(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】金属酸化物ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 3/02 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
C01G3/02
(21)【出願番号】P 2019532420
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021638
(87)【国際公開番号】W WO2019021644
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017142908
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀和
(72)【発明者】
【氏名】若江 真理子
(72)【発明者】
【氏名】久留須 一彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英樹
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-208930(JP,A)
【文献】特開2009-007235(JP,A)
【文献】特開2010-195654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00- 23/08
C01B 13/00- 13/36
C01F 1/00- 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する第1工程と、
前記反応溶液を加熱し、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となる密閉雰囲気下で、前記反応溶液を相分離させる第2工程と、
前記第2工程で加熱した前記反応溶液を30分以上保持し、前記金属錯体を脱水して、金属酸化物ナノ粒子を析出させる第3工程と、
前記金属酸化物ナノ粒子を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する第4工程と、を有
し、
前記相分離が、前記反応溶液の白濁化と、白濁化した前記反応溶液の透明化の2段階で進行
することを特徴とする金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記反応溶液のpHが4.0~6.0である、請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記密閉雰囲気下での保持温度が130~190℃であり、かつ保持時間が12時間以上である、請求項1または2に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程が、
前記金属錯体を含む溶液を作製する工程と、
前記アルコールと水とが均一に混合した混合溶液を作製する工程と、
前記金属錯体を含む溶液と前記混合溶液とを混合する工程と、
を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物ナノ粒子は、各種触媒、ナノインク化による配線材料・電極材料、コンデンサ等の電子部品の添加材料、光学性能を使用したセンサなどの多岐にわたる分野において使用されている。このような金属酸化物ナノ粒子には、特に、粒子の微細化が求められる。
【0003】
例えば、化石燃料を使用する自動車等から排出される排気ガスの主要な毒性成分である窒素酸化物(NOx)を浄化する浄化触媒として、(001)面に配向した酸化銅ナノ結晶粉末が優れた触媒性能を発揮することが知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるような、従来から一般的に用いられてきたハイドロサーマル反応では、温度によっては目的の酸化銅が得られない。また、目的の酸化銅が得られたとしても、結晶粉末を効率よく、高収率で得ることは難しかった。さらに、従来のハイドロサーマル反応では、溶液中で金属イオンが水和イオンに取り囲まれ、水和物系ナノ粒子が析出しやすく、また、水和物の脱水により金属酸化物ナノ粒子が生成した後も、水和物ナノ粒子が混在する。そのため、金属酸化物ナノ粒子と水和物系ナノ粒子を分離して回収することが困難であり、純度の高い金属酸化物ナノ粒子の集合体を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、金属酸化物ナノ粒子を安定的かつ高収率に合成できる金属酸化物ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物ナノ粒子の製造方法が、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する工程と、前記反応溶液を、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となるよう密閉雰囲気下で加熱する工程と、加熱された反応溶液を30分以上保持し、金属酸化物ナノ粒子を析出させる工程と、析出した金属酸化物ナノ粒子を含む溶液を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する工程と、を有することによって、金属酸化物ナノ粒子を安定的かつ高収率に合成できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する第1工程と、前記反応溶液を加熱し、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となる密閉雰囲気下で、前記反応溶液を相分離させる第2工程と、前記第2工程で加熱した前記反応溶液を30分以上保持し、前記金属錯体を脱水して、金属酸化物ナノ粒子を析出させる第3工程と、前記金属酸化物ナノ粒子を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する第4工程と、を有する金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
[2]前記第1工程において、前記反応溶液のpHが4.0~6.0である、上記[1]に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
[3]前記第3工程において、前記密閉雰囲気下での保持温度が130~190℃であり、かつ保持時間が12時間以上である、上記[1]または[2]に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
[4]前記第1工程が、前記金属錯体を含む溶液を作製する工程と、前記アルコールと水とが均一に混合した混合溶液を作製する工程と、前記金属錯体を含む溶液と前記混合溶液とを混合する工程と、を有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従う金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する第1工程と、前記反応溶液を加熱し、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となる密閉雰囲気下で、前記反応溶液を相分離させる第2工程と、前記第2工程で加熱した前記反応溶液を30分以上保持し、前記金属錯体を脱水して、金属酸化物ナノ粒子を析出させる第3工程と、前記金属酸化物ナノ粒子が析出した溶液を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する第4工程とを有することによって、金属酸化物ナノ粒子を安定的かつ高収率に合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1における反応溶液の加熱時間と加熱温度との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1における反応溶液の加熱中の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の金属酸化物ナノ粒子の製造方法の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0012】
本発明に従う金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する第1工程と、前記反応溶液を加熱し、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となる密閉雰囲気下で、前記反応溶液を相分離させる第2工程と、前記第2工程で加熱した前記反応溶液を30分以上保持し、前記金属錯体を脱水して、金属酸化物ナノ粒子を析出させる第3工程と、前記金属酸化物ナノ粒子を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する第4工程とを有する。
【0013】
本発明の製造方法で得られる金属酸化物ナノ粒子は、少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む。ここで、少なくとも1種の金属とは、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、セリウム、チタン、銀、パラジウム、モリブデン、ニオブおよびジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましく、中でも、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、セリウムおよびチタンから選択される少なくとも1種の金属であることがより好ましく、特に、銅であることが好ましい。このような少なくとも1種の金属を含む金属酸化物は、1種の金属を含む酸化物であってもよいし、2種以上の金属を含む複合酸化物であってもよい。
【0014】
本発明の製造方法で得られる金属酸化物ナノ粒子は、nmオーダーの大きさを有する粒子であり、具体的に、100nm以下の粒子サイズを有し、例えば5~50nmの粒子径を有している。本発明の製造方法によれば、異なる粒子サイズを有する粒子の集合体だけでなく、合成条件によっては、均一な粒子サイズを有する粒子の集合体を得ることもできる。得られる金属酸化物ナノ粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、立方状(キューブ状)、直方体状、棒状又は線状である。特に、本発明の製造方法で得られる金属酸化物ナノ粒子は、ナノファセット構造を有するナノ結晶片の単体あるいはナノ結晶片が複数集まって形成されたナノ粒子であることが好ましい。また、本発明の製造方法で得られる金属酸化物ナノ粒子は、複数のナノ粒子が複数集まってナノ粒子集合体を形成することが好ましい。
【0015】
1.反応溶液を作製する工程(第1工程)
まず、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する。
【0016】
金属錯体は、上記少なくとも1つの金属を含む金属塩と、該金属塩の配位子となる化合物とを水溶液中で反応させることにより作製することができる。金属塩としては、例えば、上記少なくとも1つの金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩等が挙げられ、好ましくは塩化物である。特に、上記少なくとも1つの金属が銅である場合、銅塩は塩化第二銅二水和物であることが好ましい。
【0017】
また、配位子を構成する水以外の分子としては、例えば、アンモニア、尿素、チオ尿素、チオ硫酸、シアン化合物(シアン化水素など)が挙げられ、好ましくは尿素である。
【0018】
また、上記金属塩と配位子となる化合物との混合比(モル比)は、1:2~1:6であることが好ましい。
【0019】
金属錯体を作製する際に使用する反応溶媒としては、例えば、水とアルコールの混合溶液が挙げられる。反応溶媒として、アルコールおよび水を使用しない場合には、金属錯体を単離した後に、単離した金属錯体をアルコールおよび水と混合させることで、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製することができる。反応溶媒として、アルコールおよび水を使用する場合には、金属錯体を単離することなく、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製することができる。金属錯体を作製する際の反応温度は、例えば、10~40℃である。
【0020】
ここで、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1-プロパノール、2-ブタノールおよび1,3-ブタンジオールが挙げられる。金属錯体とアルコールとの水素結合を利用した脱水反応により、配向性のよいナノ結晶片を作製する観点から、アルコールは、二価の低級アルコール、特にエチレングリコールが好ましい。
【0021】
金属錯体とアルコールおよび水とが均質に相溶した反応溶液を得る観点から、アルコールと水との比率(体積比)は、1:0.5~1:1.5であることが好ましい。また、反応溶液のpHは、反応溶液中の金属塩が金属イオンとなり、金属イオンが配位子となる化合物と反応して金属錯体が作製された後、金属錯体が安定的に存在できるように調整する。金属イオンが銅イオンの場合、反応溶液のpHは、好ましくは4.0~6.0であり、より好ましくは4.2~5.2である。反応溶液のpHは、例えば、反応溶液に酸(塩酸、硝酸等)、アルカリ(水酸化ナトリウム等)を添加することにより調整することができる。
【0022】
反応溶液における金属の濃度は、0.1~5.0重量%であることが好ましい。金属の濃度が0.1重量%未満であると、得られる金属酸化物ナノ粒子の重量が極端に少なくなる。一方、金属の濃度が5.0重量%を超えると、析出する金属酸化物ナノ粒子が粗大化し所望の構造の金属酸化物ナノ粒子が得られにくくなる。
【0023】
このような反応溶液を作製する工程は、金属錯体を含む溶液を作製する工程と、アルコールと水とが均一に混合した混合溶液を作製する工程と、前記金属錯体を含む溶液と前記混合溶液とを混合する工程と、を有することが好ましい。金属錯体を含む溶液と、アルコールと水とが均一に混合した混合溶液とを個別に作製して、その後混合させることで、混合した後の全体の溶液量が多くなり、溶液中で金属錯体の分散が起こりやすいため、攪拌時間を短縮させることができる。また、金属錯体を含む溶液で金属錯体の状態を管理し、アルコールと水とが均一に混合した混合溶液で相分離状態を管理するというように、各工程を個々に管理することができる。
【0024】
2.反応溶液を加熱する工程(第2工程)
次に、上記工程で作製した反応溶液を加熱し、反応溶液の体積膨張率が5~15%となるよう密閉雰囲気下で反応溶液を相分離させる。具体的には、反応溶液が加熱されることによって、相分離による効果も加えて、反応溶液の体積膨張率が5~15%となるよう、加熱温度および密閉雰囲気下での圧力を設定する。
【0025】
反応溶液の加熱は、反応溶液が大気中で蒸発する温度以上の温度で行われることが好ましい。「反応溶液が大気中で蒸発する温度」は、反応溶液を構成するアルコールと水の比率によって変化する。例えば、エチレングリコールの沸点は189℃、水の沸点は100℃であるが、エチレングリコールと水の比率(体積比)が3:2である混合溶液の場合、反応溶液が蒸発する温度は120℃程度である。このとき、加熱温度は130~190℃であることがより好ましい。
【0026】
反応溶液の加熱は、密閉雰囲気下で行われる。反応溶液は、例えば、オートクレーブ等の密閉容器(加熱槽)内で加熱される。密閉雰囲気下で加熱を行うと、反応溶液の蒸発に伴い、密閉容器内の圧力が高まり加圧状態となる。密閉容器内の圧力は、例えば、1気圧以上である。なお、ナノ粒子を作製する別の方法として、超臨界水熱合成法がある。超臨界流体は、臨界温度および臨界圧力を超えた流体であり、水の場合、臨界温度は374℃、臨界圧力は22.1MPaである。この合成法では、臨界点付近において水の誘電率が大きく変化して過飽和度が大きくなり、多数の核が一斉に発生することでナノ粒子を合成することができる。超臨界水熱合成法を応用し、超臨界状態でナノ粒子の製造を行う際には、密閉容器内の圧力範囲は4~600MPaであることが好ましい。これに対し、本発明の金属酸化物ナノ粒子の製造は、低圧(4MPa未満)雰囲気下で実施することが可能であり、簡易な密閉容器の使用で足りるとともに、条件の制御が容易である。
【0027】
このようにして加熱された反応溶液は、加熱前の反応溶液に比べて、体積膨張率[{(加熱時の反応溶液の体積-加熱前の反応溶液の体積)/加熱前の室温での反応溶液の体積}×100(%)]で、5~15%膨張する。
【0028】
エチレングリコールと水とからなる混合溶液において、エチレングリコールと水の比率(体積比)が1:1である場合には、150℃の加熱で、体積膨張率は4%程度となることが知られている。これに対し、金属錯体、アルコールおよび水を含有する本発明の製造方法で使用される反応溶液の場合には、エチレングリコールと水の比率(体積比)が同程度であっても、150℃の加熱で、体積膨張率が10%程度まで高くなる。本発明の反応溶液で生じる体積膨張は、一般的に知られているエチレングリコールと水の混合系における加熱による体積膨張とは、現象が異なるものと推察される。
【0029】
このような特異的な体積膨張には、反応溶液の相分離が影響しており、本発明ではこの反応溶液の相分離が金属酸化物ナノ粒子の作製に寄与しているものと推察される。体積膨張率は脱水反応を生じる指標と考えられ、体積膨張率が5%未満では相分離は観察されずナノ粒子がほとんど得られない。また、現実的な反応溶液の体積膨張に鑑み、体積膨張率の上限値は15%未満である。
【0030】
なお、本発明でいう相分離とは、反応溶液が白濁するような視認できる程度のミクロな相分離と、液相が2層に分離しているようなマクロな相分離との、大きく2つの状態を含む意味である。
【0031】
特に、本発明の製造方法では、反応溶液を加熱すると、反応溶液自体の温度が徐々に上昇する。それに伴い、反応溶液の相分離が開始し、反応溶液に白濁が生じ始める。そして、反応溶液の白濁化と共に、上記のような特異的な体積膨張が生じる。このような相分離の現象は、本発明の製造方法特有の現象である。反応溶液を加熱することにより、反応溶液自体の温度がさらに上昇すると、反応溶液の相分離がさらに進行し、反応溶液の白濁がより顕著となる。そして、反応溶液の温度がある温度を超えると、液相が2層に分離し、反応溶液が透明になり始める。そして、反応溶液が加熱温度に達した時点では、反応溶液は完全に透明となっている。
【0032】
3.金属酸化物ナノ粒子を析出させる工程(第3工程)
加熱された反応溶液を30分以上保持し、金属錯体を脱水して、金属酸化物ナノ粒子を析出させる。ここで、「加熱された反応溶液を保持する」とは、所定の温度まで加熱された反応溶液を、一定温度を維持する温度制御と密閉による(密閉容器内等の密閉雰囲気下での)圧力保持により、状態を維持することを意味する。
【0033】
本発明の製造方法では、反応溶液の相分離が2段階(白濁化と透明化)で進行することにより、金属錯体の脱水反応が促され、金属酸化物ナノ粒子を安定的かつ高収率に合成できる。
【0034】
このような反応系のメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。すなわち、反応溶液が相分離しようとする作用が、金属錯体の周囲で起こる脱水反応の駆動力となり、金属酸化物ナノ粒子が高収率で得られるものと考えられる。
【0035】
また、本工程において、上記密閉雰囲気下での保持温度は130~190℃であることが好ましく、145~185℃であることがより好ましい。保持温度が130~190℃であることにより、密閉容器内での加圧状態が維持され、相分離を促すことができる。
【0036】
保持時間は、30分以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。保持時間が30分以上であることにより、反応溶液全体にわたって金属錯体の脱水反応を促し、金属酸化物ナノ粒子を効率よく生成することができる。なお、保持時間の上限は特に限定されないが、実用上の観点から、120時間(5日)であることが好ましい。特に、密閉雰囲気下での保持温度と保持時間の組み合わせとして、保持温度が130~190℃であり、かつ保持時間が12時間以上であることが好ましい。
【0037】
4.金属酸化物を収集する工程(第4工程)
金属酸化物ナノ粒子を冷却した後、金属酸化物ナノ粒子を収集する。
【0038】
析出した金属酸化物ナノ粒子を含む溶液を室温(15~25℃)付近まで冷却する。冷却方法は特に限定されないが、例えば、加熱槽内に設置したまま自然冷却を行う方法、加熱槽から取り出して空冷する方法、加熱槽から取り出した後に流水で冷却する方法等が挙げられる。
【0039】
冷却後、析出した金属酸化物ナノ粒子(析出物)を溶液から収集し、洗浄し、乾燥することにより、金属酸化物ナノ粒子が得られる。洗浄溶液は、適宜選択できるが、例えばメタノールと水の混合溶液を用いることができる。
【0040】
特に、収集した析出物において、高収率で金属酸化物ナノ粒子を得る観点から、冷却後の密閉容器を開封した後は、速やかに析出物を収集し、洗浄することが好ましい。密閉容器を開封すると、溶液が大気に触れるため、そのまま放置すると、溶液中で金属酸化物ナノ粒子とは異なる別の生成物が生じる可能性がある。また、溶液が大気に触れるのを避けるため、析出物の収集は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
室温で180mlのエチレングリコールと90mlの水を混合し、1時間攪拌した。エチレングリコールと水との混合溶液が透明であり、エチレングリコールと水とが均一に混合していることを確認した。一方、2.0gの塩化銅(II)二水和物と1.6gの尿素を水30mlに添加して金属錯体溶液を作製した。上記混合溶液を攪拌しながら、該混合溶液に上記金属錯体溶液を追加した。さらに希塩酸を添加してpHが4.5になるように調整し、反応溶液を得た。得られた反応溶液を内容積500mlの耐圧硝子容器に注入し、空気雰囲気中で該容器を密閉した。この耐圧硝子容器は透明であるため、加熱中に、反応溶液の相分離状態を確認することができるとともに、反応溶液の体積膨張による液面の上昇を確認することができる。溶液の対流を利用し完全に白濁させるために、反応溶液を110℃から150℃まで45分間かけて加熱した(
図1参照)。加熱中、容器内を2MPa以下に保持するために、必要に応じてバルブ操作を行って減圧した。相分離によって白濁した反応溶液は、その後のミクロ相分離により透明になり、金属水和物及び金属酸化物の析出が始まった(
図2参照)。反応溶液全体が透明になるよう、反応溶液が白濁した後1時間以上かけて、反応溶液の体積膨張率が10%となる温度条件である180℃まで反応溶液を加熱し、180℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、室温で1日保持した後、沈殿物を含む溶液を容器から回収した。溶液中の沈殿物をメタノールおよび純水で洗浄した後、真空環境下で70℃で10時間乾燥させ、酸化銅ナノ粒子を得た。
【0044】
(実施例2)
120mlのエチレングリコールと180mlの水を混合したこと、反応溶液を110℃から140℃まで80分間かけて加熱したこと、および、反応溶液の体積膨張率が6.7%となる温度条件である150℃で24時間保持したこと以外は実施例1と同じ方法で実施し、酸化銅ナノ粒子を得た。
【0045】
(実施例3)
120mlのエチレングリコールと150mlの水を混合したこと、2.6gの硝酸セリウム(III)六水和物と1.4gの尿素を水30mlに添加して金属錯体溶液を作製したこと、希硝酸を添加してpHが4.5になるように調整したこと、反応溶液を105℃から140℃まで85分間かけて加熱したこと、および、反応溶液の体積膨張率が6.7%となる温度条件である155℃で24時間保持したこと以外は実施例1と同じ方法で実施し、酸化セリウムナノ粒子を得た。
【0046】
(比較例1)
300mlの水に、2.0gの塩化銅(II)二水和物と1.6gの尿素を加えて攪拌し、pHを4.9に調整した反応溶液を得たこと、反応溶液を90℃から125℃まで60分間かけて加熱したこと、および、反応溶液の体積膨張率が3.9%となる温度条件である135℃で12時間保持したこと以外は実施例1と同じ方法で実施し、酸化銅ナノ粒子を得た。
【0047】
(比較例2)
反応溶液の体積膨張率が7.0%となる温度条件である180℃で12時間保持したこと以外は比較例1と同じ条件で実施し、酸化銅ナノ粒子を得た。
【0048】
(比較例3)
pHを3.5に調整した反応溶液を得たこと以外は比較例1と同じ方法で実施し、酸化銅ナノ粒子を得た。
【0049】
(比較例4)
反応溶液を90℃から125℃まで60分間かけて加熱したこと、および、反応溶液の体積膨張率が3.2%となる温度条件である125℃で12時間保持したこと以外は実施例3と同じ方法で実施し、酸化セリウムナノ粒子を得た。
【0050】
なお、参考実験として、金属錯体を含まない、40重量%のエチレングリコールと水とからなる混合溶液(40重量%エチレングリコール水溶液)を室温(約25℃)から約180℃まで加熱した場合、溶液の体積膨張は確認できたが、溶液は透明のままであり、白濁化は確認できなかった。参考実験で確認できた40重量%エチレングリコール水溶液の体積膨張率は6.7%である。これは、176℃における40重量%エチレングリコール水溶液の密度である0.937から換算される体積膨張率とほぼ同じ値である。該密度は相分離がない状態での値であり、体積膨張率の値と、密度から換算される体積膨張率の値が一致したことから、この参考実験では相分離が起きていないといえる。よって、金属錯体を含まない、水とアルコールのみの溶液では、加熱しても相分離が起きないのに対して、金属イオンが存在する溶液では、金属イオンと、水およびアルコールとの相互作用による相分離が起きることから、この相分離が金属酸化物ナノ粒子の作製に寄与していると考えられる。
【0051】
[評価]
(1)ナノ粒子の生成量
上記実施例および比較例に係る製造方法により得られた析出物について、X線回折装置(ブルカー社製)を用いて構造分析を行い、ナノ粒子の生成量を測定した。実施例1、2及び比較例1、2では、酸化銅ナノ粒子以外に塩基性炭酸銅ナノ粒子も生成していたため、酸化銅ナノ粒子と塩基性炭酸銅ナノ粒子の生成量を測定した。実施例3では、酸化セリウムナノ粒子以外に塩基性炭酸セリウムナノ粒子も生成していたため、酸化セリウムナノ粒子と塩基性炭酸セリウムナノ粒子の生成量を測定した。金属酸化物ナノ粒子(酸化銅ナノ粒子、酸化セリウムナノ粒子)の生成量と、塩基性炭酸塩ナノ粒子(塩基性炭酸銅ナノ粒子、塩基性炭酸セリウムナノ粒子)の生成量を表1に示す。
【0052】
金属酸化物ナノ粒子の生成量は、原料である金属塩2~3gに対して200mg以上であることが望ましい。したがって、金属酸化物ナノ粒子の生成量が200mg以上である場合を合格レベルと判定し、200mg未満である場合を不合格レベルと判定した。
【0053】
金属酸化物ナノ粒子と共に塩基性炭酸塩ナノ粒子が生成したとしても、金属酸化物ナノ粒子と塩基性炭酸塩ナノ粒子とを完全に分離して回収することができるのであれば、実用上問題ないと判定できる。従来の金属酸化物ナノ粒子の製造方法においては、金属酸化物ナノ粒子と塩基性炭酸塩ナノ粒子が混在した状態で生成されるため、金属酸化物ナノ粒子と塩基性炭酸塩ナノ粒子とを分離して回収することが困難である。一方、本発明の金属酸化物ナノ粒子の製造方法によれば、金属酸化物ナノ粒子と塩基性炭酸塩ナノ粒子とがそれぞれナノ粒子集合体を形成するものの、金属酸化物ナノ粒子のナノ粒子集合体と塩基性炭酸塩ナノ粒子のナノ粒子集合体とは色が異なる。そのため、各ナノ粒子集合体が形成されても、金属酸化物ナノ粒子のナノ粒子集合体だけを容易に分離して回収することが可能であると共に、純度の高い金属酸化物ナノ粒子のナノ粒子集合体を得ることができる。
【0054】
金属酸化物ナノ粒子のナノ粒子集合体の純度は、X線回折における構造分析において、各ピークが単一構造の結晶に由来するピークであることを確認した後、TG-DTA/MS(示差熱天秤-質量分析法)において、ナノ粒子集合体を真空中で1000℃まで加熱して、金属酸化物を完全に分解した時の発生ガスの成分分析、濃度測定と酸化物の重量変化から求められる。実施例および比較例に係る製造方法により得られた析出物については、いずれも、金属酸化物ナノ粒子集合体と塩基性炭酸塩ナノ粒子集合体との純度は99%以上であり、完全に分離して回収することができることを確認した。
【0055】
(2)金属酸化物ナノ粒子の比表面積
JIS Z 8830に準拠したBET法により、高精度・多検体ガス吸着量測定装置(製品名「AutoSorb-iQ2」、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用いて、窒素ガスの吸着量を測定することにより金属酸化物ナノ粒子の比表面積を算出した。なお、前処理として、200℃で3時間、金属酸化物ナノ粒子の真空脱気を行った後に、窒素ガスの吸着量を測定した。金属酸化物ナノ粒子の比表面積(m2/g)を表1に示す。
【0056】
得られた金属酸化物ナノ粒子の粒径については、SEMを用いて実際の粒径を測定することも可能であるが、粒子の形態の多様性を考慮して、比表面積に基づき、得られた金属酸化物ナノ粒子の粒径がナノオーダーであるか否かを判断した。比表面積が10m2/g以上である場合に、粒径がナノオーダーであると判断し、合格レベルと判定し、10m2/g未満である場合に、不合格レベルと判定した。なお、比較例1~4では、比表面積測定のために必要な量(50mg)を回収できなかったので、表1において「-」とした。
【0057】
【0058】
表1に示すように、実施例1~3では、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製し、反応溶液を、反応溶液の体積膨張率が5~15%となるよう密閉雰囲気下で加熱して反応溶液を相分離させ、加熱された反応溶液を30分以上保持し、金属錯体を脱水して金属酸化物ナノ粒子を析出させ、析出した金属酸化物ナノ粒子を含む溶液を冷却した後、金属酸化物ナノ粒子を収集することにより、金属酸化物ナノ粒子を高収率に合成できた。
【0059】
一方、比較例1、2では、反応溶液にアルコールが含まれていないため、金属酸化物ナノ粒子の生成量が少なかった。また、比較例3では、反応溶液にアルコールが含まれておらず、さらに反応溶液のpHが3.5と低いため、金属酸化物ナノ粒子が生成しなかった。比較例4では、反応溶液にアルコールが含まれており、加熱による体積膨張が確認できたが体積膨張率が3.2%と低く、相分離による白濁化は観察されず透明のままであった。脱水反応が不十分であるため、金属酸化物ナノ粒子が生成しなかった。
【0060】
以上より、本発明に係る金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、金属錯体、アルコールおよび水を含有する反応溶液を作製する工程と、前記反応溶液を、前記反応溶液の体積膨張率が5~15%となるよう密閉雰囲気下で加熱する工程と、加熱された反応溶液を30分以上保持し、金属酸化物ナノ粒子を析出させる工程と、析出した金属酸化物ナノ粒子を含む溶液を冷却した後、前記金属酸化物ナノ粒子を収集する工程とを有するため、金属酸化物ナノ粒子を安定的かつ高収率に合成できることが分かった。