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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】偏光撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 4/04 20060101AFI20220708BHJP
   G01J 3/447 20060101ALI20220708BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20220708BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20220708BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220708BHJP
   G02B 5/32 20060101ALN20220708BHJP
【FI】
G01J4/04 Z
G01J3/447
G02B5/18
G03B11/00
C08L101/02
G02B5/32
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019537643
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2018030902
(87)【国際公開番号】W WO2019039486
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017160221
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】坂本 盛嗣
(72)【発明者】
【氏名】野田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】川月 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】筒井 皇晶
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕平
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-121235(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031567(WO,A1)
【文献】特開2007-304215(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061536(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0268745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 4/04
G01J 3/00-G01J 3/52
G02B 5/00-G02B 5/32
G02B 27/42
G03B 11/00
C08L 101/02
G01N 21/00-G01N 21/61
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性が周期的に変調された異方性回折格子素子、レンズ素子、及び受光素子を有する偏光撮像装置であって、
前記異方性回折格子素子が、
I)第1の透明基体層;及び
II)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第1の光反応性側鎖を有する第1の光反応性高分子膜;
III)第2の透明基体層;及び
IV)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第2の光反応性側鎖を有する第2の光反応性高分子膜;
を有し、
前記II)第1の光反応性高分子膜と前記IV)第2の光反応性高分子膜とが対向するように配置し、前記II)第1の膜及び前記IV)第2の膜の間に、(B)低分子液晶層が配置される異方性回折格子を含む
上記偏光撮像装置。
【請求項2】
前記異方性回折格子素子が、互いに方向の異なる複数個の格子ベクトルを有する異方性回折格子を有し、前記格子ベクトルは少なくとも異方性方位又は複屈折が周期的に変調される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記異方性回折格子素子が、入射光のストークスパラメータの情報を、異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子を有する、請求項1又は請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記回折格子素子が、5%以上の回折効率を有する、請求項1~3のいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記(B)低分子液晶層の低分子液晶が、シアノビフェニル類;コレステリルエステル類;炭酸エステル類;シッフ塩基類;ベンジジン類;アゾキシベンゼン類;フェニルシクロヘキシル系、ターフェニル系、フェニルビシクロヘキシル系の液晶から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜に所望の偏光を干渉露光し、該第1及び第2の光反応性高分子膜に任意の回折パターンを形成することで、該第1及び第2の光反応性高分子膜に入射する光のストークスパラメータの情報を、該第1及び第2の光反応性高分子膜に形成された異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子とする請求項1~5のいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(1)~(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化1】
【請求項8】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(7)~(10)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化2】
【請求項9】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(11)~(13)
(式中、Aは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表し、m1は1~3の整数を表す;
Rは、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良いか、又はヒドロキシ基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化3】
【請求項10】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(14)又は(15)
(式中、Aはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化4】
【請求項11】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(16)又は(17)(式中、Aは単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化5】
【請求項12】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(18)又は(19)
(式中、A、Bはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
は、水素原子、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化6】
【請求項13】
前記第1及び第2の光反応性高分子膜が、下記式(20)
(式中、Aは、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性回折格子を具備する偏光撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光状態を計測する技術は古くから様々な手法が報告されている。
最も代表的な偏光計測の手法は、回転する偏光子及び波長板を利用する回転検光子法と回転移相子法である。これらの手法では、偏光素子を回転させながら入射光の偏光状態に応じた光強度の時間波形を観測する。さらに得られた時間波形をフーリエ解析し、ストークスパラメータの情報を復元する。この手法は研究の歴史が長く、様々な誤差低減が施されており測定精度が高いことが特徴である。しかし一方で、時間的に偏光素子を回転させながら複数回に分けてストークスパラメータの復元に必要な情報を取得するため、時間的に偏光状態が変化するような被測定物には不向きな手法である。偏光計測を医療装置やリモートセンシング等へと応用することを考えると、動的な物体の偏光状態の測定の必要性は極めて高く、スナップショットでの偏光空間分布計測が求められる。
【0003】
スナップショットでの偏光空間分布計測を可能にする偏光カメラとしての偏光計測法には、本発明の以前に先行例がいくつか存在する。
その一例は、光受光素子アレイ上に波長板ないし偏光子をその光学軸方位を4方位に分けたものを分布させ、4画素あたりで回転検光子法ないし回転移相子法に相当する計測を担わせるというものである(非特許文献1又は2)。本手法では、偏光素子を回転させるための機械的稼動部が不要であり、さらに一度の画像取得でストークスパラメータの取得に必要な情報が得られるので、静的且つスナップショットでのイメージング偏光計測が可能となる。しかしながら、光受光素子のアレイと偏光素子のアレイの位置を正確に合わせる必要があり、作製が容易ではない。また、偏光素子アレイの境界部で生じる位相差の不連続性により、測定上好ましくない回折光が生じるおそれもある。
【0004】
スナップショットでの偏光イメージングを可能とする先行研究のもうひとつの例が、偏光干渉の際の空間キャリアを利用した偏光サバール板を用いた撮像偏光計である(非特許文献3)。
この手法では前述のアレイ素子のような回折の影響が生じない。ただし、本手法ではサバール板等の高額な光学素子を要するため、コストが大きくかかる難点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Sato, T. Araki, Y. Sasaki, T. Tsuru, T. Tadokoro, and S. Kawakami, “Compact ellipsometer employing a static polarimeter module with arrayed polarizer and wave-plate elements,” Appl. Opt. 46, 4963-4967 (2007).
【文献】G. Myhre, W. L. Hsu, A. Peinado, C. LaCasse, N. Brock, R. A. Chipman, and S. Pau, “Liquid crystal polymer full-stokes division of focal plane polarimeter,” Opt. Express 20, 27393-27409 (2012).
【文献】H. Luo, K. Oka, E. DeHoog, M. Kudenov, J. Schiewgerling, and E. L. Dereniak, “Compact and miniature snapshot imaging polarimeter,” Appl. Opt. 47, 4413-4417 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、機械的稼動部を必要とせず、スナップショットでの偏光イメージング計測が可能である偏光撮像装置、特に偏光素子についての高精度な位置合わせを必要としない偏光撮像装置、より特にコスト面においても比較的安価である偏光撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> 光学異方性が周期的に変調された異方性回折格子素子、レンズ素子、及び受光素子を有する偏光撮像装置。
<2> 上記<1>において、異方性回折格子素子が、互いに方向の異なる複数個の格子ベクトルを有する異方性回折格子を有し、前記格子ベクトルは少なくとも異方性方位又は複屈折が周期的に変調されるのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、異方性回折格子素子が、入射光のストークスパラメータの情報を、異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子を有するのがよい。
【0008】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかにおいて、異方性回折格子素子が、(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子膜を有する異方性回折格子を含むのがよい。
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、異方性回折格子素子が、光反応性高分子膜からなる異方性回折格子を含むのがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、異方性回折格子素子が、
I)第1の透明基体層;及び
II)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第1の光反応性側鎖を有する第1の光反応性高分子膜
を有する異方性回折格子を含むのがよい。
【0009】
<7> 上記<1>~<4>及び<6>のいずれかにおいて、異方性回折格子素子が、
III)第2の透明基体層;及び
IV)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第2の光反応性側鎖を有する第2の光反応性高分子膜;及び
を有し、
前記II)第1の光反応性高分子膜と前記IV)第2の光反応性高分子膜とが対向するように配置し、前記II)第1の膜及び前記IV)第2の膜の間に、(B)低分子液晶層が配置される異方性回折格子を含むのがよい。
【0010】
<8> 上記<4>~<7>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜に所望の偏光を干渉露光し、該高分子薄膜に任意の回折パターンを形成することで、該高分子薄膜に入射する光のストークスパラメータの情報を、該高分子薄膜に形成された異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子とするのがよい。
<9> 上記<1>~<8>のいずれかにおいて、異方性回折格子素子が±1次光の回折効率が良い異方性回折格子を有するのがよい。
【0011】
<10> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(1)~(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0012】
【化1】
【0013】
<11> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(7)~(10)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0014】
【化2】
【0015】
<12> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(11)~(13)
(式中、Aは、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表し、m1は1~3の整数を表す;
Rは、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良いか、又はヒドロキシ基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0016】
【化3】
【0017】
<13> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(14)又は(15)
(式中、Aはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0018】
【化4】
【0019】
<14> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(16)又は(17)(式中、Aは単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは、1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)
で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0020】
【化5】
【0021】
<15> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(18)又は(19)
(式中、A、Bはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
は、水素原子、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基を表す)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0022】
【化6】
【0023】
<16> 上記<4>~<9>のいずれかにおいて、光反応性高分子膜が、下記式(20)
(式中、Aは、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
lは1~12の整数を表し、mは0~2の整数を表す)で表される光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有するのがよい。
【0024】
【化7】
【発明の効果】
【0025】
本発明により、機械的稼動部を必要とせず、スナップショットでの偏光イメージング計測が可能である偏光撮像装置、特に偏光素子についての高精度な位置合わせを必要としない偏光撮像装置、より特にコスト面においても比較的安価である偏光撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】多重記録異方性回折格子の概略図を示す。
図2】PL格子の回折特性に基づいてIA±,IB±,IC±の入射偏光の振幅比角Ψに対する依存性を示す図である。
図3】本発明の偏光撮像装置の概略を説明する図である。
図4】実施例で用いた偏光撮像装置の構成を説明する図である。
図5】コガネムシを被写体として用い、実施例で用いた偏光撮像装置を用いてイメージング計測の結果の画像である。
図6図5で得られた画像から、-1次光成分(I-1)と+1次光成分(I+1)の像を画像処理により抽出し、差分計算を施して求めたSのイメージング画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<偏光撮像装置>
本願は、異方性回折格子を具備する偏光撮像装置を提供する。
電磁波の電場ベクトルの軌跡が偏りを描く性質である「偏光」は、電磁波の持つ一つの特性として幅広く利用されている。電磁波が物質と相互作用(反射・散乱・吸収など)すると、電磁波の偏光状態が変わり、その偏光変化には物質固有の様々な情報が含まれている。すなわち、被写体の偏光特性を測定することで、物質固有の情報を非接触・非破壊で調べることができる。本願の偏光撮像装置は、被写体からの散乱光のストークスパラメータ(偏光状態を記述するパラメータ)の空間分布をスナップショットでイメージング計測を行うことができる。
【0028】
本願の偏光撮像装置は、光学異方性が周期的に変調された異方性回折格子素子、レンズ素子、及び受光素子を有する。
なお、被写体側から順に、レンズ素子、異方性回折格子素子、及び受光素子を配置するのがよい。上述の素子以外の、その他の素子を所望により配置してもよい。
【0029】
<異方性回折格子素子>
本願の偏光撮像装置は、光学異方性が周期的に変調された異方性回折格子素子を有する。該異方性回折格子素子を用いたストークスパラメータ測定の原理を以下に説明する。
電磁波の偏光状態は4つの要素から成るストークスベクトル(S,S,S,S)で表すことができる。
ここで、S:全光強度、S:0deg直線偏光成分と90deg直線偏光成分の差、S:45deg直線偏光成分と-45deg直線偏光成分の差、S:右回り円偏光成分と左回り円偏光成分の差を意味しており、ストークスパラメータと呼ばれる。
0deg直線偏光成分と90deg直線偏光成分の間の振幅比角と位相差をそれぞれΨとΔとすると、各ストークスパラメータは下記式(1)で定義される。
【0030】
【数1】
【0031】
被写体から反射・散乱・透過してきた光の強度情報からこれら4要素を求めることで、被写体の偏光特性を明らかにすることができる。
本願の偏光撮像装置は、これらストークスパラメータを1度の画像取得でイメージング計測することを特徴とする。本装置の偏光検出の原理は、光学異方性が周期的に変調された異方性回折格子素子に基づく。
装置の構成等について述べる前に、偏光ホログラム記録により作製される異方性回折格子の回折特性について述べる。
【0032】
一般に、偏光感受性を有する記録材料には、照射偏光の偏光方位と偏光楕円率に応じて光学異方性の方位と複屈折の大きさが記録される。今、互いに振幅の等しい2つの0deg直線偏光(即ちp偏光)を一定の交差角を与えて干渉させ、形成される光電場を偏光記録材料へと照射することを考える(本願において、特記しない限り、このケースをPL干渉(Parallel linear polarization interference)と呼ぶ)。この場合、誘起される異方性の大きさが光強度に比例すると仮定すると、誘起される異方性分布を表すJones行列は、下記式(2)で表される。ここで、Δγ=πΔnd/λであり、Δnは偏光誘起複屈折の最大値、dは記録材料の膜厚、λは被回折光の波長である。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで、式(2)をフーリエ級数展開すると、±1次の回折に寄与するJones行列成分は下記式(3)で表される。ここで、入射光のJonesベクトルを下記式(4)と定義すると、下記式(3)及び(4)を用いて、±1次の回折光の強度は下記式(5)で表すIPL ±が求められる。
したがって、PL記録により形成された異方性格子の回折光強度は、入射光の振幅比角Ψに強く依存することが分かる。以降、本願において特記しない限り、該格子をPL格子と称する。
【0035】
【数3】
【0036】
次に、互いに振幅の等しい逆回りの円偏光を干渉させて偏光記録材料へと照射することを考える(本願において、特記しない限り、このケースをOC干渉(Orthogonal circular polarization interference)と呼ぶ)。OC干渉の場合、記録により形成される異方性分布のJones行列は下記式(6)で表すことができる。
また、式(6)を展開して下記式(7)を得ることができ、式(7)から、PL記録の場合と同様に、式(4)で与えられる入射偏光に対する回折光の強度を求めると、下記式(8)で表すTOC ±が求められる。
したがって、OC干渉により記録されたOC記録により形成された異方性格子の回折光強度は、入射光の位相差に依存することが分かる。以降、簡単のために本格子をOC格子と称する。
【0037】
【数4】
【0038】
上述のとおり、偏光ホログラム記録により偏光記録材料中に形成された異方性回折格子は、入射偏光状態に依存した回折特性を示す。このため、入射光の偏光情報を強度情報として空間的に分離することが可能となる。したがって、各回折次数光の強度情報からストークスパラメータの値を導出することができる。一例として、異なる格子ベクトルを持つ4つの異方性回折格子が重ね書きされたストークスパラメータ検出素子について概説する。
【0039】
回折格子の概略図を図1に示す。
この異方性回折格子は、4つの格子A,B,C,Dを偏光記録材料内で多重記録したものである。このうち、A,B,CはPL格子、DはOC格子であり、それぞれの格子ベクトルは互いに45度の角度を成すように配置されている。ここで、各格子は記録材料中で独立に形成されているものと仮定し、この膜に偏光した光を垂直入射させた場合にスクリーン上で観測される±1次の回折光の強度をIm+およびIm-と定義する。なお、m=A, B, C, Dであり、IA+は格子Aに対する+1次光の強度を意味する。
ここで、上記式(5)から分かるように、PL格子に対応するIA±,IB±,IC±は入射光の振幅比角Ψに依存して正弦的に変化する。また、m式(5)からPL格子の場合は入射光の偏光状態に依存せずに±1次の回折光強度が等しくなるので、IA+=IA-=I、IB+=IB-=I、IC+=IC-=Iが成り立つ。
一方、式(8)より、OC格子に対応するID±は入射光の位相差Δに依存して振動する。
以上より、ストークスパラメータの内S、S、Sは式(1)から、下記式(9)が求められる。ここで、aPLとaOCは比例定数である。
一方、式(1)から下記式(10)及び(11)が求められる。
【0040】
【数5】
【0041】
すなわち、Sの情報から振幅比角Ψの絶対値を求めることができ、Sの情報から位相差Δを求めることができる。
ここで、PL格子の回折特性に基づいてIA±,IB±,IC±の入射偏光の振幅比角Ψに対する依存性を図2に示す。
図2から、I>(I+I)/2のとき振幅比角はΨ<0となり、<(I+I)/2のとき振幅比角はΨ>0となることがわかる。
即ち、Iの大きさから振幅比角Ψの符号を求めることができる。さらに、得られた振幅比角Ψと位相差Δを上記式(1)に代入することによりSが求められる。したがって、図1の異方性回折格子からの回折光I,I,I,ID±から入射光のストークスパラメータの全要素を求めることができる。なお、ストークスパラメータの導出に必要な強度情報が得られるのであれば、図1の異方性回折格子とは異なる異方性パターンでもストークスパラメータの測定は可能である。
【0042】
異方性回折格子素子は、互いに方向の異なる複数個の格子ベクトルを有する異方性回折格子を有し、前記格子ベクトルは少なくとも異方性方位又は複屈折が周期的に変調されるのがよい。
また、異方性回折格子素子が、入射光のストークスパラメータの情報を、異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子を有するのがよい。さらに、異方性回折格子素子が±1次光の回折効率が良い異方性回折格子を有するのがよい。PL格子、OC格子それぞれにおいて、±1次光の回折効率が最も良い理想的な位相差は上記式(5)と(8)から求められる。
具体的には、OC格子の場合、5%以上の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では0.448+2πm~5.82+2πm(m:自然数)の範囲、好ましくは50%以上の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では1.57+2πm~4.71+2πm(m:自然数)の範囲、理想的には100%の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では3.14+2πm(m:自然数)であるのがよい。
また、PL格子の場合、5%以上の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では0.916~6.58、9.70~12.4、15.8~18.3、22.8~24.0の範囲、好ましくは15%以上の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では1.69~5.72の範囲、理想的には33.8%の回折効率、即ち位相差(δ=2πΔnd/λ)では3.68であるのがよい。
【0043】
異方性回折格子素子は、次のように調製することができる。
即ち、異方性回折格子素子は、(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子膜を有する異方性回折格子を含むのがよい。
また、異方性回折格子素子が、光反応性高分子膜からなる異方性回折格子を含むのがよい。この場合、光反応性高分子膜に形成される回折パターンから得られる±1次光の回折効率を良くする必要があるため、光反応性高分子膜に用いられる光反応性高分子は、所望の偏光の干渉露光により、大きな位相差、具体的には上述の範囲の位相差が誘起できる高分子が良い。
【0044】
異方性回折格子素子は、
I)第1の透明基体層;及び
II)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第1の光反応性側鎖を有する第1の光反応性高分子膜
を有する異方性回折格子を含むのがよい。
また、異方性回折格子素子は、
III)第2の透明基体層;及び
IV)(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる第2の光反応性側鎖を有する第2の光反応性高分子膜;及び
を有し、
前記II)第1の光反応性高分子膜と前記IV)第2の光反応性高分子膜とが対向するように配置し、前記II)第1の膜及び前記IV)第2の膜の間に、(B)低分子液晶層が配置される異方性回折格子を含むのがよい。
【0045】
<<第1及び第2の透明基体層>>
第1及び第2の透明基体層は、透明基体からなる。
透明基体として、偏光撮像装置として用いる特性に依存するが、例えば、ガラス;アクリルやポリカーボネート等のプラスチック等;を用いることができる。例えば、透明基体として、偏光紫外線を透過する特性を有するのがよい。
【0046】
<<(B)低分子液晶層>>
ここで、B)低分子液晶層に含まれる低分子液晶は、従来、液晶表示素子などに用いられているネマチック液晶や強誘電性液晶などを用いることができる。
具体的には、低分子液晶として、4-シアノ-4’-n-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-n-フェプチロキシビフェニル等のシアノビフェニル類;コレステリルアセテート、コレステリルベンゾエート等のコレステリルエステル類;4-カ ルボキシフェニルエチルカーボネート、4-カルボキシフェニル-n-ブチルカーボネート等の炭酸エステル類;安息香酸フェニルエステル、フタル酸ビフェニ ルエステル等のフェニルエステル類;ベンジリデン-2-ナフチルアミン、4’-n-ブトキシベンジリデン-4-アセチルアニリン等のシッフ塩基類;N,N’-ビスベンジリデンベンジジン、p-ジアニスアルベンジジン等のベンジジン類;4,4’-アゾキシジアニソール、4,4’-ジ-n-ブトキシ アゾキシベンゼン等のアゾキシベンゼン類;以下に具体的に示すフェニルシクロヘキシル系、ターフェニル系、フェニルビシクロヘキシル系などの液晶;などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0047】
【化8】
【0048】
【化9】
【0049】
【化10】
【0050】
なお、上述の光反応性高分子膜に所望の偏光を干渉露光し、該高分子薄膜に任意の回折パターンを形成することで、該高分子薄膜に入射する光のストークスパラメータの情報を、該高分子薄膜に形成された異方性方位および複屈折の分布に応じて空間的に分離し、強度情報へと変換する異方性回折格子とするのがよい。
【0051】
<<光反応性高分子膜>>
上述の光反応性高分子膜は、(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子を有して形成されるのがよい。
なお、本明細書において光反応性とは、(A-1)光架橋、又は(A-2)光異性化、のいずれかの反応;及び双方の反応;を生じる性質をいう。
光反応性高分子は、好ましくは(A-1)光架橋反応を生じる側鎖を有するのがよい。
【0052】
光反応性高分子は、i)所定の温度範囲で液晶性を発現する高分子であって、光反応性側鎖を有する高分子である。
光反応性高分子は、ii)250nm~450nmの波長範囲の光で反応し、かつ50~300℃の温度範囲で液晶性を示すのがよい。
光反応性高分子は、iii)250nm~450nmの波長範囲の光、特に偏光紫外線に反応する光反応性側鎖を有することが好ましい。
光反応性高分子は、iv)50~300℃の温度範囲で液晶性を示すためメソゲン基を有することが好ましい。
【0053】
光反応性高分子は、上述のように、光反応性を有する光反応性側鎖を有する。該側鎖の構造は、特に限定されないが、上記(A-1)及び/又は(A-2)に示す反応を生じる構造を有し、(A-1)光架橋反応を生じる構造を有するのが好ましい。(A-1)光架橋反応を生じる構造は、その反応後の構造が、熱などの外部ストレスに曝されたとしても、光反応性高分子の配向性を長期間安定に保持できる点で好ましい。
光反応性高分子の側鎖の構造は、剛直なメソゲン成分を有する方が、液晶の配向が安定するため、好ましい。
【0054】
メソゲン成分として、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルベンゾエート基、アゾベンゼン基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0055】
光反応性高分子の主鎖の構造として、例えば、炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができるがこれに限定されない。
また、光反応性高分子の側鎖として、下記式(1)~(6)の少なくとも1種からなる側鎖であるのが好ましい。
【0056】
【化11】
【0057】
式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す;
Sは、炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1~12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR(式中、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を表すか、又はYと同じ定義を表す;
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン-6-イル基またはクマリン-7-イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが-CH=CH-CO-O-、-O-CO-CH=CH-である場合、-CH=CH-が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0~2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。
【0058】
側鎖は、下記式(7)~(10)からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、B、D、Y、X、Y、及びRは、上記と同じ定義を有する;
lは1~12の整数を表す;
mは、0~2の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す。
【0059】
【化12】
【0060】
側鎖は、下記式(11)~(13)からなる群から選ばれるいずれか1種の光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、X、l、m、m1及びRは、上記と同じ定義を有する。
【0061】
【化13】
【0062】
側鎖は、下記式(14)又は(15)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、Y、l、m1及びm2は上記と同じ定義を有する。
【0063】
【化14】
【0064】
側鎖は、下記式(16)又は(17)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、X、l及びmは、上記と同じ定義を有する。
【0065】
【化15】
【0066】
側鎖は、下記式(18)又は(19)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
(式中、A、B、Y、Rは、上記と同じ定義を有する。
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
lは1~12の整数を表し、m1、m2は1~3の整数を表す;
【0067】
【化16】
【0068】
側鎖は、下記式(20)で表される光反応性側鎖であるのがよい。
式中、A、Y、X、l及びmは上記と同じ定義を有する。
【0069】
【化17】
【0070】
また、光反応性高分子膜を形成する成分として、下記式(21)~(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有する高分子を有してもよい。例えば、光反応性高分子膜を形成する上述の高分子の光反応性側鎖が液晶性を有しない場合、又は、光反応性高分子膜を形成する上述の高分子の主鎖が液晶性を有しない場合、光反応性高分子膜を形成する成分は、下記式(21)~(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有するのがよい。
式中、A、B、q1及びq2は上記と同じ定義を有する;
は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-NO、-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
は、水素原子、-NO、-CN、-CH=C(CN)、-CH=CH-CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、炭素数5~8の脂環式炭化水素、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数1~12のアルコキシ基を表す;
lは1~12の整数を表し、mは0から2の整数を表し、但し、式(23)~(24)において、全てのmの合計は2以上であり、式(25)~(26)において、全てのmの合計は1以上であり、m1、m2およびm3は、それぞれ独立に1~3の整数を表す;
は、水素原子、-NO、-CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5~8の脂環式炭化水素、および、アルキル基、又はアルキルオキシ基を表す;
、Zは単結合、-CO-、-CHO-、-CH=N-、-CF-を表す。
【0071】
【化18】
【0072】
<<光反応性高分子膜の製法>>
上述の光反応性高分子膜は、上記光反応性側鎖を有する光反応性側鎖モノマーを重合することによって、場合によっては該光反応性側鎖モノマーと上記液晶性側鎖を有するモノマーとを共重合することによって、得ることができる。例えば、WO2017/061536号公報(該公報の内容は全て、参照により本願に組み込まれる)の[0062]~[0090]を参照することによって、製造することができる。
【0073】
<レンズ素子>
本発明の偏光撮像装置は、レンズ素子を有する。該レンズ素子は、後述する受光素子において結像する作用を有すれば、特に限定されない。
<受光素子>
本発明の偏光撮像装置は、受光素子を有する。該受光素子は、結像したデータから上述のS~Sを求めることができれば、特に限定されない。
【0074】
本発明の偏光撮像装置について、図を用いて説明する。
図3は、本発明の偏光撮像装置の概略を説明する図である。
本発明の偏光撮像装置は、結像レンズ、色フィルタ、異方性回折格子、受光素子アレイを有して成る。
結像レンズは受光素子アレイからの配置距離を可変とし、ピント調整できるようにしている。
異方性回折格子の回折角は波長依存性を伴うため、白色光に対しては角度分散によって像がボケる問題が生じ得る。このため、色フィルタを挿入して分散の影響を低減している。異方性回折格子は観測波長に応じてリタデーションが最適化されたものを対応する周波数帯の干渉フィルタと組み合わせて用いる。
【0075】
イメージング部(結像レンズ、受光素子アレイ)を導入したことで、点計測に限定されず、イメージング計測を行うことができる。
一般にストークスパラメータを求めるには、式(1)にある0deg直線偏光成分、90deg直線偏光成分、45deg直線偏光成分、-45deg直線偏光成分、右回り円偏光成分、左回り円偏光成分の各光強度を測定する方法や、回転移相子法などのフーリエ解析法が用いられる。しかし、これらの手法では、原理上複数回の測定を要するため、状態が時間的に変化するような被写体の測定には向かない。
これに対し、本発明の偏光撮像装置では、ストークスパラメータの計測に必要な情報を空間的に分離し、強度情報として一度に取得することで、スナップショットでの偏光イメージング計測を可能としている。即ち、動的な被測定対象であっても測定可能であることを特徴としている。また、回折格子を含めて高額な光学素子を要しないため、安価である点も特徴のひとつである。
【0076】
本発明の偏光撮像値は、動的な被測定対象であっても静的な被測定対象であっても2次元的に測定可能であるため、種々の分野に応用することができる。例えば、医療分野、自動車の自動運転技術分野、セキュリティー分野などを挙げることができるが、これらに限定されない。
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は該実施例によってのみ限定されるものではない。
【実施例
【0077】
<異方性回折格子の作製>
記録材料として、下記式で表される光架橋性高分子液晶(4-(4-methoxycinnamoyloxy)biphenyl side groups(P6CB))を用いた。
P6CBをジクロロメタンに溶解し、ガラス基板上に膜厚が300nmとなるようにスピンコートした。
P6CBフィルムがコートされたガラス基板を2枚用意し、P6CBフィルム側を対向させて張り合わせて空のセルを作成した。作製した空セルに、He-Cdレーザから射出された波長325nmの紫外レーザをOC干渉させながら600mJ/cmの露光エネルギーで照射した。照射後に150℃のオーブンで15分間熱処理し、熱処理後に低分子液晶5CB(4-cyano-4'-pentylbiphenyl)をセル内に注入してセルタイプのOC格子を作製した。作製した異方性回折格子の直径は8mmであった。
【0078】
【化19】
【0079】
<偏光撮像装置の作製>
図3に示す偏光撮像装置の概略図に従って、偏光撮像装置を作製した。
具体的には、図4に示すように、偏光撮像装置は、被写体から順に、結像レンズ、干渉フィルタ(Throrlabs社製FL532-3(中心波長532nm)、上記で得た異方性回折格子、及び受光素子となるように配置した。なお、受光素子として市販カメラ(SONY社製ILCE6000S)を用い、結像レンズ、干渉フィルタ、及び異方性回折格子はゲージシステムにパッケージ化し、該市販カメラに装着できるように設計した。
【0080】
<イメージング計測>
本実施例では、円偏光に対する選択反射特性を示すコガネムシを被写体として用い、イメージング計測を行った。その画像を図5に示す。
図5から3つの画像スポットが得られていることがわかる。左から順に、OC格子の-1次光、0次光、+1次光成分に該当する。このうち、-1次光と+1次光成分が左回り円偏光成分と右回り円偏光成分の2次元分布を表している。
-1次光成分(I-1)と+1次光成分(I+1)の像を画像処理により抽出し、下記数式に基づいて差分計算を施して求めたSのイメージング画像を図6に示す。
【0081】
【数6】
【0082】
図6から、コガネムシの外形に沿ったSの空間分布が得られていることが分かる。この画像から、コガネムシを反射・散乱した光は左回り円偏光が支配的に含まれていることが分かる。これは一般に知られている、コガネムシの円偏光の選択反射特性に一致する結果である。
したがって、本発明の偏光撮像装置により、スナップショットでストークスパラメータの空間分布をイメージング計測できることが実証された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6