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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】果樹栽培方法、及び果樹園施工方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 17/00 20060101AFI20220711BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20220711BHJP
   A01G 13/00 20060101ALI20220711BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220711BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A01G17/00
A01G13/02 D
A01G13/00 302Z
A01G7/00 602Z
A01G9/14 S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020021825
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126063
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-07-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 光徳
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】あぜシートを使った根域制限法,キウイ予定地の整地(4)マイルドな根域制限法,2018年01月30日,p.1-3,インターネット<URL:http://diygarden.s1003.xrea.com/2018/01/30/kiwi4/>
【文献】ワイワイ菜園~単純農法試行中,果樹畝設定,2017年04月21日,p.1-3,インターネット<URL:https://blog.goo.ne.jp/yamamo1225/e/7d1fe0b8ffc11bb515d7123db53169ce>
【文献】大崎秀樹,日本政策金融公庫 技術の窓,早生温州ミカンにおける埋め込み式根域制限マルチ栽培法,No.2387,2019年12月07日,p.1,インターネット<URL:https://www.jfc.go.jp/n/finance/keiei/pdf/2387.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 17/00
A01G 13/02
A01G 13/00
A01G 7/00
A01G 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹が植えられる地表面を第1シートで被覆し、前記第1シートと前記地表面との間に潅水チューブを配設することで、前記果樹の根圏土壌における土壌水分をコントロールし、前記果樹に対して乾燥ストレスを付与することができる果樹栽培方法であって、
長尺物からなる第2シートを、一方長手辺を前記地表面から露出させ、他方長手辺を土中に埋設し、前記一方長手辺を前記地表面から露出させることで形成される地表面壁部が、自立性を有するとともに弾性を有し、
前記第1シートによって、前記果樹が植えられる前記地表面からの雨水の浸透を防ぎ、
前記第2シートの前記地表面壁部によって地表水が前記果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、
前記第2シートの前記他方長手辺を前記土中に埋設することで前記土中の浸透水が前記果樹の前記根圏域に流れ込むのを阻止し、
前記第2シートの前記一方長手辺を前記第1シートで覆うことで、前記第1シート上の前記雨水を前記一方長手辺を越えて前記根圏域外に排出する
ことを特徴とする果樹栽培方法。
【請求項2】
前記他方長手辺を、前記根圏域の深さより深い位置とする
ことを特徴とする請求項1に記載の果樹栽培方法。
【請求項3】
前記果樹が植えられる前記地表面を畝とし、
前記畝に隣接して、排水路としても機能させる通路を形成し、
前記畝と前記通路との間に、前記第2シートを配設する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の果樹栽培方法。
【請求項4】
前記果樹を柑橘とした
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の果樹栽培方法。
【請求項5】
果樹が植えられる地表面を第1シートで被覆し、前記第1シートと前記地表面との間に潅水チューブを配設することで、前記果樹の根圏土壌における土壌水分をコントロールし、前記果樹に対して乾燥ストレスを付与することができる果樹園の果樹園施工方法であって、
既に植えられている前記果樹の外方に溝を掘る第1ステップと、
前記溝に、長尺物からなる第2シートを、一方長手辺を前記地表面から露出させ、他方長手辺を前記溝内に位置させる第2ステップと、
前記一方長手辺を前記地表面から露出させた状態で前記溝を埋め戻すことで地表面壁部を形成する第3ステップと
を有し、
前記第2シートの前記一方長手辺を前記第1シートで覆い、
前記地表面壁部が、自立性を有するとともに弾性を有し、
施工後においては、
前記第1シートによって、前記果樹が植えられる前記地表面からの雨水の浸透を防ぎ、
前記第2シートの前記地表面壁部によって地表水が前記果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、
前記第2シートの前記他方長手辺を前記土中に埋設することで前記土中の浸透水が前記果樹の前記根圏域に流れ込むのを阻止し、
前記第2シートの前記一方長手辺を前記第1シートで覆うことで、前記第1シート上の前記雨水を前記一方長手辺を越えて前記根圏域外に排出する
ことを特徴とする果樹園施工方法。
【請求項6】
前記果樹が植えられる前記地表面を畝とし、
前記畝に隣接して、排水路としても機能させる通路が形成され、
前記畝と前記通路との間に前記溝を掘る
ことを特徴とする請求項5に記載の果樹園施工方法。
【請求項7】
前記他方長手辺を、前記果樹の根圏域の深さより深い位置とする
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の果樹園施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にシートマルチ栽培又はマルチ栽培と呼ばれている果樹栽培方法、この果樹栽培方法を行うための果樹園施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹のうち柑橘類などは糖度の高い果実を高品質果実として扱い、高い消費者ニーズにより高単価で取引される。高品質果実は果実発育期の乾燥ストレス付与により生産できることから、雨水を根圏土壌に入れないシートマルチ栽培がウンシュウミカンなどで普及している(例えば特許文献1)。
しかし、従来のシートマルチ栽培は、通路から根圏土壌に雨水が浸透すること、樹の成長に伴い、根がマルチ外へ伸長すること、から乾燥ストレスが付与されないケースが多く見られる。
シートマルチ栽培の効果が不安定なことから、その対応技術として根域制限栽培がある(例えば非特許文献1)。
なお、特許文献2は、高い耐久性、高い遮水性を有しながら透湿性および通気性を有する農業用シートを提案し、栽培土壌及び排水溝全面を農業用シートで覆うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-136642号公報
【文献】特開2016-96822号公報
【0004】
【文献】田島丈寛、吉田憂美、平野稔邦、夏秋道俊箸「ウンシュウミカンのシートマルチ栽培の効果を高める埋め込み式根域制限栽培法の開発(第1報)根域制限内外の土壌水分」 AgriKnowledge(アグリナレッジ)データベース、2016年、p10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で示されている根域制限栽培(あるいは埋め込み式根域制限栽培)は、透水性のシートを用いており、側面のみならず下面にもシートを敷設する。
根域制限栽培では、下面にもシートを敷設するため、施設を設置後に苗を植える必要がある。また、下面にもシートを設置するには、多大な労力と時間を要し、施工にかかる材料費も高額となり、更に樹の生育にともなって土量が不足し、樹勢が低下してしまう。さらに、透水性のシートを用いているため、乾燥ストレス付与を十分に行えない。
特許文献2で示されている農業用シートは、遮水性を有するが透湿性であるため、乾燥ストレス付与には十分でない。
【0006】
そこで本発明は、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる果樹栽培方法、及びこの果樹栽培方法を行うための果樹園施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の果樹栽培方法は、果樹Aが植えられる地表面1を第1シート11で被覆し、前記第1シート11と前記地表面1との間に潅水チューブ13を配設することで、前記果樹Aの根圏土壌2における土壌水分をコントロールし、前記果樹Aに対して乾燥ストレスを付与することができる果樹栽培方法であって、長尺物からなる第2シート12を、一方長手辺12uを前記地表面1から露出させ、他方長手辺12dを土中に埋設し、前記一方長手辺12uを前記地表面1から露出させることで形成される地表面壁部12wが、自立性を有するとともに弾性を有し、前記第1シート11によって、前記果樹Aが植えられる前記地表面1からの雨水の浸透を防ぎ、前記第2シート12の前記地表面壁部12wによって地表水が前記果樹Aの根圏域Bに流れ込むのを阻止し、前記第2シート12の前記他方長手辺12dを前記土中に埋設することで前記土中の浸透水が前記果樹Aの前記根圏域Bに流れ込むのを阻止し、前記第2シート12の前記一方長手辺12uを前記第1シート11で覆うことで、前記第1シート11上の前記雨水を前記一方長手辺12uを越えて前記根圏域B外に排出することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の果樹栽培方法において、前記他方長手辺12dを、前記根圏域Bの深さより深い位置とすることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の果樹栽培方法において、前記果樹Aが植えられる前記地表面1を畝1aとし、前記畝1aに隣接して、排水路としても機能させる通路1bを形成し、前記畝1aと前記通路1bとの間に、前記第2シート12を配設することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の果樹栽培方法において、前記果樹Aを柑橘としたことを特徴とする。
請求項5記載の本発明の果樹園施工方法は、果樹Aが植えられる地表面1を第1シート11で被覆し、前記第1シート11と前記地表面1との間に潅水チューブ13を配設することで、前記果樹Aの根圏土壌2における土壌水分をコントロールし、前記果樹Aに対して乾燥ストレスを付与することができる果樹A園の果樹A園施工方法であって、既に植えられている前記果樹Aの外方に溝3を掘る第1ステップと、前記溝3に、長尺物からなる第2シート12を、一方長手辺12uを前記地表面1から露出させ、他方長手辺12dを前記溝3内に位置させる第2ステップと、前記一方長手辺12uを前記地表面1から露出させた状態で前記溝3を埋め戻すことで地表面壁部12wを形成する第3ステップとを有し、前記第2シート12の前記一方長手辺12uを前記第1シート11で覆い、前記地表面壁部12wが、自立性を有するとともに弾性を有し、施工後においては、前記第1シート11によって、前記果樹Aが植えられる前記地表面1からの雨水の浸透を防ぎ、前記第2シート12の前記地表面壁部12wによって地表水1が前記果樹Aの根圏域Bに流れ込むのを阻止し、前記第2シート12の前記他方長手辺12dを前記土中に埋設することで前記土中の浸透水が前記果樹Aの前記根圏域Bに流れ込むのを阻止し、前記第2シート12の前記一方長手辺12uを前記第1シート11で覆うことで、前記第1シート11上の前記雨水を前記一方長手辺12uを越えて前記根圏域B外に排出することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の果樹A園施工方法において、前記果樹Aが植えられる前記地表面1を畝1aとし、前記畝1aに隣接して、排水路としても機能させる通路1bが形成され、前記畝1aと前記通路1bとの間に前記溝3を掘ることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項5又は請求項6に記載の果樹A園施工方法において、前記他方長手辺12dを、前記果樹Aの根圏域Bの深さより深い位置とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の果樹栽培方法によれば、一方長手辺を地表面から露出させることで地表水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止できるとともに、他方長手辺を土中に埋設することで土中の浸透水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止でき、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
また本発明の果樹園施工方法によれば、既に果樹が植えられている園地においても施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例による果樹栽培方法を示す側断面概念図
図2】同果樹栽培方法を示す上面概念図
図3】本実施例による果樹栽培方法に用いる第2シートを示す写真
図4】本発明の一実施例による果樹園施工方法を示す写真
図5】本実施例による果樹栽培方法の実証実験における乾燥ストレス付与時期における地表面の状態を示す写真
図6】同実証実験における通路に近接した位置における畝側での土壌水分の推移を示すグラフ
図7】同実証実験における樹体の乾燥ストレスの推移を示すグラフ
図8】同実証実験における果実品質を示す図
図9】同実証実験における果実品質を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態による果樹栽培方法は、長尺物からなる第2シートを、一方長手辺を地表面から露出させ、他方長手辺を土中に埋設し、一方長手辺を地表面から露出させることで形成される地表面壁部が、自立性を有するとともに弾性を有し、第1シートによって、果樹が植えられる地表面からの雨水の浸透を防ぎ、第2シートの地表面壁部によって地表水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、第2シートの他方長手辺を土中に埋設することで土中の浸透水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、第2シートの一方長手辺を第1シートで覆うことで、第1シート上の雨水を一方長手辺を越えて根圏域外に排出するものである。本実施の形態によれば、一方長手辺を地表面から露出させることで地表水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止できるとともに、他方長手辺を土中に埋設することで土中の浸透水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止でき、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。また、地表面壁部が自立性を有することで、地表水の流れ込みを確実に阻止でき、弾性を有することで地表面壁部の破損を防ぎ、長期間に渡って使用することができる。また、第1シート上の雨水を一方長手辺を越えて根圏域外に排出できるため、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
【0011】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による果樹栽培方法において、他方長手辺を、根圏域の深さより深い位置とするものである。本実施の形態によれば、根圏域を確実に乾燥させることができるとともに、果樹の根が第2シートを越えて拡大することを防止でき、果樹が成長しても、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
【0012】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による果樹栽培方法において、果樹が植えられる地表面を畝とし、畝に隣接して、排水路としても機能させる通路を形成し、畝と通路との間に、第2シートを配設するものである。本実施の形態によれば、第1シート上の雨水を通路に確実に排出でき、通路を排水路として機能させることで、通路から第2シートを越えて果樹の根圏域に雨水が流れ込むことを防止できる。
【0013】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による果樹栽培方法において、果樹を柑橘としたものである。本実施の形態によれば、特に柑橘の根圏域は比較的浅いために第2シートの施工が容易であるとともに、柑橘は乾燥ストレス付与によって確実に糖度を上げることができる。
【0014】
本発明の第5の実施の形態による果樹園施工方法は、既に植えられている果樹の外方に溝を掘る第1ステップと、溝に、長尺物からなる第2シートを、一方長手辺を地表面から露出させ、他方長手辺を溝内に位置させる第2ステップと、一方長手辺を地表面から露出させた状態で溝を埋め戻すことで地表面壁部を形成する第3ステップとを有し、第2シートの一方長手辺を第1シートで覆い、地表面壁部が、自立性を有するとともに弾性を有し、施工後においては、第1シートによって、果樹が植えられる地表面からの雨水の浸透を防ぎ、第2シートの地表面壁部によって地表水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、第2シートの他方長手辺を土中に埋設することで土中の浸透水が果樹の根圏域に流れ込むのを阻止し、第2シートの一方長手辺を第1シートで覆うことで、第1シート上の雨水を一方長手辺を越えて根圏域外に排出するものである。本実施の形態によれば、既に果樹が植えられている園地においても施工できる。また、第1シート上の雨水を一方長手辺を越えて根圏域外に排出できるため、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
【0015】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による果樹園施工方法において、果樹が植えられる地表面を畝とし、畝に隣接して、排水路としても機能させる通路が形成され、畝と通路との間に溝を掘るものである。本実施の形態によれば、第1シート上の雨水を通路に確実に排出でき、通路を排水路として機能させることで、通路から第2シートを越えて果樹の根圏域に雨水が流れ込むことを防止できる。
【0016】
本発明の第7の実施の形態は、第5又は第6の実施の形態による果樹園施工方法において、他方長手辺を、果樹の根圏域の深さより深い位置とするものである。本実施の形態によれば、根圏域を確実に乾燥させることができるとともに、果樹の根が第2シートを越えて拡大することを防止でき、果樹が成長しても、果樹に対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
【実施例
【0017】
以下本発明の一実施例による果樹栽培方法について説明する。
図1は本実施例による果樹栽培方法を示す側断面概念図、図2は同果樹栽培方法を示す上面概念図である。
本実施例は、果樹Aが植えられる地表面1を第1シート11で被覆することで、果樹Aの根圏土壌2における土壌水分をコントロールする果樹栽培方法に関する。
この果樹栽培方法は、一般にシートマルチ栽培、又はマルチ栽培と呼ばれて普及している。
【0018】
本実施例による果樹栽培方法では、更に、長尺物からなる第2シート12を、一方長手辺12uを地表面1から露出させ、他方長手辺12dを土中に埋設する。
なお、第1シート11と地表面1との間で、果樹Aの主幹近傍に、潅水チューブ13を配設している。
第2シート12は、果樹Aの根圏域Bに雨水が流れ込むことを阻止する。一方長手辺12uを地表面1から露出させることで地表水が果樹Aの根圏域Bに流れ込むのを阻止できるとともに、他方長手辺12dを土中に埋設することで土中の浸透水が果樹Aの根圏域Bに流れ込むのを阻止でき、果樹Aに対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
一方長手辺12uを地表面1から露出させることで形成される地表面壁部12wは、自立性を有するとともに弾性を有する。地表面壁部12wが自立性を有することで、地表水の根圏域Bへの流れ込みを確実に阻止でき、弾性を有することで地表面壁部12wの破損を防ぎ、長期間に渡って使用することができる。
【0019】
第1シート11には防水透湿性シートを用いるが、第2シート12には防水不透湿性シートを用いる。第1シート11は雨水の土中への浸透を防ぐとともに土中水分の蒸発を促すことができるのに対して、第2シート12は、防水不透湿性であることから根圏域Bを加湿することがなく、確実に乾燥ストレスを付与することができる。
一方長手辺12uは第1シート11で覆う。一方長手辺12uを第1シート11で覆うことで、第1シート11上の雨水を一方長手辺12uを越えて根圏域B外に排出できるため、果樹Aに対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
他方長手辺12dは、根圏域Bの深さより深い位置とする。他方長手辺12dを根圏域Bの深さより深くすることで、根圏域Bを確実に乾燥させることができるとともに、果樹Aの根が第2シート12を越えて拡大することを防止でき、果樹Aが成長しても、果樹Aに対して確実に乾燥ストレスを付与することができる。
【0020】
果樹Aが植えられる地表面1を畝1aとし、畝1aに隣接する地表面1は通路1bとすることが好ましい。通路1bは排水路としても機能させる。
台木としてカラタチ台又はヒリュウ台を利用した温州ミカンの栽培方法では、畝1aの高さを約20cm~40cm、畝1aの幅を約320cm~340cm、通路1bの幅を110cm~160cm、通路1bの勾配を2%以上とする。
【0021】
第2シート12は、畝1aと通路1bとの間に配設する。地表面壁部12wの壁高さはマニング式による流量計算で算出されるが、一方長手辺12uは、通路1bの地表面1から5cm程度であることが好ましく、柑橘樹の細根は、地表面1から30cmまでに94%分布している(吉田純也、岩崎光徳著「根域に対する灌水域の割合がカンキツ樹の乾燥ストレスに及ぼす影響」 園芸学研究 園芸学会編 2014年 p335-341)ことから、他方長手辺12dは、地表面1から30cm以上、更に好ましくは45cm以上とする。従って、第2シート12の幅は35cm以上であることが好ましく、50cm~60cmであることが更に好ましい。
【0022】
このように、果樹Aが植えられる地表面1を畝1aとし、畝1aに隣接する地表面1には排水路としても機能させる通路1bを形成し、畝1aと通路1bとの間に第2シート12を配設することで、第1シート11上の雨水を通路1bに確実に排出でき、通路1bを排水路として機能させることで、通路1bから第2シート12を越えて果樹Aの根圏域Bに雨水が流れ込むことを防止できる。
また、特に柑橘の根圏域Bは比較的浅いために第2シート12の施工が容易であるとともに、柑橘は乾燥ストレス付与によって確実に糖度を上げることができるため、果樹Aとして柑橘を用いることが適している。
【0023】
図3は本実施例による果樹栽培方法に用いる第2シートを示す写真である。
第2シート12として、ポリエチレンを主成分とする合成樹脂からなる防水不透湿性シートを用いる。
防水不透湿性シートは、長さを50m、幅を50cm~60cmとした長尺物であり、厚みを1.5mm~2.0mmとしている。
防水不透湿性シートは、一方の面を平滑面とし、他方の面を網目状凹凸面としている。また防水不透湿性シートは、曲げ強度を160kgf/cm2以上197kgf/cm2以下、好ましくは曲げ強度を160kgf/cm2以上180kgf/cm2以下、引張強度を180kgf/cm2以上226kgf/cm2以下、好ましくは引張強度を180kgf/cm2以上205kgf/cm2以下、伸び率を400%以上505%以下、好ましくは伸び率を400%以上460%以下、硬度を45(Type D/1 sec)以上56(Type D/1 sec)以下、好ましくは硬度を45(Type D/1 sec)以上51(Type D/1 sec)以下としている。なお、曲げ強度試験は、JIS K 7203に準じ、温度23℃プラスマイナス2℃、湿度50プラスマイナス10% R.H 88HR レート1mm/mjnで行った。引張強度試験及び伸び率試験は、JIS K 7128に準じ、温度23℃プラスマイナス2℃、湿度50プラスマイナス10% R.H 88HR レート50mm/mjnで行った。硬度試験は、JIS K 7215に準じ、温度23℃プラスマイナス2℃、湿度50プラスマイナス5% R.H 88HRで行った。
このような防水不透湿性シートを第2シート12として用いることで、地表面1から露出させた地表面壁部12wが自立性を備えるとともに弾性を有するため、地表水の流れ込みを確実に阻止でき、弾性を有することで地表面壁部12wの破損を防ぎ、長期間に渡って使用することができる。
また、平滑面を果樹Aの根圏域B側に用いることで、成長によって伸びる果樹Aの根がシート面に張り付くことがなく、改植における抜根時に、防水不透湿性シートの浮き上がりを防止できる。
【0024】
図4は本発明の一実施例による果樹園施工方法を示す写真である。
図4(a)は、果樹Aの外方に溝3を掘る第1ステップを示している。果樹Aが植えられる地表面1を畝1aとし、畝1aに隣接して、排水路としても機能させる通路1bが形成されている。畝1aと通路1bとの間に溝3を掘る。
図4(b)は、第2ステップとして、第2シート12の埋設を示している。第2シート12は、一方長手辺12uを地表面1から露出させ、他方長手辺12dを溝3内に位置させて溝3に埋設する。
そして、図4(c)に示すように、一方長手辺12uを地表面1から露出させた状態で溝3を埋め戻すことで地表面壁部12wを形成する(第3ステップ)。
図4(d)では、一方長手辺12uを第1シート11で覆った状態を示している。
図4に示すように、本実施例による果樹園施工方法によれば、既に果樹Aが植えられている園地においても施工できる。
そして、第1シート11上の雨水を一方長手辺12uを越えて根圏域B外に排出でき、通路1bを排水路として機能させるとともに地表面壁部12wを形成することで、通路1bから第2シート12を越えて果樹Aの根圏域Bに雨水が流れ込むことを防止できる。
【0025】
図5から図9を用いて本実施例による果樹栽培方法の実証実験を説明する。
図5から図9における実施例では、第2シートは、ポリエチレン93%、発泡率(発泡倍率?)が0.75である合成樹脂からなり、幅を50cm、厚みを1.5mmとした防水不透湿性シートであり、地表面壁部12wを平均5cmとして用いた。比較例では第1シート11だけを用い、本実施例及び比較例1では同一の第1シート11を用いた。
【0026】
図5は乾燥ストレス付与時期における地表面の状態を示している。
図5に示すように、通路1bの地表面1に対して畝1aの地表面1は乾燥している。
図6は通路に近接した位置における畝側での土壌水分の推移を示している。
図6に示すように、実施例1では、地表面1から深さ40cmまで、根圏土壌Bを乾燥させることができている。
図7は樹体の乾燥ストレスの推移を示している。
図7に示すように、実施例2では、好適な乾燥ストレスを付与できている。
図8及び図9は、果実品質を示している。図8及び図9において、露地栽培は、第1シート11も用いない場合である。
図8及び図9に示すように、実施例3から実施例6は、比較例3から比較例6、及び露地栽培と比較して高い糖度を示しており、高品質の果実生産が可能であることが分かる。なお、図8に示す実施例と図9に示す実施例とは異なる年度で実施しており、本実施例によれば高品質果実を連年生産できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、従来のシートマルチ栽培では効果が得られなかった園地や、機械が通路を走行するなどでマルチの全面被覆が困難な園地などに適しており、特に柑橘や葡萄に最適であり、その他乾燥ストレス付与によって果実品質に影響を与える果樹に適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 地表面
1a 畝
1b 通路
2 根圏土壌
3 溝
11 第1シート
12 第2シート
12d 他方長手辺
12u 一方長手辺
12w 地表面壁部
13 潅水チューブ
A 果樹
B 根圏域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9