(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-06
(45)【発行日】2022-07-14
(54)【発明の名称】透明シリカガラス基板用組成物、透明シリカガラス基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20220707BHJP
【FI】
C03B20/00 E
C03B20/00 F
(21)【出願番号】P 2019191331
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】浜本 佳英
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203572(JP,A)
【文献】特開2018-203573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子
と1個以上のアルケニル基を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含むものであることを特徴とする透明シリカガラス基板用組成物。
【請求項2】
前記(A)成分に含まれる不純物金属元素として、アルミニウムが0.1~50ppm、ナトリウムが0.01~1ppm、鉄が0.1~5ppm、ウラン及びトリウムが0~0.1ppmであることを特徴とする請求項1に記載の透明シリカガラス基板用組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、下記(B1)成分及び/又は(B2)成分
(B1)下記式(1)
(SiO
4/2)
a(RSiO
3/2)
b(R
2SiO
2/2)
c(R
3SiO
1/2)
dX
e (1)
(式中、Rは独立して水素原子、または炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数2~10のアルケニル基から選ばれる基であり、Rのうち少なくとも1つは炭素数2~10のアルケニル基であり、Xはヒドロキシ基または炭素数1~10のアルコキシ基である。aは0~0.3、bは0~0.9、cは0~0.8、dは0~0.5、eは0~0.25であり、但し、0<a+b≦0.9、かつa+b+c+d+e=1.0である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサン、
(B2)下記式(2)
(R
2SiO
2/2)
f(R
3SiO
1/2)
g (2)
(式中、Rは前記で示される基であり、fは0~0.999、gは0.001~1.0であり、f+g=1.0である。)で示される直鎖状オルガノ(ポリ)シロキサン、
を含むものであることを特徴とする請求項1
または2に記載の透明シリカガラス基板用組成物。
【請求項4】
前記(B)成分及び(C)成分からなる組成物の硬化物において、JIS K 7120:1987記載の方法により空気中で測定したTGA分析による残分率が30質量%以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の透明シリカガラス基板用組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の透明シリカガラス基板用組成物の焼結体であることを特徴とする透明シリカガラス基板。
【請求項6】
前記シリカガラス基板の、厚さ1.7mmでの波長300~800nmの全領域における光透過率が60%以上であることを特徴とする請求項
5に記載の透明シリカガラス基板。
【請求項7】
透明シリカガラス基板の製造方法であって、
下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子
と1個以上のアルケニル基を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含む透明シリカガラス基板用組成物を成型温度100~300℃、成型時間1分間~5時間の条件で成型し、成型体を作製する工程、
前記成型体を400~1,200℃で10分間~72時間加熱し脱脂する工程、
前記脱脂した成型体を1,400~2,100℃で1分~10時間加熱し、焼結する工程
を有することを特徴とする透明シリカガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型可能な透明シリカガラス基板用組成物、透明シリカガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の発達に伴い、全ての電子機器が通信網でつながっているIoT(Internet of Things)や5Gと呼ばれる次世代の高速通信技術が近年注目されている。
【0003】
実際の5Gなどに用いられる基板については、低誘電率、低誘電正接が求められており、それに向けて各社多様な材料開発を進めている。
【0004】
現状のセラミック基板では、アルミナがメインであるが、アルミナは誘電率、誘電正接が高いため高速通信用基板として使用することができず、PTFE基板や、低誘電積層板などの有機基板が主流となっている。
【0005】
従来では無機粉体と、バインダーとしてシリコーンレジンの混錬物を成型し、焼結することによって製造するセラミックス焼結体が知られている(特許文献1)。高強度、低熱膨張を有するガラスセラミックスも開発されているが、高透明の成型物を得ることは困難であった(特許文献2)。また、ガラス基板を作成する際は不純物を添加することにより低温焼結ができるようになるが、その不純物が誘電率や誘電正接を高める効果があり、一般的に10GHz以上で比誘電率4.0以下、同じく10GHz以上で誘電正接0.001以下を同時に満たすような高速通信用基板としては不適合であった(特許文献3)。さらにアルカリ金属など特定金属元素量を規定した高透過率焼結レンズも見出されている(特許文献4、5)が、成型はダイキャスト法もしくはキャスティング法であり、低い誘電特性を要求される基板材料を作るための射出成型、圧縮成型、トランスファー成型などはどれも溶剤を含むためボイドなどが多数発生し、応用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3361583号公報
【文献】特開2018-177582号公報
【文献】国際公開WO2018/051793号公報
【文献】特開2018-2526号公報
【文献】特開2013-163623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では上記事情に鑑み、高周波帯で低誘電特性となる透明シリカガラス基板用組成物、及びその組成物から得られる透明シリカガラス基板を提供することを目的とする。また、薄膜で成型可能で割れにくい低誘電シリカガラス基板を効率よく高い寸法精度で量産できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明では、
下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含むものであることを特徴とする透明シリカガラス基板用組成物を提供する。
【0009】
本発明の透明シリカガラス基板用組成物は、(B)有機ケイ素系バインダーを脱脂すると全てシリカに変換されるため、残存有機基による変色も起こらず、透明性に優れるシリカガラス基板を得ることができるものである。
【0010】
前記(A)成分に含まれる不純物金属元素として、アルミニウムが0.1~50ppm、ナトリウムが0.01~1ppm、鉄が0.1~5ppm、ウラン及びトリウムが0~0.1ppmあってもよい。
前記(A)成分に含まれる不純物金属元素として、アルミニウム、ナトリウム、鉄の濃度が上記範囲内であれば、透過率が高い基板が得られるため好ましい。ウラン及びトリウムの濃度が上記範囲内であれば、デジタル信号の誤動作の原因であるα線量が非常に低減可能であるため好ましい。
【0011】
前記(B)成分は1個以上のアルケニル基を有する有機ケイ素系バインダーであることが好ましい。
前記(B)成分は1個以上のアルケニル基を有する有機ケイ素系バインダーであると、本発明の透明シリカガラス基板用組成物は、より短時間で様々な形状に成型することができ、不純物も少ないことからも誘電特性や透明性に優れるシリカガラス基板を得ることができるものとなる。
【0012】
前記(B)成分は、下記(B1)成分及び/又は(B2)成分
(B1)下記式(1)
(SiO4/2)a(RSiO3/2)b(R2SiO2/2)c(R3SiO1/2)dXe (1)
(式中、Rは独立して水素原子、または炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数2~10のアルケニル基から選ばれる基であり、Rのうち少なくとも1つは炭素数2~10のアルケニル基であり、Xはヒドロキシ基または炭素数1~10のアルコキシ基である。aは0~0.3、bは0~0.9、cは0~0.8、dは0~0.5、eは0~0.25であり、但し、0<a+b≦0.9、かつa+b+c+d+e=1.0である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサン、
(B2)下記式(2)
(R2SiO2/2)f(R3SiO1/2)g (2)
(式中、Rは前記で示される基であり、fは0~0.999、gは0.001~1.0であり、f+g=1.0である。)で示される直鎖状オルガノ(ポリ)シロキサン、
を含むものであることが好ましい。
【0013】
前記(B)成分が前記オルガノ(ポリ)シロキサンを含むものであると、特に短時間で様々な形状に成型することができ、低誘電特性に優れるシリカガラス基板を得ることができるものとなる。
特に前記(B1)及び(B2)成分を混合することにより、バインダーの濡れ性、成型時の耐クラック性及び成型時の速硬化性を両立した、短時間成型可能なシリカガラス基板用組成物を得ることができる。
【0014】
前記(B)成分及び(C)成分からなる組成物の硬化物において、JIS K 7120:1987記載の方法により空気中で測定したTGA分析による残分率が30質量%以上であることが好ましい。
上記のような(B)成分及び(C)成分であれば、透明シリカガラス基板用組成物の脱脂時及び焼結時に繊維状ガラス間に大きな空隙が発生する恐れがなく、焼結後にクラックや失透が生じる恐れがない透明シリカガラス基板となる。
【0015】
また、本発明では、前記成型可能な透明シリカガラス基板用組成物の焼結体である透明シリカガラス基板を提供する。
この透明シリカガラス基板は薄膜で低誘電特性を有するものとできる。
【0016】
前記シリカガラス基板の、厚さ1.7mmでの波長300~800nmの全領域における光透過率が60%以上であることが好ましい。
この透明シリカガラス基板の前記光透過率が前記範囲であると、この透明シリカガラス基板は人間の目には透明に見えるため、透明基板として好ましい。
【0017】
さらに、本発明は、透明シリカガラス基板の製造方法であって、
下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含む透明シリカガラス基板用組成物を成型温度100~300℃、成型時間1分間~5時間の条件で成型し、成型体を作製する工程、
前記成型体を400~1,200℃で10分間~72時間加熱し脱脂する工程、
前記脱脂した成型体を1,400~2,100℃で1分~10時間加熱し、焼結する工程
を有することを特徴とする透明シリカガラス基板の製造方法を提供する。
【0018】
このような製造方法であれば、高アスペクト比の繊維状ガラスを用い、バインダーそのものもシリカになることによって、無溶剤で安全にかつ短時間で透明シリカガラス基板用組成物を成型することができ、脱脂及び焼結時にボイドやクラックを発生させずに透明焼結成型ガラス基板を製造できる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の透明シリカガラス基板用組成物は、バインダーとして有機過酸化物により硬化される有機ケイ素系バインダーを利用することにより短時間成型を可能とし、脱脂すればケイ素種は全てシリカになり、繊維状ガラスとバインダーの親和性が飛躍的に向上し、クラック、ボイド、失透および結晶の発生が抑制されるため、高透明な焼結シリカガラス基板となる。
【0020】
また、本発明の透明シリカガラス基板の製造方法であれば、アスペクト比の大きい繊維状ガラスの補強効果により薄膜でも円滑に成型できるため系内が緻密になり、成型時クラックの発生を抑制することができる。また、ダイキャスト法などで用いる溶剤を必要としないことからも危険性が少なく、極薄膜焼結ガラス基板などへ展開することができ、量産工程の時間短縮及びガラス基板などで行われる研磨などの工程数の合理化ができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、薄膜で成型可能で割れにくく、高周波帯で低誘電特性となる透明シリカガラス基板を効率よく高い寸法精度で量産できる製造方法の開発が求められていた。
【0022】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、高アスペクト比の繊維状ガラスと、脱脂によりシリカになる有機ケイ素系バインダーと、有機過酸化物とを用いることによって、薄膜で成型可能で割れにくく、高周波帯で低誘電特性となる透明シリカガラス基板を効率よく高い寸法精度で製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含むものであることを特徴とする透明シリカガラス基板用組成物である。
【0024】
さらに、本発明は、透明シリカガラス基板の製造方法であって、
下記(A)~(C)成分:
(A)平均フィラメント径が0.01~150μmであり、かつアスペクト比が2~1,000である繊維状ガラス:85~99.9質量部
(B)1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素系バインダー:0.1~15質量部(ただし、前記(A)及び(B)成分の合計質量は100質量部である。)
(C)有機過酸化物:前記(B)成分100質量部に対して0.01~10質量部
を含む透明シリカガラス基板用組成物を成型温度100~300℃、成型時間1分間~5時間の条件で成型し、成型体を作製する工程、
前記成型体を400~1,200℃で10分間~72時間加熱し脱脂する工程、
前記脱脂した成型体を1,400~2,100℃で1分~10時間加熱し、焼結する工程
を有することを特徴とする透明シリカガラス基板の製造方法である。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<透明シリカガラス基板用組成物>
(A)繊維状ガラス
本発明に使用する繊維状ガラスは、その平均フィラメント径が0.01~150μmの範囲であり、かつアスペクト比が2~1,000のものである。平均フィラメント径は、好ましくは0.05~100μm、より好ましくは0.1~10μmである。なお、本発明において、繊維状ガラスの平均フィラメント径とは、SEMによる撮影画像によるフィラメントの平均フィラメント径の値を指す。また、繊維状ガラスのアスペクト比は、好ましくは2~500、より好ましくは、2~100である。なお、本発明において、アスペクト比とは、SEMによる撮影画像によって平均繊維長(L)と平均フィラメント径(d)との比、つまりL/dとして測定された値である。
【0026】
繊維状ガラスの平均フィラメント径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲の下限未満であると、繊維状ガラスの補強効果が得られず、円滑緻密に薄膜成型体を形成できなくなったり、成型時にクラックが発生しやすくなる。また、繊維状ガラスの平均フィラメント径及びアスペクト比が上記範囲の上限を超えても、本発明の効果は十分に発揮されない。
【0027】
また、本発明に用いられる繊維状ガラスとしては、各ガラス原料を作成する際、金属除去精製によってアルミニウム、ナトリウム、鉄などのガラスによく含まれる不純物だけでなく、微量のウランやトリウムの量を極限まで減らしたものを用いることが好ましい。不純物量は、本発明では誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)で測定し、絶対検量線法で定量した元素含有量を指す。前記ガラス原料中のアルミニウム含有量は0.1~50ppmが好ましく、0.1~10ppmが更に好ましい。アルミニウム含有量は少なければ少ないほどよいが、コスト等を勘案すれば、0.1ppmまで除去できれば十分であり、50ppm以下であれば、失透の原因となる焼結時のシリカの結晶化の進行を抑制できる。また、繊維状ガラス中のナトリウム含有量は0.01~1ppmが好ましく、0.05~1ppmが更に好ましい。ナトリウム含有量は少なければ少ないほどよいが、コスト等を勘案すれば、0.01ppmまで除去できれば十分であり、1ppm以下であれば、焼結時の失透の発生を抑制できる。さらに、繊維状ガラス中の鉄の含有量は0.1~5ppmが好ましく、0.1~2ppmが更に好ましい。鉄の含有量は少なければ少ないほどよいが、コスト等を勘案すれば、0.1ppmまで除去できれば十分であり、5ppm以下であれば、焼結時の失透の発生を抑制できる。繊維状ガラス中のウランおよびトリウムの含有量は0~0.1ppmが好ましく、0~1ppbがさらに好ましい。ウラン及びトリウム含有量が0.1ppm以下であれば、基板から放射されるα線量による電子機器の誤動作を抑制できる。
前記ガラス原料を溶融紡糸することでフィラメント化し、アスペクト比が2~1,000になるように粉砕することでもしくは裁断することにより、本発明で用いる繊維状ガラスを製造することができる。繊維状ガラスとしてはガラスカットファイバーやガラスチョップドストランドなどが挙げられるが、コストの面からも粉砕したガラスカットファイバーが好ましい。
【0028】
また、繊維状ガラスの種類としては、Eガラス、Aガラス、Dガラス、Sガラス、NEガラス、Lガラス、Qガラス等のいずれの繊維状ガラスなどが挙げられるが、コストや不純物量から、Sガラス、NEガラス、Lガラス、Qガラスの繊維状ガラスが好ましく、更にQガラスカットファイバーが好ましい。
【0029】
(A)成分の含有量は前記(A)成分及び後述する(B)成分の合計質量100質量部中、85~99.9質量部であり、好ましくは90~99.5質量部、さらに好ましくは90~99質量部である。(A)成分の含有量が85質量部未満であると、焼結時にバインダーが多すぎることによる空隙によりボイドが発生してしまい、緻密な焼結薄膜にならない。また、含有量が99.9質量部を超えると、成型時に流動性が乏しくなり成型不良となるため薄膜が成型できない。
【0030】
(B)有機ケイ素系バインダー
本発明の有機ケイ素系バインダーは、分子中に1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素化合物であり、その例としては、オルガノシラン、オルガノシラザン、及びそれらのうち少なくとも1種を含む組成物、オルガノポリシロキサン及びその組成物などが挙げられる。中でも後述する(C)有機過酸化物と反応して硬化する1個以上のアルケニル基を有する有機ケイ素系化合物が好ましい。特に、下記(B1)成分及び/又は(B2)成分
(B1)下記式(1)
(SiO4/2)a(RSiO3/2)b(R2SiO2/2)c(R3SiO1/2)dXe (1)
(式中、Rは独立して水素原子、または炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数2~10のアルケニル基から選ばれる基であり、Rのうち1つ以上は炭素数2~10のアルケニル基であり、Xはヒドロキシ基または炭素数1~10のアルコキシ基である。aは0~0.3、好ましくは0.1~0.3、bは0~0.9、好ましくは0.3~0.8、cは0~0.8、好ましくは0.1~0.8、dは0~0.5、好ましくは0.1~0.4、eは0~0.25、好ましくは0~0.1であり、但し、0<a+b≦0.9、かつa+b+c+d+e=1.0である。)で示される分岐状オルガノポリシロキサン、
(B2)下記式(2)
(R2SiO2/2)f(R3SiO1/2)g (2)
(式中、Rは前記と同じであり、fは0~0.999、gは0.001~1.0であり、f+g=1.0である。)で示される直鎖状オルガノポリシロキサン
を含むものであることが好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Rの炭素数1~20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。中でもメチル基が好ましい。炭素数6~10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。中でもフェニル基が好ましい。前記アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等が挙げられ、中でもビニル基、アリル基が好ましい。
【0032】
また、(B1)成分の具体例としては下記に示されるようなレジン構造が挙げられる。
(SiO4/2)0.1(Me2SiO2/2)0.5(Me3SiO1/2)0.29(Me2ViSiO1/2)0.1(OMe)0.01
(SiO4/2)0.1(Me2SiO2/2)0.25(MePhSiO2/2)0.24(Me3SiO1/2)0.3(Me2ViSiO1/2)0.1(OMe)0.01
(SiO4/2)0.1(Me2SiO2/2)0.25(Ph2SiO2/2)0.24(Me3SiO1/2)0.3(Me2ViSiO1/2)0.1(OMe)0.01
(MeSiO3/2)0.1(PhSiO3/2)0.3(Me2SiO2/2)0.19(MePhSiO2/2)0.2(Ph2SiO2/2)0.1(Me2ViSiO1/2)0.1(OH)0.01
(MeSiO3/2)0.1(PhSiO3/2)0.39(Me2SiO2/2)0.1(Ph2SiO2/2)0.2(Me2ViSiO1/2)0.1(MePhViSiO1/2)0.1(OH)0.01
(MeSiO3/2)0.1(PhSiO3/2)0.4(Me2SiO2/2)0.29(Me2ViSiO1/2)0.2(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.5(Me2SiO2/2)0.29(MeViSiO2/2)0.2(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.6(Me2SiO2/2)0.3(MeViSiO2/2)0.05(Me2ViSiO1/2)0.04(OH)0.01
(MeSiO3/2)0.2(PhSiO3/2)0.2(ViSiO3/2)0.2(Me2SiO2/2)0.2(Me3SiO1/2)0.19(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.8(Me2ViSiO1/2)0.19(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.7(MeViSiO2/2)0.1(Me3SiO1/2)0.1(Me2ViSiO1/2)0.09(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.7(PhViSiO2/2)0.1(Me3SiO1/2)0.09(Me2ViSiO1/2)0.1(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.7(MePhViSiO1/2)0.1(Me2ViSiO1/2)0.19(OH)0.01
(PhSiO3/2)0.69(MePhViSiO1/2)0.3(OH)0.01
(MeSiO3/2)0.69(Me2SiO2/2)0.1(Me2ViSiO1/2)0.2(OH)0.01
(上記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基、Viはビニル基を指す)
【0033】
(B2)成分は、直鎖状オルガノポリシロキサンであり、上記(2)式中のRは上記式(1)中のRと同様の基であり、fは好ましくは0.3~0.999、より好ましくは0.6~0.999、gは好ましくは0.001~0.7、より好ましくは0.001~0.4であり、f+g=1.0である。
【0034】
この(B2)成分は、上記(B1)成分との配合で成型時に流動性を与えるものである。上記(B1)及び(B2)成分の配合比は、上記(B1)+(B2)成分の合計質量を1とすると、好ましくは0.50≦(B1)≦1.0、より好ましくは0.70≦(B1)≦1.0である。上記(B1)成分の配合比が0.50以上であると、成型材料の流動性が高くなりすぎず、成型時の強度不足が起こらず、離型時にクラックなどが発生しない。また、上記(B1)成分の上記配合比が1.0以下であると、成型時の流動性が十分であり、ボイドや未充填が発生しない。また、上記(B2)成分の配合比は、好ましくは0≦(B2)≦0.50、より好ましくは0≦(B2)≦0.30である。上記(B2)成分の上記配合比が0.50以下であると、成型材料の流動性が高くなりすぎず、成型時の強度不足が起こらず、離型時にクラックなどが発生しない。また、(B2)成分の配合比が0を超えていれば成型材料の流動性が十分であり、ボイドや未充填が発生しない。
【0035】
また、(B2)成分の具体例としては下記に示されるような直鎖状構造が挙げられる。
(Me2SiO2/2)0.68(Ph2SiO2/2)0.30(Me2ViSiO1/2)0.02
(PhMeSiO2/2)0.9(Me2ViSiO1/2)0.1
[(Vi3SiO1/2)]2
(Vi3SiO1/2)0.33(Me2SiO2/2)0.67
(Vi3SiO1/2)0.2(Me2SiO2/2)0.8
【0036】
(C)有機過酸化物
(C)成分の有機過酸化物は、(B)成分のアルケニル基の熱重合開始剤として用いられ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、パラメチルベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(C)成分の有機過酸化物の配合量としては、(B)成分100質量部に対して、0.01~10質量部であり、0.05~7.5質量部が好ましい。0.01質量部未満であると、成型後強度が発現せず形状維持が難しいため好ましくない。また、10質量部を超えて添加すると、成型時に硬化が速すぎてフローマークが出たり、ボイドが残存したりすることで成型不良になりやすい。
【0038】
(B)成分及び(C)成分は、(B)成分及び(C)成分からなる組成物の硬化物において、JIS K 7120:1987記載の方法により空気中で測定したTGA分析による残分率が30質量%以上となるように選択されることが好ましい。
【0039】
本発明の(A)、(B)および(C)成分以外にも、必要に応じて他の成分も配合することができる。なお、その他の成分としては、シリコーン系やフッ素系の離型剤、シリカとの密着性を向上させるシランカップリング剤、成型時のボイド抑制のための消泡剤などが挙げられる。これら他の成分は、1種だけでなく、2種以上を配合してもよい。なお、前記シランカップリング剤は、前記(B)成分の有機ケイ素系バインダーとは異なり、分子中にアルケニル基を有さないことが好ましく、更にはアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤であることがより好ましい。
【0040】
<透明シリカガラス基板>
本発明の透明シリカガラス基板は、上記の透明シリカガラス基板用組成物の焼結体である。このような本発明の透明シリカガラス基板であれば、バインダーとして例えばシリカの構成元素であるケイ素や酸素を含むオルガノポリシロキサンを用い、有機過酸化物を熱重合開始剤として用いることにより、良好に成型でき、クラックやボイドを低減することができるものである。そして高誘電化の原因となる不純物元素などがないため、高周波帯と呼ばれる10GHz以上の領域でもガラス化することができ、石英のように形状加工などの操作が必要なく、研磨などで複雑な基板形状も作成することができ、安価で高品質な低誘電特性を有する基板を容易に作製することができるものである。
【0041】
<透明シリカガラス基板の製造方法>
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0042】
透明シリカガラス用組成物調製工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、まず、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含む透明シリカガラス基板用組成物を調製する。なお、(A)~(C)成分については、上述の透明シリカガラス基板用組成物の説明で挙げたものと同様のものを使用することができる。組成物は、上述した各成分を同時に、または別々に、必要により加熱処理を加えながら撹拌、溶解、混合及び分散させることにより調製することができるが、特に、(B1)、(B2)および(A)成分を先に混合した後に(C)有機過酸化物と混合することが好ましい。
【0043】
(A)繊維状ガラスと(B)有機ケイ素系バインダーを混合する際、および(C)有機過酸化物を混合する際の撹拌などの操作に用いる装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー、自転公転式ミキサー、ニーダーなどを用いることができる。また、これら装置を適宜組み合わせてもよい。
【0044】
成型工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、次に、上記のようにして調製した透明シリカガラス基板用組成物を成型し、成型体を作製する。成型方法は特に限定されず、公知の方法で所望の形状に成型すればよい。成型温度は例えば100~300℃、好ましくは150~250℃、より好ましくは150~200℃である。成型時間は例えば1分間~5時間、好ましくは1分間~1時間、より好ましくは1分間~30分間である。
【0045】
脱脂工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、次に、上記のようにして作製した成型体を400~1,200℃で10分間~72時間加熱し、脱脂する。透明シリカガラス基板用組成物は、脱脂することにより徐々に炭素成分が除去される。脱脂工程がないと、焼結時に残存する炭素成分が炭化してしまい、失透の原因となる。脱脂工程は塩化水素ガス以外、例えばヘリウムガスや窒素ガスの雰囲気下で加熱温度が400~1,200℃、好ましくは500~1,000℃で10分~72時間、好ましくは1~6時間処理する。加熱温度が400℃未満では脱脂が十分に進まず、焼結時に失透する。加熱温度が1,200℃を超えると、シリカの結晶化が進み失透する。
【0046】
純化工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、焼結工程前にAl、NaおよびFeなどを除去する工程である純化工程を取り入れてもよい。純化工程を行う場合は、例えば塩化水素ガス雰囲気下で加熱温度が好ましくは1,000~1,500℃、より好ましくは1,000~1,300℃、更に好ましくは1,100~1,300℃で、好ましくは0.5~5時間、より好ましくは0.5~2時間の条件で処理する。
【0047】
焼結工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、次に、上記のようにして脱脂(必要に応じて純化)した成型体を1,400~2,100℃で1分~10時間加熱し、焼結することで透明シリカガラス基板を作製する。脱脂後の本発明の透明シリカガラス用組成物の焼結条件は特に制限されるものではないが、通常、不活性ガス、例えばヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの雰囲気下で1,400~2,100℃、好ましくは1,700~2,100℃で焼結させることができる。1,400℃未満ではシリカ同士の融着により焼結が進まず、失透する。2,100℃より高温ではシリカの結晶化が促進され、失透する。焼結時間は1分~10時間、好ましくは1分~1時間程度で焼結させることができる。焼結時間が1分未満だと繊維状ガラス同士が十分に融着せず、失透する場合もある。焼結時間が10時間を超えるとシリカの結晶化がさらに進んでしまうため失透する。
【0048】
検査工程
本発明の透明シリカガラス基板の製造方法では、焼結工程後に検査工程として、紫外領域の透過性を測定するために、JIS K 7105:1981記載の方法で厚さ1.7mmの透明シリカガラス基板の透過率を測定する工程を追加することができる。波長が300~800nmの全領域おける透過率が60%以上であれば好ましく、65~100%であればさらに好ましい。このような光透過率であれば、高周波帯の電波が、表面だけでなく裏面からも受信できることにより効率よく受信することができる。上記範囲の光透過性を有する透明シリカガラス基板を検査工程によって選別することで、高純度・高透明なガラス基板成型体のみを得ることができる。
【0049】
このような本発明の透明シリカガラス基板の製造方法であれば、バインダーとして1個以上のケイ素原子を有する有機ケイ素系バインダーを用いることで、有機基をできるだけ少なくすることができるため、バインダー中の炭素成分を燃焼させるための脱脂工程にかかる時間を短縮することができ、しかも高温時に反応が進むことによりバインダーがシリカとなるため、従来のバインダーとは異なり脱脂及び焼結時の体積収縮を極限まで減らすことができる。また、前記有機ケイ素系バインダーの過酸化物硬化により成型可能であることから、緻密な成型体を流動性良く製造することができ、従って、ボイドやクラックが発生する恐れがなく、上記のような高透明かつ高精度の透明シリカガラス基板を容易に製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、以下の式において、Meはメチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基である。
【0051】
本発明の実施例および比較例で用いた材料を示す。
[繊維状ガラスおよびシリカ粒子]
繊維状ガラスおよびシリカ粒子としては、下記表1に記載したものを用いた。長径石英カットファイバーについては平均フィラメント径4μmの石英ガラスヤーンを長さ5mmmにカットしたものを用いた。なお、合成石英粉としては破砕状シリカを用いた。
平均フィラメント径は、SEMによる画像観察での測定値を用いた。平均粒径はレーザー回折式粒度分布祖測定装置(日機装(株)製「MicrotracHR(X-100)」)による体積平均径の値を用いた。
【0052】
アスペクト比は、SEMによって撮影されたSEM画像を、画像解析ソフト(三谷産業(株)製 WINROOF2015)で求めた平均繊維長(L)と平均フィラメント径(d)の比、L/dの値を用いた。
【0053】
金属不純物量は、ICP-OES(Agilent社製730-ES ICP-OES)で測定した。サンプル0.3gをフッ酸および硝酸で溶解後、該溶液を加熱乾固させ、該乾固物に対して濃硝酸0.35mL及び適量の水を加えて加熱濃縮し、再度水で2mLに定容し測定用溶液を調整した。得られた測定値から、絶対検量線法によってAl、Fe、Na、U、Th量を定量した。
【0054】
【表1】
SQMBC(信越石英(株)製 石英ガラスカットファイバー)
SQME(信越石英(株)製 石英ガラスカットファイバー)
長径石英カットファイバー 石英ヤーン(信越石英(株)製 フィラメント径4μmのヤーンを長さ5mmにカット)
アドマファインSO-E5:アドマテックス(株)製
GB-AC:マコー(株)製
MKCシリカ:日本化成(株)製(破砕状シリカ)
【0055】
(B1)アルケニル基含有オルガノポリシロキサンについては
アルケニルオルガノポリシロキサンA
(MeSiO3/2)単位 19.8mol%
(PhSiO3/2)単位 30mol%
(Me2SiO2/2)単位 30mol%
(Me2ViSiO1/2)単位 20mol%
(OH)単位 0.2mol%
ビニル基当量 0.2mol/100g
アルケニルオルガノポリシロキサンB
(PhSiO3/2)単位 55mol%
(Me2SiO2/2)単位 24.2mol%
(MeViSiO2/2)単位 20mol%
(OH)単位 0.8mol%
ビニル基当量 0.2mol/100g
アルケニルオルガノポリシロキサンC
(SiO4/2)単位 54mol%
(Me3SiO1/2)単位 28mol%
(MeViPhSiO1/2)単位 12mol%
(OMe)単位 3mol%
(OH)単位 3mol%
ビニル基当量 0.16mol/100g
を使用した。
【0056】
(B2)のアルケニル基含有オルガノ(ポリ)シロキサンについては
アルケニルオルガノジシロキサンD
(Vi3SiO1/2)単位 100mol%
ビニル基当量 2.56mol/100g
アルケニルオルガノポリシロキサンE
(Me2SiO2/2)単位 68mol%
(Ph2SiO2/2)単位 30mol%
(Me2ViSiO1/2)単位 2mol%
ビニル基当量 0.03mol/100g
アルケニルオルガノポリシロキサンF
(PhMeSiO2/2)単位 90mol%
(Me2ViSiO1/2)単位 10mol%
ビニル基当量 0.08mol/100g
アルケニルオルガノジシロキサンG
(Vi3SiO1/2)単位 33.3mol%
(Me2SiO2/2)単位 66.7mol%
ビニル基当量 1.35mol/100g
を使用した。
【0057】
(C)有機過酸化物については
有機過酸化物A:ジクミルパーオキサイド
を使用した。
【0058】
その他の成分として
オルガノポリシロキサンH
(PhSiO3/2)単位 33mol%
(Me2HSiO1/2)単位 67mol%
ヒドロシリル基当量 0.759mol/100g
を使用した。
ヒドロシリル化白金触媒として塩化白金酸のビニルオルガノポリシロキサン錯体(白金量として1質量%)、抑制剤として3-メチル-1-トリデシン-3-オール(EMDC)を用いた。
また、メチルセルロース(商品名:メトローズSM-4000、信越化学工業(株)製)、ポリビニルアルコール(商品名:PXP-05、日本酢ビポバール(株)製)を用いた。
【0059】
(実施例1~7、比較例1~10)
まず、表2に示す配合で(A)成分及び(B)成分を混合し、最後に(C)成分を混合して、透明シリカガラス基板用組成物を調製する。その組成物を用いて以下の特性を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
[成型性]
ガラスカットファイバー混合後の組成物を30×30×2mmおよび50×50×0.2mmの金型に注入し、圧縮成型機(TOWA株式会社製)を用いて成型圧力0.5MPaで170℃×3分間加熱して成型し、得られた成型体のフローマーク、未充填(ボイド)、未硬化、クラックの有無を確認した。評価結果は2mm厚と0.2mm厚とでそれぞれ記載した。
【0061】
[外観]
前記成型性の評価と同じ条件で成型した2種のサンプルを800℃×2時間加熱することで脱脂し、その後に焼成炉(島津産機システムズ社製 VESTA)を用いて1850℃で10分間加熱し、焼結した。焼結後のサンプルは、厚さがそれぞれ焼結前2mm厚のものが1.7mm、焼結前0.2mm厚のものが0.17mmであった。そのサンプルの外観を目視にて評価し、色調、透明性、クラックおよびボイドの有無などを評価した。無色透明でクラックやボイドがない場合は、「無色透明」と記載し、何か異常がある場合はその旨表2に記載した。
【0062】
[透過率]
前記外観を評価した焼結後の厚さ1.7mmのサンプルを用いて、波長が300~800nmの範囲の光における透過率を紫外可視光分光光度計(日立テクノシステム社製 U-4100)で、走査速度300nm/分で、任意のサンプル3個を測定した。その中での最高、最低および平均の光透過率を評価した。焼結物にクラックなどが生じ、測定できなかった場合は「測定不可」と記載した。
【0063】
[バインダー成分の残分率]
(B)および(C)の混合物を調製し、圧縮成型機で170℃、3分で成型した。その成型物をTGA装置(TAインスツルメント製 Q500)で、該成型物のサンプル10mgを秤量し、25℃から1,000℃まで昇温速度を20℃/分で昇温して、1,000℃で30分間保持した後、サンプル質量を測定して下記式によって残分率を求めた。
【0064】
[焼結ガラスの誘電特性]
厚さ0.17mmの各焼結ガラスにおいて、10GHzでネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、ASTM D 3380(1990)に記載の方法で比誘電率と誘電正接を測定した。
【0065】
【0066】
表2に示されるように、実施例1~7で作製した透明シリカガラス基板用組成物は、成型性が良く、ボイドやクラックがなく高透明であり、容易に成型体を製造することができた。
【0067】
比較例1のようにガラスカットファイバーの含有量が少なすぎたり、比較例2~4のように有機過酸化物が配合されずに、バインダー成分の付加反応や縮合反応が起きたりすると、短時間での成型ではフローマークや未硬化などが発生し、短時間で成型できたとしても緻密な成型体を成型できず、焼結後にはクラックが発生してしまった。比較例5及び6のように有機ケイ素系バインダー以外のバインダーを使用すると、脱脂工程でほとんどの炭素成分が除去されて失透が発生してしまう。また、比較例7、8のように、シリカ粒子の粒径が大きすぎたり、アスペクト比が小さすぎたりすると、焼結時に空洞が大きすぎてボイドになったりして成型出来なくなってしまう。比較例9のように繊維状ガラスのアスペクト比が大きすぎると、成型性が全般的に悪くなってしまう。さらに、比較例10のようにシリカ粒子の粒径は小さいものの、アスペクト比が小さすぎると、未充填やクラックが発生してしまう。
また、本発明の透明シリカガラス基板の製造方法により作成したシリカガラスは、透明であり、薄膜で成型出来るにもかかわらず、誘電特性が非常に低くなっていることから、高周波帯の透明基板として有用である。
【0068】
以上のことから、本発明であれば、短時間で薄膜でも緻密な成型体を成型することができ、焼結後でもクラックやボイドがない透明な焼結体を容易に製造することができることが明らかとなった。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。