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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220711BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220711BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019565184
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018062660
(87)【国際公開番号】W WO2018215254
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】17172831.4
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ケルン,アンドレアス ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ザイデマン,ロター
(72)【発明者】
【氏名】アーク,クリストフ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102810667(CN,A)
【文献】特開2002-216759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用の電極活物質の製造方法であって、以下の工程:
(a)
(A)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Mn、Co及びNiから選択される2種以上の遷移金属の組み合わせであり、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na及びVから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わせられ、xは0~0.2の範囲にある)による混合酸化物の前駆体と、
(B)少なくとも1種のリチウム化合物、との混合物を、
(C)Br、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物、と接触させる工程、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)
(NiCoMn1-d (I)
による遷移金属の組み合わせであり、
式中、
aは、0.3~0.95の範囲にあり、
bは、0.05~0.4の範囲にあり、
cは、0~0.6の範囲にあり、及び
dは、0~0.1の範囲にあり、
Mは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg、及びVから選択され、
a+b+c=1
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合酸化物が、少なくとも1種のリチウム化合物(B)と、TMの混合酸化物、混合水酸化物又は混合オキシ水酸化物との混合物から合成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記リチウム化合物(B)が、リチウムヒドロキシド及びリチウムカーボネートから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
TMが、Ni、及びMn及びCoの少なくとも1種から選択される遷移金属の組み合わせであり、TMが、一般式(II)
(NiCoMn1-d (II)
による組み合わせであり、
式中、
aは、0.6~0.9の範囲にあり、
bは、0.05~0.2の範囲にあり、
cは、0~0.2の範囲にあり、及び
dは、0~0.1の範囲にあり、
Mは、Al、Ti及びZrから選択され、
a+b+c=1である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)で前駆体(A)を(C)の溶液で処理する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)で前駆体(A)とリチウム化合物(B)との混合物を、(C)の有機溶媒又は少なくとも2種の有機溶媒の組み合わせの溶液で処理し、その後続いて前記有機溶媒を除去する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
Br又はIの、TMに対するモル比がそれぞれ、10ppb~0.2の範囲にある、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)を気体の強制流下で行う、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)を、ローラーハース窯、プッシャー窯又はロータリーハース窯において行う、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電量滴定により決定して、0.01~1.0質量%の臭素又はヨウ素を含み、一般式Li 1+x TM 1-x (式中、TMが一般式(II)
(NiCoMn1-d (II)
による組み合わせであり、
式中、
aは、0.6~0.9の範囲にあり、
bは、0.05~0.2の範囲にあり、
cは、0~0.2の範囲にあり、及び
dは、0~0.1の範囲にあり、
Mは、Al、Ti及びZrから選択され、
a+b+c=1であり、
xは0~0.2の範囲にある)による混合酸化物を含む電極活物質であって、光散乱によって決定して、7~15μmの範囲の平均粒径(D50)及び30~40μmの範囲の直径(D99)を有する、電極活物質。
【請求項12】
請求項11に記載の電極活物質を、リチウムイオン電池において又はリチウムイオン電池の製造に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用の電極活物質の製造方法に関し、前記方法は以下の工程:
(a)以下の混合物、
(A)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Mn、Co及びNiから選択される2種以上の遷移金属の組み合わせであり、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na及びVから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わせられ、xは0~0.2の範囲にある)による混合酸化物の前駆体と、
(B)少なくとも1種のリチウム化合物、との混合物を、
(C)Br、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物、と接触させる工程、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程、
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウム化遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオン電池用の電極活物質として使用されている。過去数年間で広範な研究及び開発作業が行われ、電荷密度、比エネルギーのような特性だけでなく、サイクル寿命、及びリチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼすおそれのある容量損失の低減のような他の特性も改善されてきた。製造方法を改善するため、追加の努力がなされている。
【0003】
リチウムイオン電池用のカソード材料を作製する典型的なプロセスでは、まず遷移金属を、炭酸塩、酸化物又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物として共沈させることによって、いわゆる前駆体が形成される。次いで前駆体は、リチウム塩、例えば、限定するものではないが、LiOH、LiO又は特にLiCOと混合され、高温でか焼(焼成)される。リチウム塩は、水和物として、又は脱水された形態で、用いることができる。か焼-又は焼成-は、一般に前駆体の熱処理又は加熱処理とも称され、通常、600~1,000℃の範囲の温度で行われる。熱処理の間、固相反応が起こり、電極活物質が形成される。熱処理は、オーブン又は窯(kiln)の加熱ゾーンで行う。
【0004】
電極活物質は粉末として使用される。粒子は、2~15μm、好ましくは3~12μmの範囲の平均直径を有するべきである。制御が困難な条件及び状況によっては、
新たに合成された電極活物質は微粒子及び塊及び凝集体を含有する場合がある。塊及び凝集体は、通常、望ましくない。なぜなら、カソード活物質の流動性、そのタップ密度その他の多くの観点で、後続のセル製造プロセスに悪影響を与えるからである。よって、塊の解凝集又は塊の除去のための余分な努力が必要である。従って、本発明の目的は、優れた形態を有する、特に塊が非常に少ない、又は塊が全くないリチウムイオン電池用の電極活物質をもたらす方法を提供することである。
【0005】
よって、冒頭に定義された方法が見出され、以下、本発明の方法又は本発明による方法とも称する。
【0006】
本発明の方法は、以下に工程(a)及び工程(b)とも称する以下の工程を含む:
(a)以下の混合物、
(A)前駆体(A)とも称する、一般式Li1+xTM1-x(式中、TMはMn、Co及びNiから選択される2種以上の遷移金属の組み合わせであり、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na及びVから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わせられ、xは0~0.2の範囲にある)による混合酸化物の前駆体と、
(B)以下、リチウム化合物(B)又はリチウム塩(B)とも称する、少なくとも1種のリチウム化合物、との混合物を、
(C)Br、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物、と接触させる工程、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程。
【0007】
工程(a)及び(b)及び(c)について、以下でさらに詳しく説明する。
【0008】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-xによる混合酸化物を作製する方法を指し、式中、TMはMn、Co及びNiから選択される2種以上の遷移金属の組み合わせであり、任意に、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg及びVから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わせられ、
及びxは0~0.2、好ましくは0.001~0.1、よりさらに好ましくは0.002~0.05の範囲にある。
【0009】
TMは、MnとCo、又はMnとNi、及びNiとCoとの組み合わせから、及びNi、MnとCoとの組み合わせから選択でき、任意に各場合とも、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg、及びVから選択される少なくとももう1種の金属、好ましくはAl、W、Ti、及びZrのうちの少なくとも1種と組み合わされる。NiとCoとの組み合わせ、及びNiとCoとMnとの組み合わせが好ましく、任意に各場合とも、Al、W、Ti及びZrから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わされる。
【0010】
好ましい実施形態では、TMは、一般式(I)
(NiCoMn1-d (I)
による金属の組み合わせであり、
式中、
aは、0.3~0.95、好ましくは0.6~0.9、よりさらに好ましくは0.6~0.85の範囲にあり、
bは、0.05~0.4、好ましくは0.05~0.2の範囲にあり、
cは、0~0.6、好ましくは0~0.2の範囲にあり、及び
dは、0~0.1、好ましくは0.001~0.005の範囲にあり、
dは、0~0.1の範囲にあり、及び
a+b+c=1
である。
【0011】
Mは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg、及びV(前述の少なくとも2種の組み合わせを含む)から選択され、好ましくは、Mは、Al、W、Ti、及びZr及び前述の少なくとも2種の組み合わせから、よりさらに好ましくは、Al、Ti及びZrから選択される。
【0012】
一般式(I)による金属の組み合わせの例は、Ni0.33Co0.33Mn0.33、Ni0.4Co0.2Mn0.4、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.6Co0.2Mn0.2、(Ni0.85Co0.150.98Al0.02、(Ni0.85Co0.150.97Al0.03、(Ni0.85Co0.150.95Al0.05、Ni0.8Co0.1Mn0.1、及びNi0.7Co0.2Mn0.1から選択される。さらなる例は、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.997Al0.003、(Ni0.6Co0.2Mn0.20.998Al0.002、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.7Co0.2Mn0.10.998Al0.002、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.997Al0.003、(Ni0.8Co0.1Mn0.10.998Al0.002である。
【0013】
前記TMは、微量の金属イオン、例えば微量の遍在する金属、例えばナトリウム、カルシウム又は亜鉛などを、不純物として含有し得るが、そのような微量は本発明の明細書においては考慮されない。ここでの微量とは、TMの全金属含有量に対して、0.05モル%以下の量を意味する。
【0014】
リチウム化合物(B)と、TMの酸化物又は水酸化物又は炭酸塩の混合物とから、所望の電極活物質を合成することは可能である。しかしながら、前記混合酸化物を、少なくとも1種のリチウム化合物(B)と、TMの混合炭酸塩、混合酸化物、混合水酸化物又は混合オキシ水酸化物との混合物から合成することが好ましい。TMの混合酸化物、混合水酸化物、及び混合オキシ水酸化物は、前駆体(A)としてよりさらに好ましい。
【0015】
前駆体(A)は、金属酸化物、金属炭酸塩の混合物から、又は好ましくは、混合金属水酸化物から、又はさらに好ましくは、混合オキシ水酸化物から選択し得る。
【0016】
本発明の一実施形態では、前駆体(A)の平均粒径(D50)は、6~12μm、好ましくは7~10μmの範囲にある。本発明における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積ベースの粒径の中央値を指す。
【0017】
本発明の一実施形態では、前駆体(A)は、所望の電極活物質と同じTMの組成を有する。
【0018】
本発明の別の実施形態では、前駆体(A)は、異なるTMの組成を有する。例えば、Mn、Co、及びNiから選択される2種以上の遷移金属の比は、所望の電極活物質と同じであるが、元素Mが欠けている。
【0019】
リチウム化合物(B)は、リチウム塩から選択される。好ましくは、リチウム化合物(B)は、リチウムヒドロキシド、リチウムオキシド、リチウムニトレート、リチウムアセテート及びリチウムカーボネートから、それぞれそれ自体又は水和物として、選択される。LiOH、LiOH・HO及びLiCOが好ましい。
【0020】
前駆体中のTMが所望の電極活物質と同じである実施形態では、前駆体(A)中のTMの、リチウム化合物(B)中のリチウムに対するモル比は、所望の化合物のおおよその所望の範囲で、例えば1:(1+x)の範囲で、選択される。
【0021】
前駆体(A)とリチウム化合物(B)との前記混合物は、工程(a)の前のサブ工程で、又は工程(a)と共に合わせて、作製し得る。
【0022】
工程(a)で、前駆体(A)とリチウム化合物(B)とのこのような混合物を、Br、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物と接触させる。本発明において、Br、I、臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物は、(C)と略する。
【0023】
臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素の例は、CBr、CI(四ヨウ化炭素)、CBr、C、及びCBr(テトラブロモエチレン)である。臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物の好ましい例は、Br-F、I-F、Br-Cl、I-Cl、Br-I、ICl、及びIBrである。
【0024】
工程(a)で、前記混合物を、臭素、Brと接触させることがさらに好ましく、前記混合物をヨウ素、Iと接触させることが、よりさらに好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態では、工程(a)で、前記混合物を、臭素とヨウ素との混合物、又は臭素と臭素又はヨウ素を含む少なくとも1種のハロゲン間化合物との混合物、又はヨウ素と臭素又はヨウ素を含む少なくとも1種のハロゲン間化合物との混合物、又は過ハロゲン化炭素と臭素との混合物、又は過ハロゲン化炭素とヨウ素との混合物と、接触させる。
【0026】
本発明の一実施形態では、Br又はIの、前記前駆体中のTMに対するモル比はそれぞれ、10ppb~0.2、好ましくは1ppm~0.1の範囲にある。工程(a)におけるBrのTMに対するモル比0.2とは、TM1モル当たり0.2モルのBrが適用され、これは言い換えると0.1モルのBrであることを意味する。
【0027】
工程(a)は、溶媒の存在下で、又はバルクで行ってよい。溶媒の例は、有機溶媒、例えば塩素化炭化水素、例えばジクロロメタン及びクロロホルムである。非塩素化溶媒、例えばアミド、アルコール、ケトン、及びそれらの混合物が好ましい。適した非塩素化アミドの例は、N,N-ジメチルホルムアミド(「DMF」)及びN-C~C-アルキル-ピロリドン、例えばN-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)及びN-エチル-2-ピロリドン(「NEP」)である。適した非塩素化アルコールの例は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、及びプロパン-1,2-ジオールである。適したケトンの例は、アセトン、メチルエチルケトン(「MEK」)、及びメチルイソブチルケトン(「MIBK」)である。溶媒の除去を容易にするために、常圧で沸点が150℃以下、好ましくは100℃以下の溶媒を選択することが好ましい。非塩素化有機溶媒の特に適した混合物の例は、エタノール及びMEKからの混合物、及びイソプロパノール及びMEKからの混合物である。
【0028】
本発明の方法の工程(a)で使用する溶媒は、技術的品質で、又は水の除去後に、使用し得る。しかしながら、溶媒中の0.01~5質量%などの少量の水は、一般に工程(a)にとって重要ではない。
【0029】
Br、Iの、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物の、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物の溶液が施与される工程(a)の実施形態では、ハロゲン又はハロゲン化物それぞれの濃度は、周囲温度で、溶媒中0.1~5モル/lの範囲にあり得る。
【0030】
工程(a)は、周囲温度で行ってよい。他の実施形態では、工程(a)は、0~180℃の範囲の温度で行う。
【0031】
工程(a)は、10ミリバール~10バールの範囲の圧力で行ってよい。常圧(1気圧)が好ましい。
【0032】
工程(a)の持続時間は、1分~5時間の範囲にあってよく、5~60分が好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態では、工程(a)は、容器に前駆体(A)を入れ、次いでBr、I、又は完全にハロゲン化された炭化水素(以下、臭化物及びヨウ化物それぞれから選択される過ハロゲン化炭素とも称する)から、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物から選択される少なくとも1種の化合物、及びリチウム化合物(B)を、溶媒の存在下又は非存在下で、添加することにより行う。
【0034】
本発明の別の実施形態では、工程(a)は、容器に前駆体(A)及びリチウム化合物(B)からの混合物を入れ、次いでBr、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物を、溶媒の存在下又は非存在下で、添加することにより行う。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態では、工程(a)は、前駆体(A)とリチウム化合物(B)との混合物を作製し、次いでBr、I、又は臭化物及びヨウ化物から選択される過ハロゲン化炭素から選択される少なくとも1種の化合物、及び臭素又はヨウ素を含むハロゲン間化合物を、溶媒の存在下又は非存在下で添加し、このような混合物を、窯、例えばトンネル窯、例えばロータリーハース窯(rotary hearth kiln)を、又はロータリー窯を、又は振り子式窯(pendulum kiln)を、又は流動床又は垂直シャフト窯を通過させることにより行う。
【0036】
ドーピングを施与し、前記ドーピング元素が前駆体にまだ含まれていない実施形態では、工程(a)の前又は工程(a)の間に、前記ドーピング元素Mの化合物(以下、化合物(D)とも称する)を添加することが好ましい。化合物(D)の適した例は、アルミニウム、チタン、又はジルコニウムの酸化物、オキシ水酸化物及び水酸化物、例えばTiO、TiO・aq、TiO(OH)、ZrO、ZrO・aq、ZrO(OH)、Al、Al・aq、AlOOH、及びAl(OH)である。
【0037】
(C)の溶液を、前駆体(A)及びリチウム化合物(B)からの混合物と接触させる実施形態では、溶媒の量に応じて、スラリー又はペーストがまず第一に得られ得る。スラリーが得られる実施形態では、撹拌により接触がさらに強化され得る。
【0038】
本発明の一実施形態では、前駆体(A)とリチウム化合物(B)との混合物を、(C)の有機溶媒又は少なくとも2種の有機溶媒の組み合わせの溶液で処理し、その後続いて有機溶媒を除去する。
【0039】
理論に縛られることを望むものではないが、一部の(C)は前駆体(A)と化学反応を起こし、一方で一部の(C)は未反応のままであると考えられる。
【0040】
本発明の方法の工程(b)において、前記混合物は、700~1000℃、好ましくは750~900℃の範囲の温度で、熱処理に供する。
【0041】
本発明の一実施形態では、前駆体(A)とリチウム化合物(B)と残留物(C)と、任意に溶媒との混合物を、0.1~10℃/分の加熱速度で、700~1000℃に加熱する。
【0042】
本発明の一実施形態では、温度を、700~1000℃、好ましくは750~900℃の所望の温度に達する前に上昇させる。例えば、最初に前駆体(A)とリチウム化合物(B)と残留物(C)と、任意に溶媒との混合物を、100~150℃の範囲の温度に加熱してから10分~4時間の時間一定に保ち、次いで温度を350~550℃まで上昇させてから10分~4時間の時間一定に保ち、次いで温度を700℃から最大で1000℃まで上げる。
【0043】
工程(a)で少なくとも1種の溶媒が使用されている実施形態では、工程(b)の一部として、又は工程(b)とは別個に且つ工程(b)を開始する前に、そのような溶媒を除去する。例えばそのような溶媒のろ過、蒸発により、又は蒸留により除去する。蒸発及び蒸留が好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、ローラーハース窯、プッシャー窯(pusher kiln)又はロータリー窯、又は前述の少なくとも2種の組み合わせにおいて行う。ロータリー窯には、その中で作製した物質が非常に優れた均質化を有するという利点がある。ローラーハース窯及びプッシャー窯では、異なる工程に関する異なる反応条件を極めて簡単に設定し得る。実験室規模の試験では、箱型炉及び管状炉及び分割管炉も、実現可能である。
【0045】
本発明の一実施形態では、工程(b)は、酸素含有雰囲気中、例えば窒素-空気混合物中、希ガス-酸素混合物中、空気中、酸素中又は酸素富化空気中で行う。好ましい実施形態では、工程(b)の雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、空気及び酸素の混合が50:50体積でよい。他の選択肢は、空気及び酸素の1:2体積の混合物、空気及び酸素の1:3体積の混合物、空気及び酸素の2:1体積の混合物、空気及び酸素の3:1体積の混合物である。
【0046】
本発明の一実施形態では、本発明の工程(b)は、気体の流れ、例えば空気、酸素及び酸素富化空気下で行う。そのような気体の流れは、強制ガス流と定義し得る。そのような気体の流れは、一般式Li1+xTM1-xによる物質に対し0.5~15m/h・kgの範囲の特定の流量を有し得る。体積は通常の条件下:273.15ケルビン及び1気圧で決定される。前記気体の流れは、水及び二酸化炭素などのガス状分解生成物の除去に有用である。
【0047】
本発明の方法は、工程(b)に続き、さらなる工程、例えば、限定するものではないが、800~1000℃の範囲の温度での追加のか焼工程を含み得る。
【0048】
工程(b)による熱処理の後、そのようにして得られたカソード活物質は、さらなる処理の前に冷却する。
【0049】
本発明の方法を行うことにより、優れた形態を有する電極活物質が得られる。それら電極活物質には望ましくない凝集物及び塊がなく、それぞれの前駆体(A)の粒径分布に応じて、狭い粒径分布、優れた加工性及び電気化学的性能、例えば比容量又はサイクル時の容量保持などを示す。
【0050】
本発明のさらなる態様は、以下に本発明の電極活物質とも称する電極活物質に関する。本発明の電極活物質は、
一般式Li1+xTM1-x(式中、TMはMn、Co及びNiから選択される2種以上の遷移金属の組み合わせであり、任意にBa、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、K、Mo、Nb、Mg、Na及びVから選択される少なくとももう1種の金属と組み合わされ、xは0~0.2の範囲にある)による混合酸化物、
及び0.01~1.0%の範囲の臭素又はヨウ素を含み、直径(D99)が30~40μmの範囲にある。そのような物質は、本発明の方法によって得ることができる。ふるい分け又は粉砕の工程は必要ない。
【0051】
好ましい実施形態では、TMは、一般式(I)
(NiCoMn1-d (I)
による金属の組み合わせであり、
式中、
aは、0.3~0.95、好ましくは0.6~0.9、よりさらに好ましくは0.6~0.85の範囲にあり、
bは、0.05~0.4、好ましくは0.05~0.2の範囲にあり、
cは、0~0.6、好ましくは0~0.2の範囲にあり、及び
dは、0~0.1、好ましくは0.001~0.005の範囲にあり、
dは、0~0.1の範囲にあり、及び
a+b+c=1
である。
【0052】
Mは、Ba、Al、Ti、Zr、W、Fe、Cr、Mo、Nb、Mg、及びV(前述の少なくとも2種の組み合わせを含む)から選択され、好ましくは、Mは、Al、W、Ti、及びZr及び前述の少なくとも2種の組み合わせから、よりさらに好ましくは、Al、Ti及びZrから選択される。
【0053】
理論に縛られることを望むものではないが、本発明の電極活物質のBr又はIは、少なくとも+IIIの酸化状態、例えばLiIOであると考えられる。
【0054】
本発明のさらなる態様は、本発明による少なくとも1種の電極活物質を含む電極に関する。それら電極はリチウムイオン電池に特に有用である。本発明による少なくとも1種の電極を含むリチウムイオン電池は、良好な放電挙動を示す。本発明による少なくとも1種の電極活物質を含む電極は、以下、本発明のカソード又は本発明によるカソードとも称する。
【0055】
本発明によるカソードは、さらなる成分を含むことができる。それらカソードは、集電体、例えば、限定するものではないが、アルミ箔などを含むことができる。それらカソードは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0056】
適したバインダーは、好ましくは有機(コ)ポリマーから選択される。適した(コ)ポリマー、すなわちホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン、触媒又はフリーラジカル(共)重合によって得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレンから、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適している。ポリイソプレン及びポリアクリレートがさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0057】
本発明において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0058】
本発明において、ポリエチレンはホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合エチレン及び50モル%以下の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びイソブテン、ビニル芳香族、例えばスチレン、及び(メタ)アクリル酸、ビニル酢酸、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びマレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0059】
本発明において、ポリプロピレンはホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合プロピレン及び50モル%以下の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えば、エチレン及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーなどを意味すると理解される。ポリプロピレンは、アイソタクチック又は本質的にアイソタクチックのポリプロピレンであることが好ましい。
【0060】
本発明において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0061】
別の好ましいバインダーはポリブタジエンである。
【0062】
他の適したバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0063】
本発明の一実施形態では、バインダーは、50,000~1,000,000g/モル、好ましくは500,000g/モルまでの範囲の平均分子量Mを有するこれら(コ)ポリマーから選択される。
【0064】
バインダーは、架橋又は非架橋(コ)ポリマーであってもよい。
【0065】
本発明の特に好ましい実施形態では、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、さらに好ましくは分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1種の(共)重合(コ)モノマーを含むこれら(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーである。
【0066】
適したバインダーは、特にポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデン、特にフッ化(コ)ポリマー、例えばポリフッ化ビニル及び特にポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0067】
本発明のカソードは、電極活物質に対して、1~15質量%のバインダーを含み得る。他の実施形態では、本発明のカソードは、0.1~1質量%未満までのバインダーを含み得る。
【0068】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、炭素、及びバインダーを含む少なくとも1種のカソード、少なくとも1種のアノード、及び少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0069】
本発明のカソードの実施形態は、上記で詳細に説明した。
【0070】
前記アノードは、炭素(グラファイト)、TiO、リチウムチタン酸化物、シリコン又はスズなどの少なくとも1種のアノード活物質を含有し得る。前記アノードは、集電体、例えば、銅箔などの金属箔をさらに含有し得る。
【0071】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含み得る。
【0072】
電解質用の非水性溶媒は、室温で液体又は固体であってよく、好ましくはポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートの中から選択される。
【0073】
適したポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ここで、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2種のメチル又はエチルエンドキャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0074】
適したポリアルキレングリコール、特に適したポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/モルでよい。
【0075】
適したポリアルキレングリコール、特に適したポリエチレングリコールの分子量Mは、5000000g/モル以下、好ましくは2000000g/モル以下でよい。
【0076】
適した非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0077】
適した環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0078】
適した非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0079】
適した環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、特に1,3-ジオキソランである。
【0080】
適した非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0081】
適した環状有機カーボネートの例は、一般式(III)及び(IV)
【化1】
(式中、R、R及びRは同一でも異なってよく、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルの中から選択され、R及びRは両方ともtert-ブチルではないことが好ましい)の化合物である。
【0082】
特に好ましい実施形態では、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0083】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(V)
【化2】
のビニレンカーボネートである。
【0084】
1種の溶媒又は複数の溶媒は、好ましくは、水を含まない状態で、すなわち、例えばカールフィッシャー滴定によって決定することができる、1ppm~0.1質量%の範囲の水分含有量で、使用する。
【0085】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。適した電解質塩は、特にリチウム塩である。適したリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl及び一般式(C2n+1SOYLi(式中、mは以下のように定義される:
Yが酸素及び硫黄の中から選択される場合、t=1、
Yが窒素及びリンの中から選択される場合、t=2、及び
Yが炭素及びシリコンの中から選択される場合、t=3)の塩である。
【0086】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOの中から選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0087】
本発明の一実施形態では、本発明による電池は1種以上のセパレータを含み、これによって電極は機械的に分離される。適したセパレータはポリマーフィルム、特に、金属リチウムに対して非反応性の多孔質ポリマーフィルムである。セパレータに特に適した材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成性多孔質ポリエチレン及びフィルム形成性多孔質ポリプロピレンである。
【0088】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンで構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔度を有することができる。適した孔径は、例えば、30~500nmの範囲にある。
【0089】
本発明の別の実施形態では、無機粒子が充填されたPET不織布の中からセパレータを選択することができる。そのようなセパレータは、40~55%の範囲の多孔度を有し得る。適した孔径は、例えば、80~750nmの範囲にある。
【0090】
本発明による電池は、任意の形状、例えば立方体状又は円筒状ディスク又は円筒状缶の形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形形態では、ポーチとして構成される金属箔を、ハウジングとして使用する。
【0091】
本発明による電池は良好な放電挙動を、例えば低い温度(0℃以下、例えば-10℃まで又はさらに低温)で示し、非常に良好な放電及びサイクル挙動を、特に高い温度(45℃以上、例えば60℃まで)で、特に容量損失に対して示し、及び60℃以上などの高温で良好な安全挙動を示す。好ましくは、サイクル安定性及びC-レート、容量挙動も改善され、又はLi含有量はより低いがそれらは少なくとも同一である。
【0092】
本発明による電池は、互いに組み合わされた2種以上の電気化学セルを含むことができ、例えば、直列に接続されても、並列に接続されてもよい。直列接続が好ましい。本発明による電池では、電気化学セルの少なくとも1種は、本発明による少なくとも1種のカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルでは、電気化学セルの大部分が本発明によるカソードを含有する。よりさらに好ましくは、本発明による電池では、すべての電気化学セルが本発明によるカソードを含有する。
【0093】
本発明は、本発明による電池を機器において、特に移動機器において使用する方法をさらに提供する。移動機器の例は、乗り物、例えば、自動車、自転車、航空機、又はボート又は船舶などの水上乗り物である。移動機器の他の例は、手動で動くもの、例えば、コンピュータ、特にラップトップ、電話、又は電動手工具、例えば、建設分野における、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー又は電池駆動ステープラーである。
【0094】
本発明を実施例によりさらに説明する。
【実施例
【0095】
一般的な注意事項:Nl-通常の条件/気圧でのリットル、20℃
【0096】
前駆体(A.1):Ni0.9Co0.1(OH)、平均粒径(D50):10μm、NiSO/CoSO溶液からのNaOH水溶液とのアンモニアの存在下における共沈により作製。
前駆体(A.2):部分酸化したNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)、平均粒径(D50):10μm、NiSO/CoSO/MnSO溶液からのNaOH水溶液とのアンモニアの存在下における共沈により作製。
【0097】
リチウム化合物(B.1):LiOH・HO、平均粒径(D50):9μm
【0098】
実施例1
16.95gの前駆体(A.1)及び8.05gの(B.1)の量を混合した。TM/Liのモル比は1:1.015であった。
【0099】
2.5gの量のI(純度99.8%)を50mlのエタノール中に溶解した(工業銘柄:6.5体積%の水)。
【0100】
工程(a.1):ポリエチレン製の100mlビーカーに、上記のヨウ素溶液を入れた。次に、前駆体(A.1)とリチウム化合物(B.1)との混合物を添加して振盪した。次に、溶媒を周囲温度で、わずかに湿った粉末のゆるい凝集物が残るまで、蒸発させた。
【0101】
次いで、そのようにして得られたわずかに湿った粉末を金属回転バルブ(Ni-合金)に移し、電気分割管炉による外部加熱を開始した。60Nl/hの流量で一定の空気の流れを施与した。
【0102】
10分以内に、バルブの温度は200℃に達した。次の15分間、温度を約210℃に維持した。残留溶媒の蒸発及び未反応ヨウ素の除去が観察された。
【0103】
工程(b.1):次に、粉末を710℃に70分以内で加熱し、それからその温度で60分間維持した後、分割管炉を開いて周囲温度の空気中で急速に冷却した。1時間冷却した後、温度は70℃に低下した。
【0104】
一般式Li(1+x)(Ni0.9Co0.1(1-x)の電極活物質が得られた。電量滴定により決定したヨウ素含有量は0.5質量%であった。平均粒径(D50)は10μmであり、直径(D99)は32μmであった。粒径が15μmを超える塊及び凝集粒子のない優れた形態を有していた。電気化学データは優れていた。
【0105】
比較実験:
33.90gの(A.1)と16.1gの(B.1)との混合物を、工程(a)を行わずに混合した。そのようにして得られた混合物を、上記の回転バルブに入れた。60Nl/hの流量の純酸素の一定の流れを施与した。温度は、140分以内に室温から700℃まで上昇し、60分間維持した。サンプルは60℃まで冷却し、150分以内に指数関数的に減衰した。
【0106】
一般式Li(1+x)(Ni0.9Co0.1(1-x)の比較電極活物質が得られた。しかし、サンプルの50%以上が直径1~5mmの塊に凝集していた。
【0107】
実施例2
35.35gの前駆体(A.2)及び14.65gの(B.1)の量を混合した。TM/Liのモル比は1:1.03であった。
【0108】
0.23gのI(純度99.8%)を50mlのエタノール(純度95%)中に溶解した。
【0109】
工程(a.2):ポリエチレン製の100mlビーカーに、上記のヨウ素溶液を入れた。次に、前駆体(A.2)とリチウム化合物(B.1)との混合物を添加して振盪した。次に、溶媒を周囲温度で、わずかに湿った粉末のゆるい凝集物が残るまで、蒸発させた。
【0110】
次いで、そのようにして得られたわずかに湿った粉末を金属回転バルブ(Ni-合金)に移し、電気分割管炉による外部加熱を開始した。60Nl/hの流量で一定の純酸素の流れを施与した。
【0111】
工程(b.2):次に、粉末を80分以内に805℃に加熱し、その温度で300分間維持した後、分割管炉を開いて周囲温度の空気中でバルブを急速に外部冷却した。0.5時間冷却した後、温度は60℃に低下した。酸素の流れは、冷却が完了するまで維持した。
【0112】
一般式Li(1+x)(Ni0.8Co0.1Mn0.1(1-x)の電極活物質が得られた。ヨウ素含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィーで決定して0.7質量%であった。塊及び凝集粒子のない優れた形態を有していた。電気化学的性能は優れていた。