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特許7101695アゾール誘導体および追加の防食剤を含む、燃料電池および/またはバッテリを備えた電気自動車の冷却システム用クーラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】アゾール誘導体および追加の防食剤を含む、燃料電池および/またはバッテリを備えた電気自動車の冷却システム用クーラント
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20220708BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20220708BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20220708BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220708BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20220708BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20220708BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220708BHJP
【FI】
C09K5/10 F
H01M8/04 Z
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/651
H01M8/10 101
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019547770
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2017079162
(87)【国際公開番号】W WO2018095759
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】16200197.8
(32)【優先日】2016-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ディートル
(72)【発明者】
【氏名】ローガー ズィーク
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0266519(US,A1)
【文献】特表2005-500649(JP,A)
【文献】特開昭56-032581(JP,A)
【文献】特表2015-515549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/10
H01M 8/04
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/653
H01M 10/651
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、最大で50μS/cmの導電率を有するクーラント組成物であって、前記クーラント組成物は、
少なくとも1つのアルキレングリコールまたはその誘導体を含み、
窒素および硫黄の群からのヘテロ原子を2または3つ有する1つまたは複数の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)をさらに含み、ここで、前記5員複素環式化合物(アゾール誘導体)は、硫黄原子を含まないかまたは最大で1つ含み、かつ芳香族または飽和の6員縮合環を有することができるものとし、かつ
イオン不含の水、好ましくは蒸留水、二回蒸留水または脱イオン水をさらに含む
クーラント組成物において、前記クーラント組成物は、一般式(V)
【化1】
の化合物、一般式(VI)
【化2】
の化合物、および一般式(VII)
【化3】
[式中、
は、1119個の炭素原子を有する有機基を表し、特に好ましくは11~19個、非常に特に好ましくは13~19個、特に15~19個、殊に17個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、8~22個の炭素原子を有する有機基を表し、特に8~22個、好ましくは10~20個、特に好ましくは12~20個、非常に特に好ましくは14~20個、特に16~20個、殊に18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、6~10個の炭素原子を有する有機基を表し、特に6~10個、好ましくは7~9個、特に好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
nは、10~60、好ましくは12~50、特に好ましくは15~40、非常に特に好ましくは18~30、特に20~25の正の整数を表し、
pおよびqは、互いに独立して、1~30、特に好ましくは2~25、非常に特に好ましくは3~20、特に5~15の正の整数を表し、
各Xは、i=1~n、1~pおよび1~qについて、互いに独立して、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-及び-CH(CH)-CH-O-からなる群から選択され、特に好ましくは-CH-CH-O-である]
の化合物のうちの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、クーラント組成物。
【請求項2】
式(V)の化合物が少なくとも1つ存在することを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項3】
前記式(V)中の構造要素R-COO-は、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、パルミトレイン酸[(9Z)-ヘキサデカ-9-エン酸]、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸[(9Z)-オクタデカ-9-エン酸]、エライジン酸[(9E)-オクタデカ-9-エン酸]、リノール酸[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸]、リノレン酸[(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸]、エレオステアリン酸[(9Z,11E,13E)-オクタデカ-9,11,13-トリエン酸]、リシノール酸((R)-12-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-9-エン酸)、イソリシノール酸[(S)-9-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-12-エン酸]、ノナデカン酸及びアラキン酸(エイコサン酸)からなる群から選択される酸から誘導されていることを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項4】
前記構造要素R-COO-は、アマニ油、ヤシ油、パーム核油、パーム油、大豆油、落花生油、カカオバター、シアバター、綿実油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、菜種油またはヒマシ油の後処理に由来する脂肪酸混合物に由来することを特徴とする、請求項3記載のクーラント組成物。
【請求項5】
式(VI)中の前記構造要素R-O-は、オクチルアルコール(カプリルアルコール)、ノニルアルコール(ペラルゴニルアルコール)、デシルアルコール(カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール(ステアリルアルコール)、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレノイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール(アラキルアルコール)またはそれらの混合物からなる群から選択されるアルコールから誘導されていることを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項6】
式(VI)中の前記構造要素R-O-は、2-エチルヘキサノール、2-プロピルヘプタノール、トリデカノール異性体混合物およびヘプタデカノール異性体混合物からなる群から選択されるアルコールから誘導されていることを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項7】
式(VI)中の前記構造要素R-O-は、アルコキシル化ヒマシ油、好ましくは水添アルコキシル化ヒマシ油から誘導されていることを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項8】
式(VII)中の前記構造要素R-N<は、n-ヘキシルアミン、2-メチルペンチルアミン、n-ヘプチルアミン、2-ヘプチルアミン、イソヘプチルアミン、1-メチルヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、2-アミノオクタン、6-メチル-2-ヘプチルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミンおよび2-プロピルヘプチルアミンならびにそれらの混合物からなる群から選択されるアミンから誘導されていることを特徴とする、請求項1記載のクーラント組成物。
【請求項9】
は、-CH-CH-O-を表すことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項10】
式(V)および(VI)中のnは18~60を表し、かつ式(VII)中のpおよびqは1を表すことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項11】
アゾール誘導体として、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾールおよび/または水素化トルトリアゾールを含む、請求項1から10までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項12】
オルトケイ酸エステルを、すぐに使用できる水性クーラント組成物中のケイ素含分が2~2000重量ppmとなる量でさらに含む、請求項1から11までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項13】
最大で50μS/cmの導電率を有するクーラント組成物であって、前記クーラント組成物は、以下:
(a)アルキレングリコールまたはその誘導体を10~90重量%と、
(b)水を90~10重量%と、
(c)前記アゾール誘導体を0.005~5重量%、特に0.0075~2.5重量%、殊に0.01~1重量%と、
(d)適宜、オルトケイ酸エステルと、
(e)前記化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つを、0.05~5重量%、特に0.1~1重量%、殊に0.2~0.5重量%と
から実質的になり、ここで、全成分の合計は100重量%であるものとする、請求項1から12までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項14】
最大で30μS/cmの導電率を有する、請求項1から13までのいずれか1項記載のクーラント組成物。
【請求項15】
最大で50μS/cmの導電率を有するクーラント組成物の製造方法において、少なくとも1つの不凍液濃縮物と、イオン不含の水、好ましくは蒸留水、二回蒸留水または脱イオン水とを混合し、ここで、前記不凍液濃縮物は、
少なくとも1つのアルキレングリコールまたはその誘導体を含み、
窒素および硫黄の群からのヘテロ原子を2または3つ有する1つまたは複数の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)をさらに含み、ここで、前記5員複素環式化合物(アゾール誘導体)は、硫黄原子を含まないかまたは最大で1つ含み、かつ芳香族または飽和の6員縮合環を有することができるものとし、かつ
一般式(V)
【化4】
の化合物、一般式(VI)
【化5】
の化合物、および一般式(VII)
【化6】
[式中、
は、1119個の炭素原子を有する有機基を表し、特に好ましくは11~19個、非常に特に好ましくは13~19個、特に15~19個、殊に17個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、8~22個の炭素原子を有する有機基を表し、特に8~22個、好ましくは10~20個、特に好ましくは12~20個、非常に特に好ましくは14~20個、特に16~20個、殊に18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、6~10個の炭素原子を有する有機基を表し、特に6~10個、好ましくは7~9個、特に好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
nは、10~60、好ましくは12~50、特に好ましくは15~40、非常に特に好ましくは18~30、特に20~25の正の整数を表し、
pおよびqは、互いに独立して、1~30、特に好ましくは2~25、非常に特に好ましくは3~20、特に5~15の正の整数を表し、
各Xは、i=1~n、1~pおよび1~qについて、互いに独立して、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-及び-CH(CH)-CH-O-からなる群から選択され、特に好ましくは-CH-CH-O-である]
の化合物のうちの少なくとも1つをさらに含む、方法。
【請求項16】
燃料電池および/またはバッテリにおいて最大で50μS/cmの導電率を有するクーラント組成物を使用する際に非鉄金属の腐食を低減するための方法であって、ここで、前記クーラント組成物は、
少なくとも1つの不凍液濃縮物を含み、かつ
イオン不含の水、好ましくは蒸留水、二回蒸留水または脱イオン水をさらに含み、
ここで、前記不凍液濃縮物は、
少なくとも1つのアルキレングリコールまたはその誘導体を含み、
窒素および硫黄の群からのヘテロ原子を2または3つ有する1つまたは複数の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)をさらに含み、ここで、前記5員複素環式化合物(アゾール誘導体)は、硫黄原子を含まないかまたは最大で1つ含み、かつ芳香族または飽和の6員縮合環を有することができるものとする方法において、前記クーラント組成物は、一般式(V)
【化7】
の化合物、一般式(VI)
【化8】
の化合物、および一般式(VII)
【化9】
[式中、
は、1119個の炭素原子を有する有機基を表し、特に好ましくは11~19個、非常に特に好ましくは13~19個、特に15~19個、殊に17個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、8~22個の炭素原子を有する有機基を表し、特に8~22個、好ましくは10~20個、特に好ましくは12~20個、非常に特に好ましくは14~20個、特に16~20個、殊に18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、6~10個の炭素原子を有する有機基を表し、特に6~10個、好ましくは7~9個、特に好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
nは、10~60、好ましくは12~50、特に好ましくは15~40、非常に特に好ましくは18~30、特に20~25の正の整数を表し、
pおよびqは、互いに独立して、1~30、特に好ましくは2~25、非常に特に好ましくは3~20、特に5~15の正の整数を表し、
各Xは、i=1~n、1~pおよび1~qについて、互いに独立して、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-及び-CH(CH)-CH-O-からなる群から選択され、特に好ましくは-CH-CH-O-である]
の化合物のうちの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項15記載の方法において使用するための不凍液濃縮物であって、前記不凍液濃縮物は、
少なくとも1つのアルキレングリコールまたはその誘導体を含み、
窒素および硫黄の群からのヘテロ原子を2または3つ有する1つまたは複数の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)をさらに含み、ここで、前記5員複素環式化合物(アゾール誘導体)は、硫黄原子を含まないかまたは最大で1つ含み、かつ芳香族または飽和の6員縮合環を有することができるものとし、かつ
一般式(V)
【化10】
の化合物、一般式(VI)
【化11】
の化合物、および一般式(VII)
【化12】
[式中、
は、1119個の炭素原子を有する有機基を表し、特に好ましくは11~19個、非常に特に好ましくは13~19個、特に15~19個、殊に17個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、8~22個の炭素原子を有する有機基を表し、特に8~22個、好ましくは10~20個、特に好ましくは12~20個、非常に特に好ましくは14~20個、特に16~20個、殊に18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、6~10個の炭素原子を有する有機基を表し、特に6~10個、好ましくは7~9個、特に好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
nは、10~60、好ましくは12~50、特に好ましくは15~40、非常に特に好ましくは18~30、特に20~25の正の整数を表し、
pおよびqは、互いに独立して、1~30、特に好ましくは2~25、非常に特に好ましくは3~20、特に5~15の正の整数を表し、
各Xは、i=1~n、1~pおよび1~qについて、互いに独立して、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-及び-CH(CH)-CH-O-からなる群から選択され、特に好ましくは-CH-CH-O-である]
の化合物のうちの少なくとも1つをさらに含む、不凍液濃縮物。
【請求項18】
燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとする不凍液濃縮物を製造するための、特に自動車における、特に好ましくは乗用車および商用車における燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとする不凍液濃縮物を製造するための、請求項1から17までのいずれか1項に規定された化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池および/またはバッテリを備えた電気自動車の冷却システム用の、好ましくは自動車、特に好ましくは乗用車および商用車(いわゆるライトデューティー・ビークルおよびヘビーデューティー・ビークル)の冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとし、かつ特定のアゾール誘導体に加えて、防食性を改善するための追加の防食剤を含むクーラントに関する。
【0002】
車載用途の燃料電池および/またはバッテリ、特に自動車における燃料電池および/またはバッテリは、およそ-40℃に至るまでの低い外部温度でも動作可能でなければならない。したがって、クーラント回路の凍結防止が不可欠である。
【0003】
内燃機関に使用されている従来のクーラント保護剤の使用は、燃料電池および/またはバッテリの場合には、冷却回路の完全な電気的絶縁なしには不可能である。なぜならば、こうしたクーラント保護剤が有する導電率は、中に防食剤として含まれる塩およびイオン化可能な化合物ゆえに過度に高く、これによって、燃料電池またはバッテリの機能が不都合に損なわれるためである。
【0004】
独国特許出願公開第19802490号明細書(DE-A 19802490)(1)には、流動点が-40℃未満であるパラフィン系異性体混合物をクーラントとして使用した、凍結防止冷却回路を備えた燃料電池が記載されている。しかし、こうしたクーラントの可燃性が欠点である。
【0005】
欧州特許出願公開第1009050号明細書(EP-A 1009050)(2)から、冷却媒体として空気を用いた自動車用燃料電池系が知られている。しかしこの場合、公知のとおり、空気は液体の冷却媒体よりも劣った熱伝導体であることが欠点である。
【0006】
国際公開第00/17951号(WO 00/17951)(3)には、添加剤を含まない1:1の比の純粋なモノエチレングリコール/水混合物をクーラントとして使用した燃料電池用冷却システムが記載されている。防食剤が存在しないことから、該冷却システム内に存在する材料に関しては防食性が全く存在せず、そのため、クーラントの純度を維持しかつ低い比導電率を比較的長期にわたって保証すべく、冷却回路はイオン交換ユニットを含んでおり、それによって、短絡や腐食が防止される。適切なイオン交換体としては、例えば強アルカリ性ヒドロキシル型のアニオン性樹脂や、例えばスルホン酸基をベースとするカチオン性樹脂、また例えば活性炭フィルターのような他のろ過ユニットが挙げられる。
【0007】
自動車用燃料電池、特に電子伝導性電解質膜を備えた燃料電池(「PEM燃料電池」、「高分子電解質膜燃料電池(polymer electrolyte membrane fuel cell)」)の構造および機能様式は、(3)に例示的に記載されており、その際、冷却回路(冷却装置)内の好ましい金属成分としては、アルミニウムが好ましい。
【0008】
国際公開第02/101848号(WO 02/101848 A2)には、特定のアゾール誘導体を含む、燃料電池駆動装置の冷却システム用の不凍液およびその濃縮物が記載されている。
【0009】
該不凍液は、アルミニウム試料に対してはすでに良好な防食性を示すものの、鉄および非鉄金属の腐食に関する現代の要求をもはや満たさない。
【0010】
独国特許出願公開第10063951号明細書(DE-A 10063951)(4)には、防食剤としてオルトケイ酸エステルを含む、燃料電池駆動装置の冷却システム用のクーラントが記載されている。
【0011】
米国特許出願公開第2012/0064426号明細書(US 2012/0064426 A1)から、不凍成分としてのエチレングリコールまたはプロピレングリコールと、アルミニウム腐食に対する抑制剤、例えば特にアゾールとの他に、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレン脂肪酸エステルをも含む、イオン交換体を含む燃料電池用クーラントが知られている。
【0012】
アルミニウム腐食以外の他の腐食については考察が行われておらず、使用されるポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、もっぱら界面活性剤としてのみ使用されている。
【0013】
燃料電池駆動装置の冷却システムにおける主な課題は、燃料電池およびそれに接続されたバッテリの安全で誤動作のない機能を確実にし、かつ短絡および腐食を長期にわたって防ぐために、クーラントの導電率を従来のクーラントよりも低く保つという点にある。
【0014】
米国特許第3931029号明細書(US 3931029)から、不凍成分としてのエチレングリコールまたはジエチレングリコールと、消泡剤としてのアルコキシル化高級脂肪酸または脂肪アミンとの他に、さらなる抑制剤としての無機化合物をも含む不凍組成物が知られている。
【0015】
該組成物中の該無機化合物は、好ましくはアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として使用され、そのため該組成物はかなりの割合のイオン性成分を含んでおり、したがって該組成物は固有の導電性ゆえに燃料電池における使用には適していない。
【0016】
国際公開第2014029654号(WO 2014029654 A1)から、不凍成分としてのグリコールおよびポリアルキレングリコールと界面活性剤成分としてのアルキルアミンエトキシレートとに加えてさらなる添加剤を含み得る防食剤配合物が知られている。かかる添加剤を選択する際には導電率が考慮されておらず、したがってアニオン性およびカチオン性界面活性剤も開示されており、またpH調整のためのホウ砂が開示されており、そしてカルボン酸がその塩の形態で開示されている。
【0017】
したがって、該組成物もまたかなりの割合のイオン性成分を含んでおり、またその固有の導電性ゆえに燃料電池における使用には適していない。
【0018】
同様のことが、米国特許第4704220号明細書(US 4704220)にも当てはまる。該文献には、少なくとも1種の乳化剤と少なくとも1種の有機疎水化剤とを含み、かつ濃縮物として水で希釈した後にクーラントとしての使用が可能な組成物が記載されている。該有機疎水化剤は塩形成性基を有し、また該乳化剤は、アニオン性またはカチオン性化合物であってもよい。実施例において該組成物に水が混合されるが、この水には意図的に無機化合物が添加される。
【0019】
したがって、該組成物もまたかなりの割合のイオン性成分を含んでおり、またその固有の導電性ゆえに燃料電池における使用には適していない。
【0020】
本発明の課題は、国際公開第02/101848号(WO 02/101848 A2)から知られている不凍液を、アルミニウム以外の金属に対してもより防食性に優れたものとすることであった。
【0021】
ここで、アルキレングリコール/水をベースとする冷却システムにおいて導電率が低い状態の持続時間を、(3)により組み込まれたイオン交換体が含まれる場合であっても、またこうした場合に特に、少量のアゾール誘導体を添加することで著しく延長できることが判明した。国際公開第02/101848号(WO 02/101848 A2)によれば良好であるアルミニウムおよびアルミニウム含有合金の防食性が、化合物(V)、(VI)および/または(VII)の本発明による使用によって、他の金属、特に鉄材料、鉄含有合金および非鉄金属に対しても提供され、これらのうち特に銅および黄銅に対して提供される。これによって実用上では、燃料電池における2つのクーラント交換の間の時間間隔をさらに延ばすことができるという利点が生じ、このことは特に自動車分野において重要である。
【0022】
それに応じて、燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとする不凍液濃縮物であって、該不凍液濃縮物によって、最大で50μS/cmの導電率を有するすぐに使用できる水性クーラント組成物が得られ、該不凍液濃縮物は、窒素および硫黄の群からのヘテロ原子を2または3つ有する1つまたは複数の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)をさらに含み、ここで、前記5員複素環式化合物(アゾール誘導体)は、硫黄原子を含まないかまたは最大で1つ含み、かつ芳香族または飽和の6員縮合環を有することができるものとし、かつ化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つをさらに含む不凍液濃縮物が見出された。ここで、前記アゾール誘導体を合計で0.05~5重量%、特に0.075~2.5重量%、殊に0.1~1重量%含む不凍液濃縮物が好ましい。ここで、化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つを合計で0.05~5重量%、特に0.1~1重量%、殊に0.2~0.5重量%含む不凍液が好ましい。
【0023】
5員複素環化合物(アゾール誘導体)は、ヘテロ原子として通常は、N原子を2個含んでS原子を含まないか、N原子を3個含んでS原子を含まないか、またはN原子を1個含んでS原子を1個含むかのいずれかである。
【0024】
上記アゾール誘導体の好ましい基は、一般式
【化1】
[式中、
可変部Rは、水素またはC~C10-アルキル基、特にメチルまたはエチルを表し、かつ
可変部Xは、窒素原子またはC-H基を表す]
の縮合イミダゾールおよび縮合1,2,3-トリアゾールである。
【0025】
一般式(I)のアゾール誘導体の典型的かつ好ましい例は、ベンゾイミダゾール(X=C-H、R=H)、ベンゾトリアゾール(X=N、R=H)およびトルトリアゾール(トリルトリアゾール)(X=N、R=CH)である。一般式(II)のアゾール誘導体の一典型例は、水素化1,2,3-トルトリアゾール(トリルトリアゾール)(X=N、R=CH)である。
【0026】
上記アゾール誘導体のさらなる好ましい群は、一般式(III)
【化2】
[式中、
可変部Rは、上記の意味を有し、かつ
可変部R’は、水素、C~C10-アルキル基、特にメチルもしくはエチル、または特にメルカプト基(-SH)を表す]
のベンゾチアゾールである。一般式(III)のアゾール誘導体の一典型例は、2-メルカプトベンゾチアゾールである。
【0027】
さらに、一般式(IV)
【化3】
[式中、
可変部XおよびYは一緒になって、2個の窒素原子か、または1個の窒素原子および1個のC-H基を表す]
の非縮合アゾール誘導体が挙げられ、例えば1H-1,2,4-トリアゾール(X=Y=N)または好ましくはイミダゾール(X=N、Y=C-H)が挙げられる。
【0028】
本発明に関して、アゾール誘導体としては、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、水素化トルトリアゾールまたはそれらの混合物、特にベンゾトリアゾールまたはトルトリアゾールが非常に特に好ましい。
【0029】
上記アゾール誘導体は、市販されているかまたは慣用の方法により製造可能である。水素化トルトリアゾールのような水素化ベンゾトリアゾールも同様に、独国特許出願公開第1948794号明細書(DE-A 1948794)(5)に記載のとおりに得ることができ、また市販もされている。
【0030】
上記アゾール誘導体の他に、本発明による不凍液濃縮物は、(4)に記載されているようなオルトケイ酸エステルをさらに含むことが好ましい。このようなオルトケイ酸エステルの典型例は、テトラアルコキシシラン、例えば好ましくはテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシラン、ならびにアルコキシアルキルシラン、例えば好ましくはトリエトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシランおよびメトキシトリメチルシランである。テトラアルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランが特に好ましく、テトラエトキシシランが非常に特に好ましい。ここで、特に上記アゾール誘導体を合計で0.05~5重量%の含分で含む不凍液濃縮物であって、該不凍液濃縮物から、ケイ素2~2000重量ppm、特にケイ素25~500重量ppmのケイ素含分を有するすぐに使用できる水性クーラント組成物が得られる不凍液濃縮物が好ましい。
【0031】
本発明によれば、本発明の不凍液および不凍液濃縮物には、式(V)の化合物、式(VI)の化合物、式(VII)の化合物およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物が含まれる。
【0032】
これは、一般式(V)
【化4】
の化合物、一般式(VI)
【化5】
の化合物、および一般式(VII)
【化6】
[式中、
は、7~21個の炭素原子を有する有機基を表し、特に7~21個、好ましくは9~19個、特に好ましくは11~19個、非常に特に好ましくは13~19個、特に15~19個、殊に17個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、8~22個の炭素原子を有する有機基を表し、特に8~22個、好ましくは10~20個、特に好ましくは12~20個、非常に特に好ましくは14~20個、特に16~20個、殊に18個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
は、6~10個の炭素原子を有する有機基を表し、特に6~10個、好ましくは7~9個、特に好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表し、
nは、10~60、好ましくは12~50、特に好ましくは15~40、非常に特に好ましくは18~30、特に20~25の正の整数を表し、
pおよびqは、互いに独立して、1~40、好ましくは1~30、特に好ましくは2~25、非常に特に好ましくは3~20、特に5~15の正の整数を表し、
各Xは、i=1~n、1~pおよび1~qについて、互いに独立して、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-、-CH(CH)-CH-O-、-CH-C(CH-O-、-C(CH-CH-O-、-CH-CH(C)-O-、-CH(C)-CH-O-、-CH(CH)-CH(CH)-O-、-CH-CH-CH-O-および-CH-CH-CH-CH-O-からなる群から選択され、好ましくは、-CH-CH-O-、-CH-CH(CH)-O-および-CH(CH)-CH-O-からなる群から選択され、特に好ましくは-CH-CH-O-である]
の化合物である。
【0033】
式(V)、(VI)および(VII)の化合物は大抵は、生成物組成分布が反応条件に依存する反応混合物であることに留意すべきである。したがって、鎖-[-X-]-の長さは統計的平均値の近傍の分布に従うため、n、p、およびqの値は統計的平均値の近傍に分布し得る。したがって、式(V)、(VI)または(VII)の個々の化合物のそれぞれについてのn、pおよびqの値は正の整数をとるが、反応混合物に関しては、統計的に平均すると整数でない値をとる場合がある。
【0034】
これらの中で、式(V)および(VII)の化合物が好ましく、式(VII)の化合物が特に好ましい。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態において、式(V)中の構造要素R-COO-は、脂肪酸またはその混合物から誘導されており、好ましくは、2-エチルヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、2-プロピルヘプタン酸、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、パルミトレイン酸[(9Z)-ヘキサデカ-9-エン酸]、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸[(9Z)-オクタデカ-9-エン酸]、エライジン酸[(9E)-オクタデカ-9-エン酸]、リノール酸[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸]、リノレン酸[(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸]、エレオステアリン酸[(9Z,11E,13E)-オクタデカ-9,11,13-トリエン酸]、リシノール酸((R)-12-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-9-エン酸)、イソリシノール酸[(S)-9-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-12-エン酸]、ノナデカン酸、アラキン酸(エイコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)およびエルカ酸[(13Z)-ドコサ-13-エン酸]からなる群から選択される酸から誘導されている。
【0036】
これらのうち好ましくは、式(V)中の構造要素R-COO-は、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、パルミトレイン酸[(9Z)-ヘキサデカ-9-エン酸]、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸[(9Z)-オクタデカ-9-エン酸]またはアラキン酸(エイコサン酸)から誘導されており、特に好ましくは、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、パルミトレイン酸[(9Z)-ヘキサデカ-9-エン酸]、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸[(9Z)-オクタデカ-9-エン酸]、リシノール酸((R)-12-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-9-エン酸)、イソリシノール酸[(S)-9-ヒドロキシ-(Z)-オクタデカ-12-エン酸]またはアラキン酸(エイコサン酸)から誘導されており、非常に特に好ましくは、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、パルミトレイン酸[(9Z)-ヘキサデカ-9-エン酸]、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸[(9Z)-オクタデカ-9-エン酸]またはアラキン酸(エイコサン酸)から誘導されており、殊にステアリン酸(オクタデカン酸)から誘導されている。
【0037】
特に、その20箇所、40箇所および60箇所エトキシル化されたアルコキシレートを挙げることができる。
【0038】
さらなる好ましい一実施形態において、これは、工業的に天然の植物性または動物性油脂の後処理から得られる脂肪酸混合物であってよく、特に好ましくは、アマニ油、ヤシ油、パーム核油、パーム油、大豆油、落花生油、カカオバター、シアバター、綿実油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、菜種油またはヒマシ油から得られる脂肪酸混合物であってよく、非常に特に好ましくは、アマニ油、パーム油、大豆油、落花生油、カカオバター、シアバター、綿実油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、菜種油またはヒマシ油から得られる脂肪酸混合物であってよい。
【0039】
これは、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との混合物であってもよい。
【0040】
化合物(V)は例えば、式(V)中の構造要素R-COO-を有する該当する酸またはエステル、好ましくはC~C-アルキルエステルまたはグリセリドと、各アルコールHO-[-X-]-Hとを、自体公知の条件下でエステル化またはエステル交換で反応させることによって得ることができる。
【0041】
しかし、該当する酸R-COOHまたはその塩とアルキレンオキシドとを、所望の平均統計アルコキシル化度となるまで好ましくは塩基性条件下で反応させることが好ましい。このことは、構造単位Xがエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド、好ましくはエチレンオキシドから誘導されている場合に特に好ましい。
【0042】
本発明によれば、化合物(V)によって腐食が低減され、特に非鉄金属の腐食が低減されるが、本発明によるクーラント組成物においては、化合物(V)は、例えば泡形成の低減(消泡剤、脱泡剤、泡消し剤)といった他の作用をも果たし得る。上記化合物(V)のうち、泡形成と腐食との双方を低減させるもの、特に泡形成と非鉄金属の腐食との双方を低減させるものが好ましく、泡形成には言及すべき影響を及ぼさないが、腐食、特に非鉄金属の腐食は低減させるものが特に好ましい。
【0043】
式(VI)の化合物において、構造要素R-O-は、好ましくは脂肪アルコールから誘導されており、該脂肪アルコールは、好ましくは脂肪酸およびエステルの水素化によって得ることができ、特に好ましくは上述の脂肪酸の水素化によって得ることができる。したがって、特定の一実施形態において、基Rは、基R-CH-である。脂肪酸に関して上述したことが、脂肪アルコールにも同様に当てはまる。
【0044】
好ましい一実施形態において、脂肪アルコールは、オクチルアルコール(カプリルアルコール)、ノニルアルコール(ペラルゴニルアルコール)、デシルアルコール(カプリルアルコール)、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール(ステアリルアルコール)、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、リノレノイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール(アラキルアルコール)またはそれらの混合物である。
【0045】
好ましい一実施形態において、式(VI)の化合物は、アルコキシル化ヒマシ油、特に好ましくは水添アルコキシル化ヒマシ油、非常に特に好ましくはエトキシル化、プロポキシル化および/またはブトキシル化ヒマシ油、特にエトキシル化ヒマシ油である。
【0046】
構造要素R-O-を有するアルコールのさらなる例は、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-プロピルヘプタノール、トリデカノール異性体混合物およびヘプタデカノール異性体混合物である。
【0047】
特に、その20箇所および40箇所エトキシル化されたアルコキシレートを挙げることができる。
【0048】
ベースとなるアルコールR-OHとしてのトリデカノール異性体混合物は、13個の炭素原子を有するアルコールの混合物であり、特に好ましくは、主に4個の炭素を有する炭化水素を含むオレフィン混合物のオリゴマー化によって得ることができるC12-オレフィン混合物からのヒドロホルミル化によって得ることができる混合物である。
【0049】
統計的平均で、このオレフィン混合物は、11~13個の炭素原子、好ましくは11.1~12.9個の炭素原子、特に好ましくは11.2~12.8個の炭素原子、非常に特に好ましくは11.5~12.5個の炭素原子、そして特に11.8~12.2個の炭素原子を有する。
【0050】
非常に特に好ましい一実施形態において、このアルコールR-OHは、ISO指数として測定した場合に2.8~3.7の平均分岐度を有する。
【0051】
特に、このアルコールR-OHは、国際公開第00/02978号(WO 00/02978)または国際公開第00/50543号(WO 00/50543)に記載の方法によって得られる。
【0052】
ベースとなるアルコールR-OHとしてのヘプタデカノール異性体混合物は、17個の炭素原子を有するアルコールの混合物であり、特に好ましくは、主に4個の炭素を有する炭化水素を含むオレフィン混合物のオリゴマー化によって得ることができるC16-オレフィン混合物からのヒドロホルミル化によって得ることができる混合物である。
【0053】
統計的平均で、このオレフィン混合物は、15~17個の炭素原子、好ましくは15.1~16.9個の炭素原子、特に好ましくは15.2~16.8個の炭素原子、非常に特に好ましくは15.5~16.5個の炭素原子、そして特に15.8~16.2個の炭素原子を有する。
【0054】
非常に特に好ましい一実施形態において、このアルコールR-OHは、ISO指数として測定した場合に2.8~3.7の平均分岐度を有する。
【0055】
特に、このアルコールR-OHは、国際公開第2009/124979号(WO 2009/124979 A1)の特に5頁第4行~16頁第29行および19頁第19行~21頁第25行の実施例に記載の方法により得られ、該文献を本開示の一部を構成するものとして援用する。
【0056】
この好ましい方法により、2~6個の炭素原子を有するオレフィンの遷移金属触媒を用いたオリゴマー化の生成物として、特に有利な応用技術的特性を示すC17-アルコール混合物を製造することができる。この場合、まずオレフィンオリゴマー化の生成物からC16-オレフィン混合物を蒸留により単離し、そしてその後の時点で初めてこのC16-オレフィン混合物をヒドロホルミル化に供する。これにより、特に有利な応用技術的特性を示すより高度に分岐したC17-アルコール混合物を提供することが可能となる。
【0057】
化合物(VI)は好ましくは、対応するアルコールR-OHとアルキレンオキシドとを、所望の平均統計アルコキシル化度となるまで好ましくは塩基性条件下で反応させることによって得ることができる。このことは、構造単位Xがエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド、好ましくはエチレンオキシドから誘導されている場合に特に好ましい。
【0058】
本発明によれば、化合物(VI)によって腐食が低減され、特に非鉄金属の腐食が低減されるが、本発明によるクーラント組成物においては、化合物(VI)は、例えば泡形成の低減(消泡剤、脱泡剤、泡消し剤)といった他の作用をも果たし得る。上記化合物(V)のうち、泡形成と腐食との双方を低減させるもの、特に泡形成と非鉄金属の腐食との双方を低減させるものが好ましく、泡形成には言及すべき影響を及ぼさないが、腐食、特に非鉄金属の腐食は低減させるものが特に好ましい。
【0059】
式(VII)の化合物において、構造要素R-N<は、好ましくは脂肪アミンから誘導されており、該脂肪アミンは、好ましくは脂肪酸およびエステルの水素化およびアミノ化によって得ることができ、特に好ましくは上述の脂肪酸の水素化およびアミノ化または上述の脂肪アルコールのアミノ化によって得ることができる。脂肪アルコールに関して上述したことが、脂肪アミンにも同様に当てはまる。
【0060】
基Rとしては、アルケニル基よりもアルキル基が好ましい。
【0061】
好ましい一実施形態において、脂肪アミンは、n-ヘキシルアミン、2-メチルペンチルアミン、n-ヘプチルアミン、2-ヘプチルアミン、イソヘプチルアミン、1-メチルヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、2-アミノオクタン、6-メチル-2-ヘプチルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミンおよび2-プロピルヘプチルアミンまたはそれらの混合物である。
【0062】
n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミンおよびn-デシルアミンが特に好ましく、n-オクチルアミンおよび2-エチルヘキシルアミンが非常に特に好ましく、n-オクチルアミンが殊に好ましい。
【0063】
特に、2箇所、8箇所、20箇所および40箇所エトキシル化されたn-オクチルアミン、さらには8箇所、20箇所および40箇所エトキシル化されたn-ヘキシルアミンを挙げることができる。
【0064】
一般式(VII)のアルコキシル化アミンにおいて、アルコキシル化度とは、(p+q)の合計、すなわちアミン1分子当たりのアルコキシル化単位の平均総数を指す。
【0065】
化合物(VII)は好ましくは、対応するアミンR-NHとアルキレンオキシドとを、所望の平均統計アルコキシル化度となるまで好ましくは塩基性条件下で反応させることにより得ることができる。このことは、構造単位Xがエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド、好ましくはエチレンオキシドから誘導されている場合に特に好ましい。
【0066】
式(V)~(VII)の化合物、好ましくは式(V)および(VII)の化合物、特に好ましくは式(VII)の化合物は、燃料電池においてクーラント組成物を使用する際に非鉄金属の腐食を低減させるのに特に適しており、したがって本発明による方法においてクーラント組成物に添加される。
【0067】
本発明による不凍液濃縮物から、イオン不含の水での希釈によって、最大で50μS/cmの、好ましくは40μS/cmまでの、特に好ましくは30μS/cmまでの、殊に20μS/cmまでの導電率を有するすぐに使用できる水性クーラント組成物であって、以下:
(a)アルキレングリコールまたはその誘導体を10~90重量%と、
(b)水を90~10重量%と、
(c)前記アゾール誘導体を0.005~5重量%、特に0.0075~2.5重量%、殊に0.01~1重量%と、
(d)適宜、少なくとも1種のオルトケイ酸エステルと、
(e)化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つを、0.05~5重量%、特に0.1~1重量%、殊に0.2~0.5重量%と
から実質的になる水性クーラント組成物を製造することができる。ここで、全成分の合計は、100重量%である。
【0068】
したがって、燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用のすぐに使用できる水性クーラント組成物であって、前記水性クーラント組成物は、以下:
(a)アルキレングリコールまたはその誘導体を10~90重量%と、
(b)水を90~10重量%と、
(c)前記アゾール誘導体を0.005~5重量%、特に0.0075~2.5重量%、殊に0.01~1重量%と、
(d)適宜、少なくとも1種のオルトケイ酸エステルと、
(e)化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つを、0.05~5重量%、特に0.1~1重量%、殊に0.2~0.5重量%と
から実質的になり、かつ前記不凍液濃縮物をイオン不含の水で希釈することによって得ることができる水性クーラント組成物も、本発明の対象である。ここで、全成分の合計は、100重量%である。
【0069】
本発明によるすぐに使用できる水性クーラント組成物は、最大で50μS/cm、特に25μS/cm、好ましくは10μS/cm、殊に5μS/cmの初期導電率を有する。特に燃料電池においてイオン交換体が組み込まれた冷却システムが使用される場合には、燃料電池の長期運転中に導電率が長時間にわたってこの低い水準に保たれる。
【0070】
本発明によるすぐに使用できる水性クーラント組成物のpH値は、運転期間にわたって、上記アゾール誘導体が添加されていない冷却液の場合よりも著しくゆっくりと低下する。本発明による新鮮なクーラント組成物の場合、pH値は、通常は4.5~7の範囲内にあり、長期運転中に大抵は3.5まで低下する。希釈に使用されるイオン不含の水は、純粋な蒸留水であってもよいし、二回蒸留水であってもよいし、例えばイオン交換により脱イオン処理された水であってもよい。
【0071】
すぐに使用できる水性クーラント組成物中のアルキレングリコールまたはその誘導体と水との好ましい重量混合比は、20:80~80:20、特に25:75~75:25、好ましくは65:35~35:65、殊に60:40~40:60である。アルキレングリコール成分またはその誘導体としては、特にモノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールおよびそれらの混合物に加えてさらに、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびそれらの混合物、ポリグリコール、グリコールエーテル、例えばモノエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルおよびテトラエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルまたはグリセリンを、それぞれ単独でまたはそれらの混合物として使用することができる。モノエチレングリコール単独か、または主成分としての(すなわち、混合物中で50重量%を超える、特に80重量%を超える、殊に95重量%を超える含分を有する)モノエチレングリコールと、他のアルキレングリコールまたはアルキレングリコールの誘導体との混合物が特に好ましい。
【0072】
本発明による不凍液濃縮物自体(該不凍液濃縮物から上記のすぐに使用できる水性クーラント組成物が得られる)は、上記アゾール誘導体をアルキレングリコールまたはその誘導体に溶解させることにより製造可能であり、ここで、該溶解は、水なしで行うことも、少量の(およそ10重量%まで、特に5重量%までの)水を使用することも可能である。
【0073】
燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとする不凍液濃縮物を製造するための、特に自動車における、特に好ましくは乗用車および商用車における燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、アルキレングリコールまたはその誘導体をベースとする不凍液濃縮物を製造するための、化合物(V)、(VI)および/または(VII)のうちの少なくとも1つの使用も、本発明の対象である。
【0074】
本発明の対象はさらに、燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、特に自動車における、特に好ましくは乗用車および商用車における燃料電池および/またはバッテリの冷却システム用の、最大で50μS/cmの導電率を有するすぐに使用できる水性クーラント組成物を製造するための、前記不凍液濃縮物の使用である。
【0075】
本発明によるクーラント組成物は、独国特許出願公開第10104771号明細書(DE-A 10104771)(6)に記載の、防食のために冷却媒体が付加的に電気化学的に脱イオン処理される燃料電池装置においても使用可能である。
【0076】

本発明を以下の例において説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
試験溶液を、試験方法ASTM D1384に従って試験したが、ただし、ASTM D1384により通常行われるASTM水での33体積%までの水希釈を省略した。その代わりに、試験流体(蒸留水を含む約50体積%の溶液)をさらに希釈せずに試験した。なぜなら、バッテリクーラントは約20μS/cmの低い導電率を有する必要があるが、ASTM D1384水は、(さまざまなカチオンおよびアニオンの形態の腐食促進剤によって引き起こされる)高い導電率を有するためである。
【0078】
試験流体の組成
【表1】
【0079】
モノエチレングリコール、水、ベンゾトリアゾールおよびテトラエトキシシランから構成される、さらなる添加剤を含まないベース組成物を比較したところ、導電率が1000μS/cmを超える値にまで上昇したことに付随して、数時間以内に鉄材料において非常に激しい腐食が生じた。
【0080】
一方、添加剤を用いた場合には、ASTM D1384により以下の物理的データが得られた(ASTM水による33体積%までの水希釈を行わない)。
【0081】
【表2】
【0082】
ASTM D1384により、以下の腐食度(酸処理ブランク値を伴う、基準量に対する質量変化mg/cm)を求めた。
【0083】
【表3】
【0084】
さらなる試験流体の組成
【表4】
【0085】
添加剤を用いた場合には、ASTM D1384により以下の物理的データが得られた(ASTM水による33体積%までの水希釈を行わない)。
【0086】
【表5】
【0087】
ASTM D1384により、以下の腐食度(酸処理ブランク値なしでの、基準量に対する質量変化mg/cm)を求めた。
【0088】
【表6】
【0089】
防食剤としてのトルトリアゾールを含有するさらなる試験流体の組成
【表7】
【0090】
添加剤を用いた場合には、ASTM D1384により以下の物理的データが得られた(ASTM水による33体積%までの水希釈を行わない)。
【0091】
【表8】
【0092】
ASTM D1384により、以下の腐食度(酸処理ブランク値なしでの、基準量に対する質量変化mg/cm)を求めた。
【0093】
【表9】
【0094】
さらなる試験流体を、表1~23に示す。
【0095】
【表10】
【0096】
【表11】
【0097】
【表12】
【0098】
【表13】
【0099】
【表14】
【0100】
【表15】
【0101】
【表16】
【0102】
【表17】
【0103】
【表18】
【0104】
【表19】
【0105】
【表20】
【0106】
【表21】
【0107】
【表22】
【0108】
【表23】
【0109】
【表24】
【0110】
【表25】
【0111】
【表26】
【0112】
【表27】
【0113】
【表28】
【0114】
【表29】
【0115】
【表30】
【0116】
【表31】
【0117】
【表32】