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特許7100857生体イメージング用半導体SWCNT分散液及びその検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】生体イメージング用半導体SWCNT分散液及びその検査方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20220707BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220707BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220707BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20220707BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20220707BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20220707BHJP
【FI】
A61K49/00
B82Y30/00
B82Y40/00
B82Y5/00
C01B32/159
C01B32/174
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019553648
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2017041565
(87)【国際公開番号】W WO2019097698
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 俊也
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 陽子
(72)【発明者】
【氏名】片浦 弘道
(72)【発明者】
【氏名】湯田坂 雅子
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-182657(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117633(WO,A1)
【文献】梅澤雅和他,カーボンナノチューブの近赤外蛍光を用いたマウス気道イメージング, バイオイメージング,2016年,第25巻第2号,123ページ,全文
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2012年,134,10664-10669
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
C01B 32/159
C01B 32/174
B82Y 5/00
B82Y 30/00
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体イメージング用半導体SWCNT分散液の製造方法であって、
半導体単層カーボンナノチューブに大気中で直接紫外線を照射することにより酸化処理する工程と、
酸化処理した半導体単層カーボンナノチューブを、界面活性剤の溶液中に分散させる工程と、
得られた分散液に、両親媒性物質からなる分散剤を溶解させる工程と、
得られた溶液から、透析によって界面活性剤を除去する工程と、
吸収分光法及び/又はフォトルミネッセンス法と、粒子径測定とを用いて、前記半導体単層カーボンナノチューブの平均粒子径が10nmより小さいことと、前記半導体単層カーボンナノチューブの孤立分散性が、前記界面活性剤の溶液中に分散させる工程を経ずに前記酸化処理した半導体単層カーボンナノチューブを前記両親媒性物質からなる分散剤に直接溶解させたときの前記半導体単層カーボンナノチューブの孤立分散性に比べて高いこと、及び/又は前記半導体単層カーボンナノチューブが酸化されていることを検査する工程と、
を含む生体イメージング用半導体SWCNT分散液の製造方法
【請求項2】
前記粒子径測定が、遠心沈降法による測定である請求項1に記載の生体イメージング用半導体SWCNT分散液の製造方法
【請求項3】
前記界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸塩である請求項1又は2に記載の生体イメージング用半導体SWCNT分散液の製造方法。
【請求項4】
前記分散剤が、ポリエチレングリコール脂質誘導体である請求項1~3のいずれか一項に記載のイメージング用半導体SWCNT分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体イメージング用半導体単層カーボンナノチューブ(SWCNT)分散液及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)は、炭素原子が平面的に六角形状に配置されて構成された炭素シート(いわゆる、グラファイトからなるシート)が円筒状に閉じた構造を有する炭素構造体である。このCNTには、多層のもの及び単層のものがあるが、単層CNT(以下、SWCNTともいう)の電子物性は、その巻き方(直径や螺旋度)に依存して、金属的性質又は半導体的性質を示すことが知られている。
【0003】
半導体SWCNTは、生体透過性の良い近赤外領域(800~2000nm)で光吸収及び発光することから、細胞や生体の機能を検出する蛍光プローブとして有用なものであると期待されている。特に、1200~1400nmの波長領域は、最も生体透過性が良い領域である。
【0004】
その半導体SWCNTに酸素原子や官能基を導入することによって、発光波長を変化させることができる。例えば、SWCNTを界面活性剤で分散した水溶液にオゾンを添加した水を混合し、光を照射しながら化学反応させることによって、ナノチューブ壁中の炭素を一部酸素原子に置き換える技術が知られている(非特許文献1及び2)。このようにして酸素原子を導入した場合、ほとんどの酸素原子はSWCNTの壁にエーテル結合し、SWCNTの発光エネルギーは元の発光エネルギーよりも約150meV小さくなる。このような化学修飾には、SWCNTの発光量子収率を増加するという利点もある。
【0005】
しかし、非特許文献1及び2で報告されている発光波長の長波長化では、現在最も研究されているSWCNTの一つであるカイラル指数(6,5)を有するSWCNTに対して、その発光波長は、近赤外蛍光プローブとして最も好ましいとされている約1300nm~1400nmより短い、約1140nm(約1.088eV)にピークを有するものが主な生成物であった。
【0006】
これに対し、特許文献1には、大気中で半導体単層カーボンナノチューブに直接紫外線を照射することにより、オゾンを発生させて半導体単層カーボンナノチューブを酸化処理することを特徴とする近赤外発光する半導体単層カーボンナノチューブの製造方法が開示されている。
【0007】
上記特許文献1によれば、グラム量のSWCNTに対し短時間で簡便に酸素原子を導入することができ、また、その発光波長のピークを980nm(1.265eV)から1280±13nm(0.9686±0.01eV)に変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/117633号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ghosh et al., Science, 330, 1656-1659 (2010).
【文献】Miyauchi et al., Nat. Photonics, 7, 715-719 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載の方法によって製造された半導体SWCNTを用いて、生体(マウス)に投与するための生体イメージング用分散液(生体用プローブ)を調製する場合、ロット単位で品質にばらつきを生じ、一定の性能が得られないという問題があった。例えば、ロットによって半導体SWCNTの分散が不十分であると、短時間で特定の部位(特に、肝臓)に集積してしまい、その他の領域での蛍光分布を検出することができず、また、半導体SWCNTが生体内で凝集することにより肺等に詰まり死に至るリスクがあるという問題があった。それゆえ、ロット単位での品質のばらつきの程度を、生体への投与前、好ましくは出荷前に判定する必要があった。
【0011】
そこで本発明は、上記の状況に鑑み、異常な集積を呈するものや、所定の波長域で発光しない等、一定の性能が得られていないロットの分散液を、事前に判定することができる検査方法、及び当該検査を受けた生体イメージング用SWCNT分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、生体イメージング用SWCNT分散液を評価する際に、一つの方法でSWCNTの特性を測定しても、肝臓への集積性が認められる分散液を排除できないが、特定の分析方法を複数組み合わせて行うことにより、異常な集積を呈するロットの分散液であるか否かを判定可能になることを見い出した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)大気中で直接紫外線を照射することにより酸化処理された半導体単層カーボンナノチューブと、前記半導体単層カーボンナノチューブの表面をコーティングする両親媒性物質からなる分散剤とを含む半導体SWCNT分散液について、
吸収分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定からなる群から選択される少なくとも2種類の方法を用いて、前記半導体単層カーボンナノチューブの平均粒子径が10nmより小さいこと、前記半導体単層カーボンナノチューブの孤立分散性が高いこと、及び/又は前記半導体単層カーボンナノチューブが酸化されていることが確認された前記半導体SWCNT分散液のみから構成される、生体イメージング用半導体SWCNT分散液。
(2)前記粒子径測定が、遠心沈降法による測定である上記(1)に記載の生体イメージング用半導体SWCNT分散液。
(3)大気中で直接紫外線を照射することにより酸化処理された半導体単層カーボンナノチューブと、前記半導体単層カーボンナノチューブの表面をコーティングする両親媒性物質からなる分散剤とを含む生体イメージング用半導体SWCNT分散液の検査方法であって、
吸収分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定からなる群から選択される少なくとも2種類の方法を用いて、前記半導体単層カーボンナノチューブの平均粒子径が10nmより小さいこと、前記半導体単層カーボンナノチューブの孤立分散性が高いこと、及び/又は前記半導体単層カーボンナノチューブが酸化されていることを確認する、生体イメージング用半導体SWCNT分散液の検査方法。
(4)前記粒子径測定が、遠心沈降法による測定である上記(3)に記載の生体イメージング用半導体SWCNT分散液の検査方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の検査方法によれば、吸収分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定のうち2種以上の方法を用いることで、異常な集積を呈するものや所定の波長領域で発光しない等、一定の性能が得られていないロットの分散液であるか否かを事前に判定することができ、所望の生体イメージング用SWCNT分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】製造例1~3の生体イメージング用半導体SWCNT分散液の吸収スペクトルを示す図である。
図2】製造例1~3の生体イメージング用半導体SWCNT分散液の発光スペクトルを示す図である。
図3】製造例1~3の生体イメージング用半導体SWCNT分散液における半導体SWCNTの粒子径分布を示す図である。
図4】製造例3のin vivoイメージングを示す図である。
図5】製造例1のin vivoイメージングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る方法の検査対象である生体イメージング用半導体SWCNT分散液は、大気中で直接紫外線を照射することにより酸化処理された半導体SWCNTと、その半導体SWCNTの表面をコーティングする両親媒性物質からなる分散剤とを含む。
【0017】
大気中で直接紫外線を照射することにより、オゾンを発生させ、半導体SWCNTに酸素原子が導入される。大気中で直接紫外線を照射して得られる半導体SWCNTは、発光エネルギーを296±10meV低エネルギー側にシフトすることができ、特に、カイラル指数(6,5)を持つSWCNTに適用すると、その発光波長のピークは約980nmから1280±13nmへと変化し、近赤外蛍光プローブとして好ましい、生体透過性を有する波長領域に発光波長のピークを有するものとなる。
【0018】
紫外線を照射することによる酸化処理について、上述の非特許文献1及び2等の従来の湿式による方法(SWCNTを水溶液中で反応させる方法)では、ほとんどの酸素はSWCNTとエーテル結合するために290meVを超える低エネルギーシフトは困難であった。これに対し、本発明の評価対象である半導体SWCNTでは、大気中で直接紫外線を照射することにより、導入された酸素原子はほとんどがエポキシドとしてSWCNTに導入され、これによってSWCNTの発光エネルギーを296±10meV低エネルギー側にシフトさせることが可能となる。
【0019】
半導体SWCNTの合成方法は特に限定されず、公知の化学気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法等の方法を用いて適宜合成することができる。特に、触媒の存在下、化学気相成長法によって合成することが好ましい。
【0020】
分散液における半導体SWCNTの平均粒子径は、10nmより小さいことが好ましく、好ましくは、6nm以上10nm未満の範囲内である。平均粒子径が10nmより小さい微小な半導体SWCNTは、肺の血管等を閉塞することがなく、毒性が低い。ここで、半導体SWCNTの平均粒子径とは、遠心沈降法によって測定される、重量基準の粒度分布における平均径をいう。
【0021】
大気中で直接紫外線を照射してオゾンを発生させる際には、密閉された空間内で行うことが好ましく、例えばUVオゾンクリーナ等の、紫外線を大気に照射することによってオゾンを発生させる装置が好ましく用いられる。また、紫外線の照射条件は、用いる装置によって異なるが、照射により半導体SWCNTが破壊されない条件下で行うことが好ましい。
【0022】
また、大気中で半導体SWCNTに直接紫外線を照射するために、予め基材上に半導体SWCNTを膜状に形成しておくことが好ましく、特に、酸素原子が導入される半導体SWCNTに均一に化学反応を起こすために、半導体SWCNTを厚さ1μm程度の薄膜状にした状態で紫外線を照射することが好ましい。
【0023】
半導体SWCNTの表面をコーティングする両親媒性物質からなる分散剤としては、特に限定されるものではなく、生体に対して毒性が小さく、半導体SWCNTとの親和性に優れるものであれば適宜用いることができる。具体的には、疎水性の脂質部位に親水性のPEGが結合してなるポリエチレングリコール脂質誘導体、核酸、ウシ血清アルブミン等を挙げることができる。特に、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-PEG2000(DSPE-PEG2000)等のポリエチレングリコール脂質誘導体が好ましく用いられる。
【0024】
DSPE-PEG2000等の分散剤によって半導体SWCNTの表面をコーティングすることにより、半導体SWCNTの分散状態が維持され、半導体SWCNTの粒子径が微小であることと相まって、半導体SWCNTが特定の臓器に集積することなく、また、肺の血管等を閉塞することがない。
【0025】
酸化処理された半導体SWCNTと、両親媒性物質からなる分散剤との重量割合は、半導体SWCNTの表面が十分にコーティングされ、分散状態が維持できればよく特に限定されるものではないが、酸化処理された半導体SWCNT:分散剤の重量比が、1:2~1:20の範囲内であることが好ましい。
【0026】
以上のような生体イメージング用半導体SWCNT分散液を製造するに際しては、種々の方法を採用することができるが、まず、上述のように大気中で直接紫外線を照射することにより酸化処理された半導体SWCNTを、表面を分散剤でコーティングする前に、界面活性剤の溶液中に分散させることが好ましい。
【0027】
ここで、界面活性剤としては、半導体SWCNTを分散できるものであれば良く、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の公知の各種界面活性剤から適宜選択して用いることができる。
【0028】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、コール酸塩、デオキシコール酸塩、グリココール酸塩、タウロコール酸塩、タウロデオキシコール酸塩等を挙げることができる。
【0029】
また、陽イオン界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジウム塩等を挙げることができる。
【0030】
両性イオン界面活性剤としては、例えば、2-メタクロイルオキシホスホリルコリンのポリマーやポリペプチド等の両性イオン高分子、3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)-プロパンスルホネート、3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルフォネート(CHAPS)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)、n-ドデシル-N,N’-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ヘキサデシル-N,N’-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-オクチルホスホコリン、n-ドデシルホスホコリン、n-テトラデシルホスホコリン、n-ヘキサデシルホスホコリン、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタイン及びN,N-ビス(3-D-グルコナミドプロピル)-コラミド、レシチン等を挙げることができる。
【0031】
さらに、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0032】
特に、半導体SWCNTの分散性に優れることから、ラウリルベンゼン硫酸ナトリウム(SDBS)等のアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく用いられる。
【0033】
半導体SWCNTを、界面活性剤の溶液中に分散させる方法としては、各種ホモジナイザー等を用いて行うことができる。
【0034】
得られた分散液は、必要に応じて、遠心分離を行い、上澄みを回収することにより、半導体SWCNTの孤立分散性を高めることができる。孤立分散の半導体単層SWCNTは、生体に投与した場合に、蛍光量子収率の向上、ステルス性の向上、クリアランスの向上という利点があるため好ましい。
【0035】
続いて、半導体SWCNTを界面活性剤の溶液中に分散させた分散液に、上述のポリエチレングリコール脂質誘導体等の両親媒性物質からなる分散剤を溶解させ、その後、得られた溶液から透析によって界面活性剤を除去することにより、半導体SWCNTの周囲に存在していた界面活性剤をポリエチレングリコール脂質誘導体等の分散剤によって置換し、半導体SWCNTの表面を分散剤によって十分にコーティングすることができる。
【0036】
表面が分散剤でコーティングされた半導体SWCNTは、生体イメージング用半導体SWCNT分散液として、生体に投与した場合に、分散状態が維持されるため、半導体SWCNT自体の粒子径が微小であることと相まって、特定の臓器(主に、肝臓)に集積せず、ハレーションを低減することができる。また、肺の血管等を閉塞することがなく、SDBS等の界面活性剤が透析により除去されているため毒性が極めて低い。また、良好に分散することで、凝集性が低下し、発光する蛍光の光量低下を防ぐことができる。
【0037】
以上のような生体イメージング用半導体SWCNT分散液を検査するに際し、本発明では、吸光分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定からなる群から選択される少なくとも2種類の方法を用いて行う。
【0038】
ここで、吸光分光法は、赤外線、可視、紫外線等を用いる方法を採用することができる。これにより、分散液中のSWCNT濃度及び分散状態を評価することができる。
【0039】
また、フォトルミネッセンス法(PL法)として、光源、ステージ及び検出器等の測定系はそれぞれ一般的な構成を用いることができるが、半導体SWCNTが酸化され、生体透過性が良い1200~1400nmの波長領域において発光することを確認するため、励起波長は400nm~1000nmの範囲内(例えば980nm)とし、近赤外領域の発光を検出することが好ましい。
【0040】
さらに、粒子径測定の方法としては、画像解析法、遠心沈降法、レーザー回折散乱法等の方法を適宜採用することができる。特に、重量基準の粒子径分布が得られる遠心沈降法により粒子径を測定することが好ましい。これにより、半導体SWCNTの平均粒子径が肺の血管等を閉塞しない10μmより小さいか否か、孤立分散性が高いか否か、さらに、半導体SWCNTの粒子径分布のうち10nmより小さいものの割合を評価することができる。
【0041】
生体イメージング用半導体SWCNT分散液は、生体に投与された場合に、凝集せず、特定の臓器以外の領域でも蛍光が観測できること、且つ蛍光の光量が大きいことが重要である。このような生体イメージング用分散液に特有の性能を評価するためには、吸光分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定のいずれか一つの方法では不適当であり、少なくとも2種類を組み合わせて総合的に評価する必要がある。好ましくは、粒子径測定と、吸光分光法及び/又はフォトルミネッセンス法とを組み合わせることが好ましい。これにより、生体イメージング用SWCNT分散液を、品質がばらつくことなく良好な性能を維持した状態で提供することができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(製造例1)
カーボンナノチューブ(CoMoCAT SG65i、平均直径0.8nm、以下「半導体SWCNT」という)1mgをエタノール10mlに加え、バスソニケーションに5分ほどかけて半導体SWCNTをエタノールに分散させた。続いて、減圧濾過器にオムニポアメンブレン(φ47mm、5μmポアをセットし、半導体SWCNT/エタノール分散液を入れてろ過し、フィルター上に半導体SWCNTを均一に載せた。次に、半導体SWCNTをフィルターに載せたまま薬包紙で挟み、フィルターが丸まらないよう軽く重石をしながら60℃で30分乾燥させた。そして、フィルターに載せた半導体SWCNTをフィルターごと60~70秒オゾン処理した(光源は水銀ランプ、半導体SWCNT上での紫外線強度は約19mW/cm)。
【0043】
オゾン処理を行った後、半導体SWCNTをフィルターごと10mlの0.3%ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-PEG2000(DSPE-PEG2000)水溶液に入れ、チップ型ホモジナイザーで氷冷しながら20分間(ON:OFF=1秒:1秒)超音波破砕し、半導体SWCNTをDSPE-PEG2000水溶液中に分散させた。続いて、フィルターを取り除いた半導体SWCNT分散溶液を超遠心分離機(104,000g、3時間)にかけ、上澄みを回収し、生体イメージング用半導体SWCNT分散液を製造した。
(製造例2)
カーボンナノチューブ(CoMoCAT SG65i、平均直径0.8nm、以下「半導体SWCNT」という)1mgをエタノール10mlに加え、バスソニケーションに5分ほどかけて半導体SWCNTをエタノールに分散させた。続いて、減圧濾過器にオムニポアメンブレン(φ47mm、5μmポアをセットし、半導体SWCNT/エタノール分散液を入れてろ過し、フィルター上に半導体SWCNTを均一に載せた。次に、半導体SWCNTをフィルターに載せたまま薬包紙で挟み、フィルターが丸まらないよう軽く重石をしながら60℃で30分乾燥させた。そして、フィルターに載せた半導体SWCNTをフィルターごと60~70秒オゾン処理した(光源は水銀ランプ、半導体SWCNT上での紫外線強度は約19mW/cm)。
【0044】
オゾン処理を行った後、半導体SWCNTをフィルターごと10mlの1%SDBS-HOに入れ、チップ型ホモジナイザーで氷冷しながら20分間(ON:OFF=1秒:1秒)超音波破砕し、半導体SWCNTをSDBS溶液中に分散させた。続いて、フィルターを取り除いた半導体SWCNT分散溶液を超遠心分離機(104,000g、1時間)にかけ、上澄みを回収し、半導体SWCNT孤立分散液を得た。
【0045】
半導体SWCNT孤立分散液に、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-PEG2000(DSPE-PEG2000)を3mg/mlになるよう添加し、バスソニケーションに5分ほどかけて、DSPE-PEG2000の粉末を溶解させた。そして、透析膜(Spectrum、G235070)にこの溶液を入れ、2リットルの水で透析を行った。この過程で、SDBSがDSPE-PEG2000に置換される。
【0046】
2時間後、透析外液を分析用に5ml採取した後に捨て、水と交換した。同様に、1晩後、2日後、3日後に水を交換し、それぞれ分析用にとっておいた透析外液の吸収スペクトルを測定して透析率を計算し、95%以上のSDBSの溶出が確認できたところで、透析を終了し、目的の生体イメージング用半導体SWCNT分散液を製造した。
(製造例3)
カーボンナノチューブ(CoMoCAT SG65i、平均直径0.8nm、以下「半導体SWCNT」という)1mgをエタノール10mlに加え、バスソニケーションに5分ほどかけて半導体SWCNTをエタノールに分散させた。続いて、減圧濾過器にオムニポアメンブレン(φ47mm、5μmポアをセットし、半導体SWCNT/エタノール分散液を入れてろ過し、フィルター上に半導体SWCNTを均一に載せた。次に、半導体SWCNTをフィルターに載せたまま薬包紙で挟み、フィルターが丸まらないよう軽く重石をしながら60℃で30分乾燥させた。そして、フィルターに載せた半導体SWCNTをフィルターごと60~70秒オゾン処理した(光源は水銀ランプ、半導体SWCNT上での紫外線強度は約19mW/cm)。
【0047】
オゾン処理を行った後、半導体SWCNTをフィルターごと10mlの1%SDBS-HOに入れ、チップ型ホモジナイザーで氷冷しながら20分間(ON:OFF=1秒:1秒)超音波破砕し、半導体SWCNTをSDBS溶液中に分散させた。続いて、フィルターを取り除いた半導体SWCNT分散溶液を超遠心分離機(104,000g、3時間)にかけ、上澄みを回収し、半導体SWCNT孤立分散液を得た。
【0048】
半導体SWCNT孤立分散液に、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-PEG2000(DSPE-PEG2000)を3mg/mlになるよう添加し、バスソニケーションに5分ほどかけて、DSPE-PEG2000の粉末を溶解させた。そして、透析膜(Spectrum、G235070)にこの溶液を入れ、2リットルの水で透析を行った。この過程で、SDBSがDSPE-PEG2000に置換される。
【0049】
2時間後、透析外液を分析用に5ml採取した後に捨て、水と交換した。同様に、1晩後、2日後、3日後に水を交換し、それぞれ分析用にとっておいた透析外液の吸収スペクトルを測定して透析率を計算し、95%以上のSDBSの溶出が確認できたところで、透析を終了し、目的の生体イメージング用半導体SWCNT分散液を製造した。
(吸収分光法及びフォトルミネッセンス法による測定)
製造例1~3で得られた生体イメージング用半導体SWCNT分散液について、島津製作所紫外可視近赤外分光光度計UV-3100を用い、吸収スペクトルを測定した。また、980nmを励起波長として、堀場製作所Fluorolog-3-2-iHR320を用いて発光スペクトルを測定した。測定結果をそれぞれ図1及び図2に示す。なお、図1及び図2における吸光度及び発光強度は、分散液の濃度を規格化している。
【0050】
図1に示すように、570nm、980nmに吸収ピークが存在し、遠心分離を施すことにより線幅が減少していることから孤立分散しているSWCNTの割合が大きくなっていることがわかる。また、図2の発光スペクトルにおける約1300nmのショルダーから、大気中での紫外線の直接照射により半導体単層カーボンナノチューブが酸化処理され、特に、酸素原子がエポキシドとして導入されていることが示唆された。
【0051】
また、図2に示すように、半導体SWCNTを界面活性剤(SDBS)の溶液中に分散させる工程を経た製造例2及び3の半導体SWCNT分散液は、当該工程を経ないで直接DSPE-PEG2000中に分散させた製造例1の半導体SWCNT分散液に比べて、高い発光強度が得られた。この結果は、製造例2及び3では、製造例1に比べ半導体SWCNTの表面がDSPE-PEG2000によって十分にコーティングされ、半導体SWCNTが凝集せず、より孤立分散性が高まったことによって発光量子効率が向上したためと考えられる。
【0052】
なお、図1に示すように、製造例1に比べて、製造例2及び3の吸収波長は低波長側にシフトしていた。これは、バンドル状のSWCNTに対し、孤立分散状態であるSWCNTの割合が高まったためと推測される。
(粒子径測定)
製造例1~3で得られた生体イメージング用半導体SWCNT分散液について、CPS社製ディスク遠心式粒子径分布測定装置DC24000UHRを用い、遠心沈降法による粒子径測定を行った。その結果を図3に示す。図3の結果から、製造例1~3の生体イメージング用半導体SWCNT分散液における半導体SWCNTの平均粒子径はそれぞれ、8nm、10nm、及び6.5nmであった。また、それぞれの生体イメージング用半導体SWCNT分散液における粒子径が10nmより小さいものの割合はそれぞれ44%、30%、84%であった。遠心分離を1時間行った製造例2に比べて、遠心分離を3時間行った製造例3における半導体SWCNTは、より孤立分散であることが確認された。
(in vivoイメージング)
製造例3及び製造例1で得られた生体イメージング用半導体SWCNT分散液を、SWCNT濃度が200μg/mlになるように0.3%のDSPE-PEG2000溶液で調製した後、0.1mlマウスに投与し、0~6時間後の蛍光を島津製作所SAI-1000装置を用いて観察した。その結果を図4(製造例3)及び図5(製造例1)に示す。
【0053】
図4及び図5に示すように、製造例1の半導体SWCNT分散液は肝臓への集積が認められたが、製造例3の半導体SWCNT分散液は、投与後の時間が経過しても肝臓への集積は認められず、ハレーションを低減できることが明らかとなった。製造例2(図示せず)も製造例1と同様の傾向を示した。これは、製造例1では、半導体SWCNTを界面活性剤(SDBS)の溶液中に分散させる工程を経ないため、孤立分散性が低く、DSPE-PEG2000によるコーティングが不十分であり、半導体SWCNTが良好に分散せず一部凝集したためと考えられる。
【0054】
製造例3の分散液は、吸収分光法、フォトルミネッセンス法及び粒子径測定の3つの方法で測定した結果、いずれも、(1)半導体SWCNTの平均粒子径が10nmより小さいと判定され、(2)半導体SWCNTの孤立分散性が高いと判定され、且つ、(3)半導体SWCNTが酸化されているものと判定された。
【0055】
一方、製造例1の場合は、上記(1)~(3)がいずれも満たされなかった。
【0056】
以上から、本発明に係る検査方法が、異常な集積を呈し、所望の波長領域で発光しない製造例(ロット)の分散剤であるかどうかを判定する方法として有効であるといえる。
【0057】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5