに芳香族化合物が含まれることを意味する。
【0032】
上記芳香族重合体の具体例としては、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリサルホン、および芳香族ポリエーテルなどを挙げることができる。上記芳香族重合体としては、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドおよび芳香族ポリエステルが好ましい。芳香族重合体は、主鎖に脂肪族炭素を有さない全芳香族重合体であることが好ましい。
【0033】
本明細書において、重合体の一般名称は、その重合体が有する主たる結合様式を表す。例えば、本発明における熱可塑性樹脂に含まれる重合体が芳香族ポリエステルと称される芳香族重合体である場合、当該芳香族重合体における分子中の主鎖結合数の50%以上がエステル結合であることを表している。なお、上記芳香族ポリエステルと称される芳香族重合体において、主鎖を構成する結合に、エステル結合以外のその他の結合(例えば、アミド結合、イミド結合等)が含まれていてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂は、1種類でもよく、2種類以上の樹脂の混合物でもよい。
【0035】
芳香族ポリアミドとしては、パラアラミドおよびメタアラミド等の全芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、6Tナイロン、6Iナイロン、8Tナイロン、10Tナイロン、並びに、これらの変性物、または、これらの共重合体などが挙げられる。
【0036】
芳香族ポリイミドとしては、芳香族二酸無水物と芳香族ジアミンの縮重合で調製される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’-メチレンジアニリン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’-ナフタレンジアミンなどが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明においては、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0037】
芳香族ポリエステルとしては、例えば、以下に示すものが挙げられる。これらの芳香族ポリエステルは全芳香族ポリエステルであることが好ましい。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、および芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(2)同種または異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られる重合体、
(3)芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(4)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られる重合体、
(5)芳香族ジカルボン酸およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られる重合体、
(6)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、および芳香族ジアミンを重合させて得られる重合体。
(7)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、および芳香族ジオールを重合させて得られる重合体、
(8)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、および芳香族ジオールを重合させて得られる重合体。
【0038】
上述の芳香族ポリエステルのうち、上記(4)~(7)または(8)の芳香族ポリエステルが、溶媒への溶解性の観点から好ましい。溶媒への溶解性に優れることで多孔質層の生産性を向上させることができる。
【0039】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジアミンおよびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンの代わりに、それらのエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体を使用してもよい。
【0040】
ここで、カルボン酸のエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステル生成反応もしくはポリアミド生成反応を促進するような酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応もしくはアミド交換反応によりポリエステルもしくはポリアミドを生成するようなアルコール類やエチレングリコール、アミンなどとエステルもしくはアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0041】
また、フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0042】
さらに、アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するようなカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0043】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンは、エステル形成性もしくはアミド形成性を阻害しない程度であれば、メチル基、エチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい。
【0044】
上記全芳香族ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0046】
【0047】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0048】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0049】
【0050】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0051】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【0052】
【0053】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0054】
フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する繰り返し構造単位:
【0055】
【0056】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。また、窒素原子に結合する水素原子の一部または全部がアルキル基やアシル基などで置換されていてもよい。
【0057】
芳香族ジアミンに由来する繰り返し構造単位:
【0058】
【0059】
上記の繰り返し構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0060】
なお、繰り返し構造単位に置換されていてもよいアルキル基としては、例えば炭素数1~10のアルキル基が通常用いられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。繰り返し構造単位に置換されていてもよいアリール基としては、例えば炭素数6~20のアリール基が通常用いられ、中でもフェニル基が好ましい。また、窒素原子に結合する水素原子の一部または全部がアルキル基やアシル基などで置換されていてもよい。繰り返し構造単位に置換されていてもよいハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0061】
本発明の一実施形態に係る非水電解液積層セパレータの耐熱性をより高める観点から、芳香族ポリエステルは、上記(A1)、(A3)、(B1)、(B2)または(B3)式で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0062】
ここで上記繰り返し単位を含む構造単位の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記(a)~(d)が挙げられる。
【0063】
(a):
上記繰り返し構造単位(A1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A3)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A1)、(B1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A3)、(B1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
上記繰り返し構造単位(A3)、(B3)および(D1)の組み合わせ、または、
上記繰り返し構造単位(B1)、(B2)または(B3)および(D1)の組み合わせ。
【0064】
(b):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(D2)に置換した組み合わせ。
【0065】
(c):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1)の一部を(A3)に置換した組み合わせ。
【0066】
(d):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(C1)または(C3)に置換した組み合わせ。
(e):上記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(E1)または(E5)に置換した組み合わせ。
【0067】
さらに好ましい組み合わせとしては、p-ヒドロキシ安息香酸および2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10~50モル%、4-ヒドロキシアニリンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10~50モル%、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10~50モル%、ハイドロキノンに由来する繰り返し構造単位10~19モル%を含むことがより好ましく、更には、4-ヒドロキシアニリンに由来する繰り返し構造単位10~35モル%、イソフタル酸に由来する繰り返し構造単位20~45モル%を含むことが特に好ましい。
【0068】
上記熱可塑性樹脂の調製方法としては、当業者にとって既知の方法を使用することができ、特に限定されない。上記熱可塑性樹脂の調製方法の一例として、芳香族ポリエステルの調製方法を以下に例示する。
【0069】
芳香族ポリエステルの調製方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンを過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化して(アシル化反応)、アシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換することにより重合する方法が挙げられる。
【0070】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量がフェノール性水酸基とアミノ基の総計の1.0~1.2倍当量であることが好ましい。
【0071】
アシル化反応は、130~180℃で5分間~10時間反応させることが好ましく、140~160℃で10分間~3時間反応させることがより好ましい。
【0072】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と操作性の観点から、好ましくは、無水酢酸である。
【0073】
エステル交換・アミド交換による重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8~1.2倍当量であることが好ましい。また重合温度は、400℃以下で行うことが好ましく、さらに好ましくは350℃以下である。
【0074】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換による重合は、触媒の存在下に行ってもよい。上記触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができる。
【0075】
エステル交換・アミド交換による重合は、通常、溶融重合により行われるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、固化後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20~350℃で、1~30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合後、得られた芳香族ポリエステルは、公知の方法によりペレット化して使用してもよい。
【0076】
本発明の一実施形態に係る多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂は、例えば、上述の芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリアミドの混合物であり得る。上記芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリアミドの混合物において、芳香族ポリエステルと芳香族ポリアミドの合計重量を100重量%とした場合の芳香族ポリエステルの重量は、20重量%以上、75重量%以下であることが好ましく、25重量%以上、50重量%以下であることがより好ましい。
【0077】
上記熱可塑性樹脂に含まれる芳香族ポリアミドは、例えば、パラアラミド、メタアラミドが挙げられるが、パラアラミドであることがより好ましい。
【0078】
上記芳香族ポリアミドの調製方法としては、特に限定されないが、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合法が挙げられる。その場合、得られる芳香族ポリアミドは、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’-ビフェニレン、1,5-ナフタレン、2,6-ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものであり、具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロ-パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0079】
また、芳香族ポリアミドとしてポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、PPTAと称する)の溶液を調製する具体的な方法として、例えば、以下の(1)~(4)に示す方法が挙げられる。
(1)乾燥したフラスコにN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと称する)を仕込み、200℃で2時間乾燥した塩化カルシウムを添加して100℃に昇温し、上記塩化カルシウムを完全に溶解させる。
(2)(1)にて得られた溶液の温度を室温に戻し、パラフェニレンジアミン(以下、PPDと略す)を添加した後、上記PPDを完全に溶解させる。
(3)(2)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド(以下、TPCと称する)を10分割して約5分間おきに添加する。
(4)(3)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま1時間熟成し、減圧下にて30分間撹拌して気泡を抜くことにより、PPTAの溶液を得る。
【0080】
<フィラー>
本発明の一実施形態に係る多孔質層は、さらにフィラーを含むことが好ましい。当該フィラーは、絶縁性のものであり、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物の何れかから選ばれるものであってもよい。
【0081】
上記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0082】
上記の無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。尚、本発明において、略球状のアルミナ粒子は、真球状粒子を含むものである。
【0083】
本発明において、本発明の一実施形態に係る多孔質層におけるフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、多孔質層の総重量に対する、フィラーの重量は、通常20重量%以上、95重量%以下、好ましくは30重量%以上、90重量%以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0084】
本発明におけるフィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、何れの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。また、多孔質層の強度特性および平滑性の観点から、フィラーを構成する粒子の平均粒子径としては、0.01μm以上、1μm以下であることが好ましい。ここで、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から測定される値を用いる。具体的には、該写真に撮影されている粒子から任意に50個抽出し、それぞれの粒子径を測定して、その平均値を用いる。
【0085】
<多孔質層の物性>
多孔質層の物性に関する下記説明においては、基材の両面に多孔質層が積層される場合には、非水電解液二次電池において正極と接する多孔質層の物性を少なくとも指す。例えば、多孔質基材の両面に多孔質層が積層される場合には、非水電解液二次電池としたときの、多孔質基材における正極と対向する面に積層された多孔質層の物性を少なくとも指す。
【0086】
製造する非水電解液二次電池用積層セパレータの厚さおよび非水電解液二次電池の大きさ(厚さ)を考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質基材の片面または両面に多孔質層を積層する場合においては、多孔質層の膜厚は0.5μm~15μm(片面当たり)であることが好ましく、2μm~10μm(片面当たり)であることがより好ましい。
【0087】
多孔質層の膜厚が1μm以上(片面においては0.5μm以上)であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータにおいて、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができ、また、多孔質層における電解液の保持量を維持できるという面において好ましい。一方、多孔質層の膜厚が両面の合計で30μm以下(片面においては15μm以下)であることが、当該多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータ全域におけるリチウムイオン等のイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができる面、並びに、正極および負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる面において好ましい。
【0088】
本発明の一実施形態に係る多孔質層の空隙率は、25%~80%が好ましく、30%~75%がより好ましい。多孔質層の空隙率は、例えば、多孔質層の比重と体積から算出される。上記空隙率が上述の範囲であることは、得られる多孔質層および当該多孔質層を含む非水電解液二次電池用積層セパレータのイオン透過性の観点から好ましい。
【0089】
本発明の一実施形態に係る多孔質層の空隙率は、例えば以下の方法にて算出・測定される、膜厚[μm]、重量目付[g/m2]および真密度[g/m3]から求められる。
(膜厚の測定)
非水電解液二次電池用積層セパレータ、および非水電解液二次電池用積層セパレータに用いられた多孔質基材の膜厚をJIS規格(K 7130-1992)に従い、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定する。得られた、非水電解液二次電池用積層セパレータと、多孔質基材の膜厚の差から、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層の膜厚を算出する。
(重量目付)
非水電解液二次電池用積層セパレータから一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W2(g)を測定する。当該非水電解液二次電池用積層セパレータに用いられた多孔質基材から一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W1(g)を測定する。そして、以下の式(2)に従い、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層の重量目付を算出する。
式(2):重量目付(g/m2)=(W2-W1)/(0.08×0.08)
(真密度)
非水電解液二次電池用積層セパレータにおける多孔質層を4mm角~6mm角に切り出し、30℃以下で17時間真空乾燥した後、乾式自動密度計(マイクロメリテックス社製
AccuPyeII 1340)を用いて、ヘリウムガス置換法により、真密度を測定する。
【0090】
上記のようにして得られた膜厚[μm]、重量目付[g/m2]および真密度[g/m3]から、以下の式に従って、空隙率を算出する。
式:多孔質層の空隙率[%]=[1-(多孔質層の重量目付[g/m2])/{(多孔質の膜厚[μm])×10-6×(多孔質層の真密度[g/m3])}]×100
本発明の一実施形態に係る多孔質層の透気度は、当該多孔質層を含む非水電解液二次電池用積層セパレータのイオン透過性の観点から、30秒/100cc~300秒/100ccであることが好ましく、50秒/100cc~250秒/100ccであることがより好ましい。上記透気度が上述の範囲であることによって、上記多孔質層のイオン透過性を良好に保つことができ、結果として、当該多孔質層を含む非水電解液二次電池の抵抗値等の電池特性を向上させることができる。
【0091】
<多孔質層の製造方法>
本発明の一実施形態に係る多孔質層の製造方法としては、例えば、上記熱可塑性樹脂を溶媒に溶解させると共に、任意で、上記フィラーを分散させることにより、多孔質層を形成するための塗工液を調製し、該塗工液を基材に塗布し、乾燥させることにより、本発明の一実施形態に係る多孔質層を析出させる方法が挙げられる。なお、基材には、後述する多孔質基材(ポリオレフィン多孔質フィルム)、または、電極等を使用することができる。
【0092】
上記溶媒(分散媒)は、基材に悪影響を及ぼさず、上記熱可塑性樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)およびフィラーの量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。具体的には、上記熱可塑性樹脂を溶媒(分散媒)に溶解させた溶液にフィラーを添加、分散する方法を挙げることができる。フィラーを添加する場合、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用してフィラーを溶媒(分散媒)に分散させることができる。
【0094】
塗工液を基材に塗工する方法としては、ナイフ、ブレード、バー、グラビア、ダイ等の公知の塗工方法を用いることができる。
【0095】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、具体的には水やアルコール、アセトンなどの低沸点の貧溶媒で置換、析出させ、乾燥を行う方法がある。
【0096】
本発明の一実施形態に係る多孔質層の変位率を100%以上、115%未満の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、多孔質層の製造条件を好適な条件に調整する方法を挙げることができる。また、多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂として、特性の異なる2種類以上の樹脂を混合して用いる方法が挙げられる。
【0097】
好適な製造条件としては、例えば、上記塗工液中の樹脂濃度の範囲を、4重量%以上20重量%未満に調整する方法が挙げられる。より好ましい前記樹脂濃度は5重量%以上15重量%以下である。上記範囲より樹脂濃度が低い場合、上記溶媒除去過程における樹脂析出速度が遅くなるため、析出樹脂が巨大化し、層全体として構造が不均一化し、結果として、塑性変形が起こり易くなる傾向がある。一方、上記範囲より樹脂濃度が高い場合においては、上記塗工液の分散不良が起こり、層全体として構造が不均一化し、結果として塑性変形が起こり易くなる傾向がある。
【0098】
特性の異なる2種類以上の樹脂を混合して多孔質層に用いたときには、1種のみからなるときに比較して、多孔質層を構成する樹脂同士の相溶性や変形性を抑制できる傾向がある。その結果として、多孔質層の塑性変形の程度が小さくなる傾向がある。
【0099】
また、多孔質層に含まれる熱可塑性樹脂として、剛直なパラ配向モノマーのみからなる樹脂と、単量体としてメタ配向モノマーを適度な量用いた熱可塑性樹脂とを併用することによって、多孔質層の剛性を維持したまま、適度な柔軟性を付与することが可能となり、得られる多孔質層の塑性変形の起こり易さを抑制し、上記変位率を100%以上、115%未満の範囲に制御することもできる。
【0100】
[実施形態2:非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、本発明の実施形態1に係る多孔質層を含む。好ましくは、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムと、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された本発明の実施形態1に係る多孔質層を含む。
【0101】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備えていることから、非水電解液二次電池のサイクル特性を向上させるとの効果を奏する。
【0102】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムである。また、上記多孔質フィルムは、微多孔膜であることが好ましい。即ち、上記多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を有する構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるポリオレフィン系樹脂を主成分とする。上記多孔質フィルムは、1つの層から形成されるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0103】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムとは、多孔質フィルムにおけるポリオレフィン系樹脂成分の割合が、多孔質フィルムを構成する材料全体の、通常、50体積%以上であり、好ましくは90体積%以上、より好ましくは95体積%以上であることを意味する。ポリオレフィン多孔質フィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×105~15×106の範囲の高分子量成分が含まれていることが好ましい。多孔質フィルムのポリオレフィン系樹脂として特に重量平均分子量100万以上のポリオレフィン系樹脂が含まれることにより、ポリオレフィン多孔質フィルム、および当該ポリオレフィン多孔質フィルムと上記多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータ全体の強度が高くなるためより好ましい。
【0104】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン等を重合してなる高分子量の単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)または共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリオレフィン多孔質フィルムは、これらのポリオレフィン系樹脂を1種類含む層、および/または、これらのポリオレフィン系樹脂の2種類以上を含む層、である。特に、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるという面において、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレン系樹脂が好ましい。なお、ポリオレフィン多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂以外の成分を含むことを妨げない。
【0105】
多孔質フィルムの透気度は、通常、ガーレ値で30秒/100cc~500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50秒/100cc~300秒/100ccの範囲である。多孔質フィルムが、上記範囲の透気度を有すると、多孔質フィルムが非水電解液二次電池用セパレータとして、或いは後述する多孔質層を備える非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用される場合に、当該セパレータ、当該積層セパレータは充分なイオン透過性を得ることができる。
【0106】
多孔質フィルムの膜厚は、薄いほど電池のエネルギー密度を高められるため、20μm以下が好ましく、16μm以下がより好ましく、11μm以下がさらに好ましい。また、フィルム強度の観点から4μm以上が好ましい。すなわち、多孔質フィルムの膜厚は、4μm以上20μm以下が好ましい。
【0107】
多孔質フィルムの製造方法は、公知の手法を用いることができ、特に限定されない。例えば、特許第5476844号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂にフィラーを加えてフィルム成形した後、当該フィラーを除去する方法が挙げられる。
【0108】
具体的には、例えば、多孔質フィルムが、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示す工程(1)~(4)を含む方法により製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5重量部~200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100重量部~400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程、
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程、
(4)工程(3)で得られたシートを延伸する工程。
その他、上述した各特許文献に記載の方法を利用してもよい。
【0109】
また、本発明における多孔質フィルムとして、上述の特徴を有する市販品を使用してもよい。
【0110】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、前述した本発明の一実施形態に係る多孔質層の製造方法と同一の方法を挙げることができ、具体的には、上記基材として、上記ポリオレフィン多孔質フィルムを使用する方法が挙げられる。
【0111】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの物性>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの膜厚は、薄ければ薄いほど、電池のエネルギー密度を高めることができるため好ましいが、膜厚が薄いと強度が低下するため、製造する上での限界がある。以上の事項を考慮すると、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの膜厚は、50μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。また上記膜厚は、5μm以上であることが好ましい。
【0112】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30~1000秒/100ccであることが好ましく、50~800秒/100ccであることがより好ましい。非水電解液二次電池用積層セパレータが上記透気度を有することにより、充分なイオン透過性を得ることができる。透気度が上記範囲を超える場合には、非水電解液二次電池用積層セパレータの空隙率が高いために積層構造が粗になっていることを意味し、結果として非水電解液二次電池用積層セパレータの強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。一方、透気度が上記範囲未満の場合には、非水電解液二次電池用積層セパレータは、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。
【0113】
尚、本発明に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、上記多孔質フィルムおよび多孔質層の他に、必要に応じて、接着層、保護層等の公知の多孔膜を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0114】
[実施形態3:非水電解液二次電池用部材、実施形態4:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されてなる。
【0115】
本発明の実施形態4に係る非水電解液二次電池は、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを含む。
【0116】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備え得る。また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と、ポリオレフィン多孔質フィルムと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材、すなわち、正極と、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備えるリチウムイオン二次電池であり得る。なお、非水電解液二次電池用セパレータ以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0117】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、通常、負極と正極とが、本発明の一実施形態に係る多孔質層または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。非水電解液二次電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池であることが好ましい。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、または挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0118】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材は、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを備えていることから、非水電解液二次電池のサイクル特性を向上させることができるとの効果を奏する。本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを備えていることから、サイクル特性に優れるとの効果を奏する。
【0119】
<正極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材および非水電解液二次電池における正極としては、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、正極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電剤および結着剤を含んでもよい。
【0120】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、CoおよびNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0121】
上記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0123】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Niおよびステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0124】
シート状の正極の製造方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0125】
<負極>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池部材および非水電解液二次電池における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されないが、例えば、負極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電剤および結着剤を含んでもよい。
【0126】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、例えば、炭素質材料等が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、および熱分解炭素類等が挙げられる。
【0127】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Niおよびステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0128】
シート状の負極の製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電剤、および、上記結着剤が含まれる。
【0129】
<非水電解液>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されず、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、Li2B10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl4等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0131】
<非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、上記正極、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層と多孔質基材、または本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極をこの順で配置する方法が挙げられる。
【0132】
また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、上記方法にて非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池を製造することができる。
【実施例】
【0133】
[測定方法]
実施例1~4、比較例1~4に記載のポリオレフィン多孔質フィルム、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータの物性値を以下に示す方法にて測定した。
【0134】
<膜厚の測定>
実施例1~4、比較例1~4において、非水電解液二次電池用積層セパレータおよびポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚をJIS規格(K 7130-1992)に従い、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定した。また、非水電解液二次電池用積層セパレータの膜厚とポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚との差から、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層の膜厚を算出した。
【0135】
<空隙率の測定>
(重量目付)
ポリオレフィン多孔質フィルムから一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W1(g)を測定した。また、非水電解液二次電池用積層セパレータから一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W2(g)を測定した。そして、以下の式(1)に従い、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層の重量目付を算出した。
【0136】
重量目付(g/m2)=(W2-W1)/(0.08×0.08) (1)
上述の方法にて算出・測定された多孔質層の膜厚[μm]および重量目付[g/m2]、並びに、多孔質層の真密度[g/m3]から、以下の式(2)に基づき、当該多孔質層の空隙率[%]を算出した。
【0137】
(空隙率)=[1-(重量目付)/{(膜厚)×10
-6×1[m
2]×(真密度)}]×100 (2)
<「負荷-除荷サイクルにおける変位量」および「変位率」の測定>
図1に示すように、多孔質層を1cm角に切り出し、測定用試料2を得た。上記測定用試料2を試料台上に接着剤(水のり)を用いて固定し、直径50μmの平面圧子1(ダイヤモンド製)を速度0.4877mN/secで、上記測定用試料2の表面より荷重1mNの負荷となる深さまで押し込んだ(負荷)。その直後、ホールド時間なしで、速度0.4877mN/secにて荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置まで上記平面圧子1を引き戻した(除荷)。ここで、「荷重」とは、測定用試料2に平面圧子1を押し込んだ際に、当該平面圧子1が当該測定用試料2から受ける応力の大きさを意味する。
【0138】
上述の測定用試料2に負荷をかけ、その直後に負荷を取り除くサイクル(本明細書において、負荷-除荷サイクルと称する)を50回繰り返した。10回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料2において、上記平面圧子1を押し込んだ深さと、上記平面圧子1を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置との距離を測定した。当該距離を10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とした。同様に、50回目の負荷-除荷サイクルにおける上記測定用試料2において、上記平面圧子1を押し込んだ深さと、上記平面圧子1を引き戻した際に荷重0mNとなる上記測定用試料2表面の位置との距離を測定した。当該距離を50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量(単位:μm)とした。
【0139】
ここで、「表面」とは前回の負荷-除荷サイクルの除荷の終了時に荷重0mNとなる位置を示す。
【0140】
上述の方法にて測定した10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量および50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量から、上記変位率:{(10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量)/(50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量)}を算出した。
【0141】
[サイクル特性:容量維持率]
以下に示す方法にて、実施例1~4、比較例1~4にて製造された非水電解液二次電池の100サイクル後の容量維持率を測定し、サイクル特性を評価した。
【0142】
実施例1~4、比較例1~4にて製造された充放電サイクルを経ていない非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲;4.1~2.7V、電流値;0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。
【0143】
初期充放電を行った非水電解液二次電池の容量(初期容量)を測定した。
【0144】
続いて、初期容量を測定した後の非水電解液二次電池に対して、55℃にて、充電電流値;1C、放電電流値;10Cの定電流で充放電を行うことを1サイクルとして、100サイクルの充放電を行った。100サイクルの充放電を行った非水電解液二次電池の容量(100サイクル後の容量)を測定した。
【0145】
上述の方法にて測定された初期容量に対する100サイクル後の容量の比率を算出し、100サイクル後の容量維持率とした。
【0146】
[実施例1]
<熱可塑性樹脂の合成>
(全芳香族ポリエステルの合成)
以下に示す方法にて、熱可塑性樹脂として全芳香族ポリエステルAを合成した。
【0147】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、4-ヒドロキシ安息香酸を248.6g(1.8モル)、4-ヒドロキシアセトアニリドを468.6g(3.1モル)、イソフタル酸を681.1g(4.1モル)およびハイドロキノンを110.1g(1.0モル)を仕込んだ。そして、反応器内を充分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて反応器内部の温度を150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0148】
その後、留出する副生成物(酢酸)および未反応の無水酢酸を留去しながら、300分間かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の全芳香族ポリエステル粉末を得た。
【0149】
さらに、この全芳香族ポリエステル粉末を窒素雰囲気において290℃で3時間にわたって加熱処理することにより、固相重合を行った。
【0150】
こうして得られた比較的高分子量の全芳香族ポリエステルを芳香族ポリエステルBと称する。上記芳香族ポリエステルB100gを、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと称する)400gに加え、100℃で2時間加熱して、芳香族ポリエステルBの溶液を得た。
【0151】
(アラミド樹脂の合成)
撹拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する5リットルのセパラブルフラスコを使用して、以下に示す方法にて、熱可塑性樹脂としてアラミド樹脂Aの合成を行った。
【0152】
セパラブルフラスコを充分乾燥し、NMPを4200g仕込み、200℃にて2時間乾燥させた塩化カルシウムを272.65g添加して100℃に昇温した。塩化カルシウムが完全に溶解した後、当該フラスコ内の温度を室温に戻して、パラフェニレンジアミン(以下、PPDと略す)を131.91g添加し、当該PPDを完全に溶解させ、溶液を得た。この溶液の温度を20±2℃に保ったまま、当該溶液に対して、テレフタル酸ジクロライド(以下、TPCと略す)243.32gを10分割して約5分間おきに添加した。その後、得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま、当該溶液を1時間熟成させ、気泡を抜くため減圧下にて30分間撹拌し、アラミド樹脂Aの溶液を得た。
【0153】
<塗工液の調整>
(芳香族ポリエステルB):(アラミド樹脂A)=50重量部:150重量部となるように芳香族ポリエステルBの溶液とアラミド樹脂Aの溶液とを混合し、さらに芳香族ポリエステルB100重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末をそれぞれ200重量部ずつ添加した。続いて固形分濃度が7.0%となるようにNMPで希釈してからホモジナイザーで撹拌し、さらに圧力式分散機で50MPa×2回処理することで塗工液1を得た。
【0154】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
得られた塗工液1を、ポリオレフィン多孔質フィルムであるポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中の固形分が1平方メートル当たり2.6gとなるように塗布した。得られた塗布物である積層体を、60℃相対湿度80%の加湿オーブンに1分間入れ、その後イオン交換水で洗浄してから80℃のオーブンで乾燥させ、非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ1とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ1の膜厚は、15.8μm、上記多孔質層の空隙率は、68%であった。
【0155】
<非水電解液二次電池の製造>
次に、上記のようにして作製した非水電解液二次電池用積層セパレータ1を用いて非水電解液二次電池を以下に従って作製した。
【0156】
(正極の作製)
LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2/導電剤/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を用いた。上記市販の正極を、正極活物質層が形成された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm3、正極容量は174mAh/gであった。
【0157】
(負極の作製)
黒鉛/スチレン-1,3-ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を用いた。上記市販の負極を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の厚さは49μm、密度は1.40g/cm3、負極容量は372mAh/gであった。
【0158】
(非水電解液二次電池の組み立て)
上記正極、上記負極および非水電解液二次電池用積層セパレータ1を使用して、以下に示す方法にて非水電解液二次電池を製造した。
【0159】
ラミネートパウチ内で、上記正極、非水電解液二次電池用積層セパレータ1、および負極をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極および負極を配置した。
【0160】
続いて、上記非水電解液二次電池用部材を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。上記非水電解液としては、LiPF6を、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に、LiPF6の濃度が1モル/リットルとなるように溶解させた25℃の電解液を用いた。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池を作製した。非水電解液二次電池の設計容量は20.5mAhとした。上記非水電解液二次電池を非水電解液二次電池1とする。
【0161】
[実施例2]
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
上記芳香族ポリエステルB72重量部に対して上記アラミド樹脂Aが128重量部となるように芳香族ポリエステルBの溶液とアラミド樹脂Aの溶液とを混合し、得られた溶液にアルミナ粉末を混合してなる分散液を固形分濃度が8.0%となるようにNMPにて希釈した以外は、実施例1と同様にして、塗工液2を得た。得られた塗工液2を使用して、実施例1と同様の方法にて非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ2とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ2の膜厚は、15.9μm、上記多孔質層の空隙率は、67%であった。
【0162】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ2を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池2とする。
【0163】
[実施例3]
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
上記芳香族ポリエステルB100重量部に対して上記アラミド樹脂Aが100重量部となるように芳香族ポリエステルBの溶液とアラミド樹脂Aの溶液とを混合し、得られた溶液にアルミナ粉末を混合してなる分散液を固形分濃度が9.0%となるようにNMPにて希釈した以外は、実施例1と同様にして、塗工液3を得た。得られた塗工液3を使用して、実施例1と同様の方法にて非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ3とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ3の膜厚は、16.0μm、上記多孔質層の空隙率は、68%であった。
【0164】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ3を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池3とする。
【0165】
[実施例4]
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
上記芳香族ポリエステルB120重量部に対して上記アラミド樹脂Aが80重量部となるように芳香族ポリエステルBの溶液とアラミド樹脂Aの溶液とを混合し、得られた溶液にアルミナ粉末を混合してなる分散液を固形分濃度が10.0%となるようにNMPにて希釈した以外は、実施例1と同様にして、塗工液4を得た。得られた塗工液4を使用して、実施例1と同様の方法にて非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ4とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ4の膜厚は、15.8μm、上記多孔質層の空隙率は、68%であった。
【0166】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ4を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池4とする。
【0167】
[比較例1]
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
上記アラミド樹脂を使用することなく、上記芳香族ポリエステルBのみに溶媒(NMP)を加え、固形分濃度(芳香族ポリエステルB)を20重量%となるように調整し、さらにポリマーB200重量部に対し、平均粒径0.02μmのアルミナ粉末と、平均粒径0.3μmのアルミナ粉末とをそれぞれ200重量部ずつ添加し、分散液を得た。上記分散液を実施例1と同様の方法により拡散、混合、分散して、塗工液5を得た。得られた塗工液5を使用して、実施例1と同様の方法にて非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ5とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ5の膜厚は、15.8μm、上記多孔質層の空隙率は、68%であった。
【0168】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ5を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池5とする。
【0169】
[比較例2]
<アラミド樹脂の合成>
撹拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する5リットル(l)のセパラブルフラスコに、メタフェニレンジアミン222gとNMP3300gを仕込み、撹拌して溶解させた。続いて70℃に加熱して溶解させたイソフタル酸クロライド419gをNMP1000gに溶解させてから滴下し、23℃で60分間反応させ、10%アラミド樹脂溶液を得た。得られたアラミド樹脂溶液を減圧乾燥し、アラミド樹脂Cの固体を得た。
【0170】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
上記アラミド樹脂Cの固体、アルミナ微粒子(住友化学社製;商品名「AKP3000」)、および溶媒(ジメチルアセトアミド60重量部に対してトリプロピレングリコールが40重量部となるように混合した混合溶媒)を、上記アルミナ微粒子70重量部に対して上記アラミド樹脂が30重量部となるように溶液を混合した後、得られる混合液に上記溶媒を加え、固形分濃度(アルミナ微粒子+アラミド樹脂)を20重量%となるように調整し、分散液を得た。そして、当該分散液を使用すること以外は、実施例1と同様の方法にて、塗工液6を得た。
【0171】
得られた塗工液6を、ポリオレフィン多孔質フィルムであるポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中の固形分が1平方メートル当たり5.6gとなるように塗布した。得られた塗布物である積層体を、水:ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=50:30:20の凝固槽に40℃にて、1分間入れ、その後イオン交換水で洗浄してから80℃のオーブンで乾燥させ、非水電解液二次電池用積層セパレータ6を得た。
【0172】
電解液二次電池用積層セパレータ6の膜厚は、15.3μm、上記多孔質層の空隙率は、50%であった。
【0173】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ6を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池6とする。
【0174】
[比較例3]
<塗工液の調整>
アルミナ微細粒子(住友化学製;商品名「AKP-3000」)100質量部、カルボキシメチルセルロース(ダイセル製;商品名「1110」)6質量部の混合物に、固形分が30重量%となるように水を添加し、混合物を得た。得られた混合物を自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(株式会社シンキー製;登録商標)を用いて、室温下、2000rpm、30秒の条件にて2回攪拌・混合し、塗工液7を得た。
【0175】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
得られた塗工液を、ポリオレフィン多孔質フィルムであるポリエチレンの多孔膜(厚さ16.2μm、空隙率53%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中の固形分が1平方メートル当たり6.7gとなるように塗布した。得られた塗布物である積層体を80℃で1分間乾燥させて、非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。得られた非水電解液二次電池用積層セパレータを非水電解液二次電池用積層セパレータ7とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ7の膜厚は、18.8μm、上記多孔質層の空隙率は、50%であった。
【0176】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ7を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池7とする。
【0177】
[比較例4]
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造>
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデンホモポリマー)のNMP溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#7305」、重量平均分子量:1,000,000)を塗工液8とし、ポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり5.0gとなるように塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2-プロパノール中に浸漬し、-25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムを浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2-プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムを30℃で5分間乾燥させて、非水電解液二次電池用積層セパレータ8とする。非水電解液二次電池用積層セパレータ8の膜厚は、15.5μm、上記多孔質層の空隙率は、65%であった。
【0178】
<非水電解液二次電池の製造>
非水電解液二次電池用積層セパレータ1の代わりに非水電解液二次電池用積層セパレータ8を使用した以外は、実施例1と同様にして、非水電解液二次電池を製造した。製造した非水電解液二次電池を非水電解液二次電池8とする。
【0179】
[結論]
実施例1~4、比較例1~4にて製造された非水電解液二次電池用積層セパレータ1~8の物性値を以下の表1に示す。また、実施例1~4、比較例1~4にて製造された非水電解液二次電池1~8の100サイクル後の容量維持率も以下の表1に示す。
【0180】
【0181】
表1の記載から、「50回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量に対する10回目の負荷-除荷サイクルにおける変位量の比率」(変位率)が、100%以上、115%未満である実施例1~4にて製造された非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備える非水電解液二次電池は、上記変位率が上述の範囲外である比較例1~4にて製造された非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備える非水電解液二次電池よりも、100サイクル後の容量維持率が高く、サイクル特性に優れることが分かった。
【0182】
上述の事項から、実施例1~7にて製造された非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、当該非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備える非水電解液二次電池のサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、当該非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層を備える非水電解液二次電池のサイクル特性を向上させることができる。従って、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、非水電解液二次電池の部材として有用である。
【符号の説明】
【0184】
1 平面圧子
2 測定用試料