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特許7100861伝送デバイス及び、その伝送デバイスを搭載するシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】伝送デバイス及び、その伝送デバイスを搭載するシステム
(51)【国際特許分類】
   H01P 3/20 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
H01P3/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021029172
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2021136693
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2020032001
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.2019年9月1日 http://www.irmmw-thz2019.org/index.php/technical-program https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/8874367 https://ieeexplore.ieee.org/document/8874367にて発表 2.2019年9月1日 44th International Conference on Infrared,Millimeter,and Terahertz Waves(IRMMW-THz 2019)予稿集にて発表 3.2019年9月5日 44th International Conference on Infrared,Millimeter,and Terahertz Waves(IRMMW-THz 2019)にて発表 4.2020年1月16日 https://www.osapublishing.org/oe/issue.cfm?volume=28&issue=2 https://www.osapublishing.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-28-2-2366 https://www.osapublishing.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-28-2-2366&id=426000 https://www.osapublishing.org/oe/viewmedia.cfm?uri=oe-28-2-2366&seq=0&html=true https://www.osapublishing.org/oe/viewmedia.cfm?uri=oe-28-2-2366&seq=0 https://doi.org/10.1364/OE.381809 にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「共鳴トンネルダイオードとフォトニック結晶の融合」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000100942
【氏名又は名称】アイレック技建株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久々津 直哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 真人
(72)【発明者】
【氏名】永妻 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】冨士田 誠之
(72)【発明者】
【氏名】ヘッドランド ダニエル ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 知貴
(72)【発明者】
【氏名】易 利
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253800(JP,A)
【文献】特開2004-334190(JP,A)
【文献】特開2006-126527(JP,A)
【文献】特開2014-002024(JP,A)
【文献】特開2005-275161(JP,A)
【文献】Daniel Headland,Terahertz multi-beam antenna using photonic crystal waveguide and Luneburg lens,APL Photonics (Web),Vol.3 No.12,2018年,pp.126105-126105-18,https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5060631,検索日:2021-04-05
【文献】Daniel Headland,Integrated Luneburg and Maxwell Fisheye Lenses for the Terahertz Range,2019 44th International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves (IRMMW-THz) (Web),2019年10月21日,pp.1-2,https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/8874367,検索日:2021-04-05
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 3/00- 3/20
H01Q 15/00-19/32
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G02B 6/12- 6/14
G02B 27/00-27/64
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
H01S 1/00- 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性を有する平坦な基板に形成され、テラヘルツ波信号の周波数により設定された幅を有し、前記テラヘルツ波信号を伝搬する第1導波路と、
前記基板に形成される千鳥配置された複数の第1貫通孔を有し、前記第1導波路と接続して前記テラヘルツ波信号の送受を行い、前記第1貫通孔の孔径と孔間距離により設定された第1屈折率により、通過する前記テラヘルツ波信号を拡散して平行波に変換する又は、通過する平行波の前記テラヘルツ波信号を収束させる第1平面レンズ部と、
前記第1導波路と前記第1平面レンズ部が接合する第1接合箇所に配置され、前記第1導波路から前記第1平面レンズ部に向かい、徐々に大径化する複数の第4貫通孔を有し、前記第1導波路と前記第1平面レンズ部間のインピーダンス整合を行う第1接合部と、
を備える伝送デバイス。
【請求項2】
前記テラヘルツ波信号を伝搬する前記第1導波路と、
前記テラヘルツ波信号を円弧状に拡散して、平行波に変換する前記第1平面レンズ部と、
前記第1導波路と前記第1平面レンズ部間のインピーダンス整合を行う前記第1接合部と、
を備え、さらに、
前記基板上で前記第1平面レンズ部と接続し、前記第1平面レンズ部から平行波に変換された前記テラヘルツ波信号を伝送する伝送路と、
前記基板に形成されて前記伝送路と接続し、千鳥配置された複数の前記第1貫通孔を有し、前記第1貫通孔により設定された前記第1屈折率により、通過する前記テラヘルツ波信号に対して、前記伝送路から伝送された平行波の前記テラヘルツ波信号を収束させる又は、前記第1屈折率により前記テラヘルツ波信号の反射信号を拡散して、平行波に変換する第2平面レンズ部と、
前記基板に形成されて前記第2平面レンズ部と接続し、収束された前記テラヘルツ波信号の周波数により設定された幅を有し、前記第2平面レンズ部から入力された前記テラヘルツ波信号を出力し、又は外部から入力された前記テラヘルツ波信号の反射信号を前記第2平面レンズ部へ伝搬する第2導波路と、
前記第2平面レンズ部と前記第2導波路が接合する第2接合箇所に配置され、前記第2導波路から前記第2平面レンズ部に向かい、徐々に大径化する複数の前記第4貫通孔を有し、前記第2平面レンズ部と前記第2導波路間のインピーダンス整合を行う第2接合部と
を備える、請求項1に記載の伝送デバイス。
【請求項3】
前記伝送路内に、誘電体、半導体、導電体、及び磁性体の材料のうちの何れか1つの前記材料又は、2つ以上の前記材料を組み合わせた材料を用いて、複数の第2貫通孔の格子配置による帯状に形成され、前記帯状の領域における前記第2貫通孔による気体の含有率により設定された第2屈折率による反射又は透過により、前記第1平面レンズ部から伝送される平行波の前記テラヘルツ波信号を前記第2平面レンズ部に伝送するビームスプリッタ部を有し、
前記ビームスプリッタ部は、単体で形成されて前記基板と一体化される又は、前記基板内で前記伝送路と共に形成される、請求項2に記載の伝送デバイス。
【請求項4】
前記第1導波路前記第1平面レンズ部及び、前記第1接合部は、前記テラヘルツ波信号を供給する第1ポート及び、
前記第2導波路前記第2平面レンズ部及び、前記第2接合部は、前記テラヘルツ波信号を送受する第2ポートを構成し、さらに、
前記第2ポートから取り込まれて、前記ビームスプリッタ部を透過又は反射した前記平行波の前記テラヘルツ波信号の前記反射信号を円弧状に収束する第3平面レンズ部と、前記第3平面レンズ部により収束された前記テラヘルツ波信号の反射信号を受信し、閉じ込めて伝搬する第3導波路と、前記第3平面レンズ部と前記第3導波路が接合する第3接合箇所に配置され、前記第3導波路から前記第3平面レンズ部に向かい、徐々に大径化する複数の前記第4貫通孔を有し、前記第3平面レンズ部と前記第3導波路間のインピーダンス整合を行う第3接合部とを含み、信号受信を行う第3ポートを備える、請求項3に記載の伝送デバイス。
【請求項5】
前記第1導波路の両側面に前記第1貫通孔より大径化した複数の第3貫通孔が千鳥配置され、前記第1導波路の両側面が半円筒形の前記第3貫通孔で覆われて構成され、前記テラヘルツ波信号を前記第1導波路に閉じ込めて伝搬させる第1フォトニック結晶導波路と、
前記第2導波路の両側面に前記第1貫通孔より大径化した複数の第3貫通孔が千鳥配置され、前記第2導波路の両側面が半円筒形の前記第3貫通孔で覆われて構成され、前記テラヘルツ波信号を前記第2導波路に閉じ込めて伝搬させる第2フォトニック結晶導波路と、
前記第3導波路の両側面に前記第1貫通孔より大径化した複数の第3貫通孔が千鳥配置され、前記第3導波路の両側面が半円筒形の前記第3貫通孔で覆われて構成され、前記テラヘルツ波信号を前記第3導波路に閉じ込めて伝搬させる第3フォトニック結晶導波路と、を備える請求項4に記載の伝送デバイス。
【請求項6】
前記ビームスプリッタ部に入射した前記テラヘルツ波信号の前記反射と前記透過との比率は、前記ビームスプリッタ部が形成される前記基板の形成領域に対する前記第2貫通孔内に存在する空気の含有率の増加に対して、反射率が増加し、透過率が減少する関係を有する、請求項3に記載の伝送デバイス。
【請求項7】
前記第1平面レンズ部の屈折率は、
レンズ内に前記第1貫通孔の無い状態を最大の屈折率:nmax、レンズの最大半径:rmax、レンズ内部の半径:rとして、前記第1貫通孔の径が波長の1/4以下のときに、
【数1】
である、請求項1に記載の伝送デバイス。
【請求項8】
請求項4に記載の前記伝送デバイスと、
テラヘルツ波信号を前記伝送デバイスの前記第1ポートへ発信出力する送信器と、
前記第1ポートから伝搬され、前記ビームスプリッタ部を反射又は透過したテラヘルツ波信号を、前記第2ポートから受けて任意の対象物へ出射し、及び前記対象物からの前記テラヘルツ波信号の反射信号を入射する光学系と、
前記光学系から前記第2ポートを経て前記ビームスプリッタ部で透過又は反射した前記テラヘルツ波信号の反射信号を受信する受信器と、
を備える伝送デバイスを搭載するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘電性を有する基板に形成され、発信及び受信されるテラヘルツ波の信号を伝送する伝送デバイス及び、その伝送デバイスを搭載するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信技術やイメージ技術においては、テラヘルツ波(300GHz~100THz程度)の信号を利用するシステムが提案されている。無線通信技術にテラヘルツ波の信号を利用すると、送信するデータ量が大きくなり、またイメージ技術にテラヘルツ波の信号を利用すると、X線による被爆は生じずに透視検査や非破壊検査が実施でき、分解能が高く、マイクロ波に比べてより高精細な画像を取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-91802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したテラヘルツ波の信号を発生させるシステムとして、例えば、特許文献1には、テラヘルツ電磁波発生装置が提案されている。このシステムにおいては、送信器が発生したテラヘルツ波信号を伝送して対象物に向かって出射し、そのテラヘルツ波信号の反射信号又は散乱信号を受信器まで伝送する伝送機構を有している。
【0005】
この伝送機構は、導波路と、ミラー及びレンズを含む複数の光学素子とが組み合わされて、空間光学系が構成されている。複数の光学素子を組み合わせた場合、対象物までの一路の伝送経路を構築するために、各光学素子に対して微妙な位置調整や角度調整の作業が必要な上に、これらの光学素子を移動可能に支持する支持部材も必要となり、システムが大型化している。
【0006】
そこで本発明の実施形態は、誘電性を有する基板に空間光学系の機能を有する素子を形成し、各素子の位置調整不要で小型化された伝送デバイス及び、その伝送デバイスを含むテラヘルツ波システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に従う一実施形態に係る伝送デバイスは、誘電性を有する平坦な基板に形成され、テラヘルツ波信号の周波数により設定された幅を有し、前記テラヘルツ波信号を伝搬する第1導波路と、前記基板に形成される千鳥配置された複数の第1貫通孔を有し、前記第1導波路と接続して前記テラヘルツ波信号の送受を行い、前記第1貫通孔の孔径と孔間距離により設定された第1屈折率により、通過する前記テラヘルツ波信号を拡散して平行波に変換する又は、通過する平行波の前記テラヘルツ波信号を収束させる第1平面レンズと、前記第1導波路と前記第1平面レンズ部が接合する第1接合箇所に配置され、前記第1導波路から前記第1平面レンズ部に向かい、徐々に大径化する複数の第4貫通孔を有し、前記第1導波路と前記第1平面レンズ部間のインピーダンス整合を行う第1接合部と、を備える。
【0008】
さらに、一実施形態に係る伝送デバイスは、前記テラヘルツ波信号を伝搬する前記第1導波路と、前記テラヘルツ波信号を円弧状に拡散して、平行波に変換する前記第1平面レンズと、前記第1導波路と前記第1平面レンズ部間のインピーダンス整合を行う前記第1接合部と、を備え、さらに、前記基板上で前記第1平面レンズと接続し、前記第1平面レンズから平行波に変換された前記テラヘルツ波信号を伝送する伝送路と、前記基板に形成されて前記伝送路と接続し、千鳥配置された複数の前記第1貫通孔を有し、前記第1貫通孔により設定された前記第1屈折率により、通過する前記テラヘルツ波信号に対して、前記伝送路から伝送された平行波の前記テラヘルツ波信号を収束させる又は、前記第1屈折率により前記テラヘルツ波信号の反射信号を拡散して、平行波に変換する第2平面レンズと、前記基板に形成されて前記第2平面レンズと接続し、収束された前記テラヘルツ波信号の周波数により設定された幅を有し、前記第2平面レンズから入力された前記テラヘルツ波信号を出力し、又は外部から入力された前記テラヘルツ波信号の反射信号を前記第2平面レンズへ伝搬する第2導波路と、前記第2平面レンズ部と前記第2導波路が接合する第2接合箇所に配置され、前記第2導波路から前記第2平面レンズ部に向かい、徐々に大径化する複数の前記第4貫通孔を有し、前記第2平面レンズ部と前記第2導波路間のインピーダンス整合を行う第2接合部と、を備える。また、前記伝送路内に、誘電体、半導体、導電体、及び磁性体の材料のうちの何れか1つの前記材料又は、2つ以上の前記材料を組み合わせた材料を用いて、複数の第2貫通孔の格子配置による帯状に形成され、前記帯状の領域における前記第2貫通孔による気体の含有率により設定された第2屈折率による反射又は透過により、前記第1平面レンズ部から伝送される平行波の前記テラヘルツ波信号を前記第2平面レンズ部に伝送するビームスプリッタ部を有し、前記ビームスプリッタ部は、単体で形成されて前記基板と一体化される又は、前記基板内で前記伝送路と共に形成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電性を有する基板に空間光学系の機能を有する素子を形成し、位置調整不要で小型化された伝送デバイス及び、その伝送デバイスを搭載するシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係るテラヘルツ波の信号を伝送する伝送デバイスを含むテラヘルツ波システムの概念的な構成例を示す図である。
図2図2は、3ポートの伝送デバイスの概念的な構成を示す図である。
図3図3は、フォトニック結晶導波路を有する第1ポートの構成例を示す図である。
図4図4は、フォトニック結晶導波路と平面レンズ部の接合箇所の構成を示す図である。
図5図5は、第1平面レンズ部の構成を示す図である。
図6図6は、第1平面レンズ部の貫通孔の配置について説明するための概念図である。
図7図7は、貫通孔を通過するテラヘルツ波信号の経路の一例を示す図である。
図8A図8Aは、平行波となるテラヘルツ波信号の経路の概念的に示す図である。
図8B図8Bは、収束するテラヘルツ波信号の経路の概念的に示す図である。
図9図9は、平面レンズ部内を放射状に広がるテラヘルツ波信号を概念的に示す図である。
図10図10は、ビームスプリッタ部を形成する貫通孔の配置例を示す図である。
図11図11は、貫通孔の配置関係を説明するための図である。
図12図12は、ビームスプリッタ部におけるテラヘルツ波信号の反射と透過を説明するための図である。
図13図13は、テラヘルツ波信号の周波数に対する反射率の特性を示す図である。
図14図14は、テラヘルツ波信号の周波数に対する反射率の特性を示す図である。
図15図15は、テラヘルツ波信号の周波数に対する反射波と透過波との比を示す図である。
図16図16は、テラヘルツ波信号の周波数に対する反射波と透過波との比を示す図である。
図17図17は、テラヘルツ波信号の周波数に対する透過波の比較を示す図である。
図18図18は、第2の適用例に係る細線導波路部を有する第1ポートの構成例を示す図である。
図19図19は、細線導波路部と平面レンズ部との接合箇所を拡大して示す拡大図である。
図20図20は、フォトニック結晶導波路を用いた平面レンズ部と、細線導波路部を用いた平面レンズ部とにおける透過率の信号強度の特性を示す図である。
図21図21は、伝送路の貫通孔による空気含有率ζに対する反射率と透過率の関係を示す図ある。
図22A図22Aは、別体で形成したビームスプリッタ部を伝送デバイスに嵌め込む構成について説明するための図である。
図22B図22Bは、図22Aに示すビームスプリッタ部を伝送デバイスに嵌め込んだ構成を示す図である。
図23A図23Aは、ハイブリッドの積層構造に形成したビームスプリッタ部を伝送デバイスに嵌め込む構成について説明するための図である。
図23B図23Bは、図23Aに示すハイブリッド構造のビームスプリッタ部を伝送デバイスに嵌め込んだ構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
一実施形態に係る伝送デバイスを含むテラヘルツ波システムについて説明する。図1は、本実施形態に係るテラヘルツ波の信号を伝送する伝送デバイスを含むテラヘルツ波システムの概念的な構成例を示す図である。
このテラヘルツ波信号は、電磁波の領域と光の領域に掛かる周波数帯域にあり、ここでは、周波数100GHz~3THz程度又は、波長30μm~1mm程度の電磁波とするが、明確に定義されているものではない。また、利用対象等によっては、テラヘルツ波の周波数の上限を10THzまでの範囲に設定してもよい。
【0012】
本実施形態のテラヘルツ波システム1は、テラヘルツ波信号を発信出力する送信器2と、ビームスプリッタ部4を含む導波部3を有し、テラヘルツ波信号、及びテラヘルツ波信号の反射信号の伝送路を構成する伝送デバイス5と、伝送デバイス5から出射されたテラヘルツ波信号を検査対象物100に照射し、その検査対象物100で反射したテラヘルツ波信号の反射信号が入射する光学系6と、テラヘルツ波信号の反射信号が伝送デバイス5を経て入力され、反射信号に基づく検出信号を生成する受信器7と、を備えている。
【0013】
テラヘルツ波システム1は、利用目的に沿った周辺機器を補うことで、無線通信装置及び、撮像装置等々に適用することができる。無線通信装置であれば、例えば、テラヘルツ波信号は、情報量を大容量で扱えるため、非圧縮で高質画像の多重放送通信に用いることができる。また、撮像装置であれば、空港等のセキュリティー検査や表側から内部を観察する非破壊検査に用いることができる。さらに、直視できない、塗装された物体や表面が表皮部材で覆われた物体、例えば、塗装されたパイプや壁部又は、被覆されたコード等に対して、近接し表面上から錆、亀裂及び、断線等の有無を検出することができる。
【0014】
送信器2は、テラヘルツ波信号を発信する、例えば、負性抵抗素子に共振器を集積した発振器を含み、一構成例として、共鳴トンネルダイオード(Resonant tunneling Diode : RTD)である負性抵抗素子と、スロットアンテナである共振器との組み合わせで構成される。または、送信器2は、RTDとマイクロストリップ共振器とを含む構成であってもよい。RTD等の回路素子は、半導体基板上に形成することができる。
【0015】
受信器7は、常温の環境下で利用可能な直接検出方式におけるダイオード(ショットキーバリヤダイオード等)又は、ボロメータ又は、ヘテロダイン検波器等の周知な構成を用いることができる。その他の受信器として、極低温環境下で利用可能な量子型検出器等がある。尚、伝送デバイスが検査装置等を構成するテラヘルツ波システムに用いられる場合には、受信器7は、図示しないパーソナルコンピュータ等の処理装置と接続され、検出された検出信号に対して、予め設定された基準に基づく判断や、種々の処理が行われる。さらに、上記システムにインターフェース機能を持たせることにより、ネットワーク回線、例えば、インターネット等を介してサーバと通信を行い、検出されたデータを送信することで、検査実施場所とは異なる場所でデータ処理及びデータ解析を行うことも可能である。
【0016】
光学系6は、伝送デバイス5から送出されたテラヘルツ波信号を、揺動するガルバノミラー又は回転するポリゴンミラーにより掃引させてスキャン信号に変更するスキャン部8と、スキャン信号を検査対象に合焦させて照射し、検査対象からの反射信号を受光する対物レンズ9と、を有する。尚、本実施形態では、光学系6は、一例として対物レンズ9又はアンテナ等の1つの部材で送受信を行うモノスタティック構造を挙げているが、これに限定されるものではない。例えば、スキャン信号を照射(又は、発信)する部材と、照射対象からの反射信号を受光(又は、受信)する部材とで構成される、バイスタティック構造であってもよい。例えば、何らかの対象物にテラヘルツ波信号を照射する場合に、テラヘルツ波信号の対象物への入射方向と、対象物で反射したテラヘルツ波信号の反射信号の反射方向が異なる場合には、個々に対物レンズ9又はアンテナ等の素子を配置する。尚、スキャン部8は、テラヘルツ波システム1の使用目的や装置仕様に応じて備えられる構成部位であり、必ずしも必須ではない。
【0017】
伝送デバイス5の基材となる基板は、例えば、シリコン:Si、リン化インジウム:InP、ヒ化ガリウム:GaAs又は、窒化ガリウム:GaN等の半導体基板を用いて形成される。本実施形態においては、半導体基板は、導体ではなく誘電体の形態で用いられる。尚、上述の材料に限定されるものではなく、電気的特性が本実施形態で用いた基板と同等な誘電性を有する材料であれば、同様に用いることも可能である。以下、本実施形態の伝送デバイス5は、基板にシリコン半導体基板を用いた例で説明する。
【0018】
以下に説明する例において、伝送デバイス5は、1つのシリコン半導体基板から一体的に形成される、導波部(平面シリコンスラブ)3と、信号供給ポート[第1ポート]11と、信号送受ポート[第2ポート]12と、反射波信号受信ポート[第3ポート]13とを有する3ポートタイプ伝送デバイスである。また、ビームスプリッタ部4は、シリコン半導体基板上に導波部3と共に形成される、又は、後述するように、シリコン半導体基板とは別体で形成された後、導波部3に嵌め込み、シリコン半導体基板と一体的に構成される。
【0019】
また、本実施形態における導波部3において、第1ポート11と対向する辺のポートが設けられていない箇所には、ドーピング処理を施して、ビームスプリッタ部4を透過したテラヘルツ波信号の吸収体の機能を付与する。この吸収体の機能により、ビームスプリッタ部4を透過し導波部3の端部で反射してビームスプリッタ部4へ戻るテラヘルツ波信号の反射信号を消滅させる。また、第1ポート11と対向する導波部3の箇所を開放しておくことで、反射信号を抑制することも可能である。
【0020】
または、伝送デバイス5は、前述した第1ポート11と対向する辺に新たな第4ポート(図示せず)を設けて、出力されるテラヘルツ波信号を他のシステム又は機能に利用することが可能である。伝送デバイス5は、第4ポートを、例えば、伝搬されるテラヘルツ波信号をモニタするシステムに利用する、さらには、ビームスプリッタ部4へ戻るテラヘルツ波信号の干渉信号を意図的に生成する機能にも利用することができる。
【0021】
以下の説明において、スラブは、平行平板状の半導体又は半導体薄膜を示す。また、スラブモードは、スラブをコアとし、上下の空気をクラッドとして、テラヘルツ波信号をコアに閉じ込めた状態で伝搬する電磁界の状態(モード)を示す。尚、本実施形態におけるスラブモードは、スラブ内においては、閉じ込め機構がないため、図9に示すように、導波部3である平面シリコンスラブの面内を空間伝搬のように半円状又は円弧状に広がった後、平面波(平行波)的にスラブ内を伝搬するモードを意味する。
【0022】
導波部3の平面シリコンスラブは、使用するテラヘルツ波信号の周波数(波長)により設定し、本実施形態において、例えば、330GHz(0.33THz)の周波数であれば、厚さ200μmのシリコン半導体基板が用いられている。本実施形態における導波部3は、矩形の外形形状であり、平行に対向する両主面で矩形の断面形状を有する。
【0023】
導波部3は、後述するように第1平面レンズ部22及び、第2平面レンズ部32により平行波(コリメーション)に偏向されたテラヘルツ波信号をシリコン基板内に閉じ込めた状態で伝送する。本実施形態においては、導波部3のシリコン基板内を閉じ込めた状態で伝送するテラヘルツ波信号をスラブモードビームと称する。
【0024】
図2は、フォトニック結晶導波路を用いた3つのポートが設けられる伝送デバイス5の概念的な構成を示す図である。図2に示すように、本実施形態の第1乃至第3ポート11,12,13は、ビームスプリッタ部4によるテラヘルツ波信号の透過と反射を利用する伝送路の経路の設定に応じて、矩形の導波部3の各辺に配置される。本実施形態におけるテラヘルツ波信号の伝送経路は、送信器2から第1ポート11に入射したテラヘルツ波信号(出射信号)をビームスプリッタ部4で反射して第2ポート12に伝搬する出射経路103と、検査対象物で反射して第2ポートに入射したテラヘルツ波信号の反射波信号(検出信号)をビームスプリッタ部4で透過して第3ポート13に伝搬する入射経路102と、に設定されている。即ち、テラヘルツ波信号の経路は、ビームスプリッタ部4によるテラヘルツ波信号の透過と反射の利用の仕方で適宜、変更可能である。
【0025】
[第1の適用例]
図2及び図3を参照して、第1乃至第3ポート11,12,13において、フォトニック結晶導波路を用いた第1の適用例について説明する。図3は、フォトニック結晶導波路を有する第1ポートの構成例を示す図である。
【0026】
第1乃至第3ポート11,12,13は、矩形状の導波部3の各辺に、導波部3と一体的に形成される。尚、残りの第4ポートに相当する辺には、前述したテラヘルツ波信号の吸収体が設けられており、後述するビームスプリッタ部4から漏れ出たテラヘルツ波信号を吸収し、反射信号の発生を防止する。これらの第1乃至第3ポート11,12,13は、共に、平面レンズ部と、第1乃至第3導波路24,34,44と、を含む構成である。第1乃至第3導波路24,34,44には、それぞれに第1、第2、第3金属導波管21,31,41が差し込まれて結合されている。この結合は、接着剤や溶着材等を用いて固定してもよい。
【0027】
具体的には、第1ポート[信号供給ポート]11は、第1平面レンズ部22と、第1フォトニック結晶導波路23とを有し、送信器2から第1金属導波管21を通じて送信されたテラヘルツ波信号を導波部3に供給(入力)する。
第2ポート[信号送受ポート]12は、第2平面レンズ部32と、第2フォトニック結晶導波路33とを有する。第2ポート12は、導波部3を伝搬されたテラヘルツ波信号を、第2金属導波管31を通じて光学系6へ出力し、且つ光学系6から戻った図示しない検査対象物100に反射したテラヘルツ波信号の反射波信号(検出信号)を入力し、導波部3へ伝搬する。
【0028】
第3ポート[反射波信号受信ポート]13は、第3平面レンズ部42と、第3フォトニック結晶導波路43とを有し、導波部3を伝搬した反射波信号を第3金属導波管41を通じて、受信器7に出力する。
【0029】
まず、第1乃至第3金属導波管21,31,41について説明する。
これらの第1金属導波管21と第2金属導波管31と第3金属導波管41は、中空で断面が矩形形状の同等な導波管である。導波管の断面形状は矩形に限定されるものではなく、楕円等の円形であってもよい。各導波管において、第1金属導波管21は、一端を送信器2と接続し、他端を第1フォトニック結晶導波路23と結合して、送信器2から送信されたテラヘルツ波信号を第1フォトニック結晶導波路23に供給する。
第2金属導波管31は、一端を光学系6と接続し、他端を第2フォトニック結晶導波路33と結合する。第2金属導波管31は、第2フォトニック結晶導波路33から伝搬されたテラヘルツ波信号を光学系6に伝搬し、光学系6から戻った検査対象物100(図1)に反射したテラヘルツ波信号の反射信号を第2フォトニック結晶導波路33へ伝搬する。
【0030】
第3金属導波管41は、一端を受信器7と接続し、他端を第3フォトニック結晶導波路43と結合して、第3フォトニック結晶導波路43から導波部3を経て伝搬されたテラヘルツ波信号の反射信号を受信器7に出力する。
これらの第1乃至第3金属導波管21,31,41は、例えば、アルミニウムや銅等の金属材料を用いて、断面が矩形の中空に形成される方形導波管である。これらの金属導波管は、後述する第1乃至第3導波路24,34,44の各テラヘルツ波伝送路の終端から断面が矩形のテーパー状に張り出すように設けられる尖端導波路(テーパースパイク)にそれぞれ嵌合して結合される。
【0031】
次に、図3及び図4を参照して、第1乃至第3フォトニック結晶導波路23,33,43について説明する。図4は、フォトニック結晶導波路と平面レンズ部の接合箇所の構成を示す図である。第1乃至第3フォトニック結晶導波路23,33,43は、中央に導波部3に直線的に向かう中実な第1乃至第3導波路24,34,44が配置される、2次フォトニック結晶スラブを用いたテラヘルツ波信号の入出力インターフェースである。尚、第1乃至第3フォトニック結晶導波路23,33,43は、共に同等な構成であり、以下では、代表的に第1フォトニック結晶導波路23を例として説明する。
【0032】
第1フォトニック結晶導波路23は、例えば、厚さ200μmのシリコン半導体基板に、直線的な第1導波路24が形成され、その両側に複数の貫通孔25により形成される平面レンズ部が形成されている。この平面レンズ部は、第1導波路24の両側に、半導体製造技術として用いられているフォトリソグラフィー技術及び、異方向性エッチング技術(例えば、プラズマエッチング)等を用いて、多数の貫通孔(スルーホール)25がアレイ状に形成される。これらの貫通孔25は、列毎に1/2ピッチずれて、近接する貫通孔25どうしが正三角形の位置関係を構成する千鳥配置(三角格子配置)を形成するように開口されている。
【0033】
中実な第1導波路24の両側面に貫通孔25が形成される構造は、貫通孔25によるフォトニックバンドギャップ効果により、第1導波路24にテラヘルツ波信号が漏れ出ないように留まる。また、第1導波路24の上下面は、大気に晒されていた場合に、シリコンと空気との屈折率の差で全反射が生じ、同様に、第1導波路24にテラヘルツ波信号が留まる。よって、テラヘルツ波信号は、第1導波路24に留まった状態で伝搬されるため、第1導波路24が伝送路として機能する。
【0034】
第1導波路24と第1平面レンズ部22との接合箇所においては、第1導波路24側に、第1導波路24から第1平面レンズ部22に向かい徐々に径が大きくなるように大径化する複数の貫通孔(第4貫通孔)24aが千鳥配置に形成される。これらの貫通孔24aは、第1導波路24と第1平面レンズ部22とのインピーダンス整合を取り、電磁波であるテラヘルツ波信号の反射波が発生することを防止する。この接合箇所を設けることで、帯域幅を1オクターブよりも広くすることができる。接合箇所に形成される貫通孔24aは、後述する第1平面レンズ部22に形成される貫通孔26よりも小径である。
【0035】
また、図4に示すように、第1導波路24に接する貫通孔25は、半円筒形状の中心軸に掛かる錐面(切断面)側が接するように形成されている。この第1フォトニック結晶導波路23の第1導波路24及び貫通孔25は、後述する第1平面レンズ部22の貫通孔26と同時に形成される。
【0036】
この第1導波路24は、テラヘルツ波信号をほぼ半波長の周期で反射する反射鏡として形成されて、導波路として機能する。このため、第1導波路24は、伝搬するテラヘルツ波信号の周波数(波長)によって、断面の大きさ(主として、導波路の幅)が設定される。本実施形態においては、例えばテラヘルツ波信号の周波数が0.33THz(330GHz)である場合には、導波路の幅L1は、459.7μm、貫通孔25の半径rは、137.8μm、及びピッチ(隣接する貫通孔の中心どうし間の距離)Pは、336μmの正三角形の等辺格子に配置される。勿論、これらの数値は、一例であり、限定されるものではない。
【0037】
次に、図2図3図5乃至図9を参照して、第1乃至第3平面レンズ部22,32,42について説明する。図5は、第1平面レンズ部22に形成されるレンズ機能を有する複数の貫通孔を示す図である。図6は、第1平面レンズ部22の貫通孔の配置について説明するための概念図である。図7は貫通孔を通過するテラヘルツ波信号の経路の一例を示す図である。図8Aは、第1ポートにおけるテラヘルツ波信号が通過して平行波となるテラヘルツ波信号の経路の概念的に示す図、図8Bは、第2ポートにおけるテラヘルツ波信号が通過して収束するテラヘルツ波信号の経路の概念的に示す図である。図9は、平面レンズ部内を放射状に広がるテラヘルツ波信号の振幅を仮想的な波に見立てて概念的に示す図である。
【0038】
これらの第1平面レンズ部22と、第2平面レンズ部32と、第3平面レンズ部42とは、同等の平面レンズであり、例えば、テラヘルツ波信号を発散して平行波の生成(コリメーションcollimation)と、テラヘルツ波信号の収束(focusing)との両方が可能な半円凸型テラヘルツレンズである。本実施形態では、第1平面レンズ部22乃至第3平面レンズ部42は、同等な構成で同じ性能であるものとし、代表的に第1平面レンズ部22を例にとって説明する。尚、本実施形態では、第1乃至第3平面レンズ部22,32,42は、同じ性能を有することを例として説明したが、勿論、限定されるものではなく、後述するレンズを形成する貫通孔の孔径や孔間距離は、用途や仕様により変更することが可能である。
【0039】
第1平面レンズ部22は、前述した半導体製造技術を用いて、第1フォトニック結晶導波路23と同時に形成される。第1平面レンズ部22は、図5及び図6に示すように、矩形の第1フォトニック結晶導波路23の1辺に接するように、複数の貫通孔(スルーホール)26が複数列のアレイ状に形成される。これらの貫通孔26は、列毎に1/2ピッチずれて、図6に示すように、隣接する貫通孔26が同一の孔間の距離Pa1を離間した正三角形の位置関係を構成する千鳥配置を形成している。各貫通孔内は、気体、例えば、大気下では空気が充満している。
【0040】
第1平面レンズ部22は、マックスウェル魚眼レンズ(Maxwell fisheye lens)から派生し、テラヘルツ波の電磁波の範疇で例えば、グリンレンズ(Gradient Index lens)と同様に、工学的に屈折率を調整することが可能なレンズである。即ち、第1平面レンズ部22は、周期的な貫通孔の千鳥配置(三角格子配置)のパターンの形で、孔径と孔間距離を調整することで、工学的に屈折率を調整することができ、平面レンズに容易に適用できる。ここで、第1平面レンズ部22に適用されているマックスウェル魚眼レンズは、屈折率を調整することにより、図7に示す光束の軌跡のように、点光源(入力点)P1を直径方向に対向する焦点(出力点)P2にマッピングし、レンズ内を光束が放射状に拡散・収束するように通過する光学部品であり、点光源及び焦点のどちらも同じ円周上に存在する。複数の点光源が異なる位置から入力した場合には、中心を通過した対向する円周上の位置にそれぞれ焦点が生じる。
【0041】
屈折率分布を(1)式に従うように設計すると、光束は、図7に示す軌跡を描く。つまり、レンズ内を通過する光束は、レンズ中心を垂直に通る図7に示す点線mで点光源P1の入射方向と平行な平行波になる。
【0042】
従って、円形のマックスウェル魚眼レンズを、入射方向に対する垂線mで半円に切ることで、図7及び図8Aに示すように1つの点光源を半円又は円弧状に拡散させて平行光に変換することができる。また、図7及び図8Bに示すように、マックスウェル魚眼レンズの半円の平面側から平行光を入射すると、円弧状に収束させて平行光を1つの点光源に変換(合焦)することができる。また、シリコン半導体基板に貫通孔の無い状態を最大の屈折率として、貫通孔の径(大きさ)を変更することで、(1)式で示すような屈折率を1からnmaxまでの任意の屈折率(有効屈折率媒質)n(r)を得ることができる。但し、このような屈折率を得るためには、孔の大きさ(孔径)を波長の1/4以下に設定する。本実施形態では、半円のマックスウェル魚眼レンズ(又は、ハーフマックスウェル魚眼レンズと称する)を電磁波のテラヘルツ波信号に用いる。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、レンズ内部の最大の屈折率:nmax、レンズの最大半径:rmax、レンズ内部の半径r、周囲に隣接する貫通孔どうしの中心間距離:a及び、貫通孔の径:D1とする。従って、第1に、屈折率は、本質的に自由なパラメータであり、設計に合わせて選択的に設定することができる。また、第2に、屈折率の最大値は、レンズの中心を通る直径位置(r=0)で発生する。第3に、n(rmax)=nmax/2であるため、特定のマックスウェル魚眼レンズを実現するために使用される有効媒質の屈折率は、2:1の比率で連続的に変化する。
【0045】
以上のことから、第1平面レンズ部22においては、グリンレンズと同様に、最大屈折率が任意に設定可能なパラメータであり、装置の設計に応じて、選択的に設定することができる。即ち、貫通孔の大きさ(孔径)と周期的な格子(ピッチ又は孔間距離)の形態、即ち、本実施形態のような千鳥配置のパターン化された配置により、屈折率が工学的に調整可能である。第1平面レンズ部22の幅(第1フォトニック結晶導波路23と導波部3の間の距離)は、形成するレンズの直径に準じる長さに設定される。
【0046】
次に、図7乃至図9を参照して、フォトニック結晶導波路を用いた第1ポート11における入力されたテラヘルツ波信号の放射による平行波の生成(コリメート)について説明する。
【0047】
前述した図1に示す送信器2から発信されたテラヘルツ波信号は、金属導波管21内を伝搬して、第1導波路24に伝達される。第1導波路24は、焦点の近くで3次元ビームのテラヘルツ波信号を局在化するため、狭い第1導波路24のフィールドに閉じ込めた状態で伝搬され、第1平面レンズ部22に入射させる。
【0048】
第1平面レンズ部22は、前述した貫通孔の孔径や孔間距離によって設定された屈折率(有効屈折率)に従い、図8Aに示すように、第1導波路24から幅L1の平行波で入射されたテラヘルツ波信号を屈折させて円弧Kに沿って放射状に拡散するように通過させて、幅L2(L2>L1)の平行波として、第1導波路24から導波部3へ伝送する。導波部3は、平行波の状態でテラヘルツ波信号を伝搬する。
【0049】
また、導波部3を伝送した平行波のテラヘルツ波信号を第2平面レンズ部32に入射する。第2平面レンズ部32は、設定された屈折率(有効屈折率)に従い、入射した平行波のテラヘルツ波信号を屈折させて円弧Kに沿って一点に収束し、第2フォトニック結晶導波路33の第2導波路34に入力させる。第2導波路34は、入力したテラヘルツ波信号を接合する金属導波管31を伝搬させて、図1に示した光学系6へ出力する。
【0050】
次に、図10乃至図12を参照して、導波部3内に形成されるビームスプリッタ部4について説明する。図10は、ビームスプリッタ部4を形成する貫通孔の配置例を示す図である。図11は、貫通孔の配置関係を説明するための図である。図12は、ビームスプリッタ部におけるテラヘルツ波信号の反射と透過について説明するための図である。
【0051】
ビームスプリッタ部4は、導波部3内に多数の貫通孔51を格子状に配列し、任意の幅L3で形成される。これらの貫通孔51は、前述した半導体製造技術を用いて、各ポートの第1乃至第3平面レンズ部22,32,42及び第1乃至第3フォトニック結晶導波路23,33,43の各貫通孔と同時に形成される。
【0052】
ビームスプリッタ部4は、図10及び図11に示すように、隣接する貫通孔51が縦横方向において、同じ距離Pa2のピッチを離間した格子配置(grid arrangement)によるストライプ状に形成する。各貫通孔51内は、気体、例えば、大気下では空気が充満している。図10で示す格子配置におけるビームスプリッタ部4の貫通孔51による気体の含有率、例えば空気の含有率(以下、空気含有率とする)ζは、テラヘルツ波信号の反射及び透過に影響を与える。この空気含有率ζとは、多数の貫通孔が格子配置された際のビームスプリッタ部が形成されるシリコン半導体基板の領域に対する空気(空間)が占める割合を示すものである。テラヘルツ波信号の反射と透過との比率(又は、比)は、図21に示すように、貫通孔51の径を大径化することにより空気含有率ζを増加させると、反射率が増加するが、透過率は減少する、相反する一次関数的な傾きを持つ反比例の関係を有する。例えば、空気含有率ζを0.2に設定した場合には、ビームスプリッタ部4における略83%のテラヘルツ波信号が透過し、残りの17%のテラヘルツ波信号が反射する。また、気含有率ζを0.4に設定した場合には、ビームスプリッタ部4におけるテラヘルツ波信号の透過と反射が共に50%となり、ハーフミラーとして機能する。このような空気含有率は、貫通孔51の径D2とピッチPa2の距離により次式(2)で求めることができる。
【0053】
【数2】
【0054】
前述したように、多数の貫通孔51は、貫通孔51のサイズの選択、配列形態(ピッチ及び行数)及び、幅Lにより有効屈折率が変更でき、特定の帯域幅のテラヘルツ波信号に対して、貫通孔51によるストライプの2つの側面を利用したDBR(Distributed Bragg Reflector)反射帯域をハーフミラーとして作用させて、反射及び透過による送信及び受信を行うことができる。本実施形態では、多数の貫通孔51をハーフミラーの機能を行うビームスプリッタ部4として用いる。
【0055】
前述した図2に示すように、ビームスプリッタ部4は、テラヘルツ波信号の伝送経路である出射経路103と入射経路102が形成されるように、第1乃至第3ポート11,12,13に対して傾きを持つように導波部3内に配置される。具体的には、ビームスプリッタ部4は、送信器2から第1ポート11に入射したテラヘルツ波信号(出射信号)を反射して第2ポート12に伝搬する。且つ、ビームスプリッタ部4は、検査対象で反射して第2ポートに入射したテラヘルツ波信号の反射波信号(検出信号)を透過して第3ポート13に伝搬する。尚、図10に示すビームスプリッタ部4の幅L3に沿って形成される貫通孔51の数は、一例であって限定されているものではない。
【0056】
次に、ビームスプリッタ部4におけるテラヘルツ波信号の反射及び透過について説明する。
ビームスプリッタ部4は、ストライプの2つの側面を反射面として利用しているため、ビームスプリッタ部の幅(厚み)を設定する上で、ファブリーペロー干渉の影響を考慮する必要がある。
【0057】
ビームスプリッタ部4は、図10及び図12に示すように、ビームスプリッタ部4の表面に相当する第1反射面(又は、第1側面)4aと、ビームスプリッタ部4の内部底面に相当する第2反射面(又は、第2側面)4bの2つの反射面を有している。ビームスプリッタ部4に入射したテラヘルツ波信号は、第1反射面4aで反射する。しかし、対向する2つの反射面4a,4bを有しているため、入射したテラヘルツ波信号の一部は、ビームスプリッタ部4の内部に透過してビームスプリッタ部4内に閉じ込められ、第1反射面4aと第2反射面4bとの間で多重内部反射を行うファブリーペロー干渉が生じる。
【0058】
即ち、ビームスプリッタ部4に入射したテラヘルツ波信号の反射信号において、損失が発生する。この透過は、テラヘルツ波信号の波長に依存している。この透過における波長依存性は、2つの反射面の間で多重に反射された光同士の干渉により生じる。これらのテラヘルツ波信号の位相が合えば、透過光に強め合う干渉が起こり、透過率のピークが生じる。反対にテラヘルツ波信号の位相が逆位相となれば、弱め合う干渉が起こり透過率の谷が生じる。多重反射信号の位相が合うか否かはテラヘルツ波信号の波長(λ)、ビームスプリッタ部4内を通過するテラヘルツ波信号の角度(θ)、ビームスプリッタ部4幅L3、及び半導体基板の屈折率(n)によって決定される。ここで、ビームスプリッタ部4の幅(行の幅又は、厚み)をL3とすると、ビームスプリッタ部4の反射率R(δ)、位相差(又は、偏角)δ(f)は、次式(3),(4)で求められる。
【0059】
【数3】
【0060】
ここで、n:屈折率、r:反射率、及び、θ:ビームスプリッタ部4への入射角度とする。
【0061】
図12に示すように、第1ポート11からビームスプリッタ部4に出射されたテラヘルツ波信号101は、ビームスプリッタ部4に入射すると、第1反射面4aにおいて第1反射により入射角θに応じた反射角で第1反射信号101aが反射する。
【0062】
また、入射されたテラヘルツ波信号の一部は、ビームスプリッタ部4の内部に透過して、2つの反射面4a,4bの間を複数回の反射、即ち、多重反射する。それらの反射の際に、テラヘルツ波信号の位相がビームスプリッタ部4の幅L3と合えば、反射する際に、第1反射面4aから第2次反射信号101b、第3次反射信号101cとして第1反射信号101aと同じ方向に出射する。
【0063】
図13乃至図17を参照して、本実施形態のビームスプリッタ部4におけるテラヘルツ波信号の周波数に対する反射率について説明する。図13は、ビームスプリッタ部4の幅L3を50μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射率の特性を示す図である。図14は、ビームスプリッタ部4の幅L3を140μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射率の特性を示す図である。図15は、ビームスプリッタ部4の幅L3を50μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射波(R)と透過波(T)との比(T/R)を示す図である。図16は、ビームスプリッタ部4の幅L3を140μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射波(R)と透過波(T)との比(T/R)示す図である。図17は、ビームスプリッタ部4の幅L3を50μm及び140μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する透過波(dB)の比較を示す図である。
【0064】
本実施形態においては、ビームスプリッタ部4の幅L3を50μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射率を求めると、図13に示すように、テラヘルツ波信号の周波数500GHz-600GHzの時に、反射率=1になる。即ち、テラヘルツ波信号は、損失が減り、ビームスプリッタ部4においてほぼ全反射する。
【0065】
これは、第1ポート11から入射してビームスプリッタ部4で反射される出射経路103を伝搬されるテラヘルツ波反射信号(R)と、第2ポート12から入射してビームスプリッタ部4を透過する入射経路102を伝搬されるテラヘルツ波反射信号(T)とした場合に、図15に示すように、周波数が高くなるほど、比(T/R)の利得が下がり、周波数に依存している。図15においては、比T/R=0(dB)が最も利得がよく、透過波と反射波の比が1対1である。
【0066】
また、同様に本実施形態において、ビームスプリッタ部4の幅L3を140μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射率を求めると、図14に示すように、反射率において、複数の最大値と複数の最小値が生じる特性を有している。反射率において、例えば、テラヘルツ波信号の周波数が400GHzの時には、反射率=0となり、600GHzの時には、反射率=1となる。即ち、周波数が400GHzのテラヘルツ波信号は、ビームスプリッタ部4を透過し、周波数が600GHzのテラヘルツ波信号は、ビームスプリッタ部4を全反射する。
【0067】
また、図16に示すように、ビームスプリッタ部4の幅L3を140μmに設定した際のテラヘルツ波信号の周波数に対する反射波(R)と透過波(T)との比(T/R)は、周波数が570GHz程度から高い周波数に対しては、比T/R=0(dB)となり、透過波と反射波の比が1対1の状態を保持する。即ち、ビームスプリッタ部4の幅L3が140μmに設定した方が50μmに設定するよりもテラヘルツ波信号の周波数に対する依存性が低くなり、安定した伝搬を実施している。
【0068】
さらに、ビームスプリッタ部4の幅L3を50μmに設定した際の透過波と、幅L3を140μmに設定した際の透過波の比較は、図17に示すように、幅L3が140μmに設定したビームスプリッタ部4の方が、テラヘルツ波信号の周波数に対する依存度が低くなる。従って、テラヘルツ波信号の周波数が高いほど、ビームスプリッタ部4の幅L3を広くする方が利用しやすくなる。
【0069】
以上のことから、ビームスプリッタ部4は、使用するテラヘルツ波信号の周波数(又は、波長)が決定されていた場合には、ビームスプリッタ部4の幅L3を調整することで、テラヘルツ波信号の反射率を調整することができ、反射と透過の程度を設定することができる。また反対に、ビームスプリッタ部4の幅が決定されていた場合には、テラヘルツ波信号の周波数(又は、波長)を適宜、変更することで、テラヘルツ波信号の反射率を調整することができ、反射と透過を選択することができる。
【0070】
本実施形態の第1の適用例におけるフォトニック結晶導波路を用いた伝送デバイス5は、レンズ及びビームスプリッタ等の空間光学形成部材を1つの半導体基板に集積した構造を有し、小型化及び軽量化が実現でき、種々の装置に実装することが容易である。さらに、伝送デバイス5は、半導体基板に対して、空間光学形成部材の位置が一義的に設定されるため、従来のように個々の空間光学形成部材の位置調整を行うこと無く、利用することができる。さらに、空間光学形成部材を配置するための個別のマウントまたはホルダーが不要である。
【0071】
伝送デバイス5を構成する導波部3及び各ポート11,12,13の第1乃至第3平面レンズ部22,32,42、ビームスプリッタ部4、フォトニック結晶導波路23,33,43を半導体装置製造技術に関わる、リソグラフィー(露光技術)および異方向性エッチング技術を用いて、一括で一体的に形成することができる。
【0072】
伝送デバイス5の第1乃至第3平面レンズ部22,32,42は、平面集積型マックスウェル魚眼レンズの機能を有するアレイ状に配置された複数の貫通孔により構成され、第1導波路24に閉じ込められて伝搬されるテラヘルツ波信号の電磁波を平面波的なスラブモードに変換し、テラヘルツ波信号の伝搬する方向を放射方向及び合焦方向に置き換えることができる。
【0073】
伝送デバイス5は、通常、自由空間を移動する3次元ビームのテラヘルツ波信号を導波部3の薄い半導体基板のZ次元(上下方向)で制約し、XY次元(平面方向)の誘電体スラブモードに閉じ込めることで、広帯域な空間光学的要素が利用可能であり、透過特性は広帯域で且つ、高効率性を有している。
【0074】
また、伝送デバイス5のビームスプリッタ部4は、伝搬するテラヘルツ波信号の波長(周波数)に応じて、貫通孔51の径の大きさ、ピッチ(貫通孔間の距離)を調整することで、反射率を調整でき、テラヘルツ波信号の反射又は透過を自在に設定することができる。
【0075】
また、伝送デバイス5は、半導体基板に限定されるものではなく、誘電体としての性質を利用しているため、一般的な誘電体材料を用いて形成することが可能である。
さらに、伝送デバイス5は、平面レンズ部の手前に半導体導波路(ここでは、第1導波路24)を配置することで、機械的強度が向上している。
【0076】
[ビームスプリッタ部の変形例]
次に、図2図10図11図22A,22B及び図23A,23Bを参照して、ビームスプリッタ部の変形例について説明する。
前述したビームスプリッタ部4は、前述した第1乃至第3平面レンズ部22,32,42及び第1乃至第3フォトニック結晶導波路23,33,43を形成するシリコン半導体基板の伝送デバイス5内に形成した例について説明した。この場合、ビームスプリッタ部4は、シリコン半導体基板を材料として形成しているため、テラヘルツ波信号に対する作用(又は、機能)は、反射又は透過程度に限定されている。
【0077】
そこで、本変形例では、ビームスプリッタ部4によるテラヘルツ波信号に対する作用において、反射又は透過に加えて、後述する他の作用を実現する。これを実現するために、ビームスプリッタ部4を前述した実施形態のシリコン半導体基板以外の材料も含めた材料を用いて形成する。本変形例において、ビームスプリッタ部4は、誘電体材料、前述したSi、InP、GaAs、GaN等を含む半導体材料、金属材料及び、磁性体材料のうちの1つの材料又は、複数の材料を組み合わせた材料を用いて形成する。以下の説明において、複数の材料を組み合わせる場合に、基本的には、材料個々の層を積み重ねた積層構造を採用し、ハイブリッド構造と称している。勿論、積層構造だけではなく、例えば、複数の金属を融合させた合金及び、複数の材料を混ぜ合わせた混合材料として利用することも可能である。
【0078】
ビームスプリッタ部4の誘電体材料としては、例えば、石英、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリメチルペンテン(登録商標)、ポリイミド、シクロオレフィン、ペリクル等を用いることができる。また、金属材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、及びこれらの合金等の種々の金属材料を用いることができる。
【0079】
前述した各平面レンズ部22,32,42及び各導波路23,33,43が形成された半導体基板とは異なる材料でビームスプリッタ部を形成する場合に、第1の製造方法として、単体で形成したビームスプリッタ部4を半導体基板の導波部3に填め入れて一体化する製造方法がある。この製造方法としては、まず、第1に、前述したビームスプリッタ部4の材料の中から伝送デバイス5の仕様や設計に好適する材料を選択する。
【0080】
図22Aに示すように、選択された材料により中実なビームスプリッタ部4を単体で形成する。この形成においては、ビームスプリッタ部で利用するテラヘルツ波信号の反射及び透過に基づき、空気含有率ζを設定する。その空気含有率ζが得られる貫通孔51の径D2と孔間距離(ピッチPa2)を有する格子配置を形成する。貫通孔51は、採用した材料に適した形成方法を選択する。その形成方法は、例えば、レーザビームの照射や半導体製造技術に関わるドライエッチング等による物理的な切削又は、ウェットエッチング等の化学的な切削を利用することができる。
【0081】
次に、ビームスプリッタ部4を設計に従ったサイズに切り出す又は、サイズ調整を行う。前述した物理的な切削、化学的な切削、又は、ドリルや研磨器等を用いた機械的な切削を利用することができる。続いて、半導体基板の導波部3において、第1乃至第3平面レンズ部22,32,42による伝送されるスラブモードのテラヘルツ波信号の反射位置と反射方向を考慮して、ビームスプリッタ部4を填め入れるための孔3a(又は溝[有底孔])の形成位置を設定する。さらに、前述したレーザビームの照射や半導体製造技術に関わるエッチングにより、その填め入れる孔3aを形成する。
【0082】
さらに、図22Bに示すように、半導体基板に形成された孔3aに、ビームスプリッタ部を填め入れて、接着剤等を用いて、孔3aの側面とビームスプリッタ部の側面とが密着するように接着し、半導体基板とビームスプリッタ部4を一体化させる。
また、ビームスプリッタ部4は、前述した複数の材料を組み合わせて、種々の機能を有する構成も可能である。図23Aに示すように、ビームスプリッタ部は、例えば、スラブモードのテラヘルツ波信号が各層を通過するように異種材料を2層に積層したハイブリッド構造がある。
【0083】
ハイブリッド構造のビームスプリッタ部4の第1例として、屈折率が異なる材料を用いた場合、同じ孔間距離で同じ孔径の貫通孔51を格子配置を形成しても、屈折率が異なることから反射角度又は透過角度が異なる。このため、少なくとも異なる2方向に、分岐させてテラヘルツ波信号を反射又は透過させることができる。またビームスプリッタ部4の第2例として、異なる特定波長(又は、特定周波数)の信号を透過する2種類の材料を積層したハイブリッド構造がある。この第2例の場合、複数の波長(又は、周波数)が混合したテラヘルツ波信号を伝送させた際に、特定波長のテラヘルツ波信号がビームスプリッタ部を透過し、特定波長以外のテラヘルツ波信号は、反射される。即ち、ビームスプリッタ部は、フィルタ機能を有している。
【0084】
さらに図23Aに示すように、ビームスプリッタ部4の第3例として、特定方向に偏光又は、偏波した信号を通過させる偏光層4cを上層に配置し、下層に支持基板となる金属層4dを配置したハイブリッド構造がある。この第3例の場合、図23Bに示す複数の波長(又は、周波数)が混合したテラヘルツ波信号200を伝送させた際に、特定方向に偏波されたテラヘルツ波信号202がビームスプリッタ部4を透過(通過)し、それ以外のテラヘルツ波信号201は、反射される。即ち、ビームスプリッタ部4は、偏光機能によるテラヘルツ波信号の選択機能を有している。
【0085】
尚、本変形例では、導波部3を第1乃至第3平面レンズ部22,32,42と同じ半導体基板に形成し、ビームスプリッタ部4のみを単体(別体)として形成して、導波部3に填め入れる構成であったが、この構成に限定されるものではない。例えば、導波部3を第1乃至第3平面レンズ部22,32,42とは、別体の異なる誘電体基板に形成し、さらに単体で形成したビームスプリッタ部4を導波部3に填め入れる。ビームスプリッタ部4が嵌め込まれた導波部3を第1乃至第3平面レンズ部22,32,42が形成された半導体基板に嵌め込む構成であってもよい。この構成であれば、第1乃至第3平面レンズ部22,32,42とは特性の異なる導波部3を形成することができ、また、ビームスプリッタ部4の反射率又は透過率も適宜、設定することが可能である。
【0086】
[第2の適用例]
図18乃至図20を参照して、第1乃至第3ポート11,12,13において、細線導波路(又は、スロット導波路)を用いた第2の適用例について説明する。図18は、細第2の適用例に係 る線導波路を有する第1ポートの構成例を示す図である。図19は、細線導波路と平面レンズ部との接合箇所を拡大して示す拡大図である。図20は、伝搬するテラヘルツ波信号の周波数に対する、フォトニック結晶導波路を用いた平面レンズ部と、細線導波路を用いた平面レンズ部とにおける透過率の信号強度の特性を示す図である。この第2の適用例においても前述した第1適用例と同様に、第1乃至第3ポート11、12、13は、共に細線導波部を有する構成は同等であり、ここでは、代表的に第1ポートを例として説明する。
【0087】
第1細線導波路61は、例えば、厚さ200μmのシリコン半導体基板に形成される第1平面レンズ部22に、細線導波路61の一端61aが直線的に嵌め込まれた構造である。即ち、第1平面レンズ部22の手前で細線導波路61の両側には、第1導波路24が設けられていない構成である。第1細線導波路61は、屈折率差によって細線導波路にテラヘルツ波信号の電磁波を閉じ込めて伝搬する。この細線導波路は、前述したフォトニック結晶導波路における導波路の両側に配置された平面レンズ部が設けられていない構成である。
【0088】
この第1細線導波路61は、第1平面レンズ部22と同時に形成される。第1細線導波路61は、断面が矩形の形状を成し、前述した第1導波路24と同様に、細線導波路61の他端61bは、細長い角柱形状で先端に向かい先細りのテーパー形状を成し、金属材料から形成される第1金属導波管21が差し込まれて結合されている。
【0089】
図19に示す接合箇所においては、第1平面レンズ部22内に細線導波路61の一端61aが直線的に入り込んだ構造となっている。この一端61aの両側面に接する第1平面レンズ部22の貫通孔62は、半円筒の直径に掛かる錐面(切断面)側が接するように形成されている。
【0090】
また、第1平面レンズ部22と接合している細線導波路61の一端61aの中央には、導波部3に向かい、徐々に径が大径化する1列の貫通孔(第4貫通孔)63が形成されている。また、細線導波路61の一端61aの先端部分においては、必要に応じて、第1平面レンズ部22と細線導波路61とのインピーダンス値の段差を緩和し、テラヘルツ波信号の進行方向を制御するために、U型の切り欠き63aを形成する。これらの貫通孔63は、細線導波路61と第1平面レンズ部22とのインピーダンス整合を取り、電磁波であるテラヘルツ波信号の反射波が発生することを防止する。また、この接合箇所におけるインピーダンス整合のための貫通孔63は、前述したフォトニック結晶導波路と平面レンズ部との接合箇所に適用することができる。勿論、図19に示す貫通孔63の配置や径の大きさ等は、一例であり、前述した第1導波路24と第1平面レンズ部22とのインピーダンス整合を行う貫通孔24aと同様な構成であってもよい。
【0091】
次に、図20を参照して、伝搬するテラヘルツ波信号の周波数に対する、フォトニック結晶導波路を用いた平面レンズ部と、細線導波部を用いた平面レンズ部とにおける透過率の信号強度について説明する。
図20に示すように、細線導波部を用いた平面レンズ部から取得する透過率の信号強度(dB)は、実測した周波数450GHz~750GHzの広帯域において、信号強度が-1~-3(dB)の範囲内にあり、比較的変動が少ない平坦な特性となっている。
【0092】
これに対して、フォトニック結晶導波路を用いた平面レンズ部から取得する信号強度は、細線導波路部を用いた平面レンズ部から取得する信号強度(dB)の方よりも、周波数540GHz~600GHzを除いて、低いレベルとなり、また周波数に対する変動も大きい。この原因は、フォトニック結晶導波路23と導波部3との間に「壁」ができ、多重反射により透過率の変化が生じていると想定する。しかしながら、フォトニック結晶導波路を用いた構成は、細線導波路部を用いた構成よりも強度が高く、実用レベルにある。また、使用するテラヘルツ波信号の周波数の帯域が限定されている狭帯域であれば、フォトニック結晶導波路を用いた構成であっても細線導波路部を用いた構成とは、特性が大きくは変わらず、実用的に用いることができる。
【0093】
以上説明した第1適用例及び第2適用例における伝送デバイス5を例えば、テラヘルツ波信号を検査信号として用いて、検査対象物に照射し、検査対象物の内部構造を画像情報として非破壊で撮像する検査システムに適用することができる。
【0094】
また、テラヘルツ波信号は、マイクロ波やミリ波に比べて指向性が高いため、伝送路、レンズ及びビームスプリッタ等の光学素子の配置調整が難しくなるが、本実施形態の伝送デバイス5は、半導体製造プロセスを用いて半導体基板に一体的に作成している。このため、検査システムに搭載した場合には、対物レンズ9やスキャン部8の位置調整のみとなり、装置製造が小型化だけでは無く、容易になり、製造工数や製造人員が削減でき、コストを抑えることができる。
【0095】
本発明の実施形態及び適用例について説明したが、これらの実施形態等は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態等は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0096】
1…テラヘルツ波システム、2…送信器、3…導波部、4…ビームスプリッタ部、4a,4b…反射面、5…伝送デバイス、6…光学系、7…受信器、8…スキャン部、9…対物レンズ、11…第1ポート、12…第2ポート、13…第3ポート、21…第1金属導波管、22…第1平面レンズ部、23…第1フォトニック結晶導波路、24…第1導波路、24a,25,26,51…貫通孔、31…第2金属導波管、32…第2平面レンズ部、33…第2フォトニック結晶導波路、34…第2導波路、41…第3金属導波管、42…第2平面レンズ部、43…第3フォトニック結晶導波路、44…第3導波路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図23A
図23B