(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】放射性医薬組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20220707BHJP
B01D 15/32 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
A61K51/04 200
B01D15/32
(21)【出願番号】P 2018040919
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム」「[18F]DiFAによる革新的がん診断PET低酸素イメージングシステム」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】桐生 真登
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮一
(72)【発明者】
【氏名】久下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】阿保 憲史
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052713(JP,A)
【文献】特開2015-081242(JP,A)
【文献】特表2015-504443(JP,A)
【文献】特表2017-519032(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042668(WO,A1)
【文献】Applied Radiation and Isotopes, 2007, Vol.65, No.6, pp.676-681
【文献】Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, 2011, Vol.54, No.12, pp.749-753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/00-51/12
B01D 15/00-15/42
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される放射性フッ素標識化合物又はその塩を有効成分として含有する放射性医薬組成物の製造方法であって、
下記式(2)で表される標識前駆体化合物から前記放射性フッ素標識化合物の粗生成物を得る合成工程と、
前記放射性フッ素標識化合物を精製する精製工程と、
を含み、
前記精製工程は、
ポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマーが充填された第一の逆相系固相抽出カートリッジを用いた第一の精製工程と、
オクタデシルシリル化シリカゲルが充填された第二の逆相系固相抽出カートリッジを用いた第二の精製工程と
を含み、
前記第一の精製工程は、
前記第一の逆相系固相抽出カートリッジに前記放射性フッ素標識化合物を吸着させる工程と、
前記放射性フッ素標識化合物が吸着した前記第一の逆相系固相抽出カートリッジを洗浄液で洗浄する工程と、
前記第一の逆相系固相抽出カートリッジに溶離液を通液することにより、前記第一の逆相系固相抽出カートリッジから前記放射性フッ素標識化合物を溶出する工程と、
を含み、
前記洗浄液および前記溶離液として、それぞれエタノール濃度の異なるエタノール水溶液が用いられ、前記洗浄液のエタノール濃度は3~15体積%であり、前記溶離液のエタノール濃度は15体積%以上である、放射性医薬組成物の製造方法。
【化1】
〔式中、Xは、放射性フッ素原子である。〕
【化2】
〔式中、P
1、P
2はヒドロキシ基の保護基であり、Lは、
トシル基である。〕
【請求項2】
前記第二の精製工程は、前記第一の精製工程で得られた前記放射性フッ素標識化合物の溶出液を前記
第二の逆相系固相抽出カートリッジに通液することにより行われる、請求項
1に記載の放射性医薬組成物の製造方法。
【請求項3】
前記精製工程は、イオン交換系固相抽出カートリッジを用いて、イオン性の不純物を除去する第三の精製工程をさらに含む、請求項1
又は2に記載の放射性医薬組成物の製造方法。
【請求項4】
前記精製工程において、高速液体クロマトグラフィー法による精製を実行しない、請求項1乃至
3の何れか一項に記載の放射性医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性フッ素標識化合物を有効成分として含有する、放射性医薬組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低酸素領域をインビボで検出する試みとして、放射性核種で標識した放射性標識化合物を用いた、単一光子放射断層撮影(SPECT)や陽電子放射断層撮影(PET)が行われている。
【0003】
1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール(以下、「[18F]DiFA」と省略することもある。)は、生体内の低酸素領域を精度よく定量評価できる化合物の一つとして、本出願人らにより報告されている(特許文献1)。
【0004】
臨床適用可能な純度の[18F]DiFAを製造できる方法として、特許文献2には、以下の方法が記載されている。すなわち、2,2-ジメチル-5-[(2-ニトロ-1H-イミダゾール-1-イル)メチル]-5-(p-トルエンスルホニルオキシメチル)-1,3-ジオキサンを標識前駆体化合物とし、[18F]フッ素標識反応を行った後、塩酸でアセトナイド保護基を除去する。反応終了後、オクタデシルシリル化シリカゲルを固定相とし、水とエタノールとの混液を溶離液として用いたクロマトグラフィーによりトシル酸や類縁物質を溶出させた後、[18F]DiFAを溶出させることにより、高度に精製された[18F]DiFAを得る。
【0005】
特許文献3には、[18F]DiFAに関する開示はないが、固相抽出カラムを用いて18F標識化合物を精製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/042668パンフレット
【文献】特開2015-81242号公報
【文献】特表2015-504443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2記載の方法は、大掛かりなHPLC装置を必要するため、ハンドリングの点で課題がある。
また、HPLC装置から溶出される[18F]DiFAには多量の溶離液が含まれているので、製剤化するためには濃縮工程が必要となり、製造時間が長くなる。また、短時間で濃縮するため加熱することで、放射化学的異物が生じることが発明者らの知見により明らかとなった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール([18F]DiFA)の臨床適用可能な放射性フッ素標識体をより簡便な方法で製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来のHPLC法の代わりに、異なる二種以上の逆相系の固相抽出カートリッジを用いた固相抽出法により、不純物が除去された[18F]DiFAが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、下記一般式(1)で表される放射性フッ素標識化合物又はその塩を有効成分として含有する放射性医薬組成物の製造方法であって、下記式(2)で表される標識前駆体化合物から前記放射性フッ素標識化合物の粗生成物を得る合成工程と、
前記放射性フッ素標識化合物を精製する精製工程と、を含み、前記精製工程は、異なる二種以上の逆相系固相抽出カートリッジを用いて前記放射性フッ素標識化合物を精製することを含む、放射性医薬組成物の製造方法が提供される。
【0011】
【化1】
〔式中、Xは、放射性フッ素原子である。〕
【0012】
【化2】
〔式中、P
1、P
2はヒドロキシ基の保護基であり、Lは、脱離基である。〕
【0013】
ここで、本発明において「放射性フッ素」とは、フッ素の放射性同位体であり、具体的には、フッ素-18が用いられる。フッ素-18を用いることで、[18F]DiFAの体内分布を陽電子放射断層撮影(PET)により画像化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる二種以上の逆相系の固相抽出カートリッジを用いた精製を行うこととしたので、従来のHPLC法による精製に比べて、簡便に不純物が除去された[18F]DiFAを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、上記一般式(1)で表される、1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-[18F]フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール([18F]DiFA)又はその塩を有効成分として含有する放射性医薬組成物を製造する方法である。
【0016】
本発明において「放射性医薬組成物」とは、[18F]DiFAを生体内への投与に適した形態で含む処方物であると定義することができる。この放射性医薬組成物は、非経口的に、即ち注射によって投与することが好ましく、水溶液であることがより好ましい。
【0017】
[18F]DiFAは塩を形成していてもよい。塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機塩や、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸塩が挙げられる。
【0018】
本発明において「有効成分として含有する」とは、[18F]DiFAが薬効を発揮できる程度に含有されていればよく、具体的には、[18F]DiFAが所定範囲の放射能濃度で含有されていればよい。例えば、使用時における[18F]DiFAの放射能濃度を10~1000MBq/mLとすることが好ましく、より好ましくは50~500MBq/mLである。
【0019】
本発明の製造方法は、上記式(2)で表される化合物、例えば、2,2-ジメチル-5-[(2-ニトロ-1H-イミダゾール-1-イル)メチル]-5-(p-トルエンスルホニルオキシメチル)-1,3-ジオキサン(標識前駆体化合物)から[18F]DiFAの粗生成物を得る合成工程と、[18F]DiFAを精製する精製工程とを含む。そして、精製工程において、異なる二種以上の逆相系固相抽出カートリッジによる精製を行う。本発明の精製工程においては、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)法による精製を行うことは必要ない。
【0020】
[合成工程]
合成工程は、具体的には、以下の[18F]フッ素化工程と、脱保護工程とを含む。
[18F]フッ素化工程:標識前駆体と[18F]フッ化物イオンとを反応させて、[18F]DiFA保護体を得る。
脱保護工程:[18F]DiFA保護体からヒドロキシ基の保護基を除去して[18F]DiFAの粗生成物を得る。
【0021】
標識前駆体化合物は、2-ブロモメチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールを出発物質とし、ジオールを保護した後、2-ニトロイミダゾールおよび脱離基を導入して得ることができる。具体的には、例えば、特許文献1記載の方法により合成することができる。
【0022】
上記式(2)中、P1及びP2は、同一若しくは互いに異なるヒドロキシ基の保護基、または、P1及びP2が一緒になってジオールの保護基を表す。ヒドロキシ基の保護基、及び、ジオールの保護基には、Greene's Protective Groups in Organic Synthesis(John Wiley & Sons Inc;5版)に記載されたものを用いることができる。P1およびP2がそれぞれ同一又は互いに異なる独立の水酸基の保護基を表す場合、好ましくは、P1およびP2は、トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、メトキシメチル基、1-エトキシエチル基、メトキシエトキシメチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、2-テトラヒドロピラニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、アセチル基、プロパノイル基、ピバロイル基、パルミトイル基、ジメチルアミノメチルカルボニル基、アラニル基、2,2,2,-トリクロロエトキシカルボニル基、ベンゾイル基及びアリルオキシカルボニル基からなる群から選択することができる。また、上記式(2)中、P1およびP2が一緒になってジオールの保護基を表す場合、例えば、P1およびP2が一緒になって、メチレン基[-CH2-]、1-メチルエタン-1,1-ジイル基[-C(CH3)2-]、エタン-1,1-ジイル基[-CH(CH3)-]、または1-フェニルメタン-1,1-ジイル基[-CHPh]を表し、その結果、1,3-ジオキサン環を形成したものとすることができる。中でも、P1およびP2は、アセトナイド基であることが好ましい。
【0023】
式(2)中、Lは、求核置換反応を起こすことのできる官能基であれば特に限定され
ず、非放射性ハロゲン原子、炭素数3~12のトリアルキルアンモニウム、炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルスルホニルオキシ基、炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖のハロゲノアルキルスルホニルオキシ基、置換若しくは非置換アリールスルホニルオキシ基または炭素数2~8のジアルキルスルホニルオキシ基である。好ましくは、Lは、クロル(Cl)、ブロム(Br)、ヨード(I)、トシレート(OTs)、メシレート(OMs)、トリフレート(OTf)から選択され、OTsがより好ましい。
【0024】
[18F]フッ化物イオンは、公知の方法により調製することができるが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、サイクロトロンにより[18O]水から[18F]フッ化物イオンを製造し、これを炭酸型の陰イオン交換樹脂に捕集する。次いで、炭酸カリウム水溶液を通液して[18F]フッ化物イオンを溶出する。これにより、[18F]フッ化物イオンを[18F]フッ化カリウム水溶液として得ることができる。得られた[18F]フッ化物イオンは、[18F]フッ素化標識効率を向上させるため、以下の操作を加え、活性化させることが好ましい。すなわち、[18F]フッ化物イオンの溶出液にクリプトフィックス222(商品名。1,10-ジアザ-4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン)を加え、アセトニトリルを用いて共沸する。これにより、[18F]フッ化物イオンを、炭酸カリウムとクリプトフィクス222との混合物として得ることができる。なお、クリプトフィックス222は、炭酸カリウム水溶液とともに陰イオン交換樹脂に通液させてもよい。また、炭酸水素型の陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを捕集し、テトラアンモニウム炭酸水素塩水溶液を通液して[18F]フッ化物イオンを溶出し、アセトニトリルを用いて共沸してもよい。
【0025】
このようにして得られた[18F]フッ化物イオンと標識前駆体化合物とを混合させて、[18F]フッ素化反応を行う。反応は、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドのような非プロトン性溶媒等の適当な溶媒中に、20~120℃の温度下に行うことが好ましい。反応終了後、溶媒を蒸散させることで、[18F]DiFA保護体を得る。
【0026】
脱保護工程はヒドロキシ基の保護基が除去できる条件であれば特に制限されず、一般的には酸または塩基を使用した加水分解が行われるが、保護基としてアセトナイド基を用いた場合は、酸加水分解により行うことが好ましい。この場合、使用できる酸は特に限定されないが、塩酸が好ましい。反応条件は、反応時間を短縮できる観点から、室温より高温下で行うことが好ましく、例えば、50~100℃の温度下に行うことができる。
【0027】
アセトナイド保護基の脱保護終了後は、水で希釈し、[18F]DiFAの粗生成物を得る。従来行っていた酢酸ナトリウムなどの塩基を用いた中和は行なってもよいが、行わなくてもよい。本明細書において「粗生成物」とは、未精製の[18F]DiFAであればよく、不純物として、少なくとも一種の無機化合物、又は、[18F]DiFA以外の有機化合物を含むものである。これらの不純物は、合成工程で使用した反応試薬や反応副生成物などに由来するものである。この粗生成物は、[18F]DiFAの溶液であることが好ましく、水溶液がより好ましい。
【0028】
[18F]DiFA以外の有機化合物としては、上記(2)で表される標識前駆体、下記式(3)で表される1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-ヒドロキシプロピル)-2-ニトロイミダゾール(以下、「OH体」ともいう。)、当該OH体の保護体、下記式(4)で表される2-クロロメチル-2-ヒドロキシメチル-3-ヒドロキシプロピル-2-ニトロイミダゾール(以下、「Cl体」ともいう。)、上記[18F]DiFA保護体などが挙げられる。
【0029】
【0030】
[精製工程]
精製工程では、合成工程で粗生成物として得られた[18F]DiFAの精製を行う。具体的には、異なる二種以上の逆相系固相抽出カートリッジを用いた固相抽出法による精製を行なうことにより、[18F]DiFAと上記の少なくとも一種以上の不純物との分離を実行する。
【0031】
本発明において、逆相系固相抽出カートリッジとは、シリカ系またはポリマー系の非イオン性で極性が低い吸着剤が固定相として充填されたカートリッジであり、疎水性が高いものをより強く吸着する性質を備える。ポリマー系の吸着剤の具体例としては、ポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマー、N-ビニルピロリドン官能基を有するスチレン-ジビニルベンゼンポリマーが挙げられる。シリカ系の吸着剤の具体例として、ブチル基(C4)、オクチル基(C8)、オクタデシル基(C18)、若しくはトリアコンチル基(C30)で化学修飾されたシリカゲルが挙げられる。
【0032】
本発明の精製工程は、二種以上の異なる逆相系固相抽出カートリッジを用い、固相抽出法により、[18F]DiFAを精製する。固相抽出カートリッジの組み合わせ、および、移動相は、疎水性の低い不純物から順に溶出させて、[18F]DiFAを回収するように、条件を設定すればよいが、ポリマー系の逆相系固相抽出カートリッジと、シリカ系の逆相系固相抽出カートリッジとの組み合わせが好ましく、ポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマーを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジと、オクタデシルシリル化シリカゲルを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジとの組み合わせがより好ましい。
【0033】
また、本発明の精製工程は、好ましくは、第一の逆相系固相抽出カートリッジで、[18F]DiFAよりも疎水性の低い不純物(例えば、OH体)を除去し(第一の精製工程)、第二の逆相系固相抽出カートリッジで、[18F]DiFAよりも疎水性の高い不純物(例えば、Cl体、標識前駆体、[18F]DiFA保護体)を除去する(第二の精製工程)。第一の逆相系固相抽出カートリッジとしては、ポリマー系の吸着剤が固定相として充填されたものが好ましく、ポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマーを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジがより好ましい。また、第二の逆相系固相抽出カートリッジとしては、シリカ系の吸着剤が固定相として充填されたものが好ましく、オクタデシルシリル化シリカゲルを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジがより好ましい。第一の精製工程及び第二の精製工程を行う順序は特に限定されないが、第一の精製工程の後に第二の精製工程を行うことが好ましく、第一の精製工程の後、これに連続して第二の精製工程を行うことが好ましい。本発明において「これに連続して」とは、連続する2つの精製工程の間に別の精製工程が介在しないことを意味する。
【0034】
本発明で使用されるポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマーを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジとしては、例えば、Waters社が製造販売しているOasis HLB Plus Short Cartridge 225 mg、 Oasis HLB Plus Light Cartridge 30 mg、GL science社が製造販売しているInertSep SlimJ PLS-2 230 mg、Agilent社が製造販売しているNEXUS, Bond Elute Jr 200 mgなどを使用することができる。また、オクタデシルシリル化シリカゲルを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジとしては、例えば、Waters社が製造販売しているSep-pak C18 Plus Short Cartridge 360 mg、Sep-pak tC18 Plus Short Cartridge 360 mg、GL science社が製造販売しているInertSep Slim C18 400 mg、InertSep SlimJ C18 400 mg、Bond Elut C18, Bond Elute Jr 500 mg, Agilent社が製造販売しているBond Elut C18 OH, Bond Elute Jr 500 mgなどを使用することができる。
【0035】
第一の精製工程は、例えば、逆相系固相抽出カートリッジに粗生成物を注入して[18F]DiFAを吸着させる工程と、[18F]DiFAが吸着した逆相系固相抽出カートリッジに洗浄液を通液してこの逆相系固相抽出カートリッジを洗浄する工程と、この逆相系固相抽出カートリッジに溶離液を通液することにより、この逆相系固相抽出カートリッジから[18F]DiFAを溶出する工程とを含むことができる。
【0036】
第一の精製工程で用いる洗浄液は、[18F]DiFAが溶出せず、[18F]DiFAより極性の高い物質を溶出させるものであればよいが、水、生理食塩液、エタノール水溶液を用いることができる。洗浄液としてのエタノール水溶液のエタノール濃度は、好ましくは3~15体積%であり、より好ましくは、4~10体積%である。第一の精製工程における逆相系固相抽出カートリッジの洗浄は、同一の洗浄液で、1回又は複数回行ってもよく、または、異なる洗浄液を用いて複数回洗浄してもよい。
【0037】
第一の精製工程で用いる溶離液は、逆相系固相抽出カートリッジに吸着した[18F]DiFAを溶出できるものであれば特に限定されないが、エタノール水溶液が好ましい。溶離液としてのエタノール水溶液のエタノール濃度は、洗浄液とは異なることが好ましく、洗浄液より高くすることがより好ましい。具体的には、15体積%以上のエタノールを含むエタノール水溶液が好ましく、18体積%以上のエタノール水溶液が特に好ましい。
【0038】
第二の精製工程は、例えば、第一の精製工程で得られた[18F]DiFAの溶出液を逆相系固相抽出カートリッジに通液することにより行われる。ここでは、[18F]DiFAよりも疎水性の高い不純物を逆相系固相抽出カートリッジに捕集させる。なお、逆相系固相抽出カートリッジに通液する前に、第一の精製工程で得られた[18F]DiFAの溶出液に水、生理食塩液またはエタノールなどを加えて、溶媒の極性を調整してもよく、また、後記する調製工程で記述するアスコルビン酸、マンニトール等の安定剤を添加しておいてもよい。
【0039】
本発明の精製工程は、イオン交換系固相抽出カートリッジを用いてイオン性の不純物を除去する第三の精製工程をさらに含んでもよい。第三の精製工程は、例えば、イオン交換系固相抽出カートリッジに通液させることにより行うことができ、塩酸を用いた酸加水分解により脱保護を行った場合には、これにより、塩化物イオンを除去することができる。
【0040】
本発明の精製工程において、第一の精製工程、第二の精製工程、及び第三の精製工程はいずれの順番で行ってもよいが、第三の精製工程は最初又は最後の工程として行うことが好ましく、最初の工程として行うことがより好ましい。また、第二の精製工程は第一の精製工程の後に行うことが好ましい。最も好ましい態様は、第三の精製工程の後、これに連続して第一の精製工程を行った後、これに連続して第二の精製工程を行うことである。
【0041】
[調製工程]
調製工程では、精製工程で得られた[18F]DiFA溶液を濃縮せずに、そのまま注射用水や生理食塩水を加えて[18F]DiFAの放射能濃度を調整する。その後、メンブレンフィルターで滅菌濾過を行うことにより、[18F]DiFAを注射剤として得ることができる。
【0042】
調製工程では、[18F]DiFAと、アスコルビン酸、又は、マンニトールなどの安定剤とを混合する安定化工程を更に含んでいてもよい。これにより、[18F]DiFAの放射線分解を抑制し、使用時においても放射性不純物の少ない放射性医薬組成物を得ることができる。この安定化工程は、第二、第三精製工程においては固相抽出カートリッジに[18F]DiFAを含む溶液を注入する際に、[18F]DiFAを含む溶液に安定剤を添加することで行ってもよいし、第一精製工程においては[18F]DiFAを溶出する工程において溶離液に安定剤を添加することにより行ってもよい。
【0043】
安定剤としてのアスコルビン酸およびマンニトールの濃度は、本発明の製造方法により得られる放射性医薬組成物中、5~70μmol/mLの範囲が好ましい。アスコルビン酸の濃度は、50~70μmol/mLの範囲がより好ましく、マンニトールの濃度は、5~15μmol/mLの範囲がより好ましい。
【0044】
〔放射性医薬組成物〕
上記の製造方法を用いることにより、[18F]DiFAを有効成分として含有する、放射性医薬組成物を提供することができる。
【0045】
かかる組成物は、適宜、pH調節剤、製薬学的に許容される可溶化剤、安定剤又は酸化防止剤などの追加成分を含んでいてもよい。例えば、この放射性医薬組成物は、安定剤としてアスコルビン酸、または、マンニトールを含有していてもよい。これらの濃度は、好ましくは、前述の調製工程で採用できる範囲とすることができる。
【0046】
本発明の方法では、臨床可能な程度に不純物が除去されている。したがって、本発明の放射性医薬組成物は、安全性が高く、人体への投与が可能である。投与後、体内から放出される放射線をPET装置で検出することにより、体内の低酸素領域を非侵襲的に検出することができ、がんなどの疾患の診断や治療方針の決定を行うことが可能になる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0048】
以下、実施例で使用する2,2-ジメチル-5-[(2-ニトロ-1H-イミダゾール-1-イル)メチル]-5-(p-トルエンスルホニルオキシメチル)-1,3-ジオキサン(式(1)において、P1、P2が一緒になってアセトニド基を形成し、Lがトシル基である化合物、トシル体)は、特許文献1(WO2013/042668)の実施例1の方法に従い合成した。また、1-(2,2-ジヒドロキシメチル-3-フルオロプロピル)-2-ニトロイミダゾール([18F]DiFAのフッ素18をフッ素19に換えた化合物。以下、「DiFA標品」とも言う。)は、上記特許文献1の実施例2の方法に従い合成した。
【0049】
[実施例1~4][18F]DiFA製剤の製造
サイクロトロン(製品名HM‐18,住友重機械社製,照射条件25μA,20分)から取り出した[18F]フッ化物イオン含有[18O]水(放射能量は、表2を参照)を、陰イオン交換カートリッジ(Sep―Pak(登録商標) Accell Plus QMA carbonate Plus Light(商品名),日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに炭酸カリウム水溶液(0.2mL、使用した炭酸カリウムの量は表1のK2CO3を参照)及びクリプトフィックス222(商品名、メルク社製)のアセトニトリル溶液(0.7mL、使用したクリプトフィックス222の量は表1のK222を参照)を通液して、[18F]フッ化物イオンを溶出した。これを窒素の通気下110℃7.5分加熱して水を蒸発させた後、アセトニトリル(0.3mL×2)を加えて共沸、乾固した。ここにトシル体(5mg,11.4μmol)を溶解したアセトニトリル溶液(0.9mL)を加え、110℃で表1の標識時間、加熱した。110℃で3分加熱して濃縮した後、1mol/L塩酸(1.0mL)を加え、110℃で3分間加熱した。反応終了後、注射用水(14mL)で希釈し、陰イオン交換カートリッジ(Sep―Pak(登録商標) Accell Plus QMA carbonate Plus Light(商品名)、日本ウォーターズ株式会社製)およびポリ(ジビニルベンゼン-コ-N-ビニルピロリドン)ポリマーを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジ(Oasis HLB Plus Short Cartridge 225 mg,Waters社製)(以下、「HLBカートリッジ」という。)に通液した。次いで、注射用水(10mL)を通液した後、および、表1に示す洗浄液を用いてHLBカートリッジを洗浄した。その後、20体積%エタノールを含有する生理食塩液(5mL)で溶出し、オクタデシルシリル化シリカゲルを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジ(Sep-pak C18 Plus Short Cartridge 360 mg,Waters社製)に通液した。さらにHLBカートリッジを生理食塩液(10mL)で通液し、オクタデシルシリル化シリカゲルを吸着剤とする逆相系固相抽出カートリッジ(Sep―Pak(登録商標)C18(商品名)、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、溶出液をあわせて無菌濾過して、[18F]DiFA注射液(放射能量は、表2の回収放射能量を参照)を得た。
【0050】
結果を表2に示す。なお、TLCの分析条件およびHPLCの分析条件は、以下のとおりである。放射化学的収率は、合成開始時の放射能量に対する[18F]DiFA注射液の放射能量(減衰補正なし)の割合の百分率として算出した。また、類縁物質の濃度は、DiFA標品のHPLCの分析値を用いて算出した。
<TLC分析条件>
担体:シリカゲル60F254
移動相:酢酸エチル/メタノール/トリエチルアミン=5:1:0.5(体積比)
展開距離:10 cm
<HPLC分析条件>
検出器 :紫外可視吸光検出器(325 nm)
カラム :YMC TriartC18(4.6mmi.d x 150mm,5 μm)
カラム温度 :室温(25℃付近の一定温度)
流量 :毎分1mL
移動相 :50 mM炭酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=9:1(体積比)
注入量 :10 μL
【0051】
【0052】
【0053】
特許文献2の実施例4の方法による製造実績は、約20GBqの仕込み放射能量で、放射化学的収率が平均30%、放射化学的純度が96~98%、製造時間が約80分、類縁物質の総量が約0.5μg/mLであるが、実施例1~4の方法では、放射化学的収率がほぼ同等である一方、放射化学的純度は向上し、製造時間が39~48分まで短縮できた。また、類縁物質については、実施例1~4の量であれば、臨床投与液量が最大3mLであることから、最大でも50μg以下の投与量になる。この量は「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス(薬食審査発第0603001号、平成20年6月3日)」では、臨床投与が可能な量となる。
以上のことから、本発明の方法によれば、臨床適用可能な[18F]DiFA製剤を簡便に収率よく得られることが示唆された。