(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20220708BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C08J5/00 CEW
H01G4/32 511L
H01G4/32 521G
(21)【出願番号】P 2020509169
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013109
(87)【国際公開番号】W WO2019189319
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2018069704
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 正道
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聖香
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 俊行
(72)【発明者】
【氏名】澤木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】岡西 謙
(72)【発明者】
【氏名】山口 安行
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/084750(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108463(WO,A1)
【文献】特開2014-156581(JP,A)
【文献】国際公開第2008/090947(WO,A1)
【文献】特開2012-149152(JP,A)
【文献】特開2002-219750(JP,A)
【文献】彦坂正道 ほか,高分子の伸長結晶化で発見した”ナノ配向結晶(NOC)”の高耐熱性と高強度,高分子学会予稿集,第64巻, 第2号,日本,2015年08月25日,1G11
【文献】岡田聖香 ほか,伸長結晶化におけるナノ配向結晶生成の普遍性と核生成律速の検証,高分子学会予稿集,第63巻, 第1号,日本,2014年,1Pf010
【文献】福嶋俊行 ほか,フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(P(VDF/TFE))の核生成速度の過冷却依存性,高分子学会予稿集,第66巻, 第1号,日本,2017年05月15日,2C03
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
B29C 43/00-43/58、48/00-48/96
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体の結晶を含む成形体であって、
前記結晶はβ晶であり、前記結晶はサイズが100nm以下のナノ配向結晶であり、
算術平均粗さが3.0μm以下である
ことを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体が高結晶性である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体は、ビニリデンフルオライド単位とテトラフルオロエチレン単位との合計100モル%に対して、ビニリデンフルオライド単位が50~95モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が5~50モル%である請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
強誘電体であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
融点が130℃以上である請求項1~4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
耐熱温度が90℃以上である請求項1~5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
弾性率が1.0GPa以上である請求項1~6のいずれかに記載の成形体。
【請求項8】
残留分極が45mC/m
2以上である請求項1~7のいずれかに記載の成形体。
【請求項9】
抗電場が35MV/m以下である請求項1~8のいずれかに記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性に優れる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強誘電性材料である圧電フィルムや、エレクトロウエッティング用途、フィルムコンデンサ用途に用いられるフィルムとして、種々の有機誘電体フィルムや無機誘電体膜が知られている。これらの中でも、ビニリデンフルオライド(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、ビニリデンフルオライド(VdF)重合体のフィルムは、透明性を有し、かつ無機誘電体薄膜とは異なり可撓性を有するという利点を有するので、様々な用途への適用が可能である。
【0003】
従来、高分子強誘電性フィルムの典型例であるVdF重合体の強誘電性フィルムを製造する工程としては、融液結晶化によりフィルム成形後はα晶を形成するため、強誘電性を発現するβ晶とするためにはフィルムを延伸、熱固定、poling処理という複雑な工程が必要であった。
従来、VdF/TFE系共重合体の強誘電性フィルムは、TFE単位が7mol%以上含まれるときには融液結晶化でβ晶に直接結晶化したフィルムが成形されるため、フィルムをpoling処理することにより製造することが出来るが、高い強誘電性を発現させためには延伸、熱固定する複雑な工程により分子鎖を配向させる必要があった(非特許文献1)。
従来、VdF/TFE系共重合体の強誘電性を向上させる方法としては、高温高圧化で融液結晶化する製造工程により高結晶化フィルムを製造する方法が知られているが、そのフィルムは白濁しており脆いという欠点があった(非特許文献2)。
【0004】
延伸処理により作製されたフィルムは、製造工程が複雑であるという問題点のみならず、用途によっては機械的強度、耐熱性等の点で十分とは言えず、近年の高度な要求に対応するため更なる改善の余地があった。
【0005】
ところで、ポリプロピレンやポリエステルのような汎用プラスチックでは、ナノ配向結晶(nano-oriented crystal, NOC)を含むことによって、耐熱性等を改善したフィルムも知られている(特許文献1及び2参照)。フッ素樹脂では、NOCを含むことによって、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)およびVdF/トリフルオロエチレン(TrFE)共重合体の耐熱性が改善されることも知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5487964号明細書
【文献】国際公開第2016/035598号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hicks, J. C. et al. J. Appl. Phys., 49, 6092 (1978).
【文献】Tasaka.S. et al. J. Appl. Phys. 57(3), 906(1985)
【文献】Hikosaka, M. et al. Polymer Preprints, Japan 64(2), 1G11 (2015).
【文献】Lovinger, A. J. et al. Macromolecules 19, 1491 (1986).
【文献】Hikosaka, M. Polymer 28, 1257 (1987).
【文献】Okada, K. et al. Polymer Preprints, Japan 63(1), 1331 (2014).
【文献】Hikosaka, M. et al. J. Macromol. Sci. Phys. B31(1),87 (1992).
【文献】Fukushima, T. et al. Polymer Preprints, Japan 66(1), 2C03 (2017).
【文献】Lovinger, A. J. et al. Macromolecules 21, 78(1988).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性に優れる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、VdF/TFE系共重合体の融液を《臨界伸長ひずみ速度》以上の速度で伸長結晶化を行うことによって、VdF/TFE系共重合体の極めて小さい結晶を含む成形体を取得することに初めて成功した。そして、得られた成形体が、弾性率で示される機械強度に優れ、優れた耐熱性、表面粗さ及び強誘電性を有するものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体の結晶を含む成形体であって、前記結晶はβ晶であり、前記結晶はサイズが100nm以下のナノ配向結晶(NOC)であり、算術平均粗さが3.0μm以下であることを特徴とする成形体である。
【0011】
本発明の成形体は、上記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体が高結晶性であることが好ましい。
【0012】
上記ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体は、ビニリデンフルオライド単位とテトラフルオロエチレン単位との合計100モル%に対して、ビニリデンフルオライド単位が50~95モル%であり、テトラフルオロエチレン単位が5~50モル%であることが好ましい。
【0013】
本発明の成形体は、強誘電体であることが好ましい。
【0014】
本発明の成形体は、融点が、130℃以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の成形体は、耐熱温度が、90℃以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の成形体は、弾性率が1.0GPa以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の成形体は、残留分極が45mC/m2以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の成形体は、抗電場が35MV/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の成形体は、上記構成を有することによって、優れた機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ナノ配向結晶(NOC)の構造を示す模式図である。
【
図2】実施例に係る試料の作製に用いられたロール圧延伸長結晶化装置の模式図である。
【
図3】実施例に係る試料の偏光顕微鏡画像(through方向からの観察結果)である。
【
図4】実施例に係る試料の小角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果である。
【
図5】実施例に係る試料の広角X線散乱イメージであり、(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果である。
【
図6】実施例に係る試料について引張破壊応力(σ
B)と引張弾性率(E
t)を測定した結果を示す典型的な図である。
【
図7】比較例の試料について引張破壊応力(σ
B)と引張弾性率(E
t)を測定した結果を示す図である。
【
図8】実施例に係る試料について残留分極(P
r)と抗電場(E
c)を測定した結果を示す典型的な図である。
【
図9】比較例の試料について残留分極(P
r)と抗電場(E
c)を測定した結果を示す図である。
【
図10】比較例の試料について引張破壊応力(σ
B)と引張弾性率(E
t)を測定した結果を示す図である。
【
図11】実施例に係る試料について耐熱温度を測定した結果を示すプロット図である。
【
図12】比較例の試料について耐熱温度を測定した結果を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0022】
本発明の成形体は、結晶のサイズが100nm以下であるVdF/TFE系共重合体の結晶を含む。
【0023】
上記VdF/TFE系共重合体は、VdFに基づく重合単位(以下「VdF単位」ともいう)及びTFEに基づく重合単位(以下「TFE単位」ともいう)を含む共重合体である。
VdF/TFE系共重合体は、成形体の機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性が優れることから、VdF単位とTFE単位との合計100モル%に対して、VdF単位が50~95モル%であり、TFE単位が5~50モル%であることが好ましい。VdF/TFE系共重合体は、VdF単位が60~95モル%であり、TFE単位が5~40モル%であることがより好ましく、VdF単位が70~90モル%であり、TFE単位が10~30モル%であることが特に好ましい。
上記VdF/TFE系共重合体は、VdF単位及びTFE単位のみからなるものであってもよいし、VdF及びTFEと共重合可能な単量体(但し、VdF及びTFEを除く)に基づく重合単位を含んでよい。上記VdF/TFE系共重合体は、全重合単位に対して、VdF単位及びTFE単位の合計が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることが更に好ましい。
上記VdF及びTFEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、CH2=CHCF3、CH2=CFCF3、CH2=CF(CF2)nH(n=3~7)、CH2=CH(CF2)nF(n=1~8)などが挙げられる。
中でも、HFP及びCH2=CFCF3からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、HFPがより好ましい。
上記VdF及びTFEと共重合可能な単量体に基づく重合単位の含有量としては、成形体の機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性がより優れることから、0~10モル%であることが好ましく、0.01~5モル%であることがより好ましく、0.1~2であることが更に好ましい。
【0024】
本発明で使用するVdF/TFE系共重合体の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましい。また、400,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定する値である。
【0025】
VdF/TFE系共重合体は、六方晶の結晶形態(Morphology)に結晶化することができるため(非特許文献4)、ポリマー鎖が滑り拡散しやすく(非特許文献5)、ナノ配向結晶化のための臨界伸長ひずみ速度を小さくすることができると推定される(非特許文献6)。そのため、後述するようにNOCを形成しやすく、産業化に有利である。
【0026】
上記VdF/TFE系共重合体は、従来公知の溶液重合法、懸濁重合法(分散重合法)、乳化重合法等により得ることができる。また使用する重合開始剤も重合法に応じて従来慣用されているもののうちから適宜選ぶことができる。
【0027】
重合開始剤としては、たとえばビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ω-ヒドロペルフルオロアシル)ペルオキシド、t-ブチルペルオキシイソブチレート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネートなどの有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などがあげられる。重合開始剤の使用量は、種類、重合反応条件などに応じて適宜変更できるが、通常は重合させる単量体全体に対して0.005~5重量%、特に0.05~0.5重量%程度が採用される。
【0028】
重合反応条件としては、広い範囲の反応条件が特に限定されずに採用しうる。たとえば重合反応温度は重合開始剤の種類などにより最適値が選定され得るが、通常は0~100℃程度、特に30~90℃程度が採用され得る。反応圧力も適宜選定しうるが、通常は0.1~5MPa、特に0.5~3MPa程度が採用される。本発明に使用するVdF系共重合体は、前記の反応圧力で重合を有利に行なうことができるが、さらに高い圧力下でも、逆に減圧条件下でもよい。また、重合形式は回分式、連続式などのいずれをも採用できる。
【0029】
またVdF/TFE系共重合体の分子量を調整する目的で連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤としては通常のものが使用でき、たとえばnヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルメルカプタンなどのメルカプタン類などがあげられる。添加量は用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.01重量%から20重量%の範囲で使用される。
【0030】
重合溶媒は重合法にしたがって従来慣用の液状溶媒が使用できる。ただ、本発明で使用するVdF/TFE系共重合体は、フッ素系溶媒の存在下で懸濁重合(分散重合)することが、得られる成形体の耐熱性に優れる点から好ましい。
【0031】
本発明の成形体に含まれるVdF/TFE系共重合体の結晶サイズは100nm以下である。成形体の機械強度、耐熱性、表面粗さ及び強誘電性がより優れることから、上記結晶サイズは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることが更に好ましい。
上記結晶サイズの下限は特に制限されないが、例えば3nmであってよい。耐熱性がより向上する点から、上記結晶サイズは、5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましい。
上記結晶のサイズは、公知の小角X線散乱法(以下「SAXS法」という。)により求めることができる。
なお、SAXS法における、散乱ベクトル(q)-小角X線散乱強度(Ix)曲線の1次のピークは、高結晶性なので、平均サイズdの微結晶がランダムにお互いに詰まっている場合の微結晶間最近接距離(=結晶サイズd)に相当するため(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)、結晶サイズdは下記のBraggの式から求められる。
Braggの式: d=2π÷q
また、上記VdF/TFE系共重合体の結晶は、β晶である。
【0032】
本発明の成形体は、成形体の機械強度、耐熱性及び強誘電性がより優れることから、高結晶性のVdF/TFE系共重合体を含むことが好ましい。
【0033】
上記VdF/TFE系共重合体の結晶は、ナノ配向結晶(NOC)を構成する。ここで、NOCは、結晶サイズが100nm以下であり、かつ高分子鎖が伸長方向(machine direction, MD)に配向したVdF/TFE系共重合体の結晶(ナノ結晶(nano crystal,NC)ともいう。)を含むものである。
【0034】
上記NOCの構造を偏光顕微鏡とX線回析の結果から解析したところ、NOCは、
図1で示すように球状のナノ結晶(NC)が伸長方向(MD)に沿って数珠状に連なったような構造であるということが分かった。
【0035】
本発明の成形体は、より優れた機械強度、耐熱性及び強誘電性が得られることから、VdF/TFE系共重合体のNOCを主体として含んでいることが好ましい。
例えば、本発明の成形体は、VdF/TFE系共重合体のNOCを60%以上含むことが好ましく、70%以上含むことがより好ましく、80%以上含むことが更に好ましく、90%以上含むことが特に好ましく、95%以上含むことが殊更に好ましい。
成形体中に含まれるNOCの割合(NOC分率)は、X線回析法によって算出することができる。
NOCは高配向であり、非NOCは等方的であるため、広角X線散乱の強度比からNOC分率を算出することができる。
【0036】
成形体を構成するNOCに含まれるNCの高分子鎖や、NOCを構成するNC自体が配向しているかどうかは、偏光顕微鏡による観察や、公知のX線回析(小角X線散乱法(SAXS法)、広角X線散乱法(WAXS法))により確認することができる。成形体が高結晶性であることはWAXSで非晶ハローが殆ど観察されないことから結論出来る。偏光顕微鏡観察やX線回析(小角X線散乱法、広角X線散乱法)の具体的方法については、後述する実施例が適宜参照される。
【0037】
NOCに含まれるNCと、NCに含まれる高分子鎖とは、おおよそ成形体(例えば、シート)のMD方向に配向している。
NOCを構成するNCの結晶サイズは、MDのサイズを測定すればよい。例えば、
図1に示すNOCの結晶サイズは、約29nmであるといえる。
【0038】
本発明の成形体は、算術平均粗さが3.0μm以下である。算術平均粗さは2.0μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましく、1.0μm以下が特に好ましい。後述するロール圧延伸長結晶化装置を用いることによって、VdF/TFE系共重合体のNOCを主体として含んでいる成形体を製造できるとともに、表面の算術平均粗さを向上させることができる。
上記算術平均粗さは、小形表面粗さ測定機を用いてISO1997に従って測定した値である。
【0039】
本発明の成形体の融点は、130℃以上であることが好ましく、134℃以上であることがより好ましく、137℃以上であることが更に好ましい。
上記成形体の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて5K/minの速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。また、上記成形体の融点は、ホットステージ付偏光顕微鏡を用いて1K/minの速度で昇温したときの融解挙動においてレタデーション変化の極大値に対応する温度である。
【0040】
また、本発明の成形体の融点は、VdF/TFE系共重合体の静置場のβ晶の平衡融点より14℃低い温度よりも高温であることが好ましい。成形体の融点は、β晶の平衡融点より10℃低い温度よりも高温であることがより好ましく、β晶の平衡融点よりも7℃低い温度よりも高温であることが更に好ましい。
なお、平衡融点(Tm
0)とは、高分子の分子鎖(以下、適宜「高分子鎖」ともいう。)が伸びきった状態で結晶化した巨視的サイズの完全結晶の融点を意味し、下記で算出される。
Tm
0=ΔHu÷ΔSu、ΔHu:融解エンタルピー、ΔSu:融解エントロピー
具体的には、偏光顕微鏡観察を用いた彦坂らの方法で上記平衡融点を決定することができる(非特許文献7)。たとえば、VdF/TFE系共重合体:VdF/TFE=80/20(mol比)の静置場における六方晶結晶の平衡融点はおよそ134.3℃と決定されており(非特許文献8)、静置場のβ晶の平衡融点を我々は143.9℃と決定した(未発表)。
なお、上記融点は、単量体組成比が同じVdF/TFE系共重合体の平衡融点と対比する。
【0041】
本発明の成形体の耐熱温度は、90℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましい。
また、本発明の成形体の耐熱温度は、上記VdF/TFE系共重合体の静置場のβ晶の平衡融点より54℃低い温度よりも高温であることが好ましく、34℃低い温度よりも高温であることがより好ましく、14℃低い温度よりも高温であることが更に好ましい。
ここで、「耐熱温度」とは、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した耐熱温度を意味する。上記「試験片サイズ直読法」は、CCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス株式会社製BX51)と、ホットステージ(Linkam社製、LK-600PM)と、画面上のサイズを定量できる画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image-Pro PLUS)とを用いて実施される。試験片のサイズは、たて0.7mm、よこ0.5mmの試験片を用いた。試験片を昇温速度1K/minで加熱し、その時、試験片がたて方向(MD)またはよこ方向(TD)に3%以上ひずみ(収縮または膨張)が生じたときの温度を耐熱温度とした。
【0042】
本発明の成形体は、引張破断強度が80MPa以上であることが好ましい。引張破断強度は、110MPa以上であることがより好ましく、150MPa以上であることが更に好ましい。上記引張破断強度は、JIS-K7127に準じて、たて42mm、よこ2mm、厚み0.01~0.3mmの試験片を用いて測定する。引張速度は0.3mm/sである。
【0043】
本発明の成形体は、弾性率が1.0GPa以上であることが好ましい。弾性率は、1.2GPa以上であることがより好ましく、1.5GPa以上であることが更に好ましく、2GPa以上であることが特に好ましい。弾性率は、JIS-7127に準拠した方法で測定した値である。
【0044】
本発明の成形体は、強誘電体であることが好ましく、また、残留分極が45mC/m2以上であることが好ましい。上記残留分極は、55mC/m2以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、100mC/m2であってよい。
上記残留分極は、20mm×20mmに切り出した試料フィルムの中央部5mm×5mmにアルミニウム電極(平面電極)を真空加工蒸着によりパターニングし、絶縁テープを貼り付けて補強したアルミニウム箔製の2本のリード(30mm×80mm)の電極を、導電性両面テープで平面電極に接着し、この試料フィルム、ファンクションジェネレーター、高圧アンプ、およびオシロスコープをソーヤータワー回路に組み込み、三角波を試料フィルムに印加(最大±10kV)し、試料フィルムの応答をオシロスコープを用いて測定し、求めた値である。
【0045】
本発明の成形体は、抗電場が35MV/m以下であることが好ましい。抗電場は、34MV/m以下であることがより好ましく、33MV/m以下であることがより好ましい。
上記抗電場の下限値は、例えば、5MV/mであってよい。
上記抗電場は、20mm×20mmに切り出した試料フィルムの中央部5mm×5mmにアルミニウム電極(平面電極)を真空加工蒸着によりパターニングし、絶縁テープを貼り付けて補強したアルミニウム箔製の2本のリード(30mm×80mm)の電極を、導電性両面テープで平面電極に接着し、この試料フィルム、ファンクションジェネレーター、高圧アンプ、およびオシロスコープをソーヤータワー回路に組み込み、三角波を試料フィルムに印加(最大±10kV)し、試料フィルムの応答をオシロスコープを用いて測定し、求めた値である。
【0046】
本発明の成形体は、VdF/TFE系共重合体のみからなるものであってもよいし、本発明の効果を妨げない範囲で、VdF/TFE系共重合体以外の成分を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の成形体は、シート、チューブ、ファイバー等であってよいが、製造が比較的容易であることからシートであることが好ましい。
シートの厚みは特に制限されず、用いる目的に応じて適宜押出量などで調整すればよい。具体的な厚みは80μm~10mmの範囲、さらに90μm~5mm、特に110μm~1mmの範囲が好ましく挙げられる。
シートの厚みは、マイクロメーターを用いることによって測定され得る。
【0048】
本発明の成形体は、上記構成を有することによって優れた機械強度、耐熱性及び強誘電性を有する。また、寸法安定性、電気特性、ガスバリア性等にも優れるため、種々の用途に適用することができる。例えば、優れた電気特性を活かして、圧電フィルムや、エレクトロウエッティングデバイス用のフィルム、フィルムコンデンサ用のフィルム等に好適である。また、焦電フィルム等にも好適である。
【0049】
本発明の成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、例えば、下記のようにして製造することができる。なお、下記の製造方法は、融液状態のVdF/TFE系共重合体を圧延伸長して結晶化(固化)を行う方法であり、一旦固化した成形体を圧延伸長して延伸する方法とは全く異なる方法である。
【0050】
図2に本発明の成形体を製造するための装置(ロール圧延伸長結晶化装置10)の概略図を示す。ロール圧延伸長結晶化装置10は、過冷却融液供給機(VdF/TFE系共重合体を融解し、VdF/TFE系共重合体の融液を供給する押出機2aと、押出機2aからの融液を過冷却状態に冷却する冷却アダプター2bとを備える。)および挟持ロール3から構成されている。上記過冷却融液供給機において、押出機2aの吐出口にスリットダイ(図示せず)が設けられており、当該スリットダイの先端の形状は方形となっている。このスリットダイから吐出されたVdF/TFE系共重合体融液は、冷却アダプター2b内を通過する際に過冷却状態になるまで冷却され(過冷却状態の融液を「過冷却融液」という)、過冷却融液が挟持ロール3に向かって吐出される。静置場の六方晶結晶の平衡融点と結晶化温度の差を「過冷却度ΔT」と定義すると、特に最適な過冷却度は、高分子の種類とキャラクタリゼーションにより著しく異なるために特に限定されるものではないが、例えばΔT=-35~+35℃が好ましく、-30~+30℃がより好ましく、-20~+20℃が更に好ましい。ここで、結晶化温度とは過冷却融液の温度である。
【0051】
上記挟持ロール3は、回転可能な対のロールが対向するように備えられており、過冷却融液供給機から供給された過冷却融液1を挟み、ロールの回転方向に伸長し、シート状に成形することができるようになっている。
【0052】
本発明の成形体を製造する場合、過冷却融液1を過冷却融液供給機から供給し、挟持ロール3に挟んで臨界伸長ひずみ速度以上の伸長ひずみ速度で圧延伸長することによって結晶化させればよい。そうすることによって、過冷却融液1が配向融液となり、その状態を維持したまま結晶化させることができ、配向融液に含まれる分子鎖同士が会合して異物の助けを借りずに核生成(「均一核生成」という)および成長が起こることによってNOCが生成し、本発明の成形体を製造することができる。
【0053】
ここで、
図2に示すロール圧延伸長結晶化装置10を用いて本発明の成形体の製造方法をさらに説明をする。
図2において、挟持ロール3による圧延伸長開始(A)から、圧延伸長終了(B)までの間の領域(以下「領域AB」という)に着目する。ロール圧延伸長結晶化装置10の挟持ロール3の半径をR、挟持ロール3の角速度ω、挟持ロール3の回転する角度をθ、領域ABの任意の場所における過冷却融液の厚みをL
0、圧延伸長終了後のB点におけるVdF/TFE系共重合体シートの厚みをL、挟持ロールにおけるシート引取速度をV、伸長ひずみ速度をεとする。領域ABにおけるロール回転角θは非常に小さい。
θ<<1(rad)・・・(1)
ロールの半径Rは、シートの厚さL
0やLよりも非常に大きい。
R>>L
0,L・・・(2)
領域ABの任意の場所における微小体積Φについて、微小体積の中心を原点にとって考える。過冷却融液およびVdF/TFE系共重合体シートが移動する方向(MD)をx軸、過冷却融液シートの巾の方向(TD)をy軸、過冷却融液シートの厚さ方向をz軸にとる。微小体積Φを直方体で近似して、直方体の各辺の長さをx,y,L
0とする。
シート成形においては、過冷却融液シートの巾つまりyは、x,L
0よりも十分大きく、圧延伸長により変化しないと見なせる。
y=const>>x,L
0・・・(3)
よって、挟持ロールによる圧延伸長過程において、過冷却融液シートはz軸方向に圧縮され、x軸方向に伸長される。つまり、挟持ロールによる圧延伸長は、x軸とz軸にのみ関与する。
ここで、x軸方向における伸長ひずみ速度テンソルをε
xx、z軸方向における伸長ひずみ速度テンソルをε
zzとすれば、両者の関係は、
ε
xx=-ε
zz・・・(5)
で与えられる。
(5)式の導出において、
圧延伸長における微小体積Φに関する質量保存則、
Φ≒xyL
0=const・・・(4)
を用いた。
図2の領域ABのz軸方向におけるひずみ速度ε
zzは定義式から、
ε
zz≡(1/L
0)×(dL
0/dt)・・・(6)
で与えられる。ただし、tは時間である。
ここで、
L
0=2R(1-cosθ)+L・・・(7)
であるので、(6)式と(7)式、および(1)式から、
ε
zz≒-2ω√{(R/L
0)×(1-L/L
0)}・・・(8)
が近似的に得られる。
(5)式と(8)式から、求めるべき伸長ひずみ速度
ε
xx≒2ω√{(R/L
0)×(1-L/L
0)}・・・(9)
が得られる。
ε
xxは(9)式からL
0の関数である。
ε
xxはL
0=2L・・・(10)
で極大値を持つ。これは、L
0=2Lでε
xxが最大となり、過冷却融液に対して最大の伸長ひずみ速度がかかることを意味する。
極大値の伸長ひずみ速度をε
maxと書くと、
(9)式に(10)式を代入して、
ε
max≒ω√(R/L)・・・(11)
ここで超臨界伸長ひずみ速度において成形するためには、ε
maxが臨界伸長ひずみ速度ε
*以上であることが条件である。
よって(11)式を伸長ひずみ速度εと定義し、
【0054】
【数1】
となる。
V=Rω・・・(13)
ω(R,V)=V/R・・・(14)
上記式(12)および(14)から、
【0055】
【0056】
したがって、上記式(15)を用いて、伸長ひずみ速度ε(R,L,V)が臨界伸長ひずみ速度以上となるように、挟持ロールの半径R、伸長後の高分子シートの平均厚みL、および挟持ロールにおけるシート引取速度Vを設定すれば、所望の本発明の成形体が製造されることになる。
【0057】
ここで上記臨界伸長ひずみ速度ε*(R,L,V)は、いかなる方法によって決定された速度であってもよいが、例えば、下記の近似式(式i)を用いて算出されるものであってもよい。
(式i)
【0058】
【数3】
ここで上記臨界点のシート引取速度V
*は、過冷却状態のVdF/TFE系共重合体融液を供給し、半径がRである一対の挟持ロールに挟んで当該VdF/TFE系共重合体融液をシート引取速度Vで圧延伸長することにより、厚さLのVdF/TFE系共重合体シートへと結晶化させた際にNOCが生成する臨界点のシート引取速度Vである。
【0059】
また本発明の成形体の製造方法において、上記臨界伸長ひずみ速度ε*(R,L,V)は、下記の近似式(式ii)を用いて算出されるものであってもよい。
(式ii)
【0060】
【数4】
ここで上記臨界点のVdF/TFE系共重合体シートの厚さL
*は、過冷却状態のVdF/TFE系共重合体融液を供給し、半径がRである一対の挟持ロールに挟んで当該VdF/TFE系共重合体融液をシート引取速度Vで圧延伸長することにより、厚さLのVdF/TFE系共重合体シートへと結晶化させた際にNOCが生成する臨界点のVdF/TFE系共重合体シートの厚さLである。
【0061】
なおNOCが生成したかどうかの判断は、特に限定されるものではないが、例えば後述する実施例において説明するX線回析法によって判断することができる。
【0062】
VdF/TFE系共重合体融液の流動性が高い場合は、ロールを用いて圧延伸長結晶化する場合に、挟持ロールで伸長することが困難な場合があり、臨界伸長ひずみ速度以上で伸長を行うことができない場合がある。このため、本発明の成形体(VdF/TFE系共重合体シート)を作製する際には、臨界伸長ひずみ速度以上で伸長を行うことができる程度の流動性(メルトフローレート:Melt flow rate:MFR)に調整しておくことが好ましい。すなわち本発明の成形体(VdF/TFE系共重合体シート)を製造する方法においては、VdF/TFE系共重合体融液の流動性を調整する工程が含まれていることが好ましいといえる。
【0063】
本発明の成形体を製造する方法においては、VdF/TFE系共重合体融液の流動性は、臨界伸長ひずみ速度以上で伸長を行うことができる程度の流動性に調整しておけばよいが、例えば、230℃におけるVdF/TFE系共重合体融液のMFRが100(g/10分)以下が好ましく、80(g/10分)以下がさらに好ましく、60(g/10分)以下がよりさらに好ましく、50(g/10分)以下が最も好ましい。
なお、230℃におけるVdF/TFE系共重合体融液のMFRの下限は、臨界伸長ひずみ速度以上で伸長を行うことができる程度であれば特に限定されるものではないが、通常、3g/10分以上であることが好ましい。
【実施例】
【0064】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
実施例では、下記VdF/TFE系共重合体を用いた。
VdF/TFE系共重合体1:VdF/TFE=80/20(mol比)、MFR16(g/10分、測定温度230℃、荷重2.1kgf)、重量平均分子量=19×104
比較例では、下記VdF/TFE系共重合体を用いた。
VdF/TFE系共重合体2:VdF/TFE=80/20(mol比)、MFR6(g/10分、測定温度230℃、荷重2.1kgf)、重量平均分子量=23×104
【0066】
実施例及び比較例の各評価は以下の方法に従って行った。
【0067】
(1)偏光顕微鏡観察
実施例及び比較例で得られた各試料について、偏光顕微鏡観察を行った。偏光顕微鏡は、オリンパス(株)製BX51を用い、クロスニコルで観察を行った。レタデーション変化を定量的に測定するために、鋭敏色検板を偏光顕微鏡のポラライザーとアナライザー(偏光板)の間に挿入した(参考文献:高分子素材の偏光顕微鏡入門 粟屋 裕、アグネ技術センター、2001年、p.75-103)。偏光顕微鏡による観察は、室温25℃で行った。試料に対して、シート厚さ方向(ND、through方向)から、観察を行った。
【0068】
(2)X線回析(小角X線散乱法)
各種試料を、SAXS法を用いて観察した。SAXS法は、「高分子X線回折 角戸 正夫 笠井 暢民、丸善株式会社、1968年」や「高分子X線回折 第3.3版 増子 徹、山形大学生協、1995年」の記載に準じて行われた。より具体的には、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームライン BL40B2において、X線の波長λ=0.15nm、カメラ長3mで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。MDとTDに垂直な方向(through)とTDに平行な方向(edge)とMDに平行な方向(end)の3方向について観察した。throughとedgeの試料についてはMDをZ軸方向にセットし、endについてはTDをZ軸方向にセットし、X線の露出時間は5sec~180secで行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。
【0069】
(3)X線回析(広角X線散乱法)
各種試料を、WAXS法を用いて観察した。WAXS法は、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)SPring-8、ビームラインBL03XUまたはBL40B2で、X線の波長(λ)はλ=0.0709nm、カメラ長(R)はR=280mmで、検出器にイメージングプレート(Imaging Plate)を用いて、室温25℃で行った。throughとedgeの試料についてはMDをZ軸方向にセットし、endについてはTDをZ軸方向にセットし、X線の露出時間は10sec~180secで行った。イメージングプレートを株式会社リガク製の読取装置と読込みソフトウェア(株式会社リガク、raxwish,control)とで読取り、2次元イメージを得た。
【0070】
(4)結晶サイズおよびNOCの構造
小角X線散乱イメージのMD方向の2点像から、VdF/TFE系共重合体の結晶サイズ(d)を求めた。SAXS法における、散乱ベクトル(q)-小角X線散乱強度(Ix)曲線の1次のピークは、平均サイズdの微結晶がランダムにお互いに詰まっている場合の微結晶間最近接距離(=結晶サイズd)に相当するため(参考文献:A.Guinier著、「X線結晶学の理論と実際」、理学電機(株)、p513、1967)、結晶サイズdはBraggの式から求められる。
Braggの式: d=2π÷q
【0071】
(5)耐熱温度、融点
実施例及び比較例に係る試料の耐熱温度を、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した。具体的には、ホットステージ(Linkam社製,L-600A)内に試験片(たて0.6mm、よこ0.8mm)を置き、昇温速度1K/minでホットステージ内を昇温した。この時、CCDカメラ付光学顕微鏡(オリンパス(株)製BX51)で観察と記録を行った。画像解析ソフトウェア(Media Cybernetics社製、Image-Pro PLUS)を用いて、試験片のたて方向(MD)、およびよこ方向(TD)を定量的に計測し、MDまたはTDに3%以上収縮(又は膨張)を開始した時の温度を、耐熱温度THとした。実施例及び比較例に係る試料の融点も併せて検討した。融点は、ホットステージ付偏光顕微鏡を用いて1K/minの速度で昇温したときの融解挙動においてレタデーション変化の極大値に対応する温度として求めた。
【0072】
(6)融点
成形体の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて5K/minの速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0073】
(7)引張破壊応力
JIS-7127に準じて測定する。
【0074】
(8)引張弾性率
JIS-7127に準拠した方法で測定した値である。
【0075】
(9)表面粗さ
小形表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製 SJ-210)を用いてISO1997に従い、算術平均粗さ(Rz)を測定した。
【0076】
(10)残留分極及び抗電場
20mm×20mmに切り出した試料フィルムの中央部5mm×5mmにアルミニウム電極(平面電極)を真空加工蒸着によりパターニングした。絶縁テープを貼り付けて補強したアルミニウム箔製の2本のリード(30mm×80mm)の電極を、導電性両面テープで平面電極に接着した。この試料フィルム、ファンクションジェネレーター、高圧アンプ、およびオシロスコープをソーヤータワー回路に組み込み、三角波を試料フィルムに印加(最大±10kV)した。試料フィルムの応答をオシロスコープを用いて測定し、残留分極、抗電場を求めた。
【0077】
実施例1~20
図2に模式的に示すロール圧延伸長結晶化装置を用い、VdF/TFE系共重合体の伸長結晶化を行った。伸長結晶化の条件は表1に記載の通りである。
【0078】
【表1】
表1中の「押出最高温度(T
max)/℃」はVdF/TFE系共重合体を押出成形機のヒーターで融解し、VdF/TFE系共重合体融液を調製する際の押出機の設定温度を表す。
表1中の「融液の温度(T
melt)/℃」は、VdF/TFE系共重合体融液をロールにて圧延伸長する際のVdF/TFE系共重合体融液の温度を表す。
表1中の「ロール温度(T
R)/℃」は、VdF/TFE系共重合体融液をロールにて圧延伸長する際のロールの表面温度を表す。表1中に2つの温度が示されている場合は2つの対向するそれぞれのロールの表面温度を表す。
表1中の「伸長ひずみ速度(ε)/s
-1」は、VdF/TFE系共重合体融液をロールにて圧延伸長する際の伸長ひずみ速度を表す。
表1中の「試料厚さ/mm」は、伸長結晶化によって得られた試料の厚さを表す。
表1中の「結晶サイズ(d)/nm」は、伸長結晶化によって得られた試料のNOCの結晶サイズを表す。
【0079】
比較例1及び比較例2
押出成形機を用いてVdF/TFE系共重合体シートを作製した。押出成形の条件は、設定温度240℃で樹脂を溶融させダイからシート状に押出し、温度60℃に設定したキャストロール上でシートを固化させて、比較例2に係わる試料を調製した。試料厚さ0.057mm。
【0080】
上記で得られたシートを延伸機(井元製作所社製 フィルム二軸延伸機)を用いて延伸し、一軸延伸シートを作製した。延伸は、雰囲気温度60℃で、MD方向に延伸倍率が5倍となるように延伸した。
上記で得られた一軸延伸シート枠内に固定し、雰囲気温度113℃で10分間熱固定を行って、比較例1に係わる試料を調製した。試料厚さ0.021μm。
【0081】
偏光顕微鏡観察
上記で得られた各試料について、試料に対して、シート厚さ方向(ND、through方向)から偏光顕微鏡観察を行った。VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の代表例として、表1の実施例11について偏光顕微鏡観察を行った結果を
図3に示す。
図3(a)は、鋭敏色検板に対してMDを平行に置いた場合の偏光顕微鏡像であり、
図3(b)は消光角の場合の偏光顕微鏡像である。
【0082】
鋭敏色検板を挿入した状態で試料を回転することにより、伸長方向(MD)の色(すなわちレタデーション)が赤紫から黄(
図3(a))へ、そして赤紫へと変化し、明確な消光角(赤紫色)を示した(
図3(b))。よって、このレタデーションの変化から、実施例に係る試料(表1の実施例11)は伸長方向(MD)に高分子鎖が配向していることがわかった。
【0083】
X線回析(小角X線散乱法)
VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料を、SAXS法を用いて観察した。VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の代表例として、表1の実施例11のSAXSイメージを
図4に示す。
図4の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図4(a)および(b)において、MDに強い2点像が見られた。これが、VdF/TFE系共重合体の結晶(NC)がMDに配向している証拠である。また、
図4(c)において、散漫散乱のみであり、TD、NDに相関を示さなかった。これは、TD、NDには無配向であることを示している。よって、VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料はNOCを形成していることが分かる。
【0084】
X線回析(広角X線散乱法)
VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料を、WAXS法を用いて観察した。VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の代表例として、表1の実施例11のWAXSイメージを
図5に示す。
図5の(a)はthrough方向からの観察結果、(b)はedge方向からの観察結果、(c)はend方向からの観察結果を示す。
図5(a)および(b)において、ファイバーパターンを示していることより高分子鎖(結晶のc軸)はMDに高配向していることを示している。一方、
図5(c)がほぼ無配向のデバイシェラーリングを示す事実より、VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の結晶のa,b軸がほぼ無配向であることを示している。これによって、VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料はNOCを形成していることが分かる。
【0085】
さらに、
図5の結果からVdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の結晶がβ晶であることも確認された(非特許文献9参照)。非晶ハローが殆んど観察されないことから高結晶性であることが確認された。
【0086】
結晶サイズおよびNOCの構造の検討
図4のMD方向の2点像から、VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の結晶サイズ(d)を求めた。VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料の代表例として、表1の実施例11のdを求めた結果、29nmであるとわかった。実施例1~16、18~20について、表1に結晶サイズを示す。
【0087】
顕微鏡観察およびX線観察の結果よりVdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料は
図1のようなほぼ球状のNCがMDにパラクリスタル的に配列した構造であると推定された。
【0088】
耐熱温度と融点の検討
VdF/TFE系共重合体の実施例(表1の実施例20)およびVdF/TFE系共重合体の比較例1の試料の耐熱温度を、光学顕微鏡を用いた試験片サイズ直読法により測定した。試験片のたて方向(MD)、およびよこ方向(TD)を定量的に計測し、MDまたはTDに3%以上収縮(又は膨張)を開始した時の温度を、耐熱温度Thとした。また融点Tmも併せて検討した。
【0089】
図11より、VdF/TFE系共重合体の実施例20の試料が3%以上ひずんだ時の耐熱温度Thは約134℃であった。融点Tmは、約140℃であった。
【0090】
一方、
図12より、比較例1の試料の耐熱温度Thは約75℃であった。また融点Tmは、約129℃であった。
【0091】
融点
VdF/TFE系共重合体の実施例に係わる試料(表1の実施例9、10、16)およびVdF/TFE系共重合体の比較例1の試料の融点を、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて、5K/minの速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。融点Tmは、実施例9の試料は137.2℃、実施例10の試料は138.1℃、実施例16の試料は137.7℃であった。一方、比較例1の試料の融点Tmは、126.4℃と128.0℃に2つの極大値があった。
【0092】
上記の光学顕微鏡とDSCの検討より、VdF/TFE系共重合体の実施例11と比較例1とを比較すると、耐熱温度および融点について実施例に係る試料が、比較例に係る試料を大きく上回るものであるとわかった。
【0093】
引張破壊応力、引張弾性率
VdF/TFE系共重合体の実施例(表1の実施例10、11、12、13、14、15、16、18、19、20)およびVdF/TFE系共重合体の比較例1及び2の引張破壊応力、引張弾性率を測定した。結果を表2に示す。実施例10の試料について引張破壊応力σ
Bと引張弾性率E
tを測定した結果を示す典型的な図を
図6に示す。比較例1の試料について引張破壊応力(σ
B)と引張弾性率(E
t)を測定した結果を示す典型的な図を
図7に示す。比較例2の試料について引張破壊応力(σ
B)と引張弾性率(E
t)を測定した結果を示す典型的な図を
図10に示す。VdF/TFE系共重合体の実施例に係る試料と比較例とを比較すると、弾性率について実施例に係る試料が、比較例に係る試料を大きく上回るものであった。
【0094】
【0095】
表面粗さ
VdF/TFE系共重合体の実施例(表1の実施例9、10、11)を小形表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製 SJ-210)を用いてISO1997に従い、算術平均粗さ(Rz)を測定した。Rzは、実施例9の試料は2.54μm、実施例10の試料は0.39μm、実施例11の試料は0.19μmであった。実施例10、11と実施例9の試料とを比較すると、Rzについて実施例10、11の試料は、実施例9の試料を大きく下回るものであった。これは、実施例10、11においては結晶化温度よりもロール温度を低く設定することにより、成形試料がロールから容易に剥離することにより達成された。
【0096】
残留分極及び抗電場
VdF/TFE系共重合体の実施例に係わる試料(表1の実施例10、16、17)と比較例1の試料について、実施例10の試料は電界85MVm
-1、実施例16の試料は電界80MVm
-1、実施例17の試料は電界80MVm
-1、比較例1の試料は電界140MVm
-1において残留分極及び抗電場を測定した。結果を表3に示す。実施例10の試料について残留分極P
rと抗電場E
cを測定した結果を示す典型的な図を
図8に示す。比較例1の試料について残留分極P
rと抗電場E
cを測定した結果を示す図を
図9に示す。実施例(表1の実施例10、16、17)の試料は、比較例1の試料に比べて、45mCm
-2を超える高い残留分極P
rを示した。実施例(表1の実施例10、16、17)の試料は高い残留分極を示しているにもかかわらず35MVm
-1未満の低い抗電場E
cを示した。
【0097】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の成形体は、従来のVdF/TFE系共重合体からなる成形体と比較して、優れた耐熱性、力学特性及び強誘電性を備えているため、従来のビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン系共重合体の結晶を含む成形体の用途、例えば、圧電フィルム、焦電センサー等に適用できるのに加え、低い坑電場で分極反転することが出来ることから高速スイッチング素子、振動発電素子、画像素子、ウェアラブルセンサー等の用途に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 過冷却融液
2a 押出機
2b 冷却アダプター
3 挟持ロール
10 ロール圧延伸長結晶化装置