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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】発熱ブロック
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/26 20060101AFI20220711BHJP
   E01C 11/24 20060101ALI20220711BHJP
   H05B 6/74 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
E01C11/26 Z
E01C11/24
H05B6/74 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020143078
(22)【出願日】2020-08-27
(62)【分割の表示】P 2016097647の分割
【原出願日】2016-05-16
(65)【公開番号】P2020197117
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2020-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:平成28年2月1日(学会発表日は2月22日) 刊行物:日本建築学会東海支部研究報告集 第54号(CD-ROM)
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】河邊 伸二
(72)【発明者】
【氏名】大羽 慧
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-127796(JP,A)
【文献】特開2005-231931(JP,A)
【文献】特開昭60-203764(JP,A)
【文献】特開2002-081011(JP,A)
【文献】特開2000-216587(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0119043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/26
E01C 11/24
H05B 6/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、前記電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムにおいて、前記発熱ブロックは、載置面方向から、吸水を期待しない基材部、電波を吸収し発熱する発熱体を層状に有し、前記発熱体には防水処理が施されていることを特徴とする発熱ブロック。
【請求項2】
前記防水処理として、前記発熱体に防水剤を添加されたことを特徴とする請求項1に記載する発熱ブロック。
【請求項3】
前記防水処理として、前記発熱体の表面に防水層を有することを特徴とする請求項1または2に記載する発熱ブロック。
【請求項4】
前記基材部には防水剤が添加されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1つに記載する発熱ブロック。
【請求項5】
前記発熱ブロックは表面の少なくとも一部に防水シーラが塗布されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1つに記載する発熱ブロック。
【請求項6】
前記発熱ブロックは、載置面方向から、前記基材部、前記発熱体、反射材を層状に有していることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1つに記載する発熱ブロック。
【請求項7】
前記防水層を前記基材部と前記発熱体の界面に施さないことを特徴とする請求項に記載する発熱ブロック。
【請求項8】
電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、前記電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムにおいて、前記発熱ブロックは、載置面方向から、吸水を期待しない基材部、電波を吸収し発熱する発熱体を層状に有し、前記基材部には防水処理が施されていることを特徴とする発熱ブロック。
【請求項9】
前記防水処理として、前記基材部には防水剤が添加されたことを特徴とする請求項に記載する発熱ブロック。
【請求項10】
前記防水処理として、前記発熱体の表面に防水層を有することを特徴とする請求項に記載する発熱ブロック。
【請求項11】
前記防水処理として、前記基材部の表面に防水層を有することを特徴とする請求項8に記載する発熱ブロック。
【請求項12】
電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、前記電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムにおいて、前記発熱ブロックは載置面方向から、吸水を期待しない基材部と電波を吸収し発熱する発熱体を直接接するように層状に有し、前記発熱体には防水処理が施されていることを特徴とする発熱ブロックであって、前記防水処理として、前記発熱体の表面に防水層を有し、前記防水層を前記基材部と前記発熱体の界面に施さないことを特徴とする発熱ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムの発熱ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
ここで、非特許文献1には、電波発振器、電波漏洩伝送体、および発熱ブロックを有する発熱システム(以下、発熱システムという。)の例として、降雪地域の融雪に対応する融雪装置および発熱ブロックが記載されている。
【0003】
現状の降雪地域では、公道は自治体が除雪を行い、または融雪装置を設置して降雪の対策がなされている。一方、私有地である個人の敷地内では住民が行なわなければならず、特に家屋と公道までの通路が長い場合、住民にとって大きな負担となっている(図17参照)。
融雪手段として、融雪剤の散布、電熱線または地下水を用いた融雪がある。しかし、融雪剤はコンクリートや植物への塩害や鉄骨への腐食の原因となる。また、電熱線を用いた融雪装置は、断線や漏電の恐れ、メンテナンス性、消費電力の大きさ、立ち上がりの遅さなどの問題がある。地下水による融雪は、地盤低下の恐れや地下水に含まれる鉱物による路面の汚損などの問題がある。
この発熱システムを用いた融雪装置は、降雪地域の降雪対策として提案されている。
【0004】
特許文献1には、夏季には温度上昇を抑え、快適な歩行感を保持しつつ、降雪時にはマイクロ波の照射により効果的に融雪を行なうことが可能な融雪ブロックが記載されている。この融雪ブロックは、セメントを主成分としたコンクリート系の基盤層の上に、ゴムチップにバインダーを混合させて表層ゴム部を形成した融雪ブロックである。基盤層と表層ゴム部の境界部分または表層ゴム部に電磁波吸収骨材が散在されている。
【0005】
本発明におけるモルタルとは、モルタルの他、一般的なコンクリート、セメントペーストを含むものとし、普通ポルトランドセメントよるものの他、アスファルト等や一般的に使われているセメント等を含むものとする。以下、本発明の効果は同等なので、全てをモルタルと記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-127796号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本建築学会構造系論文集、第586号、1-5、2004年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発熱ブロックを構成する発熱体は、吸水すると電波吸収特性が変化し、電波吸収性能が低下する場合がある。よって、発熱能力の低下により融雪性能が低下する問題がある。この際、電波遮蔽性能の低下により電波が漏洩し、ブロック上を歩行する人に多量の電波が直接照射される恐れもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明1は、電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムにおいて、発熱ブロックは、載置面方向から、基材部、発熱体を層状に有し、発熱体には防水処理が施されていることを特徴とする発熱ブロックである。
発明2は、基材部は、電波を吸収する材料が混入されていないことを特徴とする発明1に記載する発熱ブロックである。
発明3は、防水処理として、発熱体に防水剤を添加されたことを特徴とする発明1または2に記載する発熱ブロックである。
発明4は、防水処理として、発熱体の表面に防水層を有することを特徴とする発明1乃至3に記載する発熱ブロックである。
発明5は、記基材部には防水剤が添加されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載する発熱ブロックである。
発明6は、発熱ブロックは表面の少なくとも一部に防水シーラが塗布されたことを特徴とする発明1乃至5のいずれか1つに記載する発熱ブロックである。
発明7は、発熱ブロックは、載置面方向から、基材部、発熱体、反射材を層状に有していることを特徴とする発明1乃至6のいずれか1つに記載する発熱ブロックである。
発明8は、防水層を基材部と発熱体の界面に施さないことを特徴とする発明4に記載する発熱ブロックである。
発明9は、電波を出力する電波発振器と、電波を伝送する電波漏洩伝送体と、電波漏洩伝送体からの電波を吸収して発熱する発熱ブロックと、を有する発熱システムにおいて、発熱ブロックは、載置面方向から、基材部、発熱体を層状に有し、基材部には防水処理が施されていることを特徴とする発熱ブロックである。
発明10は、防水処理として、基材部には防水剤が添加されたことを特徴とする発明9に記載する発熱ブロックである。
発明11は、防水処理として、発熱体の表面に防水層を有することを特徴とする発明9に記載する発熱ブロックである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以下の効果がある。
(1)発熱体11に防水処理を行い、発熱体11への水の侵入を低減することができる。
(2)発熱ブロックの基材部等に防水処理を行い、発熱体11への水の侵入を低減することができる。
(3)発熱ブロックの間に目地が設けられ、目地に防水処理を行い、発熱体11への水の侵入を低減することができる。
本発明の発熱ブロックは、寒冷地において融雪用の発熱システムに用いることができる。発熱ブロックは多量に被水するが、発熱体には浸水しにくいので吸水による電波吸収特性の変化を小さくできるため、外部環境への電波漏洩防止効果の低下がやわらげられる。よって、発熱ブロック上を歩行する人に直接電波が照射される量を減らし、安全性が向上すると共に、発熱能力の低下をやわらげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】発熱システムを示す。
図2】発熱ブロックを示す。
図3】第1実施形態を示す。
図4】第2実施形態を示す。
図5】第3実施形態を示す。
図6】第4実施形態を示す。
図7】第5実施形態を示す。
図8】電気炉酸化スラグの組成を示す。
図9】周波数2.45GHzにおけるモルタルとスラグの混合体の混合比率(質量比)ごとの反射減衰量示す。
図10】発熱体11の例としてモルタルとスラグ等の混合比率を示す。
図11】防水剤21の組成の混合比率を示す。
図12】基材部13の例として砂とモルタルの混合体の混合比率を示す。
図13】フランジにスラグモルタル(発熱体11)、砂モルタル(基材部13)を充填した状態を示す。
図14】電波吸収特性の測定装置を示す。
図15】スラグモルタル(発熱体11)おける調合と周波数、反射減衰量の関係示す。
図16】スラグモルタル(発熱体11)と砂モルタル(基材部13)の重ね合わせにおける周波数、反射減衰量の関係を示す。
図17】降雪地域の融雪の現状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
図1は、発熱システム1を示す。電波発振器3は、特定の周波数(例:2.45GHz)の電波を出力する。電波漏洩伝送体5は、電波を伝送する。電波漏洩伝送体5の上部には、スリット5-1があり、上部へ電波を漏洩させる。複数の発熱ブロック7は、電波漏洩伝送体5の上部に載置される。発熱ブロック7は、電波漏洩伝送体5から漏洩された電波を吸収して発熱する。
【0014】
図2は、発熱ブロック7の例を示す。
図2(a)に示す発熱ブロック7は、外形寸法が、300mm×300mmの正方形で、厚みが40mmである。発熱ブロック7は、載置面より、基材部13、発熱体11、反射材15、及び基材部13を層状に積層されて構成されている。発熱体11の厚みは、8mmである。
ここで、電波漏洩伝送体5の幅は100mmである。漏洩された電波は発熱体11に吸収され、熱エネルギーに変換される。その熱は伝導されるので、上面の外形寸法300mm×300mmの発熱ブロック7を、電波漏洩伝送体5の中心線に対して左右対称に載置すると、発熱ブロック7の表面は電波漏洩伝送体5の中心線の直上から左右に広がって温度上昇する。
また、発熱ブロックの形状は、300mm×300mmの正方形に限定されない。例えば、3000mm×2000mmや需要に合わせたこれ以上の大きさであって良く、発熱体、基材、反射材の厚さ、および発熱ブロックの総厚さは材料の特性によって随時最適な厚さに調整することができる。この際、電波漏洩伝送体5は、発熱ブロック上面全体の温度が上昇するように複数設置される。
発熱体11は、電波を磁性損失により吸収するスラグと非磁性損失材であるモルタルが混合されている。
基材部13は、モルタルで構成される。
反射材15は、導電性の細線を特定の周波数を反射するピッチに配置した金網等が用いられる。
発熱体11は、発熱ブロック7の側面に一部が露出している。
図2(b)に示す発熱ブロック7は、発熱体11の端部が、発熱ブロック7の側面に露出していない。すなわち、発熱体11は、発熱ブロック7の側面から内側に約8mmオフセットされおり、発熱ブロックのオフセットされた部位には基材13が充填されている。その他の寸法、材料等の仕様は、図2(a)と同じである。
また、寸歩、材料等の仕様は一例である、他の寸法、材料等でも良い。
【0015】
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態の発熱ブロック7を示す。
図3(a)は、図2(a)の発熱ブロック7の発熱体11に防水剤21を添加させ、図3(b)は、図2(b)の発熱ブロック7の発熱体11に防水剤21を添加させている。
発熱体11の防水処理として、発熱体11に防水剤21を加えることで、発熱体11への水の侵入を低減することができる。防水剤21には、例えば高級脂肪酸塩等の混合物や重合油アルミニウム、脂肪酸アルミニウムなどが含まれるモルタル、コンクリート用の防水剤を用いることができる。これらの防水剤21は、モルタル等の多孔質体に添加されるとモルタル等の撥水性を向上させ水の侵入を低減する。
【0016】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態の発熱ブロック7を示す。
図4(a)は、図2(a)の発熱ブロック7の発熱体11の表面に防水層23を有している。
図4(b)は、図2(b)の発熱ブロック7の発熱体11の表面に防水層23を有している。
防水層23は、防水性のあるシリコン系、変成シリコン系、ウレタン系、酢酸ビニル系、アクリル系などの樹脂性シーラやシーリング剤等を発熱体11の表面に塗布されて構成される。これらの材料は、多孔質体では無いので水の侵入を低減させることができる。
また、防水層23は、モルタルに防水剤21を添加したものでもよい。
発熱体11の防水処理として、発熱体11の表面に防水層23を有することで、発熱体11への水の侵入を低減することができる。
【0017】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態の発熱ブロック7を示す。
図5(a)は、図2(a)の発熱ブロック7の基材部13に防水剤21が添加され、図5(b)は、図2(b)の発熱ブロック7の基材部13に防水剤21が添加されている。
基材部13に防水剤21を加えることで、発熱体11への水の侵入低減性能を更に向上させることができる。
【0018】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態の発熱ブロック7を示す。
図6(a)は、図2(a)の発熱ブロック7の表面に防水シーラ25が塗布され、図6(b)は、図2(b)の発熱ブロック7の表面に防水シーラ25が塗布されている。
防水シーラ25には、防水性のあるシリコン系、変成シリコン系、ウレタン系、酢酸ビニル系、アクリル系などの樹脂性シーラやシーリング剤等が用いられる。これらの材料は、多孔質体では無いので水の侵入を低減させることができる。
また、防水剤21を添加したモルタルを、発熱ブロック7の表面に塗布してもよい。図6(a)および図6(b)では全面にシーラが塗布されているが、側面など、一部に塗布するだけでも良い。
発熱ブロック7の表面に防水シーラ25が塗布されていることで、発熱体11への水の侵入低減性能を更に向上させることができる。
【0019】
(第5実施形態)
図7は、第5実施形態の発熱ブロック7を示す。すなわち、図3(a)の発熱ブロック7を複数、隙間(以下、目地という)を設けて配置し、目地にバックアップ材27を詰め、その上に防水目地材29を施工している。
バックアップ材27には、スポンジや木材等が用いられる。
防水目地材29には、防水性のあるシリコン系、変成シリコン系、ウレタン系、酢酸ビニル系、アクリル系などの樹脂性シーリング剤等が用いられる。防水剤21が添加されたモルタルを防水目地材29として用いてもよい。
発熱ブロック7を設置する際、目地に防水目地材29が施工されていることで、発熱体11への水の侵入低減性能を更に向上させることができる。
【0020】
以上、第1実施形態乃至第5実施形態により、発熱ブロック7の発熱体11が防水機能を有する。
【0021】
(実施例)
発熱体11は、モルタルとスラグを混合して構成(以下、混合体という)される。スラグは鉄を生産する際に生じる電気炉酸化スラグなどの産業廃棄物を用いることが好適であるが、フェライトやカーボンなどの磁性吸体、導電性磁性体、誘電性磁性体などの電波吸収材料を用いてもよい。発明者は、粒度0.3mm以下、絶乾密度3.52~3.89g/cmの電気炉で酸化させたスラグを用いた。図6に、スラグの組成を示す。スラグは多数の酸化金属を含むが、中でも鉄の酸化物を多く含む。
【0022】
図9は、周波数2.45GHzにおけるモルタルとスラグの混合体の質量比による混合比率(質量比を指す。以下同じ。)ごとの反射減衰量示す。混合体の厚みは、10mmである。混合比率(モルタル:スラグ)10:0~5:5においては、スラグの混合比率の増加に対応して、反射減衰量は緩やかに増加している。しかし、混合比率5:5~0:10においては、反射減衰量量は急激に増加している。よって、電波吸収量とスラグの混合比率の関係は、比例関係にならない。すなわち、セメントとスラグの混合粉体によって、一定の電波吸収特性を得るためには、少なくともスラグの混合比率が6割を超える必要がある。可能な限りスラグの混合比率を高くすることで好適な電波吸収特性が得られると考える。
【0023】
図10は、発熱体11のモルタルとスラグ等の混合比率を示す。
混合体の混合比率は6種類であり、モルタルとスラグを混合比率2:8~7:3まで、スラグを1/10ずつモルタルに置換している。ここで、計融雪用の発熱ブロック7の発熱体11として、寒冷地において使用することを想定する。よって、多量の吸水による電波吸収特性変化を低減するため、防水剤21をモルタルに対して3%添加する。また、施工性向上のため調合2:8のみ高性能AE減水剤をセメントに対して0.7%添加する。
【0024】
図11は、防水剤21の混合比率による組成を示す。
防水剤21は、高級脂肪酸塩の混合物を30~35%、界面活性剤を2%以下、水を64~69%を混合させている。界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルを用いている。
基材部13や発熱体11に防水剤21を添加することにより、基材部13や発熱体11の防水性能が向上させている。これは多孔質体であるモルタルの防水機能は、素材のもつ撥水性により水滴の表面張力による。防水剤21は、モルタルに添加されることにより撥水性を高め水滴の表面張力を大きくしている。
【0025】
図12は、基材部13の例として砂とモルタルの混合体の混合比率を示す。モルタルが1に対して砂が3、水が0.45、および防水剤21が0.03となるように混合されている。防水剤21をくわえたのは、発熱体11と同様、多量の吸水による電波吸収特性変化を低減するためである。
【0026】
図13(a)に、フランジにスラグモルタル(発熱体11)、図13(b)に、砂モルタル(基材部13)を充填した状態を示す。
スラグモルタルのフランジは、混合比率モルタル4に対してスラグ6、厚さ8mmを供試体として用いた。厚さは1mmごと、4~14mmまでの金属製のフランジにスラグモルタルを充填して、硬化後に表面を研磨する。気中養生1日、水中養生5日の後、100℃の恒温恒湿器で24時間乾燥させた。
砂モルタルのフランジは、厚み4~14mmまでの金属製のフランジに充填して、硬化後に表面を研磨し、気中養生1日、水中養生5日の後、100℃の恒温恒湿器で24時間乾燥させた。砂モルタルのフランジは組み合わせることで、砂モルタルの厚さを4~41mmまで変更できる。
なお、データは省略するが、砂モルタルはスラグモルタルと異なり、スラグのように電波を吸収する材料が混入されていないため、単独ではほとんど電波を吸収することができない。
【0027】
図14は、電波吸収特性の測定装置を示す。上から、同軸導波管変換機、砂モルタル(基材部13)が充填された砂モルタルフランジ、スラグモルタル(発熱体11)が充填されたスラグモルタルフランジ、短絡のための反射板の順に重ねる。この状態でSパラメータ測定法による反射減衰量測定を行うと、ネットワークアナライザから出力された電波は、砂モルタル(基材部13)、発熱体であるスラグモルタル(発熱体11)を通じて反射板で反射されることになる。よって、発熱ブロック7に電波が照射された場合を想定した測定ができる。
発熱ブロック7の構成を想定し、発熱体11であるスラグモルタルと発熱体11下部を支持する基材部13である砂モルタルを重ねた状態で、電波吸収特性を評価し、砂モルタルの厚さが電波吸収特性に及ぼす影響を確認する。評価はSパラメータ測定法により求められる反射減衰量によって行う。
【0028】
図15は、スラグモルタル(発熱体11)おける調合と周波数、反射減衰量の関係示す。スラグモルタルの厚みは8mmである。
図14に示す電波吸収特性の測定装置において、砂モルタルフランジを無くし、スラグモルタルフランジのみを設定して測定した。
反射減衰量には、ピークが存在する。ピークは供試体が厚くなるほど低周波側に移動する。また、モルタルとスラグの混合比が4:6の時に他の調合のピークと比較して反射減衰量が最も高くなる。よって、スラグモルタルは、調合におけるスラグの割合と充填厚みを制御することで、任意の周波数における反射減衰量を高めることができる。また、混合粉体と異なり、必ずしもスラグが多いほど反射減衰量は高くなっていないこともわかる。
【0029】
図16は、スラグモルタル(発熱体11)と砂モルタル(基材部13)の重ね合わせにおける周波数、反射減衰量の関係を示す。
スラグモルタルの厚みは8mm、モルタルとスラグの混合比は、4:6を用いた。
砂モルタルは、フランジ厚4~41mmとした。
測定範囲内において、特定の供試体厚で特定の周波数に電波吸収のピークが存在する。このピークは砂モルタルが厚くなるほど低周波側に移動する。よって、砂モルタルは単独ではほとんど電波を吸収することができないが、スラグモルタルと重ね合わせる場合、その電波吸収特性に著しい影響を及ぼすと言える。
砂モルタルの厚さが増しても、ピークの反射減衰量に顕著な減少傾向は見られない。よって、砂モルタルの厚さを制御することで、スラグモルタルと砂モルタルを重ね合わせた際の、スラグモルタルの電波吸収性能の顕著な低下を防ぐことができる。2.45GHzにおいては、厚さ29mmで最も高い反射減衰量が得られる。
ピークは砂モルタル厚15mmを境に測定範囲内に存在しなくなり、21mmを境にもう一度現れ始めている。よって、ピークは砂モルタルの厚みに対して周期性を有する可能性がある。この周期性は、入射波が形成する定在波の波長と供試体厚の関係に起因すると考える。周期性を有する場合、周期に合わせて発熱モルタルブロックの設計を行えば、要求される強度を満足する厚さの発熱ブロック7を設計できる。
なお、砂モルタルの厚みが一定量増すごとにピークが移動する割合は、砂モルタルが厚くなるほど小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の発熱ブロック7は、寒冷地において融雪用の発熱システム1に用いることができる。発熱ブロック7は多量に被水するが、発熱体11には浸水しないので電波吸収特性の変化を低減できるため、外部環境への電波漏洩防止効果の劣化がなくなる。よって、発熱ブロック7上を歩行する人に直接電波が照射される量を減らし、安全性が向上すると共に、発熱能力の低下をやわらげることができる。
発熱システム1は、発熱ブロック7により、防水性があるので、屋外だけでなく、屋内に暖房器具として、特に被水の可能性がある厨房等に展開することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1 発熱システム
3 電波発振器
5 電波漏洩伝送体
5-1 スリット
7 発熱ブロック
11 発熱体
13 基材部
15 反射材
21 防水剤
23 防水層
25 防水シーラ
27 バックアップ材
29 防水目地材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17