(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】モノクローナル抗体を用いた検査法に適したアレルゲンの抽出液
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20220707BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C07K1/22
G01N33/53 Q
(21)【出願番号】P 2018083922
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2021-02-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】綱 美香
(72)【発明者】
【氏名】原田 義孝
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-159440(JP,A)
【文献】特開2018-072209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
G01N33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と
0.5mM EDTA/PBSとからなる、モノクローナル抗体を利用したそばアレルゲン検出法のための抽出液であって、界面活性剤として、
0.1~5(w/v)%のCHAPSまたはCHAPSOである双性界面活性剤、
0.1~1(v/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(CAS登録番号9002-93-1:TritonX-100(登録商標))、
0.01~
5(v/v)%のオクチルフェニルポリエチレングリコール(CAS登録番号9036-19-5:IGEPAL CA-630(登録商標))又は
0.1(v/v)%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(CAS登録番号9005-64-5:Tween20(登録商標))のみを含み、還元剤を含まない前記抽出液。
【請求項2】
界面活性剤と
0.5mM EDTA/PBSとからなる、モノクローナル抗体を利用したそばアレルゲン検出法のための抽出液であって、界面活性剤として陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含み、前記陰イオン界面活性剤が
0.05(w/v)%のSDSであり、前記非イオン性界面活性剤が
0.1~1(v/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(CAS登録番号9002-93-1:TritonX-100(登録商標))、
0.1~5(v/v)%のオクチルフェニルポリエチレングリコール(CAS登録番号9036-19-5:IGEPAL CA-630(登録商標))又は
0.1~0.4(v/v)%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(CAS登録番号9005-64-5:Tween20(登録商標))である、モノクローナル抗体を利用したそばアレルゲン検出法のための抽出液。
【請求項3】
さらに還元剤を含む、請求項2に記載の抽出液。
【請求項4】
検体からそばアレルゲンを抽出する方法において請求項1~3のいずれか1項に記載の抽出液を使用することを特徴とする、検体中のそばアレルゲン抽出方法。
【請求項5】
検体から請求項1~3のいずれか1項に記載の抽出液を使用して抽出したそばアレルゲンを、モノクローナル抗体を利用した測定法で検出することを特徴とする、そばアレルゲン検出法。
【請求項6】
そばアレルゲンに対するモノクローナル抗体と請求項1~3のいずれか1項に記載の抽出液を含むことを特徴とする、そばアレルゲン検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノクローナル抗体を用いた検査法に適したアレルゲンの抽出液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の食物が原因でアレルギー症状を起こす食物アレルギーの人が増加している。食品の製造者はアレルゲン検査を行ない、食品中のアレルゲンに関する情報を消費者に提供することが必要になっている。
特定原材料とはアレルゲンを含む食材7品目(えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生)のことであり、アレルギー体質の人の健康危害の発生を防止するために、法令で食品への原材料表示が義務づけられている。
加工食品中の特定原材料の検査は、消費者庁の通知に準拠し行なうことになっている。食品中のアレルゲンタンパク質の残存量が10ppm程度以上のときに表示義務があるため、アレルゲンの検査ではまず定量検査法(ELISA法)によるスクリーニング検査を行ない、陽性の場合は定性検査法(ウェスタンブロット法又はPCR法)による確定検査を行なう。ELISA法については、数社から市販されている指定検査キットを使用するよう定められている。
しかし、ELISA法は操作が煩雑で測定に数時間を要するため、日常的な自主検査には、ELISA法と同様の抗原抗体反応を利用しており、簡便かつ短時間で判定可能なアレルゲン検査用のイムノクロマトが使用されることが多い。このイムノクロマトもELISA法と同様に複数の市販品キットが存在する。
イムノクロマトはポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体のどちらか一方又は両方を組み合わせて作製する。各キットに添付されるアレルゲンの抽出液はそれぞれのイムノクロマトに適した組成になっている。
従来アレルゲンタンパク質の抽出液には抽出効率を上げるため還元剤として2-メルカプトエタノールを使用していた。しかしながら、2008年7月に2-メルカプトエタノールが毒物に指定され規制対象となり、2-メルカプトエタノールを食品工場内で使用することが困難となったため、食品工場内で効率の高い検査を可能にするため、抽出液の開発が求められている。
食品からアレルゲンを抽出するための2-メルカプトエタノールを含まない抽出液としては、例えば特許文献1では還元剤(亜硫酸塩として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム及び亜硫酸鉄から選ばれた少なくとも1種)及び可溶化補助剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が添加された抽出液を提供している。また特許文献2では陰イオン性界面活性剤のSDSとチオ硫酸塩又はSDSと非イオン性界面活性剤のTween20を含有する抽出液を提供している。さらに特許文献3では、還元剤としてチオグリセロール及び可溶化剤として尿素又はアルキル硫酸塩であるSDSを含有する抽出液を提供している。
しかしながら、本願発明者がこれらの2-メルカプトエタノールを含まない抽出液で自家製のモノクローナル抗体を使用する検査法を行ったところ、いずれもアレルゲンの抽出効率が十分なものとはいえず、偽陽性反応の発生又は検出不能という結果となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-33062
【文献】再表2010/095469
【文献】再表2013/179663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、モノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法のための抽出液であって、食品(加熱調理した加工食品を含む)、種実、原料粉末等の検体からアレルゲンタンパク質を抽出することが可能で、モノクローナル抗体を使用する検査法を行う際に、偽陽性を生じることなくアレルゲンが検出可能となる抽出液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、界面活性剤として、0.05~10(w/v)%の双性界面活性剤、0.05~1.5(v/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(CAS登録番号9002-93-1:TritonX-100(登録商標))、0.05~10(v/v)%のオクチルフェニルポリエチレングリコール(CAS登録番号9036-19-5:IGEPAL CA-630(登録商標))又は0.05~0.9(v/v)%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(CAS登録番号9005-64-5:Tween20(登録商標))のみを含み、還元剤を含まない抽出液又は界面活性剤として0.005~0.09(w/v)%の陰イオン性界面活性剤及び0.05~10(v/v)%の非イオン性界面活性剤を含む抽出液であって、モノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法のための抽出液によって、食品(加熱調理した加工食品を含む)、種実、原料粉末等の検体からアレルゲンタンパク質を効率よく抽出し、モノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法において、偽陽性を示すことなくアレルゲンを検出することが出来ることを見いだした。
【0006】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]界面活性剤として、0.05~10(w/v)%の双性界面活性剤、0.05~1.5(v/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(CAS登録番号9002-93-1:TritonX-100(登録商標))、0.05~10(v/v)%のオクチルフェニルポリエチレングリコール(CAS登録番号9036-19-5:IGEPAL CA-630(登録商標))又は0.05~0.9(v/v)%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(CAS登録番号9005-64-5:Tween20(登録商標))のみを含み、還元剤を含まない抽出液であって、モノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法のための抽出液。
[2]界面活性剤として0.005~0.09(w/v)%の陰イオン性界面活性剤及び0.05~10(v/v)%の非イオン性界面活性剤を含む抽出液であって、モノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法のための抽出液。
[3]さらに還元剤を含む、前記[2]に記載の抽出液。
[4]検体から食物アレルゲンを抽出する方法において前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の抽出液を使用することを特徴とする検体中の食物アレルゲン抽出方法。
[5]検体から前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の抽出液を使用して抽出した食物アレルゲンをモノクローナル抗体を利用した測定法で検出することを特徴とする食物アレルゲン検出法。
[6]食物アレルゲンに対するモノクローナル抗体と前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の抽出液を含むことを特徴とする、食物アレルゲン検出用キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抽出液を使用することにより、食品(加熱調理した加工食品を含む)、種実、原料粉末等の検体からアレルゲンタンパク質を効率よく抽出し、自家調製したモノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法において、偽陽性を示すことなくアレルゲンを検出することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の抽出液はモノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法のための抽出液である。本発明においてモノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法の対象となる検体は、卵、小麦、乳、えび、かに、そば、落花生等、食物アレルゲンとなるタンパク質を含有する食品(加熱調理された加工食品を含む)、種実、原料粉末等を含む。例えば、小麦であれば、小麦粉やパン類、菓子類、ホワイトソース等の小麦粉を用いて製造された加工食品等、そばであればそば種実、そば粉、麺に加工したそば、そばボーロなどそば粉を用いて製造された加工食品等、落花生であれば、バターピーナツ、ピーナッツオイル、ピーナッツバターやそれらを使用した加工食品等が含まれる。その他、同じ製造ラインで食物アレルゲンとなるタンパク質を含有する食品を使用した場合、食物アレルゲンとなるタンパク質が混入する可能性がある食品原料や加工食品も含まれる。
本発明においてモノクローナル抗体を利用した食物アレルゲン検出法は周知の免疫学的測定方法であり、イムノクロマト法、ELISA法又はウエスタンブロッティングなどが用いられ、好ましくはイムノクロマトグラフィーである。
ここでモノクローナル抗体は食物アレルゲンタンパクに対するモノクローナル抗体であり、実際に特定の食物アレルゲンタンパク質に対する抗体を常法に従い作製したものや、市販の抗体を使用してもよい。牛乳の主要アレルゲンであるカゼインやβ-ラクトグロブリン、卵の主要アレルゲンであるオボムコイドやオボアルブミン、ソバの主要アレルゲンであるFag e1、Fag e2等、グロブリンやアルブミンを認識するモノクローナル抗体等が挙げられる。例えば、そばアレルゲンタンパク質Fag e2を認識するモノクローナル抗体として、2014年4月30日付(通知番号:2013-0606)で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託し受理されているNITE AP-01791及びNITE AP-01792によって産生される抗体を挙げることが出来る。
【0009】
本発明の抽出液の第1の態様は、界面活性剤として、0.05~10(w/v)%の双性界面活性剤、0.05~1.5(v/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(CAS登録番号9002-93-1:TritonX-100(登録商標))、0.05~10(v/v)%のオクチルフェニルポリエチレングリコール(CAS登録番号9036-19-5:IGEPAL CA-630(登録商標))又は0.05~0.9(v/v)%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(CAS登録番号9005-64-5:Tween20(登録商標))のみを含み、還元剤を含まない。
【0010】
本発明において界面活性剤は水に難溶性のタンパク質又は難抽出状態(例えば、熱変性)にあるタンパク質を可溶化し、加工食品から効率的に抽出するために抽出液に添加される。
【0011】
双性界面活性剤としては3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(CHAPS)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO)、デシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩(Zwittergent3-10)や、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩(Zwittergent3-12)等が挙げられ、好ましくはCHAPS又はCHAPSOである。抽出液において界面活性剤として双性界面活性剤のみを含む場合、双性界面活性剤の濃度は、好ましくは0.1~7(w/v)%、より好ましくは0.5~5(w/v)%である。
本発明の抽出液の第1の態様において界面活性剤としてTritonX-100のみを含む場合、抽出液においてTritonX-100の濃度は、好ましくは0.1~1.5(v/v)%、より好ましくは0.1~1(v/v)%である。
本発明の抽出液の第1の態様において界面活性剤としてIGEPAL CA-630のみを含む場合、抽出液においてIGEPAL CA-630の濃度は、好ましくは0.05~7(v/v)%、より好ましくは0.5~7(v/v)%である。
本発明の抽出液の第1の態様において界面活性剤としてTween20のみを含む場合、抽出液においてTween20の濃度は、好ましくは0.05~0.5(v/v)%、より好ましくは0.07~0.5(v/v)%である。
【0012】
本発明の抽出液の第1の態様は、さらに防腐剤を含んでいても良い。防腐剤は、食物アレルゲンの抽出に必須ではないが、緩衝液への微生物の侵入・発育・増殖を防止し、腐敗を最小限にするために抽出液に添加することが好ましい。
防腐剤としては、通常食品や化粧品に使用されるものであれば特に限定無く使用することが出来る。具体的には、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム及びプロクリン300(シグマアルドリッチ社)等を挙げることが出来、好ましくはプロクリン300である。抽出液における防腐剤の濃度は、好ましくは0.01~0.05(w/v)%、より好ましくは0.015~0.035(w/v)%である。
【0013】
本発明の抽出液の第1の態様は、さらにキレート剤を含んでいても良い。キレート剤は、酸化を促進する金属イオンを捕捉する性質を持つため抽出液に添加することが好ましい。
キレート剤としては、通常食品や化粧品の品質保持を目的として配合されている成分であれば特に限定無く使用することができ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)や、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などがあげられるが、好適にはEDTAである。抽出液におけるキレート剤の濃度は、好ましくは0.1~0.7mM、より好ましくは0.5mMである。
【0014】
本発明の抽出液の第1の態様は、好ましくは上記成分をELISA法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの実験において一般に使用される緩衝液中に含むことが出来る。そのような緩衝液としてはトリス塩酸緩衝液や、トリスマレイン酸緩衝液、トリス緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水であるPBS(pH7.4)等が挙げられ、好ましくはPBSを使用する。
【0015】
また本発明の抽出液の第2の態様は、界面活性剤として、0.005~0.09(w/v)%の陰イオン性界面活性剤及び0.05~10(v/v)%の非イオン性界面活性剤を含む。
陰イオン性界面活性剤としてはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシル硫酸リチウム、コール酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくはSDSである。非イオン性界面活性剤としてはIGEPAL CA-630、TritonX-100、Tween20、ブリッジ35(Brij35)や,n-オクチル-β-D-グルコピラノシド等が挙げられる。抽出液において界面活性剤として陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む場合、非イオン性界面活性剤は好ましくはIGEPAL CA-630、TritonX-100又はTween20であり、より好ましくはTritonX-100である。
本発明の抽出液の第2の態様において、陰イオン性界面活性剤の濃度は、好ましくは0.01~0.09(w/v)%、より好ましくは0.04~0.07(w/v)%である。抽出液において界面活性剤として陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む場合、非イオン性界面活性剤の濃度は、好ましくは0.1~7(v/v)%、より好ましくは0.3~7(v/v)%である。
【0016】
本発明の抽出液の第2の態様は、さらに還元剤を含んでいても良い。食物アレルゲンの検出対象が加工食品の場合、加熱や加圧といった過酷な条件下で製造されたものが多く、検査対象である特定原材料中のアレルゲンタンパク質が不溶化し抽出されにくいという問題が起こり得る。よって、抽出効率の悪化を防止するために、抽出液に還元剤を添加することが好ましい。
還元剤としては、安全性、保存安定性を考慮し、具体的には既に食品や化粧品に使用されているα-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、σ-トコフェロール、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、L-アスコルビン酸塩及びイソアスコルビン酸塩を挙げることができるが、好適にはL-アスコルビン酸ナトリウム及びイソアスコルビン酸ナトリウムの少なくとも一方である。本発明において還元剤には2-メルカプトエタノールは含まれない。抽出液における還元剤の濃度は、好ましくは0.005~7(w/v)%、より好ましくは0.005~1.5(w/v)%である。
【0017】
本発明の抽出液の第2の態様は、さらに防腐剤を含んでいても良い。防腐剤は、食物アレルゲンの抽出に必須ではないが、緩衝液への微生物の侵入・発育・増殖を防止し、腐敗を最小限にするために抽出液に添加することが好ましい。
防腐剤としては、通常食品や化粧品に使用されるものであれば特に限定無く使用することが出来る。具体的には、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム及びプロクリン300(シグマアルドリッチ社)等を挙げることが出来、好ましくはプロクリン300である。抽出液における防腐剤の濃度は、好ましくは0.01~0.05(w/v)%、より好ましくは0.015~0.035(w/v)%である。
【0018】
本発明の抽出液の第2の態様は、さらにキレート剤を含んでいても良い。キレート剤は、酸化を促進する金属イオンを捕捉する性質を持つため抽出液に添加することが好ましい。
キレート剤としては、通常食品や化粧品の品質保持を目的として配合されている成分であれば特に限定無く使用することができ、EDTA、NTAや、DTPAなどがあげられるが、好適にはEDTAである。抽出液におけるキレート剤の濃度は、好ましくは0.1~0.7mM、より好ましくは0.5mMである。
【0019】
本発明の抽出液の第2の態様は、好ましくは上記成分をELISA法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの実験において一般に使用される緩衝液中に含むことが出来る。そのような緩衝液としてはトリス塩酸緩衝液や、トリスマレイン酸緩衝液、トリス緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水であるPBS(pH7.4)等が挙げられ、好ましくはPBSを使用する。
【0020】
本発明の検体中の食物アレルゲン抽出方法は、検体から食物アレルゲンを抽出する方法において上記抽出液を使用することを特徴とする。本発明の検体中の食物アレルゲン抽出方法は、検体から食物アレルゲンを抽出する方法において上記抽出液を使用すること以外は常法に従って行うことが出来、従来用いられている粉砕、乳化、攪拌、振とう、又は煮沸法など適宜の方法を単独又は組み合わせて用いることができる。
例えば検体に抽出液を添加し、ボルテックスミキサーを使用し室温で撹拌した後、遠心分離し、上清を回収することにより行うことが出来る。
【0021】
本発明の食物アレルゲン検出法は、上記抽出液を使用して抽出した食物アレルゲンをモノクローナル抗体を利用した測定法で検出することを特徴とする。本発明の食物アレルゲン検出法は、上記抽出液を使用して抽出した食物アレルゲンをモノクローナル抗体を利用した測定法で検出使用すること以外は常法に従って行うことが出来る。
本発明の食物アレルゲン検出法において、モノクローナル抗体を利用した測定法とは、周知の免疫学的測定方法であり、イムノクロマト法、ELISA法又はウエスタンブロッティングなどが用いられ、好ましくはイムノクロマトグラフィーである。
【0022】
本発明の食物アレルゲン検出用キットは、食物アレルゲンに対するモノクローナル抗体と上記抽出液を含むことを特徴とする。食物アレルゲン検出用キットに含まれるモノクローナル抗体は1種又は複数であっても良い。本発明の食物アレルゲン検出用キットにおいて食物アレルゲンに対するモノクローナル抗体は、支持体である固層に固定されていることが好ましく、例えば抗体が固定化されたイムノクロマトグラフィー、抗体が固定化されたプレート等の形態で含まれる。本発明の食物アレルゲン検出用キットにはその他、アレルゲンタンパクの標準品、検出用試薬、希釈用緩衝液などを含むことができる。
【実施例】
【0023】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
<製造例(イムノクロマトの作製)>
1. モノクローナル抗体(MAb)
使用するMAbは、そばアレルゲンタンパク質Fag e2を認識する。MAbを産生するハイブリドーマは、2014年4月30日付(通知番号:2013-0606)で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託し受理されているNITE AP-01791及びNITE AP-01792である。(特開2015-178461)
2. 抗体固定メンブレンの作製
大量塗布製造機(ニップンエンジニアリング社製)に、イムノクロマト専用メンブレン(メルクミリポア社製)をセットし、PBSで1mg/mlとなるように調製したMAb(NITE AP-01792)溶液を直線状に塗布し50℃で30分間乾燥させた。
3. 金コロイド標識抗体固定コンジュゲートパットの作製
金コロイド液(BBI製)9ml、PBSで1mg/mlとなるように調製したMAb(NITE AP-01791)溶液1ml及び50mMリン酸カリウム緩衝液1mlを混合した。1% PEG20,000 0.55ml及び10%BSA 1.1mlを加え、遠心分離し、1%BSA/Tris(pH8.2)溶液でOD520=1~2に調製し、コンジュゲートパット(メルクミリポア社製)に塗布した後、凍結乾燥した。
4. イムノクロマトの組立て
バッキングシート(ニップンエンジニアリング社製)に、抗体固定メンブレン、金コロイド標識抗体固定のコンジュゲートパット、サンプルパット(メルクミリポア社製)、吸収パット(メルクミリポア社製)を順に貼り付けた。このシートをコンパクトカッター(ニップンエンジニアリング社製)で5mm幅に裁断し、イムノクロマトとした。
【0025】
<試験例1(界面活性剤の検討)>
1. 抽出液の調製
各々の界面活性剤を、陰イオン性界面活性剤、双性界面活性剤及びカオトロピック試薬については5~0.001(w/v)%、非イオン性界面活性剤については5~0.001(v/v)%となるように0.5mM EDTA/PBSに溶解し抽出液とした。
2. 抽出方法
各抽出液980μLに、そば一次標準粉末を20mg添加しボルテックスミキサーを使用し室温で1.5分間混合した後、遠心分離(3,000×g、20分、4℃)し、上清を回収した。この液を、各抽出液で200倍希釈し、抽出溶液とした。
なお、そば一次標準粉末は、茨城県産及び中国産(中国北方)産のそばを等量混合した後粉砕し、14メッシュの篩 (目開き1.18mm)を通過したものである。
3. 判定方法
各抽出溶液を展開液(リン酸緩衝液)で10倍希釈し、測定溶液とした。測定溶液100μLをイムノクロマトに滴下し室温で展開させた。
陰性対照は、各抽出液を展開液で10倍希釈し100μL滴下した。
10分後、イムノクロマトリーダー(ニップンエンジニアリング社製)で反応ラインの色の濃度を測定した。
偽陽性を生じることなく陽性を示した濃度を適合範囲とした。
判定は下表に従った。
【0026】
【0027】
4. 結果
(1)双性界面活性剤CHAPSを含む抽出液
0.1~5(w/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0028】
(2)双性界面活性剤CHAPSOを含む抽出液
0.1~5(w/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0029】
(3)非イオン性界面活性剤TritonX-100を含む抽出液
0.1~1(v/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0030】
(4)非イオン性界面活性剤IGEPAL CA-630を含む抽出液
0.01~5(v/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。0.01(v/v)%では測定値が低かった。
【0031】
(5)非イオン性界面活性剤Tween20を含む抽出液
0.1(v/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0032】
(6)陰イオン性界面活性剤SDSを含む抽出液
0.01~0.05(w/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示したが、測定値は低かった。
【0033】
(7)カオトロピック試薬である尿素を含む抽出液
0.001~0.01(w/v)%では偽陽性を生じることなく陽性を示したが、測定値は低かった。
【0034】
<試験例2(界面活性剤の組み合わせについての検討)>
界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを組み合わせた場合について検討した。
界面活性剤として陰イオン性界面活性剤0.05(w/v)%及び非イオン性界面活性剤については0.001~5(v/v)%となるように0.5mM EDTA/PBSに溶解し抽出液とした以外は試験例1の方法に従って抽出液を調製し、抽出を行い、判定を行った。結果を以下に示す。
【0035】
(1)陰イオン性界面活性剤SDS及び非イオン性界面活性剤TritonX-100を含む抽出液
0.05(w/v)%SDSと0.1~1(v/v)%TritonX-100を組み合わせた場合、SDS単独又はTritonX-100単独の場合と比較して、全般的に測定値が高くなり0.1~1(v/v)%の範囲で偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0036】
(2)陰イオン性界面活性剤SDS及び非イオン性界面活性剤IGEPAL CA-630を含む抽出液
0.05(w/v)%SDSと0.1~5(v/v)%IGEPAL CA-630を組み合わせた場合、SDS単独又はIGEPAL CA-630単独の場合と比較して、全般的に測定値が高くなり偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0037】
(3)陰イオン性界面活性剤SDS及び非イオン性界面活性剤Tween20を含む抽出液
0.05(w/v)%SDSと0.1~1(v/v)% Tween20を組み合わせた場合、Tween20単独の場合と比較して、全般的に測定値が高くなった。0.05(w/v)%SDSと0.1~0.4(v/v)% Tween20では偽陽性を生じることなく陽性を示し良好であった。
【0038】
<試験例3(還元剤を添加した場合の影響についての検討)>
1. 検討した試薬
(1)L-アスコルビン酸ナトリウム
(2)イソアスコルビン酸ナトリウム
【0039】
2.抽出液の調製
還元剤の溶媒として、試験例1で有効であった0.05(w/v)%SDS,0.6(v/v)% TritonX-100,0.5mM EDTA / PBSを使用し(1)及び(2)は1(w/v)%となるように溶解した。
【0040】
3.抽出方法及び判定方法
試験例1と同様に行なった。
【0041】
4.結果
L-アスコルビン酸ナトリウムとイソアスコルビン酸ナトリウムのいずれの還元剤を添加しても偽陽性を生じず陽性を示した。還元剤を添加することで添加しないものと比較して高い測定値となった。
【0042】
<試験例3(還元剤の濃度の検討)>
そば一次標準粉末又は実試料を使い、L-アスコルビン酸ナトリウムの抽出効率を測定した。実試料には、そばを含有する加工食品である市販の焼き菓子「そばぼうろ」(平和製菓)を用いた。
1.抽出液の調製
L-アスコルビン酸ナトリウムが5~0.01(w/v)%となるように0.05(w/v)% SDS,0.6(v/v)% TritonX-100,0.5mM EDTA / PBS に溶解した。
2.抽出方法及び判定方法
そば一次標準粉末を使用した試験は、試験例1と同様に行なった。
そばぼうろを使用した試験は次のように行なった。
そばぼうろ1gに各抽出液19mlを添加し、ボルテックスミキサーで混合した(室温、1.5分間)後、遠心分離(3,000×g、20分、4℃)し、上清を回収した。回収した液を、各抽出液で100倍希釈し、抽出溶液とした。
【0043】
3.結果
いずれの場合も、5~0.01(w/v)%で偽陽性を生じることなく陽性を示した。
【0044】
<試験例4(防腐剤の検討)>
1.検討した試薬
(1)プロクリン300(シグマアルドリッチ社)
(2)安息香酸ナトリウム
(3)プロピオン酸カルシウム
(4)プロピオン酸ナトリウム
【0045】
2.抽出液の調製
防腐剤の溶媒として、試験例3で有効であった0.05(w/v)% SDS,0.6(v/v)% TritonX-100,0.01(w/v)% L-アスコルビン酸ナトリウム,0.5mM EDTA / PBSを使用し、防腐剤を0.02(w/v)%となるように溶解した。
3.抽出方法及び判定方法
試験例1と同様に行なった。
【0046】
4.結果
いずれの試薬でも偽陽性を生じることなく陽性を示した。
【0047】
<試験例5(モデル加工食品からのアレルゲン検出)>
そば一次標準粉末入りモデル加工食品を作製し、イムノクロマトによる検出を確認した。
1.モデル加工食品の作製
(a)レトルト食品
ミートソース(オーマイ社)100gに対し、そば一次標準粉末を総タンパク質量換算で10mg相当(そば一次標準粉末の重量としては170mg)又は1mg相当添加し(添加しないものを陰性対照とした)、それぞれレトルト袋に入れ密封した。この袋を熱水貯湯式レトルト殺菌装置(日阪製作所社製)で、レトルト処理(121℃、15分間)を行なった。
(b)焼き菓子
市販のクッキーミックス(オーマイ社)100gに対しそば一次標準粉末を(a)と同様に添加し、製品に記載の方法で調理した(熱処理は170℃、15分間)。
(c)蒸し菓子
市販の蒸しパンミックス(オーマイ社)100gに対しそば一次標準粉末を(a)と同様に添加し、製品に記載の方法で調理した(熱処理は100℃、15分間)。
(d)揚げ菓子
市販のホットケーキミックス(オーマイ社)100gに対しそば一次標準粉末を(a)と同様に添加し、製品に記載の方法で調理した(熱処理は180℃、8分間)。
2.抽出液
0.05(w/v)% SDS,0.6(v/v)% TritonX-100,0.01(w/v)% L-アスコルビン酸ナトリウム,0.5mM EDTA,0.02(w/v)% プロクリン300,0.5mM EDTA / PBS
3.抽出方法及び測定方法
レトルト処理または加熱調理したモデル加工食品1gに抽出液19mlを添加し、ボルテックスミキサーを使用し室温で1.5分間混合した後、遠心分離(3,000×g、20分、4℃)し、上清を回収した。この液を、展開液で10倍希釈し、測定溶液とした。
測定方法は試験例1と同様に行なった。
【0048】
4.結果
そばのアレルゲンタンパク質は高温、高圧処理した加工食品からも検出可能であった。