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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】電力伝送装置、及び電力伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20220707BHJP
   H01P 5/02 20060101ALI20220707BHJP
   H01P 5/107 20060101ALI20220707BHJP
   H01P 7/08 20060101ALI20220707BHJP
   H01Q 13/28 20060101ALI20220707BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20220707BHJP
【FI】
H02J50/12
H01P5/02 C
H01P5/107 B
H01P7/08
H01Q13/28
H02J50/80
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018096152
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019201519
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504221107
【氏名又は名称】株式会社レーザーシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰夫
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163030(JP,A)
【文献】特表2011-501633(JP,A)
【文献】特表2015-521459(JP,A)
【文献】特開2008-067012(JP,A)
【文献】特開2015-213304(JP,A)
【文献】特表2010-517502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
H01P 5/02
H01P 5/107
H01P 7/08
H01Q 13/28
H02J 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置の電力を受電装置に対してワイヤレスで伝送する電力伝送装置であって、
前記電源装置の発振器から送出される電磁波を、自身の内部の中空領域に伝搬する導波管と、
前記導波管内において前記導波管が延在する方向に沿って配設され、前記電磁波と共振することにより、前記電磁波の電力を回収する複数のアンテナ部と、
前記導波管の外部領域において複数の前記アンテナ部それぞれに接続され、自身と対向するように前記受電装置の受電用共振器が配設された際に当該受電用共振器と電磁結合して、前記受電用共振器に対して前記アンテナ部が回収した前記電力を伝送する複数の共振器と、
を備え
前記共振器は、閉曲線線路の一部に開放部が形成された構造を有する、
電力伝送装置。
【請求項2】
前記電源装置の発振器が送出する前記電磁波の周波数を制御して、前記導波管内で前記電磁波により生成される電界分布を調整する制御装置、を更に備える
請求項1に記載の電力伝送装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記受電装置と通信して、前記受電装置が受電する電力のレベルに基づいて、前記電磁波の周波数をフィードバック制御する
請求項2に記載の電力伝送装置。
【請求項4】
前記アンテナ部は、前記導波管の金属壁面を接地面とするモノポールアンテナによって構成されている
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力伝送装置。
【請求項5】
前記導波管の長手方向に沿って延在する管壁は、対向する2面の間隔が前記電磁波の波長の1/2以下に設定された一対の平板部を有する
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電力伝送装置。
【請求項6】
前記導波管は、前記中空領域の全周囲を囲繞するように配設された金属壁を有し、
前記電源装置は、前記導波管外に配設され、前記アンテナ部を介して、前記導波管内に前記電磁波を送出する
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電力伝送装置。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電力伝送装置を用いた電力伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力伝送装置、及び電力伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物内等において、電力を無線で供給するワイヤレス給電技術が知られている。ワイヤレス給電は、電力線のコストを削減できる点、建物内において電力線の配線が困難な場所に対して電力を供給できる点、及び、建物内の広い範囲に亘って電力を供給できる点等の利点を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、デッキプレート又は支柱等を導波管として用いて、建物内に電力伝送を行うワイヤレス給電システムが記載されている。特許文献1には、導波管内にλ/4モノポールアンテナを設け、同軸/導波管変換を行って、導波管外に延設したコンセント等を介して、導波管内に伝搬する電力を取り出す構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-166662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のワイヤレス給電においては、任意の場所で電力の取り出しを可能とする要請がある。
【0006】
この点、特許文献1等の従来技術においては、電力の取り出し位置が、導波管外に配設したコンセントに制約される。そのため、かかる態様において、任意の場所で電力の取り出しを可能とするためには、多数のコンセントを、予め室内に配設することが必要となる。このような構成は、室内空間のスペースの制約から、実用的とは言えない。
【0007】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、ワイヤレス給電に適用され、任意の場所から電力を取り出すことを可能とする電力伝送装置、及び電力伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
電源装置の電力を受電装置に対してワイヤレスで伝送する電力伝送装置であって、
前記電源装置の発振器から送出される電磁波を、自身の内部の中空領域に伝搬する導波管と、
前記導波管内において前記導波管が延在する方向に沿って配設され、前記電磁波と共振することにより、前記電磁波の電力を回収する複数のアンテナ部と、
前記導波管の外部領域において複数の前記アンテナ部それぞれに接続され、自身と対向するように前記受電装置の受電用共振器が配設された際に当該受電用共振器と電磁結合して、前記受電用共振器に対して前記アンテナ部が回収した前記電力を伝送する複数の共振器と、
を備える電力伝送装置である。
【0009】
又、他の局面では、
上記の電力伝送装置を用いた電力伝送方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る電力伝送装置によれば、ワイヤレス給電において、任意の場所から電力を取り出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係るワイヤレス給電システムの全体構成の一例を示す図
図2】第1の実施形態に係る図1のワイヤレス給電システムに適用された電力伝送装置の詳細構成を示す図
図3】第1の実施形態に係る電力伝送装置の共振器の詳細構成を示す図
図4】第1の実施形態に係る導波管内に伝搬する電磁波により生成される電界分布の一例を示す図
図5】第2の実施形態に係る電力伝送装置の構成の一例を示す図
図6】電磁波の周波数と、導波管内に発生する電界分布の高強度地点との関係の一例を示す図
図7】電磁波の周波数と、導波管内に発生する電界分布の高強度地点との関係の他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
[ワイヤレス給電システムの全体構成]
図1は、ワイヤレス給電システムUの全体構成の一例を示す図である。図2は、図1のワイヤレス給電システムUに適用された電力伝送装置Aの詳細構成を示す図である。図3は、電力伝送装置Aの共振器4の詳細構成を示す図である。
【0014】
図4は、導波管2内に伝搬する電磁波Fにより生成される電界分布の一例を示す図である。図4は、導波管2の長手方向に沿って切断した側面断面図(図2のT―Tの位置)に相当する。尚、図4において、縦線矢印Eは電気力線を表し、ドットHは磁力線を表す。
【0015】
本実施形態に係る電力伝送装置Aは、導波管2、複数のアンテナ部3(3a、3b、3c)、及び、複数の共振器4(4a、4b、4c)を備えている。
【0016】
電力伝送装置Aは、図1に示すように、電源装置1が内蔵する発振器から送出される電磁波Fを、導波管2内に伝搬させ、アンテナ部3及び共振器4を介して、外部の受電装置5に送出する。アンテナ部3及び共振器4は、導波管2が延在する長手方向に沿って複数組配設されており、受電装置5は、複数組のアンテナ部3及び共振器4のいずれかを用いて、自由に電力を取り出せる構成となっている。
【0017】
尚、図2及び図4では、異なる位置に配設された3個のアンテナ部3それぞれに異なる符号3a、3b、3cを付している。又、異なる位置に配設された3個の共振器4それぞれに異なる符号4a、4b、4cを付している。但し。これらのいずれかを特に区別しない場合には、単に、「アンテナ部3」、「共振器4」と称して説明する。
【0018】
電源装置1は、内蔵する発振器により高周波電力を発生し、導波管2内に電磁波Fを送出する電源である。電源装置1の発振器としては、例えば、マグネトロン発振器、クライストロン発振器、又は、ガン発振器等、大電力が出力可能なものが用いられる。また、周波数を変化させる場合には半導体による発振器(インバータ)とGaNなどを用いた半導体アンプを用いるのが望ましい。
【0019】
本実施形態に係る電源装置1は、自身が有する共振器1Sを電力伝送装置Aの共振器4と電磁結合させて、内蔵する発振器が発生した高周波電力を共振器4に送出する。そして、電源装置1から共振器4に送出された高周波電力は、共振器4に接続されたアンテナ部3を励振して、導波管2内に電磁波Fを発生させる。ここでは、送電側も非接触給電を用いているが、非接触給電を用いずに、直接高周波ケーブルからλ/4アンテナを用いて導波管2内に給電することも出来る。
【0020】
電源装置1が送出する電磁波Fは、典型的には、マイクロ波又はミリ波の周波数帯域のうちの単一周波数の電磁波Fであり、例えば、ISMバンドの帯域から選択された単一周波数の電磁波Fが用いられる。但し、各アンテナ部3での共振状態は、電磁波Fの周波数を変えることで最適化が出来るので周波数を変えることもある(第2の実施形態にて後述)。さらに、複数の受電装置5に配電する場合、各受電部での共振状態を最適化するために電源装置1は、マイクロ波又はミリ波の周波数帯域から二以上の周波数を選択して、複数の周波数の電磁波Fを重ね合わせて送出してもよい。
【0021】
導波管2は、自身の内部の中空領域に、電源装置1から送出された電磁波Fを伝搬する。導波管2は、中空領域を形成するように配設された複数の金属壁により構成されている。導波管2は、より好適には、金属壁が中空領域の全周囲を囲繞するように構成される。これにより、導波管2を空洞共振器のように機能させることができる。
【0022】
導波管2は、例えば、切断面が矩形状の角筒形状を呈している。但し、導波管2の形状は、内部に電磁波Fを伝搬する中空領域が形成されていれば、本発明では特に限定されず、内部に二次元状に中空領域が延在する平板形状や、又は、中空領域が湾曲する形状等であってもよい。
【0023】
尚、導波管2は、デッキプレート、支柱、又は、手すりのパイプ等の建物構造体として一般に用いられる部材を用いて、構成されたものであってよい。
【0024】
導波管2の壁面には、複数のアンテナ部3それぞれが配設される位置に、開口2tが形成されている。開口2tには、複数のアンテナ部3それぞれに接続された引き出し線が挿通され、当該引き出し線が導波管2内から導波管2外に引き出されている。尚、開口2tの口径は、当該開口2tから導波管2内の電磁波Fが導波管2外に漏洩することを防止する観点から、電磁波Fの波長の1/2よりも小さく設定されている。
【0025】
導波管2内には、電源装置1から送出された電磁波Fが壁面反射して各種の共鳴状態が発生し、電界分布が発生する(図4を参照)。導波管2内に発生する電界分布は、典型的には、電界強度が強い位置と弱い位置とが、導波管2の長手方向に沿って順番に分布する。尚、図4では、導波管2の高さがλ/2以下で、幅がλ/2以上を想定して電磁波FをTE0nモードで伝搬させた場合の電界分布を示している(詳細は後述)。
【0026】
アンテナ部3は、導波管2内に配設され、電磁波Fと共振して、当該電磁波Fの電力を回収する。即ち、導波管2内に伝搬する電磁波Fは、アンテナ部3によって導波管2の外部に取り出される。
【0027】
アンテナ部3は、例えば、導波管2の金属壁面を接地面とするモノポールアンテナ等によって構成される。そして、モノポールアンテナは、例えば、導波管2内の短手方向に平行に延在するように配設されている。アンテナ部3は、例えば、導波管2内に伝搬される電磁波Fの周波数帯域(例えば、1GHz~50GHz)に対して感度が高くなる形状を呈し、例えば、電磁波Fの波長λを基準としてλ/4程度の長さに設定されている。
【0028】
複数のアンテナ部3は、それぞれ、導波管2が延在する長手方向に沿って、配設されている。複数のアンテナ部3は、それぞれ、導波管2内に発生する電界強度が強くなる位置に配設されている。複数のアンテナ部3は、それぞれ、例えば、電磁波がTE0nモードで伝搬される場合には、導波管2が延在する方向に沿って所定間隔で表れる電界強度の高強度地点に配設される(図4を参照)。
【0029】
複数のアンテナ部3は、それぞれ、別個の共振器4に接続されている。そして、複数のアンテナ部3それぞれが回収した電磁波Fの電力は、当該アンテナ部3に接続された共振器4によって導波管2の外部の受電装置5に伝送される。
【0030】
尚、アンテナ部3と共振器4とは、導波管2に形成された開口2tに挿通する引き出し線を介して接続されている。
【0031】
複数の共振器4は、導波管2の外部領域において、導波管2内に配設された複数のアンテナ部3それぞれに対応するように、配設されている。より詳細には、共振器4aはアンテナ部3aに導電接続され、共振器4bはアンテナ部3bに導電接続され、共振器4cはアンテナ部3cに導電接続されている。
【0032】
共振器4は、自身と対向するように受電装置5の受電用共振器5Sが配設された際に、アンテナ部3から伝送される電磁波Fの電力を、電磁結合を利用して、受電用共振器5Sに対して非接触で伝送する。一方、共振器4は、オープンリング型などを取ることにより単独での放射を起こさない構造が可能で有り、自身と対向するように受電用共振器5Sが配設されていないときには、アンテナ部3から伝送される電磁波Fの電力を、外部空間に放出することなく、そのままアンテナ部3に対して反射する。
【0033】
共振器4(及び受電用共振器5S)としては、好適には、閉曲線線路の一部に開放部が形成された構造を有する共振器(典型的には、リング形状を呈しており、オープンリング共振器とも称される)が用いられる。オープンリング共振器は、放射損失が小さく、加えて、広い周波数帯域において高い伝送効率を得られる点で、特に有用である。
【0034】
オープンリング共振器として構成された共振器4(送電用共振器1S及び受電用共振器5Sも同様)は、金属線をリング状にして両端を近接させて構成される(図3を参照)。共振器4の金属線は、電位差の最大となる両端が近接するように、送受する高周波電力の波長の1/2の奇数倍の長さ程度に設定される。又、共振器4と受電用共振器5Sとは、平面視において、互いに中心点C0をあわせて対向して配設され、且つ、共振器4における開放部と中心点C0とを結ぶ線C1と、受電用共振器5Sにおける開放部と中心点C0とを結ぶ線C2との間のなす角度(即ち、共振器4の開放端と受電用共振器5Sの開放端との間のリングの周方向における角度差)が、例えば、90°以上、より好適には180°の角度を有するように配設される。かかる構成によって、磁界の共振と電界の共振の両方が、共振器4と受電用共振器5Sの間で同相となり、共鳴が最も強くなる(調相結合とも称される)。これにより、例えば、波長の1/4程度の距離でもほぼ100%の電力伝送が可能となる。尚、共振器4と送電用共振器1Sも、共振器4と受電用共振器5Sと同様の配置関係となっている。
【0035】
つまり、複数の共振器4のうち、受電装置5の受電用共振器5Sが対向して配設されたもののみが電力取り出し部として機能し、その他のものは、反射体として機能する。例えば、図2に示すように、共振器4bに対向するように受電用共振器5Sが配設された際には、共振器4bは、アンテナ部3bから伝送される電磁波Fの電力を、受電用共振器5Sに対して伝送する。一方、共振器4a及び共振器4cは、それぞれ、アンテナ部3a及びアンテナ部3cから伝送される電磁波Fの電力を、アンテナ部3a及びアンテナ部3cに対してそのまま反射する。即ち、アンテナ部3a及びアンテナ部3c、並びに共振器4a及び共振器4cは、等価的に無通電状態となっている。
【0036】
電力伝送装置Aにおいては、このように、不使用箇所のアンテナ部3においては、共振器4における全反射により電磁波Fの放射を生じさせることなく無損失状態とし、使用箇所のアンテナ部3のみから導波管2に伝搬する電磁波Fを電力として取り出すことを可能とする。
【0037】
尚、受電装置5は、例えば、受電用共振器5Sから受電した高周波電力を整流する整流回路、及び、当該整流回路で整流された直流電力を充電するバッテリ等を有している。あるいは、受電装置5の受電用共振器5Sにアンテナ部3と同様のアンテナを置き、別の導波管への高周波給電を行うことも出来る。このようにして、複数の導波管を接続して用いることも可能である。
【0038】
[具体例]
ここで、図2図4を参照して、導波管2の設計と当該導波管2内における電磁波Fの挙動の一例について、説明する。
【0039】
ここでは、図2の導波管2に対して、電磁波FをTE0nモードで伝搬させる場合の当該導波管2の設計態様について説明する。以下では、図2の上方向を導波管2の高さ方向、図2の奥行き方向を導波管2の幅方向として説明する。
【0040】
TE0nモードで伝搬する電磁波Fにより生成される電界分布は、図4に示すように、電気力線が導波管2の長手方向に対して垂直な方向に延び、電界強度の強い位置(以下、「高強度地点」と称する)と弱い位置とが導波管2の長手方向に沿って順番に発生したものとなる。そのため、電磁波FがTE0nモードで伝搬する状態は、アンテナ部3が、電磁波Fの電力を効率的に回収し得る点で、好適である。特に、TE0nモードのうち、多重モードの発生がないTE01モードがより好適である。
【0041】
TEモードで伝搬する電磁波Fの伝搬定数γは、一般に、以下の式(1)により表される。
【数1】
【0042】
電磁波FがTE0nモードとなる条件は、m=0のときに、伝搬定数γが純虚数となる条件であり、即ち、導波管2の幅bがb>λ/2を充足する態様である。そして、この際、TE0nモードのみを伝搬させるには、導波管2の高さaを、a<λ/2を充足するように設定すればよい。例えば、電磁波Fの周波数が5.8GHzの場合、λ=5.17cmなので導波管2の高さaは2.6cm以下とすればよい。
【0043】
これによって、b>λ/2を充足する任意のbの値で、導波管2を伝搬する電磁波Fは、TE0nモードのみとなり、共振時の電界は、図4に示すように、導波管2の上下面に垂直となる。
【0044】
この際、導波管2における管内波長λgは、一般に、以下の式(2)により表される。
【数2】
【0045】
そして、管内波長λgに応じた位置に、上下面からアンテナ部3(例えば、λ/4モノポールアンテナ)を差し込めば、電界はアンテナ部3の延在方向に対して平行方向になり、アンテナ部3に効率よく電磁波の電力を回収させることができる。
【0046】
例えば、導波管2の幅b=4cmとすると、式(1)からTE01モードのみが伝搬可能となる。そして、導波管2内に5.8GHzの電磁波Fを入れると、管内波長λg=6.78cmとなり、導波管2内にはλg/2=3.4cmピッチで、電界強度の高強度地点、即ち、電界集中点が発生する。尚、TE01モードの電磁波Fが伝搬する場合には、導波管2の管壁では電界がゼロとなるので、導波管2の幅方向の中心に電界集中が起こる。
【0047】
この際、導波管2は、より好適には、長手方向の両端を金属壁で塞いだ構成とする。これによって、導波管2を空洞共振器として構成することが可能であり、導波管2内に、より高強度の高強度地点を生成することができる。
【0048】
又、導波管2内に送出する電磁波Fの周波数は、より好適には、TE01モードの遮断周波数以上で、且つ、TE01モード以外の他の伝搬モードの遮断周波数以下に設定される。これによって、TE0nの各モードの中でもTE01モードのみを発生させることができるため、電磁波Fの電界分布の高強度地点をより集中させることが可能である。尚、導波管2内に伝搬する電磁波Fの周波数としては、TE01モードの電磁波Fが発生する周波数が最低周波数である。そして、電磁波Fの周波数が当該周波数から上昇するに伴って導波管2内に多重モードの電磁波Fが発生する。
【0049】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、電源装置1の発振器から送出される所定周波数の電磁波Fを、自身の内部の中空領域に伝搬する導波管2と、導波管2内において導波管2が延在する長手方向に沿って配設され、電磁波Fと共振して、電磁波Fの電力を回収する複数のアンテナ部3と、導波管2の外部領域において複数のアンテナ部3それぞれに接続され、自身と対向するように受電装置5の受電用共振器5Sが配設された際に当該受電用共振器5Sと電磁結合して、受電用共振器5Sに対してアンテナ部3が回収した電力を伝送する複数の共振器4と、を備えている。
【0050】
従って、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、複数の共振器4のいずれかに対向するように受電装置5の受電用共振器5Sが配設された際に、当該受電用共振器5Sに対して、ワイヤレスで電力を伝送することができる。共振器4の配設位置は、コンセントのように室内空間に露出する必要がなく、建物内における床板や天井板を通して給電できる。そのため、本実施形態に係る電力伝送装置Aによれば、余剰空間を利用して多数の電力取り出し口(即ち、共振器4)を配設することができ、任意の場所から電力を取り出すことが可能である。
【0051】
又、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、導波管2を用いて電力伝送する構成となっているため、同軸ケーブル等を用いて電力伝送する態様よりも損失が少なく、且つ、広い面積に亘って電力伝送が可能である。加えて、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、当該導波管2内から、アンテナ部3と共振器4を介して電力を取り出す構成となっているため、未使用のアンテナ部3等からの放射損失も生じさせることなく、電力伝送が可能である。
【0052】
又、本実施形態に係る複数のアンテナ部3は、それぞれ、導波管2内で電磁波Fにより生成される電界分布の電界強度が増大する位置に配設される。これによって、アンテナ部3は、導波管2内を伝搬する電磁波Fの電力を効率良く回収することが可能である。
【0053】
又、本実施形態に係る複数の共振器4は、それぞれ、閉曲線線路の一部に開放部が形成された構造を有する共振器(典型的には、オープンリング共振器)によって構成されている。これによって、共振器4における放射損失を低減し、加えて、高い伝送効率を得ることが可能である。又、かかる共振器4は、広い周波数帯域において高い伝送効率を確保することが可能であるため、電磁波Fの周波数が変更された際にも、高い伝送効率を確保することが可能である。
【0054】
又、本実施形態に係る導波管2の長手方向に沿って延在する管壁は、対向する2面の間隔が電磁波Fの波長の1/2以下となるように配設された一対の平板部を有する。これによって、導波管2内に発生する電磁波Fの伝搬モードを、TE0nモードのみに制限することができ、導波管2内における電磁波Fの電界分布の高強度地点が散逸する事態の発生を抑制することが可能である。これにより、アンテナ部3にて、導波管2内を伝搬する電磁波Fの電力を効率良く回収することが可能である。
【0055】
但し、導波管内の伝搬モードはTE0nモードに限らず、TEmn、TMmnなど遠くまで伝搬できるモードなら他のモードであってもよい。そのため、導波管2の形状は、断面の幅の一部がλ/2以上であればよく、誘電損や導体損、管壁からの放射損が少ない金属製の容器であれば、管状に代えて、箱形などであってもよい。更に、導波管2の中を損失のない誘電体で埋めることで、実効的な電磁波Fの波長を短縮することも可能であり、これによって管径を細めることも出来る。又、プラスチックのパイプの表面や内面に金属膜をコートした管や容器でも適用可能である。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、図5図7を参照して、第2の実施形態に係る電力伝送装置Aについて説明する。
【0057】
図5は、本実施形態に係る電力伝送装置Aの構成の一例を示す図である。
【0058】
本実施形態に係る電力伝送装置Aは、導波管2内に伝搬する電磁波Fの周波数を制御する制御装置6を備える点で、第1の実施形態と相違する。
【0059】
第1の実施形態では、複数のアンテナ部3それぞれが、導波管2内に発生する電界分布の高強度地点に配設されている態様を示した。しかしながら、当該高強度地点は、実際には、導波管2の断面形状の歪みや導波管2内に置かれたアンテナ部3等の障害物で位置ずれが生ずる場合がある。又、高強度地点は導波管2の高さ方向又は幅方向のサイズが電磁波Fの波長より長かったりした場合は周波数によりめまぐるしく変化する。
【0060】
そこで、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、制御装置6にて、使用対象のアンテナ部3の配設位置が電界分布の高強度地点となるように、導波管2内に伝搬する電磁波Fの周波数を制御する。
【0061】
制御装置6は、例えば、受電装置5と通信することで、当該受電装置5が受電する電力のレベルを検知する。そして、制御装置6は、電源装置1に対して、発生する電磁波の周波数を指令する指令信号を出力することで、当該受電装置5が受電する電力が最大化するように、電磁波の周波数をフィードバック制御する(図5中の点線矢印は通信信号を表す)。これによって、受電装置5に対して効率的に給電することが可能である。
【0062】
制御装置6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート、及び、通信コントローラ等を含んで構成されている。制御装置6の機能は、例えば、CPUがROMやRAMに格納された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。
【0063】
尚、本実施形態に係る電源装置1の発振器は、送出する高周波電力(即ち、電磁波F)の周波数を可変に構成されている。
【0064】
図6は、電磁波Fの周波数と、導波管2内に発生する電界分布の高強度地点との関係の一例を示す図である。
【0065】
具体的には、図6は、上記[具体例]で示した導波管2において、電磁波Fの周波数を変更した場合における、電界分布の高強度地点を電磁界シミュレーションによって算出したものである。
図6の各プロットは、以下を表す。
○印:電磁波Fの周波数を5.121GHzとした場合の電界分布の高強度地点
×印:電磁波Fの周波数を5.223GHzとした場合の電界分布の高強度地点
【0066】
図6において、横軸は導波管2の長手方向の位置を表し、縦軸は導波管2の幅方向の位置を表す。尚、電磁波Fの周波数が5.121GHz及び5.223GHzのときには、電磁波Fは、TE01モードのみで伝搬する。
【0067】
図6においては、電磁波Fの周波数が5.121GHzのときには、導波管2の長手方向の略100cmの中に、29個の高強度地点(最適ポイント)が発生している。一方、電磁波の周波数が5.223GHzのときには、導波管2の長手方向の略100cmの中に、30個の高強度地点(最適ポイント)が発生している。そして、電磁波の周波数が5.121 GHzのときと電磁波の周波数が5.223GHzのときとで、高強度地点が、導波管2の長手方向の異なる位置に発生している。
【0068】
制御装置6は、例えば、所定の周波数帯域をスイープするように、電源装置1から導波管2内に送出する電磁波Fの周波数を変化させる。そして、制御装置6は、受電装置5と通信することで当該受電装置5が受電する電力を検知し、当該受電装置5が受電する電力が最大化するように、電磁波の周波数を制御する。
【0069】
尚、受電装置5が複数存在する場合には、それぞれの受電装置5に対する最適周波数が異なることが考えられる。その場合、電源装置1は、複数の周波数の電磁波Fを導波管2内に送出してもよい。そして、制御装置6は、複数の受電装置5それぞれが受電する電力が最大化するように、当該複数の周波数それぞれを制御してもよい。
【0070】
図7は、電磁波Fの周波数と、導波管2内に発生する電界分布の高強度地点との関係の他の一例を示す図である。図7は、上記[具体例]で示した導波管2において、導波管2の幅bを拡張して6cmとした際の電界分布の高強度地点を、電磁界シミュレーションによって算出したものである。
【0071】
図7の各プロットは、以下を表す。
○印:電磁波Fの周波数を5.159GHzとした場合の電界分布の高強度地点
◇印:電磁波Fの周波数を5.200GHzとした場合の電界分布の高強度地点
+印:電磁波Fの周波数を5.213GHzとした場合の電界分布の高強度地点
【0072】
図7において、横軸は導波管2の長手方向の位置を表し、縦軸は導波管2の幅方向の位置を表す。尚、電磁波Fの周波数が5.159GHzのときには、電磁波Fは、TE01モードのみで伝搬している。一方、5.200GHzと5.213GHzのときには、電磁波Fは、TE02モードとTE01モードが混在して伝搬している(ここでは、TE01モードの電界強度は小さいため図示を省略している)。
【0073】
図7の態様においては、例えば、TE01モードにて電界が高強度となる高強度地点及びTE02モードにて電界が高強度となる高強度地点それぞれの位置に、アンテナ部3を別個に配設してもよい。これによって、より多くの電力取り出し位置を確保することができる。
【0074】
一方、制御装置6は、かかる態様においても、同様に、使用対象のアンテナ部3の位置が、電界分布の高強度地点となるように、電磁波の周波数を制御すればよい。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る電力伝送装置Aは、電源装置1の発振器が送出する電磁波Fの所定周波数を制御して、導波管2内で電磁波Fにより生成される電界分布を調整する制御装置6、を更に備えている。これによって、電界強度が増大する位置(即ち、定在波の腹位置)を制御することができるため、任意の場所で、効率良く電力を取り出すことができる。
【0076】
又、本実施形態に係る制御装置6は、受電装置5と通信して、受電装置5が受電する電力に基づいて、電磁波Fの所定周波数をフィードバック制御する。これによって、使用対象のアンテナ部3の位置において、電界強度が増大するように、電源装置1の発振器が送出する電磁波Fの所定周波数を制御することが可能となる。
【0077】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限らず、種々に変形態様が考えられる。
【0078】
上記実施形態では、電源装置1の一例として、導波管2の外部に配設され、共振器及びアンテナを介して、導波管2内に電磁波Fを送出させる態様を示した。しかしながら、電源装置1が導波管2内に電磁波Fを送出する態様は、任意であり、共振器4及びアンテナ部3を介在することなく、導波管2内に、直接電磁波Fを送出する態様としてもよい。
【0079】
一方、上記実施形態のように、電源装置1を導波管2の外部に配設し、共振器4及びアンテナ部3を介して、導波管2内に電磁波Fを送出する態様の場合には、送電側のアンテナ部4の位置は、相反性から共振により電磁界が高くなる場所が望ましい。
【0080】
又、上記実施形態では、導波管2の一例として、断面が矩形の導波管2について説明したが、本発明に係る電力伝送装置Aは、任意の形状の導波管2を適用することが可能である。導波管2の形状によっては、導波管2内の電界分布が変化してアンテナ部3による電力の回収効率は落ちることになる。しかしながら、この場合であっても、直接損失が発生するわけではないため、再反射や多重反射を経てアンテナ部3に吸収させることができる。
【0081】
又、上記実施形態では、アンテナ部3の一例として、モノポールアンテナを示した。アンテナ部3としては、ダイポールアンテナ、ループアンテナ等、その他のアンテナが用いられてもよい。
【0082】
又、上記実施形態では、共振器4の一例として、オープンリング共振器を示した。共振器4としては、リング共振器又はスパイラル共振器等、その他の共振器が用いられてもよい。
【0083】
又、上記実施形態では、電力伝送装置Aの一例として、一個のアンテナ部3に一個の共振器4を接続する態様を示した。しかしながら、電力を増幅する観点から、複数のアンテナ部3から一個の共振器4に対して電力を送出する態様としてもよい。
【0084】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示に係る電力伝送装置によれば、任意の場所から電力を取り出すことが可能となる。
【符号の説明】
【0086】
1 電源装置
2 導波管
2t 開口
3a、3b、3c アンテナ部
4a、4b、4c 共振器
5 受電装置
5S 受電用共振器
6 制御装置
A 電力伝送装置
F 電磁波
U ワイヤレス給電システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7